説明

薄膜光電変換素子と薄膜光電変換素子の製造方法

【課題】数10nm以下の厚さに薄型化が可能な薄膜光電変換素子と薄膜光電変換素子の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン基板の表面に第1金属とシリコンが拡散して形成される金属シリサイド層と、シリコン基板の表面の第2金属薄膜層の積層部位に形成される導電薄膜層と、前記金属シリサイド層と前記導電薄膜層との間のシリコン基板の表面付近にシリコンのナノ粒子が拡散して形成されるシリコン拡散部とを備え、シリコン基板との積層方向にショットキー界面が形成される金属シリサイド層若しくは導電薄膜層へ光を照射し、シリコン基板の表面の金属シリサイド層と導電薄膜層間に光誘起電流を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜型の薄膜光電変換素子と薄膜光電変換素子の製造方法に関し、更に詳しくは、素子の表面にフォトキャリアを発生させる薄膜光電変換素子と薄膜光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として太陽電池の用途では、薄型化して発電部となるシリコンの使用量を削減することが試みられているが、インゴットから切断するシリコンウエアの厚みは150μm程度までとするのが限界であり、また、薄肉とすると充分に光を吸収できないので光電変換効率の低下し、その為に反射防止膜等をを形成するので、素子全体の薄型化には限界があった。
【0003】
そこで、CVD法などでアモルフォスシリコン(以下、a−Siと記す)や微結晶シリコンの薄膜を製膜し、一般的なシリコン太陽電池の1%程度の厚さとした薄膜シリコン太陽電池が提供されている。図8は、a−Si膜を用いたpin構造の薄膜太陽電池100(特許文献1)の断面図であり、ガラス基板101上に薄膜太陽電池100が形成されている。
【0004】
薄膜太陽電池100は、同図に示すように、銀の下部電極102と酸化インジウム錫(ITO)の透明上部電極103との間に、pin構造を形成するa−Si膜のn層104、半結晶化a−Si膜のi層105、a−Si膜のp層106とが積層されている。ここで、各層の厚さは、下部電極102が100nm、上部電極103が70nm、n層104が50nm、i層105が2μm、p層106が20nm程度となっている。
【0005】
i層105は、上方の透明上部電極103を通過する光を受けて、光電効果によりキャリアを生成する発電機能を有し、n層104とp層106は、層105に内部電界を印加してi層105のキャリアを分離する機能を有している。
【0006】
従って、薄膜太陽電池100の上方から光を照射すると、光を受けてi層105で分離するキャリアは、積層方向であるn層104若しくはp層106に移動し、下部電極102と上部電極103間を短絡すれば、キャリアの移動によって、積層方向の下部電極102と上部電極103間に光誘起電流が流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−349321号公報(明細書の項目0002乃至0004、図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、シリコン薄膜を製膜することにより薄型化した上記薄膜太陽電池100であっても、光の入射方向であるpin構造の各積層方向に光キャリアを流して発電するので、吸収係数が高いa−Siを用いてもその厚みを1μm程度とするのが限界であり、更に、積層方向に流れる光誘起電流を取り出すためにpin構造を挟み上部電極103と下部電極102を更に配置する必要があり、薄型化に限界があった。
【0009】
また、発電機能を有するi層105まで入射光を到達させるために、その上方の全面を覆う上部電極103をITOなどの透明導電材料で形成する必要があり、また、薄膜のままでは充分に入射光を吸収できないために、表面テクスチャなどを用いて光学的特性を制御し、入射光の利用効率を高める構造としていた。
【0010】
更に、a−Siは、禁制帯幅が大きく、700nm以下の比較的短波長の光に応答するが、赤外光等の長波長の光を利用できず、この為、微結晶シリコン層を加えたタンデム構造としたり、特許文献1に記載のようにi層105のアモルフォス及び微結晶の結晶分率を積層方向で変化させる構造として、広帯域の光に対して応答させているものであり、その為に複雑なプロセスを要していた。

【0011】
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、数10nm以下の厚さに薄型化が可能な薄膜光電変換素子と薄膜光電変換素子の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、同一表面に光誘起電流を引き出す一対の電極を配置し、更に薄型化が可能な薄膜光電変換素子と薄膜光電変換素子の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、シリコン層の厚さを20nm以下として、シリコン材料の使用量を削減し、コストダウンが可能な薄膜光電変換素子と薄膜光電変換素子の製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、複雑で精密な半導体プロセス制御を要することなく、アニール処理の単純な工程で、可視領域から赤外領域までの広帯域の光に応答する薄膜光電変換素子と薄膜光電変換素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するため、請求項1の薄膜光電変換素子は、第1金属からなる第1金属薄膜層と、第1金属薄膜層上の一部に重ねて、第2金属からなる第2金属薄膜層を積層させたシリコン基板をアニール処理し、シリコン基板の表面に第1金属とシリコンが拡散して形成される金属シリサイド層と、シリコン基板の表面の第2金属薄膜層の積層部位に形成される導電薄膜層と、前記金属シリサイド層と前記導電薄膜層との間のシリコン基板の表面付近にシリコンのナノ粒子が拡散して形成されるシリコン拡散部とを備え、シリコン基板との積層方向にショットキー界面が形成される金属シリサイド層若しくは導電薄膜層へ光を照射し、シリコン基板の表面の金属シリサイド層と導電薄膜層間に光誘起電流を発生させることを特徴とする。
【0016】
アニール処理によって、導電薄膜層では、第1金属と第2金属とシリコンのナノ粒子が相互に拡散し、金属シリサイド層では、第1金属とシリコンのナノ粒子が相互に拡散し、最大20nm以下の深さで、各元素の活性化エネルギーが高く、状態図がバルクの性質から離れる現象が発生する。
【0017】
シリコン基板の表面に沿って、シリコン拡散部と金属シリサイド層間及びシリコン拡散部と導電薄膜層間にそれぞれショットキー界面が形成される。導電薄膜層の形成部位では、第1金属薄膜層に第2金属薄膜層が積層され、金属シリサイドが形成される第1金属薄膜層の厚みより厚いので、金属がより過剰な領域でありオーミック化が促進され、障壁のピンニングが弱まり、シリコン拡散部と導電薄膜層間の障壁の高さは低いと考えられる。その結果、シリコン拡散部と金属シリサイド層間のショットキー障壁により、シリコン基板の表面に沿って、金属シリサイド層から導電薄膜層の方向を順方向とするダイオードが形成される。
【0018】
シリコン基板との積層方向にショットキー界面が形成される導電薄膜層へ光を照射すると、導電薄膜層に多数のフォトキャリアが誘起し、シリコン基板の表面に沿った上記ダイオードによる順バイアス特性でシリコン基板の表面に沿って移動することにより、光誘起電流が表面に沿って流れる。
【0019】
同様に、シリコン基板との積層方向にショットキー界面が形成される金属シリサイド層へ光を照射すると、金属シリサイド層に多数のフォトキャリアが誘起し、シリコン基板の表面に沿った上記ダイオードによる順バイアス特性でシリコン基板の表面に沿って移動することにより、光誘起電流が表面に沿って流れる。
【0020】
シリコン基板の表面に形成される金属シリサイド層と導電薄膜層は、導電性を有するので、表面に誘起したフォトキャリアの伝導ロスが抑制される。
【0021】
シリコンのナノ粒子が共存する金属シリサイド層と導電薄膜層では、シリコン粒子がナノサイズとなることで、波数選択則がバルクと異なる直接遷移となり、Si価電子帯から可視域のエネルギーギャップに相当するバンド間励起が発生する。その結果、この導電薄膜層では、主として長波長の赤外領域の光に対して、積層方向のショットキー障壁によりフォトキャリアが発生するとともに、主として短波長の可視光の光に対して、シリコンナノ粒子の励起によるフォトキャリアが発生し、双方が加わり、応答感度が高く、可視光から赤外光までの広帯域応答特性が得られる。
【0022】
請求項2の薄膜光電変換素子は、導電薄膜層の厚さが100nm未満であり、金属シリサイド層の厚さは導電薄膜層より更に薄いことを特徴とする。
【0023】
導電薄膜層と金属シリサイド層の材料となる第1金属と第2金属の使用量を大幅に削減でき、それぞれ、シリコン基板上に蒸着させた後、アニール処理する簡単な工程でシリコン基板上に形成される。
【0024】
請求項3の薄膜光電変換素子は、第1金属が、Co、Fe、W、Ni、Al、Tiのいずれかであり、第2金属が、Auであることを特徴とする。
【0025】
Co、Fe、W、Ni、Al、Tiは、融点が高く、高温における機械的性質が優れ、金属シリサイドの材料に適している。また、Auは、その周囲で第1金属とシリコンのナノ粒子の拡散を支援し、金属シリサイドと導電薄膜層との間のシリコン拡散部の形成を容易にする。
【0026】
請求項4の薄膜光電変換素子の製造方法は、シリコン基板上に第1金属からなる第1金属薄膜層を成膜する第1工程と、第1金属薄膜層上の一部に第2金属からなる第2金属薄膜層を成膜する第2工程と、シリコン基板上に積層された第1金属薄膜層と第2金属薄膜層をアニール処理し、基板上に第1金属とシリコンが拡散する金属シリサイド層と、第2金属薄膜層の積層部位の導電薄膜層と、前記金属シリサイド層と前記導電薄膜層との間でシリコン基板の表面付近にシリコンのナノ粒子が拡散するシリコン拡散部を形成する第3工程とを備え、シリコン基板との積層方向にショットキー界面が形成される金属シリサイド層若しくは導電薄膜層へ光を照射し、シリコン基板の表面の金属シリサイド層と導電薄膜層間に光誘起電流を発生させることを特徴とする。
【0027】
アニール処理によって、導電薄膜層では、第1金属と第2金属とシリコンのナノ粒子が相互に拡散し、金属シリサイド層では、第1金属とシリコンのナノ粒子が相互に拡散し、最大20nm以下の深さで、各元素の活性化エネルギーが高く、状態図がバルクの性質から離れる現象が発生する。
【0028】
シリコン基板の表面に沿って、シリコン拡散部と金属シリサイド層間及びシリコン拡散部と導電薄膜層間にそれぞれショットキー界面が形成される。導電薄膜層の形成部位では、第1金属薄膜層に第2金属薄膜層が積層され、金属シリサイドが形成される第1金属薄膜層の厚みより厚いので、金属がより過剰な領域でありオーミック化が促進され、障壁のピンニングが弱まり、シリコン拡散部と導電薄膜層間の障壁の高さは低いと考えられる。その結果、シリコン拡散部と金属シリサイド層間のショットキー障壁により、シリコン基板の表面に沿って、金属シリサイド層から導電薄膜層の方向を順方向とするダイオードが形成される。
【0029】
シリコン基板との積層方向にショットキー界面が形成される導電薄膜層へ光を照射すると、導電薄膜層に多数のフォトキャリアが誘起し、シリコン基板の表面に沿った上記ダイオードによる順バイアス特性でシリコン基板の表面に沿って移動することにより、光誘起電流が表面に沿って流れる。
【0030】
同様に、シリコン基板との積層方向にショットキー界面が形成される金属シリサイド層へ光を照射すると、金属シリサイド層に多数のフォトキャリアが誘起し、シリコン基板の表面に沿った上記ダイオードによる順バイアス特性でシリコン基板の表面に沿って移動することにより、光誘起電流が表面に沿って流れる。
【0031】
シリコン基板の表面に形成される金属シリサイド層と導電薄膜層は、導電性を有するので、表面に誘起したフォトキャリアの伝導ロスが抑制される。
【0032】
シリコンのナノ粒子が共存する金属シリサイド層と導電薄膜層では、シリコン粒子がナノサイズとなることで、波数選択則がバルクと異なる直接遷移となり、Si価電子帯から可視域のエネルギーギャップに相当するバンド間励起が発生する。その結果、この導電薄膜層では、主として長波長の赤外領域の光に対して、積層方向のショットキー障壁によりフォトキャリアが発生するとともに、主として短波長の可視光の光に対して、シリコンナノ粒子の励起によるフォトキャリアが発生し、双方が加わり、応答感度が高く、可視光から赤外光までの広帯域応答特性が得られる。
【0033】
請求項5の薄膜光電変換素子の製造方法は、導電薄膜層の厚さが100nm未満であり、金属シリサイド層の厚さは導電薄膜層より更に薄いことを特徴とする。
【0034】
導電薄膜層と金属シリサイド層の材料となる第1金属と第2金属の使用量を大幅に削減でき、それぞれ、シリコン基板上に蒸着させた後、アニール処理する簡単な工程でシリコン基板上に形成される。
【0035】
請求項6の薄膜光電変換素子の製造方法は、第1金属が、Co、Fe、W、Ni、Al、Tiのいずれかであり、第2金属が、Auであることを特徴とする。
【0036】
Co、Fe、W、Ni、Al、Tiは、融点が高く、高温における機械的性質が優れ、金属シリサイドの材料に適している。また、Auは、その周囲で第1金属とシリコンのナノ粒子の拡散を支援し、金属シリサイドと導電薄膜層との間のシリコン拡散部の形成を容易にする。
【発明の効果】
【0037】
請求項1と請求項4の発明によれば、シリコン基板内を透過する光を光電変換するものではなく、基板の表層で光電変換するので、光損失が少なく、高い感度で光誘起電流が得られる。
【0038】
また、基板の表面に沿ってフォトキャリアが移動するので、移動速度約10cm/sの化合物半導体レベルの高速光誘起キャリアが発生する。従って、光検出センサーとして用いられる場合には、超高速イメージングセンサーや、GHz乃至THz帯の光変調波に対して応動する光電変換素子を実現できる。薄膜型であるので、アレー化が可能な表面検出型CCDセンサーとして用いることもできる。
【0039】
また、シリコンとのショットキー障壁の高さに依存せずに、可視領域から赤外領域までの広い波長帯域の光に対して応答して光誘起電流を発生させることができる。従って、光検出センサーとして用いられる場合には、優れた感度特性で広帯域の光を検出できる。また、太陽電池として用いられる場合には、幅広い帯域の太陽光を光電変換して電力に利用でき、特に、曇天時には、p−n接合のSi系光電変換素子を用いた太陽電池に対して、略2倍の太陽エネルギーを電力に利用できる。更に、日没後に大気中に散乱する赤外光を光電変換することにより、昼夜発電することが期待でき、熱変換される前に散乱する赤外光を光電変換するので、地球温暖化対策の手段としても期待できる。
【0040】
また、pn接合の光電変換素子やシリコン薄膜を製膜することにより薄型化した薄膜光電変換素子に比べて、飛躍的に薄型化することができ、第1金属、第2金属、シリコンなどの稀少元素を極少量使用するだけで製造できる。
【0041】
また、光誘起電流や光誘起電圧を、シリコン基板の同一表面側の金属シリサイド層と導電薄膜層に接続する一対の電極から取り出すことができるので、一対の引き出し電極を積層方向に分けて配置することがなく、薄膜光電変換素子を更に薄型化できる。
【0042】
更に、請求項4の発明によれば、表面に第1金属薄膜層を積層させ、更にその一部に第2金属薄膜層を積層させたシリコン基板をアニール処理するだけの単純な製造プロセスで製造でき、そのプロセスは、金属シリサイドを形成するSiベースのプロセスを利用できる。
【0043】
請求項2と請求項5の発明によれば、シリコン基板の表層の厚さが100nm未満の導電薄膜層と更に薄い金属シリサイド層とで、光誘起電流を発生させるので、薄膜化が可能で、太陽電池の用途では、ビルや自動車の窓、携帯電話機などポータブル機器の筐体などに貼り付けることができ、取り付け場所の制約がない。
【0044】
請求項3と請求項6の発明によれば、第1金属と、貴金属である第2金属は、いずれも金属シリサイド層と導電薄膜層を形成する為に用いるだけなので、極少量の稀少元素から製造できる。
【0045】
第1金属は、融点が高く、高温における機械的性質が優れ、金属シリサイドの材料に適している。特に、第1金属がCoである場合には、金属シリサイドは、シリコンデバイスの電極下地に利用されているCoSixであり、既存のプロセスを利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施の形態に係る薄膜光電変換素子1の縦断面図である。
【図2】薄膜光電変換素子1の等価回路図である。
【図3】薄膜光電変換素子1の製造プロセスを示す工程図である。
【図4】薄膜光電変換素子1の電極4、5間に印加したバイアス電圧Vと、電極4、5間に流れる電流I、Ib1、Ib2との関係を示すI−V線図である。
【図5】金属シリサイド層3へ光を照射した際に電極4、5間に流れる光誘起電流Iと、導電薄膜層9へ光を照射した際に電極4、5間に流れる光誘起電流Iとを、バイアス電圧Vとの関係で示すI−V線図である。
【図6】金属シリサイド層3へ光を照射して誘起されたフォトキャリアの移動を示すエネルギーダイアグラムである。
【図7】導電薄膜層9へ光を照射して誘起されたフォトキャリアの移動を示すエネルギーダイアグラムである。
【図8】従来の薄膜太陽電池100の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の一実施の形態に係る薄膜光電変換素子1とその製造方法を、図1乃至図7を用いて説明する。本実施の形態に係る薄膜光電変換素子1は、図1に示すように、半導体基板であるn型のSiからなるn−Si基板2と、n−Si基板2の表面上に自己組織化した金属シリサイド層であるCoSix層3と、CoSix層3の一部にオーミック接続するアノード電極4と、n−Si基板2の表面上に形成される導電薄膜層9と、導電薄膜層9の一部にオーミック接続するカソード電極5と、CoSix層3と導電薄膜層9の間でシリコンのナノ粒子が表面に拡散するシリコン拡散部6とを備え、ここでは、太陽電池の用途として使用するものとして窓ガラスのガラス板10に貼り付けられる。このように、光誘起電流を外部へ引き出す一対のアノード電極4とカソード電極5は、n−Si基板2の同一表面側に形成される。
【0048】
かかる構成の薄膜光電変換素子1は、図3の製造プロセスを示す工程図に示すように、ほぼ正方形のn型のSiからなるn−Si基板2上にスパッタリングにより厚さ8nmのCo薄膜7を成膜し(イ)、5分間有機洗浄した後(ロ)、マスク印刷を行って正方形のCo薄膜7上の一部の領域に導電薄膜層9を形成することとなる厚さ約10nmのAu薄膜8をスパッタリングで形成する(ハ)。その後、昇温時間3分で400乃至800℃、好ましくは600℃まで昇温し、600℃の温度で3分間アニール処理を行い(ニ)、n−Si基板2上に形成されるCoSix層3と導電薄膜層9にそれぞれアノード電極4とカソード電極5とをオーミック接続し(ホ)、薄膜光電変換素子1が製造される。
【0049】
このプロセスを経て製造された薄膜光電変換素子1は、上記アニール処理により、積層するSi、Co及びAuが相互に拡散し、Co薄膜7のみが成膜された領域では、Si基板2の表面上に自己組織化したCoSix層3が形成されるとともに、Co薄膜7上に更にAu薄膜8が形成された領域には、CoとAuとSiのナノ粒子が拡散するCo、Auリッチな導電薄膜層9が形成される。
【0050】
アニール処理によって、CoSix層3と導電薄膜層9が形成された領域では、積層方向のn−Si基板2との間にショットキー界面が形成される。導電薄膜層9が形成された領域では、CoSixとSiの間若しくはAuとSiの間のいずれかでショットキー界面が形成される。また、アニール処理により拡散が更に進んだ領域では、n−Si基板2とオーミック接続する領域が形成される。従って、図2に示すように、ショットキー界面が形成される領域では、CoSix層3及び導電薄膜層9からそれぞれ積層方向のn−Si基板2の方向を順方向とするダイオードD2、D3が形成されるとともに、オーミック接続する領域では、ダイオードD2、D3と並列に抵抗R2、R3が接続する等価回路が形成される。
【0051】
アニール処理によって、導電薄膜層9では、Co、Au、Siのナノ粒子が相互に拡散し、CoSix層3では、Co、Siのナノ粒子が相互に拡散し、最大20nm以下の深さで、各元素の活性化エネルギーが高く、状態図がバルクの性質から離れる現象が発生する。Siナノ粒子が共存するCoSix層3と導電薄膜層9では、Si粒子がナノサイズとなることで、波数選択則がバルクと異なる直接遷移となり、Si価電子帯から可視域のエネルギーギャップに相当するバンド間励起が発生する。その結果、このCoSix層3や導電薄膜層9では、長波長の赤外領域の光に対して、積層方向のショットキー障壁によりフォトキャリアが発生するとともに、短波長の可視光の光に対しても、シリコンナノ粒子の励起によるフォトキャリアが発生し、双方に応答することによって、応答感度が高く、可視光から赤外光までの広帯域応答特性が得られる。
【0052】
同時に、アニール処理によって、Au薄膜8の周囲では、Auの支援を受けてn−Si基板2のSiナノ粒子が表面付近に拡散しやすくなり、CoSix層3と導電薄膜層9との間には、CoSix、Au、Coとともに多数のシリコンナノ粒子が拡散するシリコン拡散部6がここではAu薄膜8の周囲から最大1mm以内の幅で形成される。n−Si基板2の表面に沿った水平方向で、理論的には、半導体からなるシリコン拡散部6と導電薄膜層9間、及びシリコン拡散部6とCoSix層3間にもショットキー界面が形成されるが、アニール処理前にCo薄膜7のみからなるCoSix層3側より、Co薄膜7にAu薄膜8を積層する導電薄膜層9側の金属がより過剰な領域となるので、オーミック化が促進されていると考えられ、障壁のピンニングが弱まり、シリコン拡散部6と導電薄膜層9間の障壁の高さが低いと考えられる。その結果、シリコン拡散部6とCoSix層3間のショットキー障壁により、水平方向のCoSix層3から導電薄膜層9の方向を順方向とするダイオードD1が形成される。
【0053】
従って、アニール処理を行った薄膜光電変換素子1は、図2に示す等価回路図で示される回路構成となる。しかしながら、これらの等価回路は、20nm内の厚さの薄膜のCoSix層3、シリコン拡散部6、導電薄膜層9とn−Si基板2の極浅い表層で形成される。尚、抵抗R1は、アノード電極4とカソード電極5間のCoSix層3での抵抗である。
【0054】
上述のように構成された薄膜光電変換素子1の表面側(図1において上方)から光を照射し、光を受ける同一表面側に形成されたアノード電極4とカソード電極5間に光誘起電流I、Iが発生することを確認するため、アノード電極4とカソード電極5のバイアス電圧Vbを変化させながら、波長632nm、出力1.68mW、照射面積0.4/mmの励起用レーザー光をCoSix層3と導電薄膜層9に照射し、励起用レーザー光を照射しない場合にアノード電極4とカソード電極5間に流れる電流Iと比較する測定を行った。
【0055】
図4は、各測定条件でアノード電極4とカソード電極5間に発生する電流I、Ib1、Ib2とバイアス電圧Vbとの関係を示すI−V線図であり、図中破線で表すIは、励起用レーザー光を照射しない場合にアノード電極4とカソード電極5間に流れる電流値、Ib1は、CoSix層3へ励起用レーザー光を照射して発生した電流値、Ib2は、導電薄膜層9へ励起用レーザー光を照射して発生した電流値である。
【0056】
負のバイアス電圧でほぼ0であり、正のバイアス電圧の上昇に応じて上昇する同図に示す電流Iの波形から、CoSix層3から導電薄膜層9の方向を順方向とするダイオードD1が確認され、I−V線図から見積もったそのショットキー障壁の高さは、0.56eVから0.58eVと推定される。
【0057】
図5は、図4に示す測定結果からバイアス電圧によってアノード電極4とカソード電極5間に流れる電流Iを除いて、励起用レーザー光のみにより発生する光誘起電流I、Iをバイアス電圧Vbとの関係で表したI−V線図である。すなわち、図中Iは、Ib1−I、Iは、Ib2−Iで算定した電流値であり、図中の数値(単位mA)は、その左側の縦軸で表わすバイアス電圧Vbを印加した際の電流値である。
【0058】
CoSix層3へ励起用レーザー光を照射して発生する光誘起電流Iは、図5に示すように、正のバイアス電圧Vbが加わっている間は、ほぼ電流値が0であり、負のバイアス電圧Vbが加わると、カソード電極5からアノード電極4の方向の−0.98mA程度の電流が流れる。
【0059】
図6に示すように、正のバイアス電圧Vbが印加された状態で、CoSix層3の下層のn−Si基板2から光を受けて誘起されたフォトキャリア(光誘起電子)は、カソード電極5方向への移動は、その間のショットキー障壁で阻止され、+側電位のアノード電極4の方向へ引きつけられ、抵抗R2を介してその下方のn−Si基板2の正孔と再結合する。従って、アノード電極4とカソード電極5間を流れる電流Iとしては表れない。一方、負のバイアス電圧Vbが印加された状態で、n−Si基板2からCoSix層3へ誘起されたフォトキャリア(光誘起電子)は、ダイオードD1に逆バイアスが加わっているが、+側電位のカソード電極5の方向に引きつけられ、ダイオードD1をバイパス若しくはトンネル効果で通過して、導電薄膜層9をカソード電極5まで流れ、アノード電極4と抵抗R2を介してその下方のn−Si基板2の正孔と再結合する。従って、薄膜光電変換素子1の表面に沿って、負の光誘起電流Iが流れる。
【0060】
又、導電薄膜層9へ励起用レーザー光を照射して発生する光誘起電流Iは、図5に示すように、正のバイアス電圧Vbが加わると、アノード電極4からカソード電極5の正方向に0.35mA程度の電流が流れ、負のバイアス電圧Vbが加わっている間は、ほぼ電流値が流れない。
【0061】
図7に示すように、正のバイアス電圧Vbが印加された状態で、導電薄膜層9の下層のn−Si基板2から光を受けて誘起されたフォトキャリア(光誘起電子)は、n−Si基板2からCoSix層3へ誘起されたフォトキャリア(光誘起電子)は、+側電位のアノード電極4の方向に引きつけられ、ダイオードD1に順バイアスが加わっているので、ダイオードD1を通過し、導電性のCoSix層3をアノード電極4まで流れ、カソード電極5と抵抗R3を介してその下方のn−Si基板2の正孔と再結合する。従って、薄膜光電変換素子1の表面に沿って、正の光誘起電流Iが流れる。一方、負のバイアス電圧Vbが印加された状態で、n−Si基板2から導電薄膜層9へ誘起されたフォトキャリア(光誘起電子)は、逆バイアスが加わったダイオードD1の障壁でカソード電極5の方向への移動が阻止されるとともに、+側電位のカソード電極5の方向へ引きつけられ、抵抗R3を介してその下方のn−Si基板2の正孔と再結合する。従って、アノード電極4とカソード電極5間を流れる電流Iに表れない。
【0062】
上述の光誘起電流I、Iは、主としてn−Si基板2上の20nm以下の厚さの表面導電層を流れ、また、多数キャリアで動作するショットキーを利用するので、キャリアが高速に移動し、面内方向でキャリアが移動するHEMT(High Electron Mobility Transistor)に相当する高速応答性があり、GHz乃至THz帯の光センサーに利用することが可能となる。
【0063】
また、本実施の形態に係る薄膜光電変換素子1では、可視領域から赤外領域までの波長(0.4乃至2μm)の光に応答することが検証され、太陽電池の用途として用いる場合には、可視光から赤外光まで光電変換することができ、変換効率が上昇するとともに、極薄膜で可撓性の薄膜光電変換素子1とすることができるので、ビルの壁面やポータブル機器のケース表面に貼り付けて、発電することも可能であり、その取り付けスペースが制約されない。
【0064】
更に、本実施の形態のようにn−Si基板2上にCoSix層3、シリコン拡散部6、導電薄膜層9を形成するだけなので、シンプルなSiベースのプロセスを利用して、太陽電池やイメージセンサーなどの用途の光電変換素子を製造できる。
【0065】
また、CoSix層3を形成するn−Si基板2上に成膜するCo薄膜7は、Fe、W、Ni、Al、Ti等の薄膜金属層であってもよく、シリコン基板2は、p−Si基板であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、太陽電池や高速光センサーに用いる薄膜光電変換素子に適している。
【符号の説明】
【0067】
1 薄膜光電変換素子
2 n−Si基板(シリコン基板)
3 CoSix層(金属シリサイド層)
4 アノード電極
5 カソード電極
6 シリコン拡散部
7 Co薄膜(第1金属薄膜層)
8 Au薄膜(第2金属薄膜層)
9 導電薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属からなる第1金属薄膜層と、第1金属薄膜層上の一部に重ねて、第2金属からなる第2金属薄膜層を積層させたシリコン基板をアニール処理し、
シリコン基板の表面に第1金属とシリコンが拡散して形成される金属シリサイド層と、
シリコン基板の表面の第2金属薄膜層の積層部位に形成される導電薄膜層と、
前記金属シリサイド層と前記導電薄膜層との間のシリコン基板の表面付近にシリコンのナノ粒子が拡散して形成されるシリコン拡散部とを備え、
シリコン基板との積層方向にショットキー界面が形成される金属シリサイド層若しくは導電薄膜層へ光を照射し、シリコン基板の表面の金属シリサイド層と導電薄膜層間に光誘起電流を発生させることを特徴とする薄膜光電変換素子。
【請求項2】
導電薄膜層の厚さが100nm未満であり、金属シリサイド層の厚さは導電薄膜層より更に薄いことを特徴とする薄膜光電変換素子。
【請求項3】
第1金属が、Co、Fe、W、Ni、Al、Tiのいずれかであり、第2金属が、Auであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の薄膜光電変換素子。
【請求項4】
シリコン基板上に第1金属からなる第1金属薄膜層を成膜する第1工程と、
第1金属薄膜層上の一部に第2金属からなる第2金属薄膜層を成膜する第2工程と、
シリコン基板上に積層された第1金属薄膜層と第2金属薄膜層をアニール処理し、基板上に第1金属とシリコンが拡散する金属シリサイド層と、第2金属薄膜層の積層部位の導電薄膜層と、前記金属シリサイド層と前記導電薄膜層との間でシリコン基板の表面付近にシリコンのナノ粒子が拡散するシリコン拡散部を形成する第3工程とを備え、
シリコン基板との積層方向にショットキー界面が形成される金属シリサイド層若しくは導電薄膜層へ光を照射し、シリコン基板の表面の金属シリサイド層と導電薄膜層間に光誘起電流を発生させることを特徴とする薄膜光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
導電薄膜層の厚さが100nm未満であり、金属シリサイド層の厚さは導電薄膜層より更に薄いことを特徴とする請求項4に記載の薄膜光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
第1金属が、Co、Fe、W、Ni、Al、Tiのいずれかであり、第2金属が、Auであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の薄膜光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−40553(P2011−40553A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186248(P2009−186248)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(509015914)株式会社Si−nano (2)
【Fターム(参考)】