説明

蓄電システム制御装置

【課題】需要家の蓄電池の負荷平準化の使用目的を害することなく電力系統の周波数を調整制御できる蓄電システム制御装置を提供することである。
【解決手段】調整充放電電力演算部21は、電力系統の周波数の変動に応じて予め充放電許容変動幅パターン記憶部20に記憶された充放電許容変動幅の範囲内で周波数の変動を抑制する調整充放電電力を演算し、加算部23は、この調整充放電電力を予めベース充放電パターン記憶部19に記憶された蓄電池15の充放電のベースとなる充放電電力に加算し、パワーコンディショナ17は、加算演算部23で演算された値に基づいて蓄電池15の放電充電制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需要家に設置された蓄電池を充放電制御して周波数調整を行う蓄電システム制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の周波数調整は電力の供給者側にて行われており、火力発電の自動周波数制御AFC(Automatic Frequency Control)や揚水発電にて周波数調整している。AFCは、電力系統の需給の不平衡によって生じる周波数変動を補償する制御方式であり、経済負荷配分制御EDC(Economic Dispatching Controlと協調して運用される。電力系統の運用に際しては、AFCやEDCにより、電力系統の需要変動に応じて各発電機の出力を適切に制御することで、電力系統の周波数が基準周波数に対して所定の偏差内に保たれるように制御している。
【0003】
このような発電機の出力の制御だけでは、需要変動に対応できない場合もあり、近年においては、電力貯蔵技術を用いて、需要の少ないときに電力を貯蔵し、需要の多いときには貯蔵した電力を放出して需要変動に対応するようにしている。
【0004】
電力系統の周波数偏差が所定の範囲を超えたときは発電機で需要変動に対応し、周波数偏差が所定の範囲以下のときは二次電池の電力を電力系統に放電したり、電力系統の電力を二次電池に充電したりし、電力の需給不均衡を解消して電力系統の周波数変動を抑制するようにしたものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4155674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電力の需給不均衡を二次電池の充放電で行う場合には、周波数調整用の専用の二次電池を設ける必要があるので設備コストが向上する。電力の供給者側での周波数調整力が不足するのは電力需要が低下する短期間(端境期)のみであるので、周波数調整用の専用の二次電池を設けることは経済的に得策でない。
【0007】
そこで、需要家に設置された蓄電池を用いて、電力系統の周波数を調整制御することが考えられるが、需要家に設置された蓄電池は、一般に、需要家の負荷平準化等を目的とするものであり、その蓄電池の使用目的を害さないようにしなければならない。
【0008】
本発明の目的は、需要家の蓄電池の負荷平準化の使用目的を害することなく電力系統の周波数を調整制御できる蓄電システム制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係る蓄電システム制御装置は、需要家に設置された蓄電池の充放電のベースとなる充放電電力が時間帯ごとに予め設定されたベース充放電パターンを記憶するベース充放電パターン記憶部と、前記ベースとなる充放電電力に対して充放電許容変動幅が時間帯ごとに予め設定された充放電許容変動幅パターンを記憶する充放電許容変動幅パターン記憶部と、電力系統の周波数の変動に応じて前記充放電許容変動幅の範囲内で前記周波数の変動を抑制する調整充放電電力を演算する調整充放電電力演算部と、前記ベース充放電パターンに設定されたベースとなる充放電電力に前記調整充放電電力演算部で演算された調整充放電電力を加算する加算演算部と、前記加算演算部で演算された値に基づいて前記蓄電池の放電充電制御を行うパワーコンディショナとを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明に係る蓄電システム制御装置は、請求項1の発明において、前記充放電許容変動幅は、放電側の許容変動幅と充電側の許容変動幅とが同一であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、電力系統の周波数の変動に応じて、ベースとなる充放電電力に対して充放電許容変動幅の範囲内で需要家に設置した蓄電池により、調整充放電電力を調整するので、需要家の蓄電池の本来的な目的である負荷平準化を妨げることなく、電力系統の周波数変動の抑制を行うことができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、放電側の許容変動幅と充電側の許容変動幅とを同一にするので、周波数変動が大小いずれの方向に変動した場合であっても、均一に周波数変動の抑制を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る蓄電システム制御装置を需要家に設置している蓄電池に適用した場合のブロック構成図。
【図2】本発明の実施形態におけるベース充放電パターンの一例の説明図。
【図3】本発明の実施形態における充放電許容変動幅パターンの一例の説明図。
【図4】本発明の実施形態における調整充放電電力演算部での周波数の変動を抑制する調整電力ΔPの演算内容を示す説明図。
【図5】周波数変動に応じて変化する蓄電池の充放電電力の一例を示すグラフ。
【図6】本発明の実施形態に係る蓄電システム制御装置よる蓄電池の充放電制御の動作を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る蓄電システム制御装置を需要家に設置している蓄電池に適用した場合のブロック構成図である。
【0015】
需要家の所内系統には、電力系統11から受電変圧器12を介して所内系統の母線13に電力が供給される。母線13には需要家の負荷14が接続され、負荷14には電力系統11から受電変圧器12を介して電力が供給される。また、需要家の所内系統には蓄電池15が設けられ、蓄電池15は連系変圧器16及びパワーコンディショナー17を介して母線13に接続されている。
【0016】
パワーコンディショナー17は蓄電器15を充放電制御し、電力系統11側から見た需要家の負荷の平準化を図るものである。例えば、昼間において負荷14の使用電力が大きいときは蓄電池15から電力を放電し、夜間において負荷14の使用電力が小さいときは蓄電池15に充電する。これにより、電力系統側から見ると需要家の負荷の平準化が図れる。
【0017】
蓄電システム制御装置18は、このような需要家の蓄電池15の負荷平準化の使用目的を害することなく、電力系統の周波数を調整制御できるように蓄電池15を充放電制御するものである。
【0018】
蓄電システム制御装置18のベース充放電パターン記憶部19には、蓄電池15の充放電のベースとなる充放電電力のベース充放電パターンが予め記憶されている。図2はベース充放電パターンの一例の説明図であり、ベース充放電パターンには、蓄電池15の充放電のベースとなる充放電電力が時間帯ごとに予め設定されている。図2では放電電力をプラスとし充電電力をマイナスとしている。以下の説明では、放電電力をプラス、充電電力をマイナスとして説明する。
【0019】
例えば、図2に示すベース充放電パターンは、夜間の0時から4時までは、蓄電池15に1200kWの電力を充電し、4時半には900kW、5時には600kW、5時半から6時までは300kWを蓄電池15に充電する。そして、6時半から8時半までは蓄電池15への充放電は行わず、9時から20時半までは600kWの放電を行い、21時から21時半までは蓄電池15への充放電は行わず、22時から23時半まで1200kWの充電を行うベース充放電パターンである。このようなベース充放電パターンは、曜日、5月連休や正月などの休日などにより異なるパターンであり、ベース充放電パターン記憶部19には、これら複数のベース充放電パターンを記憶している。
【0020】
また、充放電許容変動幅パターン記憶部20には、図2に示したベースとなる充放電電力に対する充放電許容変動幅を定めた充放電許容変動幅パターンが予め記憶されている。図3は充放電許容変動幅パターンの一例の説明図であり、充放電許容変動幅パターンには、ベースとなる充放電電力に対して、充放電許容変動幅が時間帯ごとに予め設定されている。
【0021】
例えば、図3に示す充放電許容変動幅パターンは、夜間の0時から4時までは蓄電池15に対して±200kWまで充放電を許容し、4時半から9時半までは±400kWまで充放電を許容する。また、9時から20時半までは±350kWの充放電を許容し、21時から21時半までは±400kWの充放電を許容し、22時から23時半までは±200kWの充放電を許容する充放電許容変動幅パターンである。このような充放電許容変動幅パターンは、ベース充放電パターンと同様に、曜日、5月連休や正月などの休日などにより異なるパターンであり、充放電許容変動幅パターン記憶部20には、これら複数の充放電許容変動幅パターンを記憶している。
【0022】
この充放電許容変動幅パターンの充放電許容変動幅は、各需要家と電力の供給者との間の契約で予め定めるものである。これは、需要家に設置している負荷平準化を目的とする蓄電池15は、端境期には必ずしもフルに充放電する必要もないことから、各需要家の蓄電池15の利用状況に応じて、電力系統の周波数を調整制御に寄与できる蓄電量が異なるからである。
【0023】
図3では、充放電許容変動幅として、放電側の許容変動幅と充電側の許容変動幅とが同一である場合を示したが、需要家の都合により、放電側の許容変動幅と充電側の許容変動幅とで異なる許容変動幅を定めることも可能である。需要家は、昼間においては蓄電池15から放電をしたい状態であり、夜間においては蓄電池15に充電をしたい状態であるので、例えば、昼間は放電側の許容変動幅を大きくし充電側の許容変動幅を小さくする。また、夜間は、逆に放電側の許容変動幅を小さくし充電側の許容変動幅を大きくすることが考えられる。
【0024】
次に、調整充放電電力演算部21は、充放電許容変動幅の範囲内で電力系統の周波数の変動を抑制する調整充放電電力を演算するものである。電力系統の周波数fは、母線13に設けられた周波数検出器22で検出され、周波数検出器22で検出された電力系統の周波数fは調整充放電電力演算部21に入力される。また、調整充放電電力演算部21には、充放電許容変動幅パターン記憶部20に記憶された充放電許容変動幅(放電側の許容変動幅と充電側の許容変動幅)も入力される。
【0025】
調整充放電電力演算部21は、周波数検出器22で検出された電力系統の周波数fに応じて、周波数の変動を抑制する調整電力を演算し、その調整電力が充放電許容変動幅(放電側の許容変動幅と充電側の許容変動幅)を逸脱するときは、調整電力を充放電許容変動幅の範囲内となるようにリミッタをかけ、調整充放電電力として加算演算部23に出力する。
【0026】
図4は、調整充放電電力演算部21での周波数の変動を抑制する調整電力ΔPの演算内容を示す説明図である。調整充放電電力演算部21は、周波数検出器22で検出された電力系統の周波数fと基準周波数f0との周波数偏差Δfを求め、周波数偏差Δfに応じて調整電力ΔPを演算する。図4では、基準周波数f0が50Hzであり、周波数偏差Δfが±0.04Hzの範囲内(周波数fが49.96Hz〜50.04Hz)のときは調整電力ΔPは0、周波数偏差Δfが±0.04Hz〜±0.12Hzの範囲内(周波数fが49.88Hz〜49.96Hz、50.04Hz〜50.12Hz)のときは調整電力ΔPは±100kW、周波数偏差Δfが±0.12Hzの範囲(周波数fが49.88Hz以下、50.12Hz以上)を逸脱したときは調整電力ΔPは±400kWである場合を示している。
【0027】
例えば、周波数偏差Δfが+0.1Hz(周波数fが+50.1Hz)のときは調整電力ΔPは−100kWであり、周波数偏差Δfが−0.1Hz(周波数fが49.9Hz)のときは調整電力ΔPは+100kWである。すなわち、電力系統の周波数fが基準周波数f0より大きいときは、調整電力ΔPはマイナスとなり蓄電池15に対しては充電方向の調整電力となる。一方、電力系統の周波数fが基準周波数f0より小さいときは、調整電力ΔPはプラスとなり蓄電池15に対しては放電方向の調整電力となる。
【0028】
そして、調整充放電電力演算部21は演算した調整電力ΔPが充放電許容変動幅(放電側の許容変動幅と充電側の許容変動幅)を逸脱しているときは、充放電許容変動幅の範囲内となるようにリミッタをかけ、調整充放電電力として出力する。例えば、図3に示した充放電許容変動幅の場合、4時半から5時までは充放電許容変動幅は±300kWであるので、調整電力ΔPが±400kWである場合には、±300kWに制限された調整充放電電力となる。
【0029】
次に、加算演算部23は、ベース充放電パターン記憶部19に記憶されたベースとなる充放電電力に、調整充放電電力演算部21で演算された調整充放電電力を加算し、蓄電池15の充放電目標値としてパワーコンディショナ17に出力する。パワーコンディショナ17は加算演算部23で演算された充放電目標値に基づいて、蓄電池15の放電充電制御を行う。
【0030】
図5は、周波数変動に応じて変化する蓄電池の充放電電力の一例を示すグラフであり、図5(a)は周波数変動のグラフ、図5(b)は蓄電池の充放電電力のグラフである。図5では、10時から11時までの周波数変動に応じて蓄電池の充放電電力の変化の一例を示しており、10時から11時においては、図2に示すように需要家のベース充放電電力は放電電力であるので、図5(b)では縦軸を放電電力と記載している。また、そのときの需要家の放電電力は600kWであるので、周波数変動に応じて調整充放電電力演算部21により演算される調整充放電電力は、図5(b)に示すように、放電電力600kWを基準として変動することになる。
【0031】
10時から11時においては、10時43分及び10時55分の近傍以外の時間帯では、周波数fは49.88Hz〜49.96Hz、または50.04Hz〜50.12Hzの範囲に入っているので、調整充放電電力演算部21により演算される調整電力は±100kWである。この調整電力(±100kW)は10時から11時までの充放電許容変動幅(±350kW)の範囲内であるので、この調整電力(±100kW)が調整充放電電力(±100kW)として加算演算部23に出力される。これにより、パワーコンディショナ17は、調整充放電電力(±100kW)が放電電力600kWに重畳するように蓄電池15の放電制御を行う。
【0032】
一方、10時43分及び10時55分の近傍では、周波数fは50.12Hzを超えているので、調整充放電電力演算部21により演算される調整電力は−400kWとなる。この調整電力(−400kW)は10時から11時までの充放電許容変動幅(−350kW)の範囲を超えているので、この調整電力(−400kW)は−350kWに制限され、調整充放電電力(−350kW)として加算演算部23に出力される。パワーコンディショナ17は調整充放電電力(−350kW)が放電電力600kWに重畳するように蓄電池15の放電制御が行う。
【0033】
図6は、本発明の実施形態に係る蓄電システム制御装置による蓄電池の充放電制御の動作を示すグラフである。時点t0において、ベース充放電電力はベース放電電力PB1であるとする。周波数fに変動がない場合は、調整充放電電力演算部21の出力である調整充放電電力は0であるので、パワーコンディショナ17はベース放電電力PB1で放電制御する。一方、時点t1で周波数が変動したとする。周波数fが基準周波数f0より大きくなったときは、調整充放電電力演算部21はマイナスの調整充放電電力を出力し、周波数fが基準周波数f0より小さくなったときは、調整充放電電力演算部21はプラスの調整充放電電力を出力する。
【0034】
調整充放電電力演算部21で演算された調整充放電電力は、加算演算部23でベース放電電力PB1に加算され、パワーコンディショナ17はベース放電電力PB1に調整充放電電力が加算された値を充放電目標値として蓄電池15を充放電制御する。そして、時点t2において、ベース充放電電力が0となると、パワーコンディショナ17は周波数変動による調整充放電電力だけを充放電目標値として蓄電池15を充放電制御する。次に、時点t3において、ベース充放電電力がベース充電電力−PB2となると、パワーコンディショナ17はベース充電電力−PB2に調整充放電電力が加算された値を充放電目標値として蓄電池15を充放電制御する。
【0035】
このように、需要家の放電許容変動幅及び充電許容変動幅の範囲内で、電力系統の周波数fの変動に応じて周波数fの変動を抑制する調整充放電電力または調整放電電力を求め、予め設定されている充放電パターンに重畳し、重畳して求められた値にて蓄電池15を充放電するので、需要家の蓄電池15の負荷平準化の使用目的を害することなく、電力系統の周波数変動の抑制を行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
11…電力系統、12…受電変圧器、13…母線、14…負荷、15…蓄電池、16…連系変圧器、17…パワーコンディショナ、18…蓄電システム制御装置、19…ベース充放電パターン記憶部、20…充放電許容変動幅パターン記憶部、21…調整充放電電力演算部、22…周波数検出器、23…加算演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
需要家に設置された蓄電池の充放電のベースとなる充放電電力が時間帯ごとに予め設定されたベース充放電パターンを記憶するベース充放電パターン記憶部と、
前記ベースとなる充放電電力に対して充放電許容変動幅が時間帯ごとに予め設定された充放電許容変動幅パターンを記憶する充放電許容変動幅パターン記憶部と、
電力系統の周波数の変動に応じて前記充放電許容変動幅の範囲内で前記周波数の変動を抑制する調整充放電電力を演算する調整充放電電力演算部と、
前記ベース充放電パターンに設定されたベースとなる充放電電力に前記調整充放電電力演算部で演算された調整充放電電力を加算する加算演算部と、
前記加算演算部で演算された値に基づいて前記蓄電池の放電充電制御を行うパワーコンディショナとを備えたことを特徴とする蓄電システム制御装置。
【請求項2】
前記充放電許容変動幅は、放電側の許容変動幅と充電側の許容変動幅とが同一であることを特徴とする請求項1に記載の蓄電システム制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−205462(P2012−205462A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70129(P2011−70129)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 蓄電複合システム化技術開発/共通基盤技術開発/需要家設置の既設大容量蓄電池による系統対策への活用可能性評価・システム標準化の研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】