説明

蒸気発生装置

【課題】 坩堝を使用せずに原料を蒸発することが可能であり、それにより、高純度の原料蒸気を発生させることが出来る共に、蒸発効率を高く維持し、効率的かつ高純度の微粒子を作る。
【解決手段】 蒸気発生装置は、原料粉体8を落下させる経路となる垂直ダクト状の縦型炉1と、この縦型炉1の周囲に設けられ、同縦型炉1内の原料粉体8を加熱するヒータ2と、この縦型炉1に原料粉体8を定量ずつ落下させる原料粉体供給部4と、縦型炉1内で発生した蒸気を目的の位置に送る蒸気移送ダクト6とを有する。この場合、縦型炉1内に反応ガスや不活性ガスを送り、このガスの流れに回転を与えるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属または化合物等の微粒子を製造するために、金属や化合物の原料粉体を加熱、蒸発して蒸気を発生するための蒸気発生装置に関し、特に垂直な縦型炉内で材料粉体を自然落下させながらその縦型炉の周囲から加熱することで縦型炉内に生じる輻射熱で材料粉体を加熱、蒸発させて微粒子材料の蒸気を発生する蒸気発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の粒径数十nm以下の微粒子を製造する手段としては、原料の蒸気を発生させてその蒸気を凝集させるという物理的方法が一般化している。この方式は乾式と呼ばれている。従来において、この乾式で粒径数十nm以下の微粒子を製造する方法は、坩堝で金属を溶かし、さらにこの溶融した金属を加熱して発生した蒸気を冷却した凝集させることが一般的であった。
【0003】
図4は、その一般的な蒸気発生装置を示している。耐熱性の容器31の中に坩堝32を配置し、この坩堝32に原料37を収納する。この坩堝32の周囲には高周波誘導加熱電源34から高周波電流が供給される高周波誘導コイル33を設け、この高周波誘導加熱コイル33で坩堝32内の原料を加熱、溶融、蒸発させて矢印で示すように蒸気を発生させる。坩堝32から発生した原料の蒸気は、ヒータ36により加熱された漏斗状のダクトを通して凝集する個所へと搬送される。
【0004】
しかしこの蒸気発生装置では、得られた粒子に坩堝32の材料が含まれるという汚染を避けることが出来ない。この場合の坩堝32の加熱方法も高周波誘導加熱コイル36が一般的であるが、高周波誘導加熱コイル36を冷却しながら坩堝32を加熱するために、熱効率が極めて悪い。さらに、坩堝32は有底の容器であり、材料の蒸発表面は坩堝32の上面1個所に限られるため、蒸発効率も悪い。
さらに、坩堝32内で金属を沸騰させるため、金属蒸気だけでなく、溶融金属に飛沫も発生するため、微粒子だけを作ることが出来ず、粒径μmオーダー以上の粒径の大きな金属粒子も混じってしまうという課題がある。
【0005】
他方、分散媒中に金属粒子を分散して粒子を作る、いわゆる湿式の粒子製造方法では、粒子間の凝集効果が強すぎて粒径が数百nm以上の粒子しか作ることが出来ない。
金属元素を直接塩素等の元素と反応させて高純度塩を作るような場合、坩堝を使用して金属蒸気を発生させると坩堝から他の元素に汚染が及び、高純度の塩が作れない。これを避けるためには熱CVDで作るパイロリティックボロンナイトライド(PBN)やパイロリティックカーボン(PC)等の高純度坩堝を使用する必要がある。しかし、これら高純度材料では大型坩堝を作ることは難しく、坩堝の欠点である蒸発面が上面に限られることによる蒸発効率の悪さを避けることは出来ない。まして、粒子径がμmオーダー以上の金属の飛沫も混じってしまう為、未反応の金属が混じってしまう事になる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−336686号公報
【特許文献2】特開2002−263474号公報
【特許文献3】特開平11−333288号公報
【特許文献4】特開平11−71605号公報
【特許文献5】特開平11−57458号公報
【特許文献6】特開平9−111316号公報
【特許文献7】特開平7−163866号公報
【特許文献8】特開2004−182520号公報
【特許文献9】特開平11−246219号公報
【特許文献10】特開2003−268418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における微粒子を作るため坩堝を使用した蒸気発生装置が有する課題に鑑み、坩堝を使用せずに原料を蒸発することが可能であり、それにより、高純度の原料蒸気を発生させることが出来る共に、蒸発効率を高く維持し、効率的かつ高純度の微粒子を作ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、前記の目的を達成するため、汚染源となり、且つ蒸発面が上面一面しかない坩堝を使わず、金属や化合物の原料を高温に加熱した縦型炉内で自然落下させながら、同縦型炉内の熱で加熱、溶融、蒸発させて、粉体から直接蒸気を得るように、この蒸気を凝集させて目的材料の粒子を作るようにした。
【0009】
すなわち、本発明による蒸気発生装置は、原料粉体8を落下させる経路となる垂直ダクト状の縦型炉1と、この縦型炉1の周囲に設けられ、同縦型炉1内の原料粉体8を加熱するヒータ2と、この縦型炉1に原料粉体8を定量ずつ落下させる原料粉体供給部4と、縦型炉1内で発生した蒸気を目的の位置に送る蒸気移送ダクト6とを有する。この場合、縦型炉1内に反応ガスや不活性ガスを送り、このガスの流れに回転を与えるとよい。
【0010】
このような本発明による蒸気発生装置では、坩堝を使用せずに、原料粉体8を縦型炉1内で落下させながら加熱、溶融、蒸発させるため、坩堝に含まれる材料が原料蒸気中に溶出しない。これにより原料蒸気が汚染されず、高純度の微粒子を得ることが可能となる。さらに、原料粉体8を縦型炉1内で落下させながらその周囲から加熱するため、蒸発効率が高く、効率よく蒸気を発生することが出来る。
【発明の効果】
【0011】
以上説明した通り、本発明によれば、汚染のない高純度の原料蒸気を得ることが出来るので、高純度の微粒子を作ることが出来る。しかも、原料粉体8を周囲から加熱して蒸発出来るので、高効率で蒸気の発生が可能であり、生産性の高い微粒子製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、汚染源となり、且つ蒸発面が上面一面しかない坩堝を使わず、金属や化合物の原料を高温に加熱した縦型炉内で自然落下させながら、同縦型炉内の熱で加熱、溶融、蒸発させて、粉体から直接蒸気を得ることによ、前記の目的を達成したものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明による蒸気発生装置の基本的構成を示す概念図である。直立した管状の縦型炉1を高融点発熱体であるヒータ2で加熱し、その縦型炉1の上部から蒸発させるべき物質、例えば金属やその化合物の粉末からなる原料粉体8を自由落下させる。この縦型炉1を自由落下する原料粉体8はその落下中に周囲のヒータ2から縦型炉1を介して輻射熱を受けることにより、縦型炉1を落下中の原料粉体8が加熱、溶融、蒸発し、その蒸気が発生する。一般にガスの熱容量は非常に小さく、加熱ガスのみで金属等の原料粉体を加熱し、蒸発させることは不可能である。そのため、原料粉体の加熱のためには1500℃以上の輻射加熱という手段を用いる。
【0014】
縦型炉1とその周囲のヒータ2の回りには、ヒータ2から放射される輻射熱を反射する反射板及び断熱板を含む熱遮蔽板3が囲んでいる。原料粉体8を縦型炉1の上部から落下させる原料粉体供給部4は、ホッパ状の容器5の中に原料粉体8を収納し、この原料粉体8をスクリューフィーダ9の回転により、図1に矢印aに示すように毎時一定量ずつ原料粉体落下口7から縦型炉1の中に落下させる。
【0015】
原料粉体8は、縦型炉1の中を落下する過程でその周囲のヒータ2からの輻射熱により加熱され、溶融し、蒸発し、図1に矢印cで示すように蒸気移送ダクト6を通して次の凝集工程に送られる。
なお、原料粉体8の他に反応ガスが必要なときは、縦型炉1の下方から原料粉体8の蒸発量に応じた量の反応ガスを送って原料の蒸気と反応させる。或いは縦型炉1の下方から不活性ガスを送って縦型炉1の内部を不活性ガス雰囲気とする。これらのガスを縦型炉1の中へ送る際に、その流れに回転を与えるとよい。
【0016】
表1は、初期温度20℃のZn粉体を1500℃に加熱された縦型炉で自然落下させたときにZnの粉体の蒸発に必要な落下高さを真空中と窒素ガス雰囲気(大気圧)の場合について示している。図2は、この表1をグラフ化したものである。また表2は、縦型炉の加熱温度が1500℃のときのZnの粉体の蒸発に必要な落下高さを基準倍数1とし、縦型炉の加熱温度を1300〜1700℃に変えたときのZnの粉体の蒸発に必要な落下高さの倍率を示している。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
表1及び図2から明らかなように、工業的に縦型炉の運用を図るためには建物の高さから考慮してZnの原料粉体の粒径は50μm以下が必要となる。またZnの原料粉体の粒径を50μmとした場合、縦型炉の加熱温度も1400℃以下だと必要な縦型炉の高さが5m以上とななり、実用的では無い。これらのデータは、次のZnの物性値を考慮して計算により求めた結果である。
【0020】
Znの物性値
融点 692.68゜K (419.68℃)
沸点 1180゜K (907℃)
融解熱 7.332KJ/mol
気化熱 115.3KJ/mol
【0021】
図1により前述した基本構成において、ヒータ2として使用出来る高融点発熱体としては、SiC、MoSi、LaCrO、C(カーボン)等の導電性セラミック、或いはTa、Mo、W等の高融点金属等がある。SiCは1500℃、MoSiは1800℃、LaCrOは1900℃、C(カーボン)は2500℃まで使用可能である。但し、C(カーボン)は酸素が存在すると酸化、燃焼するので、酸素が存在しない真空中か不活性ガス雰囲気中でないと使用出来ない。
【0022】
C(カーボン)は加工性が良く、コストが安いので、金属蒸気を酸化させずに蒸発するような使用形態では、そもそも蒸発する環境が真空か或いは不活性ガス雰囲気となるので、C(カーボン)は最も好ましい材料である。しかし、真空中でC(カーボン)を使うとその表面から粉体が飛散しやすく、この粉体による蒸気の汚染が起こるので、グラッシーカーボン(タール等を染みこませて焼成することで表面を緻密化した黒色ガラス状のガス不透過性炭素)かパイロリティックカーボン(熱CVDによってカーボンの表面に緻密な炭素膜を付着させたガス不透過性炭素)を使用する必要がある。
【0023】
縦型炉1を構成する管状のものには、C(カーボン)、Al、安定化ZrO、サイアロン(Sialon:SiとAlとOとNの化合したセラミック)、SiC、Si等を使用することが出来る。C(カーボン)を除けば酸素の存在下でも使用可能であるが、前述のようにC(カーボン)は酸素が存在すると酸化、燃焼するので、酸素が存在しない真空中か不活性ガス雰囲気中でないと使用出来ない。金属蒸気を酸化させずに蒸発するような使用形態では、蒸発する環境が真空か或いは不活性ガス雰囲気となるので、C(カーボン)は最も好ましい材料である。しかもC(カーボン)は輻射率が1.0に近いので、ヒータ2からの輻射熱で原料粉体を加熱、蒸発するのにC(カーボン)は最も適している。
【0024】
蒸気を発生するためには真空か減圧雰囲気が効果的である。しかし、真空雰囲気では発生した蒸気の移送には適さず、また一個所でも温度が低い個所があると、その個所で蒸気が凝着し、いわゆる真空蒸着してしまう。このような観点から、蒸気の発生のためには減圧雰囲気で或る程度ガスの流れが生じる圧力、具体的には0.1〜100torr程度の気圧が適している。発生した蒸気に塩素等のハロゲンガスを直接反応させるような場合は、反応系が減圧状態であれば人体に有害な塩素ガス等のハロゲンガスが外部に漏れることも防止出来るので安全のために好都合である。
【0025】
表3は高純度塩化物を得るための金属材料の物性値の例を示す表である。この表3に示すように、Zn、Mgは沸点が1000℃前後であり、縦型炉の温度も表2に示したように1500℃程度で十分である。
【0026】
【表3】

【0027】
他方、表4はナノ粒子の材料として使用される金属材料の物性値の例を示す表である。この表5に示すように、これらの金属材料は融点が1000℃を超え、沸点も2000℃を超えて高いものが多い。しかし、2000℃での蒸気圧が高く、torrオーダーの雰囲気で縦型炉の温度が2000℃を超えて二千数百℃の温度にすれば十分蒸気が得られ、torrオーダーの不活性ガス流れにより蒸気を縦型炉の上部へと搬送することが出来る。
【0028】
【表4】

【0029】
図3に本願発明による蒸気発生装置のより具体的な実施例を示す。直立した管状の縦型炉1の周囲に高融点発熱体であるヒータ2を設けて加熱する。その縦型炉1の上部に設けた原料粉体供給部4から蒸発させるべき物質、例えば金属やその化合物の粉末からなる原料粉体8を定量ずつ自由落下させる。この縦型炉1の中で自由落下する原料粉体8がヒータ2からの輻射熱を受け、加熱、溶融、蒸発し、その蒸気が発生する。
【0030】
縦型炉1とその周囲のヒータ2の回りには、ヒータ2から放射される輻射熱を反射する反射板及び断熱板を含む熱遮蔽板3が囲んでいる。原料粉体8を縦型炉1の上部から落下させる原料粉体供給部4は、ホッパ状の容器5の中に原料粉体8を収納し、この原料粉体8をボールバルブ11を通して水平な円筒形のケーシング12に落下させる。ケーシング12の中には横軸にスクリューフィーダ9が設けられ、このスクリューフィーダ9の回転により、毎時一定量ずつ原料粉体落下口7から縦型炉1の中に原料粉体8を落下させる。原料粉体8の時間当たりの供給量は、ボールバルブ11の開度とスクリューフィーダ9の回転速度により調整出来る。ホッパ状の容器5の開口部は、クランプシール10により気密にシールされた蓋体22で覆われる。
【0031】
縦型炉1の上端側は、円周ガスノズル17を介して蒸気移送ダクト6に接続されている。これら縦型炉1と蒸気移送ダクト6とはケーシング23で覆われており、縦型炉1の上端側と下端側からはNガスやArガス等の不活性ガスが導入されるガスポート13、20が設けられている。また、予めヒータ16で加熱されたNガスやArガス等の不活性ガスが前記円周ガスノズル17の周囲にも導入される。
原料粉体8は、縦型炉1の中を落下する過程でその周囲のヒータ2からの輻射熱により加熱され、溶融し、蒸発し、蒸気移送ダクト6を通して次の凝集工程に送られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例である蒸気発生装置の基本的構成を示す概念断面図である。
【図2】初期温度20℃のZn粉体を1500℃に加熱された縦型炉で自然落下させたときにZnの粉体の蒸発に必要な落下高さを真空中と窒素ガス雰囲気(大気圧)の場合について示したグラフである。
【図3】本願発明による蒸気発生装置のより具体的な実施例を示す断面図である。
【図4】従来例である蒸気発生装置の基本的構成を示す概念断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 縦型炉
2 ヒータ2
4 原料粉体供給部
6 蒸気移送ダクト
8 原料粉体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉体(8)を加熱、蒸発させて原料の蒸気を発生させる装置において、原料粉体(8)を落下させる経路となる垂直ダクト状の縦型炉(1)と、この縦型炉(1)の周囲に設けられ、同縦型炉(1)内の原料粉体(8)を加熱するヒータ(2)と、この縦型炉(1)に原料粉体(8)を定量ずつ落下させる原料粉体供給部(4)と、縦型炉(1)内で発生した蒸気を目的の位置に送る蒸気移送ダクト(6)とを有することを特徴とする蒸気発生装置。
【請求項2】
縦型炉(1)内へガスを供給し、このガスの流れに回転を与えることを特徴とする請求項1に記載の蒸気発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−9234(P2007−9234A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187595(P2005−187595)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000183945)助川電気工業株式会社 (79)
【Fターム(参考)】