薬物含有高分子微小球の製造方法及びその方法により製造された薬物含有高分子微小球
本発明は薬物含有高分子微小球の製造方法及びその方法により、製造された薬物含有高分子微小球に関するものにして、具体的にはa)高分子化合物、薬物及び水不溶性有機溶媒を含む分散相を分散溶媒に添加してO/W型又はO/O型乳剤を製造するか、又は薬物が溶解している水溶性液を高分子化合物が溶解している水不溶性有機溶媒に乳化させ、W/O型乳剤を造った後、これを再度分散溶媒に添加してW/O/W型乳剤を製造する工程;及びb)前記a)工程で製造された乳剤にアンモニア溶液を添加して前記水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させる工程を含む薬物含有高分子微小球の製造方法及び前記方法により、製造された薬物含有高分子微小球に関するものである。前記本発明の方法によれば少量の水を用いて短時間内に簡単に目的とする薬物含有高分子微小球を製造できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物含有高分子微小球の製造方法及びその方法により製造された薬物含有高分子微小球に関する。具体的には高分子化合物、薬物及び水不溶性有機溶媒を含む分散相を分散溶媒に添加して乳剤を製造する工程、及び製造された乳剤にアンモニア溶液を添加して前記水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させる工程を含む、薬物含有高分子微小球の製造方法及びその方法により製造された薬物含有高分子微小球に関する。
【背景技術】
【0002】
水液剤、懸濁剤及び乳剤のような従来の注射剤形等は筋肉や皮下投与後速かに体内で除去される為、慢性疾患治療時には頻繁な注射投与が必須的であった。このような問題点を解決する為に考案されたマイクロカプセル化(microencapsulation)は、高分子化合物から成る微小球(microsphere、以下の記載で微小球はナノ微小球(nanosphere)を包含する)剤形に薬物を封入する製造工程と呼ばれる。微小球は普通μm単位の大きさを有することから、人体や動物に筋肉又は皮下注射で投与可能である。さらに、多様な薬物放出速度を有するように製造することができ、薬物送達期間を制御することができる。そのため、ただ一度の投与だけでも長時間にわたり有効な治療薬物濃度を保持することができ、治療に必要な薬物の総投与量を極小化することができ、患者の薬物治療順応度を向上させることができる。そのため現在有名な全世界の製薬会社では薬物含有高分子微小球製造に非常に大きな関心を示している。
【0003】
マイクロカプセル化を介して高分子微小球を製造する際には、ポリ−d,1−ラクチド−コ−グリコライド(poly−d,1−lactide−co−glycolide,PLGA)が高分子化合物として最も広く用いられる。PLGAは生体内で加水分解され無毒性の乳酸(lactic acid)とグリコール酸(glycolic acid)に変換される生体適合性高分子化合物である。そのため、製薬産業界はPLGAを用いた医薬品剤形の開発に多大な努力を注いでいるものの、現在市販されているPLGAを使用して製造された微小球製品の例としては、リスペルダル(Risperdal、登録商標)、コンスタ(Consta、登録商標)、サンドスタチン LAR(Sandostatin LAR、登録商標)、ビビトロール(Vivitrol、登録商標)、さらにルプロンデポト(Lupron Depot、登録商標)等が挙げられる。これらのそれぞれは、患者に1回注射投与されリスペリドン(risperidone)、オクトレオチドアセテート(octreotide acetate)、ナルトレキソン(naltrexone)、さらにルプロライドアセテート(leuprolide acetate)の放出を2週間から4ヶ月までの範囲で調節する。
【0004】
従来、このような薬物含有高分子微小球は、メチレンクロライド及びエチルアセテートのような有機溶媒を用いる溶媒蒸発法又は溶媒抽出法により製造されることができた。
【0005】
先ず、溶媒蒸発法に対して簡単に説明する(米国特許 第6,471,996号、第5,985,309号及び第5,271,945号参照)。高分子化合物を溶解した有機溶媒に薬物を分散又は溶解後、水のような分散媒中に乳化させ、水中油型(O/W、オイル−イン−ウォーター)乳剤を製造する。次いで乳剤中の有機溶媒を分散媒中に拡散させ、空気/水界面を介して有機溶媒を蒸発させることにより、薬物含有高分子微小球を形成する。この時、有機溶媒の分散媒中への拡散を促進させる為に、減圧、温度上昇、過量の水を用いた有機溶媒抽出法を活用する。PLGA高分子化合物を溶解する為に、一般的に用いられる分散有機溶媒はメチレンクロライドである。このメチレンクロライドは多様な分子量とラクチド:グリコライド比を有するPLGA共重合体を良く溶解することができ、水溶解度が1.32重量%と低く、水と良く混合しない。そのためメチレンクロライドは水中油型の乳剤を造るに適した溶剤である。さらに、39.8℃という低い沸点のため、乳剤液体滴から水に拡散した少量のメチレンクロライド分子が水と空気界面を介して良く蒸発される。このような過程が持続的に繰返されると、乳剤滴からメチレンクロライドが除去されることにより微小球が製造される。最後に、その低い沸点のため微小球中に存在する残留メチレンクロライドを乾燥して除去することが極めて容易である。溶媒蒸発法に基づいて乳剤滴を微小球に変化させる模式図を図1に示した。図1において、(A)でPLGA/薬物/メチレンクロライドで構成された分散相が水のような外側相中に水中油型の乳剤で存在し(水に溶解されているメチレンクロライドは△印で表現した)、メチレンクロライドが水中に拡散し、蒸発される過程が繰返されると乳剤滴は(B)で見られる通り微粒子に変換される。
【0006】
このように、メチレンクロライドは強い揮発性を有し、水と良く混ざらず水より遥かに低い沸点を有する点で、乳剤を造る為の最適の有機溶媒であるにも拘らず、次のような問題点を有する:(a)実験的に確認された発癌物質である;(b)大気のオゾン層を破壊し環境毒性を引起し、人体の皮膚癌発生を増加させる;(c)米国保健福祉部所属の毒性物質及び疾病担当部署(Agency for Toxic Substances and Registry)で規定している最も危険な38種の毒性有害物質中の一つに属する;(d)水溶解度が約1.32重量%と低く、極一部のみが水に溶解され蒸発されるので、用いられた総量のメチレンクロライドの内、乳剤滴に含まれているメチレンクロライドが完全に除去されるにはかなりの時間がかかる。例をあげれば、米国特許第6,884,435号では、乳剤からメチレンクロライドを除去する為に、一夜乳剤を撹拌し、微小球製造時間を短縮する為に反応槽(reactor)の温度を上昇させるか、又は減圧条件を導入したりする(米国特許第3,691,090号、第3,891,570号、第6,270,700号及び第6,572,894号参照)。
【0007】
一方、薬物含有高分子微小球の製造に使用される溶媒抽出法は、乳剤滴に含まれている有機溶媒を大量の可溶化溶媒を用いて効果的に抽出する方法である。有機溶媒が乳剤滴から抽出されると、溶解されていた高分子化合物が硬化され乳剤滴が微小球に転換される。一般的に用いられる可溶化溶媒は水であることから、有機溶媒の水溶解度の程度が、必要となる水の量に大きな影響を及ぼす。例えば、メチレンクロライドの場合、水溶解度が1,32重量%である為、極めて大量の水が乳剤に含まれているメチレンクロライドを抽出するために必要となる。しかしながら、メチレンクロライドを含有する廃水が大量に生成され、このような廃水の処理がさらに問題となる。そのため溶媒抽出法においては、メチレンクロライドに比べて水溶解度が高いエチルアセテートが主に用いられる。エチルアセテートは水溶解度が8.7重量%であり、メチレンクロライドに比べて相対的に少ない量の水でも抽出が可能であって、さらに、非ハロゲン化有機溶媒であると言う長所を有する。しかしながら、エチルアセテートの沸点は77℃であり、メチレンクロライドの沸点である39.8℃より遥かに高い。すなわちエチルアセテートは、乾燥時に残留溶媒を除去するのが相対的に困難であるという短所を有する。さらに特定の分子量とラクチド:グリコライド比を有するPLGA高分子化合物は、エチルアセテートに良く溶解されないという特性を示す。
【0008】
そのため、米国特許第4,389,840号、第4,530,840号、第6,544,559号、第6,368,632号及び第6,572,894号は、溶媒蒸発法と溶媒抽出法を同時に活用する技術を開示する。つまり、この方法においては乳剤を造った後、一部の有機溶媒を蒸発過程を介して除去し、残存する有機溶媒を溶媒抽出法を利用して除去する。例えば、米国特許第4,389,840号は、薬物とPLGA高分子化合物をメチレンクロライドに溶解させ、水に乳化させて水中油型乳剤を製造し、40乃至60重量%のメチレンクロライドを蒸発過程を介して除去し、残存するメチレンクロライドを多量の水で抽出することにより微小球を製造する方法を開示している。
【0009】
しかしながら、これら既存の方法で使用されたすべての有機溶媒の水溶解度は十分に高くない為、極めて過量の水(有機溶媒の水溶解度×10倍以上)を使用しなければならない。従って、この為に極めて大容量の反応槽が必要で、有機溶媒を含有する廃水が大量に生成され廃水処理の為の費用が増大する。さらに、微小球内に残存する有機溶媒を効果的に除去することが難しいと言う問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,471,996号
【特許文献2】米国特許第5,985,309号
【特許文献3】米国特許第5,271,945号
【特許文献4】米国特許第6,884,435号
【特許文献5】米国特許第3,691,090号
【特許文献6】米国特許第3,891,570号
【特許文献7】米国特許第6,270,700号
【特許文献8】米国特許第6,572,894号
【特許文献9】米国特許第4,389,840号
【特許文献10】米国特許第4,530,840号
【特許文献11】米国特許第6,544,559号
【特許文献12】米国特許第6,368,632号
【特許文献13】米国特許第6,572,894号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等は前記問題点を解決し、簡単に薬物含有高分子微小球を製造できる方法の研究を重ね、水不溶性有機溶媒に高分子化合物と薬物を溶解させ、乳剤を造り、加アンモニア分解反応を介して水溶性溶媒に変化させ、乳剤滴を微小球に硬化させることにより、簡単に薬物含有高分子微小球を製造できることを見いだして本発明を完成した。
発明の詳細な説明
技術的課題
本発明の目的は既存の溶媒蒸発又は溶媒抽出工程を必要としない、薬物含有高分子微小球の製造方法及びその方法により製造された薬物含有高分子微小球を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
技術的解決方法
前記目的を達成する為に、本発明は、
a) 高分子化合物、薬物及び水不溶性有機溶媒を含む分散相を分散溶媒に添加してO/W(オイル−イン−ウォーター、oil−in−water)型又はO/O(オイル−イン−オイル、oil−in−oil)型乳剤を製造するか、又は薬物が溶解している水性溶液を高分子化合物が溶解している水不溶性有機溶媒中に乳化させ、W/O(ウォーター−イン−オイル、water−in−oil)型乳剤をつくり、これをさらに分散溶媒に添加してW/O/W(ウォーター−イン−オイル−イン−ウォーター、water−in−oil−in−water)型乳剤を製造する工程;及び
b) 前記a)工程で製造された乳剤にアンモニア溶液を添加して前記水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させる工程を含む、薬物含有高分子微小球の製造方法を提供する。
さらに、本発明は前記方法により製造された薬物含有高分子微小球を提供する。
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明にかかる製造方法は、乳剤へのアンモニア溶液添加による加アンモニア分解反応(ammonolysis)を介して、乳剤中に存在する水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させ、乳剤滴を微小球に硬化させ、目的とする薬物含有高分子微小球を得ることを特徴とする。
【0014】
本発明にかかる高分子微小球の製法を工程別に分けて具体的に説明すれば次の通りである。
a)工程;乳剤を製造する工程
高分子化合物、薬物及び水不溶性有機溶媒を含む分散相を分散溶媒に添加してO/W型、又はO/O型乳剤を製造するか、又は薬物が溶解されている水性溶液を高分子化合物が溶解されている水不溶性有機溶媒に乳化させ、W/O型乳剤を造り、これをさらに分散溶媒に添加してW/O/W型乳剤を製造する。
【0015】
本発明に用いられる分散溶媒は、乳化剤を含む水性分散溶媒又は非水性分散溶媒を含み、O/W型及びW/O/W型乳剤製造の際には水性分散溶媒が、O/O型乳剤製造の際には非水性分散溶媒が用いられる。水性分散溶媒としては親水性乳化剤、例えば、ポリビニルアルコール又はツイン(Tween)系列のような乳化剤を含有する水性溶液又はこれの共溶媒を用いることもできる。非水性分散溶媒としては親油性乳化剤、例えば、スパン(Span)系列のような乳化剤を含有するシリコンオイル、野菜油、トルエン又はキシレンを使用できる。前記分散媒に含有されている乳化剤の濃度は0.05乃至15%(w/v)であることができる。
【0016】
本発明においては、水と混合しないが、アンモニアと反応して、分解されて水溶性溶媒に変換される任意の水不溶性有機溶媒が使用可能である。具体的には、カルボキシルエステル(carboxylic acid)、カルボキシルアミド(carboxilic amides)、アンハイドライド(anhydrides)、燐酸エステル(phosphoric esters)、さらに、ホスホリックアンハイドライドからなる群より選ばれたいずれか一つのバックボーン(backbone)を有する水不溶性有機溶媒が好ましい。より具体的には、メチルジクロロアセテート(methyl dichloroacetate)、メチルクロロアセテート(methyl chloroacetate)、エチルクロロアセテート(ethyl chloroacetate)、エチルジクロロアセテート(ethyl dichloroacetate)、メチルフルオロアセテート(methyl fluoroacetate)、メチルジフルオロアセテート(methyl difluoroacetate)、エチルフルオロアセテート(ethyl fluoroacetate)、エチルジフルオロアセテート(ethyl difluoroacetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、メチルアセテート(methyl acetate)、メチルホルマート(methyl formate)、エチルホルマート(ethyl formate)、イソプロピルホルマート(isoprophyl formate)、プロピルホルマート(propyl formate)からなる群より選ばれた水不溶性有機溶媒が好ましい。
【0017】
前記水不溶性有機溶媒は、沸点が高いために一般的には従来の微小球製法では有機溶媒として用いられなかった。しかし本発明の高分子微小球製造方法では、水不溶性有機溶媒はアンモニアと反応して水溶性溶媒に変換されるので好ましく使用できる。具体的には本発明の実施例で用いられるメチルジクロロアセテートおよびメチルクロロアセテートは、既存の溶媒蒸発法又は溶媒抽出法に広く用いられるメチレンクロライド及びエチルアセテートより遥かに高い沸点(142.9℃、129.5℃)を有し、従来の微小球製法には有機溶媒として使用することができなかった。本発明ではメチルジクロロアセテートおよびメチルクロロアセテートはアンモニアと反応して、極めて短時間内で水に完全に溶解されるジクロロアセトアミドとメタノール又は、クロロアセトアミドとメタノールに変換されるので、好ましく用いられる。必要に応じて前記メチルジクロロアセテート、又はメチルクロロアセテートと1種以上の他の有機溶媒が混合された共溶媒を用いることにより、微小球に封入しようとする薬物の溶解度を調節するか又は乳剤滴の硬化速度を適宜制御することができる。
【0018】
本発明に用いられる高分子化合物の代表的な例にはポリ乳酸、ポリラクチド、ポリ乳酸−コ−グリコール酸、ポリラクチド−コ−グリコライド(PLGA)、ポリホスファージン、ポリイミノカーボネート、ポリホスホエステル、ポリアンハイドライド、ポリオルソエステル、乳酸とカプロラクトンの共重合体、ポリカプロラクトン、ポリハイドロキシバレレート、ポリハイドロキシブチレート、ポリアミノ酸、乳酸とアミノ酸の共重合体及びこれらの混合物を挙げることができ、好ましくは、ポリラクチド−コ−グリコライド(PLGA)である。
【0019】
本発明に用いられる薬物は、すべての親水性薬物と疎水性薬物である。薬物の例としてはプロゲステロン(progesterone)、ハロペリドール(haloperidol)、チオチキセン(thiothixene)、オランザピン(olanzapine)、クロザピン(clozapine)、ブロムペリドール(bromperidol)、ピモザイド(pimozide)、リスペリドン(risperidone)、ジプラシドン(ziprasidone)、ジアゼプマ(diazepma)、エチルロフラゼペート(ethyl loflazepate)、アルプラゾラム(alprazolam)、ネモナプライド(nemonapride)、フルオキセチン(fluoxetine)、セルトラリン(sertraline)、ベノラファキシン(venlafaxine)、ドネペジル(donepezil)、タクリン(tacrine)、ガランタミン(galantamine)、リバスチグミン(rivastigmine)、セレギリン(selegiline)、ロピニロール(ropinirole)、ペルゴライド(pergolide)、トリヘキシフェニジル(trihexyphenidyl)、ブロモクリプチン(bromocriptine)、ベンズトロピン(benztropine)、コルヒチン(colchicine)、ノルダゼパム(nordazepam)、エチゾラム(etizolam)、ブロマゼパム(bromazepam)、クロチアゼパム(clotiazepam)、メキサゾリウム(mexazolum)、ブスピロン(buspirone)、ゴセリレンアセテート(goserelin acetate)、ソマトロピン(somatoropin)、ルプロライドアセテート(leuprolide acetate)、オクトレオチド(octreotide)、セトロレリクス(cetrorelix)、サンドスタチンアセテート(sandostatin acetate)、ゴナドトロピン(gonadotropin)、フルコナゾール(fluconazole)、イトラコナゾール(itraconazole)、ミゾリビン(mizoribine)、サイクロスポリン(cyclosporin)、タクロリムス(tacrolimus)、ナロキソン(naloxone)、ナルトレキソン(naltrexone)、クラトリビン(cladribine)、クロラムブシル(chlorambucil)、トリチノイン(tretinoin)、カルムシチン(carmusitne)、アナグレライド(anagrelide)、ドキソルビシン(doxorubicin)、アナストロゾル(anastrozole)、イダルビシン(idarubicin)、シスプラチン(cisplatin)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ドセタキセル(docetaxel)、パクリタキセル(paclitaxel)、ラルチトレキシド(raltitrexed)、エピルビシン(epirubicin)、レトロゾル(letrozole)、メフロキン(mefloquine)、プリマキン(primaquine)、オキシブチニン(oxybutynin)、トルトレロジン(toltrerodine)、アリルエストレノール(allylestrenol)、ロボスタチン(lovostatin)、シムバスタチン(simvastatin)、プロバスタチン(provastatin)、アトロバスタチン(atrovastatin)、アレンドロネート(alendronate)、サルカトニン(salcatonin)、ラロキシフェン(raloxifene)、オキサドロルロン(oxadrolone)、共役性エストロゲン(conjugated estrogen)、エストラジオール(estradiol)、エストラジオールバレレート(estradiol valerate)、エストラジオールベンゾエート(estradiol benzoate)、エチニルエストラジオール(ethinyl estradiol)、エトノゲストレル(etonogestrel)、レボノルゲストレル(levonorgestrel)、チボロン(tibolone)、ノルエチステロン(norethisterone)等を挙げることができ、好ましくは、リスペリドン又はプロゲステロンを用いることができる。
【0020】
疎水性薬物での製造の場合には、高分子化合物と疎水性薬物を水不溶性有機溶媒に溶解した後、水性分散溶媒又は非水性分散溶媒に懸濁させ、O/W型又はO/O型乳剤を製造することができる。親水性薬物の場合には、先ず親水性薬物を水に溶解させ、薬物が溶解している水性溶液を、高分子化合物が溶解されている有機溶媒中に乳化させ、1次的にW/O型乳剤を造り、この乳剤を水性分散溶媒中に懸濁させ、2次的にW/O/W型乳剤を製造することができる。
【0021】
前記高分子化合物は薬物1重量部に対して1乃至500重量部、好ましくは、1乃至50重量部の量で使用することができ、乳剤に含有されている高分子化合物の濃度は3乃至30%(w/v)であることができる。
【0022】
さらに、前記分散相又はW/O型乳剤と分散溶媒の容量比は1:1−100、好ましくは、1:3−15範囲であり得る。さらに、薬物が溶解されている水性溶液と高分子化合物が溶解されている水不溶性有機溶媒の容量比は1:1−50、好ましくは、1:2−20範囲であり得る。
【0023】
b)工程:水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させる工程
前記a)工程で製造されたO/W型、W/O/W型又はO/O型乳剤に、アンモニア溶液を添加して加アンモニア分解反応を介して、前記水不溶性有機溶媒を水に完全に溶解される溶媒に変換させる。乳剤滴を微小球に硬化させることにより、目的とする薬物含有高分子微小球を製造する。この際、乳剤滴の速やかな硬化に因り乳剤滴粒子間の相互作用が抑制され、凝集することなく目的とする微小球が得られる。
【0024】
本発明にかかる一つの実施態様として、薬物(リスペリドン)含有高分子微小球が生成される過程を図2に模式図として示した。図2において、(A)でPLGA/リスペリドン/メチレンジクロロアセテートから成る分散相が液体滴状態で外側相である水(□)中に乳化され、加アンモニア分解反応により(B)でメチレンジクロアセテートが、水と完全に混合するジクロロアセトアミド(下向き三角)とメタノール(上向き三角)に変換されることにより、目的とする微小球が生成される。本発明に用いられるアンモニア溶液は水不溶性有機溶媒のモル数より多いモル数のアンモニアを含有するのが最適である。
【0025】
本発明にかかるさらなる一つの実施態様として、薬物(プロゲステロン)含有高分子微小球が生成される過程を図7に模式図として示した。図7において、PLGA/プロゲステロン/メチルクロロアセテートから成る分散相が液体滴状態で外側相である水中に乳化され、加アンモニア分解反応によりメチルクロロアセテートが水と完全に混合するクロロアセトアミドとメタノールに変換することにより、目的とする微小球が生成される。
【0026】
本発明の方法により製造された高分子微小球は0.1乃至3500μm、好ましくは、10乃至350μmの平均粒経を有し、必要に応じて多様な重量の薬物を含有することができる。
【0027】
前記のように本発明の方法によれば、既存の溶媒蒸発又は溶媒抽出工程を必要とせず、少ない量の水を用いて廃水発生を最小化しながら、短時間内に簡単に薬物含有高分子微小球を製造することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の方法によれば、既存の溶媒蒸発又は溶媒抽出工程を必要とせず、少ない量の水を用いて廃水発生を最小化しながら、短時間内に簡単に薬物含有高分子微小球を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は従来の溶媒蒸発法に基づいて乳剤滴が微小球に変換される過程を模式図として示したものである。
【図2】図2は本発明にかかる一つの実施態様において薬物(リスペリドン)含有高分子微小球が生成される過程を模式図として示したものである。
【図3】図3は本発明にかかる一つの実施態様を行う過程で生成されたジクロロアセトアミドの1H−NMR及びエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI−MS)である。
【図4】図4は本発明にかかる一つの実施態様を行う過程で生成されたジクロロアセトアミドの1H−NMR及びエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI−MS)である。
【図5】図5は本発明にかかる一つの実施態様を行う過程で、フェノールフタレイン存在下で生成されたメチルクロロアセテートが含有されたアンモニア溶液の吸光度を時間を変えて測定した曲線であり、 ●:メチルクロロアセテートが存在しない場合、 ○:メチルクロロアセテートが存在する場合である。
【図6】図6はそれぞれ本発明にかかる一つの実施態様を行う過程で生成されたクロロアセトアミドの1H−NMR(図6A)及びエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI−MS)(図6B)である。
【図7】図7は加アンモニア分解過程を介した微粒子の生成過程を説明する模式図を示したものである。
【図8】図8は本発明にかかる一つの実施態様において製造された薬物(リスペリドン)含有高分子微小球の熱重量分析曲線である。
【図9】図9は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(リスペリドン)含有高分子微小球の外部(図9A)及び内部(図9B乃至9D)の形状を示す走査電子顕微鏡(scanning electron microscope)である。
【図10】図10は本発明にかかる一つの実施態様で製造されたMCA微小球中の薬物(プロゲステロン)封入率をDCM微小球の封入率と比較したグラフである。
【図11】図11は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(プロゲステロン)含有MCA微小球の熱重量(図11B)をDCM微小球の熱重量(図11A)と比較した曲線である。
【図12】図12は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(プロゲステロン)含有MCA微小球の表面形状(図12B)をDCM微小球の表面形状(図12A)と比較した走査電子顕微鏡写真である。
【図13】図13は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(プロゲステロン)含有MCA微小球の内部形状(図13B)を薬物(プロゲステロン)含有DCM微小球(図13A)の内部形状と比較した走査電子顕微鏡の写真である。
【図14】図14は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(プロゲステロン)含有PLGA微小球の表面形状(図14B)を薬物(プロゲステロン)を含有しないPLGA微小球の表面形状(図14A)と比較した走査電子顕微鏡写真である。
【図15】図15は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(プロゲステロン)含有PLGA微小球の表面形状(図15B)を薬物(プロゲステロン)を含有しないPLGA微小球の表面形状(図15A)と比較した走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を下記実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、下記実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらにより限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>
メチルジクロロアセテートを利用した加アンモニア分解反応
<1−1>メチルジクロロアセテートの加アンモニア分解反応
本発明者等は加アンモニア分解反応を介して、水不溶性有機溶媒の、水と完全に混合する溶媒への変換を確認するために、水不溶性有機溶媒としてメチルジクロロアセテートを用いて下記の通り実験を行った。
【0032】
ポリビニルアルコール(88%加水分解、分子量25,000)1%を含む水40mlに3mlのメチルジクロロアセテートを加え、550rpmで撹拌し、乳剤を造った。3分間撹拌後、乳剤に3mlのアンモニア水(濃度約30%)を加えた。5分後、水に分散されたメチルジクロロアセテート滴粒子が完全に消え去り、乳剤が単一相(one phase)の溶液に変わった。この結果は、メチルジクロロアセテートが加アンモニア分解反応を経てジクロロアセトアミドとメタノールに変換され、水と完全に混合されたことを示す(参考のため、ジクロロアセトアミドの水溶解度は71g/lである)。
【0033】
<1−2>メチルジクロロアセテートの分解産物であるジクロロアセトアミドの分離
前記<1−1>で得た透明な溶液に過量のNaClを加えて、メチルジクロロアセテートの分解産物を塩析(salting−out)させた。ここにエチルアセテートを加えた。塩析された生成物をエチルアセテート相に移し、水層から分離した。MgSO4 無水物を加えてエチルアセテート内に存在する水を除去し、濾過した後、回転蒸発器(Eyela Model N−1000)を用いてエチルアセテートを蒸発除去した。残存物中に残っているエチルアセテートを無くす為に、CHCl3 で一度洗滌後、真空乾燥して白色の粉末を得た。
【0034】
<1−3>NMR及びMS実験によるジクロロアセトアミドの同定
前記<1−2>で得た白色の粉末に対して下記の通り、NMR及びMS実験を行った;白色の粉末をアセトン−d6に溶解し、NMRを利用して1H−NMRスペクトルを観察して図3に示した。この際、テトラメチルシランに対して1Hケミカルシフトを測定した。図3に見られる通り、δH7.46と7.08で2個のアミドプロトンシグナルが観測された。さらに、2個の塩素基を有する炭素に結合するプロトンのシグナルはδH6.30で表れた。さらに、Q−tof(登録商標)2質量分析計を利用してエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI−MS)を観察して図4に示した。図4に見られる通り、m/z149.93で[M+Na+]ピークが、m/z151.93で[M+2+Na+]ピークが、さらに、m/z153.93で[M+4+Na+]ピークが表れた。2個の塩素基を有する化合物の場合、[M+Na+]、[M+2+Na+]、[M+4+Na+]ピークの強度が理論的に100、65.3及び10.6%であることを考慮すると、本実験の測定値は理論値と完全に一致した。前記1H−NMR及びESI−MS実験結果から、メチルジクロロアセテートが加アンモニア分解反応を介してジクロロアセトアミドに変換されることが確認できた。
【0035】
前記の実験結果により、加アンモニア分解反応を介して水不溶性有機溶媒であるメチルジクロロアセテートが、水溶性有機溶媒であるジクロロアセトアミドとメタノールに変換されることが確認できた。
【0036】
<実施例2>
メチルクロロアセテートを利用した加アンモニア分解反応
<2−1>メチルクロロアセテートの加アンモニア分解反応
本発明の発明者は加アンモニア分解反応を介して水不溶性有機溶媒を、水と完全に混合する溶媒に変換できることを確認する為に、水不溶性有機溶媒としてメチルクロロアセテート(水溶解度は25℃で46g/lである)を用いて下記のような実験を行った。
【0037】
水40mlに4mlのメチルクロロアセテートを加え、ホットプレート撹拌機(400HPS/VWR Scientific)を利用して3分間撹拌して乳剤を造った。次いで乳剤に4mlのアンモニア水(濃度約30%)を加えた。10分経過後、水に分散されたメチルクロロアセテート滴粒子が完全に消え去り、乳剤が単一相の溶液に変換された。
【0038】
さらに、水40mlにアンモニア水4mlが添加された水溶液に、メタノリックフェノルフタレイン溶液100μlを添加して、メチルクロロアセテート4mlを混合した。次いで前記混合液1mlを採り、U−3000UV/Visスペクトロメータ)(Shimadzu社、京都、日本)を利用して550nmで吸光度を時間を変えて測定し、結果を図5に示した。図5に示した通り、メチルクロロアセテートが添加されない場合、吸光度の変化がなかった。しかしメチルクロロアセテートが添加された場合、吸光度が急激に減少した。
【0039】
前記結果から、メチルクロロアセテートが加アンモニア分解反応を経て、クロロアセトアミドとメタノールに変換され水と完全に混合することがわかった。
【0040】
<2−2>メチルクロロアセテートの分解産物であるクロロアセトアミドの分離
前記<2−1>で得た透明な溶液に過量のNaClを加えて塩析してクロロアセトアミドを沈殿させた。次いでこれにエチルアセテートを30mlずつ3回加えた。クロロアセトアミドをエチルアセテート相に移し、水層から分離した。MgSO4 無水物を加えてエチルアセテート中に存在する水を除去して、セライト(celite)を通して濾過した後、減圧下でエチルアセテートを蒸発させ白色の粉末を得た。
【0041】
<2−3>NMR及びMS実験を介したクロロアセトアミドの同定
前記<2−2>で得た白色の粉末に対して下記の通り、NMR及びMS実験を行った;白色粉末を重水素化されたトリクロロメタン(CDCl3)に溶解した後、NMRを利用して1H−NMRスペクトルを観察して結果を図6Aに示した。この際、テトラメチルシランに対して1Hケミカルシフトを測定した。図6Aで見られる通り、δH6.55と6.04において2個のアミドプロトンシグナルが観測された。さらに、1個の塩素基を有する炭素に結合するプロトンのシグナルはδH4.05で表れた。
【0042】
さらに、Q−tof2質量分析計を利用してエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI−MS)を観察して、その結果を図6Bに示した。図6Bで見られる通り、m/z116.01で[M+Na+]ピークが、さらに、m/z118.01で[M+2+Na+]ピークが表れた。前記2個のピークの比は3:1であり、37Clの存在量と一致する。
【0043】
前記1H−NMR及びESI−MSの実験結果から、メチルクロロアセテートが、加アンモニア分解反応を介してクロロアセトアミド(C2H4ClNO)に変換されたことを確認することができた。具体的に、加アンモニア分解反応を介して水不溶性有機溶媒であるメチルクロロアセテートが水溶性有機溶媒であるクロロアセトアミドとメタノールに変換されたことを確認できた(図7参照)。
【0044】
<実施例3>
メチルジクロロアセテートを利用したPLGA微小球
<3−1>メチルジクロロアセテートを利用したPLGA微小球の製造
微小球形成のための高分子化合物としてラクチド:グリコライド比が75:25のポリ−d,1−ラクチド−コ−グリコライド(CHCl3での固有粘度0.67dL/g;以後PLGAと呼ばれる)を用いた。微小球に封入する疎水性薬物としてリスペリドン(中国changzhou United Chemical Co.,Ltdから購入)を使用した。PLGA(250mg)を3mlのメチルジクロロアセテートに完全に溶解した後、リスペリドン(125,175又は225mg)を入れて溶解した。PLGA、リスペリドン及びメチルジクロロアセテートで構成された分散相を40mlの1%ポリビニルアルコール(分子量=25,000;88%加水分解)水溶液に入れ乳化させた。この際、乳剤を造る為にマグネチック撹拌器を使用し、マグネチックバーの撹拌速度は550rpmに維持した。撹拌を開始して3分後、乳剤に3mlのアンモニア水(アンモニア濃度約30%)を加え、15分間継続して撹拌した。形成された微小球懸濁液を425μmの大きさを有する篩を通した。次いで、濾過により微小球を採り100mlの0.1%ポリビニルアルコール水溶液中に分散させた。45分経過後、微小球を濾過分離して、100mlの0.1%ポリビニルアルコール水溶液に再分散させた後、2時間撹拌した。濾過過程により取得した微小球を真空状態で一夜乾燥させた。乾燥後、微小球は優れた流動性を備えていることを確認した。これは乾燥過程中の微小球間の凝集現象が大きくなかったことを示す。さらに、微小球の収率が76.4から86.4%と観測された。本発明による方法により微小球が効果的に製造されたことがわかる。
【0045】
<3−2>熱重量分析(thermogravimetric)
PLGA250mgとリスペリドン125mgを用いて製造した微小球について、熱重量分析器TGA2050(米国TAインストルメンツ社製)を使用して熱重量を分析した。結果を図8に示した。この際、窒素ガスを使用し、温度を1分当たり10℃ずつ増加させた時の、微小球の重量変化を測定した。図8に見られる通り、メチルジクロロアセテートの沸点である142.9℃においては急激な重量変化は観察されなかった。この結果は、微小球製造の際、メチルジクロロアセテートが、水溶解性のジクロロアセトアミドとメタノールに変化され、乳剤滴から効果的に除去され、微小球が形成されたことを示している。
【0046】
<3−3>薬物のHPLC薬物分析
シマズ(Shimadzu)HPLCシステムを薬物分析に用いた。分析カラムとして長さ15cmのシメトリ(Symmetry)C18カラム(5μm)を用いた。移動相として10mMアンモニウムアセテートとメタノールの混合溶液(6:4容量比)を用い、移動相流速を1ml/分に維持した。HPLCカラムから流出される薬物を波長260nmのUVで測定した。検体の薬物濃度は4種の薬物濃度を用いて作成した標準検量曲線を基に算出した。
【0047】
<3−4>リスペリドンの封入率(encapsulation efficiency)測定
リスペリドンを含有しているPLGA微小球の一部を正確に秤量した後、4mlのテトラヒドロフランに完全に溶解させた。ここに16mlのメタノールを加え、0.45μmのポアサイズを有するナイロンフィルターで濾過した。PLGA沈殿物を除去し、濾液を調製した。濾液の一部(20μl)をHPLCに注入して薬物の濃度を測定した。下記数式1乃至3により、薬物の理論含有量(%)及び実際の含有量(%)を求め、その百分率を薬物の封入率(%)として定義した。
【0048】
数式1:
理論含有量%=100×(使用された薬物量(mg))/(使用したPLGA量(mg)+使用した薬物量(mg))
数式2:
実際の含有量%=100×( 微粒子中に存在する薬物量(mg))/(含有量測定の為に使用した微粒子量(mg))
数式3:
薬物封入率%=100×実際の含有量%/理論含有量%
【0049】
PLGA250mgとリスペリドン125mgを使用した時、封入率は97.0±2.1%であった。PLGAの量は固定され、リスペリドンの使用量を175と225mgに増加した時、それぞれの場合封入率は94.5±2.0%及び92.7±3.2%であった。このような結果は本発明の方法により微小球を製造する場合に、リスペリドンの大部分をPLGA微小球内に封入し得ることを示す。
【0050】
<3−5>微小球形状観察
本発明により製造された微小球の内部及び外部形状をJSM−5200走査電子顕微鏡を用いて観察して、図9A乃至9Dに示した。 図9Aは微小球の外部形状を示しており、球状の形態で良く分散されていることがわかる。図9B乃至図9Dの切断された微小球の内部写真はリスペリドン含有量に関係なく類似した形状を示しており、マトリックス内に小さい空洞(cavity)が観察された。すなわち本発明によれば、微小球が凝集現象なしによく分散された状態で製造されることが示された。
【0051】
<比較例>
溶媒蒸発法(solvent evaporation method)を利用したDCM微小球の製造
本発明者等は従来の溶媒蒸発法を利用したPLGA微小球と、本発明の方法で製造されたPLGA微小球を比較する為に下記のような方法で微小球を製造した。PLGA(250mg)を4mlのジクロロメタンに完全に溶解した後、プロゲステロン(60,100,160,200又は250mg)を入れて溶解した。PLGA、プロゲステロン及びジクロロメタンで構成された分散相を40mlの0.5%ポリビニルアルコール水溶液に入れて乳化させた。この際、乳剤を造る為にマグネチック撹拌器を用い、マグネチックバーの撹拌速度は550rpmに維持した。5時間撹拌後形成された微小球懸濁液を425μmのサイズを有する篩を通した。次いで、濾過により微小球を採り、真空状態で一夜乾燥させ、PLGA微小球を製造した。以下、前記過程により製造されたPLGA微小球を“DCM微小球”と称する。
【0052】
<実施例4>
メチルクロロアセテートを利用したPLGA微小球(以下“MCA微小球”)
<4−1>メチルクロロアセテートを利用したMCA微小球の製造
微小球形成のための高分子化合物として実施例<3−1>で利用したPLGAを使用した。微小球に封入する疎水性薬物としてプロゲステロンを使用した。PLGA(250,300又は350mg)を4mlのメチルクロロアセテートに完全に溶解させた後、プロゲステロン(60,100,160,200又は250mg)を入れて溶解した。PLGA、プロゲステロン及びメチルクロロアセテートで構成された分散相を40mlの0.5%ポリビニルアルコール水溶液に入れて乳化させた。この際、乳剤を造る為に、マグネチック撹拌器を使用し、マグネチックバーの撹拌速度は550rpmに維持した。撹拌開始3分後、乳剤に4mlのアンモニア水(濃度28%)を加え、10分間撹拌した。次いで、40mlの水を加えて5分間追加撹拌した。次いで、形成された微小球懸濁液を425μmのサイズを有する篩を通した。濾過により微小球を採り、80mlの0.1%ポリビニルアルコール水溶液に分散させた。2時間後、微小球を濾過分離して、真空状態で一夜乾燥させ、PLGA微小球を製造した。以下前記過程を介して製造されたPLGA微小球を“MCA微小球”と称する。
【0053】
<4−2>プロゲステロン封入率の測定
プロゲステロンを含有している前記実施例<4−1>の微小球(“MCA”微小球)のメディアン径(median size)をマスタサイザー2000(Malvern Instruments社、Worcestershire、英国)を利用して正確に測定し、4mlのテトラヒドロフランに完全に溶解させた。ここに24mlのメタノールを加え、0.45μmのポアサイズを有するナイロンフィルタで濾過した。PLGA沈殿物を除去し、濾液を調製した。濾液の一部(20μl)をHPLCに注入して、薬物の濃度を測定した。実施例<3−4>に記載された数式を利用して薬物封入率(%)を計算し、下記数式4を利用して微小球の生産率を計算した。その結果を表1に記載した。
【0054】
数式4:
生産率=100×回収された微粒子重量/(使用したPLGA量+使用したプロゲステロン量)
【0055】
【表1】
【0056】
一方、前記実施例<4−1>で製造された微小球である“MCA微小球”(PLGA投与量が250mgの場合に限る)と前記比較例で製造された微小球である“DCM微小球”の投与されたプロゲステロンの量に伴う封入率を測定して図10に記載した。図10に示した通り、MCA微小球ではプロゲステロンの量を多く投与する程、封入率は徐々に増加し、プロゲステロン投与量が250mgの場合、封入率は72.8±0.3%に達し、DCM微小球では75.2±3.8%乃至78.6±3.1%の封入率を示した。従って、MCA微小球での封入率は、プロゲステロンの量を多く投与する場合、DCM微小球の封入率と殆ど一致した。
【0057】
従って、メチルクロロアセテートを使用して、加アンモニア分解反応により製造されたMCA微小球は、プロゲステロン投与量が多い程封入率が優れ、有用な薬物含有高分子微小球に利用できることがわかった。
【0058】
<4−3>熱重量分析
実施例<4−1>と同一な方法により製造されたプロゲステロン12.4、27.4、及び36.4%のMCA微小球と、比較例と同一な方法により製造されたプロゲステロン15.2、29.4、及び38.6%のDCM微小球を対象に熱重量分析器TGA2050(米国TA Instruments社製)を用いて熱重量分析をした結果を、図11に示した。この際、窒素ガスを使用し、温度を1分当たり10℃ずつ増加させて、微小球等の重量変化を測定した。
【0059】
図11Aに示した通り、DCM微小球では150℃でジクロロメタンの蒸発により重量の0.5〜2.3%の損失があり、これは典型的な溶媒蒸発過程で起こる現象と一致する(Benoit,T.S.;Courteille,F.;Thies,C.Int.J.Pharm.1986,29,95−102)。しかし、図11Bに示した通り、MCA微小球では重量の1.6〜3.5%の損失があり、メチルクロロアセテートの沸点である129.5℃においては、急激な重量損失はなかった。この結果は、加アンモニア分解反応が効果的に乳剤滴から分散溶媒を除去したことを意味する。
【0060】
<4−5>微小球形状観察
実施例<4−1>及び比較例と同一な方法により製造された微小球等の表面及び内部形状を、JSM−5200走査電子顕微鏡を用いて観察した。
実施例<3−4>に記載された数学式2によりプロゲステロンの実際の含有量が15.2、21.7、29.4及び38.6%であるDCM微小球の表面形状をそれぞれ図12Aのa、b、c及びdに図示した。図12Aに示した通り、DCM微小球において、プロゲステロン含量が増加する程、プロゲステロン結晶体が形成され、微小球の表面が損傷されることを確認した。
【0061】
さらに、プロゲステロンの実際の含有量が12.4、18.7、27.4、及び36.4%のMCA微小球の表面形状をそれぞれ図12Bのa、b、c及びdに図示した。図12Bに示した通り、プロゲステロン含量が増加する程かえって欠点がなくなり、球形の微小球が形成され、DCM微小球で表れた結晶体(drug crystal)形成が抑制されることを確認した。
【0062】
さらに、プロゲステロンの実際の含有量が15.2、21.7、29.4及び38.6%のDCM微小球の内部形状をそれぞれ図13Aのa、b、c及びdに示した。図13Aに示した通り、DCM微小球においては、プロゲステロン含量が増加する程プロゲステロンの結晶化が起こり、プロゲステロンとPLGAポリマー間の相分離を加速化させる。最終的には微小球の内部マトリックスが歪むことを確認した。
【0063】
さらに、プロゲステロンの実際の含有量が12.4、18.7、27.4、及び36.4%のMCA微小球の表面形状をそれぞれ図13Bのa、b、c及びdに示した。図13Bに示した通り、マトリックス内に小さい空洞(cavity)が観察された。しかしDCM微小球と比較すると、プロゲステロン含量の増加に伴う変化は観察されなかった。
【0064】
従って、プロゲステロン投与量が多い場合でも、MCA微小球の表面及び内部形態は維持され、有用な薬物含有高分子微小球として利用できることが示された。
【0065】
<実施例5>
エチルクロロアセテートを利用したPLGA微小球
<5−1>エチルクロロアセテートを利用したPLGA微小球の製造
微小球形成高分子化合物として、実施例<3−1>で利用したPLGAを使用した。微小球に封入する疎水性薬物としてプロゲステロンを使用した。250mgのPLGAを4mlのエチルクロロアセテートに完全に溶解した後、プロゲステロン(60,100,160,200,又は250mg)を入れて再度溶解した。次いで、前記溶液を40mlの0.5%ポリビニルアルコール水溶液に入れ、550rpmで撹拌した。3分後、乳剤にアンモニア水(28%)9mlを入れ、60分間追加撹拌した。次いで実施例<4−1>と同一な方法でPLGA微小球を製造した。
【0066】
<5−2>プロゲステロン封入率の測定
プロゲステロンが含まれている前記実施例<5−1>の微小球のメディアン径をマスタサイザー2000(Malvern Instruments社、Worcestershire、英国)を利用して正確に測定し、4mlのテトラヒドロフランに完全に溶解させた。ここに24mlのメタノールを加え、0.45μmのポアサイズを有するナイロンフィルタで濾過した。PLGA沈殿物を除去し、濾液を調製した。濾液の一部(20μl)をHPLCに注入して、薬物の濃度を測定した。実施例<3−4>に記載された数式を利用して薬物の封入率(%)を計算し、その結果を表2に記載した。
【0067】
【表2】
【0068】
前記表2に記載された通り、エチルクロロアセテートを利用して、加アンモニア分解反応により製造されたPLGA微小球のプロゲステロン封入率は84.77±0.75乃至87.96±1.22に達し、有用な薬物含有高分子微小球として利用できることが示された。
【0069】
<5−3>微小球形状観察
実施例<5−1>と同一な方法で製造されたプロゲステロンの実際の含有量が43.1%のPLGA微小球の表面形状(図14B)をJSM−5200走査電子顕微鏡を用いて、プロゲステロンを含有しないPLGA微小球(図14A)と比較観察した。
【0070】
図14に図示した通り、プロゲステロンを投与しても、PLGA微小球はその表面形態を維持し、有用な薬物含有高分子微小球として利用できることが示された。
【0071】
<実施例6>
エチルフルオロアセテートを利用したPLGA微小球
<6−1>エチルフルオロアセテートを利用したPLGA微小球の製造
微粒子形成高分子化合物として実施例<3−1>で利用したPLGAを用いた。微小球に封入する疎水性薬物としてプロゲステロンを用いた。250mgのPLGAを4mlのエチルフルオロアセテート(Ethyl fluoroacetate)に完全に溶解させ、プロゲステロン(60,100,160,200,又は250mg)を入れて溶解した。実施例<5−1>と同一な方法でPLGA微小球を製造した。
【0072】
<6−2>プロゲステロン封入率の測定
プロゲステロンを含有している前記実施例<6−1>の微小球のメディアン径をマスタサイザー2000(Malvern Instruments社、Worcestershire、英国)を利用して正確に測定し、4mlのテトラヒドロフランに完全に溶解させた。ここに24mlのメタノールを加え、0.45μmのポアサイズを有するナイロンフィルタで濾過した。PLGA沈殿物を除去し、濾液を調製した。濾液の一部(20μl)をHPLCに注入して、薬物の濃度を測定し、実施例<3−4>に記載された数式を利用して薬物の封入率(%)を計算し、その結果を表3に記載した。
【0073】
【表3】
【0074】
前記表3に記載された通り、エチルフルオロアセテートを利用して、加アンモニア分解反応により製造されたPLGA微小球のプロゲステロン封入率は81.16±2.40乃至84.56±2.02に達し、有用な薬物含有高分子微小球として利用できることが示された。
【0075】
<6−3>微小球形状観察
実施例<6−1>と同一な方法で製造されたプロゲステロンの実際の含有量が42.3%のPLGA微小球の表面形状(図15B)をJSM−5200走査電子顕微鏡を用いて、プロゲステロンを含有しないPLGA微小球(図15A)と比較観察した。
【0076】
図15に示した通り、プロゲステロンを投与してもPLGA微小球はその表面形態を維持し、有用な薬物含有高分子微小球として利用できることが示された。
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物含有高分子微小球の製造方法及びその方法により製造された薬物含有高分子微小球に関する。具体的には高分子化合物、薬物及び水不溶性有機溶媒を含む分散相を分散溶媒に添加して乳剤を製造する工程、及び製造された乳剤にアンモニア溶液を添加して前記水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させる工程を含む、薬物含有高分子微小球の製造方法及びその方法により製造された薬物含有高分子微小球に関する。
【背景技術】
【0002】
水液剤、懸濁剤及び乳剤のような従来の注射剤形等は筋肉や皮下投与後速かに体内で除去される為、慢性疾患治療時には頻繁な注射投与が必須的であった。このような問題点を解決する為に考案されたマイクロカプセル化(microencapsulation)は、高分子化合物から成る微小球(microsphere、以下の記載で微小球はナノ微小球(nanosphere)を包含する)剤形に薬物を封入する製造工程と呼ばれる。微小球は普通μm単位の大きさを有することから、人体や動物に筋肉又は皮下注射で投与可能である。さらに、多様な薬物放出速度を有するように製造することができ、薬物送達期間を制御することができる。そのため、ただ一度の投与だけでも長時間にわたり有効な治療薬物濃度を保持することができ、治療に必要な薬物の総投与量を極小化することができ、患者の薬物治療順応度を向上させることができる。そのため現在有名な全世界の製薬会社では薬物含有高分子微小球製造に非常に大きな関心を示している。
【0003】
マイクロカプセル化を介して高分子微小球を製造する際には、ポリ−d,1−ラクチド−コ−グリコライド(poly−d,1−lactide−co−glycolide,PLGA)が高分子化合物として最も広く用いられる。PLGAは生体内で加水分解され無毒性の乳酸(lactic acid)とグリコール酸(glycolic acid)に変換される生体適合性高分子化合物である。そのため、製薬産業界はPLGAを用いた医薬品剤形の開発に多大な努力を注いでいるものの、現在市販されているPLGAを使用して製造された微小球製品の例としては、リスペルダル(Risperdal、登録商標)、コンスタ(Consta、登録商標)、サンドスタチン LAR(Sandostatin LAR、登録商標)、ビビトロール(Vivitrol、登録商標)、さらにルプロンデポト(Lupron Depot、登録商標)等が挙げられる。これらのそれぞれは、患者に1回注射投与されリスペリドン(risperidone)、オクトレオチドアセテート(octreotide acetate)、ナルトレキソン(naltrexone)、さらにルプロライドアセテート(leuprolide acetate)の放出を2週間から4ヶ月までの範囲で調節する。
【0004】
従来、このような薬物含有高分子微小球は、メチレンクロライド及びエチルアセテートのような有機溶媒を用いる溶媒蒸発法又は溶媒抽出法により製造されることができた。
【0005】
先ず、溶媒蒸発法に対して簡単に説明する(米国特許 第6,471,996号、第5,985,309号及び第5,271,945号参照)。高分子化合物を溶解した有機溶媒に薬物を分散又は溶解後、水のような分散媒中に乳化させ、水中油型(O/W、オイル−イン−ウォーター)乳剤を製造する。次いで乳剤中の有機溶媒を分散媒中に拡散させ、空気/水界面を介して有機溶媒を蒸発させることにより、薬物含有高分子微小球を形成する。この時、有機溶媒の分散媒中への拡散を促進させる為に、減圧、温度上昇、過量の水を用いた有機溶媒抽出法を活用する。PLGA高分子化合物を溶解する為に、一般的に用いられる分散有機溶媒はメチレンクロライドである。このメチレンクロライドは多様な分子量とラクチド:グリコライド比を有するPLGA共重合体を良く溶解することができ、水溶解度が1.32重量%と低く、水と良く混合しない。そのためメチレンクロライドは水中油型の乳剤を造るに適した溶剤である。さらに、39.8℃という低い沸点のため、乳剤液体滴から水に拡散した少量のメチレンクロライド分子が水と空気界面を介して良く蒸発される。このような過程が持続的に繰返されると、乳剤滴からメチレンクロライドが除去されることにより微小球が製造される。最後に、その低い沸点のため微小球中に存在する残留メチレンクロライドを乾燥して除去することが極めて容易である。溶媒蒸発法に基づいて乳剤滴を微小球に変化させる模式図を図1に示した。図1において、(A)でPLGA/薬物/メチレンクロライドで構成された分散相が水のような外側相中に水中油型の乳剤で存在し(水に溶解されているメチレンクロライドは△印で表現した)、メチレンクロライドが水中に拡散し、蒸発される過程が繰返されると乳剤滴は(B)で見られる通り微粒子に変換される。
【0006】
このように、メチレンクロライドは強い揮発性を有し、水と良く混ざらず水より遥かに低い沸点を有する点で、乳剤を造る為の最適の有機溶媒であるにも拘らず、次のような問題点を有する:(a)実験的に確認された発癌物質である;(b)大気のオゾン層を破壊し環境毒性を引起し、人体の皮膚癌発生を増加させる;(c)米国保健福祉部所属の毒性物質及び疾病担当部署(Agency for Toxic Substances and Registry)で規定している最も危険な38種の毒性有害物質中の一つに属する;(d)水溶解度が約1.32重量%と低く、極一部のみが水に溶解され蒸発されるので、用いられた総量のメチレンクロライドの内、乳剤滴に含まれているメチレンクロライドが完全に除去されるにはかなりの時間がかかる。例をあげれば、米国特許第6,884,435号では、乳剤からメチレンクロライドを除去する為に、一夜乳剤を撹拌し、微小球製造時間を短縮する為に反応槽(reactor)の温度を上昇させるか、又は減圧条件を導入したりする(米国特許第3,691,090号、第3,891,570号、第6,270,700号及び第6,572,894号参照)。
【0007】
一方、薬物含有高分子微小球の製造に使用される溶媒抽出法は、乳剤滴に含まれている有機溶媒を大量の可溶化溶媒を用いて効果的に抽出する方法である。有機溶媒が乳剤滴から抽出されると、溶解されていた高分子化合物が硬化され乳剤滴が微小球に転換される。一般的に用いられる可溶化溶媒は水であることから、有機溶媒の水溶解度の程度が、必要となる水の量に大きな影響を及ぼす。例えば、メチレンクロライドの場合、水溶解度が1,32重量%である為、極めて大量の水が乳剤に含まれているメチレンクロライドを抽出するために必要となる。しかしながら、メチレンクロライドを含有する廃水が大量に生成され、このような廃水の処理がさらに問題となる。そのため溶媒抽出法においては、メチレンクロライドに比べて水溶解度が高いエチルアセテートが主に用いられる。エチルアセテートは水溶解度が8.7重量%であり、メチレンクロライドに比べて相対的に少ない量の水でも抽出が可能であって、さらに、非ハロゲン化有機溶媒であると言う長所を有する。しかしながら、エチルアセテートの沸点は77℃であり、メチレンクロライドの沸点である39.8℃より遥かに高い。すなわちエチルアセテートは、乾燥時に残留溶媒を除去するのが相対的に困難であるという短所を有する。さらに特定の分子量とラクチド:グリコライド比を有するPLGA高分子化合物は、エチルアセテートに良く溶解されないという特性を示す。
【0008】
そのため、米国特許第4,389,840号、第4,530,840号、第6,544,559号、第6,368,632号及び第6,572,894号は、溶媒蒸発法と溶媒抽出法を同時に活用する技術を開示する。つまり、この方法においては乳剤を造った後、一部の有機溶媒を蒸発過程を介して除去し、残存する有機溶媒を溶媒抽出法を利用して除去する。例えば、米国特許第4,389,840号は、薬物とPLGA高分子化合物をメチレンクロライドに溶解させ、水に乳化させて水中油型乳剤を製造し、40乃至60重量%のメチレンクロライドを蒸発過程を介して除去し、残存するメチレンクロライドを多量の水で抽出することにより微小球を製造する方法を開示している。
【0009】
しかしながら、これら既存の方法で使用されたすべての有機溶媒の水溶解度は十分に高くない為、極めて過量の水(有機溶媒の水溶解度×10倍以上)を使用しなければならない。従って、この為に極めて大容量の反応槽が必要で、有機溶媒を含有する廃水が大量に生成され廃水処理の為の費用が増大する。さらに、微小球内に残存する有機溶媒を効果的に除去することが難しいと言う問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,471,996号
【特許文献2】米国特許第5,985,309号
【特許文献3】米国特許第5,271,945号
【特許文献4】米国特許第6,884,435号
【特許文献5】米国特許第3,691,090号
【特許文献6】米国特許第3,891,570号
【特許文献7】米国特許第6,270,700号
【特許文献8】米国特許第6,572,894号
【特許文献9】米国特許第4,389,840号
【特許文献10】米国特許第4,530,840号
【特許文献11】米国特許第6,544,559号
【特許文献12】米国特許第6,368,632号
【特許文献13】米国特許第6,572,894号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等は前記問題点を解決し、簡単に薬物含有高分子微小球を製造できる方法の研究を重ね、水不溶性有機溶媒に高分子化合物と薬物を溶解させ、乳剤を造り、加アンモニア分解反応を介して水溶性溶媒に変化させ、乳剤滴を微小球に硬化させることにより、簡単に薬物含有高分子微小球を製造できることを見いだして本発明を完成した。
発明の詳細な説明
技術的課題
本発明の目的は既存の溶媒蒸発又は溶媒抽出工程を必要としない、薬物含有高分子微小球の製造方法及びその方法により製造された薬物含有高分子微小球を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
技術的解決方法
前記目的を達成する為に、本発明は、
a) 高分子化合物、薬物及び水不溶性有機溶媒を含む分散相を分散溶媒に添加してO/W(オイル−イン−ウォーター、oil−in−water)型又はO/O(オイル−イン−オイル、oil−in−oil)型乳剤を製造するか、又は薬物が溶解している水性溶液を高分子化合物が溶解している水不溶性有機溶媒中に乳化させ、W/O(ウォーター−イン−オイル、water−in−oil)型乳剤をつくり、これをさらに分散溶媒に添加してW/O/W(ウォーター−イン−オイル−イン−ウォーター、water−in−oil−in−water)型乳剤を製造する工程;及び
b) 前記a)工程で製造された乳剤にアンモニア溶液を添加して前記水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させる工程を含む、薬物含有高分子微小球の製造方法を提供する。
さらに、本発明は前記方法により製造された薬物含有高分子微小球を提供する。
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明にかかる製造方法は、乳剤へのアンモニア溶液添加による加アンモニア分解反応(ammonolysis)を介して、乳剤中に存在する水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させ、乳剤滴を微小球に硬化させ、目的とする薬物含有高分子微小球を得ることを特徴とする。
【0014】
本発明にかかる高分子微小球の製法を工程別に分けて具体的に説明すれば次の通りである。
a)工程;乳剤を製造する工程
高分子化合物、薬物及び水不溶性有機溶媒を含む分散相を分散溶媒に添加してO/W型、又はO/O型乳剤を製造するか、又は薬物が溶解されている水性溶液を高分子化合物が溶解されている水不溶性有機溶媒に乳化させ、W/O型乳剤を造り、これをさらに分散溶媒に添加してW/O/W型乳剤を製造する。
【0015】
本発明に用いられる分散溶媒は、乳化剤を含む水性分散溶媒又は非水性分散溶媒を含み、O/W型及びW/O/W型乳剤製造の際には水性分散溶媒が、O/O型乳剤製造の際には非水性分散溶媒が用いられる。水性分散溶媒としては親水性乳化剤、例えば、ポリビニルアルコール又はツイン(Tween)系列のような乳化剤を含有する水性溶液又はこれの共溶媒を用いることもできる。非水性分散溶媒としては親油性乳化剤、例えば、スパン(Span)系列のような乳化剤を含有するシリコンオイル、野菜油、トルエン又はキシレンを使用できる。前記分散媒に含有されている乳化剤の濃度は0.05乃至15%(w/v)であることができる。
【0016】
本発明においては、水と混合しないが、アンモニアと反応して、分解されて水溶性溶媒に変換される任意の水不溶性有機溶媒が使用可能である。具体的には、カルボキシルエステル(carboxylic acid)、カルボキシルアミド(carboxilic amides)、アンハイドライド(anhydrides)、燐酸エステル(phosphoric esters)、さらに、ホスホリックアンハイドライドからなる群より選ばれたいずれか一つのバックボーン(backbone)を有する水不溶性有機溶媒が好ましい。より具体的には、メチルジクロロアセテート(methyl dichloroacetate)、メチルクロロアセテート(methyl chloroacetate)、エチルクロロアセテート(ethyl chloroacetate)、エチルジクロロアセテート(ethyl dichloroacetate)、メチルフルオロアセテート(methyl fluoroacetate)、メチルジフルオロアセテート(methyl difluoroacetate)、エチルフルオロアセテート(ethyl fluoroacetate)、エチルジフルオロアセテート(ethyl difluoroacetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、メチルアセテート(methyl acetate)、メチルホルマート(methyl formate)、エチルホルマート(ethyl formate)、イソプロピルホルマート(isoprophyl formate)、プロピルホルマート(propyl formate)からなる群より選ばれた水不溶性有機溶媒が好ましい。
【0017】
前記水不溶性有機溶媒は、沸点が高いために一般的には従来の微小球製法では有機溶媒として用いられなかった。しかし本発明の高分子微小球製造方法では、水不溶性有機溶媒はアンモニアと反応して水溶性溶媒に変換されるので好ましく使用できる。具体的には本発明の実施例で用いられるメチルジクロロアセテートおよびメチルクロロアセテートは、既存の溶媒蒸発法又は溶媒抽出法に広く用いられるメチレンクロライド及びエチルアセテートより遥かに高い沸点(142.9℃、129.5℃)を有し、従来の微小球製法には有機溶媒として使用することができなかった。本発明ではメチルジクロロアセテートおよびメチルクロロアセテートはアンモニアと反応して、極めて短時間内で水に完全に溶解されるジクロロアセトアミドとメタノール又は、クロロアセトアミドとメタノールに変換されるので、好ましく用いられる。必要に応じて前記メチルジクロロアセテート、又はメチルクロロアセテートと1種以上の他の有機溶媒が混合された共溶媒を用いることにより、微小球に封入しようとする薬物の溶解度を調節するか又は乳剤滴の硬化速度を適宜制御することができる。
【0018】
本発明に用いられる高分子化合物の代表的な例にはポリ乳酸、ポリラクチド、ポリ乳酸−コ−グリコール酸、ポリラクチド−コ−グリコライド(PLGA)、ポリホスファージン、ポリイミノカーボネート、ポリホスホエステル、ポリアンハイドライド、ポリオルソエステル、乳酸とカプロラクトンの共重合体、ポリカプロラクトン、ポリハイドロキシバレレート、ポリハイドロキシブチレート、ポリアミノ酸、乳酸とアミノ酸の共重合体及びこれらの混合物を挙げることができ、好ましくは、ポリラクチド−コ−グリコライド(PLGA)である。
【0019】
本発明に用いられる薬物は、すべての親水性薬物と疎水性薬物である。薬物の例としてはプロゲステロン(progesterone)、ハロペリドール(haloperidol)、チオチキセン(thiothixene)、オランザピン(olanzapine)、クロザピン(clozapine)、ブロムペリドール(bromperidol)、ピモザイド(pimozide)、リスペリドン(risperidone)、ジプラシドン(ziprasidone)、ジアゼプマ(diazepma)、エチルロフラゼペート(ethyl loflazepate)、アルプラゾラム(alprazolam)、ネモナプライド(nemonapride)、フルオキセチン(fluoxetine)、セルトラリン(sertraline)、ベノラファキシン(venlafaxine)、ドネペジル(donepezil)、タクリン(tacrine)、ガランタミン(galantamine)、リバスチグミン(rivastigmine)、セレギリン(selegiline)、ロピニロール(ropinirole)、ペルゴライド(pergolide)、トリヘキシフェニジル(trihexyphenidyl)、ブロモクリプチン(bromocriptine)、ベンズトロピン(benztropine)、コルヒチン(colchicine)、ノルダゼパム(nordazepam)、エチゾラム(etizolam)、ブロマゼパム(bromazepam)、クロチアゼパム(clotiazepam)、メキサゾリウム(mexazolum)、ブスピロン(buspirone)、ゴセリレンアセテート(goserelin acetate)、ソマトロピン(somatoropin)、ルプロライドアセテート(leuprolide acetate)、オクトレオチド(octreotide)、セトロレリクス(cetrorelix)、サンドスタチンアセテート(sandostatin acetate)、ゴナドトロピン(gonadotropin)、フルコナゾール(fluconazole)、イトラコナゾール(itraconazole)、ミゾリビン(mizoribine)、サイクロスポリン(cyclosporin)、タクロリムス(tacrolimus)、ナロキソン(naloxone)、ナルトレキソン(naltrexone)、クラトリビン(cladribine)、クロラムブシル(chlorambucil)、トリチノイン(tretinoin)、カルムシチン(carmusitne)、アナグレライド(anagrelide)、ドキソルビシン(doxorubicin)、アナストロゾル(anastrozole)、イダルビシン(idarubicin)、シスプラチン(cisplatin)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ドセタキセル(docetaxel)、パクリタキセル(paclitaxel)、ラルチトレキシド(raltitrexed)、エピルビシン(epirubicin)、レトロゾル(letrozole)、メフロキン(mefloquine)、プリマキン(primaquine)、オキシブチニン(oxybutynin)、トルトレロジン(toltrerodine)、アリルエストレノール(allylestrenol)、ロボスタチン(lovostatin)、シムバスタチン(simvastatin)、プロバスタチン(provastatin)、アトロバスタチン(atrovastatin)、アレンドロネート(alendronate)、サルカトニン(salcatonin)、ラロキシフェン(raloxifene)、オキサドロルロン(oxadrolone)、共役性エストロゲン(conjugated estrogen)、エストラジオール(estradiol)、エストラジオールバレレート(estradiol valerate)、エストラジオールベンゾエート(estradiol benzoate)、エチニルエストラジオール(ethinyl estradiol)、エトノゲストレル(etonogestrel)、レボノルゲストレル(levonorgestrel)、チボロン(tibolone)、ノルエチステロン(norethisterone)等を挙げることができ、好ましくは、リスペリドン又はプロゲステロンを用いることができる。
【0020】
疎水性薬物での製造の場合には、高分子化合物と疎水性薬物を水不溶性有機溶媒に溶解した後、水性分散溶媒又は非水性分散溶媒に懸濁させ、O/W型又はO/O型乳剤を製造することができる。親水性薬物の場合には、先ず親水性薬物を水に溶解させ、薬物が溶解している水性溶液を、高分子化合物が溶解されている有機溶媒中に乳化させ、1次的にW/O型乳剤を造り、この乳剤を水性分散溶媒中に懸濁させ、2次的にW/O/W型乳剤を製造することができる。
【0021】
前記高分子化合物は薬物1重量部に対して1乃至500重量部、好ましくは、1乃至50重量部の量で使用することができ、乳剤に含有されている高分子化合物の濃度は3乃至30%(w/v)であることができる。
【0022】
さらに、前記分散相又はW/O型乳剤と分散溶媒の容量比は1:1−100、好ましくは、1:3−15範囲であり得る。さらに、薬物が溶解されている水性溶液と高分子化合物が溶解されている水不溶性有機溶媒の容量比は1:1−50、好ましくは、1:2−20範囲であり得る。
【0023】
b)工程:水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させる工程
前記a)工程で製造されたO/W型、W/O/W型又はO/O型乳剤に、アンモニア溶液を添加して加アンモニア分解反応を介して、前記水不溶性有機溶媒を水に完全に溶解される溶媒に変換させる。乳剤滴を微小球に硬化させることにより、目的とする薬物含有高分子微小球を製造する。この際、乳剤滴の速やかな硬化に因り乳剤滴粒子間の相互作用が抑制され、凝集することなく目的とする微小球が得られる。
【0024】
本発明にかかる一つの実施態様として、薬物(リスペリドン)含有高分子微小球が生成される過程を図2に模式図として示した。図2において、(A)でPLGA/リスペリドン/メチレンジクロロアセテートから成る分散相が液体滴状態で外側相である水(□)中に乳化され、加アンモニア分解反応により(B)でメチレンジクロアセテートが、水と完全に混合するジクロロアセトアミド(下向き三角)とメタノール(上向き三角)に変換されることにより、目的とする微小球が生成される。本発明に用いられるアンモニア溶液は水不溶性有機溶媒のモル数より多いモル数のアンモニアを含有するのが最適である。
【0025】
本発明にかかるさらなる一つの実施態様として、薬物(プロゲステロン)含有高分子微小球が生成される過程を図7に模式図として示した。図7において、PLGA/プロゲステロン/メチルクロロアセテートから成る分散相が液体滴状態で外側相である水中に乳化され、加アンモニア分解反応によりメチルクロロアセテートが水と完全に混合するクロロアセトアミドとメタノールに変換することにより、目的とする微小球が生成される。
【0026】
本発明の方法により製造された高分子微小球は0.1乃至3500μm、好ましくは、10乃至350μmの平均粒経を有し、必要に応じて多様な重量の薬物を含有することができる。
【0027】
前記のように本発明の方法によれば、既存の溶媒蒸発又は溶媒抽出工程を必要とせず、少ない量の水を用いて廃水発生を最小化しながら、短時間内に簡単に薬物含有高分子微小球を製造することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の方法によれば、既存の溶媒蒸発又は溶媒抽出工程を必要とせず、少ない量の水を用いて廃水発生を最小化しながら、短時間内に簡単に薬物含有高分子微小球を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は従来の溶媒蒸発法に基づいて乳剤滴が微小球に変換される過程を模式図として示したものである。
【図2】図2は本発明にかかる一つの実施態様において薬物(リスペリドン)含有高分子微小球が生成される過程を模式図として示したものである。
【図3】図3は本発明にかかる一つの実施態様を行う過程で生成されたジクロロアセトアミドの1H−NMR及びエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI−MS)である。
【図4】図4は本発明にかかる一つの実施態様を行う過程で生成されたジクロロアセトアミドの1H−NMR及びエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI−MS)である。
【図5】図5は本発明にかかる一つの実施態様を行う過程で、フェノールフタレイン存在下で生成されたメチルクロロアセテートが含有されたアンモニア溶液の吸光度を時間を変えて測定した曲線であり、 ●:メチルクロロアセテートが存在しない場合、 ○:メチルクロロアセテートが存在する場合である。
【図6】図6はそれぞれ本発明にかかる一つの実施態様を行う過程で生成されたクロロアセトアミドの1H−NMR(図6A)及びエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI−MS)(図6B)である。
【図7】図7は加アンモニア分解過程を介した微粒子の生成過程を説明する模式図を示したものである。
【図8】図8は本発明にかかる一つの実施態様において製造された薬物(リスペリドン)含有高分子微小球の熱重量分析曲線である。
【図9】図9は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(リスペリドン)含有高分子微小球の外部(図9A)及び内部(図9B乃至9D)の形状を示す走査電子顕微鏡(scanning electron microscope)である。
【図10】図10は本発明にかかる一つの実施態様で製造されたMCA微小球中の薬物(プロゲステロン)封入率をDCM微小球の封入率と比較したグラフである。
【図11】図11は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(プロゲステロン)含有MCA微小球の熱重量(図11B)をDCM微小球の熱重量(図11A)と比較した曲線である。
【図12】図12は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(プロゲステロン)含有MCA微小球の表面形状(図12B)をDCM微小球の表面形状(図12A)と比較した走査電子顕微鏡写真である。
【図13】図13は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(プロゲステロン)含有MCA微小球の内部形状(図13B)を薬物(プロゲステロン)含有DCM微小球(図13A)の内部形状と比較した走査電子顕微鏡の写真である。
【図14】図14は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(プロゲステロン)含有PLGA微小球の表面形状(図14B)を薬物(プロゲステロン)を含有しないPLGA微小球の表面形状(図14A)と比較した走査電子顕微鏡写真である。
【図15】図15は本発明にかかる一つの実施態様で製造された薬物(プロゲステロン)含有PLGA微小球の表面形状(図15B)を薬物(プロゲステロン)を含有しないPLGA微小球の表面形状(図15A)と比較した走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を下記実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、下記実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらにより限定されるものではない。
【0031】
<実施例1>
メチルジクロロアセテートを利用した加アンモニア分解反応
<1−1>メチルジクロロアセテートの加アンモニア分解反応
本発明者等は加アンモニア分解反応を介して、水不溶性有機溶媒の、水と完全に混合する溶媒への変換を確認するために、水不溶性有機溶媒としてメチルジクロロアセテートを用いて下記の通り実験を行った。
【0032】
ポリビニルアルコール(88%加水分解、分子量25,000)1%を含む水40mlに3mlのメチルジクロロアセテートを加え、550rpmで撹拌し、乳剤を造った。3分間撹拌後、乳剤に3mlのアンモニア水(濃度約30%)を加えた。5分後、水に分散されたメチルジクロロアセテート滴粒子が完全に消え去り、乳剤が単一相(one phase)の溶液に変わった。この結果は、メチルジクロロアセテートが加アンモニア分解反応を経てジクロロアセトアミドとメタノールに変換され、水と完全に混合されたことを示す(参考のため、ジクロロアセトアミドの水溶解度は71g/lである)。
【0033】
<1−2>メチルジクロロアセテートの分解産物であるジクロロアセトアミドの分離
前記<1−1>で得た透明な溶液に過量のNaClを加えて、メチルジクロロアセテートの分解産物を塩析(salting−out)させた。ここにエチルアセテートを加えた。塩析された生成物をエチルアセテート相に移し、水層から分離した。MgSO4 無水物を加えてエチルアセテート内に存在する水を除去し、濾過した後、回転蒸発器(Eyela Model N−1000)を用いてエチルアセテートを蒸発除去した。残存物中に残っているエチルアセテートを無くす為に、CHCl3 で一度洗滌後、真空乾燥して白色の粉末を得た。
【0034】
<1−3>NMR及びMS実験によるジクロロアセトアミドの同定
前記<1−2>で得た白色の粉末に対して下記の通り、NMR及びMS実験を行った;白色の粉末をアセトン−d6に溶解し、NMRを利用して1H−NMRスペクトルを観察して図3に示した。この際、テトラメチルシランに対して1Hケミカルシフトを測定した。図3に見られる通り、δH7.46と7.08で2個のアミドプロトンシグナルが観測された。さらに、2個の塩素基を有する炭素に結合するプロトンのシグナルはδH6.30で表れた。さらに、Q−tof(登録商標)2質量分析計を利用してエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI−MS)を観察して図4に示した。図4に見られる通り、m/z149.93で[M+Na+]ピークが、m/z151.93で[M+2+Na+]ピークが、さらに、m/z153.93で[M+4+Na+]ピークが表れた。2個の塩素基を有する化合物の場合、[M+Na+]、[M+2+Na+]、[M+4+Na+]ピークの強度が理論的に100、65.3及び10.6%であることを考慮すると、本実験の測定値は理論値と完全に一致した。前記1H−NMR及びESI−MS実験結果から、メチルジクロロアセテートが加アンモニア分解反応を介してジクロロアセトアミドに変換されることが確認できた。
【0035】
前記の実験結果により、加アンモニア分解反応を介して水不溶性有機溶媒であるメチルジクロロアセテートが、水溶性有機溶媒であるジクロロアセトアミドとメタノールに変換されることが確認できた。
【0036】
<実施例2>
メチルクロロアセテートを利用した加アンモニア分解反応
<2−1>メチルクロロアセテートの加アンモニア分解反応
本発明の発明者は加アンモニア分解反応を介して水不溶性有機溶媒を、水と完全に混合する溶媒に変換できることを確認する為に、水不溶性有機溶媒としてメチルクロロアセテート(水溶解度は25℃で46g/lである)を用いて下記のような実験を行った。
【0037】
水40mlに4mlのメチルクロロアセテートを加え、ホットプレート撹拌機(400HPS/VWR Scientific)を利用して3分間撹拌して乳剤を造った。次いで乳剤に4mlのアンモニア水(濃度約30%)を加えた。10分経過後、水に分散されたメチルクロロアセテート滴粒子が完全に消え去り、乳剤が単一相の溶液に変換された。
【0038】
さらに、水40mlにアンモニア水4mlが添加された水溶液に、メタノリックフェノルフタレイン溶液100μlを添加して、メチルクロロアセテート4mlを混合した。次いで前記混合液1mlを採り、U−3000UV/Visスペクトロメータ)(Shimadzu社、京都、日本)を利用して550nmで吸光度を時間を変えて測定し、結果を図5に示した。図5に示した通り、メチルクロロアセテートが添加されない場合、吸光度の変化がなかった。しかしメチルクロロアセテートが添加された場合、吸光度が急激に減少した。
【0039】
前記結果から、メチルクロロアセテートが加アンモニア分解反応を経て、クロロアセトアミドとメタノールに変換され水と完全に混合することがわかった。
【0040】
<2−2>メチルクロロアセテートの分解産物であるクロロアセトアミドの分離
前記<2−1>で得た透明な溶液に過量のNaClを加えて塩析してクロロアセトアミドを沈殿させた。次いでこれにエチルアセテートを30mlずつ3回加えた。クロロアセトアミドをエチルアセテート相に移し、水層から分離した。MgSO4 無水物を加えてエチルアセテート中に存在する水を除去して、セライト(celite)を通して濾過した後、減圧下でエチルアセテートを蒸発させ白色の粉末を得た。
【0041】
<2−3>NMR及びMS実験を介したクロロアセトアミドの同定
前記<2−2>で得た白色の粉末に対して下記の通り、NMR及びMS実験を行った;白色粉末を重水素化されたトリクロロメタン(CDCl3)に溶解した後、NMRを利用して1H−NMRスペクトルを観察して結果を図6Aに示した。この際、テトラメチルシランに対して1Hケミカルシフトを測定した。図6Aで見られる通り、δH6.55と6.04において2個のアミドプロトンシグナルが観測された。さらに、1個の塩素基を有する炭素に結合するプロトンのシグナルはδH4.05で表れた。
【0042】
さらに、Q−tof2質量分析計を利用してエレクトロスプレーイオン化質量スペクトル(ESI−MS)を観察して、その結果を図6Bに示した。図6Bで見られる通り、m/z116.01で[M+Na+]ピークが、さらに、m/z118.01で[M+2+Na+]ピークが表れた。前記2個のピークの比は3:1であり、37Clの存在量と一致する。
【0043】
前記1H−NMR及びESI−MSの実験結果から、メチルクロロアセテートが、加アンモニア分解反応を介してクロロアセトアミド(C2H4ClNO)に変換されたことを確認することができた。具体的に、加アンモニア分解反応を介して水不溶性有機溶媒であるメチルクロロアセテートが水溶性有機溶媒であるクロロアセトアミドとメタノールに変換されたことを確認できた(図7参照)。
【0044】
<実施例3>
メチルジクロロアセテートを利用したPLGA微小球
<3−1>メチルジクロロアセテートを利用したPLGA微小球の製造
微小球形成のための高分子化合物としてラクチド:グリコライド比が75:25のポリ−d,1−ラクチド−コ−グリコライド(CHCl3での固有粘度0.67dL/g;以後PLGAと呼ばれる)を用いた。微小球に封入する疎水性薬物としてリスペリドン(中国changzhou United Chemical Co.,Ltdから購入)を使用した。PLGA(250mg)を3mlのメチルジクロロアセテートに完全に溶解した後、リスペリドン(125,175又は225mg)を入れて溶解した。PLGA、リスペリドン及びメチルジクロロアセテートで構成された分散相を40mlの1%ポリビニルアルコール(分子量=25,000;88%加水分解)水溶液に入れ乳化させた。この際、乳剤を造る為にマグネチック撹拌器を使用し、マグネチックバーの撹拌速度は550rpmに維持した。撹拌を開始して3分後、乳剤に3mlのアンモニア水(アンモニア濃度約30%)を加え、15分間継続して撹拌した。形成された微小球懸濁液を425μmの大きさを有する篩を通した。次いで、濾過により微小球を採り100mlの0.1%ポリビニルアルコール水溶液中に分散させた。45分経過後、微小球を濾過分離して、100mlの0.1%ポリビニルアルコール水溶液に再分散させた後、2時間撹拌した。濾過過程により取得した微小球を真空状態で一夜乾燥させた。乾燥後、微小球は優れた流動性を備えていることを確認した。これは乾燥過程中の微小球間の凝集現象が大きくなかったことを示す。さらに、微小球の収率が76.4から86.4%と観測された。本発明による方法により微小球が効果的に製造されたことがわかる。
【0045】
<3−2>熱重量分析(thermogravimetric)
PLGA250mgとリスペリドン125mgを用いて製造した微小球について、熱重量分析器TGA2050(米国TAインストルメンツ社製)を使用して熱重量を分析した。結果を図8に示した。この際、窒素ガスを使用し、温度を1分当たり10℃ずつ増加させた時の、微小球の重量変化を測定した。図8に見られる通り、メチルジクロロアセテートの沸点である142.9℃においては急激な重量変化は観察されなかった。この結果は、微小球製造の際、メチルジクロロアセテートが、水溶解性のジクロロアセトアミドとメタノールに変化され、乳剤滴から効果的に除去され、微小球が形成されたことを示している。
【0046】
<3−3>薬物のHPLC薬物分析
シマズ(Shimadzu)HPLCシステムを薬物分析に用いた。分析カラムとして長さ15cmのシメトリ(Symmetry)C18カラム(5μm)を用いた。移動相として10mMアンモニウムアセテートとメタノールの混合溶液(6:4容量比)を用い、移動相流速を1ml/分に維持した。HPLCカラムから流出される薬物を波長260nmのUVで測定した。検体の薬物濃度は4種の薬物濃度を用いて作成した標準検量曲線を基に算出した。
【0047】
<3−4>リスペリドンの封入率(encapsulation efficiency)測定
リスペリドンを含有しているPLGA微小球の一部を正確に秤量した後、4mlのテトラヒドロフランに完全に溶解させた。ここに16mlのメタノールを加え、0.45μmのポアサイズを有するナイロンフィルターで濾過した。PLGA沈殿物を除去し、濾液を調製した。濾液の一部(20μl)をHPLCに注入して薬物の濃度を測定した。下記数式1乃至3により、薬物の理論含有量(%)及び実際の含有量(%)を求め、その百分率を薬物の封入率(%)として定義した。
【0048】
数式1:
理論含有量%=100×(使用された薬物量(mg))/(使用したPLGA量(mg)+使用した薬物量(mg))
数式2:
実際の含有量%=100×( 微粒子中に存在する薬物量(mg))/(含有量測定の為に使用した微粒子量(mg))
数式3:
薬物封入率%=100×実際の含有量%/理論含有量%
【0049】
PLGA250mgとリスペリドン125mgを使用した時、封入率は97.0±2.1%であった。PLGAの量は固定され、リスペリドンの使用量を175と225mgに増加した時、それぞれの場合封入率は94.5±2.0%及び92.7±3.2%であった。このような結果は本発明の方法により微小球を製造する場合に、リスペリドンの大部分をPLGA微小球内に封入し得ることを示す。
【0050】
<3−5>微小球形状観察
本発明により製造された微小球の内部及び外部形状をJSM−5200走査電子顕微鏡を用いて観察して、図9A乃至9Dに示した。 図9Aは微小球の外部形状を示しており、球状の形態で良く分散されていることがわかる。図9B乃至図9Dの切断された微小球の内部写真はリスペリドン含有量に関係なく類似した形状を示しており、マトリックス内に小さい空洞(cavity)が観察された。すなわち本発明によれば、微小球が凝集現象なしによく分散された状態で製造されることが示された。
【0051】
<比較例>
溶媒蒸発法(solvent evaporation method)を利用したDCM微小球の製造
本発明者等は従来の溶媒蒸発法を利用したPLGA微小球と、本発明の方法で製造されたPLGA微小球を比較する為に下記のような方法で微小球を製造した。PLGA(250mg)を4mlのジクロロメタンに完全に溶解した後、プロゲステロン(60,100,160,200又は250mg)を入れて溶解した。PLGA、プロゲステロン及びジクロロメタンで構成された分散相を40mlの0.5%ポリビニルアルコール水溶液に入れて乳化させた。この際、乳剤を造る為にマグネチック撹拌器を用い、マグネチックバーの撹拌速度は550rpmに維持した。5時間撹拌後形成された微小球懸濁液を425μmのサイズを有する篩を通した。次いで、濾過により微小球を採り、真空状態で一夜乾燥させ、PLGA微小球を製造した。以下、前記過程により製造されたPLGA微小球を“DCM微小球”と称する。
【0052】
<実施例4>
メチルクロロアセテートを利用したPLGA微小球(以下“MCA微小球”)
<4−1>メチルクロロアセテートを利用したMCA微小球の製造
微小球形成のための高分子化合物として実施例<3−1>で利用したPLGAを使用した。微小球に封入する疎水性薬物としてプロゲステロンを使用した。PLGA(250,300又は350mg)を4mlのメチルクロロアセテートに完全に溶解させた後、プロゲステロン(60,100,160,200又は250mg)を入れて溶解した。PLGA、プロゲステロン及びメチルクロロアセテートで構成された分散相を40mlの0.5%ポリビニルアルコール水溶液に入れて乳化させた。この際、乳剤を造る為に、マグネチック撹拌器を使用し、マグネチックバーの撹拌速度は550rpmに維持した。撹拌開始3分後、乳剤に4mlのアンモニア水(濃度28%)を加え、10分間撹拌した。次いで、40mlの水を加えて5分間追加撹拌した。次いで、形成された微小球懸濁液を425μmのサイズを有する篩を通した。濾過により微小球を採り、80mlの0.1%ポリビニルアルコール水溶液に分散させた。2時間後、微小球を濾過分離して、真空状態で一夜乾燥させ、PLGA微小球を製造した。以下前記過程を介して製造されたPLGA微小球を“MCA微小球”と称する。
【0053】
<4−2>プロゲステロン封入率の測定
プロゲステロンを含有している前記実施例<4−1>の微小球(“MCA”微小球)のメディアン径(median size)をマスタサイザー2000(Malvern Instruments社、Worcestershire、英国)を利用して正確に測定し、4mlのテトラヒドロフランに完全に溶解させた。ここに24mlのメタノールを加え、0.45μmのポアサイズを有するナイロンフィルタで濾過した。PLGA沈殿物を除去し、濾液を調製した。濾液の一部(20μl)をHPLCに注入して、薬物の濃度を測定した。実施例<3−4>に記載された数式を利用して薬物封入率(%)を計算し、下記数式4を利用して微小球の生産率を計算した。その結果を表1に記載した。
【0054】
数式4:
生産率=100×回収された微粒子重量/(使用したPLGA量+使用したプロゲステロン量)
【0055】
【表1】
【0056】
一方、前記実施例<4−1>で製造された微小球である“MCA微小球”(PLGA投与量が250mgの場合に限る)と前記比較例で製造された微小球である“DCM微小球”の投与されたプロゲステロンの量に伴う封入率を測定して図10に記載した。図10に示した通り、MCA微小球ではプロゲステロンの量を多く投与する程、封入率は徐々に増加し、プロゲステロン投与量が250mgの場合、封入率は72.8±0.3%に達し、DCM微小球では75.2±3.8%乃至78.6±3.1%の封入率を示した。従って、MCA微小球での封入率は、プロゲステロンの量を多く投与する場合、DCM微小球の封入率と殆ど一致した。
【0057】
従って、メチルクロロアセテートを使用して、加アンモニア分解反応により製造されたMCA微小球は、プロゲステロン投与量が多い程封入率が優れ、有用な薬物含有高分子微小球に利用できることがわかった。
【0058】
<4−3>熱重量分析
実施例<4−1>と同一な方法により製造されたプロゲステロン12.4、27.4、及び36.4%のMCA微小球と、比較例と同一な方法により製造されたプロゲステロン15.2、29.4、及び38.6%のDCM微小球を対象に熱重量分析器TGA2050(米国TA Instruments社製)を用いて熱重量分析をした結果を、図11に示した。この際、窒素ガスを使用し、温度を1分当たり10℃ずつ増加させて、微小球等の重量変化を測定した。
【0059】
図11Aに示した通り、DCM微小球では150℃でジクロロメタンの蒸発により重量の0.5〜2.3%の損失があり、これは典型的な溶媒蒸発過程で起こる現象と一致する(Benoit,T.S.;Courteille,F.;Thies,C.Int.J.Pharm.1986,29,95−102)。しかし、図11Bに示した通り、MCA微小球では重量の1.6〜3.5%の損失があり、メチルクロロアセテートの沸点である129.5℃においては、急激な重量損失はなかった。この結果は、加アンモニア分解反応が効果的に乳剤滴から分散溶媒を除去したことを意味する。
【0060】
<4−5>微小球形状観察
実施例<4−1>及び比較例と同一な方法により製造された微小球等の表面及び内部形状を、JSM−5200走査電子顕微鏡を用いて観察した。
実施例<3−4>に記載された数学式2によりプロゲステロンの実際の含有量が15.2、21.7、29.4及び38.6%であるDCM微小球の表面形状をそれぞれ図12Aのa、b、c及びdに図示した。図12Aに示した通り、DCM微小球において、プロゲステロン含量が増加する程、プロゲステロン結晶体が形成され、微小球の表面が損傷されることを確認した。
【0061】
さらに、プロゲステロンの実際の含有量が12.4、18.7、27.4、及び36.4%のMCA微小球の表面形状をそれぞれ図12Bのa、b、c及びdに図示した。図12Bに示した通り、プロゲステロン含量が増加する程かえって欠点がなくなり、球形の微小球が形成され、DCM微小球で表れた結晶体(drug crystal)形成が抑制されることを確認した。
【0062】
さらに、プロゲステロンの実際の含有量が15.2、21.7、29.4及び38.6%のDCM微小球の内部形状をそれぞれ図13Aのa、b、c及びdに示した。図13Aに示した通り、DCM微小球においては、プロゲステロン含量が増加する程プロゲステロンの結晶化が起こり、プロゲステロンとPLGAポリマー間の相分離を加速化させる。最終的には微小球の内部マトリックスが歪むことを確認した。
【0063】
さらに、プロゲステロンの実際の含有量が12.4、18.7、27.4、及び36.4%のMCA微小球の表面形状をそれぞれ図13Bのa、b、c及びdに示した。図13Bに示した通り、マトリックス内に小さい空洞(cavity)が観察された。しかしDCM微小球と比較すると、プロゲステロン含量の増加に伴う変化は観察されなかった。
【0064】
従って、プロゲステロン投与量が多い場合でも、MCA微小球の表面及び内部形態は維持され、有用な薬物含有高分子微小球として利用できることが示された。
【0065】
<実施例5>
エチルクロロアセテートを利用したPLGA微小球
<5−1>エチルクロロアセテートを利用したPLGA微小球の製造
微小球形成高分子化合物として、実施例<3−1>で利用したPLGAを使用した。微小球に封入する疎水性薬物としてプロゲステロンを使用した。250mgのPLGAを4mlのエチルクロロアセテートに完全に溶解した後、プロゲステロン(60,100,160,200,又は250mg)を入れて再度溶解した。次いで、前記溶液を40mlの0.5%ポリビニルアルコール水溶液に入れ、550rpmで撹拌した。3分後、乳剤にアンモニア水(28%)9mlを入れ、60分間追加撹拌した。次いで実施例<4−1>と同一な方法でPLGA微小球を製造した。
【0066】
<5−2>プロゲステロン封入率の測定
プロゲステロンが含まれている前記実施例<5−1>の微小球のメディアン径をマスタサイザー2000(Malvern Instruments社、Worcestershire、英国)を利用して正確に測定し、4mlのテトラヒドロフランに完全に溶解させた。ここに24mlのメタノールを加え、0.45μmのポアサイズを有するナイロンフィルタで濾過した。PLGA沈殿物を除去し、濾液を調製した。濾液の一部(20μl)をHPLCに注入して、薬物の濃度を測定した。実施例<3−4>に記載された数式を利用して薬物の封入率(%)を計算し、その結果を表2に記載した。
【0067】
【表2】
【0068】
前記表2に記載された通り、エチルクロロアセテートを利用して、加アンモニア分解反応により製造されたPLGA微小球のプロゲステロン封入率は84.77±0.75乃至87.96±1.22に達し、有用な薬物含有高分子微小球として利用できることが示された。
【0069】
<5−3>微小球形状観察
実施例<5−1>と同一な方法で製造されたプロゲステロンの実際の含有量が43.1%のPLGA微小球の表面形状(図14B)をJSM−5200走査電子顕微鏡を用いて、プロゲステロンを含有しないPLGA微小球(図14A)と比較観察した。
【0070】
図14に図示した通り、プロゲステロンを投与しても、PLGA微小球はその表面形態を維持し、有用な薬物含有高分子微小球として利用できることが示された。
【0071】
<実施例6>
エチルフルオロアセテートを利用したPLGA微小球
<6−1>エチルフルオロアセテートを利用したPLGA微小球の製造
微粒子形成高分子化合物として実施例<3−1>で利用したPLGAを用いた。微小球に封入する疎水性薬物としてプロゲステロンを用いた。250mgのPLGAを4mlのエチルフルオロアセテート(Ethyl fluoroacetate)に完全に溶解させ、プロゲステロン(60,100,160,200,又は250mg)を入れて溶解した。実施例<5−1>と同一な方法でPLGA微小球を製造した。
【0072】
<6−2>プロゲステロン封入率の測定
プロゲステロンを含有している前記実施例<6−1>の微小球のメディアン径をマスタサイザー2000(Malvern Instruments社、Worcestershire、英国)を利用して正確に測定し、4mlのテトラヒドロフランに完全に溶解させた。ここに24mlのメタノールを加え、0.45μmのポアサイズを有するナイロンフィルタで濾過した。PLGA沈殿物を除去し、濾液を調製した。濾液の一部(20μl)をHPLCに注入して、薬物の濃度を測定し、実施例<3−4>に記載された数式を利用して薬物の封入率(%)を計算し、その結果を表3に記載した。
【0073】
【表3】
【0074】
前記表3に記載された通り、エチルフルオロアセテートを利用して、加アンモニア分解反応により製造されたPLGA微小球のプロゲステロン封入率は81.16±2.40乃至84.56±2.02に達し、有用な薬物含有高分子微小球として利用できることが示された。
【0075】
<6−3>微小球形状観察
実施例<6−1>と同一な方法で製造されたプロゲステロンの実際の含有量が42.3%のPLGA微小球の表面形状(図15B)をJSM−5200走査電子顕微鏡を用いて、プロゲステロンを含有しないPLGA微小球(図15A)と比較観察した。
【0076】
図15に示した通り、プロゲステロンを投与してもPLGA微小球はその表面形態を維持し、有用な薬物含有高分子微小球として利用できることが示された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)高分子化合物、薬物及び水不溶性有機溶媒を含む分散相を分散溶媒に添加して、O/W(オイル−イン−ウォーター)型もしくはO/O(オイル−イン−オイル)型乳剤を製造するか、又は薬物が溶解されている水性溶液を高分子化合物が溶解されている水不溶性有機溶媒中に乳化させて作られるW/O(ウォーター−イン−オイル)型乳剤を分散溶媒に添加してW/O/W(ウォーター−イン−オイル−イン−ウォーター)型乳剤を製造する工程;及び
b)前記a)工程で製造された乳剤にアンモニア溶液を添加して、前記水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させる工程を含む、薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項2】
前記a)工程の前記分散溶媒が、ポリビニルアルコール水性溶液又はこれの共溶媒のような水性分散溶媒であるか、又はスパン含有シリコンオイル、野菜油、トルエン及びキシレンからなる群より選ばれた非水性分散溶媒である、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項3】
前記a)工程の前記水不溶性有機溶媒が、水不溶性有機溶媒と1種以上の他の有機溶媒が混合された共溶媒である、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項4】
前記水不溶性有機溶媒は、カルボキシルエステル、カルボキシルアミド、アンハイドライド、リン酸エステル、およびホスホリックアンハイドライドからなる群より選ばれたいずれか一つのバックボーンを有する、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項5】
前記水不溶性有機溶媒は、メチルジクロロアセテート、メチルクロロアセテート、エチルクロロアセテート、エチルジクロロアセテート、メチルフルオロアセテート、メチルジフルオロアセテート、エチルフルロアセテート、エチルジフルオロアセテート、エチルアセテート、メチルアセテート、メチルホルマート、エチルホルマート、イソプロピルホルマート、およびプロピルホルマートからなる群より選ばれる、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項6】
前記水不溶性有機溶媒は、メチルジクロロアセテート、メチルクロロアセテート、エチルクロロアセテート及びエチルフルオロアセテートからなる群より選ばれる、請求項5記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項7】
前記a)工程の前記高分子化合物が、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリ乳酸−コ−グリコール酸、ポリラクチド−コ−グリコライド(PLGA)、ポリホスファージン、ポリイミノカーボネート、ポリホスホエステル、ポリアンハイドライド、ポリオルソエステル、乳酸とカプロラクトンの共重合体、ポリカプロラクトン、ポリハイドロキシバレレート、ポリハイドロキシブチレート、ポリアミノ酸、乳酸とアミノ酸の共重合体及びこれらの混合物からなる群より選ばれる、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項8】
前記a)工程の前記高分子化合物を薬物1重量部に対して1乃至500重量部の量で混合する、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項9】
前記a)工程の前記乳剤に含有されている前記高分子化合物の濃度が3乃至30%(w/v)である、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項10】
前記a)工程の前記分散相又は前記W/O(ウォーター−イン−オイル)型乳剤と前記分散溶媒の容量比が1:1−100である、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項11】
前記a)工程で前記薬物が溶解されている前記水性溶液と、前記高分子化合物が溶解されている前記水不溶性有機溶媒の容量比が1:1−50である、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項12】
前記b)工程の前記アンモニア溶液が前記水不溶性有機溶媒のモル数より多いモル数のアンモニアを含む、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項記載の方法により製造された薬物含有高分子微小球。
【請求項1】
a)高分子化合物、薬物及び水不溶性有機溶媒を含む分散相を分散溶媒に添加して、O/W(オイル−イン−ウォーター)型もしくはO/O(オイル−イン−オイル)型乳剤を製造するか、又は薬物が溶解されている水性溶液を高分子化合物が溶解されている水不溶性有機溶媒中に乳化させて作られるW/O(ウォーター−イン−オイル)型乳剤を分散溶媒に添加してW/O/W(ウォーター−イン−オイル−イン−ウォーター)型乳剤を製造する工程;及び
b)前記a)工程で製造された乳剤にアンモニア溶液を添加して、前記水不溶性有機溶媒を水溶性溶媒に変換させる工程を含む、薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項2】
前記a)工程の前記分散溶媒が、ポリビニルアルコール水性溶液又はこれの共溶媒のような水性分散溶媒であるか、又はスパン含有シリコンオイル、野菜油、トルエン及びキシレンからなる群より選ばれた非水性分散溶媒である、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項3】
前記a)工程の前記水不溶性有機溶媒が、水不溶性有機溶媒と1種以上の他の有機溶媒が混合された共溶媒である、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項4】
前記水不溶性有機溶媒は、カルボキシルエステル、カルボキシルアミド、アンハイドライド、リン酸エステル、およびホスホリックアンハイドライドからなる群より選ばれたいずれか一つのバックボーンを有する、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項5】
前記水不溶性有機溶媒は、メチルジクロロアセテート、メチルクロロアセテート、エチルクロロアセテート、エチルジクロロアセテート、メチルフルオロアセテート、メチルジフルオロアセテート、エチルフルロアセテート、エチルジフルオロアセテート、エチルアセテート、メチルアセテート、メチルホルマート、エチルホルマート、イソプロピルホルマート、およびプロピルホルマートからなる群より選ばれる、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項6】
前記水不溶性有機溶媒は、メチルジクロロアセテート、メチルクロロアセテート、エチルクロロアセテート及びエチルフルオロアセテートからなる群より選ばれる、請求項5記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項7】
前記a)工程の前記高分子化合物が、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリ乳酸−コ−グリコール酸、ポリラクチド−コ−グリコライド(PLGA)、ポリホスファージン、ポリイミノカーボネート、ポリホスホエステル、ポリアンハイドライド、ポリオルソエステル、乳酸とカプロラクトンの共重合体、ポリカプロラクトン、ポリハイドロキシバレレート、ポリハイドロキシブチレート、ポリアミノ酸、乳酸とアミノ酸の共重合体及びこれらの混合物からなる群より選ばれる、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項8】
前記a)工程の前記高分子化合物を薬物1重量部に対して1乃至500重量部の量で混合する、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項9】
前記a)工程の前記乳剤に含有されている前記高分子化合物の濃度が3乃至30%(w/v)である、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項10】
前記a)工程の前記分散相又は前記W/O(ウォーター−イン−オイル)型乳剤と前記分散溶媒の容量比が1:1−100である、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項11】
前記a)工程で前記薬物が溶解されている前記水性溶液と、前記高分子化合物が溶解されている前記水不溶性有機溶媒の容量比が1:1−50である、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項12】
前記b)工程の前記アンモニア溶液が前記水不溶性有機溶媒のモル数より多いモル数のアンモニアを含む、請求項1記載の薬物含有高分子微小球の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項記載の方法により製造された薬物含有高分子微小球。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【公表番号】特表2010−502594(P2010−502594A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526542(P2009−526542)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【国際出願番号】PCT/KR2007/004200
【国際公開番号】WO2008/026894
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(509060637)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (3)
【出願人】(505358347)イファ・ユニバーシティー−インダストリー・コラボレーション・ファウンデーション (3)
【氏名又は名称原語表記】EWHA UNIVERSITY−INDUSTRY COLLABORATION FOUNDATION
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【国際出願番号】PCT/KR2007/004200
【国際公開番号】WO2008/026894
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(509060637)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (3)
【出願人】(505358347)イファ・ユニバーシティー−インダストリー・コラボレーション・ファウンデーション (3)
【氏名又は名称原語表記】EWHA UNIVERSITY−INDUSTRY COLLABORATION FOUNDATION
【Fターム(参考)】
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