説明

蒸気タービン制御装置及び制御方法

【課題】圧力変動に対する蒸気加減弁の急激な変動を抑え、蒸気タービンを安定的かつ安全に制御する蒸気タービン制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】主蒸気配管の蒸気加減弁5の開度を圧力制御装置4の信号にて調整しタービン入口圧力を制御する蒸気タービン制御装置において、圧力制御装置は、主蒸気圧力信号8を設定値10と比較し主蒸気圧力偏差信号を出力する比較器9と、主蒸気圧力偏差信号を総流量要求信号に変換する演算器11と、総流量要求信号が入力される蒸気加減弁制御器20と、主蒸気圧力信号が入力される周波数分析器12と、周波数分析器の出力信号を設定値と比較するコンパレータ15,16と、演算器と蒸気加減弁制御器との間に切替器17とを備え、周波数分析器の出力信号が設定値を超えたときに切替器を動作させ、演算器から出力された総流量要求信号を一次遅れ回路19又は変化率制限回路を介して蒸気加減弁制御器に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラントのタービン制御装置及び制御方法に関し、特に、原子力発電プラント等の蒸気加減弁を圧力制御装置によって調整する蒸気タービン制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントの基本的な系統図を図3に示す。図3において、原子炉圧力容器1で発生した蒸気は主蒸気配管2を通ってタービン6に流入し、タービン6に連結された発電機7を回転駆動させることによって消費される。主蒸気配管2には蒸気加減弁5が取り付けられており、この蒸気加減弁5の開度を圧力制御装置(EHC)4で調整することにより、タービン6へ流入する蒸気量が調整される。
【0003】
従来の圧力制御装置4の構成例を図4により説明する。主蒸気の圧力を検出する圧力検出器3で検出された主蒸気圧力信号8と圧力設定値10を比較器9で比較し、その偏差から、主蒸気圧力偏差信号を算出し、主蒸気圧力偏差信号を演算器11で総流量要求信号に変換し、次に、総流量要求信号を蒸気加減弁制御器20で蒸気加減弁開度信号に変換することにより、蒸気加減弁5の開度を制御している。蒸気加減弁5の開度の非線形性を補償するために蒸気加減弁開度信号を補償関数を用いて調整することも知られている(特許文献1)。
【0004】
原子力発電プラントの運転方法には、発電機からの電気出力が定格(100%)を超えないように運転する定格電気出力運転と、原子炉の出力を原子炉設置許可で認められた最大値である定格熱出力に一定に保ったまま運転する定格熱出力運転とがある。定格熱出力運転では、冬季のように海水温度が低い時期にはプラントの発電効率が良くなり、2%程度の発電電力量の増加が期待されている。
【0005】
一方、定格熱出力運転は、定格電気出力運転に比較して出力が高いため主蒸気流量が多く、蒸気加減弁開度が大きくなる特徴がある。
【特許文献1】特開2005−189016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、定格熱出力運転では蒸気加減弁開度が大きくなる特徴があるが、図5の蒸気圧力−蒸気加減弁開度曲線に示すように、弁開度が大きくなると、蒸気加減弁開度−流量特性において、蒸気流量変化に対する弁開度変化幅が増加し、これに伴い主蒸気圧力が変化することで制御が不安定になる課題がある。
【0007】
このため、蒸気タービンを安定に制御するために、主蒸気の圧力変動に対して蒸気加減弁開度が大きく変動し、不安定になることを回避することが必要である。
【0008】
本件発明は、上記課題を解決するためになされたもので、圧力変動に対する蒸気加減弁の急激な変動を抑えることにより、蒸気タービンを安定的かつ安全に制御できる蒸気タービン制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る蒸気タービン制御装置は、蒸気発生器からタービンに蒸気を送る主蒸気配管に取り付けられている蒸気加減弁の開度を圧力制御装置からの信号によって調整することによりタービン入口圧力の制御を行う蒸気タービン制御装置において、
前記圧力制御装置は、主蒸気圧力信号を設定値と比較し主蒸気圧力偏差信号を出力する比較器と、前記主蒸気圧力偏差信号を総流量要求信号に変換する演算器と、前記総流量要求信号が入力される蒸気加減弁制御器と、前記主蒸気圧力信号が入力される周波数分析器と、前記周波数分析器から出力された信号を設定値と比較するコンパレータと、前記演算器と蒸気加減弁制御器との間に設けられた切替器と、を備え、
前記周波数分析器から出力された信号が前記設定値を超えたときに前記切替器を動作させ、前記演算器から出力された総流量要求信号を一次遅れ回路又は変化率制限回路をとおして前記蒸気加減弁制御器に出力することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る蒸気タービン制御方法は、蒸気発生器からタービンに蒸気を送る主蒸気配管に取り付けられている蒸気加減弁の開度を調整することによりタービン入口圧力の制御を行う蒸気タービン制御方法において、
主蒸気圧力信号を設定値と比較し主蒸気圧力偏差信号を出力するステップと、前記主蒸気圧力偏差信号を総流量要求信号に変換するステップと、前記主蒸気圧力信号が入力される周波数分析器からの信号を設定値と比較するステップと、前記コンパレータと、前記演算器と蒸気加減弁制御器との間に設けられた切替器と、前記周波数分析器からの信号が設定値以下のときは前記総流量要求信号を蒸気加減弁制御器に出力するステップと、前記周波数分析器からの信号が設定値を超えたときは前記総流量要求信号を一次遅れ回路又は変化率制限回路をとおして前記蒸気加減弁制御器に出力するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、主蒸気圧力信号の周波数と振幅を計測し、少なくとも一方の値が設定値を逸脱した場合、総流量要求信号が一次遅れ回路又は変化率制限回路を通過するように切替えることで、圧力変動に対する蒸気加減弁の急激な変動を抑えることができるので、蒸気タービン制御の安定性及び安全性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る蒸気タービン制御装置の実施形態を図1及び図2を用いて説明する。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る蒸気タービン制御装置を図1を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る蒸気タービン制御装置の圧力制御装置(EHC)4の全体構成図である。
【0013】
図1において、圧力制御装置4は、圧力検出器3からの主蒸気圧力信号8を設定値10と比較し主蒸気圧力偏差信号を出力する比較器9、主蒸気圧力偏差信号を総流量要求信号に変換する演算器11、主蒸気圧力信号8が入力される周波数分析器12、周波数分析器12から出力された主蒸気振幅信号13及び主蒸気周波数信号14をそれぞれの設定値と比較する振幅コンパレータ15及び周波数コンパレータ16、振幅コンパレータ15及び周波数コンパレータ16からの信号によって作動する切替器17、切替器17の動作によって演算器11からの信号が入力される一次遅れ回路19、一次遅れ回路19からの信号又は演算器11からの信号が入力される蒸気加減弁制御器20から構成される。
【0014】
次に、上記構成の圧力制御装置4の機能について説明する。
周波数分析器12に入力した主蒸気圧力信号8は、周波数分析器12で信号処理された後、主蒸気振幅信号13及び主蒸気周波数信号14がそれぞれ振幅コンパレータ15及び周波数コンパレータ16に出力される。
【0015】
主蒸気振幅信号13及び主蒸気周波数信号14は、振幅コンパレータ15及び周波数コンパレータ16でそれぞれ設定値と比較され、主蒸気振幅信号13及び/又は主蒸気周波数信号14が設定値を逸脱した場合に、切替信号を切替器17に出力される。
【0016】
切替器17に切替信号が入力されると、演算器11から出力された総流量要求信号は切替器17によって一次遅れ回路19に入力され、補正総流量要求信号を出力し、この補正総流量要求信号に基づき蒸気加減弁制御器20により蒸気加減弁5の制御が行われる。
【0017】
上記切替信号は、主蒸気振幅信号13および周波数信号14の少なくとも一方の値が設定値を逸脱した場合、すなわち正常の範囲を逸脱した場合に切替器17に出力される。演算器11から出力された総流量要求信号を一次遅れ回路19を通して補正総流量要求信号として蒸気加減弁制御器20に出力することにより蒸気加減弁の急激な変動を抑える。
【0018】
なお、一次遅れ回路19は、伝達関数が1/(1+Ts)(Tは時定数)で表される制御回路が用いられる。
【0019】
本第1の実施形態に係る蒸気タービン制御装置によれば、主蒸気圧力信号の周波数と振幅を計測し、少なくとも一方が設定値を逸脱した場合、総流量要求信号が一次遅れ回路を通過するように切替えることで、圧力変動に対する蒸気加減弁の急激な変動を抑えることができるので、蒸気タービン制御の安定性及び安全性を確保することができる。
【0020】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る蒸気タービン制御装置を図2を参照して説明する。
図2は第2の実施形態に係る圧力制御装置(EHC)4の全体構成図である。
なお、第1の実施形態と重複する構成については説明を省略又は簡略化する。
【0021】
本第2の実施形態に係る圧力制御装置が第1の実施形態と異なる点は、一次遅れ回路19に代えて変化率制限回路21を採用していることにある。
【0022】
この構成によっても、主蒸気振幅信号13及び/又は周波数信号14が通常の範囲内であることを示す設定値を逸脱した場合には、振幅コンパレータ15及び周波数コンパレータ16から切替信号を切替器17に出力し、総流量要求信号を、変化率制限回路21を通過するように切替え、補正総流量要求信号を蒸気加減弁制御器20に出力する。この補正総流量要求信号により、蒸気加減弁5の制御を行う。また、補正総流量要求信号の出力を自動的に調整するバンプレス機能を追加してもよい。
【0023】
本第2の実施形態に係る蒸気タービン制御装置によれば、主蒸気圧力信号の周波数と振幅を計測し、少なくとも一方が設定値を逸脱した場合、総流量要求信号が変化率制限回路を通過するように切替えることで、圧力変動に対する蒸気加減弁の急激な変動を抑えることができるので、蒸気タービン制御の安定性及び安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る圧力制御装置。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る圧力制御装置。
【図3】原子力プラント系統図。
【図4】従来の蒸気タービン圧力制御装置。
【図5】蒸気圧力−蒸気加減弁開度特性。
【符号の説明】
【0025】
1…原子炉圧力容器、2…主蒸気配管、3…圧力検出器、4…圧力制御装置、5…蒸気加減弁、6…タービン、7…発電機、8…主蒸気圧力信号、9…圧力設定値、10…主蒸気圧力偏差信号、11…演算器、12…周波数分析器、13…主蒸気振幅信号、14…主蒸気周波数信号、15…振幅コンパレータ、16…周波数コンパレータ、17…切替器、19…一次遅れ回路、20…蒸気加減弁制御器、21…変化率制限回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気発生器からタービンに蒸気を送る主蒸気配管に取り付けられている蒸気加減弁の開度を圧力制御装置からの信号によって調整することによりタービン入口圧力の制御を行う蒸気タービン制御装置において、
前記圧力制御装置は、主蒸気圧力信号を設定値と比較し主蒸気圧力偏差信号を出力する比較器と、前記主蒸気圧力偏差信号を総流量要求信号に変換する演算器と、前記総流量要求信号が入力される蒸気加減弁制御器と、前記主蒸気圧力信号が入力される周波数分析器と、前記周波数分析器から出力された信号を設定値と比較するコンパレータと、前記演算器と蒸気加減弁制御器との間に設けられた切替器と、を備え、
前記周波数分析器から出力された信号が前記設定値を超えたときに前記切替器を動作させ、前記演算器から出力された総流量要求信号を一次遅れ回路又は変化率制限回路をとおして前記蒸気加減弁制御器に出力することを特徴とする蒸気タービン制御装置。
【請求項2】
前記周波数分析器から出力された信号は、主蒸気圧力信号の振幅値及び周波数の少なくとも一方の値であることを特徴とする請求項1記載の蒸気タービン制御装置。
【請求項3】
蒸気発生器からタービンに蒸気を送る主蒸気配管に取り付けられている蒸気加減弁の開度を調整することによりタービン入口圧力の制御を行う蒸気タービン制御方法において、
主蒸気圧力信号を設定値と比較し主蒸気圧力偏差信号を出力するステップと、前記主蒸気圧力偏差信号を総流量要求信号に変換するステップと、前記主蒸気圧力信号が入力される周波数分析器からの信号を設定値と比較するステップと、前記コンパレータと、前記演算器と蒸気加減弁制御器との間に設けられた切替器と、前記周波数分析器からの信号が設定値以下のときは前記総流量要求信号を蒸気加減弁制御器に出力するステップと、前記周波数分析器からの信号が設定値を超えたときは前記総流量要求信号を一次遅れ回路又は変化率制限回路をとおして前記蒸気加減弁制御器に出力するステップと、を有することを特徴とする蒸気タービン制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−235949(P2009−235949A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80866(P2008−80866)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】