説明

蛍光体

【課題】より高い発光輝度を示す蛍光体を提供する。
【解決手段】Sr、Ca、Eu、Mg、Siおよびハロゲン元素をモル比でそれぞれa:b:c:d:e:f(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値であり、fは0.0008以上0.3以下の範囲の値である。)の量含有し、さらに酸素を含有してなる酸化物から実質的になることを特徴とする蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、励起源により励起され発光することから、発光素子に用いられている。発光素子としては、蛍光体の励起源が電子線である電子線励起発光素子(例えば、ブラウン管、フィールドエミッションディスプレイ、表面電界ディスプレイ等)、蛍光体の励起源が紫外線である紫外線励起発光素子(例えば、液晶ディスプレイ用バックライト、3波長型蛍光ランプ、高負荷蛍光ランプ等)、蛍光体の励起源が真空紫外線である真空紫外線励起発光素子(例えば、プラズマディスプレイパネル、希ガスランプ等)、蛍光体の励起源が青色LEDの発する光または紫外LEDの発する光である白色LED等が挙げられる。従来の蛍光体として、式CaMgSi26:Euで表される酸化物からなる真空紫外線励起発光素子用のケイ酸塩蛍光体が特許文献1に具体的に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−332481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CaMgSi26:Euで表される従来のケイ酸塩蛍光体は発光輝度が十分ではない。本発明の目的は、より高い発光輝度を示す蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、従来のケイ酸塩蛍光体のCa成分の大部分または全部をSr成分で置換したケイ酸塩蛍光体につき鋭意研究を重ね、当該ケイ酸塩蛍光体が、ハロゲン元素を特定量含有すると、より高い発光輝度を示すことを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、下記の発明を提供するものである。
<1>Sr、Ca、Eu、Mg、Siおよびハロゲン元素をモル比でそれぞれa:b:c:d:e:f(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値であり、fは0.0008以上0.3以下の範囲の値である。)の量含有し、さらに酸素を含有してなる酸化物から実質的になることを特徴とする蛍光体。
<2>ハロゲン元素がClである前記<1>記載の蛍光体。
<3>ハロゲン元素がFである前記<1>記載の蛍光体。
<4>ハロゲン元素がClおよびFである前記<1>記載の蛍光体。
<5>fが0.005以上0.2以下の範囲の値である前記<1>〜<4>のいずれかに記載の蛍光体。
<6>bが0以上0.01以下の範囲の値である前記<1>〜<5>のいずれかに記載の蛍光体。
<7>酸化物が、輝石型の結晶構造を有する前記<1>〜<6>のいずれかに記載の蛍光体。
<8>金属化合物混合物を焼成することによる蛍光体の製造方法であって、金属化合物混合物が、Sr、Ca、Eu、MgおよびSiをモル比でそれぞれa:b:c:d:e(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値である。)の量含有し、該金属化合物混合物がSrCl2を含有することを特徴とする前記<2>記載の蛍光体の製造方法。
<9>金属化合物混合物を焼成することによる蛍光体の製造方法であって、金属化合物混合物が、Sr、Ca、Eu、MgおよびSiをモル比でそれぞれa:b:c:d:e(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値である。)の量含有し、該金属化合物混合物がEuF3を含有することを特徴とする前記<3>記載の蛍光体の製造方法。
<10>金属化合物混合物を焼成することによる蛍光体の製造方法であって、金属化合物混合物が、Sr、Ca、Eu、MgおよびSiをモル比でそれぞれa:b:c:d:e(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値である。)の量含有し、該金属化合物混合物がSrCl2およびEuF3を含有することを特徴とする前記<4>記載の蛍光体の製造方法。
<11>金属化合物混合物を焼成することによる蛍光体の製造方法であって、金属化合物混合物を焼成した後、酸と接触させる前記<8>〜<10>のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
<12>前記<1>〜<7>のいずれかに記載の蛍光体を有することを特徴とする蛍光体ペースト。
<13>前記<12>に記載の蛍光体ペーストを基板に塗布後、熱処理することにより得られる蛍光体層。
<14>前記<1>〜<7>のいずれかに記載の蛍光体を有する発光素子。
【発明の効果】
【0007】
本発明が提供する蛍光体は、より高い発光輝度を示し、液晶ディスプレイ用バックライト、3波長型蛍光ランプ、高負荷蛍光ランプ等の紫外線励起発光素子用として特に好適に使用され、また、プラズマディスプレイパネルおよび希ガスランプなどの真空紫外線励起発光素子用、フィールドエミッションディスプレイ等の電子線励起発光素子用、白色LED等の発光素子用にも適用できるため、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明について詳しく説明する。
本発明の蛍光体は、Sr、Ca、Eu、Mg、Siおよびハロゲン元素をモル比でそれぞれa:b:c:d:e:f(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値であり、fは0.0008以上0.3以下の範囲の値である。)の量含有し、さらに酸素を含有してなる酸化物から実質的になることを特徴とする。本発明の蛍光体は該酸化物から実質的になることにより、高い発光輝度を示す蛍光体となる。上記のa、b、c、d、eおよびfそれぞれが、それぞれの上記範囲を外れると、発光輝度が十分でない場合があり、好ましくない。
【0009】
ハロゲン元素としては、F、Cl、Br、Iを挙げることができるが、本発明の蛍光体がさらにより高い発光輝度を示す意味で、ハロゲン元素がClおよび/またはFであることが好ましく、ハロゲン元素としてClを少なくとも含有することが好ましい。
【0010】
本発明において、上記fが0.005以上0.2以下の範囲の値であると、本発明の蛍光体がさらにより高い発光輝度を示す意味で好ましい。また上記bが0以上0.01以下の範囲の値であると、本発明の蛍光体がさらにより高い発光輝度を示す意味で好ましい。
【0011】
また、本発明において、酸化物が輝石型の結晶構造を有することにより、発光輝度がより高く、劣化特性に優れた蛍光体になり、好ましい。
【0012】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の蛍光体は、さらにAl、Sc、Y、La、Gd、Ce、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、BiおよびMnからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有してもよい。これらの元素の含有量は、通常、蛍光体全重量に対して100ppm以上50000ppm以下である。
【0013】
次に、本発明の蛍光体を製造する方法について説明する。
本発明の蛍光体は、次のようにして製造することができる。本発明の蛍光体は、焼成により本発明の蛍光体となる金属化合物混合物を焼成することにより製造することができる。すなわち、対応する金属元素を含有する化合物を所定の組成となるように秤量し混合した後に得られた金属化合物混合物を焼成することにより製造することができる。すなわち、金属化合物混合物が、Sr、Ca、Eu、MgおよびSiをモル比でそれぞれa:b:c:d:e(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値である。)の量含有し、該金属化合物混合物がハロゲン元素を含有することにより、製造することができる。例えば、好ましい組成の一つであるSr、Eu、Mg、Siおよびハロゲン元素であるClをモル比でそれぞれ0.98:0.02:1:2:0.12の量含有し、さらに酸素を含有してなる酸化物からなる蛍光体は、SrCl2、Eu23、MgCO3およびSiO2を、Sr:Eu:Mg:Siのモル比が0.98:0.02:1:2となるように秤量し、混合した後に焼成することにより製造することができる。ここで、後述の焼成時間、焼成温度を制御することによって、ハロゲン元素であるClの含有量を制御することができる。
【0014】
前記の金属元素を含有する化合物としては、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、ケイ素、ユウロピウムの化合物で、例えば、酸化物を用いるか、または水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩など高温で分解して酸化物になりうるものを用いることができる。
【0015】
本発明の蛍光体にハロゲン元素を含有させるためには、ハロゲン元素がClである場合には、対応する金属元素を含有する化合物の一つとしてSrCl2、EuCl3のような塩化物を用いてもよいし、対応する金属元素を含有する化合物として塩化物を用いない場合には、塩化アンモニウムを用いる。塩化物を用いた場合にもさらに塩化アンモニウムを用いてもよい。これらの中でも、SrCl2を用いて、金属化合物混合物がSrCl2を含有することにより、結晶性が高い酸化物となり、発光輝度が高い蛍光体となる意味で、好ましい。また、本発明におけるハロゲン元素がFである場合には、対応する金属元素を含有する化合物の一つとしてSrF2、EuF3のようなフッ化物を用いればよいし、対応する金属元素を含有する化合物としてフッ化物を用いない場合には、フッ化アンモニウムを用いればよい。また、本発明におけるハロゲン元素がClおよびFである場合には、例えば、金属化合物混合物がSrCl2およびEuF3を含有すればよい。
【0016】
前記金属元素を含有する化合物の混合には、例えばボールミル、V型混合機、攪拌機等の通常工業的に用いられている装置を用いることができる。また、塩化アンモニウム、フッ化アンモニウムを用いる場合には、前記混合の際に添加すればよい。
【0017】
前記金属化合物混合物を、例えば900℃から1500℃の温度範囲にて通常は0.3時間以上100時間以下の時間範囲で保持して焼成することにより本発明の蛍光体が得られる。ここで、焼成時間、焼成温度を制御することにより、得られる蛍光体中のハロゲン元素の含有量を制御することができる。前記範囲において、焼成時間が長くなればなるほど、焼成温度が高くなればなるほど、蛍光体中のハロゲン元素の含有量は減少する傾向にある。
【0018】
金属化合物混合物に水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩など高温で分解および/または酸化しうる化合物を使用した場合、400℃から900℃の温度範囲で保持して仮焼を行い、酸化物としたり、結晶水を除去した後に、前記の焼成を行うことも可能である。仮焼を行う雰囲気は不活性ガス雰囲気、酸化性雰囲気もしくは還元性雰囲気のいずれでもよい。また仮焼後に粉砕することもできる。
【0019】
焼成時の雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気;空気、酸素、酸素含有窒素、酸素含有アルゴン等の酸化性雰囲気;水素を0.1から10体積%含有する水素含有窒素、水素を0.1から10体積%含有する水素含有アルゴン等の還元性雰囲気が好ましい。強い還元性の雰囲気で焼成する場合には適量の炭素を金属化合物混合物に含有させて焼成してもよい。
【0020】
以上の方法により得られた蛍光体を、ボールミルやジェットミルなどを用いて粉砕することができ、粉砕と焼成を2回以上繰り返してもよい。得られた蛍光体は必要に応じて洗浄あるいは分級することもできる。洗浄により、ハロゲン元素の含有量を制御できる場合もある。
【0021】
上記の洗浄として、具体的には、金属化合物混合物を焼成した後に得られる焼成品と、酸とを接触させることが挙げられ、この場合、得られる蛍光体はその発光輝度がより高まる場合があり、好ましい。また、焼成品と酸と接触させることにより、100℃における発光輝度も高く、蛍光体の温度特性も向上する場合がある。焼成品と酸と接触させる方法としては、酸に焼成品を浸漬させる方法、または前記浸漬時に攪拌させる方法、焼成品と酸とを湿式ボールミルにより混合する方法が挙げられ、好ましいのは、焼成品を酸に浸漬して攪拌する方法である。
【0022】
前記の酸として具体的には、酢酸やシュウ酸などの有機酸、または塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸が挙げられ、塩酸、硝酸、硫酸が好ましく、中でも塩酸が好ましい。酸の水素イオン濃度は、その取扱上、好ましいのは、0.001モル/L以上2モル/L以下程度である。また、接触させるときの酸の温度は、室温(25℃程度)でもよいが、必要に応じて30℃〜80℃程度に加熱してもよい。また、焼成品と酸とを接触させる時間は、通常、1秒〜10時間程度である。
【0023】
また、焼成品と酸とを接触した後、通常は、固液分離、乾燥を行う。固液分離はろ過、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心分離、デカンテーションなどの工業的に通常用いられる方法により行うことができる。乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレータなどの工業的に通常用いられる装置により行うことができる。また、前記の固液分離後に得られる固体について、水(例えばイオン交換水)と接触させて、再度、固液分離を行ってもよい。
【0024】
次に、本発明の蛍光体を有する蛍光体ペーストについて説明する。
本発明の蛍光体ペーストは、本発明の蛍光体を主成分として含有し、該有機物としては、溶剤、バインダー等が挙げられる。本発明の蛍光体ペーストは、従来の発光素子の製造において使用されている蛍光体ペーストと同様に用いることができ、熱処理することにより蛍光体ペースト中の有機物を揮発、燃焼、分解等により除去し、本発明の蛍光体から実質的になる蛍光体層を得ることができる蛍光体ペーストである。
【0025】
本発明の蛍光体ペーストは、例えば、特開平10−255671号公報に開示されているような公知の方法により製造することができ、例えば、本発明の蛍光体とバインダーと溶剤とを、ボールミルや三本ロール等を用いて混合することにより、得ることができる。
【0026】
前記バインダーとしては、セルロース系樹脂(エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロース、ブチルセルロース、ベンジルセルロース、変性セルロースなど)、アクリル系樹脂(アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシアクリレート、フェノキシメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレンアクリルアミド、メタアクリルアミド、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどの単量体のうちの少なくとも1種の重合体)、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0027】
また前記溶剤としては、例えば1価アルコールのうち高沸点のもの;エチレングリコールやグリセリンに代表されるジオールやトリオールなどの多価アルコール;アルコールをエーテル化および/またはエステル化した化合物(エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルアセテート)などが挙げられる。
【0028】
前記のようにして得られた蛍光体ペーストを、基板に塗布後、熱処理して得られる蛍光体層は耐湿性に優れる。基板としては、材質はガラス、樹脂等が挙げられ、フレキシブルなものであってもよく、形状は板状のもの、容器状のものであってもよい。また、塗布の方法としては、スクリーン印刷法、インクジェット法等が挙げられる。また、熱処理の温度としては、通常、300℃〜600℃である。また、基板に塗布後、熱処理を行う前に、室温〜300℃の温度で乾燥を行ってもよい。
【0029】
ここで、本発明の蛍光体を有する発光素子の例として、紫外線励起発光素子である三波長形蛍光ランプを挙げてその製造方法について説明する。三波長形蛍光ランプの製造方法としては例えば、特開2004−2569号公報に開示されているような公知の方法が使用できる。すなわち、青色発光蛍光体、緑色発光蛍光体および赤色発光蛍光体を、発光色が求める白色になるように適宜に混合した三波長発光形蛍光体を、例えば、ポリエチレンオキサイド水溶液などに分散して蛍光体塗布液を調製する。この塗布液をガラスバルブの内面に塗布した後に、例えば400℃〜900℃の温度範囲でベーキングして蛍光膜を形成させる。この後、ガラスバルブ端部へのステムの封止、バルブ内の排気、水銀および希ガスの封入、排気管の封切、口金の装着など通常の工程を経て、三波長形蛍光ランプを製造することができる。
【0030】
前記赤色発光蛍光体としては、3価のユウロピウム付活酸化イットリウム蛍光体(Y23:Eu)、3価のユウロピウム付活酸硫化イットリウム蛍光体(Y22S:Eu)などが挙げられ、前記緑色発光蛍光体としては、セリウム、テルビウム付活リン酸ランタン(LaPO4:Ce、Tb)やテルビウム付活セリウム・テルビウム・マグネシウム・アルミニウム蛍光体((CeTb)MgAl1119:Tb)などが挙げられる。また、前記青色発光蛍光体として、本発明の蛍光体を単独で使用するか、本発明の蛍光体と他の青色発光蛍光体とを混合して使用してもよい。この場合、他の青色発光蛍光体としては、ユウロピウム付活ストロンチウムリン酸塩蛍光体(Sr5(PO43Cl:Eu)、ユウロピウム付活ストロンチウム・バリウム・カルシウムリン酸塩蛍光体((Sr,Ca,Ba)5(PO43Cl:Eu)およびユウロピウム付活バリウム・マグネシウム・アルミニウム蛍光体(BaMg2Al1627:Eu、BaMgAl1017:Eu等)などが挙げられる。
【0031】
次に本発明の蛍光体を有する発光素子の例として、真空紫外線励起発光素子であるプラズマディスプレイパネルを挙げてその製造方法について説明する。プラズマディスプレイパネルの製造方法としては例えば、特開平10−195428号公報に開示されているような公知の方法が使用できる。すなわち、本発明の蛍光体が青色発光を示す場合は、緑色蛍光体、赤色蛍光体、本発明の青色蛍光体により構成されるそれぞれの蛍光体を、例えば、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコールからなるバインダーおよび溶剤と混合して蛍光体ペーストを調製する。背面基板の内面の、隔壁で仕切られアドレス電極を備えたストライプ状の基板表面と隔壁面に、蛍光体ペーストをスクリーン印刷などの方法によって塗布し、300〜600℃の温度範囲で熱処理し、それぞれの蛍光体層を得る。これに、蛍光体層と直交する方向の透明電極およびバス電極を備え、内面に誘電体層と保護層を設けた表面ガラス基板を重ねて接着する。内部を排気して低圧のXeやNe等の希ガスを封入し、放電空間を形成させることにより、プラズマディスプレイパネルを製造することができる。
【0032】
次に本発明の蛍光体を有する発光素子の例として、電子線励起発光素子であるフィールドエミッションディスプレイを挙げてその製造方法について説明する。フィールドエミッションディスプレイの製造方法としては例えば、特開2002−138279号公報に開示されているような公知の方法が使用できる。すなわち、本発明の蛍光体が青色発光を示す場合は、緑色蛍光体、赤色蛍光体、本発明の青色蛍光体により構成されるそれぞれの蛍光体を、それぞれ、例えば、ポリビニルアルコール水溶液などに分散して蛍光体ペーストを調製する。その蛍光体ペーストをガラス基板上に塗布後、熱処理することにより蛍光体層を得てフェイスプレートとする。そのフェイスプレートと多数の電子放出素子を有するリアプレートとを支持枠を介して組立てるとともに、これらの間隙を真空排気しつつ気密封止するなど通常の工程を経て、フィールドエミッションディスプレイを製造することができる。
【0033】
次に本発明の蛍光体を有する発光素子の例として、白色LEDを挙げてその製造方法について説明する。白色LEDの製造方法としては例えば、特開平5−152609号公報および特開平7−99345号公報等に開示されているような公知の方法が使用できる。すなわち本発明の蛍光体を少なくとも含有する蛍光体を、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、シリコンゴムなどの透光性樹脂中に分散させ、その蛍光体を分散させた樹脂を青色LEDまたは紫外LEDを取り囲むように成形することにより、白色LEDを製造することができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【0035】
発光輝度(A)の測定は、室温(25℃)にて、分光光度計(日本分光株式会社製、FP−6500型)を用いて行った。また、発光輝度(B)の測定は、6.7Pa(5×10-2Torr)以下の真空槽内で、エキシマ146nmランプ(ウシオ電機社製、H0012型)を用いて真空紫外線を蛍光体に照射して得られる発光について、分光放射計(株式会社トプコン製SR−3)を用いて行った。また蛍光体を、ピロリン酸で溶解し、水蒸気蒸留後、イオンクロマト装置(ダイオネックス製、DX−120)を用いてCl含有量、F含有量を測定した。
【0036】
比較例1
炭酸ストロンチウム(SrCO3、堺化学工業株式会社製、製品名はSW−K)、酸化ユウロピウム(Eu23、信越化学工業株式会社製)、炭酸マグネシウム(MgO含有量は42.0%、協和化学工業株式会社製、製品名は高純度炭酸マグネシウム)、二酸化ケイ素(SiO2、日本アエロジル株式会社製、商品名はAEROSIL200)の各原料をSr:Eu:Mg:Siのモル比が0.98:0.02:1:2となるように秤量した原料を、混合した後、大気中で900℃の温度で2時間仮焼し、2体積%H2含有N2雰囲気中で1100℃の温度で2時間保持して焼成した。焼成を3回行うことにより蛍光体1を得た。蛍光体1につき、Cl含有量を測定したところ、蛍光体1には50ppmのClが含有されていることがわかり、蛍光体1は、Sr:Eu:Mg:Si:Clのモル比が0.98:0.02:1:2:4×10-4となることがわかった。このClは、上記各原料に含まれていたものと考えている。
【0037】
蛍光体1を、波長254nmの紫外線により励起すると、青色の発光を示し、そのときの発光輝度(A)を100とした。
【0038】
蛍光体1を、室温(25℃)にて、波長146nmの真空紫外線により励起すると、青色の発光を示し、その発光波長のピークは436nmであった。そのときの発光輝度(B)を100とした。
【0039】
実施例1
塩化ストロンチウム(SrCl2・6H2O、堺化学工業株式会社製)、塩化ユウロピウム(EuCl3・6H2O、和光純薬工業株式会社製)、炭酸マグネシウム(MgO含有量は42.0%、協和化学工業株式会社製、製品名は高純度炭酸マグネシウム)、二酸化ケイ素(SiO2、日本アエロジル株式会社製、商品名はAEROSIL200)の各原料をSr:Eu:Mg:Siのモル比が0.98:0.02:1:2となるように秤量した原料を、混合した後、大気中で800℃の温度で2時間仮焼し、さらに2体積%H2含有N2雰囲気中で1100℃の温度で2時間保持して焼成した。焼成を3回行うことにより蛍光体2を得た。蛍光体2につき、Cl含有量を測定したところ、蛍光体2には1.6×104ppmのClが含有されていることがわかり、蛍光体2は、Sr:Eu:Mg:Si:Clのモル比が0.98:0.02:1:2:0.12となることがわかった。
【0040】
蛍光体2を、波長254nmの紫外線により励起すると、青色の発光を示し、蛍光体1の発光輝度(A)を100とすると、蛍光体2の発光輝度(A)は214であった。蛍光体2のSEM写真を図1に示した。また、蛍光体2を粉末X線回折測定用の基板に充填し、粉末X線回折装置(株式会社リガク製RINT2500TTR型)を用いて、CuKα線源を用いて、回折角2θを10°〜50°の範囲として粉末X線回折測定を行った際に得られた粉末X線回折図形を図2に示した。図2により、蛍光体2は輝石型の結晶構造を有することがわかった。
【0041】
実施例2
蛍光体2を、水洗、乾燥し、蛍光体3を得た。蛍光体3につき、Cl含有量を測定したところ、蛍光体3には7×102ppmのClが含有されていることがわかり、蛍光体3は、Sr:Eu:Mg:Si:Clのモル比が0.98:0.02:1:2:0.005となることがわかった。蛍光体3を、波長254nmの紫外線により励起すると、青色の発光を示し、蛍光体1の発光輝度(A)を100とすると、発光輝度(A)は214であった。
【0042】
実施例3
塩化ストロンチウム(SrCl2・6H2O、堺化学工業株式会社製)、フッ化ユウロピウム(EuF3、和光純薬工業株式会社製)、炭酸マグネシウム(MgO含有量は42.0%、協和化学工業株式会社製、製品名は高純度炭酸マグネシウム)、二酸化ケイ素(SiO2、日本アエロジル株式会社製、商品名はAEROSIL200)の各原料をSr:Eu:Mg:Siのモル比が0.98:0.02:1:2となるように秤量した原料を、混合した後、大気中で800℃の温度で2時間仮焼し、さらに2体積%H2含有N2雰囲気中で1100℃の温度で2時間保持して焼成した。焼成を3回行うことにより蛍光体4を得た。蛍光体4につき、ClおよびF含有量を測定したところ、蛍光体4には2.3×104ppmのClおよび1.7×103ppmのFが含有されていることがわかり、蛍光体2は、Sr:Eu:Mg:Si:Cl:Fのモル比が0.98:0.02:1:2:0.17:0.03となることがわかった。また、X線回折測定により、蛍光体4は、輝石型の結晶構造を有することがわかった。蛍光体4を、波長254nmの紫外線により励起すると、青色の発光を示し、蛍光体1の発光輝度(A)を100とすると、蛍光体4の発光輝度(A)は224であった。
【0043】
実施例4
蛍光体4を、水洗、乾燥し、蛍光体5を得た。蛍光体5につき、ClおよびF含有量を測定したところ、蛍光体5には7×102ppmのClおよび1×103ppmのFが含有されていることがわかり、蛍光体5は、Sr:Eu:Mg:Si:Cl:Fのモル比が0.98:0.02:1:2:0.005:0.016となることがわかった。蛍光体5を、波長254nmの紫外線により励起すると、青色の発光を示し、蛍光体1の発光輝度(A)を100とすると、蛍光体5の発光輝度(A)は224であった。
【0044】
実施例5
蛍光体4(1g)を水素イオン濃度が0.1mol/lの塩酸(50ml)に浸漬して接触させ、マグネチックスターラーにて3分間撹拌した後、吸引濾過により固液分離を行い、水に接触させ、再度固液分離を行った。次いで0.1MPaの圧力のもと100℃で減圧乾燥することによって、蛍光体6を得た。蛍光体6につき、ClおよびF含有量を測定したところ、蛍光体6には1.1×103ppmのClおよび3.2×10ppmのFが含有されていることがわかり、蛍光体6は、Sr:Eu:Mg:Si:Cl:Fのモル比が0.98:0.02:1:2:0.008:0.0004となることがわかった。蛍光体6を、波長254nmの紫外線により励起すると、青色の発光を示し、蛍光体1の発光輝度(A)を100とすると、蛍光体6の発光輝度(A)は218であった。
【0045】
蛍光体6を、室温(25℃)にて、波長146nmの真空紫外線により励起すると、青色の発光を示し、その発光波長のピークは436nmであった。そのときの発光輝度(B)は、蛍光体1の発光輝度(B)を100とすると、蛍光体6の発光輝度(B)は128であった。
【0046】
蛍光体6を、100℃にて、波長146nmの真空紫外線により励起すると、青色の発光を示し、その発光波長のピークは436nmであった。そのときの発光輝度(B)は、蛍光体1の発光輝度(B)を100とすると、蛍光体6の発光輝度(B)は116であった。
【0047】
比較例2
炭酸バリウム(BaCO3、日本化学工業株式会社製)、酸化ユウロピウム(Eu23、信越化学工業株式会社製)、炭酸マグネシウム(MgO含有量は42.0%、協和化学工業株式会社製、製品名は高純度炭酸マグネシウム)、酸化アルミニウム(Al23、住友化学株式会社製、商品名スミコランダム)の各原料をBa:Eu:Mg:Alのモル比が0.9:0.1:1:10となるように秤量した原料を、混合した後、2体積%H2含有N2雰囲気中で1450℃の温度で5時間保持して焼成を行うことにより蛍光体7(BaMgAl1017:Eu)を得た。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】蛍光体2のSEM写真(倍率は10000倍である。)。
【図2】蛍光体2の粉末X線回折測定により得られる粉末X線回折図形であり、回折角2θの範囲を10°〜50°とした際に得られた図形。
【図3】蛍光体6、蛍光体7のそれぞれにつき、波長254nmの紫外線により励起し得られる発光を、分光測定した際に得られる発光スペクトル図形であり、分光測定範囲を380nm〜750nmとした際に得られる図形。(508nm付近のピークは、波長254nmの紫外線由来のピークである。)
【図4】蛍光体6、蛍光体7のそれぞれにつき、室温(25℃)にて、波長146nmの真空紫外線により励起し得られる発光を、分光測定した際に得られる発光スペクトル図形であり、分光測定範囲を380nm〜750nmとした際に得られる図形。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr、Ca、Eu、Mg、Siおよびハロゲン元素をモル比でそれぞれa:b:c:d:e:f(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値であり、fは0.0008以上0.3以下の範囲の値である。)の量含有し、さらに酸素を含有してなる酸化物から実質的になることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
ハロゲン元素がClである請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
ハロゲン元素がFである請求項1記載の蛍光体。
【請求項4】
ハロゲン元素がClおよびFである請求項1記載の蛍光体。
【請求項5】
fが0.005以上0.2以下の範囲の値である請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項6】
bが0以上0.01以下の範囲の値である請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項7】
酸化物が、輝石型の結晶構造を有する請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項8】
金属化合物混合物を焼成することによる蛍光体の製造方法であって、金属化合物混合物が、Sr、Ca、Eu、MgおよびSiをモル比でそれぞれa:b:c:d:e(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値である。)の量含有し、該金属化合物混合物がSrCl2を含有することを特徴とする請求項2記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
金属化合物混合物を焼成することによる蛍光体の製造方法であって、金属化合物混合物が、Sr、Ca、Eu、MgおよびSiをモル比でそれぞれa:b:c:d:e(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値である。)の量含有し、該金属化合物混合物がEuF3を含有することを特徴とする請求項3記載の蛍光体の製造方法。
【請求項10】
金属化合物混合物を焼成することによる蛍光体の製造方法であって、金属化合物混合物が、Sr、Ca、Eu、MgおよびSiをモル比でそれぞれa:b:c:d:e(ただし、aは0.5以上1未満の範囲の値であり、bは0以上0.5未満の範囲の値であり、cは0を超え0.3未満の範囲の値であり、dは0.8以上1.2以下の範囲の値であり、eは1.9以上2.1以下の範囲の値である。)の量含有し、該金属化合物混合物がSrCl2およびEuF3を含有することを特徴とする請求項4記載の蛍光体の製造方法。
【請求項11】
金属化合物混合物を焼成することによる蛍光体の製造方法であって、金属化合物混合物を焼成した後、酸と接触させる請求項8〜10のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体を有することを特徴とする蛍光体ペースト。
【請求項13】
請求項12に記載の蛍光体ペーストを基板に塗布後、熱処理することにより得られる蛍光体層。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体を有する発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−31422(P2008−31422A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101553(P2007−101553)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】