説明

薄板偏平形状からなるワークのクランプ装置およびクランプ方法

【課題】加工工具との干渉を回避しやすくすることができる薄板偏平形状からなるワークのクランプ装置を提供する。
【解決手段】薄板偏平形状からなるワークWの表裏面を両頭加工機で加工するためのクランプ装置1であって、ベース1aに立設されたホルダプレート2と、ホルダプレート2に形成され前記ワークをはめ込んで支持するための貫通穴2aと、貫通穴2aに臨むようにホルダプレート2に設けられワークWの端部W1,W2に突き当てて保持する係止部(31,32)と、係止部3(31,32)にワークWを押し付ける付勢手段4(41,42)と、を備え、付勢手段4(41,42)は、ワークWを表裏面に沿う方向に付勢してクランプする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板偏平形状からなるワークのクランプ装置およびクランプ方法に係り、特に、ワークを表裏面に沿う方向に付勢してクランプするクランプ装置およびクランプ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄板偏平形状からなるワークの表裏面を切削加工等により加工する場合には、ワークと切削工具との干渉を回避しながら平面度を確保することが要請されるため、種々のクランプ装置が考案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、ワークの板厚方向をクランプするメインクランプとナチュラルクランプとを適宜配設して、ワークの平面度を計測しながらクランプ支持圧力を制御することで、平面度を確保する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−202456号公報(特許請求の範囲、図2,3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにワークの板厚方向をクランプするメインクランプとナチュラルクランプとを設けた場合は、クランプ装置と加工工具とが干渉しやすくなるため、通常、ワークの裏面を加工してからクランプを解除しワークを反転してから再度クランプし直して、表面を加工しなければならず、加工精度および加工時間の点で弊害が生じるという問題があった。
【0006】
また、ワークの平面度を計測しながら、クランプ支持圧力を制御する制御手段を設けた場合は、別途計測装置や制御装置が必要であるからクランプ装置が全体として複雑大型化することが懸念される。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、加工工具との干渉を回避しやすくして、加工時間を短縮することができる薄板偏平形状からなるワークのクランプ装置およびクランプ方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、薄板偏平形状からなるワークの表裏面を両頭加工機で加工するためのクランプ装置であって、ベースに立設されたホルダプレートと、このホルダプレートに形成され前記ワークをはめ込んで支持するための貫通穴と、この貫通穴に臨むように前記ホルダプレートに設けられ前記ワークの端部に突き当てて保持する係止部と、この係止部に前記ワークを押し付ける付勢手段と、を備え、前記付勢手段は、前記ワークを前記表裏面に沿う方向に付勢してクランプするように構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る発明によれば、両頭加工機で加工する場合には、被加工面の背面に作用する加工分力(背分力)を互いに打ち消し合う方向に作用させるので、クランプ力を低減することができる。このため、クランプ装置を簡素化して、ワークと加工工具との干渉を回避することが容易となるため、このような加工に特に適している。さらに、ワークの裏面と表面を同時に加工することで、より加工時間を短縮することができる。
【0010】
また、ホルダプレートに形成された貫通穴にワークをはめ込んで支持することで、ワークの周縁部とホルダプレートとの間に間隙を設けることができるため、ワークと加工工具との干渉を回避しやすくなる。
【0011】
そして、ワークの端面に係止部を突き当てて、ワークの端面を利用してクランプすることで、クランプ装置と加工工具との干渉をより回避しやすくなる。このため、クランプし直すことなく表裏面の加工が可能となるので、加工工数を低減し加工時間を短縮することができる。例えば、ワークの厚さよりも係止部ないしホルダプレートの厚さを小さくして、係止部およびホルダプレートがワークの表裏面から突出しないようにすることで、ワークと加工工具との干渉を回避することがさらに容易となる。
【0012】
さらに、付勢手段により係止部に前記ワークを前記表裏面に沿う方向(表裏面に平行な方向)に付勢することで、加工時における表面と裏面の応力状態を均等にするとともに、ワークの表裏面に沿う方向に圧縮力を作用させて加工時におけるワークの撓みを抑制することで、安定して強固にワークを保持することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の前記ベースと前記ホルダプレートの接合部は、当該ホルダプレートの倒れを規制する方向に補強リブが設けられていることを特徴とする。
【0014】
かかる構成によれば、補強リブを設けてホルダプレートの倒れ剛性を確保することで、加工時の振動やビビリ等を効果的に抑制することができる。また、ホルダプレートの板厚を低減することが可能となり、ワークとホルダプレートとの干渉を回避するのに適している。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載のクランプ装置であって、前記貫通穴に臨むように前記ホルダプレートに設けられ前記ワークを前記係止部に当接させるように付勢して移動させる位置決め手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、位置決め手段を設けて前記係止部材にワークを確実に当接させることで、位置決め精度を向上させて付勢手段によりワークを安定してクランプすることができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のクランプ装置であって、前記係止部は、前記ワークの下端部に突き当てるようにして設けられた上下方向係止部と、前記ワークの側端部に突き当てるようにして設けられた水平方向係止部と、を備え、前記付勢手段は、前記ワークの上方から下方に向けて付勢力を発生させるメインクランパと、このメインクランパの付勢力を補うために前記貫通穴に臨むように前記ホルダプレートに設けられたサブクランパと、を備えたことを特徴とする。
【0018】
かかる構成によれば、上下方向係止部と水平方向係止部とでワークを安定して支持しながら、メインクランパによりワークを上方から下方の上下方向係止部に向けて付勢力を発生させることで、例えば横長形状のワークを安定してクランプすることができる。
【0019】
また、メインクランパに加え、さらにサブクランパを備えたことで、クランプ位置やクランプ力の向きを多様化させることが可能となり、種々の形状を有するワークに柔軟に対応させることができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のクランプ装置であって、前記サブクランパは、流体駆動シリンダにより往復移動するクランプロッドを備え、前記クランプロッドの先端部には、前記サブクランパによる付勢力の向きを調整するくさび形状部が形成されていることを特徴とする。
【0021】
かかる構成によれば、ワークにくさび形状部を押圧することで、くさび形状から生ずる押圧分力により適切な方向に押し付け力を作用させて、ワークを確実にバランスよくクランプすることができる。
【0022】
請求項6に係る発明は、請求項1に記載のクランプ装置であって、前記貫通穴に臨むように前記ホルダプレートに設けられ前記ワークの表裏面方向における表面側または裏面側を支持する表裏面方向支持部を備えたことを特徴とする。
【0023】
かかる構成によれば、表裏面方向支持部により、例えば、ホルダプレートにワークをはめ込む場合の位置決めが容易となり、投入の自動化に資することができる。さらに、ワークの厚さ方向に作用する加工時の加工力(背分力)を支持して振動等をより効果的に抑制することが可能となる。
【0024】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載のクランプ装置であって、前記表裏面方向支持部は、前記ワークの縁部に形成された凹面に当接する位置に設けられていることを特徴とする。
【0025】
かかる構成によれば、ワークの縁部に形成された凹面に当接することで、表裏面方向支持部をワークの表面から突出させないようにすることが可能となり、ワークと加工工具との干渉を回避することができる。
【0026】
請求項8に係る発明は、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のクランプ装置であって、前記ワークは、車両の駆動力伝達装置用の油圧制御部品であるメインバルブボディであることを特徴とする。
【0027】
かかる構成によれば、メインバルブボディは、一般的に、薄板偏平形状からなり、平面視において概略矩形形状ないしL字形状をなし、短辺が150〜250mm程度、長辺が300〜400mm程度であり、板厚は20〜30mm程度のサイズで構成されるため、前記係止部に前記ワークを前記表裏面に沿う方向に付勢してクランプするのに好適な形状を有する。このため、メインバルブボディのような形状を有するワークは、ワークと加工工具との干渉を回避しながら、ワークの裏面と表面を同時に加工して、加工時間を短縮するのに好適なワークである。
【0028】
請求項9に係る発明は、薄板偏平形状からなるワークの表裏面を両頭加工機で加工するためのワークのクランプ方法であって、ベースに立設されたホルダプレートに形成された貫通穴に前記ワークをはめ込んで当該ワークを支持する工程と、前記貫通穴に臨むように前記ホルダプレートに設けられた係止部に前記ワークの端部が当接するように移動させて位置決めする工程と、前記係止部に前記ワークを前記表裏面に沿う方向に付勢してクランプする工程と、を含むことを特徴とする。
【0029】
かかる構成によれば、前記係止部に前記ワークを前記表裏面に沿う方向に付勢してクランプすることで、クランプ装置と加工工具との干渉を回避しやすくすることができる。このため、クランプし直すことなく表裏面の加工が可能となるので、加工工数を低減し加工時間を短縮することができる。そして、係止部に前記ワークを前記表裏面に沿う方向に付勢して、ワークの表裏面に沿う方向に圧縮力を作用させてワークの撓みを抑制することで、安定して強固にワークを保持することができる。
【0030】
請求項10に係る発明は、請求項9に記載のワークのクランプ方法であって、前記ワークの表裏面の加工は、両頭加工機で前記表裏面を同時に加工することを特徴とする。
【0031】
請求項10に係る発明によれば、両頭加工機で加工することで、被加工面の背面に作用する加工分力(背分力)を互いに打ち消し合う方向に作用させるので、加工精度を維持できる。さらに、ワークの裏面と表面を同時に加工することで、より加工時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る薄板偏平形状からなるワークのクランプ装置およびクランプ方法は、加工工具との干渉を回避しやすくして、加工時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係るクランプ装置の全体構成を示す斜視図であり、ワークの表面を見たものである。
【図2】本発明の実施形態に係るクランプ装置の全体構成を示す斜視図であり、ワークの裏面を見たものである。
【図3】本発明の実施形態に係るクランプ装置の構成を模式的に示す正面図であり、ワークの表面を見たものである。
【図4】本発明の実施形態に係るクランプ装置の構成を模式的に示す背面図であり、ワークの裏面を見たものである。
【図5】本発明の実施形態に係るクランプ装置の構成を示す側面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るクランプ装置におけるサブクランパのくさび形状部の構成を模式的に示す正面図である。
【図7】本発明の変形例に係る表裏面支持部の構成を示す図1のX−X線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態について、主として図1〜図5を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
本発明の実施形態に係るワークWのクランプ装置1は、図1に示すように、ベース1aに立設されたホルダプレート2と、このホルダプレート2に形成されワークWをはめ込んで支持するための貫通穴2aと、ワークWの端部W1,W2に突き当てて保持する係止部であるサイドストッパ3(31,32)と、このサイドストッパ3にワークWを押し付ける付勢手段4であるメインクランパ41およびサブクランパ42と、貫通穴2aに臨むようにホルダプレート2に設けられた位置決め手段であるポジションプランジャ5と、駆動源となる圧力エアが外部機器(不図示)から供給されるエア導入口1bと、を備えている。
【0036】
クランプ装置1は、薄板偏平形状からなるワークWの表面および裏面を両頭加工機(フライス加工機や研磨機、図5参照)で同時に加工する場合に、加工工具FとワークWとの干渉を回避しやすいため、このような場合のクランプ装置として特に適している。
【0037】
ワークWは、一例として、薄板偏平形状からなるメインバルブボディである。メインバルブボディは、車両の駆動力伝達装置であるオートマティックトランスミッション等の制御に用いられる油圧回路(不図示)が形成された油圧制御部品である。
【0038】
メインバルブボディは、一般的に、平面視において概略矩形形状ないしL字形状をなし、短辺が150〜250mm程度、長辺が300〜400mm程度であり、板厚は20〜30mm程度のサイズで構成される。
【0039】
以下に説明するように、本発明が対象とする薄板偏平形状からなるワークWは、板厚が数10mm程度の薄板偏平形状からなるものに特に適している。
【0040】
ホルダプレート2は、図1に示すように、ワークWを貫通穴2aにはめ込んでしっかりと保持できる程度の幅と長さを有する外形サイズが必要であるが、図5に示すように、ホルダプレート2の板厚がワークWの板厚よりも薄くなるように設定されている。かかる構成により、図示しない両頭加工機で加工する際に加工工具(フライスF)との干渉を容易に回避することができる(図5参照)。
【0041】
また、ホルダプレート2とベース1aとの接合部は、図1に示すように、ホルダプレート2の倒れを規制する方向に補強リブ1cが設けられている。
【0042】
かかる構成によれば、補強リブ1cにより、ホルダプレート2の倒れ剛性を確保することで、加工時の振動やビビリ等を効果的に抑制することができる。また、ホルダプレート2の板厚を低減することが可能となり、加工工具Fとホルダプレート2との干渉を回避することが容易となる。
【0043】
なお、本実施形態においては、ホルダプレート2の厚みをワークWの板厚よりも薄くしているが、これに限定されるものではなく、例えば、ホルダプレート2の厚みに関しては貫通穴2aの周縁部の厚みのみを薄くしてもよいし、サイドストッパ3(31,32)の厚みを薄くして干渉を回避することもできる。かかる構成によれば、加工工具Fとの干渉を回避しながらホルダプレート2の剛性を確保することができる。
【0044】
貫通穴2aは、図3に示すように、ワークWの外形サイズが余裕をもって収容できるような穴形状で形成されている。このように、ワークWの外形サイズよりも余裕を持って貫通穴2aを形成することで、ワークWの周縁部とホルダプレート2(貫通穴2aの内周部)との間に間隙を設けて加工工具F(図5)との干渉をできるだけ回避することができる。
【0045】
サイドストッパ3(31,32)は、図1に示すように、3箇所に設けられ、上下方向係止部である2箇所のサイドストッパ31と、水平方向係止部であるサイドストッパ32と、で構成されている。
【0046】
そして、サイドストッパ31は、ワークWの下部端面W1に当接するように設けられ、サイドストッパ32は、ワークWの側部端面W2(本図における左側の側部端面)に当接するように設けられている。
【0047】
なお、本実施形態においては、サイドストッパ3(31,32)を3箇所に設けたが、これに限定されるものではなく、ワークWが安定して保持できるようにワークWの形状に応じて適宜数量や配設箇所を設定する。
【0048】
サイドストッパ3(31,32)は、図1と図2に示すように、横向きのL型形状をなし、貫通穴2aに臨むようにホルダプレート2にはめ込んでボルトで固定されている。そして、図3と図4に示すように、サイドストッパ3の先端部31a,32aは、それぞれワークWの下部端面W1、および側部端面W2に当接するように配設されている。
【0049】
なお、本実施形態において、ワークWは、サイドストッパ3に対して座りがいいように、表面から見てほぼ矩形形状における長手方向が右肩上がりになるように傾けて貫通穴2aに収容されているが、これに限定されるものではなく、サイドストッパ3との関係を考慮して適宜設定することができる。
【0050】
メインクランパ41は、図1に示すように、ホルダプレート2の上部に固定されたシリンダプレート21に流体シリンダ(油圧または空圧シリンダ)を配設して構成されている。
【0051】
かかる構成により、ホルダプレート2の上部に配設することで、ホルダプレート2の板厚に影響されないので比較的スペースを確保しやすいためサブクランパ42よりも大きなクランプ力を安定して発生できる。また、基本的なレイアウトを共通にすることで、クランプ装置1の製作性を向上させることができる。
【0052】
メインクランパ41は、バランスよくクランプするためワークWの斜め上方の両側に2箇所配設されている。具体的には、メインクランパ41は、表面から見て(図1)、ワークWの左斜め上方から右斜め下方に向けて付勢力を発生させる左メインクランパ41Lと、ワークWの右斜め上方から左斜め下方に向けて付勢力を発生させる右メインクランパ41Rと、から構成されている。
【0053】
そして、メインクランパ41は、図1に示すように、流体シリンダのピストン(不図示)に連結されたクランプシャフト41aをホルダプレート2内に摺動自在に挿通してクランプシャフト41aの先端をワークの上部端面W3に当接させることで、ワークWをサイドストッパ3(31,32)に押し付けてクランプする。
【0054】
なお、本実施形態においては、クランプシャフト41aの先端をワークWの上部端面W3に当接させてクランプしたが、これに限定されるものではなく、ワークWの側部端面W2やコーナ部(サブクランパ42の位置)であってもよい。要するに、クランプ位置は、ワークWの形状やクランプ力等を適宜考慮して適切な位置が決定されるものである。
【0055】
サブクランパ42は、一例として、図3に示すように、3箇所に設けられ、ワークWの左上部に配設されワークWの左斜め上方から右斜め下方に向けて付勢力を発生させる左上部サブクランパ42Lと、ワークの右上部に配設されワークの右斜め上方から左斜め下方に向けて付勢力を発生させる右上部サブクランパ42Rと、ワークWの下部中央に配設されワークWを下方から上方に向けて付勢力を発生させる下部サブクランパ42Bと、から構成されている。
【0056】
サブクランパ42は、例えばホルダプレート2内に形成され、シリンダ42a内で往復移動するピストン42bと、ピストン42bに連結されたクランプロッド42cと、を備えた流体シリンダとして構成されている。そして、エア導入口1b(図1)からホルダプレート2内に形成された流路(不図示)を介して供給される圧力空気を駆動源として、制御バルブ(不図示)を介してピストン42bを往復移動させる。
【0057】
かかる構成により、クランプロッド42cの先端をワークWのコーナ部端面に当接させて付勢し、メインクランパ41のクランプ力を補って、クランプ位置やクランプ力の向きを多様化させることで、種々の形状を有するワークWに柔軟に対応させることができる。
【0058】
このように、メインクランパ41およびサブクランパ42を適宜所定の位置に設け、メインクランパ41とサブクランパ42のクランプ力を総合的に集合させることで、種々のワーク形状に対して適切な付勢力を適切な位置、向きで与えることができる。
【0059】
なお、メインクランパ41およびサブクランパ42の配置やクランプ力の大きさおよび向きは、トライ時において試験的にクランプ力を調整しながら、ワークWを試し加工して適宜決定する。この場合において、ワークWに残留する加工応力、クランプ力を与えた際の撓み量、加工工具F(図5)による取り代(削り代)、共振周波数等を考慮して決定される。
【0060】
ここで、本発明の実施形態における付勢手段であるサブクランパの変形例について図6を参照しながら説明する。なお、前記したサブクランパ42と同様の構成については、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0061】
本発明の変形例に係るサブクランパ42′は、図6に示すように、クランプロッド42cの先端部に傾斜面を有するくさび形状部42dを備えている。そして、ワークWの側部端面W2に形成された円弧状の凸部W4に当接させることで、クランプロッド42cの移動方向に沿う方向f1(水平方向)、および当該移動方向に直交する方向f2(垂直方向)のクランプ力を与えることができる。
【0062】
このため、サブクランパ42′による付勢力(クランプ力)の向きをワークWの形状やメインクランパ41の位置等に応じで適宜調整することが可能となる。
【0063】
なお、本変形例においては、クランプロッド42cの先端部をくさび形状としたが、これに限定されるものではなく、点当たりするように球状に形成したり、ワークWの端面形状に合わせて成形したり適宜設定することでクランプ力の向きを調整することができる。
【0064】
ポジションプランジャ5は、図1に示すように、2箇所に配設され、主として垂直(上下)方向の位置決めをするポジションプランジャ5Vと、主として水平(左右)方向の位置決めをするポジションプランジャ5Hと、を備えている。
【0065】
ポジションプランジャ5は、ワークWをサイドストッパ3に当接させるように付勢して移動させて位置決めする機能を有する。
【0066】
具体的には、ポジションプランジャ5Vは、ワークWを上方から下方に向けて付勢してサイドストッパ31に当接させるようにして位置決めする。一方、ポジションプランジャ5Hは、図1においてワークWを右側方から左側方に向けて付勢してサイドストッパ32に当接させるようにして位置決めする。
【0067】
ポジションプランジャ5は、例えば、図示は省略するがシリンダ内で往復移動するプランジャ(不図示)をコイルばね等の付勢手段により突出(伸長)方向に付勢するようにして構成することができる。また、コイルばね等の付勢手段によらず、エア導入口1bからホルダプレート2内に形成された流路(不図示)を介して供給される圧力空気を駆動源として、制御バルブ(不図示)を介してプランジャを往復移動させることもできる。
【0068】
エア導入口1bは、図1および図2に示すように、ベース1aおよびホルダプレート2の左右の側面に形成されている。そして、エア導入口1bには、図示しないエア配管を介して外部機器から圧縮空気が供給される。エア導入口1bに供給された圧縮空気は、ベース1aおよびホルダプレート2内に形成された図示しない流路を通って、サブクランパ42等の圧縮空気で動作する空圧機器に供給される。
【0069】
続いて、本発明の実施形態に係るクランプ装置1を使用した薄板偏平形状からなるメインバルブボディ(ワークW)の表裏面を両頭加工機で加工する際のワークのクランプ方法について説明する。
【0070】
本発明の実施形態に係るワークWのクランプ方法は、ベース1aに立設されたホルダプレート2に形成された貫通穴2aにワークWをはめ込んでワークWを支持する工程と、前記貫通穴2aに臨むようにホルダプレート2に設けられたサイドストッパ3(31,32)にワークWの端部が当接するように移動させて位置決めする工程と、サイドストッパ3(31,32)にワークWを表裏面に沿う方向に付勢してクランプする工程と、を含んで構成されている。
【0071】
具体的には、ワークWを搬送ロボットで保持して、ホルダプレート2の貫通穴2aにはめ込んだ状態で支持して(ワークWを支持する工程)、ポジションプランジャ5によりワークWの下部端面W1および側部端面W2がサイドストッパ3(31,32)に当接するように移動させて位置決めする(位置決めする工程)。
【0072】
このようにして位置決めした状態で、メインクランパ41およびサブクランパ42を動作させてクランプする(クランプ工程)。そして、ワークWをクランプした状態で、両頭加工機(図5参照)でワークWの表裏面を同時に加工することができる。
【0073】
本発明の実施形態に係るクランプ装置1を使用したワークWのクランプ方法によれば、以下のような作用効果を奏する。
【0074】
すなわち、両頭加工機で加工することで(図5参照)、被加工面の背面に作用する加工分力(背分力)を互いに打ち消し合う方向に作用させることで、クランプ力を低減することができる。このため、クランプ装置1を簡素化して、ワークWと加工工具F(図5)との干渉を回避することが容易となる。そして、ワークWの裏面と表面を同時に加工することができるため、加工時間を短縮することができる。
【0075】
また、ホルダプレート2に形成された貫通穴2aにワークWをはめ込んで支持することで、ワークWの周縁部とホルダプレート2との間に間隙を設けることができるため、ワークWと加工工具Fとの干渉を回避しやすくなる。
【0076】
そして、ワークWの端面W1,W2にサイドストッパ3(31,32)を突き当てて、ワークWの端面W1,W2を利用してクランプすることで、クランプ装置1と加工工具Fとの干渉を回避しやすくすることができる。このため、クランプし直すことなく表裏面の加工が可能となるので、加工工数を低減し加工時間を短縮することができる。例えば、ワークWの厚さよりも係止部ないしホルダプレート2の厚さを小さくすることも可能となるため(図5参照)、サイドストッパ3(31,32)およびホルダプレート2がワークWの表裏面から突出しないようにすることで、ワークWと加工工具Fとの干渉を回避することが容易となる。
【0077】
さらに、メインクランパ41およびサブクランパ42によりサイドストッパ3(31,32)にワークWを表裏面に沿う方向に付勢することで、加工時における表面と裏面の応力状態を均等にするとともに、ワークWの表裏面に沿う方向に圧縮力を作用させて加工時におけるワークWの撓みを抑制することで、安定して強固にワークWを保持することができる。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されず、適宜変更して実施することが可能である。
【0079】
例えば、前記した実施形態においては、係止部としてサイドストッパ3(31,32)を3箇所に設けたが、図7に示すように、さらに別途ワークの表面側または裏面側を支持する表裏面方向支持部6(61,62)を貫通穴2aに臨むようにホルダプレート2に設けることができる。参照する図7は、本発明の変形例に係る表裏面方向支持部の構成を示す図1のX−X線断面図であり、ホルダプレートの貫通穴にワークが収容された状態におけるワークの上部端面および下部端面の周りを示す。
【0080】
表裏面方向支持部6は、裏面側を支持する裏面側支持部61と、表面側を支持する表面側支持部62と、から構成することができる。
【0081】
裏面側支持部61は、図7に示すように、例えば、ワークWの縁部である下部端面W1に形成されたワーク裏面から一段低く形成された凹面W10にホルダプレート2に形成された裏面側支持面61aでワークWを裏面側から支持する。
【0082】
ワークWの表面側支持部62は、一例として、メインクランパ41(41R)のクランプシャフト41aの先端部に表面側支持面62aを形成して構成することができる。そして、表面側支持面62aをワークWの上部端面W3に形成されたワーク表面から一段低く形成された凹面W30に当接させて、ワークWを表面側から支持する。
【0083】
このように、表裏面方向支持部6(61,62)は、ワークWの縁部に形成された凹面W10,W30に当接する位置に設けることで、表裏面方向支持部6(61,62)をワークWの表面から突出させないようにすることが可能となり、ワークWとの干渉を回避することが容易となる。
【0084】
本実施形態においては、ワークWの表裏面を両頭加工機で加工する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、片面ずつ交互に加工する場合であっても本願を適用することができる。
【0085】
本実施形態においては、ワークWがメインバルブボディある場合について説明したが、これに限定されるものではなく、同様の形状を有する薄板変形形状からなるワークWであれば、同様に適用することができる。
【0086】
また、本実施形態においては、ワークWが概略矩形形状を有する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、L形形状や円弧形状を有する場合であっても、ワークWの端面形状に合わせてサイドストッパ3の位置や形状を適宜考慮することで、同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 クランプ装置
1a ベース
1b エア導入口
1c 補強リブ
2 ホルダプレート
2a 貫通穴
3(31,32) サイドストッパ(係止部)
31 サイドストッパ(上下方向係止部)
32 サイドストッパ(水平方向係止部)
4 付勢手段
5(5H,5V) ポジションプランジャ(位置決め手段)
6 表裏面方向支持部
41 メインクランパ(付勢手段)
42、42′ サブクランパ(付勢手段)
42d くさび形状部
61,62 裏面側支持部(表裏面方向支持部)
F フライス(加工工具)
W ワーク
W1 下部端面(ワークの端部)
W2 側部端面(ワークの端部)
W3 上部端面(ワークの端部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板偏平形状からなるワークの表裏面を両頭加工機で加工するためのクランプ装置であって、
ベースに立設されたホルダプレートと、
このホルダプレートに形成され前記ワークをはめ込んで支持するための貫通穴と、
この貫通穴に臨むように前記ホルダプレートに設けられ前記ワークの端部に突き当てて保持する係止部と、
この係止部に前記ワークを押し付ける付勢手段と、を備え、
前記付勢手段は、前記ワークを前記表裏面に沿う方向に付勢してクランプするように構成したことを特徴とする薄板偏平形状からなるワークのクランプ装置。
【請求項2】
前記ベースと前記ホルダプレートの接合部は、当該ホルダプレートの倒れを規制する方向に補強リブが設けられていること、を特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項3】
前記貫通穴に臨むように前記ホルダプレートに設けられ前記ワークを前記係止部に当接させるように付勢して移動させる位置決め手段をさらに備えたこと、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のクランプ装置。
【請求項4】
前記係止部は、前記ワークの下端部に突き当てるようにして設けられた上下方向係止部と、前記ワークの側端部に突き当てるようにして設けられた水平方向係止部と、を備え、
前記付勢手段は、前記ワークの上方から下方に向けて付勢力を発生させるメインクランパと、このメインクランパの付勢力を補うために前記貫通穴に臨むように前記ホルダプレートに設けられたサブクランパと、を備えたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のクランプ装置。
【請求項5】
前記サブクランパは、流体駆動シリンダにより往復移動するクランプロッドを備え、
前記クランプロッドの先端部には、前記サブクランパによる付勢力の向きを調整するくさび形状部が形成されていること、を特徴とする請求項4に記載のクランプ装置。
【請求項6】
前記貫通穴に臨むように前記ホルダプレートに設けられ前記ワークの表面側または裏面側を支持する表裏面支持部を備えたこと、
を特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項7】
前記表裏面方向支持部は、前記ワークの縁部に形成された凹面に当接する位置に設けられていること、
を特徴とする請求項6に記載のクランプ装置。
【請求項8】
前記ワークは、車両の駆動力伝達装置用の油圧制御部品であるメインバルブボディであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のクランプ装置。
【請求項9】
薄板偏平形状からなるワークの表裏面を両頭加工機で加工するためのワークのクランプ方法であって、
ベースに立設されたホルダプレートに形成された貫通穴に前記ワークをはめ込んで当該ワークを支持する工程と、
前記貫通穴に臨むように前記ホルダプレートに設けられた係止部に前記ワークの端部が当接するように移動させて位置決めする工程と、
前記係止部に前記ワークを前記表裏面に沿う方向に付勢してクランプする工程と、
を含むことを特徴とする薄板偏平形状からなるワークのクランプ方法。
【請求項10】
前記ワークの表裏面の加工は、両頭加工機で前記表裏面を同時に加工することを特徴とする請求項9に記載のワークのクランプ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−179390(P2010−179390A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23721(P2009−23721)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】