説明

蛍光測定

蛍光を測定するための方法および装置が開示される。その方法は、試料の表面であって軸を実質的に横切って伸張する表面、の少なくとも部分の少なくともひとつのプロファイルを測定することと、蛍光を励起するために試料の表面の部分を放射で照射することと、を含む。放射の強度は、軸に沿った位置によって変化する。前記試料表面の部分から発せられる蛍光の空間強度分布を表す値が測定される。測定されたプロファイルを使用して、表面に入射する放射の強度の空間的な変動を考慮するように測定された蛍光の値が変更される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光を測定するのに適した方法および装置に関する。本発明は特にTIRF(Total Internal Reflection Fluorescence)検査法への応用に適しているがそれに限られない。このようなTIRF検査法は、細胞膜のTIRF検査法を含む。
【背景技術】
【0002】
蛍光は、電磁放射や電子の衝突によって物質を励起した後、その物質から発せられる電磁放射である。通常励起用の放射は発せられる放射よりも高いエネルギ(高い周波数または短い波長)を有する。
【0003】
励起用の放射と発せられる放射とは可視領域内にあることがしばしばである。蛍光測定は物質の構造かつ/または機能をよりよく理解するために使用される。
【0004】
例えば、蛍光検査法では試料内のフルオロフォア(fluorophores)(または蛍光物質(fluorochromes))を励起する波長で試料を照射する。フルオロフォアは試料内に自然に存在してもよいし、人工的に導入されてもよい。例えば、生物学的分子は化学反応によって付与される蛍光化学グループ(よく「タグ」と称される)を有しうる。結果として表れる蛍光イメージを研究することで試料についての有益な情報を得ることができる。
【0005】
TIRF検査法は蛍光検査法のうち特化したものであり、細胞膜におけるプロセスを調べ、細胞内部との境界における分子的なメカニズムについての知識を得るために使用されうる。
【0006】
TIRF検査法はエバネッセント波を使用して試料の限られた領域を選択的に照射しフルオロフォアを励起する。試料は大抵プリズムやカバーガラスなどの光学要素の上にもしくは光学要素に隣接して設けられる。試料に隣接する光学要素の表面で光が全反射するように励起光が光学要素に提供される。このようにして光学要素の表面から指数関数的に減衰し典型的には隣接する試料の内部に数百ナノメートルのオーダーの深さまで伝搬するエバネッセント電磁場が生成される。したがってエバネッセント場は、光学要素に丁度隣接する試料の限られた領域にあるフルオロフォアを励起するのに使用されうる。この励起される領域の選択性が従来の蛍光検査法と比較して有利な点である。従来の技術では、試料の表面に拘束されたフルオロフォアからの蛍光はしばしばバックグラウンドからの蛍光によってかき消されていた。
【0007】
TIRF検査法は細胞膜内の単一の蛍光分子を測定するために使用されており、生きている細胞の通常の生理的な環境におけるそのような単一の分子を観測することを可能とする技術である。例えば、文献(S.E.D. Webb et al, "Multidimensional single-molecule imaging in live cells using total-internal-reflection fluorescence microscopy", OPTICS LETTERS, Vol. 31, No. 14, pp 2157-2159)には、生きた細胞内の単一の分子の、波長と偏光の両分解能を有するイメージングを可能とする広視野TIRF検査法の開発について記載がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術における一つ以上の課題を、それが本明細書に記載されていようといまいと、実質的に解決することを指向することが本発明の実施の形態の目的のひとつである。TIRF検査法を改良することが本発明のある実施の形態の目的のひとつである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は方法を提供する。この方法は、試料からの蛍光を測定する方法であって、試料の表面であって軸を実質的に横切って伸張する表面、の少なくとも部分の少なくともひとつのプロファイルを測定するステップと、蛍光を励起するために試料の表面の前記部分を軸に沿った位置によってその強度が変化する放射で照射するステップと、試料表面の前記部分から発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定するステップと、前記測定されたプロファイルを使用して、表面に入射する放射の強度の空間的な変動を考慮するように測定された蛍光の値を変更するステップと、を含む。
【0010】
蛍光測定技術(例えばTIRF検査法)では励起用の放射の強度は位置によって変化するのであるが、そのような蛍光測定技術は個々のフルオロフォアに実際に入射する放射の強度を考慮することによって改良されうることを本発明者は認識した。そのような測定では試料の表面は平らでないことが多い。励起用の放射の強度は位置によって変化するので、表面上の異なる部分では(例えば、高さの異なる部分では)励起用の放射の強度もまた異なる。したがってそのような場合の蛍光測定は、それぞれ異なる試料表面位置に入射する(つまり、表面内の異なるフルオロフォアに入射する)実際の強度を考慮することで改良されうる。このようなアプローチによると、表面の異なる位置からの蛍光の定量的な測定が可能となる。
【0011】
前記変更するステップは、前記測定されたプロファイルと軸に沿った位置による放射ビーム強度の変化を表す情報とから前記表面に入射する放射の強度の空間的な変動を計算することを含んでもよい。
【0012】
前記試料は光学要素に隣接して配置されてもよい。前記照射するステップは、前記光学要素で全反射するような放射ビームを生成し、試料表面上のフルオロフォアを励起するための放射のエバネッセント場を生成することを含んでもよい。
【0013】
前記放射ビームは2つのサブビームに分割され、そのそれぞれが対応する反射面で全反射してもよい。
【0014】
試料表面の前記部分を照射するステップは、前記放射を第1偏光状態で提供することを含んでもよい。前記値を測定するステップは、試料表面の前記部分から第1偏光状態で発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定することと、試料表面の前記部分から第1偏光状態とは異なる第2偏光状態で発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定することと、を含んでもよい。
【0015】
試料表面の前記部分を照射するステップはさらに、蛍光を励起するために続いて前記放射を第1偏光状態とは異なる第2偏光状態で提供することを含んでもよい。
【0016】
前記値を測定するステップは、試料表面の前記部分から第1波長範囲で発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定することと、試料表面の前記部分から第1波長範囲とは異なる第2波長範囲で発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定することと、を含んでもよい。
【0017】
前記プロファイルを測定するステップと前記蛍光の空間強度分布を表す値を測定するステップの両方は、前記試料の形状の変化を監視するために、ある期間にわたり繰り返されてもよい。
【0018】
前記プロファイルを測定するステップと前記蛍光の空間強度分布を表す値を測定するステップとは同時に行われてもよい。
【0019】
前記プロファイルを測定するステップは、試料の前記部分を放射ビームで照射することと、反射された放射ビームの強度の空間的な変動を測定することと、を含んでもよい。
【0020】
前記プロファイルを測定するステップは、試料の表面の少なくとも前記部分のトポグラフィを測定することを含んでもよい。
【0021】
前記トポグラフィは非干渉広視野光学形状測定法によって測定されてもよい。
【0022】
前記トポグラフィは広視野光学断層顕微鏡検査法によって測定されてもよい。
【0023】
前記試料は生物の細胞であってもよく、その細胞の表面は細胞膜によって定義されてもよい。
【0024】
本発明の第2の態様は装置を提供する。この装置は、試料からの蛍光を測定する装置であって、試料の表面の少なくとも部分が所定の軸を実質的に横切って伸張するように試料を保持する試料ホルダと、試料の表面の前記部分の少なくともひとつのプロファイルを測定するプロフィルメータと、蛍光を励起するために試料の表面の前記部分を前記軸に沿った位置によってその強度が変化する放射で照射する放射源と、試料表面の前記部分から発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定する検出器と、測定されたプロファイルを使用して、表面に入射する放射の強度の空間的な変動を考慮するように測定された蛍光の値を変更するプロセッサと、を備える。
【0025】
本発明の第3の態様はデバイスを提供する。このデバイスは、蛍光測定を実行するように光学装置を制御するデバイスであって、プロセッサで読み取り可能なインストラクションを含むプログラムメモリと、前記プログラムメモリに記憶されるインストラクションを読み出して実行するプロセッサと、を備える。前記プロセッサで読み取り可能なインストラクションは、上述の方法を実行するように前記装置を制御するインストラクションを含む。
【0026】
本発明の第4の態様はキャリア媒体を提供する。このキャリア媒体は、コンピュータに上述の方法を実行せしめるコンピュータ読み取り可能なコードを運ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0027】
例示のみを目的とし添付の図を参照して本発明の好適な実施の形態が以下に説明される。
【図1】本発明の実施の形態に係る、試料の蛍光を測定するための装置を示す模式図である。
【図2】図1に示されるサンプリング位置に配置された試料の拡大図である。
【図3A】図1の試料位置に置かれた鏡から反射された光の強度を、Z軸に沿った鏡の位置の関数として示すグラフである。
【図3B】図1に示されるCCD検出器の両半分によって取得されるイメージを示す図である。
【図4】本発明の別の実施の形態に係る、試料の蛍光を測定する装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
例えばTIRF(Total Internal Reflection Fluorescence)のような蛍光測定技術では、試料を励起するのに使用される放射の強度は位置により変化する。蛍光の強度は励起用の放射(つまり、蛍光を促すために使用される放射)の強度に依存するので、蛍光放射の正確な評価を行うために本発明者は以下の点を認識した。試料表面のプロファイルを測定し、蛍光の測定値を評価する際にその表面上の異なる位置に入射する励起用の放射の強度を考慮に入れることが望ましい。
【0029】
例えば、図2は光学要素(ここではカバーガラス40)に取り付けられた試料42の一部の拡大図である。試料42は、水溶液であってもよい試料媒体46の中にある。試料42は、おおむね光軸Zを横切るように伸張する表面44を有する。試料の表面44は非線形、つまりしわがよっている。したがって試料表面内の分子間の距離はZ軸に沿った位置により変化する。
【0030】
この例では、カバーガラス40はZ軸に実質的に直交して伸張する。表面44は2つのフルオロフォアP、Pを有するように示される。それらのフルオロフォアは、Z軸に沿って異なる位置にある。
【0031】
蛍光を発するようフルオロフォアを刺激するのに好適な波長の放射ビーム12がカバーガラス40に入射する。放射ビーム12の入射角は、放射ビーム12がカバーガラス表面40aで全反射を行うように選択される。この全反射によりエバネッセント電磁場、すなわち試料42に隣接するカバーガラスの表面40aから伸びる電磁場が生成される。このエバネッセント電磁場は表面40aから指数関数的に減衰し、したがって大抵の場合(矢印zで示される)試料方向には100−300ナノメートル程度の距離しか伝搬しない。したがって励起用の放射(エバネッセント場)の強度はZ軸に沿った位置により変化し、特に矢印zで示される方向にそって減少する。つまり、エバネッセント場が伝搬を開始する表面40aに最も近いフルオロフォアPは、フルオロフォアPよりもより高い強度のエバネッセント場に曝される。
【0032】
フルオロフォアが異なればその量子収率(quantum yield)も異なる。量子収率は、蛍光光子の数の、吸収された励起光子の総数に対する比である。フルオロフォアの量子収率は、エネルギが他の近隣のフルオロフォアへ移送されうる場合にもまた変化しうる。したがってフルオロフォアP、Pの量子収率(および表面の所与の位置/表面の所定の領域内に存在しうるフルオロフォアの数)を評価するためには、個々のフルオロフォアP、Pの位置に入射する励起用の放射の強度を決めることが必要である。それと同じく、そのような情報は複数のフルオロフォアが異なる位置に存在しているのか(もしくは少なくとも所定の領域内に存在しているのか)を決めるのにも使用されうる。さらには、ある期間にわたり表面からの蛍光を表面のプロファイルと共に監視することにより、表面上の分子の形状の変化を表面のプロファイルの変化に関連付けることができる。
【0033】
このような技術は、生理的な条件、つまり生きた細胞を使用しレセプタ密度を低くした状態のもとでの、薬の(シグナル伝達などの)プロセスに対する影響を解析するために特に価値がある。また、比較的まれな、もしくは非同期的なイベントの観測を可能とする。例えば、シグナル伝達プロセスにおいては、リガンドタンパク質分子(例えば上皮成長因子、EGF)が膜貫通タンパク質(例えばHER1もしくはErbB1としても知られるEGFレセプタ、EGFR)の細胞外ドメインに結合する。これにより細胞内(intracellular)反応が生じシグナルが核に伝達される。このようなプロセスはレセプタ分子の形状変化や分子の重合状態の変化を伴いうる。
【0034】
試料(例えば細胞)のプロファイルを測定する上述のプロセスを使用すると、レセプタクラスタリングと細胞膜ラッフル(membrane ruffles)との間のいかなる相関をも検出可能となる。細胞の形状変化は、蛍光共鳴エネルギ移動(FRET)を測定することによってTIRF検査法において検出可能である。蛍光の偏光を調べることでタンパク質内のおよびタンパク質間の距離および角度変化を観測できる。さらに、蛍光放射の偏光が監視される場合、レセプタの形状変化による蛍光の偏光の変化は、細胞膜の再形成に続いて起こるレセプタの配向の変化と区別されうる。
【0035】
添付の図を参照して本発明のある実施の形態が説明される。
【0036】
図1は、本発明の実施の形態に係る蛍光を測定するための装置100を示す。装置100は試料表面のプロファイルを測定し、同時にその表面からの蛍光の空間分布を測定する。これらの作業の両方を別の装置によって順番に行うこともできるが、両作業を単一の装置で行うことによりコンポーネントを共用でき、また作業を同時に行うことが可能となる。試料が形状変化を起こしうるものの場合、同時測定が望ましい。そのような同時作業が特に好ましいのは、測定がある期間に亘り(例えば一定間隔で)繰り返される場合である。この場合、試料の形状の変化を研究することができる。例えば、生物学的試料に対して測定を1秒もしくはそれ以下毎に、または100ミリ秒毎に、または30ミリ秒もしくはそれ以下毎に繰り返すことができる。
【0037】
図1に示される装置100のコンポーネントを説明する。まず蛍光を励起するための放射を生成するためのコンポーネントおよび光学要素を説明する。
【0038】
装置100は、一つ以上の種類のフルオロフォアを励起するための所定の波長(もしくは所定の波長範囲)を有する電磁放射ビーム12を生成する放射源10を含む。蛍光を促すために試料の表面の一部が照射されるように放射が提供される。特に本例示では、TIRF検査法が使用されるので、放射ビーム12は光学要素(ここではカバーガラス40)へ向けられ、その光学要素の表面で放射ビームは全反射する。その結果得られるエバネッセント場は試料42内のフルオロフォアを励起するのに使用される。
【0039】
放射ビーム12を光学要素40に対して提供するためには種々の光学的な構成が使用されうる。本実施の形態では、放射源10と光学要素40との間の光学経路であって放射ビーム12が通過する光学経路は、ビーム整形レンズ14、18、24および対物レンズ32を含む。ビームは、ガウス型のビームプロファイルを保証するための空間フィルタ16、および試料42でのビーム径を変えるためのアパーチャ20をも通過する。ビームは2色性のビームスプリッタ22を通過する。フルオロフォアを励起するのに使用される放射12の光学経路と試料42の表面44のプロファイルを測定するのに使用される放射ビーム52の経路とを合わせるために2色性のビームスプリッタ22が使用される。
【0040】
装置100は、試料42の表面44のプロファイルを測定するのに使用される装置を追加的に含む。
【0041】
表面44のプロファイルとその表面からの(もしくは少なくともその表面内のフルオロフォアからの)蛍光とを同時に測定するためには、プロファイルは光学技術を用いて測定されるのが好ましい。そのような光学技術は、放射ビームで試料の対象となる表面を照射し、反射した放射ビームから(例えば電荷結合素子(CCD)などの検出器に入射する反射したビームによって形成されるイメージから)強度の空間変動を測定することを含む。
【0042】
多くの適切な光学プロファイリング技術および装置が知られている。例えば、白色光干渉法プロファイラや、差分共焦点顕微鏡検査法(DCM)などの非干渉型光学プロファイラや、広視野光学断層顕微鏡検査法の技術などがある。これらの技術のうちのどれが使用されてもよい。しかしながら図1に示される特定の装置では、装置は非干渉広視野光学形状測定法(NIWOP)を行う。この技術は試料のナノメートルレベルの深さ分解能を提供するために使用されうる。NIWOP技術および装置は例えば、(1)Wang, C. C, Lin, J. Y. & Lee, C. H. "Membrane ripples of a living cell measured by non-interferometric widefield optical profilometry", Optics Express 13, 10665-10672 (2005)、および(2)Lee, C. H., Mong, H. Y. & Lin, W. C. "Noninterferometric wide-field optical profilometry with nanometer depth resolution", Optics Letters 27, 1773-1775 (2002)に記載されており、両者は参照により本明細書に援用される。
【0043】
放射源50はNIWOPプロファイル測定のための放射ビーム52を提供する。その技術では、試料表面44上に3つの異なる位相位置でグリッドパターンを結像する。グリッドパターンはビーム52の光学経路内にある回折格子54によって提供される。回折格子は、ビーム52の光軸に沿った方向およびその光軸を横切る方向(つまり、位相を変えるため)の両方への回折格子の移動を可能とするための平行移動ステージを含む。回折格子の横切る方向の移動は、試料表面44上に異なる位相を有する3つのグリッドパターンを提供するために使用されうる。その3つのグリッドパターンによるイメージは3次元の試料表面プロファイルを測定するために(つまり表面44のトポグラフィを測定するために)使用される。
【0044】
放射ビーム52は、2色性のビームスプリッタ22によって放射ビーム12との共通光学経路に導入される(したがってビーム12および52は共通の光学要素を通過する)。2色性のビームスプリッタ22はビーム12の波長を通過させ、ビーム52の波長を反射するように構成される。両ビーム12、52は別の2色性のビームスプリッタ30によって対物レンズ32へ配向される。2色性のビームスプリッタ30はビーム12の波長を反射し、ビーム52の波長を部分的に反射し部分的に通過させるように構成される。
【0045】
回折格子54の空間周波数は、単一の対物レンズ32を使用してTIRF検査法および形状測定法の両方が行われうるように選択される。形状測定法のために使用される放射ビーム52の波長は、それが励起用のビーム12の波長とも予測される蛍光放射スペクトルとも重なり合わないように選択される。回折格子54は単一の空間周波数を有し、試料平面と共役な平面に隣接して配置される。空間周波数は、TIRF検査法について要求される対物レンズに対して、試料表面プロファイルの予測される範囲にわたっての深さ分解能を最大化するように選択される。例えば、約2nmの深さ分解能と約200nmの深さ範囲に対して、理想的な回折格子空間周波数は(対物レンズ32の開口数)/(放射ビーム52の波長x対物レンズ32の倍率)に等しい。
【0046】
形状測定ビーム52は試料表面から反射ビーム52’として反射され、最終的には検出器66によって検出される反射イメージを伴って対物レンズ32を通過する。放射ビーム12の全反射により生ずるエバネッセント放射は試料表面上のフルオロフォアP、Pを励起し、そのフルオロフォアを蛍光させる、つまりフルオロフォアに蛍光45を放射させる。蛍光45も同様に2色性フィルタ30を通過し、最終的には検出器66によって検出されるイメージを形成する。
【0047】
反射された形状測定放射ビーム52’および蛍光放射45は最初2色性のビームスプリッタ58への共通光学経路に沿って伝搬する。
【0048】
特に反射ビーム52’および蛍光の両方は、試料表面42から対物レンズ32を通り、2色性のフィルタ30を通って伝搬する。そして放射52’、45はフィルタ51を通過する。このフィルタ51は蛍光の波長と反射波長とを通過させ、他の波長(例えば励起用のビーム12の波長)をブロックするように構成される。そして反射ビーム52’および蛍光45は、2色性のフィルタ58に入射する前に、レンズ53、56を通過し、アパーチャ55を通過する。
【0049】
2色性フィルタ58は反射ビーム52’と蛍光45とを分離する(2色性フィルタ58によって反射される波長対2色性フィルタ58を通過する波長、という点で波長選択的であることによって)。分離された放射信号52’、45は次にそれぞれの光学経路に沿って導かれ、検出器66のそれぞれのセンサ領域68a、68b上に結像される。特にこの構成では、各信号は対応する鏡60a、60bで反射し、(対応する信号の波長を通過させ、他の波長をブロックする)フィルタ62a、62bを通過し、レンズ(この例ではレンズ64は両信号に共通する)によって集束されて対応する検出器領域68a、68bに結像される。
【0050】
各イメージの空間強度の変動が検出器66によって測定され、プロセッサ70に渡される。図3Bは、検出器66によって取得されたイメージを示す。イメージの左側は検出器要素68aによって検出されたイメージに対応し、右側は検出器要素68bによって検出されたイメージに対応する。CCDが検出器66として使用されうる。検出器イメージの両半分の視野は同一である。図3Bに示される特定の例では、試料の表面上のフルオロフォアの濃度は非常に低い。イメージの左側は、単一分子蛍光イメージに対応する。図3Bの右側イメージは、試料表面のプロファイルを計算するためにNIWOPで使用される3つのイメージのうちのひとつである(イメージ上の線は回折格子54からのものである)。
【0051】
反射された放射の3つの異なるイメージが、それぞれについて回折格子を異なる位相位置に置いて取得される。それにより表面のプロファイルが計算される。
【0052】
プロセッサ70は、試料表面40の測定されたプロファイルを使用して、表面に入射する放射の強度の空間的な変動を考慮するように測定された蛍光の値を変更する。
【0053】
特に、プロセッサ70は以下のステップ/計算を行うことにより、エバネッセント場の強度の変動を考慮するように測定された蛍光の値を変更する。
(1)試料表面のプロファイルを計算する。
(2)試料表面のプロファイルから、試料表面におけるエバネッセント場の強さ分布(つまり試料表面に入射する励起用の放射の強度の空間分布)を計算する。
(3)測定された各強度を空間的な位置での試料表面のエバネッセント場強さで除すことによって、測定された蛍光の強度値を変更もしくは「規格化」する。
【0054】
次に装置100の動作を簡単に説明する。まず、装置100の形状測定部を較正するために較正技術が使用される。特に、顕微鏡の試料平面(つまりおおよそ通常試料42によって占められる位置)に平面鏡が置かれる。放射ビーム52のみが試料位置に入射するように、放射源10はオフとされる。回折格子54を相対的な空間位相0、2p/3、4p/3のそれぞれに置くことによって得られる3つの一連のイメージが必要とされる。断層イメージ強度Iは以下の式によって計算される。
【数1】

ここでIは空間位相xで取得されたイメージである。
【0055】
Z軸に沿った平面鏡の一連の位置に対して、3つのイメージ(各イメージは異なる空間位相に対応する)が取得され、断層イメージIが計算される。断層イメージIの強度がZ軸に沿った位置の関数としてプロットされ、それは図3Aに示されるものと同様の応答曲線を提供する。図3Aでは、z=0の位置はイメージ強度のピーク位置として任意に選択された。四角Aは強度がZ軸に沿った鏡の位置に正比例し傾きaを有する応答曲線の部分を示す。
【0056】
形状測定装置が較正されると、対物レンズ32の前の試料位置に試料42が置かれる。回折格子54は、それが図3Aに示される線形領域A内で試料表面44上に焦点ボケの状態でイメージされるように、配置される。最初の較正のときと同様に3つのイメージが取得される。これらのイメージは回折格子が相対的な空間位相0、2p/3、4p/3に置かれた場合に対応する。そしてIと同様にイメージ強度Is defocusedが計算される(例えば3つの異なる位相に対応する試料の3つの異なるイメージから計算され、そのようなイメージの一例は図3Bの右側に示される)。
【0057】
同時に放射源10は放射ビーム12を生成し、その結果得られるイメージであって蛍光の空間分布を示すイメージが検出器要素68aによって集められる。典型的な蛍光イメージが図3Bの左側に示される。
【0058】
試料の表面プロファイルZは以下の式から計算される。
【数2】

ここでIは回折格子がない場合に得られる通常の反射イメージである。Iは以下の式で与えられる。
【数3】

【0059】
エバネッセント場、つまり蛍光を促すために使用される放射、の強度の変動は、光軸Zに沿った位置の関数として以下の式で表される。
【数4】

ここでnおよびnはそれぞれ試料媒体46およびカバーガラス40の屈折率であり、θはカバーガラスでのZ軸と入射ビーム12との間の角度である。各位置における変更された蛍光強度(つまり入射ビーム強度を考慮して調整された蛍光強度)は次の式により計算される。
【数5】

ここでfは各空間位置における調整された蛍光強度であり、Fは各空間位置における測定された蛍光強度である。
【0060】
上述の実施の形態は例示としてのみ記載されており、種々の他の実装もまた請求項の技術的範囲に属することは当業者には明らかであることは理解されるべきである。
【0061】
例えば、図1は励起用のビームが全反射を起こす光学要素を通して蛍光が伝搬した後でその蛍光が測定されるTIRF顕微設定を含む装置100を示すが、装置は他のTIRF設定を使用して実装されてもよい。他の設定としては例えば試料を透過した蛍光が測定される設定がある。
【0062】
さらに図2ではビーム12は光学要素40の単一の反射平面で全反射するものとして示されているが、他の実装も可能であることは理解されるべきである。例えば、放射ビームは2以上のサブビームに分割され、各サブビームは対応する反射平面から全反射する。各反射平面はZ軸を含む。放射ビームは例えばポッケルスセルによって時間の関数として分割されてもよい。この場合、放射ビームは各サブビームに対応する異なる複数の経路に沿って交互に伝送される。各経路は放射ビームに異なる特性を付与してもよい。例えば第1の経路は第1の偏光状態に対応し、第2の経路はそれとは異なる偏光状態に対応してもよい。あるいはまた、放射ビームは空間的に2以上のサブビームに分割されてもよく、その場合各サブビームは対応する反射平面から同時に反射する。
【0063】
同様に、図1では反射ビーム52’は蛍光45と同じ検出器66上にイメージされるものとして示されているが、反射ビームは異なる検出器上にイメージされてもよい。図4はそのような代替的な装置構成200を示す。その装置構成200では、反射ビーム52’は異なる検出器66a上にイメージされる。図では同じ符号は同様の構成を表すために使用される。
【0064】
装置200は、ビーム52、52’の波長の放射を完全に反射する(そのような波長を部分的に反射し部分的に通過させる2色性のスプリッタ30のように振る舞うかわりに)2色性のスプリッタ30’を有することで、この構成を実現する。装置はさらに、ビーム52、52’の光学経路上に設けられたもう一つのビームスプリッタ52aを含む。反射ビーム52’の一部は検出器66a上にイメージされる。
【0065】
図1では単一の蛍光イメージのみが検出器要素68aによって取得され、その単一の蛍光イメージが対象となる全ての蛍光波長および偏光を含みうる。しかしながら蛍光45は波長および/または偏光によって分割されてもよい。例えば、TIRF測定を行うために使用される装置200のコンポーネントは、TIRF測定のために記されたWebb, S. E. D., Needham, S. R., Roberts, S. K. & Martin-Fernandez, M. L. "Multidimensional single-molecule imaging in live cells using total-internal-reflection fluorescence microscopy", Optics Letters 31, 2157-2159 (2006)に記載された構成を有してもよい。この文献は参照により本明細書に援用される。
【0066】
図4に示される形態では、装置200は蛍光45を波長(ここでは2つの別の波長成分へ)および偏光(つまり水平および垂直偏光)の両方で分割する。しかしながら全ての成分(45a−d)は検出器66bのうちのそれぞれ対応する別個のセクタ(68a−68d)上に同時にイメージされる。スプリッタ58a、58b、58cは蛍光45を4つの成分45a−dに分割するように作用する。それらの成分のそれぞれは、対応する鏡60a−dから反射され、対応するフィルタを通過する。個々のフィルタ62a−62dは、検出器66bの各セクタ/要素68a−dがある一つの偏光状態にある、波長成分のうちのひとつのみを受けることを保証する。
【0067】
装置200はまた、放射12の光学経路上に偏光要素15を含む。偏光要素15は偏光板(ただひとつの偏光状態のみ通過させる)および/または偏光回転器として実装されてもよい。偏光要素15は、試料が単一の偏光状態を有する放射によってのみ励起されることを保証する。動作中、励起用のビーム12は第1の偏光状態にある一方で、異なる波長/偏光成分の蛍光強度に対応する一組のイメージが集められる。続いて偏光要素15は励起用のビーム12を異なる偏光状態に置くように調節され、異なる波長/偏光成分の蛍光強度に対応する別の一組のイメージが集められる。例えば、これによりフルオロフォアP、Pの双極子の向きの変化を測定できる。
【0068】
種々の変形例が添付の請求項の技術的範囲に属することは当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料からの蛍光を測定する方法であって、
試料の表面であって軸を実質的に横切って伸張する表面、の少なくとも部分の少なくともひとつのプロファイルを測定するステップと、
蛍光を励起するために前記試料の表面の前記部分を前記軸に沿った位置によってその強度が変化する放射で照射するステップと、
前記試料表面の前記部分から発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定するステップと、
前記測定されたプロファイルを使用して、前記表面に入射する放射の強度の空間的な変動を考慮するように前記測定された蛍光の値を変更するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記変更するステップは、前記測定されたプロファイルと前記軸に沿った位置による放射ビーム強度の変化を表す情報とから前記表面に入射する放射の強度の空間的な変動を計算することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料は光学要素に隣接して配置され、
前記照射するステップは、前記光学要素で全反射するような放射ビームを生成し、前記試料表面上のフルオロフォアを励起するための放射のエバネッセント場を生成することを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記放射ビームは2つのサブビームに分割され、そのそれぞれが対応する反射面で全反射する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記試料表面の前記部分を照射するステップは、前記放射を第1偏光状態で提供することを含み、
前記値を測定するステップは、
前記試料表面の前記部分から第1偏光状態で発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定することと、
前記試料表面の前記部分から第1偏光状態とは異なる第2偏光状態で発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定することと、を含む請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記試料表面の前記部分を照射するステップはさらに、蛍光を励起するために続いて前記放射を第1偏光状態とは異なる第2偏光状態で提供することを含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記値を測定するステップは、
前記試料表面の前記部分から第1波長範囲で発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定することと、
前記試料表面の前記部分から第1波長範囲とは異なる第2波長範囲で発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定することと、を含む請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記プロファイルを測定するステップと前記蛍光の空間強度分布を表す値を測定するステップの両方は、前記試料の形状の変化を監視するために、ある期間にわたり繰り返される請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記プロファイルを測定するステップと前記蛍光の空間強度分布を表す値を測定するステップとは同時に行われる請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記プロファイルを測定するステップは、
前記試料の前記部分を放射ビームで照射することと、
反射された放射ビームの強度の空間的な変動を測定することと、を含む請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記プロファイルを測定するステップは、前記試料の表面の少なくとも部分のトポグラフィを測定することを含む請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記トポグラフィは非干渉広視野光学形状測定法によって測定される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記トポグラフィは広視野光学断層顕微鏡検査法によって測定される請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記試料は生物の細胞であり、その細胞の表面は細胞膜によって定義される請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
試料からの蛍光を測定する装置であって、
前記試料の表面の少なくとも部分が所定の軸を実質的に横切って伸張するように試料を保持する試料ホルダと、
前記試料の表面の部分の少なくともひとつのプロファイルを測定するプロフィルメータと、
蛍光を励起するために前記試料の表面の前記部分を前記軸に沿った位置によってその強度が変化する放射で照射する放射源と、
前記試料表面の前記部分から発せられる蛍光の空間強度分布を表す値を測定する検出器と、
前記測定されたプロファイルを使用して、前記表面に入射する放射の強度の空間的な変動を考慮するように前記測定された蛍光の値を変更するプロセッサと、を備える装置。
【請求項16】
蛍光測定を実行するように光学装置を制御するデバイスであって、
プロセッサで読み取り可能なインストラクションを含むプログラムメモリと、
前記プログラムメモリに記憶されるインストラクションを読み出して実行するプロセッサと、を備え、
前記プロセッサで読み取り可能なインストラクションは、請求項1から14のいずれかに記載の方法を実行するように前記装置を制御するインストラクションを含むデバイス。
【請求項17】
コンピュータに請求項1から14のいずれかに記載の方法を実行せしめるコンピュータ読み取り可能なコードを運ぶキャリア媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−525313(P2010−525313A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503572(P2010−503572)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001221
【国際公開番号】WO2008/129233
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(507348735)ザ サイエンス アンド テクノロジー ファシリティーズ カウンシル (3)
【Fターム(参考)】