説明

薬剤溶出式の植設可能な医療デバイスによる前駆内皮細胞の捕捉方法

【課題】アテローム性動脈硬化症、血栓症または再狭窄などの血管疾患の発生率を長期間に亙り相当に低減する植設用の医療デバイスを提供する。
【解決手段】身体内の血管または管腔的構造内に植設される医療デバイスが提供される。ステントおよび合成グラフトなどの該医療デバイスは、徐放基質と、周囲組織に対する薬剤の直接的投与のための一種類以上の医薬物質とから成る医薬組成物により被覆される。上記医療デバイスの上記被覆は、上記デバイスの血液接触表面に前駆内皮細胞を捕捉して負傷の部位における内皮を復元するための抗体または小寸分子などの配位子を更に備える。特に上記薬剤被覆ステントは、バルーン式血管形成処置において使用されて再狭窄を防止もしくは抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年3月10日に出願された米国仮出願第60/551,978号の特典を主張する。
本発明は、身体内の血管または管腔的構造内への植設のための医療デバイスに関する。より詳細には本発明は、周囲組織に対する直接的供与のための薬剤物質から成る徐放基質と、該基質に付着された配位子であって前駆内皮細胞を当該デバイスの血液接触表面に捕捉して負傷の部位に成熟内皮を形成するという配位子とにより被覆されたステントおよび合成グラフトに関する。特に上記ポリマ基質/薬剤/配位子により被覆されたステントは、たとえば、再狭窄、アテローム性動脈硬化症などの疾患の治療、および、内腔内再構築治療において使用される。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化症は、世界中における死亡および障害の主要原因のひとつである。アテローム性動脈硬化症は動脈の管腔側表面上における脂肪プラークの堆積を伴う。動脈の管腔側表面上に脂肪プラークが堆積すると、動脈の断面積が狭幅化される。最終的にこの堆積物は病巣の遠位側における血液流を遮断し、動脈により供給が行われる組織に対する虚血性損傷を引き起こす。
【0003】
冠状動脈は、心臓に対して血液を供給する。冠状動脈アテローム性動脈硬化症疾患(CAD)は、米国において1,100万人以上に影響する最も一般的で深刻かつ慢性的な、命に関わる病気である。冠状動脈のアテローム性動脈硬化症による社会的および経済的な損失は、他の殆どの疾患による損失を大きく上回る。冠状動脈内腔が狭幅化すると心筋が破壊され、先ず狭心症となり、次に心筋硬塞となり、最後に死亡する結果となる。米国では毎年、心筋硬塞は150万人を超えている。これらの患者の内の60万人(または40%)は急性心筋梗塞に苦しみ、これらの患者の30万人以上が病院に行く前に死亡している(非特許文献1)。
【0004】
CADは、経皮的かつ経管腔的な冠状動脈のバルーン式血管形成術(PTCA)を用いて治療され得る。米国では毎年、400,000件を超えるPTCA処置が実施されている。PTCAにおいては、バルーン・カテーテルが末梢動脈内に挿入されると共に、閉塞された冠状動脈内へと動脈系を通して挿通される。次にバルーンが膨張され、動脈が拡張され、かつ、障害物となる脂肪プラークが平坦化されることから、冒された動脈を通る血液の断面積流が増大される。しかし上記治療は通常は、冒された冠状動脈の持続的な開成には帰着しない。PTCAにより治療された患者の50%もが、冠状動脈の再狭幅化を矯正するために6ヶ月以内に反復処置を必要とする。PTCAによる治療の後における動脈のこの再狭幅化は医学的には、再狭窄と称される。
【0005】
急性的に、再狭窄は血管の反動および収縮を伴う。引き続き、血管の反動および収縮には、PTCAによる動脈の損傷に応じた中央平滑筋細胞の増殖が追随する。血管の損傷に応じて中膜における平滑筋細胞および外膜層の繊維芽細胞は表現型変化を蒙り、周囲基質内への金属プロテアーゼの分泌、管腔移動、増殖、および、蛋白質分泌に帰着する。損傷領域には、トロンボキサンA、血小板由来成長因子(PDGF)および繊維芽細胞成長因子(FGF)などの他の種々の炎症因子も放出される。再狭窄の問題を克服するために、種々の薬理学的作用物質による患者の治療、または、動脈をステントにより機械的に開成保持するなどの多数の異なる技術が使用されてきた(ハリソンによる内科の原理、第14版、1998年)。平滑筋細胞の増殖を目指した予防治療における初期の試みは、非効率的なことが分かった。効率的であるためには、再狭窄プロセスにおける早期事象が目標限定されると共に、引き続く手法は遺伝子的治療を用いた細胞調節経路の抑制に焦点を置くべきことが明らかとなっている。残念乍ら、これらの治療のいずれも、再狭窄の防止に対して有望であることは示されなかった。この分子的技術が不首尾であったことから、習用の薬物療法学的手法に再び関心が集まっている。
【0006】
再狭窄を克服すべく用いられる種々の処置の内、ステントが最も有効であると判明した。ステントは、罹患した血管セグメント内に位置されて正常な血管内腔を生成する金属製の足場である。冒された動脈セグメント内にステントを載置すると、動脈の反動および引き続く閉成が防止される。ステントはまた、動脈の中央層に沿う該動脈の局部的解離も防止し得る。PTCAのみを用いて生成されるよりも大寸の内腔を維持することにより、ステントは再狭窄を30%も多く減少する。それらの好結果にも関わらず、ステントは再狭窄を完全には排除していない。(1998年のスリャプラナタ等による“選択された急性心筋梗塞の患者におけるバルーン式血管形成術による冠状動脈ステント設置の無作為比較”。(非特許文献2)
【0007】
動脈の狭幅化は、冠状動脈以外に、大動脈回腸動脈、鼠径下部(infrainguinal)動脈、末梢大腿深動脈、末梢膝窩動脈、脛骨動脈、鎖骨下動脈および腸間膜動脈などの血管でも生じ得る。末梢動脈アテローム性動脈硬化症疾患(PAD)の有症率は、冒された特定の解剖学的部位、ならびに、閉塞の診断に対して使用される判断基準に依存する。習用的に医師は、PADが存在するか否かを決定するために、間欠跛行(かんけつはこう)の試験を用いてきた。しかしこの手段は、個体群における実際の発生率を大幅に過小評価し得る。PADの割合は年齢により変化し、高齢者においてPADの発生率は高いと思われる。国立病院の退院調査からのデータによれば、毎年、55,000人の男性および44,000人の女性が慢性PADであると初めて診断され、かつ、60,000人の男性および50,000人の女性が急性PADであると初めて診断されたと見積もられる。急性PADの場合の91%は、下肢が関与していた。PADである患者における合併CADの有症率は、50%を超え得る。これに加え、PADである患者においては脳血管障害の有症率が増大している。
【0008】
PADは、経皮的かつ経管腔的なバルーン式血管形成術(PTA)を用いて治療され得る。PTAに関してステントを用いると、再狭窄の発生率は低下する。しかし、ステントなどの医療デバイスにより得られた術後結果は、標準的な手術による血管再生処置、すなわち静脈または人工バイパス材料を使用する処置を用いて得られた結果に匹敵しない。(非特許文献3)
【0009】
好適にはPADは、閉塞された動脈の区画がグラフトを用いてバイパスされるというバイパス処置を用いて治療される。(ニューヨーク、マックグローヒル医療従事者部門、1999年、第7版、シュワルツ等編、手術の原理、第20章、動脈疾患。)グラフトは、伏在静脈などの自己由来の静脈セグメント、または、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、または、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)などで作成された合成グラフトから成り得る。術後の開存率は、バイパス・グラフトの管腔的寸法、グラフトに対して用いられた合成材料の種類、および、流出の部位などの多数の異なる要因に依存する。しかし再狭窄および血栓症は、バイパス・グラフトを使用してさえも、依然として相当な問題である。たとえば、ePTFEバイパス・グラフトを用いた3年後の鼠径下部バイパス処置の開存性は、大腿骨/膝窩バイパスでは54%であり、かつ、大腿骨/脛骨バイパスでは僅かに12%である。
【0010】
故に、CADおよびPADの罹病率および死亡率を更に減少すべく、ステントおよび合成バイパス・グラフトの両方の性能を改良するという相当な要望が在る。
【0011】
ステントに依ると上記手法は、血栓症および再狭窄を減少するために種々の血栓症防止作用物質または再狭窄防止作用物質で該ステントを被覆するものとされてきた。たとえば、ステントを放射性物質で含浸すると、筋線維芽細胞の移動および増殖を抑制することにより再狭窄が抑制されると思われる。(特許文献1、特許文献2、特許文献3。)しかし、治療される血管に照射を行うと、医師および患者に対する安全性の問題が生じ得る。これに加えて照射は、冒された血管の均一な治療を許容するものでない。
【0012】
代替的にステントは、両方ともに血栓症および再狭窄を低減すると思われるヘパリンまたはホスホリルコリンなどの化学物質でも被覆されてきた。ヘパリンおよびホスホリルコリンは動物モデルにおいて短期では再狭窄を顕著に低減すると思われるが、これらの作用物質による治療は再狭窄を防止する長期的効果は有さないと思われる。これに加え、ヘパリンは血小板減少症を伴うことから、脳卒中などの深刻な血栓塞栓症の合併症に繋がり得る。故に、この様な再狭窄の治療を実用的とするためにヘパリンまたはホスホリルコリンのいずれかを十分に治療的に有効な量でステントに装填することは実現可能ではない。
【0013】
術後の再狭窄および血栓症を低減するために、合成グラフトは種々の様式で処理されてきた。(ボス等の“小径の血管グラフト・プロテーゼ:現況”、物理生化学文書、1998値、第106巻、100−115頁[Bos et al. 1998. Small−Diameter Vascular Graft Prostheses: Current Status Archives Physio. Biochem. 106:100−115]。)たとえば、ePTFEグラフトと比較してメッシュ形状のポリカーボネート・ウレタンなどのポリウレタンの複合材料は再狭窄を低減すると報告されている。上記グラフトの表面は、ePTFEグラフトに対してポリテレフタレートを加えるために高周波グロー放電を用いて改変されてもいる。合成グラフトは、コラーゲンなどの生体分子に含浸されてもいる。
【0014】
内皮細胞(EC)層は、血流と、血管壁の周囲組織との間の界面を提供する正常な血管壁の重要な構成要素である。内皮細胞はまた、血管新生、炎症、および、血栓症の防止などの生理学的事象にも関与する(ロジャース・ジー・エム、雑誌FASEB、1988年、第2巻、116−123頁[Rodgers GM. FASEB J 1988;2:116−123])。血管系を構成する内皮細胞に加え、最近の研究では、出生後にECおよび前駆内皮細胞(PEC)が末梢血内で循環することが分かった(アサハラ等、サイエンス、1997年、第275巻、964〜7頁[(Asahara T, et al. Science 1997:275:964−7];イン・アー等、血液、1997年、第90巻、5002〜5012頁[Yin AH, et al. Blood 1997;90:5002−5012];シー・キュー等、血液、1998年、第362巻、362〜367頁[Shi Q, et al. Blood 1998:92:362−367];ゲーリング・ユーエム等、血液、2000年、第95巻、3106〜3112頁[Gehling UM, et al. Blood 2000:95:3106−3112];リン・ワイ等、雑誌“臨床研究”、2000年、第105巻、71〜77頁[Lin Y, et al. J Clin Invest 2000:105:71−77])。PECは、外傷および虚血性の損傷の部位を含め、損傷された内皮層を有する循環系の領域を移動すると確信される(テイー・タカニシ等、自然薬品、1999年、第5巻、434〜438頁[Takahashi T, et al. Nat Med 1999;5:434−438])。正常な成人において末梢血のEPCの濃度は3〜10細胞/mmである(テイー・タカニシ等、自然薬品、1999年、第5巻、434〜438頁;カルカ・シー等、胸部手術年報、2000年、第70巻、829〜834頁[Kalka C, et al. Ann Thorac Surg. 2000:70:829−834])。今や、損傷に対する血管応答の各段階は(制御されなければ)内皮により影響されることは明らかである。損傷されると共にステント設置された血管セグメント上に機能的内皮層を迅速に再確立すれば、循環するサイトカインに対する障壁を提供することにより血栓の悪影響を防止すると共に、内皮細胞の能力により下側に位置する平滑筋細胞層を不動態化する物質を生成することで、これらの可能的に深刻な合併症の防止が助力され得ると確信される。(ヴァン・ベル等、1997年、ステント内皮化、血液循環、第95巻、438〜448頁[Van Belle et al. 1997. Stent Endothelialization. Circulation 95:438−448];ボス等の“小径の血管グラフト・プロテーゼ:現況”、物理生化学文書、1998値、第106巻、100−115頁。)
【0015】
内皮細胞は、ステントの植設の後で血管内皮成長因子(VEGF)すなわち内皮細胞分裂促進因子の局部的な供与により、ステントの表面上に成長することが奨励されてきた(ヴァン・ベル等、1997年、ステント内皮化、血液循環、第95巻、438〜448頁)。塩水溶液内における組換え蛋白質成長因子すなわちVEGFを負傷の部位にて付与すると望ましい効果が誘起されるが、VEGFはステント植設の後でチャネル式バルーン・カテーテルを用いて負傷の部位へと供与される。この技術は望ましくない、と言うのも、単一回分の供与の効率は低く、一貫しない結果を生み出すことが例証されたからである。故に、この処置は毎回正確には再現され得ない。
【0016】
内皮細胞と共に合成グラフトも播種されたが、おそらくは、細胞がグラフトに対して適切には付着せず且つ/又は生体外操作による該細胞のEC機能の喪失により、内皮播種による臨床結果は概略的に不十分、すなわち、術後の開存率が低いものであった(リオ等、1998年、微小血管グラフト設置における新たな概念および材料;人工グラフト内皮細胞播種および遺伝子治療、顕微手術、第18巻、263〜256頁[Lio et al. 1998. New concepts and Materials in Microvascular Grafting: Prosthetic Graft Endothelial Cell Seeding and Gene Therapy. Microsurgery 18:263−256])。
【0017】
故に、血管負傷の部位における内皮細胞の付着、成長および分化を調整する上では、原位置での内皮細胞成長因子および周囲条件が本質的である。従って、再狭窄および他の血管疾患に関し、目標血管セグメントまたはグラフト設置された内腔上に融合性のEC単層が形成される様に、植設されたデバイスの表面上における機能的内皮の形成を促進および加速するというステントおよび合成グラフトなどの医療デバイスを被覆すると共に新内膜過形成を抑制するという新規な方法および組成物に対する要望が在る。
【0018】
特許文献4、特許文献5、特許文献6および特許文献7は、ラパマイシンを単独でまたはミコフェノール酸と組み合わせることで過増殖性血管疾患を治療する方法を開示している。ラパマイシンは患者に対し、経口的、非経口的、血管内的、鼻腔内的、気管支内的、経皮的、直腸的などの種々の方法により付与される。上記各特許は更に、ラパマイシンのみ、または、ヘパリンもしくはミコフェノール酸と組み合わされたラパマイシンが含浸された血管用ステントを介してラパマイシンが患者に提供され得ることを開示している。上記各特許の含浸済みステントに伴う問題のひとつは、組織との接触時に直ちに薬剤が放出され、再狭窄を防止するために必要な時間長に亙り持続しないことである。
【0019】
欧州特許出願第EP 0 950 386号は局部的なラパマイシン供与によるステントを開示しており、その場合にラパマイシンはステント本体における微細孔から直接的に組織に対して供与され、または、ラパマイシンはステント上に適用されたポリマ被覆に対して混合もしくは結合されている。EP 0 950 386は更に、上記ポリマ被覆は、ポリメチルシロキサン、ポリ(エチレン−酢酸ビニル)、アクリレート系ポリマまたは共重合体などの純粋に非吸収性のポリマから成ることを開示している。上記ポリマは純粋に非吸収性であることから、薬剤が組織に対して供与された後、上記ポリマは植設の部位に留まる。
【0020】
しかし、組織の近傍にて大量に残存する非吸収性ポリマは、それ自体が炎症反応を誘起し、その後に植設部位における再狭窄が反復する。
【0021】
付加的に、米国特許第5,997,517号は、アクリル、エポキシ、アセタール、エチレン共重合体、ビニル・ポリマ、および、反応基を含むポリマから成る厚寸の粘着性結合被覆により被覆された医療デバイスを開示している。上記特許に開示された各ポリマもまた非吸収性であり、かつ、EP 0 950 386に関して上記で論じられたのと同様に植設可能な医療デバイスにおいて使用されたときに副作用を引き起こし得る。
【特許文献1】米国特許第5,059,166号
【特許文献2】米国特許第5,199,939号
【特許文献3】米国特許第5,302,168号
【特許文献4】米国特許第5,288,711号
【特許文献5】米国特許第5,563,146号
【特許文献6】米国特許第5,516,781号
【特許文献7】米国特許第5,646,160号
【非特許文献1】ハリソンによる内科の原理[Harrison’s Principles of Internal Medicine]、第14版、1998年
【非特許文献2】1998年のスリャプラナタ等による“選択された急性心筋梗塞の患者におけるバルーン式血管形成による冠状動脈ステント設置の無作為比較”。血液循環、第97巻:2502〜2502頁[Suryapranata et al. 1998. Randomized comparison of coronary stenting with balloon angioplasty in selected patients with acute myocardial infarction. Circulation 97:2502−2502]
【非特許文献3】ニューヨーク、マックグローヒル医療従事者部門、1999年、第7版、シュワルツ等編、手術の原理、第20章、動脈疾患[Principles of Surgery, Schwartz et al. eds., Chapter 20, Arterial Disease, 7th Edition, McGraw−Hill Health Professions Division, New York 1999]。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上記の手法のいずれも、長期間に亙り血栓症または再狭窄の発生率を相当に低減するものでない。付加的に、先行技術の医療デバイスの被覆は、デバイスの植設時に裂開することが示されている。故に、血管疾患を治療する新規なデバイスおよび方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、血管の内腔または内腔を備えた器官内に植設される医療デバイスを提供する。該医療デバイスは、近傍組織に対する医薬物質の長期のまたは制御された供与のための徐放基質を備えた被覆を備える。上記医療デバイスは更に、血管損傷の故に当該デバイスが植設された部位において、その管腔側表面上に前駆内皮細胞を捕捉することで機能的内皮の形成を復元、増進または加速する一種類以上の配位子を備える。一実施例において上記医療デバイスはたとえば、患者の体内への導入に適合した構造を有するステントまたは合成グラフトから成る。
【0024】
一実施例において上記医療デバイスは、非毒性、生体適合性、生体侵食性および生分解可能な合成材料から成る基質と、植設の部位の近傍の組織に対して供与される少なくとも一種類の医薬物質もしくは薬剤組成物と、当該医療デバイスの血液接触表面上に前駆内皮細胞を捕捉して固定化するペプチド、小寸もしくは大寸分子および抗体などの一種類以上の配位子とから成る被覆を備える。
【0025】
一実施例において上記医薬物質もしくは医薬組成物は、植設の部位における平滑筋細胞の移動および増殖を抑制し得る一種類以上の薬剤もしくは物質であって、血栓形成を抑制可能であり、それにより内皮細胞成長および分化を促進可能であり、且つ/又は、上記医療デバイスの植設の後で再狭窄を防止し得るという一種類以上の薬剤もしくは物質を備える。付加的に、上記医療デバイスの管腔側表面(luminal surface)上に前駆内皮細胞を捕捉すると、負傷の部位における機能的内皮の形成が加速される。
【0026】
一実施例において上記植設可能医療デバイスはステントから成る。該ステントは、当業界で入手可能な未被覆ステントから選択され得る。一実施例に依れば上記ステントは、その全ての開示内容は言及したことにより本明細書中に援用される米国特許出願第09/094,402号に記述された管状部材から成る拡開可能な腔内用体内プロテーゼである。別実施例において上記ステントは、生分解可能物質から作成される。
【0027】
上記徐放基質は、生体適合性、生分解可能、生体吸収可能であると共に医薬品の徐放に有用であるという天然もしくは合成ポリマなどの種々の種類および供給源からの一種類以上のポリマおよび/またはオリゴマから成る。たとえば上記合成材料としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリエステルまたはその共重合体および/または組み合わせ、ポリ無水物、ポリカプロカクトン、ポリヒドロキシ酪酸吉草酸塩、および、他の生分解可能ポリマ、または、それらの混合物もしくは共重合体が挙げられる。別実施例において天然のポリマ物質は、コラーゲン、フィブリン、エラスチンなどの蛋白質、および、細胞外基質成分、または、他の生物学的作用物質、または、それらの混合物が挙げられる。上記ポリマ材料またはその混合物は上記医薬物質との組成物として一体的に、上記医療デバイスの表面上に適用され得ると共に、単一層から成り得る。上記被覆を形成すべく複数層の組成物が適用され得る。別実施例においては、上記医薬物質の各層間に、ポリマ材料またはその混合物の複数層が適用され得る。たとえば上記各層は順次的に適用され得ると共に、第1層は上記デバイスの未被覆表面に直接的に接触し、第2層は医薬物質から成ると共に、上記第1層に接触する一方の表面と、周囲組織に接触する第3層のポリマと接触する他方の表面とを有する。必要に応じて、上記ポリマ材料および薬剤組成物の付加的層が加えられることで、各成分またはそれらの成分の混合物を交互配置し得る。
【0028】
代替的に上記医薬物質は組成物の複数層として適用され得ると共に、各層はポリマ材料により囲繞された一種類以上の薬剤から成り得る。この実施例において医薬物質の複数層は、適用される単一薬剤の複数層、各層における一種類以上の薬剤、および/または、交互的層における異なる薬剤組成物から成る医薬組成物から成り得る。一実施例において医薬物質を備える各層は、ポリマ材料の層により相互から分離され得る。別実施例においては、植設後における医薬物質の即時放出のために上記デバイスに対して医薬組成物の層が配備され得る。
【0029】
別実施例において上記基質は、上記医療デバイスを被覆する基質ポリマとしてのポリ(ラクチド−co−グリコリド)から成る。本発明のこの実施例においてポリ(ラクチド−co−グリコリド)組成物は、ポリ−DL−co−グリコリドから成る少なくとも一種類のポリマもしくはそれらの共重合体もしくは混合物から成り、且つ、それは上記医薬物質と一体的に混合されて組織に供与される。上記被覆組成物は次に、噴射、浸漬および/または化学蒸発などの標準的技術を用いて上記デバイスの表面に適用される。代替的に、医薬物質の単一もしくは複数の層を分離する単一層として、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PGLA)溶液が塗付され得る。
【0030】
別実施例において上記被覆組成物は更に、たとえばエチレン酢酸ビニル(EVAC)およびメチルメタクリレート(MMA)などの非吸収性ポリマなどの、医薬的に容認可能なポリマおよび/または医薬的に容認可能な担体を備え得る。たとえば上記非吸収性ポリマは、上記組成物の分子量を増大して医薬物質の放出速度を遅延もしくは減速することで上記物質の徐放を更に助力し得る。
【0031】
上記基質に取入れられ得る化合物または医薬組成物としては、限定的なものとしてで無く、ラパマイシンなどの免疫抑制薬剤、平滑筋細胞の移動および/または増殖を抑制する薬剤、トロンビン抑制剤などの抗血栓症薬剤、血小板因子4およびCXCケモカインなどの免疫調整剤;CX3CR1受容体系の抑制因子;抗炎症薬剤、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)などのステロイド、テストステロン、17β−エストラジオール;シムバスタチンおよびフルバスタチンなどのスタチン;ロスグリタゾンなどのPPARアルファおよびPPARガンマ作用薬;NF−kβなどの核因子、コラーゲン合成抑制因子、血管拡張剤、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、血小板由来成長因子、内皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)などの、内皮細胞成長および分化を誘起する成長因子;ミドスタウリンおよびイマチニブまたは任意の抗血管新生抑制因子化合物などのタンパク質チロシンキナーゼ抑制因子;成熟白血球の付着を抑制するペプチドもしくは抗体、抗生物質/抗菌薬、ならびに、酪酸および酪酸誘導プエラリン、フィブロネクチンなどの他の物質が挙げられる。
【0032】
上記デバイス上の上記被覆は、抗体などの配位子を更に備える。該配位子は、前駆内皮細胞などの細胞の表面上の構造に結合する分子であって、たとえば、少なくとも一種類の抗体、抗体の断片、または、抗体および断片の組み合わせなどの分子から成り得る。本発明のこの側面において上記抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、または、ヒト化抗体とされ得る。上記抗体または抗体断片は、前駆内皮細胞(成熟した機能的内皮細胞になる能力を備えた内皮細胞、前駆細胞または幹細胞)の表面抗原を認識してそれに結合し、且つ、医療デバイスの表面に対する該細胞の付着力を調整する。本発明の抗体または抗体断片は、上記基質の表面に対して共有結合または非共有結合で付着され得るか、または、医療デバイスを被覆する基質の最外側層に対しリンカ分子により共有結合で束縛され得る。本発明のこの側面においては、たとえば、上記モノクローナル抗体はFabまたはF(ab’)断片を更に備え得る。本発明の抗体断片は、抗体として、目標抗原を認識して結合する特性を保持する大寸または小寸の分子などの任意の断片サイズを備え得る。
【0033】
上記抗体および/または抗体断片は、治療されつつある哺乳動物の循環細胞の細胞膜表面上の抗原もしくは分子を認識して高い親和力および特異性を以て結合すると共に、それらの特異性は細胞系統には依存しない。一実施例においては、たとえば上記抗体および/または断片は、CD133、CD34、CDw90、CD117、HLA−DR、VEGFR−1、VEGFR−2、Muc−18(CD146)、CD130、幹細胞抗原(Sca−1)、幹細胞因子1(SCF/c−Kit配位子)、Tie−2およびHAD−DRなどのヒト前駆内皮細胞表面抗原に対して特異的である。
【0034】
別実施例において上記医療デバイスの被覆は上述された如く少なくとも一層の生体適合性基質を備え、該基質は、治療的有効量の天然または合成由来の少なくとも一種類の小寸分子を付着させる外側面を備える。上記小寸分子は前駆内皮細胞表面などの細胞上の抗原を認識して相互作用し、該前駆内皮細胞を上記デバイスの表面上に固定化して内皮を形成する。上記小寸分子は、脂肪酸、ペプチド、蛋白質、核酸、糖類などの細胞成分などの種々の供給源から供与され得ると共に、抗体と同一の結果もしくは効果を以て、たとえば前駆内皮細胞の表面上の抗原などの構造と相互作用し得る。
【0035】
別実施例においては、再狭窄およびアテローム性動脈硬化症などの血管疾患を治療する方法であって、当該医薬物質を必要とする患者に対して医薬物質を局所的に投与する段階を備える方法が提供される。該方法は、患者の血管もしくは中空器官内へと被覆を備えた医療デバイスを植設する段階を備え、上記被覆は、平滑筋細胞移動を抑制することで再狭窄を抑制する薬剤もしくは物質から成る医薬組成物と、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)共重合体またはそれらの混合物などの生体適合性、生分解可能、生体侵食性、非毒性のポリマ基質とを備え、上記医薬組成物は薬剤の遅延放出のための低速もしくは徐放処方から成る。上記医療デバイス上の上記被覆はまた、機能的内皮が形成される様に、内皮細胞および/または前駆細胞などの細胞を上記デバイスの管腔側表面上に捕捉する抗体などの配位子も備え得る。
【0036】
他の実施例においては、被覆済み医療デバイスまたは被覆を備えた医療デバイスを作成する方法であって、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)共重合体などの生体適合性、生分解可能、非毒性のポリマ基質と、一種類以上の医薬物質とから成る医薬組成物を医療デバイスに適用する段階であって上記基質および物質は上記医療デバイスに対する適用に先立ち混合されるという段階と、その後、少なくとも一種類の配位子を備える溶液を、上記薬剤/基質組成物を備えた上記デバイスの頂部もしくは外側面上にて該デバイスの表面に対して適用する段階とを備える方法が提供される。該方法は代替的に、一種類以上の薬剤および医薬的に容認可能な担体を備えた一層以上の医薬組成物を適用する段階と、上記デバイスに一層以上のポリマ基質を適用する段階とを備え得る。上記方法において、上記医薬物質を備え又は備えないポリマ基質、および、配位子は、浸漬、噴射または蒸着などの標準的技術を用いて幾つかの方法により上記医療デバイスに対して個別的に適用され得る。代替実施例において上記ポリマ基質は、上記医薬物質と共にまたは医薬物質なしで上記デバイスに適用され得る。上記ポリマ基質が薬剤なしで適用されるという本発明のこの側面において、薬剤は基質の各層間の層として適用される。
【0037】
一実施例において上記方法は、たとえば抗体などの配位子が上記医療デバイスの管腔側表面に付着され得る様に、上記デバイスの最外側表面に配位子を適用し乍ら上記医薬組成物を複数層として適用する段階を備える。
【0038】
別実施例において上記被覆は、早期の新内膜過形成/平滑筋細胞移動を抑制する速効性医薬物質などの複数成分医薬基質と、血管開存性を維持する内皮窒素酸化物合成酵素(eNOS)、組織プラスミノゲン活性化因子、スタチン、ステロイドおよび/または抗体などの長期作用物質を放出する二次的生体安定基質とから成る。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、アテローム性動脈硬化症、血栓症または再狭窄などの血管疾患の発生率を長期間に亙り相当に低減する植設用の医療デバイスが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本明細書に示された実施例においては植設可能構造の形態の医療デバイスであって、その全ての開示内容は言及したことにより本明細書中に援用されるという米国特許出願第10/442,669号に記述された如き生分解可能、生体適合可能、非毒性、生体侵食可能、生体吸収可能なポリマ基質内に分散された医薬物質を備える均一な基質と、当該デバイスの管腔側表面上に内皮細胞および前駆内皮細胞などの循環細胞を捕捉して固定化すべく上記基質に付着された抗体または他の任意で適切な分子などの配位子とにより被覆されたデバイスが提供される。該医療デバイスは、それらの開示内容は言及したことにより本出願中に援用されるという係属中の米国特許出願第09/808,867号および第10/360,567号に記述された如く当該デバイスの植設の部位にて機能的内皮を迅速に形成する機構を提供する。
【0041】
上記医療デバイスの構造は、少なくともひとつの表面を有すると共に少なくとも一種類以上の基礎材料を備え、且つ、それは器官または血管の内腔内へ植設されるものである。上記基礎材料は、たとえば、ステンレス鋼、ニチノール、MP35N、金、タンタル、白金もしくは白金イリジウム、または炭素もしくは炭素繊維などの他の生体適合性金属および/または合金、酢酸セルロース、硝酸セルロース、シリコーン、架橋ポリ酢酸ビニル(PVA)ヒドロゲル、架橋PVAヒドロゲル発泡体、ポリウレタン、ポリアミド、スチレン/イソブチレン/スチレン・ブロック共重合体(Kraton)、ポリエチレン・テレフタレート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリエーテル・スルフォン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、または、生体適合性ポリマ材料、または、それらの共重合体の混合物;ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリエステルまたはその共重合体、ポリ無水物、ポリカプロカクトン、ポリヒドロキシ酪酸吉草酸塩、または、他の生分解可能ポリマ、または、混合物もしくは共重合体、細胞外基質成分、蛋白質、コラーゲン、フィブリン、または、他の生物活性物質、または、それらの混合物などの種々の形式とされ得る。
【0042】
上記医療デバイスは、病状の予防処置または治療のために哺乳動物の体内に一時的もしくは永続的に導入される任意のデバイスとされ得る。これらのデバイスとしては、動脈、静脈、心臓の心室および/または心房などの、器官内、組織内または器官の内腔内に着座すべく皮下的、経皮的または手術的に導入される任意のデバイスが挙げられる。医療デバイスとしては、ステント、ステント・グラフト;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)によりカバーされたステントなどのカバー付きステント、または、合成血管グラフト、人工心臓弁、人工心臓、および、血管循環系に対して人工器官を接続する固定具、静脈弁、腹部大動脈瘤(AAA)グラフト、下大動脈フィルタ、永続的薬剤注入カテーテル、塞栓用コイル、血管塞栓で使用される塞栓用物質(たとえば架橋PVAヒドロゲル)、血管縫合糸、血管吻合用固定具、経心筋層血管再生用ステントおよび/または他の管路が挙げられる。
【0043】
上記医療デバイスの被覆組成物は、近傍または周囲の組織へと低速または徐放様式で当該医薬物質が局所的に放出される様にポリマ基質内に取入れられた一種類以上の医薬物質と、当該医療デバイスの血液接触表面に取付けられた一種類以上の配位子とを備える。上記医薬物質が制御様式で放出されることから、ゼロ程度の溶出プロフィル様式で長期間に亙り少量の薬剤もしくは活性作用物質が放出され得る。薬剤の放出反応速度は更に、該薬剤の疎水性に依存し、すなわち、薬剤が更に疎水性であるほど、上記基質からの薬剤の放出速度は遅い。代替的に、親水性薬剤は基質から更に高い速度で放出される。故に上記基質組成物は、植設部位にて必要とされる薬剤の濃度を更なる長期間に亙り維持するために、供与されるべき薬剤に従い変更され得る。故に必要部位にては、再狭窄を防止するために更に有効であり得るという薬剤の長期的効果であって、使用されて放出される医薬物質の副作用を最小限とし得る長期的効果が提供される。
【0044】
上記基質は、種々のポリマ基質から成り得る。但し該基質は、生体適合性、生分解可能、生体侵食性、非毒性、生体吸収可能であり、且つ、分解が低速とされねばならない。本発明において使用され得る生体適合性の基質としては、限定的なものとしてで無く、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリエステルまたはその共重合体、ポリ無水物、ポリカプロカクトン、ポリヒドロキシ酪酸吉草酸塩、および、他の生分解可能ポリマ、または、混合物もしくは共重合体などが挙げられる。別実施例においては、コラーゲン、フィブリン、エラスチンなどの蛋白質、および、細胞外基質成分、または、他の生物学的作用物質、または、それらの混合物から、天然のポリマ材料が選択され得る。
【0045】
上記被覆において使用され得るポリマ基質としては、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリDLラクチド、ポリLラクチドおよび/またはそれらの混合物が挙げられると共に、種々の固有粘度および分子量とされ得る。たとえば一実施例においては、ポリ(DLラクチド−co−グリコリド)(DLPLG、バーミンガム・ポリマ社(Birmingham Polymers Inc.))が使用され得る。ポリ(DLラクチド−co−グリコリド)は生体吸収可能、生体適合性、生分解可能、非毒性、生体侵食性の物質であり、これは、ビニル性モノマであると共にポリマ状でコロイド的な薬剤担体の役割を果たし得る。ポリDLラクチド物質は均一組成物の形態とされ得ると共に、可溶化されて乾燥されたときにはチャネルの格子を形成可能であり、組織に対する供与のために医薬物質が該格子内に捕捉され得る。
【0046】
上記デバイス上の被覆の薬剤放出反応速度は、上記基質として使用されるポリマもしくは共重合体の固有粘度、および、上記組成物における薬剤の量にも依存して制御され得る。上記ポリマまたは共重合体の特性は、該ポリマまたは共重合体の固有粘度に依存して変化し得る。たとえば、ポリ(DLラクチド−co−グリコリド)が使用されるという一実施例において、固有粘度は約0.55〜約0.75(dL/g)の範囲とされ得る。ポリ(DLラクチド−co−グリコリド)は、約50〜約99%(w/w)のポリマ状組成物から上記被覆組成物に対して付加され得る。図1は、ポリ(DLラクチド−co−グリコリド)ポリマ基質から成る被覆により部分的に被覆されたステントを示している。ポリ(DLラクチド−co−グリコリド)ポリマ被覆はたとえば、被覆済み医療デバイスが延伸および/または伸張に委ねられたときに裂開なしで変形し、塑性および/または弾性変形を受ける。故に、塑性および弾性変形に耐え得るポリ(DLラクチド−co−グリコリド)という酸系被覆などのポリマは、先行技術のポリマと比較して好適な特性を有する。更に、種々の分子量のポリマを用いることで、上記基質の溶解の速度も制御され得る。たとえば、医薬物質の放出を更に低速とするには、ポリマは更に高い分子量とされねばならない。ポリマまたはその組み合わせの分子量を変更することにより、特定薬剤に対する好適な溶解速度が達成され得る。代替的に医薬物質の放出速度は、医療デバイスに対してポリマ層を適用し、一層以上の薬剤が追随し、更に、一層以上のポリマが追随することで制御され得る。これに加え、薬剤層間にはポリマ層が適用されることで、被覆からの医薬物質の放出速度が低減され得る。
【0047】
上記被覆組成物の展性は、上記共重合体におけるグリコリドに対するラクチドの比率を変更することにより更に改変され得る。たとえば、上記被覆を更に展性とすべく、且つ、医療デバイスの表面に対する上記被覆の機械的付着力を強化して被覆組成物の放出反応速度を助力すべく、上記ポリマの各成分の比率が調節され得る。この実施例において上記ポリマの分子量は、所望される薬剤の放出速度に依存して変更され得る。ラクチドとグリコリドとの比率は上記組成物において夫々、約50〜85%乃至約50〜15%の範囲とされ得る。上記ポリマにおけるたとえばラクチドの量を調節することにより、上記被覆からの薬剤の放出速度も制御され得る。
【0048】
故に上記ポリマの固有生分解は、被覆からの薬剤の放出速度を決定し得る。ポリマの生分解に関する情報は、たとえばバーミンガム・ポリマ社からのラクチドに対する製造者情報から獲得され得る。
【0049】
たとえば、ラクチドおよびグリコリドのポリマに関する分解の主要モードは、加水分解である。分解は先ず、上記物質へと水が拡散することで進展し、次に上記物質の無作為な加水分解、断片化が追随し、最後に、食細胞活動、拡散および代謝により達成される更に膨大な加水分解が追随する。上記物質の加水分解は、特定ポリマのサイズおよび親水性、ポリマの結晶度、および、周囲環境のpHおよび温度により影響される。
【0050】
一実施例において分解時間は、たとえば低分子量のポリマ、更に親水性のポリマ、更に非晶質のポリマ、および、グリコリドが更に多い共重合体に対しては更に短くなり得る。故に、同一条件にて、50/50DL−PLGなどのDLラクチドおよびグリコリドの低分子量の共重合体は比較的に迅速に分解し得るが、L−PLAなどの更に高分子量のホモポリマは相当に低速で分解し得る。
【0051】
上記ポリマが一旦加水分解されたなら、加水分解の生成物は代謝または分泌される。加水分解による分解により生成されたPLAなどの乳酸は、トリカルボン酸サイクルに組み込まれ得ると共に、二酸化炭素および水として分泌され得る。PGAはまた、非特異的な酵素加水分解に伴う無作為な加水分解により破壊されることでグリコール酸となり得るが、これは、分泌され、または、他の代謝種へと酵素的に変換され得る。
【0052】
別実施例において上記被覆組成物は、最終組成物の約0.5〜約99%の量のエチレン酢酸ビニル(EVAC)、ポリブチル・メタクリレート(PBMA)およびメチルメタクリレート(MMA)などの非吸収性ポリマを備える。EVAC、PBMAまたはメチルメタクリレートを加えると、上記デバイスが更に塑性変形し得る様に、上記基質の展性が更に増大され得る。また上記被覆にメチルメタクリレートを加えると、該被覆の分解が遅延され得ることから、医薬物質が更に低速で放出される様に上記被覆の徐放が改善され得る。
【0053】
上記医療デバイスに対する被覆は、標準的な技術を用いて該医療デバイスに対し適用されることで、薬剤および基質の均一混合物の単一層として、または、ドット・マトリクス・パターンにて、該デバイスの表面全体を覆い得る。上記基質および/または基質/薬剤組成物が単一層または複数層として適用される実施例において、基質または組成物は、約0.1μm〜約150μm、または、約1μm〜約100μmの厚さで適用される。代替的に、この厚さ範囲で上記デバイスの表面上には、基質/薬剤組成物の複数層が適用され得る。たとえば、ポリマ基質により分離され得るという各層毎にひとつの薬剤として一度に特定の薬剤が放出され得る様に、医療デバイスの表面上には種々の医薬物質の複数層が堆積され得る。上記組成物の有効成分または医薬物質成分は、該組成物の約1%〜約60%(w/w)の範囲とされ得る。植設された場合に被覆組成物が近傍組織に接触すると、該被覆は制御様式で分解を開始し得る。被覆が分解するにつれ、薬剤は近傍組織へと徐々に放出されると共に、該薬剤は該薬剤がその効果を局所的に有し得る様に上記デバイスから溶出される。これに加え、上記デバイスと共に用いられるポリマはチャネルの格子を形成することから、上記薬剤は該デバイスの植設時に上記チャネルから徐々に放出され得る。被覆済み医療デバイスは、患者の全身には影響せずに周囲組織に対して薬剤を供与する優れた局所的メカニズムを提供する。上記被覆基質におけるチャネルを介した薬剤溶出および該基質の分解は、一旦植設されたなら医療デバイスの表面から薬剤が約1週間〜約1年の概略期間に亙り溶出し得る様に達成され得る。上記薬剤は、薬剤濃度が低いときには侵食ならびに拡散により溶出し得る。薬剤の濃度が高いと、薬剤は被覆基質におけるチャネルを介して溶出し得る。
【0054】
本発明の医薬物質は、アテローム性動脈硬化症および再狭窄などの血管疾患の治療において用いられる薬剤を含む。たとえば上記医薬物質としては、限定的なものとしてで無く、抗生物質/抗菌薬、増殖抑制因子、抗新生物剤、抗酸化剤、内皮細胞成長因子、トロンビン抑制因子、免疫抑制薬、抗血小板凝集剤、コラーゲン合成抑制因子、治療用抗体、窒素酸化物供与体、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、創傷治療剤、治療用遺伝子導入構造、ペプチド、蛋白質、細胞外基質成分、血管拡張剤、血栓溶解剤、代謝拮抗物質、成長因子作用薬、抗有糸分裂剤、スタチン、ステロイド、ステロイド系および非ステロイド系の抗炎症剤、アンギオテンシン転換酵素(ACE)抑制因子、遊離基捕捉剤、PPARガンマ作用薬、抗ガン化学治療物質が挙げられる。たとえば上述の医薬物質の幾つかとしては、シクロスポリンA(CSA)、ラパミシン、ラパミシン誘導体、ミコフェノール酸(MPA)、レチノイン酸、n−酪酸、酪酸誘導体、ビタミンE、プロブコール、L−アルギニン−L−グルタミン酸塩、エベロリムス、シロリムス、ビオリムス、ビオリムスA−9、パクリタキセル、プエラリン、血小板因子4、塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、フィブロネクチン、シムバスタチン、フルバスタチン、ジヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、および、17β−エストラジオールが挙げられる。
【0055】
図1乃至図10は、本発明の医療デバイスの被覆の種々の実施例の概略表示を示している。上記医療デバイス上の被覆は、該デバイスの管腔側表面上において機能的内皮細胞の融合層の形成を促進する生体適合性基質と、過剰な内膜平滑筋細胞過形成を抑制することで再狭窄および血栓症を防止する医薬物質とを備えている。一実施例において上記基質は、上記医療デバイスに対する内皮細胞、前駆細胞または幹細胞の付着を促進する抗体などの少なくとも一種類の分子の治療的有効量である合成材料または天然材料と、近傍組織に対する供与のためのラパマイシン、ラパマイシン誘導体、および/または、エストラジオールなどの少なくとも一種類の化合物とを備える。上記デバイスの植設時に、該デバイスの表面に付着する細胞は、該医療デバイスの管腔側表面上で成熟した融合性である内皮の機能層へと形質転換する。上記医療デバイス上に内皮細胞の融合層が存在すると、植設の部位における再狭窄および血栓症の発生頻度は低減され得る。
【0056】
本明細書中で用いられる如く“医療デバイス”とは、病状の予防処置または治療のために哺乳動物の体内に一時的もしくは永続的に導入されるデバイスを指す。これらのデバイスとしては、動脈、静脈、心臓の心室または心房などの、器官内、組織内または器官の内腔内に着座すべく皮下的、経皮的または手術的に導入される任意のデバイスが挙げられる。医療デバイスとしては、ステント、ステント・グラフト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)によりカバーされたステントなどのカバー付きステント、または、合成血管グラフト、人工心臓弁、人工心臓、および、血管循環系に対して人工器官を接続する固定具、静脈弁、腹部大動脈瘤(AAA)グラフト、下大動脈フィルタ、永続的薬剤注入カテーテル、塞栓用コイル、血管塞栓で使用される塞栓用物質(たとえば架橋PVAヒドロゲル)、血管縫合糸、血管吻合用固定具、経心筋層血管再生用ステントおよび/または他の管路が挙げられる。一実施例において上記ステントは、生分解可能材料から作成され得る。
【0057】
上記組成物による医療デバイスの被覆および方法によれば、該医療デバイスの表面上における融合性内皮細胞単層の進展が刺激され得ると共に、医療デバイスの植設の間における血管損傷から帰着する局所的な慢性的炎症性反応および他の血栓塞栓症合併症が調整され得る。
【0058】
本明細書中で用いられる如く“抗体”という語句は、モノクローナル、ポリクローナル、ヒト化もしくはキメラ抗体などの一種類の抗体を指し、その場合にモノクローナル、ポリクローナル、ヒト化もしくはキメラ抗体は、目標細胞の表面上におけるひとつの抗原、または、その抗原の機能的同等物、または、他の構造に対して結合する親和力および特異性を有する。また抗体断片という語句は、Fab、F(ab’)などの抗体の任意の断片を包含すると共に、抗体として同一の結果もしくは効果を有する任意のサイズの、すなわち更に大寸もしくは小寸の分子とされ得る。(抗体とは、1モルの抗体当たりで6.022×1023個の分子に等しい複数種の個別抗体分子を包含する。)
【0059】
本発明のひとつの見地において本発明のステントまたは合成グラフトは、医療デバイスに対する循環前駆内皮細胞の付着力を調整する抗体を備える生体適合性で徐放される基質により被覆される。本発明の抗体は、循環血液中における前駆内皮細胞がデバイスの表面上に固定化される様に、前駆内皮細胞の表面の抗原を認識して該抗原に対し高い親和力および特異性を以て結合する。一実施例において上記抗体は、血管内皮成長因子受容体−1、−2および−3(VEGFR−1、VEGFR−2およびVEGFR−3、および、VEGFR受容体群のイソ型)、Tie−1、Tie2、CD34、Thy−1、Thy−2、Muc−18(CD146)、CD30、幹細胞抗原−1(Sca−1)、幹細胞因子(SCFまたはc−Kit配位子)、CD133抗原、VE−カドヘリン、P1H12、TEK、CD31、Ang−1、Ang−2、または、前駆内皮細胞の表面上に発現した抗原などの、前駆内皮細胞の表面抗原、または、前駆細胞もしくは幹細胞の表面抗原と反応する(認識して結合する)モノクローナル抗体から成る。一実施例においては、ひとつの抗原と反応する単一種類の抗体が使用され得る。代替的に、異なる前駆内皮細胞の表面抗原に対して企図された複数の異なる種類の抗体が相互に混合されて上記基質に加えられ得る。別実施例においては複数のモノクローナル抗体の混合物が使用され、特定の細胞表面抗原を目標限定することにより、上皮形成の速度が増大される。本発明のこの側面においては、たとえば抗CD34および抗CD133が組み合わせて使用されると共に、ステントまたはグラフト上の基質の表面に対して付着される。
【0060】
本明細書中で用いられる如く、“治療的有効量の抗体”とは、医療デバイスに対する内皮細胞、前駆細胞または幹細胞の付着を促進する量の抗体を意味する。本発明を実施するために必要な抗体の量は、使用される抗体の性質により変化する。たとえば、用いられる抗体の量は、その抗体と、それが反応する抗原との間の結合定数に依存する。当業者であれば、特定の抗原と共に使用する治療的有効量の抗体を決定する方法は公知であろう。
【0061】
本明細書中で用いられる如く“内膜過形成”とは、平滑筋細胞の増殖が不都合に増加して血管壁に基質が堆積することである。また本明細書中で用いられる如く“再狭窄”とは、血管内腔の再発的狭幅化を指している。再狭窄によれば、血管は閉塞され得る。PTCAまたはPTAの後、通常は内膜内に存在しない中膜および外膜からの平滑筋細胞が増殖すると共に内膜へと移動して蛋白質を分泌し、内膜内に平滑筋細胞および基質蛋白質の蓄積物を形成する。この蓄積物は動脈の内腔の狭幅化を引き起こし、該狭幅部の遠位に対する血液流を低減する。本明細書中で用いられる如く“再狭窄の抑制”とは、再狭窄およびそれから生ずる合併症を防止すべく蛋白質分泌の防止に伴い、平滑筋細胞の移動および増殖を抑制することを指している。
【0062】
本発明の医療デバイス、方法および組成物を用いて治療され得る対象体は哺乳動物であり、人間、馬、犬、猫、豚、齧歯(げっし)動物、猿などが挙げられる。
【0063】
“前駆内皮細胞”という語句は、骨髄、血液または局所的組織に由来すると共に非悪性である内皮細胞であって、前駆細胞または幹細胞から、成熟した機能的上皮細胞に至る任意の発育段階における内皮細胞を指す。
【0064】
被覆済み医療デバイスの試験管内研究または使用に対し、動脈または人間の臍帯静脈などの静脈からは完全に分化した内皮細胞が分離され得る一方、末梢血または骨髄からは前駆内皮細胞が分離される。内皮細胞は、抗体、成長因子、または、内皮細胞に付着する他の作用物質を取入れた基質により医療デバイスを被覆し、該内皮細胞を温置することにより、上記医療デバイスに対して結合される。別実施例において内皮細胞は、形質転換内皮細胞とされ得る。形質転換内皮細胞は、血栓症、平滑筋細胞移動、再狭窄、または、他の一切の治療的結果を抑制する成長因子または蛋白質を発現するベクタを含む。
【0065】
本明細書に示される血管疾患の治療方法は、任意の動脈または静脈に関して実施され得る。本発明の有効範囲内には、冠状動脈、鼠径下部動脈、大動脈回腸動脈、鎖骨下部動脈、腸間膜動脈および腎動脈が含まれる。本発明によれば、解離性動脈瘤から帰着するなどの他の種類の血管障害も包含される。
【0066】
血管疾患がある哺乳動物を治療する上記方法は、たとえば血管形成手術の間における被覆済みステントの場合などにおいて患者の器官もしくは血管内に被覆済み医療デバイスを植設する段階を備える。一旦原位置とされたなら、被覆上に存在する抗体により前駆細胞表面上の抗原が認識されて結合されることから、被覆済みステントの表面上には前駆内皮細胞が捕捉される。上記基質に対して前駆細胞が一旦付着されたなら、上記被覆上の成長因子は新たに結合した前駆内皮細胞が成長かつ分化してステントの管腔側表面上に融合性で成熟した機能的内皮を形成することを促進する。代替的に上記医療デバイスはその植設の前に、患者の血液、骨髄または血管から分離された前駆細胞、幹細胞または成熟内皮細胞を用いて、試験管内で内皮細胞により被覆される。いずれの場合でも、医療デバイスの管腔側表面上に内皮細胞が存在すると、過剰な内膜過形成および血栓症が抑制または防止される。
【0067】
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、言及したことにより本明細書中に援用されるジャッフェ等の雑誌“臨床研究”、1973年、第52巻、2745−2757頁(Jaffe, et al., J. Clin. Invest., 52:2745−2757, 1973)の方法に従い臍帯から獲得され、実験で使用された。簡潔には、コラゲナーゼによる処理により血管壁から細胞が剥離されると共に、該細胞は、ゼラチン被覆された組織培養フラスコ内で、10%の低エンドトキシン胎児子牛血清と、90μg/mlの防腐剤なし豚ヘパリンと、20μg/mlの内皮細胞成長補助栄養(ECGS)と、グルタミンとを含むM199培地において培養される。
【0068】
前駆内皮細胞(EPC)は、アサハラ等(“血管新生に対する推定前駆内皮細胞の分離”、サイエンス、1997年、第275巻、964〜967頁[Isolation of putative progenitor endothelial cells for angiogenesis. Science 275:964−967, 1997]、言及したことにより本明細書中に援用される)の方法に従い、人間の末梢血から分離される。CD34に対する抗体で被覆された磁性ビーズは、分画された人間の末梢血と共に温置される。温置の後、結合した細胞は溶出されると共に、EBM−2培養培地(カリフォルニア州、サンディエゴのクローンティクス社(Clonetics))において培養され得る。代替的に、これらの細胞を分離すべく富化培地分離が使用され得る。簡潔には、末梢静脈血は健康な男性ボランティアから採取されて密度勾配遠心分離により単核細胞画分が分離され、且つ、該細胞は、5%の胎児牛血清、ヒトVEGF−A、ヒト繊維芽細胞成長因子2、ヒト表皮成長因子、インスリン状成長因子1およびアスコルビン酸が追加されたEC塩基培地2(EBM−2)(クローンティクス社)内でフィブロネクチンが被覆された培養スライド(ベクトン・ディキンソン社(Becton Dickinson))上に塗付された。EPCは、培養培地を48時間毎に交換して7日間に亙り成長される。各細胞は、CD133、CD45、CD34、CD31、VEGFR−2およびEセレクチンに対する蛍光抗体により特徴付けられた。
【0069】
本明細書中で用いられる如く“配位子”とは、循環する内皮細胞および/または前駆細胞上の受容体分子などの細胞膜構造に結合する分子を指す。たとえば配位子は、抗体、抗体断片、ペプチドなどの小寸分子、細胞付着分子、たとえば基底膜蛋白質などの基底膜成分、エラスチン、フィブリン、細胞付着分子およびフィブロネクチンとされ得る。抗体を用いる実施例において抗体は、細胞の細胞膜上の細胞表面受容体などの特定エピトープまたは構造を認識して結合する。
【0070】
一実施例において抗体はモノクローナル抗体であると共に、キューラおよびミルシュタイン(Kohler and Milstein)の標準技術(言及したことにより本明細書中に援用される“所定特異性の融合細胞分泌抗体の連続培養”、ネーチャー、第265巻、495〜497頁、1975年[Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity. Nature 265:495−497, 1975])に従い生成され得るか、または、市販供給源から獲得され得る。内皮細胞は免疫原として使用されることで、内皮細胞表面抗原に対して指向されたモノクローナル抗体を生成し得る。
【0071】
本発明のこの側面において、内皮細胞に指向されたモノクローナル抗体は、HUVECまたは精製された前駆内皮細胞をマウスまたはラットに注入することにより調製され得る。十分な時間の後、マウスは犠牲とされて脾臓細胞が獲得される。脾臓細胞は、概略的にはたとえばポリエチレングリコールなどの非イオン性界面活性剤の存在下で、骨髄腫細胞またはリンパ腫細胞と共に融合されることで不死化される。融合ハイブリドーマを含む結果的な細胞は、HAT培地などの選択的培地において成長が許容されると共に、生き残り細胞は、限界希釈条件を用いて斯かる培地で成長される。上記細胞はたとえば微量滴定ウェルなどの適切な容器内で成長され、且つ、上澄みは、所望の特異性すなわち内皮細胞抗原に対する反応性を有するモノクローナル抗体に対してスクリーニングされる。
【0072】
モノクローナル抗体の歩留まりを増進すべく、細胞を受け入れる哺乳動物ホストの腹膜腔内にハイブリドーマ細胞を注入するなどの種々の技術が存在する。腹水液に不十分な量のモノクローナル抗体が溜まる場合、抗体はホストの血液から収穫される。他の蛋白質および他の汚染物質からモノクローナル抗体を遊離すべくモノクローナル抗体を分離かつ精製する習用の種々の手法が存在する。
【0073】
本発明の有効範囲には、これらのモノクローナル抗体のFab、F(ab’)などの、抗内皮細胞モノクローナル抗体の有用な結合断片も含まれる。抗体断片は、習用技術により獲得される。たとえば有用な結合断片は、パパインまたはペプシンを用いて抗体をペプチターゼ消化することで調製され得る。
【0074】
本発明の抗体はネズミ供給源からのIgGクラスの抗体に指向されているが、これは限定を意味するものではない。ネズミ供給源、ヒトを含む哺乳動物供給源、または、他の供給源、または、それらの組み合わせのいずれからであれ、上記の抗体、および、該抗体と機能的等価性を有する抗体、ならびに、IgM、IgA、IgEなどの他のクラス内のイソタイプを含め斯かるクラスは、本発明の有効範囲内に含まれる。抗体の場合に“機能的等価性”という語句は、2つの異なる抗体が各々、抗原上の同一の抗原決定部位に結合すること、換言すると、これらの抗体が同一抗原に対する結合を競うことを意味する。抗原とは、同一のまたは異なる分子上とされ得る。
【0075】
一実施例においては、内皮細胞表面抗原CD34および/またはCD133と反応するモノクローナル抗体が使用される。固形担体に取付けられた抗CD34モノクローナル抗体は、ヒト末梢血から前駆内皮細胞を捕捉することが示されている。捕捉の後、これらの前駆細胞は内皮細胞へと分化し得る。(アサハラ等、“血管新生に対する推定前駆内皮細胞の分離”、サイエンス、1997年、第275巻、964〜967頁。)CD34に対して指向されたハイブリドーマ生成モノクローナル抗体は、米国細胞バンク(American Type Tissue Collection)(メリーランド州、ロックビル)から獲得され得る。別実施例においては、VEGFR−1およびVEGFR−2、CD133またはTie−2などの内皮細胞表面抗原と反応するモノクローナル抗体が使用される。遺伝子的に改変された細胞を用いる実施例において、抗体は、上述と同一様式の標準的技術を用いて遺伝子的に加工された遺伝子産物に対して生成されてから、基質適用に続いて医療デバイスの血液接触表面に適用される。
【0076】
医療デバイス植設を受けるのと同一の種から分離された内皮細胞に対して反応するポリクローナル抗体も使用され得る。
【0077】
本明細書における“ステント”という語句は、血管の内腔内に挿入もしくは植設されたときに血管の断面内腔を拡開させる任意の医療デバイスを意味する。また“ステント”という語句は、ステンレス鋼ステントに限られず、本発明の方法により被覆された市販の生分解可能ステント、PTFEまたはePTFEでカバーされたステントなどのカバー付きステントを含む。一実施例においてこれは、冠状動脈閉塞を治療すべく又は脾臓血管、頚動脈、腸骨血管および膝窩血管の解離または動脈瘤をシールすべく経皮的に投入されるステントを含む。別実施例においてステントは、静脈血管内へと投入される。ステントは、医薬物質を備える基質である生体侵食性、生分解可能、生体適合性のポリマと、抗体などの配位子とが適用されるというポリマ性または金属的の構造要素から成り得るか、または、ステントはポリマと相互混合された基質の複合材料とされ得る。たとえば、言及したことにより本明細書中に援用されるというウィクトルに対する米国特許第4,886,062号に開示された如き変形可能な金属ワイヤ・ステントが使用され得る。また、その全ての開示内容は言及したことにより本明細書中に援用されると共に“腔内薬剤溶出プロテーゼ”と称された国際公開公報WO91/12779に開示された如き弾性ポリマ材料製の自己拡開性ステントも使用され得る。ステントはまた、ステンレス鋼、ポリマ、ニッケル−チタン、タンタル、金、白金−イリジウム、または、エルジロイおよびMP35Nおよび他の鉄系材料を用いて製造されても良い。ステントはカテーテル上で体腔を通して治療部位へと投入され、其処でステントはカテーテルから解放されることで、血管の内腔壁と直接接触すべく拡開され得る。別実施例においてステントは、生分解可能ステントから成る(ピーダブリュ・セルイスおよびエムジェービー・クツリック、マーティン・ダニス編、冠状動脈ステント便覧(2000年)、第297頁、エイチ・タマイ[H. Tamai, pp 297 in HandbooK of Coronary_Stents_3rd_Edition, Eds. PW Serruys and MJB Kutryk, Martin Dunitz (2000)])。当業者であれば、本発明の抗体、成長因子および基質と共に(弾性金属ステント設計態様などの)他の自己拡開性ステント設計態様が使用され得ることは明らかであろう。
【0078】
“合成グラフト”という語句は、生体適合特性を有する任意の人工プロテーゼを意味する。一実施例において合成グラフトは、ポリエチレン・テレフタレート(Dacron(登録商標)、PET)またはポリテトラフルオロエチレン(Teflon(登録商標)、ePTFE)から作成され得る。別実施例において合成グラフトは、たとえばポリウレタン、架橋PVAヒドロゲルおよび/またはヒドロゲルの生体適合性発泡体から成る。更なる第3の実施例において合成グラフトは、メッシュ状とされたポリカーボネートウレタンの内側層と、メッシュ状とされたポリエチレン・テレフタレートの外側層から成る。当業者であれば、本発明の基質、医薬物質および配位子と共に任意の生体適合性の合成グラフトが使用され得ることは明らかであろう。(言及したことにより本明細書中に援用されるボス等の“小径の血管グラフト・プロテーゼ:現況”、物理生化学文書、1998年、第106巻、100−115頁。)合成グラフトはたとえば腹部大動脈瘤デバイスとして、血管の端部/端部、端部/側部、側部/端部、側部/側部もしくは腔内および吻合に対してまたは疾患血管セグメントのバイパスに対して使用され得る。
【0079】
一実施例において上記基質は更に、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、ラミニン、ヘパリン、フィブリン、セルロースなどの天然の物質、または、カーボンもしくは合成材料から成り得る。上記基質に対する主要な要件は、該基質が、周囲組織に対して露出されたステントまたは合成グラフトの表面上で非裂開のまま維持されるべく、十分に弾性的かつ撓曲可能なことである。
【0080】
ステントなどの医療デバイスを被覆するために、該ステントは、たとえば中程度の粘度の基質の液体溶液に浸漬され又はそれにより噴射され得る。各層が塗付された後、上記ステントは次の層が塗付される前に乾燥される。一実施例においては、薄寸で塗料状の基質被覆は約100ミクロンの全厚を超えない。
【0081】
一実施例においては、先ずステント表面が官能化されてから、基質層が追随する。その後、薬剤物質を備える上記基質の表面に対して抗体が結合される。本発明のこの側面において上記ステント表面の技術は、官能的である化学基を生成する。その場合にアミンなどの化学基は、ペプチドおよび抗体などの配位子に対する支持部の役割を果たす基質の中間層を固定化すべく使用される。
【0082】
別実施例においては、無菌状態下で3ミリリットル(ml)のクロロホルムに対して(ドイツ、インゲルハイムのベーリンガ社[Boehringer Inc., Ingelheim, Germany]から入手可能な)ポリD,Lラクチドなどの薬剤担体を480ミリグラム(mg)溶解することで、適切な基質被覆用溶液が調製される。但し基本的には、血液および組織に適合する(生体適合性である)と共に溶解、分散または乳化され得る任意の生分解可能な(または生分解可能でない)基質が塗付の後で比較的に迅速に乾燥されることで医療デバイス上で自己接着性のラッカーまたは塗料状の被覆となるのであれば、該基質は基質として使用され得る。
【0083】
基質に対する配位子としての抗体の適用−前駆内皮細胞の付着を促進する抗体が、共有結合または非共有結合で基質内に取入れられる。抗体は、該抗体を基質被覆溶液と混合してからその混合物をデバイスの表面に塗付することにより、基質層に取入れられ得る。概略的に抗体は、デバイスの管腔側表面上に適用された基質の最外側層の表面に対して付着されることから、該抗体は循環血液に接触する表面上に突出する。たとえば、抗体、および、成長因子を含むペプチドなどの他の化合物が、標準的技術を用いて表面基質に対して適用され得る。
【0084】
一実施例において抗体は、基質を含む溶液に加えられる。たとえば、抗CD34モノクローナル抗体上のFab断片が、500〜800mg/dlの濃度のヒト・フィブリノゲンを含む溶液と共に温置される。抗CD34Fab断片の濃度は変更されること、および、当業者であれば不当な実験なしで最適な濃度を決定し得ることは理解される。Fab/フィブリン混合物に対してはステントが加えられると共に、(少なくとも1,000U/mlの濃度の)濃縮トロンビンの添加によりフィブリンが活性化される。基質に対して直接的に取入れられたFab断片を含む結果的な重合フィブリン混合物は加圧され、ステントまたは合成グラフトの表面上の(100μm未満の)薄膜となる。この様にして、ステントまたは合成グラフトの被覆に先立ち、実質的に任意の種類の抗体または抗体断片が基質溶液に取入れられ得る。
【0085】
たとえば別実施例においては、抗体断片ありでまたは無しで、全抗体が基質に対して共有結合で結合され得る。一実施例においては抗体および成長因子などのペプチドが、ヘテロまたはホモ二官能性リンカ分子を用いて基質に対し共有結合的に束縛される。本明細書中で用いられる如く、“束縛される”という語句は、基質に対するリンカ分子による抗体の共有結合を指している。本発明に関するリンカ分子の使用は典型的に、基質がステントに付着された後に該基質に対してリンカ分子を共有結合させる段階を含む。上記基質に対する共有結合の後、リンカ分子は基質に対し、一種類以上の抗体に対して共有結合すべく使用され得る多数の官能的活性基を提供する。図1Aは、架橋分子を介した結合の図示を提供する。内皮細胞1.01は、細胞表面抗原1.02により抗体1.03に対して結合する。上記抗体は、架橋分子1.04により基質1.05−1.06に束縛される。基質1.05−1.06はステント1.07に対して付着する。上記リンカ分子は基質に対し、直接的に(すなわちカルボキシル基を介して)、または、エステル化、アミド化およびアシル化などの公知の結合化学作用を介して結合され得る。上記リンカ分子は、アミド結合の直接的形成を介して基質に対し結合されるジアミンまたはトリアミン官能化合物とされ得ると共に、抗体との反応に利用可能なアミン官能基を提供する。たとえば上記リンカ分子は、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン(PALLA)またはポリエチレングリコール(PEG)などのポリアミン官能ポリマとされ得る。アラバマ州、バーミンガムのシアウォータ社(Shearwater Corporation, Birmingham, Alabama)からは、共有結合に対するプロトコルと共に、たとえばmPEG−スクシンイミジルプロピオン酸またはmPEG−N−ヒドロキシスクシンイミドなどの種々のPEG誘導体が市販されている。(言及したことにより本明細書中に援用されるというウィーナ等の“固定化された抗体による抗原捕捉に関するポリエチレングリコール・スペーサの影響”、雑誌“生化学、生物物理方法”、第45巻、211〜219頁(2000年)[Weiner et al., Influence of a poly−ethyleneglycol spacer on antigen capture by immobilized antibodies. J. Biochem. Biophys. Methods 45:211−219 (2000)]も参照されたい。)特定の結合物質の選択は使用される抗体の種類に依存し得ると共に、斯かる選択は不当な実験なしで為され得ることは理解される。これらのポリマの混合物も使用され得る。これらの分子は、一種類以上の抗体を表面固定化すべく使用され得る複数の垂下アミン官能基を含む。
【0086】
小寸分子は、抗体もしくはその断片の代わりに又は抗体もしくは抗体断片と組み合わせて使用され得るという合成または天然の分子もしくはペプチドから成り得る。たとえばレクチンは、天然の非免疫由来の糖結合ペプチドである。内皮細胞特異的レクチン抗原(Ulex Europaeus Uea 1)(シャッツ等の“ヒト子宮内膜内皮細胞:組織因子およびタイプ1プラスミノゲン活性化因子抑制因子の分離、特徴付けおよび炎症媒介発現”、生物再生、2000年、第62巻、691〜697頁[Schatz et al. 2000 Human Endometrial Endothelial Cells: Isolation, Characterization, and Inflammatory−Mediated Expression of Tissue Factor and Type 1 Plasminogen Activator Inhibitor. Biol Reorod 62: 691−697])は、前駆内皮細胞の細胞表面に対して選択的に結合し得る。
【0087】
合成“小寸分子”は、種々の細胞表面受容体を目標限定すべく生成された。これらの分子は特定の受容体に対して選択的に結合すると共に、前駆細胞または内皮細胞などの特定の細胞種類を目標限定し得る。小寸分子は、VEGFなどの内皮細胞表面マーカを認識すべく合成され得る。たとえば、SU11248(スーゲン社[Sugen Inc.])(メンデル等の“SU11248の生体内抗腫瘍活性、血管内皮成長因子受容体および血小板由来成長因子受容体を目標限定する新規なチロシンキナーゼ抑制因子:薬理学的反応速度/薬理学的動力学の関係”、臨床ガン研究、2003年1月、第9(1)巻、327〜37頁[Mendel et al. 2003 In vivo antitumor activity of S11248, a novel tyrosine kinase inhibitor targeting vascular endothelial growth factor and platelet−derived growth factor receptors: determination of a pharmacokinetic/pharmacodynamic relationship. Clin Cancer Res. Jan;9(1):327−37])、PTK787/ZK222584(ドレブス等の“受容体チロシンキナーゼ:新たな抗ガン治療の主要目標”、現在の薬剤目標、2003年2月、第4(2)巻、113〜21頁[Drevs J. et al. 2003 Receptor tyrosine kinases: the main targets for new anticancer therapy. Curr Drug Targets. Feb;4(2):113−21])、および、SU6668(レアード・エーディー等の“SU6668はマウスの生体内でFlk−1/KDRおよびPDGFRベータを抑制し腫瘍血管の迅速なアポトーシスおよび腫瘍の退化に帰着する”、雑誌FASEB、2002年5月、第16(7)巻、681〜90頁[Laird, AD et al. 2002 SU6668 inhibits Flk−1/KDR and PDGFRbeta in vivo, resulting in rapid apoptosis of tumor vasculature and tumor regression in mice. FASEB J. May;16(7):681−90])は、VEGFR−2に結合する小寸分子である。
【0088】
内皮細胞表面を目標限定する合成小寸分子の他の部分集合は、たとえば、アルファ(v)ベータ(3)インテグリン抑制因子SM256およびSD983(カール・ジェーエス等の“新規な小寸分子アルファvインテグリン拮抗物質:公知の血管新生抑制因子と比較した抗ガン効力”、抗ガン研究、1999年3〜4月、第19(2A)巻、959〜68頁[Kerr JS. et al. 1999 Novel small molecule alpha V integrin antagonists: comparative anti−cancer efficacy with known angiogenesis inhibitors. Anticancer Res Mar−Apr;19(2A):959−68])である。SM256およびSD983は両者ともに、内皮細胞の表面上に存在するアルファ(v)ベータ(3)を目標限定して結合する合成分子である。
【0089】
本発明はまた、アテローム性動脈硬化症などの血管疾患を有する患者であって本発明の被覆済み医療デバイスにより治療を必要とする患者を治療する方法にも関する。上記方法は、上記治療を必要とする患者に対して本発明の被覆済み医療デバイスを植設する段階を備える。本発明の方法は、生体内または試験管内で実施され得る。
【0090】
本発明の被覆は、浸漬、噴射、蒸着、注入状の、および/または、ドット・マトリクス状の手法などの当業界で利用可能な種々の技術を用いて適用され得る。たとえば図1は細胞捕捉および薬剤供与機構の単純パターンを示しており、その場合にステント・ストラット100は、ストラット表面に対して適用された薬剤/ポリマ基質層110の連続被覆と、該薬剤/ポリマ組成物の頂部上の配位子層120とを備えて示される。図2は本発明の代替実施例を示し、その場合に薬剤/ポリマ層110は不連続層130であるが、薬剤/ポリマ基質組成物の量はたとえば図2に示されたよりも多い。
【0091】
図3は、薬剤/ポリマ層が不連続であるという代替実施例を示している。この実施例において薬剤/ポリマ組成物はデバイスの周囲の約3/4に対して適用されるが、層110の中央の1/3部分140は更に多くの量の薬剤組成物を備え、且つ、配位子層は薬剤/ポリマ層の頂部上に適用される。図4は、被覆の適用に関する更に別の実施例を示している。本発明のこの実施例において薬剤/ポリマ基質組成物は医療デバイス100の表面の一部に対しドット・マトリクス状パターン150で適用される。図4に見られる如く配位子層120は、薬剤/ポリマ組成物110を含めて医療デバイスの全周を囲繞して適用される。
【0092】
更に別の実施例において図5は、デバイス100の表面110の小寸区画に集中された薬剤/ポリマ基質組成物に被覆された医療デバイス100を示している。本発明のこの側面において配位子層120は、薬剤/ポリマ組成物110を含むデバイスの全周をカバーする。図6は、配位子層120はデバイス100の表面を覆うべく適用され且つ配位子層120の表面の一区画において薬剤/ポリマ基質組成物150がデバイス上に適用されるという代替実施例を示している。図7は代替実施例を示し、その場合にデバイスは、該デバイス100の表面上の連続層110として適用された複数層の薬剤/ポリマ基質組成物110、150により覆われ得ると共に、配位子層120と、該配位子層120の表面上でドット・マトリクス状パターン150で付加的な薬剤/ポリマ基質不連続層とが追随する。
【0093】
図8Aおよび図8Bには、付加的な代替実施例が示される。本発明のこの側面において、この場合はステント・ストラットである医療デバイスは配位子層120により被覆され、且つ、ドット・マトリクス・パターン150の薬剤/ポリマ基質層は上記配位子層の頂部上(図8A)または配位子層の下側(図8B)にてデバイスに対し部分的に適用され得る。
【0094】
図9および図10は、本発明の他の実施例を断面で示している。図9に見られる如く、抗体などの配位子は被覆済み医療デバイスの表面上の最外側層として示され、且つ、上記被覆は、薬剤/ポリマ組成物および選択的に付加的な成分を備える付加的な中間層を備え得る。図10Aは、デバイスを被覆する基底膜層および中間層を付加的に示している。
【0095】
ステントから成る別実施例において薬剤/ポリマ基質から成る被覆組成物は、ステントのフレーム要素または螺旋要素などの如き該ステントの部分に対して適用され得る。本発明のこの側面において薬剤/ポリマ基質により覆われないステントの残存表面は、図10Bに示された如くステント表面の一部上でまたはステントの残存表面全体上で配位子層により被覆され得る。図10Bにおける実施例において医薬放出成分および抗体改変表面は、デバイスの交互的表面上に露出される。これによれば、(ステントの前端部および後端部における更に健康な組織、および、ステントの高度に罹患した中央部分すなわち病巣の中央などの)血管のセグメントの更に目標限定された治療が許容されると共に、医薬成分、抗体表面と、ステントの表面上において新たに付着した内皮細胞との間の相互作用が最小限とされる。
【0096】
図10Bに示された如くステント端部構成要素は、たとえば、抗体または小寸分子(EPC捕捉)表面を備え得る。螺旋状構成要素160は基底膜基礎被覆を備え得ると共に、螺旋状セグメント170は、長期の血管開存性を維持するeNOS、tPA、スタチンおよび/または抗体などの作用物質を溶出する非分解性の生体適合性ポリマ基質から成り得る遅効性医薬成分を表す。図10Bはまた、ステントのリング状構成要素180は早期の新内膜過形成/平滑筋細胞移動を抑制する速効性医薬物質から成り得ることから、ステント200全体はデバイスの各部分において異なる被覆により被覆されることも示している。
【0097】
以下の例は本発明を例示するが、本発明の有効範囲を制限するものではない。
【0098】
実施例1
被覆組成物の調製
ポリマであるポリDLラクチド−co−グリコリド(DLPLG、バーミンガム・ポリマ社)がペレットとして提供される。ステントを被覆するポリマ基質組成物を調製すべく、上記ペレットが計量されると共にケトンまたは塩化メチレン溶媒に溶解されて溶液を形成する。薬剤は同一溶媒に溶解されると共に必要な濃度までポリマ溶液に加えられることから、均一な被覆用溶液が形成される。被覆基質の展性を改善して反応速度を変更すべく、グリコリドに対するラクチドの比率は変更され得る。この溶液は次にステントを被覆すべく使用され、図11に示された如き均一な被覆を形成する。図12は、本発明の被覆済みステントの断面図を示している。ポリマ/薬剤組成物は、種々の標準的方法を用いてステントの表面上に堆積され得る。
【0099】
実施例2
ポリマ/薬剤の評価および濃度
ステントを噴射被覆するプロセス。溶媒に溶解されたDLPLGのポリマ・ペレットは、一種類以上の薬剤と混合される。代替的に、一種類以上のポリマが溶媒に溶解され得ると共に、一種類以上の薬剤が添加して混合され得る。結果的な混合物は、標準的方法を用いてステントに塗付される。被覆および乾燥の後、ステントは評価される。以下のリストは、DLPLGおよび/またはそれらの組み合わせから成る種々の薬剤を用いて研究された被覆組み合わせの種々の例を例証している。これに加えて該処方は、DLPLGの基礎被覆、および、DLPLGまたはDLPLAもしくはEVAC25などの別のポリマの頂部被覆から成り得る。上記被覆において用いられる薬剤およびポリマの省略形は以下の如くである:MPAはミコフェノール酸、RAはレチノイン酸;CSAはシクロスポリンA;LOVはロバスタチン(登録商標)(メビノリン);PCTはパクリタキセル;PBMAはポリブチル・メタクリレート、EVACはエチレン酢酸ビニル共重合体;DLPLAはポリ(DL−ラクチド)、DLPLGはポリ(DLラクチド−co−グリコリド)。
【0100】
本発明において使用され得る被覆成分および量(%)の例は次のものから成る:
1.50%MPA/50%ポリLラクチド
2.50%MPA/50%ポリDLラクチド
3.50%MPA/50%(86:14ポリDLラクチド−co−カプロラクトン)
4.50%MPA/50%(85:15ポリDLラクチド−co−グリコリド)
5.16%PCT/84%ポリDLラクチド
6.8%PCT/92%ポリDLラクチド
7.4%PCT/92%ポリDLラクチド
8.2%PCT/92%ポリDLラクチド
9.8%PCT/92%の(80:20ポリDLラクチド/EVAC40)
10.8%PCT/92%の(80:20ポリDLラクチド/EVAC25)
11.4%PCT/96%の(50:50ポリDLラクチド/EVAC25)
12.8%PCT/92%の(85:15ポリDLラクチド−co−グリコリド)
13.4%PCT/96%の(50:50ポリDLラクチド−co−グリコリド)
14.25%LOV/25%MPA/50%の(EVAC40/PBMA)
15.50%MPA/50%の(EVAC40/PBMA)
16.8%PCT/92%の(EVAC40/PBMA)
17.8%PCT/92%EVAC40
18.8%PCT/92%EVAC12
19.16%PCT/84%PBMA
20.50%CSA/50%PBMA
21.32%CSA/68%PBMA
22.16%CSA/84%PBMA
【0101】
実施例3
以下の実験は、実施例2に記述された方法により被覆されたステント上の被覆の薬剤溶出プロフィルを測定すべく行われた。ステント上の被覆は、4%のパクリタキセルと、96%の50:50ポリ(DLラクチド−co−グリコリド)ポリマから成っていた。各ステントは500μgの被覆組成物で被覆されると共に、3mlの牛血清中で37℃で21日に亙り温置された。血清内に放出されたパクリタキセルは、温置期間の間における種々の日時に標準的技術を用いて測定された。上記実験の結果は図13に示される。図13に示された如く、パクリタキセル放出の溶出プロフィルは非常に低速であると共に制御されている、と言うのも、21日期間でステントからは約4μgのみのパクリタキセルが放出されるからである。
【0102】
実施例4
以下の実験は、実施例2に記述された方法により被覆されたステント上の被覆の薬剤溶出プロフィルを測定すべく行われた。ステント上の被覆は、4%のパクリタキセルと、92%の50:50ポリ(DL−ラクチド)と、EVAC25ポリマから成っていた。各ステントは500μgの被覆組成物で被覆されると共に、3mlの牛血清中で37℃で10日に亙り温置された。血清内に放出されたパクリタキセルは、温置期間の間における種々の日時に標準的技術を用いて測定された。上記実験の結果は図14に示される。図14に示された如く、パクリタキセル放出の溶出プロフィルは非常に低速であると共に制御されている、と言うのも、10日期間でステントからは約6μgのみのパクリタキセルが放出されるからである。
【0103】
実施例5
以下の実験は、実施例2に記述された方法により被覆されたステント上の被覆の薬剤溶出プロフィルを測定すべく行われた。ステント上の被覆は、8%のパクリタキセルと、92%の80:20ポリ(DL−ラクチド)と、EVAC25ポリマから成っていた。各ステントは500μgの被覆組成物で被覆されると共に、3mlの牛血清中で37℃で14日に亙り温置された。血清内に放出されたパクリタキセルは、温置期間の間における種々の日時に標準的技術を用いて測定された。上記実験の結果は図15に示される。図15に示された如く、パクリタキセル放出の溶出プロフィルは非常に低速であると共に制御されている、と言うのも、14日期間でステントからは約4μgのみのパクリタキセルが放出されるからである。
【0104】
実施例6
以下の実験は、実施例2に記述された方法により被覆されたステント上の被覆の薬剤溶出プロフィルを測定すべく行われた。ステント上の被覆は、8%のパクリタキセルと、92%のポリ(DL−ラクチド)ポリマとから成っていた。各ステントは500μgの被覆組成物で被覆されると共に、3mlの牛血清中で37℃で21日に亙り温置された。血清内に放出されたパクリタキセルは、温置期間の間における種々の日時に標準的技術を用いて測定された。上記実験の結果は図16に示される。図16に示された如く、パクリタキセル放出の溶出プロフィルは非常に低速であると共に制御されている、と言うのも、21日期間でステントからは約2μgのみのパクリタキセルが放出されるからである。上記データは、被覆のポリマ成分を変更することにより薬剤の放出は必要な期間に亙り制御され得ることを示している。
【0105】
実施例7
この実験においては、実施例2に記述された如く92%のPGLAおよび9%のパクリタキセルから成る組成物により被覆されたステントの溶出プロフィルが測定された。ポリマ基質からのパクリタキセルの放出反応速度に対するデータを提供するために、溶出試験が使用される。生体内状態を近似すべく、37℃における子牛血清へのパクリタキセルの放出が使用された。血清は血液と類似するが、このシミュレーションは植設されたデバイスの実際の放出反応速度を必ずしも反映しない。このシミュレーションは反復可能で制御された環境を提供し、該環境からは相対放出が評価され得る。溶出データは、0.13、0.20、0.29、0.38μg/mmのパクリタキセルから成る一群のパクリタキセル被覆ステントに関して収集された。0.13および0.26μg/mmのユニットは、動物の試験研究で評価された。
【0106】
溶出試験方法:被覆済みステントは、37℃にて子牛血清内に載置される。指定された時点において、各ステントは血清から取出される。被覆からは、残存パクリタキセルが抽出される。放出されたパクリタキセルの量は、ステント上に装填されたパクリタキセルの最初の装填量から、ステント上に残存するパクリタキセルの量を減算することにより算出される。図17は、1平方ミリメートル当たりのステント表面から放出されたパクリタキセルの量を例証している。表1は、1日、14日および28日における試験管内の放出反応速度の範囲を示している。図16および表1に見られる如く、被覆の放出反応速度は低速である、と言うのも、パクリタキセルは1日における0〜0.051μg/mmから28日における0.046〜0.272μg/mmに亙るからである。
【0107】
【表1】

【0108】
実施例8
4%パクリタキセル/96%PGLAおよび100%PGLAにより夫々被覆されたステントにより、70日および48日までの付加的な血清溶出データが実施された。報告された様にパクリタキセルの溶出は、血清中のパクリタキセルの量を42日まで分析することで監視される。TG0331Aに対し90日における溶出を特徴付けるべく、ステント上の残存パクリタキセルを監視する試験法が使用される。試験に対して利用可能な5本のステント上の残存パクリタキセルは、2.29マイクログラムの平均値(範囲1.87〜2.86最大)を与えた。
【0109】
被覆済みステントの重量は、37℃における血清内での溶出の間における指定時点にて測定された。非処理ユニットおよび模擬無菌ユニット(40℃、18時間)を比較すると、重量喪失プロフィルの差が例証される。同様に、薬剤なしでのPGLAの重量喪失が比較のために示される。図18は、これらの実験の結果を示している。図18に見られる如く、模擬無菌によれば、被覆済みステントの重量のゲインが引き起こされる。
【0110】
実験の各時点においてステント被覆は顕微鏡で検証かつ写真撮影される。以下の表2は、サンプル番号1〜3の幾つかの視覚的特性を示している。
【0111】
【表2】

【0112】
図19A乃至図19Dは、被覆内に存在する実質的に全ての薬剤は90日の血清温置の後で溶出する一方、一定のポリマ基質はステントに付着したままであることを示している。重量変化、薬剤溶出および顕微鏡評価の組み合わせによれば、被覆済み表面の良好な特性解析が提供される。サンプル番号2および番号3は、模擬無菌状態を見込んでおらず、更に類似して応答した。模擬無菌状態に委ねられたサンプル、すなわちサンプル番号1は血清内で被覆の更に低速な分解速度を有する。顕微鏡による被覆外観には、この群に対して所定量の被覆が残存するという傾向が見られる。これは意味が在る、と言うのも、模擬無菌状態はポリマのTgより僅かに低温であり、物質の一定の焼鈍しを引き起こし得るからである。
【0113】
90日における薬剤溶出は、実質的に全ての薬剤が被覆から溶出したことを例証している。測定された薬剤の量は最大である、と言うのも、分解したポリマもまた試験波長における一定の吸光度に帰着するからである。残存薬剤に対する他のロットに関する試験を考察すると、血清内で28日後に約80%の薬剤が溶出されることが例証される。
【0114】
これらの結果は、ポリマは依然として存在するが、4%パクリタキセルが装填されたPGLA基質から薬剤は血清内で90日にて実質的に溶出されたことの証拠を提供する。
【0115】
実施例9
抗CD34が被覆されたステンレス鋼ディスクによる内皮細胞の捕捉:当該実験の存続時間に亙り、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(米国細胞バンク)が内皮細胞成長培地で成長された。細胞は、抗体が表面上に在るもしくは無いCMDXおよびゼラチンにより被覆されたサンプル、または、剥き出しのステンレス鋼(SST)サンプルと共に温置される。温置の後、成長培地が取り外され、各サンプルはPBS内で2回洗浄される。細胞は10分に亙り2%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定されると共に、PBS内で洗浄毎に10分として3回洗浄され、全ての固定作用物質が除去されることが確実とされる。各サンプルは室温にて30分に亙り遮断溶液と共に温置され、全ての非特異的結合が遮断される。各サンプルは、PBSにより一旦洗浄され、1:100のVEGFR−2抗体の希釈液に晒され、且つ、一晩中温置される。各サンプルは引き続きPBSにより3回洗浄されることで、全ての一次抗体が除去されることが確実とされる。夫々のサンプルに対しては、1:100の希釈にて遮断溶液内のFITC共役二次抗体が加えられ、ベリーダンサ装置上で室温にて45分温置された。温置の後でサンプルは、一旦は0.1%のTween20を含むPBSにより且つその後は再びPBS内として、PBS内で三回洗浄される。上記サンプルに対しては沃化プロピジウム(PI)が組み込まれ、共焦点顕微鏡下で視覚化される。
【0116】
図20A乃至図20Eは、CMDXおよび抗CD34抗体により被覆されたSSTサンプル(図20A)、ゼラチンおよび抗CD34抗体により被覆されたSSTサンプル(図20B)、剥き出しのSST(図20C)、CMDXにより被覆されたが抗体なしのSSTサンプル(図20D)、および、ゼラチン被覆されたが抗体なしのSSTサンプル(図20E)の顕微鏡写真である。各図は、PI着色により示された如く、抗体被覆されたサンプルのみが該サンプルの表面に対して付着した多数の細胞を含むことを示している。剥き出しのSST比較対照ディスクは、その表面に付着した細胞を殆ど示さない。
【0117】
図21A乃至図21Cは、表面に対して抗体を結合せずにCMDX被覆された比較対照サンプルの顕微鏡写真である。図21Aは、PI着色により理解される如くサンプルの表面に付着した非常に少ない細胞を示している。図21Bは付着細胞がVEGFR−2陽性であることからそれらは内皮細胞であることを示すと共に、図21Cは着色核とVEGFR−2陽性の緑色蛍光との組み合わせを示している。図21D乃至図21Fは、表面上の抗体なしでゼラチンにより被覆された比較対照サンプルの顕微鏡写真である。図21Dは細胞の存在を示さない、と言うのも、PI着色は該サンプルに存在せず且つ該サンプルから緑色蛍光は発せられないからである(図21Eおよび図21Fを参照)。
【0118】
図22A乃至図22Cは、表面に抗CD34抗体が結合されたCMDX被覆SSTサンプルの顕微鏡写真である。各図は、サンプルが略々融合性の単層を確立する多数の付着細胞を含む(図22A)と共に、緑色蛍光により示される如くVEGFR−2陽性(図22Bおよび図22C)であることを示している。同様に図22D乃至図22Fは、表面に抗CD34抗体が結合されたゼラチン被覆サンプルの顕微鏡写真である。これらの図もまた、多数の赤着色された核およびVEGFR−2/FITC抗体からの緑色蛍光(図22Eおよび図22F)により示される如く、サンプルの表面にHUVECが付着したことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】ステント・ストラットが、デバイス全体を囲繞する被覆であって、配位子(外側)層と、ストラットの全周を囲繞する薬剤/ポリマ基質(内側)層とから成るという被覆を備える実施例の概略図である。
【図2】ステント・ストラットが、配位子(外側)層と、ストラットの周囲の約3/4を囲繞する薬剤/ポリマ層とを備えるという実施例の概略図である。
【図3】ステント・ストラットが、配位子(外側)層と、ストラットの周囲の3/4を囲繞する薬剤/ポリマ層とを備え、ストラットを囲繞する層の中央区画において薬剤/ポリマ濃度が高いという実施例の概略図である。
【図4】ステント・ストラットが配位子(外側)層を備えると共にストラットの周囲の所定区画には断面が複数の半円形に見える薬剤/ポリマ層が適用されるという実施例の概略図である。
【図5】ステント・ストラットが、配位子(外側)層と、ストラットの周囲の所定区画に適用された薬剤/ポリマ層とを備えるという実施例の概略図である。
【図6】ステント・ストラットが該ストラットの周囲の全体に適用された配位子層を備えると共に、該ストラットの一部に対してはドット・マトリクス状パターンで薬剤/ポリマ層が適用されるという実施例の概略図である。
【図7】ステント・ストラットは該ストラットの周囲を囲繞する薬剤/ポリマ層を備え、薬剤/ポリマ層の頂部上には配位子層が適用され、かつ、ストラットの表面の一部分上には付加的な薬剤/ポリマ組成物が適用されるという実施例の概略図である。
【図8】ステント・ストラットが該ストラットの全周に対して適用された配位子層を備えると共にストラットの表面の一部分上では配位子層の頂部上に薬剤/ポリマ層組成物がドット・マトリクス状パターンで適用されるという代替実施例(図8A)、および、デバイスの表面に対して薬剤/ポリマ基質がドット・マトリクス状パターンで適用されると共に配位子層はストラットの全周を囲繞して薬剤/ポリマ組成物を覆うという代替実施例(図8B)の概略図である。
【図9】配位子(抗体)および薬剤/ポリマ成分を含む被覆の複数層を示すためにステント・ストラットが断面で示された実施例の概略図である。
【図10A】ステント・ストラットの表面上の中間および基底膜層を含む被覆の複数層を示すために該ステント・ストラットが断面で示された実施例の概略図である。
【図10B】ステントの構成要素部分すなわち螺旋部、リングおよび端部が異なる被覆成分で被覆されるという実施例の概略図である。
【図11】薬剤溶出組成物および配位子層を示すべく部分的に被覆されたステントの概略図である。
【図12】被覆の各層を示すステントの概略断面図である。
【図13】牛血清アルブミン中で21日間温置された薬剤被覆ステントの溶出プロフィルを示すグラフであり、被覆は500μgの4%パクリタキセルおよび96%ポリマから成っていた。被覆中に使用されたポリマは50:50のポリ(DLラクチド−co−グリコリド)であった。
【図14】牛血清アルブミン中で10日間温置された薬剤被覆ステントの溶出プロフィルを示すグラフであり、被覆は500μgの8%パクリタキセルおよび92%ポリマから成っていた。被覆中に使用されたポリマは50:50のポリ(DLラクチド−co−グリコリド)/EVAC25であった。
【図15】牛血清中で10日間温置された薬剤被覆ステントの薬剤溶出プロフィルを示すグラフであり、被覆は500μgの8%パクリタキセルおよび92%ポリマから成っていた。被覆中に使用されたポリマは80:20のポリDLラクチド/EVAC25であった。
【図16】牛血清アルブミン中で21日間温置された薬剤被覆ステントの薬剤溶出プロフィルを示すグラフであり、被覆は500μgの8%パクリタキセルおよび92%ポリ(DL−ラクチド)ポリマから成っていた。
【図17】血清アルブミン中で1日、14日および28日間温置された薬剤被覆ステントの溶出プロフィルを示すグラフであり、被覆はパクリタキセルおよびPGLAから成っていた。
【図18】4%パクリタキセルおよび96%PGLAポリマ基質、ならびに、100%PGLAで被覆されると共に血清アルブミン内で70日まで温置されたステントの薬剤溶出試験結果を示すグラフである。
【図19】血清アルブミン上で温置された後における90日後(図19Aおよび図19B)および84日後(図19Cおよび図19D)の薬剤被覆ステントの写真である。
【図20】HUVEC細胞と共に温置されると共に沃化プロピジウムにより着色された、カルボキシメチルデキストラン(CMDx)および抗CD34抗体(図20A)、ゼラチンおよび抗CD34抗体(図20B)、剥き出しのステンレス鋼ディスク(図20C)、CMDxおよびゼラチンにより被覆されたステンレス鋼ディスクに対して付着したHUVECの顕微鏡写真である。
【図21】図21A乃至図21Cは、抗体なしでCMDxにより被覆された比較対照ステンレス鋼ディスクの顕微鏡写真である。図21D乃至図21Fは、表面に対して抗体が結合されずにゼラチンで被覆された比較対照ステンレス鋼ディスクの顕微鏡写真である。
【図22】図22A乃至図22Cは、表面に抗CD34抗体が結合されたCMDx基質により被覆されたステンレス鋼ディスクの顕微鏡写真である。図22D乃至図22Fは、表面に抗体が結合されたゼラチン基質により被覆されたステンレス鋼ディスクの顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0120】
100 医療デバイス
110 ポリマ基質層;薬剤/ポリマ層;薬剤/ポリマ組成物
120 配位子層
130 不連続層
140 層110の中央の1/3部分
150 ドット・マトリクス状パターン;薬剤/ポリマ基質組成物
160 螺旋状構成要素
170 螺旋状セグメント
180 リング状構成要素
200 ステント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液接触表面と、近傍組織に対する一種類以上の医薬物質の徐放のための被覆とを備え、上記被覆は生体吸収可能または非吸収性である生体適合性基質と、一種類以上の医薬物質と、当該医療デバイスの上記血液接触表面上において前駆内皮細胞の細胞膜上の特定分子に対して結合する一種類以上の配位子とを備える医療デバイス。
【請求項2】
当該デバイスは患者の体内に植設すべく構造化および構成され、且つ、当該デバイスの少なくともひとつの表面は一種類以上の基礎材料を備える請求項1記載の医療デバイス。
【請求項3】
当該医療デバイスは、ステント、血管用もしくは他の部位用の合成グラフト、または、合成グラフトと組み合わされたステントである請求項1記載の医療デバイス。
【請求項4】
当該医療デバイスは血管用ステントである請求項1記載の医療デバイス。
【請求項5】
ステント構造は生分解可能物質から成る請求項4記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記基礎材料は生体適合性である請求項2記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記基礎材料は、ステンレス鋼、ニチノール、MP35N、金、タンタル、白金もしくは白金イリジウム、生体適合性金属および/または合金、炭素繊維、酢酸セルロース、硝酸セルロース、シリコーン、架橋ポリ酢酸ビニル(PVA)ヒドロゲル、架橋PVAヒドロゲル発泡体、ポリウレタン、ポリアミド、スチレン/イソブチレン/スチレン・ブロック共重合体(Kraton)、ポリエチレン・テレフタレート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリエーテル・スルフォン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸のポリエステル、その共重合体、ポリ無水物、ポリカプロカクトン、ポリヒドロキシ酪酸吉草酸塩、細胞外基質成分、蛋白質、エラスチン、コラーゲン、フィブリン、および、それらの混合物から成る群から選択される請求項1記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記生体吸収可能基質は、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ乳酸、ポリ無水物、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸吉草酸塩、それらの共重合体およびそれらの組み合わせから成る群から選択された一種類以上のポリマもしくはオリゴマから成る請求項1記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記被覆は、ポリ(DLラクチド−co−グリコリド)と、一種類以上の医薬物質とから成る請求項1記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記生体吸収可能基質はポリ(DL−ラクチド)から成る請求項8記載の医療デバイス。
【請求項11】
前記生体吸収可能基質は、ポリ(DL−ラクチド)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)から成り、且つ、前記医薬物質はパクリタキセルである請求項8記載の医療デバイス。
【請求項12】
前記医薬物質は、抗生物質/抗菌薬、増殖抑制因子作用物質、抗新生物剤、抗酸化剤、内皮細胞成長因子、平滑筋細胞成長および/または移動抑制因子、トロンビン抑制因子、免疫抑制作用物質、抗血小板凝集作用物質、コラーゲン合成抑制因子、治療用抗体、窒素酸化物供与体、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、創傷治療剤、治療用遺伝子導入構造、ペプチド、蛋白質、細胞外基質成分、血管拡張剤、血栓溶解剤、代謝拮抗物質、成長因子作用薬、抗有糸分裂剤、ステロイド、ステロイド系抗炎症剤、ケモカイン、増殖因子起動受容体ガンマ作用薬、非ステロイド系抗炎症剤、アンギオテンシン転換酵素(ACE)抑制因子、遊離基捕捉剤、CX3CR1受容体の抑制因子、および、抗ガン化学治療物質から成る群から選択される請求項1記載の医療デバイス。
【請求項13】
前記医薬物質は、シクロスポリンA、ミコフェノール酸、ミコフェノールモフェチル酸、ラパミシン、ラパミシン誘導体、アザチオプレン、タクロリムス、トラニラスト、デキサメタゾン、コルチコステロイド、エベロリムス、レチノイン酸、ビタミンE、ロスグリタゾン、シムバスタチン、フルバスタチン、エストロゲン、17β−エストラジオール、ジヒドロエピアンドロステロン、テストステロン、プエラリン、血小板因子4、塩基性繊維芽細胞成長因子、フィブロネクチン、酪酸、酪酸誘導体、パクリタキセル、パクリタキセル誘導体、および、プロブコールから成る群から選択される請求項9記載の医療デバイス。
【請求項14】
前記医薬物質はシクロスポリンAおよびミコフェノール酸である請求項12記載の医療デバイス。
【請求項15】
前記医薬物質はミコフェノール酸およびビタミンEである請求項12記載の医療デバイス。
【請求項16】
前記医薬物質は前記組成物の約1〜約50%(w/w)から成る請求項1記載の医療デバイス。
【請求項17】
前記ポリ(DL−ラクチド)ポリマは前記組成物の約50〜約99%から成る請求項9記載の医療デバイス。
【請求項18】
非吸収性ポリマを更に備えて成る請求項1記載の医療デバイス。
【請求項19】
前記非吸収性ポリマはメチルメタクリレートである請求項16記載の医療デバイス。
【請求項20】
前記被覆は、ポリ(DL−ラクチド)ポリマまたはポリ(ラクチド−co−グリコリド)と前記医薬物質との単一の均一層を備えて成る請求項1記載の医療デバイス。
【請求項21】
前記被覆は、ポリ(DL−ラクチド)ポリマ、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)共重合体、または、それらの混合物の複数層を備えて成る請求項1記載の医療デバイス。
【請求項22】
前記被覆は前記医薬物質の複数層を備えて成る請求項1記載の医療デバイス。
【請求項23】
前記配位子は当該医療デバイスの前記血液接触表面に付着される請求項1記載の医療デバイス。
【請求項24】
前記配位子は前駆細胞表面抗原に結合する抗体またはペプチドである請求項1記載の医療デバイス。
【請求項25】
前記ポリマ基質は、75,000〜100,000の分子量を有する50:50比率のポリ(DL−co−グリコリド)である請求項1記載の医療デバイス。
【請求項26】
前記医療デバイスの表面に対し、徐放ポリマ基質と、少なくとも一種類の医薬物質と、選択的に基底膜成分とを備える少なくとも一層の組成物を適用する段階と、上記医療デバイス上の上記少なくとも一層の組成物に対し、前駆内皮細胞に結合して固定化する少なくとも一種類の配位子を備える溶液を適用する段階と、上記ステント上の上記被覆を低温にて真空下で乾燥させる段階とを備える請求項1記載の医療デバイスを被覆する方法。
【請求項27】
近傍組織に対する一種類以上の医薬物質の徐放のための被覆であって、生体吸収可能基質と、一種類以上の医薬物質と、当該医療デバイスの血液接触表面上に前駆内皮細胞を捕捉して固定化する配位子とを備えた被覆を備えた医療デバイスを植設する段階を備えて成る、アテローム性動脈硬化症の哺乳動物を治療する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2007−528275(P2007−528275A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502937(P2007−502937)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/007654
【国際公開番号】WO2005/086831
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(506297164)オーバスネイク メディカル インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】