説明

衝突判断装置

【課題】レジスタ初期診断処理でレジスタ部に異常が発生していると診断した場合には、直ちに初期設定制御を停止することができる衝突判断装置を提供する。
【解決手段】側突判定用ASIC6で衝突判定動作を開始する前の初期設定処理制御として、レジスタ部6aのレジスタ初期設定処理を行った後に、このレジスタ初期設定処理時にレジスタ部6aに異常が発生していないかを診断するレジスタ初期診断処理を行い、レジスタ初期診断処理でレジスタ部6aに異常が発生していないと診断した場合に、レジスタ初期診断処理後に磁気センサ駆動用のクロック信号を発振させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時に衝突したことを判定してエアバック等の乗員保護モジュールへ作動信号を出力する衝突判断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車(車両)には、前面衝突時に乗員を保護するためのエアバックが運転席及び助手席の前方に一般に設置されているが、最近では、側面衝突時においても乗員の頭部や側部を保護するための乗員保護モジュール(サイドエアバックやカーテンエアバック)を車体側面側に設置した自動車が増えている。この乗員保護モジュール(サイドエアバックやカーテンエアバック)には、側面衝突時に衝突検出センサからのセンサ出力に基づいて車両の側面衝突を判定して、乗員保護モジュールへ作動信号を出力する衝突判断装置が接続されている。
【0003】
ところで、自動車の側面衝突時に衝突を検出するための衝突検出センサとして、従来より、例えば、加速度センサ(Gセンサ)等が知られているが、近年、側面衝突時における衝突をより応答性よく、かつ確実に検出することが可能な磁気センサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記特許文献1の磁気センサは、ドアパネルの車体外側方向に磁界を発生するコイルを有し、コイルのインダクタンスの変化に基づいて、自動車の側面衝突を検出するものである。
【特許文献1】特開2007−292593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
側面衝突を検出する磁気センサを有する衝突判断装置は、側面衝突時に磁気センサからのセンサ出力に基づいて側突を判定するとともに、この衝突判定情報に基づいてサイドエアバック等の乗員保護モジュールに作動信号を出力するエアバックコントロールユニットを備えている。また、エアバックコントロールユニット内には、磁気センサ駆動用のクロック信号を発振させて増幅し、増幅されたクロック信号を磁気センサのコイルへ出力するためのレジスタ部を有している。
【0006】
ところで、前記した磁気センサを有する衝突判断装置では、車両(自動車)のイグニッション(IGN)スイッチのON時に、最初に初期設定制御として、前記レジスタ部のレジスタ初期設定処理、初期設定されたレジスタ部に異常(故障)が発生していないかを診断するレジスタ初期診断処理、磁気センサ駆動用クロック信号の発振処理等が実行される。
【0007】
ところで、前記レジスタ初期診断処理時おいて、初期設定されたレジスタ部に異常(故障)が発生していると診断した時には、直ちにレジスタ初期設定処理を停止して、レジスタ部に異常(故障)が発生していることを警告ランプの点灯等によって乗員(運転者)に報知する必要がある。
【0008】
しかしながら、磁気センサを有する衝突判断装置では、初期設定制御時に磁気センサ駆動用クロック信号の発振処理も行う必要があるので、レジスタ初期診断処理時おいて、初期設定されたレジスタ部に異常(故障)が発生していると診断した時に、磁気センサ駆動用クロック信号がすでに発振されていると、磁気センサ駆動用クロック信号の発振停止処理を行った後にレジスタ初期診断処理の停止を行うことにより、初期設定制御(レジスタ初期診断処理)を直ちに停止できない不具合が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、レジスタ初期診断処理でレジスタ部に異常が発生していると診断した場合には、直ちに初期設定制御を停止することができる衝突判断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明は、車両衝突により変位する金属製の車両構成部材に所定の間隔を設けて対向配置されたコイルを有する磁気センサと、前記磁気センサからのセンサ出力を入力し、車両衝突時における前記車両構成部材の変位に伴い、交流電流が印加された前記コイルに流れる電流の変化に基づいて、車両衝突時の衝突を判定するとともに、この衝突判定情報に基づいて、乗員保護モジュールに作動信号を出力する制御手段と、を備え、前記制御手段は、磁気センサ駆動用のクロック信号を発振させて増幅し、増幅された前記クロック信号を前記磁気センサのコイルへ出力するためのレジスタ部を有している衝突判断装置において、前記制御手段で衝突判定動作を開始する前の初期設定処理制御として、前記レジスタ部のレジスタ初期設定処理を行った後に、このレジスタ初期設定処理時に前記レジスタ部に異常が発生していないかを診断するレジスタ初期診断処理を行い、前記レジスタ初期診断処理で前記レジスタ部に異常が発生していないと診断した場合に、前記レジスタ初期診断処理後に前記磁気センサ駆動用のクロック信号を発振させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る衝突判断装置によれば、レジスタ初期診断処理でレジスタ部に異常が発生していないと診断した場合に、レジスタ初期診断処理後に磁気センサ駆動用のクロック信号を発振させることにより、レジスタ初期診断処理でレジスタ部に異常が発生していると診断した場合には、直ちに初期設定制御を停止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る衝突判断装置の構成を示すブロック図、図2は、本発明の実施形態に係る衝突判断装置が搭載された車両(自動車)を示す概略平面図である。本実施形態に係る衝突判断装置は、自動車の側面衝突時の側突を判定して乗員保護モジュール(サイドエアバックやカーテンエアバック)に作動信号(展開信号)を出力する側面衝突判断装置に適用した例である。
【0013】
図1、図2に示すように、本実施形態に係る衝突判断装置1は、車両2の両側のドア内にそれぞれ設置された各磁気センサ3a,3bと、側面衝突時に各磁気センサ3a,3bのうちの側突側の磁気センサからのセンサ出力に基づいて、不図示の運転席と助手席にそれぞれ設置された乗員保護モジュールとしての各サイドエアバック4a,4bのうちの側突側のサイドエアバックに展開信号(作動信号)を出力する制御手段としてのエアバックコントロールユニット(エアバックECU)5を備えている。
【0014】
エアバックコントロールユニット5は、各磁気センサ3a,3bに増幅された磁気センサ駆動用のクロック信号を出力するとともに、各磁気センサ3a,3bからのセンサ出力を入力する側突判定用ASIC(Application Specific IC)6と、この側突判定用ASIC6から送信される前記センサ出力情報に基づいて側突の判定を行うとともに、この側突判定情報に基づいて各サイドエアバック4a,4bの展開制御を行うメインCPU7を有している。側突判定用ASIC6は、図3に示すように、制御部6aとレジスタ部6bを有している。エアバックコントロールユニット5のメインCPU7と側突判定用ASIC6の制御部6aは、SPI(Serial Peripheral Interface)通信によってデータの送受信が行われる。
【0015】
レジスタ部6bは、メインCPU7から入力される磁気センサ駆動用のクロック信号を発振させ、メインCPU7から制御部6aに送信されるコマンド(SPI通信によるレジスタ書き込みコマンド)に基づいて、磁気センサ駆動用のクロック信号を所定の大きさまで次第に増幅させる。増幅された磁気センサ駆動用のクロック信号を、各磁気センサ3a,3bのコイル9(図4参照)へ出力することにより、各磁気センサ3a,3bが初期設定される。
【0016】
図4は、磁気センサ3aが設置された左ドア(助手席側ドア)内を示す概略縦断面図である。なお、右ドア(運転席側ドア)内に設置された磁気センサ3bも同様であり、磁気センサ3aについて説明する。
【0017】
図4に示すように、磁気センサ3aは、左ドア(助手席側ドア)8の車体外側方向(図3の右側方向)に磁界を発生するコイル9を有し、アウタードアパネル8aとインナードアパネル8bとで構成される左ドア(助手席側ドア)8内のインナードアパネル8b側の下部付近に設置されている。樹脂容器10内に設けられているコイル9には、交流電源(不図示)が接続されている。
【0018】
アウタードアパネル8aの内側には、車体前後方向に沿って補強ビーム11が設置されており、この補強ビーム11と対向するようにしてインナードアパネル8b側に磁気センサ3aが設置されている。なお、図4において、二点鎖線で示したアウタードアパネル8aと補強ビーム11は、側面衝突時の衝撃により車体内側へ変位した状態を示している。
【0019】
図5を参照して、磁気センサ3a,3bによる、側面衝突時の衝突の検出原理について説明する。
【0020】
図5に示すように、交流電流を印加した前記コイル9と金属製の車体側面構成部材(例えば、アウタードアパネル8a、補強ビーム11)12間の距離によって決まる磁界の強さを、コイル9のインピーダンスの変化として検出する。即ち、側面衝突時の衝撃により車体側面構成部材(例えば、アウタードアパネル8a、補強ビーム11)12がコイル9側に変位すると、車体側面構成部材12の表面に渦電流が流れ、反作用磁束が発生する。この反作用磁束は、コイル9の起電力に変化を与えることにより、アウタードアパネル8a、補強ビーム11などの車体側面構成部材12がコイル9に近づくと、コイル9に流れる交流電流の値が大きくなる。よって、コイル9に流れる電流値の変化に基づいて、側面衝突時における車体側面構成部材(例えば、アウタードアパネル8a、補強ビーム11)12のコイル9側への変位、即ち、側面衝突時の衝突を検出することができる。
【0021】
本実施形態に係る衝突判断装置1は上記のように構成されており、車両のイグニッション(IGN)スイッチ(不図示)がONされると、最初にエアバックコントロールユニット5の側突判定用ASIC6の初期設定制御(側突判定用ASIC6のレジスタ初期設定処理、レジスタ初期診断処理、磁気センサ駆動用クロック信号の発振処理、および他の回路初期診断など)を実行し、側突判定用ASIC6の所定の初期設定処理とともに、側突判定用ASIC6に異常(故障)が発生していないかを自己診断する(側突判定用ASIC6のレジスタ初期設定処理、レジスタ初期診断処理の詳細については後述する)。このエアバックコントロールユニット5の初期設定制御は、イグニッション(IGN)スイッチのON時に自動的に実行される。
【0022】
そして、例えば、車両左側面側への側突時においては、この側突時の衝撃により、図4に示したように、左ドア(助手席側ドア)8のアウタードアパネル8a、補強ビーム11等が車室側に変形する。この際、左ドア(助手席側ドア)8内の磁気センサ3aのコイル9にアウタードアパネル8a、補強ビーム11等が近づくことで、前記したようにコイル9に流れる交流電流の値が大きくなる。
【0023】
そして、側突判定用ASIC6の制御部6aは、磁気センサ3aから出力されるセンサ出力(コイル9に流れる交流電流の大きさに応じた信号)を通信データとしてメインCPU7へ送信する。そして、メインCPU7は、側突判定用ASIC6の制御部6aから出力される側突判定情報に基づいて側突を判定し、サイドエアバック4aに接続されているインフレータ(不図示)に展開信号(作動信号)を出力する。サイドエアバック4aに接続されているインフレータは、入力される展開信号によりサイドエアバック4aを展開して、側突時の衝撃から乗員を保護する。
【0024】
なお、車両右側面側への側面衝突時においても同様に、磁気センサ3bから入力されるセンサ出力(コイル9に流れる交流電流の大きさに応じた信号)に基づいて、コイル9に流れる交流電流の値が所定の閾値を超えるとサイドエアバック4bが展開される。
【0025】
次に、前記した側突判定用ASIC6の初期設定制御における、側突判定用ASIC6のレジスタ初期設定処理、レジスタ初期診断処理を、図6に示したフローチャートを参照して説明する。この初期設定制御では、最初に側突判定用ASIC6のレジスタ初期設定処理を実行した後に、処理したレジスタ初期設定に対してレジスタ初期診断処理を実行する。
【0026】
側突判定用ASIC6の制御部6aは、メインCPU7からSPI通信で受信した書き込み命令に基づいて、レジスタ部6bの全てのレジスタを対象として初期設定値を書き込み、レジスタ初期設定処理を行う(ステップS1)。そして、全レジスタの書き込み処理が完了すると(ステップS2:YES)、レジスタ初期診断処理に移行し、メインCPU7からSPI通信で受信した読み込み命令に基づいて、書き込みした全てのレジスタを対象として読み込み処理を行う(ステップS3)。
【0027】
そして、メインCPU7は、ステップS3で読み込んだレジスタ読み込み値とステップS1で書き込んだレジスタ書き込み値とがそれぞれ一致するかを判定し(ステップS4)、両方の値が一致していると判定した場合は(ステップS4:YES)、レジスタ初期設定処理に異常が発生していない状況なので、異常カウントをクリアする(ステップS5)。
【0028】
そして、レジスタ部6bの全てのレジスタに対する判定で両方の値が一致し、全レジスタの一致判定が完了すると(ステップS6:YES)、レジスタ初期設定処理に異常が発生していない状況であると判定してレジスタ初期診断処理を終了し、その後、磁気センサ駆動用クロック信号の発振を行う(ステップS7)。なお、ステップS6で全レジスタの一致判定が完了していないときは(ステップS6:NO)、ステップS3に戻る。
【0029】
また、ステップS4で読み込んだレジスタ読み込み値と書き込んだレジスタ書き込み値とが一致していないと判定した場合は(ステップS4:NO)、レジスタ初期設定処理に異常が発生している状況なので、異常をカウントする(ステップS8)。そして、制御部6aは、ステップS4でレジスタ読み込み値とレジスタ書き込み値とが一致しない異常が連続3回発生するか否かを判定する(ステップS9)。
【0030】
そして、ステップS9で異常が連続3回発生したと判定した場合は(ステップS9:YES)、レジスタ部6bに故障が発生していると確定し(ステップS10)、警告ランプを点灯(または点滅)するなどして、運転者等にレジスタ部6bに故障が発生していることを報知する。ステップS10でレジスタ部6bに故障が発生していると確定した場合には、磁気センサ駆動用クロック信号の発振を行うことなく直ちに側突判定用ASIC6の初期設定制御を停止する。
【0031】
また、ステップS9で異常の発生が3回未満であると判定した場合は(ステップS9:NO)、レジスタ部6bに故障が発生しているかは確定できないのでステップS1に戻り、前記したレジスタ初期設定処理、レジスタ初期診断処理を再度繰り返す。なお、ステップS9では、異常の連続発生回数を3回としたが、3回に限らず、例えば、2回或いは4〜6回程度でもよい。
【0032】
このように、本実施形態では、側突判定用ASIC6のレジスタ初期設定処理後に磁気センサ駆動用クロック信号の発振を行うことなく、レジスタ初期診断処理後に磁気センサ駆動用のクロック信号を発振させることにより、レジスタ初期診断処理でレジスタ部6bに異常が発生していると確定した場合には、直ちに初期設定制御を停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る衝突判断装置の構成を示すブロック図。
【図2】本発明の実施形態に係る衝突判断装置が搭載された車両を示す概略平面図。
【図3】側突判定用ASICの構成を示すブロック図。
【図4】磁気センサが設置された左ドア(助手席側ドア)内を示す概略縦断面図。
【図5】磁気センサによる、側面衝突時の衝突の検出原理を説明するための図。
【図6】側突判定用ASICの初期設定制御における、側突判定用ASICのレジスタ初期設定処理、レジスタ初期診断処理を示したフローチャート。
【符号の説明】
【0034】
1 衝突判断装置
2 車両
3a,3b 磁気センサ
4a,4b サイドエアバック
5 エアバックコントロールユニット
6 側突判定用ASIC
6a 制御部
6b レジスタ部
7 メインCPU
8 左ドア
9 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両衝突により変位する金属製の車両構成部材に所定の間隔を設けて対向配置されたコイルを有する磁気センサと、
前記磁気センサからのセンサ出力を入力し、車両衝突時における前記車両構成部材の変位に伴い、交流電流が印加された前記コイルに流れる電流の変化に基づいて、車両衝突時の衝突を判定するとともに、この衝突判定情報に基づいて、乗員保護モジュールに作動信号を出力する制御手段と、を備え、前記制御手段は、磁気センサ駆動用のクロック信号を発振させて増幅し、増幅された前記クロック信号を前記磁気センサのコイルへ出力するためのレジスタ部を有している衝突判断装置において、
前記制御手段で衝突判定動作を開始する前の初期設定処理制御として、前記レジスタ部のレジスタ初期設定処理を行った後に、このレジスタ初期設定処理時に前記レジスタ部に異常が発生していないかを診断するレジスタ初期診断処理を行い、前記レジスタ初期診断処理で前記レジスタ部に異常が発生していないと診断した場合に、前記レジスタ初期診断処理後に前記磁気センサ駆動用のクロック信号を発振させることを特徴とする衝突判断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−292375(P2009−292375A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149350(P2008−149350)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】