説明

血管疾患を治療するための化合物および方法

本発明は、治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントを、そのような治療を必要とする患者に投与する工程を含む、血管機能不全の治療、虚血性疼痛の軽減、および/または血管疾患の治療のための方法に関する。血管機能不全、虚血性疼痛、および/または血管疾患は、内皮介在拡張の損傷、eNOS活性の低下、および/またはNO生体利用率の低下に関連していてよい。患者は、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全より選択される疾患に罹患していてよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全のような状態に罹患している患者のような、患者における血管疾患を治療するための新規な方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において明記される先行開示文献のリストおよび議論は、文献が当業者の状態の一部である、または一般共通常識であるという認識として、必然的にみなされるべきではない。
【0003】
狭心症(「胸部絞扼」)(Angina pectoris)は、心筋における酸素の欠乏による胸の痛みである。酸素の欠乏は、通常、心筋に対する虚血、血液供給(それゆえ、酸素供給)の減少によるものである。通常この虚血は、冠状血管における動脈硬化性プラークに起因するが、また冠状血管における局所痙攣にも起因する可能性がある。他の稀な原因は、弁膜症、貧血、大動脈弁狭窄および頻脈性不整脈でありうる。狭心症は、労作性狭心症、物理的および/または心理的活動により引き起こされる狭心症;痙攣性狭心症(変異またはプリンズメタル(Prinzmetal’s)の狭心症)、特定の状態に関係しない突発性狭心症;ならびにX症候群、典型的には、狭心症に関連するが、血管造影における明白な狭窄を伴わない、労作に分類される。狭心症の発作は、通常1分から5分間持続する。発作が休息時に発生した場合、または15分を超えて持続した場合、疾患を不安定狭心症と呼び、心血管系イベントの差し迫った危険に関連する。前記状態は、安定心筋症の症状が悪化した際にも、不安定心筋症として分類される。不安定心筋症は、急性冠症候群(ACS)に属しており、危険な状態である。心筋梗塞は、通常、心筋の一部に血液供給がほぼ完全に無くなることに起因し、アテローム性冠動脈損傷部の破裂と、それに続く閉塞血栓の形成に通常起因する。
【0004】
末梢動脈疾患(PAD)は、心疾患に類似した状態であるが、末梢動脈、通常下肢に存在する。虚血性疼痛は、これらの患者に共通しており、また通常物理的活性に関連する。疼痛、または筋痙攣感覚は、PAD患者における物理的運動の結果としてしばしば経験され、通常、間欠性跛行と呼ばれる。
【0005】
心筋性(CV)疾患における内皮
血管機能不全は、一般的な意味において、ほとんどのCV疾患状態を特徴づけ、しばしば内皮機能の変更を伴う。内皮は、全ての欠陥における最も内側の細胞層である。それは体内で最も大きい内分泌腺であり、循環系を制御する数々の重要な因子を分泌する。複数の最近の研究により、「内皮機能不全」が、CVイベントのリスク増大に関連していることが示されている[1]。「内皮機能不全」は、通常、特定の刺激に反応して血管が拡張する能力として内皮が有している、内皮介在拡張の損失として測定される[2]。内皮介在拡張を測定する複数の方法が存在し、最も一般的なものは、充血の間の上腕動脈の拡張、血流介在血管拡張(FMD)である[3]。そのような内皮介在拡張の測定を使用して、アテローム性動脈硬化関連疾患(高血圧、脂質異常症、糖尿病)に罹患している個人において血管機能が阻害されていることが示される[4,5]。
【0006】
窒素酸化物、NOの内皮からの放出は、内皮介在拡張の鍵となるイベントである[6]。NOの生成において鍵となる酵素は、内皮性窒素酸化物シンターゼ、eNOS (endothelial nitric oxide synthase)である。それは、血管系の制御(血栓症/鬱血、血流制御、および血管増殖)に直接結合して最もよく研究されてきたが、またアテローム性動脈硬化ならびにインスリン抵抗性および/または2型糖尿病(T2DM)の進行にも関連する。例えば、eNOSを欠損したマウスは、正常なeNOS機能を有するマウスよりもアテローム性動脈硬化となる傾向がより高く、またインスリン抵抗性にもなる[7]。
【0007】
動脈疾患状態における血管機能(不全)の、正常内皮介在拡張の回復として測定される正常化は、内皮からのNOの放出が増加した結果であっても、なくてもよい。血管機能不全は、動脈平滑筋のNOに対する感度が低下した結果であっても、なくてもよく、ならびに/あるいは、生成したNOの代謝が増加した結果であっても、なくてもよい。他のメカニズムもまた動脈疾患における血管機能を改変する可能性があり、例えば、血管炎症の間、前炎症および血管収縮物質の形成が増加し、これにより、NOに起因するもののような血管拡張効果を弱める可能性があることがよく知られている。
【0008】
狭心症および末梢動脈疾患における内皮
冠状動脈にアセチルコリンを投与した際に、冠状動脈内皮からのNOの放出が引き起こされ、それにより冠状動脈の拡張(内皮介在拡張)が引き起こされる。この手順が冠状動脈疾患を有する患者内で実行された場合、患者は「逆説的血管収縮(paradoxical vasoconstriction)」を伴い応答する[8]。そのため、いずれかの型の狭心症に罹患している患者における内皮介在拡張の不適切な喪失があること[9, 10]、ならびに、この機能改変は、心筋虚血の、それゆえこれらの患者における狭心痛の重要なきっかけとなることが示されている。
【0009】
PAD(通常、狭窄アテローム性動脈硬化症による足関節上腕血圧比(ankle-brachial index (ABI))の低下として測定される)はまた、内皮介在拡張の低下によってもまた特徴づけられる[11]。疾患が症候性である(断続的跛行)患者において、内皮介在拡張の低下は、非症候性患者においてよりも顕著である[12]。
【0010】
収縮期高血圧は、老年期の集団において重要な疾患であり、通常、中枢動脈画分の硬化が増大することに関連する[13]。また、NOが硬化を軽減し[14]、収縮期高血圧を有する患者において、低下した内皮介在拡張を正常に回復することができる薬剤が、治療上有用である可能性がある。
【0011】
他の興味深い観察では、片頭痛に罹患している患者もまた、内皮介在拡張が損傷しており、血管作働不全(vascular vasomotion abnormalities)が、片頭痛における重要な病態生理学因子である可能性が示唆されている[15, 16]。この文脈において、機能損失に関する[17]、およびCVイベントのリスク増大に関わる[18-20]、eNOS遺伝子における変異もまた、片頭痛に関わることは興味深い[21]。
【0012】
疾患における内皮およびNOの役割のさらに別の面において、勃起不全もまた内皮介在拡張の損傷に関わっており[22]、内皮介在拡張を正常に回復することにより、勃起不全もまた改善するであろう。
【0013】
上記の概説より、内皮NO代謝を正常化することにより血管の状態の内皮制御を正常に回復することが、内皮介在拡張が低下する疾患状態における治療機会であることは明白となる。
【0014】
上述のように、内皮介在拡張は、動脈疾患の進行における重要な因子である。これらの疾患はまた、止血システムにおける改変にもまたリンクしており、血管炎症が動脈血栓のリスクを増大する状態に関連することもよく知られている。
【0015】
アネキシンA5(Annexin A5)は、ホスファチジルセリン(PS)のような電荷リン脂質に結合する内在性タンパク質である[23]。アネキシンA5は潜在的抗血栓剤であり[24]、露出したPSに結合することにより、アネキシンA5は血栓形成におけるPSの効果を阻害することができる「保護シールド(protective shield)」することができると提案されている[25]。この文脈において、APSおよび/またはSLEのような自己免疫疾患を有する患者において、例えば内皮細胞表面におけるPSに対するアネキシンA5の結合を低下させ、それによりPSの露出を増大させることができる、血漿中の抗体が存在することは興味深い。この発見により、これらの患者が一般人の集団よりも血栓イベントのリスクが高い理由を説明できるかもしれない。非常に興味深いことに、血栓イベントに罹患したことがないSLE患者の対照に対して、そのようなイベントに罹患したことがあるSLE患者では、血清の内皮細胞のアネキシンA5結合能の顕著な低下が存在する[26]。
【0016】
アネキシンA5の抗血小板および抗凝集効果に加えて、このタンパク質およびそのアナログ、アネキシンA5二量体ジアネキシンは、肝臓における再灌流損傷の防止に有効であり[27]、それはラットの肝臓移植の結果を改善する[28]ことが示されている。興味深いことに、これら両方の研究において、治療は、接着分子の発現低下として計測される、肝臓内皮における炎症活性の低下に治療が関連した。ジアネキシンが、抗血栓効果による肝臓移植生存を改善させ、その結果肝臓への血液供給が維持されたことが示唆された。
【0017】
以前に、アネキシンA5を使用して、患者における冠状動脈のアテローム性動脈硬化症を安定化し、これらの患者における心筋梗塞のリスクを軽減することができることが提案されている( ADDIN EN.CITE ADDIN EN.CITE.DATA [26]; WO 2005/099744)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO 2005/099744
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本明細書において、出願人は、NO依存メカニズムによってアテローム性動脈硬化マウスにおける内皮介在拡張をアネキシンA5が正常に回復することができることを示す。そして、アネキシンA5またはそのアナログが、血管作動異常がeNOS機能またはNO生体利用率の阻害による疾患におけるこの異常を正常化することができる、抗虚血効果を伴う新規の治療手段を提供する。アネキシンA5が抗虚血特性を有することは、以前に報告されていない。そのような疾患は、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全を含むがそれに限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第一の態様において、本発明は、血管機能不全を治療するため、および/または血管機能を回復するための方法であって、治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを、そのような治療を必要としている患者に投与する工程を含む方法を提供する。
【0021】
言い換えれば、本発明の第一の態様は、血管機能不全の治療、および/または血管機能の回復において使用するための、ネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを提供する。
【0022】
一実施態様において、同じ投与量の血管拡張刺激に対する対照群(任意に、2、3、4、5、6、7、8、9または10回のような、繰り返した複数回の試験により対照群の各メンバーを評価する、健常で年齢が一致し、性が一致した10人の個人)の平均応答能力に比較して、患者の血管拡張刺激に対する応答能力が低下している場合(任意に、2、3、4、5、6、7、8、9または10回のような、繰り返した複数回の試験により患者の平均応答を観測する場合)に、患者は血管機能不全に罹患していると言ってよい。この測定で使用してよい適切な血管拡張刺激は、メタコリン、アセチルコリン、血流速度の増加、ニトログリセリンのようなNO生成化合物、または狭心症患者においてしばしば使用される運動試験のような機能試験からなる群より選択される刺激を含む。
【0023】
血管拡張刺激に対する個人の応答能力を、静脈内、動脈内、舌下、経口または皮下投与による血管拡張刺激物の投与(ここで、血管拡張刺激物は被験者に投与される薬剤である)により引き起こされる血管拡張における変化の測定により、あるいは運動試験のような機能試験に対する応答を測定することにより、評価することができる。
【0024】
血管拡張における変化の測定方法は、当業者に既知であり、最も適切な方法は、血管機能不全の性質および/または使用する血管拡張刺激のタイプに依存して選択されるであろう。
【0025】
血管機能不全を評価する目的のための、被験者における血管拡張を測定する一般的な方法は、上腕におけるかふすにより誘導される虚血に続く上腕動脈の血流介在拡張を測定することである。この技術を使用した過去の報告により、典型的には、若く健康な個人において、虚血後の充血により、およそ10%上腕動脈の半径が増加した一方、CVDまたは2型糖尿病の患者においては、この反応は、例えば2から4%であるか、または全く無いかもしれないことが示されている。反応を、l-NAMEのようなNO精製酵素のインヒビターを投与することにより完全に阻害することができる。
【0026】
あるいは、当業者に周知のプレチスモグラフィーの技術を使用して、血流における変化として被験者の抵抗動脈(例えば、下腕および/または手の動脈)における血管拡張を測定することができる。この実験設定では、場合により、血管拡張刺激は、アセチルコリンのような血管拡張物質の(動脈内のような)局所投与である可能性がある。
【0027】
心臓血管機能を、自転車運動またはトレッドミル(treadmill)歩行試験のような運動により評価することができる。この状況において、心虚血を、心電図(ECG)および/または虚血痛(狭心症)が発症する前に被験者が実行する可能性がある物理的動作の量における変化により測定する。
【0028】
あるいは、太い冠動脈機能を、心臓カテーテルの間の血管拡張化合物の局所投与により評価することができ、応答を、冠動脈造影法により評価する。
【0029】
そして、血管機能不全に罹患している患者は、同じ投与量の血管拡張刺激に応答する対照群の平均能力より、高くても95%、90%、85%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%またはそれより低い、血管拡張刺激に応答する能力を示してよい。
【0030】
狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全に罹患している患者は、一般的に血管機能不全を示す。
【0031】
そして、治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを、治療を必要としている患者に投与することにより、血管機能不全を治療してよく、および/または血管機能を回復してよい。本発明の方法を使用して血管機能不全を治療および/または血管機能を回復する場合、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを、以下のいずれかにより評価することができる。
(i) 血管拡張刺激に対する、血管機能不全に罹患した患者の応答を観察し、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントで処理する前、およびその後に観察される応答と比較する;
(ii) 血管拡張刺激に対する、血管機能不全に罹患し、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントで処理された患者の応答を観察し、観察された応答を、同じ投与量の血管拡張刺激に対する健康な個人の対照群(上述のように、対照群のメンバーはアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントで処理されていない)の平均応答能力と比較する;
(iii) 血管拡張刺激に対する、血管機能不全に罹患し、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントで処理された患者の応答を観察し、観察された応答を、同じ投与量の血管拡張刺激に対する、状態が一致したの対照群(任意に、2、3、4、5、6、7、8、9または10回のような、繰り返した複数回の試験により対照群の各メンバーを評価する、状態が一致し、年齢が一致し、性が一致した10人の個人)の平均応答能力と比較する[ここで、対照群のメンバーはアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントで処理されていない]。
【0032】
血管拡張刺激に対する個人の応答能力を、上述のような血管拡張刺激物の投与に起因する血管拡張の変化を測定することにより評価することができる。
【0033】
アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントの治療効果を上記の(i)のように決定する場合、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントで処理する前の患者において達成される血管拡張刺激誘導血管拡張のレベルを、本発明により治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントで処理することにより、患者において達成される血管拡張刺激誘導血管拡張の処理前のレベルに比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%または少なくとも100%、あるいは少なくとも150%、200%、250%、300%またはそれ以上のようなさらに高い値だけ改善してよい。
【0034】
アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントの治療効果を上記の(ii)のように決定する場合、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントで処理される患者において達成される血管拡張刺激誘導血管拡張のレベルを、対照群において観察される血管拡張刺激誘導血管拡張の平均レベルに比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、実質的に100%またはそれ以上であるレベルに改善してよい。
【0035】
アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントの治療効果を上記の(iii)のように決定する場合、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントで処理される患者において達成される血管拡張刺激誘導血管拡張のレベルを、対照群において観察される血管拡張刺激誘導血管拡張の平均レベルに比較して、少なくとも150%、200%、250%、300%またはそれ以上のような、100%より高いレベルに改善してよい。
【0036】
血管機能不全は、内皮介在拡張の損傷に関連している、および/またはeNOS活性の低下に関連している、および/またはNO生体利用率の低下に関連していてよい。
【0037】
第二の態様として本発明は、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントをそのような治療を必要としている患者に投与することにより、狭心症または末梢動脈疾患(PAD)に関連する苦痛のような、虚血性疼痛を軽減する方法もまた提供する。
【0038】
言い換えれば、本発明の第二の態様は、虚血性疼痛の軽減における使用のためのアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを提供する。
【0039】
本発明の第一または第二の態様により治療される患者は、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全のような状態に罹患している被験者であってもなくてもよく、そして血管機能不全および/または虚血疼痛は、これらの疾患のいずれか一つ以上に関連してよい。
【0040】
患者が狭心症に罹患している場合、それは、冠状血管におけるアテローム斑、冠血管系における局所痙攣、弁疾患、重篤な貧血、大動脈弁狭窄症、および/または頻脈性不整脈(tachyarrythmias)のいずれか一つに起因するものであってもなくてもよい。患者は、労作性狭心症、痙攣性狭心症(変異またはプリンズメタル(Prinzmetal’s)の狭心症)、突発性狭心症またはX症候群に罹患していてもいなくてもよい。患者は、安定または不安定な狭心症に罹患していてもいなくてもよい。
【0041】
本発明により狭心症のような状態を有する患者における、血管機能不全の治療および/または血管機能の回復はまた、急性心筋梗塞(AMI)が発症するリスク、およびhttp://www.who.int/classifications/apps/icd/icd10online/において、AMI (I23.0)に続く心嚢血腫、AMI (I23.1)に続く心房中隔欠損症、AMI (I23.2)に続く心室中隔欠損症、AMI (I23.3)に続く心嚢血腫を伴わない心臓壁の破裂、AMI (I23.4)に続く腱索の破裂、AMI (I23.5)に続く乳頭筋の破裂、AMI (I23.6)に続く心房、心耳、および心室の血栓、ならびにAMI (I23.8)に続く他の進行中の合併症を含む、カテゴリーI.23の疾患国際分類(ICD)によりリスト化されたもののような、それに続く合併症のリスクも軽減してよい。
【0042】
患者が虚血性心疾患に罹患している場合、患者は、アテローム性動脈硬化症または明白なアテローム性動脈硬化を伴わない狭心症に罹患していてもいなくてもよい。
【0043】
患者は、人間であってもなくてもよい。患者は、家畜(例えばネコ、イヌ、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウスまたは他の齧歯類)のような非ヒト動物であってもなくてもよい。
【0044】
第三の態様において、本発明は、治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを、治療を必要としている患者に投与する工程を含む、血管疾患を治療し、予防し、または発症するリスクを低下させる方法を提供する。
【0045】
言い換えれば、本発明の第三の態様は、血管疾患を治療し、予防し、または発症するリスクを低下させる際に使用するためのアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを提供する。
【0046】
本発明の第三の態様により治療される血管疾患は、内皮介在拡張の損傷、eNOS活性の低下、および/またはNO生体利用率の低下に関連する可能性がある。本発明の第三の態様により治療される血管疾患は、本発明の第一および第二の態様に関してより詳細に上述した状態のような、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全より選択される疾患であってもなくてもよい。
【0047】
本発明により狭心症のような状態の治療はまた、急性心筋梗塞(AMI)が発症するリスク、およびhttp://www.who.int/classifications/apps/icd/icd10online/において、AMI (I23.0)に続く心嚢血腫、AMI (I23.1)に続く心房中隔欠損症、AMI (I23.2)に続く心室中隔欠損症、AMI (I23.3)に続く心嚢血腫を伴わない心臓壁の破裂、AMI (I23.4)に続く腱索の破裂、AMI (I23.5)に続く乳頭筋の破裂、AMI (I23.6)に続く心房、心耳、および心室の血栓、ならびにAMI (I23.8)に続く他の進行中の合併症を含む、カテゴリーI.23の疾患国際分類(ICD)によりリスト化されたもののような、それに続く合併症のリスクも軽減してよい。
【0048】
そして、本発明の第三の態様は、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを患者に投与する工程を含む、血管疾患を治療することによりAMIまたはそれに続く合併症のリスクを軽減するための方法を含む。
【0049】
アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを、
・組織プラスミノーゲンアクチベーター、ウロキナーゼ、または微生物酵素のような血栓溶解治療薬
・アスピリン、またはクロピドグレル(clopidogrel)(Plavix)のような抗血漿剤、ならびに/あるいは
・ニトログリセリンおよび/またはモルヒネ
のような一つ以上の活性薬剤と結合して(すなわち、別々に、同時に、または順次)投与することができる。
【0050】
第四の態様において、本発明は、本発明の第一および第二の態様に関してより詳細に上述した状態のような、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全より選択される血管疾患を治療するための、治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを含む薬剤組成物を提供する。血管疾患は、内皮介在拡張の損傷に関連している、および/またはeNOS活性の低下に関連している、および/またはNO生体利用性の低下に関連していてよい(言い換えれば、血管疾患を有する患者は、これらを提示してよい)。
【0051】
第五の態様において、本発明は、血管機能不全を治療および/または血管機能を回復するための、治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを含む薬剤組成物を提供する。血管機能不全は、内皮介在拡張の損傷に関連している、および/またはeNOS活性の低下に関連している、および/またはNO生体利用性の低下に関連している可能性がある(言い換えれば、血管疾患を有する患者は、これらを提示してよい)。血管機能不全は、本発明の第一および第二の態様に関してより詳細に上述したような、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全より選択される疾患に関連している可能性がある。
【0052】
そして、本発明の第四または第五の態様による薬剤組成物は、意図される投与経路および標準的医薬実用に関して典型的に選択されるであろう、薬学的または獣医学的に許容可能なアジュバンド、希釈剤または担体と混合して、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントを含んでよい。前記組成物は、即時適用、徐放適用または制御放出適用の形態であってよい。好ましくは、配合物は、活性成分の一日の投与量または単位、一日の副投与量またはその適切な一部分である。
【0053】
本発明の薬剤組成物は、非経口、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内または皮下投与を意図し、そしてそれらに適する方法で配合されていてもよく、いなくてもよい。それらは、他の物質、例えば溶液を血液と等張にするために十分な塩またはグルコースを含んでよい、無菌水溶液の形態で最もよく使用されてよい。必要があれば、水溶液を適切に緩衝してよい(好ましくはpH3から9)であってよい。無菌状態で適切な薬剤配合物を調製することは、当業者によく知られている標準的な医薬技術により容易に達成されてよい。
【0054】
そのような配合物は、抗酸化剤、バッファー、静菌薬、ならびに、配合物を、意図されるレシピエントの血液に等張にする溶質を含んでよい、水溶性および非水溶性無菌注射液を含んでよく、懸濁化剤および増粘剤を含んでよい水溶性および非水溶性無菌懸濁液を含んでよい。配合物は、単位投与容器または多投与容器、例えば封入されたアンプルおよびバイアル中に存在してよく、使用の直前に、無菌液体担体、例えば注射用の水の添加のみを必要とする凍結乾燥(lyophilised)状態で保存されてよい。即時注射溶液および懸濁物を、上述の種類の無菌粉末、顆粒、および錠剤から調製してよい。
【0055】
ヒト患者のような患者に投与するための、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントの一日投与量レベルに基づく治療上有効量は、大人あたり0.01 mgから1000 mgのアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアント(例えば、0.01 mg/kgから10 mg/kgのような、患者の体重1kgあたり約0.001 mgから20 mg、例えば、約1 mg/kgのような、0.1 mg/kgより多く、20 mg/kg、10 mg/kg、5 mg/kg、4 mg/kg、3 mg/kgまたは2 mg/kgより少ない)であり、単一投与または分割投与されてよい。
【0056】
いずれかのイベントにおける医師は、いずれの患者個人にも最も適するであろう実際の投与量を決定するであろうし、それは特定の患者の年齢、体重および反応によって変化するであろう。上記の投与量は、平均的な場合の例示である。もちろん、より高いまたはより低い投与量範囲が有利である個人の場合がありえ、そのような場合も本発明の範囲内である。
【0057】
獣医学的な使用のために、本発明の化合物を、通常の獣医学的な慣用によって適切で受容可能な配合物として投与し、獣医は、特定の動物に最も適するであろう投与レジメンおよび投与経路を決定するであろう。
【0058】
第六の態様において、本発明は、本発明の第一、第二、および第三の態様のいずれかの文脈における上記の状態の治療、予防、または開始リスクの軽減のための医薬製品の製造における、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】アネキシンA5は内皮介在拡張を回復する。対照apoE(-/-)マウス(上段)、およびアネキシンA5処理マウス(下段)における血圧の代表的な記録を示す。メタコリンを、点線により示されるときに注射した。右のパネルは、eNOSのインヒビター、l-NAMEを前もって投与したものを示す。
【図2】血圧として測定される、内皮介在拡張におけるアネキシンA5の効果の概要を示す。バーは、それぞれ、非処理およびアネキシンA5処理マウスにおける、メタコリンの投与前(基底(basal))、および投与3分後の平均動脈圧を示す。
【図3】収縮期および拡張期血圧におけるメタコリン誘導性変化に対するアネキシンA5の効果の概要を示す。対照(−◆−)またはアネキシンA5処理アテローム性動脈硬化マウス(…■…)のいずれかにおいて、時間0でメタコリンを注射した。収縮期(A)および拡張期(B)血圧に対する効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明のアネキシンA5の機能的アナログ、またはそのバリアントは、ヒトアネキシンA5(配列番号1)、その対立遺伝子(allelic)または遺伝学的バリアント、その哺乳類オルソログ、またはその対立遺伝子または遺伝学的バリアントである可能性がある。好ましくは、アネキシンA5の機能的アナログ、またはそのバリアントは、配列番号1のヒトアネキシンA5に、50%、60%、70%、75%より高い、80% または 85%より高い、90%より高い、あるいは好ましくは95%または99%より高い同一性を有する。
【0061】
2個のアミノ酸配列の間の同一性パーセントは、以下のように決定する。最初に、アミノ酸配列を、BLASTNバージョン2.0.14およびBLASTPバージョン2.0.14を含むBLASTZのスタンドアロン(stand-alone)バージョンに由来する BLAST 2配列 (Bl2seq)プログラムを使用して、例えば、配列番号1と比較する。このBLASTZのスタンドアロンバージョンを、生物工学インフォメーションウェブサイトncbi.nlm.nih.gov.で、米国政府のナショナルセンター(U.S. government’s National Center for Biotechnology Information web site)より取得することができる。Bl2seqプログラムの使用法を説明する指示書を、BLASTZに添付されるreadmeファイル中に見出すことができる。Bl2seqは、BLASTPアルゴリズムを使用して2個のアミノ酸配列を比較する。2個のアミノ酸配列を比較するために、Bl2seqのオプションが以下のようにセットされる。
iは、比較する第一のアミノ酸配列を含むファイルにセットされ(例えばC:\seq1.txt);
jは、比較する第二のアミノ酸配列を含むファイルにセットされ(例えばC:\seq2.txt);
pは、blastpにセットされ;
oは所望のいずれかのファイル名にセットされ(例えばC:\output.txt);および
他の全てのオプションは、デフォルトのセッティングのままにされる。例えば、以下のコマンドを使用して、2個のアミノ酸配列の比較を含む出力ファイルを生成することができる:C:\Bl2seq -i c:\seq1.txt -j c:\seq2.txt -p blastp -o c:\output.txt.
2個の比較した配列がホモロジーを有するのであれば、指定された出力ファイルが、位置あわせした配列(aligned sequence)として、ホモロジー領域を提示する。2個の比較した配列がホモロジーを有さなければ、指定された出力ファイルは、位置あわせした配列を提示しない。位置あわせされれば、一致した数を、両方の配列に存在する同一ヌクレオチドまたはアミノ酸残基の位置の数を数えることによる決定する。
【0062】
同一性パーセントを、同定される配列において決定される配列の長さで、一致した数を割り、算出された数をその後100でかけることにより決定する。例えば、ある配列を、配列番号1で決定される配列(配列番号1で決定される配列の長さは320である)と比較し、一致する数が288である場合、配列は、配列番号1で決定される配列に対して90パーセントの同一性(すなわち、(288 / 320) * 100 = 90)を有する。
【0063】
そして、アネキシンA5の機能的アナログ、またはそのバリアントは、そのアネキシンA5に相同な様式で機能する塩基性性質が明確には変化していないタンパク質が生じるのであれば、1個以上の位置でアミノ酸の挿入、削除、または置換を有するタンパク質であってよい。本文脈で「明確に」とは、バリアントの性質が、もとのタンパク質のひとつと異なり、はっきりしないことがないであろうと当業者が判断することを意味する。
【0064】
「保存的置換(conservative substitution)」とは、Gly、Ala; Val、Ile、Leu; Asp、Glu; Asn、Gln; Ser、Thr; Lys、Arg; およびPhe、Tyrのような組み合わせを意図する。
【0065】
そのようなバリアントを、当業者によく知られたタンパク質工学および部位特異的変異導入を使用して作成してよい。
【0066】
本発明のアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントは、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントのダイマーであってもなくてもよく、PEG化したアネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアントであってもなくてもよい。ジアネキシンA5およびPEG化したアネキシンA5は、WO 02/067857に開示されている。
【0067】
PEG化は、ポリペプチドまたはペプチド模倣化合物(本発明の目的では、アネキシンA5または機能的アナログ、またはそのバリアント)が、1個以上のポリエチレングリコール(PEG)が1個以上のアミノ酸またはその誘導体の側鎖に共有結合するように改変されている、当業者に既知の方法である。それは、構造化学技術(MASC)を改変する最も重要な分子の一つである。他のMASC技術を使用してよく、そのような技術により、分子の薬理動態学的性質を改善してよく、例えばそのin vivoにおける半減期を延長してよい。PEG-タンパク質結合体は、最初に、それが反応するようにPEG部分を活性化し、本発明のタンパク質またはペプチド模倣化合物に結合させることにより形成される。PEG部分は、早期の部分(モノ官能化PEG;mPEG)が12kDa以下の分子量を有する直鎖状であり、後期部分が増加した分子量であるように、分子量および形状が比較的反動する。PEG2は、PEG技術における最近のイノベーションであり、30kDa(またはそれ以下)のmPEGを、(PEG化により他のアミノ酸にmPEGが付加して伸長する可能性があるにもかかわらず)さらに反応して、より大きい分子量の直鎖状mPEFのように振舞う分子構造を形成するリジンアミノ酸に結合させることに関する(Kozlowski et al., (2001), Biodrugs 15, 419-429)。PEG分子をポリペプチドの結合させるために使用してよい方法は、Roberts et al., (2002) Adv Drug Deliv Rev, 54, 459-476、Bhadra et al., (2002) Pharmazie 57, 5-29、Kozlowski et al., (2001) J Control Release 72, 217-224およびVeronese (2001) Biomaterials 22, 405-417、ならびにそれらに引用されている引用文献にさらに記載されている。
【0068】
本発明のポリペプチドまたはペプチド模倣化合物をPEG化する有利な点は、複数の製品に対して、投与後のより持続した吸着ならびに制限された分布をもたらす腎クリアランスの低下を含み、それは、より一定で持続した血漿濃度に至り、それゆえ治療上の有効性を向上させる(Harris et al., (2001) Clin Pharmacokinet 40, 539-551)。更なる有利な点は、治療用化合物の免疫原性を低下させ(Reddy, (2001) Ann Pharmacother 34, 915-923)、毒性をより低くする (Kozlowski et al., (2001), Biodrugs 15, 419-429)ことを含む可能性がある。
【0069】
本発明によるアネキシンA5の機能的アナログ、またはそのバリアントは、アネキシンA5、またはそのバリアントの配列を含む融合タンパク質である可能性がある。そして、例えばアネキシンA5またはそのバリアントを、患者の循環器系内における分子の半減期を伸長する、および/または分子に更なる機能性を付加するように、一個以上の融合パートナーポリペプチドに融合することができる。
【0070】
アネキシンA5の「機能的」アナログ、またはバリアントによって、同一条件下においてヒトアネキシンA5(配列番号1)により提示されるものの、好ましくは少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99% または約100%であるレベルで生物学的膜のホフファチジルセリンへ結合することができるタンパク質が意味される。生物学的膜におけるホフファチジルセリンへのアネキシンA5の結合を測定する方法は、当業者に既知である[29]。
【0071】
アネキシンA5の「機能的」アナログ、またはバリアントは、付加的に、または別に、発明の第一、第二、および第三の態様によって血管機能不全を治療するため、血管機能を回復するため、虚血疼痛を軽減するため、および/または血管疾患を治療するため、同投与量(すなわち相同モル数)で使用される際に、ヒトアネキシンA5(配列番号1)の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99% または約100%の治療活性を有してもよい。
【0072】
この文脈において、アネキシンA5の「機能的」アナログ、またはバリアントの治療活性を、ヒトアネキシンA5(配列番号1)に比較して、上記の血管機能を回復する、および/または4ヶ月間高脂肪および高コレステロールの食事を与えられ維持されたapoE(-/-) マウスが、腹腔内投与によって、モル相同量の、問題となっているアネキシンA5またはアナログまたはバリアントのいずれかを、連続した3日間の朝1日1回、マウスに投与し、最終注射はメタコリンの投与のおよそ2から3時間前である場合に、3 μg/kg bw (10μl/g)のメタコリン(Sigma)の腹腔内投与に反応して内皮介在拡張を示す能力が回復する能力を比較することにより決定してよく、、被験者における内皮介在拡張の程度を。以下の実施例で実行される方法論を使用するような左頸動脈のカテーテル法により血圧を評価することにより測定する。
【0073】
本明細書における「eNOS活性の低下またはNO生体利用率の低下に関連する疾患」とは、eNOS活性の低下またはNO生体利用率の低下により起因する、を引き起こす、または、に至る、と共通の原因を有する、あるいは、と共存する、血管疾患を指す。
【0074】
本明細書における「疾患に関連する血管機能不全」とは、問題となる疾患により起因する、を引き起こす、または、に至る、と共通の原因を有する、あるいは、と共存する、内皮介在拡張の欠損のような、血管機能不全を指す。そのような疾患の例が以下に提供される。
【実施例】
【0075】
遺伝子ターゲッティングによりアポリポタンパク質E欠損であるようにしたマウス(apoE(-/-)マウス)は、脂質異常症であり、アテローム性動脈硬化が進行する。この過程は、マウスにいわゆるウエスタン餌(Western diet)、例えばHarlan Teklad TD.88137を与えることにより加速する。これは、21% 無水乳脂肪(バター脂肪)、34%スクロース、および総計0.2%のコレステロールを有する精製餌であり、通常のマウスの餌に比較して、過剰の脂肪およびいくらかのコレステロールを含む。出願人は、そのような餌をオスapoE(-/-)マウスに少なくとも4ヶ月間与え、その後内皮介在拡張におけるアネキシンA5の効果を評価した。このようにして、マウスは、例えば狭心症、高血圧、糖尿病および脂質異常症を有する患者に典型的である内皮介在拡張の損傷を含む血管疾患を進行させるであろう。
【0076】
麻酔マウスにおける内皮介在拡張の評価
4.5%イソフルラン(Isoba(登録商標)vet, Schering-Plough Animal Health, Denmark)により麻酔を誘導し、その後必要に応じてイソフルランを(通常1.5%から2%で)供給することにより麻酔を維持した。
【0077】
血圧測定のために、出願人は、左頸動脈においてカテーテル法(Samba Sensor preclin 420 LP, Vastra Frolunda, Sweden)を実行した。その後カテーテルを徐々に大動脈弓内に移動させた。SambaセンサーをSamba 3200ユニットに結合し、それから2 kHzデータをPowerlabソフトウェア (AD Instrument, バージョン5)に移動させ、保存した。
【0078】
その後マウスをおよそ15分間固定した。そして内皮介在拡張を、3μg/kg bw (10μl/g)のメタコリン (Sigma)を腹腔内(ip)投与により誘導し、5分間血圧を測定した。内皮介在拡張を全身的に刺激した場合、総末梢血管抵抗は低下し、血管拡張を動脈圧の低下として測定することができる。メタコリンにより、動脈内皮を一時的に刺激して、NOを放出させ、その後通常の健康なマウスでは内皮介在拡張を引き起こすであろう。メタコリンの効果が消失し、ベースラインの血圧が再び確立した後に、50 mg/kg bwのip投与量のL-NAME (NG-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル) (Sigma)を投与した。これは、酵素eNOSのインヒビターであり、アルギニンをNO(およびシトルリン)に変換し、それゆえ内皮介在拡張の原因となっている。その後新しいプラトーに達するまで(12から15分)血圧を測定し、その後3μg/kgのメタコリンを再び投与し、5分間血圧を測定した。
【0079】
結果
通常のマウスは、メタコリン注射に対して、収縮期および拡張期血圧の両方が低下する反応を示すであろう。ウェスタン餌を与える4ヶ月後、複数のapoE(-/-)マウスの予備実験を行い、メタコリン注射に対する通常反応がないことを確認した。これを確立した際に、3日間の朝に腹腔内注射により、マウスは1 mgの組換えヒトアネキシンA5 (Bender Medsystems, Vienna, Austria)/kg bwまたはそのビヒクル(生理食塩水)を受け取った。3日目に、およびアネキシンA5/ビヒクルの最終注射後およそ2から3時間で、上記のように内皮介在拡張を調査した。図1は典型的な実験の例である。
【0080】
図1は、対照apoE(-/-)マウス(上の軌跡)およびアネキシンA5処理マウス(下の軌跡)における血圧の代表的な記録を示す。点線により示されるときにメタコリンを注射した。全く反応しない対照マウス(左のパネル)に比較して、アネキシンA5で処理したマウスは、深い血管拡張を伴って反応し、顕著な改善が見られた。右のパネルは、この反応が、eNOSのインヒビター、 l-NAMEを前に投与することにより阻害されることを示し、内皮介在拡張に対するアネキシンA5の効果が、NOにより介在されることを実証している。収縮期血圧の低下は、拡張期血圧の低下よりも大きかった。
【0081】
図2では、狭心症のこのモデルにおける、内皮介在拡張に対するアネキシンA5の効果が概説され、非処理apoE(-/-)マウスにおいて、メタコリンの注射により平均血圧が低下しなかったことが示されている。対照的に、アネキシンA5処理apoE(-/-)マウスでは、メタコリンに反応して、血圧が顕著に低下した。この効果はl-NAMEによりブロックされるため、この効果はeNOS/窒素酸化物により仲介されていると結論付けられた。
【0082】
図3は、3日間のアネキシンA5処理により、収縮期(A)および拡張期(B)血圧の両方において内皮介在低下を顕著に改善したことを示す。アネキシンA5の処理により、拡張期血圧の低下により示される動脈抵抗の機能を回復させただけではなく、薬剤処理もまた、中心動脈の適合性(compliance)もまた改善した。
【0083】
この試験は、動脈疾患/狭心症のマウスモデルにおいて、内皮の通常機能をアネキシンA5が回復することができることを初めて示す。この効果は、内皮におけるNO代謝の回復により介在された。この発見は、抗虚血効果を示すアネキシンA5の潜在的可能性を示す。狭心症の最も一般的な治療法は、通常ニトログリセリンのような有機硝酸塩の形態で、外来NOを投与することにより、虚血性心筋組織への血流を回復することである。外来有機硝酸塩を繰り返し使用することは、硝酸塩耐性の進行に関わるため、この治療は通常、急性の虚血症状に限定されている。本発明において、出願人は、正常なNO代謝が阻害される血管疾患における、代替的抗虚血治療法として、アネキシンA5の潜在的可能性を示した。
【0084】
概説
内皮介在拡張の損傷による動脈作働不全は、虚血性血管疾患を有するほとんどの患者に共通する。そのような疾患のモデルにおいて、驚くべきことに、NO依存メカニズムを通して内皮介在機能の損傷をアネキシンA5が回復することが発見された。
【0085】
[参考文献]



【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントを、そのような治療を必要とする患者に投与する工程を含む、血管機能不全を治療する方法。
【請求項2】
前記血管機能不全が、内皮介在血管拡張の損傷、内皮窒素酸化物シンターゼ(eNOS)の減少、および/または窒素酸化物(NO)生体利用率の低下に関するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントを、そのような治療を必要とする患者に投与することにより、虚血性疼痛を軽減する方法。
【請求項4】
前記治療により、急性心筋梗塞(AMI)および/またはそれに続く合併症が発症する危険を低下させる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記患者が、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全より選択される疾患に罹患している、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記アネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントが、
a) ヒトアネキシンA5(配列番号1)
b) ヒトアネキシンA5の哺乳類オルソログ
c) a)またはb)の対立遺伝子または遺伝学的バリアント
d) ヒトアネキシンA5、配列番号1に対して75%より高い、例えば80%より高い、90%より高い、またはより好ましくは95%より高い相同性を有するタンパク質である、アネキシンの機能的アナログ
e) a)、b)、c)、またはd)のいずれかのダイマー、あるいはa)、b)、c)、またはd)のいずれかを含む融合タンパク質、ならびに
f) a)、b)、c)、d)またはe)のいずれかのPEG化バリアント
から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントを、非経口、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、または皮下投与する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントを、そのような治療を必要とする患者に投与する工程を含む、血管疾患を治療する方法。
【請求項9】
前記血管疾患が、内皮介在血管拡張の損傷、内皮窒素酸化物シンターゼ(eNOS)の減少、および/または窒素酸化物(NO)生体利用率の低下に関するものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記治療により、急性心筋梗塞(AMI)および/またはそれに続く合併症が発症する危険を低下させる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記血管疾患が、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全より選択される、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記アネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントを、組織プラスミノーゲンアクチベーター、ウロキナーゼ、または微生物酵素のような血栓溶解治療薬と併せて投与する、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記アネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントを、クロピドグレル、またはアスピリンのような抗血漿剤と併せて投与する、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記アネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントが、
a) ヒトアネキシンA5(配列番号1)
b) ヒトアネキシンA5の哺乳類オルソログ
c) a)またはb)の対立遺伝子または遺伝学的バリアント
d) ヒトアネキシンA5、配列番号1に対して75%より高い、例えば80%より高い、90%より高い、またはより好ましくは95%より高い相同性を有するタンパク質である、アネキシンの機能的アナログ
e) a)、b)、c)、またはd)のいずれかのダイマー、あるいはa)、b)、c)、またはd)のいずれかを含む融合タンパク質、ならびに
f) a)、b)、c)、d)またはe)のいずれかのPEG化バリアント
から選択される、請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントを、非経口、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、または皮下投与する、請求項8から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧、片頭痛、2型糖尿病および勃起不全より選択される血管疾患を治療するための、治療上有効量のアネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントを含む薬剤組成物。
【請求項17】
前記アネキシンA5または機能的アナログ、あるいはそのバリアントが、
a) ヒトアネキシンA5(配列番号1)
b) ヒトアネキシンA5の哺乳類オルソログ
c) a)またはb)の対立遺伝子または遺伝学的バリアント
d) ヒトアネキシンA5、配列番号1に対して75%より高い、例えば80%より高い、90%より高い、またはより好ましくは95%より高い相同性を有するタンパク質である、アネキシンの機能的アナログ
e) a)、b)、c)、またはd)のいずれかのダイマー、あるいはa)、b)、c)、またはd)のいずれかを含む融合タンパク質、ならびに
f) a)、b)、c)、d)またはe)のいずれかのPEG化バリアント
から選択される、請求項16に記載の薬剤組成物。
【請求項18】
非経口、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、または皮下投与することを意図された、請求項16または17に記載の薬剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−506590(P2011−506590A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538896(P2010−538896)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/GB2008/004195
【国際公開番号】WO2009/077764
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(510119773)アセラ・バイオテクノロジーズ・アーベー (3)
【Fターム(参考)】