説明

蒸気発生装置、蒸着装置、成膜方法

【課題】膜質の良い有機薄膜を成膜可能な装置と成膜方法を提供する。
【解決手段】載置部材22の載置面25は水平面から傾斜しており、加熱した載置面25に蒸着材料39を載置すると、蒸着材料39は載置面25上で広がるから、蒸着材料39が短時間で蒸発し、蒸発室21内部に蒸着材料39の蒸気が発生する。蒸着材料39は短時間で蒸発するから、蒸発速度が蒸着材料39が熱分解されない。また、従来に比べて蒸気発生速度の安定するから、有機薄膜の膜厚が均一になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸気発生装置と、該蒸気発生装置を用いた蒸着装置、及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は近年最も注目される表示素子の一つであり、高輝度で応答速度が速いという優れた特性を有している。有機EL素子は、ガラス基板上に赤、緑、青の三色の異なる色で発色する発光領域が配置されている。発光領域は、アノード電極膜、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層及びカソード電極膜がこの順序で積層されており、発光層中に添加された発色剤で、赤、緑、又は青に発色するようになっている。
ホール輸送層、発光層、電子輸送層等は一般に有機材料で構成されており、このような有機材料の膜の成膜には蒸着装置が広く用いられる。
【0003】
図5の符号203は、従来技術の蒸着装置であり、真空槽211の内部に蒸着容器212が配置されている。蒸着容器212は、容器本体221を有しており、該容器本体221の上部は、一乃至複数個の放出口224が形成された蓋部222で塞がれている。
【0004】
蒸着容器212の内部には、粉体の有機蒸着材料200が配置されている。
蒸着容器212の側面と底面にはヒータ223が配置されており、真空槽211内を真空排気し、ヒータ223が発熱すると蒸着容器212が昇温し、蒸着容器212内の有機蒸着材料200が加熱される。
有機蒸着材料200が蒸発温度以上の温度に加熱されると、蒸着容器212内に、有機材料蒸気が充満し、放出口224から真空槽211内に放出される。
【0005】
放出口224の上方にはホルダ210が配置されており、ホルダ210に基板205を保持させておけば、放出口224から放出された有機材料蒸気が基板205表面に到達し、ホール注入層やホール輸送層や発光層等の有機薄膜が形成される。有機材料蒸気を放出させながら、基板205を一枚ずつ放出口224上を通過させれば、複数枚の基板205に逐次有機薄膜を形成することができる。
【0006】
しかし、複数枚の基板205に成膜するには、蒸着容器212内に多量の有機材料を配置する必要がある。実際の生産現場では、有機材料を250℃〜450℃に加熱しながら120時間以上連続して成膜処理を行うため、蒸着容器212内の有機蒸着材料200は長時間高温に曝されることになり、蒸着容器212中の水分と反応して変質したり、加熱による分解が進行する。その結果、初期状態に比べて有機蒸着材料200が劣化し、有機薄膜の膜質が悪くなる。
【0007】
供給装置により、有機蒸着材料を所定量ずつ蒸発室に供給して加熱蒸発させれば、一度に多量の有機蒸着材料が加熱されることがないから、有機蒸着材料の劣化が防止される。
【0008】
しかし、供給装置が有機蒸着材料を供給した直後には、蒸気発生量が瞬間的に増大し、膜厚むらの原因となる。
また、有機蒸着材料が二種類以上の材料の混合物(例えばホスト、ドーパント)の場合は、ホストとドーパントで蒸発速度に差が生じ、ホスト蒸気とドーパント蒸気との比率が、必ずしも、有機蒸着材料中の配合割合と一致せず、膜質も不均一になってしまう。
【特許文献1】特開平10−140334号公報
【特許文献2】特開2006−307239号公報
【特許文献3】特開2007−70687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、その目的は、蒸気発生速度を均一にし、膜厚分布及び膜質分布を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は蒸着材料の蒸気を発生させる蒸気発生装置であって、蒸着材料が収容されるタンクと、前記タンクに接続された蒸発室と、前記タンクに収容された前記蒸着材料を、前記蒸発室へ移動させる供給装置と、前記蒸発室内部に配置された載置部材と、前記載置部材を加熱する加熱手段とを有し、前記載置部材は、前記蒸発室に移動した前記蒸着材料が載置される載置面を有し、前記載置面は水平面から傾斜した蒸気発生装置である。
本発明は蒸気発生装置であって、前記タンクを複数有し、前記供給装置は、前記各タンクに収容された前記蒸着材料を、同じ前記蒸発室にそれぞれ移動させる蒸気発生装置である。
本発明は蒸着装置であって、前記蒸気発生装置と、前記蒸発室に接続され、前記蒸発室内で発生した蒸気が供給される放出装置と、前記放出装置から内部空間に前記蒸気が放出される真空槽とを有する蒸着装置である。
本発明は、真空雰囲気中で蒸着材料の蒸気を発生させ、前記蒸気を基板表面に到達させ、薄膜を形成する成膜方法であって、前記蒸気の発生は、表面が水平面から傾いた載置部材を前記真空雰囲気で加熱し、前記載置部材の表面の下端よりも上方位置に前記蒸着材料を載置し、前記載置部材の表面上で、前記蒸着材料を前記下端に向けて移動させる成膜方法である。
【0011】
本発明の蒸気発生装置は、真空槽内部に放出装置から蒸着材料の蒸気を発生させて、該真空槽内部に配置された基板の表面に蒸着材料の薄膜を形成するときの、蒸気を発生させる装置である。
載置面に載置された蒸着材料は一箇所にとどまらずに、滑落して載置面を下方に移動し、その結果、蒸着材料が載置面上に広がる。
【0012】
その結果、蒸着材料と載置面との接触面積が大きくなり、蒸着材料は短時間で蒸発する。蒸着材料が、ホストとドーパントのような異なる成分の混合物の場合、接触面積が大きくなることで、各成分がそれぞれ短時間で蒸発するから、各成分の蒸発速度の差が小さい。
【発明の効果】
【0013】
載置部材と蒸着材料の接触時間が短く、載置部材を従来よりも高温に加熱しても、蒸着材料は熱分解される前に蒸発する。しかも、蒸着材料が混合材料の場合、各成分の蒸発速度の差が従来より小さくなるから、有機薄膜の膜質が良くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1の符号1は有機EL素子の製造装置の一例を示している。
製造装置1は複数の蒸着装置10a〜10cを有しており、ここでは、各蒸着装置10a〜10cは搬送室2に接続され、蒸着装置10a〜10cが接続された搬送室2には、搬入室3aと、搬出室3bと、処理室6と、スパッタ室7と、マスク収容室8とが接続されている。マスク収容室8内部には複数のマスクが収容されており、蒸着装置10a〜10cやスパッタ室7内部に配置されたマスクと定期的に交換される。
【0015】
真空排気系9により、搬送室2内部と、蒸着装置10a〜10cの内部と、処理室6内部と、スパッタ室7内部と、マスク収容室8内部と、搬入室3a内部と、搬出室3b内部に真空雰囲気が形成される。
【0016】
搬送室2の内部には搬送ロボット5が配置されている。表面上に下部電極が形成された基板は搬入室3aに搬入され、該基板は搬送ロボット5によって真空雰囲気中を搬入室3aから搬送室2へ搬入され、処理室6で加熱処理やクリーニング処理等の処理がされ、蒸着装置10a〜10c内部で、電子注入層、電子輸送層、発光層、ホール輸送層、ホール注入層等の有機薄膜が形成され、スパッタ室7内部で上部電極が形成され、有機EL素子が得られる。得られた有機EL素子は搬出室3bから外部に搬出される。
【0017】
発光層は3色の着色層(例えば赤、緑、青)を複数ずつ有する。各色の着色層は異なる領域上にそれぞれ形成されており、有機EL素子はフルカラー表示が可能である。
着色層が形成される領域には下部電極がそれぞれ位置する。上部電極に通電した状態で、選択した下部電極に通電すれば、選択した下部電極と、上部電極の間に位置する着色層が発光する。所望の場所にある所望の色の着色層を発光させることで、画像又は文字をフルカラー表示することができる。
【0018】
有機薄膜の成膜に用いられる蒸着装置10a〜10cのうち、1又は2以上の蒸着装置10bは本願発明の蒸着装置で構成されており、上記有機薄膜のうち、少なくとも1層は本発明の成膜方法により成膜される。
ここでは、発光層の成膜に用いられる蒸着装置10bが本発明の蒸着装置で構成されている。
【0019】
図2は本発明の蒸着装置10bの一例を示す模式的な断面図であり、蒸着装置10bは真空槽11と、放出装置50と、蒸気発生装置20とを有している。
蒸気発生装置20は蒸発室21と、載置部材22と、供給装置31と、1又は2以上のタンク60a〜60cとを有している。
【0020】
図4はタンク60a〜60cと、蒸発室21の位置関係を示す模式的な平面図であり、ここでは、一つの蒸発室21に対し、複数のタンク60a〜60cが設けられている。
タンク60a〜60cは異なる蒸着材料39が収容される以外は同じ構成を有している。図2では、タンク60a〜60cの同じ部材には同じ符号を付して説明する。
【0021】
各タンク60a〜60cは容器32と、容器32の開口に取り付けられた蓋部材34とを有しており、蓋部材34を開けると、外部からタンク60a〜60cに蒸着材料39を供給可能に構成され、蓋部材34を閉じるとタンク60a〜60cの内部空間が外部から遮断される。
【0022】
ここでは、各タンク60a〜60cは蒸発室21の上方に位置しており、各タンク60a〜60cの底面には開口が形成されている。蒸発室21の天井にはタンク60a〜60cと同じ数の開口が形成されている。
【0023】
供給装置31は導入管42と、回転軸35と、回転手段41とを有している。
導入管42は、一端が各タンク60a〜60cの開口にそれぞれ気密に接続され、他端が蒸発室21の各開口にそれぞれ気密に接続されている。従って、各タンク60a〜60cは、供給装置31の導入管42を介して同じ蒸発室21にそれぞれ接続されている。
【0024】
各回転軸35は周囲に突条36が螺旋状に形成されている。回転軸35は、突条36が形成された部分の少なくとも一部が導入管42内部に位置するように、各導入管42に1本ずつ挿通されている。
本発明で用いられる蒸着材料39は粉体である。図2はタンク60a〜60cに粉体の蒸着材料39を収容した状態を示している。
【0025】
突条36先端と導入管42内壁面との間の隙間は蒸着材料39の粒径(例えば粒径100μm以上200μm以下)よりも小さい。しかも、回転軸35が静止した状態では、蒸着材料39が溝に入り込まない程、突条36間の溝の傾斜が緩やかになっている。従って、回転軸35が静止した状態では、蒸着材料39はタンク60a〜60c内に留まる。
【0026】
各回転軸35は回転手段41にそれぞれ接続されている。各回転軸35は回転手段41によって、その中心軸線を中心として導入管42内部でそれぞれ回転する。
回転軸35が回転すると、タンク60a〜60cに収容された蒸着材料39が突条36間の溝に入り込み、溝を通って導入管42内部を下方へ移動し、溝の下端から蒸発室21へ落下する。従って、回転軸35を回転させることで、蒸着材料39がタンク60a〜60cから蒸発室21へ移動する。
【0027】
回転手段41は不図示の記憶装置を有しており、蒸着材料39の量を記憶装置に設定しておけば、回転手段41は設定量の蒸着材料39が蒸発室21に移動するよう、回転軸35の回転量を制御するようになっている。従って、決められた量の蒸着材料39を蒸発室21に移動させることができる。
【0028】
載置部材22は平面形状が矩形や円形等の板状であって、表面を上側に向けた状態で、蒸発室21の内部に配置されている。図2の符号25は、上側に向けた表面である載置面を示している。
【0029】
加熱手段24はシースヒーター等であって、載置部材22と蒸発室21のいずれか一方又は両方に取り付けられている。電源26から加熱手段24に通電すると、加熱手段24が発熱し、載置部材22は加熱手段24で直接加熱されるか、蒸発室21からの輻射熱で加熱される。
載置部材22はSiC等熱伝導性の高い物質で構成されているから、加熱により載置部材22全体が昇温する。
【0030】
蒸着材料39が落下する供給装置31の開口(ここでは突条36間の溝の下端)は、載置面25の下端よりも上方部分の真上に位置するから、蒸着材料39は該開口から落下すると、載置面25の下端よりも上方の載置場所に載置される。
【0031】
図2の符号θは、載置面25の水平面Hからの傾きを示す傾き角度である。
傾き角度θと、載置場所から載置面25下端までの距離は、蒸着材料39が載置場所に留まらずに重力によって載置面25上を下方へ移動し、かつ、その蒸着材料39が載置面25の下端から零れ落ちないように設定されている。
【0032】
従って、載置面25が蒸着材料39に接触する接触面積は、載置面25が水平な場合に比べて広く、載置面25を蒸着材料39の蒸発温度以上に昇温させておけば、蒸着材料39は熱伝導により加熱されて短時間で蒸発する。
【0033】
蒸発室21には配管71の一端が接続され、配管71の他端は放出装置50に接続されている。配管71の一端と他端の間にはバルブのような切替装置70が設けられている。
切替装置70を開状態にすると、蒸発室21の内部空間が放出装置50の内部空間に接続されて、蒸発室21で発生した蒸気が放出装置50へ移動する。逆に、切替装置70を閉状態にすると、蒸発室21の内部空間が放出装置50の内部空間から遮断され、蒸発室21で発生した蒸気が放出装置50へ移動しなくなる。
【0034】
放出装置50は複数の供給管52を有している。供給管52は、基板ホルダ15に保持される基板81と略平行な平面内で、所定間隔を空けて配置されている。ここでは、各供給管52は一端が同じ共通管54にそれぞれ接続されており、放出装置50へ移動した蒸気は、共通管54を通って各供給管52へ移動する。
【0035】
各供給管52には複数の第一の放出口53が、供給管52の長手方向に沿って所定間隔を空けて列設されている。供給管52へ移動した蒸気は各第一の放出口53からそれぞれ外部に放出される。
【0036】
図2では、放出装置50が放出槽51を有しており、供給管52は放出槽51の内部に配置されている。放出槽51は一部又は全部が真空槽11内部に配置され、真空槽11の内部に位置する部分に第二の放出口55が形成されており、第一の放出口53から放出された蒸気は、放出槽51内部に充満してから、第二の放出口55から真空槽11の内部に放出される。
【0037】
図3では放出槽51が設けられておらず、各供給管52の少なくとも第一の放出口53が設けられた部分が真空槽11内部に位置する。この場合、第一の放出口53から放出される蒸気が、直接真空槽11の内部に放出される。いずれにしろ、放出装置50から蒸気が真空槽11内部に放出される。
【0038】
真空槽11内部の放出装置50と対面する位置には、基板ホルダ15が配置されている。図2、3は基板ホルダ15に基板81が保持された状態を示している。
基板ホルダ15に保持された基板81と、放出装置50の間にはマスク16が配置されている。マスク16は遮蔽板18と、遮蔽板18に設けられた開口17とを有しており、放出装置50から放出された蒸気は開口17を通って基板81に到達し、基板81の開口17と対面する部分に薄膜が成長する。
【0039】
マスク16と基板ホルダ15のいずれか一方又は両方はアライメント手段60に接続されている。アライメント手段60は、基板ホルダ15に保持された基板81と、マスク16のアライメントマークを観察しながら、マスク16と基板ホルダ15のいずれか一方又は両方を移動させ、マスク16の開口17が、基板81表面の所定領域と対面するよう位置合わせすることができる。
【0040】
次に、この蒸着装置10bを用いて、2色以上(ここでは赤色、緑色、青色)の着色層からなる発光層を形成する工程について説明する。
赤、緑、青のうち、いずれか1色を第一の色、残りの二色のうち、一方の色を第二の色、他方の色を第三の色とする。主成分の有機材料(ホスト)に、添加剤であるドーパントが添加された第一〜第三の色の蒸着材料39を用意する。第一〜第三の色の蒸着材料39は少なくとも発光材料と着色剤をそれぞれ含有する。
【0041】
第一〜第三の色の蒸着材料39を別々のタンク60a〜60cに収容した後、蓋部材34を閉じてタンク60a〜60cの内部空間を密閉する。
真空槽11と各タンク60a〜60cには真空排気系9がそれぞれ接続されており、真空排気系9、83を動作させ、真空槽11と、各タンク60a〜60cと、蒸発室21とを真空排気し、真空槽11内部と、各タンク60a〜60c内部と、蒸発室21内部と、放出装置50内部と、配管71内部と、切替装置70の内部を真空排気し、所定圧力(例えば10-5Pa)の真空雰囲気を形成する。
【0042】
基板81表面の第一〜第三の色の着色層を形成すべき領域と、それらの着色層の膜厚は予め決められている。予備試験を行って、決められた膜厚の成膜に必要な、第一〜第三の色の蒸着材料39の量をそれぞれ求めておき、求めた量を回転手段41にそれぞれ設定しておく。
【0043】
真空槽11の内部に基板81を搬入し、基板ホルダ15に保持させる。基板81とマスク15の位置合わせを行い、第一の色の着色層を形成すべき領域と、マスク16の開口17とを対面させる。
【0044】
真空槽11とタンク60a〜60cの真空排気を続けながら、蒸発室21に接続された真空排気系83のバルブを閉じ、設定された量の第一の色の蒸着材料39を、該蒸着材料39の蒸発温度以上に昇温させた載置面25に載置して蒸気を発生させる。
【0045】
蒸着材料39を載置面25に載置する前に蒸発室21を予め放出装置50に接続しておく。又は、蒸着材料39を載置面25に載置して蒸気を発生させた後に蒸発室21を放出装置50へ接続する。蒸発室21に接続された真空排気系83のバルブは閉じられているから、蒸発室21内に発生した蒸気は放出装置50へ移動し、放出装置50から真空槽11内部に放出される。
【0046】
放出装置50からの蒸気の放出が開始するまでには、上述したように位置合わせが終了し、マスク16と基板81は位置合わせされた状態で放出装置50上に位置する。従って、放出装置50から放出される蒸気は、基板81表面の第一の色の着色層を形成すべき領域に到達し、該領域に第一の色の着色層が成長する。
【0047】
載置面25に載置された蒸着材料39が全て蒸発し、蒸気が放出装置50から放出されなくなるまで、基板81とマスク16を位置合わせした状態で放出装置50上に配置しておく。
【0048】
具体的には、蒸着材料39を載置面25に載置してから所定時間が経過するか、蒸発室21の内部圧力が所定圧力以下になったら、成膜が終了したと判断する。成膜が終了した時には、基板81表面の決められた領域に決められた膜厚の第一の色の着色層が形成される。
成膜が終了したら、蒸発室21に接続された真空排気系83のバルブを開け、蒸発室21の内部を所定時間真空排気して残留蒸気を排出する。
【0049】
残留蒸気を排出後、基板81表面の、第一の色とは異なる色(例えば第二の色)の着色層を形成すべき領域と、開口17とが対面するように位置合わせを行う。載置面25に載置する蒸着材料39の色を第一の色から他の色(第二の色)に変えた以外は、第一の色の着色層を成膜した工程と同じ工程で、第二の色の着色層を成膜する。
【0050】
第二の色の着色層を形成後、残留蒸気の排出と、基板81とマスク16の位置合わせと、異なる色の着色層の成膜とを1回以上繰り返せば、3色以上の着色層を基板81表面の異なる領域にそれぞれ成膜し、3色以上の着色層からなる発光層が形成される。
【0051】
発光層が形成された基板81を基板ホルダ15から取り外して真空槽11の外部に搬出し、発光層が形成される前の新たな基板81を真空槽11に搬入して基板ホルダ15に保持させ、基板81の交換を行う。
蒸発室21の残留蒸気を排出してから、上述した工程で基板81の表面に発光層を形成する。基板81の交換と、発光層の形成とを繰り返せば、複数枚の基板81に連続して発光層を形成することができる。
【0052】
上述したように、一つの放出装置50上で第一〜第三の色の着色層を連続して形成する方法は、着色層毎に放出装置50を変える場合に比べて、基板81の移動距離が短くてすむから、発塵が少ない。従って、塵が混入せず、膜質の良い発光層が得られる。
【0053】
尚、少なくとも載置部材22に蒸着材料39を配置する時には、加熱手段68に通電して、蒸気が通る経路(蒸発室21、配管71、切替装置70、放出装置50)を蒸着材料39の蒸発温度以(例えば200℃以上)上に加熱しておき、蒸気を発生させる間はその温度を維持することが望ましい。
【0054】
放出装置50を加熱する際には、輻射熱で基板81やマスク16が加熱される虞があるので、放出装置50とマスク16(又は基板81)の間に冷却部材67を配置し、放出装置50からの輻射熱を基板81側に到達しないようにする。
【0055】
冷却部材67のうち、放出装置50の蒸気を放出する放出口(図2では第二の放出口55、図3では第一の放出口53)と対面する部分には、該放出口よりも大径の開口を設け、放出口から放出される蒸気が冷却部材67に析出しないようにする。その開口の形状や放出口との位置関係は特に限定されず、一つの開口に一つの放出口を露出させてもよいし、一つの開口に二つ以上の放出口を露出させてもよい。
【0056】
また、蒸気が通る経路を加熱すると同時に、各タンク60a〜60cと供給装置31は、蒸着材料39の蒸発温度未満(例えば200℃未満)に維持することが望ましい。具体的には、断熱部材を設け、蒸発室21等からの熱が供給装置31やタンク60a〜60cに伝わらないようにする。断熱部材を設けるのと同時に、供給装置31とタンク60a〜60cのいずれか一方又は両方を冷却手段で冷却すれば、より確実に蒸着材料39の変質を防止できる。
【0057】
供給装置31の一部が蒸発室21の内部空間と面すると、その部分に蒸気が析出するだけでなく、供給装置31が蒸発室21からの輻射熱で加熱されてしまう。従って、供給装置31の蒸発室21の内部空間と面する部分(ここでは回転軸35の先端)を加熱板28で覆うことが望ましい。加熱板28は回転軸35の先端に取り付けてもよいし、蒸発室21の開口の内壁面に取り付けてもよい。
【0058】
蒸発室21の開口の内壁面に加熱板28を取り付ける場合は、不図示の把持部材により、加熱板28の外周の一部を内壁面に固定する。加熱板28の外周と、蒸発室21の開口内壁面との間には隙間が残るから、蒸着材料39が蒸発室21内へ落下するのが妨げられない。
【0059】
加熱板28の一部又は全部を断熱材料で構成し、加熱板28の表面から裏面へ熱が伝わらないようにすれば、加熱板28の蒸発室21側の表面は輻射熱で加熱されても、回転軸35側の裏面は加熱されない。
従って、加熱板28の表面には蒸着材料39の蒸気が析出せず、しかも、回転軸35の先端は加熱されない。
【0060】
更に、図2、図4に示したように、蒸発室21の内部に邪魔板27を配置してもよい。邪魔板27は、供給装置31の蒸着材料39が落下する開口(ここでは、突条36間の溝の下端)と、載置面25の下端の間に配置され、該開口が載置面25の下端と直接対面しないようになっている。
【0061】
載置面25の蒸着材料39を載置すべき載置場所は設定されている。例えば、載置場所は蒸着材料39が落下する開口の真下位置である。
邪魔板27は表面が、蒸着材料39を落下させる開口に向かって水平面から傾斜している。開口から落下する際に、載置場所よりも下方に向かって飛散する蒸着材料39は、邪魔板27表面に衝突し、該表面を滑り落ちて、載置面25の載置場所に近い場所に落下する。
【0062】
邪魔板27を設ければ、蒸着材料39が載置面25から零れ落ちないから、邪魔板27を設けない場合に比べて、載置面25の載置場所から下端までの長さを短くすることが可能であり、蒸着装置10bの小型化が可能である。
【0063】
邪魔板27の下端と載置面25との間には隙間があり、載置場所と、その近くに落下した蒸着材料39が、邪魔板27で堰き止められないようになっている。従って、蒸着材料39の広がりが阻害されず、蒸着材料39は短時間で蒸発可能である。
【0064】
邪魔板27の形状は特に限定されず、飛散する蒸着材料39が衝突する表面を有するものであれば、平面形状が円形、矩形等の板状であってもよいし、立方体、長方体や、錐体等であってもよい。
【0065】
蒸発室21内部に蒸気を発生させる間は、邪魔板27を不図示の加熱手段で直接加熱するか、蒸発室21からの輻射熱で間接的に加熱し、蒸着材料39の蒸発温度にしておく。
【0066】
邪魔板27の個数も特に限定されず、蒸着材料39が落下する開口一つに対し、一つ以上の邪魔板27を設けてもよい。または、2個以上の該開口に対して1枚の邪魔板27を設けてもよい。
【0067】
加熱手段24は載置部材22を加熱可能であれば特に限定されない。例えば、載置部材22を高抵抗の導電材料で構成し、載置部材22の外側を取り囲むコイルに通電して蒸発室21内部に電磁場を形成し、載置部材22を誘導加熱してもよい。
【0068】
載置部材22の形状は板状に限定されず、載置面25を有するのであれば、立方体、長方体、錐体等であってもよいが、載置部材22の厚みが厚いと、加熱手段24で加熱した時の熱応答性が低下するので、載置部材22は板状が望ましい。
【0069】
載置部材22の構成材料は特に限定されないが、金属、合金、無機物等熱伝導率が高いものが望ましい。その中でも、シリコンカーバイト(SiC)は熱伝導率と機械的強度の両方に優れているので特に望ましい。
【0070】
載置面25の傾き角度θは特に限定されない。一例を述べると、蒸着材料39が粒径100μm以上200μm以下の粉体の場合、傾き角度θは45°以上60°以下である。また、載置面25の表面粗さを大きくしたり、載置面25に筋状やメッシュ状の凹凸を設ければ、載置面25から蒸着材料39がより零れ落ち難くなる。
【0071】
供給装置31も特に限定されず、例えば、供給装置31は移載部材と、移動手段とを有し、タンク60a〜60cの蒸着材料39を移載部材に乗せ、移動手段により移載部材をタンク60a〜60cから、蒸発室21へ移動させ、載置場所の真上位置で、蒸着材料39を移載部材から落下させるようにしてもよい。
【0072】
蒸着材料39はホストやドーパント等の混合物に限定されない。例えば、蒸着材料39の各成分を、別々のタンク60a〜60cに収容しておき、複数のタンク60a〜60cから各成分を同時に載置面25に落下させて、複数成分を含有する蒸着材料39の蒸気を発生させてもよい。
【0073】
第一〜第三の色は赤、緑、青に限定されず、3原色であれば赤、黄、青であってもよい。また、着色層の色の数は3色に限定されず、2色以下であってもよいし、4色以上であってもよい。要するに本願発明の蒸着装置は、異なる色の着色層を、異なる領域に形成可能なものである。
【0074】
また、着色層を同じ領域に積層してもよい。この場合、基板81と放出装置50の間にマスク16を配置しないか、マスク16を基板81に対して相対的に静止させた状態で、着色層を積層させて発光層を形成する。該発光層を発光させると白色光が放出される。
【0075】
白色光を放出する発光層を形成する場合は、着色層の色の種類は四色以上が望ましい。具体的には、赤色、緑色、青色、黄色の四色である。
着色層は、発光材料が含有された発光層を構成する場合に限定されず、発光層とは別に形成してもよい。
【0076】
本発明の蒸着装置10bは発光層だけでなく、ホール輸送層、ホール注入層、電子注入層、電子輸送層等、他の有機薄膜の成膜に用いることもできる。
ホール輸送層、ホール注入層、電子注入層、電子輸送層等、発光層以外の有機薄膜を成膜する際には、基板表面の成膜する領域を変える必要が無いから、基板81と放出装置50の間にマスク16を配置しなくてもよく、又はマスク16を配置する場合であっても、各層の成膜毎にマスク16を移動させる必要がない。
【0077】
一つの放出装置50に複数の蒸気発生装置20を接続してもよい。この場合、切替装置70で所望の蒸気発生装置20を放出装置50に接続し、他の蒸気発生装置20を放出装置50から遮断できるようにすれば、所望の蒸気発生装置20で発生した蒸気だけを、放出装置50から放出させることができる。
【0078】
1つの真空槽11内部に1又は複数の放出装置50を配置することができる。1つの真空槽11内部に複数の放出装置50を配置する場合、各放出装置50から放出される蒸気が混合されないよう、放出装置50同士の距離を十分に離すか、真空槽11内部に蒸気の流れを遮蔽する遮蔽板を設けることが望ましい。
【0079】
放出装置50と、基板ホルダ15のいずれか一方又は両方を揺動手段58に接続してもよい。蒸気を放出している間、基板81とマスク16を相対的に静止させた状態で、該基板81を放出装置50に対して、水平面内で往復移動又は円運動させれば、基板81表面に成長する有機薄膜の膜厚が均一になる。
【0080】
基板ホルダ15と放出装置50との相対的な往復移動の方向は特に限定されないが、供給管52と交差する方向に水平面内で相対的に移動させれば、基板81表面の膜厚分布が均一になる。
供給管52を放出槽51の内部に配置する場合、第一の放出口53が第二の放出口55と対面しないようにすれば、第一の放出口53から噴出される蒸気は、放出槽51に充満してから真空槽11に放出されるため、放出速度が安定する。
【0081】
放出装置50の蒸気を放出する放出口(図2では第二の放出口55、図3では第一の放出口53)が設けられた領域の面積を、基板81よりも大面積にし、かつ、該放出口をその領域内で所定間隔を空けて分散配置しておけば、基板81を放出装置50上に位置させたまま、基板81表面全部に亘って薄膜を形成することができる。この方法によれば、基板81を搬送しながら成膜する必要がなく、真空槽11内での基板81の移動距離が短くなるので、基板81搬送によるダストの発生量が少ない。
【0082】
基板81と放出装置50の位置関係は特に限定されない。基板81と放出装置50の蒸気を放出する部分が対面するのであれば、基板81を放出装置50上に配置してもよいし、基板81を放出装置50の下方に配置してもよいし、基板81を放出装置50の側方に配置してもよい。
蒸発室21を放出装置50に接続して蒸気を移動させる際、蒸発室21にパージガスを導入すれば、蒸気の供給効率が高くなる。
【0083】
尚、決められた膜厚を成膜するのに要する蒸着材料39の供給量は予備試験で求めておく。予備試験は、実際の成膜に用いるものと同じ蒸着材料39をタンク60a〜60cに収容し、真空雰囲気の圧力、載置面25の加熱温度等の成膜条件を、実際の製造の時と成膜条件と同じにし、放出装置50上に基板81(マスク16使用するならばマスク16と基板81)とを配置したまま、蒸着材料39を載置面25に載置して蒸気を発生させ、薄膜を形成する。蒸着材料39の落下量と、薄膜の膜厚との関係を求めれば、その関係から必要供給量が分かる。
蒸気発生装置20の設置場所は特に限定されず、蒸気発生装置20の一部又は全部を、放出装置50と同じ真空槽11内部に設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】製造装置の一例を説明するための平面図
【図2】本発明の蒸着装置の一例を説明する模式的な断面図
【図3】本発明の蒸着装置の他の例を説明する模式的な斜視図
【図4】タンクと載置部材の位置関係を説明する平面図
【図5】従来技術の蒸着装置を説明するための断面図
【符号の説明】
【0085】
10b……蒸着装置 11……真空槽 20……蒸気発生装置 21……蒸発室 22……載置部材 25……載置面 31……供給装置 39……蒸着材料 50……放出装置 60a〜60c……タンク 81……基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料の蒸気を発生させる蒸気発生装置であって、
蒸着材料が収容されるタンクと、
前記タンクに接続された蒸発室と、
前記タンクに収容された前記蒸着材料を、前記蒸発室へ移動させる供給装置と、
前記蒸発室内部に配置された載置部材と、
前記載置部材を加熱する加熱手段とを有し、
前記載置部材は、前記蒸発室に移動した前記蒸着材料が載置される載置面を有し、
前記載置面は水平面から傾斜した蒸気発生装置。
【請求項2】
前記タンクを複数有し、
前記供給装置は、前記各タンクに収容された前記蒸着材料を、同じ前記蒸発室にそれぞれ移動させる請求項1記載の蒸気発生装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸気発生装置と、
前記蒸発室に接続され、前記蒸発室内で発生した蒸気が供給される放出装置と、
前記放出装置から内部空間に前記蒸気が放出される真空槽とを有する蒸着装置。
【請求項4】
真空雰囲気中で蒸着材料の蒸気を発生させ、
前記蒸気を基板表面に到達させ、薄膜を形成する成膜方法であって、
前記蒸気の発生は、表面が水平面から傾いた載置部材を前記真空雰囲気で加熱し、前記載置部材の表面の下端よりも上方位置に前記蒸着材料を載置し、前記載置部材の表面上で、前記蒸着材料を前記下端に向けて移動させる成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−84676(P2009−84676A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299043(P2007−299043)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】