説明

薄膜形成方法および有機EL素子の製造方法

【課題】溶媒を用いるウエットプロセスにおいて、十分な緻密性を有する樹脂製の薄膜の形成方法と、この薄膜形成方法を用いた有機EL素子の製造方法とを提供する。
【解決手段】架橋ユニットを含有する機能性樹脂を溶媒に溶解して第1の濃度の第1機能性溶液を形成し、第1機能性溶液を基体上に配する工程と、第1機能性溶液を熱処理して第1機能性溶液中の溶媒を除去すると共に、架橋ユニットを架橋させて機能性樹脂を不溶化し、第1機能性薄膜5aを形成する工程と、機能性樹脂を溶媒に溶解して第1の濃度より低い第2の濃度の第2機能性溶液を形成し、第2機能性溶液を第1機能性薄膜5a上に配する工程と、第2機能性溶液を熱処理して溶媒を除去すると共に、架橋ユニットを架橋させて第2機能性溶液中の機能性樹脂を不溶化し、第2機能性溶液と第1機能性薄膜5aとからなる第2機能性薄膜5bを形成する工程と、を備えた薄膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造などに好適な薄膜形成方法と、この薄膜形成方法を用いた有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイなどの表示装置に用いられている有機エレクトロルミネセンス素子(以下、「有機EL素子」という。)は、一般に、発光性を有する発光層と正孔注入輸送性を有する正孔注入層とを含んだ有機層と、この有機層を挟持する陰極及び陽極とが基板上に設けられた構成になっている。このような有機EL素子において、有機層である発光層と正孔注入層とは積層された構造となっている。
【0003】
ところで、有機EL素子を製造する際の薄膜形成方法としては、大きく分けてウエットプロセスとドライプロセスとがある。特に、有機層である前記の発光層や正孔注入層を形成する手法としては、発光層や正孔注入層を構成する材料を溶媒に溶解(又は分散)して液状組成物を作製し、この液状組成物を基板上に塗布し、その後、熱処理によって溶媒を蒸発させるウエットプロセスがよく知られている。このようなウエットプロセスとして代表的なものは、スピンコート法やインクジェット法が挙げられる。このようなウエットプロセスによる薄膜形成法によれば、大面積の基板上にも容易に有機層を形成することが可能であるため、近年大型化しているディスプレイ用の有機EL装置などの製造において、特に期待されている。
【0004】
ところが、ウエットプロセスでは、蒸着法等のドライプロセスに比べ、溶媒を使用することから十分な緻密性を有する薄膜が得られないといった課題がある。すなわち、前記したように液状組成物を塗布した後、溶媒を蒸発させると、この溶媒が膜中から抜けた経路等が、樹脂分子間の隙間などに僅かながら気孔となって残ってしまうことなどにより、得られる膜に十分な緻密性が得られなくなってしまうのである。また、例えば形成した薄膜上に別の薄膜を形成した際、別の薄膜形成に用いた溶媒によって下地の薄膜が再溶解を起こし、これによって緻密性がさらに低下してしまうといったおそれもある。
【0005】
このような背景のもとに従来では、膜の緻密性を改善させる目的で、有機化合物と無機化合物とを同時に基板上へ蒸着させる方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−102360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記の蒸着による方法はドライプロセスであって、溶媒を用いるウエットプロセスにそのまま適用することはできない。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶媒を用いるウエットプロセスにおいて、十分な緻密性を有する樹脂製の薄膜の形成方法と、この薄膜形成方法を用いた有機EL素子の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明の薄膜形成方法は、架橋ユニットを含有してなる機能性樹脂を溶媒に溶解して第1の濃度の第1機能性溶液を形成し、該第1機能性溶液を基体上に配する工程と、
前記第1機能性溶液を熱処理して該第1機能性溶液中の溶媒を除去するとともに、前記架橋ユニットを架橋させて前記機能性樹脂を不溶化し、第1機能性薄膜を形成する工程と、
前記機能性樹脂を溶媒に溶解して前記第1の濃度より低い第2の濃度の第2機能性溶液を形成し、該第2機能性溶液を前記第1機能性薄膜上に配する工程と、
前記第2機能性溶液を熱処理して該第2機能性溶液中の溶媒を除去するとともに、前記架橋ユニットを架橋させて該第2機能性溶液中の機能性樹脂を不溶化し、該第2機能性溶液と前記第1機能性薄膜とからなる第2機能性薄膜を形成する工程と、を備えたことを特徴としている。
【0008】
この薄膜形成方法によれば、架橋ユニットを架橋させて機能性樹脂を不溶化し、第1機能性薄膜を形成するので、この第1機能性薄膜上に第2機能性溶液を配しても、第1機能性薄膜を再溶解させることはない。また、この第1機能性薄膜には、第1機能性溶液を熱処理して該第1機能性溶液中の溶媒を除去したことにより、この溶媒が膜中から抜けた際の経路等による気孔が残っている。しかし、この第1機能性薄膜上に第2機能性溶液を配し、該第2機能性溶液と前記第1機能性薄膜とからなる第2機能性薄膜を形成するので、得られる第2機能性薄膜は十分な緻密性を有するものとなる。
すなわち、第2機能性溶液の濃度を第1機能性溶液より低い濃度にしているので、第2機能性溶液中の溶質である機能性樹脂の濃度が低く、したがってこの機能性樹脂が第1機能性薄膜中に残っている気孔内に容易に入り込むようになる。よって、第1機能性薄膜中の気孔に機能性樹脂が充填され、その状態で第2機能性薄膜が形成されるので、得られた第2機能性薄膜は前記したように十分な緻密性を有するものとなるのである。
また、第2機能性溶液中の機能性樹脂も、架橋ユニットが架橋されて不溶化されるので、得られた第2機能性薄膜は、その上に別の薄膜が形成されても、その際に用いられる溶媒によって再溶解を起こすことがない。
なお、このように第2機能性薄膜を形成した後、同様の工程を繰り返して第3機能性薄膜、さらに第4機能性薄膜と順次形成していくことにより、得られる薄膜の緻密性をさらに高めることができる。
【0009】
また、前記薄膜形成方法においては、前記第1機能性溶液を基体上に配する第1の塗布処理をスピンコート法で行うとともに、前記第2機能性溶液を前記第1機能性薄膜上に配する第2の塗布処理をスピンコート法で行うのが好ましい。
このようにすれば、第1機能性薄膜を比較的均一な厚さで十分に薄く形成することができ、さらにその上に第2機能性溶液を十分に薄くしかも均一に塗布することができるので、前記したように第1機能性薄膜中に残っている気孔内に第2機能性溶液の機能性樹脂がより入り込み易くなり、したがって第2機能性薄膜がより高い緻密性を有するようになる。
【0010】
なお、この薄膜形成方法においては、スピンコート法による前記第2の塗布処理でのスピンコータの回転数を、前記第1の塗布処理でのスピンコータの回転数より高くするのが好ましい。
このようにすれば、第1機能性溶液を塗布した際の熱処理前の膜の厚さより、第2機能性溶液を塗布した際の熱処理前の膜の厚さを薄く形成することができ、したがって、該第1機能性薄膜の表面上に形成される第2機能性溶液からなる膜分を、十分に少なくすることができる。よって、第1機能性薄膜の表面上に形成されてしまう、第2機能性溶液のみからなる該第2機能性薄膜の緻密性が不十分な膜の厚さを、十分に薄くすることができる。
【0011】
また、前記薄膜形成方法において、前記第2の塗布処理では、前記第2機能性溶液を前記第1機能性薄膜上に配した後、スピンコータを所定時間無回転に保持し、その後、前記第1の塗布処理でのスピンコータの回転数より高い回転数でスピンコータを回転させるのが好ましい。
このようにすれば、第2機能性溶液を前記第1機能性薄膜上に配した後、スピンコータを所定時間無回転に保持することにより、第1機能性薄膜中への第2機能性溶液の浸透を促すことができ、したがって得られる薄膜の緻密性を十分に高めることができる。
【0012】
本発明の有機EL素子の製造方法は、一対の電極間に少なくとも発光層を有する機能層を備えた有機EL素子の製造方法において、前記発光層の形成を、前記の薄膜形成方法を用いて行うことを特徴としている。
この有機EL素子の製造方法によれば、十分な緻密性を有する発光層を形成することができる。したがって、安定した導電性が確保されることにより、良好でかつ均一な発光特性を得ることができる。また、発光層を挟持する電極間でのショートも確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
図1は、本発明の方法を用いて得られた有機EL素子の一例を示す図であり、図1中符号1は有機EL素子である。この有機EL素子1は、基板2上に陽極3を形成し、この陽極3上に正孔注入層4、発光層5をこの順に積層し、さらに発光層5上に陰極6を形成してなるものである。
【0014】
このような構成の有機EL素子1を製造するには、まず基板2を用意する。基板2としては、発光層5で発光した光を該基板2の外側(観測者側)に出射するボトムエミッション型の場合には、透光性のガラス板等が用いられる。逆に、陰極6側から光を出射するトップエミッション型の場合には、透光性を有する必要はなく、樹脂やシリコン、金属など各種のものが使用可能となる。なお、本実施形態では有機EL素子1はボトムエミッション型のものとし、したがって基板2としては透光性のガラス板を用い、その上に駆動回路部(図示せず)を形成したものとする。
【0015】
次に、図2(a)に示すように前記基板2上に蒸着法等によってITOを成膜し、さらに所定形状にパターニングすることにより、陽極3を形成する。このようにしてパターニングされた陽極3は、有機EL素子1が多数形成されてなる有機EL装置(図示せず)において、画素電極として機能するようになる。
【0016】
次いで、この陽極3を形成した基板2を洗浄し、さらに、酸素プラズマ処理を行い、その表面に付着した有機物等の汚染物を除去して濡れ性を向上させ、基板2の表面を親液性に改質する。具体的には、基板2を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、続いて大気圧下で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(Oプラズマ処理)を行う。これにより、陽極3の仕事関数を上げることができる。
【0017】
次いで、基板2の陽極3を形成した側の全面に、図2(b)に示すように正孔注入層4を形成する。具体的には、正孔注入層4の形成材料として、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液を用い、これをスピンコート法によって所定の膜厚、例えば30nm〜70nmに成膜する。その後、溶媒を除去する目的で、大気中にて200℃で10分間加熱処理し、乾燥することにより、正孔注入層4を形成する。なお、この正孔注入層4までを形成した基板2が、本発明における基体となる。
【0018】
次いで、前記基体上、すなわち前記正孔注入層4上に、図2(c)に示すように発光層5を形成する。この発光層5の形成に際しては、特に本発明の薄膜形成方法を用いて行う。
具体的には、まず、発光層5の形成材料として、架橋ユニットを含有してなる機能性樹脂を用意する。例えば、本実施形態では、下記のポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)誘導体が用いられる。
【化1】

【0019】
この機能性樹脂は、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)の末端基をフェニルエポキシドで末端処理したものであり、このエポキシ基が架橋性を有する架橋ユニットとなる。なお、架橋ユニットを含有してなる機能性樹脂としては、前記のポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)誘導体以外にも種々のものが使用可能であり、また、架橋ユニットについても、フェニルエポキシド以外のエポキシ基、二重結合基、環状エーテル基等を用いることができる。さらに、架橋ユニットの導入位置についても、前記したポリマーの末端以外に、ポリマーの主鎖や側鎖などポリマーの骨格内に導入してもよい。
【0020】
次に、前記の機能性樹脂(ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)誘導体)をトルエンに溶解し、第1の濃度、ここでは1.5重量%の濃度の第1機能性溶液を形成する。そして、前記基板2をスピンコータ(図示せず)に載せ、適宜な回転数(例えば2000rpm)で基板2を回転させつつ、前記の第1機能性溶液を基板2上の正孔注入層4の上にスピンコート法で第1の塗布処理を行うことにより、所定の膜厚、例えば70〜150nmに成膜する。
【0021】
その後、窒素雰囲気下にて150℃で15分加熱処理し、溶媒(トルエン)を除去して乾燥するとともに、前記架橋ユニットを架橋させることで前記機能性樹脂(ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)誘導体)をさらに高分子化して不溶化する。これにより、模式化した図3(a)に示すように、第1機能性薄膜5aを形成する。このようにして乾燥を行うと、前述したように溶媒が膜中から抜けた経路等が、樹脂分子間の隙間などに僅かながら気孔となって残ってしまい、得られた第1機能性薄膜5aはその緻密性が不十分になってしまう。
【0022】
そこで、このようにして第1機能性薄膜5aを形成した後、この第1機能性薄膜5a上にさらに前記機能性樹脂を含有する機能性溶液を塗布する。ただし、この機能性溶液としては、前記の機能性樹脂(ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)誘導体)の濃度が前記第1機能性溶液より低い濃度(第2の濃度)のものを用いる。ここでは、第2の濃度として、0.3重量%となるように前記機能性樹脂を溶媒(トルエン)で溶解し、第2機能性溶液を作製する。
【0023】
そして、前記基板2をスピンコータ(図示せず)に載せ、その状態(スピンコータを回転させない状態)で前記の第2機能性溶液をこの基板2の前記第1機能性薄膜5a上に配し、前記第1機能性薄膜5a上に前記の第2機能性溶液を塗布し、スピンコータを所定時間(例えば5秒間)無回転に保持した後、スピンコータを回転させることにより、第2の塗布処理を行うことで所定の膜厚に成膜する。
【0024】
ここで、第2機能性溶液を前記第1機能性薄膜5a上に配した後、スピンコータを所定時間無回転に保持することにより、第1機能性薄膜5a中への第2機能性溶液の浸透を促すことができる。つまり、前記したように第1機能性薄膜5aに形成された気孔内に、第2機能性溶液を浸透させることができる。なお、第1機能性薄膜5aは、前記したように不溶化されているので、この第1機能性薄膜5a上に第2機能性溶液を塗布しても、この溶液中の溶媒によって再溶解させられることはない。
【0025】
また、この第2機能性溶液をスピンコートする際には、そのスピンコータの回転数を、前記第1機能性溶液のスピンコート時よりも高い回転数(例えば5000rpm)で行う。このようにすれば、この第2機能性溶液を塗布して得られた熱処理前の膜の厚さが、前記第1機能性溶液を塗布して得られた熱処理前の膜の厚さより薄くなる。したがって、該第1機能性薄膜5aの表面上に載って形成されてしまう第2機能性溶液からなる膜分を、例えば10nm以下と十分に少なく(薄く)することができる。
【0026】
その後、窒素雰囲気下にて150℃で15分加熱処理し、溶媒(トルエン)を除去して乾燥するとともに、前記第2機能性溶液中の機能性樹脂(ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)誘導体)の架橋ユニットを架橋させることにより、該機能性樹脂をさらに高分子化して不溶化する。これにより、模式化した図3(b)に示すように、第1機能性薄膜5aと第2機能性溶液とからなる第2機能性薄膜5bを形成する。このようにして得られた第2機能性薄膜5bは、前記したように第1機能性薄膜5a中の気孔内に第2機能性溶液が浸透し、その状態で加熱処理されて乾燥されかつ不溶化されたことにより、前記第1機能性薄膜5aに比べてその緻密性が格段に高まったものとなる。
【0027】
ただし、第2機能性溶液のみからなる膜が前記第1機能性薄膜5a上にわずかながら形成されてしまうことなどにより、第2機能性薄膜5bの緻密性が未だ十分とはならないおそれがある。そこで、本実施形態では、さらに前記の工程を繰り返し、得られる機能性薄膜からなる発光層5の十分な緻密性を確保するようにしている。
【0028】
すなわち、前記の機能性樹脂(ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)誘導体)の濃度が前記第2機能性溶液より低い濃度(第3の濃度)、ここでは0.1重量%の第3機能性溶液を作製する。そして、前記基板2をスピンコータ(図示せず)に載せ、その状態(スピンコータを回転させない状態)で前記の第3機能性溶液をこの基板2の前記第2機能性薄膜5b上に配し、前記第2機能性薄膜5b上に前記の第3機能性溶液を塗布し、スピンコータを所定時間(例えば5秒間)無回転に保持した後、スピンコータを回転させることにより、第3の塗布処理を行うことで所定の膜厚に成膜する。
【0029】
なお、この第3機能性溶液をスピンコートする際にも、そのスピンコータの回転数を、前記第2機能性溶液のスピンコート時よりも高い回転数(例えば7000rpm)で行う。このようにすれば、この第3機能性溶液を塗布して形成される、該第3機能性溶液のみからなる膜の厚さが、前記の第2機能性溶液を塗布した際に形成された、該第2機能性溶液のみからなる膜の厚さより薄くなる。すなわち、前記第2機能性薄膜5bの表面上に載って形成されてしまう第3機能性溶液からなる膜分を、10nm以下と十分に少なく(薄く)することができる。
【0030】
その後、窒素雰囲気下にて150℃で15分加熱処理し、溶媒(トルエン)を除去して乾燥するとともに、前記第3機能性溶液中の機能性樹脂の架橋ユニットを架橋させることにより、該機能性樹脂をさらに高分子化して不溶化する。これにより、第2機能性薄膜5bと第3機能性溶液とからなる第3機能性薄膜、すなわち本発明の発光層5を形成する。このようにして得られた発光層5(第3機能性薄膜)は、第2機能性薄膜5b中の気孔内に第3機能性溶液が浸透し、その状態で加熱処理されて乾燥されかつ不溶化されたことにより、前記第2機能性薄膜5bに比べてさらにその緻密性が高まったものとなる。
【0031】
次いで、前記発光層5上に真空蒸着法によって例えばカルシウムを厚さ5nm程度、アルミニウムを厚さ300nm程度に積層し、図2(d)に示すように陰極6を形成する。なお、この陰極6の形成に際しては、有機EL素子1を効率よく発光させるため、例えば電子注入層としてフッ化リチウムを発光層5側に形成してもよい。また、この陰極6の形成では、前記正孔注入層4や発光層5の形成とは異なり、蒸着法やスパッタ法等で行うことにより、基板2のほぼ全面に陰極6を形成する。
その後、前記陰極6上に接着層(図示せず)を形成し、さらにこの接着層によって封止基板(図示せず)を接着し、封止を行う。これにより、本実施形態の有機EL素子1を得る。
【0032】
このような有機EL素子1の製造方法にあっては、発光層5を形成するに際して、正孔注入層4上に第1機能性薄膜5aを形成した後、該第1機能性薄膜5a上に第2機能性溶液を配して該第2機能性溶液と前記第1機能性薄膜5aとからなる第2機能性薄膜5bを形成し、さらに、該第2機能性薄膜5b上に第3機能性溶液を配して該第3機能性溶液と前記第2機能性薄膜5bとからなる第3機能性薄膜を形成し、これを発光層5としているので、得られた第3機能性薄膜からなる発光層5が十分な緻密性を有するものとなる。
【0033】
すなわち、第2機能性溶液の濃度を第1機能性溶液より低い濃度にし、また第3機能性溶液の濃度を第2機能性溶液より低い濃度にしているので、後から塗布した機能性溶液中の溶質である機能性樹脂の濃度が低くなり、したがってこの機能性樹脂が機能性薄膜5a(5b)中に残っている気孔内に容易に入り込むようになる。よって、機能性薄膜5a(5b)中の気孔に機能性樹脂が充填され、その状態で発光層5(第3機能性薄膜)が形成されるので、得られた発光層5は前記したように十分な緻密性を有するものとなるのである。
【0034】
そして、このように十分な緻密性を有する発光層5を形成することができるので、この発光層5について安定した導電性を確保することができ、したがって得られる有機素子1は良好でかつ均一な発光特性を有するものとなる。また、発光層5を挟持する電極3、6間でのショートも確実に防止することができる。さらに、発光層5の緻密性を高めることでその導電性を高めることができるので、本実施形態の有機EL素子1への印加電圧を低くすることもできる。
【0035】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、前記実施形態では機能性溶液の塗布を3回行い、得られる発光層5の緻密性を高めたが、本発明はこれに限定されることなく、機能性溶液の塗布を2回行うだけでも十分に緻密性を高めることができる。また、必要に応じて4回以上行うことで、さらに緻密性を高めることもできる。
【0036】
また、前記実施形態では本発明の薄膜形成方法を、有機EL素子における発光層5の形成に適用したが、本発明はこれに限定されることなく、例えば絶縁膜となる薄膜など各種の機能性薄膜を有機材料で形成する場合に、その緻密性を高める目的で適用することができる。
また、機能性溶液を配する方法についても、スピンコート法に限らず、他に例えばインクジェット法を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る有機EL素子の概略構成を示す側断面図である。
【図2】(a)〜(d)は図1に示した有機EL素子の製造方法説明図である。
【図3】(a)、(b)は発光層の形成方法を模式化して説明する工程図である。
【符号の説明】
【0038】
1…有機EL素子、2…基板、3…陽極、4…正孔注入層、5…発光層、5a…第1機能性薄膜、5b…第2機能性薄膜、6…陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ユニットを含有してなる機能性樹脂を溶媒に溶解して第1の濃度の第1機能性溶液を形成し、該第1機能性溶液を基体上に配する工程と、
前記第1機能性溶液を熱処理して該第1機能性溶液中の溶媒を除去するとともに、前記架橋ユニットを架橋させて前記機能性樹脂を不溶化し、第1機能性薄膜を形成する工程と、
前記機能性樹脂を溶媒に溶解して前記第1の濃度より低い第2の濃度の第2機能性溶液を形成し、該第2機能性溶液を前記第1機能性薄膜上に配する工程と、
前記第2機能性溶液を熱処理して該第2機能性溶液中の溶媒を除去するとともに、前記架橋ユニットを架橋させて該第2機能性溶液中の機能性樹脂を不溶化し、該第2機能性溶液と前記第1機能性薄膜とからなる第2機能性薄膜を形成する工程と、を備えたことを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
前記第1機能性溶液を基体上に配する第1の塗布処理をスピンコート法で行うとともに、前記第2機能性溶液を前記第1機能性薄膜上に配する第2の塗布処理をスピンコート法で行うことを特徴とする請求項1記載の薄膜形成方法。
【請求項3】
スピンコート法による前記第2の塗布処理でのスピンコータの回転数を、前記第1の塗布処理でのスピンコータの回転数より高くすることを特徴とする請求項2記載の薄膜形成方法。
【請求項4】
前記第2の塗布処理では、前記第2機能性溶液を前記第1機能性薄膜上に配した後、スピンコータを所定時間無回転に保持し、その後、前記第1の塗布処理でのスピンコータの回転数より高い回転数でスピンコータを回転させることを特徴とする請求項2記載の薄膜形成方法。
【請求項5】
一対の電極間に少なくとも発光層を有する機能層を備えた有機EL素子の製造方法において、
前記発光層の形成を、請求項1〜4のいずれか一項に記載の薄膜形成方法を用いて行うことを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−91066(P2008−91066A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267808(P2006−267808)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】