説明

蒸着源、蒸着装置

【課題】蒸着材料の交換が容易で寿命が長い蒸着源を提供する。
【解決手段】本発明の蒸着源3では、棒状電極40と蒸着材料35が接触する面に、それぞれ雄ねじ41と雌ねじ42が形成され、棒状電極40を取り付けた状態では、棒状電極40と蒸着材料35が螺合されている。棒状電極40と蒸着材料35は螺合することで互いに強く密着しているので、アーク放電を繰り返すことで蒸着材料35が変形したときには、蒸着材料35がキャップ36から離間することはあっても、棒状電極40に密着した状態が維持されるので、アーク放電の停止が起こらない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸着装置に関し、特に、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)や半導体の高誘電体薄膜、絶縁膜、銅薄膜、磁性薄膜、高融点金属薄膜に適した成膜装置。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)や半導体の高誘電体薄膜、絶縁膜、銅薄膜、磁性薄膜、高融点金属薄膜等の成膜形成する際には、蒸着装置が用いられている。
【0003】
図6の符号101は従来の蒸着装置の一例であり、この蒸着装置101は真空槽102を有している。この真空槽102内部には、蒸着源103が配置されている。
【0004】
蒸着源103は筒状のアノード電極部131と、棒状の放電部130とを有している。アノード電極部131と放電部130は、放電部130がアノード電極部131に挿通された状態で、取付部132によって真空槽102内の底壁にそれぞれ固定されている。
【0005】
放電部130は蒸着材料部135と、トリガ電極137と、棒状電極140とを有している。取付部132の取り付け台133上には絶縁部材134が配置され、トリガ電極137はこの絶縁部材134上に配置され、蒸着材料部135は絶縁ワッシャ139を介してトリガ電極137上に配置されている。
【0006】
蒸着材料部135とトリガ電極137と絶縁部材134と絶縁ワッシャ139はそれぞれリング状に形成されており、棒状電極140はトリガ電極137と蒸着材料部135と絶縁部材134と絶縁ワッシャ139にそれぞれ挿通された状態でその下端が取付部132に固定され、上端は蒸着材料部135と同じ材料で構成されたキャップ136によって覆われている。
【0007】
蒸着材料部135と棒状電極140は電気的に接続され、他方トリガ電極137は棒状電極140と蒸着材料部135から絶縁されている。棒状電極140とトリガ電極137はトリガ電源125に接続されており、アノード電極部131と真空槽102を接地電位に接続した状態で、棒状電極140に負の電圧を印加し、トリガ電極137に正の電圧を印加すると、トリガ電極137と蒸着材料部135との間にトリガ放電が起こり、該トリガ放電によってアノード電極部131と蒸着材料部135との間にアーク放電が誘起され、大きなアーク電流が流れることにより、蒸着材料部135から蒸着材料の粒子が放出される。
【0008】
蒸着材料の粒子のうち、電荷粒子比の小さい巨大荷電粒子や中性粒子は直進し、アノード電極部131の壁面に衝突するが、電荷質量比の大きな荷電粒子はアノード電極部131の開口から放出され、真空槽102内に配置された基板111に到達し、薄膜を成長させる。
【0009】
ところで、上述した蒸着装置101で成膜を続けると、トリガ電極137と蒸着材料部135との間の絶縁ワッシャ139が徐々に汚れ、その絶縁抵抗が低下する。トリガ電極137と蒸着材料部135との間の絶縁抵抗が低下すると、充分なトリガ(電子やイオン)が発生しなくなり、アーク放電が誘発されなくなるため、結果として成膜が停止してしまう。
【0010】
例えば、蒸着材料部135の蒸着材料として鉄(Fe)を用いた場合は、20000発を超えるとアーク放電が誘発されなくなり、ハフニウム(Hf)やモリブデン(Mo)を蒸着材料として用いた場合、10000発を超えるとアーク放電が誘発されなくなる。
【0011】
従って、膜厚の大きい膜を形成する場合や、複数の基板111を連続して成膜する場合には、放電部130を交換する必要があり、放電部130の交換の毎に真空槽102内が大気に晒されるため、作業効率が悪い。
【0012】
例えば、一つの真空槽102内に複数の蒸着源103を設け、一つの蒸着源103の成膜効率が低下したら、基板ホルダ119を他の蒸着源103上に移動させ、成膜を行うことも可能である。しかしながら、そのような蒸着装置は蒸着源103を複数設ける分、大型であり、また基板ホルダ119を移動可能にする分、製造コストが高くなる。
【0013】
上述した問題を解決するための蒸着源の典型例が下記特許文献1には開示されている。この蒸着源は、アノード電極部と、アノード電極部の近傍に配置された放電部とを有する。放電部は棒状電極と、複数の略筒状蒸着材料部と、複数の略筒状トリガ電極と、略筒状トリガ電極及び略筒状蒸着材料部を交互に配列して、これらを挿通する棒状電極と、該棒状電極の一端に配設されるキャップとを有する。略筒状蒸着材料部と略筒状トリガ電極との間には、夫々に絶縁部材が配設されている。
【0014】
これらの絶縁部材によって略筒状トリガ電極の夫々は棒状電極と筒状蒸着材料部とから電気的に絶縁されており、略筒状蒸着材料部は、キャップに接触したものを除いては、その内周面が棒状電極の外周面に接触していることによって棒状電極に電気的に接触されている。筒状蒸着材料部においてキャップに接触したものは、キャップを介して棒状電極に電気的に接続されている。
【0015】
しかしながら、上述されたような蒸着源では、アーク放電を繰り返していると筒状蒸着材料部に変形がおこり、これによって棒状電極の外周面と略筒状蒸着材料部の内周面とが離間、或いはキャップと略筒状蒸着材料部の上面が離間してしまう。図7は筒状蒸着材料部135が変形して、棒状電極140の外周面からも、キャップ136の外周面からも離間した状態を示しており、これによって略筒状蒸着材料部135がカソード電位から絶縁されてしまいアーク放電が停止する恐れがある。
【0016】
蒸着材料部135の変形は、アーク放電によって蒸着材料部135の温度が上昇するためにであり、特に低融点材料で蒸着材料部135を構成した場合にはアーク放電の停止が起こりやすかった。例えば、蒸着材料部135が錫(融点:231℃)の場合であると、コンデンサの容量が2200μF、充電電圧100V、アーク放電の周期が1Hzの条件では、アーク放電の回数が200〜300発で放電が停止した。
【特許文献1】特開2004−197176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、交換が容易であって、アーク放電回数を増加させることができる蒸着源と、その蒸着源を用いた蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、互いに絶縁されたアノード電極と、トリガ電極と、棒状電極と、蒸着材料部とを有し、前記蒸着材料部はリング形状であって、前記棒状電極に装着されて前記棒状電極に接触した蒸着源であって、前記棒状電極と前記蒸着材料部とが接触する面には、それぞれ雄ねじと雌ねじが形成され、前記蒸着材料部と前記棒状電極とは螺合された蒸着源である。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の蒸着源であって、前記雄ねじと雌ねじの螺合深さHは、0.379mm以上0.677mm以下の範囲にされた蒸着源である。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着源であって、前記棒状電極は、インバー42、インコネル、ステンレス、タングステン、又はタンタルのいずれかの材料が棒状にされて構成された蒸着源である。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の蒸着源であって、前記雌ねじは前記蒸着材料部が有する蒸着材料に形成された蒸着源である。
請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の蒸着源であって、前記蒸着材料部は装着部材を有し、前記雌ねじは前記装着部材に形成された蒸着源である。
請求項6記載の発明は、真空槽と、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の蒸着源を有し、前記真空槽内に前記蒸着材料部から蒸着材料の蒸気を放出できるように構成された蒸着装置である。
【0019】
本発明は上記のように構成されており、アノード電極と棒状電極の間に電圧を印加した状態で、トリガ電極と蒸着材料の間に電圧を印加すると、蒸着材料とトリガ電極の間にトリガ放電が発生する。
蒸着材料部は蒸着材料を有しており、蒸着材料は蒸着材料部のリングの外周側面に露出している。
【0020】
蒸着材料はトリガ電極の近傍位置で露出しており、従ってトリガ放電が発生すると蒸着材料部の外周側面から蒸着材料の蒸気が発生する。トリガ放電によって蒸気が発生すると、アノード電極と蒸着材料部の間にアーク放電が発生する。蒸着材料部は外周側面がアノード電極と対向しており、外周側面には蒸着材料が露出しているから、アーク放電によって蒸着材料の蒸気が発生する。
【0021】
蒸着材料部は、蒸着材料で構成されている場合と、蒸着材料の他に装着部材等の他の部材を有する場合があるが、いずれの場合も蒸着材料部のリング外周側面には蒸着材料が露出しており、トリガ放電やアーク放電が発生すると、その外周側面から蒸着材料の蒸気が発生する。
【発明の効果】
【0022】
互いのねじ山とねじ溝が噛み合っているので、少しの変形では離間せず、電気的接続が維持される。蒸着材料部と棒状電極はねじ止めされているだけなので、取り外しが容易であり、蒸着材料部の交換を簡単に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1の符号3は本発明の蒸着源であり、符号1はその蒸着源3が真空槽2内に配置された本発明の蒸着装置である。この蒸着源3は、アノード電極部31と放電部30とを有している。
【0024】
アノード電極部31は、円筒形、多角筒形等の筒状の金属板であり、一方の開口が真空槽内部に向けられ、他方の開口が真空槽2の底壁に密着して固定されている。アノード電極部31と真空槽2とは電気的に接続されており、真空槽2が接地電位に接続されるとアノード電極部31も接地電位に置かれるようになっている。
【0025】
放電部30は棒状であって、アノード電極部31に挿通された状態で、取付部32によって真空槽2の底壁に固定されている。取付部32は板状であり、表面が真空槽2の内部空間と面するように真空槽2の底壁に取り付けられ、取付部32の表面上には柱状の台座33が立設されている。
【0026】
放電部30は蒸着材料部35と、トリガ電極37と、棒状電極40とを有している。台座33の上端には、それぞれリング形状をした絶縁部材34とトリガ電極37と絶縁ワッシャ39と蒸着材料部35とキャップ36とが台座33側からこの順序で配置されている。
【0027】
台座33の絶縁部材34側の面には有底の凹部が形成され、絶縁部材34と、トリガ電極37と、絶縁ワッシャ39と、蒸着材料部35はそれらの中心軸線が一致して空洞ができ、その空洞が台座33の凹部の内部空間と連結するようにされ、棒状の部材をその空洞に挿入すると、その部材の先端が凹部内に収容されるよう配置されている。
【0028】
蒸着材料部35のリングの内側、即ち蒸着材料部35の内周面には、雌ねじ42が設けられており、棒状電極40の外周面には雄ねじ41が設けられている。それらのねじが螺合するように、棒状電極40を回転させながら、キャップ36から台座33の凹部に至る空洞に棒状電極40をねじ込むと、棒状電極40の先端が台座33の凹部に収容される。
【0029】
ここで、台座33の凹部内周面にも雌ねじが設けられており、棒状電極40の下端部分の雄ねじ41と螺合するように構成されている。台座33は取付部32に固定されており、棒状電極40は、台座33にねじ止め固定されることによって、取付部32を介して真空槽2に固定される。
【0030】
絶縁部材34とトリガ電極37と絶縁ワッシャ39と蒸着材料部35の外周は略同一直径であり、絶縁部材34とトリガ電極37と絶縁ワッシャ39とは、この順序で相互に固定されている。絶縁部材34は台座33に固定されており、従って、台座33から絶縁ワッシャ39に至る部材は取付部32に固定されている。
【0031】
棒状電極40の上端はフランジ状に成形されており、蒸着材料部35が棒状電極40にねじ止め固定されるときに、キャップ36はフランジ部分によって押圧され、蒸着材料部35とキャップ36も取付部32に固定される。
【0032】
蒸着材料部35と棒状電極40は、雄ねじ41と雌ねじ42が螺合することによって電気的にも接続されている。トリガ電極37は絶縁部材34と絶縁ワッシャ39によって台座33と蒸着材料部35からそれぞれ絶縁されている。トリガ電極37と棒状電極40の間には絶縁部材は配置されていないが、所定距離で離間しており、トリガ電極37と棒状電極40の間の空間の絶縁破壊電圧よりも、絶縁ワッシャ39の表面に沿面放電が生じる電圧が小さいため、トリガ電極37と棒状電極40の間に電圧が印加されると、トリガ電極37と蒸着材料部35の間にトリガ放電が発生するように構成されている。
【0033】
真空槽2の外部にはアーク電源27とトリガ電源25が配置されている。棒状電極40とアノード電極部31はアーク電源27に接続されており、トリガ電極37と棒状電極40はトリガ電源25に接続されている。
【0034】
真空槽2に接続された真空排気系9を動作させ、真空槽2内を真空排気した後、真空雰囲気を維持しながら成膜対象の基板を真空槽内に搬入し、真空槽2内に配置された基板ホルダ19に保持させる。
【0035】
図1の符号11は、基板ホルダ19に保持された状態の基板を示している。
この基板11は、蒸着源3の真上に位置しており、基板11の成膜面が蒸着源3に向けられている。
【0036】
アーク電源27とトリガ電源25を起動し、アノード電極部31と真空槽2を接地電位に接続した状態で、棒状電極40に負の電圧を印加し、トリガ電極37に正の電圧を印加すると、トリガ電極37と蒸着材料部35との間にトリガ放電が起こり、該トリガ放電によってアノード電極部31と蒸着材料部35との間にアーク放電が誘起され、大きなアーク電流が流れる。
ここでは、蒸着材料部35は成膜目的物質である蒸着材料で構成されており、アーク電流が流れると蒸着材料部35から蒸着材料の粒子が放出される。
【0037】
キャップ36の先端は棒状電極40のフランジ部分よりも上方に突き出され、フランジ部分はキャップ36の内周側面で取り囲まれている。従って、キャップ36とアノード電極部31の間でアーク放電が起こることはあっても、フランジ部分とアノード電極部31の間ではアーク放電が起こらない。
【0038】
キャップ36は蒸着材料部35の蒸着材料と同じ材料で構成されており、キャップ36とアノード電極部31の間でアーク放電が起こると、蒸着材料の粒子が放出される。結局、アノード電極部31の内部には蒸着材料の粒子だけが放出される。
【0039】
なお、アーク電源27には不図示のコンデンサユニットが装備されており、アーク電流は、コンデンサユニットの放電によって供給されるから、アーク電流は、コンデンサユニットの放電時間だけ維持されるパルス状の波形になる。
【0040】
大きなアーク電流が棒状電極40を流れると、そのアーク電流がアノード電極部31の内部に磁界を形成する。電子はその磁界によるローレンツ力によってアノード電極部31の開口から真空槽2内に放出される。
【0041】
蒸着材料部35の側面からアノード電極部31の内壁面に向けて放出された蒸着材料の粒子のうち、電荷質量比(電荷/質量)の大きい微小荷電粒子は、アーク電流が形成する磁界によって飛行方向が曲げられるが、電荷粒子比の小さい巨大荷電粒子や中性粒子はアーク電流により飛行方向が曲げられる率が少なく、アノード電極部31の内壁に付着する。
【0042】
電荷質量比の大きな荷電粒子は、電子に引き付けられ、アノード電極部31の開口から原子状イオンやクラスタとなって放出される。その蒸気が基板ホルダ19に保持された基板11に到着すると、基板11表面に薄膜が成長する。このように、基板11には反応性の高い微小荷電粒子のみ達成するので、基板11表面には膜質の良好な薄膜が形成される。
【0043】
アーク放電の回数が増える程、薄膜の成長量が大きくなるが、アーク放電が繰り返し行われると蒸着材料部35は昇温して熱膨張又は軟化し、その形状が変形することがある。
【0044】
図2は蒸着材料部35が変形した後の状態を示している。蒸着材料部35が低融点材料(例えば錫、融点231℃)で構成されている場合は特に変形の度合いが大きいが、上述したように、本発明の棒状電極40と蒸着材料部35には雄ねじ41と雌ねじ42がそれぞれ形成されており、互いに強く密着されているため、蒸着材料部35は変形して、キャップ36から離間しても、内周壁面の少なくとも一部が棒状電極40に密着した状態が維持される。即ち、蒸着材料部35が棒状電極40に電気的に接続された状態が維持されるので、アーク放電が停止しない。
【0045】
図3は、蒸着材料部35と棒状電極40の螺合部分の拡大図である。
雄ねじ41と雌ねじ42が螺合することにより、蒸着材料部35は棒状電極40に密着しており、繰り返しアーク放電が誘起され、蒸着材料部35が変形しても、棒状電極40と蒸着材料部35との間は離間せず、蒸着材料部35と棒状電極40の間の電気的接続が維持されるようになっている。
【0046】
雄ねじ41と雌ねじ42の螺合の程度は深い程電気的接続を維持しやすいが、その螺合の程度が深すぎると少しの変形で交換ができなくなるという不都合が生じ得る。
【0047】
図4は雄ねじ41と雌ねじ42が螺合した部分を更に拡大した拡大断面図であり、雄ねじ41と雌ねじ42の螺合深さHを変え、アーク放電を発生できた回数、及び、アーク放電を生じなくなった棒状電極40を取り外せたか否かを調査した。その結果を下記表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
上記表1は、雄ねじと雌ねじの一方のねじ山が他方のねじ溝に挿入されるときに、雄ねじ側面と雌ねじ側面とが接触する直前の状態を螺合深さH=ゼロとし、接触した部分のねじ山が形成されている円筒C側面に対して垂直な方向の長さである。即ち、螺合したときに互いのねじ山の接触しないねじ山先端部分Aは螺合深さに算入しないものとした。
【0050】
上記表1から、螺合深さHは、
0.379mm≦H≦0.677mm
の範囲にあると、電気的接続の維持と取り外し性が両立することが分かる。
【0051】
なお、前記棒状電極40は、インバー42、インコネル、ステンレス、タングステン、又はタンタルのいずれかによって構成すると、熱膨張を小さくすることができるので、蒸着材料部35の交換時に、棒状電極40を容易に取り外すことができる。
【0052】
ここで、インバー42とはニッケル鉄合金の一種であって、NiとCoの合計含有量が41重量%以上42重量%以下であり、微量のMn(0.1重量%以上1.25重量%以下)を含み、残りがFeである。
【0053】
以上は、棒状電極40の外周面全部に雄ねじ41を形成し、その雄ねじ41を蒸着材料部35と台座33の雌ねじに螺合させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、雄ねじ41は、棒状電極40の少なくとも蒸着材料部35の雌ねじ42と螺合する部分にだけ設ければよい。
【0054】
トリガ電源25やアーク電源27の設定も特に限定されないが、その一例について具体的に説明すると、アーク電源27に接続されるコンデンサユニットは1つの容量が2200μF(耐圧:160V)のコンデンサが4つ並列に接続されている。トリガ電源25はパルストランスからなり、入力200Vのμsのパルス電圧を約17倍に変圧して3.4kV(数μA)出力する。アーク電源27は100V、数Aの容量の直流電源であり、前記8800μFのコンデンサユニットに充電している。充電時間は約1秒必要とするので、このシステムでは8800μFで放電を繰り返す場合の周期は1Hzで行われる。
【0055】
この条件で、錫からなる蒸着材料部35を用いて蒸着を行ったところ、本発明の蒸着装置1では、5000発以上安定的にアーク放電が継続されることが確認された。
【0056】
以上は、蒸着材料部35が蒸着材料で形成された場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。図5の符号55は本発明に用いる蒸着材料部の他の例を示しており、この蒸着材料部55は蒸着材料56の他に、蒸着材料56とは異なる材料で構成された装着部材57とを有している。
【0057】
蒸着材料56はリング状であって、装着部材57は外周が蒸着材料56のリングの内周と略等しい大きさのリング状であり、装着部材57は外周側面が蒸着材料56の内周側面と密着するように、蒸着材料56の内部に配置されている。従って、蒸着材料部55全体の形状もリング状になっている。
【0058】
雌ねじ52は装着部材57の内周側面に形成されている。従って雌ねじ52は蒸着材料部55のリングの内周面に位置し、図3に示した蒸着材料部35と同様に、雌ねじ52によってこの蒸着材料部55も容易に交換される。
【0059】
装着部材57は導電材料で構成されており、蒸着材料56に密着することで、蒸着材料56と電気的に接続されているから、雌ねじ52を棒状電極40の雄ねじ41と螺合させると、装着部材57を介して蒸着材料56が棒状電極40に電気的に接続される。
【0060】
この蒸着材料部55においても、雌ねじ52と雄ねじ41が螺合することで蒸着材料部55と棒状電極40が互いに強く密着されているため、蒸着材料56が変形しても蒸着材料部55と棒状電極40との電気的接続が維持される。
【0061】
装着部材57を熱膨張係数の高い材料、又は融点が700℃以下の低融点材料で構成すれば、蒸着材料56が変形するときに装着部材57も一緒に変形し、装着部材57と蒸着材料56が密着した状態が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の蒸着装置を説明する断面図
【図2】蒸着材料が変形した蒸着源の拡大断面図
【図3】雄ねじと雌ねじの螺合部分の拡大断面図
【図4】螺合部分を更に拡大した拡大断面図
【図5】蒸着材料の他の例を説明する断面図
【図6】従来技術の蒸着装置を説明する断面図
【図7】蒸着材料が変形した従来技術の蒸着源の拡大断面図
【符号の説明】
【0063】
1……蒸着装置 2……真空槽 3……蒸着源 31……アノード電極部 35……蒸着材料 37……トリガ電極 40……棒状電極 41……雄ねじ 42……雌ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに絶縁されたアノード電極と、トリガ電極と、棒状電極と、蒸着材料部とを有し、
前記蒸着材料部はリング形状であって、前記棒状電極に装着されて前記棒状電極に接触した蒸着源であって、
前記棒状電極と前記蒸着材料部とが接触する面には、それぞれ雄ねじと雌ねじが形成され、前記蒸着材料部と前記棒状電極とは螺合された蒸着源。
【請求項2】
前記雄ねじと雌ねじの螺合深さHは、0.379mm以上0.677mm以下の範囲にされた請求項1記載の蒸着源。
【請求項3】
前記棒状電極は、インバー42、インコネル、ステンレス、タングステン、又はタンタルのいずれかの材料が棒状にされて構成された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着源。
【請求項4】
前記雌ねじは前記蒸着材料部が有する蒸着材料に形成された請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の蒸着源。
【請求項5】
前記蒸着材料部は装着部材を有し、
前記雌ねじは前記装着部材に形成された請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の蒸着源。
【請求項6】
真空槽と、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の蒸着源を有し、前記真空槽内に前記蒸着材料部から蒸着材料の蒸気を放出できるように構成された蒸着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−291424(P2007−291424A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118119(P2006−118119)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】