説明

蛍光センサ、針型蛍光センサ、およびアナライトの計測方法

励起光により発生する蛍光によりグルコースを計測する針型蛍光センサ330であって、針先端部332に配設されたセンサ部310と、センサ部310から針後端部334にわたって配設された金属線321、322、323と、を有する針本体部333と、針本体部333と一体化しており、金属線321、322、323が延設されたコネクタ335と、を具備し、センサ部310が第1の主面と第2の主面とを有するシリコン基板311と、蛍光を電気信号に変換するPD素子312と、蛍光を透過し、励起光を発生するLED素子315と、アナライトとの相互作用および励起光により蛍光を発生するインジケータ層317と、を有し、PD素子312、LED素子315、およびインジケータ層317が、シリコン基板311の第1の主面の上でオーバーラップしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内のアナライトの濃度を計測する微小蛍光光度計である蛍光センサ、前記蛍光センサを有する針型蛍光センサ、および前記蛍光センサを用いた前記アナライトの計測方法に関し、特に半導体製造技術およびマイクロマシン製造技術を用いて作製される蛍光センサ、および前記蛍光センサを有する針型蛍光センサ、および前記蛍光センサを用いた前記アナライトの計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体中のアナライトすなわち被計測物質、の存在確認または濃度を測定するための様々な分析装置が開発されている。たとえば、一定容量の透明容器に、アナライトの存在によって性質が変化し蛍光を発生する蛍光色素とアナライトを含む被計測溶液とを注入し、励起光を照射し蛍光色素からの蛍光強度を計測することによりアナライト濃度を定量する蛍光光度計が知られている。
【0003】
一方、特定のアナライト検出に特化した小型の蛍光光度計では、光源と光検出器と被計測溶液の特定のアナライトと相互作用する蛍光色素を含有したインジケータ層とを有している。そして被計測溶液中のアナライトが進入可能なインジケータ層に光源からの励起光を照射することで、インジケータ層内の蛍光色素が被計測溶液中の特定のアナライト濃度に応じた光量の蛍光を発生し、その蛍光を光検出器が受光する。光検出器は光電変換素子であり、受光した光量に応じた電気信号を出力する。この電気信号から被計測溶液中のアナライト濃度が測定される。
【0004】
そして近年、微量試料中の特定のアナライトを計測するために、半導体製造技術およびマイクロマシン製造技術を用いて作製される微小蛍光光度計が提案されている。
【0005】
たとえば、図1および図2に示す蛍光センサ110が、米国特許第5039490号明細書に開示されている。以下の図においてアナライト2は模式的に表示している。
【0006】
図1および図2に示すように、蛍光センサ110は、外部の光源からの励起光Eが透過可能な透明支持基板101と、蛍光Fを電気信号に変換する光検出器である光電変換素子部103と、励起光Eを集光する集光機能部105Aを有する光学板状部105と、アナライト2と相互作用することによって励起光Eの入射により蛍光Fを発するインジケータ層106と、カバー層109とから構成されている。
【0007】
光電変換素子部103は、たとえばシリコンからなる基板103Aに光電変換素子が形成されている。基板103Aは励起光Eを透過しない。このため、蛍光センサ110では、光電変換素子部103の周囲に励起光Eが透過可能な空隙領域120を有している。
【0008】
すなわち、空隙領域120を通過し光学板状部105に入射した励起光Eだけが、光学板状部105の作用により、インジケータ層106中の、光電変換素子部103の上部付近に集光される。集光された励起光E2と、インジケータ層106の内部に進入したアナライト2の相互作用により、蛍光Fが発生する。発生した蛍光Fの一部は光電変換素子部103に入射し、光電変換素子部103において蛍光強度、つまりアナライト2の濃度に比例した電流または電圧などの信号が発生する。なお励起光Eは、光電変換素子部103上に配設されたフィルタ(不図示)の作用により、光電変換素子部103には入射しない。
【0009】
以上の説明のように蛍光センサ110は、透明支持基板101上(on)に、光電変換素子部103であるフォトダイオードを励起光Eの通路である空隙領域120を確保した基板103Aに形成し、その上(above)に、光学板状部105およびインジケータ層106を配設したものである。
【0010】
しかし、上記の公知の蛍光センサ110は、励起光Eの通路である空隙領域120と光電変換素子部103の領域とを、同一平面上に有する。このため、より多くの励起光Eをインジケータ層106に導光するために通路である空隙領域120の面積を広くすると、光電変換素子部103の面積が狭くなるため、蛍光センサの感度を高めることにはならない。反対に光電変換素子部103の検出感度を高くするために光電変換素子部103の面積を広くすると、励起光Eの通路である空隙領域120の面積が狭くなりインジケータ層106に導光する励起光Eが減少してしまうために、やはり蛍光センサの感度を高めることにはならない。すなわち、上記構造の積層構造の蛍光センサでは、高い検出感度を有する蛍光センサを得ることは困難であった。
【0011】
一方、針型センサは、針先端部が被検体に穿刺されることにより、蛍光センサであるセンサ部が被検体の生体内に挿入され、被検体の血液または体液中のアナライトすなわち被計測物質の濃度を測定するセンサである。そして短期留置型針型センサは、所定の期間、たとえば一週間、被検体の体内の被計測物質の濃度を連続して測定可能である。
【0012】
図3および図4に示す針型蛍光センサは国際公開WO06/090596号パンフレットに開示されているバイオセンサ210である。なお、以下の図においてアナライト2は模式的に示している。バイオセンサ210は、針状の中空容器212と、中空容器212内に挿入された担体筒214と、担体筒214内に端部が挿入された光ファイバ218とからなる。中空容器212は、一方が尖り、他方が開口している。中空容器212の側部には複数個の貫通孔220が設けられている。担体筒214は薄い膜を丸めたものからなる。そしてセンサ部216は光ファイバ218の端部に蛍光色素であるルテニウム有機錯体薄膜224を被覆したインジケータ部のみからなる。
【0013】
アナライト2は、貫通孔220を介してセンサ部216に進入する。バイオセンサ210は、光ファイバ218を介してセンサ部216にバイオセンサ210の外部の光源(不図示)から励起光を照射し、センサ部216で発生するアナライト濃度に応じた光量の蛍光を光ファイバ218を介して受光し分析する光検出器(不図示)をバイオセンサ210の外部に備えている。
【0014】
以上の説明のように、バイオセンサ210は、励起光および蛍光を光ファイバ218を使用して伝送する光ファイバ伝送方式である。このような光ファイバ伝送方式の針型センサでは、光ファイバ218を針状の中空容器212に挿通するため製造工程が繁雑である。また、光ファイバ218を介して伝送されてきた蛍光は後段に設けたフォトダイオードなどの光検出器で電気信号に変更するが、細い光ファイバ218を通過可能な光量は限定されるため、信号を大きく増幅する必要があり、その結果、検出信号のS/N比が悪くなり検出感度が低下することがある。
【0015】
また、バイオセンサ210は、光ファイバ218を具備した中空容器212に負荷がかかると、光ファイバ218の導波路損失の変化により光信号強度が変化し、アナライト濃度情報に誤差が発生する。これを補正するためには、レファレンス用光ファイバが必要になるなど、さらに構成が複雑化する。さらに、センサ部216近傍に配設する温度センサの信号伝送なども光ファイバ方式で行う場合には、使用する光ファイバの本数が増えて、さらに構成が複雑となっていた。
【0016】
一方、米国特許第7388110号明細書および米国特許第7524985号明細書には、糖類と結合して蛍光を発する疎水性部位に親水性基を導入した蛍光モノマー化合物と(メタ)アクリルアミド残基を有する重合性単量体とを共重合することにより得られた蛍光センサ物質および前記蛍光センサ物質をインジケータ部に用いた体内埋め込み用の糖類測定用センサが開示されている。
【0017】
本発明は検出感度の高い蛍光センサを提供することを目的とする。さらに本発明は検出感度の高い針型蛍光センサを提供することを目的とする。さらに本発明は検出感度の高いアナライトの計測方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成すべく、本発明の実施の形態の蛍光センサは、第1の主面と第2の主面とを有する基体と、励起光を発生する発光素子と、生体内のアナライトとの相互作用および前記励起光により、蛍光を発生するインジケータ層と、前記蛍光を電気信号に変換する光電変換素子と、を具備し、前記光電変換素子、前記発光素子、および前記インジケータ層が、前記基体の前記第1の主面の上(above)でオーバーラップ(overlap)している。
【0019】
また、上記蛍光センサを有する本発明の別の実施の形態の針型蛍光センサは、針先端部に配設された上記蛍光センサであるセンサ部と、前記センサ部から針後端部にわたって配設された複数の金属線と、を有する針本体部と、前記針本体部と一体化しており、前記複数の金属線が延設されたコネクタと、を具備し、前記センサ部が第1の主面と第2の主面とを有する基体と、励起光を発生する発光素子と、前記生体内のアナライトとの相互作用および前記励起光により蛍光を発生するインジケータ層と、前記蛍光を電気信号に変換する光電変換素子と、を具備し、前記光電変換素子、前記発光素子、および前記インジケータ層が、前記基体の前記第1の主面の上(above)でオーバーラップ(overlap)している。
【0020】
さらに、本発明の別の実施の形態のアナライトの計測方法は、発光素子が発生した励起光が、インジケータ層に導光される励起光照射工程と、前記インジケータ層が、前記アナライトとの相互作用および前記励起光により蛍光を発生する蛍光発生工程と、前記インジケータ層が発生した前記蛍光が、前記発光素子を透過して光電変換素子に入射し、電気信号に変換される光電変換工程と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】公知の蛍光センサの概略断面構造を示した説明図である。
【図2】公知の蛍光センサの概略構造を説明するための分解図である。
【図3】公知の針型蛍光センサの概略構成を示す側面図である。
【図4】公知の針型蛍光センサの概略断面構成を示す断面図である。
【図5】第1の実施の形態の蛍光センサの概略断面構成を示す模式図である。
【図6】第1の実施の形態の蛍光センサの概略構造を説明するための分解図である。
【図7】第1の実施の形態の蛍光センサのフィルタであるシリコン膜または炭化シリコン膜の光透過率の波長依存性を示す図である。
【図8A】第1の実施の形態の蛍光センサの製造方法を説明するための断面模式図である。
【図8B】第1の実施の形態の蛍光センサの製造方法を説明するための断面模式図である。
【図8C】第1の実施の形態の蛍光センサの製造方法を説明するための断面模式図である。
【図8D】第1の実施の形態の蛍光センサの製造方法を説明するための断面模式図である。
【図8E】第1の実施の形態の蛍光センサの製造方法を説明するための断面模式図である。
【図9A】第1の実施の形態の蛍光センサのフィルタの構造を説明するための断面模式図である。
【図9B】第2の実施の形態の蛍光センサのフィルタの構造を説明するための断面模式図である。
【図10】第3の実施の形態の蛍光センサの概略断面構成を示す模式図である。
【図11】第4の実施の形態の蛍光センサの概略断面構成を示す模式図である。
【図12A】第1の実施の形態の蛍光センサのフォトダイオード素子を説明するための断面模式図である。
【図12B】第5の実施の形態の蛍光センサのフォトダイオード素子を説明するための断面模式図である。
【図12C】第5の実施の形態の変形例の蛍光センサのフォトダイオード素子を説明するための断面模式図である。
【図13】第6の実施の形態の針型蛍光センサを有するセンサシステムの模式図である。
【図14】第6の実施の形態の針型蛍光センサの針先端部の断面構造を説明するための断面模式図である。
【図15】第6の実施の形態の針型蛍光センサの針先端部の構造を説明するための分解図である。
【図16A】第6の実施の形態の針型蛍光センサの針本体部の構造を説明するための断面模式図である。
【図16B】第7の実施の形態の針型蛍光センサの針本体部の構造を説明するための断面模式図である。
【図17A】第8の実施の形態の針型蛍光センサの針本体部の構造を説明するための断面模式図である。
【図17B】第8の実施の形態の針型蛍光センサの針本体部の構造を説明するための断面模式図である。
【図18】第9の実施の形態の針型蛍光センサの針先端部の断面構造を説明するための断面模式図である。
【図19】第9の実施の形態の変形例の針型蛍光センサの針先端部の断面構造を説明するための断面模式図である。
【図20】第10の実施の形態の針型蛍光センサの針先端部の断面構造を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<第1の実施の形態>
以下、図面を用いて、本発明の第1の実施の形態の蛍光センサ10について説明する。
【0023】
図5および図6に示すように本実施の形態の蛍光センサ10は、基体であり、第1の主面11Aと第2の主面11Bとを有するシリコン基板11と、光電変換素子であるフォトダイオード(Photo Diode:以下「PD」ともいう。)素子12と、酸化シリコン膜(SiO2膜)13と、フィルタ14と、蛍光を透過する発光素子である発光ダイオード(Light Emitting Diode:以下「LED」ともいう。)素子15と、エポキシ樹脂膜16と、インジケータ層17と、遮光層18とが、シリコン基板11の第1の主面11Aの上(above)に順に積層された構造を有する。そして、PD素子12、フィルタ14、LED素子15、およびインジケータ層17の、それぞれ少なくとも一部が、シリコン基板11の第1の主面11A上(above)の同一領域内に配設されている。ここで、「同一領域内に配設」とはインジケータ層17からの蛍光の少なくとも一部がLED素子15を透過した後、PD素子12に入ることを特徴とし、PD素子12はLED素子15でインジケータ層17と隔絶されていることを表している。
【0024】
言い換えれば、シリコン基板11の第1の主面11Aに形成されたPD素子12の上(above)に、LED素子15とフィルタ14とが配設され、LED素子15とフィルタ14の上(above)にインジケータ層17が配設されており、PD素子12、フィルタ14、LED素子15、およびインジケータ層17が、シリコン基板11の第1の主面上(above)でオーバーラップ(overlap)しており、インジケータ層17が発生した蛍光が、LED素子15およびとフィルタ14を透過し、PD素子12において電気信号に変換される。
【0025】
なお蛍光センサ10は、PD素子12、フィルタ14、LED素子15、およびインジケータ層17のそれぞれの中央部が、シリコン基板11の第1の主面11A上(above)の同一領域内に配設されていることが、より好ましい。
【0026】
すなわち、蛍光センサ10においてはインジケータ層17からの蛍光を透過する発光素子であるLED素子15を用いることにより、公知の蛍光センサとは全く異なる構造を実現している。
【0027】
後述するように、蛍光センサ10では遮光層18が、生体中の血液または体液と接触することにより、アナライト2が遮光層18を通過してインジケータ層17に進入する。
【0028】
シリコン基板11はPD素子12が第1の主面11A上(on)に作成されている基体である。シリコン基板11は製造工程において数十μm程度までの薄膜化が可能であるが、数十μm程度まで薄膜化しても励起光および蛍光を透過しない。光電変換素子として、PD素子12を基体表面に形成する場合は、基体としては単結晶シリコン基板が好適であるが、製造方法によってはシリコン基板ではなく、その他の半導体基板など多様な材料から選択可能である。
【0029】
PD素子12は蛍光を電気信号に変換する光電変換素子であり、光電変換素子としてはPD素子12に限られるものではなく、フォトコンダクタ(光導電体)、またはフォトトランジスタ(Photo Transistor:以下「PT」ともいう)などの各種光電変換素子から選択可能である。そしてフォトダイオードまたはフォトトランジスタが、最も高感度でかつ安定性に優れた蛍光検出感度が実現でき、その結果、検出感度および検出精度に優れる蛍光センサ10が実現できるため特に好ましい。
【0030】
酸化シリコン膜(SiO2膜)13は第1の保護膜であり、たとえば数十〜数百nmの厚さを有する第1の保護膜としてはシリコン窒化膜(SiN膜)、または酸化シリコン膜とシリコン窒化膜とからなる複合積層膜を用いてもよい。
【0031】
フィルタ14はLED素子15が発生する励起光Eは通さず、それよりも長波長の蛍光Fは通す吸収型光学フィルタである。すなわち、蛍光センサ10は、蛍光より短波長である励起光を吸収し、蛍光を透過するフィルタ14を、PD素子12とLED素子15との間に有する。なお、以下では蛍光Fの波長が460nm付近であり、励起光Eの波長が375nm付近の場合を例に説明するが、これに限られるものではない。
【0032】
図7は所定膜厚のシリコン膜または炭化シリコン(SiC)膜が波長に対して光が透過する割合(光透過率)を示す図であり、横軸は光の波長を示し縦軸は光透過率を示している。そして(A)は膜厚が0.5μmのシリコン膜の場合を、(B)は膜厚が360μmの炭化シリコン膜の場合を示している。
【0033】
図7に示すように(A)シリコン膜、(B)炭化シリコン膜のいずれも、375nm付近の紫外線の励起光Eの波長では透過率は10−7以下であるのに対して、460nm付近の蛍光Fの波長では透過率10−1以上すなわち10%以上と、波長による透過率の比としては6桁以上の透過率選択性を有する。
【0034】
特にシリコン膜をフィルタ14として使用する場合、1μmの厚さで十分なため、周知の半導体製造工程において、フィルタ14をシリコン基板11上(above)に一体的に形成できる。なおフィルタ14の材料のシリコンとしては、ノンドープであってもよいが、燐などの不純物をドープした、サブμm〜数μmの厚さを有する多結晶シリコン膜またはアモルファスシリコン膜などが好ましい。
【0035】
またフィルタ14としてガリウムリン(GaP)も、375nm付近より短い励起光の波長では透過率が小さく、460nmの蛍光の波長では透過率が大きいため、好ましく用いることができる。
【0036】
蛍光センサ10はフィルタ14を光吸収型とすることにより励起光の良好な遮断特性および蛍光の良好な透過特性が得られる。また蛍光センサ10は単層のフィルタ14をPD素子12上(above)に配設するだけで済むため、フィルタ14が安価に配設できる。特に単層の光吸収層であるフィルタ14の材料としてシリコン、または炭化シリコンを選択することにより良好な励起光の遮断特性および蛍光の透過特性が実現でき、かつ製造の安定性および制御性に優れている。
【0037】
LED素子15は、励起光を発光し、かつ、蛍光を透過する発光素子である。発光素子としては、LED素子に限られるものではなく、有機EL素子、無機EL素子、またはレーザーダイオード素子など多様な種類の発光素子の中から、特に蛍光を透過する素子を選択すればよい。そして、蛍光透過率、光発生効率、励起光の波長選択性の広さ、および励起光となる紫外線以外の波長の光を僅かしか発しないことなどの観点からは、LED素子が好ましい。
【0038】
さらに蛍光透過率という観点から、LED素子15は、第2の基板であるサファイア基板15A上(on)に形成された窒化ガリウム系化合物半導体15Bよりなる紫外線発光LED素子が特に好ましい。すなわち、サファイア基板15Aおよび窒化ガリウム系化合物半導体15Bは、蛍光の透過率がよい。
【0039】
窒化ガリウム系化合物半導体15Bとしては、GaN、AlInGaN、InGaN系、AlGaN系等の材料を用いることができる。さらに紫外線発光LEDとして、ZnO系、AlN系、ダイヤモンド系等の材料を用いてもよい。
【0040】
LED素子15は、サファイア基板15Aの一面に窒化ガリウム系化合物半導体15BからなるLED発光部が形成されており、LED発光部からの励起光はサファイア基板15A内部を通過してLED発光部が形成されている面とは反対の面からも放出される。なお、蛍光を透過するサファイア基板15Aは、シリコン基板11と同様、数十μm程度までの薄膜化が可能である。
【0041】
なお発光素子として有機EL素子の中で蛍光を透過する素子を用いる場合には、基体であるシリコン基板上(above)にウエハプロセスで一体形成可能である。すなわち、超薄膜のアルミニウム陰電極と、発光層である低分子アルミニウム錯体または高分子π共役系ポリマーと、陽電極であるITO(Indium Tin Oxide)膜を、半導体製造工程により積層することで蛍光を透過する有機EL素子は作成できる。このため、発光素子として有機EL素子を用いた蛍光センサ10は薄型化が可能であり、かつ一体形成による低コスト化を実現可能である。
【0042】
エポキシ樹脂膜16は第2の保護膜である。第2の保護膜としては、たとえばLED素子15をフィルタ14に接着するときに用いるシリコーン樹脂、または透明な非晶性フッ素樹脂なども使用可能である。第2の保護膜は、電気的絶縁性を有すること、水分遮断性を有すること、励起光Eおよび蛍光Fに対して良好な透過率を有すること、などの特性を有する材料から選択される。
【0043】
また、蛍光センサ10の第2の保護膜の特性として励起光が照射されても膜中での蛍光の発生が小さいことが重要である。なお、この蛍光の発生が小さいという特性は、インジケータ層17を除いた蛍光センサ10の全ての透明材料の重要特性であることは言うまでもない。
【0044】
インジケータ層17は、進入してきたアナライト2との相互作用および励起光により蛍光を発生、すなわちアナライト2の濃度に応じた光量の蛍光を発生する。インジケータ層17の層厚は数十μm程度に設定されている。インジケータ層17は、アナライト2の量、すなわち試料中のアナライト濃度に応じた強度の蛍光を発生する蛍光色素が含まれたベース材料から構成されている。なおインジケータ層17のベース材料は、LED素子15からの励起光および蛍光色素からの蛍光が良好に透過できる透明性をもつことが好ましい。ここで、蛍光色素は、試料中に存在するアナライト2そのものでも良い。
【0045】
蛍光色素は、アナライト2の種類に応じて選択され、アナライト2の量に応じて発生する蛍光の光量が可逆的に変化する蛍光色素ならば、どのようなものでも使用できる。たとえば生体内の水素イオン濃度または二酸化炭素を測定する場合には、ヒドロキシピレントリスルホン酸誘導体、糖類を測定する場合には蛍光残基を有するフェニルボロン酸誘導体、カリウムイオンを測定する場合には蛍光残基を有するクラウンエーテル誘導体などを用いることができる。
【0046】
そして、生体内のグルコースのような糖類を測定する場合には、ルテニウム有機錯体、蛍光フェニルボロン酸誘導体、またはフルオレセイン等の蛍光色素が結合した蛋白質であってグルコースと可逆結合するもの等を用いることができる。ルテニウム有機錯体としてはルテニウムと2,2'-ビピリジン、1,10-フェナントロリン、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、4,7-ジメチル-1,10-フェナントロリン、4,7-ジスルホン化ジフェニル-1,10-フェナントロリン、2,2'-ビ-2-チアゾリン、2,2'-ビチアゾール、5-ブロモ-1,10-フェナントロリン、および5-クロロ-1,10-フェナントロリン等との錯体等を用いることができる。さらに、ルテニウム有機錯体のルテニウムに代えてオスミウム、イリジウム、ロジウム、レニウムおよびクロム等の有機錯体を用いることができる。なお蛍光フェニルボロン酸誘導体としては、特に2つのフェニルボロン酸と蛍光残基としてアントラセンを含む化合物が検出感度が高い。
【0047】
以上の説明のように、本発明の蛍光センサ10は、蛍光色素の選択によって、酸素センサ、グルコースセンサ、pHセンサ、免疫センサ、または微生物センサなど、多様な用途に対応している。
【0048】
インジケータ層17は、たとえば、含水し易いハイドロゲルをベース材料として、ハイドロゲル内に上記蛍光色素を包含または結合させている。ハイドロゲルの成分としてはメチルセルロースもしくはデキストランなどの多糖類、(メタ)アクリルアミド、メチロールアクリルアミド、もしくはヒドロキシエチルアクリレート等のモノマーを重合して作製するアクリル系ハイドロゲル、またはポリエチレングリコールとジイソシアネートから作製するウレタン系ハイドロゲルなどを用いることができる。また、インジケータ層17としては蛍光色素を含有した液体を使用することもできる。液体または流動性のあるゾルをインジケータ層17としてとして使用する場合には、たとえば周囲を固体の壁とし、その内部に液体を密閉した構造とする。
【0049】
また、血液または体液中の糖類を検出する場合にはインジケータ層17として、蛍光モノマー化合物(蛍光色素)と、(メタ)アクリルアミド残基を有する重合単量体とを共重合することにより得られる蛍光センサ物質を用いてもよい。蛍光モノマー化合物としては、たとえば、9,10−ビス(メチレン)[[N−(オルトボロノベンジル)メチレン]−N−[(アクリロイルポリオキシエチレン)カルボニルアミノ]−n−ヘキサメチレン]−2−アセチルアントラセン(以下、「F−PEG−AAm」という)を好ましく用いることができる。
【0050】
蛍光センサ10は、長時間の連続モニタに適しているため、生体内の糖類の濃度の定量モニタを行うためのグルコースセンサに特に好ましく用いることができる。
【0051】
なおインジケータ層17は、エポキシ樹脂膜16に、図示していないシランカップリング剤などよりなる接着層を介して接合されている。なお、エポキシ樹脂膜16を配設しないで、インジケータ層17がLED素子15の表面に、直接、接合された構造であってもよい。またLED素子15の表面、すなわち、窒化ガリウム系化合物半導体15Bが形成されているのと反対側のサファイア基板15Aの表面に、凹部を形成し、インジケータ層17またはインジケータ層17の一部を埋入してもよい。
【0052】
そして、最上層である遮光層18は、インジケータ層17の上部表面側に配設された、厚さが数十μm以下の層であり、体液または血液と接触する。遮光層18は、励起光および蛍光が蛍光センサ10の外部へ漏光するのを防止すると同時に、外光が蛍光センサ10の内部に進入を防止する。
ここで、遮光層18はLED素子15由来以外の光、すなわち蛍光センサ10に入射し蛍光信号を乱す可能性を有する不要光を遮光するために、インジケータ層17だけでなく蛍光センサ10全体を覆うことが望ましい。遮光層18は、アナライト2が、その内部を通過してインジケータ層17に到達するのを妨げない材料を用いて構成されている。水溶液中のアナライト分析に用いられる蛍光センサ10の場合は、遮光層18の材料としては、たとえば微多孔質の金属もしくはセラミックス、またはインジケータ層17に用いるハイドロゲルにカーボンブラックもしくはカーボンナノチューブなど光を通さない微粒子を混合した複合材料が好適である。なお、図示しないが、蛍光センサ10のLED素子15、フィルタ14、およびPD素子12の周囲側面も、遮光層18と同じ材料またはカーボンブラックを配合した遮光機能を有する樹脂でコーティングしたり、遮光機能を有する金属膜を蒸着したりすることが好ましい。
【0053】
上記説明の構造を有する蛍光センサ10では、LED素子15からの励起光Eが、インジケータ層17中の蛍光色素に照射される。蛍光色素が発生した蛍光Fは、LED素子15およびフィルタ14を通過してPD素子12に到達し、電気信号に変換される。
次に、本実施の形態の蛍光センサ10の製造方法について簡単に説明する。
最初に、シリコン基板11となるシリコンウエハ11Wの第1の主面11Aに多数のPD素子12が形成される(図8A)。そしてPD素子12の表面に第1の保護膜となる数十〜数百nmの厚さを有する酸化シリコン膜13が形成される。そして酸化シリコン膜13の表面に、多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンなどよりなるフィルタ14が形成される(図8B)。ここまでの工程は半導体製造の前工程と同様の工程であり、多数のPD素子12等がシリコンウエハ11Wに一括形成され、その後、個々の素子に個片化される。
【0054】
続いて個片化された各素子のフィルタ14上(on)の所定位置に、LED素子15などの発光素子が配設される。LED素子15の配設には、光学的に透明なアクリル樹脂もしくはシリコーン樹脂などを使用した接着法、フリップチップボンディング法、または接合界面をプラズマ処理などで活性化して接合するプラズマ活性化接合法などの各種接合法など、色々な方法が使用可能である。
【0055】
次に必要に応じて第2の保護膜としてエポキシ樹脂膜16をLED素子15上(on)に形成したのち、シランカップリング剤などの接着層を介して、インジケータ層17が接合される。インジケータ層17の接着層も、励起光が照射されても蛍光を発生しない材料が用いられる。蛍光センサ10では、インジケータ層17は、蛍光色素を有するF−PEG−AAmを、アクリルアミドおよびメチレンビスアクリルアミドとともに、過硫酸ナトリウムおよびN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンの存在下で重合し、厚さ25μmのゲルフィルムとして作成した。最後に遮光層18がインジケータ層17上(on)に形成され、蛍光センサ10が完成する。
【0056】
なお、本実施の形態の蛍光センサ10の製造方法としてウエハレベルパッケージング技術を用いることも可能である。
【0057】
すなわち図8Aに示すように、半導体製造の前工程と同様の工程にて、第1のウエハであるシリコンウエハ11Wの第1の主面11Aに多数個のPD素子12を形成するPD素子形成工程が行われる。ついで図8Bに示すように、酸化シリコン膜13Aとフィルタ膜14Aとを形成するフィルタ形成工程が行われる。一方、第2のウエハであるサファイア基板に一括して多数個のLED素子15を形成し個片化するLED素子形成工程が行われる。そして図8Cに示すように、第2のウエハを個片化して得られるLED素子15を、第1のウエハのフィルタ膜14Aに接合するLED素子接合工程が行われる。さらに図8Dに示すように、インジケータ膜17Aと遮光膜18Aとを形成するインジケータ膜形成工程が行われる。最後に、図8Eに示すように、第1のウエハを個片化して蛍光センサ10を得る個片化工程が行われる。
【0058】
あるいは、本実施の形態の蛍光センサ10の製造方法として、第2のウエハのLED素子形成工程の後に第2のウエハにインジケータ膜17Aと遮光膜18Aとを形成するインジケータ膜形成工程を行い第2のウエハを個片化しインジケータ膜付きLED素子を得る。そして、インジケータ膜付きLED素子を第1のウエハに接合した後に、第1のウエハを個片化して蛍光センサ10を得る個片化工程を行ってもよい。
【0059】
また本実施の形態の蛍光センサ10の製造方法として、フィルタ膜付き第1のウエハとインジケータ膜付き第2のウエハとを接合してから個片化工程を行ってもよい。なお、この製造方法を用いる場合には、LED素子等の電気配線のための電極部がウエハを個片化したときに切断面に露出するようにしておく必要がある
次に、図5および図6を参照しながら、本実施の形態の蛍光センサ10の動作を説明する。蛍光センサ10は少なくとも遮光層18の外面が生体内に留置されると、体液中または血液中のアナライト2が遮光層18の内部を通過してインジケータ層17に進入する。
【0060】
蛍光センサ10では、LED素子15から励起光が発光される。たとえば、LED素子15の発光のパルス幅は10ms〜100ms、パルス電流は1mA〜100mA程度、また、励起光の中心波長は375nm前後である。励起光は、たとえば30秒に1回の間隔で発光させる。
【0061】
LED素子15からの励起光はエポキシ樹脂膜16を透過して、インジケータ層17に入射する。すなわち、励起光照射工程ではLED素子15が発生した励起光が、インジケータ層17に導光される。すると、蛍光発生工程において、インジケータ層17が、アナライト2との相互作用および励起光によりアナライト2の量に比例する強度の蛍光を発する。またインジケータ層17の蛍光色素は、たとえば、F−PEG−AAmの場合、波長375nmの励起光に対して波長460nmをピークとする蛍光を発生する。なお、フィルタ14の作用によりLED素子15からの励起光はPD素子12へは、PD素子12の計測上問題ないレベルまで遮断される。
【0062】
インジケータ層17からの蛍光は、エポキシ樹脂膜16とLED素子15とフィルタ14と酸化シリコン膜13とを透過し、PD素子12に入射する。そしてインジケータ層17からの蛍光はPD素子12において光電変換され、光発生電荷を生じる。すなわち光電変換工程において、インジケータ層17が発生した蛍光の少なくとも一部、実際には大部分が、LED素子15を透過して、PD素子12に導光され、電気信号に変換される。
【0063】
蛍光センサ10では、図示しない信号検出回路が、PD素子12からの光発生電荷に起因する電流として、または、蓄積した光発生電荷を電圧として、アナライト量を検出する。
なお、信号検出回路は、イメージセンサなどで公知の、FDA(Floating Diffusion Amplifier)を用いた方法を用いることにより、さらに高精度な信号検出が可能となる。
【0064】
ここで、蛍光センサ10では、励起光および蛍光は、LED素子15の内部を通過、すなわち窒化ガリウム系化合物半導体15Bが形成されたサファイア基板15Aの表面と裏面を通過する。そこで各種光の利用効率を向上させるため、LED素子15の表裏面に光学的な反射防止のための構造を形成してもよい。反射防止構造としては、λ/4膜(4分のλ膜)が代表的であるが、表面に光波長よりも寸法的に小さいナノ突起構造を有する構成を用いてもよい。
【0065】
なお、アナライト2が存在しないインジケータ層17から蛍光がでることによるPD素子12からの信号、および、蛍光を受光していないPD素子12からの信号はオフセット出力とよばれる。信号検出回路は、このオフセット出力を信号成分から差し引き、それをアナライト情報とすることで、アナライト2の存在量に比例した信号出力を得ることができる。たとえば、信号検出回路は、励起光発光直前の信号を読み出して記憶し、続いて蛍光信号を読み出して、両者の差分を再度信号として読み出す。
【0066】
なお図示しないがPD素子12の近傍には温度センサが配設されている。温度センサからの、温度信号も、PD素子12からの蛍光信号と同様に金属配線を通して信号検出回路に伝えられる。そして信号検出回路は、蛍光強度のデータを、温度情報などで補正して、アナライト2の濃度信号を得る。なお、温度センサとしてはPD素子12と同じシリコン基板11上(on)に形成される半導体温度センサであることが好ましい。
また、光電変換素子としてPD素子12を有する蛍光センサ10では、PD素子12を温度センサとして使用することも可能である。すなわち光電変換動作を行っていないときにPD素子12を温度センサとして使用することもできる。
以上の説明のように、本実施の形態の蛍光センサ10では、LED素子15からインジケータ層17に放射された励起光は、インジケータ層17内の蛍光色素を励起し蛍光を放射させる。この蛍光のうち、LED素子15側に放射される蛍光は、LED素子15とインジケータ層17との界面での反射およびLED素子15を通過する際に吸収される一部を除いて大部分がLED素子15内部を通過し、さらにフィルタ14を通過して、PD素子12に到達する。すなわち蛍光センサ10のPD素子12は、LED素子15を透過した蛍光を受光し、蛍光信号を得る。一方、LED素子15からPD素子12側に放射される励起光は、フィルタ14で反射または吸収され、フィルタ14で反射された光はLED素子15を通過してインジケータ層17に達し、蛍光色素を励起する。
【0067】
蛍光センサ10は公知の蛍光センサに比べて励起光および蛍光の利用効率が大幅に高く、検出感度の高い蛍光センサである。また蛍光センサ10では励起光および蛍光の幾何光学的光路設計は不要であり、単に層状に各構成要素を積層するだけで良い。このため、蛍光センサ10は微小にするほど精度が要求される光路設計上のパターンの位置決めが不要であり製造し易い。そして蛍光センサ10は公知の蛍光センサに比べて励起光強度が大きく、かつ大面積を有する光電変換素子が配設可能であるため、公知の蛍光センサよりも検出感度および検出精度に優れる。
【0068】
さらに、蛍光センサ10は複雑で精度の必要な幾何光学的光路設計が不要でありながら、インジケータ層17とLED素子15とが平行に積層されるため、励起光が不均一にインジケータ層17に照射されるリスクが少ないので、微小であっても均質な蛍光信号が得られる。
【0069】
さらに蛍光センサ10は、公知の蛍光センサのように光源、または光源および光検出器を外部に有するのではなく、光源(発光素子)と光検出器(光電変換素子)とインジケータ層とを一体的に有する小型の蛍光光度計である。
【0070】
以上の説明のように、本実施の形態の、蛍光センサを用いたアナライトの計測方法は、発光素子が発生した励起光がインジケータ層に導光される励起光照射工程と、前記インジケータ層が前記アナライトとの相互作用および前記励起光により蛍光を発生する蛍光発生工程と、前記インジケータ層が発生した前記蛍光が前記発光素子を透過して光電変換素子に入射し電気信号に変換される光電変換工程と、を具備する。
【0071】
本実施の形態の蛍光センサ10の製造方法は、蛍光センサ10の安定大量製造に貢献する。製造された蛍光センサ10は検出感度が高く、小型であるも関わらず、検出感度および検出精度に優れ、また製造歩留まりが良好で低価格化が可能である。
【0072】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態の蛍光センサ10Aについて説明する。本実施の形態の蛍光センサ10Aは第1の実施の形態の蛍光センサ10と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
第1の実施の形態の蛍光センサ10のフィルタ14は、単層シリコン膜などによるフィルタであったが、本実施の形態の蛍光センサ10Aのフィルタ14C(図5、図6参照)は、多重干渉型フィルタである。すなわち、フィルタ14Cは、単層シリコン膜などを薄膜に分割して積層することにより、吸収効果に加えて多重干渉効果を有する。
以下、図9A〜図9Bを参照しながら多重干渉効果型のフィルタ14Cについて説明する。図9Aは、単層フィルタの断面模式図であり、図9Bは本実施の形態のフィルタの断面模式図である。すなわち、図9Aは単層のシリコン層22がそれより屈折率の低い酸化シリコン層21により挟まれている単層フィルタ23の例を示しており、図9Bはシリコン層22が2分割されたシリコン層22Aおよび22Bの間に酸化シリコン層21がある多重干渉効果型のフィルタ24の例を示している。
【0073】
すなわち、蛍光センサ10Aの多重干渉効果型のフィルタ14Cでは、図9Bに示すようにシリコン層22Aおよび22Bが、それより屈折率の低い酸化シリコン層21で挟まれている構造を有している。ここで、干渉効果による光透過率のピーク波長:λと、層厚:Tとの関係は以下の(式1)で表される(自由端-自由端条件)。
【0074】
T=λ×K/(2×n)・・・(式1)
ここで、Kは自然数、nはシリコンの屈折率である。
【0075】
同様に、透過率が最小、すなわちボトムとなる条件は、以下の(式2)で表される
T=λ×(2×K−1)/(4×n)・・・(式2)
(式1)および(式2)より、以下の(式3)の関係に近い層厚値を選択すると、干渉効果により、さらに望ましいフィルタ特性、すなわち、励起光は通過しにくく、蛍光は通過しやすい特性となる。
【0076】
λf×K1/(2×nf)=λs×(2×K2−1)/(4×ns)・・・(式3)
ここでフットノートのfは蛍光を、またsは励起光を表す。K1、K2は整数である。
【0077】
たとえば、(式3)に、λf=460nm、nf=4.58、λs=375nm、ns=6.71の値を代入すると、以下に示す(式4)の不定方程式が得られる。
【0078】
(2×K2−1)/K1=3.6・・・(式4)
(式4)より、K1=2の場合、K2=4.1となり、自然数解に近い値が得られる。
【0079】
また、K1=2の場合はシリコン層の厚さは(式1)より、101.5nmとなる。すなわち、フィルタ14Cのシリコン膜の全厚が500nmの場合は、100nmの層に5分割すれば良い。
【0080】
多層のシリコン膜の、それぞれのシリコン層の間は、シリコンより低屈折率の酸化シリコン(SiO2)を介在させる。その場合、酸化シリコン層の最適条件も、(式1)がピーク条件、(式2)がボトム条件となり、酸化シリコンの場合(375nmでn=1.474、460nmでn=1.46)は、以下の(式5)に示す不定方程式を得る(固定端-固定端条件)。
【0081】
(2×K2−1)/K1=2.48・・・(式5)
(式5)より、K2=3、K1=2.02が自然数解に近く、この場合、酸化シリコン層の厚さは315nmとなる。
【0082】
つまり、フィルタとして全厚500nmのシリコン膜を用いる場合は、シリコン膜を100nm厚の層に5分割し、その間を315nmの酸化シリコン層で挟めばよい。なお、酸化シリコンに代えて窒化シリコン(SiN)を用いてもよい。
【0083】
本実施の形態の蛍光センサ10Aは、第1の実施の形態の蛍光センサ10が有する効果を有する。さらに、励起光などの蛍光とは異なる波長の光の遮断特性に優れ、かつ蛍光のさらなる良好な透過特性を有する多重干渉型のフィルタ14Cを具備するため、蛍光センサ10よりも検出信号のS/N比向上が実現できる。
【0084】
すなわち、蛍光センサ10Aは、フィルタ14Cが、光吸収作用、透過作用および多重干渉効果を兼ね備えた機能を有するため、励起光の最適な遮断特性および蛍光の最適な透過特性が実現できる。特に、多層膜からなるフィルタ14Cが、シリコン層と、酸化シリコン層または窒化シリコン層とから構成されているため、多層膜の各々の層厚の制御性が良好でかつ再現性に優れた光学特性が得られ、標準的な半導体製造技術およびマイクロマシン製造技術に適合した製造工程で多層膜が作成可能である。
【0085】
以上の説明のように本実施の形態の蛍光センサ10Aのフィルタは、シリコン層と、酸化シリコン層または窒化シリコン層のいずれかと、からなる多重干渉型フィルタであり、前記蛍光より短波長の前記励起光を反射、吸収、または反射吸収し、前記蛍光を透過する。
【0086】
なお、以上説明したフィルタ14は吸収型フィルタだったが、フィルタは吸収型フィルタに限られるものではなく、励起光のみをシャープにカットするノッチフィルタ、励起光よりも波長の長い光のみを透過させるエッジフィルタもしくはショートカットフィルタとも称されるロングパスフィルタ、回折型フィルタ、または偏光型フィルタなどを使用してもよい。また、フィルタとして前記各種のフィルタを組み合わせて使用してもよい。
【0087】
さらに、PD素子12の表面に高濃度不純物拡散層を形成し、その拡散層で励起光を吸収してもよい。この場合、拡散層がフィルタ14に相当する。もちろん、拡散層形成においては、吸収長の長い蛍光の信号強度は殆ど低下しない条件に設定する。
【0088】
<第3の実施の形態>
次に、本発明の第3の実施の形態の蛍光センサ10Bについて説明する。本実施の形態の蛍光センサ10Bは第1の実施の形態の蛍光センサ10と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
図10に示すように、本実施の形態の蛍光センサ10Bは、LED素子15とインジケータ層17との間にさらに集光部であるフレネルレンズ16Cを追加形成した蛍光センサである。フレネルレンズ16Cは、屈折率が異なる2種類のエポキシ樹脂膜16Aとエポキシ樹脂膜16Bとの界面に所定の凹凸を形成したものである。フレネルレンズ16Cは、LED素子15からの励起光を効率良くインジケータ層17に入射し、またインジケータ層17からの蛍光を効率良くPD素子12に集める効果を有する。フレネルレンズ16Cのかわりに集光部としてエポキシ樹脂膜16とは別体の構成要素であるレンズ等を用いてもよい。
【0089】
また、図10においては、LED素子15とインジケータ層17の間に集光部であるフレネルレンズ16Cを配設した蛍光センサ10Bを示しているが、それに代えて、またはそれに加えて、PD素子12とフィルタ14の間の第1の絶縁膜(酸化シリコン膜13)に集光部を配設した蛍光センサであってもよい。
【0090】
本実施の形態の蛍光センサ10Bは、第1の実施の形態の蛍光センサ10が有する効果に加えて、集光部であるフレネルレンズ16Cの存在により、蛍光センサ10よりも、さらに高感度な蛍光センサである。なお、図2に示したように米国特許第5039490号明細書に開示されている蛍光センサ110では、フレーム形状の空隙領域120を通過した励起光Eを、前記フレーム形状の中央部に配置されたインジケータ層106に集光するために集光機能部105Aは不可欠であった。これに対して図6に示したように本発明の蛍光センサでは、励起光Eをインジケータ層17に照射するために集光部は必須の構成要素ではない。またインジケータ層17が発生した蛍光は、LED素子15を透過し、PD素子12において前記電気信号に変換されるため、この場合も集光部は必須の構成要素ではない。
【0091】
<第4の実施の形態>
次に、本発明の第4の実施の形態の蛍光センサ10Cについて説明する。本実施の形態の蛍光センサ10Cは第1の実施の形態の蛍光センサ10と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0092】
図5等に示したように第1の実施の形態の蛍光センサ10等は、インジケータ層17の上(on)にアナライト2が進入可能な遮光層18が配置されていた。これに対して、図11に示すように、本実施の形態の蛍光センサ10Cはアナライト2が図面向かって左側から遮光層18を介してインジケータ層17の側面から進入する蛍光センサである。
【0093】
図11に示すように、本実施の形態の蛍光センサ10Cは、シリコン基板11の第1の主面11Aに形成されたPD素子12の上(above)に、インジケータ層17が配設され、インジケータ層17の上(above)にLED素子15が配設されており、インジケータ層17の側面からインジケータ層17に進入したアナライト2により発生した蛍光が、PD素子12に入射し電気信号に変換される。また、蛍光より短波長である励起光を反射、吸収、または反射吸収し、前記蛍光を透過するフィルタ14を、PD素子12とインジケータ層17との間、に有する。そして、所定の厚さを有するインジケータ層の側面を覆う遮光層が、アナライトを通過させる特性を有する。
【0094】
そして図11に示すように、蛍光センサ10Cは、ポリイミド、パリレン、または環状ポリオレフィンなどの樹脂よりなる保護層19を有し、保護層19の先端部、すなわち遮光層18側を被検体に穿刺することにより、被検体の体液中または血液中のアナライト2を測定する。保護層19は外部との遮光を行うために、その材料中にカーボンブラックなどの光遮断性材料を含ませ、光学的に不透明な特性をもたしている。シリコン基板11、PD素子12、酸化シリコン膜13、およびフィルタ14は第1の実施の形態の蛍光センサ10等と同様である。そしてフィルタ14上(on)の先端部側には遮光層18が、後端部側にはインジケータ層17が形成され、その上(on)にLED素子15が配設されている。すなわち、蛍光センサ10Cは、光電変換素子であるPD素子12と、フィルタ14と、インジケータ層17と、発光素子であるLED素子15と、が基体であるシリコン基板11の第1の主面上(above)に、この順に形成されている
さらに蛍光センサ10Cでは、発光素子であるLED素子15とインジケータ層17との間に、励起光よりも長波長の光を遮断する機能を有する長波長カットフィルタ14Dが配設されている。
【0095】
蛍光センサ10Cでは、LED素子15からの励起光は長波長カットフィルタ14Dにより長波長成分がカットされた後、インジケータ層17に照射される。インジケータ層17からの蛍光はフィルタ14と酸化シリコン膜13を通過してPD素子12で検出される。
【0096】
本実施の形態の蛍光センサ10Cは、第1の実施の形態の蛍光センサ10Aが有する効果に加えて、発光素子から励起光波長よりも長波長の光が発生しても、長波長カットフィルタ14DによりPD素子12には長波長の光は入射しない。このため、PD素子12は蛍光のみを検出するため、検出信号のS/N比がよい。
【0097】
<第5の実施の形態>
次に、本発明の第5の実施の形態の蛍光センサ10Dについて説明する。本実施の形態の蛍光センサ10Dは第1の実施の形態の蛍光センサ10等と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0098】
第1の実施の形態の蛍光センサ10ではフィルタ14を配設することにより発光素子からPD素子12に入射する不要な励起光をカットしていた。これに対して本実施の形態の蛍光センサ10Dでは、構造に特徴のあるPD素子12Dを有するため、フィルタ14を有していなくとも不要な励起光を検出しない。なお第5の実施の形態の蛍光センサ10Dの基本構造は、フィルタ14を有していない点を除けば、第1の実施の形態の蛍光センサ10等と同様である。
【0099】
図12A〜図12Cに蛍光センサのPD素子の断面構造模式図を示す。図12Aに示す第1の実施の形態の蛍光センサ10等のPD素子12では、n型領域とp+型領域の間の電流を電流計31により蛍光信号を検出していた。これに対して、図12Bに示す本実施の形態の蛍光センサ10Dでは、PD素子12Dは、シリコン基板11の内部に形成された深さの異なる2個のPD受光部(p+型領域)P1、P2を有し、深い方のPD受光部P2の電流を電流計32により検出する。このためPD素子12Dでは進入深さの浅い光、すなわち短波長成分の影響を電気的にカットした蛍光信号を得ることができる。
【0100】
このため、本実施の形態の蛍光センサ10Dは、フィルタ14を有していない簡単な構造でありながら、第1の実施の形態の蛍光センサ10と同様の効果を得ることができる。
【0101】
以上の説明のように、本実施の形態の蛍光センサ10Dは、PD素子12Dが、第1の受光部P1と、第1の受光部P1よりも深部にn型領域Nを介して形成された第2の受光部P2と、を有し、同一のバイアス電圧が印加された第1の受光部P1と第2の受光部P2のうち、第2の受光部P2に流れる電流を検出することにより、入射する励起光による電気信号を電気的にカットする。
【0102】
なお、蛍光センサ10Dにさらに第1の実施の形態の蛍光センサ10等と同様の励起光を吸収し蛍光を透過するフィルタを配設してもよい。また、上記説明では受光部がP型ダイオードからなる場合を説明したが、導電性と極性を逆にしてもよく、すなわち、N型ダイオードにより構成してもよい。
【0103】
<第5の実施の形態の変形例>
次に、本発明の第5の実施の形態の変形例の蛍光センサ10Eについて説明する。本実施の形態の蛍光センサ10Eは第5の実施の形態の蛍光センサ10Dと類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0104】
第5の実施の形態の蛍光センサ10Dは構造に特徴のあるPD素子12Dを有するため、フィルタ14を有していなくとも不要な励起光を検出しなかった。これに対して、本変形例の蛍光センサ10Eは励起光をカットするフィルタ14を有し、かつ蛍光センサ10Dと同様に構造に特徴のあるPD素子12Eを有する。
【0105】
すなわち、図12Cに示すように、蛍光センサ10EのPD素子12Eは、シリコン基板11の内部に形成された深さの異なる2個のPD受光部(p+型領域)P1、P2を有し、浅い方のPD受光部P1の電流を電流計33により検出する。
【0106】
蛍光センサ10Eは、蛍光センサ10D等と同様の効果を有し、よりS/N比に優れた蛍光信号の検出が可能となる。
【0107】
以上の説明のように、本実施の形態の蛍光センサ10Eは、PD素子12Eが、第1の受光部P1と、第1の受光部P1よりも深部にn型領域Nを介して形成された第2の受光部P2と、を有し、同一のバイアス電圧が印加された第1の受光部P1と第2の受光部P2のうち、第1の受光部P1に流れる電流を検出することにより、蛍光よりも長波長のノイズ光による電気信号を電気的にカットする。
【0108】
なお、蛍光センサ10Dまたは蛍光センサ10Eにおいて、図12Bまたは図12Cに示した2個のPD受光部に異なる逆バイアス電圧を印加し各々に印加するバイアス電圧の調節により、最適なS/N比の蛍光信号を得ることも可能である。
【0109】
<第6の実施の形態>
以下、図面を用いて、本発明の第6の実施の形態の針型蛍光センサ330について説明する。図13に示すように、本実施の形態の針型蛍光センサ330は本体部340およびレシーバー345と組み合わせてセンサシステム301として使用される。すなわち、センサシステム301は針型蛍光センサ330と、針型蛍光センサ330が計測した情報を送信する本体部340と、本体部340からの信号を受信し記憶するレシーバー345とを有する。本体部340とレシーバー345との間の信号の送受信は無線または有線で行われる。
【0110】
針型蛍光センサ330は、針先端部332に、第1の実施の形態の蛍光センサであるセンサ部310を有する細長い針本体部333と、針本体部333の針後端部334と一体化しておりたコネクタ335とを有する。コネクタ335は本体部340の嵌合部341と着脱自在に嵌合する。針型蛍光センサ330はコネクタ335が本体部340の嵌合部341と機械的に嵌合することにより、本体部340と電気的に接続される。針本体部333の針先端部は被検者に穿刺可能なように断面が針中央部よりも細径化されていてもよい。逆に針本体部333の針後端部334は針中央部よりも太径化されていてもよい。なお、被検者への負担低減のためには針本体部333の先端の断面寸法は200μm角以下が好ましい。
【0111】
後述するように、針本体部333とコネクタ335とは、センサ部310および金属配線等が形成されたシリコン基板からエッチング処理および/または機械加工処理により一体的に形成することも可能である。
【0112】
本体部340は、図示しないがレシーバー345との間で無線で信号を送受信するための無線アンテナと、電池等の電源と、センサ部310の駆動および制御などを行う各種回路を有する。各種回路としてはたとえば、信号を増幅する増幅回路、回路用基準クロック発生回路、ロジック回路、データ処理回路、AD変換処理用回路、モード制御回路、メモリ回路、および通信用高周波発生器回路などを例示することができる。なお、レシーバー345との間で有線で送受信する場合には、本体部340は、無線アンテナに代えて信号線を有する。
【0113】
針型蛍光センサ330は感染防止等のために使用後は処分される使い捨て(ディスポ)部であるが、本体部340およびレシーバー345は繰り返し再使用されるリユース部である。
【0114】
針型蛍光センサ330は本体部340と嵌合した状態で、被検者自身が体表面から針本体部333を穿刺して、生体内の真皮層に針先端部332が留置される。または被検者自身が針本体部333を穿刺した後、針型蛍光センサ330が本体部340と嵌合されてもよい。そして、センサシステム301では、たとえば体液中のグルコース濃度を連続して測定し、レシーバー345のメモリに記憶することができる。すなわち、本実施の形態の針型蛍光センサ330は連続使用期間が一週間程度の短期皮下留置型の針型蛍光センサである。特に、針型蛍光センサ330はグルコース連続モニタ装置として好ましく用いることができる。
【0115】
次に、図14および図15を用いて、針型蛍光センサ330の、針本体部333および針先端部332のセンサ部310の構造について説明する。
【0116】
図14に示すように、針型蛍光センサ330の針本体部333は、樹脂基板324と、保護層326と、6本の金属線321、322、323とを有する。
【0117】
樹脂基板324と、保護層326とは、たとえばポリイミド、ポリパラキシリレン、または環状ポリオレフィンなどの樹脂よりなり、針先端部332に外部からの光が入射するのを遮光するために、材料中にカーボンブラックなどの光遮断性材料を含有し、光学的に不透明な特性を有している。
【0118】
金属線321、322、323はアルミニウムまたは銅などの導電体よりなり、センサ部310の電気配線としての役割に加えて、針本体部333の剛性増加の機能を有する。金属線321、322、323は針先端部332に配設されたセンサ部310から針後端部334にわたって配設されており、さらにコネクタ335まで延設され、コネクタ335と嵌合した本体部の各種回路と接続されている。
【0119】
ここで、金属線321は光電変換素子であるフォトダイオード(Photo Diode:以下「PD」ともいう。)素子312からの蛍光信号を本体部340に伝達し、金属線322は本体部340から発光素子である発光ダイオード(Light Emitting Diode:以下「LED」ともいう。)素子315に駆動電力を供給し、金属線323は温度センサ327(図15参照)からの温度信号を本体部340に伝達する。
【0120】
なお、図15では、金属線321、322、323は、それぞれ2本の金属線321Aおよび321B、322Aおよび322B、323Aおよび323Bからなり、金属線321、322と金属線323とは絶縁層(不図示)を介して多層構造を有する場合を例示している。絶縁層の材料として保護層326と同じ材料を用いてもよく、この場合には保護層326内に金属線321、322、323が埋め込まれた構造となる。また、図15では金属線321、322、323をシリコン基板311よりも下に図示しているが、金属線321、322、323はシリコン基板311上(on)に形成されていてもよい。
【0121】
なお、金属線321、322、323は、蒸着法、スパッタ法、めっき法、もしくは前記の組み合わせ等のアディティブ法、金属箔のエッチングによるサブトラクト法、またはバルク細線を用いて形成することができる。
【0122】
なおセンサ部310の基本構造は、すでに説明した蛍光センサ10であるが、構成要素の符号は、300を加算した数字で表現している。すなわち、針型蛍光センサ330は蛍光センサ10を有する。
【0123】
なおPD素子312と金属線321とは、ボンディングワイヤ328、または貫通配線などの手段により、電気的に結線されている。
【0124】
そして、インジケータ層317上(on)、つまりセンサ部の最表面には、ハイドロゲルとカーボンブラック等とで構成される遮光層318が形成されており各種光の遮断を行う。ここで遮光層318はアナライトを通過させる特性を有している。なおインジケータ層317および遮光層318の厚さは、それぞれ数十μm程度に設定されている。遮光層318は、針先端部332だけでなく、針型蛍光センサ330の全体を覆っていてもよいし、針先端部332以外はチタンからなる金属膜など異なる部材により遮光してもよい。遮光層318を有する針型蛍光センサ330は、外部に励起光が漏れ出さず人体に関して安全な、かつ、良好なS/N比の蛍光信号を得ることができる。
また、図15に示すように、針先端部332のセンサ部310には温度センサ327も配設されている。温度センサ327からの温度信号は金属線323を介して本体部340に伝送される。温度センサ327としては、蛍光温度計などの光学型、サーミスタ型、金属薄膜抵抗型、またはPN接合の順方向電流の温度特性を基礎におく半導体型などがあるが、温度に対する応答の直線性の観点、および後述するシリコン基板311への形成の観点から、半導体型温度センサが好ましい。すなわち、図15においては温度センサ327をシリコン基板311と別体のものとして表示しているが、半導体型の温度センサ327はPD素子312と同じシリコン基板311に形成することができる。
【0125】
また、光電変換素子としてPD素子312を有する針型蛍光センサでは、PD素子312を温度センサとして使用することも可能である。すなわち光電変換動作を行っていないときにPD素子312を温度センサとして使用することもできる。
以上の説明のように、本実施の形態の針型蛍光センサは、第1の実施の形態の蛍光センサを有し、生体内に留置する針先端部に配設された前記蛍光センサであるセンサ部と、前記センサ部から針後端部にわたって配設された複数の金属線と、を有する針本体部と、前記針本体部と一体化しており、前記複数の金属線が延設されたコネクタと、を具備する。
【0126】
次に、針型蛍光センサ330の動作について説明する。すでに説明したように、使用時には被検者により針先端部332と針本体部333の一部とは、体表より皮下の真皮層に穿刺し挿入/留置される。針型蛍光センサ330を体内に挿入するときには、被検者は必要に応じてアウターニードルなどを使用してもよい。なお、針型蛍光センサ330は目的に応じて適した生体内の組織、たとえば、血管等に挿入し留置してもよい。または生体と生体外の装置とをつなぐチューブ等を介して血液等が循環している場合に、生体外のチューブに穿刺してもよい。なお真皮層に挿入/留置された蛍光センサはアナライト検出のレスポンスが特に良い。
【0127】
まず、本体部340より、コネクタ335および針本体部333の金属線322を介して供給される駆動電力信号によりLED素子315から励起光が発光される。たとえば、LED素子315の発光のパルス幅は10ms〜100ms、パルス電流は1mA〜100mA程度、また、励起光の中心波長は375nm前後である。励起光は、たとえば30秒に1回の間隔で発光させる。
【0128】
LED素子315からの励起光はインジケータ層317に入射する。インジケータ層317はアナライト2の量に比例する強度の蛍光を発する。なお、アナライト2は遮光層318を通過して、インジケータ層317に進入する。またインジケータ層317の蛍光色素はたとえば波長375nmの励起光に対して波長460nmの蛍光を発生する。
【0129】
インジケータ層317からの蛍光は、LED素子315とフィルタ314等とを透過し、PD素子312に入射する。すなわち、針型蛍光センサ330のLED素子315は蛍光を透過する。そして、蛍光はPD素子312において光電変換され、光発生電荷を生じ、蛍光信号となり、この蛍光信号が、金属線321を通して本体部340へと伝送される。
【0130】
なお、針型蛍光センサ330ではPD素子312の近傍に増幅回路ICを配設することとも可能であり、この場合はPD素子312からの蛍光信号を増幅してから金属線321を介して本体部340に伝送するため、さらに良好なS/N比を有する信号が得られる。
なお温度センサ327からの、温度信号も、PD素子312からの蛍光信号と同様に金属線323を介して本体部340に伝送される。
針型蛍光センサ330で計測された蛍光強度のデータは、たとえば、12bit以上のデジタルデータ情報として、10分間に1回ほどのインターバルで、本体部340の無線アンテナを介してレシーバー345に伝送される。そして蛍光強度のデータは温度情報などで補正されて、アナライト濃度が算出される。
【0131】
なおレシーバー345は算出したアナライト濃度をメモリに記憶するが、アナライト濃度を表示部に表示したり、アナライト濃度が予め設定した範囲を超えた場合に警告を発生したりしてもよい。
【0132】
ここで、針型蛍光センサ330の動作モードとして、スリープモード、オン/オフモード、セイフティーモード、などのモードを設定可能な場合には、モード選択によりセンサ部310を駆動する電池等の電源の長寿命化が実現できる。
【0133】
また針型蛍光センサ330は、針本体部333の長さには自由度がある、すなわち必要に応じて長くすることが可能であるため、センサ部310に隣接して他のタイプのセンサ、たとえばpHセンサまたはインシュリンセンサなどの各種センサの併設も可能である。
【0134】
以上の説明のように、本実施の形態の針型蛍光センサ330のセンサ部310は送受信信号等を金属線321、322、323を介して電気的に伝送するため、光ファイバは不必要である。このため、針型蛍光センサ330は針本体部333の変形が生じても、安定したセンサ信号が得られる。さらには針型蛍光センサ330の作成も、光ファイバを用いないため簡便であり、同時に針型蛍光センサ330の小型化が実現できる。また、針型蛍光センサ330は針先端部332で蛍光信号を電気信号に変換するため、光ファイバセンサに比べて高感度となる。すなわち、針型蛍光センサ330は、高感度化、高精度化、小型化、低価格化、および安定化した針型蛍光センサである。さらに針型蛍光センサ330の針本体部333は樹脂基板324と金属線321、322、323と保護層326とを有していたため、フレキシブルで強度が高い。
【0135】
また、針型蛍光センサ330は、先端部分のサイズの縮小が容易となり、真皮層に挿入が容易な小型で高精度なアナライト検出用蛍光センサである。また針型蛍光センサ330は、針本体部の曲げなどがあっても信号劣化は大幅に改善される。以上のように、針型蛍光センサ330は、構成が簡単で検出感度の高い針型蛍光センサである。
【0136】
針型蛍光センサ330は、長時間の連続計測に適しているため、血液中の糖類の定量を行うための短期皮下留置型の針型グルコースセンサに特に好ましく用いることができる。
【0137】
<第7の実施の形態>
次に、図16A、図16Bを用いて、本発明の第7の実施の形態の針型蛍光センサ330Aについて説明する。本実施の形態の針型蛍光センサ330Aは第6の実施の形態の針型蛍光センサ330と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0138】
図16Aに示すように、第6の実施の形態の針型蛍光センサ330の針本体部333は樹脂基板324と金属線321、322、323と保護層326とを有していた。これに対して、図16Bに示すように本実施の形態の針型蛍光センサ330Aの針本体部333Aはシリコン基板311と金属線321、322、323と保護層326とを有している。つまり第6の実施の形態の針型蛍光センサ330の針本体部333の樹脂基板324に代えて、本実施の形態の針型蛍光センサ330Aの針本体部333Aはシリコン基板311を有する。
【0139】
針本体部333Aのシリコン基板はPD素子312が形成されるシリコン基板311が延在した部分である。シリコン基板311は、すでに説明したように、数十μm前後に厚さを薄膜化するため、針本体部333Aはフレキシブルな特性を有する。なおシリコン基板311の脆性を補い強化するため、チタンまたはSUSなどの金属材料をシリコン基板311の裏面などに形成してもよい。
本実施の形態の針型蛍光センサ330は、樹脂基板324を有する第6の実施の形態の針型蛍光センサ330Aが有する効果に加えて、針本体部333Aは針本体部333よりもさらに強度特性に優れ、かつフレキシブルである。針型蛍光センサ330Aは針本体部333Aが剛性を有するために、体表面よりの針本体部の挿入が容易となる。このため、針型蛍光センサ330Aはアウターニードルを用いることなく、針本体部333Aのみでも挿入が可能である。
【0140】
さらに、コネクタ335の主構造物もシリコン基板311から一体形成されていることが好ましい。いずれもが、シリコン基板311から一体的に作成された、蛍光センサを有するセンサ部(針先端部)と、針本体部333Aと、コネクタ355と、を具備する針型蛍光センサ330は、針型蛍光センサ330Aの効果を有しさらに製造工程を単純化できる。
【0141】
すなわち、生体内の糖類を連続計測する針型蛍光センサは、いずれもが、第1の主面と第2の主面とを有するシリコン基板から一体的に作成された、生体に穿刺し前記生体内に留置する針先端部に配設されたセンサ部と、前記センサ部から針後端部にわたって配設された複数の金属線を有する針本体部と、前記複数の金属線が延設され前記センサ部が検出した情報を外部のレシーバーに送信する本体部と着脱自在に嵌合するコネクタと、を具備し、前記センサ部が励起光を発生する、サファイア基板上(on)に形成された窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光素子と、血液中または体液中の前記糖類との相互作用および前記励起光により、前記糖類の濃度に応じた蛍光を発生するインジケータ層と、前記蛍光を電気信号に変換するフォトダイオードまたはフォトトランジスタからなる光電変換素子と、前記蛍光より短波長である前記励起光を反射、吸収、または反射吸収し、前記蛍光を透過するフィルタと、前記糖類が通過可能な遮光層と、を有し、前記シリコン基板の前記第1の主面に形成された前記光電変換素子の上(above)に順に、前記フィルタ、前記発光素子、前記インジケータ層、および前記遮光層が互いにオーバーラップして、おり、前記インジケータ層が発生した前記蛍光が、前記発光素子を透過し、前記光電変換素子において前記電気信号に変換される。
【0142】
<第8の実施の形態>
次に、図17A、図17Bを用いて、本発明の第8の実施の形態の針型蛍光センサ330Bについて説明する。本実施の形態の針型蛍光センサ330Bは第6の実施の形態の針型蛍光センサ330と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0143】
図17Aに示すように、針型蛍光センサ330Bの針本体部333Bは、4本の金属線321C、322C、323C、329を有している。ここで、金属線321CはPD素子312からの蛍光信号を本体部340に伝達し、金属線322Cは本体部340からLED素子315に駆動電力を供給し、金属線323Cは温度センサ327からの温度信号を本体部340に伝達し、金属線329は共通のアース線である。すなわち、針型蛍光センサ330Bは、センサ部の異なる部材のアース線を共通化することにより針本体部333B内を挿通する金属線の本数を減ずることができ、たとえば4本の金属線だけでセンサ部310との信号の送受信を行うことができる。
【0144】
さらに、PD素子312を温度センサとして使用する針型蛍光センサの場合には、たとえば3本の金属線だけでセンサ部310との信号等の送受信を行うことができる。
【0145】
本実施の形態の針型蛍光センサ330Bは針型蛍光センサ330が有する効果に加えて、金属線の本数を減ずることができるため、針本体部333Bの断面積を小さくすること、つまり細径化が可能である。なお針型蛍光センサ330Bは多層構造の金属線を有することからも、針本体部333Bの細径化が可能である。
【0146】
なお、図17Aでは、針本体部333Bにはシリコン基板311を有していない第6の実施の形態の針型蛍光センサ330と類似の形態を示しているが、第7の実施の形態の針型蛍光センサ330Aのようにシリコン基板を残存してもよい。すなわち、第8の実施の形態の針型蛍光センサ330Bの金属線構成は第7の実施の形態の針型蛍光センサ330Aはもちろん、第6の実施の形態の針型蛍光センサ330にも適用可能である。
【0147】
なお、図17Bに示す針型蛍光センサ330Cのように、針本体部333Cの中の金属線321C、322C、323C、329を多層配線構造としない構造も、もちろん可能である。また針型蛍光センサ330Cのように、針本体部333Cの断面形状は矩形ではなく、たとえば円形等であってもよい。
【0148】
<第9の実施の形態>
次に、本発明の第9の実施の形態の針型蛍光センサ330Dについて説明する。本実施の形態の針型蛍光センサ330Dは第6の実施の形態の針型蛍光センサ330と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する
図18に示すように、針型蛍光センサ330Dのセンサ部310Dは、針型蛍光センサ330等のセンサ部310が有している第1の光電変換素子であるPD素子312(以下「第1のPD素子」という。)に加えて、第1のPD素子312と同様の機能を有する第2のPD素子312Dと、比較インジケータ層317Dとを有する。比較インジケータ層317Dは、インジケータ層317と同様にハイドロゲルなどよりなるが、その層中には蛍光色素を含ませず、励起光入射時にはハイドロゲル等からの蛍光、つまりアナライト2が存在しない状態での蛍光を発生する。すなわち、センサ部310Dはアナライトの影響を受けない電気信号であるオフセット信号を出力する第2のPD素子312Dを有する。
【0149】
なお、図18においては、シリコン基板311の表面に、第1のPD素子312と、第2のPD素子312Dと、温度センサ327と、フィルタ314とが、半導体製造工程を用いて一体形成されている例を示しており、金属配線は表示していない。そして図18に示すようにLED素子315、フィルタ314および遮光層318は、第1のPD素子312上(above)と第2のPD素子312D上(above)とで同じものを共用している。
【0150】
針型蛍光センサ330Dでは、LED素子315がインジケータ層317と比較インジケータ層317Dとに励起光を照射し、第1のPD素子312がインジケータ層317からのアナライト濃度に対応した蛍光信号を出力し、第2のPD素子312Dが比較インジケータ層317Dからのアナライトが存在しない場合の電気信号であるオフセット信号を出力する。針型蛍光センサ330Dでは、両信号の差を取ることによりアナライト濃度のみに対応した正確な蛍光信号を得ることができる。
【0151】
以上の説明のように、針型蛍光センサ330Dでは、針先端部に、アナライトの影響を受けない電気信号を出力する第2の光電変換素子であるPD素子312Dを有する第2のセンサ部を有する。
【0152】
本実施の形態の針型蛍光センサ330Dは、第6の実施の形態の針型蛍光センサ330が有する効果を有し、さらに良好なS/N比を有するアナライトの濃度信号が検出可能となるため、検出精度が高い。
【0153】
ここで、図19は針型蛍光センサ330Dと同様の効果を有す第9の実施の形態の変形例の針型蛍光センサ330Eの構造を示している。すなわち、針型蛍光センサ330Eにおいては、比較インジケータ層317Eは、インジケータ層317と同一の構成であるが、比較インジケータ層317Eへのアナライト2の進入を妨げる、たとえば金属膜からなる遮光層318Eを有する。アナライト2が励起光により蛍光を発生する蛍光色素の場合には、本変形例の針型蛍光センサ330Eを用いることが好ましい。
【0154】
<第10の実施の形態>
次に、本発明の第10の実施の形態の針型蛍光センサ330Fについて説明する。本実施の形態の針型蛍光センサ330Fは第6の実施の形態の針型蛍光センサ330と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0155】
図14等に示したように第6の実施の形態の針型蛍光センサ330等では、インジケータ層317の上部からアナライト2が進入するように遮光層318が配置されていた。これに対して、図20に示すように、本実施の形態の針型蛍光センサ330Fのセンサ部310Fの基本構造は第4の実施の形態の蛍光センサ10Cであり、アナライト2が図面向かって左側から遮光層318を介してインジケータ層317に進入する針型蛍光センサである。
【0156】
すなわち、図20に示すように、針型蛍光センサ330Fのセンサ部310Fは、針先端部332、すなわち遮光層318側を被検体に穿刺することにより、被検体の体液中のアナライト2を測定する。針本体部333は外部との遮光を行うために、その材料中にカーボンブラックなどの光遮断性材料を含ませ、光学的に不透明な特性をもたせた保護層326とシリコン基板311と金属線(不図示)とを有する。シリコン基板311、PD素子312、およびフィルタ314等は第6の実施の形態の針型蛍光センサ330等と同様である。そしてフィルタ314の先端部側には遮光層318が、後端部側にはインジケータ層317が形成され、その上(on)にLED素子315が配設され、さらにLED素子315上(on)には反射層319が形成されている。すなわち、センサ部310Fは、光電変換素子であるPD素子312と、フィルタ314と、インジケータ層317と、発光素子であるLED素子315と、が基体であるシリコン基板311の第1の主面上(above)に、この順に形成されている
さらにセンサ部310Fでは、発光素子であるLED素子315とインジケータ層317との間に、励起光よりも長波長の光を遮断する機能を有する長波長カットフィルタ314Fが配設されている。
【0157】
針型蛍光センサ330Fでは、LED素子315が発生した励起光は、反射層319で反射された光と、直接、長波長カットフィルタ314Fに入射した光とが、ともに長波長カットフィルタ314Fにより長波長成分がカットされた後、インジケータ層317に照射される。インジケータ層317からの蛍光はフィルタ314を通過してPD素子312で検出される。
【0158】
なお、針型蛍光センサ330Fにおいて、インジケータ層317と遮光層318との関係は図20に示す構造に限られるものではない。たとえば、図示はしないが、保護層326の一部分に、インジケータ層317の右部にまで到達する厚さを有する遮光層318、または、保護層326内部を貫通するトンネル状の遮光層318を形成する構造でもよい。すなわち、図20に示すような状態ではアナライト2が、図面向かって右側から遮光層318を通過しインジケータ層317に進入する構造の針型蛍光センサである。もちろん前記構造と図20に示す構造を併用してもよい。
【0159】
以上の説明のように、針型蛍光センサ330Fでは、シリコン基板に形成された光電変換素子の上(above)にインジケータ層が形成され、前記インジケータ層の上(above)にフィルタを介して発光素子が配設されている。そして、所定の厚さを有するインジケータ層の側面を覆う遮光層が、アナライトを通過させる特性を有する。
【0160】
蛍光センサ10Cを有する本実施の形態の針型蛍光センサ330Fは、インジケータ層の針先端方向側の側面から進入したアナライト2による蛍光を検出するため、先端部以外を光学的に不透明な特性をもたせた保護層326で覆うことができる。このため、針型蛍光センサ330Fは、針型蛍光センサ330等が有する効果に加えて、励起光が外部に漏れる恐れがなく、特に安全性が高い。
【0161】
さらに、針型蛍光センサ330Fは、LED素子315から励起光波長よりも長波長の光が発生しても、長波長カットフィルタ314FによりPD素子312には長波長の光は入射しない。このため、PD素子312は蛍光のみを検出するため、検出信号のS/N比がよい。またLED素子315は反射層319を有するため発生した励起光を効率良くインジケータ層317に照射することができる。
【0162】
<第11の実施の形態>
次に、本発明の第11の実施の形態の針型蛍光センサ330Gについて説明する。本実施の形態の針型蛍光センサ330Gは第6の実施の形態の針型蛍光センサ330と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0163】
第6の実施の形態の針型蛍光センサ330のセンサ部310ではフィルタ314を配設することによりLED素子315からPD素子312に入射する不要な励起光をカットしていた。これに対して本実施の形態の針型蛍光センサ330Gのセンサ部310Gの基本構造は、図12Bに示した第5の実施の形態の蛍光センサ10Dであり、構造に特徴のある2つのPD素子312Gを有するため、フィルタ314を有していなくとも不要な励起光を検出しない。なお第11の実施の形態の針型蛍光センサ330Gの基本構造は、フィルタ314を有していない点を除けば、第6の実施の形態の針型蛍光センサ330等と同様である。
【0164】
蛍光センサ10Dを有する本実施の形態の針型蛍光センサ330Gは、フィルタ314を有していない簡単な構造でありながら、第6の実施の形態の針型蛍光センサ330および蛍光センサ10Dと同様の効果を得ることができる。
【0165】
<第11の実施の形態の変形例>
次に、本発明の第11の実施の形態の変形例の針型蛍光センサ330G2について説明する。本変形例の針型蛍光センサ330G2は第11の実施の形態の針型蛍光センサ330Gと類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0166】
第11の実施の形態の針型蛍光センサ330Gのセンサ部310Gは図12Bに示した蛍光センサ10Dであり、構造に特徴のある2つのPD素子を有するため、フィルタ314を有していなくとも不要な励起光を検出しなかった。これに対して、本変形例の針型蛍光センサ330G2のセンサ部310Gは、励起光をカットするフィルタ314を有し、かつ第11の実施の形態の針型蛍光センサと同様に構造に特徴のあるPD素子312G2を有する。
【0167】
すなわち本変形例の針型蛍光センサ330G2は、すでに図12Cを用いて説明した第5の実施の形態の変形例の蛍光センサ10Eとフィルタとをセンサ部に有する。
【0168】
蛍光センサ10Eを有する本変形例の針型蛍光センサは、第11の実施の形態の針型蛍光センサおよび蛍光センサ10Eと同様の効果を有し、よりS/N比に優れた蛍光信号の検出が可能となる。
【0169】
<第12の実施の形態>
次に、本発明の第12の実施の形態の針型蛍光センサ330Hについて説明する。本実施の形態の針型蛍光センサ330Hは第6の実施の形態の針型蛍光センサ330と類似しているため同じ構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0170】
本実施の形態の針型蛍光センサ330Hのセンサ部310Hは、図10に示した第3の実施の形態の蛍光センサ10Bであり、集光部であるフレネルレンズ16Cを有する。
【0171】
蛍光センサ10Bを有する本実施の形態の針型蛍光センサ330Hは、第6の実施の形態の針型蛍光センサ330が有する効果に加えて、集光部であるフレネルレンズ16Cの存在により、針型蛍光センサ330よりも、さらに高感度である。
本発明は、上述した実施の形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。また、上述した実施の形態および変形例の構成を他の実施の形態等と組み合わせてもよい。
【0172】
<付記事項>
第4の実施の形態の蛍光センサ10Cは、以下の通りである。
【0173】
1.第1の主面と第2の主面とを有する基体と、励起光を発生する発光素子と、生体内のアナライトとの相互作用および前記励起光により、蛍光を発生するインジケータ層と、前記蛍光を電気信号に変換する光電変換素子と、を具備し、前記光電変換素子、前記発光素子、および前記インジケータ層が、前記基体の前記第1の主面の上(above)でオーバーラップ(overlap)している蛍光センサ。
【0174】
2.前記基体がシリコン基板であり、前記シリコン基板の前記第1の主面に形成された前記光電変換素子の上(above)に、前記インジケータ層が配設され、前記インジケータ層の上(above)に前記発光素子が配設されており、前記インジケータ層の側面から前記インジケータ層に進入した前記アナライトにより発生した前記蛍光が、前記光電変換素子に入射する上記1に記載の蛍光センサ。
【0175】
3.前記蛍光より短波長である前記励起光を反射、吸収、または反射吸収し、前記蛍光を透過するフィルタを、前記光電変換素子と前記インジケータ層との間、に有する上記2に記載の蛍光センサ。
【0176】
4.前記フィルタが、シリコン、炭化シリコンまたはガリウムリンのいずれかからなる単層の光吸収層である上記3に記載の蛍光センサ。
【0177】
5.前記フィルタが、シリコン層と、酸化シリコン層または窒化シリコン層のいずれかと、からなる多重干渉型フィルタである上記3に記載の蛍光センサ。
【0178】
6.前記光電変換素子が、第1の受光部と、前記第1の受光部よりも深部に形成された第2の受光部と、を有し、同一のバイアス電圧が印加された前記第1の受光部または前記第2の受光部のいずれかの電流を検出することで、入射する前記励起光による電気信号を電気的にカットする上記2に記載の蛍光センサ。
【0179】
7.前記発光素子が、サファイア基板上(on)に形成された窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光ダイオード素子であり、前記光電変換素子が、フォトダイオードまたはフォトトランジスタからなる上記3〜6に記載の蛍光センサ。
【0180】
8.前記発光素子と前記インジケータ層との間、または、前記フィルタと前記光電変換素子との間の、少なくともいずれかに、集光部を有する上記3〜7に記載の蛍光センサ。
【0181】
9.前記アナライトが血液中または体液中の糖類である上記1〜8に記載の蛍光センサ。
【0182】
10.第10の実施の形態の針型蛍光センサ330Fは、針先端部に上記1〜9のいずれかの蛍光センサであるセンサ部を有し、さらに、前記センサ部から針後端部にわたって配設された複数の金属線と、を有する針本体部と、前記針本体部と一体化しており、前記複数の金属線が延設されたコネクタと、を具備する。
【0183】
11.さらに前記コネクタが、前記センサ部が計測した情報を送信する本体部と、着脱自在に嵌合する上記10に記載の針型蛍光センサ。
【0184】
12.前記針本体部が、樹脂基板または前記シリコン基板と、樹脂からなる保護層と、前記複数の金属線と、を有する上記11に記載の針型蛍光センサ。
【0185】
13. 前記複数の金属線が、絶縁層を介して積層された多層構造を有する上記12に記載の針型蛍光センサ。
【0186】
14. 前記センサ部、前記針本体部および前記コネクタが、前記シリコン基板から一体的に作成された上記11に記載の針型蛍光センサ。
【0187】
本出願は、2009年4月13日に日本国に出願された特願2009−97330号および特願2009−97331号を優先権主張の基礎として出願するものであり、上記の開示内容は、本願明細書、請求の範囲、図面に引用されたものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面と第2の主面とを有する基体と、
励起光を発生する発光素子と、
生体内のアナライトとの相互作用および前記励起光により、蛍光を発生するインジケータ層と、
前記蛍光を電気信号に変換する光電変換素子と、を具備し、
前記光電変換素子、前記発光素子、および前記インジケータ層が、前記基体の前記第1の主面の上(above)でオーバーラップ(overlap)している蛍光センサ。
【請求項2】
前記基体がシリコン基板であり、
前記シリコン基板の前記第1の主面に形成された前記光電変換素子の上(above)に、前記発光素子が配設され、前記発光素子の上(above)に前記インジケータ層が配設されており、
前記インジケータ層が発生した前記蛍光が、前記発光素子を透過し、前記光電変換素子に入射する請求項1に記載の蛍光センサ。
【請求項3】
前記蛍光より短波長である前記励起光を反射、吸収、または反射吸収し、前記蛍光を透過するフィルタを、前記光電変換素子と前記発光素子との間に有する請求項2に記載の蛍光センサ。
【請求項4】
前記フィルタが、シリコン、炭化シリコンまたはガリウムリンのいずれかからなる単層の光吸収層である請求項3に記載の蛍光センサ。
【請求項5】
前記フィルタが、シリコン層と、酸化シリコン層または窒化シリコン層のいずれかと、からなる多重干渉型フィルタである請求項3に記載の蛍光センサ。
【請求項6】
前記光電変換素子が、第1の受光部と、前記第1の受光部よりも深部に形成された第2の受光部と、を有し、同一のバイアス電圧が印加された前記第1の受光部または前記第2の受光部のいずれかの電流を検出することで、入射する前記励起光による電気信号を電気的にカットする請求項2に記載の蛍光センサ。
【請求項7】
前記アナライトが血液中または体液中の糖類である請求項3に記載の蛍光センサ。
【請求項8】
前記発光素子が、サファイア基板上(on)に形成された窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光ダイオード素子であり、
前記光電変換素子が、フォトダイオードまたはフォトトランジスタからなる請求項7に記載の蛍光センサ。
【請求項9】
前記発光素子と前記インジケータ層との間、または、前記フィルタと前記光電変換素子との間の、少なくともいずれかに、集光部を有する請求項8に記載の蛍光センサ。
【請求項10】
生体に穿刺する針型蛍光センサであって、
生体内に留置する針先端部に配設されたセンサ部と、前記センサ部から針後端部にわたって配設された複数の金属線と、を有する針本体部と、
前記針本体部と一体化しており、前記複数の金属線が延設されたコネクタと、を具備し、
前記センサ部が
第1の主面と第2の主面とを有する基体と、
励起光を発生する発光素子と、
前記生体内のアナライトとの相互作用および前記励起光により蛍光を発生するインジケータ層と、
前記蛍光を電気信号に変換する光電変換素子と、を具備し、
前記光電変換素子、前記発光素子、および前記インジケータ層が、前記基体の前記第1の主面の上(above)でオーバーラップ(overlap)している針型蛍光センサ。
【請求項11】
前記基体がシリコン基板であり、
前記シリコン基板の前記第1の主面に形成された前記光電変換素子の上(above)に、前記発光素子が配設され、前記発光素子の上(above)に前記インジケータ層が配設されており、
前記インジケータ層が発生した前記蛍光が、前記発光素子を透過し、前記光電変換素子に入射する請求項10に記載の針型蛍光センサ。
【請求項12】
前記蛍光より短波長である前記励起光を反射、吸収、または反射吸収し、前記蛍光を透過するフィルタを、前記光電変換素子と前記発光素子との間に有する請求項11に記載の針型蛍光センサ。
【請求項13】
前記フィルタが、シリコン、炭化シリコンまたはガリウムリンのいずれかからなる単層の光吸収層である請求項12に記載の針型蛍光センサ。
【請求項14】
前記フィルタが、シリコン層と、酸化シリコン層または窒化シリコン層のいずれかと、からなる多重干渉型フィルタである請求項12に記載の針型蛍光センサ。
【請求項15】
前記光電変換素子が、第1の受光部と、前記第1の受光部よりも深部に形成された第2の受光部と、を有し、同一のバイアス電圧が印加された前記第1の受光部または前記第2の受光部のいずれかの電流を検出することで、入射する前記励起光による電気信号を電気的にカットする請求項11に記載の針型蛍光センサ。
【請求項16】
前記アナライトが血液中または体液中の糖類である請求項12に記載の針型蛍光センサ。
【請求項17】
前記発光素子が、サファイア基板上(on)に形成された窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光ダイオード素子であり、
前記光電変換素子が、フォトダイオードまたはフォトトランジスタからなる請求項16に記載の針型蛍光センサ。
【請求項18】
前記コネクタが、前記センサ部が計測した情報を送信する本体部と、着脱自在に嵌合する請求項17に記載の針型蛍光センサ。
【請求項19】
前記センサ部が、温度センサを有する請求項18に記載の針型蛍光センサ。
【請求項20】
前記針先端部に、前記アナライトの影響を受けない電気信号を出力する第2の光電変換素子を有する第2のセンサ部を有する請求項18に記載の針型蛍光センサ。
【請求項21】
前記針本体部が、樹脂基板または前記シリコン基板と、樹脂からなる保護層と、前記複数の金属線と、を有する請求項18に記載の針型蛍光センサ。
【請求項22】
前記複数の金属線が、絶縁層を介して積層された多層構造を有する請求項21に記載の針型蛍光センサ。
【請求項23】
前記発光素子と前記インジケータ層との間、または、前記フィルタと前記光電変換素子との間の、少なくともいずれかに、集光部を有する請求項18に記載の針型蛍光センサ。
【請求項24】
蛍光センサを用いたアナライトの計測方法であって、
発光素子が発生した励起光が、インジケータ層に導光される励起光照射工程と、
前記インジケータ層が、前記アナライトとの相互作用および前記励起光により蛍光を発生する蛍光発生工程と、
前記インジケータ層が発生した前記蛍光が、前記発光素子を透過して光電変換素子に入射し、電気信号に変換される光電変換工程と、を具備するアナライトの計測方法。
【請求項25】
前記アナライトが血液中または体液中の糖類である請求項24に記載のアナライトの計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2012−520087(P2012−520087A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536657(P2011−536657)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際出願番号】PCT/JP2010/056730
【国際公開番号】WO2010/119916
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】