説明

表層欠陥検出装置

【課題】金属被検体の地合ノイズによるSN比の低下を防ぎ、ヘゲ欠陥を精度良く検出する。
【解決手段】金属被検体4の表層部に渦電流を発生する励磁コイルAと、渦電流により誘起された磁束を検出する第1及び第2の検出コイルB,B’とを有する複数のE型センサ5を金属被検体4の搬送方向に直交する方向に配列した表層欠陥検出装置1において、各E型センサ5について、第1の検出コイルBの検出信号と第2の検出コイルB’の検出信号との差分を差動増幅して差動増幅信号として出力する差動増幅器8と、複数のE型センサ5間における差動増幅信号の差分を検出信号として出力する幅差分処理回路11と、検出信号に基づいて、ヘゲ欠陥が存在するか否かを判別する判別手段17とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被検体の表層に形成された欠陥を検出する表層欠陥検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
厚板などの金属被検体の表層には、耳ヘゲ、トーチヘゲ、およびコーナーヘゲなどと呼ばれる表層欠陥が発生し得る(以下これら表層欠陥をヘゲ欠陥と総称する)。これらヘゲ欠陥の発生要因は、製鋼性の要因および圧延性の要因などがあり、表面から目視で確認出来るものもあれば、非開口のため目視では確認出来ないものもある。このため、非開口の形態のヘゲ欠陥は、目視では発見が難しく、通常の検査では見逃されてしまうこともある。そこで、渦流探傷方式の表層欠陥検出方法がヘゲ欠陥の検出に利用されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
渦流探傷方式の表層欠陥検出方法は、励磁コイルにより金属被検体の表層に渦電流を発生させ、その渦電流によって誘起される検出コイルの誘導電圧を検出することにより、金属被検体の表層の表層欠陥を検出するものである。被検出体の表層に欠陥があった場合には、渦電流の流れに変化が起き、それに伴って検出コイルに発生する励磁電圧が変化するので、この励磁電圧の変化により表層欠陥を検出することができる。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されている渦流探傷装置では、E型の渦流探傷センサを脚部が搬送方向へ並ぶように設置し、かつ複数の渦流探傷センサを搬送方向と垂直方向(すなわち金属被検体の幅方向)へ設置する構成とし、各渦流探傷センサまたは各渦流探傷センサの検出コイルの検出信号の差分処理によって、金属被検体の表層の欠陥を検出する。この渦流探傷装置によれば、搬送方向と幅方向の差分処理により、金属被検体の表層の疵が縦方向へ長い疵であるか又は横方向へ長い疵であるか等の、疵の形状の判別が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−89843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の渦流探傷装置は、金属被検体の地合ノイズを抑制することができないため、SN比が低下し、ヘゲ欠陥を精度良く検出できないことがあった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、金属被検体の地合ノイズによるSN比の低下を防ぎ、ヘゲ欠陥を精度良く検出可能な表層欠陥検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる表層欠陥検出装置は、金属被検体の表層部に渦電流を発生する励磁コイルと、該渦電流により誘起された磁束を検出する第1及び第2の検出コイルとを有する複数の渦流探傷センサを前記金属被検体の搬送方向に垂直する方向に配列し、各渦流探傷センサについて、前記第1の検出コイルの検出信号と前記第2の検出コイルの検出信号との差分を差動増幅して差動増幅信号として出力する第1の差分手段と、前記複数の渦流探傷センサ間における前記差動増幅信号の差分を検出信号として出力する第2の差分手段と、前記検出信号に基づいて、ヘゲ欠陥が存在するか否かを判別する判別手段とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる表層欠陥検出装置によれば、金属被検体の地合ノイズによるSN比の低下を防ぎ、ヘゲ欠陥を精度良く検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、搬送ラインにおける表層欠陥検出装置の配置の概略図である。
【図2】図2は、センサBoxの構成を説明する概略図である。
【図3】図3は、E型センサの厚み方向の感度特性を示すグラフである。
【図4】図4は、信号処理部の構成を説明する概略図である。
【図5】図5は、信号処理部の位相調整を説明する図である。
【図6】図6は、信号処理部の差分処理の例を説明する図である。
【図7】図7は、ヘゲ欠陥の概略図である。
【図8】図8は、差分処理前の検出データの図である。
【図9】図9は、差分処理後の検出データの図である。
【図10】図10は、デジタル信号処理を説明するブロック図である。
【図11】図11は、隣接差分処理をした場合の検出信号をマッピングした図である。
【図12】図12は、平均差分処理をした場合の検出信号をマッピングした図である。
【図13】図13は、検出値の領域重心を直線で結んだ検出信号の2次元マップである。
【図14】図14は、デジタル信号処理を説明するブロック図である。
【図15】図15は、ノイズとヘゲ欠陥の周波数解析のグラフである。
【図16】図16は、一つのバンドパスフィルタを通した検出信号の図である。
【図17】図17は、低周波用および高周波用バンドパスフィルタを通した検出信号の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
(第1実施形態)
まず、図1及び図2を用いて、本発明の第1実施形態に係る表層欠陥検出装置の概略構成を説明する。図1は、本発明の第1実施形態にかかる表層欠陥検出装置の、金属被検体の搬送ラインにおける配置について説明する概略図である。また、図2は、本発明の第1実施形態にかかる表層欠陥検出装置のセンサBoxの構成を説明する概略図である。
【0013】
図1に示されるように、本発明の第1実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、表層欠陥検出装置1の検出部であるセンサBox2を、搬送ラインのロール3の間に配置する構成である。検査対象となる厚板などの金属被検体4は、ロール3の上を搬送される。この際、センサBox2は、上面が金属被検体4のパスラインより5mm〜30mm程度離れるように配置される。なお、金属被検体4の振動が大きい場合には20mm程度離れるようにセンサBox2を配置することが好ましい。また、図1に示される構成は、金属被検体4の裏面のエッジ部の検出用の構成であるが、表層欠陥検出装置1を金属被検体4の表面の検出用の構成または全幅検出用の構成などに設計変更することも可能である。
【0014】
図2に示されるように、センサBox2の内部において、8個のE型センサ5が金属被検体4の搬送方向と垂直方向に配列されている。つまり、本実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、金属被検体4の幅方向に対して8ch検出である。なお、E型センサ5とは、コアが「E」字形をしており、中央を励磁コイルAのコアとして用い、両端を検出コイルB,B’のコアとして用いた渦流探傷センサのことをいう(以下同様)。そして、図2に示されるように、励磁コイルAのコアと両端の検出コイルB,B’のコアとは、金属被検体4の搬送方向に配列している。なお、本実施形態では、E型センサ5の脚の間隔(つまり励磁コイルAのコアと両端の検出コイルB,B’のコアとの間隔)を20mmとし、E型センサ5の厚みを20mmとし、E型センサ5の間隔を6mmとしている。さらに、センサBox2の上面には保護用の樹脂板が設置され、センサBox2がエアパージされている。
【0015】
ここで、センサBox内2のE型センサ5の配置間隔は、E型センサ5の厚み方向の感度特性によって以下のように決定する。図3は、E型センサ5の厚み方向の感度特性を示すグラフである。同グラフは、E型センサ5の厚み方向のある相対位置に存在する自然欠陥に対するE型センサ5の単体での出力を示している。
【0016】
同グラフに示されるように、欠陥の位置がE型センサ5の真下からずれると、E型センサ5の出力は低下する。そこで、出力がピーク値の半分となる位置に、隣接するセンサの出力値がピーク値の半分となるように間隔を設定すれば、例えば隣接センサの出力を加算することで、欠陥の検出信号レベル低下を防ぐことが出来る。図3の例では、出力がピーク値の半分となる位置は±13mmであり、この位置で隣接するセンサの出力値がピーク値の半分となるように配置すると、隣り合うE型センサ5の中心間隔は26mmとなる。よって、E型センサ5の厚みが20mmなので、E型センサ5の間隔は6mmとすればよい。
【0017】
次に、図4から図6を参照して、本発明の第1実施形態にかかる表層欠陥検出装置1の信号処理部6の説明を行う。図4は、信号処理部6の構成を説明する概略図であり、図5は、信号処理部6の位相調整を説明する図であり、図6は、信号処理部6の差分処理の例を説明する概略図である。
【0018】
本発明の第1実施形態にかかる表層欠陥検出装置1の信号処理部6は、図4に示されるように、発振器7と差動増幅器8と位相器9と検波器10と幅差分処理回路11とA/Dコンバータ12と計算機13とを備える。
【0019】
発振器7は、所定の電流値Iと周波数Fの励磁信号を発振する局部発振器であり、ここでは電流値I=10mA,周波数F=64kHzとしている。発振器7で発振した励磁信号は、励磁信号ケーブルを介してE型センサ5の中央のコアに巻かれた励磁コイルAに流れ、励磁コイルAの周囲に交流磁界を発生する。そして、交流磁界は、検査対象となる金属被検体4の表層部に渦電流を誘起する。
【0020】
E型センサ5の外側のコアに巻かれた検出コイルB,B’は、この渦電流によって発生した磁束による誘起電圧を検出する。このとき、検出コイルB,B’は、互いに一方の端子を接続し、当該誘起電圧が相殺するように構成する。また、検出コイルB,B’の他方の接続しなかった端子は、出力ケーブルを介して、信号処理6に入力する。
【0021】
信号処理6に入力された検出コイルB,B’の端子は、差動増幅器8に接続され、差動増幅される。すなわち、差動増幅器8は、検出コイルB,B’にて検出される誘起電圧の差分が増幅されることとなる。なお、差動増幅器8の増幅度は、使用する電流値I、周波数F、およびセンサと金属被検体との距離などによって適切に設定すべきであるが、本実施形態では20倍としている。
【0022】
差動増幅器8にて差動増幅された信号は位相器9を通り、位相器9が位相を調整する。位相器9は、振動等によって生じるガタの信号と欠陥信号との弁別性を向上させるためのものであり、ガタの信号出力が零になるようにインピーダンスを調整する。例えば、図5に示す様にガタの信号が励磁電流120°であれば、120°位相を回して、ガタ信号がX軸と一致するように調整する。
【0023】
位相器9の出力信号は、検波器10に入力され、発振器7からの励磁信号にて検波される。すなわち、検波器10は、位相器9の出力信号と発振器7からの励磁信号とを乗算することによって同期検波をする。
【0024】
検波器10によって検波された検出信号は、幅差分処理回路11によって差分処理される。例えば図6に示されるように、幅差分処理回路11は、各E型センサ5の検出信号を分岐し、一方を加算回路11aで加算した後にアンプ11bで平均化する。さらに、幅差分処理回路11は、分岐した他方の検出信号の各々とアンプ11aで平均化した信号との差分を差動回路11cにて差分する。
【0025】
なお、ここでは幅差分処理回路11の例として、検出信号の平均化信号と各検出信号との差分処理(以下これを平均差分という)を挙げたが、隣接した各々の検出信号間の差分処理(以下これを隣接差分という)を用いることも可能である。
【0026】
幅差分処理回路11によって差分処理された検出信号は、A/Dコンバータ12を介して計算機13へ入力される。計算機13は、検出信号を適切なデジタル信号処理して、検出信号のデータからヘゲ欠陥を弁別する。
【0027】
ここで、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1により検出した検出データについて検討する。
【0028】
図7は、ヘゲ欠陥と呼ばれる表層欠陥を概略的に表した図であり、本発明の実施形態にかかる表層欠陥検出装置1はこれらヘゲを検出するためのものである。図7に示されるように、厚板上のヘゲ欠陥には耳ヘゲ、トーチヘゲ、およびコーナーヘゲなどと呼ばれるものがある。図8および図9は、表層欠陥検出装置1にて上記ヘゲ欠陥を含む厚板を欠陥検出したときの、それぞれ幅方向の差分処理前および後における検出データを示した例である。すなわち、図4の構成例で説明すれば、図8は、検波器10から出力された検出信号をマッピングしたものであり、図9は、幅差分処理回路11から出力された検出信号をマッピングしたものである。
【0029】
図8に示される検出データから読み取れるように、幅方向の差分処理前における検出信号の2次元マップには、幅方向に広い検出信号(つまりノイズ)が一定周期で出現している。その結果、ヘゲ欠陥に起因する検出信号を弁別すことが困難である。しかしながら、図9に示される検出データから読み取れるように、幅方向の差分処理をした場合、ヘゲ欠陥に起因する検出信号が強調されて現れる。この理由は、ヘゲ欠陥の場合、ライン方向に長く検出信号が出現するケースが多いからである。また、たとえ幅方向に広い場合でも、幅方向に直線的であることは少なく、多少なりとも傾きがあるので、ヘゲ欠陥に起因する検出信号が強調されて現れる。
【0030】
以上より、本発明の第1実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、金属被検体4の表層部に渦電流を発生する励磁コイルAと、渦電流により誘起された磁束を検出する第1及び第2の検出コイルB,B’とを有する複数のE型センサ5を金属被検体4の搬送方向に直行する方向に配列した表層欠陥検出装置1において、各E型センサ5について、第1の検出コイルBの検出信号と第2の検出コイルB’の検出信号との差分を差動増幅して差動増幅信号として出力する差動増幅器8と、複数のE型センサ5間における差動増幅信号の差分を検出信号として出力する幅差分処理回路11と、検出信号に基づいて、ヘゲ欠陥が存在するか否かを判別する判別手段17とを備えるので、金属被検体の地合ノイズによるSN比の低下を防ぎ、ヘゲ欠陥を精度良く検出することができる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、幅方向の差分処理をデジタル信号処理により実現する実施形態について説明する。図4に示した第1実施形態は、アナログ回路にて幅方向の差分処理を行った例であるが、第2実施形態では、幅方向の差分処理回路をデジタル信号処理で行う方式である。すなわち、第2実施形態は、図4における幅差分処理回路11を省略し、検波器10からの検出信号をA/Dコンバータ12を介して計算機13に取り込む構成となる。よって、以下の説明では、図4及びその対応する説明と同じ符号を参照することにより、第2実施形態の信号処理部6の構成の説明を省略する。
【0032】
図10は、本発明の第2実施形態にかかるデジタル信号処理を説明するブロック図である。各E型センサ5の検出信号は、A/Dコンバータ12を介して計算機13に取り込まれたのち、補正手段14が、各E型センサ5の感度個体差を補正する。なお、この補正には、事前に設定しておく設定値を用いる。
【0033】
次に、バンドパスフィルタ15が検出信号の周波数を制限し、差分処理手段16が金属被検体4の幅方向の差分処理を行い、判別手段17でヘゲ欠陥であるか否かを判別する。図11および図12は、差分処理手段16の差分処理として、それぞれ隣接差分および平均差分の処理をした場合の差分処理前後の検出信号をマッピングしたものである。
【0034】
図11に示される検出信号の2次元マップより解るように、(a)隣接差分処理前では、コーナーヘゲに起因する以外の検出信号(つまりノイズ)も検出されているが、(b)隣接差分処理後では、ノイズが低減され、ヘゲ欠陥の判別が容易になっている。また、図12に示される検出信号の2次元マップより同様に解るように、(a)平均差分処理前では、ノイズも検出されているが、(b)平均差分処理後では、ノイズが低減されている。
【0035】
なお、幅広ノイズには、幅方向に大きく分布が有る場合があり幅方向の差分処理をしても、幅広ノイズに起因する検出信号が残ってしまう場合がある。そのような時には、次のような工夫により欠陥を弁別することも可能である。
【0036】
図13は、検出信号の2次元マップであり、ヘゲ欠陥候補をエリア化し、そのエリアの搬送方向に関して検出信号の検出値の領域重心位置を各チャンネルに亘って直線で結んだものである。図13から読み取れるように、ヘゲ欠陥に起因した検出値の領域重心をつないだ直線は、金属被検体4の幅方向に対して傾き(つまり2次元パターンとしては屈折)を有している。したがって、例えば、当該直線が幅方向に対する角度が5°未満であればヘゲ欠陥の候補から外し、5°以上であればヘゲ欠陥と判断するようにすればヘゲ欠陥の弁別が高精度になる。
【0037】
例えば上記領域重心の求め方としては、ある閾値で2値化して検出信号をエリア化した後に、搬送方向のエリア幅を求めてその幅の中心をそのエリアの領域重心とする、またはローパスフィルタなどにより搬送方向の一定エリアを平均化した後エリア内のピーク位置を領域重心とする方法などが考えられる。
【0038】
以上より、本発明の第2実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、金属被検体4の表層部に渦電流を発生する励磁コイルAと、渦電流により誘起された磁束を検出する第1及び第2の検出コイルB,B’とを有する複数のE型センサ5を金属被検体4の搬送方向に直行する方向に配列した表層欠陥検出装置1において、各E型センサ5について、第1の検出コイルBの検出信号と第2の検出コイルB’の検出信号との差分を差動増幅して差動増幅信号として出力する差動増幅器8と、複数のE型センサ5間における差動増幅信号の差分を検出信号として出力する幅差分処理回路11と、検出信号に基づいて、ヘゲ欠陥が存在するか否かを判別する判別手段17とを備えるので、金属被検体の地合ノイズによるSN比の低下を防ぎ、ヘゲ欠陥を精度良く検出することができる。
【0039】
さらに、本発明の第2実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、金属被検体4の搬送方向とE型センサ5の配列方向とを含む2次元平面に、E型センサ5の検出信号をマッピングすることによって作成された検出信号の2次元マップにおける検出信号の2次元パターンに基づいて、金属被検体4の表層にヘゲ欠陥が存在するか否かを判別するので、ヘゲ欠陥の弁別が高精度である。
【0040】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態にかかる表層欠陥検出装置1について説明する。第3実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、第2実施形態におけるバンドパスフィルタ15を低周波用のバンドパスフィルタ15’と高周波用のバンドパスフィルタ15”とに変更したものである。したがって、本実施形態の説明においても、同符号を参照することにより全体構成についての説明を省略し、デジタル信号処理部分(図4における計算機13の処理)のみ説明をする。
【0041】
図14は、計算機13に取り込まれた検出信号のデジタル信号処理を説明するブロック図である。検波器10からの検出信号は、A/Dコンバータ12を介して計算機13に取り込まれたのち、補正手段14が、各E型センサ5の感度個体差を補正する。この補正には、事前に設定しておく設定値を用いる。
【0042】
次に、検出信号を2つに分岐し、一方を低周波用のバンドパスフィルタ15’が周波数制限をし、他方を高周波用のバンドパスフィルタ15”が周波数制限をする。その後、低周波用のバンドパスフィルタ15’および高周波用のバンドパスフィルタ15”の出力を、それぞれ独立に差分処理手段16’,16”が差分処理する。このときの差分処理は、平均差分および隣接差分の何れでもかまわない。
【0043】
いま、表層欠陥検出装置1を取り付けた製造ラインのライン搬送速度が1.5m/sであり、表層欠陥検出装置1のA/Dコンバータ12サンプリングピッチを3mmとすれば、サンプリング速度は500Hzとなる。このとき、低周波用のバンドパスフィルタ15’の設定周波数を例えば5Hz〜30Hzとし、高周波用のバンドパスフィルタ15”の周設定波数を例えば30Hz〜60Hzとすることが好ましい。
【0044】
次に、図15〜17を参照して、上記のように低周波用のバンドパスフィルタ15’と高周波用のバンドパスフィルタ15”とを備えることの効果について説明する。
【0045】
図15はノイズとヘゲ欠陥の周波数解析を行ったグラフである。図15に示される周波数解析は、E型センサ5の脚間隔が20mmであり、E型センサ5と被検体4との間隔が20mmとした場合の例である。図15から読み取れるように、ヘゲ欠陥に起因する検出信号は10Hz〜50Hzまでの周波数帯域であることが分かる。
【0046】
一方、例えば、細かいスケール剥がれに起因する検出信号、または品質上問題とならない直径数mm程度の小さい欠陥に起因する検出信号(つまり本発明の目的におけるノイズ)は高周波側40Hz〜100Hzに分布する。また、搬送ロールやピンチロールなどによる歪みから生じる信号は5Hz〜20Hz程度である。
【0047】
したがって、ヘゲ欠陥に起因する検出信号のピーク周波数である30Hzを中心にしたバンドパスフィルタ(例えば10Hz〜60Hz)を通しても、SN比が2以下であり弁別が困難である。図16は、10Hz〜60Hzのバンドパスフィルタを通した検出信号を示すものであり、同図からはヘゲ欠陥に起因する検出信号とノイズを弁別することが困難であることが理解できる。
【0048】
一方、図17(a)および(b)は、それぞれ5Hz〜30Hzおよび30Hz〜60Hzのバンドパスフィルタを通した検出信号を示すものであり、同図からはヘゲ欠陥に起因する検出信号が、両方のバンドパスフィルタを透過して検出されることが理解できる。そこで、本発明の第3実施形態では、低周波用バンドパスフィルタ15’と高周波用バンドパスフィルタ15”に通して欠陥判定をし、低周波用バンドパスフィルタ15’および高周波用バンドパスフィルタ15”の両方で欠陥判定されたときにヘゲ欠陥であると判別することにより、ヘゲ欠陥の弁別能力を向上させるのである。
【0049】
以上より、本発明の第3実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、金属被検体4の表層部に渦電流を発生する励磁コイルAと、渦電流により誘起された磁束を検出する第1及び第2の検出コイルB,B’とを有する複数のE型センサ5を金属被検体4の搬送方向に直行する方向に配列した表層欠陥検出装置1において、各E型センサ5について、第1の検出コイルBの検出信号と第2の検出コイルB’の検出信号との差分を差動増幅して差動増幅信号として出力する差動増幅器8と、複数のE型センサ5間における差動増幅信号の差分を検出信号として出力する幅差分処理回路11と、検出信号に基づいて、ヘゲ欠陥が存在するか否かを判別する判別手段17とを備えるので、金属被検体の地合ノイズによるSN比の低下を防ぎ、ヘゲ欠陥を精度良く検出することができる。
【0050】
さらに、本発明の第3実施形態にかかる表層欠陥検出装置1は、検出信号を一方の検出信号と他方の検出信号とに分岐する分岐手段と、一方の検出信号の低周波成分を透過させる低周波用バンドパスフィルタ15’と、他方の検出信号の高周波成分を透過させる高周波用バンドパスフィルタ15”とを備え、低周波用バンドパスフィルタ15’を透過した検出信号及び高周波バンドパスフィルタ15”を透過した検出信号それぞれに基づいて金属被検体4の表層にヘゲ欠陥が存在するか否かを判別し、両方の検出信号でヘゲ欠陥が存在すると判別された場合に、金属被検体4の表層にヘゲ欠陥が存在すると判定するので、ヘゲ欠陥の弁別能力が向上する。
【符号の説明】
【0051】
1 表層欠陥検出装置
2 センサBox
3 ロール
4 金属被検体
5 E型センサ
6 信号処理部
7 発振器
8 差動増幅器
9 位相器
10 検波器
11 幅差分処理回路
12 A/Dコンバータ
13 計算機
14 補正手段
15 バンドパスフィルタ
16 差分処理手段
17 判別手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属被検体の表層部に渦電流を発生する励磁コイルと、該渦電流により誘起された磁束を検出する第1及び第2の検出コイルとを有する複数の渦流探傷センサを前記金属被検体の搬送方向に垂直する方向に配列した表層欠陥検出装置であって、
各渦流探傷センサについて、前記第1の検出コイルの検出信号と前記第2の検出コイルの検出信号との差分を差動増幅して差動増幅信号として出力する第1の差分手段と、
前記複数の渦流探傷センサ間における前記差動増幅信号の差分を検出信号として出力する第2の差分手段と、
前記検出信号に基づいて、ヘゲ欠陥が存在するか否かを判別する判別手段と、
を備えることを特徴とする表層欠陥検出装置。
【請求項2】
前記第2の差分手段は、前記差動増幅信号を前記複数の渦流探傷センサに関して平均化した平均化信号を算出し、算出した平均化信号と各渦流探傷センサの差動増幅信号との差分を検出信号として出力することを特徴とする請求項1に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項3】
前記第2の差分手段は、隣接した2つの渦流探傷センサ間の前記差動増幅信号で差を検出信号として出力することを特徴とする請求項1に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項4】
前記励磁コイル、前記第1の検出コイル、及び前記第2の検出コイルは、前記金属被検体の搬送方向に配列されていることを特徴とする請求項1〜3のうち、いずれか1項に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項5】
前記第2の差分手段から出力された検出信号を一方の検出信号と他方の検出信号とに分岐する分岐手段と、
前記一方の検出信号の低周波成分を透過させる低周波用バンドパスフィルタと、
前記他方の検出信号の高周波成分を透過させる高周波用バンドパスフィルタとを備え、
前記判別手段は、前記低周波用バンドパスフィルタを透過した検出信号及び前記高周波バンドパスフィルタを透過した検出信号それぞれに基づいて前記金属被検体の表層にヘゲ欠陥が存在するか否かを判別し、両方の検出信号でヘゲ欠陥が存在すると判別された場合に、前記金属被検体の表層にヘゲ欠陥が存在すると判定すること
を特徴とする請求項1〜4のうち、いずれか1項に記載の表層欠陥検出装置。
【請求項6】
前記判別手段は、前記金属被検体の搬送方向と前記渦流探傷センサの配列方向とを含む2次元平面に、各渦流探傷センサの検出信号をマッピングすることによって作成された該検出信号の2次元マップにおける該検出信号の2次元パターンに基づいて、前記金属被検体の表層にヘゲ欠陥が存在するか否かを判別すること、を特徴とする請求項1〜5のうち、いずれか1項に記載の表層欠陥検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−141251(P2012−141251A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−852(P2011−852)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】