説明

蓄熱材

【課題】一定以上の吸熱量とシャープな融解挙動を持ち、粒径が均一な粒子状の蓄熱材を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される特定のアクリル酸エステル系単量体を構成単量体とする重合体(A)からなる粒子の表面に、平均粒径が2〜15μmの水難溶性無機微粒子(B)が付着してなる所定粒径の粒子状蓄熱材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の蓄熱構造に使用される蓄熱材の製造方法、および該製造方法により得られた蓄熱材を含有する水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
物質や空間を冷却したり加温したりする時に使用される蓄熱材として、物質の相変化に伴う潜熱を利用して蓄熱(または蓄冷)を行う蓄熱材が広く利用されている。なかでも、固相転移可能なポリマー型蓄熱材は、成形体等に配合されると相転移温度を挟んで変化させても、低分子化合物に比べ融解後の粘性が高く保たれ、成形体の中で形状維持ができることから、繰り返しの蓄熱効果が期待できる。更に、ポリマーを架橋させることでより確実に成形体の中で固定化できるという利点を有している。
【0003】
従来、この種の架橋又は非架橋ポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、結晶性ポリスチレン等の架橋又は非架橋ポリオレフィンのペレットが利用されている(特許文献1、2)。更に、前記ポリオレフィン等を架橋させる方法としては、ガンマ線照射および電子線照射によるものや、シランもしくはパーオキサイド等を用いる化学的な方法が知られているが、共に非架橋のポリオレフィン等を得てからの高分子反応による架橋方法である。また、親油性物質をコア材料とし、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のアルキルエステルを構成モノマーとする所定のポリマーをカプセルシェルとするマイクロカプセルを、結合建築材料や石膏ボード等に使用できることが知られている(特許文献3)。
【0004】
また、断熱材、衝撃吸収剤、イオン交換樹脂等の分野で利用されている多孔性ポリマーに関して、アクリル酸ステアリル架橋ポリマーが50℃付近に85J/gの融解熱を持ち、その形状が崩れることなく、熱の移動が繰り返されるといった機構が提案されている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開昭62−187782号公報
【特許文献2】特開平3−69542号公報
【特許文献3】特開2003−284939号公報
【非特許文献1】南谷浩二、後藤健彦、迫原修治、「長鎖の疎水性側鎖の結晶化を利用した多孔性ポリマーの合成」、高分子論文集、社団法人高分子学会、1998年、Vol.55、No.3、p137−144
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜2で言及されているポリエチレン等は、融点が90℃前後で融解熱の熱量も小さく吸熱パターンもブロードのものが多いため、適用温度での蓄熱効果が十分に発揮できない。また、前記ポリオレフィン等を架橋させる方法としては、ガンマ線照射及び電子線照射によるものや、シランもしくはパーオキサイド等を用いる化学的な方法が知られているが、共に非架橋のポリオレフィン等を得てからの高分子反応による架橋方法である。これらは、ポリマーの架橋密度の制御が難しく、且つ特殊装置(電子線等の照射装置、射出成形機等)が必要となりうるためコスト高になるといった問題がある。また、特許文献3では、水中で乳化可能な親油性物質を用いるため、得られたマイクロカプセルの強度に劣る傾向があり、水硬性組成物等に配合した場合の強度と蓄熱効果の両立といった観点からは、更なる改善が望まれる。
【0006】
また、非特許文献1に開示される製法は、架橋構造を有するポリマーを得るため特殊な手法を用いているため、大量製造が困難で実用的でないといった問題がある。しかも、水硬性組成物に配合した場合の強度、蓄熱効果など、具体的に建材用途の蓄熱材として好適な構成について何ら示唆していない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、一定以上の吸熱量とシャープな融解挙動を持ち蓄熱効果に優れ、粒径が均一な粒子状で、且つ強度的にも優れた蓄熱材を提供すること、更にはかかる蓄熱材が簡便且つ安価に得られる製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記一般式(1)で表される単量体を構成単量体とする重合体(A)からなる粒子の表面に、平均粒径が2〜15μmの水難溶性無機微粒子(B)が付着してなる、平均粒径5〜100μmの粒子状蓄熱材に関する。
【0009】
【化3】

【0010】
〔式中、R1〜R3は、それぞれ水素原子又はメチル基を表し、R4は炭素数14〜30のアルキル基を表す。〕
【0011】
また、本発明は、下記一般式(1)で表される単量体と平均粒径が2〜15μmの水難溶性無機微粒子(B)を含む水中油エマルションをラジカル重合し、前記単量体(1)を構成単量体とする重合体(A)からなる粒子の表面に前記水難溶性無機微粒子(B)を付着させる工程を有する、平均粒径5〜100μmの粒子状蓄熱材の製造方法に関する。
【0012】
【化4】

【0013】
〔式中、R1〜R3は、それぞれ水素原子又はメチル基を表し、R4は炭素数14〜30のアルキル基を表す。〕
【0014】
また、本発明は、上記本発明の粒子状蓄熱材を含有する水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、架橋または非架橋ポリマーの形態を有していても、強度に優れ、且つ蓄熱効果に優れ、一定以上の融解熱量とシャープな融解挙動を持ち、しかも、簡便且つ安価な方法にて、平均粒径が5〜100μmの粒子状の蓄熱材が得られる。本発明の蓄熱材は、重合体(A)が潜熱蓄熱物質として機能するポリマー型蓄熱材である。
【0016】
より詳細には、本発明によれば以下の効果が得られる。
(1)特定の単量体を構成単量体とする重合体を用いることで、架橋または非架橋ポリマーの形態を有していても、一定以上の吸熱量とシャープな融解挙動を有するポリマーコア型蓄熱材が得られる。このことにより、硬化成形体中に固定化ができ、年間を通しての永続的な温度応力の緩和効果が期待できる。
(2)水難溶性無機微粒子を用いることで、粒径が10μm程度でほぼ均一な水より重い蓄熱材粒子が製造できる。この蓄熱材は成形体中の安定性の向上に寄与すると考えられ、このことにより、水硬性組成物中により均一に蓄熱材を分散できるため、硬化体の表面もプレーンと比べ損傷のないものができる。
(3)水難溶性無機微粒子が付着した蓄熱材を用いることで、水硬性組成物であるセメント、モルタル、コンクリート等の水和発熱が抑制できると共に、有機系のものと比べ凝結遅延への影響が少ない。例えば、蓄熱材をセメントに対して6%程度添加すると、硬化時の温度上昇を3〜6%程度低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<粒子状蓄熱材>
本発明の粒子状蓄熱材は、下記一般式(1)で表される単量体〔以下、単量体(1)という〕を構成単量体とする重合体(A)からなる粒子を含有する。かかる粒子は重合体(A)の稠密粒子であり、本発明の蓄熱材のコア物質となる。
【0018】
【化5】

【0019】
〔式中、R1〜R3は、それぞれ水素原子又はメチル基を表し、R4は炭素数14〜30のアルキル基を表す。〕
【0020】
単量体(1)の具体例としては、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレート、混合アルキルメタクリレート〔例えば、R4が炭素数12〜15の混合アルキル基の単量体として「ブレンマーPMA」、炭素数18〜24の混合アルキル基の炭素数として「ブレンマーVMA−70」等、何れも日本油脂(株)〕等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。単量体(1)は、融点又は相転移温度が10〜50℃、更に15〜50℃、より更に20〜40℃であるものが好ましい。
【0021】
重合体(A)は、架橋構造を有する重合体であることが好ましい。架橋構造は、重合体(A)の重合時に適当な架橋剤を共存させることで得られる。架橋剤としては、単量体(1)に溶解するものが好ましく、二重結合や水酸基等の官能基を2個以上有する単量体が挙げられる。多価アルコールの(メタ)アクリル酸とのエステルやジビニル芳香族化合物が好ましく、多価アルコールの(メタ)アクリル酸とのエステルとして2価アルコールと(メタ)アクリル酸とのジエステル、3価アルコールと(メタ)アクリル酸とのトリエステル、2価アルコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステル等が挙げられる。具体例として、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート等の2価アルコールと(メタ)アクリル酸とのジエステル、グリセリンジメタクリレート、メチロールプロパントリメタクリレート、メチロールプロパントリアクリレート、ヒロドキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。また、架橋剤としては、架橋効率の観点から、分子量の小さいエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。架橋剤を用いる場合、その量は重合体(A)の構成単量体として算入され、その割合は構成単量体中に20重量%以下、5重量%以下であることが好ましい。
【0022】
重合体(A)を得るにあたり、単量体(1)以外の単量体を用いることもできるが、構成単量体中の単量体(1)の割合は、80〜100重量%、更に、95〜100重量部が好ましい。
【0023】
本発明に用いられる水難溶性無機微粒子(B)を構成する化合物は、リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイ、酸化マグネシウム、コロイダルシリカ、塩基性炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、オキサル酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化アルミニウム、ヒドロタルサイト、カオリンが挙げられ、これらの中でも、重合前に粒子化した構成単量体への付着性の観点からリン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト及び酸化マグネシウムから選ばれる一種以上の化合物を含む粒子が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上で併用してもよい。また、水難溶性無機微粒子(B)は、前記無機化合物そのものの粒子(一次粒子)でも、それらが凝集等した二次粒子のいずれでもよい。ここで、水難溶性とは、20℃での水への溶解度が1重量%以下のものをいう。
【0024】
水難溶性無機微粒子(B)の平均粒径は、2〜15μmであり、2〜10μm、更に3〜7μmが好ましい。この平均粒径は、実施例の方法で測定することができる。本発明で製造される蓄熱材は、重合体(A)の表面に水難溶性無機微粒子(B)が付着した構造を有するものである。重合体(A)の重合時には、単量体(1)等、構成単量体の融点又固相転移温度以上の温度で、水の共存下で剪断力をかけて混合することで、構成単量体が液状化し更に粒子化して、その界面に水難溶性無機微粒子(B)が無機コロイドとして接触、付着し安定な水中油エマルションができる。そして、構成単量体をポリマー化することで水難溶性無機微粒子(B)が、重合体(A)からなる粒子の表面に強固に付着する。そして、水難溶性無機微粒子(B)が外側に配置された構造であることが、当該蓄熱材を水硬性組成物に添加した際の成形体中での安定性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0025】
本発明の製造方法において、水難溶性無機微粒子(B)は、重合反応中の安定性の観点から、単量体(1)を含む全構成単量体100重量部に対して、5〜100重量部、更に、10〜50重量部の割合で用いられることが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法では、潜熱蓄熱物質となりうる重合体(A)の表面に水難溶性無機微粒子(B)を付着させた構造を得るに際して、単量体原料を粒子化する条件以外の制約が少なく、一般的な乳化装置の運転条件等の問題は解消される。
【0027】
本発明の粒子状蓄熱材は、蓄熱効果を向上させる観点から、(I)脂肪族炭化水素化合物、(II)芳香族炭化水素化合物、(III)脂肪族アルコール、(IV)エステル、並びに(V)天然及び合成ワックスから選ばれる親油性物質を含有することができる。これらを含有する蓄熱材を得る場合、重合体(A)の重合時に最初から構成単量体とともに原料中に入れておくのが好ましい。
【0028】
(I)脂肪族炭化水素化合物
例えば、分枝状又は有利には直鎖状である飽和又は不飽和の炭素数17〜40の炭化水素、具体的には、n−ヘプタデカン、n−オクタデカン、n−ノナンデカン、n−エイコサン、n−ヘンエイコサン、n−ドコサン、n−トリコサン、n−テトラコサン、n−ペンタコサン、n−ヘキサコサン、n−ヘプタコサン、n−オクタコサンならびに環状炭化水素、具体的には、シクロドデカンが挙げられる。
【0029】
(II)芳香族炭化水素化合物
例えば、ナフタレン、ビフェニル、o−又はm−テルフェニル、アルキル(炭素数1〜40)置換芳香族炭化水素、具体的には、2-メチルナフタレン、ヘキサナフタレン又はデシルナフタレンが挙げられる。
【0030】
(III)脂肪族アルコール
例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ヤシ油アルコールのような混合物が挙げられる。
【0031】
(IV)エステル
例えば、脂肪酸(炭素数8〜28)のアルキル(炭素数1〜10)エステル、具体的には、メチルステアレート、ブチルステアレート又はミリスチルミリスチレートならびに有利にはそれらの共融混合物が挙げられる。
【0032】
(V)天然及び合成ワックス
例えば、モンタンワックス、モンタンエステルワックス、カルナウバワックス、ポリエチレンワックス、酸化ワックス、ポリビニルエーテルワックス、エチレンビニルアセテートワックス又はフィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch)法により得られる硬ろうが挙げられる。
【0033】
なかでも、融解熱量が大きい(I)の脂肪族炭化水素化合物が好ましい。本発明の製造方法において、親油性物質は、重合反応中の安定性の観点から、構成単量体100重量部に対して、5〜150重量部、更に、30〜100重量部の割合で用いられることが好ましい
【0034】
<粒子状蓄熱材の製造方法>
本発明の粒子状蓄熱材は、単量体(1)と水難溶性無機微粒子(B)を含む水中油エマルションをラジカル重合させる工程を経て製造することができる。この水中油エマルションは、例えば、単量体(1)の融点又は固相転移温度以上の温度で、単量体(1)と水難溶性無機微粒子(B)と水とを混合することで、水中に単量体(1)の液滴と水難溶性無機微粒子(B)が分散・懸濁した水中油エマルションとして得ることができる。
【0035】
単量体(1)の重合にあたっては、反応開始剤(重合開始剤)を用いることが好ましい。反応開始剤としては、一般に単量体(1)が油溶性で室温以上の融点を有するため、油溶性で且つ60℃以下では簡単に熱分解が起こらないものが好ましい。即ち、構成単量体に完全溶解し、且つ反応開始剤の10時間の半減期温度が、60〜75℃を有するものがより好ましい。具体的には、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ−(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエイト、t−ヘキシル−パーオキシ−2−エチルヘキサノエイト等が挙げられる。取り扱いの安全性を考えるとアゾ系のものがより好ましい。反応開始剤は、構成単量体100重量部に対して、0.1〜5.0重量部、更に0.5〜3.0重量部の割合で用いられるのが好ましい。
【0036】
一例として、本発明の製造方法では、重合体(A)の構成単量体〔単量体(1)を含む原料単量体〕に、構成単量体に完全に溶解し且つ反応開始剤の10時間の半減期温度が60〜75℃を有する重合開始剤を加え、前記構成単量体と水難溶性無機微粒子(B)とを、前記構成単量体の融点又は固相転移温度以上の温度で、水の共存下で混合する。具体的には、芯となる構成単量体をその融点又は固相転移温度以上の温度に加熱して液状化(溶融)させ、これに水難溶性無機微粒子(B)を含んだ温水、好ましくは50℃以上の温水を加えて懸濁分散液を調製する。この懸濁分散液を素早く強力剪断分散機を用いて分散処理を施し、好ましくは平均粒径5〜100μm、より好ましくは平均粒径7〜40μmのO/W型の懸濁分散液(水中油エマルション)を調製する。そして、前記O/W型の懸濁分散液を素早く反応容器に移し、窒素下において75〜90℃で3〜6時間ラジカル重合反応を行う。反応の終点はNMRで確認することができる。この方法では、溶融状態にあり水中に分散している構成単量体の粒子表面には水難溶性無機微粒子(B)が付着しており、構成単量体をポリマー化することで水難溶性無機微粒子(B)が強固に付着し、無機微粒子の壁膜が形成される。このことにより、個々の粒子が合一することなく蓄熱材が製造され、且つ水より重い懸濁粒子(蓄熱材)の分散液としての入手が可能となる。この製法から、本発明の蓄熱材が水中に分散したスラリーが得られる。これをそのまま本発明の蓄熱材として用いてもよいし、また、噴霧乾燥等により水分を取り除き、粉末化したものを用いてもよい。
【0037】
水の存在下での構成単量体と水難溶性無機微粒子(B)との混合は、剪断力を伴った分散処理、特に、強力剪断分散機を用いて行うことが好ましい。ここでの強力剪断分散機は、分散液に対して強力な剪断力を作用し得る機構のものが用いられ、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル等が挙げられる。また、混合条件は、分散粒径が10μm程度のものを得ることができる条件が好ましいが、分散液量、配合組成、処理温度、処理時間等の条件により異なるため適宜調整する。特に、本発明により得られた粒子状蓄熱材は、平均粒径5〜100μm、好ましくは5〜50μm、より好ましくは7〜40μmであるため、この範囲となるように、前記の条件を調整することが好ましい。この平均粒径は、実施例の方法で測定することができる。
【0038】
本発明によれば、架橋または非架橋ポリマーの形態を有していても、一定以上の融解量とシャープな融解挙動を有する、潜熱蓄熱物質の表面に水難溶性無機微粒子が付着した、粒径分布が均一な平均粒径5〜100μm、好ましくは5〜50μm、より好ましくは7〜40μmの蓄熱材が得られる。
【0039】
本発明で製造される蓄熱材は、水難溶性無機微粒子(B)を用いているため水より重くなり、また、水難溶性無機微粒子(B)の多くは重合体(A)の表面に存在すると考えられる。そのため、水硬性組成物に加えた場合、母材(水硬性組成物)との比重差による材料分離が改善される。更には、水硬性組成物の硬化成形体中にも均一に分散することで、硬化成形体の物性低下を抑制できる。また、本来蓄熱材としての働きでもある水硬性組成物の水和熱の抑制にも、微粒化することと共にシャープな融解挙動をとるため、要求温度での温度応答性が高くより蓄熱効果が高められる。このため、水硬性組成物用の蓄熱材として好適である。
【0040】
本発明の対象となる水硬性組成物は、水硬性粉体と水とを含有する。水硬性粉体としてはセメント又は石膏等が使用できる。セメントとしては、普通、早強、中庸熱、低熱セメント等のポルトランドセメント、および高炉、シリカ、フライアッシュセメント等の混合セメント等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、混合して用いても良い。石膏としては、石膏ボード原料として使用できるレベルの純度があれば十分である。使用される石膏は、α型半水石膏、β型半水石膏の何れか、或いはこれらの混合物であっても良く、任意の配合比率で使用できる。
【0041】
また、水硬性組成物は、分散剤、遅延剤、AE剤、消泡剤、補強繊維材料等、通常のコンクリート構造物やボード状建材を製造する際に使用される各種材料を含有することが可能である。水硬性組成物は、用途にもよるが、水/水硬性粉体の比〔水硬性組成物中の水と水硬性粉体の重量百分率(重量%)、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記される。〕が23〜100重量%、更に30〜70重量%であることが好ましい。なお、このW/PのPには本発明に係る蓄熱材の量も含む。また、Wの量として、混和剤等を含む水硬性組成物調製用の練り水の量を用いることができる(後述の試験例1等)。
【0042】
水硬性組成物の配合物の混練機は特に限定しないが、コンクリート配合物の場合には傾胴形ミキサー、一軸又は二軸強制練りミキサー、パン形ミキサー等、ボード状建材には強制攪拌ミキサー、アイリッヒミキサー等を用いることができる。本発明の蓄熱材の添加時期も特に制限されない。また、本発明の蓄熱材は、水硬性組成物の用途にもよるが、成形体の強度と蓄熱性能の観点から水硬性粉体100重量部に対して1〜30重量部、更に5〜20重量部の割合で用いられることが好ましい。
【0043】
本発明の蓄熱材を含有する水硬性組成物は、例えば通常のコンクリート構造物やボード状建材等の成形体の製造に用いられる成形方法、および養生方法に適用できる。更には、本発明の蓄熱材は、溶剤等に不溶で微粒子状の形状を呈し、且つ固相転移温度以上になっても形状が維持できることから、溶剤塗料、ハイソリット塗料、粉体塗料及び水性塗料をベースとする塗料、ウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ラテックス及びメラミン樹脂フォーム等からなるプラスチックフォーム、テキスタイル、厚紙等への添加剤として使用でき、短期(日間)並びに長期(年間)を通しての温度変動の緩和が期待できる。
【実施例】
【0044】
〔実施例1〕
ビーカーにステアリルアクリレート(日本油脂(株)製 ブレンマーSA)118.5g、2,2-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(和光純薬工業(株)製、V−59)1.5gを計りとり加熱融解し、その中に、リン酸三カルシウム(太平化学産業製)23.7gを水656.3gに分散させた65℃の分散液を加えた。得られた混合液に強力剪断分散機(特殊機化工業製“T・KホモミキサーM型”)を用いた10000rpm、3分間の分散処理を素早く施し、懸濁分散液を得た。この懸濁分散液を四つ口フラスコに移し、窒素下で80℃で4時間重合反応を行い、ポリマー懸濁液とした後、目開き300μmの金網でろ過し、ろ液を暫く静置した。上澄み液393gを取り除き、固形分36%(重量基準、以下特記しない限り同様である)に濃縮されたポリマー懸濁液391gを得た。
【0045】
尚、実施例1で得られたポリマー懸濁液に、リン酸三カルシウムを溶解できる量の塩酸を加え、ポリマー粒子に付着しているリン酸三カルシウムを溶解し、ポリマーのみを室温にて乾燥した。このポリマー粒子を2%重クロロホルム溶液に調製し、H-NMR分析にて未反応分を求めた。ポリマーへの転換率は99%であった。H-NMRは、VARIAN製 NMR−MERCUURY400を用いて測定した。
【0046】
また、前記乾燥後のポリマー粒子を80℃で加熱融解し、50φ×100mmの円柱の容器に流し込み強度測定用の試料を3本作成し、COMPRESSION TESTING MACHINEにて強度を測定し、平均値で2.6N/mm2であった。COMPRESSION TESTING MACHINEは島津製作所製“MODEL CONCRETO 2000”を用い、応力速度 0.3N/mm2/secにて測定した。
【0047】
〔実施例2〕
ビーカーにステアリルアクリレート116.7g、エチレングリコールジメタクリレート(和光純薬工業(株)製、1級試薬)1.8g、2,2-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)1.5gを計りとり加熱融解し、その中に、リン酸三カルシウム35.5gを水644.5gに分散させた65℃の分散液を加えた。得られた混合液に強力剪断分散機を用いた10000rpm、3分間の分散処理を素早く施し、懸濁分散液を得た。この懸濁分散液を四つ口フラスコに移し、窒素下で80℃で4時間重合反応を行い、架橋型ポリマー懸濁液とした後、目開き300μmの金網でろ過し、ろ液を暫く静置した。上澄み液393gを取り除き、固形分38.8%に濃縮された架橋型ポリマー懸濁液386gを得た。
【0048】
ポリマー懸濁液を少量取り、そこにリン酸三カルシウムを溶解できる量の塩酸を加え、ポリマー粒子に付着しているリン酸三カルシウムを溶解し、ポリマーのみを乾燥して取り出した。図1に示す示差走査熱量分析はPerkin Elmer製Pyris6 DSCにて行ったものである。これより、補外開始点温度(T1)とピークトップ温度(T2)を求め、固相転移温度での温度応答性の指標とした。更に、融解熱量を求め蓄熱性の指標とした。
【0049】
また、得られたポリマー懸濁液中の粒子状蓄熱材の電子顕微鏡写真を図5に、粒径分布を図7に示す。電子顕微鏡写真は、(株)日立ハイテクノロジーズ製日立超高性能電界放出形走査電子顕微鏡“S−4800”を用いて撮影(倍率は×3K)した。これにより、当該粒子は無機物質で被覆化されていることを確認した。更に、図7の粒径分布により、1つのピークでほぼ正規分布を示していることから、粒子間の凝集がないことを確認した。
【0050】
〔実施例3〜9〕
実施例2と同操作で、表1に示した各種単量体(1)、架橋剤、並びに水難溶性無機微粒子(B)を用いてポリマー化し、各種の架橋ポリマー懸濁液を得た。また、代表的なポリマー構造物においては、実施例2と同操作で各物性の測定を行った。
【0051】
〔実施例10〕
ビーカーにステアリルアクリレート87.8g、エチレングリコールジメタクリレート(和光純薬工業(株)製、1級試薬)1.4g、パラフィンワックス(日本精蝋(株)製、パラフィンワックス115、融点51℃)29.7g、2,2-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)1.2gを計りとり加熱融解し、その中に、リン酸三カルシウム35.7gを水644.3gに分散させた65℃の分散液を加えた。得られた混合液に強力剪断分散機を用いた10000rpm、3分間の分散処理を素早く施し、懸濁分散液を得た。この懸濁分散液を四つ口フラスコに移し、窒素下で80℃で4時間重合反応を行い、親油性物質含有ポリマー懸濁液とした後、目開き300μmの金網でろ過し、ろ液を暫く静置した。上澄み液374gを取り除き、固形分38.9%に濃縮された親油性物質含有ポリマー懸濁液375gを得た。
【0052】
〔実施例11〕
実施例10と同操作で、表2に示したパラフィンワックス量を構成単量体100重量部に対して33.3重量部から100重量部に変更し、親油性物質含有ポリマー懸濁液を得た。得られたポリマー懸濁液から実施例2と同様に処理操作を行い、示差走査熱量測定結果を図2に、ポリマー粒子の電子顕微鏡写真を図6に、粒径分布を図7に示す。これらにより、当該粒子は少し異形を呈するが無機物質で被覆化されていること確認した。更に、粒径分布により、1つのピークでほぼ正規分布を示していることから、粒子間の凝集がないことを確認した。
【0053】
〔比較例1〕
実施例2と同操作で、ステアリルアクリレートの代わりにラウリルアクリレート(和光純薬工業(株)製 1級試薬)に変更した。反応終了後、懸濁分散液中に1〜2mm程度の凝集物粒子が生成していた。その後、懸濁分散液を目開き300μmの金網でろ過したが、大量の凝集物が金網の上に残存した。尚、凝集物の一部を採り、実施例2と同操作で示差走査熱量分析を行った。
【0054】
〔比較例2〕
実施例2と同操作で、ステアリルアクリレートの代わりに2−エチルヘキシルアクリレート(和光純薬工業(株)製 1級試薬)に変更した。反応終了後、懸濁分散液中に5〜20mm程度の凝集物の塊が生成していた。その後、懸濁分散液を目開き300μmの金網でろ過したが、大量の凝集物が金網の上に残存した。
【0055】
〔比較例3〜5〕
比較例3に低分子化合物の潜熱蓄熱物質としてパラフィンワックス(日本精蝋(株)製、パラフィンワックス115)、比較例4、5に高分子化合物の潜熱蓄熱物質として、ポリエチレン(ALDRICH製、MW4000)、ポリエチレンモノアルコール(ALDRICH製、Mn460)を準備した。また、準備した各種ポリマーの示差走査熱量測定結果を図3、4に示す。
【0056】
尚、比較例3のパラフィンワックスのみ60℃で加熱融解し、実施例1と同様に強度を測定し、平均値で1.76N/mm2であった。
【0057】
<粒子性状と分散特性の評価>
実施例及び比較例で得られた、ポリマー型蓄熱材を含む懸濁分散液について、分散特性(分散安定性、粒子性状)を以下の方法で評価した。また、各物質の特性値、並びに懸濁分散液の特性に関しても下記の方法により測定した。結果を表1、2に示す。
【0058】
(1−1)ポリマーのT1、T2及び融解熱量
ポリマー懸濁液から実施例2の方法で被覆物質を除いたポリマーについて、補外開始点温度(T1)、ピークトップ温度(T2)及び融解熱量を、Perkin Elmer製“Pyris6 DSC”型の示差走査熱量測定にて求めた。尚、測定条件は、Heat 1stは3℃/分で−10℃から100℃に昇温、Coolは3℃/分で100℃から−30℃に冷却、Heat 2ndは3℃/分で−30℃から100までの昇温の繰り返し操作を行い、Heat 2ndの値を採用した。尚、比較例4、5の蓄熱物質の測定条件は、20℃から150℃のレンジ幅に変更して測定した。
【0059】
(1−2)平均粒径
平均粒径は、(株)堀場製作所製“レーザ回析/散乱式粒度分布測定装置 LA−300”を用いて、懸濁分散液中に含まれる粒子の粒径(体積基準、メジアン径)を測定した。その際、超音波2分間処理により水に分散させて測定し、懸濁分散液中の懸濁粒子の粒径は、目開き300μmの金網通過品を対象として測定した。
【0060】
(1−3)凝集物量
凝集物量は、反応終了後の懸濁分散液を目開き300μmの金網にてろ過し、その金網残留物の乾燥重量を計り下式にて求めた。
凝集物量(重量%)=300μmの金網残留物の乾燥重量(g)÷{単量体(1)(g)+架橋剤(g)+水難溶性無機微粒子(B)(g)}×100
【0061】
懸濁分散液の懸濁粒子の平均粒径と凝集物量から、懸濁分散液の分散安定性を評価できる。平均粒径が100μm以下であり凝集物量が3%以下であれば実用上問題のない分散安定性を有する。
【0062】
【表1】

【0063】
(注)
*1)表中の記号は、SA:ステアリルアクリレート、VA:ベヘニルアクリレート、CA:セチルアクリレート、LA:ラウリルアクリレート、EHA:2−エチルヘキシルアクリレート、SMA:ステアリルメタクリレート、PW−115:パラフィンワックス115、PE−4000:ポリエチレン(ALDRICH製、MW4000)、PEA−460:ポリエチレンモノアルコール(ALDRICH製、Mn460)を表す。なお、表1では、便宜上、比較の単量体も単量体(1)として示した。
*2)表中の記号は、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレートを表す。
*3)単量体(1)と架橋剤の合計におけるモル%
*4)単量体(1)と架橋剤の合計(構成単量体の合計)100重量部に対する重量部
*5)単量体(1)と架橋剤と水難溶性無機粒子の合計重量に対する目開き300μmの金網残留物の重量
【0064】
【表2】

【0065】
(注)
*1)表中の記号は、SA:ステアリルアクリレート、EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート
*2)表中の記号は、PW−115:パラフィンワックス115を表す。
*3)構成単量体100重量部に対する重量部
*4)構成単量体と親油性物質の合計100重量部に対する重量部
*5)構成単量体と親油性物質と水難溶性無機粒子の合計重量に対する目開き30μmの金網残留物の重量
【0066】
図1、3、4より、実施例2で得られたポリマー粒子は、従来のポリマー系蓄熱材(ポリエチレン等)に比べ、パラフィンワックスと同じようなシャープな融解挙動を有していることから、融解温度における温度応答性が高いこと示している。このことは、表1中のT1(補外開始点温度)とT2(ピークトップ温度)との温度差でも示され、温度差が小さいほどシャープと言える。また、融解熱量も従来のポリマー系蓄熱材と同等の熱量を有していることが分かる。これらのことから、本発明の構造を有するポリマーは、蓄熱物質として優れていると言える。また、実施例1で得られたポリマーと比較例3のパラフィンワックスは、同じような融点とシャープな融解挙動を有しているが、前者の強度は後者の1.5倍程度あったことから、蓄熱材として用いる場合も実施例1の粒子状蓄熱材の方が強度的にも優れていると言える。
【0067】
実施例2〜6および比較例1〜2より、本発明の構造を有するポリマー粒子の製造法として、単量体(1)のR4のアルキル基の炭素数は14以上、好ましくは16以上のものを用いることで、凝集物量が少なく、粒径分布が1つのピークでほぼ正規分布をもつ、平均粒径10数μmの粒子が上手く生成できている。更に、図5より、これらのポリマー粒子表面には細かい無機微粒子が均一に付着し、上手く被覆化していることを示している。
【0068】
一方、単量体(1)のR4のアルキル基の炭素数が14未満のものを用いると、反応中に粒子が合一し1〜2mm程度の粗大粒子が生成したり、5〜20mm程度の凝集物の塊ができ、大量の凝集物として目開き300μmの金網上に残った。更に、凝集物の塊が生成したものは、反応中反応温度が制御できず95℃近くまで上昇した。これらのことより、本発明の製造法において、単量体(1)は特定の化合物に限定されることを示している。
【0069】
実施例2、7〜9より、本発明の製造に適した水難溶性無機微粒子には、粒径が10数μm以下の水難溶性の無機微粒子が有用ではあるが、より分散安定性や高い生産性(不要である凝集物量を減らし収率を高めること)を追及すると、リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、酸化マグネシウム等が有効であることが分かった。
【0070】
また、表2、並びに図2、6、7より、本発明の構成単量体に親油性物質を含有させた状態で粒子化、並びにポリマー化を行っても、図6に示すように少し異形ではあるが無機微粒子が付着し、上手く被覆化していることを示している。図7より粒径分布が1ピークのほぼ正規分布をもち、平均粒径10数μmの粒子が上手く生成できていることを示している。更に、図2より、無機微粒子を除いた状態での粒子の熱分析では、熱量がポリマー単独の場合に比べ更に大きく、シャープな融解挙動を有していることが分かる。これらのことから、本発明の重合体(A)と親油性物質とを含む粒子もまた、蓄熱物質として優れていると言える。
【0071】
<試験例>
〔1〕比較用の蓄熱材の製造
〔比較製造例1〕
ビーカーにステアリルアクリレート116.7g、2,2-アゾビス(2−メチルブチロニトリル)1.5gを計りとり加熱融解し、その中にポリ(スチレン−alt−マレイン酸)ナトリウム塩〔Poly(styrene-alt−maleic acid),sodium〕の30重量%水溶液(ALDRICH製、MW150000)を15.6g、ポリビニールアルコールの10重量%水溶液(日本合成化学(株)製、ゴーセノールGL−05)46.7gを水219.5gに分散させた65℃の分散液を加えた。得られた混合液に強力剪断分散機を用いた10000rpm、3分間の分散処理を素早く施し乳化液を得た。この乳化液を四つ口フラスコに移し、窒素下で80℃で4時間重合反応を行いポリマー乳化液とした後、目開き300μmの金網でろ過した。固形分32.0%、平均粒径5.1μmのポリマー乳化液384gを得た。尚、凝集物量は、0.2%であった。
【0072】
〔比較製造例2〕
ビーカーにステアリルアクリレート115.0g、エリレングリコールジメタクリレート1.8g、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)1.5gを計りとり加熱融解し、その中にポリ(スチレン−alt−マレイン酸)ナトリウム塩〔Poly(styrene-alt−maleic acid),sodium〕の30重量%水溶液(ALDRICH製、MW150000)を15.6g、ポリビニールアルコールの10重量%水溶液(日本合成化学(株)製、ゴーセノールGL−05)46.7gを水219.5gに分散させた65℃の分散液を加えた。得られた混合液に強力剪断分散機を用いた10000rpm、3分間の分散処理を素早く施し乳化液を得た。この乳化液を四つ口フラスコに移し、窒素下で80℃で4時間重合反応を行いポリマー乳化液とした後、目開き300μmの金網でろ過した。固形分32.3%、平均粒径5.2μmのポリマー乳化液380gを得た。尚、凝集物量は、0.3%であった。
【0073】
〔2〕試験例及び比較試験例
〔試験例1〕
実施例1の蓄熱材の36%懸濁分散液208gに、セメント混和剤(花王(株)製“マイテイ3000S”)7g(有姿)を含む水270gを加え、調製練り水を準備した。その調製練り水478g〔蓄熱材(固形分)75g、水403g(混和剤7gを含む)〕をセメント(太平洋セメント(株)製、普通ポルトランドセメント)1000gに加え、素早く混練機にてかき混ぜセメントペーストを調製した。素早くセメントペーストをコーンに詰め、調製直後及び調製から20分後のフローを測定した〔これを分散性試験(詳細は後述する)とした〕。また、前記と同じ操作で調製練り水を375g〔蓄熱材(固形分)75g、水300g(混和剤7gを含む)〕に変更した以外は、分散性試験の場合と同様にしてセメントペーストを調製し、このものの硬化時における簡易断熱温度上昇試験(詳細は後述する)を行い、最高発熱温度を求めた。これらの結果を表3に示した。
【0074】
〔試験例2〜4〕
実施例1の蓄熱材の代わりに実施例2、3、11の蓄熱材を使用した。他の試験操作は試験例1と同じことを行い、結果を表3に示した。
【0075】
〔比較試験例1〕
セメント混和剤(花王(株)製“マイテイ3000S”)7g(有姿)を含む水375gをセメント1000gに加え、素早く混練機にてかき混ぜセメントペーストを調製し、試験例1と同様に分散性試験を行った。また、前記と同じ操作で混和剤を含む水300gに変更した以外は、分散性試験の場合と同様にして、セメントペーストを調製し、試験例1と同様に簡易断熱温度上昇試験を行い、最高発熱温度を求めた。これらの結果を表3に示した。尚、この比較試験例1で示した最高発熱温度を、簡易断熱温度上昇試験におけるプレーン(基準)とする。
【0076】
〔比較試験例2〕
比較製造例1で得られた有機系分散安定剤を使用したポリマー型蓄熱材(固形分32.0%の乳化物)208gに、セメント混和剤(花王(株)製“マイテイ3000S”)7g(有姿)を含む水259gを加え、調製練り水467g〔蓄熱材(固形分)67g、水400g(混和剤7gを含む)〕を準備した。その調製練り水をセメント1000gに加え、素早く混練機にてかき混ぜセメントペーストを調製し、試験例1と同様に分散性試験を行った。また、前記と同じ操作で調製練り水を367g〔蓄熱材(固形分)67g、水300g(混和剤7gを含む)〕に変更した以外は、分散性試験の場合と同様にしてセメントペーストを調製し、このものの硬化時における簡易断熱温度上昇試験を行い、最高発熱温度を求めた。これらの結果を表3に示した。
【0077】
〔比較試験例3〕
比較製造例2で得られた有機系分散安定剤を使用したポリマー型蓄熱材(固形分32.3%の乳化物)206gに、セメント混和剤(花王(株)製“マイテイ3000S”)7g(有姿)を含む水261gを加え、調製練り水467g〔蓄熱材(固形分)67g、水400g(混和剤7gを含む)〕を準備した。その調製練り水をセメント1000gに加え、素早く混練機にてかき混ぜセメントペーストを調製し、試験例1と同様に分散性試験を行った。また、前記と同じ操作で調製練り水を367g〔蓄熱材(固形分)67g、水300g(混和剤7gを含む)〕に変更した以外は、分散性試験の場合と同様にしてセメントペーストを調整し、このものの硬化時における簡易断熱温度上昇試験を行い、最高発熱温度を求めた。これらの結果を表3に示した。
【0078】
〔比較試験例4〕
混練機にセメント1000gと、比較例5で準備したポリエチレンモノアルコール(ALDRICH製、Mn460、数mmの淡黄色ビーズ)62.5gを加え、空練り10秒行なった。その中にセメント混和剤(花王(株)製“マイテイ3000S”)7g(有姿)を含む水398gを加え、素早く混練機にてかき混ぜセメントペーストを調製し、試験例1と同様に分散性試験を行った。また、前記と同じ操作で調製練り水を300gに変更した以外は、分散性試験の場合と同様にしてセメントペーストを調整し、このものの硬化時における簡易断熱温度上昇試験を行い、最高発熱温度を求めた。これらの結果を表3に示した。
【0079】
〔3〕セメントペーストの分散性試験と簡易断熱温度上昇試験
試験例1〜4と比較試験例1〜4で得られたセメントペーストについて、分散性試験と簡易断熱温度上昇試験を以下の方法により行った。結果を表3に示す。
【0080】
(3−1)分散性試験
分散性試験は、混練機に(株)ダルトン製“DALTON万能混合攪拌機 5dm−03−γ”を用い、各材料を添加後低速60秒で練まぜ一旦かきとり、更に低速60秒で攪拌した後、ペーストコーン(底内径φ85mm×上内径φ76mm×高さ40mm)にペーストを流し素早くコーンを持ち上げ、初期フローの広がりを測定した。また、20分後のフローは、前記製法のセメントペーストを20分間静置後、測定前に低速10秒で攪拌してから同操作で測定した。
【0081】
(3−2)簡易断熱温度上昇試験
簡易断熱温度上昇試験は、発泡ウレタンで断熱処理を施した断熱箱に、前記と同じ操作でこの試験用に調製したセメントペーストを500mlの容器に1150gを計りとり断熱箱に埋め込み、セメントペーストの硬化時の発熱温度を追跡記録した。尚、温度の追跡情報は、ペースト中に差し込んだ熱電対から、(株)テクノ・セブン製“パソコン用データ集録システム ソフトサーモE830”で処理し水和発熱による最高温度を求めた。試験環境は、20℃、60%RHの恒温室で行った。
【0082】
【表3】

【0083】
表中、分散性試験用のセメントペーストにおいて、W/Pは、Wとして蓄熱材懸濁分散液の水の量を含めて、また、Pとして蓄熱材懸濁分散液の蓄熱材の量(固形分)を含めて算出したものである。また、簡易断熱温度上昇試験用のセメントペーストにおいて、W/Cは、Wとして蓄熱材懸濁分散液の水の量を含めて算出したものである。
【0084】
表3の比較試験例4より、比較例5の蓄熱材では、簡易断熱試験における発熱温度の低減が少なく、固有の融解熱量に比べ効果が十分でなかった(蓄熱物質の融解温度幅が影響)。このことより、望まれる蓄熱物質の熱特性としては、硬化時の上昇温度範囲内にあり且つ融解挙動がシャープな方が優れていることが分かる。また、試験例1〜4及び比較例2〜3より、懸濁安定剤に有機系安定剤を用いると、セメントペーストの初期フローが著しく低下し、セメントへの適正が悪いことを示している。一方、試験例1〜4より、本発明の水難溶性の無機微粒子によるポリマー型蓄熱材を用いると、セメントペーストの初期フロー値はプレーンに対して約20%低下したが、20分後のフロー値の保持性はほぼ横ばいであることから、本発明の蓄熱材がセメントへの適用性が優れていることが分かる。また、簡易断熱温度上昇試験においても、最高発熱温度はプレーンに対して約5℃抑制することができ、蓄熱材として性能を発揮している。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例2の本発明の蓄熱材の差走査熱量測定(DSC)のチャートである。
【図2】実施例11の本発明の蓄熱材の差走査熱量測定(DSC)のチャートである。
【図3】比較例3のパラフィンワックスの示差走査熱量測定(DSC)のチャートである。
【図4】比較例5のポリエチレンモノアルコールの示差走査熱量測定(DSC)のチャートである。
【図5】実施例2の本発明の蓄熱材の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】実施例11の本発明の蓄熱材の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】実施例2、11の本発明の蓄熱材の粒径分布データである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単量体を構成単量体とする重合体(A)からなる粒子の表面に、平均粒径が2〜15μmの水難溶性無機微粒子(B)が付着してなる、平均粒径5〜100μmの粒子状蓄熱材。
【化1】


〔式中、R1〜R3は、それぞれ水素原子又はメチル基を表し、R4は炭素数14〜30のアルキル基を表す。〕
【請求項2】
重合体(A)が、架橋構造を有する重合体である請求項1記載の粒子状蓄熱材。
【請求項3】
水難溶性無機微粒子(B)が、リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト及び酸化マグネシウムから選ばれる化合物を含有する粒子である請求項1又は2記載の粒子状蓄熱材。
【請求項4】
更に親油性物質を含有する請求項1〜3の何れか1項記載の粒子状蓄熱材。
【請求項5】
下記一般式(1)で表される単量体と平均粒径が2〜15μmの水難溶性無機微粒子(B)を含む水中油エマルションをラジカル重合し、前記単量体(1)を構成単量体とする重合体(A)からなる粒子の表面に前記水難溶性無機微粒子(B)を付着させる工程を有する、平均粒径5〜100μmの粒子状蓄熱材の製造方法。
【化2】


〔式中、R1〜R3は、それぞれ水素原子又はメチル基を表し、R4は炭素数14〜30のアルキル基を表す。〕
【請求項6】
前記一般式(1)で表される単量体を架橋剤の存在下で重合させる、請求項5記載の粒子状蓄熱材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか1項記載の粒子状蓄熱材を含有する水硬性組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−46638(P2009−46638A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216251(P2007−216251)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】