説明

表面処理フィルムおよび/または積層品

保護用の樹脂フィルムおよび/または積層品のための表面処理が開示される。適切には、表面処理は、樹脂フィルムまたは積層品の主要な表面を硬化性の被覆配合物で被覆する工程を含み、その中で、1つ以上の被覆成分が少なくとも部分的に樹脂フィルムまたは樹脂積層品の中に拡散または移動する。被覆成分の移動により、樹脂フィルムから被覆層に緩やかな遷移層が形成され、優れた特性をもたらす。表面処理された樹脂フィルムは、感圧型接着剤(PSA)で被覆した剥離ライナーに貼り合わせられ、上記の積層品を形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、概して保護フィルムおよび/または積層品の技術分野に関する。特に、自動車の車体や家庭用電化製品等の、接着シートを貼り付ける様々な保護表面に有用な接着シートに関連している。そのため、本明細書では特にそういった接着シートに関して言及する。しかし当然のことながら、本発明の主題の態様はその他の類似した用途に同様に適用することも可能である。
【背景技術】
【0002】
様々なタイプの保護フィルムおよび/または積層品が一般に知られている。例えば、フーシュ(Fuchs)による下記特許文献1(米国特許第6,383,644号)は、そのような複層シートの1つを開示している。また、マックガイア(McGuire)による下記特許文献2(米国特許出願公開第2008/0286576A1)も複層保護シートを開示している。前述の参照文献の両者は、参照することによりその全体が本明細書に援用される。
【0003】
保護フィルムおよび/または積層品を開発する先の試みにもかかわらず、優れた耐薬品性、優れた耐傷性および耐衝撃性、粘着防止性および防湿性、優れた耐汚染性、落書き防止および防汚性、優れた耐候性、低度の経年的黄変、透視用途のための優れた光学的透明度、非平面表面にぴったり密着する高い柔軟性等の、1つ以上の評価基準に従って適切に機能する保護フィルムおよび/または積層品に対する要望は依然としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,383,644号
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0286576A1
【特許文献3】米国特許第7,235,619号
【特許文献4】米国特許第7,053,167号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、上記の問題等に対処する新規および/または改良型の保護フィルムおよび/または積層品を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの実施形態によれば、表面処理保護フィルムまたは積層品が提供される。
別の実施形態によれば、保護フィルムまたは積層品を表面処理する方法が提供される。
【0007】
ここで開示する本発明の主題の多数の優位点および利点は、本明細書を読んで理解すれば当業者にとって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本明細書で開示する本発明の主題は、様々な構成要素および構成要素の様々な配置で、並びに様々な段階および段階の様々な配列で具体化することができる。図面は好適な実施形態を例示する目的のためのものに過ぎず、本発明を制限するものとして解釈すべきではない。さらに当然のことながら、これらの図面は縮尺するためのものではない。
【0009】
【図1】本発明の主題の様態に係る表面処理フィルムおよび/または積層品の例示的構成を示す概略図を示す。
【0010】
【図2】本発明の主題に従って作成した例示的処理溶液で処理された幾つかの試験済みサンプルフィルムと比較例のそれぞれに対する60°光沢度測定値を示すグラフである。
【0011】
【図3】使用済みモーター油浸漬試験後の、本発明の主題に従って作成した例示的処理溶液で処理された幾つかの試験済みサンプルフィルムと比較例のそれぞれに対する実測b値を示すグラフである。
【0012】
【図4】使用済みモーター油浸漬試験後の、本発明の主題に従って作成した例示的処理溶液で処理された幾つかの試験済みサンプルフィルムと比較例のそれぞれに対する実測b値を示すグラフである。
【0013】
【図5】本発明の主題に従って作成した例示的処理溶液で処理された幾つかの試験済みサンプルフィルムと比較例のそれぞれに対する、伸び率100%における引張応力測定値を示すグラフである。
【0014】
【図6】ウェザロメーター曝露試験後の、本発明の主題に従って作成した例示的処理溶液で処理された幾つかの試験済みサンプルフィルムと比較例のそれぞれに対する、Δb値およびΔE値の実測値を示すグラフである。
【0015】
【図7】様々な樹脂フィルムの鉛筆硬度および伸縮性を、硬質被膜の有無で示すグラフである。
【0016】
【図8】使用済みモーター油浸漬試験後の、本発明の主題に従って作成した例示的処理溶液で処理された幾つかの試験済みサンプルフィルムと比較例のそれぞれに対する実測b値を示すグラフである。
【0017】
【図9】本発明の主題に従って作成した例示的処理溶液で処理された幾つかの試験済みサンプルフィルムと比較例のそれぞれに対する、伸び率100%のおける引張応力測定値を示すグラフである。
【0018】
【図10】本発明の主題に従って作成した例示的処理溶液で処理された比較サンプルフィルムを示す顕微鏡写真である。
【0019】
【図11】本発明の主題に従って作成した例示的処理溶液で処理された例示的サンプルフィルムを示す顕微鏡写真である。
【0020】
【図12】本発明の主題に従って作成した例示的処理溶液に関連するスペクトル分析のピークの相対強度を、処理対象の例示的フィルムにおける深さの関数で示したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
明瞭および簡潔のために、本明細書は、本技術分野で周知の構成要素および/または機能要素、関連する標準および/またはプロトコル、およびその他の構成部品を参照するものとし、その構成または動作について、それらが本明細書で示す好適な実施形態に従っておよび/または対応して修正されまたは変更された場合を除き、さらなる詳細説明は行わない。
【0022】
概して、本明細書は、柔軟性および/または伸張性といった本来の樹脂基板特性の十分な部分を保ちながら、保護フィルムまたは積層品の特性を高めるために適切な材料で処理された樹脂基板の少なくとも1つの主要な表面を有する、新たな保護フィルムまたは積層品を開示する。特に、ここで提案する表面処理は、表面処理の間に塗布される材料のかなりの部分が処理される下層のフィルムまたは積層品の上面の上に最終的に広がったままにならずあるいはその上にまたはそこから盛り上がって留まらない点で、別の従来の上塗りよりも際立って優れている。すなわち、下層のフィルムまたは積層品の上に明確に画定された境界を持つ大きく異なる層の代わりに、表面処理の間に塗布される被膜材料が、下層のフィルム/積層品の母材にかなり浸透し、および/または下層のフィルム/積層品の粗面の上の谷間またはくぼみを充填する。表面処理で用いられる被膜材料は、一般に溶剤系の被覆溶液または分散剤を含む。被覆溶液は、被覆成分が有機溶剤または水のいずれかに完全に溶ける、あるいはそのサイズが光の可視波長よりも小さく光を散乱させない透明な液体を指している。ナノサイズの粒子が、一般にこの後者のカテゴリに該当する。被覆分散剤は、被覆成分が有機溶剤または水のどちらにも完全には溶けない、あるいはそのサイズが光の可視波長よりも大きく光を散乱するかのいずれかの理由で、曇って見える透明な液体を指している。
【0023】
実際には、溶剤は、下層のフィルムまたは基板の母材を膨張させるように作用し、フィルムまたは基板への1つ以上の被覆成分の浸透を促進する。このように適切には、選ばれたフィルムまたは基板材料と融和性がある溶剤が選ばれ、そして被覆材料が、例えば、物理的大きさおよび/またはその他の適切な特性に基づき、フィルム材料および選んだ溶剤の観点から所望の浸透を達成するように、同様に選ばれる。好適には、溶剤に加えて、表面処理で用いられる被覆材料は、放射線硬化性(遊離基およびカチオンを含む電子ビーム、ガンマ線照射、または紫外線)または熱硬化性モノマーおよびオリゴマー等のモノマーおよびオリゴマー、界面活性剤および脱泡剤等の添加剤、および、有機化合物の小粒子、無機化合物、あるいは有機無機ハイブリッド化合物の中から、1つ以上の硬化性成分を含む。これらの材料は、サイズが小さく、樹脂フィルムまたは積層品の母材に容易に浸透する。好適には、モノマーまたはオリゴマーまたは粒子のサイズは10μmよりも小さく、さらに好適には5μmより小さく、より以上に好適には1μmよりも小さい。
【0024】
1つの特に適切な実施形態では、表面処理で用いる被膜材料はPOSS(多面体オリゴマーシルセスキオキサン)またはその他のナノ構造有機無機ハイブリッド材料を含む。例えば、適切なシルセスキオキサン誘導体は、森本らによる上記特許文献3(2007年6月26日発行の米国特許第7,235,619号)、および伊藤らによる上記特許文献4(2006年5月30日発行の米国特許第7,053,167号)にて開示されており、この両者は、参照することによりその全体が本明細書に援用される。様々な機能を持つPOSS材料はハイブリッドプラスチックス社(Hybrid Plastics Inc.)(ミシシッピ州ハッティズバーグ(Hattiesburg))から入手可能である。
【0025】
1つの実施形態では、本明細書で提案する表面処理剤は、溶剤型UV(紫外線)硬化性溶液の形態で下層の基板またはフィルムに塗布されるPOSS材料を含む。より具体的には、第1の処理材料によれば、この溶液は、固形分含有量が40%のMIBK(メチルイソブチルケトン)溶液に溶解したシルセスキオキサン化合物を含有する。例えば、1つのそのような適切な溶液がチッソ株式会社(日本、大阪市)によって製造されており、商標名サイラマックス(Sila−Max(登録商標))で販売されている。そのような溶液で処理された表面は、低表面エネルギーを示し(例えば、約21.8mN/cm)、粘着防止性および防湿性、落書き防止性および防汚性、また、優れた耐傷性および衝撃性にも寄与する低い摩擦係数といった更なる特性を有しながら、優れた耐薬品性を備える。第1の例の処理材料は、例えばヘイズが約1%より小さい、優れた光学的透明度を有しており、このことは透視特性を求める用途に有利である。例えば、ポリエステルやポリカーボネート等の低い多孔率を持つフィルムに塗布されたとき、第1の例の処理材料は高い表面硬度(例えば、3Hほどの鉛筆硬度)を有し、これにより高い耐衝撃性が得られ、例えば自動車の車体や家庭用電化製品等の製品の表面保護によく適している。
【0026】
適切な伸張性のある重合体フィルムが、(例えば第1の例の処理材料を使用して)グラビア塗布法、吹き付け塗装、フレキソ印刷法、スロットダイ塗布法、ロール塗布法等の適切な方法により、本明細書に記載するように表面処理されると、フィルムまたは積層品は、処理材料によるフィルム表面の平滑化により、光学的透明度が改善され、際立った伸張性をおおむね保つ。さらに、例えば使用済みモーター油に対する、および自動車の車体洗浄のために用いられる薬剤に対する耐性等の、耐薬品性における劇的な改善が認められる。これらの特性により、処理フィルムおよび/または積層品は、そのフィルムまたは積層品が湾曲面および/または複雑な形状を持つ物体(すなわち、非平面表面)に適用される用途に対して、非常に役に立つ。例えば、表面処理されたフィルムまたは積層品が自動車の車体表面に適用される保護シート(例えば、擦り傷および汚れに対してその車体表面上の塗装または上塗りを保護するため)として用いられる場合、フィルムまたは積層品が自動車の車体の外形面にぴったり密着すると、より満足のいく見栄えおよび/またはその他の利点がおおむね達成される。もちろん、別の実施形態では、その他の被覆材料は、例えば本明細書に記載するように、表面処理のために任意に用いてもよい。
【0027】
本明細書に記載の表面処理は、例えば、剛体基板および柔軟性のあるまたは伸張性のある基板の両方を含む、あらゆる適切な基板に適用可能であってもよい。基板は例えば、樹脂、ガラス、金属、セラミックス、木材、複合材料等からなる基板を含むが、これらに限定されるものではない。しかしやはり、複雑な形状、湾曲面に適用する保護シートとしての用途など、形状適合性が高いと一般的に有益である用途(例えば、自動車の車体表面の保護シート等)に対して、柔軟性のある樹脂フィルム基板は有利である。そのような樹脂フィルムは、例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリシリコーン、その他を含むが、これらに限定されるものではない。1つの実施形態では、厚さ約150〜200μmのポリウレタン(PU)フィルムが、特にそのような用途に適している。例えば、ディアフィールドウレタン社(Deerfield Urethane,Inc.)(マサチューセッツ州ウェイトリー(Whately))により製造され商標名デュアフレックス(Dureflex(登録商標))として販売されているポリウレタンフィルム(ここでは、第1のサンプルまたは例示的フィルム材料と呼ぶ)、およびアルゴテック社(Argotech,Inc.)(マサチューセッツ州グリーンフィールド)により製造され商標名アルゴセイン(ARGOTHANE(登録商標))として販売されているポリウレタンフィルム(ここでは、第2のサンプルまたは例示的フィルム材料と呼ぶ)が許容できることが分かっている。特に、ポリウレタンフィルムの伸縮特性は、最終的なフィルムまたは積層品の耐衝撃性に役立つ付加的な緩衝性を与える。
【0028】
図1は本発明の主題による適切な構造を示す。図示した実施形態では、樹脂フィルム10が、感圧型接着剤(pressure sensitive adhesive:PSA)14を塗布した剥離ライナー12に貼り合わされる。図に示すように、参照数字16は、本明細書に開示するように被覆材料を持つ樹脂フィルム10の表面処理によって生成された表面を示している。適切には、上記のように、フィルム10はPUフィルムであってもよい。図1に見られるように、適切には、フィルム10の表面処理により、フィルム10に対して明確に区別できる層ではない表面16が形成される。言い換えると、表面16とフィルム10との間には、その2つを別の異なる層に分ける厳密に画定された境界はない。むしろ、表面16は、材料成分が1つの材料から次の材料に徐々に変化するように、フィルム10の化学処理によって形成されている。
【0029】
被覆材料の徐々に変化する特性は、フィルムの柔軟性/伸張性を保持することに大きく寄与する。一般に、2つのメカニズムを用いてこの緩やかな変化を説明することができる。第1に、ポリウレタンフィルムとの融和性に優れた被覆溶剤が選ばれる。そのため溶剤が、ポリウレタンフィルムを膨張させて、表面処理剤からポリウレタンフィルムの母材の中に固形の被覆材料を運ぶ。PUフィルム母材内に処理剤からの被覆固形分を含めることにより、表面近くの部分の密度が増加する。第2に、PUフィルムの最も外側の表面は、あらゆる樹脂材料同様、一般的にナノメータースケールでは粗い。被覆材料で処理すると、谷間の領域は被覆材料で満たされるため、また有利なことに表面がより滑らかになる。いずれにしてもこの2つの効果により、少なくとも部分的には、拡大すると見えるように、下層の基板材料の上面の上にまたはそこから盛り上がって留まる処理での被覆材料の厚さおよび/または量は、処理材料を塗布するために用いる被覆厚さの観点からすると比較的少なく、実際にいくつかの実施形態では、感知できない場合さえある。
【0030】
被覆成分の樹脂フィルム内に拡散するまたは移動する能力は、被覆成分の物理的サイズ、樹脂フィルムとの融和性、その他といった多くの要因に依存する。より小さいサイズのおよび/または樹脂フィルムとの優れた親和性を有する被覆成分は、より大きなサイズのおよび/または親和性が劣る成分よりも速く拡散する。典型的な被覆配合物は、サイズおよび/または樹脂フィルムとの親和性/融和性が異なるいくつかの成分を含有するため、樹脂フィルム内に拡散/移動した被覆材料の成分は、実質的に最初の配合物の成分とは異なる場合がある。その場合には結果的に、樹脂フィルム上に留まる被覆層のための成分が新しくなり、最初の被覆配合物の成分とも異なったものになる。
【0031】
適切には、1つの実施形態での表面処理は、乾燥被覆厚さが約0.1〜25μmの範囲である表面処理材料を塗布する工程を含む。別の実施形態では、表面処理は、乾燥被覆厚さが約1〜15μmの範囲である表面処理材料を塗布する工程を含む。さらに別の例では、表面処理は、乾燥被覆厚さが約4〜10μmの範囲である表面処理材料を塗布する工程を含む。いずれの場合も、基板材料の上面と異なるおよび/またはその上に伸びまたはその上から盛り上がって留まる被覆材量の最終的な厚さは、塗布する被覆の量よりも実質的に少ない。
【0032】
再び、上記の2つの効果により、少なくとも部分的に、下層の基板の上面に留まる表面処理材料の厚さが比較的薄くなる。そのため、処理材料(例えば、サイラマックス(Sila−Max(登録商標))等)がその相対的に高い表面硬度により剛体表面への塗布用として広く一般的に知られているとは言え、緩やかに変化する特性と共にこの比較的薄い厚さにより、処理フィルムまたは積層品の柔軟性および/または伸張性の大部分は保持される。例えば、1つの実施形態では、本明細書で開示する処理フィルムまたは積層品は、少なくとも20%の伸び率で、機能不良(例えば、割れ、破断、曇り等)になることなく持ちこたえる。さらに別の実施形態では、ここで開示する処理フィルムまたは積層品は、少なくとも50%の伸び率で、機能不良になることなく持ちこたえる。また、さらに別の実施形態では、ここで開示する処理フィルムまたは積層品は、少なくとも80%の伸び率で、機能不良になることなく持ちこたえる。しかし、表面処理に用いる材料の被覆厚さ、硬化剤の量および/またはタイプ、下層のベースフィルムの成分、およびその他の要因に応じて、約150%までの伸張、または300%までの伸張ですら、処理積層品/フィルムが機能不良になることなく達成できるかもしれない。一般的に、被覆厚さが薄くなる、および/または樹脂フィルムへのより浸透性が高くなると、伸張率が高くなる。この点において用いられるように、機能不良は、例えば、割れ、曇り、白化で示されるように、透明性が失われ始めること、および/またはヘイズの増加を指す。
【0033】
また上記の2つの効果は、例えば、第1の例示的処理溶液で処理された厚さ150μmのデュレフレックス(Dureflex(登録商標))PUフィルムに対するヘイズ%の減少(表1を参照)および光沢度の増加(図2を参照)により示されるように、最終的な構成の表面反射率および光沢度レベルを改善する傾向にある。ヘイズ%の測定は、PET支持体を剥がした後のPUフィルムに対して行われる。光沢度の計測については、PET支持体上に残っているPUフィルムで行われる。
【0034】
【表1】

【0035】
図2は入射角度60°で照明を照射したときの光沢度測定値を示す。記載されたサンプルは、図示されたそれぞれの被覆厚さで塗布された第1の例示的処理溶液で処理された厚さ150μmの第1のサンプルフィルムを表している。記載された対照サンプルは非処理である。
【0036】
また処理材料の緩やかな変化は、表面を「硬化する」作用があり、これによって結果的に、柔軟性のあるフィルムで頻繁に観察される「柚肌」現象の出現をなくすことができる。
【0037】
さらに、本明細書に示す1つ以上の実施形態に従って処理されたフィルムおよび/または積層品サンプル表面の耐汚染性を評価するために、様々なテストが行われた。これらのテストは、例えば、モーター油、HCL、屋根ふき用のタール、カーペット試験用の着色剤の混合物等の、様々な汚染および/または汚損の材料および/または条件にサンプルをさらす工程を含む。
【0038】
1つの例示的実験では、剥離ライナー上の(PSA)に貼り合わされる厚さ150μmの第1のサンプルフィルムを、ここで開示されている5μmおよび15μm(湿潤厚さ)の被覆厚さの第1の例示的処理材料、例えばサイラマックス(Sila−Max(登録商標))被覆材料で表面処理した。そして表面処理されたサンプルを、加熱炉内で約80℃にて約3〜5分間乾燥して、さらに水銀ランプを用いて206mJ/cmの照射エネルギーでUV照射することにより、100フィート/min(約30.48m/min)の速度で硬化させた。硬化した後、剥離ライナーを取り除き、表面処理したPUフィルムをPSA 層を介してアルミニウム(Al)板に貼り付けた。運転環境の舗装道路から飛んで来るモーター油および埃への曝露を模擬するために、作成したサンプルを支えるAl板を、比較用の現在入手可能な市販製品と共に、使用済みモーター油(ペンゾイル(Pennzoil(登録商標))10W30))に48時間浸した。48時間の試験期間の後、使用済みモーター油からサンプルを取り出し、洗剤と水で完全に汚れを落とした。表面処理したフィルムサンプルを検査し、現在市販の商品と比較して、使用済みモーター油試験の結果として色の変化(黄変)がないかを評価した。図3は、サンプルを上記の使用済みモーター油試験にかけた後の、Labカラースケール上のサンプルの実測b値を示す。記載されているサンプルは、図示されたそれぞれの被覆厚さで塗布された第1の例示的処理溶液で処理された厚さ150μmのPUフィルムを表す。記載されている対照サンプルは非処理のものである。また、比較のため、製品1、製品2、および製品3の名前が付けられた市販で入手できる製品も記載されている。顕著な色変化(すなわち、黄変および/または汚れ)が市販製品および非処理のPUフィルムで観察されたが、第1の例示的処理溶液で処理されたPUフィルムには色変化がほとんどないことが観察された。
【0039】
別の実験では、第1および第2の例示的フィルムの厚さ150μmのサンプルを、15μmから5μmの湿潤被覆厚さにて、第1の処理溶液で処理した。次にサンプルを、約80℃で約3〜5分間乾燥し、さらに水銀ランプを用いて206mJ/cmの照射エネルギーでUVにより速度100フィート/min(約30.48m/min)で硬化させた。処理されたサンプルを、再び、同じ方法に従って使用済みのモーター油で試験した。対照および処理済のPUサンプルのb値を図4に示す。第1および第2の例示的フィルムの対照サンプルは比較用のb値を有しており、この値は第1の例示的処理溶液による処理の後に著しく減少した。処理されたサンプルは、たとえ湿潤被覆厚さが5μmであっても、試験された市販の商品よりもはるかに優れた性能を示した。b値は、被覆厚さを5μmから10μmに増すことによりわずかに減少しており、このとき15μmのサンプルとほぼ同じb値となっている。
【0040】
図4は、サンプルを上記の使用済みモーター油試験にかけた後の、Labカラースケール上のサンプルの実測b値を示す。記載されているサンプルは、図示されたそれぞれの被覆厚さで塗布された第1の例示的処理溶液で処理された、図示された例示的フィルム1および2に対応する厚さ150μmのフィルムを表す。記載されている対照サンプルは非処理のものである。
【0041】
下面の上に厚さ50μmのPSA層を有する厚さ150μmの第1の例示的フィルムの柔軟性を、湿潤被覆厚さが15μmにて第1の例示的処理溶液で処理した。処理の後、その形状適合性を評価するために、伸び率100%における引張応力を測定した。比較のため、市販の製品の引張り特性も測定し、図5に記入した。市販の製品の結果には、製品1、製品2、および製品3と名前を付けられており、また非処理の厚さ150μmの第1の例示的フィルム(すなわち、対照)も示してある。
【0042】
高い柔軟性および薄い被覆厚さにより、本発明の主題の様態による表面処理されたフィルムサンプルは、伸び率100%において、(i)市販で入手可能な比較サンプルである製品1と同等の、(ii)市販で入手可能な比較サンプルである製品2よりわずかに低い、(iii)市販で入手可能な比較サンプルである製品3よりわずかに高い、応力を示している。
【0043】
また、下面の上にPSA層を有する表面処理した第1の例示的フィルムの耐衝撃性を、適切な試験方法、つまり、元は米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials:ASTM)として知られている、ASTMインターナショナルによって規定された改訂版のASTM規格D968−93を用いて評価した。さらに具体的には、以下のようにサンプルを作成してテストした。最初に、積層品の剥離ライナーを取り除き、表面処理したPUフィルムをPSA層を介してAl板に貼り付けた。運転環境で飛んでくる石および破片への曝露を模擬するため、Al板を重たい金属保持具にしっかりと固定した。粒子径が3/8〜1/2インチ(約9.5〜12.7mm)の砂の混合物5ポンド(約2.268kg)を衝撃材として使用した。この砂の混合物を、長さ3m、直径0.5インチ(約1.27cm)のステンレス鋼管から流し込んだ。砂の粒子は速度を増して、鋼管から出ると、鋼管の下端から3インチ(約7.62cm)の位置に45°の角度で配置したAl板を支えるサンプルに衝突した。砂の混合物が鋼管から流れ出た後、Al板を重たい金属保持具から取り外した。緩く付いている埃および/またはその他の粒子を吹き飛ばした後、サンプルの衝撃を受けた領域を検査し、同じ試験を受けた現在入手可能な市販の製品と比較した。その結果は、表面処理されたサンプルの耐衝撃性は市販で入手可能な製品と同等であることを示している。
【0044】
さらに、従来のグラベロメーター(gravelometer)試験を、本明細書で開示されている1つ以上の実施形態に従って表面処理されたフィルムおよび/または積層品のサンプルに対して行った。サンプルは、業界で認められている標準に従って実施したこの試験に合格した。
【0045】
さらに、日光への照射を模擬するために、UVキセノンウェザロメーター試験を、湿潤皮膜厚さ15μmにて第1の例示的処理溶液で処理された第1の例示的フィルムの厚さ150μmのサンプルに対して行った。また市販の製品(すなわち、製品1、製品2、および製品3)を、第1の例示的フィルムの非処理のサンプル(すなわち、対照)と共にテストした。テストを行う前後で、b*値の変化(Δb*)および総合色の変化(ΔE)を測定した。図6に示すように、2000時間後において、全てのサンプルでほとんど変化が観察されなかった。実際、1.0未満の色の変化はいずれも、人間の目ではほとんど全く認知できない。
【0046】
第1の例示的処理溶液(すなわち、サイラマックス(Sila−Max(登録商標))被覆)は、メーカーからの技術データによると3Hの鉛筆硬度を有している。一方、第1および第2の例示的PUフィルムは約3Bの鉛筆硬度を有しており、これは上記の被覆よりも数等級低い。さらに、PUフィルムが第1の例示的被覆溶液で処理されても、処理されたPUフィルムは実質的にその柔軟性を保ち、伸縮自在のままである。このように相反する特性は、大部分が予期しない、および/または先行技術では見られないものである。図7では、硬質被膜の有無で、様々な樹脂フィルムの硬度および伸張性が比較されている。ここでの用語「伸張性」は、樹脂フィルムが室温にて機能不良になることなく手で引き延ばすことができることを意味する。PU、ポリ塩化ビニル、ゴム、およびポリオレフィン等の市販で入手可能な伸縮性樹脂フィルムは、全て非常に柔らかい表面を持っている。アクリルやポリカーボネート等のより硬い表面を持つ樹脂フィルムは、伸縮性がない。本発明の主題の態様による処理されたPUフィルムは、非常に硬い表面と非常に柔らかい樹脂コアを効果的に併せ持っており、これは柔らかいPUから非常に硬い被覆への緩やかな変化の結果である。また、被覆材料の樹脂フィルムまたは積層品への浸透により、強い接着力等のその他の望ましい利点も得られる。接着力は、伸びの有無にかかわらず、被覆フィルムが曲げられる、または平らでない面に密着させられるときに、特に重要である。
【0047】
さらに別の実施形態では、PUフィルムの表面を、熱硬化性のある処理溶液で処理した。これらの溶液のそれぞれが、2つの部分、すなわちMEK(メチルエチルケトン)およびIPA(イソプロピルアルコール)の助溶剤の中に10%の固形分を有する樹脂溶液、および対応する硬化剤を含有した。第1の熱硬化処理溶液用の樹脂溶液は粘度が0.90mPa・sであり、第2の熱硬化処理溶液用の樹脂溶液は粘度が0.93mPa・sであった。どちらの硬化剤も白い固体粉末であった。熱硬化被覆溶液を、重量比で0.5の硬化剤を100の樹脂溶液に混ぜ合わせることにより作成した。被覆が厚くなるとヘイズ%が高くなるので、高い光学的透明度を持つ被覆を得るためには、乾燥被覆厚さが1μm未満であることが推奨される。
【0048】
第1および第2の例示的フィルムの厚さ150μmのサンプルを、上記の2つの熱硬化処理溶液で、湿潤被覆厚さ10μmにて、処理した。次にサンプルを、まず約60℃で約3〜5分間乾燥させて溶剤を除去し、続いて約120℃で約1分間熱硬化させた。表面処理されたフィルムを、非処理の対照サンプルと共に、使用済みモーター油に対する耐性、および形状適合性について評価した。その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示すように、伸び率100%における引張り強度は、いずれの熱硬化処理溶液で処理しても有意に減少しており、すなわち形状適合性が改善されている。光学的透明度について、伸び率100%の後でも、顕著な変化はなかった。耐汚染性が、使用済みモーター油試験での成績で立証されたように、どちらの例示的フィルムにおいても、両方の熱硬化処理溶液で処理後有意に改善されているが、第1の例示的フィルムよりも第2の例示的フィルムにおいてより顕著である。
【0051】
また、第1の例示的処理溶液で処理したPUフィルムは、表3に示すように、処理材料の低表面エネルギーにより、表面エネルギーの有意な減少を示した。実際、第1の例示的処理溶液の特性の1つとして、処理された表面が、表面下よりも最も外側の表面により多くのナノ粒子を持ち、ナノ粒子に関して厚さ方向の濃度勾配があることを示している。被覆工程の間にナノ粒子が、硬化する前に最上面に移動し、硬化した際には位置が固定されることが、理論化される。低表面エネルギーの成分が表面に移動することは、表面エネルギーを最小化する傾向がある自然力に関連している。本明細書で説明される表面処理によって生成されるPUフィルムの低表面エネルギーは、優れた放出面をもたらす。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示す表面エネルギーを、接触角を測定することにより得た。その測定は、NRL接触角ゴニオメーター上で脱イオン(de−ionized:D.I.)水およびリン酸トリクレジル(TCP)試験液を用いて行った。表面エネルギー値は、幾何平均モデルを用いて計算した。対照のPUフィルムは、40.1mN/cmの全表面エネルギーを有し、その極性成分は34.6mN/cmまた非極性成分は5.5mN/cmである。この全表面エネルギーは、第1の例示的処理溶液で処理した後で有意に減少し、また非極性成分よりも極性成分で有意に減少した。
【0054】
低表面エネルギー特性により、処理フィルムは、表面処理により生成された表面、樹脂基板、およびPSA層からなる自己巻き取り型の、テープ状の積層品となる。このようにして、剥離ライナーまたは裏張りシートは、例えば図1に示す構成から除かれる。したがって、これにより、コストを削減し、剥離ライナーまたはその他の裏張りシートを廃止することができる。
【0055】
別の実施形態では、表面処理剤は、第1の例示的処理溶液および脂肪族ウレタンアクリレートの混合物を含む。1つの例では、処理溶液を、第1の例示的処理溶液と脂肪族ウレタンジアクリレートを異なる重量比[w/w]で混合することにより作成した。第1の例示的処理溶液をウレタンアクリレートと混合することにより、表面処理溶液(同量の被覆材料を有す)のコストを有意に削減し、および/または固形分含有量を増やすことができる(すなわち、第1の例示的処理溶液は固形分含有量が40%であり、一方アクリレートは固形分含有量100%である)。固形分含有量が高いと、より厚いフィルムを被覆するために有利である。
【0056】
例えば、適切なウレタンジアクリレートは、サートマー社(Sartomer Company,Inc.)(ペンシルベニア州エクストン)から入手でき、製品名CN2285として販売されている。新たなまたは追加の光開始剤がなくても、第1の例示的処理溶液と上記のウレタンジアクリレートの混合物を、その配合物内の約75wt%までのウレタンジアクリレートを用いて同じ速度で(すなわち、水銀ランプを用いて206mJ/cmの照射エネルギーで、100フィート/min(約30.48m/min)で)UV硬化させることが可能である。適切には、第1の例示的処理溶液に含有される光硬化剤は、その混合物を硬化するために十分である。さらなる光開始剤を、同じ硬化速度を維持するために、ウレタンジアクリレート含有量をさらに増加させた上で、加えてもよい。
【0057】
1つの例では、湿潤被覆重量つまり厚さが15μmの上記の被覆溶液(すなわち、第1の例示的処理溶液と脂肪族ウレタンジアクリレートの混合物)を用いて、第1の例示的フィルムの厚さ200μmのサンプルを表面処理した。次にサンプルは、約80℃で約3〜5分乾燥し、続いて水銀ランプを用いて約206mJ/cmの照射エネルギーで約100フィート/min(約30.48m/min)でUV硬化した。使用済みモーター油に対する耐性および伸び率100%における引張応力を評価し、図8および図9にそれぞれ示した。非処理のサンプル(すなわち、対照)も試験され、その結果も同様に報告されている。
【0058】
図8に示すように、成分配合が50%までの脂肪族ウレタンジアクリレート[w/w]で優れた耐汚染性が得られ、図3に示すどの市販製品よりも性能が優れている。しかしながら、アクリレート成分がさらに増えると、性能が悪化した。
【0059】
図9は、重量比が(脂肪族ウレタンジアクリレート):(第1の例示的処理溶液)=25:75の複合被覆で処理されたPUフィルムが非処理のフィルムと同等の引張応力を持つことを示している。しかし、この比率がさらに増えると引張応力が減少し、これにより形状適合性が改善される。
【0060】
さらに別の実施形態では、PUフィルムの表面を、異なるPOSS材料からなる別の処理溶液(すなわち、第2の例示的処理溶液)で処理した。この例では、被覆溶液は、ハイブリッドプラスチックス社(ミシシッピ州ハッティズバーグ)より、商品名ポス(POSS(登録商標))コート(Coat)MA2310で販売されているものを入手した。この被覆溶液は、POSSナノ粒子とアクリレートの混合物からなる。これは固形分が100%の照射硬化溶液である。再び、第1の例示的フィルムの厚さ200μmのサンプルを湿潤被覆厚さ15μmにて上記の溶液で表面処理し、さらにフュージョンランプを用いて206mJ/cmの照射エネルギーで100フィート/min(約30.48m/min)でUV硬化することにより、サンプルを作成した。第2の例示的処理溶液で処理したPUフィルムの使用済みモーター油に対する耐性は、b値で8.2を示し、これは被覆されていないPUフィルムよりも有意に優れている(例えば、図4を参照)。
【0061】
実際には、被覆または処理溶液の配合物は、無機粒子、有機無機ハイブリッド粒子、および/または重合体粒子を含有してもよい。例えば、適切な無機粒子は、炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカ、アルミナ、硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、他を含む。適切な有機無機粒子は、シルセスキオキサン化合物に由来する材料を含む。例えば、 膨大な種類の機能を持つ多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)材料の多くの有機無機ハイブリッド粒子が、市販で入手可能である。例えば、適切な有機粒子は、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、およびポリウレタン粒子を含む。これらの粒子は単独で、あるいは組み合わせて使用できる。
【0062】
1つの例では、光学的に透明な伸縮性フィルムを、表4に示すように、UV硬化性POSS含有材料(製品名アクリロ ポス(Acrylo POSS(登録商標))ケージ ミクスチャー(Cage Mixture)(MA0736)としてハイブリッドプラスチックス社(ミシシッピ州ハッティズバーグ)より入手可能)を脂肪族ウレタンアクリレート(製品名(CN2285)としてサートマー社より入手可能)と混合することにより調合する処理によって、取得した。処理溶液を、第2の例示的PUフィルムの厚さ200μmのサンプルに、湿潤厚さ10μmで塗布した。被覆されたPUフィルムを、80℃で5分間乾燥させ、水銀ランプを用いて200mJ/cm2の照射エネルギーでUV硬化させた。
【0063】
【表4】

【0064】
こうして被覆されたポリウレタンフィルムは、光学的透明度に目立った変化もなく、100%を超えて引き伸ばすことが可能である。この結果は、上記のポス(POSS(登録商標))コートCoat MA2310で処理したPUフィルムと比べると、被覆成分が処理されたPUフィルム内に浸透してその柔軟性を維持するために、有機溶剤の存在が重要であることを示している。被覆されたポリウレタンフィルムのb値は、2日間の使用済みモーター油への浸漬の後、1.77から5.23に変化した。
【0065】
別の例では、艶消し仕上げの伸縮性保護フィルムを、ポリアミド系ポリマー粒子からなる溶剤系の分散系で処理することにより、取得した。特に、この処理は、溶剤としてMEK、平均粒径が5μmの超微細ポリアミド粉末(オルガゾール(Orgasol(登録商標))2001 UD Nat2の名称でアルケマ社(Arkema,Inc.)より入手可能)、UV硬化性の脂肪族ウレタンアクリレート(すなわち、サートマー社より入手可能なCN2285),UV硬化性のPOSS材料(すなわち、ハイブリッドプラスチックス社から入手したアクリロ ポス(Acrylo POSS(登録商標)ケージ ミクスチュアー(Cage Mixture)(MA0736))、および光開始剤としてのベンゾフェノン(Benzophenone)(シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich)より入手可能)を含んだ。各成分の組成を表5に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
被覆分散剤を、2ミル(約50.8μm)のメリネックス(Melinex(登録商標))PET基板および200μmの第1の例示的PUフィルムに、湿潤厚さ15μmで塗布した。サンプルを、80℃で5分間乾燥させ、水銀ランプを用いて200mJ/cmの照射エネルギーでUV硬化させた。そして、被覆されたフィルムサンプルの60度光沢度および伸縮性を測定し、表6に示した。
【0068】
【表6】

【0069】
PUフィルムに塗布された被覆の60度光沢値は、PET基板に塗布された同じ被覆よりもかなり低く、また被覆されたPUフィルムは、深割れすることなく300%より高い伸縮性を維持する。PUフィルムに塗布された被覆におけるより低い光沢度値は、PUフィルム内への被覆成分の移動と関連するということが、理論化される。被覆がPUフィルムに塗布されると、ポス(POSS(登録商標))MA0736およびCN2285等の溶剤およびその他のより小さな微粒子は急速にPUフィルム内に拡散する。比較的大きいポリアミド粒子は取り残される。このため被覆層では、ポリアミド粒子の濃度が、最初の被覆組成における濃度よりも高くなる。一方、拡散がほとんどないまたは全くないPETフィルムに被覆が塗布されると、被覆層は最初の被覆組成と同じ濃度で均一に保たれる。異なる被覆成分が樹脂フィルムの中に不均一に差別化されて拡散することによって可能になるこの「濃縮」あるいは「濾過」効果は、耐摩耗性、低い光沢値、防眩性能、耐薬品性等の表面に関する被覆特性の最大化を可能にする。一方、被覆面上の望ましい粒子濃度は、被覆面上よりも低い粒子濃度を持つ被覆配合物を用いて得ることができる。結果として、被覆配合物内の粒子の量を減らすことができ、被覆配合物をより低い粘度で作ることができる。
【0070】
さらに別の例では、1−メトキシ−2−プロパノール溶液の中で10%のアクリルポリマー(アルケマ社よりプレキシグラス(Plexiglas(登録商標))V825の名称で入手可能)を用いて処理溶液を作成した。この溶液を、厚さ200μmの第2の例示的PUフィルムの上に湿潤厚さ15μmで塗布し、80℃で5分間乾燥させた。こうして得られた被覆されたPUフィルムは光学的に透明であった。しかし、引き伸ばした途端に、被覆されたPUフィルムは曇り、すぐに深割れする。アクリルポリマーの連鎖のサイズが大きいため、アクリル材料がPUフィルム内へ拡散することができず、その結果、引き伸ばした際に被覆が曇り深割れすると、理論化される。
【0071】
ここで図10および11を参照すると、顕微鏡写真は、表示しているように処理溶液の様々なフィルムへの浸透または移動を示す。どちらの場合も、同じ湿潤厚さの第1の例示的処理溶液を、第2の例示的PUフィルムおよび比較用のメリネックス(Melinex(登録商標))PETフィルムに塗布した。図10に示すように、かなり大きい異質の層(すなわち、約7μmの層)がPETフィルム表面上に、および/またはその上を覆って顕著に形成されている。しかし、図11に示すように、それよりかなり薄い層(すなわち、約0.5μmの層)がPUフィルム表面上に、および/またはその上を覆って同様に形成されている。このことから分かるように、これは後者の例におけるPUフィルムの表面の下へ相当量の処理剤が移動または浸透していることによるものである。ここでは被覆成分の90%超がPUフィルム内に拡散した。PUフィルムの表面上に、および/またはその上を覆って形成された層は、約2μm以下の厚みであってもよい。あるいは、PUフィルムの表面上に残る被覆の厚さは、約0.5μmと約3μmの間である。さらに別の実施形態では、PUフィルムの表面上に残る被覆は約0.5μmと約1.0μmの間である。
【0072】
さらに図12を参照して、FTIR画像解析を行い、図11に示した処理されたPUフィルム内への第1の例示的処理溶液の浸透、拡散、および/または移動を細かく観察した。サンプルを、約15〜20μm厚の薄片に切り分け、ピクセルサイズ1.56μmを有するARTイメージングシステム(Perkin Elmer Spotlight 400)により解析した。FTIR画像を、スペクトル分解能4cm−1および空間分解能約3μmで収集した。400×400μmの画像寸法では、各点に対し2走査が平均だったが、25×85μmの画像寸法では、より高品質のスペクトルを得るため各点に対し32走査が平均であった。サイラマックス(Sila−Max(登録商標))処理溶液からの未反応の二重結合に関連する810cm−1におけるIR吸収ピークを、サイラマックス(Sila−Max(登録商標))被覆材料を示す値として用いた。C−Hの面外曲げ変形に関連する779cm−1におけるIR吸収ピークを、PU材料を示すために用いた。
【0073】
図12に示すように、810cm−1〜779cm−1の相対ピーク強度は、深さの増加とともに徐々に低下するが、少なくとも25μmまでは見ることができる。つまり、これは、処理溶液がPUフィルム内に少なくとも25μmの深さまで浸透、拡散、または移動し、このため濃度がPUフィルムの中でPUフィルムの表面から深さ方向に向かって徐々に減少するということを示している。
【0074】
1つの例示的実施形態によれば、表面処理剤がフィルム内に25μmほど浸透、拡散、または移動することが適切である。さらに別の適切な実施形態では、表面処理剤がフィルム内に50μmほど浸透、拡散、または移動する。適切には、フィルム内への浸透深さに応じて徐々に減少する濃度勾配を持つように、処理溶液はフィルム内に移動または浸透する。
【0075】
再び図1を参照し、使用時には、剥離ライナー12が構成から取り除かれ、PSA層14を用いて処理フィルム10が所望の物体の表面に、フィルム10のその外側に面する処理された表面16と共に、接着される。例えば、フィルムがこの方法で、保護したい自動車の車体表面またはその他の同様な表面に、任意に適用される。重要なことには、伸縮性、柔軟性、および/または伸張性が維持されることから、フィルム10を複雑な形状および/または別の湾曲面に容易かつ円滑に適用することができる。代替手段を用いてフィルム10を所望の表面に接着または貼り付けてもよい。例えば、1つの別の実施形態では、任意の接着剤を用いない機能層を使用してもよい。特に、弱い粘着力および/または低表面張力(すなわち、優れた湿潤性)を持つシリコーン材料の層を使用してもよい。このため、機能層は、適用される物体の表面上に容易に広がる、および/またはぴったりと密着し、そして、機能層と物体表面の間から空気を絞り出すと、その間に真空が形成される。この真空および/または外部気圧が、フィルム10を物体表面に保つように作用する。もちろん、この技術領域で周知の他の接着剤を用いない選択肢、例えばヤモリを模擬した機能材料等も使ってよい。
【0076】
いずれの場合も、当然のことながら、本明細書に示す特定の例示的実施形態に関して、特定の構成のおよび/または機能の特徴が、定義された要素および/または構成部品の中に組み込まれるものとして説明されている。しかし、これらの特徴は、同じまたは同様の利点に対して、必要に応じて他の要素および/または構成部品に同様に組み込まれてもよいと考えられる。また、当然のことながら、例示的実施形態の様々な態様を選択的に適宜使用して所望の用途に適した他の代替実施形態を実現し、これによって上記他の代替実施形態がその中に組み込まれている態様のそれぞれの利点を実現してもよい。
【0077】
また、当然のことながら、本明細書に記載する特定の要素または構成部品は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせにより適切に実装される機能を有してもよい。さらに、当然のことながら、共に組み込まると本明細書に記載されている特定の要素は、適切な環境において、スタンドアローンの要素、もしくは分離された要素であってもよい。同様に、1つの特定の要素によって実行されると記載されている複数の特定の機能は、独立して作用して個々の機能を実行する複数の異なる要素によって実行されてもよく、また特定の個々の機能は、分割され、同時に作用する複数の異なる要素によって実行されてもよい。あるいは、互いに個別のものとして、別に記載されている、および/または本明細書に示されている要素または構成部品は、必要に応じて物理的または機能的に組み合わせてもよい。
【0078】
図1に示す積層品は、様々な方法で製造することができる。1つの実施形態では、厚さ2ミル(約50.8μm)のポリエステルの支持体の上に押し出し成型された厚さ150μmの第2の例示的PUフィルムが、アルゴテック社より入手される。このPUフィルムは第1および第2の主要な表面を有する。第1の主要な表面は露出しており、第2の主要な表面はポリエステルの支持体に取り付けられている。第1の例示的なサイラマックス(Sila−Max(登録商標))の処理溶液は、チッソ株式会社より入手した。また、溶剤系のPSA溶液も作成した。まず、PSA溶液をPUフィルムの第1の主要な表面に塗布し、そして溶剤を高温で乾燥することにより除去した。続いて、PSAを被覆されたPUフィルムを、図1に示すようにポリエステルの剥離ライナー12に貼り合わせ、そしてポリエステルの支持体を剥ぎ取った。これで、PUフィルムの第2の主要な表面が露出する。サイラマックス(Sila−Max(登録商標))の処理溶液を、PUフィルムの第2の主要な表面に塗布し、高温で乾燥させて溶剤を除去し、続いて水銀UVランプを用いて硬化させた。
【0079】
処理は、熱および/または放射線硬化を含んでもよい。適切には、処理溶液は下層のPUまたはフィルム10内に拡散するので、フィルム内に拡散する材料が硬化用の放射線を受けるおよび/またはそれに曝露されるように、フィルム10は硬化放射線に対して少なくとも部分的に透過性であることが望ましい。
【0080】
本明細書を好適な実施形態を参照しながら説明してきた。言うまでもなく、本明細書を読み理解すると、当業者には修正および変更が想起されることになる。このような修正および変更が添付の請求項またはその均等物の範囲内にある限り、本発明は全てのこのような修正および変更を含むものと解釈すべきであるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの主要な表面に被覆配合物として塗布される1つ以上の成分を含む表面処理剤とを含み、前記1つ以上の被覆成分は少なくとも部分的に前記樹脂フィルム内に拡散していることを特徴とする保護シート。
【請求項2】
前記樹脂フィルムは室温で伸張性または伸縮性がある、請求項1に記載の保護シート。
【請求項3】
前記樹脂フィルムはポリウレタン(PU)フィルムである、請求項2に記載の保護シート。
【請求項4】
前記樹脂フィルムはポリ塩化ビニル(PVC)フィルムである、請求項2に記載の保護シート。
【請求項5】
前記被覆配合物は溶剤系である、請求項1に記載の保護シート。
【請求項6】
前記被覆配合物は放射線硬化性である、請求項1に記載の被覆配合物。
【請求項7】
前記被覆配合物は熱硬化性である、請求項1に記載の被覆配合物。
【請求項8】
前記被覆配合物は放射線硬化性および熱硬化性の両方である、請求項1に記載の被覆配合物。
【請求項9】
前記被覆配合物は、ナノサイズの有機粒子、ナノサイズの無機粒子、またはナノサイズの有機無機ハイブリッド粒子のうちの少なくとも1つを含むナノサイズの粒子を含有する、請求項1に記載の被覆配合物。
【請求項10】
前記被覆配合物は脂肪族ウレタンアクリレートを含む、請求項6に記載の被覆配合物。
【請求項11】
前記被覆配合物は、シルセスキオキサン化合物に由来する材料を含有する、請求項9に記載の被覆配合物。
【請求項12】
前記溶剤は、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、またはイソプロピルアルコールのうちの少なくとも1つを含有する、請求項5に記載の被覆溶液。
【請求項13】
前記表面処理の後に、前記被覆およびフィルムを別れた異なる層に分割する画定された境界が存在しない、請求項1に記載の保護シート。
【請求項14】
前記被覆配合物は、1つ以上の被覆成分を共に運びながらPUフィルム内に拡散する、請求項3に記載の保護シート。
【請求項15】
前記被覆成分の少なくとも10%が前記樹脂フィルム内に拡散する、請求項1に記載の保護シート。
【請求項16】
前記被覆成分の少なくとも20%が前記樹脂フィルム内に拡散する、請求項1に記載の保護シート。
【請求項17】
前記被覆成分の少なくとも30%が前記樹脂フィルム内に拡散する、請求項1に記載の保護シート。
【請求項18】
前記被覆成分の少なくとも40%が前記樹脂フィルム内に拡散する、請求項1に記載の保護シート。
【請求項19】
前記被覆成分の少なくとも50%が前記樹脂フィルム内に拡散する、請求項1に記載の保護シート。
【請求項20】
前記樹脂フィルム内に拡散する前記被覆成分の濃度は、前記樹脂フィルム内への深さとともに徐々に減少する、請求項1に記載の保護シート。
【請求項21】
前記樹脂フィルム内へ前記被覆成分が拡散することによって、前記樹脂フィルムの上に最初の被覆組成とは異なる前記被覆層のための新たな組成が生成される、請求項1に記載の保護シート。
【請求項22】
前記被覆での処理の後の前記フィルムは、機能不良になることなく少なくとも25%の伸び率に耐えることができる、請求項2に記載の保護シート。
【請求項23】
前記被覆での処理の後の前記フィルムは、機能不良になることなく少なくとも50%の伸び率に耐えることができる、請求項2に記載の保護シート。
【請求項24】
前記被覆での処理の後の前記フィルムは、機能不良になることなく少なくとも75%の伸び率に耐えることができる、請求項2に記載の保護シート。
【請求項25】
前記被覆での処理の後の前記フィルムは、機能不良になることなく少なくとも100%の伸び率に耐えることができる、請求項2に記載の保護シート。
【請求項26】
請求項1に記載の保護シートから構成される積層品。
【請求項27】
前記保護シートは、感圧型接着剤(pressure sensitive adhesive:PSA)で被覆された剥離ライナーに貼り合わせられる、請求項27に記載の積層品。
【請求項28】
前記保護シートは、自己巻き取り型であり、かつ剥離ライナーを持たない、請求項27に記載の積層品。
【請求項29】
前記保護シートは、物体の表面に前記積層品を固定するための実質的に接着剤を用いない機能層に貼り合わせられる、請求項27に記載の積層品。
【請求項30】
前記被覆溶液が前記PUフィルムの中に少なくとも25μm拡散する、請求項3に記載の保護シート。
【請求項31】
前記PUフィルムの主要な表面に留まる前記被覆の厚さが約0.5μm以下である、請求項3に記載の保護シート。
【請求項32】
前記PUフィルムの主要な表面に留まる前記被覆の厚さが約0.5μmと約3μmの間である、請求項3に記載の保護シート。
【請求項33】
前記PUフィルムの主要な表面に留まる前記被覆の厚さが約0.5μmと約1μmの間である、請求項3に記載の保護シート。
【請求項34】
前記被覆溶液の湿潤被覆厚さが約0.1μmと約25μmの間である、請求項3に記載の保護シート。
【請求項35】
前記樹脂フィルムが前記硬化用の放射線に対し少なくとも部分的に透過性である、請求項6に記載の保護シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−527366(P2012−527366A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512036(P2012−512036)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/035595
【国際公開番号】WO2010/135545
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511205046)エイブリィ デニソン コーポレーション (15)
【Fターム(参考)】