説明

薄刃ブレード

【課題】本発明の目的は、コーティング層が加工時に発生する熱によって剥離せず、長期に亘って目詰まりの防止や抵抗の低減等の効果を維持するとともに、砥粒層自体の剛性を向上させる薄刃ブレードを提供することである。
【解決手段】本発明に係る薄刃ブレードは、複数の砥粒が分散されて配置され、円形薄板状に形成された砥粒層と、該砥粒層の側面に、エアロゾルデポジション法によって形成されたセラミックスを含んでなるコーティング層と、を備え、コーティング層の厚みが前記砥粒の平均粒径の1/4〜1/2の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体装置のダイシングやスライシングなど精密切断等の分野に使用される薄刃ブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
このような精密切断用の薄刃ブレードは、その全体に砥粒を含有しボンド相も一体のオールブレード構造のブレードと、内周側に砥粒層を含まない台金付き構造のブレードと、全面に砥粒を含有するが内周側と外周側で硬度や強度が異なる2層構造のオールブレードに大別される。これらの用途としては、シリコンチップ分割のためのハブ付きダイシング用ブレードや、電子部品の短冊切スライス用ブレードなどが知られている。
【0003】
このような薄刃ブレードとしては、例えば特許文献1に示すように、複数の砥粒を母体金属で電着して形成した薄刃ブレードであって、ダイヤモンド状カーボンをコーティングしたコーティング層を、母体金属の側面に形成したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−144477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のブレードでは、母体金属の表面すなわち砥粒層の側面にコーティングされたダイヤモンド状カーボンの摩擦係数が小さいため、該側面に目詰まりが生じるのを防ぐとともに加工時の抵抗も低減することはできるが、その一方でこのようなダイヤモンド状カーボンよりなるコーティング層では砥粒層の両側面における耐摩耗性を厚さ方向中央部に対して十分に高めることはできず、このコーティング層を含めて砥粒層の側面外周縁部のエッジが丸められるようにして砥粒層が幅痩せしてしまい、こうして丸められた外周縁部に上記金属部分が押し広げられることにより、金属バリが発生し易くなってしまう。また、こうして砥粒層が幅痩せすることで、切断されたワークの表裏面における切断幅に大きな差が生じたり、これら表裏面と切断面との稜線部に角欠けが生じたりして加工品位を損なうおそれもある。しかも、かかるダイヤモンド状カーボンよりなるコーティング層は加工時に発生する熱によって剥離し易く、長期に亘って目詰まりの防止や抵抗の低減等の効果を維持するのは困難であり、さらに砥粒層自体の剛性を向上させることも難しい。
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであって、コーティング層が加工時に発生する熱によって剥離せず、長期に亘って目詰まりの防止や抵抗の低減等の効果を維持するとともに、砥粒層自体の剛性を向上させる薄刃ブレードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の手段を提案している。
すなわち、本発明に係る薄刃ブレードは、複数の砥粒が分散されて配置され、円形薄板状に形成された砥粒層と、該砥粒層の側面に、エアロゾルデポジション法によって形成されたセラミックスを含んでなるコーティング層と、を備え、前記コーティング層の厚みが前記砥粒の平均粒径の1/4〜1/2の範囲であることを特徴とする。
本発明に係る薄刃ブレードによれば、該砥粒層の側面には、セラミックスからなるコーティング層が形成されているので、薄刃ブレード自体の剛性を高めることができ、それによって、切断加工時における薄刃ブレードの直進性を維持して高い加工精度を得ることができ、薄刃ブレード自体の耐摩耗性も向上させて長寿命化を図ることもできる。
さらに、セラミックスからなるコーティング層は、加工時に発生する熱によって容易に剥離することがなく、より長期に亘って安定的に上述の効果を奏することができ、該コーティング層を備えていないむき出しのままの砥粒層などに比べては切屑の付着が少なく、切屑による目詰まり等の発生を防ぐことができる。
【0008】
本発明に係る薄刃ブレードによれば、コーティング層はエアロゾルデポジション法によって形成されるので、該コーティング層の被覆時に砥粒層が高温に晒されることがなく、該薄刃ブレード自体の剛性や強度が損なわれたりすることもない。
【0009】
ここで、エアロゾルデポジション法とは、様々な基材上にセラミックを主体とするコーティング層を形成させる手法であり、セラミック微粒子をガス中に分散させたエアロゾルをノズルから基材に向けて噴射し、金属やガラス、セラミックスやプラスチックなどの基材に微粒子を衝突させ、この衝突の衝撃により微粒子を変形や破砕を起させしめてこれらを接合させ、基材上に微粒子の構成材料からなる膜構造物をダイレクトで形成させることを特徴としており、特に加熱手段を必要としない常温で構造物が形成可能であり、焼成体同等の機械的強度を保有する構造物を得ることができる。この方法に用いられる装置は、基本的にエアロゾルを発生させるエアロゾル発生器と、エアロゾルを基材に向けて噴射するノズルとからなり、ノズルの開口よりも大きな面積で構造物を作製する場合には、基材とノズルを相対的に移動・揺動させる位置制御手段を有し、減圧下で作製を行う場合には構造物を形成させるチャンバーと真空ポンプを有し、またエアロゾルを発生させるためのガス発生源を有することが一般的である。
【0010】
エアロゾルデポジション法のプロセス温度は常温であり、微粒子材料の融点より十分に低い温度、すなわち数百℃以下で構造物形成が行われるところにひとつの特徴がある。
【0011】
また使用される微粒子はセラミックスなどの脆性材料を主体とし、同一材質の微粒子を単独であるいは混合させて用いることができるほか、異種の微粒子を混合させたり、複合させて用いることが可能である。また一部の金属材料や有機物材料などをセラミック微粒子に混合させたり、セラミック微粒子表面にコーティングさせて用いることも可能である。これらの場合でも構造物形成の主となるものはセラミックスである。
【0012】
この手法によって形成される膜構造物において、結晶性の微粒子を原料として用いる場合、膜構造物は、その結晶子サイズが原料微粒子のそれに比べて小さい多結晶体であり、その結晶は実質的に結晶配向性がない場合が多く、セラミック結晶同士の界面にはガラス層からなる粒界層が実質的に存在しないと言え、さらに膜構造物の一部は基材表面に食い込むアンカー層を形成することが多いという特徴がある。
【0013】
この方法により形成される膜構造物は、微粒子同士が圧力によりパッキングされ、物理的な付着で形態を保っている状態のいわゆる圧粉体とは明らかに異なり、十分な強度を有している。
【0014】
この膜構造物形成において、微粒子が破砕・変形を起していることは、原料として用いる微粒子および形成された膜構造物の結晶子サイズをX線回折法で測定することにより判断できる。
【0015】
エアロゾルデポジション法に関係する語句を以下に説明する。
(多結晶)
本件では結晶子が接合・集積してなる構造体を指す。結晶子は、実質的にそれひとつで結晶を構成し、その径は通常5nm以上である。ただし、微粒子が破砕されずに構造物中に取り込まれるなどの場合がまれに生じるが、実質的には多結晶である。
(微粒子)
一次粒子が緻密質粒子である場合は、粒度分布測定や走査型電子顕微鏡で同定される平均粒径10μm以下であるものを言う。また、一次粒子が衝撃によって破砕しやすい多孔質粒子である場合には、平均粒径が50μm以下であるものを言う。
(エアロゾル)
ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、乾燥空気、これらの混合ガスなどのガス中に前述の微粒子を分散させたものであり、一次粒子が分散している状態が望ましいが、通常はこの一次粒子が凝集した凝集粒を含む。エアロゾルのガス圧力と温度は任意であるが、ガス中の微粒子の濃度は、ガス圧を1気圧、温度を20℃と換算した場合に、ノズルから噴射される時点において0.0003mL/L〜5mL/Lの範囲内であることが構造物の形成にとって望ましい。
(界面)
本件では、結晶子同士の境界を構成する領域を指す。
(粒界層)
界面あるいは焼結体でいう粒界に位置する厚み(通常数nm〜数μm)を持つ層で、通常結晶粒内の結晶構造とは異なるアモルファス構造をとり、また場合によっては不純物の偏析を伴う。
【0016】
本発明に係る薄刃ブレードによれば、コーティング層の厚みが前記砥粒の平均粒径の1/4〜1/2の範囲であるので、砥粒層の両側面から平均粒径の1/2以上突出した超砥粒がコーティング層の表面からも突出し、薄刃ブレードの剛性を向上させつつ、切断や溝入れの際の加工壁面とコーティング層の表面との間に僅かながらでもクリアランスを確保することができる。
【0017】
本発明に係る薄刃ブレードにおいて、前記コーティング層は、前記砥粒層の側面の少なくとも前記砥粒層の外周縁部から半径方向半分の領域に形成されることとしてもよい。
本発明に係る薄刃ブレードによれば、前記コーティング層は、前記砥粒層の側面の少なくとも前記砥粒層の外周縁部から半径方向半分の領域に形成されるので、切断加工時における薄刃ブレードの直進性の向上や高精度の加工を図ることができる。
【0018】
本発明に係る薄刃ブレードにおいて、前記コーティング層は、アルミナであることとしてもよい。
本発明に係る薄刃ブレードによれば、コーティング層は、アルミナであるので、薄刃ブレードの剛性を高めることができ、切断加工時における該薄刃ブレードの直進性を高めることができる。
【0019】
本発明に係る薄刃ブレードにおいて、前記砥粒層は、金属めっき相又は金属結合相である。
本発明に係る薄刃ブレードによれば、砥粒層は、金属めっき相又は金属結合相であるので、薄刃ブレードの砥粒層の種類に依存することなく、上記のコーティング層を被覆することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る薄刃ブレードによれば、コーティング層が加工時に発生する熱によって剥離せず、長期に亘って目詰まりの防止や抵抗の低減等の効果を維持するとともに、砥粒層自体の剛性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の薄刃ブレードの一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1におけるZZ断面図である。
【図3】図2に示す断面図の外周縁部周辺を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の薄刃ブレードの一実施形態を示す側面図である。図2は、図1におけるZZ断面図である。図3は、図2に示す断面図の外周縁部周辺を示す拡大図である。
【0023】
図1ないし図3は、本発明の薄刃ブレードの一実施形態を示す概略図である。本実施形態の薄刃ブレードは図1に示すように軸線Oを中心とした円環形で厚さ0.05〜0.5mm程度の薄肉板状(ただし、図2では説明のため厚さが大きく示されている。)をなしており、かかる円環薄板状の砥粒層1とその側面1Aに被覆されたコーティング層2とから構成されていて、砥粒層1の内径部1Bが図示されない加工装置の主軸に挿入されるとともに、両側面1A,1Aのコーティング層2を含めた内周側部分が一対のフランジ等によって挟着されることにより該主軸に取り付けられる。そして、上記軸線O回りに回転されつつ該軸線Oに垂直な方向に送り出されることにより、その外周縁部によって、例えば半導体チップ等の電子部品の切断や溝入れなどの超精密加工に使用される。
【0024】
砥粒層1は、Ni等の金属めっき相3にダイヤモンドやcBN等の超砥粒4を均一に分散したものであって、台金上に超砥粒4を取り込みつつ所定の厚さに金属めっき相3を析出させた後、台金から剥離して両側面1Aに目立てを施すことによる、周知の電鋳法により形成される。
また、上記砥粒層1は、Cu−SnまたはCoを主成分とする金属結合相3にダイヤモンドやcBN等の超砥粒4を均一に分散したものであって、このような金属の粉末よりなる結合剤(メタルボンド)と超砥粒4とを混合して上述のような形状に成型し、必要に応じて所定の加圧下で、上記金属結合剤の焼結温度に加熱することにより形成され、さらにその側面1A,1Aには目立てが施されることにより形成されてもよい。
一方、上記コーティング層2は、本実施形態ではこうして形成された砥粒層1の両側面1A,1Aに、該砥粒層1の外周から砥粒層1の半径方向の幅Wの1/2以上の一定の幅Xで、かつ超砥粒4の平均粒径の1/2以下の略一定の厚さtで被覆されたものであり、エアロゾルデポジション法によってセラミックスを被覆することにより構成されている。なお、こうして被覆されたセラミックスよりなるコーティング層2は、砥粒層1の両側面1A,1A同士で上記幅Xおよび厚さtが互いに略等しくされている。
【0025】
より具体的に、コーティング層2は、エアロゾルデポジション法によって形成されており、砥粒層1にコーティング層2を形成する部分を残してマスキングを施し、これを減圧されたチャンバー内に保持し、セラミックス微粒子を窒素などのガス中に分散させたエアロゾルをノズルからチャンバー内に配置された砥粒層1に噴射させ、砥粒層1と微粒子の衝突の衝撃により、微粒子を変形や破砕を起させしめてこれらを接合させ、該微粒子の構成材料からなる膜構造物を砥粒層1上に形成する。
これによって形成されたセラミックス膜は、アルミナ膜でもよく、ジルコニア膜でもよい。
このコーティング層2の厚さtは、使用された砥粒4の平均粒径に依存して決定されるものであって、使用された砥粒の平均粒径の1/4〜1/2の範囲の中から選択される。
【0026】
このコーティング層2は、本実施形態では図1に示すように円環薄板状のブレードの径方向を向く内外周面には形成されていない。また、上述のように一対のフランジによって狭着される両側面の内周側部分にも、このコーティング層2は形成されていなくてもよく、すなわち両側面のうち実質的にワークの切断等に用いられる外周縁部にコーティング層2が形成されていればよい。ただし、特にコーティング層2については、こうして部分的に形成することが却って非効率的である場合には、ブレード全面に形成されていてもよい。
【0027】
こうしてコーティング層2が被覆された薄刃ブレードにおいては、該コーティング層2の厚さtが超砥粒4の平均粒径の1/4〜1/2までの範囲であるので、薄刃ブレードの剛性を向上させつつ、上記目立ての際に砥粒層1の側面1Aから平均粒径の1/2以上突出していた超砥粒4は該コーティング層2の表面にも突出することになる。
【0028】
従って、このように形成された本実施形態の薄刃ブレードにおいては、砥粒層1の側面1Aにセラミックスからなるコーティング層2を形成することにより、薄刃ブレード自体の剛性を高めることができ、それによって、切断加工時における薄刃ブレードの直進性を維持して高い加工精度を得ることができる。
また、砥粒層1がセラミックスからなるコーティング層2によって被覆されることにより、薄刃ブレード自体の耐摩耗性も向上させて長寿命化を図ることもできる。
【0029】
また、このようなセラミックスよりなるコーティング層2は、従来のダイヤモンド状カーボンよりなるコーティング層を有するブレードを使用して加工する際に発生する熱によって容易に剥離することがなく、より長期に亘って安定的に上述の効果を奏功することができる。その一方で、かかるセラミックスのコーティング層2は、金属めっき相3又は金属結合相3がむき出しのままの砥粒層などに比べては切屑の付着が少なく、従って切屑による目詰まり等の発生を防いで加工時の抵抗の低減を促すことができるとともに、加工時の発熱やこれに伴う焼き付きも抑えて長期に亘る鋭い切れ味の持続を図ることが可能となる。
【0030】
また、本実施形態ではセラミックスよりなるコーティング層2がエアロゾルデポジション法によって被覆されたものであるので、該コーティング層2の被覆時に砥粒層1が高温に晒されることがないため、このような高温によって砥粒層1の金属めっき相3又は金属結合相3が変質したりして該砥粒層1自体の剛性や強度が損なわれたりすることもない。従って、コーティング層2を被覆したにも拘わらず却って薄刃ブレード全体としての剛性及び/又は強度が損なわれたりするような事態が生じるのを防ぐことができ、その剛性ブレードの厚さを小さくしても一層確実に高精度の加工を可能として、切断代の削減や挟ピッチの溝入れを図ることができる。
【0031】
さらにまた、上記コーティング層2が超砥粒4の平均粒径の1/4〜1/2の範囲である厚さとされていて、薄刃ブレードの剛性を向上させつつ、上述のように砥粒層4の両側面から平均粒径の1/2以上突出した超砥粒4がそのままコーティング層2の表面からも突出するようにされており、このため切断や溝入れの際の加工壁面とコーティング層2の表面との間に僅かながらでもクリアランスを確保することができる。従って、加工時の抵抗を一層低減することができるとともに、このクリアランスを介して切屑の円滑な排出を図ることもでき、目詰まりの発生等をより確実に防止することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態ではコーティング層2が砥粒層1の外周から該砥粒層1の半径方向の幅Wの1/2以上の幅Xで被覆されていて、一対のフランジにより薄刃ブレードが挟着される際に、砥粒層1の両側面1A,1Aのコーティング層2,2がその内周側部分を該フランジに密着させて挟み込まれるようになされている。このため、これらのフランジにより硬質のコーティング層2,2を介して薄刃ブレードの外周部を支持した状態で切断や溝入れ加工を行うことができ、上述のように砥石自体の剛性や強度が確保されることとも相俟って、さらに直進性の向上や高精度の加工を図ることができる。
【0033】
なお、上記幅Xは、このようにフランジがコーティング層2を挟み込むような範囲とされていればよいので、例えば幅Xが円環状の砥粒層1の側面1Aの幅Wと等しく、すなわちこの側面1Aの全面にコーティング層2が被覆されたような構成とされていてもよい。
ただし、本実施形態ではこのように一対のフランジによって薄刃ブレードを挟着する構成としているが、例えば円環状の台金の側面に砥粒層1が形成されたハブ付きの薄刃ブレードに本発明を適用することも可能である。
【実施例1】
【0034】
実施例1では、平均粒径14μm、粒度#800のダイヤモンド超砥粒を集中度100でCu−Sn−Coからなる金属結合層に均一に分散したベースブレードを作製した。このベースブレードの各寸法は、外径58mm、内径40mm、厚さ0.1mmである。
本発明による発明品1及び発明品2、並びに発明品1及び発明品2と比較するための比較品1及び比較品2は、エアロゾルデポジション装置により、平均粒径0.6μmのアルミナ粒子を用いてコーティング層を形成した。該エアロゾルデポジション装置は、エアロゾルを発生させるエアロゾル発生器と、エアロゾルを基材に向けて噴射するノズルとからなり、エアロゾル発生器にて窒素ガス7l/minの流量でエアロゾルを発生させ、このエアロゾルをφ2mmの導入口及び10mm×0.4mmの導出開口を有するノズルから噴射するものである。
発明品1のコーティング層の厚さtは、3μmであり、発明品2のコーティング層の厚さtは、5μmである。一方、比較品1のコーティング層の厚さtは、1μmであり、比較品2のコーティング層の厚さtは、10μmである。尚、さらなる比較のために、コーティング層が形成されていないベースブレードも使用して以下の試験を行った。
【0035】
(剛性評価試験1)
剛性評価試験では、上記の実施例1におけるベースブレード、発明品1及び発明品2、並びに比較品1及び比較品2(以下、サンプル品という。)を用いて剛性値を評価する試験を行い、この試験によって得られた剛性値を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
この表1に示すように、発明品1及び発明品2、並びに比較品1及び比較品2は、いずれもベースブレードより剛性値が高くなり、被覆されたコーティング層の厚さtに依存して、剛性値が高くなることが理解される。
【0038】
(切断試験1)
切断試験1では、各サンプル品のブレードを使用して、直径3mm、厚さ1.2mmのワークの切断加工を行った。
この切断加工において、直進性は、切断加工される部材の切断中における最大曲がり量を計測したものである。また、チッピングの大きさを工具顕微鏡で確認した。さらに、切断加工中に、主軸回転数が30000min−1となるように主軸電流も測定した。
なお、切断装置は、各ブレードを外径49mmのフランジによってその主軸に挟着して、主軸回転数30000min−1、送り速度2mm/secとして切断加工を行った。
この切断試験1によって得られた直進性、ピッチングの大きさ、主軸電流値を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示すように、直進性については、ベースブレード、比較品1、比較品2、発明品2、発明品1の順で小さくなることが理解される。また、ピッチング及び主軸電流値については、比較品2、ベースブレード、比較品1、発明品1、発明品2の順で小さくなることが理解される。
上記の結果より、本発明に係る発明品1及び発明2は、ベースブレード、比較品1、及び比較品2と比較して、直進性における最大曲がり量及びチッピングが小さく抑えられるとともに、主軸電流値も少なく、すなわち低い抵抗で切断可能であることが理解される。
【0041】
(切断試験2)
切断試験2では、上記の切断試験1の送り速度を8mm/secに変更して切断試験1と同様の試験を行った。表3に、切断試験2の結果を示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3に示すように、発明品1及び発明品2は、上記の切断試験1と同様に、直進性における最大曲がり量及びチッピングが小さく抑えられるとともに、主軸電流値も少なく、すなわち低い抵抗で切断可能であることが理解される。また、ベースブレード、比較品1、及び比較品2は、焼付けによりワークを切断することができなかった。比較品1においては、コーティング層の厚さtが平均粒径の1/4より小さいので、コーティング層が薄すぎるためにコーティング層による剛性を高める効果が十分に得られなかったことが理解される。
比較品2においては、コーティング層の厚さtが平均粒径の1/2以上であるので、超砥粒がコーティング層から十分に突出することができず、効果的な切断加工を行うことができないことが理解される。
【実施例2】
【0044】
実施例2では、平均粒径12μm、粒度#1000のダイヤモンド超砥粒を集中度75でCu−Sn−Co−Feからなる金属結合層に均一に分散したベースブレードを作成した。このベースブレードの各寸法は、外径58mm、内径40mm、厚さ0.07mmである。
本発明による発明品1及び発明品2、並びに本発明と比較するための比較品1及び比較品2、及び比較品2は、上記の実施例1と同様の方法及び構成を用いてコーティング層を形成した。
発明品1のコーティング層の厚さtは、3μmであり、発明品2のコーティング層の厚さtは、6μmである。一方、比較品1のコーティング層の厚さtは、1μmであり、比較品2のコーティング層の厚さtは、9μmである。尚、さらなる比較のために、コーティング層がないベースブレードも使用して以下の試験を行った。
【0045】
(剛性評価試験2)
剛性評価試験では、上記の実施例2におけるベースブレード、発明品1及び発明品2、並びに比較品1及び比較品2(以下、サンプル品という。)を用いて剛性値を評価する試験を行い、この試験によって得られた剛性値を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
実施例1の剛性評価試験と同様に、発明品1及び発明品2、並びに比較品1及び比較品2は、いずれもベースブレードより剛性値が高くなり、被覆されたコーティング層の厚さtに依存して、剛性値が高くなることが理解される。
【0048】
(切断試験3)
切断試験3では、各サンプル品のブレードを使用して、縦100mm、横100mm、厚さ1.0mmのセラミックグリーンシートの切断加工を行った。切断試験3の送り速度を100mm/secとすること、及びピッチングの代わりにブレードへの切り屑の付着、すなわちダストを目視で測定すること以外は、上記の切断試験1と同一の条件で切断加工を行った。
この切断試験3によって得られた直進性、ダストの付着、主軸電流値を表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
表5に示すように、直進性における最大曲がり量は、比較品2、ベースブレード、比較品1、発明品2、発明品1の順に小さくなっていることが理解される。また、主軸電流値も、直進性における最大曲がり量と同一の順に小さくなっている。
また、表5に示すように、各サンプル品に付着するダストは、比較品2が最も多く、次いで、ベースプレート及び比較品1に多少の付着が認められた。しかしながら、発明品1及び発明品2には、ダストの付着が認められなかった。
【実施例3】
【0051】
実施例3では、平均粒径14μm、粒度#800のダイヤモンド超砥粒を集中度100でNiめっき層に均一に分散したベースブレードを作製した。このベースブレードの各寸法は、外径78mm、内径40mm、厚さ0.1mmである。また、実施例3のコーティング層は、上記の実施例1と同一のエアロゾルデポジション装置によって形成された。
発明品1のコーティング層の厚さtは、3μmであり、発明品2のコーティング層の厚さtは、5μmである。一方、比較品1のコーティング層の厚さtは、1μmであり、比較品2のコーティング層の厚さtは、10μmである。尚、さらなる比較のために、コーティング層がないベースブレードも使用して以下の試験を行った。
【0052】
(剛性評価試験3)
剛性評価試験では、上記の実施例3におけるベースブレード、発明品1及び発明品2、並びに比較品1及び比較品2(以下、サンプル品という。)を用いて剛性値を評価する試験を行い、この試験によって得られた剛性値を表6に示す。
【0053】
【表6】

【0054】
表6に示すように、発明品1及び発明品2、並びに比較品1及び比較品2は、実施例1及び実施例2の剛性評価試験と同様に、いずれもベースブレードより剛性値が高くなり、被覆されたコーティング層の厚さtに依存して、剛性値が高くなることが理解される。
【0055】
(切断試験4)
切断試験4では、各サンプル品のブレードにより、直径3mm、厚さ1.8mmのワークの切断加工を行った。この切断試験4の条件は、送り速度を6mm/secとした以外、上記の実施例1の切断試験1と同一である。
この切断試験4によって得られた直進性、ピッチングの大きさ、主軸電流値を表2に示す。
【0056】
【表7】

【0057】
表7に示すように、直進性については、ベースブレード、比較品1、比較品2、発明品1、発明品2の順で小さくなることが理解される。また、ピッチング及び主軸電流値については、比較品2、ベースブレード、比較品1、発明品2、発明品1の順で小さくなることが理解される。従って、この結果より、本発明に係る発明品1及び発明品2は、ベースブレード、比較品1、及び比較品2と比較して、直進性における最大曲がり量及びチッピングが小さく抑えられるとともに、主軸電流値も少なく、すなわち低い抵抗で切断可能であることが理解される。
【0058】
(切断試験5)
切断試験5では、各サンプル品を用いて、上記の切断試験4の送り速度を10mm/secに変更して切断試験4と同一の試験を行った。表8に、切断試験5の結果を示す。
【0059】
【表8】

【0060】
表8に示すように、発明品1及び発明品2は、上記の実施例1の切断試験2と同様に、直進性における最大曲がり量及びチッピングが小さく抑えられるとともに、主軸電流値も少なく、すなわち低い抵抗で切断可能であることが理解される。また、ベースブレード、比較品1、及び比較品2は、上記の実施例1の切断試験2と同様に、焼付けにより部材を切断することができなかったことが理解される。比較品1においては、コーティング層の厚さtが平均粒径の1/4より小さいので、コーティング層が薄すぎるためにコーティング層による剛性を高める効果が十分に得られなかったことが理解される。また、比較品2においては、コーティング層の厚さtが平均粒径の1/2以上であるので、超砥粒がコーティング層から十分に突出することができず、効果的な切断加工を行うことができないことが理解される。
【実施例4】
【0061】
実施例4では、平均粒径12μm、粒度#1000のダイヤモンド超砥粒を集中度75でNiめっき層に均一に分散したベースブレードを作製した。このベースブレードの各寸法は、外径58mm、内径40mm、厚さ0.07mmである。
本発明による発明品1及び発明品2、並びに本発明と比較するための比較品1及び比較品2は、上記の実施例1と同様の方法及び構成を用いてコーティング層を形成した。
発明品1のコーティング層の厚さtは、3μmであり、発明品2のコーティング層の厚さtは、6μmである。一方、比較品1のコーティング層の厚さtは、1μmであり、比較品2のコーティング層の厚さtは、9μmである。尚、さらなる比較のために、コーティング層がないベースブレードも使用して以下の試験を行った。
【0062】
(剛性評価試験4)
剛性評価試験4では、上記の実施例4におけるベースブレード、発明品1及び発明品2、並びに比較品1及び比較品2(以下、サンプル品という。)を用いて剛性値を評価する試験を行い、この試験によって得られた剛性値を表9に示す。
【0063】
【表9】

【0064】
表9に示すように、上記の実施例1の剛性評価試験と同様に、発明品1及び発明品2、並びに比較品1及び比較品2は、いずれもベースブレードより剛性値が高くなり、被覆されたコーティング層の厚さtに依存して、剛性値が高くなることが理解される。
【0065】
(切断試験6)
切断試験6では、各サンプル品のブレードを使用して、縦100mm、横100mm、厚さ1.0mmのセラミックグリーンシートの切断加工を行った。切断試験6の試験条件は、上記の実施例2の切断試験3と同一である。
この切断試験6によって得られた直進性、ダストの付着、主軸電流値を表10に示す。
【0066】
【表10】

【0067】
表10に示すように、直進性における最大曲がり量、主軸電流値、及びダストの付着は、上記の実施例2の切断試験3と同様である。
【符号の説明】
【0068】
1 砥粒層
1A 砥粒層1の側面
2 コーティング層
3 金属めっき相又は金属結合相
4 超砥粒(砥粒)
W 砥粒層1の半径方向の幅
X コーティング層2の半径方向の幅
t コーティング層2の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の砥粒が分散されて配置され、円形薄板状に形成された砥粒層と、
該砥粒層の側面に、エアロゾルデポジション法によって形成されたセラミックスを含んでなるコーティング層と、を備え、
前記コーティング層の厚みが前記砥粒の平均粒径の1/4〜1/2の範囲であることを特徴とする薄刃ブレード。
【請求項2】
請求項1に記載の薄刃ブレードであって、
前記コーティング層は、前記砥粒層の側面の少なくとも前記砥粒層の外周縁部から半径方向半分の領域に形成されることを特徴とする薄刃ブレード。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薄刃ブレードであって、
前記コーティング層は、アルミナであることを特徴とする薄刃ブレード。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の薄刃ブレードであって、
前記砥粒層は、金属めっき相又は金属結合相であることを特徴とする薄刃ブレード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−269414(P2010−269414A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124036(P2009−124036)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】