説明

蒸着材料除去装置および蒸着材料除去方法

【課題】蒸着用るつぼの内壁に固着している蒸着材料からなる焼結ペレットを蒸着用るつぼが変形したり破損したりすることなく容易かつ確実に除去することができる蒸着材料除去装置および蒸着材料除去方法を提供する。
【解決手段】蒸着用るつぼ1内の焼結ペレット3を高速で往復運動するたがね23によって打撃して破壊し、除去する。たがね23は、焼結ペレット3の表面中央部を打撃する中央打撃部23Bと、この中央打撃部23Bの周囲を取り囲み焼結ペレット3の表面外周部を打撃する外周打撃部23Cとを一体に備え、中央打撃部23Bが外周打撃部23Cより前方に突出されており、焼結ペレット3の表面中央部を優先的に打撃する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着材料除去装置および蒸着材料除去方法に関し、特に基板や光学レンズへの蒸着に用いられた蒸着用るつぼ内に固着して残存している蒸着材料を除去する蒸着材料除去装置およびこの装置を使用する蒸着材料除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用レンズ等の蒸着対象物に蒸着材料を蒸着する蒸着装置は、水冷銅ハース内に蒸着用るつぼを設置し、これに蒸着材料を装填し、真空雰囲気中で電子ビームを蒸着材料に照射して蒸着材料を溶融、蒸発させることにより、光学レンズ等の蒸着対象物の表面に蒸着材料を蒸着するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
蒸着材料としては、蒸着物質の粉末を加圧プレスで形成し、常圧中で電気炉により焼結処理した焼結ペレットが知られている。このような焼結ペレットを収容する蒸着用るつぼとしては、上方のみまたは上方および下方が開放している筒状体に形成され、内部に蒸着材料を収容する空洞部を備えている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0004】
蒸着が終了して電子ビームの照射を停止すると、焼結ペレットの溶融した部分は冷えて固まるが、その溶融部分がるつぼ内壁に接触した状態で固まると、その部分は蒸着用るつぼの内壁に固着する。この溶融固化部分とるつぼ内壁との接合強度は強固であるため、蒸着用るつぼを再利用するためには、溶融固化部分を破壊してるつぼ内に残存している蒸着材料を除去する必要がある。しかしながら、このような除去作業は通常作業者がハンマーや突き出し棒等の適宜な工具によりるつぼ内に残存している焼結ペレットを叩いて粉砕、除去しているため、その肉体的負担が大きく、また作業者によって熟練度に差があるため、ときにはるつぼを変形させたり破損させて再利用できなくなるという問題があった。特に、蒸着物質の熱伝導率が高い場合(例えば、酸化ニオブを含有する蒸着材料)は、電子線が当たった部分の周りに熱が伝わり易くるつぼ内壁付近での溶融量が増え、接合面積が大きくなり、より一層結合強度が増す。
【0005】
そこで、例えば上記した特許文献4に記載されている発明は、蒸着用るつぼの焼結ペレットを収容する空洞部の内壁に段状部(段差部)を設けることにより、溶融固化した部分を容易に破壊し得るようにしている。すなわち、段状部の角部は、溶融固化部分に応力の集中箇所を形成するため、溶融固化部分を比較的容易に破壊、除去することができ、るつぼの変形、破損等の発生頻度を減少させることができる。
【0006】
【特許文献1】実開平5−72964号公報
【特許文献2】実開平3−18162号公報
【特許文献3】実公平6−9011号公報
【特許文献4】特開2003−147509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献4に記載されている蒸着用るつぼを用いて破壊、除去が容易になったものの、ハンマーや突き出し棒等の工具を用いて破砕しなければならず、除去作業が困難で、作業者の負担が大きく、依然として蒸着用るつぼの変形や破損の頻度を低減することが難しいという問題があった。
【0008】
このため、蒸着用るつぼとの接合強度が大きい蒸着材料であっても、作業者の負担や熟練度が要求されず、るつぼを変形させたり破損させたりすることなく焼結ペレットを容易かつ確実に除去することができる装置および方法の開発が要請されていた。
【0009】
本発明は、上記した従来の問題および要請に応えるためになされたものであり、その目的とするところは、蒸着用るつぼの内壁に固着している蒸着材料からなる焼結ペレットを蒸着用るつぼが変形させたり破損させたりすることなく容易かつ確実に除去することができる蒸着材料除去装置および蒸着材料除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1の発明は、蒸着用るつぼの両端が開放した筒状部の内壁に固着している蒸着材料からなる焼結ペレットの表面を前記筒状部の軸線方向に高速で往復運動するたがねによって打撃することにより前記焼結ペレットを破壊して除去する蒸着材料除去装置であって、前記たがねに前記焼結ペレットの表面中央部を打撃する中央打撃部と、この中央打撃部の周囲を取り囲み前記焼結ペレットの表面外周部を打撃する外周打撃部とを設け、前記中央打撃部を外周打撃部より前方に突出させたものである。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、前記たがねを高速で往復運動させるたがね駆動機構と、このたがね駆動機構を前記たがねの往復運動方向に移動自在に保持するたがね駆動機構保持部と、前記蒸着用るつぼをその筒状部の軸線を前記たがねの軸線と略一致させて保持するるつぼ保持部とを備えているものである。
【0012】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、前記たがねの中央打撃部と外周打撃部を一体に形成し、前記中央打撃部を前記たがねの軸線方向に突出した突状体に形成し、前記外周打撃部を中央打撃部を取り囲む環状の突状体に形成したものである。
【0013】
第4の発明は、上記第1または第2の発明において、前記たがねの中央打撃部と外周打撃部を一体に形成し、前記中央打撃部を前記たがねの軸線方向に突出した突状体に形成し、前記外周打撃部を周方向に並設された複数個の突状体で構成したものである。
【0014】
第5の発明は、上記第1または第2の発明において、前記たがねの中央打撃部を1本の棒たがねで構成し、外周打撃部を前記棒たがねの周囲に個々独立に進退自在に配置された複数本の針たがねで構成したものである。
【0015】
第6の発明は、上記第1〜第5の発明のうちのいずれか1つにおいて、前記たがねを進退自在に収納する外筒体を有しているものである。
【0016】
第7の発明は、上記第1〜第6の発明のうちのいずれか1つに記載の蒸着材料除去装置を用いて蒸着用るつぼの内壁に固着している蒸着材料からなる焼結ペレットを除去する蒸着材料除去方法であって、前記焼結ペレットが固着している蒸着用るつぼをその筒状部の軸線を前記たがねの軸線と略一致させて保持する工程と、前記たがねを高速で往復運動させながら前記蒸着用るつぼ内に挿入し焼結ペレットの表面の中央と周囲を打撃することにより焼結ペレットを破壊して蒸着用るつぼから除去する工程とを備え、前記焼結ペレットの表面の中央の打撃を表面周囲の打撃より優先させたものである。
【0017】
第8の発明は、上記第6の発明に記載の蒸着材料除去装置を用いて蒸着用るつぼの内壁に固着している蒸着材料からなる焼結ペレットを除去する蒸着材料除去方法であって、蒸着用るつぼの筒状部の内壁には段差部が形成されており、前記焼結ペレットが固着している蒸着用るつぼをその筒状部の軸線を前記たがねの軸線と略一致させて保持する工程と、前記たがねを進退自在に収納する外筒体の先端部を前記蒸着用るつぼの径が大きい円筒部内に挿入し、前記たがねが径の大きい円筒部の内壁や段差部に向かって打撃しないように焼結ペレットの表面の中央と周囲を打撃することにより焼結ペレットを破壊して蒸着用るつぼから除去する工程とを備え、前記焼結ペレットの表面中央の打撃を表面周囲の打撃より優先させたものである。
【0018】
第9の発明は、上記第8の発明において、前記たがねを収納する外筒体の先端部の内径は、前記蒸着用るつぼの径が小さい方の円筒部の内径より僅かに小さく設定され、外径は前記蒸着用るつぼの径が大きい方の円筒部の内径より僅かに小さく設定されているものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、たがねに中央打撃部と外周打撃部とを設け、中央打撃部を外周打撃部より前方に突出させているので、焼結ペレットを確実に破壊し除去することができる。すなわち、焼結ペレットは、溶融固化した上層部と、溶融されずに焼結ペレットのままの状態を留めている下層部とからなり、上層部の溶融固化部分が蒸着用るつぼの内壁に固着している。また、溶融固化部分は、通常表面が摺り鉢状に凹んでおり、中央部の強度が低く、外周部がるつぼ内壁と固着し強度が高くなっている。そこで、中央打撃部を溶融固化部分の表面形状と強度を考慮して外周打撃部よりも前方に突出させておくと、最初に中央打撃部が溶融固化部分の強度が最も弱い中央部を打撃して破壊する。中央部の破壊が進むと、他の溶融固化部分の強度が低下するため、外周部が壊れ易くなる。次いで、外周打撃部が溶融固化部分の壊れ易くなった外周部を打撃して破壊し、るつぼ内壁から取り除く。焼結ペレットの下層部分は、蒸着時に溶融されなかった部分であるため、焼結状態を留めている。このため、溶融固化部分に比べて強度が弱く、溶融固化部分の打撃、破壊にともなって破壊される。したがって、蒸着用るつぼを変形させたり破損させたりすることがなく、蒸着用るつぼに固着している焼結ペレットを確実に除去することができる。
【0020】
また、前記たがねを高速で往復運動させるたがね駆動機構をたがねの往復運動方向に移動自在に保持するたがね駆動機構保持部を備えるとともに、前記蒸着用るつぼをその軸線方向が前記たがね駆動機構保持部によって保持されているたがね駆動機構のたがねの軸線方向と一致するように保持するるつぼ保持部を備えているので、るつぼの位置合わせが容易で、るつぼ配置後は鏨駆動機構をたがねを往復運動方向に移動させればよいので、作業者の負担を著しく軽減することができる。また、高速で往復運動しているたがねの軸線とるつぼの軸線を一致させながらたがねを移動させるので、たがねがるつぼ内壁に当たることによるるつぼの変形や破損が生じにくくなる。なお、たがねを往復運動させる駆動源としては、例えば圧搾空気、電磁石等が考えられる。
【0021】
たがねの中央打撃部と外周打撃部を一体に形成した発明においては、たがねの本数を最少の1本とすることができる。また、打撃部を突状体に形成しておくと、溶融固化部分の表面に大きな打撃力を加えることができる。
【0022】
たがねの外周打撃部を個々独立に進退自在に配置された複数本の針たがねで構成した発明においては、溶融固化部分の表面外周部の表面高さが周方向において異なっていても、全ての針たがねを表面外周部に衝打させることができる。
【0023】
たがねを進退自在に収納する外筒体を備えた発明においては、外筒体がたがねの往復運動時の案内筒として機能するため、たがねの径方向外方への振れを抑制、防止することができる。
【0024】
上記発明に係る蒸着材料除去装置を用いて蒸着用るつぼの内壁に固着している蒸着材料からなる焼結ペレットを除去する蒸着材料除去方法においては、中央打撃部と外周打撃部とを有し、中央打撃部が外周打撃部より前方に突出したたがねを用いているので、最初に中央打撃部が溶融固化部分の中央部を打撃する。この中央部は、外周部に比べて薄くて強度が弱いため破壊され易く、破壊が進むと溶融固化部分全体の強度を低下させる。次いで、外周打撃部が壊れ易くなった溶融固化部分の外周部を破壊する。したがって、蒸着用るつぼを変形させたり破損させたりすることがなく、蒸着用るつぼに固着している焼結ペレットを確実に破壊し除去することができる。
【0025】
るつぼ内壁に段差部を形成した蒸着用るつぼに固着している蒸着材料からなる焼結ペレットを除去する際には、焼結ペレットの溶融固化部分が段差部で固化していると、たがねで溶融固化部分の表面を打撃したとき、段差部に接合している固化部分が応力の集中箇所となり、焼結ペレットを容易に破壊、除去することができる。
【0026】
また、たがねを進退自在に収納する外筒体の先端部を段差部の手前の径の大きい円筒部内に挿入する場合は、たがねとるつぼの位置合わせが容易で正確になる。また、たがねの外周打撃部がるつぼ内壁や段差部に向かって打撃して、るつぼが変形や破壊されるのを防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は蒸着用るつぼと焼結ペレットの外観斜視図、図2は蒸着終了後の焼結ペレットの状態を示す断面図、図3は本発明に係る蒸着材料除去装置の正面図、図4は同蒸着材料除去装置の左側面図、図5は蒸着用るつぼとたがね保持部材の外観斜視図、図6はたがね駆動機構のピストンが最上位置にある状態を示す断面図、図7は同たがね駆動機構のピストンが最下位置にある状態を示す断面図、図8はたがねの要部の斜視図、図9(a)〜(d)はたがねによる焼結ペレットの破壊除去の様子を示す図である。
【0028】
先ず、図1および図2に基づいて蒸着用るつぼと蒸着材料からなる焼結ペレットについて説明する。これらの図において、参照符号1で示す蒸着用るつぼは、上方および下方が開放した角筒状に形成されており、蒸着装置の水冷銅ハース(図示せず)によって支持される鍔部2と、蒸着材料である焼結ペレット3が装填される円筒状の空洞部、すなわちペレット装填部4とを有している。鍔部2は、蒸着用るつぼ1の互いに対向する2つの辺に一体に突設されている。ペレット装填部4は、前記焼結ペレット3の外径より若干大きな穴径を有する第1の円筒部4Aと、第1の円筒部4Aの上方に位置しこれより大きい穴径を有する第2の円筒部4Bとで構成されている。このため、第1、第2の円筒部4A,4Bの境部には、略水平な棚部分、すなわち段差部(段差面)5がるつぼの内壁全周にわたって設けられている。この段差部5は、焼結ペレット3の溶融固化部分3Aを破壊して除去する際に、溶融固化部分3Aに応力を集中させるために設けられるものであり、前記特許文献5に記載のるつぼに形成している段状部に相当するものである。
【0029】
このような蒸着用るつぼ1の材質としては、通常熱伝導率の高い材料、例えば銅、アルミニウム、黒鉛、タングステン、モリブデン、タンタル等が用いられる。因みに、蒸着用るつぼ1の大きさは、31(長さ)×31(幅)×12(高さ)mmのブロック状で、第1の円筒部4Aは孔径が22.6mmの空洞であり、第2の円筒部4Bは孔径が25mmの空洞であり、上面から段差部5までの距離は5mmである。
【0030】
前記焼結ペレット3は、蒸着材料の粉末を加圧プレスで成形し、常圧中で電気炉により1000〜1400℃に加熱して焼成処理したものであって、前記第1の円筒部4Aより若干小さい外径を有する円柱状に形成されている。蒸着材料としては、眼鏡用レンズに反射防止膜を蒸着する場合、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム等が用いられる。例えば、酸化ニオブ(Nb25)と酸化ジルコニウム(ZrO2 )の粉末を、重量比95:5の割合で混合し、300kg/cm2 で加圧プレスした後、1300℃で24時間加熱して、直径21.8〜22.5mm、高さ15.5〜16.0mmの円柱状の焼結ペレットを製作する。
【0031】
このような焼結ペレット3は、図2に2点鎖線で示すように蒸着用るつぼ1のペレット装填部4に装填された状態において、上端部が段差部5より上方に位置して第2の円筒部4Bとの間に環状の隙間7を形成している。一方、下端部は第1の円筒部4Aに嵌合してその内壁に接触し、蒸着用るつぼ1の下方に突出している。
【0032】
眼鏡用レンズの蒸着に際して、焼結ペレット3が装填された蒸着用るつぼ1を蒸着装置に装着して電子ビームを焼結ペレット3の表面中央部に照射すると、焼結ペレット3の表面中央部が加熱溶融して蒸発し、眼鏡用レンズへの蒸着が行われる。焼結ペレット3の表面中央部を電子ビームで加熱溶融すると、この溶融した部分は熱伝導によって徐々に周囲に広がり、ついには表層部全体が溶融状態となり、その一部が環状隙間7に流れ出して第2の円筒部4Bの内壁および段差部5に接触すると冷やされて固着する。
【0033】
また、電子ビームの照射によって焼結ペレット3の表層部が加熱溶融して蒸発すると、焼結ペレット3の表面高さは当然のことながら徐々に低くなる。このため、表面は、図2に実線で示すように摺り鉢状に凹み、中央が最も深くなる。
【0034】
眼鏡用レンズの蒸着が終了して電子ビームの照射を停止すると、焼結ペレット3の溶融部分は、冷却して固化することにより溶融固化部3A(溶融固化部分ともいう)となる。この溶融固化部3Aは、蒸着材料の主成分が熱伝導率の高いニオブであると、外周が蒸着用るつぼ1の内壁まで達し、るつぼ内壁との接合面積が大きく、蒸着用るつぼ1の内壁に大きな接合強度で固着する。溶融固化部3Aは、中央部が最も薄くて強度が弱く、外周部に向かうほど厚くなり強度が増大する。焼結ペレット3の下層部分3B、すなわち溶融固化部分3Aより下の部分は、加熱されても溶融しなかった部分であるため、ペレット状態を保持している。このため、下層部分3Bは、溶融固化部分3Aよりも強度が弱く、また蒸着用るつぼ1の内壁に対して接触あるいは隙間を有しており、固着していない。
【0035】
蒸着が終了すると、蒸着用るつぼ1を真空装置から取り出し、蒸着用るつぼ1を再利用するためにペレット装填部4内に残存している焼結ペレット3を本発明に係る蒸着材料除去装置20および方法によって除去する。以下、図3〜図9に基づいて蒸着材料除去装置20の構成等を詳細に説明する。
【0036】
前記蒸着材料除去装置20は、蒸着用るつぼ1内の焼結ペレット3を打撃し除去する打撃工具としてのたがね23と、このたがね23を保持し高速で往復運動させるたがね駆動機構24と、このたがね駆動機構24を前記だがね23の往復運動方向(垂直方向)に移動自在に保持するたがね駆動機構保持部25と、このだがね駆動機構保持部25が設けられている本体21と、この本体21に配置されたつるぼ保持部22とを備えている。
【0037】
前記本体21は、ベースプレート31と、このベースプレート31上に立設された4本の支柱(下側支柱)32と、この下側支柱32によって支持された底板28と、この底板28上に立設された4本の支柱(上側支柱)34と、この上側支柱34により支持された上板27とを備えている。前記ベースプレート31と底板28および上板27は、長方形(または正方形)の金属製の板からなり、上下に平行に対向するように配置されている。前記上板27および底板28の各辺は、4枚の透明なプラスチック板からなるカバープレート30(正面プレート30a、左側面プレート30b、右側面プレート30c、背面プレート30d)が設けられており、蒸着材料除去作業中に蒸着材料が周囲に飛び散るのを防止している。4枚のカバープレート30のうち左側面側のプレート30bの下部一側寄りには、蒸着用るつぼ1を前記るつぼ保持部22に装着するための開口部33が形成されている。前記ベースプレート31は、床面上に設置されており、蒸着材料除去装置20によって蒸着用るつぼ1から除去した焼結ペレット3の屑35を回収するペレット回収容器36が設置されている。
【0038】
前記るつぼ保持部22は、前記底板28上に左側面から見て左右方向に所定の間隔をおいて平行に対向するように配置された一対のセットプレート22A,22Bとで構成されている。これらのセットプレート22A,22Bは、図8に示すように左右対称な形状に形成されて装置の左右方向に延在し、互いに対向する面には、上下2つの溝40,41と抜け防止部42がそれぞれ全長にわたって形成されている。上方側の溝40は、抜け防止部42の真下に位置し、前記蒸着用るつぼ1の上端部を非接触状態で収納するための空間を形成している。下方側の溝41は、後述するように前記底板28と組み合わされることにより、前記蒸着用るつぼ1を保持するるつぼ保持部材44の左右両端部を案内するためのガイド溝(側方ガイド溝)を形成する。そして、この下方側溝41は、前記上方側の溝40の下方にこれよりも深く形成されて、セットプレート22A,22Bの下面側に開放している。前記抜け防止部42は、上方側の溝40の上壁を形成しており、前記蒸着用るつぼ1が前記るつぼ保持部22の内部から上方に抜け出すのを防止している。
【0039】
前記底板28には、その上面に左側面から右側面に向かって蒸着材料除去位置50(たがね23の軸線と交わる位置)を通って延びる溝(下方ガイド溝)53が係止されている。この溝53は、前記蒸着用るつぼ1を保持するるつぼ保持部材44(図5)の下端部を案内するためのガイド溝であり、底板28の上面側に開放している。この下方ガイド溝53の底面の蒸着材料除去位置50に対応する箇所には、蒸着用るつぼ1から除去された焼結ペレット3の屑35を前記ペレット回収容器36内に落下させるためのペレット屑回収用穴52が形成されている。前記下方ガイド溝53の幅は、前記セットプレーと22A,22Bの下方側溝41の間隔より狭く形成されているため、前記セットプレーと22A,22Bが前記底板28に設置された状態で、前記下方溝41と前記下方ガイド溝53の両側の底板上面とで前記側方ガイド溝が形成されている。前記下方ガイド溝53は、左側面から蒸着材料除去位置50を超えて底板28の右側面に達する手前の所定の位置まで形成され、この下方ガイド溝53の最奥部分がるつぼ保持部材44の位置決め部54(図3)となっている。この位置決め部54の位置は、前記るつぼ保持部材44の先端が突き当たるまで挿入したときに蒸着用るつぼ1が蒸着材料除去位置50にくるように設定されている。なお、この位置決め部54は、本実施の形態では下方ガイド溝53の最奥部分が相当するが、別途るつぼ保持部材44の位置を決める構造を設けてもよい。
【0040】
前記るつぼ保持部材44は、比較的板厚が厚い四角形のブロックからなり、上面中央に前記蒸着用るつぼ1の下半部を収容するテーパ状のるつぼ収納孔45が形成されており、さらにこのるつぼ収納孔45に続いてるつぼ保持部材44の下面側に開口するストレートな円形の孔46が形成されている。このストレートな孔46は、蒸着用るつぼ1の第1の円筒部4A(図1、図2)の穴径と略同一の穴径あるいはそれより大きい穴径を有し、るつぼ収納孔45との境部に形成された段差部47によって蒸着用るつぼ1の下面を支持している。るつぼ保持部材44の左右両端部には、前記各セットプレート22A,22Bの下方側溝41と前記底板28とで形成される前記側方ガイド溝に摺動自在に挿入される左右一対の張り出し部(側方張り出し部)44aが一体に突設されている。
【0041】
また、るつぼ保持部材44の下端には、前記底板28の下方ガイド溝53に摺動自在に挿入される張り出し部(下方張り出し部)44bが一体に突設されている。このようなるつぼ保持部材44は、蒸着材料である焼結ペレット3が固着されている蒸着用るつぼ1をるつぼ収納孔45に収納した後、左側面プレート30bの開口部33からるつぼ保持部22内に挿入されると、前記側方ガイド溝と前記下方ガイド溝53に沿って後方に移動されるるつぼ保持部材44の先端が前記下方ガイド溝53の位置決め部54に突き当たり、蒸着用るつぼ1が蒸着材料除去位置50に位置決めされる。この蒸着材料除去位置50は、前記るつぼ駆動機構24の真下に位置しており、蒸着用るつぼ1の筒状部(4A,4B)の軸線とたがね23の軸線を一致させる位置である。
【0042】
図6〜図9において、前記たがね23は、棒状のロッド23Aと、このロッド23Aの下端に一体に設けられた中央打撃部23Bおよび外周打撃部23Cとで構成されている。中央打撃部23Bは、前記焼結ペレット3の溶融固化した表面中央部を打撃する部分で、円錐状の突状体に形成されている。外周打撃部23Cは、焼結ペレット3の表面外周部を打撃する部分で、前記中央打撃部23Bの周囲を取り囲む環状の突状体に形成されており、円板状の連結部23Dによって前記中央打撃部23Bに連結されている。外周打撃部23Cの外径は、蒸着用るつぼ1の小径の円筒部4Bの穴径より小さく設定されている。また、中央打撃部23Bは、焼結ペレット3の溶融固化部3Aの表面形状および表面の中央と外周の高さの差を考慮して外周打撃部23Cよりもたがね23の進退方向において前方、つまり下方に所定量突出して設けられている。この突出寸法D(図6)は、焼結ペレット3の溶融固化部3Aの表面中央と外周の平均的な高さの差を考慮して設定されており、これにより中央打撃部23Bと外周打撃部23Cが焼結ペレット3の表面を打撃するときの順位付けをし、中央打撃部23Bが外周打撃部23Cよりも早く打撃するように形成している。つまり、最初に中央打撃部23Bが溶融固化部3Aの薄くて強度の最も弱い中央部分を打撃して破壊し、次いで外周打撃部23Cが厚くて強度の大きい外周寄りを打撃して破壊するようにしたものである。
【0043】
前記たがね駆動機構24は、シリンダ60と、このシリンダ60内に上下動自在に組み込まれたフリーピストン(以下、ピストンと略称する)61,アンビル62およびたがね支持部材63と、シリンダ60の下端に設けられた外筒体64と、前記シリンダ60に圧搾空気70を供給する圧搾空気供給源66等で構成されている。
【0044】
前記シリンダ60は、上端開口部が蓋部材60Aによって閉塞されており、内部には互いに連通する第1、第2の室73,74が軸線方向に形成されている。第1の室73は、ピストン61を上下動自在に収納する室であって、上端側が大径の孔部73aを形成し、下端側が小径の孔部73bを形成している。そして、この第1の室73の下端側には、圧搾空気70の供給口77と環状通路78が形成されている。供給口77は、シリンダ60の半径方向に形成されて一端が前記環状通路78に開口し、他端が配管79を介して圧搾空気供給源66に接続されている。環状通路78は、小径の孔部73bの内周面とピストン61の下端部61bの外周面との間に形成されている。
【0045】
前記ピストン61は、前記大径の孔部73a内に摺動自在に位置する大径部61aと、この大径部61aの下面中央に延設され下端部が前記小径の孔部73bに摺動自在に挿入されている小径部61bとからなる棒状体に形成され、大径部61aによって前記第1の室73を上下2つの室、すなわち第1圧力室82Aと第2圧力室82Bに仕切っている。また、ピストン61の内部には、圧搾空気70の通路80が形成されている。この通路80の一端はピストン61の上面中央に開口し、他端は前記小径部61bの下端部外周面に開口して図6に示すようにピストン61が最上位置にある状態においては前記環状通路78に連通し、ピストン61が駆動して図7に示すように最下位置に下降すると前記第2の室74に連通するように形成されている。
【0046】
前記第2の室74は、前記アンビル62とたがね支持部材63をそれぞれ上下動自在に収納するための室で、前記第1の室73の下方側に連通して設けられている。また、この第2の室74の内部上方側には、アンビル62を下方に付勢する圧縮コイルばね91が収納されている。さらに、第2の室74の上端側には、排気口97が形成されている。この排気口97は、シリンダ60の半径方向に形成されて一端が前記第2の室74に開口し、他端がシリンダ60の外部に開放している。
【0047】
前記外筒体64は、前記シリンダ60の下端側開口部に螺合によって連結されることにより、上端部が第2の室74内に挿入され、下端部がシリンダ60の下方に延在し、内部に前記たがね23と、たがね支持部材63およびこのたがね支持部材63を上方に付勢する圧縮コイルばね96が組み込まれている。前記アンビル62とたがね支持部材63は、初期位置状態において前記圧縮コイルばね91と96のばね力が釣り合い状態を保つ高さ位置に保持されている。なお、外筒体64の内径と第2の室74の内径とは等しい。
【0048】
前記たがね23は、ロッド23Aの上端が前記たがね支持部材63の下面中央に連結されており、前記ピストン61の最上位置および最下位置における中央打撃部23Bと外周打撃部23Cの前記外筒体64先端からの位置は、焼結ペレット3の溶融固化部3Aの表面中央と外周のるつぼにおける平均的な高さを考慮して設定されている。前記外筒体64の先端部64Aは、前記たがね23の中央打撃部23Bと外周打撃部23Cを摺動自在に収納する部分で、圧縮コイルばね96を収納している上方部分より小径に形成されている。
【0049】
前記外筒体64の先端部64Aの外径は、蒸着用るつぼ1の大径の円筒部4Bの内径より僅かに小さく設定されており、先端部64Aの内径は蒸着用るつぼ1の小径の円筒部4Aの内径より僅かに小さく設定されている。そして、この先端部64Aは、図9(a)に示すように蒸着用るつぼ1内の焼結ペレット3をたがね23により打撃して除去する際に、上方から蒸着用るつぼ1の大径の円筒部4B内に挿入され、これによりたがね23の半径方向の振れ、さらには外周打撃部23Cが蒸着用るつぼ1の内壁や段差部5を打撃したり破損させたりするのを防止するようにしている。
【0050】
なお、内部に段差部を有さない円柱状の空洞部を有する蒸着用るつぼに適用する場合は、前記外筒体64の先端部64Aの外径は蒸着用るつぼの円筒部の内径より大きく設定し、先端部64Aの内径は蒸着用るつぼの円筒部の内径より小さく設定するとよい。
【0051】
図3および図4において、前記たがね駆動機構保持部25は、ロッド71と、このロッド71を摺動自在に保持するガイド筒100と、前記ロッド71をガイド筒100に沿って昇降させる操作レバー101等を備えている。前記ロッド71は、上端が前記操作レバー101の下面に連結ピン(図示せず)を介して連結され、下端には前記シリンダ60の蓋部材60Aが螺合によって連結されている。前記ガイド筒100は、筐体21の上板27を貫通して設けられ、前記蒸着材料除去位置50の上方に位置している。前記操作レバー101は、基端が上板27上に固定されたブラケット103に連結ピン104を介して上下方向に回動自在に連結されている。
【0052】
この実施の形態においては、たがね駆動機構保持部25は、操作レバー101を備え、てこの原理を利用してたがね駆動機構保持部25を移動させているため、高速で往復運動するたがね23を強い力で焼結ペレット3の表面に押し付けることができる。また、ガイド筒100によりロッド71の移動方向が正確に規制されているため、たがね23を所定の位置に正確に当てることができる。
【0053】
次に、上記構造からなる蒸着材料除去装置20の蒸着材料除去動作について説明する。
先ず、内壁に蒸着材料からなる焼結ペレット3が固着している蒸着用るつぼ1をるつぼ保持部材44のるつぼ収納孔45に装着する。次いで、蒸着用るつぼ1が装着されたるつぼ保持部材44を蒸着材料除去装置20の開口部33からるつぼ保持部22内に装着し、側方ガイド溝と下方ガイド溝53に沿って移動させ、蒸着材料除去位置50に位置決め停止させる。
【0054】
次に、たがね駆動機構保持部25の操作レバー101を操作して、たがね駆動機構24を下降させ、外筒体64の先端部64Aを図9(a)に示すように蒸着用るつぼ1の第2の円筒部4B内に所定量挿入する。そして、たがね駆動機構24を下降した位置に固定し、この状態で切換弁83を開いて圧搾空気供給源66から圧搾空気70をたがね駆動機構24に供給し、たがね23を動作させる。
【0055】
圧搾空気供給源66の圧搾空気70は、配管79を通ってシリンダ60の供給口77に供給されると、環状通路78−通路80を通って第1圧力室82Aに供給される。これにより第1圧力室82A内の圧力が上昇してピストン61の上面に作用し、ピストン61を図6に示すように下降させる。このとき、圧搾空気70の一部は、環状通路78を通って第2圧力室82Bにも供給されているため、第2圧力室82B内の圧力も上昇してピストン61の大径部61aの下面側に作用するが、この大径部61aの下面側の表面積は、上面側の表面積よりも小さく設計されているので、ピストン61を高速で下降させることができる。
【0056】
ピストン61が下降すると、アンビル62に衝突し、アンビル62およびたがね支持部材63を圧縮コイルばね96に抗して下降させる。これにより、たがね23が外筒体64の先端部64Aから突出して中央打撃部23Bが蒸着用るつぼ1内の焼結ペレット3の表面中央部を打撃する(図9(b))。
【0057】
ピストン61は、所定長さ以上下降してアンビル62を打撃すると、通路80の下端開口部が図6に示すように第2の室74に連通する。このため、第1圧力室82Aは、通路80−第2の室74−排気口97を介して大気開放され、内部の圧力が急激に低下する。一方、環状通路78には圧搾空気70が供給され続けているので、環状通路78内の圧力が急速に上昇してピストン61の大径部61aの下面に作用し、ピストン61を高速で上昇復帰させる。また、たがね23が焼結ペレット3を打撃するとその反力と圧縮コイルばね96による弾発力によってアンビル62、たがね支持部材63およびたがね23も上昇復帰する。以後、このような動作を繰り返すことにより、たがね23が蒸着用るつぼ1の筒状部の軸線方向に高速で往復運動し、焼結ペレット3の表面を打撃する。
【0058】
焼結ペレット3の破壊、除去は、たがね23に中央打撃部23Bと外周打撃部23Cとを設け、中央打撃部23Bを外周打撃部23Cより前方に突出させていることから、図9(b)〜(d)に示す順序で進行する。すなわち、まず最初に中央打撃部23Bが、図9(b)に示すように焼結ペレット3の表面中央部を打撃する。焼結ペレット3の表層部は溶融固化部3Aではあるが、この溶融固化部3Aの中央部は、比較的薄肉で強度が弱いため、中央打撃部23Bによって繰り返し打撃されると徐々に削られて穴が生じ、溶融固化部3A全体の強度を低下させる。溶融固化部3Aの中央部に穴ができると、中央打撃部23Bは溶融固化部3Aを突き抜けて下層部3Bを打撃するようになる。この下層部3Bは、蒸着時に溶融されなかった部分であるため、ペレットの状態を留めている。このため、溶融固化部分3Aに比べて強度が弱く、中央打撃部23Bによって打撃されると容易に破壊されて溶融固化部3Aから剥離し落下する(図9(c))。また、溶融固化部3Aの中央が破壊されて溶融固化部3A全体の強度が低下すると、外周打撃部23Bが溶融固化部3Aの外周部を打撃しはじめる。そして、繰り返し打撃することにより溶融固化部3Aを破壊してるつぼ内壁から取り除き(図9(d))、焼結ペレット3の除去作業を終了する。
【0059】
このように、本発明による蒸着材料除去装置20は、たがね23を高速で往復運動させ、その中央打撃部23Bによって焼結ペレット3の表面中央部を打撃して破壊し溶融固化部3Aの強度を低下させた後、外周打撃部23Cによって焼結ペレット3の表面外周部を打撃して破壊しるつぼ内壁から離脱させるようにしたので、蒸着用るつぼ1との接合強度が大きな蒸着材料からなる焼結ペレット3であっても容易かつ確実に除去することができる。
【0060】
また、外筒体64がたがね23の往復運動時の案内筒として機能し、たがね23の径方向外方への振れを防止しているので、たがね23が誤ってるつぼ内壁や段差部5を打撃するおそれがなく、蒸着用るつぼ1の変形や破損を防止することができる。
【0061】
また、上記例のように段差部5を有する蒸着用るつぼ1に適用する場合であっても、たがね23を進退自在に収納する外筒体64の先端部64Aを段差部5の手前の大径の円筒部4B内に挿入しているので、たがね23とるつぼ1の位置合わせが容易で正確にでき、また外筒体64の先端部64Aの内径を小径の円筒部4Aの内径より小さく設定しているので、たがね23の外周打撃部23Cがるつぼ内壁や段差部5に向かって打撃して、るつぼ1が変形や破壊されるのを防止することができる。
【0062】
さらに、たがね駆動機構24によってたがね23を高速で往復運動させているので、作業者がたがね23をハンマー等で叩く必要がなく、作業者の負担を著しく軽減することができる。
【0063】
また、たがね23を高速で往復運動させるたがね駆動機構24をたがね23の往復運動方向に移動自在に保持するために駆動機構保持部25を備えるとともに、蒸着用るつぼ1をその軸線方向が前記たがね駆動機構保持部25によって保持されているたがね駆動機構24のたがね23の軸線方向と一致するように保持するるつぼ保持部22を備えているので、るつぼ23の位置合わせが容易で、たがね23を蒸着用るつぼ1に対して所定の位置に正確に当てることができる。
【0064】
また、上記蒸着材料除去方法によれば、ニオブを含有した蒸着材料のように熱伝導率が高い蒸着材料を用いた場合でも容易に取り除くことができる。
【0065】
図10は本発明の他の実施の形態を示すたがね駆動機構部のピストンが最上位置にある状態を示す断面図、図11は同たがね駆動機構ののピストンが最下位置にある状態を示す断面図、図12は同たがね駆動機構の底面図、図13(a)〜(d)はたがねによる焼結ペレットの破壊除去の様子を示す図である。
この実施の形態は、1本の棒たがね121と、複数本の針たがね122とでたがね120を構成したものである。棒たがね121は中央打撃部を構成し、針たがね122は棒たがね121の周囲に等間隔おいて並設されることにより外周打撃部を構成している。棒たがね121と針たがね122の違いは、外径および長さが異なるだけで、基本的な構成は全く同一である。そして、これらの棒たがね121と針たがね122は、たがね支持部材63を個々独立に上下動自在に貫通して設けられ、上端に設けた鍔部124によってたがね支持部材63からの落下が防止されている。前記棒たがね121と針たがね122の上端がアンビル62により押されている状態でのたがね支持部63からの突出量の差D’は、焼結ペレット3の溶融固化部3Aの表面中央と外周の平均的な高さの差を考慮して、前記棒たがね121が前記針たがね122より早く打撃するように設定されている。また、前記ピストン61の最上位置および最下位置における、前記棒たがね121先端および針たがね122先端の前記外筒体64先端からの位置も、焼結ペレット3の溶融固化部3Aの表面中央と外周のるつぼにおける平均的な高さを考慮して設定されている。
たがね駆動機構24の初期状態において、棒たがね121の下端部は外筒体64の下方に所定量突出している。一方、針たがね122は外筒体64内に位置している。その他の構造は、上記した実施の形態と全く同一であるため、同一構成部品については同一符号をもって示し、その説明を省略する。
【0066】
上記構造からなるたがね120を備えた蒸着材料除去装置においても、図13(a)〜(d)に示すように、焼結ペレット3の溶融固化部3Aを棒状たがね121で打撃して破壊することにより、溶融固化部3A全体の強度を低下させ、次いで針たがね122によって溶融固化部3Aの外周部を打撃して破壊するようにしているので、上記した実施の形態と同様に、残存する焼結ペレット3を蒸着用るつぼ1から容易かつ確実に除去することができる。
【0067】
また、特に本実施の形態においては、たがね120の外周打撃部を構成する針たがね122を個々独立に進退自在に配置しているので、焼結ペレット3の溶融固化部分3Aの表面外周部の表面高さが周方向において異なっていても、全ての針たがね122を表面外周部にほぼ同時に衝突させることができる。したがって、溶融固化部分3Aを迅速かつ確実に破壊することができ、るつぼ内壁から離脱させることができる。
【0068】
なお、本発明は上記した実施の形態に何ら特定されるものではなく、種々の変更、変形が可能である。例えば、たがね駆動機構24はたがね23,120を高速で往復運動させることができるものでれば特に限定されない。この往復運動させる手段としては、例えば圧搾空気の代わりに電磁石を用いてもよい。
【0069】
また、図6〜図9に示す実施の形態においては、たがね23の外周打撃部23Cを環状の突状体で構成したが、図14に示すように周方向に並設された複数個の突状体で構成してもよい。すなわち、図14に示すように外周打撃部23Cの先端部を鋸歯状に形成した場合は、外周打撃部23Cの先端と焼結ペレット3との接触面積が小さいので、より集中して力を加えることができるという利点がある。
【0070】
また、図6〜図9に示す実施の形態においては、たがね23の中央打撃部23Bを円錐状の突状体で構成したが、それ以外の突状体、例えば先端が平面、半球状、マイナスドライバー形状、複数の突状体等であってもよい。なお、本実施の形態のように、円錐形状にした場合は、中央打撃部23Bの先端と焼結ペレット3との接触面積が小さいので、より集中して力を加えることができるという点で好ましい。
【0071】
さらに、本発明は空洞部4内に段差5を備えた蒸着用るつぼ1に適用した例を示したが、段差5を備えない蒸着用るつぼにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】蒸着用るつぼと焼結ペレットの外観斜視図である。
【図2】蒸着終了後の焼結ペレットの状態を示す断面図である。
【図3】本発明に係る蒸着材料除去装置の正面図である。
【図4】同蒸着材料除去装置の左側面図である。
【図5】蒸着用るつぼとるつぼ保持部材の外観斜視図である。
【図6】たがね駆動機構のピストンが最上位置にある状態を示す断面図である。
【図7】同たがね駆動機構のピストンが最下位置にある状態を示す断面図である。
【図8】たがねの要部の斜視図である。
【図9】(a)〜(d)はたがねによる焼結ペレットの破壊除去の様子を示す図である。
【図10】本発明の他の実施の形態を示すたがね駆動機構部のピストンが最上位置にある状態を示す断面図である。
【図11】同たがね駆動機構のピストンが最下位置にある状態を示す断面図である。
【図12】同たがね駆動機構の底面図である。
【図13】(a)〜(d)はたがねによる焼結ペレットの破壊除去の様子を示す図である。
【図14】たがねの他の実施の形態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0073】
1…蒸着用るつぼ、3…焼結ペレット、3A…上層部(溶融固化部)、3B…下層部(ペレット部分)、4…空洞部、4A…大径の円筒部、4B…小径の円筒部、5…段差部、20…蒸着材料除去装置、22…るつぼ保持部、23…たがね、23B…中央打撃部、23C…外周打撃部、24…たがね駆動機構、25…たがね駆動機構保持部、44…るつぼ保持部材、120…たがね、121…棒たがね、122…針たがね。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着用るつぼの両端が開放した筒状部の内壁に固着している蒸着材料からなる焼結ペレットの表面を前記筒状部の軸線方向に高速で往復運動するたがねによって打撃することにより前記焼結ペレットを破壊して除去する蒸着材料除去装置であって、
前記たがねに前記焼結ペレットの表面中央部を打撃する中央打撃部と、この中央打撃部の周囲を取り囲み前記焼結ペレットの表面外周部を打撃する外周打撃部とを設け、
前記中央打撃部を外周打撃部より前方に突出させたことを特徴とする蒸着材料除去装置。
【請求項2】
請求項1記載の蒸着材料除去装置において、
前記たがねを高速で往復運動させるたがね駆動機構と、このたがね駆動機構を前記たがねの往復運動方向に移動自在に保持するたがね駆動機構保持部と、前記蒸着用るつぼをその筒状部の軸線を前記たがねの軸線と略一致させて保持するるつぼ保持部とを備えていることを特徴とする蒸着材料除去装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の蒸着材料除去装置において、
前記たがねの中央打撃部と外周打撃部を一体に形成し、前記中央打撃部を前記たがねの軸線方向に突出した突状体に形成し、前記外周打撃部を中央打撃部を取り囲む環状の突状体に形成したことを特徴とする蒸着材料除去装置。
【請求項4】
請求項1または2記載の蒸着材料除去装置において、
前記たがねの中央打撃部と外周打撃部を一体に形成し、前記中央打撃部を前記たがねの軸線方向に突出した突状体に形成し、前記外周打撃部を周方向に並設された複数個の突状体で構成したことを特徴とする蒸着材料除去装置。
【請求項5】
請求項1または2記載の蒸着材料除去装置において、
前記たがねの中央打撃部を1本の棒たがねで構成し、外周打撃部を前記棒たがねの周囲に個々独立に進退自在に配置された複数本の針たがねで構成したことを特徴とする蒸着材料除去装置。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の蒸着材料除去装置において、
前記たがねを進退自在に収納する外筒体を有していることを特徴とする蒸着材料除去装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか1つに記載の蒸着材料除去装置を用いて蒸着用るつぼの内壁に固着している蒸着材料からなる焼結ペレットを除去する蒸着材料除去方法であって、
前記焼結ペレットが固着している蒸着用るつぼをその筒状部の軸線を前記たがねの軸線と略一致させて保持する工程と、
前記たがねを高速で往復運動させながら前記蒸着用るつぼ内に挿入し焼結ペレットの表面の中央と周囲を打撃することにより焼結ペレットを破壊して蒸着用るつぼから除去する工程と、
を備え、
前記焼結ペレットの表面の中央と周囲の打撃は、中央の打撃を優先することを特徴とする蒸着材料除去方法。
【請求項8】
請求項6記載の蒸着材料除去装置を用いて蒸着用るつぼの内壁に固着している蒸着材料からなる焼結ペレットを除去する蒸着材料除去方法であって、
蒸着用るつぼの筒状部の内壁には段差部が形成されており、
前記焼結ペレットが固着している蒸着用るつぼをその筒状部の軸線を前記たがねの軸線と略一致させて保持する工程と、
前記たがねを進退自在に収納する外筒体の先端部を前記蒸着用るつぼの径が大きい円筒部内に挿入し、前記たがねが径の大きい円筒部の内壁や段差部に向かって打撃しないように焼結ペレットの表面の中央と周囲を打撃することにより焼結ペレットを破壊して蒸着用るつぼから除去する工程と、
を備え、
前記焼結ペレットの表面の中央と周囲の打撃は、中央の打撃を優先することを特徴とする蒸着材料除去方法。
【請求項9】
請求項8記載の蒸着材料除去方法において、
前記たがねを収納する外筒体の先端部の内径は、前記蒸着用るつぼの径が小さい方の円筒部の内径より僅かに小さく設定され、外径は前記蒸着用るつぼの径が大きい方の円筒部の内径より僅かに小さく設定されていることを特徴とする蒸着材料除去方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−100299(P2008−100299A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283032(P2006−283032)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】