説明

蒸着装置並びに蒸着方法

【課題】基板の大型化に伴って蒸着マスクを同等に大型化せず基板より小形の蒸着マスクでも、基板を離間状態で相対移動させることで広範囲に蒸着マスクによる成膜パターンの蒸着膜を蒸着でき、また成膜パターンの重なりを防止すると共に、蒸発源からの輻射熱の入射を抑制し、高精度で高レートな蒸着が行える蒸着装置並びに蒸着方法を提供すること。
【解決手段】蒸発源1と基板4との間に、制限用開口部5を設けた飛散制限部を有するマスクホルダー6を配設し、このマスクホルダー6に前記蒸着マスク2を付設し、前記基板4を、前記蒸着マスク2を付設した前記マスクホルダー6及び前記蒸発源1に対して、前記蒸着マスク2との離間状態を保持したまま相対移動自在に構成し、前記蒸発源1は、線膨張係数がステンレス鋼より小さい材料で形成した蒸着装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスクによる成膜パターンの蒸着膜を基板上に形成させる蒸着装置並びに蒸着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた有機EL表示装置が、CRTやLCDに替る表示装置として注目されている。
【0003】
この有機EL表示装置は、基板に電極層と複数の有機発光層を積層形成し、更に封止層を被覆形成した構成であり、自発光で、LCDに比べて高速応答性に優れ、高視野角及び高コントラストを実現できるものである。
【0004】
このような有機ELデバイスは、一般に真空蒸着法により製造されており、真空チャンバー内で基板と蒸着マスクをアライメントして密着させ蒸着を行い、この蒸着マスクにより所望の成膜パターンの蒸着膜を基板に形成している。
【0005】
また、このような有機ELデバイスの製造においては、基板の大型化に伴い所望の成膜パターンを得るための蒸着マスクも大型化するが、この大型化のためには蒸着マスクにテンションをかけた状態でマスクフレームに溶接固定して製作しなければならないため、大型の蒸着マスクの製造は容易でなく、またこのテンションが十分でないとマスクの大型化に伴い、マスク中心に歪みが生じ蒸着マスクと基板の密着度が低下してしまうことや、これらを考慮するためにマスクフレームが大型となり、肉厚化や重量の増大が顕著となる。
【0006】
このように、基板サイズの大型化に伴って蒸着マスクの大型化が求められているが、高精細なマスクの大型化は困難で、また製作できても前記歪みの問題によって実用上様々な問題を生じている。
【0007】
また、例えば、特表2010−511784号などに示されるように、基板と蒸着マスクとを離間配設し、蒸発源と指向性を持った蒸発粒子を発生させる開口部により有機発光層を高精度に成膜させる方法もあるが、前記蒸発源と指向性を発生させる前記開口部が一体構造をしており、開口部から蒸発粒子を発生させるには前記一体構造を高温に加熱する構成となっているため、蒸発源からの輻射熱を蒸着マスクで受けることになり、蒸着マスクの熱膨張による成膜パターンの位置精度の低下を防ぐことができない。
【0008】
更に、基板と蒸着マスクとを離間配設して相対移動させる構成とすることで、小さな蒸着マスクでも広範囲に所望の成膜パターンを大型基板に蒸着させることができるが、蒸発源の加熱による熱膨張により、蒸発口部の位置がずれると、成膜パターン位置もずれるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2010−511784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような様々な問題を解決し、基板の大型化に伴って蒸着マスクを同等に大型化せず基板より小形の蒸着マスクでも、基板を離間状態で相対移動させることで広範囲に蒸着マスクによる成膜パターンの蒸着膜を蒸着でき、また、離間状態のまま相対移動させることで構造も簡易で効率良くスピーディーに蒸着でき、また、離間状態のままでも制限用開口部を蒸発源と蒸着マスクとの間に設けることで、蒸発粒子の飛散方向を制限して隣接する若しくは離れた位置の蒸発口部からの蒸発粒子を通過させず成膜パターンの重なりを防止すると共に、この制限用開口部を設けた飛散制限部を有するマスクホルダーに蒸着マスクを付設した構成とし、このマスクホルダーは飛散制限部としてだけでなく蒸発源からの輻射熱の入射を抑制し、蒸着マスクの熱膨張による成膜パターンのずれを防ぎ、更に蒸発源の温度変化により熱膨張量が変化することで、蒸発口部の位置ずれによる成膜パターンの位置ずれを防ぎ、基板と蒸着マスクとを離間状態で相対移動させる構成でありながら、高精度な蒸着が行える蒸着装置並びに蒸着方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0012】
蒸発源1から蒸発した成膜材料を、蒸着マスク2のマスク開口部3を介して基板4上に堆積して、この蒸着マスク2により定められた成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成されるように構成した蒸着装置において、前記蒸発源1とこの蒸発源1に対向状態に配設する前記基板4との間に、前記蒸発源1から蒸発した前記成膜材料の蒸発粒子の飛散方向を制限する制限用開口部5を設けた飛散制限部を有するマスクホルダー6を配設し、このマスクホルダー6に前記基板4と離間状態に配設する前記蒸着マスク2を接合させて付設し、前記基板4を、前記蒸着マスク2を付設した前記マスクホルダー6及び前記蒸発源1に対して、前記蒸着マスク2との離間状態を保持したまま相対移動自在に構成し、前記蒸発源1は、成膜材料を加熱する蒸発粒子発生部26に、この蒸発粒子発生部26から発生した前記蒸発粒子が拡散し圧力を均一化する横長拡散部27を設け、この横長拡散部27に前記基板4の相対移動方向と直交する横方向に前記蒸発口部8を複数並設した構成とし、この蒸発源1の一部若しくは全部を、線膨張係数がステンレス鋼より小さい材料で形成したことを特徴とする蒸着装置に係るものである。
【0013】
また、前記蒸発源1を形成する材料の前記線膨張係数は、8.5×10−6/℃以下であることを特徴とする請求項1記載の蒸着装置に係るものである。
【0014】
また、前記蒸発源1は、前記横長拡散部27を分割形成する分割拡散部27Aを前記基板4の相対移動方向と直交する横方向に並設し、この分割拡散部27A間に前記横方向に伸縮自在なフレキシブル配管30を設けて前記横長拡散部27を構成し、この横長拡散部27の分割拡散部27Aに固定する支承部31とこの支承部31間に架設する架設部32を設けた構成としたことを特徴とする蒸着装置に係るものである。
【0015】
また、前記蒸発源1は、前記横長拡散部27を構成する前記分割拡散部27Aを前記横方向に複数並設し、この横長拡散部27の分割拡散部27Aを前記フレキシブル配管30で接続して横長拡散部27を構成すると共に、この横長拡散部27の分割拡散部27Aに、前記基板4の相対移動方向の前後から挟持状態若しくはこの相対移動方向に架設状態に固定してこの固定された前記分割拡散部27Aの中央部の熱膨張移動を抑制する前記支承部31を、この相対移動方向と直交する横方向に並設し、この支承部31の前記横方向間に前記架設部32を架設した構成としたことを特徴とする請求項3記載の蒸着装置に係るものである。
【0016】
また、前記支承部31若しくは前記架設部32の少なくとも一方に、温度制御機構9を備えたことを特徴とする請求項3,4のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0017】
また、前記横長拡散部27と前記支承部31間、若しくは前記支承部31と前記架設部32間の少なくとも一方間に、熱絶縁体33を挿設したことを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0018】
また、前記架設部32若しくは前記架設部32と前記支承部31の両方をステンレス鋼より線膨張係数の小さい材料で形成したことを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0019】
また、前記支承部31は、前記横長拡散部27の前記分割拡散部27Aより線膨張係数の小さい材料で形成すると共に、前記分割拡散部27Aの前記基板4の相対移動方向と直交する横方向の中央部に固定して前記横方向に複数並設し、前記分割拡散部27A同士を接続する前記フレキシブル配管30はこの各支承部31間に位置するように構成し、この支承部31間に架設する前記架設部32は、前記横長拡散部27の分割拡散部27Aより線膨張係数の小さい材料で形成したことを特徴とする請求項7記載の蒸着装置に係るものである。
【0020】
また、前記架設部32若しくは前記支承部31と前記架設部32の両方は、インバー材で形成したことを特徴とする請求項7,8のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0021】
また、前記蒸発源1を前記基板4の相対移動方向と直交する横方向に一つ若しくは複数並設することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0022】
また、前記横長拡散部27の周囲若しくは前記蒸発口部8の周囲の少なくとも一方に、前記蒸発源1の熱を遮断する熱遮断部19を配設したことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0023】
また、前記蒸発源1の前記蒸発口部8は、前記基板4の相対移動方向に長くこれと直交する横方向に幅狭いスリット状としたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項記載の蒸着装置に係るものである。
【0024】
また、前記横長拡散部27で拡散した蒸発粒子が、前記蒸発口部8から噴出される際に指向性を持って飛散する導入部28を、前記横長拡散部27に配設したことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0025】
また、前記複数の蒸発口部8を前記導入部28の前記基板4側の先端面に設け、この導入部28の前記基板4側に向けての導入長を、前記基板4の相対移動方向と直交する横方向の前記導入部28の幅長より長い構成としたことを特徴とする請求項13記載の蒸着装置に係るものである。
【0026】
また、前記導入部28は、前記横長拡散部27から前記基板4側に向けて突出させて配設したことを特徴とする請求項13,14のいずれか1項記載の蒸着装置に係るものである。
【0027】
また、前記基板4と前記蒸着マスク2とが離間状態で蒸着し、この蒸着マスク2により成膜パターンの蒸着膜が基板4に形成される際、この蒸着膜の側端傾斜部分である陰影SHは、前記基板4と前記蒸着マスク2とのギャップをG,前記蒸発口部8の前記横方向の開口幅をφx,この蒸発口部8と前記蒸着マスク2との距離をTSとすると、下記の式(1)で表され、この陰影SHが隣接する蒸着膜との間隔PPに達しないように、前記ギャップGを大きく設定し、前記蒸発口部8の前記開口幅φxを小さく設定した構成とすることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0028】
【数1】

【0029】
また、前記成膜材料を、有機材料としたことを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0030】
また、前記請求項1〜17のいずれか1項記載の蒸着装置を用いて、前記基板4上に前記蒸着マスク2により定められた成膜パターンの蒸着膜を形成することを特徴とする蒸着方法に係るものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明は上述のように構成したから、基板の大型化に伴って蒸着マスクを同等に大型化せず基板より小形の蒸着マスクでも、基板を離間状態で相対移動させることで広範囲に蒸着マスクによる成膜パターンの蒸着膜を蒸着でき、また、離間状態のまま相対移動させることで構造も簡易で効率良くスピーディーに蒸着でき、また、離間状態のままでも制限用開口部を蒸発源と蒸着マスクとの間に設けることで、蒸発粒子の飛散方向を制限して隣接する若しくは離れた位置の蒸発口部からの蒸発粒子を通過させず成膜パターンの重なりを防止すると共に、この制限用開口部を設けた飛散制限部を有するマスクホルダーに蒸着マスクを付設した構成とし、このマスクホルダーは飛散制限部としてだけでなく蒸発源からの輻射熱が蒸着マスクへ入射することを限定し、蒸着マスクの熱膨張を抑制することができ、また蒸発源をステンレス鋼より線膨張係数の小さい材料で形成することで蒸発源の蒸発口部の位置ずれによる成膜パターンの位置ずれを抑制することができ、基板と蒸着マスクとを離間状態で相対移動させる構成でありながら高精度の蒸着が行うことができる蒸着装置並びに蒸着方法となる。
【0032】
特に有機ELデバイスの製造にあたり、基板の大型化に対応でき、有機発光層の蒸着も精度良く行え、マスク接触による基板,蒸着マスク,蒸着膜の損傷も防止でき、基板より小さな蒸着マスクにより高精度の蒸着が実現できる有機ELデバイス製造用の蒸着装置並びに蒸着方法となる。
【0033】
また、請求項2記載の発明においては、蒸発源を、チタンを含む線膨張係数が8.5×10−6/℃以下の低熱膨張材料で形成することで、成膜材料変更時の熱膨張の変化量を一層抑制することができる。
【0034】
また、請求項3記載の発明においては、横長拡散部を構成する分割拡散部を、支承部で固定支承し、かつ基板の相対移動方向と直交する横方向に並設した支承部を架設部で架設し、更に各分割拡散部をフレキシブル配管で接続することで、この横長拡散部に設けた蒸発口部が基板の相対移動方向と直交する横方向に熱膨張により位置ずれして、成膜パターンが位置ずれすることを抑制することができる。
【0035】
更に、請求項4記載の発明においては、基板の相対移動方向と直交する横方向に複数並設する横長拡散部の分割拡散部に、基板の相対移動方向の前後から挟持状態若しくはこの相対移動方向に架設状態に支承部を固定し、かつこの基板の相対移動方向と直交する横方向に各支承部同士を架設する架設部で固定し、基板の相対移動方向と直交する横方向に並設した横長拡散部の分割拡散部同士を相対移動方向と直交する横方向に伸縮自在なフレキシブル配管で接続することで、一層この分割拡散部に設けた蒸発口部が基板の相対移動方向と直交する横方向に熱膨張により位置ずれして、成膜パターンが位置ずれすることを抑制することができる。即ち、横長拡散部の分割拡散部の支承部で固定した中央部の熱膨張量は、加熱されていないため蒸発源より低温の架設部の熱膨張量になり、またフレキシブル配管が蒸発源を加熱時の熱応力を吸収し伸び縮みすることで、基板の相対移動方向と直交する横方向に分割拡散部を複数並設しこれに複数蒸発口部を並設しても位置ずれを抑制でき高精度に蒸着できる。
【0036】
また、請求項5記載の発明においては、支承部若しくは架設部の少なくとも一方に温度制御機構を備えたことで、横長拡散部の温度より低温で均一に温度を保持することが可能になり、熱膨張量が抑制され、この支承部に支承されている横長拡散部及び架設部は、基板の相対移動方向と直交する横方向への熱膨張量が抑制される。
【0037】
また、請求項6記載の発明においては、横長拡散部と支承部間若しくは支承部と架設部間の少なくとも一方間に熱絶縁体を挿設することで、蒸発源加熱時の横長拡散部の熱が支承部若しくは架設部に伝導しにくくなり、架設部の温度上昇が抑制されることで、架設部の基板と相対移動方向と直交する横方向への熱膨張量が抑制される。
【0038】
また、請求項7記載の発明においては、架設部若しくは架設部と支承部の両方を、ステンレス鋼より線膨張係数の小さい材料で形成することで、架設部の熱膨張が抑制され、それに伴い分割横長拡散部の支承部に支承されている位置の熱膨張も抑制される。
【0039】
また、請求項8記載の発明においては、基板の相対移動方向と直交する横方向に複数並設する分割拡散部同士をフレキシブル配管で接続した横長拡散部は、この各分割拡散部の前記基板の相対移動方向と直交する横方向の中央部がこの横長拡散部より線膨張係数の小さい材料で形成された支承部に支承され、かつ基板の相対移動方向と直交する横方向に並設したこの支承部間に、横長拡散部より線膨張係数の小さい材料で形成された架設部が架設され、更に横長拡散部の分割拡散部同士が相対移動方向と直交する横方向に伸縮自在なフレキシブル配管で接続されることで、フレキシブル配管が蒸発源加熱時の熱応力を吸収し伸び縮みして、基板の相対移動方向と直交する横方向に横長拡散部の分割拡散部を複数並設してこれに複数の蒸発口部を並設しても、一層高精度に蒸着できる。
【0040】
また、請求項9記載の発明においては、支承部若しくは架設部の少なくとも一方は、温度制御機構により低温に保持することが可能になり、常温付近では線膨張係数が小さいが高温になると線膨張係数が大きくなってしまうインバー材を用いて形成することができるので、この支承部に支承されている横長拡散部は、基板の相対移動方向と直交する横方向への熱膨張量も一層抑制される。
【0041】
また、請求項10記載の発明においては、基板の相対移動方向と直交する横方向に長い範囲に蒸着する蒸発源は、横方向に長い一つの蒸発源で構成してもよいし、より拡散部の圧力が均一になるように、小さい拡散部を有する蒸発源を基板の相対移動方向と直交する横方向に複数並設するように構成してもよい。
【0042】
また、請求項11記載の発明においては、蒸発源の周囲に、蒸発源からの輻射熱を遮断する、例えば冷却部材などの熱遮断部 (蒸発源に設ける温度制御部として機能すること)を配設することで、蒸着マスクの温度上昇を抑制できる。
【0043】
また、請求項12記載の発明においては、蒸発源の蒸発口部の基板の相対移動方向と直交する横方向の開口幅を狭めることで基板と蒸着マスクとのギャップにより生じる(このギャップの大きさ、蒸発口部と蒸着マスクとの距離によっても変化する)前記成膜パターンの陰影(蒸着膜の側端傾斜部分のはみ出し量)を一層抑制することができ、また蒸発口部の開口長を相対移動方向に長くすることで蒸発レートを高くすることができる。
【0044】
また、請求項13,14記載の発明においては、蒸発粒子の指向性が高められ、指向性の低い蒸発粒子と比較して、一蒸発口部から噴出する蒸発粒子の成膜に利用する材料量が同じであるとすると、成膜有効範囲内の蒸発粒子の飛散角度が全体的に小さくなるので、蒸発粒子が蒸着マスク開口部へ入射する入射角も全体的に小さくなり、基板と蒸着マスクとのギャップの変動に対しての成膜パターン位置の変化量を小さくすることができる。
【0045】
また、請求項15記載の発明においては、横長拡散部から基板側に向けて導入部を突出させて配設させることで、熱遮断部を蒸発口部より蒸発源側に配設することが可能になり、蒸発口部間に熱遮断部を配設しても熱遮断部に蒸発粒子が付着せず、材料使用効率及びメンテナンス性が高い蒸着装置となる。
【0046】
また、請求項16記載の発明においては、蒸発口部の開口幅を狭めることで、例えば、RGBの発光層を成膜するような場合に、隣接する蒸着パターン(隣接画素)に達する程の陰影が生じることを防止でき、またこのように蒸発口部の開口幅を狭めることで基板と蒸着マスクとのギャップを大きくとれることとなり、蒸着マスク自体に温度制御機構を設けたりすることができるなど優れた蒸着装置となる。
【0047】
また、請求項17記載の発明においては、有機材料の蒸発装置となり、一層実用性に優れる。また、請求項18記載の発明においては、前記作用・効果を発揮する優れた蒸着方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施例(実施例1)の要部を断面した概略説明正面図である。
【図2】本実施例(実施例1)の蒸発源の説明斜視図である。
【図3】本実施例(実施例1)の蒸発源の別例を示す説明斜視図である。
【図4】第二実施例(実施例2)の蒸発源の説明斜視図である。
【図5】第二実施例(実施例2)の蒸発源の温度制御機構を設けた場合を示す説明平面図である。
【図6】第二実施例(実施例2)の蒸発源の熱絶縁体を挿設した場合を示す説明平面図である。
【図7】第三実施例(実施例3)の横長拡散部を2分割にした場合を示す説明平面図である。
【図8】第三実施例(実施例3)の横長拡散部を4分割にした場合を示す説明平面図である。
【図9】本実施例の蒸発源の蒸発口部の位置がずれることで、成膜パターンが位置ずれすることを示す説明図である。
【図10】本実施例の蒸発源の蒸発口部の開口幅を狭めることで蒸着膜の陰影を制御でき、またこれによりギャップを大きくとることができることを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0050】
図1において、蒸発源1から蒸発した成膜材料は、飛散制限部として構成したマスクホルダー6の制限用開口部5を通過すると共に、蒸着マスク2のマスク開口部3を介して基板4上に堆積して、この蒸着マスク2により定められた成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成される。
【0051】
この際、前記基板4と前記蒸着マスク2とを離間状態に配設し、この基板4を、前記蒸着マスク2や前記蒸発源1に対してこの離間状態を保持したまま相対移動自在に構成して、この基板4を相対移動させることにより、蒸着マスク2自体よりも広い範囲にこの蒸着マスク2により定められる成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成される。
【0052】
また、この蒸着マスク2と蒸発源1との間に、蒸発源1から蒸発した成膜材料の蒸発粒子の飛散方向を制限する前記制限用開口部5を設けた飛散制限部を有するマスクホルダー6を設けて、制限用開口部5により隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの蒸発粒子を通過させず蒸着マスク2と基板4とが離間状態にあっても成膜パターンの重なりを防止している。
【0053】
また更にこの飛散制限部を構成するマスクホルダー6に蒸着マスク2を付設した構成としたから、前記蒸発源1からの熱の入射が抑えられマスクホルダー6や蒸着マスク2の温度上昇が抑制され、また、蒸着マスク2が基板4と離間状態であってもこのマスクホルダー6と接触していることで蒸着マスク2の熱はマスクホルダー6へ伝導するから蒸着マスク2を一定の温度に保持する温度保持機能が向上する。
【0054】
また、更に例えば必要に応じてこのマスクホルダー6若しくは蒸着マスク2の少なくとも一方に蒸着マスク2の温度を保持する温度制御機構を設ければ、一層前記マスクホルダー6や蒸着マスク2の温度上昇が抑制され、一層蒸着マスク2を一定の温度に保持する温度保持機能が向上することとなる。
【0055】
従って、この飛散制限部を有するマスクホルダー6は、蒸発粒子の飛散方向の制限機能と同時に温度保持機能をも果たし、蒸着マスク2の温度上昇を抑制でき蒸着マスク2を一定の温度に保持し、熱による蒸着マスク2の歪みも生じにくいこととなる。
【0056】
従って、基板4を、蒸着マスク2,この蒸着マスク2を付設したマスクホルダー6及び蒸発源1に対してこの蒸着マスク2との離間状態を保持したまま相対移動させることで、この相対移動方向に蒸着マスク2による前記成膜パターンの蒸着膜を連続させて基板4より小さい蒸着マスク2でも広範囲に蒸着膜が形成され、且つ隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの入射による成膜パターンの重なりも、熱による歪みなども十分に抑制され高精度の蒸着が行える蒸着装置となる。
【0057】
また、蒸発源1を線膨張係数がステンレス鋼より小さい材料で形成したことで、この蒸発源の蒸発口部の位置ずれによる成膜パターンの位置ずれを抑制することができ、一層基板と蒸着マスクとを離間状態で相対移動させる構成でありながら高精度の蒸着が行うことができる蒸着装置並びに蒸着方法となる。
【実施例1】
【0058】
本発明の具体的な実施例1について図面に基づいて説明する。
【0059】
図1は、概略装置の全体図である。
【0060】
本実施例は、減圧雰囲気とする蒸着室7(真空チャンバー7)内に設けた蒸発源1から蒸発した成膜材料(例えば、有機ELデバイス製造のための有機材料)を、蒸着マスク2のマスク開口部3を介して基板4上に堆積して、この蒸着マスク2により定められた成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成されるように構成した蒸着装置において、基板4と蒸着マスク2とを離間状態に配設し、この基板4を、蒸着マスク2、制限用開口部5を設けた飛散制限部として構成したマスクホルダー6及び蒸発源1に対して、蒸着マスク2との離間状態を保持したまま相対移動自在に構成して、この相対移動により蒸着マスク2より広い範囲にこの蒸着マスク2により定められた成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成されるように構成している。
【0061】
また、この蒸着マスク2と蒸発源1との間に、複数並設した蒸発源1の蒸発口部8から蒸発した成膜材料の蒸発粒子の飛散方向を制限する制限用開口部5を設けた飛散制限部を構成したマスクホルダー6を設け、このマスクホルダー6の基板4側端部に接触させて蒸着マスク2を張設し、飛散角度θの大きい蒸発粒子を制限することで、隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの蒸発粒子を通過させないようにしている。
【0062】
即ち、複数の蒸発口部8からの蒸発粒子によって蒸着する構成として、大面積の基板4に蒸着できるようにすると共に、制限用開口部5により隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの入射を防止して蒸着マスク2と基板4とが離間状態にあっても成膜パターンの重なりも防止されるように構成している。
【0063】
また本実施例では、複数の蒸発源1を並設して各蒸発口部8を並設してもよいが、一つの横長な蒸発源1に複数の蒸発口部8を並設した構成とし、前記成膜材料が加熱する蒸発粒子発生部26と、この蒸発粒子発生部26から発生した前記蒸発粒子を拡散させて圧力を均一化する横長拡散部27とで前記蒸発源1を構成し、この横長拡散部27に前記蒸発口部8を前記横方向に複数並設している。更に説明すると、例えば自動るつぼ交換機構により交換自在な蒸発粒子発生部26(るつぼ26)に成膜材料を収納し、このるつぼ26で加熱されて蒸発した蒸発粒子を一旦停留させて圧力を均一化する横長形の前記横長拡散部27を設け、この横長拡散部27の上部に、相対移動方向に長くこれと直交する横方向に幅狭いスリット状開口部を多数横方向に沿って並設して前記蒸発口部8を複数並設している。
【0064】
また、横方向に並設する各蒸発口部8を、夫々前記蒸発源1の前記横長拡散部27に突出した導入部28の先端に設け、横長拡散部27の周囲若しくは導入部28間に、蒸発源1の熱を遮断する熱遮断部19を配設している。
【0065】
この熱遮断部19は、熱を遮蔽するものであればよいが、本実施例は冷却板を採用し、冷却媒体を供給する媒体路を有し、冷却媒体が蒸発源1からの熱を奪いながら媒体路を通過して、この熱を交換する熱交換部を設けて、熱遮蔽効果を高めている。
【0066】
図2は、蒸発源1の斜視図である。
【0067】
蒸発源1は、横長拡散部27に導入部28を横方向並設状態にして突出形成している。この各蒸発口部成形用突出部28の先端に横方向に幅狭いスリット状開口部を形成して蒸発口部8を設けている。
【0068】
蒸発粒子が噴出する蒸発口部8の開口面積に対して、横長拡散部27の体積を充分大きくすることで、るつぼ26で加熱された蒸発粒子が、横長拡散部27で拡散し圧力が均一になることで、各導入部28の蒸発口部8からの蒸発粒子が噴出する噴出圧力が均一になるように構成している。
【0069】
また、先端に蒸発口部8が設けられ基板4側に向けて突出する前記導入部28の突出長を、前記基板4の相対移動方向と直交する横方向のこの導入部28の幅長より長くすることで、前記基板4の相対移動方向と直交する横方向に対する蒸発粒子の指向性を高めると同時に、基板4との相対移動方向には蒸発口部8の開口を広く設けることで、蒸発レートが高くなり生産性の高い蒸着装置となるように構成している。
【0070】
また、図3に示すように、導入部28を横長拡散部27内に配設するように構成してもよく、この時、熱遮断部19に蒸発材料が付着してしまうので、蒸発口部8間は熱遮断部19を配設しない方が望ましい。
【0071】
更に、蒸発源1を線膨張係数がステンレス鋼より小さい材料で形成することで、蒸発口部8の位置ずれによる成膜パターンのずれを抑制している。
【0072】
仮に、ステンレス鋼若しくはステンレス鋼より線膨張係数の大きい材料で蒸発源1を形成しても、成膜材料に決められた一種類のものを使用する場合には、線膨張係数を考慮に入れて蒸発源1の寸法を設計すればよいが、成膜材料を変更する場合には、材料の蒸発温度も変わり、それに伴い蒸発源1の設定温度領域が広がるので、設定温度領域の広がりによる熱膨張量の変化を抑制するためにも、蒸発源1は線膨張係数の小さい材料で形成することが望ましい。
【0073】
例えば、蒸発源1をSUS304(線膨張係数:約1.8×10−5/℃)で形成した場合と、線膨張係数の小さいチタン(線膨張係数:約8.4×10−6/℃)で形成した場合を比較した。基板4の相対移動方向と直交する横方向に対する蒸発源1の長さを2500mmとし、材料変更時の温度変化を±50℃とすると、蒸発源1をSUS304で形成した場合の熱膨張変化量は約2.3mmである。しかし、蒸発源1をチタンで形成した場合の熱膨張変化量は約1.1mmと変化量を抑制できる。よって、この場合は、チタンを含む線膨張係数が8.5×10−6/℃以下で蒸発源1を構成すると、蒸発源1をステンレス鋼で構成したものより、熱膨張変化量を1mm以上抑制できる。
【0074】
しかし、線膨張係数の小さい材料は高価であり、かつ大判の蒸発源1全体を構成する加工が困難な場合が多く、更に成膜材料と反応するなどの物性値が知られていないという問題点がある。
【実施例2】
【0075】
上記問題点を解決するため、本実施例2では、支承部31、架設部32、フレキシブル配管30を配設することで成膜パターンの位置ずれを抑制している。
【0076】
図3は、蒸発源1に支承部31・架設部32・フレキシブル配管30を配設したこの実施例2の斜視図である。
【0077】
具体的には、基板4の相対移動方向に蒸発源1が熱膨張するのは、成膜パターンが位置ずれするわけではなく、蒸着膜の膜厚が若干変化するくらいなので、マスク開口部3の相対移動方向に対するスリット長の調整で膜厚を均一にすることは可能であるが、蒸発口部8が基板4の相対移動方向と直交する横方向に熱膨張すると成膜パターンが位置ずれするので、前記横方向の熱膨張による蒸発口部8の位置ずれを抑制しなければならない。しかし、蒸発源1加熱時は、全体が均等に熱膨張するだけでなく、捩れや歪みなどの予期せぬ方向の熱膨張が発生してしまう。
【0078】
この問題を解決するため、基板4の相対移動方向と直交する横方向に複数分割並設する横長拡散部27の分割拡散部27Aをこの横方向に伸縮するフレキシブル配管30で接続した構成とし、この各分割拡散部27Aの中点部位置の基板4の相対移動方向の前後から挟持状態若しくはこの相対移動方向に架設状態に重合させて支承部31を固定しこの各分割拡散部27Aの中央部位置を固定支承する。
【0079】
例えば、図4に示すように一対の支承部31を、各分割拡散部27Aの中央部(略中点位置)の前後を挟持する位置に固定して各分割拡散部27Aの中央部を支承し、この支承部31間に架設部32を架設することで、熱膨張の方向が前記横方向に制限され、かつこのように基板4の相対移動方向に直交する横方向の支承部31間を架設した架設部32を有することで、基板4の相対移動方向に直交する横方向に並設した各分割拡散部27Aの支承部31で固定されている部分の熱膨張量は、蒸発源1のるつぼ26や分割拡散部27Aより低温の架設部32の熱膨張量になる。またこの分割拡散部27A間を相対移動方向と直交する横方向に伸縮自在なフレキシブル配管30で接続し、このフレキシブル配管30が蒸発源1加熱時の熱応力を吸収し伸び縮みすることで、基板4の相対移動方向と直交する横方向に横長拡散部27を分割して各分割拡散部27Aを複数並設しても、この分割拡散部27Aに設けた複数の各蒸発口部8がこの横方向に位置ずれすることを抑制でき、一層高精度に蒸着できる。
【0080】
更に説明すれば、支承部31で各分割拡散部27Aを支承固定することでこの分割拡散部27Aの中央部の固定位置の熱膨張量は、この支承部31の前部同士及び後部同士を架設した架設部32の熱膨張量となり、この架設部32は蒸発源1の高温加熱されているるつぼ26や分割拡散部27Aより低温のためこの熱膨張量を小さくでき、またこの架設部32の材料を線膨張係数の小さい材料で形成すれば、一層この熱膨張量を小さくでき、一層この位置ずれを防止して高精度に蒸着できることとなる。
【0081】
また、図5に示すように、架設部32に温度制御機構9を備えたことでより低温にすることが可能になり、材料変更時の熱膨張量の変化量を抑制できるだけでなく、架設部32の温度が均一になるので、予期せぬ方向への熱膨張をも抑制できる。また、図示していないが、支承部31も同時に温度制御機構9を備えてもよい。
【0082】
図示した温度制御機構9は、架設部32を囲むように冷却媒体を流通させる媒体路9Aを配設すると共に、この熱交換部20Aを設けた構成としている。
【0083】
例えば、SUS304(線膨張係数:約1.8×10−5/℃)で形成した蒸発源1を400℃に加熱し、支承部31及び架設部32を温度制御機構9により100℃に均熱させたとする。基板4の相対移動方向と直交する横方向に対する必要な蒸発源1の長さを2500mmとし、1230mmの分割拡散部27A2つと40mmのフレキシブル配管30で構成し、蒸発源1を400℃に加熱し室温を25℃とすると、蒸発源1が、一つの横長拡散部27である場合は、約16.9mm膨張するが、この横長拡張部27を二分割して各分割拡散部27Aの丁度中点位置となる中央位置を支承部31で支承固定すると、この各分割拡散部27Aの中点位置間の熱膨張量は100℃時の熱膨張量になり、残りの部分は蒸発源温度の熱膨張量となり、各分割拡散部27Aの熱膨張量は約1.7mmとなる。
【0084】
また、図6に示すように、この横長拡散部27と支承部31間及び支承部31と架設部32間に熱絶縁体33を挿設することで、蒸発源1加熱時の熱が架設部32へ伝導しにくくなり、それに伴い架設部32の温度上昇も抑制されるので、架設部32の熱膨張量が更に抑制され、横長拡散部27(分割拡散部27A)の支承部31に支承されている基板4の相対移動方向と直交する横方向への熱膨張量が抑制される。図5に示したこの熱絶縁体33は、熱伝導度が低い材料で形成した挿設部材で、この熱絶縁体33を介して支承部31を各分割拡散部27Aに支承固定する構成としている。
【0085】
また、更に、架設部32若しくは架設部32と支承部31の両方に、温度制御機構9も備えると一層優れた蒸着装置となる。
【実施例3】
【0086】
上述した問題点を解決するために、本実施例3では、前記実施例2と同様に構成し、支承部31及び架設部32を横長拡散部27(分割拡散部27A)より線膨張係数が小さい材料で形成し、かつこの横長拡散部27を構成する各分割拡散部27A間にフレキシブル配管30を配設して接続することで成膜パターンの位置ずれを抑制している。
【0087】
図7は、蒸発源1に線膨張係数の小さい支承部31・架設部32・フレキシブル配管30を配設した斜視図である。
【0088】
蒸発源1は、横長拡散部27より線膨張係数が小さい支承部31を横長拡散部27の各横長拡散部27に支承固定し、この支承部31間に支承部31と同じ材料で形成した架設部32を架設し、かつこの分割拡散部27A同士をフレキシブル配管30で接続することで各分割拡散部27Aに設けた蒸発口部8の位置ずれによる成膜パターンの位置ずれを抑制することができるように構成している。
【0089】
具体的には、基板4の相対移動方向と直交する横方向に複数並設する分割拡散部27Aは、実施例2と同様に基板4の相対移動方向の前後から支承部31で支承固定して、熱膨張の方向を前記横方向に制限する構成とし、この支承部31を分割拡散部27Aより線膨張係数の小さい材料で形成している。また基板4の相対移動方向と直交する横方向に並設する支承部31間に架設部32を架設することで、基板4の相対移動方向と直交する横方向の各分割拡散部27Aの支承部31に支承固定されている位置の熱膨張による移動量が、この架設部32の熱膨張による移動量となるように構成している。
【0090】
本実施例では、この架設部32も分割拡散部27Aより線膨張係数が小さい材料で形成しこの熱膨張による移動量を、線膨張係数が小さい架設部32の熱膨張量とし、更にまた横長拡散部27の各分割拡散部27A同士を相対移動方向と直交する横方向に伸縮自在なフレキシブル配管30で接続し、このフレキシブル配管30が蒸発源1加熱時の熱応力を吸収し伸び縮みすることで、更に各分割散部27Aに設けた蒸発口部8の位置ずれによる成膜パターンの位置ずれを抑制することができるように構成している。即ち、基板4の相対移動方向と直交する横方向に横長拡散部27を複数分割並設しても、各分割拡散部27A同士の位置関係が変化せず一層高精度に蒸着できるように構成している。
【0091】
また、基板4の相対移動方向と直交する横方向に複数並設する横長拡散部27は、分割数が多いほど、一つを構成する分割拡散部27Aの長さが短くなるので、熱膨張量を抑制できる。例えば、図7に示した横長拡散部27を2分割した場合より、図8に示した、横長拡散部27を4分割した場合の方が各分割拡散部27Aの熱膨張量は小さくなる。
【0092】
具体的に言うと、蒸発源1をSUS304(線膨張係数:約1.8×10−5/℃)、支承部31をコバール(線膨張係数:約5.0×10−6/℃)で形成する。基板4の相対移動方向と直交する横方向に対する必要な蒸発源1の長さを3100mm、蒸発材料変更時の蒸発源1の温度変化を±100℃、横長拡散部27を2分割した時のフレキシブル配管30の長さを40mm、横長拡散部27を4分割した時のフレキシブル配管30の長さを20mmとし、支承部31の位置を各分割拡散部27Aの略中点位置とすると、熱膨張変化量は、線膨張係数の小さい架設部32間と架設部32がない両端では異なり、横長拡散部27を2分割した時の総熱膨張変化量は、約3.5mmで、横長拡散部27を4分割した時の総熱膨張変化量は約2.5mmとなる。
【0093】
また、横長拡散部27を支承する支承部31の熱膨張の変動量を小さくする最適支承位置は、横長拡散部27を形成している材料の線熱膨張係数、架設部32を形成している材料の線膨張係数及び横長拡散部27の分割数に応じて変化する。例えば、横長拡散部27を形成している材料の線熱膨張係数と架設部32を形成している材料の線膨張係数の値の差が大きいほど、分割した分割拡散部27Aの中点位置で支承する方が望ましい。
【0094】
また、更に支承部31と架設部32は、温度制御機構9を備えたことでより低温にすることが可能になり、より熱膨張量を抑制できるだけでなく、例えば、支承部31と架設部32の温度を約260℃以下に設定することで、支承部31と架設部32により線膨張係数の小さいインバー材を用いることができる。
【0095】
また、図9に示すように、蒸発口部8の基板4の相対移動方向と直交する横方向に位置ずれした際、蒸着マスクとの位置関係が変化して、蒸着膜が所望の成膜パターンからずれてしまう蒸着パターンのずれ量は次の式(2)によって決定される。
【0096】
【数2】

【0097】
(ΔX(P+2SH)=横方向の蒸着膜ずれ量、G=基板と蒸着マスクの距離、TS=蒸発口部と蒸着マスクの距離、ΔX(φx)=横方向の蒸発口部ずれ量)
【0098】
具体的には、ギャップGを1mm、TSを100mmとし、蒸発口部8の横方向の蒸発口部移動量ΔX(φx)を1mmとすると、蒸着パターンの横方向の位置ずれ量ΔX(P+2SH)は、0.01mmとなる。
【0099】
また、基板4と蒸着マスク2を離間状態で配設し、成膜する場合、図10に示すように蒸着膜の両側端部の傾斜部分である陰影(SH)が生じる。基板4と蒸着マスク2とのギャップをG、蒸発口部8の前記横方向の開口幅をφx、この蒸発口部8と蒸着マスク2との距離をTSとすると、下記の式(1)で表され、この陰影SHが隣接する蒸着膜1との間隔PPに達しないように、蒸発口部8の開口幅φxを小さく設定してギャップGを大きく設定できるように構成している。
【0100】
【数3】

【0101】
具体的には、陰影SHを0.03mm以下に設定し、TSを100〜300mmとし、φxを0.5〜3mmで設定すると、ギャップGが1mm以上確保できる。
【0102】
例えば、TSを100mmでφxを3mmとすると、Gは1mmとなり、またTSを100mmでφxを0.6mmまで小さくすると、Gを5mm確保することができる。また、TSを300mmとし、φxを3mm、Gを1mmとすると、SHを0.01mmまで小さくすることができ、より高精細な成膜パターンに対応できるようにしてもよい。
【0103】
また、蒸発源1の蒸発口部8は、前記基板4の相対移動方向に長くこれと直交する横方向に幅狭いスリット状とすることで、基板4と蒸着マスク2が離間状態で蒸着しても、陰影SHを抑制しながら蒸発レートを高くすることができる。
【0104】
また、蒸発源1の蒸発口部8は、前記基板4の相対移動方向に長くこれと直交する横方向に幅狭いスリット状とすることで、基板4とマスクが離間状態で蒸着しても、陰影SHを抑制しながら蒸発レートを高くすることができる。
【0105】
尚、本発明は、実施例1〜3に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0106】
φx 開口幅
G ギャップ
SH 陰影
TS 蒸着マスク2との距離
PP 蒸着膜との間隔
1 蒸発源
2 蒸着マスク
3 マスク開口部
4 基板
5 制限用開口部
6 マスクホルダー
8 蒸発口部
26 蒸発粒子発生部
27 横長拡散部
27A 分割拡散部
30 フレキシブル配管
31 支承部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発源から蒸発した成膜材料を、蒸着マスクのマスク開口部を介して基板上に堆積して、この蒸着マスクにより定められた成膜パターンの蒸着膜が基板上に形成されるように構成した蒸着装置において、前記蒸発源とこの蒸発源に対向状態に配設する前記基板との間に、前記蒸発源から蒸発した前記成膜材料の蒸発粒子の飛散方向を制限する制限用開口部を設けた飛散制限部を有するマスクホルダーを配設し、このマスクホルダーに前記基板と離間状態に配設する前記蒸着マスクを接合させて付設し、前記基板を、前記蒸着マスクを付設した前記マスクホルダー及び前記蒸発源に対して、前記蒸着マスクとの離間状態を保持したまま相対移動自在に構成し、前記蒸発源は、成膜材料を加熱する蒸発粒子発生部に、この蒸発粒子発生部から発生した前記蒸発粒子が拡散し圧力を均一化する横長拡散部を設け、この横長拡散部に前記基板の相対移動方向と直交する横方向に前記蒸発口部を複数並設した構成とし、この蒸発源の一部若しくは全部を、線膨張係数がステンレス鋼より小さい材料で形成したことを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記蒸発源を形成する材料の前記線膨張係数は、8.5×10−6/℃以下であることを特徴とする請求項1記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記蒸発源は、前記横長拡散部を分割形成する分割拡散部を前記基板の相対移動方向と直交する横方向に並設し、この分割拡散部間に前記横方向に伸縮自在なフレキシブル配管を設けて前記横長拡散部を構成し、この横長拡散部の分割拡散部に固定する支承部とこの支承部間に架設する架設部を設けた構成としたことを特徴とする蒸着装置。
【請求項4】
前記蒸発源は、前記横長拡散部を構成する前記分割拡散部を前記横方向に複数並設し、この横長拡散部の分割拡散部を前記フレキシブル配管で接続して横長拡散部を構成すると共に、この横長拡散部の分割拡散部に、前記基板の相対移動方向の前後から挟持状態若しくはこの相対移動方向に架設状態に固定してこの固定された前記分割拡散部の中央部の熱膨張移動を抑制する前記支承部を、この相対移動方向と直交する横方向に並設し、この支承部の前記横方向間に前記架設部を架設した構成としたことを特徴とする請求項3記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記支承部若しくは前記架設部の少なくとも一方に、温度制御機構を備えたことを特徴とする請求項3,4のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記横長拡散部と前記支承部間、若しくは前記支承部と前記架設部間の少なくとも一方間に、熱絶縁体を挿設したことを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項7】
前記架設部若しくは前記架設部と前記支承部の両方をステンレス鋼より線膨張係数の小さい材料で形成したことを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項8】
前記支承部は、前記横長拡散部の前記分割拡散部より線膨張係数の小さい材料で形成すると共に、前記分割拡散部の前記基板の相対移動方向と直交する横方向の中央部に固定して前記横方向に複数並設し、前記分割拡散部同士を接続する前記フレキシブル配管はこの各支承部間に位置するように構成し、この支承部間に架設する前記架設部は、前記横長拡散部の分割拡散部より線膨張係数の小さい材料で形成したことを特徴とする請求項7記載の蒸着装置。
【請求項9】
前記架設部若しくは前記支承部と前記架設部の両方は、インバー材で形成したことを特徴とする請求項7,8のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項10】
前記蒸発源を前記基板の相対移動方向と直交する横方向に一つ若しくは複数並設することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項11】
前記横長拡散部の周囲若しくは前記蒸発口部の周囲の少なくとも一方に、前記蒸発源の熱を遮断する熱遮断部を配設したことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項12】
前記蒸発源の前記蒸発口部は、前記基板の相対移動方向に長くこれと直交する横方向に幅狭いスリット状としたことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項13】
前記横長拡散部で拡散した蒸発粒子が、前記蒸発口部から噴出される際に指向性を持って飛散する導入部を、前記横長拡散部に配設したことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項14】
前記複数の蒸発口部を前記導入部の前記基板側の先端面に設け、この導入部の前記基板側に向けての導入長を、前記基板の相対移動方向と直交する横方向の前記導入部の幅長より長い構成としたことを特徴とする請求項13記載の蒸着装置。
【請求項15】
前記導入部は、前記横長拡散部から前記基板側に向けて突出させて配設したことを特徴とする請求項13,14のいずれか1項記載の蒸着装置。
【請求項16】
前記基板と前記蒸着マスクとが離間状態で蒸着し、この蒸着マスクにより成膜パターンの蒸着膜が基板に形成される際、この蒸着膜の側端傾斜部分である陰影SHは、前記基板と前記蒸着マスクとのギャップをG,前記蒸発口部の前記横方向の開口幅をφx,この蒸発口部と前記蒸着マスクとの距離をTSとすると、下記の式(1)で表され、この陰影SHが隣接する蒸着膜との間隔PPに達しないように、前記ギャップGを大きく設定し、前記蒸発口部の前記開口幅φxを小さく設定した構成とすることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【数1】

【請求項17】
前記成膜材料を、有機材料としたことを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項18】
前記請求項1〜17のいずれか1項記載の蒸着装置を用いて、前記基板上に前記蒸着マスクにより定められた成膜パターンの蒸着膜を形成することを特徴とする蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−197467(P2012−197467A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60963(P2011−60963)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(591065413)キヤノントッキ株式会社 (57)
【Fターム(参考)】