蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置
【課題】蛍光X線の検出効率を高めるために、X線を発生するターゲットから試料までの距離、試料から蛍光X線の検出器の検出素子までの距離を可能な限り小さくすると共に、蛍光X線の取り出し角を可能な限り大きくした蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置を提供する。
【解決手段】対物レンズによって電子線をX線発生用のターゲットに集束させ、ターゲットから発生したX線を試料に照射することによって試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、検出器の検出結果から蛍光X線を分析する分析部とを具備した蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置において、検出器の全部又は一部を対物レンズの磁気回路内に組み込む。
【解決手段】対物レンズによって電子線をX線発生用のターゲットに集束させ、ターゲットから発生したX線を試料に照射することによって試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、検出器の検出結果から蛍光X線を分析する分析部とを具備した蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置において、検出器の全部又は一部を対物レンズの磁気回路内に組み込む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線を検出する検出器を対物レンズの磁気回路内に組み込んだ蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置に関する。
【背景技術】
【0002】
任意の試料にX線を照射することによって発生する蛍光X線は、試料の元素特有の波長成分を含むので、蛍光X線を分析することによって、比較的容易に試料に含まれる元素を同定することができる。そのため、さまざまな種類の蛍光X線分析装置が市販されている。
【0003】
X線を試料に照射して透過したX線像により試料の内部構造を観察するようにしたX線顕微装置を用いて、蛍光X線を分析する機能を付加した、蛍光X線分析機能付きX線顕微装置も市販されている。
【0004】
特開2007−212468号公報(特許文献1)には、電子源からの電子線をX線発生用ターゲットに当ててX線を発生させ、発生したX線を被検査体(試料)に照射し、被検査体を透過したX線を画像検出するようにした高分解機能X線顕微検査装置が開示されている。この高分解機能X線顕微検査装置においては、被検査体の上方で且つX線発生用ターゲットから発生するX線の領域外に、被検査体から発生する蛍光X線を検出するための蛍光X線検出器を配置している。
【0005】
図6は、特許文献1に開示されているのと同様の構成を具備した蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21の構成例を示す図である。蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21は、電子線Reを発する電子銃1と、電子線Reを集束させるための集束レンズ2及び対物レンズ3と、電子線Reが集束することによってX線Rxを発生させるターゲット6と、ターゲット6を支持若しくは保持するX線透過窓基材7と、X線Rxが照射される被検査体としての試料8と、試料8を透過したX線Rxを検出するためのX線I.I.(イメージ・インテンシファイア)、CCD又はCMOS型撮像素子等で成るX線画像検出器9とを具備しており、更に試料8に照射されたX線Rxによって発生する蛍光X線Rxfを検出するために、シリコン等の半導体特性を活かしてX線フォトンの持つエネルギーを計測するための検出素子11を備えた検出器10と、検出器10の検出結果を分析する分析部12とを具備している。対物レンズ3の周りには強いレンズ磁場を発生させるために、磁束の通路であるヨークの切れ端部となるポールピース(磁極片)上極4とポールピース下極5が設けられている。検出器10は、試料8の上方で、且つポールピース下極5の下方に支持若しくは保持されている。なお、集束レンズ2、対物レンズ3、ポールピース上極4及びポールピース下極5は、対物レンズ3の光軸Yに関して回転対称となる形状をしている。
【0006】
蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21において、電子銃1から発せられた電子線Reは、集束レンズ2及び対物レンズ3によってターゲット6上に電子線プローブとして集束し、ターゲット6からは集束した電子線Reが当たることによって微小光源から成るX線Rxが発生する。X線Rxは試料8に照射され、試料8を透過したX線RxはX線画像検出器9によって検出され、試料8の内部が拡大投影されることによって、試料8内部の微細構造を非破壊で透視検査する。一方、X線Rxが試料8に照射されることによって発生する蛍光X線Rxfは、検出器10内の検出素子11で検出され、その検出結果が分析部12で分析され、試料8の元素が同定されるようになっている。
【0007】
このようなX線顕微装置において0.1μm以下の高分解能を実現するには、X線Rxの発生領域を小さくすると共に、X線画像検出器9で検出されるX線像の倍率を高倍率にする必要がある。X線像の倍率は、図7に示されるように、ターゲット6から試料8までの距離をA、ターゲット6からX線画像検出器9までの距離をBとすると、B/Aで与えられる。従って、高分解能を実現するためには、できる限り距離Aを小さくし、距離Bを大きくする必要がある。
【0008】
一方、X線Rxの発生領域を小さくするためには、ターゲット6で集束する電子線プローブの径を小さくする必要があるため、ターゲット6から発生するX線Rxの量は減少する。また、X線画像検出器9での単位面積当たりのX線の強度は距離Bの自乗に反比例する。そのため、CCDなどの検出素子の検出感度には限界があることから、ターゲット6からX線画像検出器9までの距離Bはあまり大きくとることができず、高分解能を実現するためにはターゲット6から試料8までの距離Aを極めて小さくする必要がある。また、X線像のコントラストが大きく変化するところに縁取りのようにフレネルフリンジが生じ、このフレネルフリンジの幅は√(λA)(λはX線の波長)で表され、距離Aの値が大きいとフレネルフリンジによって分解能が制限されてしまうという問題もある。従って、高分解能を実現するためには、ターゲット6から試料8までの距離Aを数10μm以下にする必要がある。そのためには、図8に示されるようにベリリウムで構成されるX線透過窓基材7の厚さdを数10μm以下と極めて薄くする必要がある。X線透過窓基材7は真空シールを兼ねており、薄くしていくと強い電子線Reを照射した場合に容易に破壊されてしまう。従って、高分解能のX線顕微装置では、強い電子線Reをターゲット6に照射し、高い線量のX線Rxを発生させることは実現し難い。
【0009】
一方で、蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21では、蛍光X線を分析するために高い線量の蛍光X線Rxfを必要とする。高い線量の蛍光X線Rxfを発生させるためには、試料8に照射されるX線Rxが高い線量である必要があり、そのためにはターゲット6に当てられる電子線Reのプローブの径が数μm〜数10μmと大きくする必要がある。更に、強い電子線照射に耐えるために、ターゲット6及びX線透過窓基材7を厚くする必要がある。このため、X線顕微装置としての分解能は数μm〜数10μmとなり、目標とする0.1μm以下の高分解能のX線顕微装置とはかけ離れたものとなっている。
【0010】
また、蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21において、X線顕微装置が高分解能である場合には、その高分解能に相応の微小領域を対象とした蛍光X線の元素分析が強く求められる。分析領域を制限した元素分析を分析対象領域の全面にわたって行うことによって、高解像度の元素分析を行うことができる。分析領域を制限するためには、図9に示されるようにターゲット6と試料8の間に分析領域を制限するための絞り13を挿入し、分析領域外をX線Rxが照射しないようにして、制限されたX線Rxaが試料8の分析領域のみを照射するようにする必要がある。制限されたX線Rxaはターゲット6から発生するX線Rxの極く一部であり、大半のX線は絞り13によって捨てられることになる。そのため、ターゲット6から発生するX線Rxの線量を高くするか、または蛍光X線の検出方法の効率を改善する必要がある。
【0011】
従って、蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置では、ターゲット6から発生するX線Rxの線量があまり高くなくても、蛍光X線Rxfを効率良く検出できるようにする必要がある。図10は、ターゲット6、試料8及び検出器10の検出素子11の位置関係を詳細に示す図である。限られた量のX線Rxで、効率良く蛍光X線Rxfを検出するためには、ターゲット6及び試料8の間の距離Aと、試料8及び検出器10の検出素子11の間の距離Lとを可能な限り小さくする必要がある。これは、X線Rxの強度を一定としたとき、試料8面上での単位面積当たりのX線Rxの強度は距離Aの自乗に逆比例し、検出素子11で検出される単位面積当たりの蛍光X線Rxfの強度も、距離Lの自乗に逆比例するからである。
【0012】
更に、蛍光X線Rxfの分析対象物が試料8の表面ではなく内部にある場合、蛍光X線Rxfは試料内部を通るときに吸収されるため、蛍光X線の取り出し角θをできるだけ大きくした方が蛍光X線の吸収量を少なくすることができる。図11は、分析対象物が試料8の内部にある場合に、取り出し角θの異なる蛍光X線Rxfを示す図である。図11に示されるように、大きな取り出し角θ1の蛍光X線Rxf1の方が、小さな取り出し角θ2の蛍光X線Rxf2より、試料内部でX線が吸収される距離が短くなるので、試料8の内部で吸収されるX線の量は小さくなる。
【0013】
以上の記述から、限られたX線量Rxで、蛍光X線Rxfを効率よく検出するためには、ターゲット6及び試料8の間の距離Aと、試料8及び検出器10の検出素子11の間の距離Lとを可能な限り小さくすると共に、蛍光X線Rxfの取り出し角θを可能な限り大きくする必要がある。
【0014】
X線顕微装置は非破壊観察を特徴としており、比較的大きな試料を観察することが多いので、ターゲットを電子レンズの最下段に配置し、その下には邪魔になるものを配置しないようにしている。図12はこの制限下で、図6に示される従来の蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21のターゲット6、試料8及び検出器10の検出素子11の位置関係を詳細に示す図である。この場合、ポールピース下極5の下方に検出器10が配置されているため、ターゲット6と試料8の間の距離A、試料8と検出素子11の間の距離Lは共に大きくなり、蛍光X線Rxfの取り出し角θは小さくなる。このため、従来の蛍光X線分析機能付きX線顕微装置では、蛍光X線Rxfの検出効率が悪く、またX線顕微装置において高分解能を実現するのは困難である。
【0015】
従来技術として、蛍光X線の取り出し角θを大きくするために、ポールピースに切り欠きを設けたものがある。例えば特開2003−21749号公報(特許文献2)では、電子線を試料に照射し、その試料から発生するX線を検出する分析電子顕微鏡において、ウィンドタイプとウィンドレスタイプのX線検出器を設け、ウィンドタイプの検出器よりもウィンドレスタイプの検出器の方がX線の取り込み角度が大きくなるように、上側磁極に切り欠きを設けている。
【0016】
また、特開平7−14538号公報(特許文献3)に開示された分析電子顕微鏡では、第1のX線検出器と対称な位置に第2のX線検出器を設け、対物レンズ系の上側磁極の磁極片に、X線検出器の先端の検出部が嵌入する切欠き部を設けている。
【特許文献1】特開2007−212468号公報
【特許文献2】特開2003−217497号公報
【特許文献3】特開平7−14538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述の特許文献2及び特許文献3に開示された分析電子顕微鏡は、電子線を直接試料に照射し、そこで発生する蛍光X線を効率良く検出する方法に関するものであり、X線ターゲットに微小焦点X線源を設けて、試料を透過したX線を画像検出する高分解能X線顕微装置に、蛍光X線分析機能を付けるようにしたものではない。
【0018】
本発明は上述のような事情によりなされたものであり、本発明の目的は、蛍光X線の検出効率を高めるために、X線を発生するターゲットから試料までの距離、試料から蛍光X線の検出器の検出素子までの距離を可能な限り小さくすると共に、蛍光X線の取り出し角を可能な限り大きくした蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、対物レンズによって電子線をX線発生用のターゲットに集束させ、前記ターゲットから発生したX線を試料に照射することによって試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、前記検出器の検出結果から前記蛍光X線を分析する分析部とを具備した蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置に関し、本発明の上記目的は、前記検出器の全部又は一部を前記対物レンズの磁気回路内に組み込んだことによって達成される。
【0020】
本発明の上記目的は、前記蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置が、前記試料を透過したX線を検出する透視型のX線顕微装置であることによって、或いは前記検出器の全部又は一部を前記対物レンズのポールピース上極とポーリピース下極との間に挿設したことによって、或いは前記対物レンズのポールピース上極及びポールピース下極のいずれか一方又は両方に前記検出器を嵌入する切り欠き部を設けたことによって、或いは前記対物レンズのポールピース上極及びポールピース下極のいずれか一方又は両方に切り欠き部を複数設け、前記切り欠き部は前記対物レンズの光軸に対して3回以上の回転対称性を持って配設され、前記切り欠き部の1つ又は複数に前記検出器を嵌入したことによって、或いは前記複数の検出器が同種の検出器であることによって、或いは前記複数の検出器が異種の検出器であることによって、より効果的に達成される。
【0021】
本発明の上記目的は、前記ターゲットと前記試料との間に、前記X線が照射される前記試料の元素分析領域を制限するための絞りを設けて、前記絞りは前記X線を通すための円形又は矩形の孔と、前記蛍光X線を通すための蛍光X線用孔とを具備したことによって、或いは前記絞りの位置を移動させるステージを具備し、前記ステージによって前記絞りの位置を移動させることによって、前記元素分析領域の位置を移動できるようにしたことによって、或いは前記ターゲットから照射され前記試料を透過したX線を検出するX線画像検出器と、前記X線画像検出器の検出結果から透視画像を表示する透視画像表示部とを具備し、前記透視画像によって前記元素分析領域の位置を確認できるようにすることによって、或いは前記ターゲットを支持するX線透過窓基材の下面の一部及び側面の一部に、散乱X線を遮蔽するために遮蔽部を設けるようにしたことによって、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、蛍光X線の検出器の全部又は一部をX線顕微装置の対物レンズの磁気回路内に組み込むことによって、X線を発生するターゲットから試料までの距離、試料から蛍光X線の検出器の検出素子までの距離を可能な限り小さくすると共に、蛍光X線の取り出し角を可能な限り大きくしているので、蛍光X線の検出効率を高めることができ、その結果元素分析の精度を高めることができる。また、試料を透過したX線を画像検出するのに、X線の量をあまり大きくする必要がないので、蛍光X線分析機能付きのX線顕微装置において高分解能を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置によれば、蛍光X線の検出器の全部又は一部をX線顕微装置の対物レンズの磁気回路内に組み込んでいる。これによって、X線を発生するターゲットから試料までの距離、試料から蛍光X線の検出器の検出素子までの距離を可能な限り小さくすると共に、蛍光X線の取り出し角を可能な限り大きくすることができ、蛍光X線の検出効率を高めて、元素分析の精度を高めることができる。
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置20の断面構成図である。図1に示される実施形態では、蛍光X線Rxfを検出する検出器10を、対物レンズ3のポールピース上極4とポールピース下極5の間に挿設することによって、検出器10を対物レンズ3の磁気回路内に組み込むようにしている。それ以外の構成は、図6に示される蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21と同じである。
【0026】
本実施形態では、電子銃1から発せられる電子線Reを、集束レンズ2及び対物レンズ3によってターゲット6に集束させる。ターゲット6に集束した電子線Reによって、X線Rxが試料8に照射され、試料8を透過したX線は、X線画像検出器9によって検出される。一方、X線Rxが試料8に照射されることによって試料8から蛍光X線Rxfが発生し、蛍光X線Rxfは対物レンズ3のポールピース上極4とポールピース下極5の間に挿設された検出器10の検出素子11によって検出される。検出器10での検出結果は分析部12で分析され、試料8の元素が同定されるようになっている。
【0027】
図2は、本実施形態における蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置20の、X線Rxを照射するターゲット6、蛍光X線Rxfを発生する試料8、蛍光X線Rxfを検出する検出器10に備えられた検出素子11の位置関係を示している。検出器10を対物レンズ3のポールピース上極4とポールピース下極5の間に挿設することによって、従来の図6及び図12に示される蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21に比べて、ターゲット6と試料8との間の距離Aを極めて小さくすることができると共に、蛍光X線Rxfの取り出し角θを大きくすることができる。また、試料8と検出器10に備えられた検出素子11との間の距離Lも比較的小さくすることができる。従って、本実施形態における蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置20は、限られたX線Rxによって発生した蛍光X線Rxfを効率良く検出することができ、元素分析の精度を高めることができると共に、電子線Reの強さを従来の蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21に比べて弱めることができるので、X線顕微装置において高分解能を実現することができる。
【0028】
図3には、ポールピース上極4に切り欠き部14を設けて、検出器10を切り欠き部14に嵌入するようにした本発明の実施形態が示されている。このようにすることによって、試料8と検出器10に備えられた検出素子11との間の距離Lをさらに小さくでき、蛍光X線Rxfの取り出し角θをさらに大きくすることができる。
【0029】
切り欠き部14はポールピース上極4をぐるりと回転対称に削らないで、切り欠き部14をポールピース上極4に3回以上の回転対称性を持って配設することによって、削り取られる磁性体の量を少なくすると共に、削り取ったことによる磁気回路への影響を小さくすることができ、対物レンズ3の性能への影響を小さくすることができる。なお、n回の回転対称性とは、(360÷n)度の回転により元の図形が維持されることを言う。例えば、3回の回転対称性とは、360÷3=120度毎に同じ図形が繰り返されることである。切り欠き部14を3回以上の回転対称に配設するようにポールピース上極4を削る他、ポールピース上極4にぐるりと回転対称に削ってから、切り欠き部14が3回以上の回転対称に配設されるように検出器10以外の部分に肉付けを行うようにしても良い。
【0030】
検出器10は、複数箇所に配設された切り欠き部14の内の1箇所又は複数箇所に設置する。検出器10を複数箇所に設置した場合、複数個の検出器10は全て同種の検出器であっても良いし、複数の検出器10はそれぞれ異なる種類の検出器であっても良い。同種の検出器を複数箇所に設置した場合、検出方向への依存性を小さくしたり、検出の総合感度を高めることができる。異なる種類の検出器を複数箇所に設置した場合、検出器の交換操作を行う面倒を減らすことができ、また異なるタイプの検査を同時に行うことができる。
【0031】
なお、図3の実施形態では、切り欠き部14をポールピース上極4に設けているが、切り欠き部14はポールピース下極5に設けても良い。或いは、切り欠き部14は、ポールピース上極4とポールピース下極5の両方に設けても良い。
【0032】
ターゲット6から試料8に照射されるX線Rxは大きく広がっているため、蛍光X線Rxfの分析領域を制限する場合、絞り13をX線透過窓基材7と試料8との間に設けるようにする。図4(a)は、絞り13を設けた場合の、ターゲット6、X線透過窓基材7、試料8及び検出器10に備えられた検出素子11の位置関係を示す図であり、図4(b)は絞り13をターゲット6の側から見た図である。
【0033】
絞り13は、X線Rxを制限して、制限されたX線Rxaのみを試料8に照射すための円形又は矩形の孔13Aと、試料8から発生した蛍光X線Rxfを通すための蛍光X線用孔13Bとを具備している。ターゲット6から照射されるX線は、孔13Aによって制限され、制限されたX線Rxaのみが試料8を照射する。制限されたX線Rxaが照射される試料8の領域からは蛍光X線Rxfが発生し、蛍光X線Rxfは蛍光X線用孔13Bを通って検出器10の検出素子11で検出される。このように絞り13を設けることによって、制限されたX線Rxaが照射されて蛍光X線Rxfが発生する試料8の領域が制限されることにより、試料8の元素を分析する領域を制限することができる。
【0034】
絞り13の位置を移動させるステージ(図示せず)を具備して、ステージにより絞り13を移動させることによって、試料8の元素分析領域の位置を移動できるようにしても良い。このステージによって絞り13が移動する範囲は、X線画像検出器9で透視画像を映すことのできる試料8の範囲で充分である。また、絞り13の移動する範囲を広くする場合には、ステージによる移動によって検出素子11に達する蛍光X線Rxfを蛍光X線用孔13Bが遮らない程度の範囲であれば良い。更に、試料8の広い範囲で蛍光X線Rxfの分析を行うには、従来実施されているように、試料8を移動させるステージ(図示せず)等を更に設けるようにする。また、制限されたX線Rxaは試料8を透過し、X線画像検出器9によって検出される。X線画像検出器9によって検出されたX線Rxaを透視画像表示部(図示せず)で表示するか、又は絞り13が無いときの透視画像と絞り13が有るときの透視画像を重ね合わせて表示することによって、透視画像上で元素分析領域の位置をピンポイントで確認できるようにしても良い。こうすることによって試料8の透視画像と元素位置とを対応付けて検査することが容易になる。
【0035】
絞り13を設けた場合、図5(a)に示されるように、制限されたX線Rxaの外側に広がったX線Rxが、絞り13で散乱されて散乱X線Rxdとなり、散乱X線Rxdが検出器10の検出素子11で検出される恐れがある。絞り13で散乱された散乱X線Rxdが検出素子11で検出された場合、分析部12で行われる元素分析において絞り13の元素成分が検出されてしまう。この散乱X線Rxdが検出素子11で検出されるのを防止するために、図5(b)に示されるように、鉛等でできた遮蔽部15をX線透過窓基材7の下面の一部及び側面の一部に設けて、遮蔽部15によって散乱X線Rxdを遮蔽するようにしても良い。
【0036】
以上に示された実施形態は、透視型の高分解能X線顕微装置の対物レンズの磁気回路内に蛍光X線の検出器を組み込むようにしたものであるが、本発明は透視型以外のX線顕微装置の対物レンズの磁気回路内に、蛍光X線の検出器の全部又は一部を組み込むようにしても良い。
【0037】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置の断面構成図である。
【図2】蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置のターゲット、試料及び検出器の検出素子の位置関係を示す図である。
【図3】ポールピースの上極に切り欠き部を設けた場合の、ターゲット、試料及び検出器の検出素子の位置関係を示す図である。
【図4】X線を制限するための孔及び蛍光X線を通すための蛍光X線用孔を具備した絞りについて説明する図である。
【図5】絞りによって散乱される散乱X線と散乱X線を遮蔽するための遮蔽部について説明する図である。
【図6】従来の蛍光X線分析機能付きX線顕微装置の構成例を示す図である。
【図7】ターゲットから試料までの距離A、ターゲットからX線画像検出器までの距離Bを示す図である。
【図8】X線透過窓基材の厚さdとターゲットから試料までの距離Aの関係を示す図である。
【図9】絞りの機能を説明するための図である。
【図10】ターゲット、試料及び検出器の検出素子の位置関係を示す図である。
【図11】分析対象物が試料の内部にある場合の、取り出し角の違いによる蛍光X線の進路の違いを説明するための図である。
【図12】従来の蛍光X線分析機能付きX線顕微装置のターゲット、試料及び検出器の検出素子の位置関係を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 電子銃
2 集束レンズ
3 対物レンズ
4 ポールピース上極
5 ポールピース下極
6 ターゲット
7 X線透過窓基材
8 試料
9 X線画像検出器
10 検出器
11 検出素子
12 分析部
13 絞り
13A 孔
13B 蛍光X線用孔
14 切り欠き部
15 遮蔽部
20 蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置
21 従来の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線を検出する検出器を対物レンズの磁気回路内に組み込んだ蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置に関する。
【背景技術】
【0002】
任意の試料にX線を照射することによって発生する蛍光X線は、試料の元素特有の波長成分を含むので、蛍光X線を分析することによって、比較的容易に試料に含まれる元素を同定することができる。そのため、さまざまな種類の蛍光X線分析装置が市販されている。
【0003】
X線を試料に照射して透過したX線像により試料の内部構造を観察するようにしたX線顕微装置を用いて、蛍光X線を分析する機能を付加した、蛍光X線分析機能付きX線顕微装置も市販されている。
【0004】
特開2007−212468号公報(特許文献1)には、電子源からの電子線をX線発生用ターゲットに当ててX線を発生させ、発生したX線を被検査体(試料)に照射し、被検査体を透過したX線を画像検出するようにした高分解機能X線顕微検査装置が開示されている。この高分解機能X線顕微検査装置においては、被検査体の上方で且つX線発生用ターゲットから発生するX線の領域外に、被検査体から発生する蛍光X線を検出するための蛍光X線検出器を配置している。
【0005】
図6は、特許文献1に開示されているのと同様の構成を具備した蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21の構成例を示す図である。蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21は、電子線Reを発する電子銃1と、電子線Reを集束させるための集束レンズ2及び対物レンズ3と、電子線Reが集束することによってX線Rxを発生させるターゲット6と、ターゲット6を支持若しくは保持するX線透過窓基材7と、X線Rxが照射される被検査体としての試料8と、試料8を透過したX線Rxを検出するためのX線I.I.(イメージ・インテンシファイア)、CCD又はCMOS型撮像素子等で成るX線画像検出器9とを具備しており、更に試料8に照射されたX線Rxによって発生する蛍光X線Rxfを検出するために、シリコン等の半導体特性を活かしてX線フォトンの持つエネルギーを計測するための検出素子11を備えた検出器10と、検出器10の検出結果を分析する分析部12とを具備している。対物レンズ3の周りには強いレンズ磁場を発生させるために、磁束の通路であるヨークの切れ端部となるポールピース(磁極片)上極4とポールピース下極5が設けられている。検出器10は、試料8の上方で、且つポールピース下極5の下方に支持若しくは保持されている。なお、集束レンズ2、対物レンズ3、ポールピース上極4及びポールピース下極5は、対物レンズ3の光軸Yに関して回転対称となる形状をしている。
【0006】
蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21において、電子銃1から発せられた電子線Reは、集束レンズ2及び対物レンズ3によってターゲット6上に電子線プローブとして集束し、ターゲット6からは集束した電子線Reが当たることによって微小光源から成るX線Rxが発生する。X線Rxは試料8に照射され、試料8を透過したX線RxはX線画像検出器9によって検出され、試料8の内部が拡大投影されることによって、試料8内部の微細構造を非破壊で透視検査する。一方、X線Rxが試料8に照射されることによって発生する蛍光X線Rxfは、検出器10内の検出素子11で検出され、その検出結果が分析部12で分析され、試料8の元素が同定されるようになっている。
【0007】
このようなX線顕微装置において0.1μm以下の高分解能を実現するには、X線Rxの発生領域を小さくすると共に、X線画像検出器9で検出されるX線像の倍率を高倍率にする必要がある。X線像の倍率は、図7に示されるように、ターゲット6から試料8までの距離をA、ターゲット6からX線画像検出器9までの距離をBとすると、B/Aで与えられる。従って、高分解能を実現するためには、できる限り距離Aを小さくし、距離Bを大きくする必要がある。
【0008】
一方、X線Rxの発生領域を小さくするためには、ターゲット6で集束する電子線プローブの径を小さくする必要があるため、ターゲット6から発生するX線Rxの量は減少する。また、X線画像検出器9での単位面積当たりのX線の強度は距離Bの自乗に反比例する。そのため、CCDなどの検出素子の検出感度には限界があることから、ターゲット6からX線画像検出器9までの距離Bはあまり大きくとることができず、高分解能を実現するためにはターゲット6から試料8までの距離Aを極めて小さくする必要がある。また、X線像のコントラストが大きく変化するところに縁取りのようにフレネルフリンジが生じ、このフレネルフリンジの幅は√(λA)(λはX線の波長)で表され、距離Aの値が大きいとフレネルフリンジによって分解能が制限されてしまうという問題もある。従って、高分解能を実現するためには、ターゲット6から試料8までの距離Aを数10μm以下にする必要がある。そのためには、図8に示されるようにベリリウムで構成されるX線透過窓基材7の厚さdを数10μm以下と極めて薄くする必要がある。X線透過窓基材7は真空シールを兼ねており、薄くしていくと強い電子線Reを照射した場合に容易に破壊されてしまう。従って、高分解能のX線顕微装置では、強い電子線Reをターゲット6に照射し、高い線量のX線Rxを発生させることは実現し難い。
【0009】
一方で、蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21では、蛍光X線を分析するために高い線量の蛍光X線Rxfを必要とする。高い線量の蛍光X線Rxfを発生させるためには、試料8に照射されるX線Rxが高い線量である必要があり、そのためにはターゲット6に当てられる電子線Reのプローブの径が数μm〜数10μmと大きくする必要がある。更に、強い電子線照射に耐えるために、ターゲット6及びX線透過窓基材7を厚くする必要がある。このため、X線顕微装置としての分解能は数μm〜数10μmとなり、目標とする0.1μm以下の高分解能のX線顕微装置とはかけ離れたものとなっている。
【0010】
また、蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21において、X線顕微装置が高分解能である場合には、その高分解能に相応の微小領域を対象とした蛍光X線の元素分析が強く求められる。分析領域を制限した元素分析を分析対象領域の全面にわたって行うことによって、高解像度の元素分析を行うことができる。分析領域を制限するためには、図9に示されるようにターゲット6と試料8の間に分析領域を制限するための絞り13を挿入し、分析領域外をX線Rxが照射しないようにして、制限されたX線Rxaが試料8の分析領域のみを照射するようにする必要がある。制限されたX線Rxaはターゲット6から発生するX線Rxの極く一部であり、大半のX線は絞り13によって捨てられることになる。そのため、ターゲット6から発生するX線Rxの線量を高くするか、または蛍光X線の検出方法の効率を改善する必要がある。
【0011】
従って、蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置では、ターゲット6から発生するX線Rxの線量があまり高くなくても、蛍光X線Rxfを効率良く検出できるようにする必要がある。図10は、ターゲット6、試料8及び検出器10の検出素子11の位置関係を詳細に示す図である。限られた量のX線Rxで、効率良く蛍光X線Rxfを検出するためには、ターゲット6及び試料8の間の距離Aと、試料8及び検出器10の検出素子11の間の距離Lとを可能な限り小さくする必要がある。これは、X線Rxの強度を一定としたとき、試料8面上での単位面積当たりのX線Rxの強度は距離Aの自乗に逆比例し、検出素子11で検出される単位面積当たりの蛍光X線Rxfの強度も、距離Lの自乗に逆比例するからである。
【0012】
更に、蛍光X線Rxfの分析対象物が試料8の表面ではなく内部にある場合、蛍光X線Rxfは試料内部を通るときに吸収されるため、蛍光X線の取り出し角θをできるだけ大きくした方が蛍光X線の吸収量を少なくすることができる。図11は、分析対象物が試料8の内部にある場合に、取り出し角θの異なる蛍光X線Rxfを示す図である。図11に示されるように、大きな取り出し角θ1の蛍光X線Rxf1の方が、小さな取り出し角θ2の蛍光X線Rxf2より、試料内部でX線が吸収される距離が短くなるので、試料8の内部で吸収されるX線の量は小さくなる。
【0013】
以上の記述から、限られたX線量Rxで、蛍光X線Rxfを効率よく検出するためには、ターゲット6及び試料8の間の距離Aと、試料8及び検出器10の検出素子11の間の距離Lとを可能な限り小さくすると共に、蛍光X線Rxfの取り出し角θを可能な限り大きくする必要がある。
【0014】
X線顕微装置は非破壊観察を特徴としており、比較的大きな試料を観察することが多いので、ターゲットを電子レンズの最下段に配置し、その下には邪魔になるものを配置しないようにしている。図12はこの制限下で、図6に示される従来の蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21のターゲット6、試料8及び検出器10の検出素子11の位置関係を詳細に示す図である。この場合、ポールピース下極5の下方に検出器10が配置されているため、ターゲット6と試料8の間の距離A、試料8と検出素子11の間の距離Lは共に大きくなり、蛍光X線Rxfの取り出し角θは小さくなる。このため、従来の蛍光X線分析機能付きX線顕微装置では、蛍光X線Rxfの検出効率が悪く、またX線顕微装置において高分解能を実現するのは困難である。
【0015】
従来技術として、蛍光X線の取り出し角θを大きくするために、ポールピースに切り欠きを設けたものがある。例えば特開2003−21749号公報(特許文献2)では、電子線を試料に照射し、その試料から発生するX線を検出する分析電子顕微鏡において、ウィンドタイプとウィンドレスタイプのX線検出器を設け、ウィンドタイプの検出器よりもウィンドレスタイプの検出器の方がX線の取り込み角度が大きくなるように、上側磁極に切り欠きを設けている。
【0016】
また、特開平7−14538号公報(特許文献3)に開示された分析電子顕微鏡では、第1のX線検出器と対称な位置に第2のX線検出器を設け、対物レンズ系の上側磁極の磁極片に、X線検出器の先端の検出部が嵌入する切欠き部を設けている。
【特許文献1】特開2007−212468号公報
【特許文献2】特開2003−217497号公報
【特許文献3】特開平7−14538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述の特許文献2及び特許文献3に開示された分析電子顕微鏡は、電子線を直接試料に照射し、そこで発生する蛍光X線を効率良く検出する方法に関するものであり、X線ターゲットに微小焦点X線源を設けて、試料を透過したX線を画像検出する高分解能X線顕微装置に、蛍光X線分析機能を付けるようにしたものではない。
【0018】
本発明は上述のような事情によりなされたものであり、本発明の目的は、蛍光X線の検出効率を高めるために、X線を発生するターゲットから試料までの距離、試料から蛍光X線の検出器の検出素子までの距離を可能な限り小さくすると共に、蛍光X線の取り出し角を可能な限り大きくした蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、対物レンズによって電子線をX線発生用のターゲットに集束させ、前記ターゲットから発生したX線を試料に照射することによって試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、前記検出器の検出結果から前記蛍光X線を分析する分析部とを具備した蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置に関し、本発明の上記目的は、前記検出器の全部又は一部を前記対物レンズの磁気回路内に組み込んだことによって達成される。
【0020】
本発明の上記目的は、前記蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置が、前記試料を透過したX線を検出する透視型のX線顕微装置であることによって、或いは前記検出器の全部又は一部を前記対物レンズのポールピース上極とポーリピース下極との間に挿設したことによって、或いは前記対物レンズのポールピース上極及びポールピース下極のいずれか一方又は両方に前記検出器を嵌入する切り欠き部を設けたことによって、或いは前記対物レンズのポールピース上極及びポールピース下極のいずれか一方又は両方に切り欠き部を複数設け、前記切り欠き部は前記対物レンズの光軸に対して3回以上の回転対称性を持って配設され、前記切り欠き部の1つ又は複数に前記検出器を嵌入したことによって、或いは前記複数の検出器が同種の検出器であることによって、或いは前記複数の検出器が異種の検出器であることによって、より効果的に達成される。
【0021】
本発明の上記目的は、前記ターゲットと前記試料との間に、前記X線が照射される前記試料の元素分析領域を制限するための絞りを設けて、前記絞りは前記X線を通すための円形又は矩形の孔と、前記蛍光X線を通すための蛍光X線用孔とを具備したことによって、或いは前記絞りの位置を移動させるステージを具備し、前記ステージによって前記絞りの位置を移動させることによって、前記元素分析領域の位置を移動できるようにしたことによって、或いは前記ターゲットから照射され前記試料を透過したX線を検出するX線画像検出器と、前記X線画像検出器の検出結果から透視画像を表示する透視画像表示部とを具備し、前記透視画像によって前記元素分析領域の位置を確認できるようにすることによって、或いは前記ターゲットを支持するX線透過窓基材の下面の一部及び側面の一部に、散乱X線を遮蔽するために遮蔽部を設けるようにしたことによって、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、蛍光X線の検出器の全部又は一部をX線顕微装置の対物レンズの磁気回路内に組み込むことによって、X線を発生するターゲットから試料までの距離、試料から蛍光X線の検出器の検出素子までの距離を可能な限り小さくすると共に、蛍光X線の取り出し角を可能な限り大きくしているので、蛍光X線の検出効率を高めることができ、その結果元素分析の精度を高めることができる。また、試料を透過したX線を画像検出するのに、X線の量をあまり大きくする必要がないので、蛍光X線分析機能付きのX線顕微装置において高分解能を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置によれば、蛍光X線の検出器の全部又は一部をX線顕微装置の対物レンズの磁気回路内に組み込んでいる。これによって、X線を発生するターゲットから試料までの距離、試料から蛍光X線の検出器の検出素子までの距離を可能な限り小さくすると共に、蛍光X線の取り出し角を可能な限り大きくすることができ、蛍光X線の検出効率を高めて、元素分析の精度を高めることができる。
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置20の断面構成図である。図1に示される実施形態では、蛍光X線Rxfを検出する検出器10を、対物レンズ3のポールピース上極4とポールピース下極5の間に挿設することによって、検出器10を対物レンズ3の磁気回路内に組み込むようにしている。それ以外の構成は、図6に示される蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21と同じである。
【0026】
本実施形態では、電子銃1から発せられる電子線Reを、集束レンズ2及び対物レンズ3によってターゲット6に集束させる。ターゲット6に集束した電子線Reによって、X線Rxが試料8に照射され、試料8を透過したX線は、X線画像検出器9によって検出される。一方、X線Rxが試料8に照射されることによって試料8から蛍光X線Rxfが発生し、蛍光X線Rxfは対物レンズ3のポールピース上極4とポールピース下極5の間に挿設された検出器10の検出素子11によって検出される。検出器10での検出結果は分析部12で分析され、試料8の元素が同定されるようになっている。
【0027】
図2は、本実施形態における蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置20の、X線Rxを照射するターゲット6、蛍光X線Rxfを発生する試料8、蛍光X線Rxfを検出する検出器10に備えられた検出素子11の位置関係を示している。検出器10を対物レンズ3のポールピース上極4とポールピース下極5の間に挿設することによって、従来の図6及び図12に示される蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21に比べて、ターゲット6と試料8との間の距離Aを極めて小さくすることができると共に、蛍光X線Rxfの取り出し角θを大きくすることができる。また、試料8と検出器10に備えられた検出素子11との間の距離Lも比較的小さくすることができる。従って、本実施形態における蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置20は、限られたX線Rxによって発生した蛍光X線Rxfを効率良く検出することができ、元素分析の精度を高めることができると共に、電子線Reの強さを従来の蛍光X線分析機能付きX線顕微装置21に比べて弱めることができるので、X線顕微装置において高分解能を実現することができる。
【0028】
図3には、ポールピース上極4に切り欠き部14を設けて、検出器10を切り欠き部14に嵌入するようにした本発明の実施形態が示されている。このようにすることによって、試料8と検出器10に備えられた検出素子11との間の距離Lをさらに小さくでき、蛍光X線Rxfの取り出し角θをさらに大きくすることができる。
【0029】
切り欠き部14はポールピース上極4をぐるりと回転対称に削らないで、切り欠き部14をポールピース上極4に3回以上の回転対称性を持って配設することによって、削り取られる磁性体の量を少なくすると共に、削り取ったことによる磁気回路への影響を小さくすることができ、対物レンズ3の性能への影響を小さくすることができる。なお、n回の回転対称性とは、(360÷n)度の回転により元の図形が維持されることを言う。例えば、3回の回転対称性とは、360÷3=120度毎に同じ図形が繰り返されることである。切り欠き部14を3回以上の回転対称に配設するようにポールピース上極4を削る他、ポールピース上極4にぐるりと回転対称に削ってから、切り欠き部14が3回以上の回転対称に配設されるように検出器10以外の部分に肉付けを行うようにしても良い。
【0030】
検出器10は、複数箇所に配設された切り欠き部14の内の1箇所又は複数箇所に設置する。検出器10を複数箇所に設置した場合、複数個の検出器10は全て同種の検出器であっても良いし、複数の検出器10はそれぞれ異なる種類の検出器であっても良い。同種の検出器を複数箇所に設置した場合、検出方向への依存性を小さくしたり、検出の総合感度を高めることができる。異なる種類の検出器を複数箇所に設置した場合、検出器の交換操作を行う面倒を減らすことができ、また異なるタイプの検査を同時に行うことができる。
【0031】
なお、図3の実施形態では、切り欠き部14をポールピース上極4に設けているが、切り欠き部14はポールピース下極5に設けても良い。或いは、切り欠き部14は、ポールピース上極4とポールピース下極5の両方に設けても良い。
【0032】
ターゲット6から試料8に照射されるX線Rxは大きく広がっているため、蛍光X線Rxfの分析領域を制限する場合、絞り13をX線透過窓基材7と試料8との間に設けるようにする。図4(a)は、絞り13を設けた場合の、ターゲット6、X線透過窓基材7、試料8及び検出器10に備えられた検出素子11の位置関係を示す図であり、図4(b)は絞り13をターゲット6の側から見た図である。
【0033】
絞り13は、X線Rxを制限して、制限されたX線Rxaのみを試料8に照射すための円形又は矩形の孔13Aと、試料8から発生した蛍光X線Rxfを通すための蛍光X線用孔13Bとを具備している。ターゲット6から照射されるX線は、孔13Aによって制限され、制限されたX線Rxaのみが試料8を照射する。制限されたX線Rxaが照射される試料8の領域からは蛍光X線Rxfが発生し、蛍光X線Rxfは蛍光X線用孔13Bを通って検出器10の検出素子11で検出される。このように絞り13を設けることによって、制限されたX線Rxaが照射されて蛍光X線Rxfが発生する試料8の領域が制限されることにより、試料8の元素を分析する領域を制限することができる。
【0034】
絞り13の位置を移動させるステージ(図示せず)を具備して、ステージにより絞り13を移動させることによって、試料8の元素分析領域の位置を移動できるようにしても良い。このステージによって絞り13が移動する範囲は、X線画像検出器9で透視画像を映すことのできる試料8の範囲で充分である。また、絞り13の移動する範囲を広くする場合には、ステージによる移動によって検出素子11に達する蛍光X線Rxfを蛍光X線用孔13Bが遮らない程度の範囲であれば良い。更に、試料8の広い範囲で蛍光X線Rxfの分析を行うには、従来実施されているように、試料8を移動させるステージ(図示せず)等を更に設けるようにする。また、制限されたX線Rxaは試料8を透過し、X線画像検出器9によって検出される。X線画像検出器9によって検出されたX線Rxaを透視画像表示部(図示せず)で表示するか、又は絞り13が無いときの透視画像と絞り13が有るときの透視画像を重ね合わせて表示することによって、透視画像上で元素分析領域の位置をピンポイントで確認できるようにしても良い。こうすることによって試料8の透視画像と元素位置とを対応付けて検査することが容易になる。
【0035】
絞り13を設けた場合、図5(a)に示されるように、制限されたX線Rxaの外側に広がったX線Rxが、絞り13で散乱されて散乱X線Rxdとなり、散乱X線Rxdが検出器10の検出素子11で検出される恐れがある。絞り13で散乱された散乱X線Rxdが検出素子11で検出された場合、分析部12で行われる元素分析において絞り13の元素成分が検出されてしまう。この散乱X線Rxdが検出素子11で検出されるのを防止するために、図5(b)に示されるように、鉛等でできた遮蔽部15をX線透過窓基材7の下面の一部及び側面の一部に設けて、遮蔽部15によって散乱X線Rxdを遮蔽するようにしても良い。
【0036】
以上に示された実施形態は、透視型の高分解能X線顕微装置の対物レンズの磁気回路内に蛍光X線の検出器を組み込むようにしたものであるが、本発明は透視型以外のX線顕微装置の対物レンズの磁気回路内に、蛍光X線の検出器の全部又は一部を組み込むようにしても良い。
【0037】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置の断面構成図である。
【図2】蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置のターゲット、試料及び検出器の検出素子の位置関係を示す図である。
【図3】ポールピースの上極に切り欠き部を設けた場合の、ターゲット、試料及び検出器の検出素子の位置関係を示す図である。
【図4】X線を制限するための孔及び蛍光X線を通すための蛍光X線用孔を具備した絞りについて説明する図である。
【図5】絞りによって散乱される散乱X線と散乱X線を遮蔽するための遮蔽部について説明する図である。
【図6】従来の蛍光X線分析機能付きX線顕微装置の構成例を示す図である。
【図7】ターゲットから試料までの距離A、ターゲットからX線画像検出器までの距離Bを示す図である。
【図8】X線透過窓基材の厚さdとターゲットから試料までの距離Aの関係を示す図である。
【図9】絞りの機能を説明するための図である。
【図10】ターゲット、試料及び検出器の検出素子の位置関係を示す図である。
【図11】分析対象物が試料の内部にある場合の、取り出し角の違いによる蛍光X線の進路の違いを説明するための図である。
【図12】従来の蛍光X線分析機能付きX線顕微装置のターゲット、試料及び検出器の検出素子の位置関係を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 電子銃
2 集束レンズ
3 対物レンズ
4 ポールピース上極
5 ポールピース下極
6 ターゲット
7 X線透過窓基材
8 試料
9 X線画像検出器
10 検出器
11 検出素子
12 分析部
13 絞り
13A 孔
13B 蛍光X線用孔
14 切り欠き部
15 遮蔽部
20 蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置
21 従来の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズによって電子線をX線発生用のターゲットに集束させ、前記ターゲットから発生したX線を試料に照射することによって試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、前記検出器の検出結果から前記蛍光X線を分析する分析部とを具備した蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置において、前記検出器の全部又は一部を前記対物レンズの磁気回路内に組み込んだことを特徴とする蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項2】
前記蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置が、前記試料を透過したX線を検出する透視型のX線顕微装置である請求項1に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項3】
前記検出器の全部又は一部を前記対物レンズのポールピース上極とポールピース下極との間に挿設した請求項1又は2に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項4】
前記対物レンズのポールピース上極及びポールピース下極のいずれか一方又は両方に前記検出器を嵌入する切り欠き部を設けた請求項3に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項5】
前記対物レンズのポールピース上極及びポールピース下極のいずれか一方又は両方に切り欠き部を複数設け、前記切り欠き部は前記対物レンズの光軸に対して3回以上の回転対称性を持って配設され、前記切り欠き部の1つ又は複数に前記検出器を嵌入した請求項3に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項6】
前記複数の検出器が同種の検出器である請求項5に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項7】
前記複数の検出器が異種の検出器である請求項5に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項8】
前記ターゲットと前記試料との間に、前記X線が照射される前記試料の元素分析領域を制限するための絞りを設けて、前記絞りは前記X線を通すための円形又は矩形の孔と、前記蛍光X線を通すための蛍光X線用孔とを具備した請求項1乃至7のいずれかに記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項9】
前記絞りの位置を移動させるステージを具備し、前記ステージによって前記絞りの位置を移動させることによって、前記元素分析領域の位置を移動できるようにした請求項8に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項10】
前記ターゲットから照射され前記試料を透過したX線を検出するX線画像検出器と、前記X線画像検出器の検出結果から透視画像を表示する透視画像表示部とを具備し、前記透視画像によって前記元素分析領域の位置を確認できるようにする請求項8又は9に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項11】
前記ターゲットを支持するX線透過窓基材の下面の一部及び側面の一部に、散乱X線を遮蔽するために遮蔽部を設けるようにした請求項8乃至10のいずれかに記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項1】
対物レンズによって電子線をX線発生用のターゲットに集束させ、前記ターゲットから発生したX線を試料に照射することによって試料から発生する蛍光X線を検出する検出器と、前記検出器の検出結果から前記蛍光X線を分析する分析部とを具備した蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置において、前記検出器の全部又は一部を前記対物レンズの磁気回路内に組み込んだことを特徴とする蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項2】
前記蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置が、前記試料を透過したX線を検出する透視型のX線顕微装置である請求項1に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項3】
前記検出器の全部又は一部を前記対物レンズのポールピース上極とポールピース下極との間に挿設した請求項1又は2に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項4】
前記対物レンズのポールピース上極及びポールピース下極のいずれか一方又は両方に前記検出器を嵌入する切り欠き部を設けた請求項3に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項5】
前記対物レンズのポールピース上極及びポールピース下極のいずれか一方又は両方に切り欠き部を複数設け、前記切り欠き部は前記対物レンズの光軸に対して3回以上の回転対称性を持って配設され、前記切り欠き部の1つ又は複数に前記検出器を嵌入した請求項3に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項6】
前記複数の検出器が同種の検出器である請求項5に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項7】
前記複数の検出器が異種の検出器である請求項5に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項8】
前記ターゲットと前記試料との間に、前記X線が照射される前記試料の元素分析領域を制限するための絞りを設けて、前記絞りは前記X線を通すための円形又は矩形の孔と、前記蛍光X線を通すための蛍光X線用孔とを具備した請求項1乃至7のいずれかに記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項9】
前記絞りの位置を移動させるステージを具備し、前記ステージによって前記絞りの位置を移動させることによって、前記元素分析領域の位置を移動できるようにした請求項8に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項10】
前記ターゲットから照射され前記試料を透過したX線を検出するX線画像検出器と、前記X線画像検出器の検出結果から透視画像を表示する透視画像表示部とを具備し、前記透視画像によって前記元素分析領域の位置を確認できるようにする請求項8又は9に記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【請求項11】
前記ターゲットを支持するX線透過窓基材の下面の一部及び側面の一部に、散乱X線を遮蔽するために遮蔽部を設けるようにした請求項8乃至10のいずれかに記載の蛍光X線分析機能付き高分解能X線顕微装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−236622(P2009−236622A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81692(P2008−81692)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000151601)株式会社東研 (18)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000151601)株式会社東研 (18)
【Fターム(参考)】
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