説明

衛星測位システムによる物体の変位抽出方法

【課題】測位データを受け取ることができない場合でもフィルタ処理を可能にし得る衛星測位システムによる物体の変位抽出方法を提供する。
【解決手段】RTK方式による高精度なGPS測位データにより津波などの周期性変位を抽出する方法であって、GPS受信機からの測位データが監視施設に届かなかったときに、そのデータの欠落部分に、届かなくなる直前の所定の計測時間における高精度なデータの平均値を用いて、データの補完を行うことにより、測位データの連続性を維持させる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星測位システムによる物体の変位抽出方法、例えばリアルタイム・キネマティック方式によるGPS受信機を用いて海面の周期性変位を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波高計の出力をA/D変換し、このデータを、津波成分を抽出し得るディジタルフィルタに通過させて、時間経過に対応する水面高データを画面上に波形的に表示する表示器を備えた津波計がある(特許文献1参照)。
【0003】
この津波計のセンサーとしては、これまで、圧力計または超音波変位計などが用いられており、圧力計の場合には海底に設置されて圧力(水圧)の変動を計測するもので、また超音波変位計の場合には、海面からある程度離れた空中または海中(海底も含む)に設置されて、海面までの距離を計測するものである。
【0004】
ところで、空中に設置するセンサーでは、海面の変位だけを正確に計測できるように、当該センサーを設置する浮体や施設などは、海面の変位に追従しないようにする必要があり、また深い水深域においては、設置工事に困難が伴うことになる。
【0005】
また、センサーを海底または海中に設置する場合には、ダイバーによる設置およびメンテナンスなどを必要とし,水深が50m以上となる沖合いでの潜水作業は事実上不可能とされている。
【0006】
このように、海面の上方にまたは海底などに設置されて海面の変位を計測するセンサーにより、沖合いの深い水深域(50m以上)での津波観測を行う場合には、技術的・経済的な困難性を伴うことになり、また引用文献1のように、表示器に変位データを表示させるようにしたものでは、表示器を常時監視する人間が必要となる。
【0007】
これに代えて、海面に浮かぶブイに衛星測位システムの一つであるGPS測位システムにおけるGPS受信機を搭載するとともに地上の基地局とによるリアルタイム・キネマティック方式による高精度な測位データを利用して津波を検出するGPS津波計の技術開発(特許文献2参照)が進んでおり、四国室戸沖に実証機が設置されるとともに、2004年9月5日の紀伊半島沖の地震による津波らしい波形を室戸岬漁港に到達する11分前にキャッチしたと報道される(非特許文献1)など、実機としての可能性を示している。この技術は、海面の上下変動に追従するブイの変位データをオンラインで取得し、その変位データから津波を検出することを目指しているものである。
【特許文献1】特許第2908358号
【特許文献2】特開平11−63984号
【非特許文献1】読売新聞2004年9月7日 見出し「到達11分前、津波キャッチ」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、GPS津波計においては海面変動に追従するブイの位置変動を検出するものであるから、津波に限らず波浪、天文潮汐などの観測にも用途を拡大可能であるが、その場合、それぞれに応じた周波数域を抽出するためにフィルタ処理を行う必要がある。
【0009】
しかし、ディジタルフィルタにて処理を行う場合、測位データが一部でも欠落していると、正しい処理を行うことができず、また精度の悪いデータ(ノイズともいえる)が一部にでも混入している場合には、フィルタにて抽出されたデータにも誤差分が含まれることになり、したがって波浪、天文潮汐などを観測する場合には、悪影響を及ぼすことになる。
【0010】
また、津波検知に至っては、沿岸住民等への早期避難を促すための判断材料として用いられることになるため、誤差データを含むと、津波の誤検知を繰り返す原因になりかねず、信頼性が低下するという問題が生じる。
【0011】
実際、衛星測位システムには衛星からの電波の受信状況や基地局とのデータ通信の状況の影響により、高精度な測位データが途切れる(データが欠落する)可能性がある。例えば、津波の第1波がGPS津波計としてのブイを通過するタイミングでデータが欠落する可能性は小さいものの、可能性が全くないとはいえず、何らかの対策を講じることが望ましい。
【0012】
そこで、本発明は、測位データを受け取ることができない場合でもフィルタ処理を可能にし得るとともに、受け取った測位データが要求される精度範囲外である場合および測位データを受け取ることができない場合でも、フィルタから出力されるデータの精度が低下するのを回避し得る衛星測位システムによる物体の変位抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る衛星測位システムによる物体の変位抽出方法は、
衛星測位システムにおける搬送波位相による高精度相対測位法を利用して物体に配置された測位局にて得られた時系列の測位データをディジタルフィルタに通して外的要因による周期性変位を抽出する方法であって、
高精度の測位データを受け取ることができないときに、データの補完を行い測位データの連続性を維持させるようにした方法である。
【0014】
また、請求項2に係る衛星測位システムによる物体の変位抽出方法は、請求項1に記載の物体の変位抽出方法において、
補完するデータとして、高精度の測位データを受け取ることができない直前から所定の計測時間遡った測位データのうち、高精度の測位データの平均値または直線近似により求めた値を用いる方法である。
【0015】
また、請求項3に係る衛星測位システムによる物体の変位抽出方法は、請求項1または2に記載の物体の変位抽出方法において、
ディジタルフィルタに通す測位データに占める補完データの割合に応じた信頼性情報を、周期性変位とともに出力させる方法である。
【0016】
さらに、請求項4に係る衛星測位システムによる物体の変位抽出方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の物体の変位抽出方法において、
測位局は浮体に設置されており、周期性変位は少なくとも波浪、潮汐および津波のいずれかとする方法である。
【発明の効果】
【0017】
上記請求項1の構成によると、測位データまたは高精度な測位データを受け取ることができない場合でも、フィルタ処理を継続し得るとともに、出力されるデータの精度が低下するのを回避することができる。
【0018】
また、請求項2の構成によると、高精度測位データを用いて補完データを作成するようにしたので、抽出される変位データの精度を低下させることはない。
また、請求項3の構成によると、データの補完は変位を継続して抽出するために必要であるが、信頼性情報を付加することにより後処理側で生じる誤差の推定が可能となり、データの信頼性維持を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る衛星測位システムによる物体の変位抽出方法について説明する。
【0020】
なお、本実施の形態においては、GPS測位データを用いて海面の変位を計測する海面観測システムに、本発明に係る物体の変位抽出方法を適用した場合について説明する。
本実施の形態に係る海面観測システムにおいては、GPS測位システムにおけるリアルタイム・キネマティック方式(以下、RTK方式という)を用いて、外的要因(例えば、風、地震など)による海面の周期性変位、例えば津波成分を含むデータを抽出する方法に適用して説明する。
【0021】
まず、このRTK方式を採用した海面観測システムを簡単に説明すると、海面上(水面上も含むものとし、水面または水位と称した方が呼びやすい場合には、これらの表現を用いるものとする)のブイ(浮体)に設けられたGPS受信機(測位局の一例である)において、位置が既知である陸上の基地局(基準局)からのデータを用いて高精度な相対測位を行う方式であり、またこのGPS受信機で得られたRTKによるデータ(以下、測位データという)が無線にて陸上の監視施設などに送信され、そして当該監視施設に設けられた演算処理装置により変位データが抽出されるとともに津波の発生が検知されるようにしている。
【0022】
このRTK方式は、GPS衛星からの搬送波の位相を計測することで、高精度な計測を行うことができるが、干渉測位における整数波長分である整数値バイアス(整数値アンビギュイティともいう)を確定する必要があり、例えば5個以上のGPS衛星からの測位データに基づきGPS受信機内で当該整数値バイアスを確定し、この確定した整数値バイアスによる高精度な測位データを得るものである。
【0023】
このように、整数値バイアスが決定された場合の計測位置をフィックス解(整数値バイアスが確定した整数値確定状態ともいえる)といい、整数値バイアスを決定することができない場合の計測位置をフロート解(整数値バイアスが確定しない整数値非確定状態ともいえる)という。すなわち、このRTK方式においては、測位精度として、フィックス解(数センチ程度の精度)によるもの、フロート解(数センチ〜数十センチ程度の精度)によるもの、基地局からのデータを用いて補正が行われたDGPS解(数メートル程度の精度で、正確にはコードDGPS解という)によるもの、単独測位による単独測位解(数十メートル程度の精度)によるもの、および解が得られない測位演算不能状態があり、通常、RTK方式のGPS受信機には、現時点での測位精度を知らせるための測位精度データ(精度ステータスともいう)の出力機能が具備されている。
【0024】
そして、本実施の形態に係る海面観測システムでは、ブイ側のGPS受信機からの測位データが監視施設に届かなかった場合、すなわち無線によるデータ送信環境が外的要因により届かなかった場合、当該監視施設における演算処理装置への高精度測位データの入力に欠落が生じるため、この欠落部分に他のデータを補完してデータの連続性(継続性)を維持することにより、または測位精度が低下(劣化)した場合、具体的には、測位精度がフロート解以下になった場合、若しくは整数値バイアスの計算誤りによりデータに跳躍が発生した場合に(すなわち、測位データが高精度でないときに)、測位データに信頼性が失われるため、無いのと同じ高精度でなくなった測位データの部分に他のデータを補完して高精度データとしての連続性を維持することにより、周期性変位の抽出すなわち津波を検出するためのフィルタ処理を継続可能(続行可能)にする方法で、以下、図1のフローチャートに基づき説明する。
【0025】
まず、RTK方式を用いたGPS受信機で得られたブイ、すなわち海面の測位データ(変位データでもある)および測位精度データが無線で正しく受信できているか否か(所謂、物理的データの欠落があるか否か)を判断するとともに、測位精度データが要求される精度を満たしているか否か、また測位データが跳躍現象などを示しているか否かといったデータの不良(これらを総じて異常値という)の有無を判断する(ステップ1)。より具体的に説明すれば、測位データを受信できないという物理的なデータの欠落、および測位データに対して測位精度が満足されていないという意味での正常データ(正常値である)としての欠落の判断が行われる。測位精度については、当該測位精度データがフィックス解であるか、またはフロート解以下であるかが判断される。
【0026】
そして、フィックス解であると判断された場合には、測位データがそのまま採用され(正常値である)、一方、物理的データの欠落、フロート解以下である場合、データに跳躍現象が発生した場合など、データが異常値であると判断された場合には、精度的データの欠落として当該データを無効にする無効化処理が行われる(ステップ2)。具体的には、当該測位データを採用しないという意味のダミーデータが挿入(物理的なデータの欠落)または置換が行われる。
【0027】
次に、フィックス解であると判断された場合の測位データおよび無効化処理が行われた測位データを順次入力して、フィルタでの処理間隔(処理対象となるデータの採取時間に相当し、本実施の形態に係る津波の場合には120秒となる。120秒間とした理由については後述する。)に対して、無効データの割合(継続する無効データの割合、または無効データの合計割合)が25%以下であるか否かが判断される(ステップ3)。25%を超える場合には、当該測位データは不採用データとみなされて以降の処理は中止される。津波検知のために採用する測位データとしての信頼性が低下するのを防止するためである。
【0028】
一方、無効データの割合が25%以下である場合には、一応、測位データとしての信頼性を有すると判断され、後で行われるディジタルフィルタによる処理を継続可能にするために、この無効データの部分に所定データが補完される(ステップ4)。このとき、120秒の測位データに対する補完データの割合およびその測位精度データも併せて出力され、当該データに対して後処理を行う際の、信頼性の度合いを示す目印(目安)にされる。詳しく説明すれば、補完データの割合の大小が、抽出された変位データを用いた後処理に影響を及ぼすことから、信頼性情報を付加することにより後処理側で生じる誤差の推定が可能となり、データの信頼性維持を図り得るからである。
【0029】
この補完データとしては、測位精度データがダミーデータ以外(つまり、フィックス解の場合)であり且つ過去1時間分の測位データに基づく平均値または直線近似(一次線形補完法)により得られるデータが用いられる。
【0030】
なお、図2に、データの補完を行った場合の海面変位(水位)の波形例を示しておく。(a)は測位データそのものを示し、(b)は無効データの個数がゼロである場合の波形を示し、(c)は無効データの個数が連続した30個の場合(検証用として津波の立ち上がり直前に擬似的に挿入した場合)に線形補完を行った波形を示す。
【0031】
次に、この補完された測位データの120秒分が、ローパスフィルタ(ディジタルフィルタである)に通されて、津波よりも短い周期の波浪などの短周期成分が除去される(ステップ5)。
【0032】
なお、本実施の形態においては、津波成分(所謂、津波波形)であるか否かを判別する場合、処理間隔を±60秒(2分)としているため、リアルタイムではなく最大60秒遅れの準リアルタイムとなる。これは、津波よりも短周期の変動成分をノイズとして捉え、周期が5分以下の変動成分を可能な限り除去して周期が10分以上の波形(変動)を歪みなく判別するために、±60秒の放物型ローパスフィルタを用いるためである。
【0033】
ローパスフィルタについては、種々検討したところ、±60秒の放物型であれば、殆どのFIR型ローパスフィルタを採用することができる。その中でも、ハミングウインドウ型フィルタまたはFIR型ローパスフィルタが用いられる。
【0034】
次に、比較的、長い時間の測位データを用いて、津波成分よりも長い周期の天文潮汐などの長周期成分が除去される(ステップ6)。つまり、津波成分を含んだ海面の変位データが得られる。
【0035】
そして、さらに天文潮汐などの長周期成分が除去された測位データ、すなわち変位データに対して、波浪の周期以上で天文潮汐の周期以下の気圧、高潮などによる平均水位の影響成分(ノイズともいえる)が除去されて、補正が行われる(ステップ7)。
【0036】
この平均水位影響成分の除去については、過去12時間分の測位データの平均値すなわち海面の平均水位が求められ、この平均水位が差し引かれることになる。
ここで、上述した方法を用いて長周期成分を除去する理由について述べておく。
【0037】
すなわち、準リアルタイム(最大60秒遅れ)で波形に歪みなく長周期の変動成分を除去しようとすると、ディジタルフィルタを使用することができない。これは、歪みを与えない放物型フィルタを用いると、津波の最大周期とされる数時間以上の処理間隔が必要となるためである。すなわち、3時間以上の長周期の変動成分を放物型フィルタで除去するためには、フィルタ処理間隔が±3時間(計6時間)以上となり、津波波形の判別が3時間遅れになってしまうからである。
【0038】
そこで、長周期成分を除去するために、上述したような天文潮汐成分の除去と高潮等の平均水位影響成分の除去とを組み合わせるようにしたものである。
すなわち、月、太陽、地球などの重力によって生じる天文潮汐は、調和解析によって分潮成分が求められ、将来的な潮汐変動を予測することができる。但し、この方法によると、天文潮汐周期以下の高潮等の水面変動を除去することができない。そこで、計測時刻より過去のデータを用いて、平均水位影響成分の除去を行い、津波波形の判別を行うようにしたのである。
【0039】
ところで、調和解析による分潮成分の計算は、通常1年以上の実測データを用いて行われる。しかしながら、沿岸や沖合に計測器としてのGPS受信機が設置された場合、計測開始後、できるだけ早い時期から準リアルタイムにて津波の判別を行う必要がある。そこで、予測潮位については、津波を判別するための長周期成分の除去だけに必要で、物理的・気象学的な厳密性は不要との観点から、調和解析に必要な入力データの最短日数を検討した結果、6日分のデータを用いるようにした。
【0040】
なお、6日分のデータを用いる理由を、図3および図4を用いて、以下に説明する。
図3は、実測データから主要4分潮の調和常数算定を可能とする入力データの最短期間を検討した事例を示す。検討対象としたデータは、有義波高が3〜4mという比較的高波浪条件の中で、室戸岬沖水深100mのブイ(GPS受信機が具備されている)が捉えた、2004年東海道沖地震津波波形の観測時のものである。図3では、直前の1日分、6日分、および365日分のデータをもとに主要4分潮の振幅と遅角(位相)といった調和常数を、観測時を追って最小自乗法によって算定し、津波波形の抽出を行った。津波以外の成因による潮汐偏差成分の除去としては、直前12時間の平均水位を実測と一致させるようにして行った。なお、波浪等の短周期成分の除去は、±60秒の単純移動平均にハミングウィンドウをかけたフィルターを採用した。図3から、入力データ1日分では天文潮位が正確に予測できていないため、津波波形の抽出ができていないが、6日分の情報があれば、365日分の結果と同等の抽出結果を与えていることがわかる。
【0041】
また、調和解析への具体的な入力データ日数を検討するため、短期間の入力データを用いた抽出波形から、365日分の入力データを用いた抽出波形を差し引いた結果(差)を図4に示す。図4には、入力データとして2日分、5日分、6日分を示している。図4から、点線で示す入力データ2日分の予測潮位を用いた場合の差は、最大で約5cmであり、津波第1波の最大偏差時(6日,0:31)には約4cmとなっている。一方、実線で示す入力データ6日分の予測潮位を用いた場合の差は1cm以下で、津波第1波の最大偏差時(6日,0:31)での差は殆どない、これらの結果より、津波波形抽出に用いる主要4分潮算定に必要とされる調和解析入力データの最短期間は6日程度を設定すれば、実用上問題はないものと考えられる。
【0042】
また、平均水位影響成分については、計測時刻(観測時刻)より過去の一定時間分でのデータの平均値を用いるが、準リアルタイムで測位データを走査しながら処理するために、津波成分が入ってくるとその影響を受けて、その後の処理上での基準水位が変化し、したがって第一波以降の津波の波形を正しく判別できなくなる。そのため、平均水位影響成分の補正については、以下に述べる2つのいずれかの方法が用いられる。
【0043】
一つ目は、計測時刻から12時間分以前のデータ(但し、ダミーデータは除く)の平均水位(平均値)を用いて補正を行う。この方法であれば、津波到達後3時間程度は基準水位の誤差は小さく、津波波形を判別する場合に、無視することができる。なお、津波到達後3時間以降には若干誤差が生じるが、待避・非難など防災の観点からは問題ないものと考えられる。
【0044】
二つ目は、計測時刻よりも1.5時間前から0.5時間前までのダミーデータ以外のデータ(つまり、フィックス解のデータ)の平均水位(平均値)を用いて補正を行うが、津波到達後3時間については、補正に用いる平均水位を固定する(変化させない)。すなわち、補正用としての1.5時間前から1時間分の平均水位は、通常は準リアルタイムにて測位データを走査して再計算されるが、津波の第一波を検出した時点で、その平均水位を固定し、その後3時間については再計算を行わないようにしている。
【0045】
次に、上述したように、天文潮汐成分および平均水位影響成分が除去された変位データと予め設定されている閾値とが比較され、閾値よりも大きい場合には、津波であると判断され、閾値以下である場合には、津波でないと判断される(ステップ8)。
【0046】
なお、津波を判定するための閾値としては、例えばブイが配置されている海域の深度(水深)が用いられる。具体的には、水深が10mであれば閾値は65cm程度、また水深が20mであれば閾値は55cm程度、水深が30mであれば閾値は45cm程度にされる。
【0047】
このように、本実施の形態においては、RTK方式によるGPS受信機からの測位データを用いてブイの変位を計測するとともに、この測位データ(計測データ)が受信できないとき(物理的なデータの欠落)や測位精度がフロート解以下(要求精度から見たデータの欠落)である場合には、データの無効化処理を行うとともに、この無効化されたデータに対して、例えば海面の平均値または線形補完法により得られたデータを補完するようにしたので、ディジタルフィルタを用いてフィルタ処理を継続して行うことができる。すなわち、少なくとも測位データを演算処理装置が受け取れない場合や、受け取ったとしても測位精度低下時または測位不能時に、データの補完を行い測位データとしての連続性を維持させるようにしたので、測位データのフィルタ処理が中断されることがなくなり、したがって周期性変位の抽出を継続して行うことができる。
【0048】
また、高精度測位データを用いて補完データを作成するようにしたので、測位精度が低下した場合または測位不能になった場合でも、大きい変位を与える外的要因が作用していないデータでもって補完することができ、したがって抽出される変位データの精度をあまり低下させることはない。
【0049】
さらに、データの補完は変位を継続して抽出するために必要であるが、信頼性情報を付加することにより後処理側で生じる誤差の推定が可能となり、データの信頼性維持を図ることができる。
【0050】
ところで、上記実施の形態においては、周期性変位として、地震により発生した津波による海面変位を検出する場合について説明したが、例えば風による波浪、または月、太陽、地球などの重力による天文潮汐成分を検出する場合にでも適用することができ、さらには、GPS受信機を陸上の物体に配置することにより、地震による地上での変位の抽出、すなわち地震の検出にも適用することができる。なお、この場合、抽出する変位の種類に応じて、ステップ5以降の手順については変更が加えられる。例えば、波浪などの短周期成分を検出する場合には、ステップ5以降を省略し、その替わりにハイパスフィルターを設けるようにしてもよい。また、天文潮汐などの長周期成分を検出する場合には、津波成分の除去ステップが具備されるとともに、当然、長周期成分の除去ステップは具備されない。
【0051】
さらに、上記実施の形態においては、GPS測位システムを利用した場合について説明したが、他の衛星測位システムにでも適用し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態に係る海面計測システムにおけるGPS測位データによる変位抽出方法を説明するフローチャートである。
【図2】同実施の形態の変位抽出方法におけるデータの補完を行った場合の海面変位の波形を示す図で、(a)は測位データそのものを示し、(b)は無効データの個数がゼロである場合の波形を示し、(c)は無効データの個数が30個の場合に線形補完を行った波形を示す。
【図3】同変位抽出方法における入力データ数の違いによる抽出波形の比較を示すグラフである。
【図4】同変位抽出方法における入力データ数の違いによる抽出波形の差を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位システムにおける搬送波位相による高精度相対測位法を利用して物体に配置された測位局にて得られた時系列の測位データをディジタルフィルタに通して外的要因による周期性変位を抽出する方法であって、
高精度の測位データを受け取ることができないときに、データの補完を行い測位データの連続性を維持させるようにしたことを特徴とする衛星測位システムによる物体の変位抽出方法。
【請求項2】
補完するデータとして、高精度の測位データを受け取ることができない直前から所定の計測時間遡った測位データのうち、高精度の測位データの平均値または直線近似により求めた値を用いることを特徴とする請求項1に記載の衛星測位システムによる物体の変位抽出方法。
【請求項3】
ディジタルフィルタに通す測位データに占める補完データの割合に応じた信頼性情報を、周期性変位とともに出力させることを特徴とする請求項1または2に記載の衛星測位システムによる物体の変位抽出方法。
【請求項4】
測位局は浮体に設置されており、周期性変位は少なくとも波浪、潮汐および津波のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の衛星測位システムによる物体の変位抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−2976(P2008−2976A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173312(P2006−173312)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(501241911)独立行政法人港湾空港技術研究所 (84)
【出願人】(595138052)財団法人沿岸技術研究センター (6)
【出願人】(397039919)財団法人日本気象協会 (29)
【出願人】(593079656)社団法人海洋調査協会 (5)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】