説明

表示装置

【課題】トップエミッション型有機EL表示装置において光利用効率を低下させることなく、表示装置内部の水分を効果的に除去する。
【解決手段】有機EL表示装置は、有機EL層を挟持する上部電極23と下部電極の間に映像信号による電圧を印加することによって発光する。有機EL層は電子輸送層、発光層、ホール輸送層を含む。電子輸送層は、有機材料とセシウムを含み、吸湿性を有する。電子輸送層と同じ材料を用い、かつ、成分組成を変えてセシウムの量を多くしたものを、乾燥剤40として、有機EL層と重畳しない部分に設置することによって有機EL表示装置の内部の水分を効果的に除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機EL表示装置に係り、特に水分によるダークスポットの発生を抑え、信頼性の高いトップエミッション型有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置には、有機EL層から発光した光を、有機EL層等が形成されたガラス基板方向に取り出すボトムエミッション型と、有機EL層等が形成されたガラス基板と逆の方向に取り出すトップエミッション型とがある。トップエミッション型は有機EL層の面積を多く取ることが出来るのでディスプレイの明るさを大きくすることが出来るという利点がある。
【0003】
有機EL表示装置では画素電極(下部電極)と上部電極との間に有機EL層を挟持し、上部電極に一定電圧を印加し、下部電極にデータ信号電圧を印加して有機EL層の発光を制御することによって画像を形成する。下部電極へのデータ信号電圧の供給は薄膜トランジスタ(TFT)を介して行われる。トップエミッション型有機EL表示装置では、このTFT等の上にも有機EL層を形成することが出来るので発光面積を大きくすることが出来る。
【0004】
有機EL表示装置に使用される有機EL材料は水分が存在すると発光特性が劣化し、長時間動作をさせると、水分によって劣化した場所が発光しなくなる。これは表示領域のダークスポットとして現れる。このダークスポットは時間の経過とともに成長し、画像の欠陥となる。
【0005】
ダークスポットの発生、あるいは成長を防止するためには、有機EL表示装置内の水分を除去する必要がある。このために、有機EL層が形成された素子基板を封止基板によって封止し、外部から有機EL表示装置内への水分の浸入を防止する。一方、有機EL表示装置内に進入した水分を除去するために、有機EL表示装置内に乾燥剤を設置する。
【0006】
「特許文献1」には、乾燥剤と有機化合物の混合物を封止基板の内側に塗布する構成が記載されている。「特許文献2」には、乾燥剤として有機金属化合物を封止基板の内側に塗布する構成が記載されている。また、「特許文献3」には、乾燥剤または水分の捕捉剤として、有機EL層と同じ材料を使用する構成が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−195661号公報
【特許文献2】特開2002−33187号公報
【特許文献3】特開2006−4721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
「特許文献1」に記載の技術は乾燥剤と有機化合物の混合材料を作成する必要がある。また、この混合材料を封止基板の内側に塗布するために、トップエミッションの場合は、この乾燥剤によって有機EL層からの光の取り出し効率が低下する。
【0009】
「特許文献2」に記載の技術は、乾燥剤として使用するために、有機金属化合物を用意する必要がある。そして、この有機金属化合物を封止基板に塗布する必要がある。これらの工程は有機EL表示装置の製造コストを押し上げる。
「特許文献3」に記載の技術は、有機EL表示装置の有機EL層を構成する有機EL材料を水分捕捉剤として使用する構成が記載されている。「特許文献3」に記載の技術はこの水分捕捉剤を、発光する有機EL層と重畳して形成している。したがって、有機EL層からの発光の取り出し効率が低下する。また、有機EL層と同じ成分では、十分な水分の捕捉効果を有しない場合がある。
【0010】
本発明の課題は、簡易なプロセスによって、トップエミッション型有機EL表示装置の発光効率を低下させることなく、有機EL表示装置内の水分を捕捉し、ダークスポットの発生あるいは成長を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するものであり、有機EL表示装置の乾燥剤として、電子輸送層を形成する材料と同じ材料で、かつ、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の組成が電子輸送層よりも大きい共蒸着層からなる乾燥剤を使用する。そして、共蒸着層からなる乾燥剤が発光層とは重複せずに設置されていることを特徴とする。具体的な手段は次のとおりである。
【0012】
(1)上部電極と下部電極によって挟持された有機EL層を有する画素がマトリクス状に形成された表示領域を有する素子基板が、封止基板によって封止され、画像は前記封止基板側に形成されるトップエミッション型有機EL表示装置であって、前記有機EL層は電子輸送層と発光層とホール輸送層を含み、前記電子輸送層は、有機材料とアルカリ金属またはアルカリ土類金属の共蒸着で形成され、前記電子輸送層を形成する材料と同じ材料で、かつ、前記アルカリ金属または前記アルカリ土類金属の組成比が前記電子輸送層よりも大きい共蒸着層からなる乾燥剤が前記発光層とは重複せずに設置されていることを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【0013】
(2)前記共蒸着層からなる乾燥剤の前記アルカリ金属あるいは前記アルカリ土類金属の組成比は、前記電子輸送層の前記アルカリ金属あるいは前記アルカリ土類金属の組成比よりも50%以上大きいことを特徴とする(1)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【0014】
(3)上部電極と下部電極によって挟持された有機EL層を有する画素がマトリクス状に形成された表示領域を有する素子基板が、封止基板によって封止され、画像は前記封止基板側に形成されるトップエミッション型有機EL表示装置であって、前記有機EL層は電子輸送層と発光層とホール輸送層を含み、前記電子輸送層は、有機材料とセシウムの共蒸着で形成され、前記電子輸送層を形成する材料と同じ材料で、かつ、前記セシウムの組成比が前記電子輸送層よりも大きい共蒸着層からなる乾燥剤が前記発光層とは重複せずに設置されていることを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【0015】
(4)前記共蒸着層からなる乾燥剤の前記セシウムの組成比は、前記電子輸送層の前記セシウムの組成比よりも50%以上大きいことを特徴とする(3)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【0016】
(5)前記共蒸着層からなる乾燥剤の前記セシウムの組成比は、前記電子輸送層の前記セシウムの組成比よりも100%以上大きいことを特徴とする(3)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【0017】
(6)前記共蒸着層からなる乾燥剤の前記セシウムの組成量は、0.225g/cm3以上であることを特徴とする(3)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【0018】
(7)上部電極と下部電極によって挟持された有機EL層を有する画素がマトリクス状に形成された表示領域を有する素子基板が、封止基板によって封止され、画像は前記封止基板側に形成されるトップエミッション型有機EL表示装置であって、前記下部電極は有機パッシベーション膜の上に形成され、前記有機EL層はバンクによって区画された内部に形成され、前記上部電極は前記バンクの上にも延在し、前記有機EL層は電子輸送層と発光層とホール輸送層を含み、前記電子輸送層は、有機材料とセシウムの共蒸着蒸着で形成され、前記電子輸送層を形成する材料と同じ材料で、かつ、前記セシウムの組成比が前記電子輸送層よりも大きい共蒸着層からなる乾燥剤が、前記発光層とは重複せずに設置されていることを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【0019】
(8)前記共蒸着層からなる乾燥剤は前記有機パッシベーション膜上に形成されていることを特徴とする(7)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【0020】
(9)前記共蒸着層からなる乾燥剤は前記上部電極上に形成されていることを特徴とする(7)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【0021】
(10)前記バンクは有機膜で形成されており、前記共蒸着層からなる乾燥剤は前記バンクの上と前記上部電極の上とに形成されていることを特徴とする(7)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【0022】
(11)前記バンクは無機膜で形成されており、前記共蒸着層からなる乾燥剤は前記バンクの上と前記上部電極の上とに形成されていることを特徴とする(7)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【0023】
(12)前記バンク上には金属で形成された補助電極が延在し、前記補助電極上には前記共蒸着層からなる乾燥剤が延在していることを特徴とする(7)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【0024】
(13)第1の前記バンク上には金属で形成された補助電極が延在し、第2の前記バンク上には前記共蒸着層からなる乾燥剤が延在し、前記補助電極と前記共蒸着層からなる乾燥剤とは接触しないことを特徴とする(7)に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、乾燥剤として、有機EL層の電子輸送層と組成は異なるが、同じ材料を使用することが出来るので、乾燥剤の設置によるコスト上昇を抑えることが出来る。すなわち、各材料の蒸着スピードを変えることによって、電子輸送層と異なる組成の乾燥剤を形成するので、乾燥剤の形成に伴うコスト上昇を抑制することが出来る。
【0026】
また、共蒸着層からなる乾燥剤を有機EL層とは重複しない領域に設置することによって、乾燥剤の成分比、膜厚等の自由度を確保することが出来、有機EL表示装置内の除湿効果を上げることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の具体的な実施例を説明する前に、本発明が適用されるトップエミッション型有機EL表示装置の構成について説明する。図1は本発明によるトップエミッション型の有機EL表示装置の表示領域の平面図である。図2は図1のA−A断面図である。図1において、赤画素101、緑画素102、青画素103が横方向に配列している。縦方向には同じ色の画素が配列している。各画素はそれぞれ、赤、緑、青等の色を発光する有機EL層22を有している。各有機EL層22の上は、上部電極23としての透明電極である、IZOによって覆われている。透明電極としてはITOでも、ZnO等でもよい。
【0028】
縦方向の画素と画素の間には補助電極30が横方向に延在している。この補助電極30はベタで形成された上部電極23の上に、蒸着によって形成されている。補助電極30はマスクを用いた蒸着、あるいはスパッタリングによって形成される。あるいは、補助電極30を表示領域全体に被着した後、フォトリソグラフィ工程によって形成しても良い。縦方向の画素と画素の間は25μm〜30μm程度である。したがって、補助電極30の幅はこれよりも狭く、10μm〜15μmに形成される。この程度の幅の蒸着はマスク蒸着、あるいはスパッタリングによって可能である。
【0029】
補助電極30は抵抗を小さくする必要があるので、金属を用いる。補助電極30の材料としては、Al、Al合金、Zn、Mg等が挙げられる。Al、あるいはAl合金は抵抗が低いので、補助電極30としては好適である。また、蒸着あるいはスパッタリング等によって容易に被着することが出来る。Znは抵抗加熱、誘導加熱、Eb蒸着、あるいはスパッタリングによって被着することが出来る。また、Znを用いると補助配線が黒色となるので、補助配線がブラックマトリクスの役割をもち、画質のコントラストの向上に寄与する。Mgは抵抗加熱、誘導加熱、Eb蒸着、あるいはスパッタリングによって被着することが出来る。
【0030】
補助配線が形成された後の表示領域におけるシート抵抗は10Ω/□以下とすると上部電極23の電位降下を小さくすることが出来る。なお、この場合のシート抵抗は、補助電極30と上部電極23を合わせた場合のシート抵抗を言う。すなわち、上部電極23の場合だけに比較してシート抵抗は大幅に小さくなっている。
【0031】
図2は図1のA−A断面図である。トップエミッション型有機EL表示装置は、有機EL層22の上にアノードが存在するトップアノード型と、有機EL層22の上にカソードが存在するトップカソード型とが存在する。図2はトップアノード型の場合であるが、トップカソードの場合も本発明は同様に適用することが出来る。
【0032】
図2において、素子基板10の上にはSiNからなる第1下地膜11と、SiO2からなる第2下地膜12が形成されている。ガラス基板からの不純物が半導体層13を汚染することを防止するためである。第2下地膜12の上には半導体層13が形成される。半導体層13はCVDによってa−Si膜が形成されたあと、レーザー照射によってpoly−Si膜に変換する。
【0033】
半導体層13を覆って、SiO2からなるゲート絶縁膜14が形成される。ゲート絶縁膜14を挟んで、半導体層13と対向する部分にゲート電極15が形成される。ゲート電極15をマスクにして、半導体層13にリンあるいはボロン等の不純物をイオンインプランテーションによって打ち込み、導電性を付与して、半導体層13にソース部あるいはドレイン部を形成する。
【0034】
ゲート電極15を覆って層間絶縁膜16がSiO2によって形成される。ゲート配線とドレイン配線171を絶縁するためである。層間絶縁膜16の上にはドレイン配線171が形成される。ドレイン配線171は層間絶縁膜16およびゲート絶縁膜14にスルーホールを介して半導体層13のドレインと接続する。
【0035】
その後、TFTを保護するために、SiNからなる無機パッシベーション膜18が被着される。無機パッシベーション膜18の上には、有機パッシベーション膜19が形成される。有機パッシベーション膜19は無機パッシベーション膜18とともに、TFTをより完全に保護する役割を有するとともに、有機EL層22が形成される面を平坦にする役割を有する。したがって、有機パッシベーション膜19は1〜4μmと、厚く形成される。
【0036】
有機パッシベーション膜19の上には反射電極24がAlまたはAl合金によって形成される。AlまたはAl合金は反射率が高いので、反射電極24として好適である。反射電極24は有機パッシベーション膜19および無機パッシベーション膜18に形成されたスルーホールを介してドレイン配線171と接続する。
【0037】
本実施例はトップアノード型の有機EL表示装置なので、有機EL層22の下部電極21はカソードとなる。したがって、反射電極24として使用されるAlあるいはAl合金が有機EL層22の下部電極21を兼用することが出来る。AlあるいはAl合金は仕事関数が比較的小さいので、カソードとして機能することが出来るからである。
【0038】
下部電極21の上には有機EL層22が形成される。有機EL層22は、下層から電子輸送層、発光層、ホール輸送層。である。なお、電子輸送層と下部電極21との間に電子注入層を設ける場合もあるが、本実施例では設けていない。また、ホール輸送層と上部電極23の間にホール注入層を設ける場合もあるが、本実施例では、設けていない。有機EL層22の上にはアノードとなる上部電極23が形成される。本実施例では上部電極23としてはIZOを用いている。IZOはマスクを用いず、表示領域全体に蒸着される。IZOの厚さは光の透過率を維持するために、30nm程度に形成される。IZOの代わりにITOを用いることも出来る。
【0039】
電子輸送層としては電子輸送性を示し、アルカリ金属と共蒸着することにより電荷移動錯体化しやすいものであれば特に限定は無く、例えばトリス(8−キノリノラート)アルミニウム、トリス(4-メチル-8-キノリノラート)アルミニウム、ビス(2-メチル−8−キノリノラート)−4−フェニルフェノラート−アルミニウム、ビス[2-[2-ヒドロキシフェニル]ベンゾオキサゾラート]亜鉛などの金属錯体や2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン等を用いることができる。
【0040】
さらに本発明では上記の有機材料に対して電子供与性を示す材料として、セシウムを共蒸着している。セシウムは吸湿性を示すために、本発明においては、電子輸送層に使用される材料で、かつセシウムの成分を多くした共蒸着物質を乾燥剤40として使用している。該共蒸着物の設置場所は後に述べる実施例に示すとおりである。
【0041】
なお、電子供与性を示す材料としては、セシウムに限らず、例えば、リチウム、などのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属等でも良い。あるいはそれらの酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物等でも良い。
【0042】
発光層材料としては電子、ホールの輸送能力を有するホスト材料に、それらの再結合により蛍光もしくはりん光を発するドーパントを添加したもので共蒸着により発光層として形成できるものであれば特に限定は無く、例えば、ホストとしてはトリス(8−キノリノラト)アルミニウム、ビス(8−キノリノラト)マグネシウム、ビス(ベンゾ{f}−8−キノリノラト)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)アルミニウムオキシド、トリス(8−キノリノラト)インジウム、トリス(5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム、8−キノリノラトリチウム、トリス(5−クロロ−8−キノリノラト)ガリウム、ビス(5−クロロ−8−キノリノラト)カルシウム、5,7−ジクロル−8−キノリノラトアルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム、ポリ[亜鉛(II)−ビス(8−ヒドロキシ−5−キノリニル)メタン]のような錯体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、等であっても良い。
【0043】
また、ドーパントとしてはホスト中で電子とホールを捉えて再結合させ、発光するものであって、例えば赤ではピラン誘導体、緑ではクマリン誘導体、青ではアントラセン誘導体などの蛍光を発光する物質や、もしくはイリジウム錯体、ピリジナート誘導体などりん光を発する物質であっても良い。
【0044】
ホール輸送層は、例えば、テトラアリールベンジシン化合物(トリフェニルジアミン:TPD)、芳香族三級アミン、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体、銅フタロシアニン誘導体等を用いることができる。
【0045】
なお、有機EL層22が端部において段切れによって破壊することを防止するために、画素と画素の間にバンク20が形成される。バンク20は有機材料で形成する場合もあるし、SiNのような無機材料で形成する場合もある。有機材料を使用する場合は、一般にはアクリル樹脂によって形成される。アクリル樹脂は水分を含有し易いために、アクリル樹脂に含有された水分が長期間動作中に有機EL表示装置内に放出され、有機EL層22の発光特性を劣化させる場合がある。
【0046】
バンク20の上には補助電極30が形成される。補助電極30は先に説明したように、上部電極23の導通を補助するものである。本実施例では、補助電極30は図1に示すように、バンク20の上をストライプ状に延在している。
【0047】
図3は有機EL層22が形成された素子基板10が封止基板50によって封止されている状態を示す断面模式図である。図3において、ガラスで形成された素子基板10の上に有機パッシベーション膜19が形成されている。なお、実際は図2で説明したように、有機パッシベーション膜19と素子基板10の間には、TFT、ゲート絶縁膜、層間絶縁膜等が存在しているが、図3では省略している。
【0048】
図3において、有機パッシベーション膜19の上には反射電極24を兼用する下部電極21が形成されている。下部電極21に上には、画素間を分離するバンク20が形成されている。バンク20内およびバンク20の一部を覆って、下部電極21側から順に電子輸送層221、発光層間絶縁膜222、ホール輸送層223が形成されている。ホール輸送層223の上には、IZOからなるアノードが形成されている。
【0049】
素子基板10は、封止剤51を介してガラスで形成された封止基板50によって機密に封止される。なお、内部には窒素等の不活性ガスが封入されている。なお、有機EL表示装置の内側は、ガスではなく、樹脂を充填することも出来る。
【0050】
以上、トップアノード型について説明したが、トップカソード型の場合も各電極の順番が入れ替わるだけで、トップアノード型と本質的な構造の差は無い。例えば、トップカソード型の場合には、反射電極24の上に透明でかつ仕事関数の大きいIZO等がアノードとなる下部電極21として用いられる。
【0051】
有機EL層22はトップアノードの場合と順番が入れ替わり、下部電極21側からホール輸送層、発光層、電子輸送層となる。有機EL層22の材料はトップアノード型の場合と同じものを用いることが出来る。電子輸送層の上には透明電極が用いられるが、この透明電極としてIZOを用いることが出来る。そして、トップカソード型の場合にも電子輸送層に使用される材料で、かつセシウムの成分を多くした共蒸着物質を乾燥剤40として使用していることが出来る。
【実施例1】
【0052】
図4は本発明の第1の実施例を示す断面模式図である。図4において、ガラスで形成された素子基板10の上に有機パッシベーション膜19が形成されている。有機パッシベーション膜19の下に形成されているTFT、ゲート絶縁膜、層間絶縁膜等は省略されている。有機パッシベーション膜19の上にはアノードとなる上部電極23がIZOによって形成されている。なお、上部電極23の下の有機EL層、下部電極等は省略されている。
【0053】
本実施例では、上部電極23が存在しない有機パッシベーション膜19膜上に電子輸送層と同じ物質を用い、かつ、成分組成を変えたものを共蒸着して乾燥剤40としている。具体的には、上述した、有機材料とセシウムを共蒸着したものである。乾燥剤40としては、電子輸送層で使用する材料よりもセシウムの成分を多くしている。セシウムの量は、電子輸送層中では0.15g±0.3g/cm3であるが、乾燥剤40としては、セシウムの量はこの値よりも50%以上、さらに好ましくは100%以上多くするのが良い。すなわち、共蒸着による乾燥剤40におけるセシウムの量は、0.225g/cm3以上、さらに好ましくは0.3g/cm3以上である。また、実験によれば、0.6g/cm3程度としても問題なく効果をあげることが出来る。
【0054】
なお、セシウムの代わりに、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を用いることも出来る。この場合、共蒸着による乾燥剤40におけるアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の組成比は、電子輸送層におけるアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の組成比よりも50%以上大きいことが好ましい。さらに好ましくは共蒸着による乾燥剤40におけるアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の組成比は、電子輸送層におけるアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の組成比よりも100%以上大きいことである。
【0055】
本発明の特徴は、共蒸着による乾燥剤40を設置する位置を、発光をする有機EL層22と重畳しないことである。したがって、乾燥剤40によって発光効率が低下することは無い。有機EL層22を重畳しないために、乾燥剤40の膜厚を乾燥効果を十分に発揮できるよう任意の厚さに形成することが出来る。例えば、電子輸送層の厚さは60nm程度であるが、乾燥剤40の厚さは数百nmに形成することが出来る。
【0056】
さらに、本発明においては、乾燥剤40を有機EL発光層と重畳しないので、乾燥剤40による反射を考慮する必要はなく、乾燥剤40の屈折率を任意の大きさにすることが出来る。つまり、有機EL層22からの発光は上部電極23を通過するが、上部電極23の上に乾燥剤40があった場合は、上部電極23と乾燥剤40の屈折率が異なれば、光が反射して、それだけ、画像形成に使用できる光が減少する。乾燥剤40の材料を変化させれば、屈折率も変化し、光の利用効率の問題が生ずる。これに対して、本発明では、乾燥剤40は有機EL層22を避けて設置されるので、屈折率の問題を考慮することなく、乾燥能力のみを考慮して乾燥剤40の組成を決めることが出来る。
【0057】
本発明の特徴は、乾燥剤40として別途材料を用意する必要はなく、電子輸送層の共蒸着用いる材料を用いることが出来る点である。すなわち、乾燥剤40も電子輸送層と同様に、蒸着で形成するが、乾燥剤40の成分を変化させるには、共蒸着する材料の蒸着スピードを変化させれば良い。したがって、有機EL表示装置内への乾燥剤40の形成を大幅なコスト上昇を伴うことなく行うことが出来る。
【0058】
また、電子輸送層の共蒸着層よりも乾燥剤として用いる共蒸着層の方が、膜厚が厚いことが多いが、この膜厚は乾燥剤として用いる共蒸着層の蒸着時間を長くすればよいことは言うまでもない。また、乾燥剤として用いる共蒸着層は電子輸送層とは異なるマスクを使用するので、形状は電子輸送層と同じである必要は無いことは当然である。
【実施例2】
【0059】
図5は本発明の第2の実施例を示す断面模式図である。図5において、ガラスで形成された素子基板10の上に有機パッシベーション膜19が形成されている。有機パッシベーション膜19の下に形成されているTFT、ゲート絶縁膜、層間絶縁膜等は省略されている。有機パッシベーション膜19の上にはアノードとなる上部電極23がIZOによって形成されている。なお、上部電極23の下の有機EL層、下部電極等は省略されている。
【0060】
本実施例では、有機EL層22が存在しない部分の上部電極23の上に共蒸着による乾燥剤40を形成している。上部電極23は有機EL層22と異なり、端子部等を除き、素子基板10全面にベタ蒸着される。したがって、上部電極23の形成される領域は広く、本実施例によって共蒸着の乾燥剤40を設置する面積は広い。
【0061】
本実施例における共蒸着による乾燥剤40の成分、膜厚、形成方法等は実施例1で説明したのと同様である。
【実施例3】
【0062】
図6は本発明の第3の実施例を示す断面模式図である。図6において、ガラスで形成された素子基板10の上に有機パッシベーション膜19が形成されている。有機パッシベーション膜19の下に形成されているTFT、ゲート絶縁膜、層間絶縁膜等は省略されている。有機パッシベーション膜19の上には画素を分離するバンク20がアクリル樹脂によって形成されている。バンク20の上にはIZOによる上部電極23が延在している。
【0063】
本実施例では、上部電極23およびバンク20の双方を覆って共蒸着による乾燥剤40が形成されている。バンク20を形成するアクリル樹脂は水分を内在し易い性質を有している。アクリル樹脂に内在した水分は、有機EL表示装置の長時間動作中に、放出され、この水分が有機EL層22の発光効率を低下させ、黒点等の原因となる。
【0064】
本実施例では、アクリル樹脂で形成されたバンク20を覆って共蒸着による乾燥剤40を形成するので、アクリル樹脂に内在する水分がこの乾燥剤40によって吸収され、有機EL表示装置内に放出され、有機EL層22の発光効率を劣化させることを防止することが出来る。
【0065】
本実施例における共蒸着による乾燥剤40の成分、膜厚、形成方法等は実施例1で説明したのと同様である。
【実施例4】
【0066】
図7は本発明の第4の実施例を示す断面模式図である。図7において、ガラスで形成された素子基板10の上に有機パッシベーション膜19が形成されている。有機パッシベーション膜19の下に形成されているTFT、ゲート絶縁膜、層間絶縁膜等は省略されている。有機パッシベーション膜19の上にはSiN等の無機材料によるバンク20が形成されている。無機膜で形成されたバンク20の上にはアノードとなる、IZOによって形成されている上部電極23が延在している。
【0067】
本実施例では、上部電極23および無機材料によるバンク20の双方を覆って共蒸着による乾燥剤40が形成されている。本実施例では、共蒸着による乾燥剤40によって被覆する面積が、実施例1あるいは実施例2等と比較して大きいので、除湿効果もそれだけ大きい。
【0068】
本実施例における共蒸着による乾燥剤40の成分、膜厚、形成方法等は実施例1で説明したのと同様である。
【実施例5】
【0069】
図8は本発明の第5の実施例を示す平面図である。図8は図1に示す有機EL表示装置の表示領域の平面図と似ているが、図8では、縦方向の画素と画素の間に共蒸着膜による乾燥剤40が延在している点が図1と異なる。図8において、共蒸着による乾燥剤40の幅は補助電極30の幅と同等に形成されている。
【0070】
図9は図8のA−A断面である。図9において、ガラスで形成された素子基板10の上に有機パッシベーション膜19が形成されている。有機パッシベーション膜19の下に形成されているTFT、ゲート絶縁膜、層間絶縁膜等は省略されている。有機パッシベーション膜19の上には画素を分離するバンク20がアクリル樹脂によって形成されている。バンク20の上にはIZOによる上部電極23が延在している。
【0071】
上部電極23の上には補助電極30が形成されている。補助電極30はAl等の金属で形成されている。本実施例においては、補助電極30も共蒸着による乾燥剤40も蒸着によって形成される。補助電極30の幅と共蒸着の幅を同じとすれば、蒸着マスクを共用することが出来、製造コスト上有利である。補助電極30あるいは共蒸着による乾燥剤40を蒸着するマスクは有機EL層22を蒸着するマスク等に比較してパターンの形状が大きいので、マスクの共用は容易である。
【0072】
補助電極30と共蒸着による乾燥剤40の蒸着マスクを異ならせて、補助電極30と共蒸着による乾燥剤40の幅を異ならせることが出来ることはいうまでも無い。本実施例における共蒸着による乾燥剤40の成分、膜厚、形成方法等は実施例1で説明したのと同様である。
【実施例6】
【0073】
図10は本発明の第6の実施例を示す平面図である。図10において、縦方向の画素と画素の間に共蒸着膜による乾燥剤40が延在していることは図8と同様であるが、本実施例では、この共蒸着による乾燥剤40は、1ラインおきに形成されている点が異なる。そして、共蒸着による乾燥剤40が存在するラインには補助電極30が存在していない。一方、共蒸着による乾燥剤40が存在しないラインには補助電極30が存在している。
【0074】
共蒸着による乾燥剤40は、水分を吸収する。したがって、共蒸着による乾燥剤40に接してAlのような金属が存在すると、この金属が共蒸着による乾燥剤40に吸着した水分によって腐食する恐れが生ずる。本実施例ではこの現象を防止するために、共蒸着による乾燥剤40と補助電極30を別のラインに設置して互いに接触しないようにしている。
【0075】
本実施例における共蒸着による乾燥剤40の成分、膜厚、形成方法等は実施例1で説明したのと同様である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】有機EL表示装置の表示領域の平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】有機EL表示装置の断面模式図である。
【図4】実施例1の断面模式図である。
【図5】実施例2の断面模式図である。
【図6】実施例3の断面模式図である。
【図7】実施例4の断面模式図である。
【図8】実施例5の有機EL表示装置の表示領域の平面図である。
【図9】図8のA−A断面図である。
【図10】実施例6の有機EL表示装置の表示領域の平面図である。
【符号の説明】
【0077】
10…素子基板、 11…第1下地膜、 12…第2下地膜、 13…半導体層、 14…ゲート絶縁膜、 15…ゲート電極、 16…層間絶縁膜、 17…SD電極、 18…無機パッシベーション膜、 19…有機パッシベーション膜、 20…バンク、 21…下部電極、 22…有機EL層、 23…上部電極、 24…反射電極、 30…補助電極、 40…共蒸着による乾燥剤、 50…封止基板、 51…封止剤、 101…赤画素、 102…緑画素、 103…青画素、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部電極と下部電極によって挟持された有機EL層を有する画素がマトリクス状に形成された表示領域を有する素子基板が、封止基板によって封止され、画像は前記封止基板側に形成されるトップエミッション型有機EL表示装置であって、
前記有機EL層は電子輸送層と発光層とホール輸送層を含み、前記電子輸送層は、有機材料とアルカリ金属またはアルカリ土類金属の共蒸着で形成され、
前記電子輸送層を形成する材料と同じ材料で、かつ、前記アルカリ金属または前記アルカリ土類金属の組成比前記電子輸送層よりも大きい共蒸着層からなる乾燥剤が前記発光層とは重複せずに設置されていることを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項2】
前記共蒸着層からなる乾燥剤の前記アルカリ金属あるいは前記アルカリ土類金属の組成比は、前記電子輸送層の前記アルカリ金属あるいは前記アルカリ土類金属の組成比よりも50%以上大きいことを特徴とする請求項1に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項3】
上部電極と下部電極によって挟持された有機EL層を有する画素がマトリクス状に形成された表示領域を有する素子基板が、封止基板によって封止され、画像は前記封止基板側に形成されるトップエミッション型有機EL表示装置であって、
前記有機EL層は電子輸送層と発光層とホール輸送層を含み、前記電子輸送層は、有機材料とセシウムの共蒸着で形成され、
前記電子輸送層を形成する材料と同じ材料で、かつ、前記セシウムの組成比が前記電子輸送層よりも大きい共蒸着層からなる乾燥剤が前記発光層とは重複せずに設置されていることを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項4】
前記共蒸着層からなる乾燥剤の前記セシウムの組成比は、前記電子輸送層の前記セシウムの組成比よりも50%以上大きいことを特徴とする請求項3に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項5】
前記共蒸着層からなる乾燥剤の前記セシウムの組成比は、前記電子輸送層の前記セシウムの組成比よりも100%以上大きいことを特徴とする請求項3に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項6】
前記共蒸着層からなる乾燥剤の前記セシウムの組成量は、0.225g/cm以上であることを特徴とする請求項3に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項7】
上部電極と下部電極によって挟持された有機EL層を有する画素がマトリクス状に形成された表示領域を有する素子基板が、封止基板によって封止され、画像は前記封止基板側に形成されるトップエミッション型有機EL表示装置であって、
前記下部電極は有機パッシベーション膜の上に形成され、前記有機EL層はバンクによって区画された内部に形成され、前記上部電極は前記バンクの上にも延在し、
前記有機EL層は電子輸送層と発光層とホール輸送層を含み、前記電子輸送層は、有機材料とセシウムの共蒸着蒸着で形成され、
前記電子輸送層を形成する材料と同じ材料で、かつ、前記セシウムの組成比が前記電子輸送層よりも大きい共蒸着層からなる乾燥剤が、前記発光層とは重複せずに設置されていることを特徴とするトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項8】
前記共蒸着層からなる乾燥剤は前記有機パッシベーション膜上に形成されていることを特徴とする請求項7に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項9】
前記共蒸着層からなる乾燥剤は前記上部電極上に形成されていることを特徴とする請求項7に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項10】
前記バンクは有機膜で形成されており、前記共蒸着層からなる乾燥剤は前記バンクの上と前記上部電極の上とに形成されていることを特徴とする請求項7に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項11】
前記バンクは無機膜で形成されており、前記共蒸着層からなる乾燥剤は前記バンクの上と前記上部電極の上とに形成されていることを特徴とする請求項7に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項12】
前記バンク上には金属で形成された補助電極が延在し、前記補助電極上には前記共蒸着層からなる乾燥剤が延在していることを特徴とする請求項7に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。
【請求項13】
第1の前記バンク上には金属で形成された補助電極が延在し、第2の前記バンク上には前記共蒸着層からなる乾燥剤が延在し、前記補助電極と前記共蒸着層からなる乾燥剤とは接触しないことを特徴とする請求項7に記載のトップエミッション型有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−110872(P2009−110872A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283708(P2007−283708)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】