説明

表示器

【課題】運転者に対して踏切内への進入の許否を正確に、また高い確率で認識させることができる表示器を提供する。
【解決手段】踏切1内に進入する車両C(C2)の乗車員に対し映像を表示して注意を促す表示器10において、車両C(C2)に先行して踏切1内に進入した先行車両C(C1)を検出する進入センサ部と、該進入センサ部により踏切1内への進入が検出された先行車両C(C2)の後面Bに光線Lを照射する映像投射部21と、前記進入センサ部から入力された進入検出信号に基づいて映像投射部21の光線Lの照射を制御する制御部22とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切内に進入する車両の乗車員に対し映像を表示して注意を促す表示器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両が踏切を通過する際には、踏切事故等を防止するために高度の注意力を払う必要があり、踏切内に進入する前に列車の接近の有無を十分に確認する必要がある。さらに、列車が接近していないことを確認することができたとしても、踏切通過後の道路に少なくとも車両一台が停車することのできるスペースがなければ、車両が踏切内から進出することができずに踏切内に留まってしまうこととなるため、踏切通過後の道路の状況にも十分に注意を払わなければならない。
【0003】
このような場合に踏切内への車両の進入を防止する技術として、下記特許文献1に記載される踏切道路信号制御システムがある。この踏切道路信号制御システムは、踏切通過後の道路における自動車が存在可能な長さを検出して出力する出口側道路余裕長検出手段と、踏切通過前の道路に設けられ交通信号情報を運転者に対して報知する道路交通信号報知手段と、踏切に進入する自動車の長さを検出して出力する進入車長検出手段と、出口側道路余裕長検出手段と進入車長検出手段とから出力された検出信号に基づいて道路交通信号報知手段を制御する制御部とを備えたものである。すなわち、制御部は、踏切に進入した自動車の進入車長さを加算した値である進入車長累計値が踏切通過後の道路における自動車が存在可能な長さ以下の場合に踏切進入許可情報を道路交通信号報知手段に表示させる一方、進入車長累計値が出口側道路余裕長さを超える場合に踏切進入禁止情報を道路交通信号報知手段に表示させるものである。
【特許文献1】特許第3889651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明では、踏切近傍においては道路交通信号報知手段の設置場所が限定されるので、運転者に視認され難かったり、踏切への進入の許否が正しく認識されなかったりする問題があった。一方、道路交通信号報知手段として警報を併用すると運転者が認識する程度に音量を大きくしたり、長時間鳴らしたりしなければならず、近隣の住民の迷惑となるばかりか、列車通過時の警報と混同して運転者を混乱させるおそれがあるという問題があった。
また、先行車に反射的に追従しようとする後続車は、上記の道路交通信号放置手段を視覚又は聴覚により認識する前に踏切内に進入してしまう可能性が高く、踏切への進入禁止を正しく伝えるのが困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、運転者に対して踏切内への進入の許否を正確に、また高い確率で認識させることができる表示器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
表示器に係る第一の解決手段として、踏切内に進入する車両の乗車員に対し映像を表示して注意を促す表示器において、前記車両に先行して前記踏切内に進入した先行車両を検出する進入センサ部と、該進入センサ部により前記踏切内への進入が検出された前記先行車両の後面に光線を照射する映像投射部と、前記進入センサ部から入力された進入検出信号に基づいて前記映像投射部の光線の照射を制御する制御部とを備える、という手段を採用する。
これにより、踏切の進入時における後続車両の運転者が心理的に視線を向ける先行車両の後面に映像が投射される。
【0007】
また、表示器に係る第二の解決手段として、上記表示器に係る第一の解決手段において、 前記制御部は、前記進入検出信号が入力されたことを条件として、所定時間、光線を照射するように前記映像投射部を制御する、という手段を採用する。
これにより、先行車両に映像を投射することを一定時間経過後に終了する。
【0008】
また、表示器に係る第三の解決手段として、上記表示器に係る第一の解決手段において、前記先行車両が踏切内から進出し踏切通過後の道路を所定の距離だけ進行したことを検出する進行センサ部を備え、前記制御部は、前記進行センサ部から進行検出信号が入力されたことを条件として、光線の照射を停止するように前記映像投射部を制御する、という手段を採用する。
これにより、先行車両が踏切を通過し所定の距離だけ進行すると先行車両の後面に映像を投射することを終了する。
【0009】
また、表示器に係る第四の解決手段として、上記表示器に係る第一から第三の解決手段のいずれかにおいて、前記映像投射部は、車両の運転席における運転者の視線の高さより上方位置から下方へ向けて光線を照射する、という手段を採用する。
これにより、対向車両の運転者の目に光線が照射されない。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る表示器によれば、踏切の進入時における後続車両の運転者が心理的に視線を向ける先行車両の後面に映像が投射されるので、後続車両の運転者の視界内に映像を表示させる可能性が高くなる。従って、後続車の運転者に対して踏切内への進入の許否を正確に、また高い確率で認識させることが可能となる。
【0011】
また、進入検出信号が入力されたことを条件として、一定時間、光線を照射するものでは、先行車両に映像を投射することを一定時間経過後に終了するので、個々に異なる車両の長さや速度や位置等に因らないで、車両の進入を許可することができ、車両を連続して円滑に通過させることができる。
【0012】
また、進行センサ部を備え、進行検出信号が入力されたことを条件として映像投射部を制御するものでは、先行車両が踏切を通過し所定の距離だけ進行すると先行車両の後面に映像を投射することを終了するので、先行車両が踏切内から進出し後続車両が進出することができるスペースを確保した状態で後続車両を踏切内に進入させることができる。
【0013】
また、車両の運転席における運転者の視線の高さより上方位置から下方へ向けて光線を照射するものでは、対向車両の運転者の目に光線が照射されないので、対向車両の運転者の運転を妨げずに先行車両の後面に映像を投射することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る踏切1を示す図であって、鉄道線路上から踏切1を見た図である。
図1に示すように、踏切1は、鉄道線路2と車両Cが走行する道路3とが地平面上で交差して構成されており、警報器5と、表示器10とを備えている。なお、道路3のうち、車両Cの進行方向における踏切1前の道路3を前道路3aと、踏切1後の道路3を後道路3bとする。また、以下の説明において、「車両Cが踏切内に進入する」とは、車両Cの進行方向先端部が踏切1内に入ることを指し、「車両Cが踏切内から進出する」とは、車両Cの進行方向後端部が踏切1内から踏切外へ出ることを指しており、「車両Cが踏切を通過する」とは、車両Cが前道路3aから踏切1内に進入した後から進出するまでの一連の状態を指している。
【0015】
警報器5は、周知のものであって、列車が踏切1に接近すると自動的に二つの警告灯5aが交互に点滅すると共に警報が鳴動し、車両Cの乗車員等の注意を喚起するものである。
【0016】
表示器10は、進入センサ部(不図示)と、映像投射部21と、制御部22と、を備えている。
進入センサ部(不図示)は、踏切1内に車両Cが進入したことを検知すると制御部22に進入検出信号を供給するものである。この進入センサ部は、反射式の光学式センサからなり、車両Cの進行方向先端部が踏切1内に位置したときに該先端部からの反射光を受光して、車両Cが踏切1内に進入したことを検知するように構成されている。
【0017】
映像投射部21は、踏切1内に進入した車両Cの後面Bに映像を投射するものであり、レーザー照射装置からなる。この映像投射部21から照射されるレーザー光線(光線)Lは、可視光で比較的に低い出力のものを用いている。
この映像投射部21は、前道路3a側の上方から踏切1内の下方に向けてレーザー光線Lを照射するように配置されており、そのレーザー光線Lの照射位置を道路3に沿って光学的に変更できるようになっている。
【0018】
図2は、図1におけるP矢視図である。
映像投射部21は、踏切1内に進入した車両Cの後面Bに「注意」の文字を楕円で囲んだ映像L1が投射されるようにレーザー光線Lを照射する。
【0019】
制御部22は、進入センサ部から入力された進入検出信号に基づいて、映像投射部21のレーザー光線Lの照射を制御する。具体的には、進入検出信号が入力されたことを条件として、一定時間、レーザー光線Lを照射するように映像投射部21を制御している。この照射時間は、車両Cが踏切1内を通過してから後道路3bを車両一台分の距離を走行するのに要する時間の平均値が設定されている。
【0020】
また、この制御部22は、車両が踏切を通過する一般的なスピードに基づいて、車両Cが踏切1内に進入してから想定される走行位置にレーザー光線Lが照射されるように映像投射部21を制御する。すなわち、踏切1内における車両Cが前道路3a側に近い場合には、レーザー光線Lが略下向きに照射されるように制御し、後道路3b側に近い場合には、レーザー光線Lが水平方向の成分をもって照射されるように制御する。
【0021】
上記のように構成された踏切1において、踏切1内に進入する車両Cの乗車員に対する注意の喚起方法について説明する。
まず、前道路3aを適度な車間距離を開けて走行する二台の車両C(先行車両C1、後続車両C2)が踏切1に接近する。
【0022】
先行車両C1が踏切1前で一時停止し、先行車両C1の運転者が警報器5の非作動を確認すると共に目視で安全を確認して踏切1内に進入する。これに続いて、後続車両C2が踏切1前まで走行する。
【0023】
先行車両C1が踏切1内に進入すると、進入センサ部(不図示)が検知して進入検出信号を制御部22に供給する。
制御部22は、進入センサ部から進入検出信号が入力されると映像投射部21に電源を供給し、図1に示すように、レーザー光線Lを先行車両C1の後面Bに照射する。この際に、後続車両C2の運転者が後続車両C2を踏切1内に進入させようとすると、心理的に先行車両C1の後面Bに視線を向けるので、図2に示すように、映像L1が視認される。
【0024】
そして、制御部22は、先行車両C1が踏切1内に進入してから想定される走行位置にレーザー光線Lが照射されるように、レーザー光線Lの照射位置を道路3に沿って変更し、先行車両C1の後面Bの位置に映像L1を投射し続ける。この際にも、後続車両C2の運転者は、後続車両C2を踏切内に進入させようとしても心理的に先行車両C1の後面Bに視線を向けるので、映像L1が視認される。
【0025】
制御部22は、一定時間が経つと映像投射部21に電源を供給するのを停止し、先行車両C1の後面Bへの映像L1の投射を終了する。先行車両C1が踏切1内を平均的な速度で走行していると、この映像L1の投射が終了した際には、後道路3bに車両一台分のスペースが生じている。
【0026】
先行車両C1の後面Bへの映像の投射が終了すると、後続車両C2の運転者が後続車両C2を踏切1内に進入させることが許可されたと認識し、後道路3bに車両一台分のスペースがある状態で後続車両C2を踏切1内に進入させる。そして、後続車両C2は、踏切1内に留まることなく踏切1を通過する。
【0027】
以上説明したように、踏切1によれば表示器10を備えるので、踏切1内の進入時における後続車両C2の運転者が心理的に視線を向ける先行車両C1の後面Bに映像L1が投射される。このため、後続車両C2の運転者の視界内に映像L1を表示させることができる可能性が高い。従って、後続車両C2の運転者に対して踏切1内への進入の許否を正確に、また高い確率で認識させることが可能となる。
【0028】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上述した実施の形態では、進行センサ部として、反射式の光学式センサとして構成したが、透過式の光学式センサを用いてもよいし、車両Cが走行した際の圧力を検出する圧力センサを道路3に埋設してもよい。
【0029】
また、上述した実施の形態では、レーザー光線Lを一定時間に限って一律に照射するように構成したが、先行車両C1が踏切1内から進出し踏切1通過後の後道路3bを所定の距離だけ進行したことを検出してレーザー光線Lの照射を終了してもよい。すなわち、後道路3bに進行センサ部を設けて、この進行センサ部からの進行検出信号が入力されると制御部22が映像投射部21のレーザー光線Lの照射を停止するように構成してもよい。
【0030】
また、上述した実施の形態では、映像L1が後面Bに投射され続けるように構成したが、点滅させて後続車両C2の運転者の注意を喚起してもよい。
【0031】
また、上述した実施の形態では、レーザー光線Lの照射位置を一律に変更するように構成したが、踏切内の車両Cの位置を検出するセンサを用いて、この検出信号に基づいてレーザー光線Lの照射位置を変更する構成にしてもよい。
【0032】
また、上述した実施の形態では、映像投射部21として、レーザー光線Lの照射位置を道路3に沿って光学的に変更できるものを用いたが、照射位置を機械的に変更できる機構を設けてもよい。また、レーザー光線Lの照射位置を変更することができない映像投射部であっても、この映像投射部を複数設けて踏切1内に各映像投射部からレーザー光線Lを照射し、走行する先行車両C1の後面Bに断続的に映像L1が写り込むように構成してもよい。この際には、後面Bの上方から下方へ映像L1が次々と流れるように投射するようにすると、後続車両C2の運転者の注意を効果的に喚起することができる。
【0033】
また、上述した実施の形態では、「注意」の文字を楕円で囲んだ映像L1が投射されるようにレーザー光線Lを照射したが、その他の映像、例えば、丸や三角、四角、バツ等の図形・絵柄であってもよいし、「踏切内に取り残される恐れあり」、「車間距離注意」等の文字であってもよい。
【0034】
また、上述した実施の形態では、前道路3a側の上方から踏切1内の下方に向けてレーザー光線Lを照射するように映像投射部21を配置したが、レーザー光線Lを水平方向に照射するように配置してもよい。
【0035】
また上述した実施の形態では、光線としてレーザー光線Lを用いたが、他の可視光であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態に係る踏切1を示す図であって、鉄道線路上から踏切1を見た図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る踏切1内に進入した車両Cの後面Bを示す図であって、図1におけるP矢視図である。
【符号の説明】
【0037】
1…踏切
3…道路
10…表示器
21…映像投射部
22…制御部
B…後面
C…車両
C1…先行車両
C2…後続車両
L…レーザー光線(光線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切内に進入する車両の乗車員に対し映像を表示して注意を促す表示器において、
前記車両に先行して前記踏切内に進入した先行車両を検出する進入センサ部と、
該進入センサ部により前記踏切内への進入が検出された前記先行車両の後面に光線を照射する映像投射部と、
前記進入センサ部から入力された進入検出信号に基づいて前記映像投射部の光線の照射を制御する制御部と
を備えることを特徴とする表示器。
【請求項2】
前記制御部は、前記進入検出信号が入力されたことを条件として、所定時間、光線を照射するように前記映像投射部を制御することを特徴とする請求項1に記載の表示器。
【請求項3】
前記先行車両が踏切内から進出し踏切通過後の道路を所定の距離だけ進行したことを検出する進行センサ部を備え、
前記制御部は、前記進行センサ部から進行検出信号が入力されたことを条件として、光線の照射を停止するように前記映像投射部を制御することを特徴とする請求項1に記載に記載の表示器。
【請求項4】
前記映像投射部は、車両の運転席における運転者の視線の高さより上方位置から下方へ向けて光線を照射することを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載の表示器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−245048(P2009−245048A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89227(P2008−89227)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】