説明

螺旋状構造体を備えた生物膜反応器およびこれを用いた水処理装置

本発明は、螺旋状構造体を備えた生物膜反応器、およびこれを用いた水処理装置を提供する。本発明の生物膜反応器は、水を供給する給水管と、空気を供給する吸気管と、反応器の内部を通過した水と空気を排出する排出管とを備えている。反応器内には、吸気管から供給された気泡の流れを誘導し、気泡の滞留時間を増加させて酸素移動速度を高めるように吸気管から排出管まで螺旋状の気泡流路を形成する螺旋状構造体を設ける。生物膜反応器は、螺旋状構造体に微生物を付着して生物膜を形成することにより、浮遊生長と付着生長の微生物生長条件を同時に実現し、攪拌のための電力を消費しなくても水中の溶存酸素濃度を効果的に高めることができ、微生物の濃度が増加し、維持する効果がある点で有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、螺旋状構造体(spiral structure)を備えた生物膜反応器(biofilm reactor)、およびこれを用いた水処理装置(water treatment facility)に係り、より詳しくは、内部に設けられた螺旋状構造体により水中の気泡の流れを誘導して、気泡の滞留時間を増加させることによって、物理的工程・化学的工程、生物学的工程に用いる従来の反応器よりも酸素移動効率(oxygen transfer efficiency)を高め、かつ螺旋状構造体に微生物を付着させて浮遊生長と付着生長の微生物生長環境が形成された一つの反応システム内で微生物を濃縮培養(concentrated and cultured)することにより、生物反応システムの効率を高めることができる、生物膜反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
溶存酸素(dissolved oxygen)(DO)は、水中に溶けている酸素の濃度を示す指標であって、物理的工程・化学的工程、生物学的工程の主要な操作条件の一つである。特に生物学的工程における溶存酸素(DO)は、好気性微生物の生長条件および活性に影響を及ぼす重要な要因であり[環境工学における単位操作及び単位工程 第2版 レイノルド/リチャード(Unit Operation and Unit Process in Environmental Engineering Second Edition Reynolds/Richards)]、関連する産業分野によっては、物理的工程および化学工程においても効果的に酸素を溶解させることは非常に重要である。しかしながら、酸素は溶解度の低い気体であるため、水中の溶存酸素濃度(concentration of dissolved oxygen)を効果的に高めることは非常に難しい。そのため、反応器内で溶存酸素濃度を効果的に増加させる方法が大きな関心を集めている。上述した方法の代表的な例には、各種のインペラを反応器に取り付けて攪拌効果を増加させることにより曝気効率を増加させる方法[バイオプロセスエンジニアリング ベーシックコンセプト 第2版 マイケル L.シュラー/フィレット カルギ(Bioprocess Engineering Basic Concepts Second Edition Michael L. Shuler/Fikret Kargi)]、微細気泡発生装置を反応器に取り付けて単位体積容積あたりの水に接触する気泡の表面積を大きくすることにより酸素移動効率を増加させる方法[微細気泡発生装置を用いた廃水処理システム(waste water treatment system using microbubble generator)<登録番号:第0315903号>]、気泡内部の酸素濃度を高めた気泡と反応器内の水との間の酸素濃度勾配差を用いて溶存酸素を増加させる方法[エアリフトバイオリアクタ 1989 M.Y.チスティ(Airlift Bioreactors 1989 M.Y. Chisti)]がある。実際に、これらの方法によって、システムの要件を満たす溶存酸素濃度の増加を達成することが可能となった。
【0003】
しかしながら、これらの方法はいずれも電力消費量が多くなる点で問題がある。例えば、生物学的廃水処理の場合は、下水処理場の総電力費用の70%が曝気費用であることが、外国文献で報告されている[フルスケール膜バイオリアクタにおける酸素移動速度の研究 ウォーターサイエンスアンドテクノロジー2003,P コーネル、M.ワグナーとS.クラウス(Investigation of oxygen transfer rates in full scale membrane bioreactors Water Science & Technology 2003, P. Cornel, M. Wagner and S. Krause)]。実際に、インペラを連続的に回転させる、或いは微細な気泡を作るには動力を必要とし、純粋な酸素を作るにも動力が必要である。したがって,これらの方法は、大規模の処理設備に適用し難い。また、気泡の滞留時間を増加させるための別の方法としては、反応器の高さを高くする方法がある。しかしこの方法も、水圧が高くなって散気管から外部に気泡を吹き出す際に多くのエネルギーが必要となる点で問題がある。
【0004】
一方、微生物を用いる生物学的工程では、微生物が活発に生長し、生物反応器(bioreactor)内で微生物を高濃度で培養(culture)することができる条件を形成することにより、工程の効率を向上および維持させることが非常に重要である。一例として、最近水処理で重要な役割を果たしている硝化微生物(nitrifying microbes)について説明する。硝化微生物は、他の微生物に比べて生長速度が相対的に遅いため、生物反応器内で硝化微生物を高濃度に維持させるのが非常に難しいことが知られている。このような理由から、高濃度の硝化微生物を培養する研究が盛んに行われている[好気性上昇流式流動症反応器における硝化グラニュール生成の特性化(Characterization of nitrifying granules produced in an aerobic upflow fluidized bed reactor Water Research 2003 Satoshi Tsuneda)]。硝化微生物が急激に減少して当該水処理設備の硝化システムが正常に機能し得なくなると、基準値を超える窒素化合物が水系に排出されて環境汚染を引き起こす。この場合は、環境汚染を引き起こした企業は相当量の罰金を払わなければならない。すなわち、生物反応器内の微生物の濃度を一定の水準以上に維持できるか否かは、当該システムの成功または失敗を決定するものであるから、生物反応器内の微生物の濃度を制御することは非常に重要である。このような微生物濃縮培養の必要性は、水処理の分野だけでなく、微生物を用いる他の産業分野にも同様に適用される。
【0005】
水処理工程では、一般に汚泥返送(sludge return)を制御(controlling)して生物学的処理システム内の微生物濃度を高めている[廃水工学 処理と再利用 第4版 メトカーフとエディ(Wastewater Engineering Treatment and Reuse Forth Edition, Metcalf & Eddy)]。しかしながら、硝化微生物のように収率(yield)が少なく、比生長速度(specific growth rate)が低い微生物は、十分に注意して扱わなければならない場合もある[活性汚泥プロセスにおける硝化と脱硝 マイケル H.ジェラルディ(Nitrification and Denitrification in the Activated Sludge Process Michael H. Gerardi)]。このような理由から、微生物を担体に付着させて培養する方法が開発されて採用されている。しかしながら、この方法も、使用する充填材(filling materials)を定期的に交換しなければならないので、メンテナンス費用がかかり、その回収が容易でなければ機械的な欠陥を発生させるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、反応器内の溶存酸素濃度を増加させることが可能な方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、反応器内の溶存酸素を増加させることが可能な装置を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、動力を使用せずに反応器内で溶存酸素を増加させることが可能な方法および装置を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、気泡の滞留時間を増加させて、反応器内の溶存酸素を増加させることが可能な生物膜反応器を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、微生物を螺旋状構造体に付着して螺旋状構造体の表面に生物膜を形成し、溶存酸素を増加させて、微生物の高濃度培養を可能にして生物反応システム内に浮遊生長環境と付着生長環境を同時に形成することによって、外部から供給する充填材に左右されることなく、反応器内部の微生物濃度を高濃度に維持することができる、生物膜反応器およびこれを用いた水処理装置を提供することにある。
【0011】
本発明は、微生物を用いる全ての生物反応器に容易に適用することができ、微生物の高濃度培養によって、生物反応システムの安定化および微生物を確保するための費用の節減が期待できる。
【0012】
本発明の別の目的は、螺旋状構造体の溶存酸素の濃度を調整する用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、水を供給するための給水管(inlet pipe)と、空気を供給するための吸気管(air supply pipe)と、反応器(reactor)を通過した水と空気を排出するための排出管(outlet pipe)とを備えた生物膜反応器(biofilm reactor)であって、吸気管から供給された気泡(bubbles)の流れを誘導(inducing)し、かつ気泡の滞留時間(residence time)を増加させることにより、酸素移動速度(oxygen transfer rate)を高めるように吸気管から排出管まで螺旋状の気泡流路(spiral bubble flow passage)を形成する螺旋状構造体(spiral structure)を反応器内に設けて、この螺旋状構造体に微生物(microbes)を付着(adhere)させて生物膜(biofilm)を形成して、微生物浮遊生長(microbe suspension growth)と微生物付着生長(microbe adhesion growth)の2つの微生物生長条件(microbe growth condition)を実現する、生物膜反応器(biofilm reactor)を提供する。
【0014】
本発明の生物膜反応器では、給水管および吸気管は反応器の下部に形成され、排出管は反応器の上部に形成されている。そのため、生物膜反応器内では上方流(upword flow)だけでなく、下方流(downword flow)または側方流(lateral flow)も発生させることができる。
【0015】
この生物膜反応器では、反応器を安定的(stably)に操作(operated)するために、反応器内の水素イオン濃度(pH)を測定するpHメーター(pH meter)を設けてもよい。
【0016】
この生物膜反応器では、反応器内の溶存酸素(dissolved oxygen)を監視(monitoring)する溶存酸素(DO)メーター[dissolved oxygen (DO) meter)]を設けてもよい。溶存酸素メーターは複数設けるのが好ましく、この場合、複数の溶存酸素メーター(DO)は、反応器内の螺旋状構造体によって分割される部位に配置するように水位(water level)に応じて1つずつ設けることができる。
【0017】
この生物膜反応器では、反応器を安定的に操作するために、温度またはイオンを監視するための監視センサー(monitoring sensor)を設けてもよい。
【0018】
この生物膜反応器では、反応器内の流体の状態を観察(observing)するためのサンプリングポート(sampling port)を設けてもよい。このサンプリングポートは複数設けるのが好ましく、この場合、複数のサンプリングポートは、反応器内の螺旋状構造体によって分割される部位に一つずつ配置するように水位に応じて設けることができる。
【0019】
この生物膜反応器では、反応器内部に異物(foreign matter)が侵入(entering)するのを防止するため、カバー(cover)を設けてもよい。
【0020】
また、本発明は、水を供給するための給水管、空気を供給するための吸気管、および反応器を通過した水と空気を排出するための排出管を備えた反応器と、反応器内に設けられて、吸気管から供給された気泡の流れを誘導し、気泡の滞留時間を増加させることにより、酸素移動速度を高めるように吸気管から排出管まで螺旋状の気泡流路を形成する螺旋状構造体と、反応器内の流体の状態を観察するためのサンプリングポートと、反応器内の溶存酸素を監視する溶存酸素(DO)メーターと、反応器内部の水素イオン濃度(pH)を測定するpHメーター(pH meter)と、溶存酸素メーターで測定された溶存酸素濃度(concentration of dissolved oxygen)、およびpHメーターで測定された水素イオン濃度を受信して適切な曝気量(aeration amount)とpHを計算して制御するコンピュータと、コンピュータに接続(connected)され、最適の溶存酸素濃度を得るのに必要な最少量の空気を供給する送風機(blower)と、コンピュータに接続され、pH調整(control)に必要な適正量の酸とアルカリを酸/アルカリ貯留槽(acid/alkali storage tank)から反応器内に供給するためのpH調整ポンプと、反応器を安定的に操作するために、温度またはイオンを監視するための監視センサーを備える、水処理装置を提供する。
【0021】
本発明の水処理装置では、複数の溶存酸素メーター(DO)と複数のサンプリングポートを設けることができる。複数の溶存酸素メーター(DO)と複数のサンプリングポートは、反応器内の螺旋状構造体によって分割される部位に一つずつ配置するように水位に応じて設けることができる。
【0022】
この水処理装置では、給水管に給水制御ポンプ(feed water control pump)と給水制御バルブ(feed water control valve)を設けてもよく、排出管には排水制御ポンプ(discharged water control pump)と排水制御バルブ(discharged water control valve)を設けてもよい。
【0023】
この水処理装置では、吸気管には反応器内に一定量の空気を供給するように空気制御バルブ(air control valve)を設けてもよい。
【0024】
また、この水処理装置では、反応器内に、螺旋状の気泡流路を形成する螺旋状構造体を設けることにより溶存ガスの濃度を制御する方法を提供する。
【0025】
この方法では、溶存ガスの濃度は、反応器内に設けられた螺旋状構造体の巻数(number of turns)によって制御でき、この溶存ガスは水に溶け難い酸素であることが好ましい。
【0026】
また本発明は、反応器の内径に対応(corresponding)する直径を有する螺旋状構造体が内部に設けられた反応器を備えるガス溶解装置(gas dissolving apparatus)を提供する。
【0027】
さらに本発明は、生物膜反応器内に設けられた螺旋状の構造体が、生物膜反応器内で溶存ガスの濃度を高くするために、微生物を付着することができる構造体としての用途を提供する。
【発明の効果】
【0028】
上述した本発明の螺旋状構造体を備える生物膜反応器は、次の利点を提供する。
【0029】
第一に、本発明の生物膜反応器は、螺旋状構造体を用いて気泡の流れを螺旋状に誘導することにより、気泡の滞留時間が増加するようにして、気泡と水との間の接触時間を増加させることにより、気泡内の酸素が水中により溶け易くなるようにする。したがって、攪拌による電力を消費することなく、生物膜反応器内の溶存酸素濃度を効果的に増加させることができる。
【0030】
第二に、螺旋状構造体に微生物を付着させて螺旋状構造体の表面に生物膜を形成することにより、担体などの充填材を用いることなく、一つの生物反応システム内に浮遊生長および付着生長の生長環境を同時に形成することが可能となる結果、高濃度で微生物を濃縮培養(culture)することができ、かつ多量の微生物を確保することができるので、毒性物質が微生物に及ぼす影響を緩和することができる。また、比生長(specific growth)と収率(yield)が少なく、生長が難しいものと知られている硝化微生物(nitrifying microbes)のよう主要な機能性微生物を効果的に培養することができる。
【0031】
第三に、螺旋状構造体を備える本発明の生物膜反応器によれば、螺旋状構造体の回転角を調節(controlling)することにより、所望の気泡滞留時間を実現することができる。このように各反応器の用途に適した気泡の滞留時間を実現することができるので、気泡の直径が小さい空気を形成する必要がなく、電力費用を節減することができる。
【0032】
第四に、気泡が上昇して螺旋状構造体にぶつかりながら抵抗力(friction)を生じさせることにより、生物膜反応器の内部に渦流(vortex flow)を形成して攪拌効果を増加させて、より効果的に溶存酸素濃度を増加させることができる。
【0033】
第五に、生物膜反応器は、DOメーター、コンピュータおよび送風機が接続されているため、DOメーターで検出された生物膜反応器内の溶存酸素濃度はコンピュータへ伝送され、コンピュータは、操作条件に応じて要求される溶存酸素濃度に対応した曝気量を計算する。送風機は、コンピュータで計算された曝気量に対応した気泡を生物膜反応器内に供給する。このような一連の工程により、過度な曝気(aeration)を防止して電力費用を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る水処理装置の全体工程図である。
【図2】本発明に係る螺旋状構造体を示す拡大図である。
【図3】本発明に係る螺旋状構造体がない場合の空気滴の挙動を示す概略図である。
【図4】本発明に係る螺旋状構造体がある場合の空気滴の気泡の挙動を示す概略図である。
【図5】構造体の巻数による気泡滞留時間の変化を示すグラフである。
【図6】空気流量および螺旋状構造体の巻数に対する酸素移動係数(KLa)を示すグラフである。
【図7】空気流量および螺旋状構造体の巻数に対する酸素移動係数(KLa)の対照群と比較した増加率を示すグラフである。
【図8】空気流量および螺旋状構造体の巻数に対する基準溶存酸素濃度への到達時間を示すグラフである[基準溶存酸素濃度は、実験条件における飽和溶存酸素濃度(9.22〜9.3mg/L)の90%に相当する8.3mg/Lとする]。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
【0036】
図1は、本発明の生物膜反応器を備える水処理装置の全体工程図である。この水処理装置は、DNA構造型の螺旋状構造体2が内部に設けられた高効率反応器1を備える。
【0037】
反応器1は、水を供給する給水管3と、空気を供給する吸気管15と、反応器1を通過した水と空気を排出する排出管5とを備える。
【0038】
符号3、4及び18は、反応器1の内部に水を供給することに関するものであり、それぞれ給水管3、給水ポンプ(feed pump)4及び給水弁(inlet valve)18を示す。水は、給水ポンプ4によって反応器1内に導入され、螺旋状構造体2を通過して反応器1の外部に排出される。本例では、排出管5、排出弁(outlet valve)19、及び排出ポンプ(drain pump)6は、水の排出に関するものである。
【0039】
空気は、送風機14によって吸気管15を介して反応器1の内部に導入される。また、吸気管15内に設けられた空気制御バルブ21は、送風機14と共に、反応器の内部に一定量の空気を導入するように機能する。
【0040】
螺旋状構造体2を備える高効率反応器1には、工程を安定的に操作するために、pHメーター11、DOメーター9、監視センサー(例えば、温度センサーまたはイオンセンサーなど)16が取り付けられ、かつ反応器1内の流体の状態を観察するためのサンプリングポート8が取り付けられている。サンプリングポート8は、螺旋状構造体2によって反応器1の内部が分割されていることを考慮して、反応器1内に水位に応じて配置されている。
【0041】
本発明の反応器1は、螺旋状構造体2による溶存酸素の増加を最大化するためのDOメーター9が設けられており、DOメーター9はコンピュータ10に接続されている。コンピュータ10は、送風機14と接続されており、DOメーター9で測定された溶存酸素濃度を解析して測定された溶存酸素濃度を最適の溶存酸素濃度まで増加させるのに必要な最少量の空気を反応器1内に導入することにより、電力費用を低減することができる。また反応器1には、pHメーターが酸/アルカリ貯留槽13、pH調整ポンプ12及びpH調整バルブ20が取り付けられており、操作条件に関するpHを保つための適正量の酸とアルカリを反応器1内に導入することを可能とする。この例では、工程の特性に応じて種々のpH調整剤を選択して使用することができる[例えば、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、水酸化ナトリウム(NaOH)など]。
【0042】
反応器1の内部に導入する空気は、螺旋状構造体2に沿って反応器1の上部に上昇し、上昇した空気の一部は排出管5を介して反応器1の外部に排出され、その他の空気は大気中に直接排出される。この例のように反応器1が開放型反応器の場合は、空気は直接大気中に排出されるが、反応器1が閉鎖型の場合は、空気が排出できる排気口を設けなければならない。
【0043】
本発明の一例では、反応器1の内部に異物が侵入しないように、反応器1上にカバー7が設けられている。反応器1にカバー7を設けるか否かは、工程の種類と特徴によって決定される。吸気管15を介して反応器1内に導入された空気は、螺旋状構造体2によって螺旋状に流れる結果、滞留時間が増加する。この滞留時間の増加により、気泡と水との間の接触時間も増加して、気泡中の酸素が水中により溶け易くなる。発明者は、気泡の滞留時間の増加を確認するための実験を行った。これに関しては、以下の実施例1を参照して後述する。
【0044】
図2は本発明の螺旋状構造体を示す拡大図である。反応器1に適用した螺旋状構造体2は、気泡が誘導され、微生物が効果的に付着する最小限の体積を内部に持つように構成されている。発明者は、螺旋状構造体が設けられている場合と、螺旋状構造体が設けられていない場合の気泡の挙動を観察した。その観察結果を図3および図4に示す。図3は、螺旋状構造体が設けられていない場合の気泡の挙動を示す概略図である。すなわち図3は、螺旋状構造体2設けられていない反応器30内の気泡の挙動を示す。図4は、螺旋状構造体が設けられている場合の気泡の挙動を示す概略図である。図4は、反応器1内に設けられた螺旋状構造体2によって2つの独立した上向きの気泡の流れが形成されることを示す。図3および図4によれば、螺旋状構造体の2有無に応じた反応器1内の気泡の挙動および移動距離の顕著な差異を確認することができる。
【0045】
螺旋状構造体2は、気泡の滞留時間の制御以外にも、様々な機能を示す。すなわち、螺旋状構造体2内では、反応器1の下部に誘導された気泡の流れは、螺旋状に上昇し、螺旋状構造体と気泡との間に抵抗力(friction)を発生させて、溶存酸素の増加および攪拌効果を提供する。また、本発明の螺旋状構造体2に微生物を付着させて、構造体2内で微生物の浮遊生長および付着生長の生長条件を同時に実現することにより、微生物を高濃度で維持させる。
【0046】
以下、本発明の気泡滞留時間の増加により溶存酸素濃度が増加する理論的な原理について詳細に説明する。
【0047】
連続工程における特定反応器内の酸素移動能力は、反応器の機械的設計、散気管とインペラの幾何学的特徴、および攪拌速度や空気流量などの操作条件に依存する。このような全ての変数は、唯一のパラメータに統一することができる。このパラメータはそれが酸素移動係数(oxygen transfer coeffcient)(KLa)である。言い換えれば、酸素移動係数(KLa)は全ての変数を考慮した酸素移動能の指標を示す[ラテンアメリカン応用研究 P.フアレス、J.オレハス 2001(Latin American Applied Research P. JUAREZ and J. OREJAS 2001)。
【0048】
酸素移動の公式はdC/dt=KLa(Css−C)で示される。ここで、dC/dtは酸素移動速度、KLaは酸素移動係数、Cssは与えられた物理的条件における飽和酸素濃度、Cは水中の溶存酸素濃度をそれぞれ示す。Cssは、言い方を変えると、当該システムの物理的条件における酸素溶解度である[ウォーターリサーチ コニー D.デモイヤー 2002(Water Research Connie D. DeMoyer 2002)]。上記の酸素移動の公式には2つの独立変数が存在する。すなわち、酸素移動係数(KLa)と飽和酸素濃度(Css)である。ところがしかしながら、飽和酸素濃度(Css)は、温度、圧力、溶媒の粘性、溶媒に溶けているイオンの濃度などの物理的な条件によって変わるパラメータであって、気泡の滞留時間とは関連しない。したがって、本発明のDNA型の螺旋状構造体2による気泡の滞留時間の増加により溶存酸素が増加する原理は、酸素移動係数(KLa)の増加によって説明できる。
【0049】
言い換えれば、同一の物理的条件ではCss−Cの数値は一定であるので、酸素移動速度(dC/dt)は酸素移動係数に比例して増加する。発明者は、この原理に基づいて螺旋状構造体の巻数および空気流量を変化させながら酸素移動係数値を測定することにより気泡滞留時間の増加に起因して酸素移動速度が増加する根拠を見出した。発明者は、溶存酸素濃度を0mg/Lにして、空気を供給することにより時間に対する溶存酸素濃度のデータを得て、このデータを用いた回帰分析を行って酸素移動係数を測定し、対照群(control group)(巻数は0)に対する螺旋状構造体の巻数に応じた酸素移動係数を比較して、評価(analyzed)した[バイオプロセスエンジニアリング ベーシックコンセプト 第2版 マイケル L.シュラー、フィレット カーギ(Bioprocess Engineering Basic Concepts Second Edition Michael L. Shuler/Fikret Kargi)]。これに関しては、以下の実施例2を参照して後述する。
【0050】
発明者は、螺旋状構造体による溶存酸素濃度増加評価の別の根拠として、所定の溶存酸素濃度への到達時間を測定して、測定した到達時間について、螺旋状構造体の巻数が1および2の場合を対照群(巻数は0)と比較した。実験結果は、実施例3に記載されている。
【0051】
〈実施例1〉構造体の巻数による気泡の滞留時間の増加確認実験
本発明者は、構造体の巻数の変化および構造体の有無による気泡の滞留時間の変動を確認するための実験を行った。まず、直径17cmの円筒状反応器を水位が28.5cmとなるように水で満たし、反応器の底部に散気管を設けた。ここで構造体の巻数は水位が28.5cmで巻数を1および2に定めた。対照群を含む設定された合計3つの実験をそれぞれ5回繰り返して行うことにより、気泡の滞留時間の平均と標準偏差を測定した。気泡の滞留時間は、気泡が散気管から吹き出されて水面に到達するまでにかかる時間と定義した。
【表1】

【0052】
表1から、気泡の滞留時間は、対照群と比較して、巻数が1の場合には約12%、巻数が2の場合には約60%増加した。このデータは、構造体の設置による気泡の滞留時間の増加効果を直観的に判断するのではなく、数値化して定量化したことにその意義がある。また、実施例1は、螺旋状構造体の巻数が増加するに従って気泡の滞留時間が増加することを明確に示す。これ関する補充資料を、図5に示す。
【0053】
現実規模工程では、反応器の寸法(直径、高さ、体積)が大きくなるので、実際の工程では、気泡の移動距離は、実験室規模における気泡の移動距離に比べて大きくなる。このような理由から、現実規模工程では実験室規模工程に比べて気泡の滞留時間を早期に増加させることが求められる。また、本発明による高効率のDNA型螺旋状構造体を備える反応器は、反応器自体の底面積、高さ等を調整することにより、所望の気泡滞留時間を実現することができるという利点を有する。また、与えられた反応器の寸法で螺旋状構造体の回転角を調節することにより反応器内の気泡滞留時間および溶存酸素濃度を制御できる点で有利である。
【0054】
〈実施例2〉空気流量および構造体の巻数による酸素移動係数(KLa)
[バイオプロセスエンジニアリング ベーシックコンセプト 第2版 マイケル L.シュラー/フィレット カルギ(Bioprocess Engineering Basic Concepts Second Edition Michael L. Shuler/Fikret Kargi)]
螺旋状構造体による溶存酸素濃度の増加を判断する要素の一つとして酸素移動係数を選択した理由は、上述したとおりである。発明者は、螺旋状構造体の有無および巻数に対する酸素移動係数を測定し、設定した実験ごとに酸素移動係数を比較することにより本発明の反応器が酸素移動効率の増加に与える影響を確認した。
【0055】
まず、円筒状反応器を6Lの水で満たし、螺旋状構造体を設けた後、溶存酸素濃度が0mg/Lとなるまで窒素ガスを吹き込んだ。その後、設定した実験ごとに一定の流量の空気を反応器に供給しながら、反応器内の溶存酸素濃度を10秒単位で記録した。参考として、設定した全ての実験で、溶存酸素濃度は同じ位置で測定した。発明者は、その後、求められた「溶存酸素濃度−時間」の実験データで回帰分析を行って酸素移動係数を求めた。ここで構造体の巻数変化は巻数を0、1、2に設定し、空気流量は1L/min、2L/min、3L/min、4L/min、5L/minに設定して、この条件で反復実験を行うことにより、それぞれ設定された実験に対する酸素移動係数を求めた。下記表2は、螺旋状構造体2の巻数および空気流量の変化による酸素移動係数を示す。
【表2】

【0056】
図6は、螺旋状構造体の空気流量および巻数による酸素移動係数を示す棒状グラフである。本実験の目的は、螺旋状構造体が酸素移動係数に及ぼす影響を確認することである。よって、発明者は、同じ空気量で互いに異なる巻数の条件下で酸素移動係数を比較することが適切であると判断した。その結果として、螺旋状構造体の巻数による酸素移動係数の増加率を導き出した。図7は、前述した対照群に対する螺旋状構造体内の酸素移動係数の増加率を示すグラフである。
【0057】
実施例2の結果から、構造体の巻数が増加するにつれて酸素移動係数が増加することが判る。また、低曝気条件における酸素移動係数の増加率が相対的に高いことも判る。特に1L/minの空気流量において巻数が2のときの酸素移動係数は、対照群に比べて約30%増加している。これは、本発明の主目的の一つである曝気による溶存酸素濃度の増加を説明する際に非常に説得力のある根拠となる。
【0058】
〈実施例3〉基準溶存酸素濃度への到達にかかる時間
*[基準溶存酸素濃度(8.3mg/L)−実験条件における飽和溶存酸素濃度の90%]
発明者は、反応器の優位性を立証するために、実施例2と同様の実験条件で基準溶存酸素濃度を定め、基準溶存酸素濃度への到達時間を測定して、これらを比較した。基準溶存酸素濃度は、温度が20.3〜20.9℃で、圧力が1atmの条件における飽和溶存酸素濃度(9.22mg/L〜9.32mg/L)の90%に相当する8.3mg/Lに設定した。温度による飽和溶存酸素濃度の補正は、文献[水中酸素溶解性に依存する温度と圧力:熱力学解析、湿式精錬 デスモンド トロマン 1998(Temperature and pressure dependent solubility of oxygen in water: thermodynamic analysis, Hydrometallurgy, Desmond Tromans 1998)]。
【表3】

【0059】
実施例2の実験結果は、相対的に曝気量が少ないほど、または構造体の巻数が多いほど、基準溶存酸素濃度への到達時間が短いことを示している。例えば、1L/minの空気流量における対照群(巻数なし)の場合には8.3mg/Lに到達するまで860秒がかかるのに対して、螺旋状構造体の巻数が1の場合には830秒がかかり860秒から30秒短縮された。そして、螺旋状構造体の巻数が2の場合には70秒も短縮された。実施例3のデータはDNA型螺旋状構造体2によって気泡滞留時間が増加するにつれて一定の溶存酸素濃度への到達時間が短縮されることを示し、これは酸素移動係数の増加効果と共に構造体による実際の溶存酸素濃度増加効果を裏付ける。そして、実施例2と同様に、相対的に低曝気条件で溶存酸素濃度の増加が著しかった。これは単位曝気量当たり高効率の溶存酸素濃度増加論理を裏付ける。図8は実施例3に関連したもので、各実験セット別基の準溶存酸素への到達時間を総括的に示す。
【符号の説明】
【0060】
1 反応器
2 螺旋状構造体
3 給水管
4 給水ポンプ
5 排出管
6 排出ポンプ
7 カバー
8 サンプリングポート
9 DOメーター
10 コンピュータ
11 pHメーター
12 pH調整ポンプ
13 酸/アルカリ貯留槽
14 送風機
15 吸気管
16 監視センサー
17 データ記憶コンピュータ
18 給水弁
19 排出弁
20 pH調整バルブ
21 空気制御バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内に、螺旋状の気泡流路を形成する螺旋状構造体を設けて、溶存ガスの濃度を制御することを特徴とする、溶存ガス濃度制御方法。
【請求項2】
前記溶存ガスは溶存酸素であることを特徴とする、請求項1に記載の溶存ガス濃度制御方法。
【請求項3】
前記溶存ガスの濃度は螺旋状構造体の巻数に比例することを特徴とする、請求項1または2に記載の溶存ガス濃度制御方法。
【請求項4】
内部に螺旋状構造体が設けられた反応器を備えることを特徴とする、溶存ガス濃度制御装置。
【請求項5】
内部に螺旋状の気泡流路を形成する螺旋状構造体が設けられた反応器を備えることを特徴とする、エアレータ。
【請求項6】
前記螺旋状構造体は前記エアレータの内径に対応する直径を有することを特徴とする、請求項5に記載のエアレータ。
【請求項7】
前記螺旋状構造体は非動力式の構造体であることを特徴とする、請求項5または6に記載のエアレータ。
【請求項8】
内部に螺旋状の気泡流路を形成する螺旋状構造体が設けられた反応器を備えることを特徴とする、生物膜反応器。
【請求項9】
水を供給する給水管と、空気を供給する吸気管と、反応器を通過した水と空気を排出する排出管とを備え、
前記吸気管から供給された気泡の流れを誘導し、気泡の滞留時間を増加させて、酸素移動速度を高めるように前記吸気管から前記排出管まで螺旋状の気泡流路を形成する螺旋状構造体を反応器の内部に設けて、前記螺旋状構造体に微生物を付着して生物膜を形成して浮遊生長と付着生長の2つの微生物生長条件を実現することを特徴とする、請求項8に記載の生物膜反応器。
【請求項10】
前記給水管と前記吸気管は反応器の下部に設けられ、
前記排出管は、上方流が流れるように前記反応器の上部に形成されていることを特徴とする、請求項8または9に記載の生物膜反応器。
【請求項11】
反応器を安定的に操作するために、反応器内に水素イオン濃度を測定するpHメーターが設けられていることを特徴とする、請求項8または9に記載の生物膜反応器。
【請求項12】
反応器内に異物が侵入するのを防止するカバーが反応器内に設けられていることを特徴とする、請求項8または9に記載の生物膜反応器。
【請求項13】
前記生物膜反応器は硝化微生物を用いることを特徴とする、請求項8または9に記載の生物膜反応器。
【請求項14】
水を供給する給水管、空気を供給する吸気管、および反応器を通過した水と空気を排出する排出管を備えた反応器と、
前記反応器の内部に設けられて、前記吸気管から供給された気泡の流れを誘導し、かつ前記気泡の滞留時間を増加させて酸素移動速度を高めるように前記吸気管から前記排出管まで螺旋状の気泡流路を形成する螺旋状構造体と、
前記反応器内の流体の状態を観察するためのサンプリングポートと、
前記反応器内の溶存酸素を監視する溶存酸素メーターと、
前記反応器内の水素イオン濃度を測定するpHメーターと、
前記溶存酸素メーターで測定された溶存酸素濃度、および前記pHメーターで測定された水素イオン濃度を受信して適切な曝気量とpHを計算して制御するコンピュータと、
前記コンピュータに接続されて、最適の溶存酸素濃度を得るのに必要な最少量の空気を供給する送風機と、
前記コンピュータに接続されて、適正量の酸とアルカリを酸/アルカリ貯留槽から反応器内に供給するpH調整ポンプと、
反応器を安定的に操作するために、温度またはイオンを監視するための監視センサーを備えていることを特徴とする、水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−519309(P2011−519309A)
【公表日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507337(P2011−507337)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【国際出願番号】PCT/KR2009/001939
【国際公開番号】WO2009/134023
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(509021122)ポステック アカデミー−インダストリー ファンデーション (7)
【Fターム(参考)】