説明

血管拡張作用を有するソバ由来化合物

【課題】副作用がなく、より安全で摂取の容易な、血管拡張作用を有し、血液循環に伴う諸症状、すなわち、血圧のみではなく、肩こり、頭痛、脳循環、お血の軽減及び緩和作用を有する新規素材の提供、及び当該機能性を有する食品あるいは医薬品を提供すること。
【解決手段】ソバ属植物の水性溶媒浸出物及び該浸出物を分配して得られる特定の画分、より詳しくはソバ水性浸出物からルチンを除去して得られる粗精製物及び該粗精製物を分配して得られる高極性画分に存在する血管拡張作用を有する非ルチン化合物及び該化合物を含有する組成物、医薬品及び飲食物に関する。本発明は、副作用が少なく、優れた血管拡張作用を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管拡張作用を有する化合物及び血管拡張により改善する疾病を緩和・軽減する組成物、更に詳細にはソバ属植物の非ルチン化合物を有効成分として含有する血管拡張作用を有する組成物、医薬品及び飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会に伴い、健康に対する人々の関心は次第に高まってきている。健康な体を維持するためのバロメーターとして最近注目されている身体機能の1つに循環機能がある。循環機能を良好に維持すれば、血液循環の悪化に伴う諸症状、すなわち血圧のみならず、肩こり、頭痛、脳循環等を改善することが可能となる。
【0003】
ソバ属植物は、ルチンを始めとするポリフェノール等の成分を豊富に含む食品として知られており、古くから粉状にして麺類等の各種食品に加工され、食されてきている。
既知のソバの機能性には、ニコチアナミン誘導体、タンパク質分解物によるアンジオテンシンI変換酵素(以下ACEと表す)阻害に基づく血圧降下作用(特許文献1)や、ダッタンソバ生麺の摂食による血液の流動性改善効果(非特許文献1)が知られていた。
【0004】
その他にも、ダッタンソバ(Fagopyrum tataricum) の穀粒から抽出された抽出物中には、皮膚のシミやソバカス、或いは果実や野菜等の褐変の原因となるメラニン色素の合成を惹起する酵素であるチロシナーゼ酵素を失活させるチロシナーゼ阻害成分が含有されていること(特許文献2)、ダッタンソバ抽出物が抗アレルギー性皮膚外用剤として有用であること(特許文献3)、同抽出物が刺激緩和剤として有用であること(特許文献4)が報告されている。
【0005】
しかし、ACE阻害には、空咳などの副作用が認められており、安全性の面で問題を有することから、より安全で摂取の容易な血圧改善剤が求められている。
一方、ソバの特徴的成分であるルチンは、血液自体の流動性亢進、および血管壁の脆弱性改善作用が確認されているが、循環機能にかかわる循環器への有効性は、証明されていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−331556号公報
【特許文献2】特開平9−143022号公報
【特許文献3】特開平11−180885号公報
【特許文献4】特開2003−155246号公報
【非特許文献5】ヘモレオロジー学会誌、第2巻、p31〜、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、空咳などの副作用がなく、より安全で摂取の容易な、血管拡張作用を有し、血液循環に伴う諸症状、すなわち、血圧のみではなく、肩こり、頭痛、脳循環、お血の軽減及び緩和作用を有する新規素材の提供、及び当該機能性を有する食品あるいは医薬品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ソバ属植物の水性溶媒浸出物及び該浸出物を分配して得られる特定の画分、より詳しくはソバ水性浸出物からルチンを除去して得られる粗精製物及び該粗精製物を分配して得られる高極性画分が高い血管拡張作用を有し、これを有効成分として含有させれば副作用が少なく、優れた血管拡張作用を有する非ルチン化合物が得られることを見出し、本発明を完成した。
より具体的には、本発明は以下のとおりである。なお、ここで非ルチン化合物とは、ソバ浸出物よりルチンを吸着等の操作により除去し、以下の特徴を有する化合物をいう。
【0009】
1.ソバ属植物から水性溶媒により浸出される、血管拡張作用を有する非ルチン化合物。
2.ルチン成分を吸着除去して得られる1に記載の非ルチン化合物。
3.ソバ属植物の水性溶媒浸出物の、酢酸エチル/水を用いた液液分配において、アルカリ性および酸性の水層に抽出されることを特徴とする、血管拡張作用を有する非ルチン化合物。
4.ソバ属植物の水性溶媒浸出物の酢酸エチル/水を用いた液液分配において、特にアルカリ性水溶液に抽出されることを特徴とする、血管拡張作用を有する非ルチン化合物。
5.前記ソバ属植物がソバ(Fagopyrum esculentum)またはダッタンソバ(Fagopyrum tataricum)であることを特徴とする1〜4のいずれか1に記載の血管拡張作用を有する非ルチン化合物。
6.前記ソバ属植物の使用部位が実であることを特徴とする1〜5のいずれか1に記載の血管拡張作用を有する非ルチン化合物。
7.前記水性溶媒が水であることを特徴とする1〜6のいずれか1に記載の血管拡張作用を有するソバ由来非ルチン化合物。
8.医薬品である1〜7のいずれか1に記載のソバ由来非ルチン化合物を含有する組成物。
9.飲食品である1〜8のいずれか1に記載のソバ由来非ルチン化合物を含有する組成物。
10.前記飲食品が、容器詰めの緑茶飲料、紅茶、烏龍茶、麦茶、雑穀茶、果汁飲料、野菜飲料、乳飲料、清涼飲料水又は炭酸飲料である9に記載の組成物。
11.保健機能食品である1〜10のいずれか1に記載のソバ由来非ルチン化合物を含有する組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のソバ由来非ルチン化合物を含む組成物は、ソバ属植物の成分を有効成分としているため、副作用が少なく、優れた血管拡張作用を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の態様について実施例をあげて説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
1.血管拡張作用
本発明において、血管拡張作用とは、血管を拡張させる働きを有し、血液循環機能が関与する諸症状、すなわち、血圧のみではなく、肩こり、頭痛、脳循環、お血の軽減及び緩和を促す作用をいう。
【0012】
2.原料
本発明の血管拡張作用を有する化合物の原料はソバ属植物である。ソバは食品として供されているタデ科に属する1年草の草木植物であり、ソバ属植物であれば、特に限定されるものではない。ソバには普通種(Fagopyrum esculentum)、ダッタン種(Fagopyrum
tataricum)等が存在する。両者とも血管拡張作用を有し、活性強度の観点で用いる際には、好ましくはダッタンソバの利用が望ましいが、どちらを用いてもかまわない。また、使用可能な植物部位としては、葉部、茎部、花部、実等が挙げられるが、実を用いるのが好ましい。これらソバの実は、生のものであっても、焙煎したものであってもよく、これらを組み合わせて使用することも可能である。これらの配分量は、特に飲食物に用いる場合においては、呈味性、嗜好性により適宜考慮されるべきものであるが、血管拡張作用の発現を重視するならば、焙煎したものを含むことが好ましい。
【0013】
3.水性溶媒浸出物の調製
ソバの血管拡張成分を抽出する場合、浸出媒体としては水性又は親水性(水に可溶)の溶媒、つまり、水又は親水性溶剤を含んだ溶媒を用いることができる。これらを単独又は混合溶媒の形態で使用することができ、例えば、水と親水性溶剤との混合溶媒や複数種の親水性溶剤の混合物であってもよい。親水性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のモノアルコール類;エチレングリコール、グリセリン等のジオール及びポリオール類;アセトン、MEK等の低級脂肪族ケトン類;アセトニトリル等の低級脂肪族ニトリル;DMF;DMSO等、各種極性有機溶剤が挙げられるが、摂食に用いる旨を考慮する場合は食品衛生法等、各用途に定められた範囲内での溶剤を用いる。本明細書においてこれらを併せて「水性溶媒」と表すこととする。水性溶媒は、好ましくは水である。水性溶媒の浸出温度を上げることによって浸出効率を上げることができ、例えば、水を用いる場合、約50〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水によって良好に浸出できる。浸出時間は浸出温度を考慮しつつ適した時間を選択する。例えば90℃〜100℃の場合は1〜60分、好ましくは5〜30分である。浸出時間が短すぎるとソバ成分の抽出が不十分となり、長すぎると多糖類(デンプン)等の溶出が多くなり、加工及び呈味に影響を与える。複数の異なる溶媒系、もしくは同じ溶媒系を用いて繰り返し浸出操作を行ってもよく、例えば、水又は熱水で浸出した後の残渣を更にアルコール等の親水性有機溶剤、あるいは水性溶媒で浸出し、両浸出物を併せて利用することができる。使用する浸出溶媒の割合がソバの乾燥重量に対して5〜100倍程度となるようにすることによって好適に抽出することができる。
【0014】
4.粗精製物の調製
得られた水性溶媒浸出液からさらに血管拡張作用成分を精製するためには、以下の操作を行う。すなわち、必要に応じて目の粗いろ紙や篩などで濾過してソバの実を取り除き、必要に応じさらに遠心分離にかけて微粉を除去した後、そのまま若しくは濃縮して、不要物質を除去するための吸着処理に供される。吸着処理は、常法に従って行うことができ、例えば活性炭、シリカゲルまたは多孔質セラミックなどによる吸着処理;スチレン系のデュオライト S-861(商標Duolite, U.S.A.ダイヤモンド・シャムロック社製、以下同じ)、デュオライト S-862、デュオライト
S-863又はデュオライト S-866;芳香族系(架橋スチレン系)のセパビーズ SP70(商標、三菱化学(株)製、以下同じ)、セパビーズ SP700、セパビーズ
SP825;ダイヤイオン HP10(商標、三菱化学(株)製、以下同じ)、ダイヤイオン HP20、ダイヤイオン HP21、ダイヤイオン HP40、及びダイヤイオン
HP50;あるいはアンバーライト XAD-4(商標、オルガノ製、以下同じ)、アンバーライト XAD-7、 アンバーライト XAD-2000などの合成吸着樹脂を用いた吸着処理を挙げることができるが、当該処理によって、水性溶媒浸出液からルチン及び低極性成分などを吸着除去させることが可能なものが選択されるべきである。なお、本発明で得られた血管拡張作用を有する成分は、三菱化学製セパビーズSP70を担体として用いたカラムに水性溶媒浸出物を通液する際に、担体に吸着されずに溶出する特徴を有していることから、この物性を利用して分離精製が可能である。なお、ルチンは担体に吸着され、そのままでは溶出してこない。
【0015】
吸着処理を経た後、溶出液を通常の手段により濃縮、凍結乾燥して、粗精製物を得ることができる。ここで得られる粗精製物は、緩やかな血管拡張作用を有する。
【0016】
5.粗精製物の分画
ソバ抽出物の分画は、例えば、以下の手順に従って好適に行うことができる。まず、粗精製物に、塩酸、酢酸などでpHを酸性とした水を添加して溶解あるいは懸濁させ、次いで酢酸エチルや2−ブタノン等の水とは混和しない極性有機溶媒を加え、酢酸エチル/水、2−ブタノン/水で液液分配を行い、水層と有機層に分抽する。ここで得られる酸性の水層は、塩基性成分を主に含んでおり、緩やかな血管拡張作用を有する(塩基性画分)。この塩基性画分には、緩やかな血管拡張作用を有するソバ由来の非ルチン化合物が含有されていると考えられる。次に、有機層の更なる分画は次のとおりである。該有機層に、炭酸水素ナトリウム水溶液などのアルカリ性水溶液を加えて液液分配を行い、アルカリ性の水層と有機層に分抽する。これにより、有機層画分には中性化合物が主に残留することになる(中性画分)。アルカリ性の水層に塩酸、酢酸等を添加してpHを酸性にした後、酢酸エチル/水、2−ブタノン/水等で液液分配し、有機層を得る。ここで得られる有機層画分は、前述の塩基性画分よりも強い血管拡張作用を有する(酸性画分)。前述の塩基性画分に含まれる緩やかな血管拡張作用を有するソバ由来化合物とは別の、強い血管拡張作用を有するソバ由来化合物が酸性画分に分画されたものと考えられる。なお、これらの操作に使用される有機溶媒は、活性成分の抽出の程度により適宜選択されるべきであるが、活性成分の物性上、pHを考慮した酢酸エチル/水による液液分配にて活性成分が分画されることを特徴とする。
【0017】
以上の抽出物及び画分は、血管拡張作用を有するソバ由来化合物を含有している限り、いずれの段階の抽出物及び/または画分を使用してもよい。どの段階の抽出物及び/または画分を用いるかは、所望の摂取量や所望の血管拡張作用の程度等の条件、投与方法ならびに嗜好性、呈味性に応じて適宜選択が可能である。また、これらのソバ由来化合物を含有する抽出物及び画分は、多方面にわたって様々な摂取形態で応用することが可能である。多くの場合、他の結合剤や、飲食可能な飲食用素材と組合わせて所謂組成物として使用することができる。例えば、医薬品とする場合は、適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤と組合わせて経口固形剤として、あるいはイオン交換水又は生理的食塩水と組合わせて経口液剤又は注射剤として使用できる。また、このような医薬品に限らず、緑茶、紅茶、烏龍茶、雑穀茶等に配合して飲料として、あるいはビスケット、パン、飴等に配合して食品として日常的に摂取可能な形態で提供することも可能である。また、上記医薬品に準じて錠剤とすることにより所謂サプリメントとしても利用可能である。
【0018】
以下に、これら摂取形態について具体的に説明する。
本発明を医薬品として用いる場合は、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。この経口投与剤は、上記油脂組成物の他、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加して製造することができる。
【0019】
本発明を飲食品として用いる場合は、例えば特定の機能を発揮して健康増進を図る健康食品や飲料としての使用が挙げられる。具体的には、かかる化合物を含有したカプセル剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤等からなる所謂サプリメント、パン、ケーキ、クッキー等のベーカリー食品類;ソース類、スープ類、ドレッシング類、マヨネーズ類等の調味料:牛乳、ヨーグルト、クリーム類等の乳製品;チョコレート、キャンデー等の菓子;あるいは緑茶、紅茶、烏龍茶、麦茶、雑穀茶、果汁、野菜、乳飲料、清涼飲料、及び炭酸飲料等の飲料等が挙げられる。なお、ここで、抽出物は抽出液であってもよい。また、より簡便に本抽出物乃至組成物を食品として用いる場合の方法として、ソバ実を前述の方法による浸出した浸出液を利用し、食品や飲料に加工する方法も挙げられる。
【0020】
本発明のソバ由来化合物を含有する浸出液、抽出物及び画分は、果汁・果実飲料、コーヒー飲料、烏龍茶飲料、緑茶飲料、紅茶飲料、麦茶飲料、野菜飲料、雑穀茶飲料等の他の飲料と組み合わせることで、幅広い範囲の飲料を提供することが可能である。例えばソフトドリンクである炭酸飲料、果実エキス入り飲料、野菜エキス入りジュースや、ニアウオーター、スポーツ飲料、ダイエット飲料等に適宜添加することもできる。また消費者の嗜好にあわせて茶葉の微粉末のような不溶性化合物をあえて懸濁させた形態も使用できる。また、本発明の血管拡張作用を有する化合物はソバ植物体から前述の方法で浸出したソバ植物体浸出液に、効率よく含有されていることから、この浸出液自体を用いて飲料とすることもできる。さらに、該成分の摂取について携帯性、保存性を考慮に入れた場合、該当成分を含有させた粉末飲料や、該当成分を利用者自らの操作による浸出により飲用が可能となるようなソバ実利用食品とすることもできる。
【0021】
これらの中でも特に緑茶、烏龍茶、紅茶、雑穀茶などの本来甘味料を必要としない飲料形態での処方が好ましい。また紅茶などに甘味料を使用する場合については低カロリーの人工甘味料を使用するほうが好ましい。
【0022】
飲料には、処方上添加して良い成分として、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独、又は併用して配合しても良い。
【0023】
飲料を容器詰飲料にする場合、使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の形態で提供することができる。ここでいう容器詰飲料とは希釈せずに飲用できるものをいう。
【0024】
また、容器詰飲料は、例えば、金属缶のように容器内を完全に液で満たすか、脱気、窒素置換又はその両方を行って後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。更に、酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻す等の操作も可能である。
【0025】
ソバ由来化合物を含有する抽出物及び画分を、医薬として使用する場合の投与量は、精製度、およびどの段階の抽出物及び/または画分を用いるか、または、年齢、体重、性別、症状、治療効果、投与方法、処理時間などの種々の要因によって異なるが、有効成分であるソバの抽出物の量として、経口投与の場合は通常大人1人1日当たり原料のソバ実乾燥重量相当に換算して8〜600g、特に30〜300gの範囲を1日1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0026】
本発明のソバ由来化合物を含有する抽出物及び画分を飲食物として摂取する場合の摂取量は、どの段階の抽出物及び/または画分を用いるか、投与または摂取の形態等によっても異なるが、原料のソバ実乾燥重量相当に換算して1〜300g、特に2〜150g、さらに好ましくは4〜100gの範囲を1日に摂取できるような設計を行うと、有効量の摂取が容易であり、効果の点で好ましい。しかし、飲食物の場合は医薬品とは異なり、保健機能の維持という目的、並びに、呈味性、嗜好性を考慮した場合においては、上記の範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
1.ダッタンソバ熱水抽出物分画の調製
ダッタンソバの実(ソバの実を水洗し、蒸熱、乾燥後、通常の方法で脱穀、焙煎したもの)1000gを、12.3Lの温水(水温95℃)で20分間浸出した後濾過して実を取り除き、これを母液とした(水性溶媒浸出物)。母液を遠心分離(3000rpm、10分)にかけ、上澄を2号ろ紙(東洋濾紙社製)で濾過して濾過液(約8L)を得た。濾過液をSP70カラム(三菱化学社製、φ70mm×200mm)に付して得られた溶出液を凍結乾燥して、濃縮物Aを得た(粗精製物)。この濃縮物Aを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、ルチンは含有していなかった。粉末状の濃縮物1gに50mM塩酸を5mL添加して溶解した後、等量の酢酸エチルを加えて酢酸エチル/水で液液分配した。水層は濃縮乾燥し、濃縮物Bとした(塩基性画分)。有機層は5%炭酸水素ナトリウム水溶液を10mL添加して液液分配した後、有機層を濃縮乾燥して濃縮物Cとした(中性画分)。水層に5mM塩酸を10mL添加してpHを酸性とした後、酢酸エチル20mL添加して酢酸エチル/水で液液分配した。有機層を乾燥し、濃縮物Dとした(酸性画分)。濃縮物B〜Dの濃縮物Aに対する収量は、濃縮物Bが58.6%、濃縮物Cが12.1%、濃縮物Dが1.2%であった。分画工程を図1に示す。
【0028】
2.血管張力測定
8〜10週齢のSDラットの胸部大動脈を2〜3mmに切断し、リン酸緩衝液4.5mLを満たした微小マグヌス実験装置(MTOB−1Z、ラボサポート社製)に付し、2gの張力を負荷した。平衡化して張力のベースラインが安定した後、収縮剤として300mM塩化カリウム(KCl)または1.0μMフェニレフリン(phe)を0.5mL添加した(終濃度KCl30mM、phe0.1μM)。張力が上昇して一定となった後、濃縮物A〜Dの30mM塩化カリウム溶液または0.1μMフェニレフリン溶液を低濃度から追加的に添加した。濃縮物A〜Dの添加による張力の減少量を、各画分を添加していない場合を100とした時の百分率、すなわち弛緩率で示した。
【0029】
また、血管弛緩作用における一酸化窒素(NO)の影響を調べる目的で、終濃度0.1μM Pheで血管収縮させた系内に、NO合成阻害剤L−ニトロ−モノメチルアルギニン(L−NMMA)を100μM添加して、上記と同様の試験を行った。すなわち、試験サンプル溶液を低濃度から追加的に添加し、弛緩率を求めた。陽性対照として、NOに依存せずに血管弛緩作用を示すベラパミル(verapamil)1.0μMを用いた。
【0030】
3.DPPHを用いたラジカル捕捉能の測定
各画分を、適当な濃度に溶解させたエタノール溶液0.4mLに、0.1M
MESバッファー(pH6.8)1.6mLを添加し、これに0.4mM DPPH溶液1.2mLと添加して十分に混和させた。DPPH溶液の添加1分後をスタート時点として、吸光度(517nm)を経時的に測定し、DPPHラジカル減少速度(単位U=mmol−DPPH/mL・min)を求め、DPPHラジカル捕捉活性(U/g)を求めた。
【0031】
4.結果
濃縮物A〜Dを添加した血管張力測定の結果、濃縮物A及びBを添加した場合に弱い血管弛緩作用が見られた(図2及び図3)。一方、濃縮物Aを液液分配して得た濃縮物Dでは、強い弛緩作用が見られた(図4)。濃縮物Cには活性は認められなかった(図示せず)。
【0032】
図5は濃縮物B、C及びDの濃度と血管弛緩作用の関係を示すグラフである。0.5〜2mg/mLにおいて濃縮物Cは血管弛緩作用を示さなかったが、濃縮物Bは弱い活性を示し、濃縮物Dは強い活性を示した。濃縮物Dに関してさらに低濃度で血管弛緩作用を測定したところ、用量依存性が認められ、EC50=0.25mg/mLであった(図6)。最も強い活性を示した濃縮物Dに関してNO産生阻害剤L−NMMAの存在下で同様の試験を行ったところ、血管弛緩作用は消失した(図7)。
【0033】
DPPHを用いたラジカル捕捉能を測定した結果、濃縮物B及びCには活性が認められなかったが、濃縮物Dに用量依存的な活性が認められた(図8)。この結果より、濃縮物Dの血管弛緩作用は酸化ストレスの改善によるNO産生系の調節に起因したものであることが推察された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は血管拡張作用を有する化合物のみならず、血管拡張により改善する疾病を緩和・軽減する薬剤や、健康食品等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ダッタンソバ水性溶媒浸出物の分画工程図である。
【図2】ダッタンソバ水性溶媒浸出物の濃縮物Aを添加した場合の血管弛緩作用測定結果を示すグラフである。
【図3】ダッタンソバ水性溶媒浸出物の濃縮物Bを添加した場合の血管弛緩作用測定結果を示すグラフである。
【図4】ダッタンソバ水性溶媒浸出物の濃縮物Dを添加した場合の血管弛緩作用測定結果を示すグラフである。
【図5】ダッタンソバ水性溶媒浸出物の濃縮物B、C及びDの濃度と血管弛緩作用の関係を示すグラフである。
【図6】ダッタンソバ水性溶媒浸出物の濃縮物Dの濃度と血管弛緩作用の関係を示すグラフである。
【図7】NO産生阻害剤L−NMMAの存在下でダッタンソバ水性溶媒浸出物の濃縮物Dを添加した場合の血管弛緩作用測定結果を示すグラフである。
【図8】ダッタンソバ水性溶媒浸出物の濃縮物B、C及びDの濃度とラジカル捕捉活性の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソバ属植物から水性溶媒により浸出される、血管拡張作用を有する非ルチン化合物。
【請求項2】
ルチン成分を吸着除去して得られる請求項1に記載の非ルチン化合物。
【請求項3】
ソバ属植物の水性溶媒浸出物の、酢酸エチル/水を用いた液液分配において、アルカリ性および酸性の水層に抽出されることを特徴とする、血管拡張作用を有する非ルチン化合物。
【請求項4】
ソバ属植物の水性溶媒浸出物の酢酸エチル/水を用いた液液分配において、特にアルカリ性水溶液に抽出されることを特徴とする、血管拡張作用を有する非ルチン化合物。
【請求項5】
前記ソバ属植物がソバ(Fagopyrum esculentum)またはダッタンソバ(Fagopyrum tataricum)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の血管拡張作用を有する非ルチン化合物。
【請求項6】
前記ソバ属植物の使用部位が実であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の血管拡張作用を有する非ルチン化合物。
【請求項7】
前記水性溶媒が水であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の血管拡張作用を有するソバ由来非ルチン化合物。
【請求項8】
医薬品である請求項1〜7のいずれか1項に記載のソバ由来非ルチン化合物を含有する組成物。
【請求項9】
飲食品である請求項1〜8のいずれか1項に記載のソバ由来非ルチン化合物を含有する組成物。
【請求項10】
前記飲食品が、容器詰めの緑茶飲料、紅茶、烏龍茶、麦茶、雑穀茶、果汁飲料、野菜飲料、乳飲料、清涼飲料水又は炭酸飲料である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
保健機能食品である請求項1〜10のいずれか1項に記載のソバ由来非ルチン化合物を含有する組成物。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−254410(P2007−254410A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82522(P2006−82522)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】