説明

蒸着装置および方法、固体検出器の製造方法

【課題】蒸着装置および方法において、突沸により発生した物質を捕捉するとともに、十分な膜厚を安定して確保する。
【解決手段】蒸着材料5を加熱して、蒸発した該蒸着材料を基板3に蒸着させる蒸着装置1は、蒸着材料5を収容する本体11と、蒸着材料5より上方に配置されて蒸着材料5の突沸により発生する物質を捕捉する捕捉部材12とを有する蒸着ボート6と、蒸着ボート6を加熱する加熱手段7とを備える。蒸着の際に、捕捉部材12の温度が、蒸着材料5の温度以上となるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着ボートを用いて真空加熱蒸着を行う蒸着装置および方法、該蒸着装置を用いた固体検出器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、真空の処理室内で蒸着材料を蒸発させて基板に成膜を行う蒸着装置において、蒸着ボートを用いたものが広く知られている。このような装置では、略ボート型の蒸着ボートの内部に蒸着材料を収容し、抵抗加熱や外部加熱により蒸着ボートを加熱して、蒸着材料を蒸発させる。
【0003】
ところで、蒸着過程においては、蒸着材料の突沸により、団子状の粒子が一度に蒸発し、基板に付着して突起状の欠陥を形成することがある。そこで、蒸着材料を収容する容器の上に金網を設け、金網を通した蒸気により成膜を行う蒸着ボートが提案されている(例えば特許文献1参照)。また、本体の上部に孔を有する複数のカバーを配置し、各カバーの孔の位置を考慮することで突沸により発生した物質を捕捉する蒸着ボートが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−126838号公報
【特許文献2】特開平5−339709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような金網や孔あきの複数のカバーを設けた蒸着ボートでは、欠陥の原因となる突沸により発生した物質が捕捉されるが、それ以外の通常の蒸発中の蒸着材料も金網やカバーに捕捉されてしまっていた。そのため、網目の目詰まりやカバーの孔の詰まりが著しいものとなり、蒸着材料の基板への蒸着が妨げられ、結果として十分な膜厚が得られないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、突沸により発生した物質を捕捉するとともに、十分な膜厚を安定して確保可能な蒸着装置および方法を提供することを目的とする。また、本発明は、十分な厚みを有する光導電層を安定して形成することが可能な固体検出器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蒸着装置は、蒸着材料を加熱して、蒸発した該蒸着材料を基板に蒸着させる蒸着装置において、前記蒸着材料を収容する本体と、前記蒸着材料より上方に配置されて前記蒸着材料の突沸により発生する物質を捕捉する捕捉部材とを有する蒸着ボートと、前記蒸着ボートを加熱する加熱手段とを備え、蒸着の際に、前記捕捉部材の温度が前記蒸着材料の温度以上になるように構成したことを特徴とするものである。
【0007】
捕捉部材は、例えば、通過する物質の大きさを制限する多孔性部材により構成してもよく、あるいは蒸発した蒸着材料の基板への直進を遮る邪魔板により構成してもよい。多孔性部材としては、具体的には例えば、網を用いることができる。また、多孔性部材の孔の形状は円形や正方形に限定されず、細長い長孔でもよく、一方向の径が所定の大きさ以下の孔であればよい。
【0008】
捕捉部材が多孔性部材からなるときには、蒸着ボートが、多孔性部材に近接配置されて多孔性部材を加温する加温部材を有することが好ましく、その際には、本体、多孔性部材および加温部材は、金属製であり、加熱手段により一体的に通電加熱されるものであり、抵抗加熱による発熱量Wrと表面からの放射熱量Wsに関して、(加温部材におけるWr−Ws)>(本体におけるWr−Ws)となるように構成してもよい。
【0009】
なおここで、「一体的に通電加熱」とは、例えば1つの電源で本体、多孔性部材および加温部材に電流を流して抵抗加熱により蒸着ボートを加熱することであり、本体、多孔性部材および加温部材それぞれに印加される電圧は等しくなる。そして、この場合、本体および加温部材それぞれにおける抵抗加熱による発熱量Wrは各部材の抵抗に基づいたものになり、抵抗が大きいほど発熱量Wrは小さくなる。また、本体および加温部材それぞれにおける表面からの放射熱量Wsは各部材の表面積と放射率(輻射率)に基づいたものになる。
【0010】
あるいは、捕捉部材を本体の内部に配置し、蒸着の際に、前記加熱手段が、捕捉部材の温度が蒸着材料の温度以上になるように温度分布をつけて蒸着ボートを外部加熱するようにしてもよい。
【0011】
蒸着材料は、例えばSe、またはSe−As系合金等を用いることができる。
【0012】
また、本発明の蒸着方法は、蒸着材料が収容された本体と、前記蒸着材料より上方に配置されて前記蒸着材料の突沸により発生する物質を捕捉する捕捉部材とを有する蒸着ボートを用いて蒸着を行う蒸着方法であって、前記捕捉部材の温度を前記蒸着材料の温度以上にして蒸着することを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の固体検出器の製造方法は、記録光の照射を受けることにより導電性を呈する光導電層を含む静電記録部を備えてなり、画像情報を担持する記録光の照射を受けて前記画像情報を記録し、記録した前記画像情報を表す画像信号を出力する固体検出器の製造方法において、上記記載の蒸着装置を用いて、前記光導電層を形成することを特徴とするものである。
【0014】
なおここで、「記録光」とは、放射線、および放射線から変換された蛍光等の光も含むものとする。
【発明の効果】
【0015】
従来の金網やカバーを有する蒸着ボートにおいて、突沸により発生した物質だけでなく通常の蒸発中の蒸着材料も金網やカバーに捕捉されるのは、金網やカバーが蒸着材料よりも低温であるため、蒸着材料が蒸発していく途中で網目やカバーの孔等の小径の経路を通過する際、蒸発中の蒸着材料が液化または固化してしまうためだと考えている。
【0016】
本発明の蒸着装置および方法によれば、蒸着の際に、捕捉手段の温度が蒸着材料の温度以上になるように構成しているため、通常の蒸発中の蒸着材料が捕捉手段を通過する際、液化または固化して捕捉手段に捕捉されてしまうことはなく、捕捉手段を通過して基板に膜を形成することができる。よって、網目の目詰まりやカバーの孔の詰まりが低減され、十分な膜厚を安定して確保できる。また、網目の目詰まりやカバーの孔の詰まりのために、無駄に消費される蒸着材料を低減できる。
【0017】
前記捕捉部材が、通過する物質の大きさを制限する多孔性部材からなるとした場合には、網や、板に孔を設けた部材等を用いて簡易に構成できる。また、孔の大きさを小さくすることにより、さらに小径の突沸により発生する物質を捕捉することができる。
【0018】
前記蒸着ボートが、前記多孔性部材に近接配置されて前記多孔性部材を加温する加温部材を有し、前記本体、前記多孔性部材および前記加温部材は、金属製であり、前記加熱手段により一体的に通電加熱されるものであり、抵抗加熱による発熱量Wrと表面からの放射熱量Wsに関して、(前記加温部材におけるWr−Ws)>(前記本体におけるWr−Ws)となるように設定されている場合には、本体より加温部材の方を高温にできる。そして、加温部材と多孔性部材は近接配置されているため、多孔性部材を加温部材により加温して、多孔性部材の温度を本体内部に収容されている蒸着材料の温度以上にできる。このように、本体と多孔性部材を個別に温度制御することなく、一体的に通電加熱するだけで、簡易な装置構成で多孔性部材の温度を蒸着材料の温度以上にすることができ、十分な膜厚を安定して確保できる。
【0019】
また、多孔性部材が、本体の内部に配置され、加熱手段が、多孔性部材の温度が蒸着材料の温度以上になるように温度分布をつけて蒸着ボートを外部加熱するものである場合には、本体と多孔性部材とを個別に温度制御することなく、多孔性部材の温度を蒸着材料の温度以上にすることが可能になる。
【0020】
捕捉部材が、蒸発した蒸着材料の前記基板への直進を遮る邪魔板からなる場合には、邪魔板の段数を増加させることにより、より多数の突沸により発生する物質を捕捉することができる。また、邪魔板が、本体の内部に配置され、前記加熱手段が、邪魔板の温度が蒸着材料の温度以上になるように温度分布をつけて蒸着ボートを外部加熱するものである場合には、本体と邪魔板とを個別に温度制御することなく、邪魔板の温度を蒸着材料の温度以上にすることが可能になる
本発明の固体検出器の製造方法によれば、上述したように、十分な膜厚を安定して確保可能な蒸着装置を用いて光導電層を形成しているため、安定した生産性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の蒸着装置および方法の実施形態を詳細に説明する。本発明の蒸着装置は、蒸着材料を加熱して蒸発させて、これを基板に蒸着させることにより基板に膜を形成するものである。図1は本発明の第1の実施形態による蒸着装置の概略構成を示す模式図である。蒸着装置1は、処理室2と、処理室2の内部の上面に設けられて基板3を保持する基板ホルダ4と、蒸着材料5を収容する蒸着ボート6と、蒸着ボート6を加熱する加熱手段である電源7とを備える。本実施形態では、抵抗加熱により蒸着ボート6を加熱して、昇華性の蒸着材料5を蒸発させる例について説明する。
【0022】
蒸着ボート6は、処理室2の底面に直立した2つの支持部材8にねじ等を用いて着脱自在に固定されている。支持部材8の下端は処理室2の外部に設けられた電源7に電気的に接続されている。支持部材8は、金属製であり、蒸着ボート6を支持するとともに、電極としての役割も果たす。
【0023】
図2に蒸着ボート6の分解斜視図を示す。蒸着ボート6は、蒸着材料5を収容する凹部11aが形成された本体11と、蒸着材料5の上方に配置される網板12と、網板12の上方に網板12に近接配置される上板13から構成され、これらは全て金属製である。本実施形態においては、本体11と上板13は同じ材質からなる。また一例として、蒸着ボート6の大きさは、長手方向が4cm、短手方向が1.5cmである。
【0024】
図2に示すように、本体11は長手方向の両端が平坦面であり、中央部に凹部11aが形成されている。網板12は、網目構造をとる網からなり、その網目は例えば50μmである。網板12は、通過する物質の大きさを制限する多孔性部材であり、より詳しくは蒸着材料5の突沸により発生する物質を捕捉する捕捉部材として機能するものである。
【0025】
上板13は、板状の部材に網板12の網目より大きな孔13aを複数設けた構成をとる。上板13は網板12を加温する加温部材として設けられたものである。上板13の厚みは、本体11より厚い。また、上板13および本体11は、抵抗加熱による発熱量Wrと表面からの放射熱量Wsに関して、(上板におけるWr−Ws)>(本体におけるWr−Ws)となるように設定されている。具体的には、上記式を満たすように、上板13および本体11の抵抗、表面積、放射率(輻射率)を考慮して、その材質や形状を選択することで実現できる。なお、上板13に設ける孔の数や形状は任意に設定でき、例えばその数は1つでもよい。
【0026】
蒸着時は、図1に示すように、本体11、網板12、上板13はこの順に長手方向をそろえて重ねられ一体化した状態で、長手方向の両端をそれぞれ2つの支持部材8に固定される。このとき、網板12は、その上面で上板13と接触し、両端下面で本体11と接触している。なお、本実施形態では網板12と上板13は接触しているが、網板12の温度が蒸着材料の温度以上となるように上板13が網板12を加温できるのであれば両者の間に隙間があってもよい。
【0027】
次に、蒸着装置1の動作について説明する。蒸着材料5を収容した蒸着ボート6を支持部材8に固定し、処理室2内を真空にした状態で、電源7により支持部材8に電流を流すと、本体11、網板12、上板13は一体的に通電加熱される。蒸着ボート6の加熱に伴い、凹部11a内部の蒸着材料5も加熱されて、蒸発した蒸着材料5は、網板12の網目を通り、上板13の孔13aを通って基板3に達し、膜が形成される。なお、実際には蒸着ボート6と基板3の間に不図示のシャッターが設けられており、加熱時初期はこのシャッターは閉じられており、加熱が進み、定常状態になったときにシャッターを開放して蒸着を行う。
【0028】
蒸着ボート6の加熱において、上板13と本体11の温度は、抵抗加熱による発熱量Wsと、表面からの放射熱量Wsの差に関係する。上板13と本体11は上記したように設定されているため、上板13の方が本体11より高温になる。上板13と網板12は接触しているため、網板12は上板13により加温されて上板13とほぼ同じ温度となる。本体11内部の蒸着材料5は本体11とほぼ同じ温度である。よって、定常状態では、網板12の温度は蒸着材料5の温度以上となる。すなわち、本実施形態では、上記のように設定された上板13を設けることにより、網板12と本体11を個別に温度制御することなく、1つの電源を用いるだけで、蒸着の際、網板12の温度を蒸着材料5の温度以上にするようにしている。
【0029】
したがって、蒸発中の蒸着材料5が網板12を経由するときに液化または固化して網板12に捕捉されることはなく、網板12を通過して膜を形成できる。一方、蒸着材料5の突沸により発生する物質は、網目の大きさ以上のものであれば網板12により捕捉できる。
【0030】
一例として、本体11および上板13の材質をタンタル、網板12の材質をステンレスとし、網板12の網目の大きさが50μmとした上記構成の蒸着ボートを用い、蒸着材料5にSe−As系合金(90%:10%)を用いて蒸着する実験を行った。このときの蒸着材料5の温度は440℃、網板12の温度は445℃であり、得られた膜厚は0.2μmであった。また突沸により発生した粒子が膜に付着してできる突起状欠陥は0個/cmであった。
【0031】
比較例として、上板13を除去して、同量の蒸着材料を用いて蒸着する実験では、網板12の温度は430℃以下になり、このとき得られた膜厚0.1μmであった。また、別の比較例として、上板13および網板12を用いずに同量の蒸着材料を用いて蒸着する実験では、突沸により発生した粒子が膜に付着してできる突起状欠陥は5個/cmであった。
【0032】
上記実験結果によれば、網板12を蒸着材料5より高温にした場合は、網板12が蒸着材料5より低温の場合に比べ、膜厚を2倍にすることができた。また、網板12により突起状欠陥を防止する効果も確認できた。
【0033】
網板を有する蒸着ボートでは、網目を小さくするほど、突沸により発生した物質をより多く捕捉でき、突起状欠陥を低減できる。従来の網板が蒸着材料より低温となっていた蒸着ボートでは、通常の蒸発した蒸着材料も網板で捕捉されていたため、単に網目を小さくしたのでは、さらに網目が目詰まりしやすくなり、膜厚が低下してしまう。これに対して、本実施形態の構成によれば、網板の温度を蒸着材料の温度以上としているため、通常の蒸発した蒸着材料は網板で捕捉されず、網目をさらに小さくすることが可能となる。この場合は、より小さな物質を捕捉できるため、突起状欠陥を低減でき、膜の品質の向上が期待できる。なお、網目の大きさとしては例えば0.1μm〜50μmが好ましいと考えられる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施形態による蒸着装置および方法について説明する。図3は本発明の第2の実施形態による蒸着装置の概略構成を示す模式図である。本実施形態の蒸着装置201は、第1の実施形態の蒸着装置1と比べて、蒸着ボートの構成および該蒸着ボートを加熱する構成が異なる。以下、第1の実施形態と同様の構成については同じ符号をつけてその説明を省略する。
【0035】
蒸着装置201は、処理室2と、処理室2の内部の上面に設けられて基板3を保持する基板ホルダ4と、蒸着材料25を収容する蒸着ボート26と、蒸着ボート26の周囲の所定位置に複数設けられたランプヒータ27と、複数のランプヒータ27を制御するコントローラ28とを備える。複数のランプヒータ27およびコントローラ28は、蒸着ボート26を外部加熱する加熱手段である。なお、図3において蒸着ボート26の支持部材の図示は省略している。なお、図3において図の煩雑化を避けるため、ランプヒータ27の符号は1つにのみ付している。本実施形態では、ランプヒータ27により蒸着ボート26を加熱して、溶融性の蒸着材料25を蒸発させる例について説明する。
【0036】
図4に蒸着ボート26の斜視図を示す。蒸着ボート26は、長手方向に垂直な断面がU字型の箱形で、その底部に蒸着材料25が収容される本体21と、本体21の内部であり蒸着材料25の上方に配置される網板22とから構成される。一例として、蒸着ボート26の大きさは、長手方向が20〜30cm、短手方向が5cmである。網板22は、網目構造をとる網からなり、その網目は例えば50μmである。網板22は、通過する物質の大きさを制限する多孔性部材であり、より詳しくは蒸着材料25が加熱されて突沸したとき発生する物質を捕捉する捕捉部材として機能するものである。
【0037】
図3は蒸着ボート26の長手方向から見た断面図である。図3に示す方向において、ランプヒータ27は蒸着ボート26の底辺近傍に1つ、上端より少し下の位置に左右それぞれ1つずつ、これらのほぼ中間の高さの位置に左右それぞれ1つずつ配置されている。すなわち、ランプヒータ27は蒸着ボート26の高さ方向において、高、中、低の3つの位置に配置されている。そして、網板22はそのうち高の位置のランプヒータ27の近傍であり、かつこのランプヒータ27のやや下の高さに配置されている。また、中および低の位置のランプヒータ27は、蒸着材料25を囲むように位置している。コントローラ28により、ランプヒータ27は、高、中、低の位置ごとに制御可能なように構成されている。なお、ランプヒータ27の制御は上記例に限定されず、全てのランプヒータ27を個別に制御可能なように構成してもよい。
【0038】
次に、蒸着装置201の動作について説明する。蒸着材料25を収容した蒸着ボート26を処理室2内に設置し、処理室2内を真空にした状態で、ランプヒータ27により蒸着ボート26が加熱され、これに伴い蒸着ボート26内部の蒸着材料25も加熱される。そして、蒸発した蒸着材料25は、網板22の網目を通って基板3に達し、膜が形成される。なお、実際には蒸着ボート26と基板3の間に不図示のシャッターが設けられており、加熱時初期はこのシャッターは閉じられており、加熱が進み、定常状態になったときにシャッターを開放して蒸着を行う。
【0039】
上記加熱時は、コントローラ28により、網板22の温度が蒸着材料25の温度以上になるように、ランプヒータ27を制御して、高さ方向に蒸着ボート26に温度分布をつけて加熱する。
【0040】
一例として、本体21および網板22の材質をステンレスとし、網板22の網目の大きさを50μmとした上記構成の蒸着ボートを用い、蒸着材料25にSeを用いて蒸着する実験を行った。このときの蒸着材料25の温度は250℃、網板22の温度は256℃であり、得られた膜厚は200μmであった。また突沸により発生した粒子が膜に付着してできる突起状欠陥は3個/cmであった。
【0041】
比較例として、網板22を本体21の上面の高さに配置して、同量の蒸着材料を用いて蒸着する実験では、蒸着材料25の温度は250℃、網板22の温度は240℃になり、このとき得られた膜厚は190μmであった。また、別の比較例として、網板22を用いずに同量の蒸着材料を用いて蒸着する実験では、突沸により発生した粒子が膜に付着してできる突起状欠陥は50個/cmであった。
【0042】
上記実験結果によれば、網板22を蒸着材料25より高温にした場合は、網板22が蒸着材料25より低温の場合に比べ膜厚を厚くすることができた。また、網板22により、突沸による突起状欠陥を防止する効果も確認できた。本実施形態についても第1の実施形態と同様に、通常の蒸発した蒸着材料25は網板22で捕捉されないため、網目をさらに小さくすることが可能となり、より小さな物質を捕捉して突起状欠陥を低減し、膜の品質を向上させることが期待できる。
【0043】
次に、本発明の第3の実施形態による蒸着装置および方法について説明する。図5は本発明の第3の実施形態による蒸着装置の概略構成を示す模式図である。本実施形態の蒸着装置301は、第2の実施形態の蒸着装置201の蒸着ボート26を蒸着ボート36に置換したものである。以下、第2の実施形態と同様の構成については同じ符号をつけてその説明を省略する。
【0044】
蒸着装置301は、処理室2と、処理室2の内部の上面に設けられて基板3を保持する基板ホルダ4と、蒸着材料25を収容する蒸着ボート36と、蒸着ボート36の周囲の所定位置に複数設けられたランプヒータ27と、複数のランプヒータ27を個別に制御するコントローラ28とを備える。なお、図5において蒸着ボート36の支持部材の図示は省略している。本実施形態では、ランプヒータ27により蒸着ボート36を加熱して、溶融性の蒸着材料25を蒸発させる例について説明する。
【0045】
図6に蒸着ボート36の斜視図を示す。蒸着ボート36は、その外形が長手方向に垂直な断面がU字型の箱形の本体31を有し、その底部に蒸着材料25を収容するようになっている。本体31の内部には3枚の邪魔板32a、32b、32cが設けられている。邪魔板32a、32b、32cは、蒸着材料25が加熱されて突沸したとき発生する粒子を捕捉する捕捉部材として機能するものである。図5および図6に示すように、3枚の邪魔板32a、32b、32cは、蒸発した蒸着材料25が通過できるように隙間をあけて配置されているが、蒸発した蒸着材料25が直進して基板3に到達するのを遮るように配置されている。具体的には、邪魔板32b、32cが第2の実施形態において説明した高の位置のランプヒータ27の近傍であり、かつこのランプヒータ27のやや下の高さに配置されている。邪魔板32aは、邪魔板32b、32cよりさらに下に配置され、中の位置のランプヒーター27の近傍の高さに位置し、3枚の邪魔板32a、32b、32cは2段の構成となっている。また、低の位置のランプヒータ27は、蒸着材料25の近傍に位置する。
【0046】
次に、蒸着装置301の動作について説明する。蒸着材料25を収容した蒸着ボート36を処理室2内に設置し、処理室2内を真空にした状態で、ランプヒータ27により蒸着ボート36が加熱され、蒸着ボート36内部の蒸着材料25も加熱される。そして、蒸発した蒸着材料25は、邪魔板32a、32b、32cの間の隙間を通って基板3に達し、膜が形成される。なお、実際には蒸着ボート36と基板3の間に不図示のシャッターが設けられており、加熱時初期はこのシャッターは閉じられており、加熱が進み、定常状態になったときにシャッターを開放して蒸着を行う。
【0047】
上記加熱時は、コントローラ28により、邪魔板32a、32b、32cの温度が蒸着材料25の温度以上になるように、ランプヒータ27を制御して、高さ方向に蒸着ボート36に温度分布をつけて加熱する。
【0048】
一例として、本体31および邪魔板32a、32b、32cの材質をステンレスとした上記構成の蒸着ボートを用い、蒸着材料25にSeを用いて蒸着する実験を行った。このときの蒸着材料25の温度は250℃、邪魔板32a、32b、32cの温度は251℃であり、得られた膜厚は200μmであった。また突沸により発生した粒子が膜に付着してできる突起状欠陥は5個/cmであった。
【0049】
比較例として、同量の蒸着材料を用い、蒸着材料25の温度は250℃、邪魔板32a、32b、32cの温度は223℃として蒸着する実験では、得られた膜厚は180μmであった。また、比較例として、邪魔板32a、32b、32cを設けずに蒸着する実験では、突沸により発生した粒子が膜に付着してできる突起状欠陥は50個/cmであった。
【0050】
上記実験結果によれば、邪魔板32a、32b、32cを蒸着材料25より高温にした場合は、邪魔板32a、32b、32cが蒸着材料25より低温の場合に比べ膜厚を厚くすることができた。また、邪魔板32a、32b、32cにより、突沸による突起状欠陥を防止する効果も確認できた。
【0051】
邪魔板を有する蒸着ボートでは、邪魔板の段数を多くするほど、突沸により発生した物質をより多く捕捉でき、突起状欠陥を低減できる。しかし、温度を考慮せずに単に段数を多くしたのでは、邪魔板で通常の蒸発した蒸着材料が捕捉されて、膜厚が低下してしまう。これに対して、本実施形態の構成によれば、通常の蒸発した蒸着材料25は邪魔板32a、32b、32cで捕捉されないため、邪魔板の段数をさらに多くすることが可能となり、より多くの突沸により発生した物質を捕捉して突起状欠陥を低減し、膜の品質を向上させることが期待できる。
【0052】
次に、上記蒸着装置および方法を応用した固体検出器の製造方法について説明する。固体検出器は、X線撮影装置等に使用されるものであり、例えば、記録光の照射を受けることにより導電性を呈する光導電層を含む静電記録部を備えてなり、画像情報を担持する記録光の照射を受けて画像情報を記録し、記録した画像情報を表す画像信号を出力するものである。
【0053】
図7に固体検出器の一例の構成を示す。図7に示す固体検出器100は、ガラス等の光透過性の基板B上に、第1電極101、界面結晶化防止層102、読取用光導電層103、電荷輸送層104、記録用光導電層105、第2電極106をこの順に積層した構造を有する。
【0054】
第1電極101は、櫛形の電極構造を有し、例えばITO(Indium Tin Oxide)またはIZO(Indium Zinc Oxide)からなる。界面結晶化防止層102はSe−As系合金からなる。読取用光導電層103は、読取光の照射により導電性を呈し電荷対を発生する層であり、Seからなる。電荷輸送層104は、たとえば負電荷に対して略絶縁体として作用し、正電荷に対して略導電体として作用する機能を有するものであり、Se−As系合金からなる。記録用光導電層105は、記録用の電磁波(光または放射線)の照射によって導電性を呈し電荷対を発生するものであり、Seからなる。第2電極106は、Auからなる。第1電極101と第2電極106は信号を処理する不図示の信号処理部と電気的に接続される。
【0055】
上記構成のようなSe−As系合金およびSeを材料として含む固体検出器を製造する際には、蒸着装置の処理室内に、形成すべき層に応じて複数種類のSe−As系合金蒸着用、Se蒸着用の蒸着ボートを配置し、形成すべき層ごとに各種蒸着ボートを加熱して蒸着する。蒸着ボートとその加熱手段の構成は例えば上述の第1〜3の実施形態のものを用いることができる。
【0056】
より具体的には、基板B上に、第1電極101が形成されたものの上に、界面結晶化防止層102となるSe−As系合金を蒸着し、その上に読取用光導電層103となるSeを蒸着し、その上に電荷輸送層104となるSe−As系合金を蒸着し、その上に記録用光導電層105となるSeを蒸着し、その上に第2電極106を形成する。なお、当然のことながら、蒸着により層形成が可能な固体検出器であれば、上記例以外の固体検出器も本発明を適用して製造可能である。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいた変形が可能である。例えば、上記の実施形態では、加熱手段の種類として、抵抗加熱、ランプヒータを例示したが、外部ヒータ等の別の加熱手段を用いてもよい。上記の実施形態では、網板と本体、邪魔板と本体を一体的に加熱したが、個別に加熱手段を設けてもよく、その際に、網板と本体、邪魔板と本体で異なる加熱手段を用いてもよい。
【0058】
また、蒸着ボートの構成も上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいた変形が可能である。例えば、蒸着ボートの各部材を構成する材質は上記例に限定されず、モリブデン、タングステン、白金、ニッケル等も用いることができる。
【0059】
また、第1、第2の実施形態における網板12、22の代わりに、網板12、22の網目の大きさとほぼ同径の孔が形成された多孔性部材を用いてもよい。あるいは図8に示すような一方向が網板12、22の網目の大きさとほぼ同径であり、他方向はそれより長い孔42aが形成された多孔性部材42を用いてもよい。
【0060】
また、第1の実施形態において、網板12と上板13を一体化したような部材も採用可能である。なお、第1の実施形態では、網板12は、本体11の上面に接触するよう配置されているが、本体11の内部に網板12を配置し、この網板12にあわせて上板13を近接配置した構成も採用可能である。
【0061】
さらに、第3の実施形態で示した邪魔板を用いる構成では、邪魔板の枚数、段数等の構成は上記例に限定されず、任意に設定可能である。
【0062】
なお、第1の実施形態の蒸着ボート6に対しては昇華性材料を用い、第2、第3の実施形態の蒸着ボート26、36に対しては溶融性材料を用いた例について説明したが、蒸着ボート6、26、36全て、昇華性材料および溶融性材料のいずれにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施形態による蒸着装置の概略構成図
【図2】本発明の第1の実施形態による蒸着ボートの分解斜視図
【図3】本発明の第2の実施形態による蒸着装置の概略構成図
【図4】本発明の第2の実施形態による蒸着ボートの分解斜視図
【図5】本発明の第3の実施形態による蒸着装置の概略構成図
【図6】本発明の第3の実施形態による蒸着ボートの分解斜視図
【図7】固体検出器の構成を示す図
【図8】多孔性部材の変形例の構成を示す図
【符号の説明】
【0064】
1、201、301 蒸着装置
2 処理室
3 基板
4 基板ホルダ
5、25 蒸着材料
6、26、36 蒸着ボート
7 電源
8 支持部材
11、21、31 本体
11a 凹部
12、22 網板
13 上板
13a 孔
27 ランプヒータ
28 コントローラ
32a、32b、32c 邪魔板
100 固体検出器
101 第1電極
102 界面結晶化防止層
103 読取用光導電層
104 電荷輸送層
105 記録用光導電層
106 第2電極
B 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を加熱して、蒸発した該蒸着材料を基板に蒸着させる蒸着装置において、
前記蒸着材料を収容する本体と、前記蒸着材料より上方に配置されて前記蒸着材料の突沸により発生する物質を捕捉する捕捉部材とを有する蒸着ボートと、
前記蒸着ボートを加熱する加熱手段とを備え、
蒸着の際に、前記捕捉部材の温度が前記蒸着材料の温度以上になるように構成したことを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記捕捉部材が、通過する物質の大きさを制限する多孔性部材からなることを特徴とする請求項1記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記蒸着ボートが、前記多孔性部材に近接配置されて前記多孔性部材を加温する加温部材を有し、
前記本体、前記多孔性部材および前記加温部材は、金属製であり、前記加熱手段により一体的に通電加熱されるものであり、
抵抗加熱による発熱量Wrと表面からの放射熱量Wsに関して、
(前記加温部材におけるWr−Ws)>(前記本体におけるWr−Ws)
となるように設定されていることを特徴とする請求項2記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記多孔性部材が、前記本体の内部に配置され、
前記加熱手段が、前記多孔性部材の温度が前記蒸着材料の温度以上になるように温度分布をつけて前記蒸着ボートを外部加熱するものであることを特徴とする請求項2記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記捕捉部材が、蒸発した前記蒸着材料の前記基板への直進を遮る邪魔板からなり、
前記邪魔板が、前記本体の内部に配置され、
前記加熱手段が、前記邪魔板の温度が前記蒸着材料の温度以上になるように温度分布をつけて前記蒸着ボートを外部加熱するものであることを特徴とする請求項1記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記蒸着材料が、Se、またはSe−As系合金であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項7】
蒸着材料が収容された本体と、前記蒸着材料より上方に配置されて前記蒸着材料の突沸により発生する物質を捕捉する捕捉部材とを有する蒸着ボートを用いて蒸着を行う蒸着方法であって、
前記捕捉部材の温度を前記蒸着材料の温度以上にして蒸着することを特徴とする蒸着方法。
【請求項8】
記録光の照射を受けることにより導電性を呈する光導電層を含む静電記録部を備えてなり、画像情報を担持する記録光の照射を受けて前記画像情報を記録し、記録した前記画像情報を表す画像信号を出力する固体検出器の製造方法において、
請求項1から6のいずれか1項に記載の蒸着装置を用いて、前記光導電層を形成することを特徴とする固体検出器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−169729(P2007−169729A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369942(P2005−369942)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】