説明

表示素子

【課題】蛍光表示管の外囲器を構成するガラスの外面に、UV硬化型樹脂を用いた印刷フィルタを強固な付着強度で形成する。
【解決手段】蛍光表示管の外囲器1の前面板3の外面には、ITO膜20が形成され、その上にフィルタ21が形成されている。フィルタ用の印刷ペーストは、着色剤とUV硬化樹脂とシランカップリング剤を含む。ITO膜上にフィルタを印刷した後、UV照射で硬化させる。シランカップリング剤のアルコキシド基が、ガラスに強固に付着したITO膜の水酸基と結合し、シランカップリング剤の有機官能基がUV樹脂と結合し、この状態でUV樹脂が硬化するのでフィルタはITO膜を介して前面板に強固に付着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部分がガラスで構成された外囲器を有し、外囲器の内部に設けられた表示手段により表示を行う表示素子に係り、特に表示に関与する外囲器のガラス面の外面側にフィルタが設けられた表示素子において、フィルタのガラス面に対する接着性が良好な信頼性の高い表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景技術について、表示素子としての蛍光表示管を例に挙げて説明する。一般的な蛍光表示管は、ガラス板を箱型に組み立てた気密容器である外囲器を本体として有しており、その内部に陰極としての電子源と、蛍光体を備えた陽極とを備えている。そして、電子源から放出された電子が陽極に射突して蛍光体が発光し、この発光が外囲器のガラス板を通して外囲器の外から観察される。
【0003】
ところで、蛍光表示管としての表示色を蛍光体の発光色と異なるものとする等、蛍光表示管の表示機能を改善乃至変更し、又は所望の表示状態を得る等のために、外囲器の表示面の外面側に光学的な機能を有するフィルタを設けることがある。このように外囲器の外面にフィルタを設けた蛍光表示装置としては、例えば特許文献1が知られている。
【0004】
このようなフィルタをガラス面に形成する手法はそれぞれの用途に応じて様々な手法が知られているが、例えば外囲器の外面にフィルタを設けた車載用の蛍光表示管の場合には、従来は熱硬化型樹脂に着色剤等を混合したフィルタ材料を所望のパターンでガラス面に印刷し、これを加熱して硬化させることでフィルタを形成する方法が広く行われていた。この場合、温度によって硬化時間は変わるが、例えば、120℃で15分程度の硬化条件で所望の機能のフィルタが形成されるものとされていた。
【特許文献1】特開平10−302687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した熱硬化型樹脂を用いたフィルタによれば、次のような問題があった。
1)上述したように熱硬化型樹脂を硬化させるためには例えば120℃で15分程度の加熱が必要であるが、この工程で蛍光表示管に120℃の熱が加わると蛍光体の発光特性が悪化し、発光部の輝度が例えば10%程度低下することがある。
2)量産する場合、上記加熱工程は部品を炉の中をベルトで搬送しながら加熱するベル ト炉で行っており、印刷されたフィルタ膜が完全硬化に至る過程で表面にごみが降り積もって付着し、異物となってしまう。
3)熱硬化型樹脂を含むフィルタ材料は、印刷中も硬化反応が進行して印刷膜厚が変化するため、最終的に必要な膜厚に影響が及んで最終的に必要なフィルタの色度特性が変化してしまうことがある。
【0006】
このように、熱硬化型樹脂を用いた印刷フィルタによれば、その印刷性や硬化に要する加熱時間等に問題があり、少量多品種生産には適用しうるが、大量生産には不向きであるという問題があった。
【0007】
そこで、本願発明者は、蛍光表示管の表面に設けるフィルタとして、従来の熱硬化型樹脂を用いた長時間の加熱工程が必要な印刷フィルタに替えて、UVを照射すればほぼ瞬間的に硬化するUV硬化型樹脂を用いた印刷フィルタが利用できないかとの新たな発想を得た。
【0008】
しかしながら、UV硬化樹脂を用いた印刷フィルタによれば、車載用の蛍光表示管の外面に設けるフィルタとしては、ガラス面に対する付着強度が弱く、高い信頼性が要求される車載用としては必ずしも満足のいく性能を発揮することができなかった。
【0009】
そこで、本願発明者は、かかる課題を解決するために、イトロ処理もしくはフレーム処理と呼ばれる火炎を用いた手法によりガラスの表面を加熱し、フィルタの付着強度を改善する手法を案出した。しかしながら、かかる手法によれば、その効果に比して過大な設備投資とランニングコストが必要であり、また、その効果が持続しないという新たな解決しがたい問題が生じてしまう。
【0010】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、蛍光表示管等の表示素子の外囲器を構成するガラスの外面に、UV硬化型樹脂を用いた印刷フィルタを、簡単で安価な構成によって強固な付着強度で形成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載された表示素子によれば、
外囲器を構成するガラスの外面にフィルタが形成された表示素子において、
焼成工程により前記ガラスの外面に固着して形成され、その表面は水酸基がリッチな状態である固着媒介層としての金属酸化物膜と、
着色剤と、UV硬化樹脂と、前記金属酸化物膜の水酸基に結合するアルコキシド基及び前記UV硬化樹脂に結合する有機官能基を有するシランカップリング剤とを含むフィルタ材料により構成され、前記金属酸化物膜の上面に所定の膜厚で形成されて紫外線を照射されることにより前記金属酸化物膜に固着して形成されたフィルタと、
を有することを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載された表示素子は、請求項1記載の表示素子において、
前記金属酸化物膜が、Sn、In、Si、Tiからなる群から選択された1以上の金属の酸化物からなる膜であることを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載された表示素子は、請求項2記載の表示素子において、
前記金属酸化物膜を、ゾルゲル法と、CVD法と、スパッタ法からなる製造方法群から選択した一の製造方法で形成したことを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載された表示素子は、請求項2記載の表示素子において、
前記金属酸化物膜を、前記金属を含む材料を前記ガラスの外面にゾルゲル法で成膜した後、500℃以上の温度で焼成することにより形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表示素子によれば、蛍光表示管等の表示素子の外囲器を構成するガラスの外面と、UV硬化型樹脂を用いた印刷フィルタとの間に、固着媒介層としての金属酸化物膜を設けることにより、UV硬化型樹脂によるフィルタとガラス面との付着強度を強固にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
1.本発明に至った経緯
前述したように、本願発明者は、蛍光表示管の表面に設けるフィルタとしてUV硬化型樹脂を用いた印刷フィルタを実用化するために、ガラス面に対する付着強度の改善に取り組んだ。本願発明者の当初の知見によれば、UV樹脂中に添加されたシランカップリング剤は、そのアルコキシド基がガラス側に存在するシラノール基と結合するとともに、その有機官能基がUV樹脂と結合し、これによってUV樹脂がガラス面に付着するものと考えられた。
【0017】
従って、UV樹脂のガラスに対する付着性を改善するには、ガラス表面のシラノール基を増やせばよく、そのための手法を実験に基づいて探求した結果、イトロ処理(もしくはフレーム処理)によりガラスの表面を火炎で加熱する手法を採用したのである。
【0018】
しかしながら、前記イトロ処理により処理したガラス面とUV樹脂との付着強度は時間の経過により低下する傾向を示し、実際には十分な付着強度が得られないことが判明してきた。そこで、本願発明者はさらなる実験・研究を継続し、その結果、UV樹脂のガラスに対する付着力は、ガラス表面のシラノール基の量に依存しているのではなく、ガラス表面の水酸基の量に依存しているとの考えに至った。
【0019】
本願発明者がこのように考えた理由は、溶融したSnの上に溶融したガラスを流し込んだ後に冷却固化して板状としたフロートガラスに対するUV樹脂の付着実験を根拠としている。すなわち、このような製法のフロートガラスでは、Snと接していたすず面に対してシランカップリング剤が強く反応する事実が確認されたが、シランカップリング剤と強く反応するフロートガラスのすず面には、反対側のトップ面に比べてより多くの水酸基が存在するという事実が判明したことによる。
【0020】
2.本発明について
以上のような研究結果を踏まえて、本願発明者は、水酸基をガラス面に多く存在させることにより、UV樹脂をガラス面に強固に付着させることができると考え、そのための手段についてさらに研究した結果、ガラスの表面にある特定の金属の酸化物膜を形成すれば水酸基がリッチな状態になり、この金属酸化物膜がUV樹脂層とガラス面との有効な固着媒介層になるとの知見を得るに至ったものであり、その金属とは、具体的にはSn、In、Si、Tiのいずれかの金属である。
【0021】
具体的には、金属酸化物膜としては、ITO膜(In/Snの混合酸化物膜)、SiO2 膜、TiO2 膜、SnO2 膜等が使用できる。これら金属酸化物膜の成膜方法としては、ディッピング法、ロールコータ法、ゾルゲル法、CVD法、スパッタ法等が使用可能であるが、固着媒介層としての金属酸化物膜は、それ自体がガラス面に強固に付着する必要があるため、ディッピング法、ロールコータ法、ゾルゲル法を利用する場合には樹脂をガラス化してガラス面に固着するために、成膜後、なるべく高温で焼成する必要がある。その温度としては、例えば400℃程度では不十分であり、500℃以上、ガラスの軟化点である560℃以下の範囲で焼成する必要がある。
【0022】
このように蛍光表示管の外囲器の外面に、前述したような固着媒介層としての金属酸化物膜を形成して、その表面を水酸基がリッチな状態とし、この上にUV硬化樹脂とシランカップリング剤を含むフィルタ材料をフィルタのパターンとなるように印刷し、UVを照射して硬化させれば、ガラスからなる外囲器の外面に対して金属酸化物膜を間に介して所望の光学機能のフィルタを確実に付着させた状態で形成することができる。
【0023】
3.実施形態の説明
以下、本発明の実施形態に係る蛍光表示管の構造と製造工程を具体的に説明する。
(1) 蛍光表示管の構造
図1に示す本例の蛍光表示管は、内部が高真空状態に気密保持された箱状の外囲器1を有している。外囲器1は、絶縁性を有する陽極基板2と、絶縁性及び透光性を有する前面板3と絶縁性を有する枠状の側面板4とにより形成された蓋状の容器部5とを備えている。
【0024】
外囲器1内における陽極基板2の内面には、表示パターンに応じた所定パターン形状の配線層6が形成されている。配線層6上には黒色の絶縁層7が形成されている。この絶縁層7において表示パターンのセグメントをなす部分には、スルーホール8が形成されて配線層6が表出している。
【0025】
絶縁層7の同一面上には、スルーホール8を埋めて配線層6と導通するように、導体層(陽極電極)9が表示パターンのセグメント毎に分割形成されている。各導体層9上には、蛍光体粉末とビークルからなる蛍光体ペーストの印刷により表示パターンのセグメント形状に蛍光体層10が形成されている。これにより、表示パターンの各セグメント毎の陽極11が形成される。陽極11の上方には制御電極12が設けられ、この制御電極12の上方にはフィラメント状の陰極13が設けられている。
【0026】
このように構成される蛍光表示管では、フィラメント状の陰極13から放出される電子が制御電極12により加速制御され、陽極11の蛍光体層10に電子が射突することにより励起発光する。そして、このときの表示は前面板3を通して観察される。
【0027】
外囲器1の前面板3の外面には、前述した金属酸化物膜であるITO膜20が0.03μm〜0.05μmの厚さで形成され、その上にフィルタ21が10〜20μmの厚さで形成されている。このフィルタ21は、UV樹脂中に染料(又は顔料)を添加したものであり、ある特定の波長の電磁波を吸収して、ある特定のカラーを得る等の光学的目的のために設けられている。
【0028】
(2) 蛍光表示管の製造
外囲器1の材料であるソーダライムガラスの前面板3の外面にITO膜20をディッピング法又はロールコータ法で付着させて薄膜形成し、540℃で焼成し、ガラス面に強固に付着させる。この前面板3を用いて容器部5を製造し、この容器部5を用いて外囲器1を有する蛍光表示管を封着、作成する。
【0029】
(3) フィルタのシルク印刷
フィルタ21のパターンを印刷によって形成するための印刷ペーストを調整する。印刷ペーストは、着色剤(染料又は有機・無機の顔料等)と、UV硬化樹脂と、シランカップリング剤を含む。着色剤はフィルタ21に求められる色度に応じて添加し、シランカップリング剤はUV硬化樹脂の5%程度を添加する。
【0030】
シランカップリング剤は、アルコキシド基と有機官能基を含んでおり、そのアルコキシド基がガラスに強固に付着したITO膜20の水酸基と結合し、その有機官能基がUV樹脂と結合し、これによってUV樹脂がガラス(前面板3)に強固に付着した状態が得られる。
【0031】
UV硬化樹脂は、紫外線(UV)を照射することにより流動性のある液体から固体に変化する材料であり、例えばアクリル系UV硬化樹脂はアクリロイル基と呼ばれる反応性の化学構造を持つプレポリマー、モノマー及び光重合開始剤で構成され、UVを照射することにより、秒単位で固体となる樹脂である。UVが照射された部分のみが硬化するためパターンを形成することが容易であり、所望パターンのフィルタを形成することができる。
【0032】
本例のUV硬化樹脂の硬化条件を、一例として示せば、365nmのピーク波長を有する紫外線ランプからの紫外線によって硬化し、積算光量2700〜2800mJ/cm2 、ピーク強度1000mW/cm2 で硬化する。
【0033】
以上のように調整された印刷用のペーストを外囲器1の前面板3の外面に厚さ10〜20μmでスクリーン印刷する。印刷は、前面板3の表示面の全面を覆うようなパターンで行うが、フィルタの目的によっては一部に印刷しても良い。印刷後、次の硬化工程前に行うレベリングは時間は約1分から3分とする。
【0034】
(4) UV硬化
メタルハライドランプ120W/cm、積算光量2700〜2800mJ/cm2 にて硬化させる。フィルタ21内のシランカップリング剤のアルコキシド基が、ガラスに強固に付着したITO膜20の水酸基と結合し、シランカップリング剤の有機官能基がUV樹脂と結合し、この状態でUV樹脂が硬化するので、フィルタ21はITO膜20を介してガラス製の前面板3に強固に付着した状態となる。
【0035】
(5) 接着性の確認
初期と、高温高湿(60℃、90%)放置状態での24時間経過後、同状態での100時間経過後の各段階において、クロスカット粘着テープをフィルタに貼って剥がした時の剥離状況を、従来品(金属酸化物膜のない従来のUV樹脂のフィルタ)と本実施形態品とで比較確認した。その結果、初期では両者に差異はないものの、従来品では、24時間経過後に約10%の剥がれ、100時間経過後に100%の剥がれが生じたが、本実施形態品は100時間経過後においても全く剥がれが観察されず、良好な耐久性を示した。特に車載用として有効である。
【0036】
また、ITO膜20のような水酸基リッチの金属酸化物膜は、前述したような機構でUV樹脂からなるフィルタ21の接着性改善に寄与するだけでなく、さらに表面導電性を有するためにフィルタ材料の絶縁性に伴うチャージの発生やESD耐電圧の低下等の問題を改善するために有効に利用することができる。
【0037】
以上説明した実施形態では、表示素子として蛍光表示管を例示したが、本発明に係る表示素子としては、蛍光表示管の場合と略同様の気密構造の外囲器を有する電界放出形発光素子(FED)や、有機EL素子や、さらに液晶表示素子(LCD)等も含まれる。さらに、ガラスからなる気密管を外囲器と考えればCRTも本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る蛍光表示管の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1…外囲器
3…前面板
20…金属酸化物膜としてのITO膜
21…フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外囲器を構成するガラスの外面にフィルタが形成された表示素子において、
焼成工程により前記ガラスの外面に固着して形成され、その表面は水酸基がリッチな状態である固着媒介層としての金属酸化物膜と、
着色剤と、UV硬化樹脂と、前記金属酸化物膜の水酸基に結合するアルコキシド基及び前記UV硬化樹脂に結合する有機官能基を有するシランカップリング剤とを含むフィルタ材料により構成され、前記金属酸化物膜の上面に所定の膜厚で形成されて紫外線を照射されることにより前記金属酸化物膜に固着して形成されたフィルタと、
を有することを特徴とする表示素子。
【請求項2】
前記金属酸化物膜が、Sn、In、Si、Tiからなる群から選択された1以上の金属の酸化物からなる膜である請求項1記載の表示素子。
【請求項3】
前記金属酸化物膜を、ゾルゲル法と、CVD法と、スパッタ法からなる製造方法群から選択した一の製造方法で形成した請求項2記載の表示素子。
【請求項4】
前記金属酸化物膜を、前記金属を含む材料を前記ガラスの外面にゾルゲル法で成膜した後、500℃以上の温度で焼成することにより形成したことを特徴とする請求項2記載の表示素子。

【図1】
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【公開番号】特開2008−191567(P2008−191567A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28120(P2007−28120)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000201814)双葉電子工業株式会社 (201)
【Fターム(参考)】