説明

薬液調合装置

【課題】薬液流体を稀釈流体によって高い稀釈倍率で(超稀釈濃度に)稀釈する際に、汚染の少ない超稀釈濃度の稀釈薬液流体を正確に調合することが可能であるとともに、pHの調整が容易である(多孔質媒体の交換を必要としない)薬液調合装置を提供する。
【解決手段】注入手段30が、平面状の多孔質平膜31と、多孔質平膜31の一方の面上に押圧された状態で配設されるO−リング32とを備え、多孔質平膜31の、O−リング32の内側に対応する部分に、O−リング32が配設された一方の面側から透過した薬液流体が、他方の面側で稀釈流体に注入される注入膜面が形成されたものであり、注入膜面の膜面積が、透過した薬液流体が所定の注入割合となるように稀釈流体に注入されることが可能な面積に、O−リング32の内径を調整することにより制御された薬液調合装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液調合装置に関する。さらに詳しくは、薬液流体を稀釈流体によって高い稀釈倍率で(超稀釈濃度に)稀釈する際に、汚染の少ない超稀釈濃度の稀釈薬液流体を正確に調合することが可能な薬液調合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、半導体、液晶ガラス、フォトマスク等の製造工程で使用する洗浄液として、純水等に微量のアンモニアや硫酸を加えて機能を高めた機能水が用いられている。微量のアンモニア水や硫酸溶液等を純水等に加えてアンモニア等を微量含有する調合液すなわち機能水を製造する方法として、通常、純水等と低い濃度のアンモニア水等を準備し、純水等にアンモニア水等を少量加え混合して機能水を調合することが考えられる。
【0003】
しかしながら、例えば、アンモニア水等に対する純水等による稀釈倍率を1000倍以上に大きくして、アンモニアを微量注入した調合液を得ようとすると、特に、連続式で、かつ全体の液量が少量の場合に、正確な濃度の調合液を得ることは極めて困難であるという問題があった。
【0004】
また、従来の制御弁、定量注入ポンプを用いようとしても、高稀釈倍率で全体の流量が少量の場合、装置として微小直径の配管を利用しなければならないが、そのような配管には通常の制御弁、定量注入ポンプ等は接続されることができず、また接続できる制御弁、定量注入ポンプは特殊なものであるため高価なものとならざるを得ないという問題があった。
【0005】
このような状況に鑑み、拡散注入法を利用した、第1の溶液と着目成分の濃度が第1の溶液よりも高い第2の溶液とを多孔質媒体を介して接触させ、拡散により第2の溶液を第1の溶液中へ注入することを特徴とする二液混合方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、複数の貫通孔が形成された多孔質材料からなる基材と、この基材の貫通孔の内表面(内壁)に形成されたセラミック膜とを備え、このセラミック膜の膜面積を所定の注入割合で薬液流体を透過させることができるように設定した多孔質媒体によって、稀釈流体に注入される薬液流体を制御する薬液調合装置が提案されている(特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開2002−143660号公報
【特許文献2】特開2004−298740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法は、第2の溶液から第1の溶液への注入制御を多孔質媒体を介して拡散で行っているため、混合比が大きくかつ全体の流量が少量の場合でも、連続式で混合液を得ることができるという利点がある。しかしながら、上記方法であっても、未だ改善の余地を残すものである。即ち、この拡散注入法で用いられる多孔質媒体(セラミック膜フィルター)では、薬剤(例えば、アンモニア水)の透過量が多きすぎるため、アンモニア水等に対する純水等の稀釈倍率を1000倍以上に大きくして、得られる機能水のpHを9〜10に正確に制御することは極めて困難であるとともに、純水等が多孔質媒体(セラミック膜フィルター)の外表面を通過するため、半導体用に用いるために超純水による十分な洗浄を施さなければ、得られる機能水に多孔質媒体(セラミック膜フィルター)の外表面から微粒子が混入するという問題があった。
【0009】
また、混合比を調整する際には、所望の混合比とすることができる多孔質媒体を予め用意しておく必要があることに加え、上記多孔質媒体を交換するための手間がかかっていた。更に、セラミック膜フィルターである上記多孔質媒体は、微量のアルミナを含有するため、半導体洗浄に用いられる場合に、使用する前に超純水による十分な洗浄を行わなければ、洗浄される半導体がアルミナによって汚染されるおそれがあった。
【0010】
特許文献2の薬液調合装置は、混合比が大きくかつ全体の流量が少量の場合でも、連続式で薬液を得ることができるという利点がある。しかしながら、薬液流体、稀釈流体、調整される薬液などのpHに応じて、所定の膜面積を有する多孔質媒体に交換することが必要であった。従って、様々な膜面積を有する多孔質媒体を予め用意しておかなければならいという問題があった。また、多孔質媒体の交換作業には手間がかかるという問題もあった。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、薬液流体を稀釈流体によって高い稀釈倍率で(超稀釈濃度に)稀釈する際に、汚染の少ない超稀釈濃度の稀釈薬液流体を正確に調合することが可能であるとともに、pHの調整が容易である(多孔質媒体の交換を必要としない)薬液調合装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、平面状の多孔質平膜と、この多孔質平膜の一方の面上に押圧された状態で配設されるO−リングとを備え、多孔質平膜の、上記O−リングの内側に対応する部分に、このO−リングが配設された一方の面側から透過した薬液流体が、他方の面側で稀釈流体に注入される注入膜面が形成された注入手段を備えることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明によれば、以下に示す、薬液調合装置が提供される。
【0014】
[1] 薬液流体流入手段と、稀釈流体流入手段と前記薬液流体流入手段の下流に配設され、前記薬液流体流入手段から流出した薬液流体を前記稀釈流体流入手段から流出した稀釈流体に注入する注入手段と、を備えた薬液調合装置であって、前記注入手段が、平面状の多孔質平膜と、前記多孔質平膜の一方の面上に押圧された状態で配設されるO−リングとを備え、前記多孔質平膜の、前記O−リングの内側に対応する部分に、前記O−リングが配設された一方の面側から透過した前記薬液流体が、他方の面側で前記稀釈流体に注入される注入膜面が形成されたものであり、前記注入膜面の膜面積が、透過した前記薬液流体が所定の注入割合となるように前記稀釈流体に注入されることが可能な面積に、前記O−リングの内径を調整することにより制御された薬液調合装置。
【0015】
[2] 前記多孔質平膜が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスルフォン樹脂、又はポリアクリロニトリル樹脂によって構成された前記[1]に記載の薬液調合装置。
【0016】
[3] 前記多孔質平膜の前記他方の面側に、多孔質板が配設された前記[1]又は[2]に記載の薬液調合装置。
【0017】
[4] 前記注入手段から流出した前記薬液流体が注入された前記稀釈流体が、流動する流動部と、前記流動部の内部に配設され、前記薬液流体が注入された前記稀釈流体の流動を阻害して乱流を発生させる邪魔板と、を備えた溶解手段が配設された前記[1]〜[3]のいずれかに記載の薬液調合装置。
【0018】
[5] 前記溶解手段が、前記邪魔板を複数備え、隣接する前記邪魔板どうしの間に、小片状成形体が充填されたものである前記[4]に記載の薬液調合装置。
【0019】
[6] 前記薬液流体が、アンモニア水、又は、アンモニアガスである前記[1]〜[5]のいずれかに記載の薬液調合装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明の薬液調合装置は、薬液流体を稀釈流体によって高い稀釈倍率で(超稀釈濃度に)稀釈する際に、汚染の少ない超稀釈濃度の稀釈薬液流体を正確に調合することが可能であるとともに、pHの調整が容易である(多孔質媒体の交換を必要としない)という効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0022】
[1]薬液調合装置:
本発明の薬液調合装置の一の実施形態を模式的に示す説明図である。図3に示すように、本実施形態の薬液調合装置100は、薬液流体流入手段10と、稀釈流体流入手段20と、薬液流体流入手段10の下流に配設され、薬液流体流入手段10から流出した薬液流体を稀釈流体流入手段10から流出した稀釈流体に注入する注入手段30と、を備え、注入手段30が、平面状の多孔質平膜31と、多孔質平膜31の一方の面上に押圧された状態で配設されるO−リングとを備え、多孔質平膜31の、O−リングの内側に対応する部分に、O−リングが配設された一方の面側から透過した薬液流体が、他方の面側で稀釈流体に注入される注入膜面が形成されたものであり、注入膜面の膜面積が、透過した薬液流体が所定の注入割合となるように稀釈流体に注入されることが可能な面積に、O−リングの内径を調整することにより制御されたものである。
【0023】
このような構成により、薬液流体を稀釈流体によって高い稀釈倍率で(超稀釈濃度に)稀釈する際に、汚染の少ない超稀釈濃度の稀釈薬液流体を正確に調合することが可能であるとともに、pHの調整が容易である。
【0024】
[1−1]薬液流体流入手段:
薬液流体流入手段は、注入手段に薬液流体を流入させることができる構成を有するものである限り特に制限はない。例えば、図3に示す薬液調合装置100は、薬液流体を貯留したキャニスター缶61と、このキャニスター缶11に接続されてキャニスター缶11に加圧窒素ガスを圧入する加圧窒素ガスボンベ12とを有し、加圧窒素ガスの圧入配管に微粒子除去用のフィルタ13が配設された薬液流体流入手段10を備えた例である。なお、薬液流体は、特に制限はないが、例えば、アンモニア水、又は、アンモニアガスであることが好ましい。
【0025】
これらの薬液流体の中でも、次の理由により、アンモニア水を用いることが好ましい。即ち、従来、半導体、液晶ガラス及びフォトマスク等の洗浄に用いられる薬液は、超純水に炭酸ガスを溶解させて帯電防止を行ったものを用いていた。しかし、低い比抵抗値での使用において、炭酸ガスを溶解させるためには時間がかかったり、気泡が発生し易かったりするなどの問題があった。また、洗浄に際し、半導体等に付着している微粒子は、一般的にマイナスに帯電しているため、薬液が酸性である場合には、薬液がプラスに帯電する。従って、半導体等の洗浄対象物の表面はプラスに帯電することになる。そのため、半導体等に付着している微粒子と半導体等の洗浄対象物とが引き付け合うことになり、酸性側で帯電防止を行うこと(薬液が酸性であること)は、洗浄対象物を洗浄するという観点からは好ましくない。従って、帯電防止を行うとともに、薬液をアルカリ性にすることが可能である観点から、薬液流体としてアンモニア水を用いることが好ましい。
【0026】
[1−2]稀釈流体流入手段:
稀釈流体流入手段は、稀釈流体を流入させることができる構成を有するものである限り特に制限はない。例えば、図3に示す薬液調合装置100は、稀釈流体を貯蔵する貯蔵タンク21と、この貯蔵タンク21から稀釈流体を排出するポンプ(不図示)を有し、更に減圧弁22が配設された稀釈流体流入手段20を備えた例である。なお、加圧された所定の流量の超純水(稀釈流体)を用いる場合は、ポンプを用いなくてもよい。稀釈流体は、特に制限はないが、例えば、超純水であることが好ましい。
【0027】
[1−3]注入手段:
注入手段は、上記薬液流体流入手段の下流に配設され、薬液流体流入手段から流出した薬液流体を稀釈流体流入手段から流出した稀釈流体に注入するためのものであり、平面状の多孔質平膜と、この多孔質平膜の一方の面上に押圧された状態で配設されるO−リングとを備えている。そして、上記多孔質平膜の、O−リングの内側に対応する部分に、O−リングが配設された一方の面側から透過した薬液流体が、他方の面側で稀釈流体に注入される注入膜面が形成されたものである。この注入手段は、上記注入膜面の膜面積が、透過した薬液流体が所定の注入割合となるように稀釈流体に注入されることが可能な面積に、O−リングの内径を調整することにより制御されたものである。
【0028】
例えば、図1に示すように、本実施形態の薬液調合装置は、図3に示す薬液流体流入手段10の下流に配設され、超純水(稀釈流体)が流入する円柱状の流路41と、注入手段30を収納する円柱状の収納空間42と、流路41及び収納空間42を連通する円柱状の連通孔43を備えたポリプロピレン製のハウジング40の上記収納空間42に注入手段30が収納されたものである。なお、ハウジングの材料は、ポリプロピレン樹脂に限らず、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂などを用いることができる。
【0029】
なお、ハウジング40の連通孔43の形状は特に制限はないが、円柱状である場合、その直径が0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.5〜1.0mmであることが更に好ましい。0.1mm未満であると、抵抗が大きくなるためアンモニア水を注入することができなくなるおそれがある。一方、2.0mm超であると、アンモニア水が過剰に注入されるおそれがある。
【0030】
本発明の薬液調合装置は、例えば、特許文献1の方法及び特許文献2の薬液調合装置が有する問題を解決した装置である。即ち、上述したようにO−リングの内径を調整することによって、所定の注入割合で薬液流体を透過させることができる。そのため、内径の異なるO−リングを多数用意しておくだけでよく、また、薬液流体、稀釈流体、調整される薬液などのpHに応じて、O−リングを交換する作業だけでpHを容易に調整することができるという利点がある。
【0031】
[1−3−1]多孔質平膜:
多孔質平膜は、三次元状に連続した多数の微細な細孔を有する薄膜である。多孔質平膜の細孔の孔径は、特に制限はないが、0.05〜0.5μmであることが好ましく、0.08〜0.2μmであることが更に好ましく、0.1μmであることが特に好ましい。上記孔径が、0.05μm未満であると、アンモニア水が注入されなくなるおそれがある。一方、孔径が0.5μm超であると、アンモニア水中の微粒子が流出してしまうおそれがある。なお、多孔質板の細孔は、その孔径が揃っていることが好ましい。このことにより、均質なアンモニア水を注入することができるという利点がある。
【0032】
上記多孔質平膜は、どのような材料により構成されるものであってもよいが、薬液流体として帯電防止が可能であるとともにアルカリ性である流体を用いる場合、特にアンモニア水を用いる場合には、親水性を有する材料により構成されたものであることが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリスルフォン(PS)樹脂、又は、ポリアクリロニトリル(PAN)樹脂によって構成されたものであることが好ましい。これらの中でも、PTFE樹脂製の多孔質平膜が好ましい。
【0033】
上記多孔質平膜は、本発明の効果を奏する形状である限りその形状に特に制限はなく、例えば、円形状、長方形状、正方形状などとすることができる。なお、例えば、円形状の多孔質平膜の場合には、その直径が、1〜7mmであることが好ましく、2〜6mmであることが更に好ましく、3〜5mmであることが特に好ましい。上記孔径が、1mm未満であると、その加工が困難になるおそれがある。一方、孔径が7mm超であると、アンモニア水の注入量の調整が困難になるため過剰にアンモニア水が注入されるおそれがある。
【0034】
このような多孔質平膜の市販品としては、例えば、ポアフロン(住友電工ファインポリマー社製)、親水性PTFEタイプメンブレンフィルター(アドバンテック東洋社製)などを挙げることができる。
【0035】
なお、上記多孔質平膜は、疎水性のものを用いることもできるが、疎水性の多孔質平膜を使用する場合には、使用前にアルコールなどによって多孔質平膜を親水化する必要があるため作業が煩雑になる。また、上記親水化に使用したアルコールが、稀釈流体(例えば、超純水)に混入してしまうおそれがある。これらの観点から、多孔質平膜は、親水性のものが好ましい。
【0036】
[1−3−2]O−リング:
O−リングは、上記多孔質平膜の一方の面上に押圧された状態で配設されるものである。このO−リングの材料としては、公知のものを用いることができ、上記薬液流体に耐性を有するものであることが好ましい。例えば、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)製、パーフロロゴム製、シリコンゴム製、フッ素ゴム製、バイトン製などのO−リングを用いることができる。
【0037】
本実施形態の薬液調合装置は、例えば、図1に示すように、薬液流体が流入する円柱状の蓋部貫通孔50aを備えた円柱状の蓋部材50と、この蓋部材50の外周に配置された押圧用O−リング51とによって、蓋部材50と円形状の多孔質平膜31との間に配設したO−リング32を多孔質平膜31の一方の面上に押圧しているものである。
【0038】
なお、蓋部材50の蓋部貫通孔50aの形状は特に制限はないが、円柱状である場合、その直径が0.1〜2mmであることが好ましく、0.5〜1mmであることが更に好ましい。0.1mm未満であると、抵抗が大きくなるためアンモニア水を注入することができなくなるおそれがある。一方、2mm超であると、アンモニア水の注入量の調整が困難になるためアンモニア水が過剰に注入されるおそれがある。
【0039】
本発明の薬液調合装置の注入手段は、上記多孔質平膜の、上記O−リングの内側に対応する部分に、O−リングが配設された一方の面側から透過した薬液流体が、他方の面側で稀釈流体に注入される注入膜面が形成されるものである。この注入膜面は、その膜面積が、透過した薬液流体が所定の注入割合となるように稀釈流体に注入されることが可能な面積に制御される。この膜面積の制御は、O−リングの内径を調整することにより容易に行うことができる。ここで、「O−リングの内側に対応する部分」とは、O−リングが多孔質平膜の一方の面上に押圧されたとき、O−リングによって環状に区切られる多孔質平膜上の領域を意味する。
【0040】
上記注入膜面の面積は、透過した薬液流体が所定の注入割合となるように稀釈流体に注入されることが可能な面積である限り特に制限はないが、0.05〜0.4cmであることが好ましく、0.08〜0.3cmであることが更に好ましく、0.1〜0.2cmであることが特に好ましい。0.05cm未満であると、アンモニア水を注入するためには高圧をかけることが必要になるおそれがある。一方、0.4cm超であると、アンモニア水を注入する圧力が低くなり、水圧のとの差圧が十分に取れなくなるため、水圧変動が起きた時、水圧の方が高くなってアンモニア水が注入できなくなるおそれがある。
【0041】
即ち、O−リングの直径は、2.5〜7mmであることが好ましく、3〜6mmであることが更に好ましく、3.5〜4mmであることが特に好ましい。2.5mm未満であると、アンモニア水を注入するためには高圧をかけることが必要になるおそれがある。一方、7mm超であると、アンモニア水を注入する圧力が低くなり、水圧のとの差圧が十分に取れなくなるため、水圧変動が起きた時、水圧の方が高くなってアンモニア水が注入できなくなるおそれがある。
【0042】
[1−3−3]多孔質板:
多孔質板は、多孔質平膜を支持するためのものであり、三次元状に連続した多数の微細な細孔を有するものである。このような多孔質板を多孔質平膜の他方の面(O−リングが配設された一方の面とは反対の面)側に配設することにより、薬液流体流入手段から流出される薬液流体の流入圧力によって多孔質平膜が変形したり、破損したりすることを防止することができるという利点がある。
【0043】
本実施形態の薬液調合装置は、例えば、図1に示すように、多孔質平膜31の他方の面(O−リング32が配設された一方の面とは反対の面)側に円柱状の多孔質板60を配設したものである。
【0044】
上記多孔質板は、上記条件を満たすものである限り特に制限はないが、その細孔の孔径は、1〜10μmであることが好ましく、2〜8μmであることが更に好ましく、5μmであることが特に好ましい。
【0045】
また、上記多孔質板の種類は特に制限はなく、セラミックス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などを使用することができる。これらの中でもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂が好ましい。上記セラミックスの種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、ムライト、コージェライト、及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0046】
また、上記多孔質板の厚みは、1〜10mmであることが好ましく、2〜8mmであることが更に好ましく、5mmであることが特に好ましい。1mm未満であると、組み付け時に破損するおそれがある。一方、10mm超であると、抵抗が大きくなるため薬液流体の流通を制限してしまうおそれがある。
【0047】
また、上記多孔質板は、上記多孔質平膜を支持することができる限りその形状は特に制限はなく、例えば、円柱状、立方体状、直方体状などとすることができる。
【0048】
ここで、半導体、液晶ガラス及びフォトマスク等の洗浄に用いられる薬液は、半導体等に付着している微粒子が一般的にマイナスに帯電しているため、そのpHが9〜10の範囲内で、反発力により結合させないために電位はマイナスであることが求められる。従って、本発明の薬液調合装置において調合する薬液は、上記範囲のpHに調整することが必要であり、本発明の薬液調合装置は上述した注入膜面の面積を制御すること、即ち、O−リングの内径を調整することに行うことによってpHを調整することができる。
【0049】
具体的には、アンモニア水(薬液流体)と超純水(稀釈流体)との差圧0.1MPa(薬液流体(MPa)>稀釈流体(MPa))、流体温度23℃であり、多孔質平膜の細孔の孔径が0.1μmであり、多孔質板の厚さが、5mmであって、細孔の孔径が5μmであるとき、5wt%濃度のアンモニア水の注入手段の透過量は20mL/min/cmである。この場合、超純水のpHを10にするには、アンモニア水は約7mg/Lの濃度で加えられることが必要となる。従って、アンモニア水を上記濃度で加えるには、膜面積を0.14cmとすればよい。即ち、直径(内径)4mmのO−リングを用いることにより超純水のpHを10にすることができる。
【0050】
[1−4]溶解手段:
本発明の薬液調合装置は、注入手段から流出した薬液流体が注入された稀釈流体が、流動する流動部と、流動部の内部に配設され、薬液流体が注入された稀釈流体の流動を阻害して乱流を発生させる邪魔板と、を備えた溶解手段を配設することが好ましい。このような溶解手段により、薬液流体と稀釈流体とを確実に混合させることができるという利点がある。
【0051】
本実施形態の薬液調合装置は、例えば、図1に示すように、注入手段30から流出した薬液流体が注入された稀釈流体が、流動する流動部71と、流動部71の内部に複数設けられるとともに、それぞれの一部が重なるように互い違いに配置され、薬液流体が注入された稀釈流体の流動を阻害して乱流を発生させる邪魔板72と、を備えた溶解手段70が配設されたものである。なお、上記流動部は、注入手段から流出した薬液流体が注入された稀釈流体が、流動するための部分である限り特に制限はなく、例えば、図1に示す溶解手段70のように、ハウジング40の流路41のうち、連通孔43より下流の空間を流動部71とすることもできるし、ハウジング40の流路41に別途配管などを継足し、この配管を流動部とすることもできる。また、上記邪魔板は、上記流動部の内部に配設され、薬液流体が注入された稀釈流体の流動を阻害して乱流を発生させるものである限り、大きさ、形状、配置などに特に制限はない。
【0052】
更に、溶解手段としては、例えば、ラインミキサーなどを挙げることもできる。これらは、単独でまたは複数で用いることができる。例えば、図3に示す薬液調合装置100は、図1に示す流動部71及び邪魔板72に加え、これらの下流にラインミキサー73を備えた例である。
【0053】
なお、上記溶解手段が複数の邪魔板を備えている場合、隣接する邪魔板どうしの間に、小片状成形体を充填することも好ましい。小片状成形体としては、例えば、パイプ片、小球体などを挙げることができる。このように小片状成形体を充填することにより、薬液流体と稀釈流体とを更に確実に混合させることができるという利点がある。
【0054】
[1−5]その他の手段:
本発明の薬液調合装置は、上述した、薬液流体流入手段、稀釈流体流入手段、注入手段、溶解手段以外に、薬液流体流入調整手段や超音波発生手段などを備えることができる。
【0055】
薬液流体流入調整手段としては、例えば、pH計、または比抵抗計若しくは導電率計と電磁弁とを備えたものを挙げることができる。例えば、図3に示す薬液調合装置100は、高速電磁弁(S)50と導電率計(XIS)51とを有する薬液流体流入調整手段80を備えた例である。なお、アンモニア水(薬液流体)は超純水(稀釈流体)中に微量に添加されるものであるため、超純水の流量変動に対応することを可能にすることを目的として、pH計と電磁弁とによりアンモニア水の添加をフィードバック制御することが好ましい。この場合、pH計は応答速度が遅いため、相関関係にある導電率計又は比抵抗計を用いることもできる。
【0056】
超音波発生手段は、半導体などの洗浄対象物表面の洗浄に際し、超音波を併用することによって洗浄対象物表面の微粒子の除去効率を向上させるものである。超音波発生手段としては、例えば、超音波発振器を挙げることができる。
【0057】
一般的に、微粒子はマイナスに帯電しており、静電気力によって洗浄対象物に付着している。そこへ50kHz〜3MHzの超音波を用いて微粒子を洗浄対象物から強制的に剥離させると、同時に、薬液(希薄なアンモニア水)を使用する。そうすると、洗浄対象物の表面がマイナスに帯電し、電気的な反発力により一旦剥離した微粒子が洗浄対象物へ再付着することを防止することが可能となる。このとき、アルカリ性を有する薬液流体として、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)のような金属イオンを含んだ薬液ではなく、アンモニア水を用いることによって薬液による金属汚染を防ぐこともできる。なお、pHが高すぎると(アンモニア濃度が高すぎると)洗浄対象物によっては表面をエッチングしてしまうため、pHは10以下にすることが好ましい。
【0058】
本発明の薬液調合装置における各流体の流れについて図1及び図3に基づいて以下に説明する。
【0059】
まず、稀釈流体流入手段20から超純水(稀釈流体)をハウジング40に流入させる。その後、薬液流体流入手段10からアンモニア水(薬液流体)をハウジング40内に収納した注入手段30に流入させる。注入手段30に流入したアンモニア水は、多孔質平膜31によってその流入が制限され、所望の量のアンモニア水が多孔質平膜31を透過する。このように多孔質平膜31を配設すると、アンモニア水の流量に脈動が生じ難くなる。従って、アンモニア水を超純水によって高い稀釈倍率で(超稀釈濃度に)稀釈する際に、超稀釈濃度の薬液(アンモニア水を注入した超純水)を正確に調合することが可能になる。なお、多孔質平膜31を透過するアンモニア水の量は、O−リング32の内径によって制御することができる。即ち、O−リング32の内径が大きければ、多くのアンモニア水が透過し、O−リング32の内径が小さければ、少量のアンモニア水が透過する。
【0060】
このようにして多孔質平膜31を透過したアンモニア水は、更に、多孔質板60を透過する。多孔質板60を透過したアンモニア水は、ハウジング40の連通孔43を通り、所定の割合で超純水に注入される。なお、アンモニア水は、超純水よりも高い圧力を加えることによって、超純水が連通孔43に流入すること防止することができる。その後、アンモニア水が注入された超純水を溶解手段により完全に混合する。このようにして薬液を調合し、この薬液を洗浄機に送ることによって半導体などの洗浄対象物を洗浄することができる。
【0061】
なお、薬液のpHを調整は、蓋部材50を取り外し、O−リング32を交換することにより行うことができる。O−リング32を交換した後、蓋部材50を取り付ければよい。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
まず、収納空間を有するポリプロピレン製のハウジングを用意し、このハウジングに、厚さが5mmであり、直径が4mmであり、細孔の孔径が10μmであるPTFE製の多孔質板を収納した。その後、この多孔質板上に、膜面積が0.14mであり、直径が4mmであり、細孔の孔径が0.1μmであり、疎水性のPTFE製の多孔質平膜を配置した。続いて、直径4mmであるEPDM製のO−リングを配置した。その後、O−リングを多孔質平膜の一方の面上に押圧された状態とした。
【0064】
次に、洗浄機での運転モードによって使用する超純水を、図2に示すように、2〜20L/分の範囲で流量を変動させるとともに、5wt%の濃度のアンモニア水をインラインで添加して、pHが10になるように制御を行った。なお、超純水の水圧は、減圧弁にて0.15MPaになるように設定されているため、超純水の流量が変動しても水圧の変動はない。また、アンモニア水の多孔質平膜への供給圧力は、0.25MPaであり、上記膜にかかる濾過圧力は0.1MPa(=0.25−0.15)である。pHの制御は、pH計では電極の応答性が低いため、比抵抗計(型番HE−480R、堀場エステック社製)を用いて行い、比抵抗値が約0.04MΩ・cmとなるようにした。超純水にアンモニア水を添加した後、アンモニア水の片流れ、溶解、及び分散を促進させるために、ラインミキサー(型番MX666−R6、ノリタケカンパニー社製)にて混合を行った。
【0065】
以上の制御の結果、図2に示すように、本実施例において比抵抗値は0.04〜0.1MΩ・cmの範囲であった。これはpH値に換算すると、9.6〜10に相当し、非常に狭い範囲で精度良く、pHの制御が可能であることが確認できた。なお、pH=10の時、比抵抗値は0.04MΩ・cmとなり、pH=9.6の時、比抵抗値は1.0MΩ・cmとなる。
【0066】
また、得られた超希薄アンモニア水を用い、洗浄機内でガラス基板を洗浄した。その結果、洗浄後のガラス基板上に残存する微粒子は50個であり、洗浄性が高いことが確認できた。なお、本評価において、「微粒子」とは、粒子径の直径が0.2μm以上のものをいう。
【0067】
(比較例1)
注入手段を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、薬液のpHを制御しつつ、薬液を調合した。なお、定量ポンプの流量は5mL/分であり、ダイヤフラム式であるため流量に脈動が生じ、流量に変動があった。そのため、ポンプの吐出圧力は絶えず変動しており、0.1〜0.3MPaの範囲で超純水にアンモニア水を供給した。このときの導電率は、0.006〜0.3MΩ・cmであり、pHは9〜11の範囲で変動した。また、得られた超希薄アンモニア水を用い、洗浄機内でガラス基板の洗浄を行った。その結果、洗浄後のガラス基板上に残存する微粒子は100個であった。なお、本評価において、「微粒子」とは、粒子径の直径が0.2μm以上のものをいう。
【0068】
以上のように、実施例1の薬液調合装置は、比較例1の薬剤調合装置に比べて、非常に狭い範囲で精度良く、pHの制御が可能であることが確認できた。また、実施例1の薬液調合装置により得られる薬剤は、比較例1の薬剤調合装置により得られる薬剤に比べて、洗浄性が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の薬液調合装置は、薬液流体を稀釈流体によって高い稀釈倍率で(超稀釈濃度に)稀釈する際に、汚染の少ない超稀釈濃度の稀釈薬液流体を正確に調合することが可能な薬液調合装置として好適に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の薬液調合装置の注入手段の一の実施形態を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明の薬液調合装置の実施例1及び比較例1において得られた超稀釈アンモニア水の比抵抗値と超純水の流量と関係を示すグラフである。
【図3】本発明の薬液調合装置の一の実施形態を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0071】
10:薬液流体流入手段、11:キャニスター缶、12:加圧窒素ガスボンベ、20:稀釈流体流入手段、21:貯蔵タンク、22:減圧弁、30:注入手段、31:多孔質平膜、32:O−リング、40:ハウジング、41:流路、42:収納空間、43:連通孔、50:高速電磁弁、51:導電率計、60:多孔質板、70:溶解手段、71:流動部、72:邪魔板、73:ラインミキサー、80:薬液流体流入調整手段、100:薬液調合装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液流体流入手段と、
稀釈流体流入手段と、
前記薬液流体流入手段の下流に配設され、前記薬液流体流入手段から流出した薬液流体を前記稀釈流体流入手段から流出した稀釈流体に注入する注入手段と、を備えた薬液調合装置であって、
前記注入手段が、平面状の多孔質平膜と、前記多孔質平膜の一方の面上に押圧された状態で配設されるO−リングとを備え、
前記多孔質平膜の、前記O−リングの内側に対応する部分に、前記O−リングが配設された一方の面側から透過した前記薬液流体が、他方の面側で前記稀釈流体に注入される注入膜面が形成されたものであり、
前記注入膜面の膜面積が、透過した前記薬液流体が所定の注入割合となるように前記稀釈流体に注入されることが可能な面積に、前記O−リングの内径を調整することにより制御された薬液調合装置。
【請求項2】
前記多孔質平膜が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスルフォン樹脂、又はポリアクリロニトリル樹脂によって構成された請求項1に記載の薬液調合装置。
【請求項3】
前記多孔質平膜の前記他方の面側に、多孔質板が配設された請求項1又は2に記載の薬液調合装置。
【請求項4】
前記注入手段から流出した前記薬液流体が注入された前記稀釈流体が、流動する流動部と、
前記流動部の内部に配設され、前記薬液流体が注入された前記稀釈流体の流動を阻害して乱流を発生させる邪魔板と、を備えた溶解手段が配設された請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬液調合装置。
【請求項5】
前記溶解手段が、前記邪魔板を複数備え、
隣接する前記邪魔板どうしの間に、小片状成形体が充填されたものである請求項4に記載の薬液調合装置。
【請求項6】
前記薬液流体が、アンモニア水、又は、アンモニアガスである請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬液調合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−161733(P2008−161733A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350555(P2006−350555)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】