説明

蛍光体及びその製造方法

【課題】 本発明は、高輝度な緑色発光の蛍光体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 実質的な組成が下記の一般式で表され、Na、K、Rb、Csの群から選択される1種以上のアルカリ金属元素を含有した蛍光体であって、該蛍光体は、525nmにおける反射率が82%以上である。
xEuyMgSizab (上式においてMはCa、Sr、Ba、Zn、Mnの群から選ばれる少なくとも1つであり、XはF、Cl、Br、Iの群から選ばれる少なくとも1つであり、6.5≦x<8.0、0.01≦y≦1.5、3.5≦z≦4.3、a=x+y+1+2z−b/2、0.8≦b≦2.2である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びその製造方法に関し、より詳しくはアルカリ金属元素を含有した蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子より放出される光源光と、これに励起されて光源光と異なる色相の光を放出できる波長変換部材とを組み合わせることで、光の混色の原理により、多様な波長の光を放出可能な発光装置が開発されている。例えば、発光素子より、紫外から可視光に相当する短波長側領域の一次光を出射して、この出射光によって波長変換部材であるR・G・B(Red Green Blue)の蛍光を発する蛍光体を励起させると、光の3原色である赤色、青色、緑色の三原色が加色混合されて白色光が得られる。なかでも、緑色発光の蛍光体に関しては白色への寄与が大きいことから発光特性に関する要求度も高く、これまで様々な蛍光体が検討されてきた。
【0003】
例えば、UV放射光または青色光を発するLEDを光源とし、これに励起される蛍光体とを組み合わせた白色発光の照明ユニットが開示されている(特許文献1参照)。この照明ユニットでは、緑色発光の蛍光体として、Euで活性化されたカルシウム−マグネシウム−クロロシリケート(Ca8Mg(SiO4)4Cl2)が用いられている。
【0004】
また、一般式(Ca、Sr、Ba、EuMg1−xMnSi16Cl(ここで、0<a<1.0、0≦b<0.5、0≦c<0.5、0<d<0.2、a+b+c+d=1.0、0≦x<0.3である)で表される緑色発光の蛍光体が開示されている(特許文献2参照)。また、この緑色発光の蛍光体を製造する際に、粒子成長を促進させる目的として、例えばLiCl、NaCl、KClなどのアルカリ金属ハロゲン化物をフラックスとして用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−535477号公報
【特許文献2】特開2008−285576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ディスプレイや照明までも含めた発光装置に用いられる蛍光体として、上述の緑色発光の蛍光体は、輝度が十分ではなく、さらなる発光特性の改良が求められている。また、上述の特許文献2のようにフラックスを添加して作製した蛍光体は、後述するように、525nmにおける反射率が81.1%と低いため、蛍光体が放出する緑色光を吸収していた。これにより、輝度が十分ではなかった。
よって、本発明はこのような問題を解決するためになされたものである。すなわち本発明の主な目的は、優れた発光特性を有する白色光に適用可能な、高輝度な緑色光を発する蛍光体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光体は、実質的な組成が下記の一般式で表され、Na、K、Rb、Csの群から選択される1種以上のアルカリ金属元素を含有した蛍光体であって、この蛍光体は、525nmにおける反射率が82%以上である。
xEuyMgSizab
(上式においてMはCa、Sr、Ba、Zn、Mnの群から選ばれる少なくとも1つであり、XはF、Cl、Br、Iの群から選ばれる少なくとも1つであり、6.5≦x<8.0、0.01≦y≦1.5、3.5≦z≦4.3、a=x+y+1+2z−b/2、0.8≦b≦2.2である。)
【0008】
本発明の蛍光体によれば、高輝度な緑色発光の蛍光体を得ることができる。
【0009】
本発明の蛍光体の製造方法は、実質的な組成が下記の一般式で表される蛍光体の製造方法であって、この蛍光体の組成元素を含有する化合物と、Na、K、Rb、Csの群から選択される1種以上のアルカリ金属元素を含有した化合物と、を含む混合物を窒素雰囲気中で焼成した後に、水素及び窒素からなる還元雰囲気中で焼成する。これにより、高輝度な緑色発光の蛍光体を得ることができる。
xEuyMgSizab
(上式においてMはCa、Sr、Ba、Zn、Mnの群から選ばれる少なくとも1つであり、XはF、Cl、Br、Iの群から選ばれる少なくとも1つであり、6.5≦x<8.0、0.01≦y≦1.5、3.5≦z≦4.3、a=x+y+1+2z−b/2、0.8≦b≦2.2である。)
【0010】
また、アルカリ金属元素を含有した化合物は、Mgに対して0.01以上、2.0以下のモル比で添加されることが好ましい。これにより、蛍光体の粒子成長を好適に促進できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、525nmにおける反射率が高く、525nm付近の波長を有する光を吸収しないため、高輝度な緑色発光の蛍光体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1に係る蛍光体の反射スペクトルを示す。
【図2】実施例2に係る蛍光体の反射スペクトルを示す。
【図3】実施例10に係る蛍光体の反射スペクトルを示す。
【図4】実施例12に係る蛍光体の反射スペクトルを示す。
【図5】実施例14に係る蛍光体の反射スペクトルを示す。
【図6】比較例1〜3に係る蛍光体の反射スペクトルを示す。
【図7】実施例1及び比較例1〜2に係る蛍光体の発光スペクトルを示す。
【図8】実施例1に係る蛍光体の励起スペクトルを示す。
【図9】一般的な発光装置の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、蛍光体及及びその製造方法を例示するものであって、以下のものに特定しない。
【0014】
なお色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。具体的には、380nm〜455nmが青紫色、455nm〜485nmが青色、485nm〜495nmが青緑色、495nm〜548nmが緑色、548nm〜573nmが黄緑色、573nm〜584nmが黄色、584nm〜610nmが黄赤色、610nm〜780nmが赤色である。
【0015】
(実施の形態)
実施の形態に係る蛍光体は、実質的な組成が下記の一般式で表され、Na、K、Rb、Csから選択されるアルカリ金属元素を1種以上含む蛍光体であって、525nmにおける反射率が82%以上である。ここで実質的な組成とは、蛍光体に含まれる元素において、1%未満の元素については組成の一般式に表示しないことを意味する。
EuMgSi:Eu
(上式において、MはCa、Sr、Ba、Zn、Mnの群から選ばれる少なくとも1つであり、
XはF、Cl、Br、Iの群から選ばれる少なくとも1つであり、
6.5≦x<8.0、0.01≦y≦1.5、3.5≦z≦4.3、a=x+y+1+2z−b/2、0.8≦b≦2.2である。)
【0016】
この蛍光体は、近紫外線から可視光の短波長領域の光を吸収して緑色に発光する。具体的には、この蛍光体の発光スペクトルにおいて495nm以上548nm以下の波長範囲に発光ピークを有する緑色光である。ただし、含有する元素量や組成の調整によって意図的に発光ピークを変動することもできる。また本明細書において、近紫外線から可視光の短波長領域は、特に限定されないが250〜490nmの領域をいう。
【0017】
この蛍光体は、525nmにおける反射率が82%以上であることが好ましい。この蛍光体は緑色光を放出するため、とりわけ525nm付近の光が蛍光体自身に吸収されることを抑制することにより、輝度の損失を減少し、高輝度化できる。また、励起光については、効率よく吸収することが好ましいため、励起光の反射率は低い方が好ましい。
【0018】
実施の形態に係る蛍光体の反射率の測定には、日立ハイテクノロジーズ製の反射率測定装置F−4500を用いる。以下に反射率の測定方法を説明する。光源としてキセノンランプを使用し、光源からの光を第一のモノクロメーターに導入する。導入された光のうち目的とする波長のみを第一のモノクロメーターで選択して反射率を求める試料に照射する。試料で反射された光を第二のモノクロメーターに導入し、第一のモノクロメーターで選択した波長と同一の波長を第二のモノクロメーターでも選択する。第二のモノクロメーターで選択された光を光電子倍増管に導入して光の強度を測定する。引き続いて第一のモノクロメーターおよび第二のモノクロメーターで選択する波長を同期して変化させ、所望の波長範囲での光の強度を測定する。反射率の基準試料としてはリン酸水素カルシウム(CaHPO4)とし、前述の試料と同様の手順で基準試料から反射される光の強度を測定する。測定した光の強度を以下の数式で計算することにより各波長における反射率を求めた。
【0019】
【数1】

【0020】
この蛍光体の一般式におけるMは、好ましくはCaであるが、Caの一部をSr、Ba、Zn、Mnで置換されたものも使用することができる。これにより、発光ピークを黄緑色領域までシフトさせることができる。
【0021】
この蛍光体の一般式におけるXは、好ましくはClであるが、Clの一部をF、Br、Iで置換されたものも使用することができる。また、この蛍光体は希土類であるEuが発光中心となる。ただし、Euのみに限定されず、Euの一部を他の希土類金属やアルカリ土類金属に置き換えて、Euと共賦活させたものも使用できる。また、Siの一部をGe、Sn、Ti、Zr、Hf、Al、Ga、In、Tlで置換したものも使用できる。さらに、酸素の一部を窒素で置換したものも使用できる。このようにして、発光色を所望の色調に微調整できる。
【0022】
この蛍光体は、Na、K、Rb、Csから選択されるアルカリ金属元素を0.1ppm以上、好ましくは1ppm以上含有している。これらの特定の元素を含有した化合物をフラックスとして添加することで、固相反応を促進させて均一な大きさの粒子を形成することが可能となる。また、アルカリ金属元素の他には、希土類元素やホウ素などを添加することができる。
【0023】
また、この蛍光体は、少なくとも一部が結晶を有することが好ましい。例えばガラス体(非晶質)は構造がルーズなため、蛍光体中の成分比率が一定せず色度ムラを生じる虞がある。したがって、これを回避するため生産工程における反応条件を厳密に一様になるよう制御する必要が生じる。一方、実施の形態に係る蛍光体は、ガラス体でなく結晶性を有する粒体とできるため、製造及び加工が容易である。また、この蛍光体は有機媒体に均一に溶解でき、発光性プラスチックやポリマー薄膜材料の調整が容易に達成できる。具体的に、実施の形態に係る蛍光体は、少なくとも50重量%以上、より好ましくは80重量%以上が結晶を有している。これは、発光性を有する結晶相の割合を示し、50重量%以上、結晶相を有しておれば、実用に耐え得る発光が得られるため好ましい。ゆえに結晶相が多いほど良い。これにより、発光輝度を高くすることができ、かつ加工性が高まる。
【0024】
この蛍光体の粒径は、 発光装置に搭載することを考慮すれば、1μm〜50μmの範囲が好ましく、より好ましくは5μm〜30μmとする。また、この粒径を有する蛍光体が、頻度高く含有されていることが好ましい。さらに、粒度分布においても狭い範囲に分布しているものが好ましい。粒径、及び粒度分布のバラツキが小さく、光学的に優れた特徴を有する粒径の大きな蛍光体を用いることにより、より色ムラが抑制され、良好な色調を有する発光装置が得られる。したがって、上記の範囲の粒径を有する蛍光体であれば、光の吸収率及び変換効率が高い。
【0025】
(製造方法)
以下に、実施の形態に係る蛍光体の製造方法について説明する。蛍光体は、その組成に含有される元素の単体や酸化物、炭酸塩あるいは窒化物などを原料とし、各原料を所定の組成比となるように秤量する。
【0026】
具体的に、原料の混合物中のM量、Eu量、Mg量、Si量、X量、アルカリ金属元素が、M:Eu:Mg:Si:X:アルカリ金属元素=(6.5〜8.0):(0.01〜1.5):1:(3.5〜4.3):(1.5〜3.3):(0.01〜2.0)のモル比を満たすように各原料を秤量する。また、原料の混合物中には、さらに希土類元素やホウ素などのフラックスを適宜加えてもよい。
【0027】
秤量した原料は、混合機を用いて湿式又は乾式で混合する。混合機は工業的に通常用いられているボールミルの他、振動ミル、ロールミル、ジェットミルなどの粉砕機を用いて粉砕して比表面積を大きくすることもできる。また、粉末の比表面積を一定範囲とするために、工業的に通常用いられている沈降槽、ハイドロサイクロン、遠心分離器などの湿式分離機、 サイクロン、エアセパレータなどの乾式分級機を用いて分級することもできる。
【0028】
この混合物をSiC、石英、アルミナ、BN等の坩堝内もしくは板状のボートに載置して、炉内で焼成する。焼成されたものを粉砕、分散、濾過等して目的の蛍光体を得る。固液分離は濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーションなどの工業的に通常用いられる方法により行うことができる。乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーターなどの工業的に通常用いられる装置により行うことができる。
【0029】
ここで、実施の形態に係る蛍光体の製造方法における焼成について詳述する。実施の形態に係る蛍光体の製造方法は、一次焼成後に二次焼成を行う2段階以上で焼成する。一次焼成及び二次焼成をそれぞれ複数回行ってもよい。一次焼成は、窒素雰囲気中もしくは大気下で行うことができるが、好ましくは窒素雰囲気中である。また、二次焼成は還元力の高い水素及び窒素の還元雰囲気中が好ましい。これらの焼成においては、還元力を高めるために固体カーボンを雰囲気中に載置することもできる。また、一次焼成及び二次焼成を有する2段階以上の焼成は、いずれも1000℃から1250℃であって、それぞれ1から30時間行う。このようにして、2段階以上で焼成することにより、輝度が向上した蛍光体を得ることができる。
【0030】
通常、カルシウム−マグネシウム−クロロシリケートは、一次焼成を行うことなく、水素及び窒素の還元雰囲気のように還元力の高い雰囲気中で焼成される。高輝度な緑色発光の蛍光体を得るためには、蛍光体中の全Euに占めるEu2+の割合を増大することが好ましく、Eu3+をEu2+に還元するために、還元力の高い雰囲気中で焼成することが輝度を向上させるための重要な要因であるためである。
【0031】
実施の形態に係る蛍光体の輝度が向上する理由は定かではないが、水素及び窒素の還元雰囲気中での焼成よりも、一次焼成の方がアルカリ金属元素を含有した化合物の蒸発量が多く、これが蛍光体の輝度に影響を及ぼしていると考えられる。アルカリ金属元素を含有した化合物は、蛍光体の粒子成長を促進させる一方、蛍光体の結晶中に混入し、結晶欠陥を起こす。これにより、蛍光体の緑色領域の光の反射率が低下すると考えられるためである。したがって、蛍光体の粒子成長が飽和に近づいた時点においては、原料の混合物におけるアルカリ金属元素を含有した化合物の含有量は少ないことが好ましい。
【0032】
そうであれば、一次焼成を介さずに水素及び窒素の還元雰囲気中で焼成すれば、粒子成長する際に組成中に混入するアルカリ金属元素を含有した化合物の割合が高くなり、結晶欠陥が増大するため反射率が低下する。一方、一次焼成は、粒子成長する際にアルカリ金属元素を含有した化合物の蒸発量が多いため、結晶中に混入するアルカリ金属元素を含有した化合物の割合が少なく、反射率の高い蛍光体が得られる。その後に還元性の高い二次焼成を行い、輝度の高い蛍光体が得られる。
【0033】
蛍光体の原料に関して、アルカリ土類のMg、Ca、Sr、Baはハロゲン塩と酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩などを組み合わせて、所定のハロゲン比率となるように使用することができる。また、ハロゲンを導入する場合、アルカリ土類のハロゲン塩の変わりにハロゲンを含むアンモニウム塩を用いることができる。
【0034】
さらに、賦活剤のEuは、好ましくは単独で使用されるが、ハロゲン塩、酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩などを使用することができる。また、Euの一部を、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等で置換してもよい。また、Euを必須とする混合物を使用する場合、所望により配合比を変えることができる。このようにEuの一部を他の元素で置換することで、他の元素は、共賦活として作用する。これより色調を変化させることができ、発光特性の調整を行うことができる。また、原料としてEuの化合物を使用しても良い。具体的にはEuの化合物として酸化ユーロピウム、金属ユーロピウム、窒化ユーロピウムなども使用可能である。また、原料のEuは、イミド化合物、アミド化合物を用いることもできる。
【0035】
蛍光体組成のSi及びMgは、酸化物、窒化物化合物を使用することが好ましいが、イミド化合物、アミド化合物などを使用することもできる。例えば、SiO2、Si34、Si(NH22、Mg2Si、MgOなどである。一方、Si及びMg単体のみを使用して、安価で結晶性の良好な蛍光体ともできる。Si又はMg含有化合物は、高純度であるものが好ましいが、B、Cuなどの異なる元素が含有されていてもよい。さらに、Siの一部をGe、Sn、Ti、Zr、Hf、Al、Ga、In、Tlで置換することもできる。
【0036】
さらに添加するアルカリ金属元素のK、Na、Rb、Csは、通常、塩化物、若しくは炭酸塩、水酸化物で加えられるが、これに限定されるものではなく、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、リン酸塩、硫酸塩、若しくはその他の無機塩類でも良く、また、予め他の原料に含まれている状態でも良い。
【0037】
また、各々の原料は、平均粒径が約0.1μm以上15μm以下、より好ましくは約0.1μmから10μmの範囲であることが、他の原料との反応性、焼成時及び焼成後の粒径制御などの観点から好ましく、上記範囲以上の粒径を有する場合は、アルゴン雰囲気中若しくは窒素雰囲気中、グローブボックス内で粉砕を行うことで達成できる。
【0038】
(発光装置)
実施の形態に係る蛍光体を搭載した発光装置を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す発光装置は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、以下のものに特定しない。
【0039】
図9に示した発光装置100は、上部に開口したカップ形状のパッケージ110と、このパッケージ110のカップ形状内に搭載された発光素子101とを備えており、パッケージ110のカップ内は蛍光体102を含有する封止樹脂103でもって充填されている。また発光素子101は、パッケージ110のカップ内の表面に形成された正負のリード電極111と、導電ワイヤ104を介して電気的に接続されている。リード電極111を介して外部より電力の供給を受けて発光素子101は発光する。発光素子101より出射された光は、封止樹脂103内を透過し、また、その一部を蛍光体102でもって波長変換されて、上部から混色光が放出される。
【0040】
このような発光装置100では、発光素子101から出射した光を、反射部材112によって光取り出し側へと反射させる手段が一般的に施されている。反射部材112は一般に銀や金、アルミニウムのような金属であり、リード電極111上に被覆されている。
【0041】
(発光素子)
発光素子は、近紫外線から可視光の短波長領域の光を発するものを使用することができる。近紫外線から可視光の短波長領域の光は、特に限定されないが250〜490nmの領域をいう。特に、290nm〜470nmの範囲が好ましい。一層好ましくは440nm〜460nmに発光ピーク波長を有するものである。これにより、実施の形態に係る蛍光体を効率よく励起し、可視光を有効活用することができるからである。また、励起光源に発光素子を利用することによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
【0042】
(蛍光体)
実施の形態に係る蛍光体は、単独で用いることもできるが、他の蛍光体と組み合わせて使用することもできる。これにより種々の色調の発光装置を提供することができる。他の蛍光体は、発光素子又は実施の形態に係る蛍光体からの光を吸収し異なる波長の光に波長変換するものであればよい。例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に賦活される窒化物系蛍光体・酸窒化物系蛍光体・サイアロン系蛍光体、Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類ケイ酸塩、アルカリ土類硫化物、アルカリ土類チオガレート、アルカリ土類窒化ケイ素、ゲルマン酸塩、又は、Ce等のランタノイド系元素で主に付活される希土類アルミン酸塩、希土類ケイ酸塩又はEu等のランタノイド系元素で主に賦活される有機及び有機錯体等から選ばれる少なくともいずれか1以上であることが好ましい。例えば、(Ca,Sr,Ba)SiO:Eu、(Y,Gd)(Ga,Al)12:Ce、(Ca,Sr)Si:Eu、CaAlSiN:Euなどである。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
実施例1では、仕込み組成比において、CaCO3:Eu23:MgO:SiO2:CaCl2:KCl=6.25:0.25:1:4:1.25:0.2(Ca:Eu:Mg:Si:Cl:K=7.5:0.5:1:4:2.7:0.2)となるように各原料を秤量する。ここで仕込み組成比とは、原料の混合物中における元素のモル比を示すものである。具体的には、実施例1の蛍光体の原料として以下の粉末を計量する。ただし、各原料の純度を100%と仮定している。
炭酸カルシウム(CaCO3)・・・・263.83g
酸化ユーロピウム(Eu23)・・・・37.14g
酸化マグネシウム(MgO)・・・17.01g
酸化ケイ素(SiO2)・・・・101.31g
塩化カルシウム(CaCl2)・・・・77.57g
塩化カリウム(KCl)・・・・3.15g
【0044】
秤取した原料をボールミルによって乾式で十分に混合し、該混合物を炉内にて焼成する。焼成は、1190℃の窒素雰囲気中にて約4時間焼成した後(一次焼成)、1170℃の窒素及び水素の還元雰囲気中にて約4時間焼成する(二次焼成)。焼成されたものを粉砕及び湿式分散を行い、蛍光体を得る。この蛍光体の生成における反応式の例を下記の化1に示す。
【0045】
【化1】

【0046】
ただし、上記の化学式は、分析値から求められる組成式を基準にした理論式であり、実際の生成物では酸素または塩素の一部が除去されて組成比が多少変化することもある。したがってx、yは分析値と実組成とのズレを、またzは塩素の飛散分をそれぞれ示す。
【0047】
(比較例1)
比較例1は、KClを加えなかった以外は、実施例1と同様の操作を行って蛍光体を得た。
【0048】
(比較例2)
比較例2は、一次焼成が1190℃の窒素及び水素の混合還元雰囲気中である以外は、実施例1と同様の操作によって蛍光体を得た。
【0049】
(比較例3)
比較例3は、KClの代わりにLiClを用いた以外は、実施例1と同様の操作によって蛍光体を得た。
【0050】
下記の表1に、実施例1及び比較例1〜3の蛍光体の製造条件及び蛍光体の特性を示す。表1の「添加元素」は添加元素の種類を示し、「添加量」は混合物中のMgを1モルとしたときのMgに対する添加元素のモル比を示す。「N雰囲気後、H/N雰囲気」は、混合物をN雰囲気中で焼成後、さらにH/N雰囲気中で焼成を行った場合を○とし、そうでない場合を×で示す。また、蛍光体の特性として、中心粒径、色度座標、52
【0051】
5nmにおける反射率、輝度を示す。なお、色度座標及び輝度は、460nm励起におけるものを示す。輝度は比較例1の輝度を100%としたときの相対輝度を示している。
【0052】
なお、表1における中心粒径は、コールターカウンターにおける電気抵抗法により測定した。具体的には、リン酸ナトリウム溶液に蛍光体を分散させ、アパーチャーチューブの細孔を通過する時に生じる電気抵抗をもとに粒径を求めた。また、反射率の測定には日立ハイテクノロジース製の反射率測定装置F−4500を用いた。反射率の基準試料はリン酸水素カルシウム(CaHPO4)を使用した。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1の蛍光体は、525nmにおける反射率が85.3%であり、比較例1〜3の蛍光体よりも高い輝度を示した。また、比較例3の蛍光体は、アルカリ金属元素であるLiを添加したにも関わらず輝度が低くなった。
【0055】
(実施例2〜15)
実施例2〜15は、原料の混合物に添加するアルカリ金属元素の種類及び添加量を表2に示すように秤量する以外は、実施例1と同様の操作を行って蛍光体を得た。また、実施例2〜15の蛍光体の特性の測定方法は、実施例1と同様である。表2における輝度は、比較例1の輝度を100%としたときの相対輝度を示している。
【0056】
【表2】

【0057】
下記の表3は、実施例1〜15及び比較例4の蛍光体を元素分析した値を示す。比較例4の蛍光体は、アルカリ金属元素を添加しておらず、焼成が1170℃の窒素及び水素の還元雰囲気中での焼成のみである以外は、実施例1と同様の操作を行って得た。
【0058】
【表3】

【0059】
表3を見ると、アルカリ金属元素を含有していない比較例4の蛍光体は、Kは2ppm未満であり、Rbは5ppm未満であり、Csは20ppm未満である。それに対して、実施例1〜7、9の蛍光体は5ppm以上のKを含有し、実施例12の蛍光体はRbを290ppm含有し、実施例14の蛍光体はCsを280ppm含有している。
【0060】
下記の表4は、表3の元素分析値から算出した蛍光体の組成比を示している。組成比は、Mgを1として基準にし、他の元素のモル比で表した。
【0061】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の蛍光体及びその製造方法は、蛍光表示管、ディスプレイ、PDP、CRT、FL、FEDおよび投射管等、特に青色発光ダイオード又は紫外線発光ダイオードを光源とする発光特性に極めて優れた白色の照明用光源、LEDディスプレイ、バックライト光源、信号機、照明式スイッチ、各種センサ及び各種インジケータ等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0063】
100 発光装置
101 発光素子
102 蛍光体
103 封止樹脂
104 導電ワイヤ
110 パッケージ
111 リード電極
112 反射部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的な組成が下記の一般式で表され、Na、K、Rb、Csの群から選択される1種以上のアルカリ金属元素を含有した蛍光体であって、
前記蛍光体は、525nmにおける反射率が82%以上である蛍光体。
xEuyMgSizab
(上式においてMはCa、Sr、Ba、Zn、Mnの群から選ばれる少なくとも1つであり、
XはF、Cl、Br、Iの群から選ばれる少なくとも1つであり、
6.5≦x<8.0、0.01≦y≦1.5、3.5≦z≦4.3、a=x+y+1+2z−b/2、0.8≦b≦2.2である。)
【請求項2】
実質的な組成が下記の一般式で表される蛍光体の製造方法であって、
前記蛍光体の組成元素を含有する化合物と、Na、K、Rb、Csの群から選択される1種以上のアルカリ金属元素を含有した化合物と、を含む混合物を窒素雰囲気中で焼成した後に、水素及び窒素の還元雰囲気中で焼成する蛍光体の製造方法。
xEuyMgSizab
(上式においてMはCa、Sr、Ba、Zn、Mnの群から選ばれる少なくとも1つであり、
XはF、Cl、Br、Iの群から選ばれる少なくとも1つであり、
6.5≦x<8.0、0.01≦y≦1.5、3.5≦z≦4.3、a=x+y+1+2z−b/2、0.8≦b≦2.2である。)
【請求項3】
前記アルカリ金属元素を含有した化合物は、前記Mgに対して0.01以上、2.0以下のモル比で添加される請求項2に記載の蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−254851(P2010−254851A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108035(P2009−108035)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】