説明

表皮材製造方法

【課題】製品品質の向上を図ることができる表皮材製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の表皮材製造方法は、キャビティ5に形成した塗膜9の溶媒の割合が、所定値以下となったとき、キャビティ内に樹脂20を注入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材製造方法、特にインモールドコーティング法による表皮材製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形品表面を塗料により被覆する方法として、塗料を吹き付けたり塗ったりする方法とは別に、金型内で成形品表面に塗膜を形成するインモールドコーティング法がある。インモールドコーティング法は、大別して2つある。1つは、金型のキャビティに樹脂を注入して成形品を作成した後、同一キャビティ内に塗料を注入して塗膜を形成する方法である。
【0003】
もう1つは、金型のキャビティ内に塗膜を形成した後、樹脂をキャビティ内に注入して成形品表面に塗膜を形成する方法である。後者の例として、特許文献1が挙げられる。特許文献1に記載の方法では、半硬化状態の塗膜が存在するキャビティ内に、溶融した樹脂が流入して成形品表面に塗膜が形成される。
【0004】
この方法では、溶融樹脂がキャビティ内に流入するとき、キャビティ表面の塗膜が半硬化状態であるため、塗膜が高温の溶融樹脂により活性化し、また、高圧の溶融樹脂が塗膜をプレスするため、塗膜と成形品とが圧着する。よって、塗膜と成形品とは高い密着力を持ち、塗膜が成形品から剥離し難い。
【特許文献1】特許第3440537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法は、塗膜が流動しない程度に半硬化状態となったとき、塗膜中の溶媒の割合に関係なく溶融樹脂が流入するため、塗膜中の溶媒の残存量が多い場合、塗膜にフクレやワレ等の欠陥が生ずる虞がある。塗膜にフクレやワレ等があると、引っ張り強度等の物性だけでなく、外観や手触りが損なわれ、製品品質が低下する。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、製品品質の向上を図ることができる表皮材製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の表皮材製造方法は、キャビティに形成した塗膜の溶媒の割合が、所定値以下となったとき、キャビティ内に樹脂を注入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の表皮材製造方法は、塗膜における溶媒の割合を十分に低減した状態で、キャビティ内に樹脂を注入するため、塗膜における欠陥の発生を抑制でき、製品品質の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、各実施形態において、共通する機能を有する部材については、類似の符号を付し、また、重複する説明は省略する。
【0010】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態に係る表皮材製造方法を概説するための全体工程図、図2は離型剤塗布工程を説明するための断面図、図3は第1塗膜形成工程を説明するための断面図、図4は第1塗膜形成工程後の塗膜の状態を説明するための断面図である。
【0011】
図5は第2塗膜形成工程を説明するための断面図、図6は硬化工程を説明するための断面図、図7は硬化温度を求めるための試料の断面図、図8は第2塗膜形成工程後の塗膜の状態を説明するための断面図である。
【0012】
図9は厚膜部硬化時間を求めるための試料の断面図、図10は射出工程を説明するための断面図、図11は離型工程を説明するための断面図である。
【0013】
図1に示すように、第1実施形態の表皮材製造方法は、キャビティ表面に離型剤7を塗布する離型剤塗布工程S1と、キャビティ5に塗膜9を形成する塗膜形成工程S2と、塗膜9の溶媒を揮発させて塗膜9を硬化させる硬化工程S3と、を有している。さらに、第1実施形態の表皮材製造方法は、型締め後、溶融樹脂20を圧入する射出工程S4と、型開き後、出来上がった表皮材21を型から取り外す離型工程S5と、を有する。
【0014】
図2に示すように、離型剤7を塗布する離型剤塗布工程S1では、不図示のロボットが、離型剤7を噴霧する塗装ガン6を移動させて、成形品形状を有するキャビティ5に満遍なく離型剤7を塗布する。離型剤7は、シリコン系である。なお、塗装ガン6は、離型剤7の他に、塗料を噴霧できる。
【0015】
金型1は、2分割構造であり、キャビティ5を有する下型3、および下型3に対して近接離隔する上型2を有する。また、金型1は、熱媒体が流れる通路を内部に有している。ヒータを内臓した金型温度調節器(不図示)が、熱媒体を循環させるとともに、金型1の温度に基づいて熱媒体の温度を調整し、金型1の温度を管理している。下型3に付属した温度センサ4が、金型1の温度を測定する。
【0016】
離型剤7の塗布後、塗膜9を形成する塗膜形成工程S2は、キャビティ5全体に塗料11を塗布する第1塗膜形成工程と、キャビティ5に対して部分的に塗料11を塗布する第2塗膜形勢工程と、からなる。
【0017】
図3に示すように、キャビティ5全体に塗料11を塗布する第1塗膜形成工程では、ロボットが、塗装ガン6をキャビティ5の端から端まで移動させて、キャビティ5全体に塗料11を塗布して塗膜9を形成する。塗料11は、水系タイプのウレタン樹脂である。
【0018】
キャビティ5の形状は、製造する成形品によって異なるが、例えばインストルメントパネルのフレームを覆う、表皮材21を製造するような場合、成形品は、なだらかな面だけでなく突部や凹部を有するため、これに対応して、キャビティ5も突部や凹部10を有する。
【0019】
図4に示すように、塗装ガン6がキャビティ5の端から端まで移動しただけでは、キャビティ5に形成された凹部10の底13等に、塗料11が付着し難い。このため、凹凸のない、キャビティ5の平滑面15では、塗膜9の膜厚が所望の厚さL1となるが、凹部10等では、塗膜9の厚さが所望の厚さL1よりも薄い薄膜部14が生ずる。
【0020】
このような薄膜部14の発生を抑制するため、図5に示すように、第1塗膜形成工程後の第2塗膜形成工程では、不図示のロボットが、塗装ガン6を、前述のようなキャビティ5の突部や凹部10の近傍に移動させ、塗料11を塗布する。
【0021】
なお、塗膜9の厚さは、30〜60μmの範囲内であることが好ましい。塗膜9の厚さが30μmより薄いと十分な耐候性が得られず、また塗膜9の厚さが60μmより厚いと良好な触感が得られない。
【0022】
塗膜形成工程S2後の硬化工程S3では、下型3が、キャビティ5に形成された塗膜9を加熱し、塗膜9の溶媒である水分を蒸発させる。塗膜9の水分が減少すると、塗膜9の樹脂が融合し、塗膜9が硬化する。
【0023】
図6に示すように、硬化工程S3では、非接触による温度測定が可能な赤外線式表面温度計16が、塗膜9の表面温度を測定している。赤外線式表面温度計16が、凹凸のある箇所を測定すると、測定精度が低下するため、赤外線式表面温度計16は、キャビティ5の平滑面15に形成された塗膜9を測定している。
【0024】
塗膜表面温度と塗膜9の水分割合とは、相関関係があり、塗膜表面温度が上昇すると塗膜9の水分割合が低下する。本実施形態の硬化工程S3では、この性質が利用されており、塗膜表面温度から塗膜9の水分割合が推定され、塗膜表面温度に基づいて、次工程に移るか否かの判断がなされている。
【0025】
具体的には、赤外線式表面温度計16が測定する塗膜表面温度が所定値(以下、この所定値を硬化温度と称す)になってから、所定の時間(以下、この所定の時間を厚膜部硬化時間と称す)が経過したとき、工程が次に移る。
【0026】
硬化温度は、水分割合が所定値Rとなる塗膜表面温度である。この所定値Rは、塗膜9においてフクレやワレ等の欠陥の発生が抑制される上限値であり、塗膜9の水分割合が所定値R以下の場合、塗膜9における、耐候性や引っ張り強度等の物性、および外観や触感等の質感が、良好となる。
【0027】
硬化温度は、図7に示すように、キャビティ5の平滑面15における塗膜9を模擬する第1試料17を、ヒータ18により加熱し、水分割合と塗膜表面温度との関係を調べ、水分割合が所定値Rとなるときの塗膜表面温度を求めることにより、事前に設定される。
【0028】
塗膜表面温度が硬化温度となった後の、厚膜部硬化時間は、図8に示すような、第2塗膜形成工程において塗料11が塗り重ねられた厚膜部22における水分割合を、所定値R以下にするための時間である。厚膜部22では、平滑面15における塗膜9に比べ、厚さが厚く、また水分量が多い。
【0029】
厚膜部硬化時間は、事前の実験にもとづいて推定され、設定される。
【0030】
図9において概説すると、厚膜部22を模擬する第2試料19がヒータ18により加熱されるとともに、前述の第1試料17がヒータ18により加熱され、水分割合が所定値R以下になるまでの時間についての、両試料の差が、厚膜部硬化時間として推定される。
【0031】
ここで、厚膜部22を模擬する第2試料19は、塗膜形成工程S2と同様の工程で作成されており、塗料の塗布回数、塗料の塗布から次の塗布までにかかる時間を塗膜形成工程S2と同一にし、かつ厚さが厚膜部22と略同等である。
【0032】
図10に示すように、硬化工程S3後の射出工程S4では、上型2が下型に向かって移動し、互いに合わさって空洞部を形成し、この空洞部内に、高圧の溶融樹脂20が流入する。溶融樹脂20は、ウレタン樹脂である。
【0033】
溶融樹脂20が冷却した後、離型工程S5では、図11に示すように、上型2が下型3から離隔し、自動運転の取り出しロボット(不図示)が、成形品である表皮材21を下型から取り出し、移動させる。
【0034】
第1実施形態に係る表皮材製造方法の効果を説明する。
【0035】
第1実施形態の表皮材製造方法では、フクレやワレ等の発生が抑制される程度まで塗膜9の水分割合を低下させてから、溶融樹脂20がキャビティ5内に流入する。このため、塗膜9は、耐候性や引っ張り強度等の物性、および外観や触感等の質感が良好であり、第1実施形態の表皮材製造方法は、製品品質の向上を図ることができる。
【0036】
<第2実施形態>
図12は、第2実施形態に係る表皮材製造方法における、硬化工程を説明するための断面図である。
【0037】
第2実施形態に係る表皮材製造方法では、第1実施形態の硬化工程S3において、ドライヤ23が、厚膜部22Aに向かって100℃程度の温風を吹き付ける。
【0038】
塗膜9Aが形成された直後に、ドライヤ23が厚膜部22Aに向かって温風を吹き付けると、厚膜部22Aの表面のみが乾燥して硬化し、内部の水分が蒸発しない虞がある。このため、ドライヤ23は、塗膜形成工程後、約30秒程度経ってから厚膜部22Aに向かって温風を吹き付ける。
【0039】
第2実施形態に係る表皮材製造方法は、第2実施形態の効果に加え、厚膜部22Aの水分の蒸発を早めて、硬化工程S3の時間を短縮し、生産性の向上を図ることができる。
【0040】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変できる。例えば、塗膜形成工程は、第1塗膜形成工程および第2塗膜形成工程の2工程からなるのではなく、3つの工程により塗膜を形成するものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1実施形態に係る表皮材製造方法を概説するための全体工程図である。
【図2】離型剤塗布工程を説明するための断面図である。
【図3】第1塗膜形成工程を説明するための断面図である。
【図4】第1塗膜形成後のキャビティの状態を説明するための断面図である。
【図5】第2塗膜形成工程を説明するための断面図である。
【図6】硬化工程を説明するための断面図である。
【図7】硬化温度を求めるための試料の断面図である。
【図8】第1塗膜形成後のキャビティの状態を説明するための断面図である。
【図9】厚膜部硬化時間をもとめるための試料の断面図である。
【図10】射出工程を説明するための断面図である。
【図11】離型工程を説明するための断面図である。
【図12】第2実施形態に係る表皮材製造方法における、硬化工程を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 金型、
2 上型、
3 下型、
4 温度センサ、
5 キャビティ、
9 塗膜、
16 赤外線式表面温度計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内のキャビティに塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜における溶媒の割合が所定値以下になるまで、前記溶媒を揮発させる硬化工程と、前記硬化工程の後、前記キャビティ内に樹脂を注入する射出工程と、を有することを特徴とする表皮材製造方法。
【請求項2】
前記塗膜における溶媒の割合が、前記塗膜の温度に基づいて推定されることを特徴とする請求項1に記載の表皮材製造方法。
【請求項3】
前記溶媒の割合が所定値以下になるまでの時間が、前記塗料の塗布回数、前記塗料の塗布から次の塗布までにかかる時間、および前記塗膜の厚さを加味して推定されることを特徴とする請求項1または2に記載の表皮材製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−160770(P2009−160770A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340387(P2007−340387)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】