説明

蒸着源、蒸着装置

【課題】必要量の有機材料を正確に加熱蒸発させる。
【解決手段】導入管31の蒸発室21内部に挿入された部分(導入部44)の外周は、銅を主成分とする低抵抗材料で構成されている。回転軸35の下端は導入部44の内側に位置する。蒸発室21内部に電磁場が形成されると、高温体22は誘導加熱されるが、導入管31と、回転軸35は誘導加熱されない。従って、導入管31の貫通孔33内を移動する有機材料39は溶融や蒸発せず、有機材料39が詰らないから、高温体22に所望量の有機材料39を正確に配置することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は近年最も注目される表示素子の一つであり、高輝度で応答速度が速いという優れた特性を有している。有機EL素子は、ガラス基板上に赤、緑、青の三色の異なる色で発色する発光領域が配置されている。発光領域は、アノード電極膜、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層及びカソード電極膜がこの順序で積層されており、発光層中に添加された発色剤で、赤、緑、又は青に発色するようになっている。
ホール輸送層、発光層、電子輸送層等は一般に有機材料で構成されており、このような有機材料の膜の成膜には蒸着装置が広く用いられる。
【0003】
図5の符号203は、従来技術の蒸着装置であり、真空槽211の内部に蒸着容器212が配置されている。蒸着容器212は、容器本体221を有しており、該容器本体221の上部は、一乃至複数個の放出口224が形成された蓋部222で塞がれている。
【0004】
蒸着容器212の内部には、粉体の有機蒸着材料200が配置されている。
蒸着容器212の側面と底面にはヒータ223が配置されており、真空槽211内を真空排気し、ヒータ223が発熱すると蒸着容器212が昇温し、蒸着容器212内の有機蒸着材料200が加熱される。
【0005】
有機蒸着材料200が蒸発温度以上の温度に加熱されると、蒸着容器212内に、有機材料蒸気が充満し、放出口224から真空槽211内に放出される。
【0006】
放出口224の上方にはホルダ210が配置されており、ホルダ210に基板205を保持させておけば、放出口224から放出された有機材料蒸気が基板205表面に到達し、ホール注入層やホール輸送層や発光層等の有機薄膜が形成される。
【0007】
有機材料蒸気を放出させながら、基板205を一枚ずつ放出口224上を通過させれば、複数枚の基板205に逐次有機薄膜を形成することができる。
【0008】
しかし、複数枚の基板205に成膜するには、蒸着容器212内に多量の有機材料を配置する必要がある。実際の生産現場では、有機材料を250℃〜450℃に加熱しながら120時間以上連続して成膜処理を行うため、蒸着容器212内の有機蒸着材料200は長時間高温に曝されることになり、蒸着容器212中の水分と反応して変質したり、加熱による分解が進行する。
その結果、初期状態に比べて有機蒸着材料200が劣化し、有機薄膜の膜質が悪くなる。
【0009】
突条が螺旋状に形成された回転軸(スクリュー)を筒内で回転させることで、突条間の溝を通った有機蒸着材料が、少量ずつ加熱用の容器に供給される装置が知られており(例えば、特許文献1、3)、この装置によれば、有機蒸着材料は一度に多量に加熱されないから、有機蒸着材料が劣化し難い。
【0010】
しかし、従来の装置では、有機蒸着材料を供給する筒が、加熱手段と直接接しているため、加熱手段が加熱されると筒や回転軸が加熱され、凸条間の溝内の有機蒸着材料も加熱される。
【0011】
有機蒸着材料は、加熱により溝内で固化したり、粘度が高くなるため、溝の途中でも有機蒸着材料の詰まりが生じ、有機蒸着材料が加熱手段に供給されなくなる。従って、従来の装置では、必要量の有機蒸着材料を正確に加熱手段に供給することが困難であった。
【特許文献1】特開平10−140334号公報
【特許文献2】特開2006−307239号公報
【特許文献3】特開2007−70687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、その目的は、有機蒸着材料を蒸気発生装置に少量ずつ配置し、効率よく成膜を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は蒸着源であって、導入装置と、蒸発室と、高温体とを有し、前記導入装置は、蒸着材料を収容可能な収容部と、前記収容部の底面に形成された開口と、貫通孔と、前記貫通孔の一端が前記収容部底面の開口に接続された導入管とを有し、前記導入管の前記貫通孔他端が位置する部分は、前記蒸発室内に挿入され、前記高温体は前記蒸発室の内部に位置し、前記収容部に収容された前記蒸着材料は、前記貫通孔を通って前記貫通孔の他端から、前記高温体に供給され、前記蒸発室の外部には誘導加熱装置が配置され、前記誘導加熱装置により前記蒸発室の内部に電磁場を形成すると、前記高温体が昇温するように構成され、前記導入管の少なくとも前記蒸発室の内部に挿入された部分の外周は、銅を主成分とする低抵抗材料で構成された蒸着源である。
本発明は蒸着源であって、前記導入装置は、前記貫通孔に挿通された回転軸を有し、前記回転軸の周囲には突条が螺旋状に形成され、前記回転軸が回転すると、前記蒸着材料が前記高温体に供給される蒸着源である。
本発明は蒸着装置であって、真空槽と、放出装置と、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着源とを有し、前記蒸発室の内部空間が、前記放出装置の内部空間に接続され、前記放出装置には、前記真空槽の内部空間と前記放出装置の内部空間とを接続する放出口が形成された蒸着装置である。
【0014】
尚、本発明で主成分とは、主成分とする物質を全体の50重量%以上含有することであり、銅を主成分とする低抵抗材料とは銅を50重量%以上含有する材料のことであって、純銅や銅合金もこれに含まれる。
【発明の効果】
【0015】
導入管の蒸発室に挿入された部分の外周は低抵抗材料で構成されており、電磁波は外周で遮断されるから導入管が誘導加熱されない。有機材料は貫通孔を移動する際に溶融も蒸発もせず、有機材料は詰らずに高温体に供給される。回転軸と有機材料の供給量との関係が変化しないから、必要量の有機材料を正確に蒸気発生装置に供給できる。必要量の有機材料だけが加熱されるから、有機材料の劣化がおこり難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1の符号1は成膜装置(有機EL製造装置)の一例を示している。
成膜装置1は複数の蒸着装置10a〜10cを有しており、ここでは、各蒸着装置10a〜10cは搬送室2に接続され、蒸着装置10a〜10cが接続された搬送室2には、搬入室3aと、搬出室3bと、処理室6と、スパッタ室7と、マスク収容室8とが接続されている。マスク収容室8内部には複数のマスクが収容されており、蒸着装置10a〜10cやスパッタ室7内部に配置されたマスクと定期的に交換される。
【0017】
真空排気系9により、搬送室2内部と、蒸着装置10a〜10cの内部と、処理室6内部と、スパッタ室7内部と、マスク収容室8内部と、搬入室3a内部と、搬出室3b内部に真空雰囲気が形成される。
【0018】
搬送室2の内部には搬送ロボット5が配置されている。表面上に下部電極が形成された基板は搬入室3aに搬入され、該基板は搬送ロボット5によって真空雰囲気中を搬入室3aから搬送室2へ搬入され、処理室6で加熱処理やクリーニング処理等の処理がされ、蒸着装置10a〜10c内部で、電子注入層、電子輸送層、発光層、ホール輸送層、ホール注入層等の有機薄膜が形成され、スパッタ室7内部で上部電極膜が形成され、製造された有機EL素子は搬出室3bから外部に搬出されるようになっている。
搬送室2に接続された蒸着装置10a〜10cのうち、少なくとも1つは本発明の蒸着装置10bである。
【0019】
図2は本発明の蒸着装置10bの模式的な斜視図を示している。蒸着装置10bは、成膜部70と、1又は2以上(ここでは3つ)の蒸着源20a〜20cとを有している。各蒸着源20a〜20cは同じ構成を有しており、同じ部材には同じ符号を付して説明する。
【0020】
図3は蒸着装置10bの断面図を示しており、蒸着源20a〜20cは、導入装置30と、蒸発室21と、高温体22と、誘導加熱装置25とを有している。
導入装置30は収容部32と、開口34と、導入管31と、回転軸35とを有している。
【0021】
収容部32は箱状であって、底面がすり鉢状になっており、開口34はすり鉢状の底面の下端に形成されている。
導入管31には貫通孔33が形成されており、貫通孔33の一端が開口34と連通するように収容部32の底面に取り付けられている。
【0022】
導入管31の構成は特に限定されないが、ここでは、収容部32底壁が下方に伸ばされ、その下方に伸ばされた部分からなる外筒43と、収容部32の開口34と連通するように外筒43に挿通された内筒42とを有しており、貫通孔33は、内筒42の内部空間で構成されている。
【0023】
内筒42は直管であって、貫通孔33は直線状である。導入装置30は貫通孔33の開口34に接続された一端を上に、他端を下に向けて蒸発室21の天井に取り付けられ、導入管31の貫通孔33の下端が位置する部分は、蒸発室21の内部に気密に挿入され、貫通孔33の下端開口が蒸発室21の内部空間に面している。
【0024】
図3の符号44は導入管31のうち、蒸発室21の内部に挿入された部分である導入部を示している。
ここでは、導入部44は内筒42の下端部分で構成され、内筒42は銅を主成分とする低抵抗材料で構成されている。従って、導入部44の外周は低抵抗材料で構成されている。
【0025】
回転軸35(オーガ)は周囲に突条が螺旋状に形成された直線状の棒であって、ステンレス等の金属材料、又はセラミック等の絶縁性材料で構成されている。
回転軸35は、突条36が形成された部分が貫通孔33内に位置するように、貫通孔33に挿通されており、回転軸35の下端は導入管31の下端と面一か、それよりも上方に位置している。
従って、回転軸35の蒸発室21の内部に位置する部分は、導入部44外周の低抵抗材料で囲まれている。
【0026】
誘導加熱装置25は、例えばコイルであって、蒸発室21の周囲に巻きまわれている。蒸発室21は銅等の低透磁率材料で構成されている。誘導加熱装置25は交流電源26に接続されており、誘導加熱装置25に交流電圧を印加すると、蒸発室21の内部に電磁場が形成される。
【0027】
高温体22はステンレス等の高抵抗材料で構成され、蒸発室21の内部に配置されており、蒸発室21内部に電磁場が形成されると、高温体22は誘導加熱される。
【0028】
これに対し、導入管31と回転軸35は、蒸発室21内部に位置する部分が、導入部44外周の低抵抗材料で囲まれているから、電磁波が遮蔽され、誘導加熱されない。
【0029】
しかも、導入管31の下端と回転軸35の下端は高温体22よりも上方に位置し、導入管31と回転軸35は高温体22と接触していないから、高温体22からの熱伝導により加熱されない。
【0030】
図3は収容部32の蓋84を開け、有機材料39を収容部32に配置してから、蓋84を閉じて、収容部32の内部空間を密閉した状態を示している。
【0031】
本発明に用いられる有機材料39は粉体である。突条36先端から内筒42の内壁面までの距離は、有機材料39の粒径(例えば粒径100μm以上200μm以下)よりも小さく、有機材料39は突条36先端と内筒42内壁面との隙間に落ちないようになっている。
【0032】
突条36間の溝の傾斜は、回転軸35が静止した時に溝に有機材料39が入り込まない程緩やかになっており、回転軸35が静止した状態では、有機材料39は収容部32に留まる。
【0033】
回転手段41は回転軸35に接続されており、回転手段41の動力を回転軸35に伝達させると、回転軸35は上昇も下降もせず、貫通孔33に挿通された状態を維持しながら、貫通孔33の中心軸線を中心として回転する。
【0034】
このときの回転方向は、回転軸35を螺合する雌ネジに挿入したと仮定した時に、回転によって先端が雌ネジから突き出る方向になっており、回転軸35が回転すると、有機材料39に突条36の斜面に沿って下向きに移動する力が加わり、収容部32内の有機材料39は突条36の斜面を滑って突条36間の溝に入り込み、突条36の斜面に沿って貫通孔33内を下向きに移動する。
【0035】
上述したように、高温体22が誘導加熱されても、回転軸35と導入管31は誘導加熱されず、熱伝導により加熱されることもない。しかも、回転軸35と導入管31は、輻射熱で有機材料39の溶融温度以上に加熱されないように、高温体22からの距離が遠いか、不図示の冷却手段で溶融温度未満に冷却されるようになっており、有機材料39が蒸発したり、詰ることなく貫通孔33内を下方に移動し、貫通孔33の下端開口から蒸発室21内部に落下する。
【0036】
高温体22は貫通孔33の下端開口の真下に位置しており、貫通孔33の下端開口から落下した有機材料39は高温体22に供給される。
【0037】
上述したように、貫通孔33内で有機材料39の蒸発や詰りが起こらないから、回転軸35の回転量と、高温体22に供給される有機材料39の供給量との関係は変化せず、回転軸35の回転量と供給量との関係から、必要量の有機材料39を供給するのに要する回転軸35の回転量が分かる。
【0038】
蒸発室21と、収容部32には真空排気系9が接続されている。蒸発室21内部と収容部32内部に真空雰囲気を形成した状態で、有機材料39の蒸発温度以上に加熱した高温体22に、有機材料39を供給すると、蒸発室21の内部に有機材料39の蒸気が発生する。
【0039】
成膜部70は、真空槽11と、放出装置50とを有している。図2では真空槽11は省略されている。蒸発室21には配管59の一端が接続され、配管59の他端は放出装置50に接続されており、蒸発室21内部で発生した蒸気は配管59へ送られる。
【0040】
配管59の一端と他端の間にはバルブ57が設けられ、バルブ57を閉じると蒸発室21が放出装置50から遮断され、蒸気は放出装置50へ移動しないが、バルブ57を開けると蒸発室21が放出装置50に接続され、蒸気は蒸発室21から放出装置50へ移動する。
【0041】
一つの放出装置50に複数の蒸着源20a〜20cが接続されている場合、蒸着源20aを選択し、選択した蒸着源20aの蒸発室21だけを放出装置50に接続し、他の蒸着源20b、20cの蒸発室21を放出装置50から遮断すれば、選択した蒸着源20aで発生した蒸気だけを放出装置50へ送ることができる。
【0042】
放出装置50は、箱状の放出容器(筐体)51と、放出容器51の内部に配置された供給管(ヘッダ)52とを有しており、放出装置50に供給された蒸気は供給管52に供給され、供給管52に設けられた噴出口53から放出容器51内部に放出される。
【0043】
放出容器51には放出口55が形成され、放出装置50は、各放出口55が真空槽11の内部空間に露出するように、一部又は全部が真空槽11の内部に配置されており、蒸気は放出口55を通って真空槽11内部に放出される。
【0044】
次に、この蒸着装置10bを用いた成膜工程について説明する。
真空槽11には真空排気系9が接続されており、真空槽11を真空排気すると、放出装置50内部と、配管59内部も真空排気されるようになっている。
【0045】
収容部32に有機材料39を配置して密閉した状態で、収容部32内と、真空槽11内と、蒸発室21内とを真空排気し、収容部32内部と、蒸発室21内部と、配管59内部と、放出装置50内部と、真空槽11内部に所定圧力(例えば10-5Pa)の真空雰囲気を形成しておく。
【0046】
真空槽11内部には、放出装置50の各放出口55と対面する位置に基板ホルダ15が配置されており、真空槽11内部の真空雰囲気を維持したまま、搬送室2から基板81を真空槽11内部に搬入し、基板81の薄膜を成膜すべき成膜面を放出口55に向けた状態で基板ホルダ15に配置する。
【0047】
基板81の所定領域だけに薄膜を形成する場合は、基板ホルダ15と放出装置50の間にマスク16が配置され、アライメント手段60によって、基板81とマスク16のアライメントマーク(不図示)を観察しながら位置合わせし、マスク16の開口17を基板81の所定領域と対面させておく。
【0048】
予め成膜すべき有機薄膜の膜厚は決められており、該膜厚の有機薄膜を成膜するために必要な有機材料39の供給量を予め求めておく。上述した回転軸35と供給量の関係から、求めた供給量を供給するのに要する回転軸35の回転量を求めておく。
【0049】
蒸発室21内部の真空雰囲気を維持したまま、高温体22を有機材料39の蒸発温度以上(例えば300℃〜400℃)に加熱しておき、蒸発室21に接続された真空排気系のバルブを閉じた状態で、予め求めた回転量だけ回転軸35を回転させ、決められた膜厚の有機薄膜の成膜に必要な量の有機材料39を高温体22に配置し、有機材料39の蒸気を発生させる。
【0050】
放出装置50と配管59には加熱手段68が取り付けられており、加熱手段68によって放出装置50と配管59とを有機材料39の蒸発温度以上に加熱しておく。
【0051】
蒸発室21内部に蒸気を発生させる前、又は蒸発室21内部に蒸気を発生させた後に、蒸発室21内の真空排気を停止した状態で、真空槽11内の真空排気を続けながら蒸発室21を放出装置50に接続すると、圧力差により蒸気が放出装置50へ供給される。
【0052】
尚、一つの放出装置50に複数の蒸着源20a〜20cが接続されている場合は、蒸気を発生させた蒸発室21以外は、放出装置50から遮断しておく。
【0053】
上述したように、予め放出口55上には基板81が配置されており、基板81とマスク16との位置合わせもされているから、放出装置50へ供給された蒸気は、放出口55から放出されると、マスク16の開口17を通って、基板81表面の所定領域に到達し、有機材料39の薄膜(有機薄膜)が成長する。
【0054】
有機材料39の供給開始から所定時間が経過するか、蒸発室21の内部圧力が所定圧力以下になり、有機材料39が放出口55から放出されなくなったら、成膜が終了したと判断する。
【0055】
成膜が終了した時には、予め求めた量の有機材料39が全て蒸発し、その蒸気が放出され終わっているから、蒸気が放出口55から放出され始めてから成膜が終了するときまで、基板81を放出装置50上に配置しておけば、基板81表面には決められた膜厚の有機薄膜が形成される。
【0056】
成膜が終了したら、基板81を基板ホルダ15から取り除き、新たな基板81を基板ホルダ15に配置し、成膜にマスク16を用いる場合はマスク16と基板81の位置合わせをする(基板の交換)。
【0057】
上述した工程で必要落下量の有機材料39の蒸気を発生させ、少なくともその蒸気が放出口55から真空槽11内に放出され始めるまでに、基板81の交換を終了させておき、成膜が終了するまで、基板81とマスク16とを、相対的な位置関係を変えずに放出装置50上に配置しておけば、新たな基板にも所定膜厚の有機薄膜が形成される。基板の交換と、有機薄膜の成膜とを繰り返せば、複数枚数の基板を成膜処理できる。
【0058】
一つの放出装置50に二以上の蒸着源20a〜20cが接続されている場合には、同じ放出装置50上で二層以上の異なる有機薄膜を基板81表面上に連続成膜してもよい。
【0059】
具体的には、有機薄膜の成膜が終了した後、基板81を放出装置50上に配置したまま、成膜に用いた蒸着源20aとは別の蒸着源20bを選択し、選択した蒸着源20bの蒸発室21内で蒸気を発生させる。
【0060】
選択しない蒸着源20a、20cの蒸発室21は放出装置50から遮断しておき、選択した蒸着源20bの蒸発室21を放出装置50に接続すれば、蒸気が放出口55から放出され、新たな有機薄膜が基板81上に成長する。
【0061】
先に有機薄膜を成膜する時と、新たに有機薄膜を成膜する時とで、マスク16と基板81の位置関係を変えなければ、先に成膜された有機薄膜の上に、新たな有機薄膜が積層される。
【0062】
また、先に有機薄膜を成膜してから、新たな有機薄膜を成膜する前に、マスク16を交換するか、マスク16を基板81に対して移動させ、先に有機薄膜が形成された領域をマスク16の遮蔽部18で覆い、有機薄膜が形成されていない領域を、マスク16の開口17と対面させれば、有機薄膜は積層されず、別々の領域にそれぞれ形成される。
【0063】
例えば、複数色の着色層を異なる場所に形成して発光層を構成する場合、少なくとも着色層の色の数だけ蒸着源20a〜20cを用意し、各蒸着源20a〜20cの収容部32に異なる色(例えば赤、緑、青色)の有機材料39を収容しておく。この場合、有機材料39は、例えば、有機発光材料を含む主成分(ホスト)に、有機色素である添加剤(ドーパント)を添加したものである。
【0064】
基板81表面の1色目の着色層を形成すべき場所をマスク16の開口17と対面させ、他の部分をマスク16の遮蔽部18で覆った状態で着色層を形成し、マスク16を他のマスクと交換するか、開口17が二色目の着色層を形成すべき場所と対向し、他の部分が遮蔽部18で覆われるように、マスク16を基板81に対して相対的に移動させてから、二色目の着色層を形成する。
【0065】
マスク16の交換又は移動と、着色層の形成とを繰り返せば、3色以上の着色層からなる発光層を形成することができる。
【0066】
有機EL素子では、基板81表面の異なる領域に下部電極がそれぞれ形成され、着色層は予め決められた下部電極上にそれぞれ形成される。発光層上に必要であれば、ホール輸送層等の他の有機薄膜を形成した後、上部電極を形成して有機EL素子を形成する。
【0067】
上部電極に通電した状態で、選択した電極に通電すれば、選択された電極上にある着色層だけが発光する。このように、2色以上の着色層で発光層を構成することで、有機EL素子のフルカラー表示が可能となる。
【0068】
着色層の色の組合わせは赤、青、緑に限定されず、例えば、赤、青、黄等他の組合わせであってもよい。また、着色層の色の数は3色に限定されず、2色又は4色以上であってもよい。
【0069】
本発明の蒸着装置10bは発光層だけでなく、ホール輸送層、ホール注入層、電子注入層、電子輸送層等、他の有機薄膜の成膜に用いることもできる。
【0070】
1つの真空槽11内部には、1又は複数の放出装置50を配置することができる。1つの真空槽11内部に複数の放出装置50を配置する場合、各放出装置50から放出される蒸気が混合されないよう、放出装置50同士の距離を十分に離すか、真空槽11内部に蒸気の流れを遮蔽する遮蔽板を設けることが望ましい。
【0071】
以上は、有機材料39としてホストとドーパントとが予め混合されたものを用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0072】
例えば、1台の放出装置50に複数の蒸着源20a〜20cを接続しておき、1台の放出装置50に接続された異なる蒸着源20a〜20cにホストとドーパントをそれぞれ収容しておく。
【0073】
ホストの蒸気とドーパントの蒸気を異なる蒸着源20a〜20cで発生させ、それらの蒸気を同じ放出装置50に一緒に供給すれば、蒸気は放出装置50内部で混合されるから、放出口55からはホストの蒸気とドーパントの蒸気の混合蒸気が放出され、ホストとドーパントを両方含有する薄膜が堆積する。
【0074】
放出装置50と、基板ホルダ15のいずれか一方又は両方を揺動手段58に接続しておき、着色層を成長させる間、基板81とマスク16を相対的に静止させた状態で、放出装置50と基板ホルダ15のいずれか一方又は両方を水平面内で往復移動又は円運動させ、基板ホルダ15に保持された基板81を基板ホルダ15と一緒に、放出装置50に対して移動させれば、有機薄膜の膜厚が均一になる。
【0075】
基板ホルダ15と放出装置50との相対的な往復移動の方向は特に限定されないが、例えば、供給管52が、所定間隔を空けて略平行に配置された複数本の分岐管を有する場合は、基板81と放出装置50を、該分岐管と交差する方向に水平面内で相対的に移動させる。
【0076】
供給管52の噴出口53を、放出容器51の放出口55と対面しない位置に設ければ、噴出口53から噴出される蒸気は、放出容器51に充満してから放出口55から放出されるため、放出速度が安定する。具体的には、放出口55が放出容器51の天井に設けられている場合は、噴出口53は供給管52の放出容器51の底面又は側面と対向する部分に設ける。
【0077】
放出装置50(ここでは放出容器51)の放出口55が形成された面(前面)を、基板81よりも大面積にし、放出口55を前面に所定間隔を空けて分散配置しておけば、基板81を放出装置50上に位置させたまま、基板81表面全部に亘って薄膜を形成することができる。この方法によれば、基板81を搬送しながら成膜する必要がなく、真空槽11内での基板81の移動距離が短くなるので、基板81搬送によるダストの発生量が少ない。
【0078】
放出装置50からの輻射熱でマスク16が加熱されると、熱膨張が起こり、成膜精度が下がるので、放出装置50とマスク16との間に断熱材(冷却板)67を配置し、ヒーター68を冷却板67で覆うことが望ましい。
【0079】
冷却板67の放出口55上の位置に、放出口55が露出する開口(蒸気放出口)を設けておき、該開口の大きさを、放出口55から放出される蒸気が接触しない程度に大きくすれば、蒸気が冷却板67に析出しない。
【0080】
高温体22の形状は特に限定されないが、一例を述べると、高温体22は加熱板22cと、加熱板22c表面に配置された内側突部22aと、加熱板22c表面に内側突部22aを取り囲むように配置された外側突部22bとを有している。
高温体22は内側突部22aと外側突部22bとが配置された面を上側に向けて、貫通孔33の下端開口の真下位置に配置されている。
【0081】
回転軸35と導入管31との隙間の下端は、内側突部22aと外側突部22b間の空間の真上に位置しており、有機材料39は内側突部22aと外側突部22bの間に供給されるから、有機材料39は高温体22から零れ落ちない。
【0082】
高温体22は全部を誘導加熱可能な程高抵抗な導電材料で構成することが望ましいが、一部を誘導加熱されない材料で構成してもよい。その場合、誘導加熱されない部分を、熱伝導率の高い材料(例えば金属)で構成すれば、誘導加熱された部分からの熱伝導で、高温体22全体が昇温する。
【0083】
以上は、導入部44が銅を主成分とする低抵抗材料で構成された場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図4に示すように、導入管31が銅を主成分とする低抵抗材料で構成されたガード管74を有し、導入部44が蒸発室21内部に挿入された管(ここでは内筒42)の下端部と、ガード管74とで構成された場合も本発明には含まれる。
【0084】
内筒42の蒸発室21内部に挿入された部分はガード管74に挿通され、内筒42の下端はガード管74の下端と面一か、それよりも高い位置にある。
導入部44の外周はガード管74の低抵抗材料で構成され、内筒42と回転軸35の蒸発室21内部に位置する部分は低抵抗材料で囲まれているから、誘導加熱されない。
内筒42がステンレス等誘導加熱可能な材料で構成されていても、低抵抗材料で囲まれているから誘導加熱されない。
【0085】
導入部44の外周を構成する低抵抗材料は銅を主成分とするのであれば、純銅でもよいし銅合金でもよい。
【0086】
導入部44の外周は、電磁波を遮蔽可能であれば、銅以外の金属を主成分とする低抵抗材料、又はセラミック等の絶縁材料で構成してもよいが、表面研磨等の加工の容易さを考慮すると銅を主成分とする低抵抗材料で構成することが最も望ましい。
【0087】
また、導入管31の導入部44以外の部分も、銅を主成分とする低抵抗材料で構成してもよい。
銅と反応しやすい有機材料39を用いる場合は、銅を主成分とする低抵抗材料が露出する表面を、該有機材料39と反応しない金属メッキ膜で被覆することが望ましい。
【0088】
低抵抗材料が露出する表面のうち、少なくとも貫通孔33内に露出する壁面(例えば内筒42の内壁面)全部に上記金属メッキ膜を形成すれば、有機材料39が劣化せずに貫通孔33内を移動する。
【0089】
金属メッキ膜は、特に限定されないが、例えば、ニッケルと、プラチナと、パラジウムと、ロジウムとからなる群より選択されるいずれか1種類以上の金属を含有する。この中でも、例えばカニゼンメッキ(登録商標)等により成膜されるニッケル被膜がコスト的に最も優れている。
【0090】
導入管31を冷却手段47で冷却すれば、導入部44が輻射熱で加熱されても、有機材料39の蒸発温度以上にならない。
【0091】
例えば、回転軸35を銅のような低抵抗材料で構成すれば、回転軸35の下端が蒸発室21内部に露出していも、回転軸35が誘導加熱されることはないが、銅は用いて回転軸35を成形することは難しい(特に突条36)。
【0092】
上述したように、本発明は回転軸35の蒸発室21内部に位置する部分が、導入部44外周の低抵抗材料で囲まれているから、回転軸35がステンレス等の誘導加熱可能な金属材料で構成されても、誘導加熱されることがない。
【0093】
従って、回転軸35の構成材料は制限されず、機械的強度や成形性の容易さ等の点を重視して構成材料を選択することができる。機械的強度が高く、成形性の容易な材料としては、ステンレス等の金属材料の他にも、Si34を主成分とするセラミック材料がある。回転軸35と突条36は同じ材料で一体成形すれば、全体の機械的強度が向上するので好ましい。
【0094】
蒸発室21を直接真空排気系に接続せずに、蒸発室21を放出装置50に接続した状態で、真空槽11を真空排気することで、蒸発室21内部を真空排気してもよい。この場合、蒸発室21から放出装置50を遮断することで、蒸発室21内部の真空排気を停止させてから、有機材料39を蒸発室21内部で加熱する。
【0095】
蒸発室21から蒸気を放出装置50に供給する際、蒸発室21にキャリアガス(例えばN2)を導入すれば、蒸気の供給効率が高くなるが、キャリアガスが有機薄膜に取り込まれ、有機薄膜の構成材料が劣化する虞がある。従って、本発明では、キャリアガスを用いず、圧力差で蒸発室21から放出装置50へ蒸気を移動させることが最も望ましい。
【0096】
尚、決められた膜厚を成膜するのに要する有機材料39の供給量は予備試験で求めておく。予備試験は、実際の成膜に用いるものと同じ有機材料39を収容部32に収容し、真空雰囲気の圧力、高温体22の加熱温度等の成膜条件を、実際の製造の時と成膜条件と同じにし、放出装置50上に基板81(マスク16使用するならばマスク16と基板81)とを配置したまま、有機材料39を高温体22に落下させて蒸気を発生させ、該蒸気を放出口55から放出させて薄膜を形成する。有機材料39の落下量と、薄膜の膜厚との関係を求めれば、その関係から必要供給量が分かる。
【0097】
蒸着源20a〜20cの設置場所は特に限定されず、蒸着源20a〜20cの一部又は全部を、放出装置50と同じ真空槽11内部に設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】成膜装置の一例を説明するための模式的な平面図
【図2】本発明の蒸着装置の模式的な斜視図
【図3】本発明の蒸着装置の断面図
【図4】本発明の蒸着源の他の例を説明する断面図
【図5】従来技術の蒸着装置を説明するための断面図
【符号の説明】
【0099】
10b……蒸着装置 11……真空槽 20a〜20c……蒸着源 21……蒸発室 22……高温体 25……誘導加熱装置 30……導入装置 31……導入管 32……収容部 33……貫通孔 35……回転軸 39……有機材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入装置と、蒸発室と、高温体とを有し、
前記導入装置は、蒸着材料を収容可能な収容部と、
前記収容部の底面に形成された開口と、
貫通孔と、前記貫通孔の一端が前記収容部底面の開口に接続された導入管とを有し、
前記導入管の前記貫通孔他端が位置する部分は、前記蒸発室内に挿入され、
前記高温体は前記蒸発室の内部に位置し、
前記収容部に収容された前記蒸着材料は、前記貫通孔を通って前記貫通孔の他端から、前記高温体に供給され、
前記蒸発室の外部には誘導加熱装置が配置され、前記誘導加熱装置により前記蒸発室の内部に電磁場を形成すると、前記高温体が昇温するように構成され、
前記導入管の少なくとも前記蒸発室の内部に挿入された部分の外周は、銅を主成分とする低抵抗材料で構成された蒸着源。
【請求項2】
前記導入装置は、前記貫通孔に挿通された回転軸を有し、
前記回転軸の周囲には突条が螺旋状に形成され、
前記回転軸が回転すると、前記蒸着材料が前記高温体に供給される請求項1記載の蒸着源。
【請求項3】
真空槽と、放出装置と、請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の蒸着源とを有し、
前記蒸発室の内部空間が、前記放出装置の内部空間に接続され、
前記放出装置には、前記真空槽の内部空間と前記放出装置の内部空間とを接続する放出口が形成された蒸着装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−84674(P2009−84674A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271252(P2007−271252)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】