説明

血液中のトレーサの濃度を決定する装置及び方法

本発明は、患者(1)の血液中のPETトレーサの濃度を決定するための装置及び方法に関する。X線CT(5、6)を用いて、まず最初に、血液で満たされるボリューム要素(2)の空間的な位置(r)が決定される。血液で満たされるボリューム要素(2)は、例えば心臓の左心室又は大動脈の一部でありえる。その後、2つの検出器素子(3a、3b)を有するTOF−PETユニットは、それが、このボリューム要素(2)中、ゆえに血液中のトレーサの濃度を確立するように設定される。この値は、例えば、3次元PETユニット(4)を用いて、患者(1)について実行される薬物動力学的検査のフレームワーク内で使用されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中のPETトレーサの濃度をインビボで決定する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)の場合、患者の身体中の放射性核種の分布は、陽電子の放出の後にもたらされる崩壊量子が明らかにされる(検出される)点において決定される。PET測定は、更に、薬剤の作用のモードを研究するために、薬物動力学モデリングに関してますます使用されている。このような検査において、特定の身体部位は、PETトレーサ(すなわちPET検査に適当である放射性マーカ物質又はβ放射体)の分布を動的に観察するために、連続的に且つ時間分解された態様でPET検出器によって表現される。測定を評価するために、多くの場合、常に(動脈)血液中のトレーサの濃度を知る必要がある。これは、一般には、侵襲的に、すなわち血液サンプルを採取することによって成し遂げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この背景に対して、本発明の目的は、簡単であり、患者にとってストレスが少なく、同時に正確である、血液中のPETトレーサの濃度を決定するための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、請求項1の特徴を有する装置及び請求項9の特徴を有する方法によって達成される。有利な実施例は、従属請求項に含まれている。
【0005】
本発明による装置は、(人間又は動物の)被検体の血液中のPETトレーサの濃度をインビボで決定する役目を果たす。このために、装置は、以下の構成要素を有する:
【0006】
−身体部位の位置的に解像された表現を可能にする画像生成装置。「位置的に解像された表現」とは、表現のいかなるときにも、表わされる身体部位の対応する空間ポイントの座標が知られており、又は知られている幾何学的な関係を介して決定されることができる表現を意味する。この条件は、例えば、コンピュータトモグラフィ装置によって生成される断面像によって又は身体ボリュームの3次元再構成によって果たされる。
【0007】
−予め決められたボリューム要素中のトレーサの濃度を記録するためのTOF−PETユニット。定義により、TOF−PETユニット(TOF=飛行時間(Time Of Flight))は、崩壊プロセスからの2つのガンマ量子の飛行時間又は飛行時間の差を非常に正確に決定することができるので、この情報に基づいて、量子の起点が、それらの飛行経路のライン上で位置を特定されることができる。好適には、TOF−PETユニットによって別個に観察されることができるボリューム要素は、約0.2乃至20cmの大きさを有し、特に、約0.5cm乃至5cmの大きさが特に好ましい。
【0008】
−画像生成装置及びTOF−PETユニットに結合されるデータ処理ユニット。データ処理ユニットは、更に、TOF−PETユニットによって記録されるボリューム要素が、血液で満たされる身体ボリュームにあるように、TOF−PETユニットを設定するようにセットアップされ、血液で満たされるこの身体ボリュームの空間的な位置は、画像生成装置を用いて決定される。
【0009】
上述した装置によって、患者の血液中のPETトレーサの濃度を連続的に且つ非侵襲的に測定することが可能である。このために、画像生成装置によって、例えば心臓の左心室又は大動脈でありえる血液で満たされた身体ボリュームの空間的な位置が決定される。この情報を用いて、TOF−PETユニットによって観察されるボリューム要素を、血液で満たされる身体ボリュームに直接配置することが可能であり、それによって、TOF−PETユニットは、もっぱら血液からの信号を受け取るだけである。従って、TOF−PETユニットのデータは、求められる血液中のトレーサの濃度を表す。装置の利点は、侵襲的なプロシージャが必要ないことであり、これは、検査プロシージャの対応する簡略化及び患者に対するより少ないストレスを意味する。更に、例えば心臓の左心室の動脈血のような、特定の身体部位から血液中のトレーサの濃度を決定することが特に可能である。他方、採血の場合、血液循環の周囲のトレーサの濃度だけが一般に利用可能である。他の利点は、TOF−PETユニットの使用からもたらされる。かかるTOF−PETユニットでは、飛行時間ウィンドウを設定することによって、検査されるボリューム要素の位置が、患者の身体中のラインに沿って比較的容易に動かされることができる。これは、検査下のボリューム要素の、簡単であり、おそらく動的な又は続く固定を可能にする。
【0010】
TOF−PETユニットは、原則的に、例えば身体セクション又は3次元ボリュームのようなより大きい部位を表現することができるTOF−PET検出回路によって形成されることができる。しかしながら、このような完全な検出回路は、所望の研究の目的では必要でなく、一般に、必要な空間及び必要な制御の理由で不利益でさえある。従って、TOF−PETユニットは、好適には、互いに対向して位置するとともに、対応する評価電子回路ユニットを有する、ガンマ量のための2つの検出器素子を有し、これによって、崩壊プロセスからの2つのガンマ量の飛行時間の検出を可能にする。このタイプのTOF−PETユニットによって、ラインに沿って延在する細い(概してパイプ形の)ボリュームのみを観察することが可能である。しかしながら、これは、ライン上にある血液で満たされるボリューム要素の観察に適切である。ただ2つの検出器素子に制限することにより、このようなTOF−PETユニットは、比較的安価に生産されることができ、加えて、問題なく検査室に収容されることができ、実際に、例えば検査室内のX線機器の近傍にさえ収容されることができる。特に、設計に関して、TOF−PETユニットを固定される態様で(移動可能な)X線ユニットに接続することが可能であり、それによって、X線装置の像ジオメトリとTOF−PETユニットの観察のラインとの間の知られる関係がある。
【0011】
上述したタイプのTOF−PETユニットの検出器素子の有効面積は、好適には、いずれの場合も約10mm乃至約400mmであり、特に、約30mm乃至約100mmが好ましい。ここで、「有効面積」とは、検出器素子の感受ボリュームの、2つの検出器素子の結合ラインに垂直な領域を意味する。
【0012】
画像生成装置は、例えばMRI装置及び/又はX線投影装置、特にX線コンピュータトモグラフィ装置でありえる。このような装置は、高レベルの位置分解能による身体部位の像を提供することができ、すでに多くの検査室に存在している。
【0013】
他の展開によれば、上述の装置は、身体部位におけるPETトレーサの分布を(好適には3次元で)記録するためのPET装置を有する。この身体部位は、一般には、TOF−PETユニットによる測定が行われる部位とは異なるものである。例えば、付加のPET装置によって、患者の頭部の3次元表現が、脳の薬物動力学的プロセスを観察するために行われることができる。ここで取得されるデータは、血液中のPETトレーサの動的に決定される濃度と組み合わせられることができる。
【0014】
データ処理ユニットは、任意には、画像生成装置によって生成される1又は複数の像において、血液で満たされる身体ボリュームをセグメント化するようにセットアップされることができる。このケースでは、この身体ボリュームの空間的な位置が自動的に決定されることができ、TOF−PETユニットは、自動的にこれに適応されることができる。
【0015】
装置の他の実施例によれば、装置は、画像生成装置によって生成される像を表現するための表示装置と、これらの像において身体ボリュームを対話的に選択するための入力手段と、を有する。このケースでは、例えば、画像生成装置によって生成される像上で、医師は、血液で満たされる身体ボリュームを対話的に指定することができ、その場合、データ処理装置は、この身体ボリュームの空間的な位置を決定し、これに対してTOF−PETユニットの位置を調整する。
【0016】
既に述べたように、TOF−PETユニットによって観察される血液で満たされる身体ボリュームは、特に心臓の左心室又は大動脈でありえ、従って、動脈血中のトレーサの濃度が、目標を定められた態様で観察されることができる。
【0017】
本発明は、更に、血液中のPETトレーサの濃度をインビボで決定するための方法であって、
−身体部位の少なくとも1つの位置的に解像された像を生成するステップと、
−生成された像に基づいて、血液で満たされる身体ボリュームの空間的な位置を決定するステップと、
−身体ボリュームからくる崩壊量子を、それらの飛行時間を考慮して記録するステップと、
を含む方法に関する。
【0018】
方法は、一般の形態で、上記で説明したタイプの装置によって実施されることができるステップを含む。方法の詳細、利点及び他の特徴に関しては、上述の説明を参照されたい。
【0019】
特に、方法は、更に、他の身体部位の動的であって好適には3次元であるPET記録が行われ、ここで取得されるデータが、血液中のPETトレーサの確立された濃度と組み合わせられるように、展開されることができる。このようにして、例えば血液脳関門のため非常に重要である脳におけるプロセスの薬物動力学的検査又は他の身体部位におけるプロセスの薬物動力学的検査を実施することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明は、例示によって図面を用いて説明される。図1は、患者の血液中のトレーサの濃度を決定するための本発明による装置の構成要素を概略的に示している。
【0021】
図示される例の場合、装置は、X線源5及びX線検出器6を有する概略的に示されているX線/コンピュータトモグラフィユニットを有する。X線源5及びX線検出器6は、Cアームに固定されており、Cアームによって患者1の周囲を回転されることができる。X線装置は、制御及び画像評価のためにデータ処理ユニット7に接続されている。X線装置のスイープの場合に生成される投影写真から、データ処理ユニット7は、よく知られる態様で、患者1の身体の3次元断面画像Aを生成することができる。この断面画像Aは、例えば、データ処理ユニット7に接続されるモニタ8上に表される。
【0022】
例えばマウス9又はキーボードのような入力手段を用いて、医師は、このような断面像A上で、血液で満たされる身体ボリュームを選択することができる。これは、例えばそれぞれ動脈血で満たされる心臓の左心室又は大動脈でありえる。代替例として、データ処理ユニット7は、更に、画像処理の適当なアルゴリズムの助けを借りて、像Aにおいて血液で満たされる身体ボリュームを自動的にセグメント化するようにセットアップされることもできる。
【0023】
像A上で自動的に又は対話的に設定された領域から、データ処理ユニット7は、患者1の身体の、血液で満たされる対応するボリューム要素2の実際の空間的な位置を決定することができる。
【0024】
装置は、更に、TOF−PETユニットを有し、TOF−PETユニットを形成する検出器素子3a及び3bは、図面には概略的にのみ示されている。これらの検出器素子3a、3bは、患者1の身体の異なる側に互いに対向して位置し、それらをヒットするガンマ量子をそれぞれ明らかにすることができる。例えばBaFのシンチレーションクリスタル及び光電子増倍管を含むことができるこのような検出器素子の構造は知られており、それゆえ、ここで更に詳しく記述される必要はない。
【0025】
検出器素子3a、3bは、いずれのケースでも、測定された信号を前処理するための評価電子回路ユニットを有し、データ処理ユニット7に接続されている。フィルタパラメータの対応する指定によって、検出器素子3a、3bによって明らかにされる相対的に多数のイベントから、崩壊プロセスの2つのガンマ量子γ、γに帰するものが、選択されることが達成されることができる。患者1の血液に注入されるトレーサの放射性崩壊により、陽電子が放出され、電子によって崩壊されるとき、このような量子対が生じる。ここで起こるガンマ量子γ、γのエネルギーは、同じ大きさであり、その飛行方向は、ほぼ正反対である。こうして、2つの検出器素子3a、3bにおいて、適当なエネルギーのガンマ量子がほぼ同時に明らかにされる場合、これらは崩壊プロセスから生じるものとされる。これらのガンマ量子γ、γの起点は、検出器素子3a、3bのデモンストレーション(検出)ポイントの接続線(いわゆる反応ライン)上になければならない。
【0026】
条件により、これはTOF−PETユニットでなければならないので、検出器素子3a、3bは、非常に高い時間分解能を有する。これは、測定されるべき崩壊対のガンマ量子γ、γ間の飛行時間の差を与え、そこから、より正確な結論が、反応ライン上のこれらのガンマ量子の起点の位置に関して導かれるとができる。従って、TOF−PETユニットによって観察されるボリューム要素は、飛行時間の差のウィンドウを指定することによって、反応ラインに沿ってどこにでも位置付けられることができる。例えば、約0の飛行時間差の場合に観察されるボリューム要素は、2つの検出器素子3a、3bのまさに中間にある。特に、TOF−PETユニットによって観察されるボリューム要素2は、上述したように、CT5、6によって決定される位置に配置されることができ、それによって、かかるボリューム要素2は、血液で満たされる身体ボリューム内に完全に位置する。これは、TOF−PETユニットが、血液中のトレーサの濃度を正確に測定することを確実にする。
【0027】
TOF−PETユニットによって観察されるボリューム要素2の位置は、任意には、CT5、6による写真を通じてときどきチェックされ、調整されることができる。更に、観察されるボリューム要素が完全に血液で満たされる特定の位置に心臓があることを確実にするために、心電図を通じて連続的に心臓アクティビティを記録し、特定の心拍位相のみからのTOF−PETユニットの測定値を使用することが企図される。
【0028】
更に、PET検出器4が、図1に概略的に示されている。かかるPET検出器4によって、患者1の脳の3次元PET画像が作成されることができる。これらの画像上で、トレーサの分布を動的に追跡することが可能である。このような観察から、意味のある薬物動力学モデルを導き出すことを可能にするために、動脈血(いわゆる「動脈の入力関数」)中のトレーサの濃度を知ることがしばしば同時に必要とされる。この情報は、ここで示される装置の場合、前述したようにTOF−PETユニットによって有利に決定されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】患者の血液中のトレーサの濃度を決定するための本発明による装置の構成要素を概略的に示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液中のPETトレーサの濃度をインビボで決定するための装置であって、
身体の部位の位置的に解像された表現のための画像生成装置と、
予め決められたボリューム要素における前記トレーサの濃度を記録するためのTOF−PETユニットと、
前記画像生成装置及び前記TOF−PETユニットに結合され、前記TOF−PETユニットによって記録される前記ボリューム要素が血液で満たされる身体ボリュームに位置するように、前記TOF−PETユニットを設定する、データ処理ユニットであって、前記身体ボリュームの空間的な位置は、前記画像生成装置を用いて決定される、データ処理ユニットと、
を有する装置。
【請求項2】
前記TOF−PETユニットは、互いに対向する位置にある2つのγ検出器素子と、崩壊量子の飛行時間を記録するための対応する評価電子回路ユニットと、を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
各検出器素子の有効面積が、約10mm乃至約400mmであることを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記画像生成装置が、MRI装置及び/又はX線投影装置、特にX線コンピュータトモグラフィ装置を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
身体部位における前記PETトレーサの分布を好適に3次元で記録するためのPET装置を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記データ処理ユニットが、血液で満たされる身体ボリュームを、前記画像生成装置によって生成される画像にセグメント化するようにセットアップされることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記画像生成装置によって生成される像を表現するための表示装置と、前記像において身体ボリュームを対話的に選択するための入力手段と、を有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
血液で満たされる前記身体ボリュームが、心臓の左心室又は大動脈に位置することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
血液中のPETトレーサの濃度をインビボで決定するための方法であって、
身体部位の少なくとも1つの位置的に解像された画像を生成するステップと、
前記生成された画像に基づいて、血液で満たされる身体ボリュームの空間的な位置を決定するステップと、
前記身体ボリュームからくる崩壊量子を、それらの飛行時間を考慮して記録するステップと、
を含む方法。
【請求項10】
他の身体部位の、動的であり好適には3次元のPET記録が行われ、ここで取得されたデータが、血液中の前記PETトレーサの確立された濃度と組み合わせられることを特徴とする、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−512513(P2007−512513A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539027(P2006−539027)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【国際出願番号】PCT/IB2004/052299
【国際公開番号】WO2005/044311
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】