説明

薄膜塗工装置並びに両面薄膜塗工装置

【課題】乾燥する前に連続的に精度良くスピーディーに薄膜を形成できる両面塗工が実現でき、特にリチウムイオン電池形成材の作製にあたってこの基材となる金属製フィルム(被塗工体5)を傷付けたりノズル部の先端接触部の摩耗粉の発生・混入による不良も低減でき、従って、このスピーディーに行える両面塗工でリチウムイオン電池形成材の作製が実現できる画期的な薄膜塗工装置並びにこれを用いた両面薄膜塗工装置を提供すること。
【解決手段】ノズル部4の先端吐出孔3に対して前記被塗工体5の搬送上流側に、予塗工部6を設けて、この予塗工部6により予め塗工した前記被塗工体5に更に前記先端吐出孔3からの塗工液2により塗工することで、前記ノズル部4の前記被塗工体5との先端接触部7が、直接この被塗工体5の表面に摺動接触せず、前記予塗工されている表面に摺動接触するように構成した薄膜塗工装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスリット状の先端吐出孔から塗工液を吐出するノズル部に対して、フィルム状や板状などの被塗工体を搬送して表面に薄膜を塗工形成するように構成した薄膜塗工装置,並びに被塗工体の片面に塗工した後、これを乾燥する前に反対面にも塗工し、この両面を塗工した後に乾燥して被塗工体の両面に薄膜を塗工形成する両面薄膜塗工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液供給部から供給された塗工液をスリット状の先端吐出孔から吐出するノズル部を有し、このノズル部の先端吐出孔から塗工液を吐出しながら、このノズル部と対向する被塗工体をこのノズル部に対して相対搬送させることで前記被塗工体に塗工液を薄膜状に塗工するように構成した薄膜塗工装置において、このノズル部を被塗工体に近接させて吐出塗工するよりもノズル部の先端接触部を被塗工体に接触させた状態で、この先端接触部に対して被塗工体の搬送下流側近傍に設けた先端吐出孔から吐出塗工する接触式のノズル部とした方が精度良く均一な膜厚に形成できる場合があり、また、例えば被塗工体がフィルム状である場合に、このフィルム状の被塗工体の塗工面と反対面を支承できる場合は、この反対面を塗工用支承ロールなどで支承して、このフィルム振動がない支承状態でノズル部を近接させて塗工することができるが、反対面を支承できない場合には、たとえ搬送上流側の塗工面を支承ロールで支承しても、搬送下流側で生じる振動,例えば熱風乾燥やIR乾燥など乾燥工程、特に熱風乾燥の場合に顕著となるフィルム振動が伝わり均一に塗工できず膜厚を精度良く管理できない。
【0003】
しかし、前述のようにノズル部の先端接触部をこのフィルム状の被塗工体に押圧接触すれば、このフィルム振動が減衰され、均一な厚さの薄膜を精度良く塗工形成できることとなる。
【0004】
特に1mm以下のオーダーの薄膜を均一に塗工形成する場合には、塗工面と反対側の反対面を支承できない場合は、ノズル部を近接させて塗工する方式より前記接触式のノズル部の方が望ましい。
【0005】
また、片面に第一塗工機構により塗工した後、熱風乾燥やIR乾燥などの乾燥を行う前に第二塗工機構により反対面も塗工し、この両面塗工した後に乾燥機構により乾燥することで装置の小型化や量産性を向上できる両面薄膜塗工装置の前記反対面を塗工する第二塗工機構においては、塗工面と反対側の前記片面は既に前記第一塗工機構によって塗工されていてまだ乾燥していないため、この片面からは支承できず前述のような問題が生じ、接触式のノズル部を用いることが望ましい。
【0006】
しかしながら、前記接触式のノズル部を用いると、膜厚の均一精度が高められ、前述のようなフィルムの場合や両面塗工の場合にはフィルム振動も抑えることができる反面、被塗工体とこのノズル部の先端接触部との接触により被塗工体を傷付ける場合があり、またこの被塗工体へのダメージを抑えるためにノズル部の先端接触部の材質を樹脂など硬度の低いものにした場合にはこのダメージは抑えられても先端接触部が摩耗し易くなり、この摩耗した先端接触部の摩耗粉が塗工薄膜に混入するおそれもある。
【0007】
また、特にアルミ製又は銅製などの金属フィルムを被塗工体とし、この表面にコバルト酸リチウムなどの正極活性物質又はグラファイトなどの負極活性物質にバインダーなどを混合しこれを塗工液として、100μmオーダーの薄膜を塗工形成するリチウムイオン電池形成材を作製する場合、この被塗工体に傷がつき易く不良となるおそれがあり、またノズル部の先端接触部が摩耗してこの摩耗粉が混入してしまうとこれも不良となるので接触式のノズル部は実用化しにくい問題があった。
【0008】
そのため、このようなリチウムイオン電池形成材、特に両面塗工して小型化,高出力化を図るリチウムイオン電池形成材を作製する場合は、片面塗工後これを乾燥する前に反対面を塗工して装置の小型化や量産性を上げる前述の両面塗工を実現したいが前記問題により難しい。
【0009】
言い換えると、乾燥する前に両面塗工しようとすると、片面を塗工した後の反対面の塗工に際して、この片面は支持できないし、反対面の塗工面はこの塗工していない搬送上流側でしか支持できないから、搬送下流側の熱風乾燥などの乾燥工程などによるフィルム振動のために、非接触式の(近接させて塗工する)ノズル部によっては、均一な膜厚を塗工形成できない。
【0010】
また従来のように片面塗工後に一旦乾燥してから反対面を塗工する場合には、塗工面の温度変化によって膜厚に変化が生じるおそれがあるため、片面塗工して乾燥した後に再びクーリング装置で冷却しなければならず、そのため一旦巻き取りしない連続塗工を行う場合には、この二度の乾燥とクーリング工程を行う装置を配置しなければならず、装置が大型化し量産性に劣る。
【0011】
そこで、前述のように乾燥する前に両面を塗工できる両面塗工装置が要望されており、特に両面塗工することが要望されている前記リチウムイオン電池形成材においては装置の小型化やこのリチウムイオン電池形成材の作製のスピードアップによる量産化を図るために、このような両面塗工が行える両面薄膜塗工装置が切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような問題点を解決し、精度良く均一に薄膜を塗工形成でき、これを用いることで乾燥する前に連続的に精度良く均一に薄膜を形成する両面塗工も実現でき、特にリチウムイオン電池形成材の基材となる金属製フィルムの両面に精度良く均一に塗工でき、しかも前記問題点を解決し被塗工体(リチウムイオン電池形成材の作製にあたっては金属フィルム)を傷付けたりノズル部の先端接触部の摩耗粉の発生・混入による不良も低減でき、従って、例えばこの両面塗工したリチウムイオン電池形成材の作製装置の小型化やこの作製の量産化も図れる画期的な薄膜塗工装置並びに両面薄膜塗工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0014】
液供給部1から供給された塗工液2をスリット状の先端吐出孔3から吐出するノズル部4を有し、このノズル部4の先端吐出孔3から塗工液2を吐出しながら、このノズル部4と対向する被塗工体5をこのノズル部4に対して相対搬送させることで前記被塗工体5に塗工液2を薄膜状に塗工するように構成した薄膜塗工装置において、前記ノズル部4の先端吐出孔3に対して前記被塗工体5の搬送上流側に、この被塗工体5に前記先端吐出孔3からの塗工液2が吐出塗工される前に予め塗工する予塗工部6を設けて、この予塗工部6により予め塗工した前記被塗工体5に更に前記先端吐出孔3からの塗工液2により塗工することで、前記ノズル部4の前記被塗工体5との先端接触部7が、直接この被塗工体5の表面に摺動接触せず、前記予塗工されている表面に摺動接触するように構成したことを特徴とする薄膜塗工装置に係るものである。
【0015】
また、前記予塗工部6の予塗工に用いる予塗工液11は、前記先端吐出孔3から吐出して塗工する本塗工の前記塗工液2と同じ液若しくは前記塗工液2に混ぜるバインダーとし、この予塗工液11による塗工膜厚は、前記本塗工での前記塗工液2による塗工膜厚より薄い膜厚となるように前記予塗工部6を構成したことを特徴とする請求項1記載の薄膜塗工装置に係るものである。
【0016】
また、前記ノズル部4の前記先端吐出孔3に対して前記被塗工体5の搬送上流側に前記先端接触部7を設け、この先端接触部7の搬送下流側の前記先端吐出孔3から吐出する前記塗工液2が、この先端吐出孔3に対して搬送するフィルム状の前記被塗工体5に薄膜を塗工形成するように構成し、この先端接触部7がフィルム状の前記被塗工体5と接触することでフィルム振動を抑えるように構成したことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置に係るものである。
【0017】
また、前記フィルム状の被塗工体5の前記先端吐出孔3より搬送下流側を支持する支持ロール10を設け、この支持ロール10の位置設定によって前記先端接触部7の接触圧を調整設定した構成としたことを特徴とする請求項3記載の薄膜塗工装置に係るものである。
【0018】
また、間隙を介して対向して前記スリット状の先端吐出孔3を形成する一対のスリット形成部8の前記被塗工体5の搬送上流側の一方の先端部より、前記被塗工体5の搬送下流側となる他方の先端部を短く形成することで、前記一方のスリット形成部8の先端部を前記先端接触部7として設けたことを特徴とする請求項3,4のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置に係るものである。
【0019】
また、前記ノズル部4の前記先端吐出孔3に対して前記被塗工体5の搬送上流側に、前記予塗工液11を吐出する予塗工用のスリット状の予塗工用先端吐出孔9を前記先端吐出孔3と並設して前記予塗工部6を構成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置に係るものである。
【0020】
また、前記被塗工体5の両面に塗工を行う両面薄膜塗工装置であって、片面に塗工する第一塗工機構Aと、反対面に更に塗工する第二塗工機構Bと、この両面塗工を終えた被塗工体5を乾燥する乾燥機構Cとを備え、前記第二塗工機構Bとして前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置を用いたことを特徴とする両面薄膜塗工装置に係るものである。
【0021】
また、前記被塗工体5として金属製フィルムを用い、この両面に塗工する前記塗工液2としてリチウムイオン電池の正極活性物質若しくは負極活性物質を用いて両面にこの薄膜を塗工形成したリチウムイオン電池形成材を作製するように構成したことを特徴とする請求項7記載の両面薄膜塗工装置に係るものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上述のように構成したから、精度良く均一に薄膜を塗工形成でき、これを用いることで乾燥する前に連続的に精度良く均一に薄膜を形成する両面塗工も実現でき、特にリチウムイオン電池形成材の基材となる金属製フィルムの両面に精度良く均一に塗工でき、しかも前記問題点を解決し被塗工体(リチウムイオン電池形成材の作製にあたっては金属フィルム)を傷付けたりノズル部の先端接触部の摩耗粉の発生・混入による不良も低減でき、従って、例えばこの両面塗工したリチウムイオン電池形成材の作製装置の小型化やこの作製の量産化も図れる画期的な薄膜塗工装置並びに両面薄膜塗工装置となる。
【0023】
また、請求項2記載の発明においては、予塗工部による予塗工が本塗工に影響を与えず均一に精度良く薄膜を塗工形成でき、特に予塗工液を本塗工に用いるバインダーとすれば、バインダーは摩耗させにくい滑らかな液である場合が多いことから、ノズル部の先端接触部の接触によるダメージや摩耗を一層抑えることができ、また先端接触部の摩耗粉の発生・混入を更に抑えることができ、しかも本塗工への影響も少ないなど一層優れた薄膜塗工装置となる。
【0024】
また、請求項3記載の発明においては、フィルム振動を抑えることができ、前記接触式のノズル部とすることによる摩耗の前記問題点も減じることができる極めて優れた薄膜塗工装置となる。
【0025】
また、請求項4記載の発明においては、更にノズル部の先端接触部への接触圧も支持ロールの位置調整によって調整でき、塗工面の反対面が支承できないフィルム状の被塗工体への塗工に際してフィルム振動を一層良好に抑えつつ適切な接触圧で接触させつつ塗工することができる更に優れた薄膜塗工装置となる。
【0026】
また、請求項5,6記載の発明においては、一層簡易な構成で予塗工部を構成することができ、一層実用性に優れた薄膜塗工装置となる。
【0027】
また、請求項7記載の発明においては、片面に塗工する第一塗工機構と、反対面に更に塗工する第二塗工機構と、この両面塗工を終えた被塗工体を乾燥する乾燥機構とを備え、二度の乾燥工程と乾燥後のクーリング工程を要しないで連続して両面塗工を行え、装置の小型化や両面塗工のスピードを上げて量産性を向上できる両面塗工が、前記第二塗工機構として前記薄膜塗工装置を用いることで実現でき、且つ前記接触式のノズル部の摩耗の問題も生じにくく、実用化が図れる画期的な両面薄膜塗工装置となる。
【0028】
特に請求項8記載の発明においては、このような装置の小型化や製作量産化が図れる両面塗工のリチウムイオン電池形成材の作製が実現できる画期的な両面薄膜塗工装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施例の概略構成説明図である。
【図2】本実施例の要部の拡大説明図である。
【図3】本実施例の要部の更に拡大した拡大説明図である。
【図4】本実施例の非接触式振動抑制機構を示す説明図である。
【図5】本実施例の非接触式振動抑制機構の概略構成斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0031】
ノズル部4の先端吐出孔3から塗工液2を吐出しながら、このノズル部4に対して被塗工体5が相対搬送されることで、被塗工体5の表面に均一な薄膜が塗工形成されるが、このノズル部4の先端接触部7が被塗工体5に接触することで、更に精度良く均一な膜厚の薄膜を塗工形成できる。
【0032】
特に被塗工体5がフィルム状である場合には、このフィルム状の被塗工体5のフィルム振動を抑えることができるので、前記作用・効果は一層良好に発揮され均一な薄膜を塗工形成できる。
【0033】
しかし、この被塗工体5の表面が傷付き易いものであったり、傷や少しの摩耗粉の混入も不良となるおそれのある場合には、このようなノズル部4の先端接触部7を被塗工体5の表面に接触摺動させることはできない。
【0034】
特にリチウムイオン電池形成材の作製にあっては、基材となるアルミや銅などの金属製フィルムを被塗工体5として用いることから、傷付け易く、また正極ではコバルト酸リチウムなどの正極活性物質,負極ではグラファイトなどの負極活性物質を塗工して100μmオーダーの薄膜を均一に塗工するため、金属製フィルムへのわずかなダメージも不良となりかねないし、またノズル部4の先端接触部7を樹脂など硬度の小さいものにしてダメージを抑えることができるがこの場合もこの摩耗粉が薄膜に混入するおそれがありこれも不良となるおそれがあるため、前記接触式のノズル部4を用いることができなかった。
【0035】
この点本発明は、ノズル部4の先端吐出孔3からの吐出による本塗工の前に予塗工部6を設けてこの本塗工に影響を与えない厚さで予塗工を行うことで接触式のノズル部4の問題を解決あるいは低減したものである。
【0036】
この予塗工は、本塗工の塗工液2と同じ液やこれに混合させるバインダーを用いて例えば塗工形成する薄厚の1/10や1/100程度の極薄膜を予塗工する。
【0037】
これはノズル部4の先端吐出孔3の塗工位置に対して被塗工体5の搬送上流側でスプレーなどの噴霧によって予塗工を行っても良いが、例えば後述する実施例のように先端吐出孔3により被塗工体5の搬送上流側に、もう一つの予塗工用先端吐出孔9を並設し、この予塗工用先端吐出孔9から前記予塗工液11を吐出して極薄の予塗工薄膜を形成する。
【0038】
これによりノズル部4の先端接触部7は被塗工体5の表面(塗工面)に直接摺動接触せず、必ず予塗工部6によって予塗工されている被塗工体5の塗工面(予塗工済み面)に摺動接触することになり、それだけ被塗工体5を傷付けにくく、また先端接触部7も摩耗しにくく、それ故この摩耗粉の発生・混入も抑制できることとなる。
【0039】
このように本発明では、接触式のノズル部4の問題点を減じることができるため、接触式のノズル部4を用いてフィルム振動を抑えつつ均一に薄膜を形成できることとなる。
【0040】
従って、フィルム状の被塗工体5であっても、両面塗工における片面塗工後の反対面の塗工に際しても前記問題点を生じにくく、熱風乾燥などの乾燥工程により生じるフィルム振動を良好に抑えつつ塗工できるため、装置の小型化が図れ両面塗工スピードを上げることで量産性も向上する前述の両面塗工が実現できる画期的な薄膜塗工装置並びに両面薄膜塗工装置となる。
【0041】
特にこのような作製スピード向上による量産性が切望されていて、また接触式のノズル部4による被塗工体5(金属製フィルム)へのダメージや摩耗粉の混入を抑えなければならない両面塗工のリチウムイオン電池形成材の作製においては、極めて実用性に優れた両面薄膜塗工装置となる。
【実施例】
【0042】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0043】
本実施例は、反対面を支承できない状態でフィルム状の被塗工体5に薄膜を塗工するのに極めて有用な薄膜塗工装置を用いたもので、片面塗工後にこれを乾燥する前に連続して反対面も塗工する際にこの本発明に係る薄膜塗工装置を用いて両面薄膜塗工装置を構成したものであり、特にフィルム振動の問題及びこれを解決する接触式のノズル部4の問題の双方を解決する両面薄膜塗工装置である。
【0044】
即ち、本実施例は、前記フィルム状の被塗工体5の両面に塗工を行う両面薄膜塗工装置であって、片面に塗工する第一塗工機構Aと、反対面に更に塗工する第二塗工機構Bと、この両面塗工を終えた被塗工体5を乾燥する乾燥機構Cとを備え、前記第二塗工機構Bとして本発明に係る以下の薄膜塗工装置を用いた両面薄膜塗工装置としている。
【0045】
また、本実施例は、前述のように両面塗工に際してのフィルム振動の問題を解決する接触式のノズル部4を用い更に予塗工部6を備えたノズル部4とすることでこの接触式のノズル部4の問題点をも解決し、これまで容易に実現できないとされていた両面塗工のリチウムイオン電池の作製における装置の小型化が図れ且つスピーディーに作製できる両面薄膜塗工装置を実現したものである。
【0046】
即ち、前記被塗工体5としてアルミ製フィルムや銅製フィルムなどの金属製フィルムを用い、この両面に塗工する前記塗工液2として例えばコバルト酸リチウムなどのリチウムイオン電池の正極活性物質若しくはグラファイトなどの負極活性物質を用いて両面にこの薄膜を塗工形成したリチウムイオン電池形成材を作製するように構成した両面薄膜塗工装置としている。
【0047】
具体的には、例えば被塗工体5は厚さ10〜20μmで幅650mmの金属製フィルムとし、このフィルムの両面にコバルト酸リチウムなどの正極活性物質若しくはグラファイトなどの負極活性物質にバインダーを混合した塗工液2を用いて100μmオーダーの薄膜を、プラスマイナス2μmの誤差で均一に塗工形成するもので、液供給部1から液溜め部13を介して供給された塗工液2をスリット状の先端吐出孔3から吐出するノズル部4を前記フィルム状の被塗工体5に対向配設し、このノズル部4の先端吐出孔3から塗工液2を吐出しながら、このノズル部4と対向するフィルム状の被塗工体5をこのノズル部4に対して搬送させることで前記被塗工体5に塗工液2を薄膜状に塗工するように構成している。
【0048】
本実施例では、このようなフィルム状の被塗工体5の片面に先ず塗工液2により塗工する第一塗工機構Aは、供給ロール14に巻き取ってあるフィルム状の被塗工体5を引き出し、塗工面と反対面を塗工用支持ロール15で支持しながら、片面に前記ノズル部4の先端吐出孔3を近接させて片面に薄膜を塗工形成する従来の非接触式の薄膜塗工装置で構成し、この第一塗工機構Aにより片面塗工を終え、乾燥工程もクーリング工程も経ることなく、まだ乾燥処理しないこのフィルム状の被塗工体5に、この既に塗工済みの片面を支持することなく第二塗工機構Bにより反対面を接触式のノズル部4で塗工し、この両面塗工を終えた後に、例えばIRや熱風で乾燥する乾燥機構Cを設けている。
【0049】
また、この乾燥機構Cの手前にエアニップ方式の非接触式振動抑制機構Dを更に設けてフィルム振動をできるだけ抑え込んだ状態で接触式のノズル部4でフィルム振動を抑えている。
【0050】
これにより二つの乾燥工程やクーリング工程も不要となり連続して両面塗工が行え、リチウムイオン電池の作製にあたって装置の小型化や作製スピードの向上による量産化が図れる。
【0051】
本実施例では、このような両面薄膜塗工装置の前記第二塗工機構Bに本発明に係る薄膜塗工装置を適用したものである。
【0052】
具体的には、この接触式の前記ノズル部4の先端吐出孔3に対して前記被塗工体5の搬送上流側に、この被塗工体5に前記先端吐出孔3からの塗工液2が吐出塗工される前に予め塗工する予塗工部6を設けて、この予塗工部6により予め塗工した前記被塗工体5に更に前記先端吐出孔3からの塗工液2により塗工することで、前記ノズル部4の前記被塗工体5との先端接触部7が、直接この被塗工体5の表面に摺動接触せず、前記予塗工されている表面に摺動接触するように構成している。
【0053】
本実施例では、前述のように100μmオーダーの薄膜をプラスマイナス2μmの誤差で均一に塗工形成するもので、このノズル部4の先端吐出孔3からの吐出による本塗工前に予塗工部6によってこの膜厚の1/10あるいは1/100程度の更に極薄の薄膜を予塗工するもので、この予塗工部6の予塗工に用いる予塗工液11は、前記先端吐出孔3から吐出して塗工する本塗工の前記塗工液2と同じ液若しくは前記塗工液2に混ぜるバインダーとしている。
【0054】
従って、リチウムイオン電池形成材の基材となる金属製フィルムの両面に精度良く均一に塗工でき、しかも前記問題点を解決し被塗工体5(金属フィルム)を傷付けたりノズル部の先端接触部の摩耗粉の発生・混入による不良も低減でき、また、予塗工部による予塗工が本塗工に影響を与えず均一に精度良く薄膜を塗工形成でき、特に予塗工液11を本塗工に用いるバインダーとすれば、バインダーは摩耗させにくい滑らかな液である場合が多いことから、ノズル部の先端接触部の接触によるダメージや摩耗を一層抑えることができ、また先端接触部の摩耗粉の混入を更に抑えることができ、しかも本塗工への影響も少ないなど一層優れる。
【0055】
また、このノズル部4の先端接触部7を非導電性の樹脂で形成して、前記予塗工による作用に加えて、できるだけ被塗工体5への摺動接触ダメージを抑え、摩耗粉の発生・混入を抑えるようにしても良い。
【0056】
更に説明すると、本実施例では、前記ノズル部4の前記先端吐出孔3に対して前記被塗工体5の搬送上流側に前記先端接触部7を設け、この先端接触部7の搬送下流側の前記先端吐出孔3から吐出する前記塗工液2が、この先端吐出孔3に対して搬送するフィルム状の前記被塗工体5に薄膜を塗工形成するように構成し、この先端接触部7がフィルム状の前記被塗工体5と接触することでこのフィルム状の被塗工体5にテンションを生じさせてフィルム振動を抑えるように構成している。
【0057】
また、更に本実施例では、前記フィルム状の被塗工体5の前記先端吐出孔3より搬送上流側を支持する支持ロール10を設け、この支持ロール10の位置設定によって前記先端接触部7を押圧接触させることで前述のようにこの先端接触部7の接触圧を調整設定した構成としている。
【0058】
具体的には、本実施例では、間隙を介して対向して前記スリット状の先端吐出孔3を形成する一対のスリット形成部8の前記被塗工体5の搬送上流側の一方の先端部より、前記被塗工体5の搬送下流側となる他方の先端部を短く形成することで、前記一方のスリット形成部8の先端部を前記先端接触部7として設けている。
【0059】
そして、本実施例では、前記ノズル部4を利用してこの先端吐出孔3に並設して前記予塗工部6を設ける構成としたもので、具体的には先端吐出孔3に対して前記被塗工体5の搬送上流側に、前記予塗工液11を吐出する予塗工用のスリット状の予塗工用先端吐出孔9を前記先端吐出孔3と並設して前記予塗工部6を構成している。
【0060】
具体的には、例えば前記先端部を先端接触部7としたスリット形成部8に間隙を介してブレード18を沿設してこの予塗工液供給路19とし、この先端部を予塗工用先端吐出孔9として先端接触部7とするスリット形成部8を境にして先端吐出孔3と予塗工用先端吐出孔9とが並設するように構成し、被塗工体5と予塗工液11と同じ液とする場合には液供給部1から分岐させて予塗工液供給路19と連通するように構成すれば良い。
【0061】
また、本実施例では、前述のように第二塗工機構Bと乾燥機構Cとの間、即ち支持ロール10と乾燥機構Cとの間にノズル部4を配設するが、このノズル部4と乾燥機構Cの間に非接触式振動抑制機構Dを設けている。
【0062】
この非接触式振動抑制機構Dは、フィルム状の被塗工体5を非接触状態で挟むように板状のエア噴出部12を対向配設し、このエア噴出部12に設けた多数のエア噴出孔16からエアを噴出して被塗工体5をエア圧で押さえ、これにより被塗工体5の振動,特に熱風乾燥などの乾燥機構Cにより生じるフィルム振動を抑制減衰させるように非接触支持するものである。
【0063】
具体的には、フィルム状の被塗工体5の所定範囲、例えば被塗工体5の幅が650mmであるとすれば、これよりやや大きい幅、例えば800mmとして、長さは例えば600mmとし、少なくともエア噴出部12間を被塗工体5が通過するのに1秒位かかる範囲をエアで押さえ込むように構成している。
【0064】
具体的には、このエア噴出部12の表面には0.5φの多数のエア噴出孔16を設け、このエア噴出部12内にはエア供給源から供給されたエアを整流均一化する多孔板17(邪魔板)を内装し、最終的に内部に供給されたエアが表面の前記エア噴出孔16から均一に噴出するように構成している。
【0065】
このエアの噴出量は多く且つエア噴出速度が遅い方が、被塗工体5のフィルム振動を抑制減衰させるフィルム保持効果が良好となる。
【0066】
本実施例では、このように非接触式振動抑制機構Dを介在して、できるだけ乾燥機構Cによるフィルム振動を抑えた上で接触式のノズル部4を用いた本発明に係る薄膜塗工装置による第二塗工機構Bによって、片面を支承できない状態での反対面を塗工する両面塗工においても、精度良く均一に薄膜を塗工形成できるようにしている。
【0067】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0068】
1 液供給部
2 塗工液
3 先端吐出孔
4 ノズル部
5 被塗工体
6 予塗工部
7 先端接触部
8 スリット形成部
9 予塗工用先端吐出孔
10 支持ロール
11 予塗工液
A 第一塗工機構
B 第二塗工機構
C 乾燥機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液供給部から供給された塗工液をスリット状の先端吐出孔から吐出するノズル部を有し、このノズル部の先端吐出孔から塗工液を吐出しながら、このノズル部と対向する被塗工体をこのノズル部に対して相対搬送させることで前記被塗工体に塗工液を薄膜状に塗工するように構成した薄膜塗工装置において、前記ノズル部の先端吐出孔に対して前記被塗工体の搬送上流側に、この被塗工体に前記先端吐出孔からの塗工液が吐出塗工される前に予め塗工する予塗工部を設けて、この予塗工部により予め塗工した前記被塗工体に更に前記先端吐出孔からの塗工液により塗工することで、前記ノズル部の前記被塗工体との先端接触部が、直接この被塗工体の表面に摺動接触せず、前記予塗工されている表面に摺動接触するように構成したことを特徴とする薄膜塗工装置。
【請求項2】
前記予塗工部の予塗工に用いる予塗工液は、前記先端吐出孔から吐出して塗工する本塗工の前記塗工液と同じ液若しくは前記塗工液に混ぜるバインダーとし、この予塗工液による塗工膜厚は、前記本塗工での前記塗工液による塗工膜厚より薄い膜厚となるように前記予塗工部を構成したことを特徴とする請求項1記載の薄膜塗工装置。
【請求項3】
前記ノズル部の前記先端吐出孔に対して前記被塗工体の搬送上流側に前記先端接触部を設け、この先端接触部の搬送下流側の前記先端吐出孔から吐出する前記塗工液が、この先端吐出孔に対して搬送するフィルム状の前記被塗工体に薄膜を塗工形成するように構成し、この先端接触部がフィルム状の前記被塗工体と接触することでフィルム振動を抑えるように構成したことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置。
【請求項4】
前記フィルム状の被塗工体の前記先端吐出孔より搬送下流側を支持する支持ロールを設け、この支持ロールの位置設定によって前記先端接触部の接触圧を調整設定した構成としたことを特徴とする請求項3記載の薄膜塗工装置。
【請求項5】
間隙を介して対向して前記スリット状の先端吐出孔を形成する一対のスリット形成部の前記被塗工体の搬送上流側の一方の先端部より、前記被塗工体の搬送下流側となる他方の先端部を短く形成することで、前記一方のスリット形成部の先端部を前記先端接触部として設けたことを特徴とする請求項3,4のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置。
【請求項6】
前記ノズル部の前記先端吐出孔に対して前記被塗工体の搬送上流側に、前記予塗工液を吐出する予塗工用のスリット状の予塗工用先端吐出孔を前記先端吐出孔と並設して前記予塗工部を構成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置。
【請求項7】
前記被塗工体の両面に塗工を行う両面薄膜塗工装置であって、片面に塗工する第一塗工機構と、反対面に更に塗工する第二塗工機構と、この両面塗工を終えた被塗工体を乾燥する乾燥機構とを備え、前記第二塗工機構として前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の薄膜塗工装置を用いたことを特徴とする両面薄膜塗工装置。
【請求項8】
前記被塗工体として金属製フィルムを用い、この両面に塗工する前記塗工液としてリチウムイオン電池の正極活性物質若しくは負極活性物質を用いて両面にこの薄膜を塗工形成したリチウムイオン電池形成材を作製するように構成したことを特徴とする請求項7記載の両面薄膜塗工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−92907(P2011−92907A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251449(P2009−251449)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(592037077)クリーン・テクノロジー株式会社 (22)
【Fターム(参考)】