説明

表面処理金属,その製造方法および表面処理液

【課題】 本発明は,プレコート金属に対しても使用することができる程の光触媒に対する安定性,耐候性と加工性とを両立させた皮膜を有する表面処理金属およびこの表面処理金属を好適に製造するための製造方法ならびに上記被膜を好適に製造するための表面処理液を提供する。
【解決手段】 本発明の表面処理金属は,光触媒活性を示す皮膜を少なくとも有する表面処理金属であって,該光触媒活性を示す皮膜は,主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ,炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を含む,無機−有機複合体皮膜であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,表面に光触媒活性を示す皮膜を有し,耐汚染性に優れた表面処理金属およびその製造方法ならびに表面処理液に関する。より詳細には,光触媒活性を有する粒子と光触媒による劣化の少ないマトリックスからなる皮膜を表面に有することで,長期間にわたって光触媒活性と耐候性に優れる表面処理金属,およびその製造方法に関するものである。また,この表面処理金属を好適に製造するための表面処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄に代表される金属材料は,耐食性などの耐久性を向上させることを目的として,あるいは美しい外観を得ることを目的として,塗装して使用されるのが一般的である。塗装された金属は,家電,自動車,建材,屋外構造物等の分野で広く用いられているが,このうち,特に屋外で使用されるものについては,雨,風,砂塵等にさらされるため,耐食性に加えて耐汚染性に優れることが必要とされている。
【0003】
表面処理金属の耐汚染性を向上させる技術のひとつに,光触媒技術がある。光触媒技術は,光触媒活性に優れる粒子を金属表面の塗膜中に分散させておくことにより,有機物を中心とした汚染物質を分解および除去する技術である。この技術は,表面の汚染物質の分解に対して高い効果を発揮するものの,有機物である樹脂系の塗膜も徐々に分解し,劣化が進行するため,塗膜として使用することは困難である。このため,塗膜の劣化を最小限に抑制するために種々の提案がなされてきた。例えば,マトリックスとして無機系材料を用いる方法が,例えば特許文献1および特許文献2に開示されている。また,有機系塗膜であってもフッ素樹脂は光触媒に対して比較的安定であるため,フッ素樹脂をマトリックスとして用いる方法が,例えば特許文献3に開示されている。また,特にプレコート金属に用いる場合には,光触媒に対する高い安定性と加工性が必要とされるが,この目的に対しては,シリカ−オルガノシラン系をマトリックスとして用いる技術がある。このような技術の例として,アクリル樹脂とオルガノアルコキシシランとの重合反応によって得られたアルキルシリケートをマトリックスとして用いる方法が,例えば特許文献4および特許文献5にそれぞれ開示されている。また,フッ化ビニリデン樹脂およびアクリル樹脂を用いる方法が,例えば特許文献6に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−113272号公報
【特許文献2】特開平8−164334号公報
【特許文献3】特開平7−171408号公報
【特許文献4】特開平10−225658号公報
【特許文献5】特開2000−317393号公報
【特許文献6】特開2000−63733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,プレコート金属にも使用することができる程度の光触媒に対する高い安定性,すなわち優れた耐候性と加工性とを高いレベルで両立させたマトリックスは,これまでのところ得られていない,という問題があった。
【0006】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたものであり,プレコート金属に対しても使用することができる程の光触媒に対する安定性,耐候性と加工性とを両立させた皮膜を有する表面処理金属およびこの表面処理金属を好適に製造するための製造方法ならびに上記被膜を好適に製造するための表面処理液を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは,上記課題を解決すべく,鋭意検討を行った結果,主骨格の主要結合として特定の結合を有し,ある種の有機成分を導入した無機−有機複合体からなる皮膜を塗膜のマトリックスとして使用することによって,プレコート金属に対しても使用することができる光触媒に対する安定性,耐候性と加工性とを両立させた皮膜を有する表面処理金属を製造できることを見出し,本発明を完成するに至った。具体的には,以下の通りである。
【0008】
(1) 光触媒活性を示す皮膜を少なくとも有する表面処理金属であって,前記光触媒活性を示す皮膜は,主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ,炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を含む,無機−有機複合体皮膜であることを特徴とする,表面処理金属。
(2) 前記光触媒活性を示す皮膜に含まれる有機基は,フェニル基であることを特徴とする,(1)に記載の表面処理金属。
(3) 前記光触媒活性を示す皮膜の下層に,主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ,炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を含む,無機−有機複合体からなる中間層を有することを特徴とする,(1)に記載の表面処理金属。
(4) 前記中間層に含まれる有機基は,フェニル基であることを特徴とする,(3)に記載の表面処理金属。
(5) 前記無機−有機複合体の主骨格または側鎖のいずれか一方または双方の結合中に,エーテル結合またはアミノ結合のいずれか一方または双方を含むことを特徴とする,(1)〜(4)のいずれかに記載の表面処理金属。
(6) 前記光触媒活性を示す皮膜は,光触媒活性を有する粒子を含有し,前記光触媒活性を有する粒子は,アナタース型の構造を含む酸化チタンであることを特徴とする,(1)〜(5)のいずれかに記載の表面処理金属。
(7) 基材となる基材金属が,金属板であることを特徴とする,(1)〜(6)のいずれかに記載の表面処理金属。
(8) 前記金属板は,鋼板,ステンレス鋼板,チタン板,チタン合金板,アルミニウム板,アルミニウム合金板,および前記各金属板にめっき処理しためっき金属板からなる群より選択される1種であることを特徴とする,(7)に記載の表面処理金属。
(9) 前記金属板は,有機塗膜を有する塗装金属板であることを特徴とする,(7)または(8)に記載の表面処理金属。
(10) テトラアルコキシシランと,炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物と,アリール基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物とからなる群より選択される1種以上と,光触媒活性を有する粒子と,を少なくとも含むことを特徴とする,表面処理液。
(11) エポキシ基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物と,アミノ基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物とからなる群より選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする,(10)記載の表面処理液。
(12) 前記光触媒活性を有する粒子は,アナタース型の構造を含む酸化チタンであることを特徴とする,(10)または(11)に記載の表面処理液。
(13) (10)〜(12)のいずれかに記載の表面処理液を,金属表面に塗布後,硬化させることを特徴とする,表面処理金属の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,光触媒に対する安定性,耐候性と加工性とを両立させた皮膜を有する表面処理金属を容易に得ることができる。すなわち,耐候性と耐汚染性に優れるとともに,折り曲げ等の加工を行うことができる表面処理金属を得ることができる。また,本発明の表面処理液および表面処理金属の製造方法を使用することで,上記の表面処理金属を好適に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
本発明の表面処理金属は,その表面の皮膜に特徴がある。この表面処理金属の構造としては,三次元網目構造状に発達した無機骨格を主骨格としており,その主骨格が≡Si−O−Si≡で表記される無機のシロキサン結合を主要結合として成り立っている。このシロキサン結合主体の構造中に,炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基,水酸基からなる群の少なくとも1種を含むことで,光触媒に対する優れた安定性,耐候性に加えて,加工性にも優れた皮膜が形成される。この理由については明らかでないが,本発明者らは,無機のシロキサン結合を主体とすることで光触媒に対する安定性,耐候性が確保され,炭素数が1以上12以下のアルキル基をはじめとした有機成分を含んでいることで皮膜に柔軟性が付与されるため優れた加工性が確保される,と考えている。
【0012】
ここで,炭素数1以上12以下のアルキル基としては,メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ヘキシル基,2−エチルヘキシル基,ドデシル基など,アリール基としては,フェニル基,トリル基,キシリル基,ナフチル基などが挙げられる。また,カルボキシル基は−COOH,アミノ基は−NH,水酸基は−OHをそれぞれ指している。
【0013】
本発明で用いる有機成分は,2種類以上のものを同時に使用することができるが,このうち,主となる有機基,すなわち最も含有量が多い有機基としては,炭素数5以上12以下のアルキル基またはアリール基を使用するのが好ましく,炭素数6以上12以下のアルキル基またはアリール基を使用するのがより好ましく,炭素数6以上10以下のアルキル基またはアリール基を使用するのがさらに好ましい。このうち,本発明の有機基として最も好適に用いられる有機基はフェニル基であり,フェニル基のみを用いて主骨格を形成するシロキサン結合と組み合わせることで,光触媒に対する安定性,耐候性と加工性に加えて,加工時の密着性に優れる皮膜を得ることができる。これらの有機成分は,主骨格に存在していても,あるいは側鎖に存在していても差し支えない。これらの有機成分が皮膜中に存在していることによって,本発明で用いる皮膜の優れた特徴が発現しているものと考えられる。
【0014】
シロキサン結合以外の結合としては,−CH−CH(CH)−O−CH−のようなエーテル結合,あるいは第2級または第3級アミンとなるようなアミノ結合などが挙げられる。このうち,エーテル結合やアミノ結合の一方または双方を,皮膜構造中の主骨格または側鎖あるいはこれらの双方に有している場合,特に光触媒に対する安定性,加工性に優れた皮膜を得ることができる。
【0015】
本発明で用いる皮膜中には,光触媒活性を有する微粒子を含んでいる。光触媒活性を有する微粒子(以下,光触媒微粒子)としては,アナタース型の構造を含む二酸化チタンが有名であり,本発明の光触媒粒子としても最も活性が高いものである。しかしながら,本発明ではこれに限らず,TiO,SrTiO,FeTiO,WO,SnO,Bi,In,ZnO,Fe,RuO,CdO,CdFeO,LaRhO,Nb,ZeO,Taなども光触媒微粒子として好適に用いることができる。本発明で用いる光触媒粒子の性状は特に限定を受けるものではないが,高い触媒活性を得るためには,できるだけ粒子径の小さな粒子を用いることが好ましい。好ましい光触媒粒子の大きさとしては,一次粒子径で0.5μm以下,より好ましくは0.1μm以下,さらに好ましくは0.05μm以下である。粒子サイズの下限は特に限定を受けないが,細かすぎても扱いにくくなるため,通常は一次粒子径で5nm以上のものが用いられる。粒子径が小さく,活性の高い粒子を光触媒として使用した場合,優れた光触媒効果,すなわち汚染物質の除去効果が得られるが,通常は同時に光触媒を保持している皮膜マトリックス部が劣化するため,長期間の使用には耐えられない場合が多い。一方,本発明で用いる皮膜マトリックス部は,光触媒粒子による劣化を大幅に抑制しているため,粒子径が小さく,活性が高い光触媒粒子を特に支障なく使用することができる。また,粒子径が小さい光触媒粒子を用いた場合,一般に分散が困難であるために,皮膜中で凝集体を形成する可能性が考えられる。しかしながら,通常(特に,皮膜を構成する樹脂が,粘度の高い樹脂や粒子表面にぬれ難い樹脂の場合には),これらの凝集体内部の空隙には皮膜を構成する樹脂成分が存在しない場合が多いため,汚染物質(特に,水溶性の汚染物質や雨水等により運ばれる汚染物質)が触媒表面に到達しやすくなるという利点も考えられる。
【0016】
皮膜中における光触媒は,均一に分散していることが望ましいが,均一であることは必須ではない。均一に分散していない場合としては,例えば,上述したように凝集体を形成している場合や,粒子の含有濃度が最表面部と内部とで異なっている場合,含有濃度に傾斜をつける場合などがあるが,このような場合にも好適に用いることができる。
【0017】
皮膜中に含有される光触媒の量は,特に限定を受けるものではなく,所望の効果が得られる範囲内で適宜決定することができる。この場合,皮膜の均一性,平滑性等が損なわれないように,通常は,皮膜全体に対する質量割合で50%以下,好ましくは40%以下であり,さらに好ましくは30%以下とするのが良い。添加量の下限についても特に限定を受けるものではなく,通常は皮膜全体に対する質量割合で0.5%以上,好ましくは1.0%以上である。添加量が上記の範囲を超えて多すぎる場合,上述の通り,均一で平滑な皮膜とするのが困難になるだけでなく,経済的でない。また,添加量が上記範囲を超えて少なすぎる場合,所望の効果が得られない場合が多い。
【0018】
光触媒粒子は,これを粒子の状態で皮膜中に存在させ,用いることも可能であるが,担体表面に担持させた状態で使用することも可能である。担体を用いることで,光触媒粒子と皮膜を構成するマトリックスとが直接接触する面積を大幅に減らすことができるため,光触媒によるマトリックス部の劣化を抑制することができる。また,分散が困難であるような塗料(樹脂)と光触媒粒子との組合せであるような場合には,担体として適当な材質を選択することによって,より光触媒の分散状態が優れた皮膜を得ることができる。
【0019】
担体は,皮膜の厚さにあわせて,その粒径が0.01μmから20μm程度の大きさであることが好ましく,より好ましくは0.1μm以上20μm以下であり,さらに好ましくは0.1μm以上10μm以下である。担体が上記の範囲を超えて小さい場合,触媒と担体の大きさが同等となるため,担体に触媒を担持するのが困難となり,一方,担体が上記範囲を超えて大きすぎる場合,皮膜の厚さに対して担体が大きすぎるため,担体を皮膜中に含有させることが困難となり,また皮膜表面には担体に起因する凹凸が生じるため好ましくない。また,担体表面に気孔を形成することで,より強固に光触媒を担持することができる。気孔の大きさは,担体の大きさの1/10〜1/1000程度であることが好ましい。具体的には,気孔の孔径は,10nm以上5μm以下が好ましく,さらに好ましくは10nm以上1μm以下である。担体表面の気孔が上記範囲を超えて小さすぎる場合,気孔の大きさと触媒の大きさがほぼ同等となるため,気孔内に触媒を担持するのが困難となる可能性がある。一方,気孔が上記範囲を超えて大きすぎる場合,担体と気孔の大きさのバランスが良好でなく,担体の強度が確保できないおそれがある。また,担体に存在する気孔率は特に限定されるものではないが,気孔率は,およそ5%〜99%の範囲で設定することができる。気孔率が上記範囲を超えて小さ過ぎる場合,触媒の量に対して担持する気孔の割合が少なすぎることとなり,十分な触媒活性を確保できないおそれがある。一方,気孔率が上記範囲を超えて大きすぎる場合,担体に存在する気孔が多くなりすぎるため,担体自体の強度を確保できない可能性がある。
【0020】
本発明で用いる光触媒活性を有する皮膜の厚さは,必要とされる特性あるいは用途によっても異なるが,0.05μm以上25μm以下であることが好ましく,より好ましくは0.1μm以上20μm以下であり,さらに好ましくは0.1μm以上10μm以下である。皮膜厚さがこれらの範囲を超えて薄い場合,均一な皮膜を形成して所定の特性を発現することが困難であり,一方で,皮膜が上記範囲を超えて厚すぎる場合には,成型加工性が不十分となる場合,あるいは加工時の密着性が不十分となる場合が多い。また,マトリックスとなる皮膜の性質上,一回の操作で厚い塗膜を形成することは,ひび割れ,剥離などの原因となるため好ましくない。所定以上の厚さの皮膜を形成する場合には,後述する塗布および乾燥(固化)の作業を繰り返し行うことが好ましい。
【0021】
本発明の皮膜中には,金属成分としてSiが含まれているが,これ以外の元素として,B,Al,Ge,Ti,Y,Zr,Nb,Ta等から選択される一種以上の金属元素を添加することができる。このうち,Al,Ti,Nb,Taについては,酸を触媒としてこれらの金属アルコキシドを系に添加しているときに,皮膜の固化を低温または短時間で完了させるための触媒的な働きを示すものである。酸を触媒としてこれらの金属アルコキシドを添加した場合には,エポキシの開環速度が速くなるため,低温または短時間での皮膜硬化が可能となる。特にしばしば用いられる金属はTiであり,Ti−エトキシド,Ti−イソプロポキシド等のTiのアルコキシドが原料として用いられる。また,Zrを添加した系では,皮膜の耐アルカリ性が顕著に改善されるため,特に耐アルカリ性が必要とされる用途で好適に用いられる。
【0022】
本発明の表面処理金属の基材となる金属としては,材質,形状,加工の有無,最終製品(形状)であるか否かを含めて何ら限定を受けるものではなく,いかなるものも好適に使用することができる。例えば,鋼材,ステンレス鋼,チタン,アルミニウム,アルミニウム合金あるいはこれらにめっき処理を行ったものなどを材質にかかわらず好適に用いることができる。また,厚板,薄板,管(パイプ),形鋼などの成形品,棒,線材などを形状や加工の有無などにかかわらず好適に用いることができる。中でも特に好ましい金属としては,ステンレス鋼板,チタン板,アルミニウム板,アルミニウム合金板,またはこれらにめっき処理を行っためっき金属板もしくはこれらに有機塗膜を形成した塗装鋼板が挙げられる。めっき鋼板としては,例えば,亜鉛めっき鋼板,亜鉛−鉄合金めっき鋼板,亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板,亜鉛−クロム合金めっき鋼板,亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板,アルミめっき鋼板,亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板,亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコン合金めっき鋼板,アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板,亜鉛めっきステンレス鋼板,アルミニウムめっきステンレス鋼板等が挙げられる。ステンレス鋼板としては,例えば,フェライト系ステンレス鋼板,マルテンサイト系ステンレス鋼板,オーステナイト系ステンレス鋼板等が挙げられる。ステンレス鋼板の厚さとしては,数十mm程度の厚いものから,圧延により10μm程度まで薄くした,いわゆるステンレス箔までが挙げられる。ステンレス鋼板およびステンレス箔の表面は,ブライトアニール,バフ研磨などの表面処理を施してあってもよい。アルミニウム合金板としてはJIS1000番系(純Al系),JIS2000番系(Al−Cu系),JIS3000番系(Al−Mn系),JIS4000番系(Al−Si系),JIS5000番系(Al−Mg系),JIS6000番系(Al−Mg−Si系),JIS7000番系(Al−Zn系)等が挙げられる。
【0023】
上記の実施形態において,塗装鋼板以外の基材金属に皮膜を形成する場合に,基材金属に直接形成してもよいのはもちろんであるが,他の前処理皮膜が存在する基材金属に形成され,複層化されている状態であっても全く差し支えない。例えば,クロメート処理を施し,クロメート皮膜が形成された金属やクロメート以外の公知の表面処理(例えばリン酸塩処理等)がなされている金属の表面に,本発明で用いる光触媒活性を有する皮膜が形成されている場合などが挙げられる。
【0024】
これまでは,光触媒粒子を含有した皮膜を最表面層の皮膜として用いる実施形態について述べてきた。一方で,別の実施形態として,最表面の光触媒活性を有する皮膜と基材金属との間に少なくとも一層の皮膜を形成する方法,すなわち中間層を設ける方法が挙げられる。この場合における基材金属とは,上述の場合と同様,金属そのものを指している場合もあるが,すでに塗膜を形成した塗装鋼板を指すのが一般的である。中間層を設ける主な利点は,樹脂系の皮膜を形成した塗装鋼板表面に上記の光触媒粒子を含有する皮膜を直接形成すると,すでに形成してある塗膜がその上層に形成された光触媒効果を有する皮膜によって徐々に分解,劣化を起こす可能性があり,中間層はこれを効果的に防止することができる,という点である。本発明で用いる皮膜は,この中間層皮膜としても用いることができる。すなわち,この場合の表面処理金属は,上述の主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基または水酸基から選ばれる少なくとも1種の有機基を含む無機−有機複合体皮膜を中間層皮膜として用いるものである。
【0025】
本発明で用いる皮膜は,光触媒粒子による劣化が少ないため,これまで述べてきたように,金属の表面処理層全体のうち,最表面に位置する光触媒を含有した光触媒層(皮膜)として使用することができる。加えて,本発明の成分,組成を有する皮膜を光触媒層(皮膜)と有機塗膜層との間に介在させて,下層の有機塗膜層の劣化を抑制することができる。これは,上記と同様,無機骨格を主体とし,これに有機成分を添加した無機−有機複合皮膜の組成,成分が,光触媒に対する優れた耐性を有することを利用している。この理由については明らかではないが,本発明者らは,もともと光触媒に対して劣化が少ない無機成分を主体としており,これに有機成分を導入することで化学結合が密になり,皮膜の緻密さが確保されたためであると考えている。この場合においても,有機成分としてはフェニル基が最も好適に用いられる。
【0026】
この実施形態で使用する場合,最表面の光触媒粒子を含有した皮膜,および基材金属にすでに形成されている有機塗膜の組成,成分は何ら制限を受けるものではない。この場合において,先に述べた本発明の皮膜は,最表面の光触媒粒子を含有するための皮膜としても好適に用いることができるため,二層構造の場合においても,最表面の光触媒を含有した皮膜として好適に用いることができる。すなわち,すでに塗膜を形成している塗装鋼板表面,あるいはそれ以外の基材金属表面に本発明の皮膜をそのまま形成し,さらにその表面に光触媒活性を有する粒子を含有した皮膜を形成することができる。繰り返し述べるように,本発明で用いる皮膜は,光触媒活性を有する粒子に対して劣化が少ないため,容易に光触媒による耐汚染性と耐候性とを兼ね備えた表面処理金属を得ることができる。
【0027】
上記中間層の厚さは,必要とされる特性あるいは用途によっても異なるが,0.01μm以上20μm以下であることが好ましく,より好ましくは0.01μm以上10μm以下であり,さらに好ましくは0.05μm以上10μm以下である。皮膜厚さがこれらの範囲を超えて薄い場合,均一な皮膜を形成するのが困難となり,部分的に皮膜が形成されていない場合,あるいは皮膜に欠陥等が存在することによって下地塗膜の保護が十分でなくなる場合があり,好ましくない。一方で,この中間層は下地の有機塗膜層を保護することを第一の目的としているため,皮膜が上記範囲を超えて厚すぎるのは経済的でない。また,皮膜が上記範囲を超えて厚すぎる場合には,成型加工性が不十分となる可能性,あるいは加工時の密着性が不十分となる可能性がある。また,本中間層についても,上述の最表面に皮膜を形成する場合と同様,一回の操作で厚い塗膜を形成するのは,ひび割れ,剥離の原因となるため好ましくない。所定以上の厚さの皮膜を形成する場合には,後述する塗布および乾燥(固化)の作業を繰り返し行うことが好ましい。
【0028】
本発明の表面処理金属は,材料として用いることも可能であるが,部品に加工した状態でも好適に用いることができる。部品としては特に限定されるものではなく,例えば家屋の外壁,サイジングなどの建材用途や,例えばエアコンの室外機,給湯器のハウジング(外板)などの屋外用途の家電製品などに好適に用いることができる。
【0029】
本発明の表面処理金属を好適に製造するための表面処理液は,テトラアルコキシシランと,炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物と,アリール基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物とからなる群より選択される1種以上を主成分とし,これに光触媒活性を有する粒子を含有してなる液である。
【0030】
テトラアルコキシシランとしては,テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,テトラプロポキシシラン,テトラブトキシシラン等が挙げられる。また,炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランとしては,メチルトリメトキシシラン,ジメチルジメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,ジメチルジエトキシシラン,ヘキシルトリメトキシシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシランなどが挙げられる。アリール基を有するアルコキシシランとしては,フェニルトリメトキシシラン,ジフェニルジメトキシシラン,フェニルトリエトキシシラン,ジフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。表面処理液は,上記のシラン化合物,あるいはその加水分解物またはそれらが重合もしくは縮合反応をして高分子化したものを主成分として含有している。これらの成分を使用することで,本発明で用いる主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基または水酸基から選択される少なくとも1種の有機基を含む無機−有機複合体皮膜を容易に得ることができる。
【0031】
また,上記の成分を用いることで,複合体皮膜中における無機成分と有機成分の比率を容易に変えることができ,また,皮膜中に導入する有機成分の種類と量を容易に制御することができる。すなわち,皮膜に要求される性質に応じて無機成分を多くしたり,あるいは逆に有機成分を多くしたりすることができ,さらには添加する有機成分の種類も必要とする性質に応じて適宜選択することができる。また,あくまでもひとつの例であるが,本発明の皮膜を薄い中間層として使用する場合には,中間層が薄いために割れや剥離が生じにくく,加工性をほとんど考慮する必要がないため,光触媒に対する劣化が少ない無機成分主体の成分とすることが可能である。一方で,ある程度有機成分を添加する場合には,加工性または柔軟性と光触媒による皮膜の劣化とのバランスを考慮しながら皮膜成分の設計をすることが可能となる。
【0032】
本発明で用いる表面処理液は,さらにエポキシ基を有するアルコキシシランや,アミノ基を有するアルコキシシランを含有することができる。エポキシ基を有するアルコキシシランとしては,例えば,γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン,3,4−エポキシシクロヘキシルメチルトリメトキシシラン,3,4−エポキシシクロヘキシルメチルトリエトキシシラン,β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン,β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランなどが好適に用いられ,取扱いの容易さや反応性等の点から,γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが特に好適に用いられる。また,アミノ基を有するアルコキシシランとしては,例えば,アミノプロピルトリメトキシシラン,アミノプロピルトリエトキシシラン,(β−アミノエチル)−β−アミノプロピルトリメトキシシラン,(β−アミノエチル)−β−アミノプロピルメチルジメトキシシラン,(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが好適に用いられ,なかでもアミノプロピルトリエトキシシランが扱いやすさなどの点から特に好適に用いられる。これらのアルコキシシランは,上述のアルコキシシランと同様に,表面処理液中において,アルコキシ基の全部もしくは一部が加水分解され,またはそれらが重合もしくは縮合反応を起こして高分子化していても差し支えない。これらのエポキシ基を有するアルコキシシラン,アミノ基を有するアルコキシシランを配合するメリットは,基材となる金属との密着性および光触媒に対する安定性が向上するという点である。この理由について,詳しいことは明らかにできていないが,本発明者らは,エポキシ基やアミノ基を添加することで,基材金属との間に密着に寄与する強固な結合が形成されるためであると推定している。
【0033】
表面処理液中には,光触媒粒子を含有している。繰り返しになるが,本発明で用いる光触媒粒子は特に限定を受けるものではなく,酸化チタン,酸化タンタル,酸化ニオブ,酸化亜鉛などを使用することができる。ただし,アナタース型の酸化チタンを用いるのが一般的であり,本発明の光触媒粒子として特に好適に用いることができる。光触媒粒子の性状も特に限定を受けるものではないが,高い触媒活性を得るためにはできるだけ粒子径の小さな粒子を用いるのが好ましい。好ましい光触媒粒子の大きさとしては,粒子径が0.5μm以下,より好ましくは0.1μm以下,さらに好ましくは0.05μm以下である。粒子の大きさの下限は特に限定を受けないが,粒子径が小さすぎても扱いにくくなるため,通常は,一次粒子径で5nm以上のものが用いられる。また,粒子径が小さな光触媒粒子を用いた場合,表面処理液中での分散が一般に困難であることにより,皮膜中で凝集体を形成する可能性が考えられる。しかしながら,凝集体を形成した場合であっても,凝集体の内部には空隙が存在することとなり,上述したように,この空隙には樹脂成分が存在していない場合が多いことから,汚染物質が触媒表面に到達しやすくなると考えられる。したがって,取扱いが困難であると考えられる上記範囲外の微細な粒子を除き,好適に用いることができる。
【0034】
表面処理液中に含まれる光触媒の量は,特に限定を受けるものではなく,皮膜を形成したときに所望の効果が得られる範囲内で適宜決定することができる。この場合に,皮膜を形成したときの均一性,平滑性等が損なわれないように,通常は,表面処理液中の固形分に対する質量割合で50%以下,好ましくは40%以下であり,さらに好ましくは30%以下である。添加量の下限についても特に限定を受けるものではなく,通常は表面処理液に含まれる固形分に対する質量割合で0.5%以上,好ましくは1.0%以上である。添加量が上記の範囲を超えて多すぎる場合,表面処理液における不都合はないものの,均一で平滑な皮膜を形成するのが困難になるだけでなく,必要量以上の触媒を添加しているため経済的でない。また,添加量が上記範囲を超えて少なすぎる場合,所望の効果が得られない場合が多い。
【0035】
光触媒粒子は,粒子の状態で表面処理液中に含有し,用いることも可能であるが,担体表面に担持させた状態で表面処理液中に含有させることも可能である。担体を用いることで,皮膜を形成したときに光触媒粒子と皮膜を構成するマトリックスとが直接接触する面積を減らすことができるため,光触媒によるマトリックス部の劣化を抑制することができる。また,分散が困難であるような塗料(樹脂)と光触媒粒子との組合せであるような場合に,担体として適当な材質を選択することによって,より光触媒の分散状態に優れた皮膜を得ることができる。
【0036】
担体は,形成する皮膜の厚さにあわせて,その粒径が0.01μmから20μm程度の大きさであることが好ましく,より好ましくは0.1μm以上20μm以下であり,さらに好ましくは0.1μm以上10μm以下である。担体が上記の範囲を超えて小さすぎる場合,触媒と担体の大きさが同等となるため,担体に触媒を担持するのが困難となる。一方,担体が上記範囲を超えて大きすぎる場合,皮膜の厚さに対して担体が大きすぎるため,担体を皮膜中に含有させることが困難となり,また,皮膜表面には担体に起因する凹凸が生じるため好ましくない。また,担体表面に気孔が存在する気孔を形成することで,より強固に光触媒を担持することができる。気孔の大きさは,担体の大きさの1/10〜1/1000程度であることが好ましい。具体的には,気孔の孔径は,10nm以上5μm以下が好ましく,10nm以上1μm以下であることがさらに好ましい。担体表面の気孔が上記範囲を超えて小さすぎる場合,気孔の大きさと触媒の大きさがほぼ同等となるため,気孔内に触媒を担持するのが困難となる可能性がある。一方,気孔が上記範囲を超えて大きすぎる場合,担体と気孔の大きさとのバランスが良好でないため,担体の強度が確保できないおそれがある。また,担体に存在する気孔率は特に限定されるものではないが,気孔率は,およそ5%〜99%の範囲で設定することができる。気孔率が上記範囲を超えて小さ過ぎる場合,触媒の量に対して担持する気孔の割合が少なすぎることとなり,十分な触媒活性を確保できないおそれがある。一方,気孔率が上記範囲を超えて大きすぎる場合,担体に存在する気孔が多くなりすぎるため,担体自体の強度を確保できない可能性がある。
【0037】
表面処理液中に担体と触媒粒子とを含有する場合,あらかじめ担体に担持した状態で含有するのが一般的な方法である。この方法によれば,皮膜を形成したときに担持されていない触媒粒子の発生を極力抑制することができる。
【0038】
また,本発明の表面処理液には,必要に応じて,テトラアルコキシシラン以外の金属成分のアルコキシドを添加物として用いることもできる。特に,Ti,Al,Ta,またはNbから選択される少なくとも1種以上の金属アルコキシドを添加し,酢酸を酸触媒として用いた場合には,エポキシ基の開環速度が速くなるため,低温短時間硬化の効果が特に大きくなる。アルコキシシラン以外の金属アルコキシドは,アルコキシ基の全部または一部が加水分解されていてもよい。また,本発明の表面処理液には,必要に応じて,ジルコニウムの化合物,例えばジルコニウムアルコキシド,その加水分解物,または酸化ジルコニウム(ジルコニア)ゾルのうちの少なくとも1種を含有させることができる。この成分は,本発明の塗布液として用いるシリカを主成分とする表面処理液の耐アルカリ薬品性を改善する作用を有する成分である。本成分を添加することによって耐アルカリ薬品性がどのようなメカニズムで改善されるのかは必ずしも明らかにされていないが,本発明者らは,シロキサン結合を構成するSiがZrに置換されて,シリカとジルコニウムを中心としたネットワークが形成されることにより,アルカリに対して安定化されるためである,と考えている。
【0039】
本発明で用いる表面処理液には,塗膜の意匠性,耐食性,耐摩耗性,触媒機能等を向上させることを目的として,さらに,着色顔料,耐湿顔料,触媒(例えば,酸性触媒,塩基性触媒等),防錆顔料,金属粉末,高周波損失剤,骨材等を添加することも可能である。顔料としては,上述した化合物のほかに,Ti,Al等の酸化物や複合酸化物,Zn粉末,Al粉末等の金属粉末などが挙げられる。防錆顔料としては,環境汚染物質を含まないモリブデン酸カルシウム,リンモリブデン酸カルシウム,リンモリブデン酸アルミニウム等の非クロム酸顔料を用いることが好ましい。また,高周波損失剤としてはZn−Niフェライトが挙げられ,骨材としてはチタン酸カリウム繊維などが挙げられる。
【0040】
また,本発明で用いる表面処理液には,必要に応じて酸触媒を添加することができる。酸触媒としては,酢酸,ギ酸,マレイン酸,安息香酸などの有機酸,塩酸,硝酸などの無機酸が挙げられるが,酢酸が特に好適に用いられる。触媒として酸を用いることにより,原料として用いているアルコキシシランが製膜に適した重合状態をとることに加えて,酢酸を触媒として用いた場合には,エポキシ基の開環が促進され,低温短時間硬化の効果が大きくなるためである。
【0041】
また,添加剤として,レベリング効果剤,抗酸化剤,紫外線吸収剤,安定剤,可塑剤,ワックス,添加型紫外線安定剤などを混合させて用いることができる。また必要に応じて,皮膜の耐熱性等を損なわない範囲,または光触媒による劣化が生じない範囲で,フッ素樹脂,ポリエステル樹脂,ウレタン樹脂等の樹脂系塗料を含んでいてもよい。これら添加剤は1種のみを用いてもよく,2種類以上を適宜混合して用いることもできる。また,必要に応じて,ジルコニアゾル以外の無機または金属粒子,着色顔料や染料を添加することもできる。
【0042】
本発明の表面処理液は,溶質を均一に分散および溶解できる有機溶媒中で,テトラアルコキシシラン,および炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランとアリール基を有するアルコキシシランとからなる群より選択される少なくとも1種のアルコキシシランを,また必要に応じて,さらにエポキシ基を有するアルコキシシランおよび酸触媒を混合してエポキシ基を開環させた後に加水分解を行い,最後に,アミノ基を含むアルコキシシランを添加することにより,調製することができる。使用する有機溶媒としては,例えば,メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノール等の各種アルコール類,アセトン,ベンゼン,トルエン,キシレン,エチルベンゼン等の芳香族系有機溶剤等を,単独で,または混合して使用するのが好ましい。
【0043】
調製した表面処理液は,必要な膜厚に適合するように有機溶媒または水で希釈して用いることができる。希釈は,通常1回のコーティングで得られる膜厚が0.2〜5μmの範囲となるように行う。また,複数回の塗装によってそれ以上の厚さの塗膜を形成してもよい。この皮膜厚さの範囲(0.2〜5μm)が健全な皮膜が得られるおよその目安である。一方,溶媒として用いたアルコールまたは加水分解で生成したアルコール等を,常圧または減圧下で留去した後に塗布することも可能である。
【0044】
基材である金属への塗装は,ディップコート法,スプレーコート法,バーコート法,ロールコート法,スピンコート法などによって行われる。本発明で用いられる表面皮膜は,上述の各種基材に対して特に前処理を行わなくても良好な密着性を示すが,必要に応じて塗布前に前処理を行うこともできる。代表的な前処理としては,酸洗,アルカリ脱脂,クロメート処理,非クロメート処理等の化成処理,研削,研磨,ブラスト処理等があり,必要に応じてこれらを単独であるいは組み合わせて行うことができる。
【0045】
本発明で用いられる皮膜は,室温で放置することによっても硬化させることが可能である。ただし,室温で放置する場合には,皮膜が実用的な硬度となるまでには長時間を要するため,加熱硬化させることが望ましい。加熱によって皮膜を硬化させる場合には,150℃以上400℃程度までの温度域で,1時間から数秒程度の熱処理を行うことが好ましい。一般に,熱処理温度が高い場合には短い熱処理時間で膜の硬化が可能であり,熱処理温度が低い場合には長時間の処理が必要である。また,乾燥または熱処理に十分な温度や時間をかけられないような場合には,一旦乾燥,硬化または焼き付け硬化を行った後に,必要に応じて室温で1〜5日エージングすることが好ましい。この操作により,塗膜形成直後より塗膜の硬度を高めることができる。
【実施例】
【0046】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明する。
【0047】
(実施例1)
表1−1に示した割合で配合したγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES),チタニウムテトラエトキシド(TE),フェニルトリエトキシシラン(PhTES),テトラエトキシシラン(TEOS)を十分に撹拌した後,エタノールで希釈した蒸留水を用いて酸性条件下で加水分解を行った。次いで,ここにアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を加えた後に,さらに蒸留水/エタノール混合溶液を用いて加水分解を行い,無機―有機複合体を主成分とする表面処理液を調製した。加水分解には十分な量の水を使用し,表面処理液は,150℃で乾燥させたときの固形分濃度が10質量%になるように調製した。この表面処理液に,表1−1に示した光触媒活性を有する粒子を添加し,コーティング用の表面処理液No.1〜8を調製した。表1−1に示されている光触媒粒子の添加量は,表面処理液中に含まれる固形分に対する質量割合である。用いた光触媒粒子の粒子径は,ZnOが約60nm,TiOが約10nm,NbおよびTaがいずれも100nmのものであった。
【0048】
耐汚染性の試験を行った鋼板としては,亜鉛めっき鋼板を基材とし,その最表面にメラミン架橋のポリエステル皮膜を約15μmの厚さで塗装したプレコート鋼板を使用した。上記で調製した表面処理液Aを鋼板にバーコータで塗布後,50秒後に板温が250℃となるような昇温条件を用いて最高温度250℃で熱処理を行い,光触媒粒子を含有する皮膜を有する表面処理鋼板を得た。形成した皮膜の厚さは約5μmであった。また,比較例として,メラミン架橋のポリエステル皮膜にアナタース型のTiO粒子を含有した皮膜を塗装した鋼板を使用して試験を行った。
【0049】
光触媒効果の検証は以下の方法によって行った。まず,(1) 屋外で鋼板の暴露試験を行い,雨だれ汚染および砂塵等に対する汚染を評価した。(2) 暴露試験では,効果が発現するまでに長い時間を必要とする場合があるため,簡易的な評価方法として,塗装した鋼板の表面に汚染物質(黒マジック,赤マジック,カレーペースト)を塗布し,紫外線の照射時間と汚染物質の除去の様子とを測定した。汚染物質の除去の程度は,表面の色を測定することによって行った。(3) 塗膜の劣化(損傷)の状況は,色と光沢を測定することによって行った。光触媒を含有する塗膜はほぼ透明であるため,色と光沢によって測定した塗膜の劣化状況は,もとのポリエステル皮膜の劣化の状態を少なからず含んだ結果である。試験結果の評価は,◎→○→△→×の4段階とした。それぞれの評価の基準を表3に示した。
【0050】
上記試験の結果を表1−2に示した。その結果,光触媒粒子を含有した皮膜を有する本実施例に係る表面処理金属(N0.1〜No.8)は,いずれも優れた耐汚染性を有していることがわかった。また,表には記載していないが,2T曲げ試験を行って曲げ加工性を試験したところ,比較材も含めたすべての表面処理鋼板において,皮膜のわれ,剥離とも認められず,優れた曲げ加工性を有していた。ただし,本発明で用いる無機−有機複合体をマトリックスとして用いた場合には,塗膜の劣化が著しく抑制されていることがわかった。これらの結果を総合的に評価して,本発明の表面処理金属は,耐汚染性に優れ,また,従来問題であった光触媒による皮膜の劣化も抑制されていることがわかった。
【0051】
(実施例2)
実施例1の表面処理液No.3から光触媒粒子を除いた組成の混合液(以下,表面処理液Aと称する)と,表面処理液Aに第2表に示した割合で光触媒粒子を添加することによりコーティング用の表面処理液Bとを調製した。使用した光触媒粒子は,いずれも実施例1と同じでものであった。
【0052】
塗装に使用した鋼板は,実施例1と同様,亜鉛めっき鋼板表面にメラミン架橋のポリエステル皮膜を約15μmの厚さで塗装したプレコート鋼板であった。この鋼板に,上記のようにして調製した表面処理液Aをバーコータを用いて塗布後,250℃に加熱して中間層を形成した。続いて中間層が形成された鋼板の表面に,光触媒粒子を添加した表面処理液Bをバーコータで塗布後,実施例1と同じ条件(50秒後に板温が250℃となるような昇温条件を用いて最高温度250℃)で熱処理を行い,最表面に光触媒粒子を含有する皮膜を形成した。すなわち,塗装鋼板の表面に保護層としての中間層と,光触媒を含有した耐汚染性皮膜の2層の皮膜を形成した。皮膜の厚さは中間層(保護層)が約1μm,最表面の皮膜が約5μmであった。
【0053】
皮膜の耐汚染性の試験は,実施例1で行った方法のうち(2)と(3)の方法によって行った。試験結果についても実施例1と同様に◎→○→△→×の4段階で評価した。
【0054】
評価の基準は表3に示した通りである。
【0055】
上記試験の結果を表2に併せて示した。2T曲げ試験を行って曲げ加工性を試験したところ,皮膜のわれ,剥離とも認められず,優れた曲げ加工性を有していた。表2の結果から,本実施例の表面処理金属は,耐汚染性に優れ,また表面の皮膜の劣化も著しく少ないことがわかった。本実施例で示したように,本発明で用いる無機−有機複合体皮膜を中間層(保護層)として形成し,さらにその表面に耐汚染性皮膜を形成し2層皮膜とすることで,皮膜の劣化をほとんど起こさずに,耐汚染性に優れた金属を得ることができる。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
以上,本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒活性を示す皮膜を少なくとも有する表面処理金属であって,
前記光触媒活性を示す皮膜は,主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ,炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を含む,無機−有機複合体皮膜であることを特徴とする,表面処理金属。
【請求項2】
前記光触媒活性を示す皮膜に含まれる有機基は,フェニル基であることを特徴とする,請求項1に記載の表面処理金属。
【請求項3】
前記光触媒活性を示す皮膜の下層に,主骨格の主要結合がシロキサン結合であり,かつ,炭素数1以上12以下のアルキル基,アリール基,カルボキシル基,アミノ基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1種の有機基を含む,無機−有機複合体からなる中間層を有することを特徴とする,請求項1に記載の表面処理金属。
【請求項4】
前記中間層に含まれる有機基は,フェニル基であることを特徴とする,請求項3に記載の表面処理金属。
【請求項5】
前記無機−有機複合体の主骨格または側鎖のいずれか一方または双方の結合中に,エーテル結合またはアミノ結合のいずれか一方または双方を含むことを特徴とする,請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面処理金属。
【請求項6】
前記光触媒活性を示す皮膜は,光触媒活性を有する粒子を含有し,
前記光触媒活性を有する粒子は,アナタース型の構造を含む酸化チタンであることを特徴とする,請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面処理金属。
【請求項7】
基材となる金属が,金属板であることを特徴とする,請求項1〜6のいずれか1項に記載の表面処理金属。
【請求項8】
前記金属板は,鋼板,ステンレス鋼板,チタン板,チタン合金板,アルミニウム板,アルミニウム合金板,および前記各金属板にめっき処理しためっき金属板からなる群より選択される1種であることを特徴とする,請求項7に記載の表面処理金属。
【請求項9】
前記金属板は,有機塗膜を有する塗装金属板であることを特徴とする,請求項7または8に記載の表面処理金属。
【請求項10】
テトラアルコキシシランと;
炭素数1〜12のアルキル基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物と,アリール基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物とからなる群より選択される1種以上と;
光触媒活性を有する粒子と;
を少なくとも含むことを特徴とする,表面処理液。
【請求項11】
エポキシ基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物と,アミノ基を有するアルコキシシランおよびその加水分解物とからなる群より選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする,請求項10記載の表面処理液。
【請求項12】
前記光触媒活性を有する粒子は,アナタース型の構造を含む酸化チタンであることを特徴とする,請求項10または11に記載の表面処理液。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の表面処理液を,金属表面に塗布後,硬化させることを特徴とする,表面処理金属の製造方法。


【公開番号】特開2006−192716(P2006−192716A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6800(P2005−6800)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】