衝撃吸収部材
【課題】衝突の際に、安定した状態に座屈変形すると共に、衝突の際のエネルギー吸収量が大きい衝撃吸収部材を提供すること。
【解決手段】衝撃吸収部材2は、自動車の衝突時に作用する荷重Wによって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の部材である。衝撃吸収部材2は、内径D1が略一定に形成されたストレート筒部21と、一端部の外径D2と他端部の外径D3とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部22と、ストレート筒部21とテーパ状筒部22の他端部との間に介在されて両者が同軸上に連結された中間筒部23と、を有する。内径D1、外径D2、外径D3は、D3<D1<D2の長さに形成されている。
【解決手段】衝撃吸収部材2は、自動車の衝突時に作用する荷重Wによって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の部材である。衝撃吸収部材2は、内径D1が略一定に形成されたストレート筒部21と、一端部の外径D2と他端部の外径D3とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部22と、ストレート筒部21とテーパ状筒部22の他端部との間に介在されて両者が同軸上に連結された中間筒部23と、を有する。内径D1、外径D2、外径D3は、D3<D1<D2の長さに形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の衝突時の衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の衝突時に作用する荷重によって軸方向に圧潰変形することにより、衝突エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部材を車体フレームに設けたものが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の衝撃吸収部材(衝突エネルギー吸収構造体)は、小さな外径で一定に形成されたストレートの円筒状の第1筒状部材と、大きな外径で一定に形成されたストレートの円筒状の第2筒状部材と、第2筒状部材の端部を軸心側にリング状に折曲し、第1筒状部材及び第2筒状部材の端部をアーク溶接で接合して同軸的に一体化した段差部と、から構成された段付きの円筒体からなる。
この衝突エネルギー吸収構造体は、衝突時に、段差部の小径の部分が衝突荷重によって外側にカールし、大径の部分が内側にカールすることにより、連続的な塑性変形をすることで衝突エネルギーを吸収している。
【0004】
特許文献2に記載の筒状エネルギー管理システムは、大径の第1筒部と、この第1筒部より小径の第2筒部と、第1筒部と第2筒部とを一体に接続する中間筒部と、を熱処理可能な鋼等で連続形成された衝撃吸収部材(エネルギー管理筒)からなる。
その衝撃吸収部材は、バンパシステムが長手方向に衝撃を受けたときに、第1円筒部及び第2筒部が予測可能な一定のロール潰れにより入れ子式に圧壊するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−241478(段落0007,0008、図1及び図3)
【特許文献2】特表2007−503561(特許請求の範囲、図1〜図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載の衝撃吸収部材は、いずれも、外径が異なるストレートの筒状部材の2つの端部を段差状に繋いだ形状に形成されている。このため、それらの衝撃吸収部材は、軸方向に圧潰させる軸圧潰荷重を安定させることができるという効果がある。
しかしながら、それらの衝撃吸収部材は、1つのストレートの筒部からなる単なる筒体を圧潰したときよりも、小さい荷重で圧潰されるようになる。
そのため、衝突の際に、安定した状態に座屈変形させることと、衝突の際の圧潰荷重を上昇させて、エネルギー吸収量を増加させることを両立させることが望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、前記問題点を解決するために創案されたものであり、衝突の際に、安定した状態に座屈変形すると共に、衝突の際のエネルギー吸収量が大きい衝撃吸収部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の衝撃吸収部材の発明は、自動車の衝突時に作用する荷重によって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部材であって、内径D1が略一定に形成されたストレート筒部と、一端部の外径D2と他端部の外径D3とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部と、前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の他端部との間に介在されて前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部とを同軸上に連結する中間筒部と、を有し、前記内径D1、前記外径D2、前記外径D3は、D3<D1<D2の長さに形成されていることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、衝撃吸収部材は、内径D1のストレート筒部と、一端部が内径D1より大きい外径D2、他端部が内径D1より小さい外径D3のテーパ状筒部と、中間筒部とを有することにより、圧潰変形時にストレート筒部の内側にテーパ状筒部が入り込むように変形する。テーパ状筒部がストレート筒部の内面に入り込んだ際には、中間筒部が折り返すように変形すると共に、テーパ状筒部の小径側の部分がストレート筒部の端部内面に当接しながら圧潰変形することにより、圧潰荷重が上昇するため、エネルギー吸収量を増加させることができる。また、衝撃吸収部材は、中間筒部に変形を集中させ、大きな歪みを発生させることによって、前述した特許文献1,2に記載の従来の構造よりも、材料の持つ延性をより効果的に活用することができる。さらに、衝撃吸収部材は、エネルギー吸収能を向上させて、衝突の際に座屈変形する部分のクラッシュストロークをショートストローク化することができると共に、衝突の際に、安定した状態に座屈変形するようにさせることができる。
【0010】
請求項2に記載の衝撃吸収部材の発明は、自動車の衝突時に作用する荷重によって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部材であって、外径D10が略一定に形成されたストレート筒部と、一端部の内径D20と他端部の外径D30とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部と、前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の他端部との間に介在されて両者が同軸上に連結された中間筒部と、を有し、前記外径D10、前記内径D20、前記外径D30は、D20<D10<D30の長さに形成されていることを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、衝撃吸収部材は、内径D10のストレート筒部と、一端部が内径D10より小さい外径D20、他端部が内径D10より大きい外径D30のテーパ状筒部と、中間筒部とを有することにより、圧潰変形時にストレート筒部の外側にテーパ状筒部が押し出されるように変形する。テーパ状筒部がストレート筒部の外面に押し出される際には、括れ状の中間筒部が折り返すように変形すると共に、テーパ状筒部の大径側の部分がストレート筒部の端部外面に当接しながら圧潰変形することにより、圧潰荷重が上昇するため、エネルギー吸収量を増加させることができる。このため、請求項2の発明は、前記請求項1と同様な作用効果を得ることができる。
【0012】
請求項3に記載の衝撃吸収部材の発明は、請求項1または請求項2の衝撃吸収部材であって、前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の少なくとも一方は、板厚の増加、焼き入れ、あるいは、材質の変更のいずれかによって、前記中間筒部より高強度に形成されていることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、ストレート筒部とテーパ状筒部の少なくとも一方は、中間筒部より高強度に形成されていることによって、衝撃吸収部材に軸方向の衝撃荷重が負荷された際に、中間筒部がより集中して座屈変形するようになる。
【0014】
請求項4に記載の衝撃吸収部材の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材は、前記ストレート筒部及び前記テーパ状筒部は、断面が略多角形状に形成され、前記テーパ状筒部は、前記中間筒部側へ向かって近付くのに連れて、その断面形状が徐々に円形になるように形成されていることを特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、ストレート筒部及びテーパ状筒部は、断面が略多角形状に形成され、テーパ状筒部は、中間筒部側へ向かって近付くのに連れてその断面形状が徐々に円形になるように形成されていることによって、テーパ状筒部の連結側端部が座屈変形の際に、ストレート筒部内に入り込み易くすることができる。このため、軸方向の衝撃荷重を受けた際に、中間筒部が局部的に変形し易くなり、集中して座屈変形するようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る衝撃吸収部材によれば、衝突の際のエネルギー吸収量を大きくして、座屈変形する部分のクラッシュストロークをショートストローク化することができると共に、衝突の際に、安定した状態に座屈変形するようにさせることができる。また、衝撃吸収部材は、この材料の持つ延性をより効果的に活用して、エネルギー吸収能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の設置状態の一例を示す車体フレームの斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材を示す図であり、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図3】(a)、(c)、(e)、(g)、(i)は衝撃吸収部材が荷重を受けて変形する状態を示す中央断面図、(b)、(d)、(f)、(h)、(j)はA部、B部、C部、D部、E部の拡大図である。
【図4】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の変形量と荷重との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材のエネルギー吸収量と、八角形断面及び比較例1,2のエネルギー吸収量とをそれぞれ示す棒グラフである。
【図6】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材、八角形断面及び比較例1,2における荷重と変形量との関係を示すグラフである。
【図7】塑性変形した衝撃吸収部材の歪みの分布図である。
【図8】各種材料の応力−塑性ひずみ特性を表すグラフある。
【図9】各種の材料で形成した本発明の衝撃吸収部材の歪みと、各種の材料で形成した八角形断面の衝撃吸収部材の歪みとの違いを表した棒グラフである。
【図10】本発明に係る衝撃吸収部材の第1変形例を示す断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材のエネルギー吸収量と、第2変形例の十二角筒形の衝撃吸収部材及び円筒形の衝撃吸収部材のエネルギー吸収量とを示す棒グラフである。
【図12】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材、第2変形例の十二角筒形の衝撃吸収部材及び円筒形の衝撃吸収部材における荷重と変形量との関係を示すグラフである。
【図13】本発明に係る衝撃吸収部材の第3変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のF−F断面図、(c)は(b)のH部拡大図、(d)はテーパ状筒部と中間筒部との連結部の部分拡大図である。
【図14】本発明の衝撃吸収部材の第4変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のG−G断面図、(c)は(b)のI部拡大図である。
【図15】本発明に係る衝撃吸収部材の第5変形例を示す図であり、(a)は中央断面図、(b)は衝撃吸収部材が圧潰変形した状態を示す中央断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材を説明する。以下、便宜上、自動車1の進行方向を「前」、後退方向を「後」として説明する。その衝撃吸収部材2を説明する前に、衝撃吸収部材2が搭載される自動車1について説明する。
【0019】
≪自動車の構成≫
図1に示すように、自動車1は、車体の下部に、車体の骨格を形成する車体フレーム10が搭載されている。自動車1は、車体フレーム10を有するものであればよく、その形式及び種類は特に限定されない。以下、FRの乗用車の場合を例に挙げて本発明を説明する。
【0020】
<車体フレームの構成>
車体フレーム10は、車体前後方向に延びる左右一対のサイドフレーム11,11と、このサイドフレーム11,11の間に車幅方向に沿って架設される複数のクロスメンバ12,…と、が一体に溶接結合されて構成されている。車体フレーム10は、例えば、板厚が厚く高強度の鋼材あるいはアルミニウム合金からなる。
【0021】
サイドフレーム11,11は、前側から後方に向かってフロントサイドフレーム13,13、フロアフレーム14,14、リヤサイドフレーム15,15が連設されてなる。左右のサイドフレーム11,11(フロントサイドフレーム13,13)の前端部には、前面衝突の際の衝撃を吸収する衝撃吸収部材2,2をそれぞれ介在してフロントバンパビーム16が架設されている。左右のサイドフレーム11,11(リヤサイドフレーム15,15)の後端部には、追突の際の衝撃を吸収する衝撃吸収部材2,2をそれぞれ介在してリヤバンパビーム17が架設されている。
このため、サイドフレーム11は、衝撃吸収部材2,2によって自動車1が重度の正面衝突及び追突をした場合に、押し潰されて変形し衝突エネルギーを吸収するクラッシュストロークを有する構造になっている。
【0022】
≪衝撃吸収部材の構成≫
図2(a)、(b)に示すように、前記衝撃吸収部材2は、自動車1(図1参照)の衝突時に作用する荷重Wによって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の部材であり、クラッシュボックスの機能を有する。衝撃吸収部材2は、例えば、厚さが均一な八角形の筒体からなり、780T鋼(780MPa級加工誘起変態型複合組織高強度鋼)、590R鋼(590MPa級析出強化型鋼)、TWIP(Twining Induced Plasticity(双晶誘起塑性))鋼等の高強度な高張力鋼によって形成されている。衝撃吸収部材2は、内径D1が略一定に形成されたストレート筒部21と、一端部の外径D2と他端部の外径D3とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部22と、ストレート筒部21とテーパ状筒部22との間に連結された中間筒部23と、を一体形成してなる。
車体の前側に設置される衝撃吸収部材2は、テーパ状筒部22を前側(荷重Wを受ける側)にして配置される。車体の後側に設置される衝撃吸収部材2は、車体の前側用のものと同一形状であり、テーパ状筒部22を後側(荷重Wを受ける側)にして配置される。
【0023】
衝撃吸収部材2は、ストレート筒部21の内径D1、テーパ状筒部22の開口端22aの外径D2、中間筒部23の外径D3が、
D3<D1<D2
の長さに形成されている。
【0024】
<ストレート筒部の構成>
ストレート筒部21は、開口端21aが、サイドフレーム11の前端部または後端部に軸心を一致させて溶接されている。ストレート筒部21は、開口端21aから中間筒部23側にわたって内径D1が一定に形成されている。
【0025】
<テーパ状筒部の構成>
テーパ状筒部22は、開口端22aが、フロントバンパビーム16またはリヤバンパビーム17に溶接されている(図1参照)。つまり、車体の前側に設置された衝撃吸収部材2のテーパ状筒部22は、正面衝突の際に、荷重Wが開口端22aにかかるように、開口端22aを前側にして配置される。そして、車体の後側に設置された衝撃吸収部材2のテーパ状筒部22は、追突の際に、荷重Wが開口端22aにかかるように、開口端22aを後側にして配置される。テーパ状筒部22は、開口端21aから中間筒部23側にわたってテーパ状に縮径されて形成されている。テーパ状筒部22は、連結側端部22bの外径D3が開口端21aの外径D2、及び、ストレート筒部21の内径D1より小径に形成されている。
【0026】
<中間筒部の構成>
中間筒部23は、ストレート筒部21とテーパ状筒部22とを連結していることにより、ストレート筒部21側が内径D1に形成され、テーパ状筒部22側が外径D3に形成されている。このため、中間筒部23は、テーパ状筒部22側からストレート筒部21側に拡径した状態に形成されている。
【0027】
≪衝撃吸収部材の作用≫
次に、図1〜図9を参照しながら本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材2の作用を、自動車1が他車と重度の正面衝突(前面衝突)した場合を例に挙げて説明する。
なお、車両の前側に配置される衝撃吸収部材2と車両の後側に配置される衝撃吸収部材2は、荷重Wを受けた際に、同じ作用効果がある。以下、車両の前側に配置される衝撃吸収部材2のみ説明して、車両の後側に配置される衝撃吸収部材2の説明は省略する。
【0028】
<衝撃吸収部材の変形について>
まず、図1及び図3を参照して衝突時の衝撃吸収部材2の変形を時系列的に説明する。
図1に示すように、自動車1が走行中に、例えば、他車と重度の正面衝突をした場合は、自動車1の前部に設置されたフロントバンパ(図示せず)及びフロントバンパビーム16が他車によって後側方向に押圧されて、フロントバンパビーム16を介して衝撃吸収部材2,2のテーパ状筒部22の前端部(開口端22a)が押圧される。
【0029】
図3(a)に示すように、衝撃吸収部材2に加わった荷重(軸圧潰荷重)Wは、テーパ状筒部22の開口端22aを押圧する。すると、テーパ状筒部22は、中間筒部23を押圧して、図3(c)、(e)、(g)、(i)に示すように中間筒部23を集中的に座屈変形させる。
【0030】
つまり、テーパ状筒部22の中間筒部23側の連結側端部22bの外径D3は、ストレート筒部21の内径D1よりも小さく形成されている。このため、衝撃吸収部材2は、テーパ状筒部22の連結側端部22bが、ストレート筒部21内に入り込んで侵入するように移動しながら変形するので、中間筒部23が折り返すように安定した状態で座屈変形すると共に、テーパ状筒部22の連結側端部22b寄りの外周面が、ストレート筒部21の荷重負荷側端部21bの内面を中間筒部23を介して押圧しながら変形することにより、圧潰荷重が上昇する。このため、エネルギー吸収量を増加させることができる。
さらに、図3(g)、(h)、(i)、(j)に示すように、衝撃吸収部材2は、テーパ状筒部22の連結側端部22bが、ストレート筒部21の荷重負荷側端部21bをストレート筒部21内に引っ張りながらストレート筒部21内に大きく入り込むと、中間筒部23及びストレート筒部21の荷重負荷側端部21bを、ストレート筒部21内に引き込んで停止する。衝突荷重(軸圧潰荷重)Wは、中間筒部23及びストレート筒部21の荷重負荷側端部21bが座屈変形することによって吸収される。
【0031】
これにより、図1に示す左右のサイドフレーム11は、自動車1が正面衝突の際に、衝撃吸収部材2,2の中間筒部23に変形を集中させて、大きな歪みを発生させることによって、エネルギー吸収能を向上させて、衝突の際に座屈変形する部分のクラッシュストロークをショートストローク化することができる。
【0032】
そして、衝撃吸収部材2,2は、衝突の際に押し潰されるクラッシャブルゾーンを、サイドフレーム11,11の前端部に設置することができるので、車体フレーム10の前端部で衝突時の衝突エネルギーを吸収して、その衝撃を局部的に受け止めることができる。このため、衝撃吸収部材2,2は、この衝撃吸収部材2,2より車体後方へ衝撃が伝達されるのを抑制することができる。また、衝撃吸収部材2,2は、中間筒部23より車両後方にある部材にかかる衝撃を緩和させて、衝突時の荷重Wにより衝撃吸収部材2,2の後方にある部材が変形したり、破壊したりするのを抑えることができる。
【0033】
なお、図1に示す自動車1に他車が追突した場合にも、車体の後部に配置した衝撃吸収部材2,2が、正面衝突の場合と同様に、追突荷重を吸収する。
【0034】
<変形量と荷重との関係について>
次に、図3及び図4を参照しながら衝撃吸収部材2が変形する際の変形量と荷重との関係を説明する。図4は、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の変形量と荷重との関係を示すグラフである。
【0035】
図4に示すように、自動車1が正面衝突して軸方向の荷重Wによって衝撃吸収部材2が変形し始めるときは、a部に示すように、衝撃吸収部材2に大きな荷重Wが負荷される。衝撃吸収部材2が変形し始めると、a部より弱い荷重Wによって、テーパ状筒部22の連結側端部22bが中間筒部23を押圧して座屈させながらストレート筒部21内に入り込む(図3の(c)、(d)の状態)。
【0036】
テーパ状筒部22の連結側端部22bは、さらに、ストレート筒部21内に入り込むと、ストレート筒部21の内壁に当接する。すると、荷重Wがb部から上昇し始める(図3の(e)、(f)の状態)。
【0037】
さらに、ストレート筒部21の荷重負荷側端部21bが座屈変形してストレート筒部21内に引き込まれると、テーパ状筒部22による楔効果により、変形量がc部からd部にかけて上昇すると共に、荷重Wも上昇する(図3の(g)、(h)、(i)、(j)の状態)。つまり、衝撃吸収部材2のエネルギー吸収効率が上昇する。
そして、衝撃吸収部材2は、e部まで変形量が増加したときに、ストレート筒部21の座屈変形が始まり、荷重が大きくなる。
【0038】
<エネルギー吸収量について>
次に、図5及び図6を参照しながら衝撃吸収部材2のエネルギー吸収量について、従来の衝撃吸収部材と比較して説明する。図5は、本発明の衝撃吸収部材のエネルギー吸収量と、八角形断面及び比較例1,2のエネルギー吸収量とをそれぞれ示す棒グラフである。図6は、本発明の衝撃吸収部材、八角形断面及び比較例1,2における荷重Wと変形量との関係を示すグラフである。
【0039】
図5に示すように、本発明の衝撃吸収部材2は、八角形断面のストレートの衝撃吸収部材100、中間部201が段差状の八角筒体200の比較例1、及び、傾斜した中間筒部301を有する八角筒体300の比較例2と比較して、エネルギー吸収量が大きいという実験結果が得られた。本発明の衝撃吸収部材2のエネルギー吸収量は、図5に示すように、同等重量の八角形断面の衝撃吸収部材100と比較して、L(1.6kJ)大きい。
【0040】
また、図6に示すように、本発明の衝撃吸収部材2において、前述したテーパ状筒部22の中間筒部23側がストレート筒部21内に入り込んで中間筒部23及びストレート筒部21の荷重負荷側端部21bが座屈変形する際の変形量に対する荷重Wは、八角形断面の衝撃吸収部材100及び比較例1,2と比較して全体的に大きくなっている。
【0041】
<塑性変形した衝撃吸収部材の歪みについて>
次に、図7を参照して塑性変形した衝撃吸収部材2の歪みについて説明する。図7は、塑性変形した衝撃吸収部材2の歪みの分布図である。
図7に示すように、衝撃吸収部材2は、自動車1(図1参照)が正面衝突してテーパ状筒部22の連結側端部22bがストレート筒部21内に食い込むことによって、ストレート筒部21の荷重負荷側端部21bが周方向に引張力を受けて均一な歪みが発生する。そして、断面八角筒状の衝撃吸収部材2の歪みは、括れた形状の中間筒部23の角綾部2aに集中して高くなる。このように、衝撃吸収部材2は、中間筒部23に大きな歪みが集中して座屈変形することにより、ストレート筒部21の大部分に歪みが発生せず、変形量が小さいため、ショートストローク化が可能である。
【0042】
<材料特性による歪みの違い>
次に、図8及び図9を参照して衝撃吸収部材2に使用する材料特性による歪みの違いについて説明する。図8は、各種材料の応力−塑性ひずみ特性を表すグラフある。図9は、各種の材料で形成した本発明の衝撃吸収部材の吸収エネルギー量と、各種の材料で形成した八角形断面の衝撃吸収部材吸収エネルギー量との違いを表した棒グラフである。
【0043】
本発明の衝撃吸収部材2と八角形断面の衝撃吸収部材100(図5参照)とを、780T鋼(f)、590R鋼(g)及びTWIP鋼(h)でそれぞれ形成した場合の応力に対する塑性歪みは、図8に示すようになる。図8から、それらの材料の中で衝撃吸収部材2をTWIP鋼(h)で形成した場合の応力が一番高く、780T鋼(f)で形成した場合の応力が一番低いという結果になった。
このように、衝撃吸収部材2は、高強度及び高延性を有するTWIP鋼(h)で形成することによって、さらに、大きな荷重Wで圧潰されるようにすることができる。
【0044】
また、図9に示すように、本発明の衝撃吸収部材2と八角形断面の衝撃吸収部材100(図5参照)とを、780T鋼(f)、590R鋼(g)及びTWIP鋼(h)でそれぞれ形成した場合のエネルギー吸収量(kJ)を比較すると、本発明の衝撃吸収部材2のエネルギー吸収量が八角形断面の衝撃吸収部材100(図5参照)より、全ての材料で大きいという実験結果が得られた。
特に、TWIP鋼(h)で衝撃吸収部材2の全体を形成した場合は、エネルギー吸収量が大きく、エネルギー吸収能の向上が顕著に現れた。衝撃吸収部材2は、前述したように括れた形状のテーパ状筒部22で高い歪みが発生するので、TWIP鋼(h)のような高歪み領域での強度が高く、高延性の材料を用いることによって、さらに、エネルギー吸収効果を向上させることができる。
【0045】
[変形例]
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造及び変更が可能であり、本発明はこれら改造及び変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0046】
≪第1変形例≫
図10は、本発明に係る衝撃吸収部材の第1変形例を示す断面図である。
前記実施形態では、図2に示すように、衝撃吸収部材2の一例として、テーパ状に拡開して衝撃吸収部材2における外径D2が最大なテーパ状筒部22の開口端22a側を荷重Wが負荷される側にして配置したものを説明したが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示す衝撃吸収部材3のように、ストレート筒部31と、テーパ状筒部32と中間筒部33とを有する筒体であればよい。
【0047】
衝撃吸収部材3は、外径D10が略一定に形成されたストレート筒部31と、荷重Wが負荷される開口端32a側(一端部)の内径D20と連結側端部32b(他端部)の外径D30とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部32と、前記ストレート筒部31とテーパ状筒部32の連結側端部32b(他端部)との間に介在されて両者が同軸上に連結された中間筒部33と、を有して一体形成されている。
前記外径D10、内径D20、外径D30は、
D20<D10<D30
の長さになるように形成してもよい。
つまり、テーパ状筒部32は、荷重Wがかかる側が縮径されて細く、中間筒部33側の連結側端部32bが最大の外径D30になるように形成されている。
【0048】
衝撃吸収部材3は、このように形成されたことによって、テーパ状筒部32の開口端32aに過大な荷重Wが負荷されると、連結側端部32bが中間筒部33の外周からストレート筒部31の外周側へ押し出されて、中間筒部33が折り返すように変形すると共に、
テーパ状筒部32の連結側端部32b寄りの内面が、中間筒部33を介してストレート筒部31の荷重負荷側端部31bの外面を押圧しながら座屈変形することにより、圧潰荷重が上昇する。このため、第1変形例の場合も、前記実施形態と同様に、エネルギー吸収量を増加させることができるという効果がある。
【0049】
≪第2変形例≫
図11は、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材のエネルギー吸収量と、第2変形例の十二角筒形の衝撃吸収部材及び円筒形の衝撃吸収部材のエネルギー吸収量とを示す棒グラフである。図12は、本発明の衝撃吸収部材、第2変形例の十二角筒形の衝撃吸収部材及び円筒形の衝撃吸収部材における荷重と変形量との関係を示すグラフである。
【0050】
前記実施形態及び第1変形例では、八角筒形状の衝撃吸収部材2,3を説明したが、衝撃吸収部材2,3は、図11に示すように、十二角筒形状の衝撃吸収部材4や、円筒形状の衝撃吸収部材5であっても構わない。つまり、衝撃吸収部材4,5は、軸直交方向の断面の形状が筒状であればよく、角筒体でも円筒体でもよい。
【0051】
この場合、図11に示す十二角筒形状の衝撃吸収部材4は、前記実施形態の衝撃吸収部材2よりもエネルギー吸収量が大きいという実験結果が得られた。また、円筒形状の衝撃吸収部材5は、前記実施形態の衝撃吸収部材2と略同等のエネルギー吸収量が得られた。十二角筒形状の衝撃吸収部材4は、括れ形状の中間筒部43に角綾部4aを有することによって、その中間筒部43で歪みが大きく、数多く出て、その歪みの生じる領域も増加するため、エネルギー吸収量が大きくなっていると考えられる。
【0052】
また、図12に示すように、十二角筒形状の衝撃吸収部材4及び円筒形状の衝撃吸収部材5は、前述した本発明の衝撃吸収部材2と略同様に、圧潰変形させる荷重Wが大きいという実験結果が得られた。
【0053】
≪第3変形例≫
図13は、本発明に係る衝撃吸収部材の第3変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のF−F断面図、(c)は(b)のH部拡大図、(d)はテーパ状筒部と中間筒部との連結部の部分拡大図である。
図13(a)〜(d)に示すように、衝撃吸収部材6は、テーパ状筒部62の角綾部6aのアールR2を、ストレート筒部61の角綾部6aのアールR1より大きくして、円弧状に形成してもよい。衝撃吸収部材2は、このように、テーパ状筒部62の角綾部6aのアールR2を大きくすることによって、ストレート筒部61の角綾部6aとテーパ状筒部62の連結側端部62bの角綾部6aとのオフセット量S(内径D1と外径D3との差)が大きくなる。衝撃吸収部材は、このように形成することにより、圧潰変形時に、ストレート筒部61の角綾部6aとテーパ状筒部62の連結側端部62bの角綾部6aとが干渉し難くなる。そのため、テーパ状筒部62は、圧潰変形する際に、ストレート筒部61内に入り込み易くなり、安定して圧潰される。
【0054】
≪第4変形例≫
図14は、本発明に係る衝撃吸収部材の第4変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のG−G断面図、(c)は(b)のI部拡大図である。
図14(a)〜(c)に示すように、衝撃吸収部材7は、テーパ状筒部72を、中間筒部73側へ向かって近付くのに連れて、その断面形状が略八角形状(略多角形状)から徐々に円形になるように形成してもよい。つまり、テーパ状筒部72の連結側端部72bは、角綾部7aが無くなり、アールR4が円形になるように形成する。このため、そのアールR4は、ストレート筒部71の角綾部7aのアールR3より大きくなる。
このようにしても、前記第3変形例の衝撃吸収部材6と同様な作用効果を得られる。
【0055】
≪第5変形例≫
図15は、本発明に係る衝撃吸収部材の第5変形例を示す図であり、(a)は中央断面図、(b)は衝撃吸収部材が圧潰変形した状態を示す中央断面図である。
図15(a)、(b)に示すように、衝撃吸収部材8は、ストレート筒部81とテーパ状筒部82の少なくとも一方の板厚t1,t2を、中間筒部73の板厚t3よりも大きくすることによって、ストレート筒部81またはテーパ状筒部82の強度を中間筒部73より高強度にすることができる。
【0056】
このようにすれば、衝撃吸収部材8に圧潰荷重Wが負荷された際に、括れ形状の中間筒部73に歪みが集中するようにさせることができる。つまり、テーパ状筒部82とストレート筒部81とを強化して衝突の際の変形を抑制することによって、図15(b)に示すように、中間筒部83を折り返すように変形させて、テーパ状筒部82に引張荷重が作用して中間筒部83に分散するため、さらに、中間筒部83に集中して歪みが発生する。
その結果、衝撃吸収部材8に圧潰荷重Wが負荷された際に、不容易にテーパ状筒部82及びストレート筒部81が座屈するのを抑制することができる。
【0057】
なお、テーパ状筒部82及びストレート筒部81は、前記板厚t1,t2,t3を相違させることに代えて、焼き入れよって強度を変更したり、あるいは、強度の相違する材質に変更したりすることよって、中間筒部83よりも高強度になるように形成してもよい。この場合も、前記第5変形例と同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 自動車
2,3,4,5,6,7,8 撃吸収部材
21,31,61,71,81 ストレート筒部
22,32,62,72,82 テーパ状筒部
23,33,43,63,73,83 中間筒部
D1,D20 内径
D2,D3,D10,D30 外径
t1,t2,t3 板厚
W 荷重
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の衝突時の衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の衝突時に作用する荷重によって軸方向に圧潰変形することにより、衝突エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部材を車体フレームに設けたものが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の衝撃吸収部材(衝突エネルギー吸収構造体)は、小さな外径で一定に形成されたストレートの円筒状の第1筒状部材と、大きな外径で一定に形成されたストレートの円筒状の第2筒状部材と、第2筒状部材の端部を軸心側にリング状に折曲し、第1筒状部材及び第2筒状部材の端部をアーク溶接で接合して同軸的に一体化した段差部と、から構成された段付きの円筒体からなる。
この衝突エネルギー吸収構造体は、衝突時に、段差部の小径の部分が衝突荷重によって外側にカールし、大径の部分が内側にカールすることにより、連続的な塑性変形をすることで衝突エネルギーを吸収している。
【0004】
特許文献2に記載の筒状エネルギー管理システムは、大径の第1筒部と、この第1筒部より小径の第2筒部と、第1筒部と第2筒部とを一体に接続する中間筒部と、を熱処理可能な鋼等で連続形成された衝撃吸収部材(エネルギー管理筒)からなる。
その衝撃吸収部材は、バンパシステムが長手方向に衝撃を受けたときに、第1円筒部及び第2筒部が予測可能な一定のロール潰れにより入れ子式に圧壊するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−241478(段落0007,0008、図1及び図3)
【特許文献2】特表2007−503561(特許請求の範囲、図1〜図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載の衝撃吸収部材は、いずれも、外径が異なるストレートの筒状部材の2つの端部を段差状に繋いだ形状に形成されている。このため、それらの衝撃吸収部材は、軸方向に圧潰させる軸圧潰荷重を安定させることができるという効果がある。
しかしながら、それらの衝撃吸収部材は、1つのストレートの筒部からなる単なる筒体を圧潰したときよりも、小さい荷重で圧潰されるようになる。
そのため、衝突の際に、安定した状態に座屈変形させることと、衝突の際の圧潰荷重を上昇させて、エネルギー吸収量を増加させることを両立させることが望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、前記問題点を解決するために創案されたものであり、衝突の際に、安定した状態に座屈変形すると共に、衝突の際のエネルギー吸収量が大きい衝撃吸収部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の衝撃吸収部材の発明は、自動車の衝突時に作用する荷重によって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部材であって、内径D1が略一定に形成されたストレート筒部と、一端部の外径D2と他端部の外径D3とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部と、前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の他端部との間に介在されて前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部とを同軸上に連結する中間筒部と、を有し、前記内径D1、前記外径D2、前記外径D3は、D3<D1<D2の長さに形成されていることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、衝撃吸収部材は、内径D1のストレート筒部と、一端部が内径D1より大きい外径D2、他端部が内径D1より小さい外径D3のテーパ状筒部と、中間筒部とを有することにより、圧潰変形時にストレート筒部の内側にテーパ状筒部が入り込むように変形する。テーパ状筒部がストレート筒部の内面に入り込んだ際には、中間筒部が折り返すように変形すると共に、テーパ状筒部の小径側の部分がストレート筒部の端部内面に当接しながら圧潰変形することにより、圧潰荷重が上昇するため、エネルギー吸収量を増加させることができる。また、衝撃吸収部材は、中間筒部に変形を集中させ、大きな歪みを発生させることによって、前述した特許文献1,2に記載の従来の構造よりも、材料の持つ延性をより効果的に活用することができる。さらに、衝撃吸収部材は、エネルギー吸収能を向上させて、衝突の際に座屈変形する部分のクラッシュストロークをショートストローク化することができると共に、衝突の際に、安定した状態に座屈変形するようにさせることができる。
【0010】
請求項2に記載の衝撃吸収部材の発明は、自動車の衝突時に作用する荷重によって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部材であって、外径D10が略一定に形成されたストレート筒部と、一端部の内径D20と他端部の外径D30とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部と、前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の他端部との間に介在されて両者が同軸上に連結された中間筒部と、を有し、前記外径D10、前記内径D20、前記外径D30は、D20<D10<D30の長さに形成されていることを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、衝撃吸収部材は、内径D10のストレート筒部と、一端部が内径D10より小さい外径D20、他端部が内径D10より大きい外径D30のテーパ状筒部と、中間筒部とを有することにより、圧潰変形時にストレート筒部の外側にテーパ状筒部が押し出されるように変形する。テーパ状筒部がストレート筒部の外面に押し出される際には、括れ状の中間筒部が折り返すように変形すると共に、テーパ状筒部の大径側の部分がストレート筒部の端部外面に当接しながら圧潰変形することにより、圧潰荷重が上昇するため、エネルギー吸収量を増加させることができる。このため、請求項2の発明は、前記請求項1と同様な作用効果を得ることができる。
【0012】
請求項3に記載の衝撃吸収部材の発明は、請求項1または請求項2の衝撃吸収部材であって、前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の少なくとも一方は、板厚の増加、焼き入れ、あるいは、材質の変更のいずれかによって、前記中間筒部より高強度に形成されていることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、ストレート筒部とテーパ状筒部の少なくとも一方は、中間筒部より高強度に形成されていることによって、衝撃吸収部材に軸方向の衝撃荷重が負荷された際に、中間筒部がより集中して座屈変形するようになる。
【0014】
請求項4に記載の衝撃吸収部材の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材は、前記ストレート筒部及び前記テーパ状筒部は、断面が略多角形状に形成され、前記テーパ状筒部は、前記中間筒部側へ向かって近付くのに連れて、その断面形状が徐々に円形になるように形成されていることを特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、ストレート筒部及びテーパ状筒部は、断面が略多角形状に形成され、テーパ状筒部は、中間筒部側へ向かって近付くのに連れてその断面形状が徐々に円形になるように形成されていることによって、テーパ状筒部の連結側端部が座屈変形の際に、ストレート筒部内に入り込み易くすることができる。このため、軸方向の衝撃荷重を受けた際に、中間筒部が局部的に変形し易くなり、集中して座屈変形するようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る衝撃吸収部材によれば、衝突の際のエネルギー吸収量を大きくして、座屈変形する部分のクラッシュストロークをショートストローク化することができると共に、衝突の際に、安定した状態に座屈変形するようにさせることができる。また、衝撃吸収部材は、この材料の持つ延性をより効果的に活用して、エネルギー吸収能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の設置状態の一例を示す車体フレームの斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材を示す図であり、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図3】(a)、(c)、(e)、(g)、(i)は衝撃吸収部材が荷重を受けて変形する状態を示す中央断面図、(b)、(d)、(f)、(h)、(j)はA部、B部、C部、D部、E部の拡大図である。
【図4】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の変形量と荷重との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材のエネルギー吸収量と、八角形断面及び比較例1,2のエネルギー吸収量とをそれぞれ示す棒グラフである。
【図6】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材、八角形断面及び比較例1,2における荷重と変形量との関係を示すグラフである。
【図7】塑性変形した衝撃吸収部材の歪みの分布図である。
【図8】各種材料の応力−塑性ひずみ特性を表すグラフある。
【図9】各種の材料で形成した本発明の衝撃吸収部材の歪みと、各種の材料で形成した八角形断面の衝撃吸収部材の歪みとの違いを表した棒グラフである。
【図10】本発明に係る衝撃吸収部材の第1変形例を示す断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材のエネルギー吸収量と、第2変形例の十二角筒形の衝撃吸収部材及び円筒形の衝撃吸収部材のエネルギー吸収量とを示す棒グラフである。
【図12】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材、第2変形例の十二角筒形の衝撃吸収部材及び円筒形の衝撃吸収部材における荷重と変形量との関係を示すグラフである。
【図13】本発明に係る衝撃吸収部材の第3変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のF−F断面図、(c)は(b)のH部拡大図、(d)はテーパ状筒部と中間筒部との連結部の部分拡大図である。
【図14】本発明の衝撃吸収部材の第4変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のG−G断面図、(c)は(b)のI部拡大図である。
【図15】本発明に係る衝撃吸収部材の第5変形例を示す図であり、(a)は中央断面図、(b)は衝撃吸収部材が圧潰変形した状態を示す中央断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材を説明する。以下、便宜上、自動車1の進行方向を「前」、後退方向を「後」として説明する。その衝撃吸収部材2を説明する前に、衝撃吸収部材2が搭載される自動車1について説明する。
【0019】
≪自動車の構成≫
図1に示すように、自動車1は、車体の下部に、車体の骨格を形成する車体フレーム10が搭載されている。自動車1は、車体フレーム10を有するものであればよく、その形式及び種類は特に限定されない。以下、FRの乗用車の場合を例に挙げて本発明を説明する。
【0020】
<車体フレームの構成>
車体フレーム10は、車体前後方向に延びる左右一対のサイドフレーム11,11と、このサイドフレーム11,11の間に車幅方向に沿って架設される複数のクロスメンバ12,…と、が一体に溶接結合されて構成されている。車体フレーム10は、例えば、板厚が厚く高強度の鋼材あるいはアルミニウム合金からなる。
【0021】
サイドフレーム11,11は、前側から後方に向かってフロントサイドフレーム13,13、フロアフレーム14,14、リヤサイドフレーム15,15が連設されてなる。左右のサイドフレーム11,11(フロントサイドフレーム13,13)の前端部には、前面衝突の際の衝撃を吸収する衝撃吸収部材2,2をそれぞれ介在してフロントバンパビーム16が架設されている。左右のサイドフレーム11,11(リヤサイドフレーム15,15)の後端部には、追突の際の衝撃を吸収する衝撃吸収部材2,2をそれぞれ介在してリヤバンパビーム17が架設されている。
このため、サイドフレーム11は、衝撃吸収部材2,2によって自動車1が重度の正面衝突及び追突をした場合に、押し潰されて変形し衝突エネルギーを吸収するクラッシュストロークを有する構造になっている。
【0022】
≪衝撃吸収部材の構成≫
図2(a)、(b)に示すように、前記衝撃吸収部材2は、自動車1(図1参照)の衝突時に作用する荷重Wによって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の部材であり、クラッシュボックスの機能を有する。衝撃吸収部材2は、例えば、厚さが均一な八角形の筒体からなり、780T鋼(780MPa級加工誘起変態型複合組織高強度鋼)、590R鋼(590MPa級析出強化型鋼)、TWIP(Twining Induced Plasticity(双晶誘起塑性))鋼等の高強度な高張力鋼によって形成されている。衝撃吸収部材2は、内径D1が略一定に形成されたストレート筒部21と、一端部の外径D2と他端部の外径D3とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部22と、ストレート筒部21とテーパ状筒部22との間に連結された中間筒部23と、を一体形成してなる。
車体の前側に設置される衝撃吸収部材2は、テーパ状筒部22を前側(荷重Wを受ける側)にして配置される。車体の後側に設置される衝撃吸収部材2は、車体の前側用のものと同一形状であり、テーパ状筒部22を後側(荷重Wを受ける側)にして配置される。
【0023】
衝撃吸収部材2は、ストレート筒部21の内径D1、テーパ状筒部22の開口端22aの外径D2、中間筒部23の外径D3が、
D3<D1<D2
の長さに形成されている。
【0024】
<ストレート筒部の構成>
ストレート筒部21は、開口端21aが、サイドフレーム11の前端部または後端部に軸心を一致させて溶接されている。ストレート筒部21は、開口端21aから中間筒部23側にわたって内径D1が一定に形成されている。
【0025】
<テーパ状筒部の構成>
テーパ状筒部22は、開口端22aが、フロントバンパビーム16またはリヤバンパビーム17に溶接されている(図1参照)。つまり、車体の前側に設置された衝撃吸収部材2のテーパ状筒部22は、正面衝突の際に、荷重Wが開口端22aにかかるように、開口端22aを前側にして配置される。そして、車体の後側に設置された衝撃吸収部材2のテーパ状筒部22は、追突の際に、荷重Wが開口端22aにかかるように、開口端22aを後側にして配置される。テーパ状筒部22は、開口端21aから中間筒部23側にわたってテーパ状に縮径されて形成されている。テーパ状筒部22は、連結側端部22bの外径D3が開口端21aの外径D2、及び、ストレート筒部21の内径D1より小径に形成されている。
【0026】
<中間筒部の構成>
中間筒部23は、ストレート筒部21とテーパ状筒部22とを連結していることにより、ストレート筒部21側が内径D1に形成され、テーパ状筒部22側が外径D3に形成されている。このため、中間筒部23は、テーパ状筒部22側からストレート筒部21側に拡径した状態に形成されている。
【0027】
≪衝撃吸収部材の作用≫
次に、図1〜図9を参照しながら本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材2の作用を、自動車1が他車と重度の正面衝突(前面衝突)した場合を例に挙げて説明する。
なお、車両の前側に配置される衝撃吸収部材2と車両の後側に配置される衝撃吸収部材2は、荷重Wを受けた際に、同じ作用効果がある。以下、車両の前側に配置される衝撃吸収部材2のみ説明して、車両の後側に配置される衝撃吸収部材2の説明は省略する。
【0028】
<衝撃吸収部材の変形について>
まず、図1及び図3を参照して衝突時の衝撃吸収部材2の変形を時系列的に説明する。
図1に示すように、自動車1が走行中に、例えば、他車と重度の正面衝突をした場合は、自動車1の前部に設置されたフロントバンパ(図示せず)及びフロントバンパビーム16が他車によって後側方向に押圧されて、フロントバンパビーム16を介して衝撃吸収部材2,2のテーパ状筒部22の前端部(開口端22a)が押圧される。
【0029】
図3(a)に示すように、衝撃吸収部材2に加わった荷重(軸圧潰荷重)Wは、テーパ状筒部22の開口端22aを押圧する。すると、テーパ状筒部22は、中間筒部23を押圧して、図3(c)、(e)、(g)、(i)に示すように中間筒部23を集中的に座屈変形させる。
【0030】
つまり、テーパ状筒部22の中間筒部23側の連結側端部22bの外径D3は、ストレート筒部21の内径D1よりも小さく形成されている。このため、衝撃吸収部材2は、テーパ状筒部22の連結側端部22bが、ストレート筒部21内に入り込んで侵入するように移動しながら変形するので、中間筒部23が折り返すように安定した状態で座屈変形すると共に、テーパ状筒部22の連結側端部22b寄りの外周面が、ストレート筒部21の荷重負荷側端部21bの内面を中間筒部23を介して押圧しながら変形することにより、圧潰荷重が上昇する。このため、エネルギー吸収量を増加させることができる。
さらに、図3(g)、(h)、(i)、(j)に示すように、衝撃吸収部材2は、テーパ状筒部22の連結側端部22bが、ストレート筒部21の荷重負荷側端部21bをストレート筒部21内に引っ張りながらストレート筒部21内に大きく入り込むと、中間筒部23及びストレート筒部21の荷重負荷側端部21bを、ストレート筒部21内に引き込んで停止する。衝突荷重(軸圧潰荷重)Wは、中間筒部23及びストレート筒部21の荷重負荷側端部21bが座屈変形することによって吸収される。
【0031】
これにより、図1に示す左右のサイドフレーム11は、自動車1が正面衝突の際に、衝撃吸収部材2,2の中間筒部23に変形を集中させて、大きな歪みを発生させることによって、エネルギー吸収能を向上させて、衝突の際に座屈変形する部分のクラッシュストロークをショートストローク化することができる。
【0032】
そして、衝撃吸収部材2,2は、衝突の際に押し潰されるクラッシャブルゾーンを、サイドフレーム11,11の前端部に設置することができるので、車体フレーム10の前端部で衝突時の衝突エネルギーを吸収して、その衝撃を局部的に受け止めることができる。このため、衝撃吸収部材2,2は、この衝撃吸収部材2,2より車体後方へ衝撃が伝達されるのを抑制することができる。また、衝撃吸収部材2,2は、中間筒部23より車両後方にある部材にかかる衝撃を緩和させて、衝突時の荷重Wにより衝撃吸収部材2,2の後方にある部材が変形したり、破壊したりするのを抑えることができる。
【0033】
なお、図1に示す自動車1に他車が追突した場合にも、車体の後部に配置した衝撃吸収部材2,2が、正面衝突の場合と同様に、追突荷重を吸収する。
【0034】
<変形量と荷重との関係について>
次に、図3及び図4を参照しながら衝撃吸収部材2が変形する際の変形量と荷重との関係を説明する。図4は、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の変形量と荷重との関係を示すグラフである。
【0035】
図4に示すように、自動車1が正面衝突して軸方向の荷重Wによって衝撃吸収部材2が変形し始めるときは、a部に示すように、衝撃吸収部材2に大きな荷重Wが負荷される。衝撃吸収部材2が変形し始めると、a部より弱い荷重Wによって、テーパ状筒部22の連結側端部22bが中間筒部23を押圧して座屈させながらストレート筒部21内に入り込む(図3の(c)、(d)の状態)。
【0036】
テーパ状筒部22の連結側端部22bは、さらに、ストレート筒部21内に入り込むと、ストレート筒部21の内壁に当接する。すると、荷重Wがb部から上昇し始める(図3の(e)、(f)の状態)。
【0037】
さらに、ストレート筒部21の荷重負荷側端部21bが座屈変形してストレート筒部21内に引き込まれると、テーパ状筒部22による楔効果により、変形量がc部からd部にかけて上昇すると共に、荷重Wも上昇する(図3の(g)、(h)、(i)、(j)の状態)。つまり、衝撃吸収部材2のエネルギー吸収効率が上昇する。
そして、衝撃吸収部材2は、e部まで変形量が増加したときに、ストレート筒部21の座屈変形が始まり、荷重が大きくなる。
【0038】
<エネルギー吸収量について>
次に、図5及び図6を参照しながら衝撃吸収部材2のエネルギー吸収量について、従来の衝撃吸収部材と比較して説明する。図5は、本発明の衝撃吸収部材のエネルギー吸収量と、八角形断面及び比較例1,2のエネルギー吸収量とをそれぞれ示す棒グラフである。図6は、本発明の衝撃吸収部材、八角形断面及び比較例1,2における荷重Wと変形量との関係を示すグラフである。
【0039】
図5に示すように、本発明の衝撃吸収部材2は、八角形断面のストレートの衝撃吸収部材100、中間部201が段差状の八角筒体200の比較例1、及び、傾斜した中間筒部301を有する八角筒体300の比較例2と比較して、エネルギー吸収量が大きいという実験結果が得られた。本発明の衝撃吸収部材2のエネルギー吸収量は、図5に示すように、同等重量の八角形断面の衝撃吸収部材100と比較して、L(1.6kJ)大きい。
【0040】
また、図6に示すように、本発明の衝撃吸収部材2において、前述したテーパ状筒部22の中間筒部23側がストレート筒部21内に入り込んで中間筒部23及びストレート筒部21の荷重負荷側端部21bが座屈変形する際の変形量に対する荷重Wは、八角形断面の衝撃吸収部材100及び比較例1,2と比較して全体的に大きくなっている。
【0041】
<塑性変形した衝撃吸収部材の歪みについて>
次に、図7を参照して塑性変形した衝撃吸収部材2の歪みについて説明する。図7は、塑性変形した衝撃吸収部材2の歪みの分布図である。
図7に示すように、衝撃吸収部材2は、自動車1(図1参照)が正面衝突してテーパ状筒部22の連結側端部22bがストレート筒部21内に食い込むことによって、ストレート筒部21の荷重負荷側端部21bが周方向に引張力を受けて均一な歪みが発生する。そして、断面八角筒状の衝撃吸収部材2の歪みは、括れた形状の中間筒部23の角綾部2aに集中して高くなる。このように、衝撃吸収部材2は、中間筒部23に大きな歪みが集中して座屈変形することにより、ストレート筒部21の大部分に歪みが発生せず、変形量が小さいため、ショートストローク化が可能である。
【0042】
<材料特性による歪みの違い>
次に、図8及び図9を参照して衝撃吸収部材2に使用する材料特性による歪みの違いについて説明する。図8は、各種材料の応力−塑性ひずみ特性を表すグラフある。図9は、各種の材料で形成した本発明の衝撃吸収部材の吸収エネルギー量と、各種の材料で形成した八角形断面の衝撃吸収部材吸収エネルギー量との違いを表した棒グラフである。
【0043】
本発明の衝撃吸収部材2と八角形断面の衝撃吸収部材100(図5参照)とを、780T鋼(f)、590R鋼(g)及びTWIP鋼(h)でそれぞれ形成した場合の応力に対する塑性歪みは、図8に示すようになる。図8から、それらの材料の中で衝撃吸収部材2をTWIP鋼(h)で形成した場合の応力が一番高く、780T鋼(f)で形成した場合の応力が一番低いという結果になった。
このように、衝撃吸収部材2は、高強度及び高延性を有するTWIP鋼(h)で形成することによって、さらに、大きな荷重Wで圧潰されるようにすることができる。
【0044】
また、図9に示すように、本発明の衝撃吸収部材2と八角形断面の衝撃吸収部材100(図5参照)とを、780T鋼(f)、590R鋼(g)及びTWIP鋼(h)でそれぞれ形成した場合のエネルギー吸収量(kJ)を比較すると、本発明の衝撃吸収部材2のエネルギー吸収量が八角形断面の衝撃吸収部材100(図5参照)より、全ての材料で大きいという実験結果が得られた。
特に、TWIP鋼(h)で衝撃吸収部材2の全体を形成した場合は、エネルギー吸収量が大きく、エネルギー吸収能の向上が顕著に現れた。衝撃吸収部材2は、前述したように括れた形状のテーパ状筒部22で高い歪みが発生するので、TWIP鋼(h)のような高歪み領域での強度が高く、高延性の材料を用いることによって、さらに、エネルギー吸収効果を向上させることができる。
【0045】
[変形例]
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造及び変更が可能であり、本発明はこれら改造及び変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0046】
≪第1変形例≫
図10は、本発明に係る衝撃吸収部材の第1変形例を示す断面図である。
前記実施形態では、図2に示すように、衝撃吸収部材2の一例として、テーパ状に拡開して衝撃吸収部材2における外径D2が最大なテーパ状筒部22の開口端22a側を荷重Wが負荷される側にして配置したものを説明したが、これに限定されるものではない。例えば、図10に示す衝撃吸収部材3のように、ストレート筒部31と、テーパ状筒部32と中間筒部33とを有する筒体であればよい。
【0047】
衝撃吸収部材3は、外径D10が略一定に形成されたストレート筒部31と、荷重Wが負荷される開口端32a側(一端部)の内径D20と連結側端部32b(他端部)の外径D30とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部32と、前記ストレート筒部31とテーパ状筒部32の連結側端部32b(他端部)との間に介在されて両者が同軸上に連結された中間筒部33と、を有して一体形成されている。
前記外径D10、内径D20、外径D30は、
D20<D10<D30
の長さになるように形成してもよい。
つまり、テーパ状筒部32は、荷重Wがかかる側が縮径されて細く、中間筒部33側の連結側端部32bが最大の外径D30になるように形成されている。
【0048】
衝撃吸収部材3は、このように形成されたことによって、テーパ状筒部32の開口端32aに過大な荷重Wが負荷されると、連結側端部32bが中間筒部33の外周からストレート筒部31の外周側へ押し出されて、中間筒部33が折り返すように変形すると共に、
テーパ状筒部32の連結側端部32b寄りの内面が、中間筒部33を介してストレート筒部31の荷重負荷側端部31bの外面を押圧しながら座屈変形することにより、圧潰荷重が上昇する。このため、第1変形例の場合も、前記実施形態と同様に、エネルギー吸収量を増加させることができるという効果がある。
【0049】
≪第2変形例≫
図11は、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材のエネルギー吸収量と、第2変形例の十二角筒形の衝撃吸収部材及び円筒形の衝撃吸収部材のエネルギー吸収量とを示す棒グラフである。図12は、本発明の衝撃吸収部材、第2変形例の十二角筒形の衝撃吸収部材及び円筒形の衝撃吸収部材における荷重と変形量との関係を示すグラフである。
【0050】
前記実施形態及び第1変形例では、八角筒形状の衝撃吸収部材2,3を説明したが、衝撃吸収部材2,3は、図11に示すように、十二角筒形状の衝撃吸収部材4や、円筒形状の衝撃吸収部材5であっても構わない。つまり、衝撃吸収部材4,5は、軸直交方向の断面の形状が筒状であればよく、角筒体でも円筒体でもよい。
【0051】
この場合、図11に示す十二角筒形状の衝撃吸収部材4は、前記実施形態の衝撃吸収部材2よりもエネルギー吸収量が大きいという実験結果が得られた。また、円筒形状の衝撃吸収部材5は、前記実施形態の衝撃吸収部材2と略同等のエネルギー吸収量が得られた。十二角筒形状の衝撃吸収部材4は、括れ形状の中間筒部43に角綾部4aを有することによって、その中間筒部43で歪みが大きく、数多く出て、その歪みの生じる領域も増加するため、エネルギー吸収量が大きくなっていると考えられる。
【0052】
また、図12に示すように、十二角筒形状の衝撃吸収部材4及び円筒形状の衝撃吸収部材5は、前述した本発明の衝撃吸収部材2と略同様に、圧潰変形させる荷重Wが大きいという実験結果が得られた。
【0053】
≪第3変形例≫
図13は、本発明に係る衝撃吸収部材の第3変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のF−F断面図、(c)は(b)のH部拡大図、(d)はテーパ状筒部と中間筒部との連結部の部分拡大図である。
図13(a)〜(d)に示すように、衝撃吸収部材6は、テーパ状筒部62の角綾部6aのアールR2を、ストレート筒部61の角綾部6aのアールR1より大きくして、円弧状に形成してもよい。衝撃吸収部材2は、このように、テーパ状筒部62の角綾部6aのアールR2を大きくすることによって、ストレート筒部61の角綾部6aとテーパ状筒部62の連結側端部62bの角綾部6aとのオフセット量S(内径D1と外径D3との差)が大きくなる。衝撃吸収部材は、このように形成することにより、圧潰変形時に、ストレート筒部61の角綾部6aとテーパ状筒部62の連結側端部62bの角綾部6aとが干渉し難くなる。そのため、テーパ状筒部62は、圧潰変形する際に、ストレート筒部61内に入り込み易くなり、安定して圧潰される。
【0054】
≪第4変形例≫
図14は、本発明に係る衝撃吸収部材の第4変形例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のG−G断面図、(c)は(b)のI部拡大図である。
図14(a)〜(c)に示すように、衝撃吸収部材7は、テーパ状筒部72を、中間筒部73側へ向かって近付くのに連れて、その断面形状が略八角形状(略多角形状)から徐々に円形になるように形成してもよい。つまり、テーパ状筒部72の連結側端部72bは、角綾部7aが無くなり、アールR4が円形になるように形成する。このため、そのアールR4は、ストレート筒部71の角綾部7aのアールR3より大きくなる。
このようにしても、前記第3変形例の衝撃吸収部材6と同様な作用効果を得られる。
【0055】
≪第5変形例≫
図15は、本発明に係る衝撃吸収部材の第5変形例を示す図であり、(a)は中央断面図、(b)は衝撃吸収部材が圧潰変形した状態を示す中央断面図である。
図15(a)、(b)に示すように、衝撃吸収部材8は、ストレート筒部81とテーパ状筒部82の少なくとも一方の板厚t1,t2を、中間筒部73の板厚t3よりも大きくすることによって、ストレート筒部81またはテーパ状筒部82の強度を中間筒部73より高強度にすることができる。
【0056】
このようにすれば、衝撃吸収部材8に圧潰荷重Wが負荷された際に、括れ形状の中間筒部73に歪みが集中するようにさせることができる。つまり、テーパ状筒部82とストレート筒部81とを強化して衝突の際の変形を抑制することによって、図15(b)に示すように、中間筒部83を折り返すように変形させて、テーパ状筒部82に引張荷重が作用して中間筒部83に分散するため、さらに、中間筒部83に集中して歪みが発生する。
その結果、衝撃吸収部材8に圧潰荷重Wが負荷された際に、不容易にテーパ状筒部82及びストレート筒部81が座屈するのを抑制することができる。
【0057】
なお、テーパ状筒部82及びストレート筒部81は、前記板厚t1,t2,t3を相違させることに代えて、焼き入れよって強度を変更したり、あるいは、強度の相違する材質に変更したりすることよって、中間筒部83よりも高強度になるように形成してもよい。この場合も、前記第5変形例と同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 自動車
2,3,4,5,6,7,8 撃吸収部材
21,31,61,71,81 ストレート筒部
22,32,62,72,82 テーパ状筒部
23,33,43,63,73,83 中間筒部
D1,D20 内径
D2,D3,D10,D30 外径
t1,t2,t3 板厚
W 荷重
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の衝突時に作用する荷重によって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部材であって、
内径D1が略一定に形成されたストレート筒部と、
一端部の外径D2と他端部の外径D3とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部と、
前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の他端部との間に介在されて前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部とを同軸上に連結する中間筒部と、を有し、
前記内径D1、前記外径D2、前記外径D3は、
D3<D1<D2
の長さに形成されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項2】
自動車の衝突時に作用する荷重によって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部材であって、
外径D10が略一定に形成されたストレート筒部と、
一端部の内径D20と他端部の外径D30とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部と、
前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の他端部との間に介在されて両者が同軸上に連結された中間筒部と、を有し、
前記外径D10、前記内径D20、前記外径D30は、
D20<D10<D30
の長さに形成されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の少なくとも一方は、
板厚の増加、焼き入れ、あるいは、材質の変更のいずれかによって、前記中間筒部より高強度に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記ストレート筒部及び前記テーパ状筒部は、断面が略多角形状に形成され、
前記テーパ状筒部は、前記中間筒部側へ向かって近付くのに連れて、その断面形状が徐々に円形になるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項1】
自動車の衝突時に作用する荷重によって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部材であって、
内径D1が略一定に形成されたストレート筒部と、
一端部の外径D2と他端部の外径D3とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部と、
前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の他端部との間に介在されて前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部とを同軸上に連結する中間筒部と、を有し、
前記内径D1、前記外径D2、前記外径D3は、
D3<D1<D2
の長さに形成されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項2】
自動車の衝突時に作用する荷重によって圧潰変形することにより衝突エネルギーを吸収する筒状の衝撃吸収部材であって、
外径D10が略一定に形成されたストレート筒部と、
一端部の内径D20と他端部の外径D30とが相違するテーパ状に形成されたテーパ状筒部と、
前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の他端部との間に介在されて両者が同軸上に連結された中間筒部と、を有し、
前記外径D10、前記内径D20、前記外径D30は、
D20<D10<D30
の長さに形成されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記ストレート筒部と前記テーパ状筒部の少なくとも一方は、
板厚の増加、焼き入れ、あるいは、材質の変更のいずれかによって、前記中間筒部より高強度に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記ストレート筒部及び前記テーパ状筒部は、断面が略多角形状に形成され、
前記テーパ状筒部は、前記中間筒部側へ向かって近付くのに連れて、その断面形状が徐々に円形になるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−11661(P2011−11661A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158289(P2009−158289)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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