説明

表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法

【課題】蒸着対象となる基板とメタルマスクとの位置ずれを抑制することが可能な表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 表示素子を画素毎に備えた表示装置の製造装置であって、有機活性層を構成する第1機能層を蒸着する第1チャンバ210と、各画素に対応した開口部を有するメタルマスク222を備え第1機能層上における画素毎にメタルマスク222を介して第2機能層を蒸着する第2チャンバ220と、第1チャンバ210と第2チャンバ220とを接続し第1機能層を蒸着済みの処理基板SUBを第2チャンバ220に搬送する搬送チャンバ230と、搬送チャンバ230内の処理基板SUBを所定温度に保温する保温機構240と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法に係り、特に、画素毎に配置される自発光性素子の発光層を形成する表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法に関する。
【0002】
に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、平面表示装置として、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置が注目されている。この有機EL表示装置は、自発光性素子であることから、視野角が広く、バックライトを必要とせず薄型化が可能であり、消費電力が抑えられ、且つ応答速度が速いといった特徴を有している。
【0004】
これらの特徴から、有機EL表示装置は、液晶表示装置に代わる、次世代平面表示装置の有力候補として注目を集めている。このような有機EL表示装置は、第1電極(陽極)と第2電極(陰極)との間に発光機能を有する有機化合物を含む有機活性層を保持した有機EL素子をマトリックス状に配置することにより構成されたアレイ基板を備えている。このような構成において、例えば、第1電極(陽極)は、画素毎に配置されている。また、第2電極は、複数の画素に共通に配置されている。
【0005】
このような有機EL素子の製造工程において、低分子系の有機化合物からなる有機活性層を形成する工程においては、蒸着源から飛散した材料源を蒸着する蒸着法を適用可能である。有機活性層は、発光層以外に必要に応じてホール注入層、ホール輸送層、ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層、バッファ層などの機能層を含んで構成されることがある。有機活性層を構成する機能層のうち、少なくとも発光層は、高い精度で画素毎に形成することが要求されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−171862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機EL素子の製造工程において、特に、発光層を蒸着する工程では、メタルマスクの開口部と画素とを数μmオーダで厳密に位置合せする必要がある。しかしながら、あるタイミングで発光層蒸着用のチャンバに搬入された基板の温度と、別のタイミングで同一チャンバに搬入された基板の温度とは常に一定とは限らない。すなわち、先の工程のチャンバを搬出されてから発光層蒸着用のチャンバに搬入されるまでの基板の搬送時間の差が基板間での温度差を形成することがある。つまり、搬送時間が比較的短い基板の温度は先の工程での処理温度に近く(比較的高温状態に保持されている)、一方で、搬送時間が比較的長い基板の温度は搬送経路中の雰囲気などの影響により先の工程での処理温度より低い温度(比較的低温状態)となりやすい。
【0007】
このような基板温度の差は、基板の熱膨張量の差を生じさせる。このため、所定温度の(熱膨張を考慮した)基板における各画素のレイアウトに対応して設計したメタルマスクと基板とを位置合せしようとすると、メタルマスクの開口部と画素とが数十μmずれてしまい、発光層を所定画素に形成することが困難となる場合がある。
【0008】
この発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、蒸着対象となる基板とメタルマスクとの位置ずれを抑制することが可能な表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の第1の態様による表示装置の製造装置は、
基板上に第1電極、前記第1電極上に配置され発光層を含む複数の機能層を積層した活性層と、前記活性層上に配置された第2電極とで構成された表示素子を画素毎に備えた表示装置の製造装置であって、
活性層を構成する第1機能層を蒸着する第1チャンバと、
各画素に対応した開口部を有するメタルマスクを備え、前記第1機能層上における画素毎に前記メタルマスクを介して第2機能層を蒸着する第2チャンバと、
前記第1チャンバと前記第2チャンバとを接続し、前記第1機能層を蒸着済みの処理基板を前記第2チャンバに搬送する搬送チャンバと、
前記搬送チャンバ内の処理基板を所定温度に保温する保温機構と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
この発明の第2の態様による表示装置の製造方法は、
基板上に第1電極、前記第1電極上に配置され発光層を含む複数の機能層を積層した活性層と、前記活性層上に配置された第2電極とで構成された表示素子を画素毎に備えた表示装置の製造方法であって、
第1チャンバにおいて活性層を構成する第1機能層を蒸着する工程と、
前記第1チャンバから搬出され、前記第1機能層を蒸着済みの処理基板を第2チャンバに搬送する工程と、
前記第2チャンバにおいて各画素に対応した開口部を有するメタルマスクと処理基板とを位置合せする工程と、
位置合せしたメタルマスクを介して前記第1機能層上における画素毎に第2機能層を蒸着する工程と、を備え、
処理基板を前記第2チャンバに搬送する工程では、処理基板を所定温度に保温することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、蒸着対象となる基板とメタルマスクとの位置ずれを抑制することが可能な表示装置の製造装置及び表示装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の一実施の形態に係る表示装置の製造方法及び表示装置の製造装置について図面を参照して説明する。なお、この実施の形態では、表示装置として、自己発光型表示装置、例えば有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置を例にして説明する。
【0013】
図1に示すように、有機EL表示装置1は、画像を表示する表示エリア102を有するアレイ基板100を備えている。表示エリア102は、マトリクス状に配置された複数種類の画素PX(R、G、B)によって構成されている。
【0014】
また、アレイ基板100は、画素PXの行方向(すなわち図1のY方向)に沿って配置された複数の走査線Ym(m=1、2、…)と、走査線Ymと略直交する列方向(すなわち図1のX方向)に沿って配置された複数の信号線Xn(n=1、2、…)と、有機EL素子40の第1電極60側に電源を供給するための電源供給線Pと、を備えている。
【0015】
さらに、アレイ基板100は、表示エリア102の外周に沿った周辺エリア104に、走査線Ymのそれぞれに走査信号を供給する走査線駆動回路107と、信号線Xnのそれぞれに映像信号を供給する信号線駆動回路108と、を備えている。すべての走査線Ymは、走査線駆動回路107に接続されている。また、すべての信号線Xnは、信号線駆動回路108に接続されている。
【0016】
各画素PX(R、G、B)は、画素回路及び画素回路によって駆動制御される表示素子を備えている。画素回路は、オン画素とオフ画素とを電気的に分離しかつオン画素への映像信号を保持する機能を有する画素スイッチ10と、画素スイッチ10を介して供給される映像信号に基づき表示素子へ所望の駆動電流を供給する駆動トランジスタ20と、駆動トランジスタ20のゲート−ソース間電位を所定期間保持する蓄積容量素子30とを有している。これら画素スイッチ10及び駆動トランジスタ20は、例えば薄膜トランジスタにより構成され、ここでは、半導体層にポリシリコンを用いている。
【0017】
表示素子は、自発光素子である有機EL素子40(R、G、B)によって構成されている。すなわち、赤色画素PXRは、主に赤色波長に対応した光を出射する有機EL素子40Rを備えている。緑色画素PXGは、主に緑色波長に対応した光を出射する有機EL素子40Gを備えている。青色画素PXBは、主に青色波長に対応した光を出射する有機EL素子40Bを備えている。
【0018】
各種有機EL素子40(R、G、B)の構成は、基本的に同一である。すなわち、図2に示すように、アレイ基板100は、配線基板120の主面側に配置された複数の有機EL素子40を備えている。なお、配線基板120は、ガラス基板やプラスチックシートなどの絶縁性支持基板上に、画素スイッチ10、駆動トランジスタ20、蓄積容量素子30、走査線駆動回路107、信号線駆動回路108、各種配線(走査線、信号線、電源供給線等)などを備えて構成されたものとする。
【0019】
有機EL素子40は、マトリクス状に配置され画素PX毎に独立島状に配置された第1電極60と、第1電極60に対向して配置され全画素PXに共通に配置された第2電極66と、これら第1電極60と第2電極66との間に保持された光活性層として機能する有機活性層64と、によって構成されている。
【0020】
有機EL素子40を構成する第1電極60は、配線基板120表面の絶縁膜上に配置され、陽極として機能する。配線基板120側から光を取り出す下面発光方式を採用した構成では、この第1電極60は、例えば、ITO(錫ドープ酸化インジウム)、IZO(亜鉛ドープ酸化インジウム)、ZnO(酸化亜鉛)、SnO(酸化錫)、In(酸化インジウム)などの光透過性を有する導電材料によって形成され、特にITO、IZOを用いて形成することが好ましい。
【0021】
有機活性層64は、少なくとも発光層64Aを含んでいる。この有機活性層64は、発光層64A以外の複数の機能層を含むことができ、例えば、ホール注入層、ホール輸送層、ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層、バッファ層などの機能層を含むことができる。この有機活性層64は、複数の機能層を複合した単層で構成されても良いし、各機能層を積層した多層構造であっても良い。有機活性層64においては、発光層64Aが有機系材料であればよく、発光層64A以外の層は無機系材料でも有機系材料でも構わない。有機活性層64において、発光層64A以外は共通層であり、図2に示した例では、第1電極60側に配置されたホール側共通層64Hは、ホール注入層及びホール輸送層を含み、また、第2電極66側に配置された電子側共通層64Eは、ブロッキング層及び電子輸送層を含み、発光層64Aは、これらのホール側共通層64Hと電子側共通層64Eとの間に配置されている。発光層64Aは、赤、緑、または青に発光する発光機能を有した有機化合物によって形成される。
【0022】
第2電極66は、各色画素の有機活性層64上に共通に配置される。この第2電極66は、電子注入機能を有する金属材料によって形成され、陰極として機能する。下面発光方式を採用した構成では、この第2電極66は、光反射性を有する導電材料を用いて形成され、例えば、カリウム(K)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)等の金属元素単体、または安定性を向上させるためにそれらを含む2成分あるいは3成分の合金系を用いて形成することが好ましい。合金系材料としては、例えばAg・Mg(Ag:1〜20at%)、Al・Li(Li:0.3〜14at%)、In・Mg(Mg:50〜80at%)、Al・Ca(Ca:5〜20at%)等が好ましい。
【0023】
また、アレイ基板100は、表示エリア102において、少なくとも隣接する色毎に画素PX(R、G、B)間を分離する隔壁70を備えている。隔壁70は、例えば各第1電極60の縁に沿って格子状またはストライプ状に配置され、第1電極60を露出する隔壁70の開口形状が矩形となるよう形成されている。この隔壁70は、例えば樹脂材料によって形成される。
【0024】
この実施の形態においては、有機EL素子40を構成する有機活性層64は、低分子系材料を用いて蒸着法により形成される。ここで、有機活性層64を形成するための製造装置すなわち蒸着装置について説明する。
【0025】
図3に示すように、蒸着装置200は、有機活性層64を構成する第1機能層を蒸着する第1チャンバ210と、第1機能層上における画素毎に第2機能層を蒸着する第2チャンバ220と、第1チャンバ210と第2チャンバ220とを接続し第1機能層を蒸着済みの処理基板SUBを第2チャンバ220に搬送する搬送チャンバ230と、搬送チャンバ230内の処理基板SUBを所定温度に保温する保温機構240と、を備えている。
【0026】
第1チャンバ210は、第1機能層例えばホール輸送層を形成するための薄膜材料を放射する蒸着源211と、所定パターンを有するメタルマスク212と、を備えている。蒸着対象である処理基板(例えば第1電極60を形成済みの配線基板120)SUBは、メタルマスク212と対向するように配置される。第1チャンバ210において適用されるメタルマスク212は、例えば全画素(あるいは複数画素)に共通の開口部からなる所定パターンを有している。蒸着源211から放射された薄膜材料は、メタルマスク212を介して処理基板SUBの少なくとも表示エリア102を含む領域全面に蒸着される。
【0027】
第2チャンバ220は、第2機能層例えば発光層64Aを形成するための薄膜材料を放射する蒸着源221と、所定パターンを有するメタルマスク222と、を備えている。蒸着対象である処理基板(第1機能層を形成済みの配線基板120)SUBは、メタルマスク222と対向するように配置される。第2チャンバ220において適用されるメタルマスク222は、各画素に対応した開口部からなる所定パターンを有している。蒸着源221から放射された薄膜材料は、メタルマスク222を介して処理基板SUBの画素毎に蒸着される。
【0028】
搬送チャンバ230は、第1チャンバ210の搬出口214と第2チャンバ220の搬入口224とをつなぐ搬送経路に沿って処理基板SUBを搬送する搬送機構を備えている。
【0029】
保温機構240は、搬送チャンバ230の周囲もしくは内部に配置されたヒータ機構を備えており、搬送チャンバ230内の処理基板SUBを所定温度に保温する。例えば、保温機構240は、搬送チャンバ230の内壁の温度を第1チャンバ210での蒸着直後の基板温度に近い温度とするように保温する。
【0030】
このような構成により、搬送チャンバ230での搬送時間の長短にかかわらず(すなわち、第1チャンバ210を搬出されてから第2チャンバ220に搬入されるまでの待ち時間を含む搬送時間の長短にかかわらず)、第2チャンバ220に搬入直後の処理基板SUBの温度は、第1チャンバ210から搬出された直後の処理基板SUBの温度とほぼ同等となり、第2チャンバ220に異なるタイミングで搬入された処理基板SUB間の基板温度差(ΔT)を低減することが可能となる。
【0031】
したがって、処理基板SUBの熱膨張量の差を低減することができ、処理基板SUBにおける各画素のレイアウトに対応して設計したメタルマスク222と処理基板SUBとの位置ずれを許容可能な範囲に抑制することが可能となる。
【0032】
次に、メタルマスク222と処理基板SUBとの位置ずれの許容値について検討する。
【0033】
すなわち、処理基板SUBが熱によって伸び縮みするときに、処理基板SUBの最外周に位置する画素が最も大きくずれる。このときの位置ずれ量が設計上許容できる大きさより小さくなるように処理基板SUB間の基板温度差を設定する必要がある。そこで、図4に示すように、処理基板SUBの熱膨張係数をαとし、処理基板SUB面内において最も離れた画素間の長さ(処理基板SUBの長手方向に並んだ画素PXAと画素PXBとの長さ)をLとする。また、メタルマスク222における開口部APの中心APOと処理基板SUBにおける画素PXの中心PXOとのずれ量の許容値をΔLとする。
【0034】
ここでは、メタルマスク222の中央部における開口部APCの中心APOと処理基板SUBの中央部における画素PXCの中心PXOとが一致するように、メタルマスク222と処理基板SUBとを位置合せしたときの、メタルマスク222の最外周における開口部APBの中心APOと処理基板SUBの最外周(表示エリア102のコーナに位置する画素)における画素PXBの中心PXOとのずれ量の許容値をΔLとする。ここでの許容値とは、メタルマスク222の開口部APを介して対応する画素PXに薄膜材料を蒸着可能であって、且つ、隣接する他の画素に薄膜材料が飛散しない範囲の値に設定される。
【0035】
第2チャンバ220に異なるタイミングで搬入された処理基板SUB間の基板温度差をΔTとしたとき、基板温度差を考慮した処理基板SUBの伸び量は、ΔT*(α*L)で与えられる。この伸び量は、処理基板SUB全体の伸び量に相当するので、処理基板SUBの中央部から最外周までのずれ量の許容値ΔLの2倍より小さいことが要求される。すなわち、
ΔT*(α*L)<2*ΔL
の関係を満たすことが要求される。
【0036】
そこで、保温機構240は、基板温度差ΔTが
ΔT<2*ΔL/(α*L)
の関係を満たすように搬送チャンバ230内の処理基板SUBを保温する。これにより、第2チャンバ220に搬入された直後の処理基板SUBの基板温度は、ほぼ所定温度に保持される。このため、基板温度差によって処理基板SUBの伸び量に差が生じたとしても、そのときの処理基板SUBの伸び量がずれ量の許容値ΔL内となるよう伸び量の差を十分に低減することが可能となる。
【0037】
また、このような第2チャンバ220において適用されるメタルマスク222の各開口部APのレイアウトは、基板温度差ΔTの中央値となるときの処理基板SUBの各画素PXのレイアウトに対応することが望ましい。すなわち、基板温度差ΔTの中央値での処理基板SUBの熱膨張量(伸び量)に合わせてメタルマスク222のレイアウトを設計することにより、基板温度差ΔTの最大値及び最小値となる基板温度でのメタルマスク222と処理基板SUBとの位置ずれ量は同等となり、当然のことながら、これらの間の基板温度での位置ずれ量はより小さく抑えることが可能となる。
【0038】
一例として、第1チャンバ210から搬出された直後の処理基板SUBの温度が45℃であるとする。このとき、搬送チャンバ230を保温機構240によって保温しなかった場合(比較例)には、図5に示すように、搬送時間の経過とともに基板温度が低下し、室温(雰囲気温度)近くで飽和する。このとき、搬送時間T1で第2チャンバ220に搬入された処理基板SUBと、搬送時間T1より長い搬送時間T2で第2チャンバ220に搬入された処理基板SUBとのように異なるタイミングで搬入された処理基板SUB間の基板温度差ΔTが大きく、基板温度が最大値のときと最小値のときとで処理基板SUBの伸び量がずれ量の許容値ΔLを超えてしまうおそれがある。
【0039】
これに対して、この実施の形態では、保温機構240は、第1チャンバ210から搬出されたときの処理基板SUBの温度を維持するように処理基板SUBを保温する、例えば、45℃を維持するように処理基板SUBを保温することにより、搬送チャンバ230により搬送される処理基板SUBの搬送時間に左右されず、基板温度をほぼ一定に維持することが可能となる。したがって、搬送時間T1で第2チャンバ220に搬入された処理基板SUBと、搬送時間T2で第2チャンバ220に搬入された処理基板SUBとのように異なるタイミングで搬入された処理基板SUB間の基板温度差ΔTは十分に低減され、基板温度が最大値のときと最小値のときとで処理基板SUBの伸び量をずれ量の許容値ΔL以下とすることが可能となる。
【0040】
次に、この実施の形態に係る有機EL素子の製造方法について説明する。
【0041】
まず、図6Aに示すように、配線基板120上の表示エリア102において、複数種類の画素PX(R、G、B)毎に独立島状の第1電極60を形成する。すなわち、配線基板120の一主面側において陽極として機能する金属膜をパターン化し、第1電極60を形成する。この第1電極60については、一般的はフォトリソグラフィプロセスで形成しても良いし、画素PX(R、G、B)に対応したパターンを有するマスクを介して金属材料源を蒸着する蒸着法によって形成しても良い。
【0042】
続いて、各画素PX(R、G、B)を分離する隔壁70を形成する。すなわち、感光性樹脂材料例えばアクリルタイプのポジティブトーンのレジストを第1電極60上を含む配線基板120の一主面側全体に成膜した後にフォトリソグラフィプロセスなどでパターニングした後に、220℃で60分の焼成処理を行う。これにより、各色画素PX(R、G、B)を囲むように第1電極60の縁に沿って格子状の隔壁70を形成する。
【0043】
続いて、各色画素PX(R、G、B)内における第1電極60上に有機活性層64を形成する。ここで、有機活性層64は、複数の薄膜、すなわちホール注入層、ホール輸送層(第1機能層)、発光層(第2機能層)64A、ブロッキング層、電子輸送層を積層して構成されており、少なくともホール輸送層及び発光層は、低分子系の薄膜材料を蒸着することによって形成される。
【0044】
まず、図6Bに示すように、蒸着法により複数種類の画素PX(R、G、B)に共通のホール注入層及びホール輸送層を順次形成する。すなわち、処理基板として隔壁70を形成済みの配線基板120を第1チャンバ210に搬入し、メタルマスク212を介して、表示エリア102の全域にわたって、ホール注入層として機能するCuPc(銅フタロシアニン)を蒸着したのに続いて、ホール輸送層として機能するα−NPD(芳香族ジアミン)を蒸着する。これにより、ホール側共通層64Hが形成される。
【0045】
続いて、図6Cに示すように、蒸着法により画素PX(R、G、B)のそれぞれに個別の発光層64Aを形成する。すなわち、処理基板としてホール側共通層64Hを形成済みの配線基板120を第1チャンバ210の搬出口214から搬出し、保温機構240により所定温度(45℃)に保温された搬送チャンバ230を経て第2チャンバ220の搬入口224から第2チャンバ220内に配線基板120を搬入する。そして、第2チャンバ220内において、メタルマスク222と配線基板120とを位置合せする。そして、蒸着源221から発光層64Aを形成するための薄膜材料を放射する。これにより、メタルマスク222の開口部APを介して薄膜材料が配線基板120の各画素PXに蒸着される。
【0046】
ここでは、赤色画素PXRに配置される発光層64ARとして、ホスト材料にAlq(アルミニウムキリノール錯体)、ドーパント材料にDCM色素を用いて400オングストロームの膜厚で成膜し、緑色画素PXGに配置される発光層64AGとして、ホスト材料にAlq(アルミニウムキリノール錯体)、ドーパント材料にクマリン誘電体を用いて400オングストロームの膜厚で成膜し、青色画素PXBに配置される発光層64ABとして、ホスト材料にAlq(アルミニウムキリノール錯体)、ドーパント材料にペリレンを用いて400オングストロームの膜厚で成膜した。
【0047】
続いて、図6Dに示すように、複数種類の画素PX(R、G、B)に共通のブロッキング層及び電子輸送層を連続して成膜する。ここでは、ブロッキング層として、BCP(バソキョプロイン)を成膜し、さらに、電子輸送層として、Alq(アルミニウムキリノール錯体)を成膜した。これにより、電子側共通層64Eが形成される。
【0048】
続いて、図6Eに示すように、有機活性層64上に複数種類の画素PX(R、G、B)に共通の第2電極66を形成する。すなわち、第2電極66は、有機活性層64を配置した配線基板120の一主面側に陰極として機能する金属材料源をドライプロセス、例えば蒸着法によって形成可能である。
【0049】
このような工程により、有機EL素子40が形成される。
【0050】
このような実施の形態によれば、配線基板上の各画素とメタルマスクにおける各開口部とを高精度に位置合せすることが可能となり、各画素PXに個別に形成すべき機能層、例えば発光層を数μmオーダのずれ量で形成することが可能となる。
【0051】
上述した実施の形態では、搬送チャンバ230内の処理基板SUBを保温機構240により所定温度に保温する構成としたことにより、搬送チャンバ230での搬送時間の長短にかかわらず、第2チャンバ220に異なるタイミングで搬入された処理基板SUB間での基板温度差を低減することを可能としたが、搬送チャンバ230において、第1チャンバ210を搬出されてから第2チャンバ220に搬入されるまでの処理基板SUB毎の搬送時間を一定に保つように構成することにより、基板温度差をさらに低減することが可能となる。
【0052】
すなわち、上述した製造方法において、処理基板SUBを第2チャンバ220に搬送する工程においては、第1チャンバ210での処理時間と第2チャンバ220での処理時間とが必ずしも一致しないため、第2チャンバ220の使用状況により第1チャンバ210から搬出された後に第2チャンバ220に搬入されるまでの間に待ち時間の長短が生ずることがある。このため、第1チャンバ210での処理時間と第2チャンバ220での処理時間とを考慮して最大の待ち時間を算出し、第1チャンバ210から搬出されたすべての処理基板SUBは、算出した最大待ち時間を加味した搬送時間で搬送チャンバ230を搬送され、第2チャンバ220に搬入される。これにより、すべての処理基板SUBの搬送時間が一定に保たれ、基板温度差がさらに低減するため、処理基板SUB毎の熱膨張量の差を低減することができ、メタルマスク222と処理基板SUBとの位置ずれをさらに低減することが可能となる。
【0053】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0054】
上述した実施の形態では、保温機構240は、搬送チャンバ230内の処理基板SUBを所定温度に保温するように設定したが、搬送チャンバ230の内部の雰囲気を所定温度に保温するように設定しても良い。また、保温機構240による設定温度は、第1チャンバ210での蒸着直後の基板温度に近い温度に設定したが、この例に限定されるものではなく、第2チャンバ220での処理温度に近い温度に設定しても良いし、他の温度に設定しても良い。
【0055】
また、上述した実施の形態では、第1チャンバ210及び第2チャンバ220では、有機活性層64を構成する機能層を蒸着する例について説明したが、この例に限定されるものではなく、一方のチャンバで第1電極60を蒸着しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、この発明の一実施の形態に係る有機EL表示装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図2は、図1に示した有機EL表示装置の1画素分の構造を概略的に示す断面図である。
【図3】図3は、有機EL素子を製造するための製造装置(蒸着装置)の構成を概略的に示す図である。
【図4】図4は、メタルマスクと処理基板との位置ずれを説明するための図である。
【図5】図5は、搬送チャンバを保温しなかった場合(比較例)と保温する場合(実施形態)とでの搬送時間の長短による基板温度差を説明するための図である。
【図6A】図6Aは、有機EL素子の製造工程を説明するための図であり、第1電極及び隔壁を形成する工程を示す図である。
【図6B】図6Bは、有機EL素子の製造工程を説明するための図であり、有機活性層を構成するホール側共通層を形成する工程を示す図である。
【図6C】図6Cは、有機EL素子の製造工程を説明するための図であり、有機活性層を構成する発光層を形成する工程を示す図である。
【図6D】図6Dは、有機EL素子の製造工程を説明するための図であり、有機活性層を構成する電子側共通層を形成する工程を示す図である。
【図6E】図6Eは、有機EL素子の製造工程を説明するための図であり、第2電極を形成する工程を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1…有機EL表示装置、10…画素スイッチ、20…駆動トランジスタ、30…蓄積容量素子、40…有機EL素子、60…第1電極、64…有機活性層、64H…ホール側共通層、64A…発光層、64E…電子側共通層、66…第2電極、70…隔壁、100…アレイ基板、120…配線基板、PX…画素、200…蒸着装置、210…第1チャンバ、220…第2チャンバ、222…メタルマスク、230…搬送チャンバ、240…保温機構、AP…開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1電極、前記第1電極上に配置され発光層を含む複数の機能層を積層した活性層と、前記活性層上に配置された第2電極とで構成された表示素子を画素毎に備えた表示装置の製造装置であって、
活性層を構成する第1機能層を蒸着する第1チャンバと、
各画素に対応した開口部を有するメタルマスクを備え、前記第1機能層上における画素毎に前記メタルマスクを介して第2機能層を蒸着する第2チャンバと、
前記第1チャンバと前記第2チャンバとを接続し、前記第1機能層を蒸着済みの処理基板を前記第2チャンバに搬送する搬送チャンバと、
前記搬送チャンバ内の処理基板を所定温度に保温する保温機構と、
を備えたことを特徴とする表示装置の製造装置。
【請求項2】
前記保温機構は、前記第2チャンバに異なるタイミングで搬入される処理基板間の基板温度差をΔT、処理基板の熱膨張係数をα、処理基板面内において最も離れた画素間の長さをL、前記メタルマスクにおける開口部の中心と処理基板における画素の中心とのずれ量の許容値をΔLとしたとき、基板温度差ΔTが
ΔT<2*ΔL/(α*L)
の関係を満たすように保温することを特徴とする請求項1に記載の表示装置の製造装置。
【請求項3】
前記メタルマスクの各開口部のレイアウトは、前記基板温度差の中央値となるときの処理基板の各画素のレイアウトに対応することを特徴とする請求項2に記載の表示装置の製造装置。
【請求項4】
前記保温機構は、前記第1チャンバから搬出されたときの処理基板の温度を維持するように処理基板を保温することを特徴とする請求項1に記載の表示装置の製造装置。
【請求項5】
前記搬送チャンバは、前記第1チャンバを搬出されてから前記第2チャンバに搬入されるまでの処理基板の搬送時間を一定に保つことを特徴とする請求項1に記載の表示装置の製造装置。
【請求項6】
基板上に第1電極、前記第1電極上に配置され発光層を含む複数の機能層を積層した活性層と、前記活性層上に配置された第2電極とで構成された表示素子を画素毎に備えた表示装置の製造方法であって、
第1チャンバにおいて活性層を構成する第1機能層を蒸着する工程と、
前記第1チャンバから搬出され、前記第1機能層を蒸着済みの処理基板を第2チャンバに搬送する工程と、
前記第2チャンバにおいて各画素に対応した開口部を有するメタルマスクと処理基板とを位置合せする工程と、
位置合せしたメタルマスクを介して前記第1機能層上における画素毎に第2機能層を蒸着する工程と、を備え、
処理基板を前記第2チャンバに搬送する工程では、処理基板を所定温度に保温することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項7】
処理基板を前記第2チャンバに搬送する工程において、前記第1チャンバを搬出されてから前記第2チャンバに搬入されるまでの処理基板の搬送時間を一定に保つことを特徴とする請求項6に記載の表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【公開番号】特開2007−95637(P2007−95637A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287006(P2005−287006)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】