説明

蝶番

【課題】真空チャンバにおける固定枠部と可動枠部との密閉性を向上させることが可能な蝶番。
【解決手段】蝶番10が、真空チャンバ1の固定枠部2に取り付けられる固定羽根12と、可動枠部3に取り付けられる可動羽根13と、羽根12,13の間に介在するシャフト14とを有する。シャフト14は、固定羽根12に形成された一対の第1スリーブ16と、可動羽根13に形成されていて一対の第1スリーブ16の間に位置する第2スリーブ19とに挿通される。第1スリーブ16におけるシャフト挿通孔17は径方向の断面が長円形に形成される。第2スリーブ19におけるシャフト挿通孔21は径方向の断面が円形であって周面にシャフト14の周面が密着する。第1スリーブ16どうしの間には、固定羽根12と可動羽根13の第2スリーブ19の外面とを押圧するばね31が介在し、そのばね31がシャフト14をシャフト挿通孔17において固定羽根12の幅方向Bの外方へ偏倚させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、真空チャンバ等の蓋や扉を開閉させるために使用するのに好適な蝶番に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固定枠部と、開閉する可動枠部である蓋や扉とを蝶番を介して取り付けることはよく知られている。例えば、特許第3274666号公報(特許文献1)には、固定枠部と蓋との密閉性を高めることを目的にした蝶番が開示されている。この蝶番は、固定翼板と回動翼板とを枢軸によって連結してあるもので、固定翼板の壺金には押圧子ガイド孔が形成されていて、枢軸がそのガイド孔を横断している。ガイド孔にはまた、押圧子と、これを押圧するコイルスプリングと、コイルスプリングを押圧した状態で押圧子ガイド孔を閉じる押圧ボルトとがある。ガイド孔の内部では、コイルスプリングが押圧子を介してシャフトを押圧していて、固定枠部に対して閉じたときの蓋を固定枠部から離間する方向へ付勢している。
【特許文献1】特許第3274666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来の蝶番は、一例としてそれを真空チャンバの蓋に使用する。蓋の閉じたチャンバが真空になると、蓋はパッキングを押圧しながら固定枠部に接近しようとする。蝶番の近傍では、その蓋がコイルスプリングを圧縮しながら固定枠部に接近するように動き、その動きは蝶番に拘束されることがない。それゆえ、蓋は蝶番の近傍においても固定枠部によく密着することが可能になる。しかしながら、この蝶番は、壺金に対して押圧子ガイド孔を形成するもので、その押圧子ガイド孔による壺金の強度低下を避けようとすれば、壺金は十分な厚さを有する大きなものにしなければならず、その結果として蝶番が大型のものになることを避け難い。
【0004】
この発明は、固定枠部と可動枠部との密閉性を向上させることが可能な従来の蝶番に対して、その大きさを小さくすることができるように改良を施すことを課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、この発明が対象とするのは、固定枠部に取り付けられる固定羽根と、可動枠部に取り付けられる可動羽根と、前記固定羽根と前記可動羽根との間に介在するシャフトとを含み、前記シャフトが、前記固定羽根に形成されていて前記可動羽根に向かって突出した状態にある少なくとも一対の第1スリーブと、前記可動羽根に形成されていて前記一対の第1スリーブの間に進入するように突出した状態にある第2スリーブとに挿入されている蝶番である。
【0006】
かかる蝶番において、この発明が特徴とするところは、以下のとおりである。前記固定羽根と前記可動羽根とのそれぞれは互いに直交しかつ前記シャフトの軸方向に直交する幅方向と厚さ方向とを有している。前記一対の第1スリーブにおける前記シャフトの挿通孔は、断面が前記幅方向に延びる長径と、前記厚さ方向に延びる短径とを有する長円形のものであって、前記短径は前記シャフトが前記挿通孔の内側で前記長径に沿って摺動することを可能にする大きさを有している。前記第2スリーブにおける前記シャフトの挿通孔は、その内周面に前記シャフトの周面が密着する断面が円形のものである。前記固定羽根における前記一対の第1スリーブの間には、前記固定羽根と前記可動羽根の前記第2スリーブの外面とを押圧するばねが介在し、前記ばねが前記シャフトを前記長円形の前記挿通孔において前記固定羽根の前記幅方向の外方へ偏倚させている。
【0007】
この発明の実施形態の一つにおいて、前記ばねは、前記固定羽根の前記幅方向において伸縮するコイルばねであり、一端部が前記固定羽根に圧接し、前記一端部の反対端部が前記第2スリーブの外面に対する摺動子を介して前記外面に圧接している。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る蝶番は、固定羽根における一対の第1スリーブの間に固定羽根と可動羽根とに作用するばねを有するから、そのばねの存在によって第1スリーブの強度を低下させるということがない。それゆえ、第1スリーブを大きく作らなければならず、それによって蝶番が大型のものになるという問題を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
添付の図面を参照して、この発明に係る蝶番の詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0010】
図1は、蝶番10が使用されている真空チャンバ1の斜視図である。真空チャンバ1は、ボックス型の固定枠部2と、固定枠部2に対して開閉する蓋として形成された可動枠部3とを有する。可動枠部3は、一対の蝶番10を介して固定枠部2に取り付けられており、ハンドル4を使用して双頭矢印Pで示す方向へ旋回させれば開閉することができる。なお、図には開放状態にある可動枠部3が仮想線で示されている。固定枠部2は真空吸引源(図示せず)に接続可能に形成されているから、ハンドル4の操作によって固定枠部2と可動枠部3とを密閉状態にして固定枠部2を真空吸引源に接続すれば、真空チャンバ1を減圧状態にすることができる。真空チャンバ1はまた、大気開放弁(図示せず)を有しており、その開放弁を開くことによって常圧に復帰させることができる。
【0011】
図2,3は、蝶番10の部分破断正面図と、蝶番10の分解組立図とである。また、図2には固定枠部2の一部分と、可動枠部3の一部分と、これら両部2,3の間に介在するパッキング5の一部分とが仮想線で示されている。蝶番10は、固定枠部2に取り付けられる固定羽根12と、可動枠部3に取り付けられる可動羽根13と、固定羽根12と可動羽根13とを互いに旋回可能に連結するシャフト14とを有する。固定羽根12では、一対の固定側スリーブ16が可動羽根13に向かって突出しており、その固定側スリーブ16には固定側シャフト挿通孔17が形成されている。固定羽根12は、シャフト14の軸方向Aに直交する幅方向Bと厚さ方向Cとを有し、幅方向Bと厚さ方向Cとは互いに直交している(図3参照)。固定羽根12には、それをねじ(図示せず)で固定枠部2に取り付けるときに使用する透孔38が形成されている。可動羽根13では、可動側スリーブ19が一対の固定側スリーブ16の間に進入するように固定羽根12に向かって突出している。可動側スリーブ19には、可動側シャフト挿通孔21が形成されている。可動羽根13は、軸方向Aに直交する幅方向bと厚さ方向cとを有し、幅方向bと厚さ方向cとは互いに直交している。可動羽根13には、それをねじ(図示せず)で可動枠部2に取り付けるときに使用する透孔39が形成されている。
【0012】
固定羽根12と可動羽根13との間には、一対のばね31と摺動子32とが介在している。ばね31は、固定羽根12における一対の固定側スリーブ16の間にあって、ばね31の下端部31aが固定羽根12に形成された円筒状凹部33に収められている。ばね31の上端部31bは、可動羽根13における可動側スリーブ19の外周面43に摺動可能に接触している摺動子32に形成された円筒状凹部34に収められている。図2のばね31は蓄勢状態にあって、可動側スリーブ19とそれに挿通されたシャフト14とを固定羽根12における幅方向Bの外方に向かって押圧している。そのシャフト14の両端部には、ワッシャ36a,36bと、抜け止め用リング37とが嵌められている。
【0013】
図4は、図2のIV−IV線切断面を示す図である。固定側スリーブ16における固定側シャフト挿通孔17は、断面形状が長円形のものであって、幅方向Bへ延びる長径41と、厚さ方向Cへ延びる短径42とを有し、シャフト14が長径41に沿って幅方向Bへ往復摺動運動できるように形成されている。シャフト14は、ばね31によって幅方向Bの外方へ付勢されており(図2参照)、固定側シャフト挿通孔17においては、その外方に向かって、換言すると図の上方に向かって偏倚した状態にある。
【0014】
図5は、図2のV−V線切断面を示す図である。可動羽根13における可動側スリーブ19はほぼ円筒状に形成されている部分で、断面形状が円形である可動側シャフト挿通孔21と外周面43とを有する。可動側スリーブ19の直径は、可動羽根13の最大厚さtとほぼ同じであるかそれよりも僅かに小さく、可動側シャフト挿通孔21の直径は、シャフト14を挿抜することができる程度に、シャフト14の直径よりも僅かに大きく作られている。可動側スリーブ19の外周面43には、ばね31によって押圧された状態にある摺動子32が密着している。摺動子32は、可動羽根13が旋回するときに可動側スリーブ19がその周方向へ滑らかに回転することを可能にする湾曲した上面44を有する。摺動子32の下面側に形成された円筒状凹部34の頂面46には、ばね31の上端部31bが圧接している。そのばね31は、摺動子32を介して可動側スリーブ19を図の上方へ偏倚させ、その可動側スリーブ19は、固定側スリーブ16における固定側シャフト挿通孔17においてシャフト14を図2の上方へ偏倚させている。摺動子32は、固定羽根12に形成された案内壁48に摺動可能に接しているので、ばね31の作用下における上昇と下降の動作が滑らかで直線的なものになり易い。
【0015】
このような蝶番10が使用された図1の真空チャンバ1では、それが減圧状態になると、可動枠部3がパッキング5を押圧しながら固定枠部2に接近する。そして、蝶番10の近傍では、可動枠部3がパッキング5を押圧して固定枠部2に接近しようとするときに、可動枠部3の可動側スリーブ19が摺動子32を介してばね31を圧縮し、シャフト14が固定枠部2における固定側シャフト挿通孔17の内側をその長径41に沿って幅方向Bの内方に移動する。それゆえ、可動枠部3は、固定枠部2に接近しようとするときの動きが蝶番10によって妨げられることがなく、可動枠部3の全周と固定枠部2の全周とのパッキング5を介しての一様な密着が可能になり、減圧状態にある真空チャンバ1での空気漏れを防ぐ性能が向上する。
【0016】
また、蝶番10では、ばね31が固定羽根12に対しては固定側スリーブ16と16との間に収められ、可動羽根13に対しては可動側スリーブ19の外周面43に摺動子32を介して圧接しているから、ばね31を設けることによって、固定側スリーブ16や可動側スリーブ19の強度が低下することもなければ、それらスリーブ16,19を極端に大きなものにする必要もなく、両スリーブ16,19の常法通りの設計が可能になる。
【0017】
なお、減圧状態にある真空チャンバ1の可動枠部3を開くには、真空チャンバ1を常圧に戻してばね31を図1の状態に復帰させ、しかる後にハンドル4による固定枠部2と可動枠部3とのロックを解き、次にハンドル4を手元側へ引っ張ってシャフト14を中心に可動枠部3を双頭矢印Pで示す方向へ旋回させればよい。そのときに、蝶番10の可動羽根13では、可動側スリーブ19が周方向へ回転して外周面43が摺動子32の上面44を摺動する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】蝶番の使用状態を示す図。
【図2】蝶番の部分破断正面図。
【図3】蝶番の分解組立図。
【図4】図2のIV−IV線切断面を示す図。
【図5】図2のV−V線切断面を示す図。
【符号の説明】
【0019】
2 固定枠部
3 可動枠部
10 蝶番
12 固定羽根
13 可動羽根
14 シャフト
16 第1スリーブ(固定側スリーブ)
17 挿通孔(固定側シャフト挿通孔)
19 第2スリーブ(可動側スリーブ)
21 挿通孔(可動側シャフト挿通孔)
31 ばね
31a 一端部(下端部)
31b 反対端部(上端部)
32 摺動子
41 長径
42 短径
43 外面(外周面)
B 幅方向
b 幅方向
C 厚さ方向
c 厚さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定枠部に取り付けられる固定羽根と、可動枠部に取り付けられる可動羽根と、前記固定羽根と前記可動羽根との間に介在するシャフトとを含み、前記シャフトが、前記固定羽根に形成されていて前記可動羽根に向かって突出した状態にある少なくとも一対の第1スリーブと、前記可動羽根に形成されていて前記一対の第1スリーブの間に進入するように突出した状態にある第2スリーブとに挿入されている蝶番であって、
前記固定羽根と前記可動羽根とのそれぞれは互いに直交しかつ前記シャフトの軸方向に直交する幅方向と厚さ方向とを有し、
前記一対の第1スリーブにおける前記シャフトの挿通孔は、断面が前記幅方向に延びる長径と、前記厚さ方向に延びる短径とを有する長円形のものであって、前記短径は前記シャフトが前記挿通孔の内側で前記長径に沿って摺動することを可能にする大きさを有し、
前記第2スリーブにおける前記シャフトの挿通孔は、その内周面に前記シャフトの周面が密着する断面が円形のものであり、
前記固定羽根における前記一対の第1スリーブの間には、前記固定羽根と前記可動羽根の前記第2スリーブの外面とを押圧するばねが介在し、前記ばねが前記シャフトを前記長円形の前記挿通孔において前記固定羽根の前記幅方向の外方へ偏倚させていることを特徴とする前記蝶番。
【請求項2】
前記ばねは、前記固定羽根の前記幅方向において伸縮するコイルばねであり、一端部が前記固定羽根に圧接し、前記一端部の反対端部が前記第2スリーブの外面に対する摺動子を介して前記外面に圧接している請求項1記載の蝶番。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−1622(P2010−1622A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159704(P2008−159704)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000152169)株式会社栃木屋 (50)
【Fターム(参考)】