説明

蒸着装置、膜厚測定方法

【課題】温度の急上昇や他の原因によって共振周波数の測定値が急変したときにも正常な膜厚値を求める。
【構成】成膜開始時に、符号L1で示すように、共振周波数の測定値が急変したとき、所定の回復時間まで測定値を異常値とし、回復時間後、最小個数の正常な測定値から、時間と共振周波数との間に成立する一次式の“傾きa”と“y切片b”とを算出し、算出した一次式から、回復時間間に成長した薄膜の膜厚を求め、回復時間後の測定値から求めた膜厚に加算する。異常値が出力されている間の膜厚値が加算されるので、実際より小さい値の膜厚値を出力することが無くなる。正常状態から異常値が得られた場合も、異常値が出力されている間の膜厚は、一次式から求め、正常な測定値から求めた膜厚に加算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜中の薄膜を測定する技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
真空雰囲気を用いた薄膜の形成には、スパッタ方法や蒸着方法等があり、基板等の成膜対象物表面に薄膜が成長するときに、成長中の薄膜の膜厚を測定するために、水晶振動子が用いられている。
【0003】
薄膜は、蒸着源から放出される蒸気やスパッタ源から放出されるスパッタリング粒子が、成膜対象物表面に到達し、付着して形成されており、蒸気やスパッタリング粒子が成膜対象物表面に到達する際に、水晶振動子にも到達するようにし、水晶振動子の共振周波数変化から、水晶振動子表面に形成された薄膜の膜厚が測定され、その値を成膜対象物表面の膜厚に換算し、成膜対象物表面の薄膜の膜厚を得るようにしている。
しかしながら水晶振動子に対して大きな熱衝撃が印加された場合の周波数の急上昇や、原因不明の周波数ジャンプ等の異常データ出力があると、基板表面の膜厚を正確に算出することができなくなるという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−222670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、異常データを修正して正しい膜厚を算出できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、真空雰囲気中に成膜対象物と水晶振動子を配置し、前記成膜対象物の成膜面と前記水晶振動子の検出面とに一緒に薄膜を成長させ、前記水晶振動子の共振周波数を測定し、測定結果から前記成膜面に成長した前記薄膜の厚さを求める膜厚測定方法であって、前記検出面に、前記薄膜を形成する微小粒子が到達しない状態から到達が開始された際に、前記共振周波数の値の急上昇を検出すると、前記共振周波数の値と測定時刻との間に第一の線形関係が形成されたと判断できる値の前記共振周波数が測定された後、前記微小粒子が前記成膜面に到達した時刻から、所望の時刻までの間、前記検出面上の前記薄膜の膜厚は、前記第一の線形関係に従って増加したとして、測定結果から前記成膜面に成長した前記薄膜の前記膜厚を求める膜厚測定方法である。
また、本発明は、測定した前記共振周波数の値が、測定時刻に対して前記第一の線形関係を維持しながら変化しているときに、測定した前記共振周波数の値が急変して前記第一の線形関係を維持しなくなったと判断した場合には、前記急変が生じた後も、前記急変が生じる前の前記第一の線形関係が維持されるものとして、前記急変の開始後は、前記第一の線形関係と前記急変後の測定時刻とから前記成膜面に成長する前記薄膜の膜厚増加量を算出して、前記急変の開始後の前記薄膜の前記膜厚を求める膜厚測定方法である。
また、本発明は、前記急変後の前記共振周波数の測定結果から、前記急変が解消されたと判断した場合には、前記急変の解消を判断した前記共振周波数の測定結果が得られた時刻以後の時刻の測定結果から、第二の線形関係を求め、前記第二の線形関係を求めた前記測定結果から求めた前記成膜面の前記薄膜の膜厚の値から、その前記測定結果の経過時間と前記第一の線形関係とから求めた前記成膜面の前記膜厚の値を差し引いた値を、前記線形結果から求めた前記成膜面の膜厚の値に加算する膜厚測定方法である。
また、本発明は、前記第二の線形関係が求められた後に、前記急変が生じたときには、前記急変が生じる前の前記第二の線形関係が維持されるものとして、前記測定結果から前記成膜面の前記薄膜の膜厚を求める膜厚測定方法である。
また、本発明は、成膜対象物が配置される真空槽と、前記真空槽内を真空排気する真空排気装置と、前記真空槽内に配置され真空雰囲気中で前記成膜対象物の成膜面に薄膜材料を到達させる成膜源と、前記真空槽内で、前記成膜面への前記薄膜材料の到達を妨げない位置に配置された水晶振動子と、前記水晶振動子に接続され、前記水晶振動子の前記共振周波数を測定する測定装置と、前記測定装置に接続され、前記共振周波数が入力される計算機とを有し、前記計算機は、前記検出面に、前記薄膜を形成する微小粒子が到達しない状態から到達が開始された際に、前記共振周波数の値の急上昇を検出すると、前記共振周波数の測定値と測定時刻との間に線形関係が形成されたと判断した後、前記微小粒子が前記成膜面に到達した時刻から、所望の時刻までの間、前記検出面上の前記薄膜の膜厚が、前記線形関係に従って増加したとして前記成膜面に成長した前記薄膜の厚さを求めるように構成された蒸着装置である。
【発明の効果】
【0007】
成膜開始時に異常な測定値が出力されても、測定値の推移が正常な状態に復帰した後、異常値として使用することができない測定値が出力されている間の薄膜の成長膜厚を算出することができるので、形成される薄膜の膜厚を少なく算出することが無い。
【0008】
また、線形関係が形成された後、測定値が異常値を示しても、異常値が発生している間、線形関係から膜厚増加量を求めることができるので、膜厚が少なく算出されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本願発明を用いることができる薄膜形成装置の一例
【図2】薄膜形成開始時の共振周波数の急上昇を説明するためのグラフ
【図3】共振周波数の測定値が急変して復帰したときの状態を説明するためのグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の成膜装置10を示しており、該成膜装置10は、真空槽11を有している。
真空槽11の内部には、基板ホルダ13が配置されており、該基板ホルダ13には、成膜対象物16が配置されている。
【0011】
真空槽11内で成膜対象物16と対面する位置には、成膜源17が配置されている。成膜源17の内部には、薄膜を形成させる物質である薄膜材料が配置されており、薄膜材料の微小粒子が真空槽11内に放出されるように構成されている。
【0012】
真空槽11内の基板ホルダ13の側方には水晶振動子15が配置されている。水晶振動子15は、成膜源17と対面している成膜対象物16に向かう薄膜材料の微小粒子を遮蔽しない位置に配置されている。
成膜源17の微小粒子が放出される開口付近には、開口を覆うようにシャッター19が設けられている。
【0013】
真空槽11には真空排気装置29が接続されており、該真空排気装置29を動作させて真空槽11内を真空排気し、所定圧力の真空雰囲気が形成された後、成膜源17から薄膜材料の微小粒子を放出させる。
ここでは成膜装置10は蒸着装置であり、微小粒子は薄膜材料の蒸気であるが、例えば、成膜装置10がスパッタリング装置の場合には微小粒子は薄膜材料のスパッタリング粒子であり、蒸気やスパッタリング粒子以外の微小粒子も本発明に含まれる。
【0014】
ここでは、成膜源17内に配置された薄膜材料を加熱して蒸気状態になった薄膜材料の放出を開始させ、蒸気放出が安定したところで、シャッター19を開ける。
成膜対象物16は、成膜源17に対面する成膜面21を有しており、水晶振動子15は、成膜源17に対面する検出面22を有している。
【0015】
成膜源17から放出された薄膜材料の蒸気は、成膜面21と検出面22の両方に到達し、成膜面21と検出面22の両方に薄膜を成長させる。なお、本例では薄膜材料は加熱して生成された薄膜材料の蒸気を真空槽11内に放出して成膜面21と検出面22に到達させているが、例えば、薄膜材料をターゲット状に成形し、真空槽11内に導入したスパッタリングガスをプラズマ化させて、ターゲットをスパッタリングし、薄膜材料で構成されたスパッタリング粒子を成膜面21と検出面22に到達させる場合も含め、薄膜材料の微小粒子が成膜面21と検出面22に到達すればよい。
【0016】
真空槽11の外部には、測定装置25が配置され、水晶振動子15は測定装置25に接続されており、測定装置25により、この水晶振動子15の共振周波数が所定時刻に継続的に測定されている。所定時刻の間である測定間隔は、等間隔であっても、数式や記憶内容に従う等間隔でない時間であっても良い。
【0017】
測定装置25には、コンピュータ等から成る計算装置26が接続されており、測定装置25が継続的に測定した共振周波数である測定値は、計算装置26に出力されている。計算装置26内には演算装置27が配置されており、この演算装置27によって算出や判断が成されており、入力された測定値と測定時刻とが含まれる測定結果から、水晶振動子15の検出面22上の薄膜の膜厚を求め、予め設定された膜厚の関係から、検出面22の薄膜の膜厚値を、成膜面21の薄膜の膜厚値に換算する。二個以上の測定結果(測定値と、測定値の測定時刻)から、その測定結果間に成長した薄膜の膜厚増加量が求められ、膜厚増加量を求めた測定結果以前に求めた膜厚に膜厚増加量を加算することで、最新の膜厚が求められる。
【0018】
計算装置26には入力された共振周波数の測定値の測定時刻が分かるようになっており、換算した膜厚値と測定時刻とから、成膜面21上の薄膜の成長速度を算出し、設定された基準値と比較して、成長速度が基準値を含む所定範囲内に含まれるように、成膜源17を制御して、成膜源17からの蒸気放出速度を制御できるようになっている。
【0019】
成膜源17の蒸気放出速度に変動が無く、蒸気放出速度が一定値の場合、共振周波数と測定時間の間には一次式である線形関係が形成され、線形関係が維持されるときは、成膜速度は線形関係の傾きなので、一定値となる。
他方、熱や真空槽11内の圧力変動等の膜厚変化以外の要因によって、水晶振動子15の共振周波数の測定値は影響を受ける。
【0020】
上記成膜装置10の水晶振動子15では、シャッター19が開けられる前は加熱されず、室温が維持されるのに対し、薄膜材料の微小粒子は高温であるため、シャッター19を開けて薄膜材料の微小粒子が検出面22や成膜面21に到達すると、水晶振動子15や成膜対象物16は昇温する。
【0021】
水晶振動子15は、保持器具への取付部分等から熱が放出されるため、微小粒子が継続して到達しても、温度上昇速度は次第に小さくなるが、シャッター19が開けられたときの温度上昇は大きいため、シャッター19を開けたときの測定結果には大きな影響が与えられる。
【0022】
図2のグラフは、横軸は、成膜開始前の所定時刻を基準時刻とし、基準時刻からの時間である測定時刻を示しており、縦軸は、測定した共振周波数の値であり、同図中の符号L1は、測定時刻上の共振周波数の測定値を結んだ曲線であり、シャッター19を開けたときの共振周波数の測定値の急上昇があった場合を示している。符号t0は、シャッターを開けて薄膜成長を開始した開始時刻を示している。
【0023】
この曲線L1によると、急激な温度上昇により、共振周波数の測定値が急激に増加した後、温度の上昇速度が小さくなり、検出面22への薄膜成長による影響が共振周波数の変化に対して支配的になり、共振周波数が低下する。低下が開始された後、共振周波数の測定値と時刻の間に線形関係が形成されている。
【0024】
薄膜形成の開始時刻t0から、共振周波数が開始時刻t0の値に回復して線形関係が形成された時刻までの間には、この曲線L1に従って膜厚を求めると、検出面22に形成される薄膜の膜厚はゼロとなってしまい、測定値に基づく膜厚は、実際よりも小さい値となる。
シャッター19を開けたときに、検出面22に、薄膜を形成する微小粒子が到達しない状態から到達が開始される状態になる。
【0025】
蒸着法では、微小粒子は薄膜材料の蒸気であり、スパッタリングでは、ターゲットを構成する薄膜材料のスパッタリング粒子である。
検出面22への微小粒子の到達により、水晶振動子15の温度が急上昇すると、その水晶振動子15の温度も急上昇する。
【0026】
計算装置26内の記憶装置28には、制御手順が記憶されており、測定装置25に接続されている計算装置26の演算装置27は、記憶装置28に記憶された演算手順に従って、次にように動作する。
測定装置25内には時計が設けられており、共振周波数を測定した測定時刻が分かるようになっており、成膜を開始すると、共振周波数の測定値と、その測定値の測定時刻とが記憶装置28に記憶される。
【0027】
水晶振動子15上では、検出面22に形成された薄膜の膜厚と、共振周波数の変化量は比例関係にあり、薄膜の成長速度が一定値である場合は、共振周波数の測定時刻と測定値との間には、一次式が成立し、線形関係にある。
【0028】
ここで、所定の基準時刻からの経過時間x(x=測定時刻−基準時刻)との間に線形関係があり、共振周波数の値yとの間に、次の一次式、
y = a*x+b …… (1)
が成立するときには、共振周波数の測定時刻と共振周波数の値とから、最小二乗法によって、上記(1)式の“傾きa”の値と、“y切片b”の値とが求められる。
【0029】
水晶振動子15の共振周波数は、検出面22に形成された薄膜の膜厚が厚くなると低下するので、薄膜が成長している時には共振周波数が増加することはない。
この計算装置26は、所定の許容上昇値を超えて共振周波数の上昇を検出すると、温度急上昇があったものと判断し、その測定値は異常値として分類して、最小二乗法の計算には用いられないように、算出に用いる測定値の範囲から除外する。
【0030】
本例では、温度急上昇による共振周波数の上昇後、測定時刻と測定値とが線形関係になるまでに必要な回復時間が予め分かっており、共振周波数の急上昇による異常を検出したときは、予め記憶された回復時間が経過すると、線形関係が成立したものとし、回復時間経過後に測定した共振周波数の測定値は正常であるものとして記憶する。
【0031】
また、得られた測定値のうち、最新の測定値の測定時刻に近い複数の測定値に、測定時刻と測定値の間に線形関係が成立したことを検出すると、線形関係が成立した測定値は正常であるものとして記憶するようにしても良い。
【0032】
記憶装置28には(1)式を算出する際に用いる測定値の最小個数が記憶されており、いずれにしろ、線形関係が成立した後、共振周波数が最小個数個連続して測定されて、最小個数個の正常な測定値が得られると、最小二乗法により、(1)式の“傾きa”と“y切片b”とを算出する。
算出した“傾きa”と“y切片b”とを有する(1)式と、開始時刻t0の時刻を示す値とから、(1)式に従って測定値が変化したときの、開始時刻t0に於ける共振周波数f0が求められる。
【0033】
そして、開始時刻t0の値及び開始時刻t0に於ける共振周波数f0の値と、正常な測定値とその測定時刻の値とから、開始時刻t0から正常な測定値が得られた測定時刻までに成長した薄膜の初期膜厚を、(1)式に従って算出することができる。
開始時刻t0から正常な測定値が得られた測定時刻までの時間が、回復時間の場合は、回復時間中に成長した薄膜の初期膜厚が算出される。
【0034】
正常な測定値が得られた後の膜厚に初期膜厚を加算すると、開始時刻から現在の測定時刻までの間に成長した薄膜の膜厚を算出することができる。算出した膜厚は、温度急変による異常な測定値が検出されなかった場合と等しい値であり、共振周波数の急変が無かったものとした場合の値である。
【0035】
次に、正常な測定値が得られている状態から、異常な測定値が得られた場合の処理手順を説明する。この場合、既に最小個数個の正常な測定値が得られており、(1)式の“傾きa”と“y切片b”とが算出されているものとする。なお、ここで既に算出されている“傾きa”と“y切片b”は、温度急上昇の回復後に得られた線形関係も含む(第一の線形関係)。
線形関係が形成されていると判断しているときは、新しい測定結果が得られると、計算装置26は、先ず、その測定結果中の測定値と、既に求めた(1)式との間の差の絶対値である誤差や、直前の測定値との間の差の絶対値である誤差の値が、予め記憶された許容誤差以下であるかどうかを判断する。
【0036】
誤差の値が許容誤差以下であったときは、その誤差を有する測定値は正常であると判断し、最新の測定値として算出に用いる測定値に加え、“傾きa”と“y切片b”とを算出し直す。
【0037】
記憶装置28には、最小個数以上の整数値が算出個数として記憶されており、算出に用いられる測定値の個数が算出個数に達した後は、最新の正常な測定値が得られると、その測定値を算出に用いる測定値に加えると共に、直前の算出に用いた測定値のうち、最も古い測定時刻の測定値を算出に用いる測定値から除外する。その結果、一定の算出個数が維持され、最新の測定値を含む算出個数の測定値と、それら測定値に対応する測定時刻とによって、(1)式の“傾きa”と“y切片b”とを算出する。
【0038】
最新の測定値について、既に算出した(1)式との間の誤差や、直前の測定値との間の差である誤差の値が、許容誤差以内ではなかった場合は、直前に“傾きa”と“y切片b”とを求めた(1)式と測定時刻によって、共振周波数の値を算出し、算出した共振周波数から、膜厚を求め、異常な測定値から求めた膜厚ではなく、測定時刻と(1)式とから求めた膜厚を、その測定時刻の膜厚とする。従って、正常な測定値から求めた膜厚(ここでは、測定値から求めた膜厚に、初期膜厚が加算された値である)に、異常な測定値が出力されている間に異常な測定値が出力されている間の時間と(1)式によって求めた補正膜厚値が加算されることになり、異常値が除外される結果、膜厚の値が途切れて実際よりも小さい値の膜厚値が出力されることはない。
【0039】
異常な測定値が測定される状態で、設定された測定時刻毎や所定間隔で測定を継続し、測定値の誤差が許容誤差以内になった場合や直前の測定値との間の差が所定値よりも小さくなった場合には、異常事態が終了したと判断し、測定値が正常な値に戻ったものとする。
そして、異常が解消し、正常に戻ったとされた測定値を測定した解消時刻以後は、測定値と測定時刻から求める膜厚の増加量は、異常な測定値が測定される直前の膜厚に、補正膜厚値が加算された膜厚に加算されて、現在の膜厚が求められる。そして、解消時刻後、測定値の個数が最小個数又は算出個数に達したときに、“傾きa”と“y切片b”とを算出し直し、新しい線形関係(第二の線形関係)を求める。
【0040】
なお、異常値が出力されている間の膜厚は、正常な測定値に戻った後の“傾きa”と“y切片b”とを有する(1)式によって算出し、正常な測定値から求めた膜厚に加算してもよい。
【0041】
図3のグラフは、横軸は、所定時刻を基準時刻とし、基準時刻からの時間を示す測定時刻であり、縦軸は、共振周波数から求めた成膜面21上の薄膜の膜厚を示している。図中の符号L2は、測定値から求めた膜厚と測定時刻の間が、線形関係に従って変化している状態を示している。図3のグラフは、この直線L2の線形関係にある状態から、測定値が急変して異常になり、曲線(直線)L3に従って変化した後線形状態が回復して直線L4に従って変化する場合を示している。符号t0は成膜を開始した開始時刻である。
【0042】
なお、一旦正常な測定値に回復した後であっても、測定値の誤差が許容誤差を超えたときには、上記手順と同様に、求めた“傾きa”と“y切片b”とを有する(1)式と、測定時刻とから、共振周波数を算出し、その測定時刻の共振周波数として膜厚を求める。これも、測定値が正常な値に回復するまで行われる。
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、薄膜形成直後の温度急上昇による異常や、線形関係が維持されている正常な状態から、誤差が許容誤差を超える異常な状態になったとき、膜厚の値が途切れないようにすることができる。
また、本発明によれば、急変が解消されたと判断する測定結果の測定時刻である解消時刻の成膜面の膜厚は、急変直前の膜厚に、急変の開始後、急変が解消するまでの時間と第一の線形関係とから求めた補正膜厚値を加算して求めることができ、さらに、解消時刻後の膜厚増加量は、解消時刻後の測定結果から算出して、補正膜厚値を加算して求めた膜厚値に加算すれば、最新の膜厚を求めることができる。
【0044】
この場合、解消時刻後の測定結果から、測定値と測定時刻との間の第二の線形関係を求めておき、その第二の線形関係が求められた後に、別の急変が生じて測定値が異常になるときがある。
そのような別の急変が生じる前の第二の線形関係が維持されるものとすれば、別の急変後の測定時刻と第二の線形関係とから、別の急変後に成膜面に成長した薄膜の膜厚増加量を求めることができ、急変直前の膜厚値に加算すれば、最新の膜厚を求めることができる。
【0045】
なお、成膜面21の薄膜の膜厚は、検出面22の薄膜の膜厚を換算して求められ、成膜面21上の薄膜の成長速度は、測定時間間隔と検出面22上の膜厚増加量から求めることができ、成膜源17内の加熱装置への通電量や、成膜源17に接続されたスパッタ電源の出力電圧を制御することで、薄膜材料の微粒子の放出量を制御し、成膜面21上の薄膜の成長速度を一定値にすることができる。
【0046】
水晶振動子15の出力信号と、上記(1)式とに基づいて算出した成膜対象物16の成膜面21の薄膜の膜厚が所定膜厚に達したところで、シャッター19を閉じ、次いで、薄膜材料の微小粒子(蒸気)の放出を停止させ、薄膜が形成された成膜対象物16を真空槽11から搬出し、薄膜が未成膜の成膜対象物16を真空槽11内に搬入し、薄膜形成を開始する。
【符号の説明】
【0047】
10……成膜装置
11……真空槽
13……基板ホルダ
15……水晶振動子
16……成膜対象物
17……成膜源
25……測定装置
26……計算装置
29……真空排気装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気中に成膜対象物と水晶振動子を配置し、前記成膜対象物の成膜面と前記水晶振動子の検出面とに一緒に薄膜を成長させ、
前記水晶振動子の共振周波数を測定し、測定結果から前記成膜面に成長した前記薄膜の厚さを求める膜厚測定方法であって、
前記検出面に、前記薄膜を形成する微小粒子が到達しない状態から到達が開始された際に、前記共振周波数の値の急上昇を検出すると、
前記共振周波数の値と測定時刻との間に第一の線形関係が形成されたと判断できる値の前記共振周波数が測定された後、
前記微小粒子が前記成膜面に到達した時刻から、所望の時刻までの間、前記検出面上の前記薄膜の膜厚は、前記第一の線形関係に従って増加したとして、測定結果から前記成膜面に成長した前記薄膜の前記膜厚を求める膜厚測定方法。
【請求項2】
測定した前記共振周波数の値が、測定時刻に対して前記第一の線形関係を維持しながら変化しているときに、測定した前記共振周波数の値が急変して前記第一の線形関係を維持しなくなったと判断した場合には、
前記急変が生じた後も、前記急変が生じる前の前記第一の線形関係が維持されるものとして、前記急変の開始後は、前記第一の線形関係と前記急変後の測定時刻とから前記成膜面に成長する前記薄膜の膜厚増加量を算出して、前記急変の開始後の前記薄膜の前記膜厚を求める請求項1記載の膜厚測定方法。
【請求項3】
前記急変後の前記共振周波数の測定結果から、前記急変が解消されたと判断した場合には、前記急変の解消を判断した前記共振周波数の測定結果が得られた時刻以後の時刻の測定結果から、第二の線形関係を求め、
前記第二の線形関係を求めた前記測定結果から求めた前記成膜面の前記薄膜の膜厚の値から、その前記測定結果の経過時間と前記第一の線形関係とから求めた前記成膜面の前記膜厚の値を差し引いた値を、前記線形結果から求めた前記成膜面の膜厚の値に加算する請求項2記載の膜厚測定方法。
【請求項4】
前記第二の線形関係が求められた後に、前記急変が生じたときには、前記急変が生じる前の前記第二の線形関係が維持されるものとして、前記測定結果から前記成膜面の前記薄膜の膜厚を求める請求項3記載の膜厚測定方法。
【請求項5】
成膜対象物が配置される真空槽と、
前記真空槽内を真空排気する真空排気装置と、
前記真空槽内に配置され真空雰囲気中で前記成膜対象物の成膜面に薄膜材料を到達させる成膜源と、
前記真空槽内で、前記成膜面への前記薄膜材料の到達を妨げない位置に配置された水晶振動子と、
前記水晶振動子に接続され、前記水晶振動子の前記共振周波数を測定する測定装置と、
前記測定装置に接続され、前記共振周波数が入力される計算機とを有し、
前記計算機は、前記検出面に、前記薄膜を形成する微小粒子が到達しない状態から到達が開始された際に、前記共振周波数の値の急上昇を検出すると、
前記共振周波数の測定値と測定時刻との間に線形関係が形成されたと判断した後、
前記微小粒子が前記成膜面に到達した時刻から、所望の時刻までの間、前記検出面上の前記薄膜の膜厚が、前記線形関係に従って増加したとして前記成膜面に成長した前記薄膜の厚さを求めるように構成された蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−11545(P2013−11545A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145257(P2011−145257)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】