説明

蒸気駆動式圧縮装置

【課題】安定した起動が可能な蒸気駆動式圧縮装置を提供する。
【解決手段】蒸気駆動式圧縮装置1は、蒸気の膨張力を回転力に変換する蒸気膨張機2と、蒸気膨張機2によって駆動されて対象気体を圧縮する圧縮機4,5と、蒸気膨張機2に蒸気を供給する供給流路6と、蒸気膨張機2から蒸気が排出される排出流路7と、供給流路6または排出流路7に設けられた蒸気制御弁8と、圧縮機4,5から圧縮された対象気体が吐出され、逆止弁14を備える吐出流路12と、逆止弁14の上流側において吐出流路12から分岐し、放風弁17を介して外部に開放した放風流路16と、圧縮機4,5を始動するときは放風弁17を開放する始動制御装置20とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気駆動式圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、蒸気でスクリュ蒸気膨張機(「蒸気モータ」または「スチームエンド」)を駆動することによって、蒸気の圧力エネルギーを回転力に変換し、さらにその蒸気膨張機の回転力によってスクリュ圧縮機(エアエンド)を駆動して、空気を圧縮する蒸気駆動式圧縮装置が記載されている。特許文献1の蒸気駆動式圧縮装置は、蒸気膨張機に蒸気を供給する流路に蒸気制御弁を設け、この制御弁をスクリュ圧縮機の吐出流路の圧力を一定に保つようにPID制御することで、蒸気膨張機の回転数を制御するようになっている。
【0003】
このような蒸気駆動式圧縮装置では、停止状態において全閉となっている蒸気制御弁を開放することで、蒸気膨張機に駆動トルクを生じさせ、スクリュ圧縮機を起動する。従来の蒸気駆動式圧縮装置において、運転を開始する際には、蒸気制御弁を所定の初期開度(例えば20%)に設定し、その後はPID制御に任せて徐々に蒸気制御弁の開度を大きくして蒸気膨張機および圧縮機を加速させるのが一般的である。
【0004】
しかしながら、蒸気膨張機および圧縮機の回転数の上昇率(加速度)は、蒸気の供給圧力および排出圧力並びに圧縮機の吐出流路の圧力等の条件によって異なる。例えば、蒸気膨張機への蒸気の供給圧力と排出圧力との差が小さい場合には、蒸気膨張機が発生し得る駆動トルクが小さくなるため、蒸気膨張機および圧縮機の回転数がなかなか上昇しない起動渋滞が生じる。また、圧縮機の吐出流路の圧力が高い場合にも、圧縮機を駆動するために必要なトルクが大きくなるため、蒸気膨張機およびスクリュ圧縮機の回転数がなかなか上昇しない。逆に、蒸気の供給圧力と排出圧力との差圧が過大である場合や、吐出流路の圧力が過度に低い場合には、蒸気制御弁を初期開度に開いた瞬間に、蒸気膨張機およびスクリュ圧縮機が急加速する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−250196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記問題点に鑑みて、本発明は、安定した起動が可能な蒸気駆動式圧縮装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明による蒸気駆動式圧縮装置は、蒸気の膨張力を回転力に変換する蒸気膨張機と、前記蒸気膨張機によって駆動されて対象気体を圧縮する圧縮機と、前記蒸気膨張機に蒸気を供給する供給流路と、前記蒸気膨張機から蒸気が排出される排出流路と、前記供給流路または前記排出流路に設けられた蒸気制御弁と、前記圧縮機から圧縮された前記対象気体が吐出され、逆止弁を備える吐出流路と、前記逆止弁の上流側において前記吐出流路から分岐し、放風弁を介して外部に開放した放風流路と、前記圧縮機を始動するときは前記放風弁を開放する始動制御装置とを有するものとする。
【0008】
この構成によれば、起動時には、放風弁を開放して吐出流路を必ず通常の運転時に比して低い圧力とすることで、圧縮機による負荷トルクを小さくし、スムーズな回転数の上昇を可能にする。
【0009】
また、本発明の蒸気駆動式圧縮装置において、前記始動制御装置は、前記圧縮機を始動するときには、前記蒸気制御弁の開度を所定の設定開度まで漸増してもよい。
【0010】
この構成によれば、起動時に蒸気膨張機が発生する駆動トルクを適切な大きさにでき、急加速や起動渋滞のないスムーズな立ち上がりが実現できる。
【0011】
また、本発明の蒸気駆動式圧縮装置において、前記始動制御装置は、前記圧縮機を始動するときには、前記蒸気制御弁を、前記供給流路の圧力と前記排出流路の圧力との差分に応じた開度に設定してもよい。
【0012】
この構成によれば、蒸気膨張機が発生し得る駆動トルクに合わせて放風量を制御するので、蒸気圧力に拘わらず、蒸気膨張機および圧縮機の回転数の加速度を一定の範囲にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の1つの実施形態の蒸気駆動式圧縮装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の第1実施形態である蒸気駆動式圧縮装置1を示す。蒸気駆動式圧縮装置1は、空気を圧縮すべき対象気体とする圧縮空気製造装置である。
【0015】
蒸気駆動式圧縮装置1は、蒸気の膨張力を回転力に変換する蒸気膨張機2と、ギア3を介して蒸気膨張機2によって駆動され、空気を圧縮する第1段圧縮機4および第2段圧縮機5とを有する。蒸気膨張機2は、ハウジング内に雌雄一対のスクリュロータを収容してなり、スクリュロータの歯溝内の密閉空間において蒸気を膨張させることによって、スクリュロータを回転させるスクリュエキスパンダである。第1段圧縮機4および第2段圧縮機5は、ハウジング内に雌雄一対のスクリュロータを収容してなり、スクリュロータを回転駆動することによって、スクリュロータの歯溝内の密閉空間において空気を圧縮するスクリュ圧縮機である。
【0016】
蒸気駆動式圧縮装置1では、供給流路6を介して蒸気膨張機2に蒸気が供給され、蒸気膨張機2において膨張した蒸気は、排出流路7に排出される。供給流路6には、蒸気の流量を調節するための蒸気制御弁8と、供給流路6に供給される蒸気の供給圧力を検出する供給圧力検出器9とが設けられている。排出流路7には、蒸気膨張機2から排出された蒸気の圧力を検出する排出圧力検出器10が設けられている。
【0017】
また、蒸気駆動式圧縮装置1において、第1段圧縮機4と第2段圧縮機5とはインタークーラ11を介して直列に接続されている。つまり、第1段圧縮機4が圧縮して吐出した空気は、インタークーラ11で冷却された後、第2段圧縮機5によってさらに圧縮される。第2段圧縮機5が吐出した圧縮空気は、不図示のリザーバに通じる吐出流路12に排出される。吐出流路12には、上流側から順に、アフタークーラ13と、逆止弁14と、制御圧力検出器15とが設けられている。
【0018】
また、蒸気駆動式圧縮装置1は、アフタークーラ13と逆止弁14との間において吐出流路12から分岐した放風流路16を有する。放風流路16は、放風弁17を備え、大気開放された末端にサイレンサ18が設けられている。
【0019】
さらに、蒸気駆動式圧縮装置1は、制御圧力検出器15の検出値が入力され、制御圧力検出器15の検出値、つまり、リザーバに供給する圧縮空気の圧力を設定値に維持するように、公知のPID制御によって蒸気制御弁8の開度を調節するPIDコントローラ19と、供給圧力検出器9の検出値および排出圧力検出器10の検出値が入力され、放風弁16を開閉することができ、且つ、PIDコントローラ19の出力値を変更できる始動制御装置20とを有する。
【0020】
また、始動制御装置20には、蒸気駆動式圧縮装置1を始動、つまり、蒸気膨張機2、第1段圧縮機4および第2段圧縮機5を始動させるために、オペレータが不図示のスイッチを操作して出力、或いは、不図示の外部制御装置が出力した起動信号が入力されるようになっている。
【0021】
始動制御装置20は、起動信号が入力されると、放風弁17を開放すると同時に、PIDコントローラ19のその瞬間の出力値(初期値)を、供給圧力検出器9の検出値と排出圧力検出器10の検出値との差に応じた値に設定する。詳しくは、蒸気駆動式圧縮装置1の始動時の蒸気制御弁8の開度は、蒸気膨張機2の駆動トルクが一定の大きさになるように、供給流路6と排出流路7との差圧が大きいほど小さく、供給流路6と排出流路7との差圧が小さいほど大きくなるように設定される。
【0022】
その後、PIDコントローラ19は、制御圧力検出器15の検出値と所定の目標値との差分に応じて、PID制御により出力値(蒸気制御弁8の開度)を増減する。始動制御装置20は、蒸気膨張機2、第1段圧縮機4および第2段圧縮機5の回転数がある程度上昇すると予想される所定時間が経過したとき、放風弁17を閉鎖する。
【0023】
このように、蒸気駆動式圧縮装置1では、始動時に放風弁17を開放することにより、吐出流路12の逆止弁14の上流側の圧力をほぼ大気圧に設定し、蒸気制御弁8の開度の初期値を、蒸気膨張機2の駆動トルクが一定になるように定める。これにより、蒸気膨張機2、第1段圧縮機4および第2段圧縮機5の回転数が、毎回、一定の好ましい加速度で上昇する。
【0024】
蒸気駆動式圧縮装置1において、供給流路6および排出流路7の圧力が大きく変動しない場合には、供給流路6と排出流路7との差圧を考慮することなく、蒸気制御弁8の開度の初期値を一定の値に定めるか、その開度を所定の設定開度まで徐々に増加(漸増)させてもよい。
【0025】
また、蒸気駆動式圧縮装置1の始動後、放風弁17を徐々に閉鎖するようにすれば、放風弁17の閉鎖によって負荷が急上昇して運転状態が不安定になることがない。
【0026】
また、第1段圧縮機4および第2段圧縮機5の負荷特性やPIDコントローラ19の設定等の条件によっては、始動制御装置20によって蒸気駆動式圧縮装置1を始動する際の蒸気制御弁8の開度を変更しなくても、PID制御に任せて蒸気制御弁8を開放させることで、起動渋滞を起こさずにスムーズな始動ができる場合もある。
【0027】
尚、蒸気駆動式圧縮装置1において、PIDコントローラ19と始動制御装置20とは、1台のコンピュータ等、同一の制御装置によって実現されてもよい。
【0028】
また、上記実施形態において、蒸気制御弁8は、供給流路6に設けられているが、蒸気膨張機2を駆動する蒸気の流量を調整できればよいので、排出流路7に設けることも可能である。
【符号の説明】
【0029】
1…蒸気駆動式圧縮装置
2…蒸気膨張機
4…第1段圧縮機
5…第2段圧縮機
6…供給流路
7…排出流路
8…蒸気制御弁
9…供給圧力検出器
10…排出圧力検出器
12…吐出流路
14…逆止弁
15…制御圧力検出器
16…放風流路
17…放風弁
19…PIDコントローラ
20…始動制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気の膨張力を回転力に変換する蒸気膨張機と、
前記蒸気膨張機によって駆動されて対象気体を圧縮する圧縮機と、
前記蒸気膨張機に蒸気を供給する供給流路と、
前記蒸気膨張機から蒸気が排出される排出流路と、
前記供給流路または前記排出流路に設けられた蒸気制御弁と、
前記圧縮機から圧縮された前記対象気体が吐出され、逆止弁を備える吐出流路と、
前記逆止弁の上流側において前記吐出流路から分岐し、放風弁を介して外部に開放した放風流路と、
前記圧縮機を始動するときは前記放風弁を開放する始動制御装置とを有することを特徴とする蒸気駆動式圧縮装置。
【請求項2】
前記始動制御装置は、前記圧縮機を始動するときには、前記蒸気制御弁の開度を所定の設定開度まで漸増することを特徴とする請求項1に記載の蒸気駆動式圧縮装置。
【請求項3】
前記始動制御装置は、前記圧縮機を始動するときには、前記蒸気制御弁を、前記供給流路の圧力と前記排出流路の圧力との差分に応じた開度に設定することを特徴とする請求項1に記載の蒸気駆動式圧縮装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−7284(P2013−7284A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138815(P2011−138815)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】