説明

衝撃試験用落錘体

【課題】衝突安全性を要求される部品に対して落錘式衝撃試験機を用いて衝撃試験を行う際に用いられる衝撃試験用落錘体の早期の損傷を抑制して耐久性を向上する。
【解決手段】鉛直下方へ向けて走行するための走行機構17a〜17dを備える支持部12と、支持部12の下部に配置されて下方に配置される被試験体10に衝突する衝突部13とを備える落錘体11である。落錘体11を構成する、被試験体10に衝突する衝突部13を、支持部12の下部に分けて配置するので、落錘体11の延命を図ることができ、これにより、衝撃試験コストの上昇や落錘衝撃試験機の稼働率の低下をいずれも抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃試験用落錘体に関する。具体的には、本発明は、例えば自動車や鉄道車両さらには船舶等に用いられて衝突安全性を要求される部品に対して落錘式衝撃試験機を用いて衝撃試験を行う際に好適に用いられる衝撃試験用落錘体に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、現在の多くの自動車の車体は、軽量化及び高剛性を両立するために、フレームと一体化したボディ全体により荷重を支えるモノコックボディによって構成される。自動車の車体は、車両の衝突時には、車両の機能の損傷を抑制し、かつキャビン内の乗員の生命を守る機能を有さなければならない。このため、新車の車体は、開発時に行われる車両の衝突試験により得られる各種データに基づいて、衝突時のエネルギーを吸収してキャビンへの衝撃力を緩和することによってキャビンの損傷をできるだけ低減することができるように、設計される。
【0003】
非特許文献1〜3には、このような衝突試験に関する発明が開示される。非特許文献1には、前面衝突や側面衝突等といった車両の各種の衝突試験の手法に係る発明が開示される。非特許文献2には、台上試験装置(クラッシュシミュレータ)を用いた側面衝突試験に係る発明が開示される。さらに、非特許文献3には、斜めオフセット衝突を想定した衝突試験に係る発明が開示される。これらの発明は、実際に発生する事故時の衝突を再現して評価するものであり、いずれも、自動車車両の衝突安全性の向上を図るために有効な試験法である。
【0004】
これらの発明に係る衝突試験は、被試験体である車両や試験台を相対的に水平方向に走行させて衝突壁に衝突させることにより、行われる。このため、用いられる衝突試験装置の設置面積は不可避的に大きくなり、この衝突試験装置は高価となる。したがって、衝突試験を行うことには自ずとコスト面での制約を伴うこととなり、新車の開発時に十分な回数の衝突試験を行うことを阻害する一因となる。
【0005】
また、これらの発明における被試験体は、エンジン、トランスミッションさらにはタイヤ等の装備を全て装着された完成車両や、フロアーやシート等といった必要な部品のみを用いた疑似車両である。このため、例えばアンダーボディを補強するためのサイドメンバーやクラッシュボックス(例えば、自動車のフロントバンパーレインフォースとフロントサイドメンバーとの間や、リアバンパーレインフォースとリアサイドメンバーとの間等に脱着自在に配置されて、軸方向の一方の端部から軸方向へ向けて衝撃荷重を負荷されると、長手方向のできるだけ多くの領域において優先的に蛇腹状に座屈することにより衝突エネルギーを吸収するための筒体を意味する)、さらにはエンジンコンパートメントといった自動車部品単体の衝撃試験を行うことはできない。
【0006】
そこで、非特許文献4には、図7に示すように、大型の落錘式衝撃試験機4の試験台2に設置したロードセル3上に、市販車のホワイトボディから切り出した車体のエンジンコンパートメントを供試体1として垂直に立てて搭載し、鉛直に配設されたガイドレール4a、4bに案内されて下方へ向けて走行する車輪5a〜5dを備える大型の落錘体5を、空気圧式加速機構6及びバネ式加速機構7を用いて下方へ加速落下させて所定の衝突速度で供試体1に衝突させることによって、供試体1の各部の破壊の状況を解析する発明が開示される。
【0007】
この発明によれば、大型の落錘衝撃試験機4を用いるので、試験機の設置面積Sを小さく抑制しながら、エンジンコンパートメントや車両部品を供試体1として衝撃試験を行うことができる。
【非特許文献1】文献「自動車技術」(Vol.59,No.12,2005. 27〜32頁)
【非特許文献2】文献「自動車技術」(Vol.59,No.12,2005. 62〜67頁)
【非特許文献3】文献「自動車技術」(Vol.59,No.12,2005. 56〜61頁)
【非特許文献4】文献「社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集No.119−04) 240自動車構造体の衝撃試験評価技術の開発 1〜3頁」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献4により開示された発明では、ガイドレール4a、4bに案内されて走行する車輪5a〜5dを直接設けられた落錘体5を落下させて衝撃試験を行う。このため、この発明では、衝撃試験を数回程度繰り返すと、衝撃試験時に落錘体5に負荷される衝撃荷重によって、落錘体5にひび割れや破損等の損傷が発生し、落錘体5を交換する必要が生じる。このため、落錘体5を度々交換することに伴う、試験コストの上昇や落錘衝撃試験機4の稼働率の低下は、いずれも避けられない。
【0009】
一般に、この種の衝撃試験では被試験体に極めて高価な試作部品を用いること等に起因して試験コストが大幅に嵩むので、上述したような落錘体5の早期の損傷に起因した衝撃試験コストの上昇や落錘衝撃試験機の稼働率の低下は、この種の衝撃試験を新車開発時に十分に行うためには、必ず解決しなければならない重要な技術課題である。
【0010】
本発明の目的は、例えば自動車や鉄道車両、さらには船舶等に用いられて衝突安全性を要求される部品に対して落錘式衝撃試験機を用いて衝撃試験を行う際に用いられる衝撃試験用落錘体の早期の損傷を抑制してその耐久性を向上することにより、落錘体の交換のための試験コストの上昇や落錘式衝撃試験機の稼働率の低下をいずれも抑制し、これにより、落錘式衝撃試験機の実用性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、例えば鉛直下方といった下方へ向けて走行するための走行機構を備える支持部と、この支持部の下部に配置されて下方に配置される車両部品に衝突する衝突部とを備えることを特徴とする衝撃試験用落錘体である。この発明によれば、衝撃試験用落錘体を構成する、被試験体である部品に衝突する衝突部を、走行機構を支持する支持部の下部に分けて配置するので、非特許文献4により開示された発明よりも落錘体の延命を図ることができ、これにより、衝撃試験コストの上昇や落錘式衝撃試験機の稼働率の低下をいずれも抑制して、落錘式衝撃試験機の実用性を高めることが可能となる。
【0012】
この本発明に係る衝撃試験用落錘体では、支持部が、この支持部と衝突部とが接触する接続部の外縁の鉛直上方の近傍を含む位置に設けられる貫通孔を有することが望ましい。さらに、この貫通孔が、接続部の外縁の鉛直上方近傍を含む位置から支持部の水平方向の外部へ向けて、設けられることが望ましい。
【0013】
これらの本発明に係る衝撃試験用落錘体では、貫通孔が、支持部の水平方向の外部に向かうにつれて鉛直方向への開口量が増加する形状を有することが望ましい。
これらの本発明に係る衝撃試験用落錘体では、接続部が、支持部の下方へ向けて突出して設けられることが望ましい。
【0014】
これらの本発明に係る衝撃試験用落錘体では、接続部の水平方向への寸法が、衝突部の水平方向への寸法よりも小さいことが望ましい。
これらの本発明に係る衝撃試験用落錘体では、支持部が、所定距離だけ離間して配置された2枚の略矩形の板材の組み合わせにより直方体状に、又は、1枚の略矩形の板材により、構成されることが望ましい。
【0015】
これらの本発明に係る衝撃試験用落錘体では、支持部が、所定距離だけ離間して対向配置される2枚の略矩形の板材の組み合わせを、複数組交差配置または複数組平行配置することにより、又は、略矩形の板材を複数枚交差配置または複数枚平行配置することにより構成されることが望ましい。
【0016】
さらに、これらの本発明に係る衝撃試験用落錘体では、支持部が、衝突部と一体に、又はこの衝突部と脱着自在に設けられることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、例えば自動車や鉄道車両、さらには船舶等に使用されて衝突安全性を要求される部品に対して衝撃試験を行う際に用いられる衝撃試験用落錘体の早期の損傷を抑制して耐久性を向上することができ、落錘体の交換のための試験コストの上昇や落錘衝撃試験機の稼働率の低下をいずれも抑制することができる。
【0018】
このため、本発明によれば、大型の落錘体を落下させて被試験体である車両部品に衝突させることによる衝撃試験を、真に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施の形態1)
以下、本発明に係る衝撃試験用落錘体を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以降の実施の形態の説明では、車両部品が自動車部品の一つであるクラッシュボックスである場合を例にとるが、これは本発明の例示であって本発明は自動車部品に限定されるものではない。本発明は、自動車部品以外でも、例えば鉄道車両や船舶等に使用されて衝突安全性が要求される部品であれば、同様に適用される。
【0020】
図1は、本実施の形態の衝撃試験用落錘体11(以下、「落錘体11」と略記する)を用いて、落錘式衝撃試験機30により、クラッシュボックスを被試験体10として衝撃試験を行う状況を示す説明図である。また、図2は、この落錘体11の三面図であり、図2(a)は上面図、図2(b)は正面図、図2(c)は図2(b)におけるD−D断面図である。
【0021】
本実施の形態の落錘体11は、支持部12と衝突部13とを備えるので、はじめにこれらについて説明する。
[支持部12]
支持部12は、後述する衝突部13とともに落錘体11を構成する。図1に示すように本実施の形態の支持部12は、所定距離dだけ離間して対向配置された略矩形の板材14a、14bと、板材14a、14bの長手方向の端面に溶接された端板15a、15bと、板材14a、14bの長手方向の上面に溶接された天板16とを、直方体状に組み合わせて構成される。板材14a、14b、端板15a、15b及び天板16の材質は,特に限定を要するものではないが、高張力鋼を用いることが望ましい。
【0022】
また、板材14a、14bの間には、図2(c)に示すように、例えば角管14cが適宜本数溶接されて固定される。これにより、板材14a、14b、端板15a、15b及び天板16は、衝突時に衝撃荷重を負荷されても分解しないように強固に接合される。
【0023】
落錘体11は、その重心が下方に位置するほど安定して落下する。また、支持部12自身が耐久性を有することも重要である。このため、本実施の形態では、板材14a、14b、端板15a、15b、及び天板16により支持部12を中空体として構成して、支持部12の軽量化を図っている。
【0024】
本例では、2枚の略矩形の板材14a、14bを用いて支持部12を構成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、1枚の略矩形の板材により支持部12を構成するようにしてもよい。これにより、支持部12の構造を簡素化できるので、支持部12の製造コストの上昇を抑制できる。
【0025】
端板15aの上部及び下部には、鉛直下方へ向けて走行する走行機構をなす溝形のローラ17a、17bが装着されて固定されるとともに、端板15bの上部及び下部には同様の溝形のローラ17c、17dが装着される。このようにして、支持部12は、鉛直下方へ向けて走行するための走行機構を支持する。
【0026】
天板16の長手方向の略中央部には、後述する落下機構31を構成するマグネット31aが吸着するための円板状のマグネット装着板18が装着される。
図1に示すように、2枚の略矩形の板材14a、14bの組み合わせを有する、本実施の形態の支持部12は、水平断面において、板材14a、14bの長辺方向について衝突部13の外部に存在する部分を有する。この理由を以下に説明する。
【0027】
本実施の形態で用いる落錘式衝撃試験機30は、車両部品である被試験体10に落錘体11を落下させることによる衝撃試験のみならず、自動車車体を落下させ下方に配置した被衝突部材に衝突させることによる衝撃試験をも行うことができる。このため、ローラ17a〜17dを案内する枠体32の寸法(図1における距離L)を、この衝撃試験に供される各種の自動車車体のうちで最大の寸法にあわせて、広く設定されている。したがって、このように距離Lが広く設定された枠体32を、支持部12により支持されたローラ17a〜17dが走行できるようにするため、本実施の形態では、支持部12の水平方向(板材14a、14bの長手方向)の距離を距離Lにあわせて、支持部12が水平断面において後述する衝突部13の輪郭の外部に存在する部分を有するように、長く設定してある。
【0028】
さらに、板材14a、14bの領域B、Cに存在する部分には、支持部12の水平方向の外部、すなわち板材14a、14bの長手方向の外部に向かうにつれて鉛直方向への開口量が増加する形状を有する貫通孔20がそれぞれ穿設される。
【0029】
板材14a、14bの領域B、Cに存在する部分に貫通孔20をそれぞれ穿設することにより、被試験体10との衝突によりこの部分に発生する応力が、支持部12の水平方向について略均等化され、これにより、この部分における端部(端材15a、15bの配置側)のたわみ量が可及的に低減される。これにより、板材14a、14bの領域B、Cに存在する部分が、衝突時に下方へ撓んでも、衝突部13に衝突することを防止できる。このため、落錘体11の寿命がさらに延長される。
【0030】
本実施の形態では、貫通孔20の形状を二等辺三角形としたがこれに限定されるものではなく、四角形、円形さらには楕円形等であってもよい。
さらに、支持部12の水平方向の内部、すなわち略矩形の板材14a、14bの長手方向の内部(図1における領域A)であって板材14a、14bの下面には、後述する衝突部13と接触するための接続部19が下方へ向けて段差状に突設して、設けられる。
【0031】
上述した接続部19は、支持部12の底面から鉛直下方へ突出して形成されることが望ましい理由を説明する。上述したように、板材14a、14bに貫通孔20を設けることにより支持部12の領域B、Cに存在する部分に衝突時に生じる応力が略均等化されるが、接続部19が下方に突出せず支持部12の底面に衝突部13が直接設けられていると、支持12の底面のうちで衝突部19の角部と当接する位置に大きなせん断応力が集中的に作用し、支持部12の寿命が低下する。本実施の形態のように接触部19を鉛直下方へ向けて突出して形成することにより、このせん断応力を分散して支持部12の寿命の低下を抑制できる。
【0032】
このような観点から、接続部19の縦面と支持部12の底面との交点である角部Eは直角ではなく、テーパ状や円弧状とする方がより応力分散効果が得られ,望ましい。
また、このように、接続部19が下方へ向けて突設して設けられることにより、支持部12の水平方向の内部(図1における領域A)の両側に位置する外部(図1における領域B、C)には、衝突部13との間に鉛直方向へ距離dの隙間が形成される。
【0033】
このように、支持部12の水平方向の外部(図1における領域B、C)に、衝突部13との間に鉛直方向へ距離dの隙間が形成されることにより、板材14a、14bの領域B、Cに存在する部分が、被試験体10との衝突により下方へ撓んでも、衝突部13と干渉することを防止できる。これにより、板材14a、14bの領域B、Cに存在する部分の損傷を抑制して落錘体11の寿命を延長することができる。
【0034】
さらに、本実施の形態では、図1及び図2(a)に示すように衝突部13の長手方向が支持部12の長手方向と一致するように衝突部13を支持部12に対して配置する形態を示すが、これに限定されるものではなく、図3(a)〜図3(c)に示すように、衝突部13の長手方向が支持部12の長手方向と例えば直交することにより衝突部13が支持部12の輪郭から張り出すように衝突部13を支持部12に対して配置してもよい。
【0035】
さらに、接続部19は,水平方向への寸法、すなわち領域Aの距離をある程度小さくすることが、より望ましい。接続部19の幅方向への寸法が小さければ、板材14a、14bに設ける貫通孔20を支持部12のより内側まで拡大して設けることが可能となるので、支持部12をさらに軽量化できるからである。したがって、衝突部13の支持部12の水平方向への寸法が大きい場合には、接続部19の幅方向への寸法を小さく設定することが望ましい。ただし、接続部19の水平方向への寸法が過小となった場合には、衝突部との接合強度が不足し、支持部と衝突部の間での錘体の損傷が生じる恐れがある。したがって、接続部19の水平方向への寸法は、衝突部13より小さく選択しつつ適宜強度を確保できる寸法を選択することが好ましい。
【0036】
支持部12と衝突部13との間に設ける、距離dの隙間は、水平方向に一定である必要はなく、図4に示すように、例えば衝突部13の上面13aを例えば下方へ向けたテーパ状の斜面に形成してもよいし(図4(a)参照)、あるいは支持部12の底面を例えば上方へ向けたテーパ状の斜面に形成してもよい(図4(b)参照)。
【0037】
このように、本実施の形態の落錘体11を構成する支持部12は、例えば鉛直下方といった下方へ向けて走行するための走行機構であるローラ17a〜17dを支持する。
[衝突部13]
衝突部13は、被試験体10に衝突する部分である。本実施の形態では、衝突部13も高張力鋼により構成したが、特に限定を要するものではなく、普通鋼であってもよい。
【0038】
衝突部13は、図1及び図2(a)に示すように略直方体形状をなしている。図示していないが、この衝突部13の底面13bに溶接や締結等の適宜手段によってさらに被試験体10に当接する治具を装着するようにしてもよい。
【0039】
支持部12及び衝突部13は、図1、図2(a)及び図2(b)に示すように、一体的に構成してもよいが、これに限定されるものではなく、図5(a)〜図5(c)に示すように、支持部12の底面に突出して形成された接続部19の底面に、衝突部13と接続するための取付け板21を溶接等により一体的に装着し、上述した距離dの隙間は、支持部12とこの取付け板21との間に設けるようにしてもよい。
【0040】
なお、落錘体11の総重量は、例えば、衝突部13に締結等の適宜手段で重量調整用ブロックを固定することや、衝突部13自体の形状や寸法を変更することといった、衝突部13の重量変更手段を施すことによって、試験目的に応じて適宜変更することができる。この場合には、支持部12の底面に、新たに取り付ける衝突部13と固定するための取付け板を溶接等の適宜手段により一体的に取付けておき、この取付け板を介して衝突部13の交換を行うことが、交換作業に要する手間を削減できるので望ましい。
【0041】
このように、本実施の形態の落錘体11を構成する衝突部13は、支持部12の下部に配置されて下方に配置される車両部品である被試験体10に衝突する。
次に、本実施の形態で用いる落錘式衝撃試験機30について説明する。この落錘式衝撃試験機30は、落下機構31と、案内部材32と、被試験体支持部33と、演算装置34とを備えるので、これらの構成要素について順次説明する。
[落下機構31]
本実施の形態における落下機構31は、円柱状のマグネット31aと、マグネット31aを昇降自在に支持する懸垂装置31bとを備える。マグネット31aは、外部操作によってマグネット装着板18に吸着及び解放することができる。
【0042】
マグネット31aがマグネット装着板31に吸着した状態で懸垂装置31bによりマグネット31aを上昇させると、これに伴って、落錘体11を、所定の高さまで上昇させることができる。そして、この状態で外部操作によりマグネット31aの吸着を解放すれば、マグネット31aからマグネット装着板18が離れ、落錘体11を、下方に配置された被試験体10へ向けて初速零で自由落下させることができる。
【0043】
本実施の形態では、マグネット31aを用いて落錘体11を吊り上げることとしたが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、例えば、機械的に掛止部材を落錘体12に掛止させて吊り上げ、所定高さで掛止部材を開放することや、落錘体12を吊り上げて所定高さで紐を放すことを用いることができる。
【0044】
また、本実施の形態では、落錘体11を自由落下させることとしたが、本発明は自由落下させることに限定されるものではなく、例えば油圧等を用いた公知の加速機構を用いて加速落下させるようにしてもよい。
【0045】
このように、本実施の形態で用いる落下機構31は以上のように構成され、落錘体11を所定の高さまでを持ち上げ、この位置から落錘体11を初速零で自由落下させる。
[案内部材32]
案内部材32は、落錘体11の支持部12を構成する端板15a、15bと平行に略垂直に配設された複数本(本実施の形態では片側当り1本、合計2本)のアングルからなる軌道32a、32bとして、構成される。
【0046】
本実施の形態で用いる落錘式衝撃試験機30は、上述したように、車両部品である被試験体10に落錘体11を落下させることによる衝撃試験のみならず、自動車車体を落下させ下部に配置した被衝突部材に衝突させることによる衝撃試験をも行うことができる。このため、ローラ17a〜17dを案内する枠体32の寸法(図1における距離L)を、この衝撃試験に供される各種の自動車車体のうちで最大の寸法にあわせて、広く設定されている。
【0047】
なお、図示していないが、本実施の形態の軌道32a,32bの長さは相当程度長いので、高さ方向の適当な位置の数箇所に並設される軌道32a,32bを固定するための梁が、適宜手段により取り付けられる。
【0048】
図1に示すように、アングルからなる軌道32a,32bは、望ましくは、その直角の頂点が互いに対向するようにして、配設される。そして、本実施の形態では、軌道32a,32bにローラ17a〜17dの溝部が係合する。これにより、軌道32a,32bに係合するローラ17a〜17dを支持する支持部12を要素として有する落錘体11が、安定した姿勢を維持しながら、案内部材32によって下方へ向けて案内される。
【0049】
軌道32a,32bの下部は、基礎36に適宜手段により確実に固定される。
なお、本実施の形態で示した軌道の形状、ローラの形状、ローラの垂直方向への設置数さらにはローラの間隔はあくまでも例示であって、本発明がこれらにより限定されるものではない。
【0050】
本実施の形態の案内部材32は、以上のように構成され、落下時の落錘体11を下方へ向けて案内する。
[被試験体支持部33]
被試験体支持部33は、落下する落錘体11が衝突する被試験体10を、試験目的に応じて垂直又は任意の姿勢に支持するための部材であり、案内部材32の下部であって基礎36に搭載されて配置される。
【0051】
本実施の形態の被試験体支持部33は、ロードセル搭載台37と、ロードセル搭載台37に搭載されるロードセル38と、ロードセル38の上部に配置されて被試験体10を垂直上方向き又は任意の向きの姿勢で適宜手段により固定する被試験体搭載台39と、これらの両側に一つずつ配置されるストッパ搭載台40と、ストッパ搭載台40に搭載されて被試験体10の破壊量を定めるストッパ41とを備える。ロードセル38により検出された荷重は、配線34aを介して演算装置34に入力される。
【0052】
被試験体支持部33は、以上のように構成され、案内部材32の下部に配置され、落下する落錘体11が衝突する被試験体10を垂直又は任意の姿勢に支持する。
なお、本実施の形態では、ストッパ搭載台40に搭載されたストッパ41を用いて、落下する落錘体11を被衝突部材への衝突の途中で強制的に停止する場合を例にとったが、本発明はこれに限定されるものではなく、ストッパ搭載台40およびストッパ41をいずれも設けずに落錘体11を最後まで落下させることにより落錘体11が有するエネルギーを被衝突部材への衝突に全て用いるようにしてもよい。
[演算装置34]
初めに、衝撃試験を行うための事前準備を行う。
【0053】
演算装置34は、落錘体11に装着された加速度センサや、被試験体10に装着されたひずみ計、さらにはロードセル38が出力する測定値等といった各種の検出部材が出力する測定値を入力されて、演算を行うための装置である。
【0054】
演算装置34は、加速度センサやひずみ計等と配線(図示しない)により接続されており、これにより、実際に落下する落錘体11から離れた位置に配置される。
本実施の形態で用いる落錘式衝撃試験機30は、以上のように構成される。次に、本実施の形態の落錘体11及び落錘式衝撃試験機30を用いて被試験体10の衝撃試験を行う状況を説明する。
【0055】
初めに、落錘体11は、案内部材32に設けられた図示しないストッパにより案内部材32の下部に位置して停止している。この位置は、被試験体支持部33のすぐ上方である。
【0056】
落錘体11がこの位置に存在する間に、被試験体支持部33の所定の位置に、被試験体10を所望の姿勢に配置しておく。
被試験体10や落錘体11の所定の位置に加速度センサやひずみ計等の検出部材を装着しておく。この検出部材は配線を介して演算装置34に接続しておく。なお、図示しないが、落錘体11と被試験体10との衝突の状況を解析するために、被試験体10の周囲の適宜箇所に、高速度光学撮影装置を複数台配置しておき、衝突時の被試験体10をその周囲から撮影することが望ましい。
【0057】
このようにして、事前準備を完了した後、落錘体11の落下を行う。
はじめに、マグネット31aを下降させてマグネット装着板18に吸着させる。そして、懸垂装置31bによりマグネット31aを上昇させ、落錘体11を所定の高さh(m)まで上昇させる。衝突時の速度は√(2gh)により与えられるので、例えば衝突速度を55km/hとするには引き上げる高さhを11.9mとすればよい。
【0058】
次に、この状態でマグネット31aの吸着を解放することにより、マグネット31aからマグネット装着板18を離し、落錘体11を初速零で、下方に配置された被試験体10へ向けて自由落下させる。
【0059】
自由落下した落錘体11は、落下開始時の所定の姿勢を維持しながら、安定して落下する。そして、落錘体11は、被試験体10に衝突速度√(2gh)で衝突する。
この衝突の際に、衝突により得られる加速度は加速度センサにより検出され、また荷重がロードセルにより検出され、さらにひずみがひずみゲージにより検出され、これらの検出値が演算装置24に入力される。このようにして、上述した検出部材により各種のデータを採取する。また、被試験体10の衝突時の変形状況を複数の方向から高速度光学撮影装置により撮影する。これらのデータに基づいて被試験体10の衝突時の変形状況等を解析する。
【0060】
このようにして、本実施の形態では、落錘体11を、所定の高さから落下させて下方に配置された被試験体10に衝突させることによって、衝突時における被試験体10の各部の破壊状況を演算装置34により解析することにより、被試験体10の衝撃試験を行う。
【0061】
このようにして行われる落錘式衝撃試験の際、本実施の形態の落錘体11は以下に列記する効果を奏する。
(i)落錘体11を構成する、被試験体10に衝突する衝突部13を、ローラ17a〜17dを備える支持部12の下部に分けて配置するので、非特許文献4により開示された落錘体よりも、衝突部13から支持部12に伝搬される衝撃荷重を低減できるので落錘体11の延命を図ることができるとともに、衝突時に最も負荷がかかる衝突部13に損傷が生じた場合にも衝突部13のみ交換すればよいので、試験コストを低減できる。
(ii)板材14a、14bにおける衝突部13との間に鉛直方向への隙間を有する部分(領域B、C)に、支持部12の水平方向の外部に向かうにつれて鉛直方向への開口量が増加する形状を有する貫通孔20が穿設される。このため、被試験体10との衝突時には、支持部12には衝突部13と接続する接続部19からは上方への反力が作用する一方、軌道に沿わせる案内機構である端板15やローラ17からは下方へ落ちる慣性力が作用する。この相対する力の作用によって、支持部12のうち接続部19の外縁部近傍、すなわち図2の領域A−Bの境界近傍、ならびに領域A−Cの境界近傍には非常に大きな応力が作用し、接続部19の外縁近傍より支持部12の水平方向の外側の部位が下方へたわむ変形を生じ、支持部12が損傷する。本実施の形態によれば、支持部12に貫通孔20を設けることにより、上述した相対する力の作用によって支持部12の領域BおよびCに生じる応力が水平方向について略均等化され、支持部12の損傷を抑制できる。
【0062】
なお、本実施の形態では、貫通孔20の頂点のうちで支持部12の内部側に位置する頂点が、接続部19の外縁の真上に位置することとしているが、必ずしも正確に真上に位置する必要はなく、多少は左右にずれて位置しても問題ない。かかる観点から、貫通孔20は接続部19の外縁部の鉛直上方位置の近傍を含む位置に、設けられることが好ましい。より好ましくは、接続部19の外縁部近傍より支持部12の水平方向の外側へ向けて配置することが好ましい。
【0063】
このため、貫通孔20の形状は、本実施の形態により示した三角形状に限定されるものではなく、四角形状や略楕円状等の適宜形状であってよい。貫通孔20は、支持部12の水平方向の外部に向かうにつれて鉛直方向の開口量が増加する形状を有することが、望ましい。また、貫通孔20は、支持部12の水平方向に対称に配置することが好ましい。さらに、貫通孔20は、支持部12の水平方向の中央を挟んで左右に各1つずつでも良いし、適宜片側に複数個ずつ配置するようにしてもよい。
(iii)支持部12の水平方向の内部(領域A)に、衝突部13と接続するための接続部19を有するとともに、支持部12の水平方向の外部(領域B、C)に、衝突部13との間に鉛直方向への距離がdである隙間を有する。このため、支持部12の水平方向の外部(領域B、C)が衝突により下方へ撓んでも、撓んだこの部分が衝突部13に干渉することを防止でき、これにより、支持部12の損傷を抑制することができる。したがって、落錘体11の延命を図ることができる。
【0064】
このようにして、本実施の形態の落錘体11は、非特許文献4により開示された発明における落錘体よりも、延命を図ることができるので、衝撃試験コストの上昇や落錘衝撃試験機30の稼働率の低下をいずれも抑制することが可能となる。これにより、大型の落錘体11を落下させることにより衝突安全性が要求される車両部品に対して行う衝撃試験において落錘体11の耐久性を高めて、この衝撃試験の実用性を高めることができる。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2を説明する。なお、以降の説明では上述した実施の形態1と相違する部分を説明し、共通する部分については同一の符号を用いることにより重複する説明を省略する。
【0065】
図6(a)及び図6(b)は、それぞれ本実施の形態の落錘体11−5、11−6の上面図である。
本実施の形態の落錘体11−5、11−6が実施の形態1の落錘体11〜11−4と本質的に相違するのは、支持部12−1が、実施の形態1のように所定距離だけ離間して対向配置された2枚の略矩形の板材14a、14bの組み合わせにより略直方体に構成されるのではなく、図6(a)及び図6(b)に示すように、所定距離だけ離間して対向配置された2枚の略矩形の板材14a、14bを組み合わせた直方体42を、複数組(図示例では2組)所定の傾斜角度で交差配置するとともに、二つの直方体42の下面に両者に接合される取付け板43を配置する点である。この取付け板43を介して、衝突部13は支持部12−1にボルト等を用いて締結等により脱着自在に固定される。
【0066】
取付け板43の形状は、四角形等の多角形や円形等の適宜形状とすればよい。また、本実施の形態では、2組の直方体42にそれぞれ互いに係合し合うための切欠きを設けておき、これらの切欠きを介して2組の直方体42を所定の交差角度(図示例では45度)で交差配置するが、この形態に限定されるものではなく、適宜手法により2組の直方体42を所定の交差角度で交差配置すればよい。
【0067】
なお、図6(a)の落錘体11−5と、図6(b)の落錘体11−6との相違点は、支持部12−1に対する衝突部13の取付け方向が90度相違する点である。
各直方体42の側面には、それぞれ、ローラ17a、17bが装着され、一方の直方体42に設けられたローラ17a,17bは軌道32a、32bに係合し、他方の直方体42に設けられたローラ17a、17bは新たに追加して設けられた軌道32a、32bに係合する。
【0068】
本実施の形態によれば、2つの直方体42を図6(a)及び図6(b)に示すようにX字型に組み合わせ、四点で軌道32a、32a、32b、32bに係合するので、落下中及び被試験体10に衝突した後の跳ね返り時における落錘体11−1の姿勢をさらに安定化することができる。
【0069】
また、本実施の形態では、支持部12−1と衝突部13とを脱着自在に固定するので、衝突部13を重量が異なる他の衝突部13−1に交換することにより、落錘体の質量を容易に変更することができ、試験条件の変更に柔軟かつ迅速に対応することができる。
【0070】
なお、本実施の形態では、2つの直方体42を2組以上交差配置した場合を例にとったが、これとは異なり、2つの直方体42を2組以上平行配置して支持部を構成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施の形態1の落錘体を用いて、落錘式衝撃試験機により自動車部品であるクラッシュボックスの衝撃試験を行う状況を示す説明図である。
【図2】実施の形態1の落錘体の三面図であり、図2(a)は上面図、図2(b)は正面図、図2(c)は図2(b)におけるD−D断面図である。
【図3】実施の形態1の落錘体の変形例の三面図であり、図3(a)は上面図、図3(b)は正面図、図3(c)は図3(b)におけるD−D断面図である。
【図4】図4(a)および図4(b)は、いずれも、実施の形態1の落錘体の他の変形例の正面図である。
【図5】実施の形態1の落錘体のさらに他の変形例の三面図であり、図5(a)は上面図、図5(b)は正面図、図5(c)は図53(b)におけるD−D断面図である。
【図6】図6(a)及び図6(b)は、いずれも、実施の形態2の落錘体の上面図である。
【図7】非特許文献4により開示された従来の衝撃試験機を示す説明図である。
【符号の説明】
【0072】
10 クラッシュボックス
11 落錘体
12,12−1 支持部
13、13−1 衝突部
14a、14b 板材
14c 補強用角管
15a、15b 端板
16 天板
17a〜17d ローラ
18 マグネット装着板
19 接続部
20 貫通孔
21 取り付け板
30 落錘式衝撃試験機
31 落下機構
31a マグネット
31b 懸垂装置
32 案内部材
32a、32b 軌道
33 被試験体支持部
34 演算装置
34a 配線
36 基礎
37 ロードセル搭載台
38 ロードセル
39 被試験体搭載台
40 ストッパ搭載台
41 ストッパ
42 直方体
43 取り付け板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方へ向けて走行するための走行機構を備える支持部と、該支持部の下部に配置されて下方に配置される車両部品に衝突する衝突部とを備えることを特徴とする衝撃試験用落錘体。
【請求項2】
前記支持部は、該支持部と前記衝突部とが接触する接続部の外縁の鉛直上方の近傍を含む位置に設けられる貫通孔を有する請求項1に記載された衝撃試験用落錘体。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記接続部の外縁の鉛直上方の近傍を含む位置から前記支持部の水平方向の外部へ向けて、設けられる請求項2に記載された衝撃試験用落錘体。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記支持部の水平方向の外部に向かうにつれて鉛直方向への開口量が増加する形状を有する請求項2又は請求項3に記載された衝撃試験用落錘体。
【請求項5】
前記接続部は、前記支持部の下方へ向けて突出して設けられる請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載された衝撃試験用落錘体。
【請求項6】
前記接続部の水平方向への寸法は、前記衝突部の水平方向への寸法よりも小さい請求項2から請求項5までのいずれか1項に記載された衝撃試験用落錘体。
【請求項7】
前記支持部は、所定距離だけ離間して配置された2枚の略矩形の板材の組み合わせにより直方体状に、又は、1枚の略矩形の板材により、構成される請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された衝撃試験用落錘体。
【請求項8】
前記支持部は、所定距離だけ離間して対向配置される2枚の略矩形の板材の組み合わせを、複数組交差配置または複数組平行配置することにより、又は、略矩形の板材を複数枚交差配置または複数枚平行配置することにより構成される請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された衝撃試験用落錘体。
【請求項9】
前記支持部は、前記衝突部と一体に、又は該衝突部と脱着自在に設けられる請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載された衝撃試験用落錘体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−322161(P2007−322161A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150246(P2006−150246)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】