薄膜形成方法
【課題】薄膜と半導体基板の熱膨張係数の違いに起因する半導体基板の反りを、生産性や信頼性を低下させることなく抑制する薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】ウェハ2(半導体基板)の裏面2b(表面)に、ウェハ2とNi膜を形成する方法が、真空引き可能なロードロックチャンバ20内にウェハ2を配置する工程と、ロードロックチャンバ20内に配置したウェハ2を予め冷却する冷却工程と、ロードロックチャンバ20内を真空引きする真空引き工程と、冷却工程と真空引き工程を実施した後にウェハ2の裏面2bにNi膜を形成する工程を備えている。
【解決手段】ウェハ2(半導体基板)の裏面2b(表面)に、ウェハ2とNi膜を形成する方法が、真空引き可能なロードロックチャンバ20内にウェハ2を配置する工程と、ロードロックチャンバ20内に配置したウェハ2を予め冷却する冷却工程と、ロードロックチャンバ20内を真空引きする真空引き工程と、冷却工程と真空引き工程を実施した後にウェハ2の裏面2bにNi膜を形成する工程を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の表面に半導体基板と相違する材料の薄膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の表面に半導体基板と相違する材料の薄膜を形成する方法が知られている。
図9から図12に、半導体基板102の裏面102bにNi膜103を形成する従来の方法を示す。Ni膜103は、半導体基板102を利用して形成されている半導体素子の裏面電極に用いることができる。
まず図9に示すように、室温(この場合25℃)の半導体基板102を準備する。そして、スパッタリング装置のチャンバ内に半導体基板102を配置し、チャンバを真空引きする。この際に、Ni膜103を形成する半導体基板102の裏面102bを上方に向けておく。
次に図10に示すように、半導体基板102の裏面102bにスパッタリングしてNi膜103を堆積する。この時、150℃程度に高温なNi膜103が裏面102bに堆積する。
図11は、所定厚みのNi膜103が裏面102bに堆積し終えた状態を示す。すなわち、成膜工程の完了時点を示す。成膜工程の完了時点またはその直後に、半導体基板102の温度とNi膜103の温度が平衡し、両者の温度が145℃程度となる。
その後は図12に示すように、裏面102bにNi膜103が成膜された半導体基板102が室温(25℃)に冷却されるまで放置する。
【0003】
Ni膜103の線膨張係数は、半導体基板102の線膨張係数よりも大きい。このため成膜工程の完了時点の半導体基板102(図11に示すように145℃程度の温度となっている)が室温の25℃に戻るときに、Ni膜103と半導体基板102の間に応力が発生する。これにより、半導体基板102に反りが発生することがある。
【0004】
特許文献1に、基板表面に薄膜を形成する工程(成膜工程)において、基板が高温化することを抑制するために、成膜工程を休止する期間を設ける方法が開示されている。例えば、成膜工程の途中で、基板を30分以上放置し、その後に、成膜工程を再開している。成膜完了時点での基板の温度上昇を抑制することにより、成膜完了時点での基板の温度と室温との差を縮小している。両者の温度差が大きいほど薄膜と基板の間に発生する膜応力が大きくなる。特許文献1の技術では、成膜工程を休止する休止期間を設け、成膜完了時点での基板の温度上昇を抑制し、成膜完了時点での基板温度と室温との差を縮小することによって、薄膜と基板の間に大きな膜応力が発達するのを抑制している。
【0005】
また成膜中の基板の温度上昇を抑制するためには、基板を冷却装置で冷却しながら成膜する方法も知られている。この方法では、冷却した(あるいは、冷却中の)チャックステージに基板を密着させて成膜工程を実施する。この方法によっても、成膜完了時点での基板温度と室温との差を縮小し、薄膜と基板の間に大きな膜応力が発達するのを抑制することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−248224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
成膜工程の途中で成膜休止期間を設けると、成膜に要する時間が増大して生産性がよくない。
またチャックステージの載置面には、チャンバの側壁から剥がれ落ちたダストが付着していることがある。基板の表面をチャックステージに密着させて冷却すると、基板表面に密着するチャックステージに付着しているダストが基板表面を損傷する可能性がある。
半導体基板の裏面に裏面電極を成膜する時点では、半導体基板の表面に表面側構造(例えば、パワーMOSFETやIGBT等として機能するための半導体構造)が既に形成されている。半導体基板の裏面に薄膜を成膜するために半導体基板の表面をチャックステージに密着させると、半導体基板に形成した半導体素子の信頼性が低下する。
本発明は、上記の課題を解決するために創案された。すなわち本発明は、生産性や信頼性を低下させることなく、薄膜と半導体基板の線膨張係数の違いに起因して半導体基板が反ってしまう現象を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、半導体基板の表面に半導体基板と相違する材料の薄膜を形成する方法に関する。本方法は、真空引き可能なチャンバ内に半導体基板を配置する工程と、チャンバ内に配置した半導体基板を予め冷却する冷却工程と、チャンバ内を真空引きする真空引き工程と、冷却工程と真空引き工程を実施した後に半導体基板の表面に薄膜を形成する成膜工程を備えている。
【0009】
上記した薄膜形成方法では、半導体基板の表面に薄膜を形成する成膜工程の前に、半導体基板を予め冷却しておく冷却工程を実施している。予め冷却しておいた半導体基板に成膜工程を実施した直後の半導体基板の温度は、常温の半導体基板に成膜工程を実施した直後の半導体基板の温度よりも低い。本方法によると、薄膜を形成した直後の半導体基板の温度と室温との温度差を小さくすることができる。予め冷却しておいた半導体基板に成膜すると、薄膜が完成した半導体基板が室温に冷却されるまでの温度差が縮小し、薄膜と半導体基板の間に発生する膜応力が抑えられる。これにより、半導体基板の表面に半導体基板と相違する材料の薄膜を形成する際に発生する半導体基板の反りの程度を抑制することができる。
上記した薄膜形成方法によると、成膜休止期間を設ける必要がなく、生産性が低下しない。また、上記した薄膜形成方法によると、冷却用のチャックステージ上に半導体基板の表面側を密着させる必要がないので、半導体基板の表面に傷やダスト付着が発生し難い。半導体基板に形成されている半導体素子の信頼性が低下しない。
チャンバが、半導体基板を予め冷却する工程を実施する室と、半導体基板の表面に薄膜を形成する工程を実施する室に分割されていてもよい。
【0010】
上記した冷却工程では、半導体基板に、冷却した不活性ガスを吹き付けることが好ましい。この方法によると、半導体基板の表面を、例えば、冷却用のチャックステージに密着させる必要がない。半導体基板の表面に傷やダスト付着が発生し難い。半導体基板に形成されている半導体素子の信頼性が低下しない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、生産性や信頼性を低下させないで、半導体基板に薄膜を形成することで発生する半導体基板の反りの程度を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。
(第1特徴) 冷却工程をロードロックチャンバ内で行う。
(第2特徴) 冷却工程を実施してロードロックチャンバ内を真空引きした後に、既に真空引きしてあるプロセスチャンバ内に半導体基板を移動する。
【実施例】
【0013】
図1は、金属膜形成装置1の概要を示している。本実施例では、金属膜形成装置1を用いて、半導体ウェハ2の裏面2bにNi膜3を形成する。Ni膜3はウェハ2に形成されている半導体素子の裏面電極となる。
金属膜形成装置1は、ロードロックチャンバ20と、真空ポンプ24と、不活性ガス冷却装置60と、プロセスチャンバ40と、真空ポンプ24と、成膜装置4と、ウェハ搬送機構(図示していない)を備えている。ロードロックチャンバ20とプロセスチャンバ40は、開閉可能なゲートバルブで区切られている。
ロードロックチャンバ20は、真空ポンプ24と接続されている。真空ポンプ24によってロードロックチャンバ20内を真空引きすることができる。ロードロックチャンバ20は、不活性ガス冷却装置60と接続されている。不活性ガス冷却装置60から不活性ガス吹き出し口23を介してロードロックチャンバ20内に、冷却されたArガスを導入することができる。ロードロックチャンバ20は、ステージ21とクランプリング22を備えている。ステージ21は、ウェハ2を載置することができる。クランプリング22は、ステージ21上に載置したウェハ2を固定することができる。ステージ21とクランプリング22によって、薄いウェハ2を破損することなく支持することができる。
【0014】
プロセスチャンバ40は、真空ポンプ44と接続されている。真空ポンプ44によってプロセスチャンバ40内を真空引きすることができる。プロセスチャンバ40は、ガス供給装置(図示していない)と接続されている。図示しない不活性ガス供給装置から不活性ガス吹き出し口43を介してプロセスチャンバ40内に、Arガスを導入することができる。プロセスチャンバ40は、ステージ41を備えている。ステージ41上にウェハ2を載置することができる。
【0015】
成膜装置4は、プロセスチャンバ40に取り付けられている。成膜装置4は、バッキングプレート45とターゲット46を備えている。Niを材料とするターゲット46は、バッキングプレート45に取り付けられている。バッキングプレート45は、ターゲット46が取り付けられている面と反対側の面が、図示していない冷却水等によって冷却されている。成膜装置4は、ターゲット46と、ステージ41上に載置するウェハ2との間に高電圧を印加することが可能な構成となっている。なお、ターゲット46とステージ41はプロセスチャンバ40内の空間を介して対向している。
【0016】
図示していないウェハ搬送機構は、ロードロックチャンバ20のステージ21上に載置したウェハ2を、双方のチャンバを大気に開放することなく、プロセスチャンバ40のステージ41上に移動させることができる。ウェハ搬送機構には、例えばロボットアームを用いる。
【0017】
金属膜形成装置1を用いてウェハ2の裏面2bにNi膜3を形成する方法を説明する。
図1に示すように、ロードロックチャンバ20内のステージ21にウェハ2の表面2aを載置する。ステージ21とクランプリング22によってウェハ2を固定する。次に、不活性ガス冷却装置60で冷却したArガスを、不活性ガス吹き出し口23からロードロックチャンバ20内に導入する。冷却したArガスをウェハ2に吹き付け、ウェハ2を予め冷却する。
これにより、図4に示すように冷却前は室温の25℃であったウェハ2が、図5に示すように−100℃程度となる。なお上記の工程を実施する際にはゲートバルブを閉じておく。
【0018】
次に、ロードロックチャンバ20を大気から遮断し、真空ポンプ24を動作させてロードロックチャンバ20内を真空引きする。
次に図2に示すように、ロードロックチャンバ20とプロセスチャンバ40を仕切っているゲートバルブを開放し、ウェハ搬送機構を用いてウェハ2をロードロックチャンバ20からプロセスチャンバ40に移動させる。なお、この時点で、プロセスチャンバ40内は、既に真空ポンプ44によって真空状態となっている。ウェハ2の表面2aをプロセスチャンバ40のステージ41上に載置する。ウェハ2の裏面2bが、ターゲット46に対向する。ウェハ2は、図5に示す−100℃に冷却された状態に維持されている。
【0019】
次に図3に示すように、不活性ガス吹き出し口43からプロセスチャンバ40内にArガスを導入し始める。プロセスチャンバ40にArガスが導入しながら真空引きする。
この状態でターゲット46とウェハ2の間に高電圧を印加する。その結果イオン化したArがターゲット46に衝突する。Arイオンが衝突したエネルギーにより、ターゲット46からターゲット46の材料であるNi原子がたたき出される。たたき出されたNi原子が、ターゲット46と対向しているウェハ2の裏面2bに堆積する。
図6に示すように、ターゲット46からたたき出されて裏面2bに堆積中(成膜中)のNi膜3は150℃程度に高温化している。Ni膜3の温度は、裏面2bに堆積した直後に予め冷却されているウェハ2によって冷却される。図7は、所定厚みのNi膜3が裏面2bに堆積し終えた状態を示す。すなわち、成膜工程の完了時点を示す。成膜工程の完了時点またはその直後に、半導体基板2の温度とNi膜3の温度が平衡し、両者の温度が100℃程度となる。
その後は図8に示すように、裏面2bにNi膜3が成膜された半導体基板2が室温(25℃)に冷却されるまで放置する。
本実施例の薄膜形成方法によると、成膜工程の完了時点での半導体基板2の温度とNi膜3の温度が100℃程度であり、室温の25℃との差が75℃程度となっている。
【0020】
本実施例の薄膜形成方法では、ウェハ2の裏面2bにNi膜3を形成する工程の前に、ウェハ2を予め冷却している。ウェハ2の裏面2bに形成するNi膜3は、成膜している最中には高温化しているが、ウェハ2によって速やかに冷却される。従来技術のように、ウェハ2を予め冷却しない場合には、裏面102bに所定の厚みのNi膜103が成膜された時点におけるウェハ102の温度が、図11に示すように145℃程度であり、室温の25℃との差が120℃程度となっていた。本実施例の薄膜形成方法によると、裏面2bに所定の厚みのNi膜3が成膜された時点におけるウェハ2の温度が100℃程度であり、室温の25℃との差が75℃程度となっている。本実施例によると、成膜完成時点におけるウェハ2の温度と室温との温度差を小さくすることができる。ウェハ2を室温にまで冷却する間にNi膜3とウェハ2の間に発生する膜応力が小さい。これにより、ウェハ2の裏面2bにNi膜3を形成する際に生じるウェハ2の反りを抑制することができる。
【0021】
なお図6に示すように、プロセスチャンバ40内で成膜している最中における高温(本実施例では、150℃)のNi膜3は、図7に示す成膜完成後のNi膜3と比較して塑性変形し易い。したがって、成膜中のNi膜3とウェハ2との間の温度差による膜応力への影響は、成膜後のNi膜3とウェハ2との間の温度差による膜応力への影響と比較して極めて小さい。
本実施例の薄膜形成方法によると、成膜中のウェハ2の温度上昇を抑制するために成膜を休止する期間を設ける必要がなく、生産性が低下しない。
また、本実施例の薄膜形成方法では、冷却用のチャックステージ上に半導体基板の表面側を密着させる必要がない。ウェハ2の表面側に傷やダスト付着が発生し難い。ウェハ2に形成されている半導体素子の信頼性が低下しない。
【0022】
本実施例では、ウェハ2の裏面2bにNi膜3を形成する場合について説明したが、形成する薄膜はNi膜3に限定されるものではない。本発明は、Ni以外の金属膜や金属以外の材質の薄膜を成膜する場合にも適用することができる。本発明は、ウェハ2と線膨張率が相違する薄膜を、ウェハ2の表面に成膜する場合に適用することができる。
本実施例では、ロードロックチャンバ20を備えている金属膜形成装置1について説明したが、金属膜形成装置1は少なくともプロセスチャンバ40を備えていればよい。成膜前にプロセスチャンバ40内でウェハ2を冷却してもよい。
本実施例では、冷却装置60で冷却したArガスをウェハ2に吹き付けることによって成膜前のウェハ2を冷却する場合について説明したが、ウェハ2を冷却するための手段は上記実施例に限定されるものではない。
本実施例では、ウェハ2の裏面2bに、スパッタリングによってNi膜3を形成する場合について説明したが、Ni膜3を形成するための成膜装置4は上記実施例に限定されるものではない。スパッタリング法を用いれば、ウェハ2とNi膜3との密着性が高い。
【0023】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】金属膜形成装置1の概要と、ウェハ2をロードロックチャンバ20に載置している状態を示す。
【図2】ウェハ2をロードロックチャンバ20からプロセスチャンバ40に移動した状態を示す。
【図3】ウェハ2の裏面2bに、Ni膜3をスパッタリングしている状態を示す。
【図4】ウェハ2の初期状態の温度を示す。
【図5】冷却工程を実施した後のウェハ2の温度を示す。
【図6】ウェハ2の裏面2bに、Ni膜3をスパッタリングしている状態のウェハ2とNi膜3の温度を示す。
【図7】裏面2bにNi膜3を成膜した後の、Ni膜3とウェハ2の温度を示す。
【図8】裏面2bにNi膜3を成膜したウェハ2が室温に戻った様子を示す。
【図9】ウェハ102の初期状態の温度を示す。
【図10】ウェハ102の裏面102bに、Ni膜103をスパッタリングしている状態の温度を示す。
【図11】裏面102bにNi膜103を成膜した後の、Ni膜103とウェハ102の温度を示す。
【図12】裏面102bにNi膜103を成膜した半導体基板102が室温に戻った様子を示す。
【符号の説明】
【0025】
1:金属膜形成装置
2:ウェハ
2a:表面
2b:裏面
3:Ni膜
4:成膜装置
20:ロードロックチャンバ
21,41:ステージ
22:クランプリング
23,43:不活性ガス吹き出し口
24,44:真空ポンプ
40:プロセスチャンバ
44:真空ポンプ
45:バッキングプレート
46:ターゲット
60:不活性ガス冷却装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の表面に半導体基板と相違する材料の薄膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の表面に半導体基板と相違する材料の薄膜を形成する方法が知られている。
図9から図12に、半導体基板102の裏面102bにNi膜103を形成する従来の方法を示す。Ni膜103は、半導体基板102を利用して形成されている半導体素子の裏面電極に用いることができる。
まず図9に示すように、室温(この場合25℃)の半導体基板102を準備する。そして、スパッタリング装置のチャンバ内に半導体基板102を配置し、チャンバを真空引きする。この際に、Ni膜103を形成する半導体基板102の裏面102bを上方に向けておく。
次に図10に示すように、半導体基板102の裏面102bにスパッタリングしてNi膜103を堆積する。この時、150℃程度に高温なNi膜103が裏面102bに堆積する。
図11は、所定厚みのNi膜103が裏面102bに堆積し終えた状態を示す。すなわち、成膜工程の完了時点を示す。成膜工程の完了時点またはその直後に、半導体基板102の温度とNi膜103の温度が平衡し、両者の温度が145℃程度となる。
その後は図12に示すように、裏面102bにNi膜103が成膜された半導体基板102が室温(25℃)に冷却されるまで放置する。
【0003】
Ni膜103の線膨張係数は、半導体基板102の線膨張係数よりも大きい。このため成膜工程の完了時点の半導体基板102(図11に示すように145℃程度の温度となっている)が室温の25℃に戻るときに、Ni膜103と半導体基板102の間に応力が発生する。これにより、半導体基板102に反りが発生することがある。
【0004】
特許文献1に、基板表面に薄膜を形成する工程(成膜工程)において、基板が高温化することを抑制するために、成膜工程を休止する期間を設ける方法が開示されている。例えば、成膜工程の途中で、基板を30分以上放置し、その後に、成膜工程を再開している。成膜完了時点での基板の温度上昇を抑制することにより、成膜完了時点での基板の温度と室温との差を縮小している。両者の温度差が大きいほど薄膜と基板の間に発生する膜応力が大きくなる。特許文献1の技術では、成膜工程を休止する休止期間を設け、成膜完了時点での基板の温度上昇を抑制し、成膜完了時点での基板温度と室温との差を縮小することによって、薄膜と基板の間に大きな膜応力が発達するのを抑制している。
【0005】
また成膜中の基板の温度上昇を抑制するためには、基板を冷却装置で冷却しながら成膜する方法も知られている。この方法では、冷却した(あるいは、冷却中の)チャックステージに基板を密着させて成膜工程を実施する。この方法によっても、成膜完了時点での基板温度と室温との差を縮小し、薄膜と基板の間に大きな膜応力が発達するのを抑制することができる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−248224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
成膜工程の途中で成膜休止期間を設けると、成膜に要する時間が増大して生産性がよくない。
またチャックステージの載置面には、チャンバの側壁から剥がれ落ちたダストが付着していることがある。基板の表面をチャックステージに密着させて冷却すると、基板表面に密着するチャックステージに付着しているダストが基板表面を損傷する可能性がある。
半導体基板の裏面に裏面電極を成膜する時点では、半導体基板の表面に表面側構造(例えば、パワーMOSFETやIGBT等として機能するための半導体構造)が既に形成されている。半導体基板の裏面に薄膜を成膜するために半導体基板の表面をチャックステージに密着させると、半導体基板に形成した半導体素子の信頼性が低下する。
本発明は、上記の課題を解決するために創案された。すなわち本発明は、生産性や信頼性を低下させることなく、薄膜と半導体基板の線膨張係数の違いに起因して半導体基板が反ってしまう現象を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、半導体基板の表面に半導体基板と相違する材料の薄膜を形成する方法に関する。本方法は、真空引き可能なチャンバ内に半導体基板を配置する工程と、チャンバ内に配置した半導体基板を予め冷却する冷却工程と、チャンバ内を真空引きする真空引き工程と、冷却工程と真空引き工程を実施した後に半導体基板の表面に薄膜を形成する成膜工程を備えている。
【0009】
上記した薄膜形成方法では、半導体基板の表面に薄膜を形成する成膜工程の前に、半導体基板を予め冷却しておく冷却工程を実施している。予め冷却しておいた半導体基板に成膜工程を実施した直後の半導体基板の温度は、常温の半導体基板に成膜工程を実施した直後の半導体基板の温度よりも低い。本方法によると、薄膜を形成した直後の半導体基板の温度と室温との温度差を小さくすることができる。予め冷却しておいた半導体基板に成膜すると、薄膜が完成した半導体基板が室温に冷却されるまでの温度差が縮小し、薄膜と半導体基板の間に発生する膜応力が抑えられる。これにより、半導体基板の表面に半導体基板と相違する材料の薄膜を形成する際に発生する半導体基板の反りの程度を抑制することができる。
上記した薄膜形成方法によると、成膜休止期間を設ける必要がなく、生産性が低下しない。また、上記した薄膜形成方法によると、冷却用のチャックステージ上に半導体基板の表面側を密着させる必要がないので、半導体基板の表面に傷やダスト付着が発生し難い。半導体基板に形成されている半導体素子の信頼性が低下しない。
チャンバが、半導体基板を予め冷却する工程を実施する室と、半導体基板の表面に薄膜を形成する工程を実施する室に分割されていてもよい。
【0010】
上記した冷却工程では、半導体基板に、冷却した不活性ガスを吹き付けることが好ましい。この方法によると、半導体基板の表面を、例えば、冷却用のチャックステージに密着させる必要がない。半導体基板の表面に傷やダスト付着が発生し難い。半導体基板に形成されている半導体素子の信頼性が低下しない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、生産性や信頼性を低下させないで、半導体基板に薄膜を形成することで発生する半導体基板の反りの程度を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。
(第1特徴) 冷却工程をロードロックチャンバ内で行う。
(第2特徴) 冷却工程を実施してロードロックチャンバ内を真空引きした後に、既に真空引きしてあるプロセスチャンバ内に半導体基板を移動する。
【実施例】
【0013】
図1は、金属膜形成装置1の概要を示している。本実施例では、金属膜形成装置1を用いて、半導体ウェハ2の裏面2bにNi膜3を形成する。Ni膜3はウェハ2に形成されている半導体素子の裏面電極となる。
金属膜形成装置1は、ロードロックチャンバ20と、真空ポンプ24と、不活性ガス冷却装置60と、プロセスチャンバ40と、真空ポンプ24と、成膜装置4と、ウェハ搬送機構(図示していない)を備えている。ロードロックチャンバ20とプロセスチャンバ40は、開閉可能なゲートバルブで区切られている。
ロードロックチャンバ20は、真空ポンプ24と接続されている。真空ポンプ24によってロードロックチャンバ20内を真空引きすることができる。ロードロックチャンバ20は、不活性ガス冷却装置60と接続されている。不活性ガス冷却装置60から不活性ガス吹き出し口23を介してロードロックチャンバ20内に、冷却されたArガスを導入することができる。ロードロックチャンバ20は、ステージ21とクランプリング22を備えている。ステージ21は、ウェハ2を載置することができる。クランプリング22は、ステージ21上に載置したウェハ2を固定することができる。ステージ21とクランプリング22によって、薄いウェハ2を破損することなく支持することができる。
【0014】
プロセスチャンバ40は、真空ポンプ44と接続されている。真空ポンプ44によってプロセスチャンバ40内を真空引きすることができる。プロセスチャンバ40は、ガス供給装置(図示していない)と接続されている。図示しない不活性ガス供給装置から不活性ガス吹き出し口43を介してプロセスチャンバ40内に、Arガスを導入することができる。プロセスチャンバ40は、ステージ41を備えている。ステージ41上にウェハ2を載置することができる。
【0015】
成膜装置4は、プロセスチャンバ40に取り付けられている。成膜装置4は、バッキングプレート45とターゲット46を備えている。Niを材料とするターゲット46は、バッキングプレート45に取り付けられている。バッキングプレート45は、ターゲット46が取り付けられている面と反対側の面が、図示していない冷却水等によって冷却されている。成膜装置4は、ターゲット46と、ステージ41上に載置するウェハ2との間に高電圧を印加することが可能な構成となっている。なお、ターゲット46とステージ41はプロセスチャンバ40内の空間を介して対向している。
【0016】
図示していないウェハ搬送機構は、ロードロックチャンバ20のステージ21上に載置したウェハ2を、双方のチャンバを大気に開放することなく、プロセスチャンバ40のステージ41上に移動させることができる。ウェハ搬送機構には、例えばロボットアームを用いる。
【0017】
金属膜形成装置1を用いてウェハ2の裏面2bにNi膜3を形成する方法を説明する。
図1に示すように、ロードロックチャンバ20内のステージ21にウェハ2の表面2aを載置する。ステージ21とクランプリング22によってウェハ2を固定する。次に、不活性ガス冷却装置60で冷却したArガスを、不活性ガス吹き出し口23からロードロックチャンバ20内に導入する。冷却したArガスをウェハ2に吹き付け、ウェハ2を予め冷却する。
これにより、図4に示すように冷却前は室温の25℃であったウェハ2が、図5に示すように−100℃程度となる。なお上記の工程を実施する際にはゲートバルブを閉じておく。
【0018】
次に、ロードロックチャンバ20を大気から遮断し、真空ポンプ24を動作させてロードロックチャンバ20内を真空引きする。
次に図2に示すように、ロードロックチャンバ20とプロセスチャンバ40を仕切っているゲートバルブを開放し、ウェハ搬送機構を用いてウェハ2をロードロックチャンバ20からプロセスチャンバ40に移動させる。なお、この時点で、プロセスチャンバ40内は、既に真空ポンプ44によって真空状態となっている。ウェハ2の表面2aをプロセスチャンバ40のステージ41上に載置する。ウェハ2の裏面2bが、ターゲット46に対向する。ウェハ2は、図5に示す−100℃に冷却された状態に維持されている。
【0019】
次に図3に示すように、不活性ガス吹き出し口43からプロセスチャンバ40内にArガスを導入し始める。プロセスチャンバ40にArガスが導入しながら真空引きする。
この状態でターゲット46とウェハ2の間に高電圧を印加する。その結果イオン化したArがターゲット46に衝突する。Arイオンが衝突したエネルギーにより、ターゲット46からターゲット46の材料であるNi原子がたたき出される。たたき出されたNi原子が、ターゲット46と対向しているウェハ2の裏面2bに堆積する。
図6に示すように、ターゲット46からたたき出されて裏面2bに堆積中(成膜中)のNi膜3は150℃程度に高温化している。Ni膜3の温度は、裏面2bに堆積した直後に予め冷却されているウェハ2によって冷却される。図7は、所定厚みのNi膜3が裏面2bに堆積し終えた状態を示す。すなわち、成膜工程の完了時点を示す。成膜工程の完了時点またはその直後に、半導体基板2の温度とNi膜3の温度が平衡し、両者の温度が100℃程度となる。
その後は図8に示すように、裏面2bにNi膜3が成膜された半導体基板2が室温(25℃)に冷却されるまで放置する。
本実施例の薄膜形成方法によると、成膜工程の完了時点での半導体基板2の温度とNi膜3の温度が100℃程度であり、室温の25℃との差が75℃程度となっている。
【0020】
本実施例の薄膜形成方法では、ウェハ2の裏面2bにNi膜3を形成する工程の前に、ウェハ2を予め冷却している。ウェハ2の裏面2bに形成するNi膜3は、成膜している最中には高温化しているが、ウェハ2によって速やかに冷却される。従来技術のように、ウェハ2を予め冷却しない場合には、裏面102bに所定の厚みのNi膜103が成膜された時点におけるウェハ102の温度が、図11に示すように145℃程度であり、室温の25℃との差が120℃程度となっていた。本実施例の薄膜形成方法によると、裏面2bに所定の厚みのNi膜3が成膜された時点におけるウェハ2の温度が100℃程度であり、室温の25℃との差が75℃程度となっている。本実施例によると、成膜完成時点におけるウェハ2の温度と室温との温度差を小さくすることができる。ウェハ2を室温にまで冷却する間にNi膜3とウェハ2の間に発生する膜応力が小さい。これにより、ウェハ2の裏面2bにNi膜3を形成する際に生じるウェハ2の反りを抑制することができる。
【0021】
なお図6に示すように、プロセスチャンバ40内で成膜している最中における高温(本実施例では、150℃)のNi膜3は、図7に示す成膜完成後のNi膜3と比較して塑性変形し易い。したがって、成膜中のNi膜3とウェハ2との間の温度差による膜応力への影響は、成膜後のNi膜3とウェハ2との間の温度差による膜応力への影響と比較して極めて小さい。
本実施例の薄膜形成方法によると、成膜中のウェハ2の温度上昇を抑制するために成膜を休止する期間を設ける必要がなく、生産性が低下しない。
また、本実施例の薄膜形成方法では、冷却用のチャックステージ上に半導体基板の表面側を密着させる必要がない。ウェハ2の表面側に傷やダスト付着が発生し難い。ウェハ2に形成されている半導体素子の信頼性が低下しない。
【0022】
本実施例では、ウェハ2の裏面2bにNi膜3を形成する場合について説明したが、形成する薄膜はNi膜3に限定されるものではない。本発明は、Ni以外の金属膜や金属以外の材質の薄膜を成膜する場合にも適用することができる。本発明は、ウェハ2と線膨張率が相違する薄膜を、ウェハ2の表面に成膜する場合に適用することができる。
本実施例では、ロードロックチャンバ20を備えている金属膜形成装置1について説明したが、金属膜形成装置1は少なくともプロセスチャンバ40を備えていればよい。成膜前にプロセスチャンバ40内でウェハ2を冷却してもよい。
本実施例では、冷却装置60で冷却したArガスをウェハ2に吹き付けることによって成膜前のウェハ2を冷却する場合について説明したが、ウェハ2を冷却するための手段は上記実施例に限定されるものではない。
本実施例では、ウェハ2の裏面2bに、スパッタリングによってNi膜3を形成する場合について説明したが、Ni膜3を形成するための成膜装置4は上記実施例に限定されるものではない。スパッタリング法を用いれば、ウェハ2とNi膜3との密着性が高い。
【0023】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】金属膜形成装置1の概要と、ウェハ2をロードロックチャンバ20に載置している状態を示す。
【図2】ウェハ2をロードロックチャンバ20からプロセスチャンバ40に移動した状態を示す。
【図3】ウェハ2の裏面2bに、Ni膜3をスパッタリングしている状態を示す。
【図4】ウェハ2の初期状態の温度を示す。
【図5】冷却工程を実施した後のウェハ2の温度を示す。
【図6】ウェハ2の裏面2bに、Ni膜3をスパッタリングしている状態のウェハ2とNi膜3の温度を示す。
【図7】裏面2bにNi膜3を成膜した後の、Ni膜3とウェハ2の温度を示す。
【図8】裏面2bにNi膜3を成膜したウェハ2が室温に戻った様子を示す。
【図9】ウェハ102の初期状態の温度を示す。
【図10】ウェハ102の裏面102bに、Ni膜103をスパッタリングしている状態の温度を示す。
【図11】裏面102bにNi膜103を成膜した後の、Ni膜103とウェハ102の温度を示す。
【図12】裏面102bにNi膜103を成膜した半導体基板102が室温に戻った様子を示す。
【符号の説明】
【0025】
1:金属膜形成装置
2:ウェハ
2a:表面
2b:裏面
3:Ni膜
4:成膜装置
20:ロードロックチャンバ
21,41:ステージ
22:クランプリング
23,43:不活性ガス吹き出し口
24,44:真空ポンプ
40:プロセスチャンバ
44:真空ポンプ
45:バッキングプレート
46:ターゲット
60:不活性ガス冷却装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の表面に半導体基板と相違する材料の薄膜を形成する方法であり、
真空引き可能なチャンバ内に半導体基板を配置する工程と、
チャンバ内に配置した半導体基板を予め冷却する冷却工程と、
チャンバ内を真空引きする真空引き工程と、
冷却工程と真空引き工程を実施した後に半導体基板の表面に前記薄膜を形成する成膜工程と、
を備えていることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
前記冷却工程では、半導体基板に、冷却した不活性ガスを吹き付けることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成方法。
【請求項1】
半導体基板の表面に半導体基板と相違する材料の薄膜を形成する方法であり、
真空引き可能なチャンバ内に半導体基板を配置する工程と、
チャンバ内に配置した半導体基板を予め冷却する冷却工程と、
チャンバ内を真空引きする真空引き工程と、
冷却工程と真空引き工程を実施した後に半導体基板の表面に前記薄膜を形成する成膜工程と、
を備えていることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
前記冷却工程では、半導体基板に、冷却した不活性ガスを吹き付けることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−1550(P2010−1550A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163354(P2008−163354)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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