説明

薬液噴霧装置、薬液カートリッジおよび薬液噴霧装置の制御方法

【課題】 昆虫フェロモン薬液をミクロンオーダの微細な霧状にして対象領域に放散可能な薬液噴霧装置を提案すること。
【解決手段】薬液噴霧装置1の薬液ノズル2の内径は約0.2mmであり、このノズル口2aを横切る高速空気流の流速は100m/秒以上であり、当該高速空気流を形成するための噴射ノズル3は、その中心軸線3Aが薬液ノズル2に直交し、そのノズル口中心を通るように配置されており、当該噴射ノズル3の内径は約0.5mmである。高速空気流によって薬液ノズル2のノズル口2aに吸い出された昆虫性フェロモン薬液は、極細のノズル口2aを横切る高速空気流によって、空気中に浮遊可能な数十ミクロン以下の微細な霧に分断され、外部に噴射される。よって、効率良く放散領域の全域に飽和水蒸気圧の低い昆虫性フェロモンの薬液を散布できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫性フェロモンからなる害虫の交信かく乱剤や誘引剤などの薬液を噴霧するための薬液噴霧装置および薬液カートリッジ、並びに薬液噴霧装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農場などにおいては、殺虫剤を用いる代わりに、昆虫性フェロモンなどの誘引剤を空気中に放散して、害虫に交信かく乱を引き起こして産卵数を減少させることにより害虫の発生を減少させる害虫駆除方法が知られている。例えば、圃場施設に所定間隔で多数の昆虫性フェロモンディスペンサを設置して、昆虫性フェロモンを自然放散させるものが知られている。昆虫性フェロモンディスペンサとしては、プラスチック製のチューブに性フェロモンを封入したものが知られており、これを育成植物の枝やビニールハウスの骨組に掛けて、性フェロモンをチューブを介して空気中に自然放散させるようにしている(特許文献1)。しかし、このディスペンサでは、昆虫が交尾をしない日中も昆虫性フェロモンが継続放散され、気温の高い日中の方が放散量も多いので、薬液の無駄な放散が多い。また、性フェロモンのうち二重結合をもつものは紫外線劣化や酸化を起こしやすいので、安定剤を混合する必要があり、その分コスト高になっている。さらには、近隣の果樹園などの影響で想定しなかった害虫が存在する場合に、そのような想定外の害虫に即応できない。
【0003】
そこで、ヒータやファンなどによって揮発性の薬液を強制的に放散させる薬液放散装置を利用すること(特許文献2、3、4)、遠隔制御によるスプレー式の薬液放散装置を利用すること(特許文献5)、あるいは、インクジェットプリンタに用いられるインクジェットヘッドと同様な液滴吐出ヘッドを用いて薬液を放散すること(特許文献6)等が考えられている。
【特許文献1】特開平8−322447号公報
【特許文献2】実開昭58−110288号公報
【特許文献3】実用新案登録第3021119号公報
【特許文献4】特開平9−74969号公報
【特許文献5】米国特許第6182904号公報
【特許文献6】米国特許第6339897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような強制式あるいはオンデマンド式の薬液放散装置は、一般に、圃場施設などに立てた支柱に取り付けられ、必要な時間帯に合わせて、薬液を蒸発皿やメッシュ状素材などの薬液放散部材の表面に滴下あるいは吐出して、薬液を外部に放散させている。
【0005】
しかしながら、昆虫性フェロモンなどの薬液の放散量は極めて微量でよく、しかも拡散性・展開性に乏しい。このため、蒸発皿やメッシュ状素材の表面に滴下あるいは吐出された微量の薬液液滴は、それらの表面において、滴下あるいは吐出された状態のままで揮発して空気中に放散していく。点状のままでは空気との接触面積が少ないので、放散効率が極めて悪い。また、風が強い場合などには、蒸発皿やメッシュ状素材の表面に滴下した薬液が風によって飛ばされて地上に落ちてしまうことがある。この場合には、散布領域の全体に薬液を放散することができない。
【0006】
また、薬液放散装置は商用電源を利用できない場所に設置されることが多く、そのような場合にはバッテリ電源が使用される。バッテリ電源の交換頻度を低減するためには、消費電力が少ないことが望ましい。
【0007】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、昆虫性フェロモン薬液を速やかに微細な霧の状態で対象領域に放散可能な薬液噴霧装置を提案することにある。
【0008】
また、本発明の課題は、昆虫性フェロモン薬液を少ない消費電力で微細な霧の状態で対象領域に放散可能な薬液噴霧装置を提案することにある。
【0009】
さらに、本発明の課題は、薬液噴霧装置に用いるのに適した薬液カートリッジを提案することにある。
【0010】
さらにまた、本発明の課題は、薬液噴霧装置を適切に駆動制御するための制御方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の薬液噴霧装置は、昆虫性フェロモンなどからなる薬液が供給される薬液ノズルと、前記薬液ノズルのノズル口に対して、当該ノズル口の中心を通って直交方向に流れる薬液霧化用の気体流を形成するための噴射ノズルとを有し、前記気体流の流速は100m/秒以上であり、前記噴射ノズルのノズル口の内径寸法は前記薬液ノズルのノズル口の外径寸法より大きく、前記気体流によって前記薬液ノズルのノズル口に吸い出された薬液が当該気体流によって霧化して外部に放散するようになっていることを特徴としている。
【0012】
本発明では、薬液ノズルのノズル口を横切って流れる気体流の流速を100m/秒以上の高速流としてあるので、飽和蒸気圧の低い昆虫性フェロモンなどの薬液であっても数十ミクロン以下の微細な霧にすることができる。また、薬液ノズルの外径寸法が噴射ノズルの内径寸法より小さいので、薬液ノズルのノズル口全体が噴射ノズルから発生する気体流に包含された状態になる。よって、薬液ノズルのノズル口に効率良く負圧状態を形成でき、また、ここに吸い出された薬液を効率良く霧化することができる。したがって、薬液を効率良く対象領域に放散することができる。
【0013】
ここで、前記薬液ノズルのノズル口の内径寸法を約0.2mmとすることが望ましい。このように微細なノズルを用いることにより、薬液を確実に数十ミクロン以下の微細な霧にすることができる。
【0014】
また、前記噴射ノズルのノズル口の内径寸法を約0.5mmとすることが望ましい。噴射ノズルを微細直径にすることにより、小型の圧縮ポンプを用いても100m/秒以上の流速の気体流を形成することができる。よって、装置の消費電力を抑制できるので、商用電源を利用できない場所においてバッテリ電源を用いる場合に特に適している。
【0015】
一般的には、本発明による薬液噴霧装置は、前記薬液ノズルに連通している薬液貯留部と、前記噴射ノズルに連通している圧縮気体供給部と、前記薬液ノズルおよび前記薬液貯留部の間を連通および遮断状態に切り換えるための開閉弁あるいは、前記薬液が前記薬液貯留部に逆流することを防止するための逆止機構とを備えた構成とされる。
【0016】
この場合、前記薬液貯留部として、着脱可能な状態で装着された薬液カートリッジを用いることができる。この場合、前記薬液カートリッジに、少なくとも、前記薬液ノズルと、前記開閉弁あるいは前記逆止機構とを搭載すると、薬液ノズルが薬液カートリッジと共に交換されるので、長期使用によるノズル目詰まりの発生などを回避あるいは抑制できるので望ましい。
【0017】
開閉弁が薬液カートリッジに搭載されている場合には、当該薬液カートリッジが装着されると、前記開閉弁を駆動可能な状態になる駆動機構を装置側に配置しておけばよい。
【0018】
次に、本発明は上記構成の薬液噴霧装置に用いる薬液カートリッジであって、前記薬液を貯留した薬液袋と、前記薬液ノズルと、前記開閉弁あるいは前記逆止機構とを有していることを特徴としている。
【0019】
一方、本発明は上記構成の薬液噴霧装置の制御方法であって、予め定めた時刻になると前記噴射ノズルにより前記気体流を形成し、次に、前記薬液ノズルに前記薬液を供給可能な状態に切り換え、前記気体流によって前記薬液ノズルのノズル口に形成される負圧により前記薬液を当該ノズル口に吸い出して、当該気体流によって霧化して放散させ、所定時間経過後に、前記薬液ノズルに対する前記薬液の供給を遮断し、しかる後に、前記気体流を止めることを特徴としている。
【0020】
本発明の方法では、薬液噴霧開始時においては、気体流を最初に形成した後に薬液ノズルに薬液の供給を開始している。したがって、気体流によって薬液ノズルの口に負圧状態が形成された後に薬液が吸い出されるので、最初から薬液を微細な霧状にして放散することができる。また、薬液噴霧の終了時には、薬液の供給を止めた後に気体流を止めるようにしている。気体流を止めると薬液ノズルの口が大気圧に戻るので、薬液が逆流して、空気が侵入するなどの弊害が発生するが、このような弊害を回避できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の薬液噴霧装置では、薬液ノズルの口を横切って流れる気体流の流速を100m/秒以上の高速とし、当該気体流を形成するための噴射ノズルの内径を薬液ノズルの外径よりも大きくしてある。したがって、薬液ノズルの口を確実に負圧状態にて薬液を吸出して、高速気体流によって数十ミクロン以下の微細な霧として放散させることができる。よって、飽和蒸気圧の低い昆虫性フェロモン薬液であっても効率良く霧化して放散できる。
【0022】
また、微細直径の薬液ノズルを用いることにより薬液を確実に微細な霧にすることができ、また、微細直径の噴射ノズルを用いることにより、薬液霧化用の高速気体流を小さな圧縮ポンプを用いて発生させることができる。よって、少ない消費電力で確実に薬液を微細な霧にして放散できるので、本発明はバッテリ電源により駆動される薬液噴霧装置に適している。
【0023】
さらに、本発明の薬液噴霧装置に用いる薬液カートリッジは薬液ノズルなどが搭載されているので、その交換時に薬液ノズルなども新しいものに交換される。よって、ノズルの目詰まり発生を防止あるいは抑制でき、保守点検作業を省略できるなどの利点がある。
【0024】
一方、本発明の薬液噴霧装置の制御方法によれば、最初から微細な霧状の薬液を効率良く放散でき、また、薬液ノズルから空気などが侵入して薬液の酸化劣化を引き起こすなどの弊害も確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した薬液噴霧装置の実施の形態を説明する。
【0026】
(全体構成)
図1は、本発明を適用した昆虫性フェロモンなどの薬液を霧化して放散するための薬液噴霧装置を示す概略構成図である。薬液噴霧装置1は、薬液が供給される薬液ノズル2と、この薬液ノズル2のノズル口2aを横切って流れる高速空気流を形成するための噴射ノズル3とを有している。薬液ノズル2には薬液供給部4から薬液が供給され、噴射ノズル3には圧縮空気供給部5から圧縮空気が供給される。薬液供給部4および圧縮空気供給部5は制御部6によって薬液供給動作および圧縮空気供給動作が制御される。
【0027】
薬液ノズル2のノズル口2aを横切る高速空気流が形成されると、当該ノズル口2aが負圧状態になり、薬液供給部4から薬液が吸い出される。薬液ノズル2のノズル口2aに吸い出された薬液は高速空気流によって微細な霧に分断されながら当該高速空気流に乗って噴射される。噴射された霧状の薬液が薬液放散領域に放散していく。
【0028】
薬液供給部4は、薬液噴霧装置1の装置本体1aに形成したカートリッジ装着部7に着脱可能に装着された薬液カートリッジ8と、開閉弁9と、開閉弁9の駆動機構10を備えている。開閉弁9は常閉弁であり、駆動機構10によって開閉弁9が閉状態から開状態に切り換わると、装着された薬液カートリッジ8と薬液ノズル2の間が連通状態になり、薬液の供給が可能になる。
【0029】
本例の薬液カートリッジ8は薬液が貯留された薬液封入袋11(薬液貯留部)を備えていると共に、薬液ノズル2、開閉弁9および噴射ノズル3も搭載された構成となっている。駆動機構10は装置本体1aの側に搭載されており、薬液カートリッジ8がカートリッジ装着部7に装着されると、当該薬液カートリッジ8に搭載されている開閉弁9を駆動可能な状態になる。
【0030】
圧縮空気供給部5は、ダイヤフラム式ポンプなどの小型の圧縮ポンプ12と、この小型圧縮ポンプ12の吐出口12aに一端が接続された空気供給管13とを備えている。薬液カートリッジ8がカートリッジ装着部7に装着されると、当該薬液カートリッジ8に搭載されている噴射ノズル3に、空気供給管13の先端13aが気密状態で接続された状態が形成される。
【0031】
(薬液カートリッジ)
図2は薬液カートリッジ8を示す斜視図であり、図3(a)〜(c)は、その平面図、b−b線で切断した部分の概略断面図、および正面図である。これらの図を参照して説明すると、薬液カートリッジ8は、扁平な直方体形状したカートリッジケース20を備え、この中に薬液封入袋11が収納されており、薬液ノズル2、開閉弁9および噴射ノズル3がカートリッジケース20に取り付けられている。
【0032】
カートリッジケース20は、硬質ポリプロプレンなどの樹脂成形品などからなる硬質プラスチック製であり、ケース本体21と、このケース本体21の上端開口を封鎖しているケース蓋板22とから構成されている。ケース本体21の前板部分21aには、その上下方向の中程の部位に上下方向に延びる矩形筒状の取付枠23が一体形成され、この取付枠23の内部には、同軸状態で開閉弁9が垂直に組み込まれている。ケース本体21の上端部分には前板部分21aおよび後板部分21bを貫通した状態で噴射ノズル3が水平に取り付けられている。噴射ノズル3は、前板部分21aから前方に突出しているノズル口3aを備えた小径のノズル本体部分3bと、カートリッジケース20の内部を貫通して延びている大径部分3cとを備えている。大径部分3cの後端開口部3dは後板部分21bから露出しており、ここに気密状態で空気供給管13の先端開口部13aを接続可能である(図1参照)。
【0033】
カートリッジケース20に収納されている薬液封入袋11は、気密性のある可撓性素材、例えばアルミニウム蒸着フィルムから形成されており、この中に、昆虫性フェロモン薬液が気密状態で封入されている。薬液封入袋11の前縁の中央部分にはプラスチック製の円筒状の薬液取り出し口14が取り付けられている。薬液封入袋11の内圧は、薬液が漏れ出ないように、所定の負圧状態とされている。
【0034】
カートリッジケース20の前板部分21aに形成した取付枠23に組み込まれている開閉弁9は、円筒状の入口側ハウジング91と、この上側に同軸状態に取り付けられている円筒状の出口側ハウジング92とを備えている。これらの内部に形成されている薬液通路93には、軸線方向に移動可能な状態で弁軸94が配置されており、この弁軸94の上下方向の中程の部位には弁体95が取り付けられている。弁体95は、弁軸外周面に一体形成した円環状のフランジ95aと、このフランジ95aの下側端面に取り付けたOリング95bから構成されている。弁体95の下側には、入口側ハウジング91の上端面に形成した弁座96が対峙しており、弁体95は上側に装着されているコイルばね97によって常に弁座96に付勢されている。この結果、薬液通路93は、下側の入口側薬液通路93aと上側の出口側薬液通路93bの間が遮断された状態となっている。
【0035】
入口側ハウジング91の下端開口は可撓性素材からなる封鎖板98によって封鎖されており、弁軸94の下端が、封鎖板98に接触した位置、あるいは近接した位置にある。入口側ハウジング91の外周面には外方に突出した円筒状の薬液供給針99が一体形成されている。この薬液供給針99の先端開口が、入口側薬液通路93aに連通する開閉弁9の入口ポート9aとされており、当該薬液供給針99の先端部分がゴムパッキン15を介して液密状態で薬液封入袋11の薬液取り出し口14に差し込まれている。
【0036】
これに対して、出口側ハウジング92の上端部分の中心には、出口側薬液通路93bに連通している小径の出口ポート9bが形成されている。この出口ポート9bには薬液ノズル2の後端が接続されている。薬液ノズル2は、出口側ハウジング92の上端面から垂直に上方に延びる姿勢で、当該出口側ハウジング92に固定されている。
【0037】
(開閉弁の駆動機構)
一方、装置本体1aに搭載されている開閉弁9の駆動機構10は、図1に示すように、電磁ソレノイド16と、この電磁ソレノイド16の作動ロッド16aによってスイングするスイングアーム17とを備えている。カートリッジ装着部7に薬液カートリッジ8が装着されると、その開閉弁9の下端面を規定している可撓性の封鎖板98を挟み、スイングアーム17の先端17aが開閉弁9の弁軸94の下端に対峙した状態が形成される。
【0038】
図4は駆動機構10による開閉弁9の開閉動作を示す説明図である。待機状態においては、図4(a)に示す状態となっている。この状態において、電磁ソレノイド16を励磁して、その作動ロッド16aを吸引すると、スイングアーム17がスイングして、その先端17aが上方に移動し、封鎖板98を介して弁軸94を押し上げる。この結果、図4(b)に示すように、弁体95が弁座96から離れて、開閉弁9が開き、薬液封入袋11から薬液ノズル2に向けて薬液を供給可能になる。電磁ソレノイド16を消磁すると、作動ロッド16aが突出位置に復帰し、これに伴ってスイングアーム17も初期位置に戻り、その先端が降下する。この結果、図4(a)に示すように、弁軸94がコイルばね97のばね力によって下方に移動して、弁体95が弁座96に着座して開閉弁9が閉じ状態に戻る。
【0039】
(薬液ノズルおよび噴射ノズル)
図5は薬液ノズル2および噴射ノズル3を拡大して示す拡大部分断面図である。この図に示すように、薬液ノズル2は、同一外径および同一内径の極細の円筒形状をしている。噴射ノズル3は、その大径部分3cの先端がテーパ状に窄まって先端側のノズル本体部分3bに連続している。ノズル本体部分3bは、同一外径および同一内径の極細の円筒形状をしている。本例では、薬液ノズル2の中心軸線2Aに対して、噴射ノズル3の中心軸線3Aが直交し、かつ、薬液ノズル2のノズル口2aの中心に、噴射ノズル3の中心軸線3Aが交差するように、これらが配置されている。
【0040】
また、噴射ノズル3から噴射される高速空気流が薬液ノズル2のノズル口2aを包含するように、薬液ノズル2の外径寸法よりも噴射ノズル3の内径寸法を大きくしてあり、さらに、噴射ノズル3から噴射された高速空気流の流速を100m/秒以上に設定してある。本例では、噴射ノズル3のノズル内径が約0.5mmであり、薬液ノズル2のノズル外径がほぼ0.4mm、その内径が約0.2mmである。また、薬液ノズル2のノズル口2aから数mm離した位置に、噴射ノズル3のノズル口3aを位置させてある。
【0041】
(噴霧動作)
図6は制御部の制御の下に行われる本例の薬液噴霧装置1の動作例を示す概略フローチャートである。このフローチャートに従って説明すると、薬液噴霧装置1は、制御部6に内蔵のタイマ機能に基づき、例えば1日2回、決まった時刻に薬液噴霧動作を行う。
【0042】
予め定められた時刻になったことがタイマ機能によって検出されると(ステップST1)、制御部6によって、まず圧縮ポンプ12が駆動され、空気供給管13を介して、圧縮空気が噴射ノズル3に供給される(ステップST2)。この結果、噴射ノズル3のノズル口か3aら圧縮空気が吹き出され、薬液ノズル2のノズル口2aを横切る100m/秒以上の高速空気流が形成される。高速空気流が形成されると、薬液ノズル2のノズル口2aが負圧状態になる。
【0043】
次に、制御部6は電磁ソレノイド16を励磁して開閉弁9を閉じ状態から開状態に切り換える(ステップST3)。この結果、薬液封入袋11が薬液ノズル2に連通し、薬液が負圧状態のノズル口2aに吸い出される。ノズル口2aに吸い出された薬液は、そこを横切って流れる高速空気流によって数十ミクロン以下の微細な霧に分断され、当該高速空気流に乗って外部に放出される。
【0044】
ここで、本例では、薬液ノズル2のノズル口2aを包含する状態に形成される高速空気流の流速が100m/秒以上であり、薬液ノズル2のノズル内径は約0.2mmの微細なものである。このように設定しておくと、粘性の高い昆虫性フェロモン薬液であっても、空気に浮遊する数十ミクロン以下の微細な霧にでき、効率良く放散領域全域に渡り均一に薬液を放散できる。また、本例では、噴射ノズル3の内径を約0.5mmと細くしてあるので、小型の圧縮ポンプを用いて100m/秒以上の高速空気流を形成することができる。よって、消費電力が少なくて済む。
【0045】
薬液噴霧動作を所定時間行った後は(ステップST4)、制御部6は電磁ソレノイド16を消磁して、スイングアーム17を元の位置に戻す。この結果、開閉弁9が閉じ状態に復帰し、薬液の供給が遮断される(ステップST5)。しかる後に、制御部6は圧縮ポンプ12を停止して、高速空気流を止める(ステップST6)。
【0046】
このように、本例では、薬液の供給を遮断した後に高速空気流を止めるようにしている。高速空気流を止めた後に薬液の供給を止めた場合には、高速空気流による薬液ノズル2のノズル口2aの負圧状態が解消されて、薬液ノズル2の側から薬液封入袋11に薬液が逆流し、外部から薬液封入袋11の側に空気が侵入するおそれがある。すなわち、薬液封入袋11は薬液が漏れ出ないようにその内圧が所定の負圧状態とされる。したがって、薬液ノズル2の側が大気圧状態に戻ると、薬液封入袋11の側の背圧によって薬液ノズル2の側から薬液が逆流してしまうが、開閉弁9を先に遮断することにより、この弊害を防止できる。
【0047】
(本実施の形態の作用効果)
以上説明したように、薬液噴霧装置1では、高速空気流を発生するための噴射ノズル3の内径を薬液ノズル2の外径よりも大きくし、薬液ノズル2のノズル口2aの全体が高速空気流に包含されるようにしている。また、流速が100m/秒以上の高速空気流を形成すると共に、薬液ノズル2の内径を約0.2mm程度の極細としてある。この結果、飽和水蒸気圧の低い昆虫性フェロモンからなる薬液を、空気中に浮遊可能な数十ミクロン以下の微細な粒となるように効率良く霧化して放散することができる。
【0048】
また、噴射ノズル3のノズル径を約0.5mm程度の極細としてあるので、ダイヤフラムポンプなどの小型の圧縮ポンプを用いて100m/秒以上の高速空気流を形成することができる。よって、小型の圧縮ポンプ12を用いて薬液を微細な霧にして噴射できるので、バッテリ駆動に適した省電力型の薬液噴霧装置を実現できる。
【0049】
さらに、本例では、薬液カートリッジ8に薬液ノズル2、開閉弁9および噴射ノズル3を搭載し、薬液が無くなった場合には、これらも同時に交換するようにしている。したがって、薬液カートリッジ8の交換毎に、薬液ノズル2、開閉弁9および噴射ノズル3も新たなものに交換されるので、ノズル2、3の目詰まり、開閉弁9の動作不良などを事前に回避でき、また、これらのメンテナンスも基本的に不要になる。
【0050】
(その他の実施の形態)
上記の薬液カートリッジ8には薬液ノズル2および噴射ノズル3が搭載されているが、目詰まりの発生しやすい薬液ノズル2および開閉弁9のみを搭載し、噴射ノズル3を装置本体1aの側に搭載した構成を採用することもできる。また、メンテナンスが容易な場所などに設置する場合には、薬液ノズル2および開閉弁9も装置本体1aに搭載した構成を採用することも可能である。さらには、薬液タンクを装置本体1aに搭載し、薬液が無くなった場合に補充する構成も採用可能である。
【0051】
次に、開閉弁9の代わりに、薬液の逆流を防止するための逆止弁、逆流防止用のフィルタメッシュなどの逆止機構を採用すること可能である。また、開閉弁9の駆動機構10としては電磁ソレノイド以外の各種の駆動機構を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明を適用した薬液噴霧装置の概略構成図である。
【図2】図1の薬液噴霧装置の薬液カートリッジを示す斜視図である。
【図3】図1の薬液カートリッジの平面図、概略断面図および正面図である。
【図4】図1の薬液カートリッジの開閉弁の開閉状態を示す部分拡大断面図である。
【図5】図1の薬液ノズルおよび噴射ノズルの配置関係を示す部分拡大断面図である。
【図6】図1の薬液噴霧装置の動作例を示す概略フローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
1 薬液噴霧装置、2 薬液ノズル、2a ノズル口、3 噴射ノズル、3a ノズル口、4 薬液供給部、5 圧縮空気供給部、6 制御部、7 カートリッジ装着部、8 薬液カートリッジ、9 開閉弁、10 駆動機構、11 薬液封入袋、12 圧縮ポンプ、13 空気供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫性フェロモンなどからなる薬液が供給される薬液ノズルと、
前記薬液ノズルのノズル口に対して、当該ノズル口の中心を通って直交方向に流れる薬液霧化用の気体流を形成するための噴射ノズルとを有し、
前記噴射ノズルのノズル口の内径寸法は前記薬液ノズルのノズル口の外径寸法より大きく、
前記気体流の流速は100m/秒以上であり、
前記気体流によって前記薬液ノズルのノズル口に吸い出された薬液が当該気体流によって霧化して外部に放散するようになっている薬液噴霧装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記薬液ノズルのノズル口の内径寸法は約0.2mmであることを特徴とする薬液噴霧装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記噴射ノズルのノズル口の内径寸法は約0.5mmであることを特徴とする薬液噴霧装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
前記薬液ノズルに連通している薬液貯留部と、
前記噴射ノズルに連通している圧縮気体供給部と、
前記薬液ノズルおよび前記薬液貯留部の間を連通および遮断状態に切り換えるための開閉弁あるいは、前記薬液が前記薬液貯留部に逆流することを防止するための逆止機構と
を有していることを特徴とする薬液噴霧装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記薬液貯留部は、着脱可能な状態で装着された薬液カートリッジであることを特徴とする薬液噴霧装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記薬液カートリッジには、
少なくとも、前記薬液ノズルと、前記開閉弁あるいは前記逆止機構とが搭載されていることを特徴とする薬液噴霧装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記開閉弁を駆動するための駆動機構を有し、
前記薬液カートリッジには、少なくとも前記薬液ノズルおよび前記開閉弁が搭載されており、
当該薬液カートリッジが装着されると、前記駆動機構による前記開閉弁の駆動が可能な状態になることを特徴とする薬液噴霧装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の薬液噴霧装置に用いる前記薬液カートリッジであって、
前記薬液を貯留した薬液封入袋と、
前記薬液ノズルと、
前記開閉弁あるいは前記逆止機構とを有していることを特徴とする薬液カートリッジ。
【請求項9】
請求項1ないし7のうちのいずれかの項に記載の薬液噴霧装置の制御方法であって、
予め定めた時刻になると前記噴射ノズルにより前記気体流を形成し、
次に、前記薬液ノズルに前記薬液を供給可能な状態に切り換え、
前記気体流によって前記薬液ノズルのノズル口に形成される負圧により前記薬液を当該ノズル口に吸い出して、当該気体流によって霧化して放散させ、
所定時間経過後に、前記薬液ノズルに対する前記薬液の供給を遮断し、
しかる後に、前記気体流を止めることを特徴とする薬液噴霧装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−159056(P2006−159056A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352329(P2004−352329)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】