説明

虚血性神経障害治療剤

【課題】 脊髄虚血による神経細胞の損傷を予防及び/又は治療するための医薬を提供する。
【解決手段】 式〔I〕:


で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、脊髄虚血による神経細胞障害を予防及び/又は治療するための医薬及びその使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊髄虚血による神経細胞の障害を予防及び/又は治療するための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
脊髄は、脊椎動物において、脳の延髄に続く脊柱管の中を下る細長い円柱状の器官であり、脳と脊髄神経との間の神経伝導を担っている。脊髄は中心から外側へ向かって中心管、H字形の灰白質、及び白質の3つの層から構成されている。H字形灰白質の前部にあたる部分(前角)には、運動神経が集まっていて、これらの神経は脳や脊髄からの情報を筋肉へ伝達して、運動を起こさせ、後側の角(後角)には感覚神経が集まっていて、これらの神経は、体の他の部分からの感覚情報を脊髄を通って脳へ伝えている。周囲の白質には、何本もの神経線維の束が通っており、体の他の部分からの感覚情報を脳へ運び(上行路)、逆に脳から出される電気信号を筋肉へ伝えている(下行路)。ヒトでは31対の脊髄神経が脳と身体の各部分との情報伝達において主要な役割を果たしているので、脊髄が交通事故等による外傷、脊椎変形等の脊椎疾患、腫瘍、血流の遮断による虚血等により損傷されて神経が傷害を受けると、四肢の運動麻痺や失行等の運動障害や知覚麻痺が起こりうる。
【0003】
脊髄への血流、特に脊髄前面への血流は、大部分が大動脈の分枝により供給されていることから、どの分枝からの血流供給が遮断されても脊髄は虚血状態になる。血流遮断には、重度のアテローム動脈硬化、大動脈剥離、血栓等によるものに加えて、大動脈瘤の手術に際する人為的な遮断がある。近年、社会の高齢化や食習慣の変化に伴って動脈硬化性疾患が増加しており、虚血性脊髄損傷の危険性が高くなる傾向にある。
【0004】
動脈硬化性疾患のうち、大動脈瘤は、通常、破裂に至るまでは無症状であるが、一旦破裂すると重篤な症状を呈し致死的な影響を及ぼすことから、破裂前の適切な処置が必要である。治療は瘤の部位、大きさ、患者の状態等に応じて内科的及び/又は外科的に行われるが、一定の大きさに達した場合、外科処置が必須となる。一般的な外科処置は、大動脈瘤の前後で大動脈を遮断して瘤を切除し、人工血管で置換する方法(動脈瘤修復術)である。
大動脈瘤のうち、胸部下行大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤の修復術では、脊髄への重要な血中供給部位を含む下行大動脈領域で血流を遮断する必要がある。そのため、手術中又は術後に、脊髄虚血により脊髄神経が損傷され、対麻痺や直腸膀胱障害等の重篤な合併症が起こりうる。実際、胸部下行大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤の修復術における対麻痺の発生率は約10%にも上ると言われている。より軽症の合併症も考慮すれば、大動脈瘤の修復術に際する脊髄虚血に関連した合併症が、患者や社会に及ぼす影響は深刻である。
【0005】
胸部下行大動脈瘤及び胸腹部大動脈瘤の修復術中の脊髄損傷のメカニズムは、主に直接的な組織の虚血に関連していると考えられている。従来、脊髄保護のために数多くの外科的手法や薬理学的な検討がなされてきたが、この重篤な合併症を完全に防止することはできなかった(非特許文献1、2)。
虚血後の神経化学的な変化について詳細な点は不明なままであるが、電位感受性ナトリウムチャネル(VSSC)や電位感受性カルシウムチャネルの働きが虚血による神経のダメージと関係していると考えられている(非特許文献3,4)。VSSCが開くと、虚血によるグルタミン酸の遊離が増加し、細胞内へのカルシウムイオンのオーバーロードが促進される(非特許文献5,6)。そのことが脳虚血後の神経細胞の変性の大きな原因であると考えられている(非特許文献7,8)。これらの知見は、ナトリウムチャネルやカルシウムチャネルのブロッカー(Na/Caチャネルブロッカー)が脊髄や脳の虚血モデルで神経保護的な作用を示していることともつじつまが合っている(非特許文献9,10)。しかし、従来報告されたNa/Caチャネルブロッカーは、血圧降下や不整脈等の重篤な心血管副作用を有するため、その脳脊髄神経保護作用の臨床面適用が制限されていた(非特許文献11)。
【0006】
上記のように、脊髄の虚血性損傷が起こり、神経細胞が傷害されると、対麻痺や直腸膀胱障害等を招く危険性が高いことから、脊髄虚血時の神経傷害を防止及び/又は治療する手段が研究されてきた。例えば、2-アミノ-6-トリフルオロメトキシベンゾチアゾ-ル(RiluzoleTM)が、大動脈クロスクランピングに起因する虚血性脊髄損傷の防止に有効であると開示されている(特許文献1)。また、動脈瘤の修復術後の脊髄損傷モデル動物での虚血性脊髄損傷による障害の予防及び/又は治療におけるピラゾロン誘導体の効果が示唆されている(特許文献2)。
しかしながら、事故や手術に起因する虚血性脊髄損傷が患者や社会に及ぼす影響が大きいことから、脊髄虚血状態で優れた神経細胞保護作用を有する新規な医薬の開発は依然として強く求められている。
【0007】
【特許文献1】国際公開第00/66121号明細書
【特許文献2】特開2004−67585号公報
【非特許文献1】スベンソン(Svensson LG)他、J. Vasc. Surg., 1993; 17:357-70
【非特許文献2】ガラゴズロー(Gharagozloo F)他、Chest., 1996;109: 799-809
【非特許文献3】バロン(Barone FC)他、Stroke. 1995;26: 1683-90
【非特許文献4】リプトン(Lipton P.)、Physiol Rev. 1999; 79:1431-568
【非特許文献5】コッホ(Koch RA)他、J Neurosci. 1994; 14:2585-93
【非特許文献6】カナイ(Kanai Y)他、Trends Neurosci. 1993;16: 365-70
【非特許文献7】チョイ(Choi DW)他、J Neurosci. 1988;8: 185-96
【非特許文献8】オカ(Oka M)他、Life Sci. 2000;67: 2331-43
【非特許文献9】ガンゲミ(Gangemi JJ)他、Ann Thorac Surg. 2000;69: 1744-9
【非特許文献10】ゲンバ(Gemba T)他、J Pharmacol Exp Ther. 1993;265: 463-7
【非特許文献11】タナカ(Tanaka K)他、Brain Res. 2002; 924: 98-108
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、脊髄虚血による神経障害を予防及び/又は治療するための医薬、すなわち、虚血性神経障害治療剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ナトリウム/カルシウムチャネルブロッカーとして既知の化合物の中に、脊髄虚血時の脊髄神経細胞障害の予防及び/又は治療に有用な化合物が含まれることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、式〔I〕:
【化1】


で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、脊髄虚血による神経細胞障害を予防及び/又は治療するための医薬を提供するものである。
式〔I〕において、R1は、置換されていてもよいアリール又は環を構成する原子の数が5〜10個の芳香族複素環基を表す。ここで、芳香族複素環基は、単環又は縮合環であってよく、環構成原子として窒素、酸素又は硫黄を一つ以上含む。さらに、アリール又は芳香族複素環基は、ヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アラルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロアルキルオキシ、アルキルチオ、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、シクロアルキルオキシ、アルキルスルホニル、スルファモイル、アルカノイル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、シアノ及びニトロからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基により置換されていてもよい。
2は、水素、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ又は置換されていてもよいフェニルを表す。かかるフェニルは、ハロゲン、アルキル及びアルコキシからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基により置換されていてもよい。
3、R4は、同一又は異なって、水素若しくは置換されていてもよいアルキル(かかるアルキルは、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、モノアルキルアミノ及びジアルキルアミノからなる群から選択される同一又は異なった1個又は2個の置換基によって置換されていてもよい。)を表すか、R3とR4が隣接するNと一緒になってNR34で4〜8員の環状アミノを表す。かかる環状アミノは、当該窒素のほかに環構成原子として窒素、酸素又は硫黄を有していてもよく、更にアルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、置換されていてもよいアリール及びピリジルからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基によって置換されていてもよい。
さらに、R3、R4が結合しているNは、オキシドを形成していてもよい。
Aは、炭素数2〜10のアルキレンを表す。かかるアルキレンは、任意の位置においてアルコキシ、ヒドロキシ及びオキソからなる群から選択される置換基によって置換されていてもよい。
Eは、O又はSを表す。
Wは、単結合、O、S又は(CH2)n(CH2は、アルキルによって置換されていてもよい。nは1又は2を表す。)を表す。
X、Y、Zは、同一又は異なってCH、CR(Rはアルキルを表す。)又はNを表す。但し、X、Y、Zが同時にCH又はCRの場合は除く。
G環は、ピリジン、ピリミジン、1,3,5−トリアジンを表す。
X、Y、Zの一つ乃至三つがNの場合、その中の一つがオキシドを形成してもよい。
【0010】
本発明の医薬の有効成分である式〔I〕の化合物は既知の化合物であり、脳血管障害急性期に優れた神経細胞壊死抑制作用を示すことが知られている(WO/96/07641)。神経細胞の損傷には、興奮性アミノ酸が関与することが知られており、そのようなアミノ酸の受容体には、N−メチル−D−アスパルテート(NMDA)受容体とNMDA受容体以外の受容体(non−NMDA)が存在する。本発明に係る化合物〔I〕はNMDA受容体には作用しないことが明らかにされている(WO/96/07641)。
しかしながら、化合物〔I〕が脊髄虚血状況下で神経細胞保護作用を有し虚血性脊髄損傷による神経傷害に対する予防及び/又は治療のための医薬として有用であることは、全く知られていなかった。
【0011】
本発明の医薬の有効成分として有用な式〔I〕の化合物として、以下の(i)〜(iv)に示す化合物群を挙げることができる。
(i)NR34が4〜8員の環状アミノであり、Aが炭素数4〜10のアルキレンである化合物。かかる環状アミノは環構成原子として酸素又は硫黄を有していてもよく、この環状アミノは置換基としてアルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ピリジル又はアリールを有していてもよく、このアリールンはヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アラルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロアルキルオキシ、アルキルチオ、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、シクロアルキルオキシ、アルキルスルホニル、スルファモイル、アルカノイル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、シアノ、ニトロからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基により置換されていてもよい。
(ii)一般式〔I〕において、R1が、環を構成する原子の数が5〜10個の芳香族複素環基であり、R2が水素であり、Aが炭素数2〜3のアルキレンであり、かかるアルキレンは、任意の位置においてアルコキシ、ヒドロキシ又はオキソによって置換されていてもよく、EがOである化合物。当該芳香族複素環基は、単環又は縮合環で環構成原子として窒素、酸素又は硫黄を一つ以上含み、かつ、ヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アラルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロアルキルオキシ、アルキルチオ、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、シクロアルキルオキシ、アルキルスルホニル、スルファモイル、アルカノイル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、シアノ及びニトロからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基により置換されていてもよい。
(iii)R1が、環を構成する原子の数が5〜10個の芳香族複素環基であり、かかる芳香族複素環基は、単環又は縮合環で環構成原子として窒素、酸素又は硫黄を一つ以上含み、かつ、ヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アラルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロアルキルオキシ、アルキルチオ、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、シクロアルキルオキシ、アルキルスルホニル、スルファモイル、アルカノイル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、シアノ及びニトロからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基により置換されていてもよく、R2がアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ又はフェニルであり、かかるフェニルは、ハロゲン、アルキル及びアルコキシからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基により置換されていてもよく、Aが炭素数2〜3のアルキレンであり、かかるアルキレンは、任意の位置においてアルコキシ、ヒドロキシ又はオキソによって置換されていてもよい化合物。
(iv)R1が、環を構成する原子の数が5〜10個の芳香族複素環基であり、かかる芳香族複素環基は、単環又は縮合環で環構成原子として窒素、酸素又は硫黄を一つ以上含んでいてもよく、さらに、かかる芳香族複素環基は、ヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アラルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロアルキルオキシ、アルキルチオ、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、シクロアルキルオキシ、アルキルスルホニル、スルファモイル、アルカノイル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、シアノ及びニトロからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基により置換されていてもよく、NR34はピペラジノであり、このピペラジノは無置換又はアルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ピリジル若しくはアリールで置換されていてもよく、このアリールはヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アラルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロアルキルオキシ、アルキルチオ、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、シクロアルキルオキシ、アルキルスルホニル、スルファモイル、アルカノイル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、シアノ及びニトロからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基により置換されていてもよい化合物。
【0012】
本明細書において、アルキルとしては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数1〜6のもの、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシルを挙げることができる。中でも炭素数1〜4のものが好ましい。
【0013】
アルケニルとしては、炭素数2〜6のもの、例えば、ビニル、アリル、3−ブテニル、2−ペンテニル、4−ヘキセニルを挙げることができる。
シクロアルキルとしては、炭素数3〜10のものが好ましく、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、1−アダマンチル、2−アダマンチルを挙げることができる。
【0014】
アリールとしては、炭素数6〜13のフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニルを挙げることができる。特に、フェニルが好ましい。
アラルキルとしては、炭素数7〜13のもので、アルキル部分が直鎖又は分枝鎖状のもので、例えば、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ジフェニルメチル、ナフチルメチルを挙げることができる。
ハロゲンとしては、塩素、フッ素、臭素、沃素を挙げることができる。
【0015】
アルコキシとしては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数1〜6のものが好ましく、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシを挙げることができる。
【0016】
アルカノイルとしては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数1〜6のものが好ましく、例えば、アセチル、プロパノイル、ブタノイル、イソブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、2−メチルペンタノイルを挙げることができる。
【0017】
アルキルチオとしては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数1〜6のものが好ましく、例えば、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、イソプロピルチオ、n−ブチルチオ、イソブチルチオ、sec−ブチルチオ、tert−ブチルチオ、n−ペンチルチオ、イソペンチルチオ、n−ヘキシルチオ、イソヘキシルチオを挙げることができる。
【0018】
アルキルスルホニルとしては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数1〜6のものが好ましく、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、n−プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、n−ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、sec−ブチルスルホニル、tert−ブチルスルホニル、n−ペンチルスルホニル、イソペンチルスルホニル、n−ヘキシルスルホニル、イソヘキシルスルホニルを挙げることができる。
【0019】
ヒドロキシアルキルとしては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数1〜6のもの、例えば、2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、5−ヒドロキシペンチル、6−ヒドロキシヘキシルを挙げることができる。
【0020】
ハロアルキルとしては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数1〜6のもの、例えば、トリフルオロメチル、フルオロメチル、2−ブロモエチル、3−クロロエチルを挙げることができる。
【0021】
モノアルキルアミノとしては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数1〜6のもの、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ブチルアミノ、ヘプチルアミノ、ヘキシルアミノを挙げることができる。
【0022】
ジアルキルアミノとしては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数1〜6のもの、例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジヘプチルアミノ、ジヘキシルアミノを挙げることができる。
【0023】
アルコキシカルボニルの具体例としては、直鎖又は分枝鎖状の炭素数2〜7のものが好ましく、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、n−ペンチルオキシカルボニル、イソペンチルオキシカルボニル、n−ヘキシルオキシカルボニル、イソヘキシルオキシカルボニルを挙げることができる。
【0024】
シクロアルキルオキシの具体例としては、炭素数3〜10のものが好ましく、例えば、シクロプロピルオキシ、シクロブチルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロヘプチルオキシ、シクロオクチルオキシ、2−アダマンチルオキシを挙げることができる。
【0025】
シクロアルキルアルキルの具体例としては、炭素数4〜11のものが好ましく、例えば、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル、シクロブチルメチル、シクロブチルエチル、シクロペンチルメチル、シクロペンチルエチル、シクロペンチルプロピル、シクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル、シクロヘキシルプロピル、シクロヘプチルメチル、2−アダマンチルメチルを挙げることができる。
【0026】
4〜8員の環状アミノとしては、例えば、アゼチジン−1−イル、ピロリジン−1−イル、ピペリジノ、ヘキサメチレンイミノ、テトラヒドロピリジノ、オクタヒドロアゾシン−1−イル、ピペラジン−1−イル、ホモピペラジン−1−イル、モルホリノ、チオモルホリノを挙げることができる。
かかる環状アミノの置換基としてはアルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、置換されていてもよいアリール又はピリジルを挙げることができる。かかるアリール又はピリジルの置換基として、R1の置換基として掲げたものを挙げることができる。
【0027】
環を構成する原子の数が5〜10個の芳香族複素環基としては、任意に選ばれる酸素、硫黄又は窒素原子を環内に1個以上含み、単環であってもよいし、縮合環であってもよい。例えば、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、2−チエニル、2−フリル、2−ピリミジニル、4−ピリミジニル、5−ピリミジニル、3−ピリダジニル、4−ピリダジニル、1−イソキノリル、4−イソキノリル、2−キナゾリニル、1−メチル−2−インドリルを挙げることができる。
【0028】
Aで示されるアルキレンは、直鎖であってもよいし、分枝していてもよい。脊髄虚血から神経を保護し神経傷害を予防及び/又は治療するための医薬として、Aは、炭素数3〜6のアルキレンが好ましく、炭素数4〜6のアルキレンがより好ましい。
Eとしては、Oが好ましい。
Wとしては、単結合が好ましい。
X、Y、Zとしては、X=Z=NでY=CH若しくはZ=NでX=Y=CHが好ましい。特に前者が好ましい。
1としては、ハロゲン置換フェニル、特にフルオロフェニルが好ましい。
2としては、アルキル又はハロアルキルが好ましく、中でもアルキルがより好ましい。特にメチルが好ましい。
3、R4としては、隣接するNと一緒になって−NR34で環状アミノを形成するものが好ましく、中でも環構成ヘテロ原子として窒素原子1個のみを含むものが好ましい。特にピペリジノが好ましい。
【0029】
好ましい化合物としては、式〔Ia〕
【化2】


で表される化合物を挙げることができる。
式〔Ia〕において、A21は、炭素数4〜6のアルキレンを表す。
21は、Oを表す。
21=Z21=NでY21=CH又はX21=Y21=CHでZ21=Nを表す。
21は、ハロゲン置換フェニルを表す。
22は、アルキル又はハロアルキルを表す。
23、R24としては、隣接するNと一緒になって−NR2324で4〜8員の環状アミノを形成するもので、環構成ヘテロ原子として窒素原子1個のみを含むものを表す。
は単結合を表す。
【0030】
より好ましい化合物としては、
4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(4−ピペリジノブトキシ)ピリミジン、
4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(1−メチル−4−ピペリジノブトキシ)ピリミジン、
4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(5−ピペリジノペンチルオキシ)ピリミジン、
4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(6−ピペリジノヘキシルオキシ)ピリミジン、
2−(4−フルオロフェニル)−4−メチル−6−(4−ピペリジノブトキシ)ピリミジン、4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(3−ピペリジノプロポキシ)ピリジン及び
4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(5−ピペリジノペンチルオキシ)ピリジン、並びにそれらの塩を挙げることができる。
【0031】
最も好ましい化合物としては、4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(5−ピペリジノペンチルオキシ)ピリジン、並びにその塩を挙げることができる。
本発明医薬の有効成分である化合物は、ラットを用いた実験で、心臓よりも脳のシナプトソーム膜分画に優先的に分布することから、心臓VSSCと比較して脳VSSCに対する親和性が極めて高く、心機能に対する副作用が低いという優れた性質を有することが確認されている(清水(Shimidzu T)他、Naunyn Schmiedebergs Arch. Pharmacol. 1997; 355: 601-8)。
【0032】
本発明医薬の有効成分として有用な化合物(I)の溶媒和物としては、水和物やエタノール和物を挙げることができる。
また、化合物〔I〕の塩としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、臭化水素酸の鉱酸との塩、又は、酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマール酸、マレイン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸の有機酸との塩等を挙げることができる。
式〔I〕の化合物には不斉炭素を有するものが含まれるが、本発明の医薬には各光学異性体及びこれらのラセミ体のいずれも有用である。また、化合物〔I〕は結晶多形をとる場合があるが、それら結晶多形も本発明に有用である。
本発明の医薬に用いうる式〔I〕で表される化合物、その塩、及び溶媒和物は、既知の方法、例えば、WO96/07641、WO02/20492に記載の方法により製造し、必要に応じて精製することができる。
【0033】
本発明の、式〔I〕で示される化合物、その塩又はそれらの溶溶媒和物を有効成分とする医薬は、脊髄虚血下で神経細胞を保護し、細胞障害(損傷)を予防及び/又は治療するのに有用である。
ここで、「脊髄虚血下で神経細胞を保護し」とは、脊髄への血流が遮断又は制限された状況下で、脊髄神経細胞の損傷を予防し、また、損傷された場合には回復を促進することを意味する。
他の側面において、本発明は、脊髄虚血による神経細胞の損傷を予防及び/又は治療するのに有効な量の式〔I〕で示される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物を、それを必要としているヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、脊髄虚血による神経細胞の障害を予防及び/又は治療する方法を提供する。
さらに別の側面では、本発明は、上記医薬の製造における式〔I〕の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の使用を提供する。
【0034】
本発明の医薬の投与量は、年齢、体重等の患者の状態、投与経路等を考慮して適宜決定されるが、通常は、有効成分である式〔I〕の化合物のヒト成人に対する一日あたりの投与量として、経口投与の場合には0.1mg〜1g/ヒト、好ましくは、1〜300mg/ヒトであり、非経口投与の場合には、0.01mg〜100mg/ヒト、好ましくは、0.1〜30mg/ヒトである。場合により、これらの投与量以下又は以上の用量を必要とすることもある。上記投与量を1日2〜4回に分割して投与することが望ましい。
【0035】
本発明の医薬の投与に際して、有効成分である式〔I〕の化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物をそのまま用いることができるが、一般的には、有効成分を医薬的に許容される無毒性かつ不活性の担体中に含有する医薬組成物として投与することが好ましい。医薬組成物中の有効成分の量は、剤形により異なるが、通常、0.01〜99.5重量%、好ましくは0.5〜90重量%である。
【0036】
担体としては、固形、半固形、又は液状の希釈剤、充填剤、及びその他の処方用の助剤一種以上が用いられる。医薬組成物は、投与単位形態で投与することが望ましい。本発明医薬組成物は、経口投与、組織内投与(例、静脈内投与)、局所投与(例、経皮投与等)又は経直腸的に投与することができる。静脈内投与、又は経口投与が好ましく、静脈内投与が特に好ましい。製剤の調製は当業者既知の方法で行うことができるが、WO96/07641に記載の方法を好適に用いることができる。
【0037】
経口投与は固形又は液状の用量単位、例えば、末剤、散剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、ドロップ剤、舌下錠その他の剤型によって行うことができる。
【0038】
末剤は活性物質を適当な細かさにすることにより製造される。散剤は活性物質を適当な細かさと成し、ついで同様に細かくした医薬用担体、例えば澱粉、マンニトールのような可食性炭水化物その他と混合することにより製造される。必要に応じ風味剤、保存剤、分散剤、着色剤、香料その他のものを混じてもよい。
カプセル剤は、まず上述のようにして粉末状となった末剤や散剤あるいは錠剤の項で述べるように顆粒化したものを、例えばゼラチンカプセルのようなカプセル外皮の中へ充填することにより製造される。滑沢剤や流動化剤、例えばコロイド状のシリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、固形のポリエチレングリコールのようなものを粉末状態のものに混合し、然るのちに充填操作を行うこともできる。崩壊剤や可溶化剤、例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、を添加すれば、カプセル剤が摂取されたときの医薬の有効性を改善することができる。
【0039】
また、本発明化合物の微粉末を植物油、ポリエチレングリコール、グリセリン、界面活性剤中に懸濁分散し、これをゼラチンシートで包んで軟カプセル剤とすることができる。錠剤は賦形剤を加えて粉末混合物を作り、顆粒化もしくはスラグ化し、ついで崩壊剤又は滑沢剤を加えたのち打錠することにより製造される。粉末混合物は、適当に粉末化された物質を上述の希釈剤やベースと混合し、必要に応じ結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等)、溶解遅延化剤(例えば、パラフィン等)、再吸収剤(例えば、四級塩)や吸着剤(例えばベントナイト、カオリン、リン酸ジカルシウム等)をも併用してもよい。
【0040】
粉末混合物は、まず結合剤、例えばシロップ、澱粉糊、アラビアゴム、セルロース溶液又は高分子物質溶液で湿らせ、攪拌混合し、これを乾燥、粉砕して顆粒とすることができる。このように粉末を顆粒化するかわりに、まず打錠機にかけたのち、得られる不完全な形態のスラグを破砕して顆粒にすることも可能である。このようにして作られる顆粒は、滑沢剤としてステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、ミネラルオイルその他を添加することにより、互いに付着することを防ぐことができる。このように滑沢化された混合物をついで打錠する。こうして製造した素錠にフィルムコーティングや糖衣を施すことができる。
【0041】
また本発明化合物は、上述のように顆粒化やスラグ化の工程を経ることなく、流動性の不活性担体と混合したのちに直接打錠してもよい。シェラックの密閉被膜からなる透明又は半透明の保護被覆、糖や高分子材料の被覆、及び、ワックスよりなる磨上被覆の如きも用いうる。他の経口投与剤型、例えば溶液、シロップ、エリキシル等もまたその一定量が本発明化合物の一定量を含有するように用量単位形態にすることができる。シロップは、本発明化合物を適当な香味水溶液に溶解して製造され、またエリキシルは非毒性のアルコール性担体を用いることにより製造される。懸濁剤は、化合物を非毒性担体中に分散させることにより処方される。可溶化剤や乳化剤(例えば、エトキシ化されたイソステアリルアルコール類、ポリオキシエチレンソルビトールエステル類)、保存剤、風味賦与剤(例えば、ペパミント油、サッカリン)その他もまた必要に応じ添加することができる。
【0042】
必要とあらば、経口投与のための用量単位処方は、マイクロカプセル化してもよい。該処方はまた被覆をしたり、高分子・ワックス等中にうめこんだりすることにより作用時間の延長や持続放出をもたらすこともできる。
【0043】
組織内投与は、注射、点滴又は動脈・静脈内への持続注入により行う。注射は、皮下・筋肉又は静脈内注射用とした液状用量単位形態、例えば溶液や懸濁剤の形態を用いることによって行うことができる。
注射、点滴又は動脈・静脈内への持続注入用の医薬製剤は、注射の目的に適合する非毒性の液状担体、例えば水性や油性の媒体に懸濁し又は溶解し、次いで、該懸濁液又は溶液を滅菌することにより調製される。注射液を等張にするために非毒性の塩や塩溶液を添加してもよい。更に安定剤、保存剤、乳化剤等を併用することもできる。
【0044】
直腸投与は、化合物を低融点の水に可溶又は不溶の固体、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、半合成の油脂(例えば、ウイテプゾール、登録商標)、高級エステル類(例えばパルミチン酸ミリスチルエステル)及びそれらの混合物に溶解又は懸濁させて製造した坐剤等を用いることによって行うことができる。経口投与用製剤は固形又は液状の用量単位、例えば、末剤、散剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、ドロップ剤、舌下錠その他の適当な剤形であってよく、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いて調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明の医薬は、脊髄虚血時の細胞障害の予防及び/又は治療に有効である。すなわち、本発明の医薬は、脊髄が虚血に曝された場合、脊髄神経細胞を保護して細胞損傷の進行を予防し、及び/又は傷害された細胞を正常な状態に回復させる治療薬として有用である。従って、本発明の医薬を用いることにより、脊髄に対する虚血性侵襲を阻止又は軽減することができる。ここで、「脊髄の虚血性侵襲」とは、脊髄が虚血状態におかれて、脊髄神経のネクローシス(壊死)やアポトーシスが進行し、脊髄損傷部を通過する刺激伝導が障害され、運動障害や感覚障害を来した状態をいう。
【0046】
本発明の医薬を、大動脈瘤の修復術における虚血性の脊髄侵襲に対して用いる場合、予防的に投与することができる。予防的な投与は、経口又は非経口投与のいずれによっても可能である。また、注射、点滴若しくは動脈・静脈内への持続注入等の非経口的投与によって手術中又はその前後に予防的に投与することもできる。特に、胸部下行大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤の手術においては、手術に先立って、又は手術中に、好ましくは大動脈遮断解除時に、あるいは手術後に複数回投与することが好ましい。また、脊髄虚血による神経細胞障害を有する患者に対しては、症状悪化の防止又は軽減のために本発明の医薬を、非経口(静脈内又は動脈内)又は経口投与することもできる。
【0047】
上記のように、本発明の医薬は、脊髄虚血が起こる前から期間中、さらには再開通のいずれの時点で投与しても有効であることから、脊髄への虚血性侵襲を予測しうる場合(大動脈瘤の修復術の場合等)に限定されず、予測することができない脊髄虚血時(例えば、事故や発作等)の神経障害の予防及び/又は治療にも適用可能である。従って、本発明の医薬は事故や発作等に起因する脊髄虚血による神経損傷を予防及び/治療するためにも有用であり、例えば救急処置として投与することによって神経障害の進行を阻止及び/又は回復を促し、起こりうる後遺症を防止又は軽減することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0049】
製造例1 2−(4−フルオロフェニル)−4−(4−ピペリジノブトキシ)−6−メチルピリジン塩酸塩
(1)4−(4−クロロブトキシ)−2−(4−フルオロフェニル)−6−メチルピリジン
2−(4−フルオロフェニル)−4−ヒドロキシ−6−メチルピリジン2.5g、1−ブロモ−4−クロロブタン3.16g、炭酸銀1.7g及びトルエン100mlを40時間加熱還流した。反応液をろ過し、不溶物を除き、ろ過を濃縮して残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的化合物1.45gを白色結晶として得た。融点59−61℃
【0050】
(2)2−(4−フルオロフェニル)−4−(4−ピペリジノブトキシ)−6−メチルピリジン塩酸塩
上記(1)で得た4−(4−クロロブトキシ)−2−(4−フルオロフェニル)−6−メチルピリジン1.45g、ピペリジン1.26g及びDMF12mlの混合物を100℃で1.5時間攪拌した。反応液を冷却し、氷水に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で数回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的化合物を油状物として1.2g得た。これをメタノールに溶かし、1N塩酸3.5mlを加えpH5とし、濃縮した。残留物にエーテルを加えて結晶をろ取し、結晶をアセトニトリルとエーテルの混合溶媒から再結晶し、目的化合物1.02gを白色結晶として得た。融点 164−166℃
元素分析値(C21H27FN2O・HClとして)
計算値(%):C:66.57 H:7.45 N:7.39;実測値(%):C:66.21 H:7.45 N:7.09
【0051】
製造例1と同様にして以下の化合物を合成した。
製造例2 4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(5−ピペリジノペンチルオキシ)ピリジン塩酸塩(以下、「NS−7」と略す)
融点138−140℃
元素分析値(C22H29FN2O・HClとして)
計算値(%):C:67.25 H:7.70 N:7.13;実測値(%):C:67.00 H:7.68 N:6.95
【0052】
製造例3 4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(5−ピペリジノペンチルオキシ)ピリミジン
(1)4−(4−フルオロフェニル)−6−ヒドロキシ−2−メチルピリミジン
3−(4−フルオロフェニル)−3−オキソプロピオン酸エチルエステル8.7kg、アセトアミジン塩酸塩11.7kg及び炭酸カリウム28.6kgをメタノール34.5kg中で約50℃で5時間撹拌した。反応液から不溶物を分離してメタノールで洗浄し、母液及び洗液に水を加え、18%塩酸水溶液で中和した。中和後、還流下4時間撹拌することで結晶を熟成させ、析出した結晶を遠心分離にて単離し、水洗、乾燥して目的化合物7.4kgを白色結晶として得た。
【0053】
(2)4−クロロ−6−(4−フルオロフェニル)−2−メチルピリジン
4−(4−フルオロフェニル)−6−ヒドロキシ−2−メチルピリミジン13.8kgとオキシ塩化リン11.5kgをアセトニトリル中で還流し、4時間撹拌した。反応液に水を添加し、析出した結晶を分離し、得られた結晶を水洗、乾燥して目的化合物14.6kgを淡黄色結晶として得た。
【0054】
(3)4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(5−ピペリジノペンチルオキシ)ピリミジン
4−クロロ−6−(4−フルオロフェニル)−2−メチルピリジン13.8kg、60%水素化ナトリウム4.8kg、シクロヘキサン130kg、5−ピペリジノ−1−ペンタノール10.6kgを還流下、4時間撹拌した。
【0055】
製造例4 4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(5−ピペリジノペンチルオキシ)ピリミジン・1/2水和物
製造例3で得た反応液を冷却し、水55kgを加えて室温で1時間撹拌した後、水層を除去した。有機層を3%塩酸水溶液で抽出した。抽出液に4%水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和し、析出した結晶を分離した。得られた結晶をアセトン120kg中で活性炭処理し、不溶物をろ去した。ろ液に水85.2kgを加えて晶析させた。析出した結晶を分離、乾燥し、目的化合物19.2kg(収率:87%)を白色結晶として得た。融点:62.0〜63.5%
元素分析値(C21H28FN3O・1/2H2Oとして)
計算値(%):C:68.82 H:7.98 N:11.47;実測値(%):C:68.86 H:7.98 N:11.42
H NMR(200MHz):δ7.95-8.05(m,2H),7.09-7.21(m,2H),6.83(s,1H),4.38(t,J=13.2Hz,2H),2.65(s,3H),2.27-2.38(Complex m,6H),1.74-1.88(m,2H),1.43-1.61(Complex m,10H)
【0056】
製造例5 NS−7
製造例4で得られた4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(5−ピペリジノペンチルオキシ)ピリミジン・1/2水和物18.0kgをアセトン142.2kgに溶解し、塩酸5.0kgを加え、約20℃で1時間撹拌した。析出した結晶を分離し、アセトンで洗浄後、乾燥し目的化合物の粗結晶17.4kgを得た。この粗結晶17.0kgをエタノールから再結晶して目的化合物15.4kg(収率:91%)を白色結晶として得た。
【0057】
製剤例1 注射剤
以下の処方に従って、1mlの注射剤を常法により調製できる。
処方:NS−7 1mg、塩化ナトリウム 9mg、注射用水 適量
【0058】
製剤例2 注射剤 以下の処方に従って、1mlの注射剤を常法により調製できる。
処方:NS−7 1mg、ブドウ糖 48mg、リン酸二水素ナトリウム 1.25mg、リン酸一水素ナトリウム 0.18mg、注射用水 適量
【0059】
製剤例3 注射剤
以下の処方に従って、1mlの注射剤を常法により調製できる。
処方:NS−7 1mg、ソルビット 48mg、ベンジルアルコール 20mg、リン酸二水素ナトリウム 2.5mg、リン酸一水素ナトリウム 0.36mg、注射用水 適量
【0060】
製剤例4 錠剤
以下の処方に従って、常法により120mgの錠剤を調製できる。
処方:NS−7 3mg、乳糖 58mg、トウモロコシデンプン 30mg、結晶セルロース 20mg、ヒドロキシプロピルセルロース 7mg、ステアリン酸マグネシウム 2mg
【0061】
製剤例5 点滴剤
以下の処方に従って、常法により500mlの点滴用輸液バック注射剤を調製できる。
処方:NS−7 25mg、塩化ナトリウム 4.5g、注射用水 適量
【0062】
製剤例6 持続注入剤
以下の処方に従って、常法により20mlのプレフィルドシリンジ・キット製剤を調製できる。
処方:NS−7 20mg、塩化ナトリウム 180mg、注射用水 適量
【0063】
試験例1 ウサギ脊髄虚血による神経細胞障害の抑制
1.実験方法
(1)ウサギ脊髄虚血モデルの作成
26羽のニュージーランド・ホワイト・ラビット(体重:2.2 − 3.0kg)を用い、腎臓より下部の大動脈を20分間閉塞することにより脊髄虚血モデルを作成した。
術前準備は、文献(寺田ら(Terada H)、J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 2001; 122: 979−85)記載の方法に従って行った。薬物投与のために、24ゲージの静脈内カテーテルを動物の耳朶の静脈に留置した。動物をペントバルビタール・ナトリウム(25mg/kg静脈内投与)で麻酔し、自発呼吸させた。0.5% リドカインを局所麻酔剤として皮膚切除部位に投与した。動脈圧モニターのために、左総頸動脈に24ゲージのカテーテルを留置した。体温を直腸プローブで持続的にモニターし、保温ランプにて38.5℃ に維持した。開腹後、腎臓より下部の腹部大動脈を露出した。ヘパリン投与後(200U/kg)、腹部大動脈を腎動脈のすぐ遠位部及び大動脈分岐のすぐ上部にてスネアを用いて20分間閉塞した。その後、スネアを外して大動脈分岐を再開通し、腹部を閉じた。
【0064】
(2)薬物投与
製造例2で得たNS-7(日本新薬、日本から入手可)を0.9%生理食塩水に溶解し、濃度2.5mg/mlの溶液を調製した。動物を無作為に4群に分け、上記(1)の処置を以下の要領で施した。偽手術群(n=3)には大動脈閉塞処理を行わなかった。対照群(n=7)には大動脈閉塞の15分前に生理食塩水(1ml)を静脈内投与した。A群(n=8)には、虚血の15分前にNS-7(1mg/kg)を静脈内投与した。B群(n=8)には、再開通直後にNS-7(1mg/kg)を静脈内投与した。
【0065】
(3)組織の摘出
手術の48時間後にペントバルビタール(200mg/kg)を投与して動物を死に至らしめた。脊髄をすばやく採取し、下部胸髄から下部腰髄の部分を、次の4つのセグメント、すなわち下部胸髄(LT = T10−T12)、上部腰髄 (UL = L1−L2)、中部腰髄 (ML= L3−L4)そして下部腰髄(LL = L5−L6)に分けた。
【0066】
(4)統計分析
データは平均±標準偏差で表した。神経学的スコアと組織学的スコアの統計分析は、Mann-Whitney U テストを用いて行った。生理学的データは、反復測定分散分析の手法で処理した。TUNEL陽性神経細胞数及び脊髄の梗塞面積は、一元分散分析法を行ない、有意差があった場合にはDunnett テストを用いて分析した。
【0067】
2.実験結果
(1)生理学的パラメーター
動物は実験期間中すべて生存していた。体重ならびにベースライン、虚血10分後、再開通10分後の直腸温及び平均動脈圧を表1に示す。体重に有意な差は認められなかった。直腸温及び平均動脈圧は4群間で各時点において差がなかった。
【0068】
表1 生理学的パラメーター
【表1】

【0069】
(2)神経学的評価
後肢の運動機能を手術の24及び48時間後に、Tarlov改良法を用いてスコア化した。神経学的機能の評価は、処置の内容を知らされていない観察者により行なわれた。
0:動きなし、1:かすかな動き、2:補助により正置、3:補助なしで正置、4:弱い跳躍、5:正常な跳躍。
結果を表2に示す。偽手術群の動物は観察期間中正常(Tarlov スコア:5)であった。対照群では、20分間の腎臓より下部の大動脈閉塞により、重篤な極度の神経学的障害が認められた。NS-7の投与(A群及びB群)により後肢の運動機能の回復が術後24及び48時間後に認められた(P<0.01、A群及びB群 対 対照群、両時点にて)。A群と比較して再開通と同時にNS-7を投与した動物(B群)でより良いTarlovのスコアが得られたが、その差は有意ではなかった。
【0070】
表2 術後24及び48時間後の神経学的スコア
【表2】

P<0.01 対24時間後の対照群、 # P<0.01 対48時間後の対照群
(Mann-Whitney U tests)
【0071】
(3)TTC染色による脊髄の梗塞サイズの観察
脊髄の梗塞サイズを測定するため、2,3,5−triphenyltetrazonlium chloride(TTC)(Sigma Chemical, セントルイス、ミズーリ州、米国)染色をし、生存組織を赤レンガ色に、ネクローシス組織を白色に染色した。脊髄(中部腰髄)をすばやく取り出し、2 mm の環状スライスを作成した。スライスを1% TTC中に37℃で30分間インキュベートした。10%ホルマリン溶液で固定後、TTC染色スライスの写真を撮った。
得られた脊髄(中部腰髄)のTTC染色の写真を図1に示す。図中、生存組織は赤レンガ色、梗塞巣は白っぽく見える。白質も白く見える。偽手術群(A)では灰白質に梗塞は見られないが、対照群では後角のほとんど全体に梗塞が認められる。虚血前(C)及び再開通と同時(D)にNS−7を投与した動物(それぞれ、A群及びB群)では微小な梗塞が認められるのみであった。
また、梗塞巣の面積をNational Institute of Healthイメージ・ソフトウェアを用い、全灰白質の面積の百分率として表した。結果を図2に示す。縦軸は梗塞サイズ(%)を表し、左から偽手術群(Sham)、対照群(Control)、A群(Group A)及びB群(Group B)の結果である。* P<0.05 対 対照群。
脊髄虚血の48時間後、対照群の梗塞サイズの平均は54.7±19.8%であった。NS−7投与により、虚血前に投与した時には梗塞サイズは14.0±14.3%(P<0.05、対対照群)、再開通と同時に投与した場合には12.1±12.8%(P<0.05)と、効果的に減少した。
以上のように、TTC染色の結果と48時間後の神経学的スコアの平均との間に良好な相関関係が認められた。
【0072】
(4)病理組織学的検査
脊髄を10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋した。各セグメントから2枚の環状切片(4μm) を切り出し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行ない写真を撮った。結果を図3(中部腰髄、200×)に示す。図3から、偽手術動物の腹側角では病理学的変化がなく(A)、対照群ではエオジン好性の神経変性(矢印)、空胞化、ネクローシスが認められる。しかし、虚血前(C)及び再開通と同時(D)にNS−7を投与した動物(それぞれ、A群及びB群)では微小な細胞ダメージが認められるにすぎない。
動物の群や神経学的所見を知らされていない研究者が各切片の検査を行った。
組織学的ダメージを半定量スコア法を用いてグレード化した(表3)(マーテリーら(Martelli E)J. Vasc.Surg. 2002; 35: 547−53)。
【0073】
表3 脊髄侵襲の病理学的評価のための半定量的スコアリング
【表3】


グレード化した結果を図4に示す。図中、縦軸は脊髄各部位における病理学的スコアの平均値を表し、左から、下部胸髄(LT)、上部腰髄(UL)、中部腰髄(ML)、下部腰髄(LL)の結果である。*P<0.05, # P<0.01 対 対照群 (Mann-Whitney U tests.)。
【0074】
このように、偽手術群では、脊髄のどの部位でもHE染色した切片に脊髄のダメージの徴候は認められなかった。下部胸髄及び上部腰髄の領域では他の3群でダメージは全くないか極微小なものだった。対照群ではほとんどの動物で病理組織学的変化は小さいものであったが、病理組織学的スコアの差は統計学的には有意ではなかった。対照群の中部腰髄及び下部腰髄では、エオジン好性の神経変性、空胞化及びネクローシスに示されるような大きな神経のダメージが認められた(図3,B)。しかし、虚血の15分前にNS-7を投与した動物(A群)、及び再開通直後にNS−7を投与した動物(B群)では、この2部位の脊髄の変化はごくわずかであり、病理組織学的スコアの平均値は対照群よりも有意に低かった(図4)。
【0075】
(5)TUNEL染色
パラフィン包埋切片(中部腰髄)をApop Tag (Intergen Co, ニューヨーク、ニューヨーク、米国)を用いて、製造者の推薦する方法に従い、in situ terminal deoxynucleotidyl transferase (TDT)−mediated dUTP−biotin nick end labeling (TUNEL)染色を行なった。要約すると、パラフィン除去後、切片をプロテアーゼと0.3%過酸化水素水で処理した。その後切片をterminal deoxynucleotidyl transferase enzyme中37℃で60分間インキュベートした。DAB/過酸化水素により発色させた。切片をメチルグリーンにてカウンター染色し、写真を撮った。結果を図5(200×)に示す。図5において、Aは偽手術群、Bは対照群、Cは虚血前にNS−7を投与した群(A群)、Dは再開通と同時にNS−7を投与した群(B群)を表す。矢印はTUNEL陽性運動ニューロンを示す。
次いで、TUNEL染色陽性の運動ニューロン数を3切片で計数し、平均値を算出した( 桜井ら(Sakurai M) J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 2000; 120: 1148−57、ラング−ラズンスキら(Lang−Lazdunski L), J. Vasc. Surg. 2003; 38: 564−75)。結果を図6に示す。図6において、縦軸は切片あたりのTUNEL陽性運動ニューロンの平均値を表し、左から偽手術群(Sham)、対照群(Control)、A群(Group A)及びB群(Group B)の結果である。* P<0.05 対 対照群。
【0076】
DNAの2重鎖がこわれた細胞、すなわちアポトーシスを起こした細胞はTUNEL染色で検出できる。偽手術群の動物の脊髄ではTUNEL染色で何も検出されなかった。対照群のサンプルでは腹側灰白質に多くのTUNEL陽性の運動ニューロンが認められた(図5、B)。虚血15分前又は再開通と同時にNS-7を投与することにより、アポトーシスを起こした細胞の数が、対照群に比べて大きく減少した(p<0.05、対 対照群、図6)。NS-7を投与した2つの群の間には、アポトーシスを起こした細胞の数に有意な差は認められなかった。
【0077】
以上の実験結果は、本発明の医薬が、心血管等への副作用なしに、脊髄虚血に際する神経細胞のネクローシス及びアポトーシスのいずれに対しても保護作用を有し、神経細胞障害に対して優れた予防又は改善効果を奏することを示している。また、本発明の医薬は血流遮断前から遮断解除と同時までの間の任意の時点に投与しても有効であることも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の医薬の有効成分〔I〕は脊髄虚血に際して脊髄神経保護作用を有する。このため、本発明の医薬は、脊髄虚血による神経細胞の損傷を予防及び/又は治療するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】TTC染色を施した腰髄切片の代表例を示す写真である。Aは偽手術群、Bは対照群、Cは虚血前にNS−7を投与した動物群、Dは再開通と同時にNS−7を投与した動物群である。生存組織は赤レンガ色、梗塞巣は白っぽく見える。白質も白く見える。
【図2】図1の写真に基づき、中部腰髄の梗塞巣の面積をNational Institute of Healthイメージ・ソフトウェアを用い、全灰白質の面積の百分率として表した図である。*:P<0.05 対 対照群を表す。
【図3】腰髄の病理切片(中部腰髄、200×)のHE染色の結果を示す写真である。Aは偽手術群、Bが対照群、Cは虚血前にNS−7を投与した動物群、Dは再開通と同時にNS−7を投与した動物群の結果である。矢印はエオジン好性の神経変性を示す。
【図4】脊髄の各部位における病理学的スコアの平均値を示す図である。図中、LTは下部胸髄;ULは上部腰髄;MLは中部腰髄;LLは下部腰髄を表す。*:P<0.05, #:P<0.01 対 対照群 (Mann-Whitney U tests)を表す。
【図5】腰髄のTUNEL染色切片(200×)の写真である。Aは偽手術群、Bが対照群、Cは虚血前にNS−7を投与した動物群、Dは再開通と同時にNS−7を投与した動物群の結果である。矢印はTUNEL陽性運動ニューロンを示す。
【図6】虚血48時間後の脊髄(中部腰髄)TUNEL陽性運動ニューロン数(3片の平均)を示す図である。*:P<0.05, 対 対照群を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式〔I〕:
【化1】


で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、脊髄虚血による神経細胞障害を予防及び/又は治療するための医薬。
式中、R1は、置換されていてもよいアリール又は環を構成する原子の数が5〜10個の芳香族複素環基を表す。ここで、芳香族複素環基は、単環又は縮合環であってよく、環構成原子として窒素、酸素又は硫黄を一つ以上含む。さらに、アリール又は芳香族複素環基は、ヒドロキシ、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、ヒドロキシアルキル、アラルキル、アルケニル、アルコキシ、ハロアルキルオキシ、アルキルチオ、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、シクロアルキルオキシ、アルキルスルホニル、スルファモイル、アルカノイル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、シアノ及びニトロからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基により置換されていてもよい。
2は、水素、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ又は置換されていてもよいフェニルを表す。かかるフェニルは、ハロゲン、アルキル及びアルコキシからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基により置換されていてもよい。
3、R4は、同一又は異なって、水素若しくは置換されていてもよいアルキル(かかるアルキルは、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、モノアルキルアミノ及びジアルキルアミノからなる群から選択される同一又は異なった1個又は2個の置換基によって置換されていてもよい。)を表すか、R3とR4が隣接するNと一緒になってNR34で4〜8員の環状アミノを表す。かかる環状アミノは、当該窒素のほかに環構成原子として窒素、酸素又は硫黄を有していてもよく、更にアルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、オキソ、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、置換されていてもよいアリール及びピリジルからなる群から選択される同一又は異なった1〜3個の置換基によって置換されていてもよい。
さらに、R3、R4が結合しているNは、オキシドを形成していてもよい。
Aは、炭素数2〜10のアルキレンを表す。かかるアルキレンは、任意の位置においてアルコキシ、ヒドロキシ及びオキソからなる群から選択される置換基によって置換されていてもよい。
Eは、O又はSを表す。
Wは、単結合、O、S又は(CH2)n(CH2は、アルキルによって置換されていてもよい。nは1又は2を表す。)を表す。
X、Y、Zは、同一又は異なってCH、CR(Rはアルキルを表す。)又はNを表す。但し、X、Y、Zが同時にCH又はCRの場合は除く。
G環は、ピリジン、ピリミジン、1,3,5−トリアジンを表す。
X、Y、Zの一つ乃至三つがNの場合、その中の一つがオキシドを形成してもよい。
【請求項2】
1がハロゲン置換フェニルであり、R2がアルキル又はハロアルキルであり、R3とR4が隣接するNと一緒になって−NR34で表される環構成ヘテロ原子として窒素原子1個のみを含む4殻員の環状アミノであり、Aが炭素数3〜6のアルキレンであり、EがO又はSであり、Wが単結合であり、X及びZがNで、YがCHであるか、ZがNでX及びYがCHである、請求項1記載の医薬。
【請求項3】
NR34がピペリジノであり、Aが炭素数4〜6のアルキレンであり、EがOであり、Wが単結合であり、X及びZがNでYがCHであるか、ZがNでX及びYがCHである、請求項1記載の医薬。
【請求項4】
有効成分が、4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(4−ピペリジノブトキシ)ピリミジン、
4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(5−ピペリジノペンチルオキシ)ピリミジン、4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(6−ピペリジノヘキシルオキシ)ピリミジン、
4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(1−メチル−4−ピペリジノブトキシ)ピリミジン、
2−(4−フルオロフェニル)−4−メチル−6−(4−ピペリジノブトキシ)ピリミジン、
4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(3−ピペリジノプロポキシ)ピリジン及び
4−(4−フルオロフェニル)−2−メチル−6−(5−ピペリジノペンチルオキシ)ピリジンから成る群から選択される化合物若しくはその塩、又はその溶媒和物を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の医薬。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物若しくはその塩、又はその溶媒和物を有効成分とする脊髄虚血の際の脊髄神経細胞保護剤。
【請求項6】
脊髄虚血による神経細胞の損傷を予防及び/又は治療するのに有効な量の請求項1〜4のいずれかに記載の式〔I〕で示される化合物、その塩又はそれらの溶媒和物を、それを必要としているヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、脊髄虚血による神経細胞の障害を予防及び/又は治療する方法。
【請求項7】
脊髄虚血による神経細胞の障害を予防及び/又は治療するための医薬の製造における、請求項1〜4のいずれかに記載の式〔I〕で示される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−51138(P2007−51138A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198251(P2006−198251)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年1月22日 http://www.sciencedirect.com/を通じて発表
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】