蒸着用マスクおよびその製造方法
【課題】蒸着材料を通過させるための通過孔を精度良く形成することが可能な蒸着用マスクおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】蒸着用マスク1の製造方法では、金属薄膜10の両面に、反射防止膜30A,30Bを介してフォトレジスト膜12a,12bを形成したのち露光することにより、フォトレジスト膜12a,12bに通過孔10A−1のパターンを形成する。露光時に、フォトレジスト膜12a,12bを透過した照射光が金属薄膜10の表面もしくは裏面に到達する前に、反射防止膜30A,30Bにおいて吸収され、ハレーションの発生が抑制される。
【解決手段】蒸着用マスク1の製造方法では、金属薄膜10の両面に、反射防止膜30A,30Bを介してフォトレジスト膜12a,12bを形成したのち露光することにより、フォトレジスト膜12a,12bに通過孔10A−1のパターンを形成する。露光時に、フォトレジスト膜12a,12bを透過した照射光が金属薄膜10の表面もしくは裏面に到達する前に、反射防止膜30A,30Bにおいて吸収され、ハレーションの発生が抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどの製造工程において用いられる蒸着用マスクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機ELディスプレイなどの製造工程では、発光層などの有機層を真空蒸着法を用いて形成している。この際、蒸着用マスクとしては、金属薄膜に、有機層のパターンに合わせて蒸着材料を通過させる通過孔が設けられたものが使用されている。このような蒸着用マスクは、その通過孔のパターンが、フォトリソグラフィ法を用いて形成されることが多い。例えば、金属薄膜上にフォトレジスト膜を形成し、このフォトレジスト膜をパターン露光したのちエッチングを施すことにより通過孔を形成する手法が用いられている(特許文献1,2)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−183153号公報
【特許文献2】特開2005−314787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなフォトリソグラフィ法を用いた場合、露光時に金属薄膜の表面や裏面において光が反射し、この反射光により、いわゆるハレーションが発生してフォトレジスト膜に通過孔パターンが精度良く形成されないという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、蒸着材料を通過させるための通過孔を精度良く形成することが可能な蒸着用マスクおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蒸着用マスクの製造方法は、金属薄膜の表面および裏面のうち少なくとも一面に反射防止膜を形成する工程と、反射防止膜上に感光性樹脂層を形成する工程と、感光性樹脂層に光を照射することにより蒸着材料を通過させる通過孔のパターンを形成する工程と、感光性樹脂層に形成したパターンに基づいて金属薄膜および反射防止膜にエッチングを施すことにより通過孔を形成する工程とを含むものである。
【0007】
本発明の蒸着用マスクは、通過孔を有する金属薄膜と、金属薄膜の表面および裏面のうち少なくとも一面に設けられると共に、通過孔に対応して開口を有する反射防止膜とを備えたものである。
【0008】
本発明の蒸着用マスクおよびその製造方法では、金属薄膜の少なくとも一面に反射防止膜を形成したのち、この反射防止膜上に感光性樹脂層を形成して露光する。露光による照射光のうち感光性樹脂層を透過した光は、反射防止膜において吸収され、金属薄膜の表面もしくは裏面における反射が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蒸着用マスクおよびその製造方法によれば、金属薄膜の少なくとも一面に反射防止膜を形成したのち、この反射防止膜上に感光性樹脂層を形成して露光するようにしたので、ハレーションの発生を抑制して通過孔のパターンを精度良く形成することができる。このようにして形成した通過孔のパターンに基づいて、金属薄膜および反射防止膜にエッチングを施すことにより、通過孔を精度良く形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[1.蒸着用マスク1の構成]
図1(A)は、本発明の一実施の形態に係る蒸着用マスク1を表面側(金属薄膜10の側)からみたものであり、図1(B)は裏面側(枠体11の側)からみたものである。図2は、図1(A)のI−I線における矢視断面図である。図3は、通過孔10A−1(図2における領域S1)を拡大したものである。
【0012】
蒸着用マスク1は、例えば有機EL素子の有機層を真空蒸着法を用いて成膜する際に使用されるものである。この際、例えば蒸着用マスク1の裏面側に蒸着源、表面側に素子基板(被蒸着基板)が配置されて使用される。蒸着用マスク1では、マスク本体となる複数の金属薄膜10が枠体11によって支持されている。
【0013】
金属薄膜10は、例えばインバー材、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などの金属または合金、圧延ステンレス鋼など、熱膨張係数の低い金属薄膜によって構成されることが好ましく、厚みは例えば10μm〜50μmである。この金属薄膜10は、枠体11に、枠体11の開口部11A(後述)を覆うように、張力Tが付加された状態で固着(以下、張設という)されている。この張設により、金属薄膜10はしわや弛みのない状態で枠体11に固定される。張力Tは、蒸着時の輻射熱に起因する熱応力により金属薄膜10に生じる歪み量が、この張力Tによって金属薄膜10に生じる歪み量により相殺される大きさおよび方向に設定されていることが望ましい。蒸着時の金属薄膜10の熱膨張を吸収し、通過孔10A−1の位置精度を高めることができるからである。
【0014】
金属薄膜10では、枠体11の開口部11Aに対応する領域が有効蒸着領域10Aとなっており、所定のパターンで複数の通過孔10A−1が形成されている。このような金属薄膜10の表面および裏面にはそれぞれ、反射防止膜30A,30Bが形成されている。
【0015】
通過孔10A−1では、例えば図3に示したように、蒸着源側(ここでは裏面側)の開口100Bが、被蒸着側(ここでは表面側)の開口100Aよりも大きくなっている。これにより、蒸着源から斜めに入射する蒸着材料が通過孔10A−1の影になって付着しにくくなること(シャドウ効果)が抑制され、蒸着源からの蒸着材料を均一に通過させることができる。この通過孔10A−1の形状は、レーザによるダイレクト露光法を用いることにより容易に形成することが可能である。すなわち、後述のレーザダイレクト露光機122において、金属薄膜10の表面側と裏面側とで、開口面積が異なるように露光パターンを設定するだけでよい。このような通過孔10A−1に対応して、反射防止膜30A,30Bには開口30A1,30B1がそれぞれ設けられている。
【0016】
反射防止膜30A,30Bは、後述の露光工程において金属薄膜10の表面もしくは裏面におけるレーザ光の反射を抑制するものである。反射防止膜30A,30Bは、露光に使用するレーザ光を吸収する皮膜により構成されている。反射防止膜30A,30Bの膜厚は、上記レーザ光を吸収し得る程度の厚み以上、かつ金属薄膜10の膜厚の5%程度以下となっていることが望ましい。これらの反射防止膜30A,30Bは、露光工程後に金属薄膜10と共にエッチングする必要があるため、膜厚が厚過ぎると所望のエッチング精度を確保しにくくなるためである。また、反射防止膜30A,30Bは、後述のフォトレジスト膜12a,12bの塗布性を阻害せず、かつ金属薄膜10のエッチングを阻害しないような材料が選定されることが望ましい。
【0017】
このような反射防止膜30A,30Bを構成する皮膜としては、例えば発振波長帯域が400nm〜410nm付近となる青紫色発光レーザをレーザ光源して用いた場合には、次のような皮膜により構成されていることが望ましい。例えば、黒色無電解ニッケル(Ni)めっき、黒色クロム(Cr)めっき、黒色クロメートおよび四酸化鉄(Fe3O4)皮膜(黒染め)などの各種表面処理を用いて形成された黒色皮膜が挙げられる。
【0018】
枠体11は、例えばインバー材などから構成され、厚みは例えば5mm〜30mmである。この枠体11は、例えば格子状に複数の開口部11Aを有している。また、後述の有機層が形成される駆動用基板15と同等の線熱膨張係数を有する材料により構成されていることが好ましい。これは、蒸着時の温度変化に伴い、枠体11と駆動用基板15とを同期して膨張収縮させると共に、膨張収縮による寸法変化量を同等にすることができるからである。更に、枠体11は、高い剛性および十分な厚みを有し、熱容量、表面の輻射射出率、周囲の支持体との熱伝導により流入出する熱量、および蒸着源からの輻射熱を遮る断熱板により制限される流入熱量などを最適に調節して設計されていることが望ましい。本実施の形態では、開口部11Aが4つ、これに対応して金属薄膜10が4つ形成された構成を例に挙げて説明する。
【0019】
[2.蒸着用マスク1の製造方法]
次に、上記のような蒸着用マスク1の製造方法について説明する。
【0020】
まず、図4(A)に示したように、金属薄膜10の表面および裏面に、反射防止膜30A,30Bを形成する。例えば、金属薄膜10の表裏に、黒色無電解ニッケルめっきを施し、反射防止膜30A,30Bとして黒色のニッケル皮膜を析出させる。還元剤としては、次亜リン酸やDMAB(ジメチルアミンボラン)等を用いることができる。このような黒色無電解ニッケルめっきを用いることにより、反射防止膜30A,30Bを均一な膜厚で形成し易くなる。
【0021】
なお、これらの反射防止膜30A,30Bは、黒色無電解ニッケルめっきに限らず、他の表面処理、例えば黒色クロムめっき、黒色クロメートまたは四酸化鉄皮膜などにより形成してもよい。また、光沢めっきであってもよいが、反射防止の観点からは無光沢めっきであることが望ましい。
【0022】
続いて、図4(B)に示したように、反射防止膜30A,30Bを形成した金属薄膜10を、張力Tを付加した状態で枠体11の開口部11Aを覆うように、枠体11に位置合わせする。こののち、図4(C)に示したように、例えばスポット溶接、シームレス溶接等を用いて、金属薄膜10を枠体11に接着する。このとき、例えば方形のスクリーン枠部材にポリエステルメッシュを張設し、このポリエステルメッシュに金属薄膜10の周縁部を接着したのち、金属薄膜10をポリエステルメッシュと共に切り取ることで、金属薄膜10に張力Tを付加する。このようにして、複数の金属薄膜10を枠体11に張設する。
【0023】
次いで、図5(A)に示したように、反射防止膜30A上に、例えばスプレイコーティング法を用いて、フォトレジスト膜(感光性樹脂層)12aを形成する。このとき、例えばスプレイノズル120をストローク動作させ、かつ紙面に垂直方向に枠体11またはスプレイノズル120をピッチ送りするようにして、フォトレジスト膜12aを塗布する。ここで、本実施の形態のように、複数の金属薄膜10を枠体11に貼り合わせた場合には、金属薄膜10同士の間や金属薄膜10と枠体11との境界部分に段差や隙間が生じる。このような場合であっても、スプレイコーティング法を用いることにより、フォトレジスト膜12a,12bを均一に形成することができる。こののち、プリベークを行い、塗布したフォトレジスト膜12aを乾燥させる。
【0024】
続いて、図5(B)に示したように、反射防止膜30B上に、フォトレジスト膜12aと同様にして、フォトレジスト膜12bを形成する。このように、金属薄膜10の表面および裏面の両側に、反射防止膜30A,30Bを介してフォトレジスト膜12a,12bを形成する。
【0025】
次いで、図6(A)に示したように、後の工程において、エッチング液の浸入を防止するために、金属薄膜10と枠体11との重ね合わせの境界部分に、目止め部13を形成する。具体的には、裏面側において、上記境界部分にフォトレジスト膜12a,12bよりも濃いめ(固形分の多い)のフォトレジストを、ディスペンサ121などを用いて塗布したのち乾燥させることにより目止め部13を形成する。続いて、図6(B)に示したように、表面側においても、隣接する金属薄膜10同士の間の領域に、上記と同様にして目止め部13を形成する。
【0026】
続いて、図7(A)に示したように、レーザダイレクト露光機122に、フォトレジスト膜12a,12bを形成後の金属薄膜10の表面側を向かい合わせ、フォトレジスト膜12aに通過孔10A−1のパターンをスキャン描画する。続いて、図7(B)に示したように、レーザダイレクト露光機122に、金属薄膜10の裏面側を向かい合わせると共にフォトレジスト膜12aのパターンと位置合わせしたのち、フォトレジスト膜12bに通過孔10A−1のパターンをスキャン描画する。このとき、金属薄膜10に形成される通過孔10A−1の開口面積が、表面側よりも裏面側において大きくなるように、露光パターンを設定する。
【0027】
このとき、レーザとしては、例えば図8に示したような発振波長帯域が400nm〜410nm付近となる青紫色発光レーザを用いる。また、フォトレジスト膜12a,12bとしては、図9に示したような分光感度を有する感光成樹脂材料を用いることが望ましい。更に、パターン全体の平面形状が、図10に示したように、四角形の4辺の中央部分が内側に湾曲したような形状14となるようにするとよい。これは、エッチング後に金属薄膜10の見かけのヤング率が低下することから、通過孔10A−1が変形を起こすことがあるためである。すなわち、金属薄膜10の変形量を予め解析しておき、この変形量を見込んで補正をかけた形状(例えば、形状14)としておけば、より精度良く通過孔10A−1を形成することができる。
【0028】
次いで、図11(A)に示したように、フォトレジスト膜12a,12bを現像することにより、フォトレジスト膜12a,12bに通過孔10A−1のパターンをそれぞれ形成する。これにより、通過孔10A−1に対応する反射防止膜30A,30Bの表面の一部が露出する。
【0029】
続いて、図11(B)に示したように、例えば塩化第2鉄液などのエッチング液を用いて、金属薄膜10の両側からエッチングを施すことにより、通過孔10A−1を形成する。エッチングの過程では、まず、通過孔10A−1のパターンに基づいて、反射防止膜30A,30Bがそれぞれ除去される。これにより、反射防止膜30A,30Bには、通過孔10A−1に対応して開口30A1,30B1(図3)がそれぞれ形成される。こののち、上記パターンに基づいて金属薄膜10が表面側および裏面側からそれぞれ除去される。このようにして、金属薄膜10に図3に示したような形状を有する通過孔10A−1を複数形成する。最後に、フォトレジスト膜12a,12bを剥離し、洗浄および乾燥を行うことにより、図1〜図3に示した蒸着用マスク1を完成する。
【0030】
[3.本実施の形態の作用、効果]
本実施の形態では、金属薄膜10の両面に、フォトレジスト膜12a,12bを塗布する前に反射防止膜30A,30Bを形成する。すなわち、金属薄膜10の両面に、反射防止膜30A,30Bを介してフォトレジスト膜12a,12bを形成する。こののち、フォトレジスト膜12a,12bに通過孔10A−1のパターンを描画する。
【0031】
このとき、仮に図12(A)に示したように、フォトレジスト膜12a,12bが金属薄膜10の両面に直に形成されている場合には、照射光L0は、フォトレジスト膜12a,12bを透過したのち、金属薄膜10の表面または裏面において反射し易くなる。この反射光L1により、意図しない領域におけるフォトレジスト膜102a,102bが感光してしまうため、いわゆるハレーションが発生して精度良くパターンを形成することが困難となる。
【0032】
これに対し、本実施の形態では、図12(B)に示したように、照射光L0は、金属薄膜10の表面に到達する前に反射防止膜30A,30Bによって吸収される。よって、上記のようなハレーションの原因となる反射光L1の発生が抑制される。
【0033】
ここで、実施例1として反射防止膜30A,30Bを形成した場合(図12(A)の構成)について、レーザ光の反射率を測定した。また、比較例1として反射防止膜を形成しない場合(図12(B)の構成)についても、レーザ光の反射率を測定した。このとき、金属薄膜10としては、膜厚が50μmのインバー材を用いた。実施例1では、この金属薄膜10の両面に、反射防止膜30A,30Bを、黒色無電解ニッケルめっきを用いて膜厚3μmで成膜した。また、反射率の測定は、島津製作所製UV−2400PCを用いて行った。図13に、実施例1および比較例1の波長に対する反射率の関係を示す。このように、例えば波長400nm付近における反射率は、反射防止膜を形成していない比較例1では約29%であるのに対し、反射防止膜30A,30Bを形成した実施例1では、約10%となり、1/3程度にまで低下する。この結果は、反射防止膜30A,30Bを介してフォトレジスト膜12a,12bを形成することにより、反射光の発生が抑制されてハレーションが生じにくくなることを示している。
【0034】
以上のように、本実施の形態では、金属薄膜10の両面に反射防止膜30A,30Bを形成したのち、この反射防止膜30A,30B上にフォトレジスト膜12a,12bを形成して露光する。反射防止膜30A,30Bにより、露光時におけるハレーションの発生を抑制して通過孔10A−1のパターンを精度良く形成することができる。このようにして形成したパターンに基づいて、金属薄膜10および反射防止膜30A,30Bにエッチングを施すことにより、通過孔10A−1を精度良く形成することが可能となる。
【0035】
また、通過孔10A−1を形成する前に金属薄膜10を枠体11に張設すれば、通過孔の形成後に金属薄膜を枠体に張設する場合に比べて、通過孔10A−1の寸法や位置のずれが生じにくくなる。これは、通過孔形成後に張設すると、張力を付加する際に、通過孔に対して応力がかかるためである。また、このような張設時の応力を予め見込んだ寸法で通過孔を形成することも可能ではあるが、各金属薄膜に対して、張力を一定の大きさおよび方向で付加することは極めて困難であるため、精度出しが難しい。この点、本実施の形態のように、張設後に通過孔10A−1を形成すれば、金属薄膜10単体での通過孔10A−1の寸法精度や位置精度に加え、複数の金属薄膜10間での通過孔10A−1同士の相対的な位置精度も確保し易くなる。よって、通過孔10A−1を精度良く形成しつつ、大型化にも対応し易くなる。
【0036】
更に、ダイレクト露光法を用いるようにすれば、フォトレジスト膜12a,12bの所望の位置に、所望の形状でパターンをダイレクトに描画することができると共に、通過孔10A−1の寸法や形状の補正をダイナミックに行うことも可能となる。また、上述したように、複数の金属薄膜10と枠体11との貼り合わせによって段差や隙間などが生じるため、フォトマスクを用いた密着露光ではフォトマスクと金属薄膜表面の密着性を確保しにくくなり、露光パターンの精度出しが困難となる。この点、ダイレクト露光法では、上記のような段差や隙間などの表面性に拘らずパターンを描画することができる。よって、ダイレクト露光法を用いれば、通過孔10A−1のパターンをより精度良く形成することが可能となる。
【0037】
[4.表示装置2の構成]
図14は、表示装置2の概略構成を表す断面図である。
【0038】
表示装置2は、赤色の光を発生する有機発光素子14Rと、緑色の光を発生する有機発光素子14Gと、青色の光を発生する有機発光素子14Bとを全体としてマトリクス状に配置することにより構成されている。有機発光素子14R,14G,14Bは、それぞれ、駆動用基板15の側から、陽極としての第1電極16、絶縁膜17、正孔注入層18、正孔輸送層19、発光層、電子輸送層21、および陰極としての第2電極22がこの順に積層された構成を有している。但し、発光層としては、有機発光素子14R,14G,14Bのそれぞれに対応する赤色発光層20R、緑色発光層20G、および青色発光層20Bが形成されている。これらの赤色発光層20R、緑色発光層20G、および青色発光層20Bを、本実施の形態に係る蒸着用マスク1を用いて精度良く形成することができる。
【0039】
このような有機発光素子14R,14G,14Bは、必要に応じて、窒化ケイ素(SiN)または酸化ケイ素(SiO)などの保護膜23により被覆され、更にこの保護膜23上に、熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層24を間にしてガラスなどよりなる封止基板25が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。
【0040】
第1電極16は、有機発光素子14R,14G,14Bの各々に対応して形成されている。また、第1電極16は、発光層で発生した光を反射させる反射電極としての機能を有しており、できるだけ高い反射率を有するようにすることが発光効率を高める上で望ましい。第1電極16は、例えば、厚みが100nm以上1000nm以下であり、銀(Ag),アルミニウム(Al),クロム(Cr),チタン(Ti),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),モリブデン(Mo),銅(Cu),タンタル(Ta),タングステン(W),白金(Pt)あるいは金(Au)などの金属元素の単体または合金により構成されている。
【0041】
絶縁膜17は、隣接する第1電極16同士の間の領域に形成され、第1電極16間および第1電極16と第2電極22との間の絶縁性を確保し、発光領域を正確に所望の形状にするための電極間絶縁膜としての機能を有している。この絶縁膜17は、例えば、ポリイミドなどの有機材料、または酸化シリコン(SiO2 )などの無機絶縁材料により構成され、第1電極16の発光領域に対応して開口部を有している。なお、発光層は、発光領域だけでなく絶縁膜17の上にも連続して設けられていてもよいが、発光が生じるのは絶縁膜17の第1電極16に対応する開口部だけである。
【0042】
正孔注入層18、正孔輸送層19および電子輸送層21は、有機発光素子14R,14G,14Bの共通の層となっている。なお、正孔注入層18、正孔輸送層19および電子輸送層21は、必要に応じて設ければよく、発光色によりそれぞれ構成が異なっていてもよい。
【0043】
正孔注入層18は、正孔注入効率を高めるためのものであると共に、リークを防止するためのバッファ層である。この正孔注入層18は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下、例えば25nmであり、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)あるいは4,4’,4”−トリス(2−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)により構成されている。
【0044】
正孔輸送層19は、赤色発光層20R、緑色発光層20Gおよび青色発光層20Bへの正孔輸送効率を高めるためのものである。この正孔輸送層19は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下、例えば30nmであり、4,4’−ビス(N−1−ナフチル−N−フェニルアミノ)ビフェニル(α−NPD)により構成されている。
【0045】
赤色発光層20Rは、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、9,10−ジ−(2−ナフチル)アントラセン(ADN)に2,6≡ビス[4´≡メトキシジフェニルアミノ)スチリル]≡1,5≡ジシアノナフタレン(BSN)を30重量%混合したものにより構成されている。緑色発光層20Gは、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、ADNにクマリン6(Coumarin6)を5体積%混合したものにより構成されている。青色発光層20Bは、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、ADNに4,4´≡ビス[2≡{4≡(N,N≡ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)を2.5重量%混合したものにより構成されている。
【0046】
電子輸送層21は、例えば、厚みが20nmであり、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)により構成されている。なお、この電子輸送層21と後述の第2電極22との間に、電子注入効率を高めるために、例えば、LiF、Li2Oなどにより構成される電子注入層を設けるようにしてもよい。
【0047】
第2電極22は、例えば、厚みが5nm以上50nm以下であり、アルミニウム(Al),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na)などの金属元素の単体または合金、もしくはITO(インジウム・スズ複合酸化物)やIZO(インジウム・亜鉛複合酸化物)などの透明電極材料により構成されていてもよい。
【0048】
このような表示装置2は、例えば次のようにして作製することができる。
【0049】
まず、平坦化した駆動用基板15上に、例えばスパッタ法により、上述した材料よりなる第1電極16を形成し、例えばエッチング法により所定の形状に成形する。次いで、例えばフォトリソグラフィ法により、上述した材料よりなる絶縁膜17を形成する。このとき、第1電極16の発光領域に対応して開口部を設けるようにする。こののち、上述した材料よりなる正孔注入層18および正孔輸送層19を例えば、蒸着法、CVD法、印刷法、インクジェット法、転写法などを用いて、第1電極16上および絶縁膜17上に形成する。
【0050】
次いで、形成した正孔輸送層19上の各色に対応した素子領域に、赤色発光層20R、緑色発光層20Gおよび青色発光層20Bを、本実施の形態の蒸着用マスク1を用いて上述の材料を蒸着させることによりパターン形成する。こののち、形成した各色発光層を覆うように、上述の材料よりなる電子輸送層21、第2電極22を、例えば蒸着法、スパッタ法、CVD法などにより順に形成する。最後に、この第2電極22上に、上述した材料よりなる保護膜23を、例えば蒸着法、スパッタ法、CVD法などにより形成し、この保護膜23上に接着層24を間にして封止基板25を貼り合わせる。以上により、図14に示した表示装置2を完成する。
【0051】
このように、表示装置2の製造方法では、赤色発光層20R、緑色発光層20Gおよび青色発光層20Bを、蒸着用マスク1を用いた蒸着によりパターン形成することにより、その各色発光層のパターンが所望の位置に均一な膜厚で精度良く形成される。よって、表示装置2の信頼性が向上する。
【0052】
(適用例およびモジュール)
以下、上述した実施の形態で説明した表示装置2のモジュールおよび適用例について説明する。表示装置2は、テレビジョン装置,デジタルスチルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0053】
(モジュール)
表示装置2は、例えば図15に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、駆動用基板15の一辺に、封止用基板25から露出した領域210を設け、この領域210に後述する信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられていてもよい。
【0054】
駆動用基板15には、例えば、図16に示したように、表示領域110と、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が形成されている。表示領域110内には画素駆動回路140が形成されている。表示領域110は、有機発光素子14R,14G,14Bを全体としてマトリクス状に配置したものである。有機発光素子14R,14G,14Bは短冊形の平面形状を有し、隣り合う有機発光素子14R,14G,14Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0055】
画素駆動回路140は、図17に示したように、第1電極16の下層に形成され、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、その間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された有機発光素子10R(または10G,10B)とを有するアクティブ型の駆動回路である。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガー構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガー構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0056】
画素駆動回路140では、列方向に信号線120Aが複数配置され、行方向に走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、有機発光素子10R,10G,10Bのいずれか一つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0057】
(適用例1)
図18は、上記実施の形態の表示装置2が適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、表示装置2により構成されている。
【0058】
(適用例2)
図19は、上記実施の形態の表示装置2が適用されるデジタルスチルカメラの外観を表したものである。このデジタルスチルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、表示装置2により構成されている。
【0059】
(適用例3)
図20は、上記実施の形態の表示装置2が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、表示装置2により構成されている。
【0060】
(適用例4)
図21は、上記実施の形態の表示装置2が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、表示装置2により構成されている。
【0061】
(適用例5)
図22は、上記実施の形態の表示装置2が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、表示装置2により構成されている。
【0062】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、金属薄膜10の表面および裏面の双方に反射防止膜30A,30Bを形成した構成を例に挙げて説明したが、反射防止膜は必ずしも両面に設けられている必要はない。例えば、金属薄膜の片側からのみエッチングを施すような場合には、金属薄膜の一方の面にのみ反射防止膜が形成されていればよい。また、金属薄膜10の表面側および裏面側において、交互にフォトレジスト膜の塗布や露光を行うようにしたが、各工程を表面側と裏面側とに施す順序は特に限定されない。
【0063】
また、上記実施の形態では、蒸着用マスクの裏面側に蒸着源を配置し、通過孔の裏面側から表面側に向けて蒸着材料を通過させる構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、逆の構成、すなわち蒸着用マスクの表面側に蒸着源を配置し、通過孔の表面側から裏面側に向けて蒸着材料を通過させる構成であってもよい。但し、この場合には、通過孔の開口面積が、表面側よりも裏面側で小さくなるように、露光パターンを設定することが望ましい。
【0064】
更に、上記実施の形態では、枠体11に対して4つの金属薄膜10を固着させた構成を例に挙げて説明したが、枠体11に固着される金属薄膜10は3つ以下であってもよく5つ以上であってもよい。また、金属薄膜10の通過孔10A−1のパターン、通過孔10A−1の個数や配置構成についても、上記実施の形態に限定されるものではなく、被蒸着対象となる素子基板上のパターン構成に基づき適宜設定されるものである。
【0065】
加えて、上記実施の形態では、表示装置2の製造方法において、有機発光素子14R,14G,14Bの赤色発光層20R、緑色発光層20Gおよび青色発光層20Bについてのみ、蒸着用マスク1を用いて形成する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されず、他の有機層、例えば正孔注入層や正孔輸送層、電子輸送層などについても、本発明の蒸着用マスクを用いた蒸着により形成することが可能である。
【0066】
また、上記実施の形態では、アクティブマトリクス型の表示装置の場合について説明したが、本発明はパッシブマトリクス型の表示装置への適用も可能である。更にまた、アクティブマトリクス駆動のための画素駆動回路の構成は、上記各実施の形態で説明したものに限られず、必要に応じて容量素子やトランジスタを追加してもよい。その場合、画素駆動回路の変更に応じて、上述した信号線駆動回路120や走査線駆動回路130のほかに、必要な駆動回路を追加してもよい。
【0067】
更に、上記実施の形態では、有機発光素子の第1電極16を陽極、第2電極22を陰極とする場合について説明したが、陽極および陰極を逆にして、第1電極16を陰極、第2電極22を陽極としてもよい。さらに、第1電極16を陰極、第2電極22を陽極とすると共に、基板11の上に、第2電極22,有機層16および第1電極16を基板11の側から順に積層し、基板11の側から光を取り出すようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施の形態に係る蒸着用マスクの概略構成を表す斜視図である。
【図2】図1に示した蒸着用マスクの概略構成を表す断面図である。
【図3】図2に示した蒸着用マスクの通過孔の拡大図である。
【図4】図1に示した蒸着用マスクの製造方法を工程順に表す断面図である。
【図5】図4に続く工程を表す断面図である。
【図6】図5に続く工程を表す断面図である。
【図7】図6に続く工程を表す断面図である。
【図8】図7に示したレーザダイレクト露光機の発振波長帯域を表す図である。
【図9】図5〜図7に示したフォトレジスト膜の分光感度を表す図である。
【図10】露光パターンの平面形状を説明するための模式図である。
【図11】図7に続く工程を表す断面図である。
【図12】図7に示した工程における作用を説明するための断面模式図である。
【図13】実施例1および比較例1の波長に対する反射率の関係を表す図である。
【図14】本発明の一実施の形態に係る表示装置の概略構成を表す断面図である。
【図15】本実施の形態の表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図16】図15に示したモジュールにおける表示装置の駆動回路の構成を表す平面図である。
【図17】図16に示した画素駆動回路の一例を表す等価回路図である。
【図18】本実施の形態の表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図19】本実施の形態の表示装置の適用例2の外観を表す斜視図である。
【図20】本実施の形態の表示装置の適用例3の外観を表す斜視図である。
【図21】本実施の形態の表示装置の適用例4の外観を表す斜視図である。
【図22】本実施の形態の表示装置の適用例5の外観を表す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
1…蒸着用マスク、2…表示装置、10…金属薄膜、11…枠体、12a,12b…フォトレジスト膜、14R,14G,14B…有機発光素子、15…駆動用基板、16…第1電極、17…絶縁膜、18…正孔注入層、19…正孔輸送層、20R…赤色発光層、20G…緑色発光層、20B…青色発光層、21…電子輸送層、22…第2電極、23…保護膜、24…接着層、25…封止基板、30A,30B…反射防止膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどの製造工程において用いられる蒸着用マスクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機ELディスプレイなどの製造工程では、発光層などの有機層を真空蒸着法を用いて形成している。この際、蒸着用マスクとしては、金属薄膜に、有機層のパターンに合わせて蒸着材料を通過させる通過孔が設けられたものが使用されている。このような蒸着用マスクは、その通過孔のパターンが、フォトリソグラフィ法を用いて形成されることが多い。例えば、金属薄膜上にフォトレジスト膜を形成し、このフォトレジスト膜をパターン露光したのちエッチングを施すことにより通過孔を形成する手法が用いられている(特許文献1,2)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−183153号公報
【特許文献2】特開2005−314787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなフォトリソグラフィ法を用いた場合、露光時に金属薄膜の表面や裏面において光が反射し、この反射光により、いわゆるハレーションが発生してフォトレジスト膜に通過孔パターンが精度良く形成されないという問題があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、蒸着材料を通過させるための通過孔を精度良く形成することが可能な蒸着用マスクおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蒸着用マスクの製造方法は、金属薄膜の表面および裏面のうち少なくとも一面に反射防止膜を形成する工程と、反射防止膜上に感光性樹脂層を形成する工程と、感光性樹脂層に光を照射することにより蒸着材料を通過させる通過孔のパターンを形成する工程と、感光性樹脂層に形成したパターンに基づいて金属薄膜および反射防止膜にエッチングを施すことにより通過孔を形成する工程とを含むものである。
【0007】
本発明の蒸着用マスクは、通過孔を有する金属薄膜と、金属薄膜の表面および裏面のうち少なくとも一面に設けられると共に、通過孔に対応して開口を有する反射防止膜とを備えたものである。
【0008】
本発明の蒸着用マスクおよびその製造方法では、金属薄膜の少なくとも一面に反射防止膜を形成したのち、この反射防止膜上に感光性樹脂層を形成して露光する。露光による照射光のうち感光性樹脂層を透過した光は、反射防止膜において吸収され、金属薄膜の表面もしくは裏面における反射が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蒸着用マスクおよびその製造方法によれば、金属薄膜の少なくとも一面に反射防止膜を形成したのち、この反射防止膜上に感光性樹脂層を形成して露光するようにしたので、ハレーションの発生を抑制して通過孔のパターンを精度良く形成することができる。このようにして形成した通過孔のパターンに基づいて、金属薄膜および反射防止膜にエッチングを施すことにより、通過孔を精度良く形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[1.蒸着用マスク1の構成]
図1(A)は、本発明の一実施の形態に係る蒸着用マスク1を表面側(金属薄膜10の側)からみたものであり、図1(B)は裏面側(枠体11の側)からみたものである。図2は、図1(A)のI−I線における矢視断面図である。図3は、通過孔10A−1(図2における領域S1)を拡大したものである。
【0012】
蒸着用マスク1は、例えば有機EL素子の有機層を真空蒸着法を用いて成膜する際に使用されるものである。この際、例えば蒸着用マスク1の裏面側に蒸着源、表面側に素子基板(被蒸着基板)が配置されて使用される。蒸着用マスク1では、マスク本体となる複数の金属薄膜10が枠体11によって支持されている。
【0013】
金属薄膜10は、例えばインバー材、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などの金属または合金、圧延ステンレス鋼など、熱膨張係数の低い金属薄膜によって構成されることが好ましく、厚みは例えば10μm〜50μmである。この金属薄膜10は、枠体11に、枠体11の開口部11A(後述)を覆うように、張力Tが付加された状態で固着(以下、張設という)されている。この張設により、金属薄膜10はしわや弛みのない状態で枠体11に固定される。張力Tは、蒸着時の輻射熱に起因する熱応力により金属薄膜10に生じる歪み量が、この張力Tによって金属薄膜10に生じる歪み量により相殺される大きさおよび方向に設定されていることが望ましい。蒸着時の金属薄膜10の熱膨張を吸収し、通過孔10A−1の位置精度を高めることができるからである。
【0014】
金属薄膜10では、枠体11の開口部11Aに対応する領域が有効蒸着領域10Aとなっており、所定のパターンで複数の通過孔10A−1が形成されている。このような金属薄膜10の表面および裏面にはそれぞれ、反射防止膜30A,30Bが形成されている。
【0015】
通過孔10A−1では、例えば図3に示したように、蒸着源側(ここでは裏面側)の開口100Bが、被蒸着側(ここでは表面側)の開口100Aよりも大きくなっている。これにより、蒸着源から斜めに入射する蒸着材料が通過孔10A−1の影になって付着しにくくなること(シャドウ効果)が抑制され、蒸着源からの蒸着材料を均一に通過させることができる。この通過孔10A−1の形状は、レーザによるダイレクト露光法を用いることにより容易に形成することが可能である。すなわち、後述のレーザダイレクト露光機122において、金属薄膜10の表面側と裏面側とで、開口面積が異なるように露光パターンを設定するだけでよい。このような通過孔10A−1に対応して、反射防止膜30A,30Bには開口30A1,30B1がそれぞれ設けられている。
【0016】
反射防止膜30A,30Bは、後述の露光工程において金属薄膜10の表面もしくは裏面におけるレーザ光の反射を抑制するものである。反射防止膜30A,30Bは、露光に使用するレーザ光を吸収する皮膜により構成されている。反射防止膜30A,30Bの膜厚は、上記レーザ光を吸収し得る程度の厚み以上、かつ金属薄膜10の膜厚の5%程度以下となっていることが望ましい。これらの反射防止膜30A,30Bは、露光工程後に金属薄膜10と共にエッチングする必要があるため、膜厚が厚過ぎると所望のエッチング精度を確保しにくくなるためである。また、反射防止膜30A,30Bは、後述のフォトレジスト膜12a,12bの塗布性を阻害せず、かつ金属薄膜10のエッチングを阻害しないような材料が選定されることが望ましい。
【0017】
このような反射防止膜30A,30Bを構成する皮膜としては、例えば発振波長帯域が400nm〜410nm付近となる青紫色発光レーザをレーザ光源して用いた場合には、次のような皮膜により構成されていることが望ましい。例えば、黒色無電解ニッケル(Ni)めっき、黒色クロム(Cr)めっき、黒色クロメートおよび四酸化鉄(Fe3O4)皮膜(黒染め)などの各種表面処理を用いて形成された黒色皮膜が挙げられる。
【0018】
枠体11は、例えばインバー材などから構成され、厚みは例えば5mm〜30mmである。この枠体11は、例えば格子状に複数の開口部11Aを有している。また、後述の有機層が形成される駆動用基板15と同等の線熱膨張係数を有する材料により構成されていることが好ましい。これは、蒸着時の温度変化に伴い、枠体11と駆動用基板15とを同期して膨張収縮させると共に、膨張収縮による寸法変化量を同等にすることができるからである。更に、枠体11は、高い剛性および十分な厚みを有し、熱容量、表面の輻射射出率、周囲の支持体との熱伝導により流入出する熱量、および蒸着源からの輻射熱を遮る断熱板により制限される流入熱量などを最適に調節して設計されていることが望ましい。本実施の形態では、開口部11Aが4つ、これに対応して金属薄膜10が4つ形成された構成を例に挙げて説明する。
【0019】
[2.蒸着用マスク1の製造方法]
次に、上記のような蒸着用マスク1の製造方法について説明する。
【0020】
まず、図4(A)に示したように、金属薄膜10の表面および裏面に、反射防止膜30A,30Bを形成する。例えば、金属薄膜10の表裏に、黒色無電解ニッケルめっきを施し、反射防止膜30A,30Bとして黒色のニッケル皮膜を析出させる。還元剤としては、次亜リン酸やDMAB(ジメチルアミンボラン)等を用いることができる。このような黒色無電解ニッケルめっきを用いることにより、反射防止膜30A,30Bを均一な膜厚で形成し易くなる。
【0021】
なお、これらの反射防止膜30A,30Bは、黒色無電解ニッケルめっきに限らず、他の表面処理、例えば黒色クロムめっき、黒色クロメートまたは四酸化鉄皮膜などにより形成してもよい。また、光沢めっきであってもよいが、反射防止の観点からは無光沢めっきであることが望ましい。
【0022】
続いて、図4(B)に示したように、反射防止膜30A,30Bを形成した金属薄膜10を、張力Tを付加した状態で枠体11の開口部11Aを覆うように、枠体11に位置合わせする。こののち、図4(C)に示したように、例えばスポット溶接、シームレス溶接等を用いて、金属薄膜10を枠体11に接着する。このとき、例えば方形のスクリーン枠部材にポリエステルメッシュを張設し、このポリエステルメッシュに金属薄膜10の周縁部を接着したのち、金属薄膜10をポリエステルメッシュと共に切り取ることで、金属薄膜10に張力Tを付加する。このようにして、複数の金属薄膜10を枠体11に張設する。
【0023】
次いで、図5(A)に示したように、反射防止膜30A上に、例えばスプレイコーティング法を用いて、フォトレジスト膜(感光性樹脂層)12aを形成する。このとき、例えばスプレイノズル120をストローク動作させ、かつ紙面に垂直方向に枠体11またはスプレイノズル120をピッチ送りするようにして、フォトレジスト膜12aを塗布する。ここで、本実施の形態のように、複数の金属薄膜10を枠体11に貼り合わせた場合には、金属薄膜10同士の間や金属薄膜10と枠体11との境界部分に段差や隙間が生じる。このような場合であっても、スプレイコーティング法を用いることにより、フォトレジスト膜12a,12bを均一に形成することができる。こののち、プリベークを行い、塗布したフォトレジスト膜12aを乾燥させる。
【0024】
続いて、図5(B)に示したように、反射防止膜30B上に、フォトレジスト膜12aと同様にして、フォトレジスト膜12bを形成する。このように、金属薄膜10の表面および裏面の両側に、反射防止膜30A,30Bを介してフォトレジスト膜12a,12bを形成する。
【0025】
次いで、図6(A)に示したように、後の工程において、エッチング液の浸入を防止するために、金属薄膜10と枠体11との重ね合わせの境界部分に、目止め部13を形成する。具体的には、裏面側において、上記境界部分にフォトレジスト膜12a,12bよりも濃いめ(固形分の多い)のフォトレジストを、ディスペンサ121などを用いて塗布したのち乾燥させることにより目止め部13を形成する。続いて、図6(B)に示したように、表面側においても、隣接する金属薄膜10同士の間の領域に、上記と同様にして目止め部13を形成する。
【0026】
続いて、図7(A)に示したように、レーザダイレクト露光機122に、フォトレジスト膜12a,12bを形成後の金属薄膜10の表面側を向かい合わせ、フォトレジスト膜12aに通過孔10A−1のパターンをスキャン描画する。続いて、図7(B)に示したように、レーザダイレクト露光機122に、金属薄膜10の裏面側を向かい合わせると共にフォトレジスト膜12aのパターンと位置合わせしたのち、フォトレジスト膜12bに通過孔10A−1のパターンをスキャン描画する。このとき、金属薄膜10に形成される通過孔10A−1の開口面積が、表面側よりも裏面側において大きくなるように、露光パターンを設定する。
【0027】
このとき、レーザとしては、例えば図8に示したような発振波長帯域が400nm〜410nm付近となる青紫色発光レーザを用いる。また、フォトレジスト膜12a,12bとしては、図9に示したような分光感度を有する感光成樹脂材料を用いることが望ましい。更に、パターン全体の平面形状が、図10に示したように、四角形の4辺の中央部分が内側に湾曲したような形状14となるようにするとよい。これは、エッチング後に金属薄膜10の見かけのヤング率が低下することから、通過孔10A−1が変形を起こすことがあるためである。すなわち、金属薄膜10の変形量を予め解析しておき、この変形量を見込んで補正をかけた形状(例えば、形状14)としておけば、より精度良く通過孔10A−1を形成することができる。
【0028】
次いで、図11(A)に示したように、フォトレジスト膜12a,12bを現像することにより、フォトレジスト膜12a,12bに通過孔10A−1のパターンをそれぞれ形成する。これにより、通過孔10A−1に対応する反射防止膜30A,30Bの表面の一部が露出する。
【0029】
続いて、図11(B)に示したように、例えば塩化第2鉄液などのエッチング液を用いて、金属薄膜10の両側からエッチングを施すことにより、通過孔10A−1を形成する。エッチングの過程では、まず、通過孔10A−1のパターンに基づいて、反射防止膜30A,30Bがそれぞれ除去される。これにより、反射防止膜30A,30Bには、通過孔10A−1に対応して開口30A1,30B1(図3)がそれぞれ形成される。こののち、上記パターンに基づいて金属薄膜10が表面側および裏面側からそれぞれ除去される。このようにして、金属薄膜10に図3に示したような形状を有する通過孔10A−1を複数形成する。最後に、フォトレジスト膜12a,12bを剥離し、洗浄および乾燥を行うことにより、図1〜図3に示した蒸着用マスク1を完成する。
【0030】
[3.本実施の形態の作用、効果]
本実施の形態では、金属薄膜10の両面に、フォトレジスト膜12a,12bを塗布する前に反射防止膜30A,30Bを形成する。すなわち、金属薄膜10の両面に、反射防止膜30A,30Bを介してフォトレジスト膜12a,12bを形成する。こののち、フォトレジスト膜12a,12bに通過孔10A−1のパターンを描画する。
【0031】
このとき、仮に図12(A)に示したように、フォトレジスト膜12a,12bが金属薄膜10の両面に直に形成されている場合には、照射光L0は、フォトレジスト膜12a,12bを透過したのち、金属薄膜10の表面または裏面において反射し易くなる。この反射光L1により、意図しない領域におけるフォトレジスト膜102a,102bが感光してしまうため、いわゆるハレーションが発生して精度良くパターンを形成することが困難となる。
【0032】
これに対し、本実施の形態では、図12(B)に示したように、照射光L0は、金属薄膜10の表面に到達する前に反射防止膜30A,30Bによって吸収される。よって、上記のようなハレーションの原因となる反射光L1の発生が抑制される。
【0033】
ここで、実施例1として反射防止膜30A,30Bを形成した場合(図12(A)の構成)について、レーザ光の反射率を測定した。また、比較例1として反射防止膜を形成しない場合(図12(B)の構成)についても、レーザ光の反射率を測定した。このとき、金属薄膜10としては、膜厚が50μmのインバー材を用いた。実施例1では、この金属薄膜10の両面に、反射防止膜30A,30Bを、黒色無電解ニッケルめっきを用いて膜厚3μmで成膜した。また、反射率の測定は、島津製作所製UV−2400PCを用いて行った。図13に、実施例1および比較例1の波長に対する反射率の関係を示す。このように、例えば波長400nm付近における反射率は、反射防止膜を形成していない比較例1では約29%であるのに対し、反射防止膜30A,30Bを形成した実施例1では、約10%となり、1/3程度にまで低下する。この結果は、反射防止膜30A,30Bを介してフォトレジスト膜12a,12bを形成することにより、反射光の発生が抑制されてハレーションが生じにくくなることを示している。
【0034】
以上のように、本実施の形態では、金属薄膜10の両面に反射防止膜30A,30Bを形成したのち、この反射防止膜30A,30B上にフォトレジスト膜12a,12bを形成して露光する。反射防止膜30A,30Bにより、露光時におけるハレーションの発生を抑制して通過孔10A−1のパターンを精度良く形成することができる。このようにして形成したパターンに基づいて、金属薄膜10および反射防止膜30A,30Bにエッチングを施すことにより、通過孔10A−1を精度良く形成することが可能となる。
【0035】
また、通過孔10A−1を形成する前に金属薄膜10を枠体11に張設すれば、通過孔の形成後に金属薄膜を枠体に張設する場合に比べて、通過孔10A−1の寸法や位置のずれが生じにくくなる。これは、通過孔形成後に張設すると、張力を付加する際に、通過孔に対して応力がかかるためである。また、このような張設時の応力を予め見込んだ寸法で通過孔を形成することも可能ではあるが、各金属薄膜に対して、張力を一定の大きさおよび方向で付加することは極めて困難であるため、精度出しが難しい。この点、本実施の形態のように、張設後に通過孔10A−1を形成すれば、金属薄膜10単体での通過孔10A−1の寸法精度や位置精度に加え、複数の金属薄膜10間での通過孔10A−1同士の相対的な位置精度も確保し易くなる。よって、通過孔10A−1を精度良く形成しつつ、大型化にも対応し易くなる。
【0036】
更に、ダイレクト露光法を用いるようにすれば、フォトレジスト膜12a,12bの所望の位置に、所望の形状でパターンをダイレクトに描画することができると共に、通過孔10A−1の寸法や形状の補正をダイナミックに行うことも可能となる。また、上述したように、複数の金属薄膜10と枠体11との貼り合わせによって段差や隙間などが生じるため、フォトマスクを用いた密着露光ではフォトマスクと金属薄膜表面の密着性を確保しにくくなり、露光パターンの精度出しが困難となる。この点、ダイレクト露光法では、上記のような段差や隙間などの表面性に拘らずパターンを描画することができる。よって、ダイレクト露光法を用いれば、通過孔10A−1のパターンをより精度良く形成することが可能となる。
【0037】
[4.表示装置2の構成]
図14は、表示装置2の概略構成を表す断面図である。
【0038】
表示装置2は、赤色の光を発生する有機発光素子14Rと、緑色の光を発生する有機発光素子14Gと、青色の光を発生する有機発光素子14Bとを全体としてマトリクス状に配置することにより構成されている。有機発光素子14R,14G,14Bは、それぞれ、駆動用基板15の側から、陽極としての第1電極16、絶縁膜17、正孔注入層18、正孔輸送層19、発光層、電子輸送層21、および陰極としての第2電極22がこの順に積層された構成を有している。但し、発光層としては、有機発光素子14R,14G,14Bのそれぞれに対応する赤色発光層20R、緑色発光層20G、および青色発光層20Bが形成されている。これらの赤色発光層20R、緑色発光層20G、および青色発光層20Bを、本実施の形態に係る蒸着用マスク1を用いて精度良く形成することができる。
【0039】
このような有機発光素子14R,14G,14Bは、必要に応じて、窒化ケイ素(SiN)または酸化ケイ素(SiO)などの保護膜23により被覆され、更にこの保護膜23上に、熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層24を間にしてガラスなどよりなる封止基板25が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。
【0040】
第1電極16は、有機発光素子14R,14G,14Bの各々に対応して形成されている。また、第1電極16は、発光層で発生した光を反射させる反射電極としての機能を有しており、できるだけ高い反射率を有するようにすることが発光効率を高める上で望ましい。第1電極16は、例えば、厚みが100nm以上1000nm以下であり、銀(Ag),アルミニウム(Al),クロム(Cr),チタン(Ti),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),モリブデン(Mo),銅(Cu),タンタル(Ta),タングステン(W),白金(Pt)あるいは金(Au)などの金属元素の単体または合金により構成されている。
【0041】
絶縁膜17は、隣接する第1電極16同士の間の領域に形成され、第1電極16間および第1電極16と第2電極22との間の絶縁性を確保し、発光領域を正確に所望の形状にするための電極間絶縁膜としての機能を有している。この絶縁膜17は、例えば、ポリイミドなどの有機材料、または酸化シリコン(SiO2 )などの無機絶縁材料により構成され、第1電極16の発光領域に対応して開口部を有している。なお、発光層は、発光領域だけでなく絶縁膜17の上にも連続して設けられていてもよいが、発光が生じるのは絶縁膜17の第1電極16に対応する開口部だけである。
【0042】
正孔注入層18、正孔輸送層19および電子輸送層21は、有機発光素子14R,14G,14Bの共通の層となっている。なお、正孔注入層18、正孔輸送層19および電子輸送層21は、必要に応じて設ければよく、発光色によりそれぞれ構成が異なっていてもよい。
【0043】
正孔注入層18は、正孔注入効率を高めるためのものであると共に、リークを防止するためのバッファ層である。この正孔注入層18は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下、例えば25nmであり、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)あるいは4,4’,4”−トリス(2−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA)により構成されている。
【0044】
正孔輸送層19は、赤色発光層20R、緑色発光層20Gおよび青色発光層20Bへの正孔輸送効率を高めるためのものである。この正孔輸送層19は、例えば、厚みが5nm以上300nm以下、例えば30nmであり、4,4’−ビス(N−1−ナフチル−N−フェニルアミノ)ビフェニル(α−NPD)により構成されている。
【0045】
赤色発光層20Rは、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、9,10−ジ−(2−ナフチル)アントラセン(ADN)に2,6≡ビス[4´≡メトキシジフェニルアミノ)スチリル]≡1,5≡ジシアノナフタレン(BSN)を30重量%混合したものにより構成されている。緑色発光層20Gは、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、ADNにクマリン6(Coumarin6)を5体積%混合したものにより構成されている。青色発光層20Bは、例えば、厚みが10nm以上100nm以下であり、ADNに4,4´≡ビス[2≡{4≡(N,N≡ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)を2.5重量%混合したものにより構成されている。
【0046】
電子輸送層21は、例えば、厚みが20nmであり、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)により構成されている。なお、この電子輸送層21と後述の第2電極22との間に、電子注入効率を高めるために、例えば、LiF、Li2Oなどにより構成される電子注入層を設けるようにしてもよい。
【0047】
第2電極22は、例えば、厚みが5nm以上50nm以下であり、アルミニウム(Al),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na)などの金属元素の単体または合金、もしくはITO(インジウム・スズ複合酸化物)やIZO(インジウム・亜鉛複合酸化物)などの透明電極材料により構成されていてもよい。
【0048】
このような表示装置2は、例えば次のようにして作製することができる。
【0049】
まず、平坦化した駆動用基板15上に、例えばスパッタ法により、上述した材料よりなる第1電極16を形成し、例えばエッチング法により所定の形状に成形する。次いで、例えばフォトリソグラフィ法により、上述した材料よりなる絶縁膜17を形成する。このとき、第1電極16の発光領域に対応して開口部を設けるようにする。こののち、上述した材料よりなる正孔注入層18および正孔輸送層19を例えば、蒸着法、CVD法、印刷法、インクジェット法、転写法などを用いて、第1電極16上および絶縁膜17上に形成する。
【0050】
次いで、形成した正孔輸送層19上の各色に対応した素子領域に、赤色発光層20R、緑色発光層20Gおよび青色発光層20Bを、本実施の形態の蒸着用マスク1を用いて上述の材料を蒸着させることによりパターン形成する。こののち、形成した各色発光層を覆うように、上述の材料よりなる電子輸送層21、第2電極22を、例えば蒸着法、スパッタ法、CVD法などにより順に形成する。最後に、この第2電極22上に、上述した材料よりなる保護膜23を、例えば蒸着法、スパッタ法、CVD法などにより形成し、この保護膜23上に接着層24を間にして封止基板25を貼り合わせる。以上により、図14に示した表示装置2を完成する。
【0051】
このように、表示装置2の製造方法では、赤色発光層20R、緑色発光層20Gおよび青色発光層20Bを、蒸着用マスク1を用いた蒸着によりパターン形成することにより、その各色発光層のパターンが所望の位置に均一な膜厚で精度良く形成される。よって、表示装置2の信頼性が向上する。
【0052】
(適用例およびモジュール)
以下、上述した実施の形態で説明した表示装置2のモジュールおよび適用例について説明する。表示装置2は、テレビジョン装置,デジタルスチルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0053】
(モジュール)
表示装置2は、例えば図15に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、駆動用基板15の一辺に、封止用基板25から露出した領域210を設け、この領域210に後述する信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられていてもよい。
【0054】
駆動用基板15には、例えば、図16に示したように、表示領域110と、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が形成されている。表示領域110内には画素駆動回路140が形成されている。表示領域110は、有機発光素子14R,14G,14Bを全体としてマトリクス状に配置したものである。有機発光素子14R,14G,14Bは短冊形の平面形状を有し、隣り合う有機発光素子14R,14G,14Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0055】
画素駆動回路140は、図17に示したように、第1電極16の下層に形成され、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、その間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された有機発光素子10R(または10G,10B)とを有するアクティブ型の駆動回路である。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガー構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガー構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0056】
画素駆動回路140では、列方向に信号線120Aが複数配置され、行方向に走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、有機発光素子10R,10G,10Bのいずれか一つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0057】
(適用例1)
図18は、上記実施の形態の表示装置2が適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、表示装置2により構成されている。
【0058】
(適用例2)
図19は、上記実施の形態の表示装置2が適用されるデジタルスチルカメラの外観を表したものである。このデジタルスチルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、表示装置2により構成されている。
【0059】
(適用例3)
図20は、上記実施の形態の表示装置2が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、表示装置2により構成されている。
【0060】
(適用例4)
図21は、上記実施の形態の表示装置2が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、表示装置2により構成されている。
【0061】
(適用例5)
図22は、上記実施の形態の表示装置2が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、表示装置2により構成されている。
【0062】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、金属薄膜10の表面および裏面の双方に反射防止膜30A,30Bを形成した構成を例に挙げて説明したが、反射防止膜は必ずしも両面に設けられている必要はない。例えば、金属薄膜の片側からのみエッチングを施すような場合には、金属薄膜の一方の面にのみ反射防止膜が形成されていればよい。また、金属薄膜10の表面側および裏面側において、交互にフォトレジスト膜の塗布や露光を行うようにしたが、各工程を表面側と裏面側とに施す順序は特に限定されない。
【0063】
また、上記実施の形態では、蒸着用マスクの裏面側に蒸着源を配置し、通過孔の裏面側から表面側に向けて蒸着材料を通過させる構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、逆の構成、すなわち蒸着用マスクの表面側に蒸着源を配置し、通過孔の表面側から裏面側に向けて蒸着材料を通過させる構成であってもよい。但し、この場合には、通過孔の開口面積が、表面側よりも裏面側で小さくなるように、露光パターンを設定することが望ましい。
【0064】
更に、上記実施の形態では、枠体11に対して4つの金属薄膜10を固着させた構成を例に挙げて説明したが、枠体11に固着される金属薄膜10は3つ以下であってもよく5つ以上であってもよい。また、金属薄膜10の通過孔10A−1のパターン、通過孔10A−1の個数や配置構成についても、上記実施の形態に限定されるものではなく、被蒸着対象となる素子基板上のパターン構成に基づき適宜設定されるものである。
【0065】
加えて、上記実施の形態では、表示装置2の製造方法において、有機発光素子14R,14G,14Bの赤色発光層20R、緑色発光層20Gおよび青色発光層20Bについてのみ、蒸着用マスク1を用いて形成する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されず、他の有機層、例えば正孔注入層や正孔輸送層、電子輸送層などについても、本発明の蒸着用マスクを用いた蒸着により形成することが可能である。
【0066】
また、上記実施の形態では、アクティブマトリクス型の表示装置の場合について説明したが、本発明はパッシブマトリクス型の表示装置への適用も可能である。更にまた、アクティブマトリクス駆動のための画素駆動回路の構成は、上記各実施の形態で説明したものに限られず、必要に応じて容量素子やトランジスタを追加してもよい。その場合、画素駆動回路の変更に応じて、上述した信号線駆動回路120や走査線駆動回路130のほかに、必要な駆動回路を追加してもよい。
【0067】
更に、上記実施の形態では、有機発光素子の第1電極16を陽極、第2電極22を陰極とする場合について説明したが、陽極および陰極を逆にして、第1電極16を陰極、第2電極22を陽極としてもよい。さらに、第1電極16を陰極、第2電極22を陽極とすると共に、基板11の上に、第2電極22,有機層16および第1電極16を基板11の側から順に積層し、基板11の側から光を取り出すようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施の形態に係る蒸着用マスクの概略構成を表す斜視図である。
【図2】図1に示した蒸着用マスクの概略構成を表す断面図である。
【図3】図2に示した蒸着用マスクの通過孔の拡大図である。
【図4】図1に示した蒸着用マスクの製造方法を工程順に表す断面図である。
【図5】図4に続く工程を表す断面図である。
【図6】図5に続く工程を表す断面図である。
【図7】図6に続く工程を表す断面図である。
【図8】図7に示したレーザダイレクト露光機の発振波長帯域を表す図である。
【図9】図5〜図7に示したフォトレジスト膜の分光感度を表す図である。
【図10】露光パターンの平面形状を説明するための模式図である。
【図11】図7に続く工程を表す断面図である。
【図12】図7に示した工程における作用を説明するための断面模式図である。
【図13】実施例1および比較例1の波長に対する反射率の関係を表す図である。
【図14】本発明の一実施の形態に係る表示装置の概略構成を表す断面図である。
【図15】本実施の形態の表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図16】図15に示したモジュールにおける表示装置の駆動回路の構成を表す平面図である。
【図17】図16に示した画素駆動回路の一例を表す等価回路図である。
【図18】本実施の形態の表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図19】本実施の形態の表示装置の適用例2の外観を表す斜視図である。
【図20】本実施の形態の表示装置の適用例3の外観を表す斜視図である。
【図21】本実施の形態の表示装置の適用例4の外観を表す斜視図である。
【図22】本実施の形態の表示装置の適用例5の外観を表す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
1…蒸着用マスク、2…表示装置、10…金属薄膜、11…枠体、12a,12b…フォトレジスト膜、14R,14G,14B…有機発光素子、15…駆動用基板、16…第1電極、17…絶縁膜、18…正孔注入層、19…正孔輸送層、20R…赤色発光層、20G…緑色発光層、20B…青色発光層、21…電子輸送層、22…第2電極、23…保護膜、24…接着層、25…封止基板、30A,30B…反射防止膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄膜の表面および裏面のうち少なくとも一面に反射防止膜を形成する工程と、
前記反射防止膜上に感光性樹脂層を形成する工程と、
前記感光性樹脂層に光を照射することにより、蒸着材料を通過させる通過孔のパターンを形成する工程と、
前記感光性樹脂層に形成したパターンに基づいて、前記金属薄膜および前記反射防止膜にエッチングを施すことにより前記通過孔を形成する工程と
を含む蒸着用マスクの製造方法。
【請求項2】
前記反射防止膜を、前記露光用の光を吸収する皮膜により形成する
請求項1に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項3】
前記反射防止膜を、黒色皮膜により形成する
請求項2に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項4】
前記反射防止膜を、黒色無電解ニッケル(Ni)めっき、黒色クロム(Cr)めっき、黒色クロメートまたは四酸化鉄皮膜を用いて形成する
請求項3に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項5】
前記反射防止膜を、前記金属薄膜の表面および裏面の双方に形成する
請求項1に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項6】
前記金属薄膜の表面および裏面の両側からエッチングを施す
請求項5に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項7】
前記感光性樹脂層に、ダイレクト露光により光を照射する
請求項1に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項8】
前記反射防止膜を形成したのち前記感光性樹脂層を形成する前に、前記金属薄膜を開口部を有する枠体に張力を付加しつつ固定する
請求項1に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項9】
通過孔を有する金属薄膜と、
前記金属薄膜の表面および裏面のうち少なくとも一面に設けられると共に、前記通過孔に対応して開口を有する反射防止膜と、
を備えた蒸着用マスク。
【請求項1】
金属薄膜の表面および裏面のうち少なくとも一面に反射防止膜を形成する工程と、
前記反射防止膜上に感光性樹脂層を形成する工程と、
前記感光性樹脂層に光を照射することにより、蒸着材料を通過させる通過孔のパターンを形成する工程と、
前記感光性樹脂層に形成したパターンに基づいて、前記金属薄膜および前記反射防止膜にエッチングを施すことにより前記通過孔を形成する工程と
を含む蒸着用マスクの製造方法。
【請求項2】
前記反射防止膜を、前記露光用の光を吸収する皮膜により形成する
請求項1に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項3】
前記反射防止膜を、黒色皮膜により形成する
請求項2に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項4】
前記反射防止膜を、黒色無電解ニッケル(Ni)めっき、黒色クロム(Cr)めっき、黒色クロメートまたは四酸化鉄皮膜を用いて形成する
請求項3に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項5】
前記反射防止膜を、前記金属薄膜の表面および裏面の双方に形成する
請求項1に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項6】
前記金属薄膜の表面および裏面の両側からエッチングを施す
請求項5に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項7】
前記感光性樹脂層に、ダイレクト露光により光を照射する
請求項1に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項8】
前記反射防止膜を形成したのち前記感光性樹脂層を形成する前に、前記金属薄膜を開口部を有する枠体に張力を付加しつつ固定する
請求項1に記載の蒸着用マスクの製造方法。
【請求項9】
通過孔を有する金属薄膜と、
前記金属薄膜の表面および裏面のうち少なくとも一面に設けられると共に、前記通過孔に対応して開口を有する反射防止膜と、
を備えた蒸着用マスク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2010−196091(P2010−196091A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40220(P2009−40220)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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