説明

表面増強ラマン散乱レポーターとしての近赤外色素

式A−Yの表面増強ラマン散乱(SERS)レポーター分子を含むナノ粒子およびその使用方法が開示され、式中、Aは式(I)からなる群から選択され、X1はCR4またはNであり、Yは式(II)からなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示されている発明対象は、近赤外色素および表面増強ラマン散乱(SERS)レポーター分子としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
分子に特定の周波数の光子を照射すると、光子が散乱する。入射光子の大半は、周波数が変化することなく弾性的に散乱されるが(レイリー散乱)、入射光子のわずかな部分(108に対し約1の割合)は、照射された分子の振動モードと相互作用し、非弾性的に散乱される。非弾性的に散乱された光子は、周波数の偏移を起こし、周波数が高くなるか(反ストーク)、または周波数が低くなるか(ストーク)のいずれかである。非弾性的に散乱される光子の周波数をその強度に関してプロットすることにより、分子の固有なラマンスペクトルが観察される。しかし、従来のラマン分光法の感度は低いため、標的分析対象(単数または複数)が典型的には少量存在する生体試料を特徴付けるための使用は制限されている。
【0003】
ラマン活性分子が、金属表面上に吸着されるか、または金属表面に近接している、例えば、約50Å以内の近さにある場合、ラマン活性分子から発生するラマンシグナルの強度を増強することができる。この増強は、表面増強ラマン散乱(SERS)効果と称される。SERS効果は、銀電極粗面上に吸着されたピリジンから強いラマン散乱が生じたことを観察したFleishmanらによって1974年に初めて報告された。(例えば、非特許文献1参照。また非特許文献2および非特許文献3参照。)これ以来、SERSは、金属表面上に吸着された多数の異なる分子について観察されてきた。(例えば、非特許文献4参照。)
【0004】
SERS増強の大きさは、金属表面における電磁場に関する吸着分子中に存在するさまざまな結合の位置および配向を含む多数のパラメータに依存する。SERSが生じるメカニズムは、(i)入射光の局所的強度を増強する金属中の表面プラズモン共鳴と(ii)金属表面とラマン活性分子との間の電荷移動錯体の形成およびその後の遷移との組合せから生じる結果であると考えられている。
【0005】
SERS効果は、金属ナノ粒子を含む、コロイド粒子、誘電体基材上の金属膜、および金属粒子アレイ上に吸着されているか、または近接しているラマン活性分子で観察できる。例えば、Kneippらは、色素、クレシルバイオレットの単分子がコロイド状銀ナノ粒子の凝集塊上に吸着されることを検出したことを報告した。(例えば、非特許文献5参照。)その同じ年に、NieとEmoryは、表面増強共鳴ラマン分光(SERRS)シグナルを観察したが、そこでは、ラマン活性分子の吸収エネルギーとナノ粒子の吸収エネルギーとの間の共鳴が、単一の銀ナノ粒子上に吸着された色素分子の約1010から約1012の大きさの増強を生じ、このナノ粒子は球形から棒状に至るまでいろいろであり、寸法は約100nmであった。(例えば、非特許文献6および非特許文献7参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,344,272号明細書
【特許文献2】米国特許第6,685,986号明細書
【特許文献3】米国特許第6,699,724号明細書
【特許文献4】米国特許第6,913,825号明細書
【特許文献5】PCT国際特許出願第PCT/US2008/057700号
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0078908号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0280652号明細書
【特許文献8】米国特許出願第11/738,442号明細書
【特許文献9】米国特許第6,514,767号明細書
【特許文献10】米国特許第5,266,498号明細書
【特許文献11】PCT国際特許出願第PCT/US2005/000171号
【特許文献12】米国特許第5,472,881号明細書
【特許文献13】米国特許第7,169,556号明細書
【特許文献14】米国特許第7,002,679号明細書
【特許文献15】米国特許第5,860,937号明細書
【特許文献16】米国特許第5,906,744号明細書
【特許文献17】米国特許第6,821,789号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2006/0054506号明細書
【特許文献19】米国特許出願公開第2006/0046313号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fleishman et al., "Raman spectra of pyridine adsorbed at a silver electrode," Chem. Phys. Lett., 26, 163 (1974)
【非特許文献2】Jeanmaire, D. L., and Van Dyne, R. P., "Surface Raman spectroelectrochemistry. 1. Heterocyclic, aromatic, and aliphatic-amines absorbed on anodized silver electrode." J. Electroanal. Chem., 84(1), 1-20 (1977)
【非特許文献3】Albrecht, M. G., and Creighton, J. A.,, "Anomalously intense Raman spectra of pyridine at a silver electrode," J.A.C.S., 99, 5215-5217 (1977)
【非特許文献4】A. Campion, A. and Kambhampati, P., "Surface-enhanced Raman scattering," Chem. Soc. Rev., 27, 241 (1998)
【非特許文献5】Kneipp, K. et al., "Single molecule detection using surface-enhanced Raman scattering (SERS), Phys. Rev. Lett., 78(9), 1667-1670 (1997)
【非特許文献6】Nie, S., and Emory, S. R., "Probing single molecules and single nanoparticles by surface-enhanced Raman scattering," Science, 275, 1102-1106 (1997)
【非特許文献7】Emory, S. R., and Nie, S., "Near-field surface-enhanced Raman spectroscopy on single silver nanoparticles," Anal. Chem., 69, 2631 (1997)
【非特許文献8】Frens. G., Nat. Phys. Sci, 241, 20 (1972)
【非特許文献9】Averitt, R. D., et al., "Ultrafast optical properties of gold nanoshells," JOSA B, 16(10), 1824-1832 (1999)
【非特許文献10】Cao, Y. W., et al., "DNA-modified core-shell Ag/Au nanoparticles," J. Am. Chem. Soc., 123(32), 7961-7962 (2001)
【非特許文献11】Mucic, et al., "DNA-directed synthesis of binary nanoparticle network materials," J. Am. Chem. Soc., 120(48), 12674 (1998)
【非特許文献12】Jackson, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 101(52): 17930-5 (2004)
【非特許文献13】Nicewarner-Pena, S. R., et al., "Submicrometer metallic barcodes," Science, 294, 137-141 (2001)
【非特許文献14】Walton, I. D., et al., "Particles for multiplexed analysis in solution: detection and identification of striped metallic particles using optical microscopy," Anal. Chem. 74, 2240-2247 (2002)
【非特許文献15】Smith, E. R. and Storch, J., J. Biol. Chem., 274 (50):35325-35330 (1999)
【非特許文献16】Looger, L. L., et al., Nature 423 (6936): 185-190 (2003)
【非特許文献17】Taylor, S., et al., "Impact of Surface Chemistry and Blocking Strategies on DNA Microarrays," Nucleic Acids Research, 31(16), e87 (2003)
【非特許文献18】Dubertret, B., et at, "In Vivo Imaging of Quantum Dots Encapsulated in Phospholipid Micelles," Science, 298, 1759-1762 (2002)
【非特許文献19】O'Shannessy, D. J. and Hoffman, W. L., Biotechnol. Appl. Biochem. 9, 488-496 (1987)
【非特許文献20】Hoffman, W. L. and O'Shannessy, D. J., J. Immunol. Method, 112, 113-120 (1988)
【非特許文献21】Rohr, T. E., et al., "Immunoassay employing surface-enhanced Raman spectroscopy," Anal. Biochem., 182:388 (1989)
【非特許文献22】Ni, J., et al., "Immunoassay Readout Method Using Extrinsic Raman Labels Adsorbed on Immunogold Colloids," Anal. Chem., 71:4903 (1999).
【非特許文献23】Hirsch et al., "A Whole Blood Immunoassay Using Gold Nanoshells," Anal. Chem., 75 (10), 2377-2381 (2003)
【非特許文献24】Polancyzk, C. A., et al., "Cardiac troponin I as a predictor of major cardiac events in emergency department patients with acute chest pain," J. Am. Coll. Cardiol, 32, 8-14 (1998).
【非特許文献25】Whitesides, Proceedings of the Robert A. Welch Foundation 39th Conference On Chemical Research Nanophase Chemistry, Houston, Tex., pp. 109-121 (1996)
【非特許文献26】Mucic et al., Chem. Commun. 555-557 (1996)
【非特許文献27】Burwell, Chemical Technology, 4, 370-377 (1974)
【非特許文献28】Matteucci and Caruthers, J. Am. Chem. Soc., 103, 3185-3191 (1981)
【非特許文献29】Grabar et al., Anal. Chem., 67, 735-743 (1995)
【非特許文献30】Nuzzo et al., J. Am. Chem. Soc., 109,2358(1987)
【非特許文献31】Allara and Nuzzo, Langmuir, 1, 45 (1985)
【非特許文献32】Allara and Tompkins, J. Colloid Interface Sci, 49, 410-421 (1974)
【非特許文献33】Iler, The Chemistry Of Silica, Chapter 6, John Wiley & Sons, New York (1979)
【非特許文献34】Timmons and Zisman, J. Phys. Chem., 69, 984-990 (1965)
【非特許文献35】Soriaga and Hubbard, J. Am. Chem. Soc., 104, 3937 (1982)
【非特許文献36】Hubbard, Acc. Chem. Res., 13, 177 (1980)
【非特許文献37】Hickman et al., J. Am. Chem. Soc., 111, 7271 (1989)
【非特許文献38】Maoz and Sagiv, Langmuir, 3, 1045 (1987)
【非特許文献39】Maoz and Sagiv, Langmuir, 3, 1034 (1987)
【非特許文献40】Wasserman et al., Langmuir, 5, 1074 (1989)
【非特許文献41】Eltekova and Eltekov, Langmuir, 3, 951 (1987)
【非特許文献42】Lec et al., J. Phys. Chem., 92, 2597 (1988)
【非特許文献43】Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed. 1989)
【非特許文献44】F. Eckstein (ed.) Oligonucleotides and Analogues, 1st Ed. (Oxford University Press, New York, 1991).
【非特許文献45】B. D. Hames and S. J. Higgins. Eds., Gene Probes 1 (IRL Press, New York, 1995)
【非特許文献46】Nabiev, I. R., et al., "Selective analysis of antitumor drug interactions with living cancer cells as probed by surface-enhanced Raman spectroscopy, Eur. Biophys. J., 19, 311-316 (1991)
【非特許文献47】Morjani, H., et al., "Molecular and cellular interactions between intoplicine, DNA, and topoisomerase II studied by surface-enhanced Raman scattering spectroscopy," Cancer Res., 53, 4784-4790 (1993)
【非特許文献48】Breuzard, G., et al., "Surface-enhanced Raman scattering reveals adsorption of mitoxantrone on plasma membrane of living cells," Biochem. Biophys. Res. Comm. , 320, 615-621 (2004)
【非特許文献49】Kneipp, K., et al., "Surface-enhanced Raman spectroscopy in single living cells using gold nanoparticles," Appl. Spectrosc, 56(2), 150-154 (2002)
【非特許文献50】Talley, et al., "Nanoparticle Based Surface-Enhanced Raman Spectroscopy," NATO Advanced Study Institute: Biophotonics, Ottawa, Canada (January 6, 2005)
【非特許文献51】Tkachenko, A. G., et al., "Cellular trajectories of peptide -modified gold particle complexes: comparison of nuclear localization signals and peptide transduction domains," Bioconjugate Chem., 15, 482-490 (2004)
【非特許文献52】Tuchin, V. V., Handbook of optical biomedical diagnostics, Bellingham, Wash., USA: SPIE Press, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SERSまたはSERRS効果によりシグナルが増強されたとしても、ラマン分光法の利用は、高い感度を必要とする診断アッセイおよび用途に制限されうる。したがって、当技術分野で知られているSERS活性レポーター分子と比較して高いラマンシグナルを発生するSERS活性レポーター分子が当技術分野では必要とされる。本明細書で開示されている発明対象は、当技術分野におけるこれらのニーズおよび他のニーズの全部または一部に応える。
【課題を解決するための手段】
【0009】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、式
A−Y
の表面増強ラマン散乱(SERS)活性レポーター分子を含むナノ粒子を提供し、
式中、
Aは、
【0010】
【化1】

【0011】
からなる群から選択され、
式中、X1は、CR4またはNであり、
Yは、
【0012】
【化2】

【0013】
からなる群から選択され、
ただし、式中、
r、s、およびtは、それぞれ独立に1から8までの整数であり、
2およびX3はそれぞれ次の前提条件の下で、C、S、およびNからなる群から独立に選択され、当該前提条件は(i)X2がCまたはSのときにR5はZであるか、またはX3がCまたはSのときに、R6はZであり、Zは以下で定義され、(ii)X2とX3の両方が同時にNである場合、R5およびR6のうちの少なくとも一方は存在せず、(iii)X2がNであるとき、R5は存在すればZ’であるか、またはX3がNであるとき、R6は存在すればZ’であり、Z’は、
−(CH2n−X4;−NR8−(CH2p−X5;−(CH2q6C(=O)−R9
【0014】
【化3】

【0015】
からなる群から選択され、
式中、
n、p、q、u、およびvは、それぞれ独立に、1から8までの範囲の整数であり、
4およびX5は、ヒドロキシル、アミノ、およびチオールからなる群からそれぞれ独立に選択され、
6は、OまたはNR11であり、
式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R8、R10、R11、およびZはそれぞれ、H、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、アルコキシシクロアルキル、アミノアルキル、アシルオキシル、アルキルアミノアルキル、およびアルコキシカルボニルからなる群から独立に選択され、
7は、Z’であり、
9は、−(CH2m−X7または−(CH2m−Bであり、式中、
mは、1から8までの整数であり、
7は、ハロゲンであり、
Bは、検出すべきリガンドまたは分析対象に対し結合親和性を有する結合要素である。
【0016】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、分子、細胞、ビーズ、または固相担体を標識するための方法を提供し、この方法は、(a)分子、細胞、ビーズ、または固相担体のうちの少なくとも1つを提供するステップと、(b)粒子を分子、細胞、ビーズ、または固相担体のうちの少なくとも1つに付着させるステップとを含み、粒子は式A−Yの色素が会合している表面増強ラマン分光法(SERS)活性ナノ粒子を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、生体試料中の1つまたは複数の分析対象の存在または量を検出するための方法を提供し、この方法は、(a)1つまたは複数の分析対象を含むことが疑われる生体試料を提供するステップと、(b)1つまたは複数の分析対象に対し親和性を有する少なくとも1つの特異的結合要素が会合している1つまたは複数のSERS活性ナノ粒子および式A−Yの少なくとも1つのSERS活性レポーター分子を含む試薬に生体試料を接触させるステップと、(c)ある波長の入射光を生体試料に照射してSERS活性レポーター分子にSERSシグナルを発生させるステップと、(d)SERSシグナルを測定して、生体試料中の1つまたは複数の分析対象の存在または量を検出するステップとを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、試料細胞中の1つまたは複数の標的構造の存在を検出するための方法を提供し、この方法は、(a)1つまたは複数の結合要素を試料細胞中の1つまたは複数の標的構造に結合するのに適している条件の下で1つまたは複数の結合要素で標識された1つまたは複数のSERS活性ナノ粒子に1つまたは複数の試料細胞を接触させるステップであって、該SERS活性ナノ粒子は区別可能なラマンシグナルを発生することができる式A−Yの色素が会合しているステップと、(b)試料細胞から1つまたは複数の区別可能なSERSシグナルを検出して、試料細胞中の1つまたは複数の標的構造の存在を示すステップとを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、式A−Yの少なくとも1つのSERS活性レポーター分子が会合している1つまたは複数の表面増強ラマン分光法(SERS)活性ナノ粒子を含む試薬を備えるキットを提供する。
【0020】
したがって、本明細書で開示されている発明対象の目的は、式A−YのSERS活性レポーター分子を含むナノ粒子を提供することである。本明細書で開示されている発明対象の他の目的は、式A−YのSERS活性レポーター分子を含むナノ粒子で、分子、細胞、ビーズ、または固相担体を標識するための方法を提供することである。本明細書で開示されている発明対象のさらに他の目的は、生体試料中の1つまたは複数の分析対象の存在または量を検出するための方法を提供することである。本明細書で開示されている発明対象の他の目的は、試料細胞中の1つまたは複数の標的構造の存在を検出するための方法を提供することである。本明細書で開示されている発明対象の他の目的は、式A−Yの少なくとも1つのSERS活性レポーター分子が会合している1つまたは複数の表面増強ラマン分光法(SERS)活性ナノ粒子を含む試薬を備えるキットを提供することである。
【0021】
上述の本明細書で開示されている発明対象のいくつかの目的は本明細書で開示されている発明対象によって全部または一部取り扱われているが、以下において最もよく説明されている付属の実施例および図面とともに読むと説明が進行するにつれ他の目的も明らかになる。
【0022】
本明細書で開示されている発明対象について一般的に説明しているが、その際に、必ずしも縮尺通りでない付属の図面を参照することにする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】当技術分野で知られているラマンレポーター分子、例えば、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エチレン(BPE)(点線)から得られるラマンスペクトル、および本明細書で開示されている近赤外色素、例えば、クマリンピコリニウム(CoPic)のラマンスペクトルを示す図である。
【図2】60nmの球状金ナノ粒子に吸着した、非蛍光ラマン分子および市販の色素を用いて観察されたラマン強度の比較を示す図である。図2Aは60nmの金ナノ粒子に吸着した非蛍光ラマン分子のラマン強度を示す図である。図2Bは60nmの球状金ナノ粒子に吸着した市販の色素のラマン強度を示す図である。
【図3】図3Aおよび3Bは、市販のラマンレポーター分子と市販の色素のラマン強度の比較を示す図(図3A)、および球状金ナノ粒子に吸着した本明細書で開示されている近赤外色素のラマン強度の比較を示す図(図3B)である。
【図4】本明細書で開示されている近赤外色素の代表的実施形態の化学構造を示す図である。
【図5】本明細書で開示されている発明対象の一実施形態によりポリエチレングリコール(PEG)リンカーを介して磁性粒子(M)およびSERS活性ナノ粒子に固定化されたDNAプローブを示す略図である(わかりやすくするためプローブは1つだけ示されており、しかも縮尺通りでない)。
【図6A】本明細書で開示されている磁気捕捉アッセイからの代表的なSERSスペクトルを示す図である。空の試料チューブ(実線)および標的DNAが存在しない場合にオリゴヌクレオチドでコーティングされた磁性粒子と会合しているオリゴヌクレオチドでコーティングされたSERS活性ナノ粒子(破線)のSERSスペクトルを示し、オリゴヌクレオチドがビオチンストレプトアビジン会合を通じてSERS活性ナノ粒子および磁性粒子にそれぞれ直接付着している。
【図6B】本明細書で開示されている磁気捕捉アッセイからの代表的なSERSスペクトルを示す図である。オリゴヌクレオチドがポリエチレングリコールリンカー分子を介してSERS活性ナノ粒子および磁性粒子にそれぞれ直接付着している、標的DNAが存在しない場合にオリゴヌクレオチドでコーティングされた磁性粒子と会合しているオリゴヌクレオチドでコーティングされたSERS活性ナノ粒子の代表的なSERSスペクトルを示す。
【図6C】本明細書で開示されている磁気捕捉アッセイからの代表的なSERSスペクトルを示す図である。オリゴヌクレオチドがポリエチレングリコールリンカー分子を介してSERS活性ナノ粒子および磁性粒子にそれぞれ直接付着している、標的DNAが存在しない場合にオリゴヌクレオチドでコーティングされた磁性粒子と会合しているオリゴヌクレオチドでコーティングされたSERS活性ナノ粒子の代表的なSERSスペクトルを示す。図6Bと同じデータがより細かいスケールで示され、破線によって空の試料チューブのSERSスペクトルが表され、実線によってアッセイシグナルが表されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本明細書で開示されている発明対象の、すべてではないが、いくつかの実施形態が示されている、付属の図面を参照しつつ、本明細書で開示されている発明対象についてさらに詳しく以下で説明する。本明細書に記載されている、本明細書で開示されている発明対象の多くの修正形態および他の実施形態は、本明細書で開示されている発明対象が関係する当業者であれば前記の説明および関連する図面に提示されている教示を利用して思い付くものである。したがって、本明細書で開示されている発明対象は、開示されている特定の実施形態に限定されず、また修正形態および他の実施形態は、付属の請求項の範囲内に含まれることを意図されていることは理解されるであろう。本明細書では特定の用語が使用されているが、これらの用語は、一般的で説明的な意味でのみ使用され、制限することを目的としていない。
【0025】
「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」という語は、請求項を含めて、本出願で使用される場合に「1つまたは複数」を指す。したがって、例えば、「試料(a sample)」への言及は、文脈上明らかに反していない限り(例えば、複数の試料である場合)、複数の試料を含み、他も同様である。
【0026】
本明細書および請求項の全体を通して、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」という語は、文脈上排他的な意味を必要とする場合を除き、非排他的な意味で使用される。
【0027】
本明細書で使用されているような「約(about)」という語は、値に言及する場合、指定された量から、いくつかの実施形態では±50%、いくつかの実施形態では±20%、いくつかの実施形態では±10%、いくつかの実施形態では±5%、いくつかの実施形態では±1%、いくつかの実施形態では±0.5%、いくつかの実施形態では±0.1%の変動を包含することを意図されており、そのような変動は、開示されている方法を実施するか、または開示されている組成物を採用するうえで適切な量である。
【0028】
1.近赤外SERS活性レポーター分子を含むナノ粒子
本明細書で開示されている発明対象は、近赤外色素および、本明細書ではSERS活性分子、SERS活性色素、またはSERS活性標識とも称されるSERS活性レポーター分子としてのその使用を提供する。「レポーター分子」は、固有波長の放射線を照射されたときにラマンスペクトルを発生することができる分子または化合物を指す。「レポーター分子」は、本明細書では、「標識」、「色素」、「ラマン活性分子」、または「SERS活性分子」とも称され、それぞれの用語は入れ替えて使用することができる。
【0029】
さらに詳しく説明されているように、ナノ粒子と会合した、つまり、ナノ粒子に吸着または付着したときの本明細書で開示されているSERS活性色素について観察されるSERSシグナルの強度は、SERS活性レポーター分子および当技術分野で知られている市販の色素について観察される強度よりも高い。本明細書で開示されているSERS活性色素について観察される増強されたSERSシグナルは、高感度を必要とする、検出方法としてラマン分光法を使用する診断アッセイ、組織および細胞の光学的撮像、および他の用途などの各種用途に使用できる。
【0030】
診断アッセイで使用される場合、本明細書で開示されているSERS活性色素について観察される増強されたSERSシグナルを使用することで、当技術分野で知られているSERS活性レポーター分子を使用して測定可能なものと比べて低い濃度で、これらに限定しないが、タンパク質、核酸、および代謝産物を含む、バイオマーカーを検出することができる。このより高い感度は、ラマンシグナルが全血または血清などの複合媒質を通過しなければならない用途、つまり、ラマンシグナルがそのような媒質を通じて伝送される用途に役立つ。さらに、対象とする分析対象に対し高い感度を示す診断アッセイは、被検体の健康状態または疾病状態を早期に検出するために必要になる場合がある。
【0031】
A.式A−Yの近赤外SERS活性レポーター分子を含むナノ粒子
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、式
A−Y
のSERS活性レポーター分子を含むナノ粒子を提供し、
式中、
Aは、
【0032】
【化4】

【0033】
からなる群から選択され、
式中、X1は、CR4またはNであり、
Yは、
【0034】
【化5】

【0035】
からなる群から選択され、
式中、
r、s、およびtは、それぞれ独立に1から8までの整数であり、
2およびX3はそれぞれ、次の前提条件の下で、C、S、およびNからなる群から独立に選択され、当該前提条件は(i)X2がCまたはSのときにR5はZであるか、またはX3がCまたはSのときに、R6はZであり、Zは以下で定義され、(ii)X2とX3の両方が同時にNである場合、R5およびR6のうちの少なくとも一方は存在せず、(iii)X2がNであるとき、R5は存在すればZ’であるか、またはX3がNであるとき、R6は存在すればZ’であり、Z’は、
−(CH2n−X4;−NR8−(CH2p−X5;−(CH2q6C(=O)−R9
【0036】
【化6】

【0037】
からなる群から選択され、
式中、
n、p、q、u、およびvは、それぞれ独立に、1から8までの範囲の整数であり、
4およびX5は、ヒドロキシル、アミノ、およびチオールからなる群からそれぞれ独立に選択され、
6は、OまたはNR11であり、
式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R8、R10、R11、およびZはそれぞれ、H、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、アルコキシシクロアルキル、アミノアルキル、アシルオキシル、アルキルアミノアルキル、およびアルコキシカルボニルからなる群から独立に選択され、
7は、Z’であり、
9は、−(CH2m−X7または−(CH2m−Bであり、ただし、式中、
mは、1から8までの整数であり、
7は、ハロゲンであり、
Bは、検出すべきリガンドまたは分析対象に対し結合親和性を有する結合要素である。
【0038】
いくつかの実施形態では、式A−Yの変数「A」は、クマリン核、アザクマリン核、ベンズオキサジアゾール核、または類似体もしくはその誘導体を含む。クマリン核、アザクマリン核、およびベンズオキサジアゾール核の代表的構造は、以下のとおりである。
【0039】
【化7】

【0040】
本明細書で使用されているような「類似体」は、親化合物の1つまたは複数の個別の原子または官能基が異なる原子または異なる官能基のいずれかで置き換えられている化合物を指す。例えば、チオフェンは、フランの類似体であり、五員フラニル環の酸素原子が硫黄原子で置き換えられたものである。
【0041】
本明細書で使用されているような「誘導体」は、親化合物から誘導されるか、または得られ、親化合物の必須元素を含むが、典型的には1つまたは複数の異なる官能基を有する化合物を指す。このような官能基を親化合物に加えることで、例えば、分子の溶解性、吸収性、生物学的半減期、ラマン活性、および同様のものを改善するか、あるいは分子の毒性を低減し、分子の望ましくない副作用をなくすか、または弱める、といったことを実現できる。親化合物の誘導体は、親化合物に対する化学的な修飾、付加、欠失、または置換を含むことを意図されている。いくつかの実施形態では、親化合物の誘導体は、誘導体の反応生成物、例えば、誘導体とアミノ酸残基との反応生成物を含むことができる。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、式A−Yの色素を含み、色素核は、アミノ酸、例えば、タンパク質のアミノ酸残基にコンジュゲートさせることができる、例えば、共有結合させることができる反応基を含む。誘導体の非限定的な例として、カルボン酸官能基を有する親化合物のエステルまたはアミドが挙げられる。
【0042】
いくつかの実施形態では、式A−YのSERS活性レポーター色素分子は、
【0043】
【化8】

【0044】
からなる群から選択され、
式中、X’は、ヒドロキシル、アミノ、およびチオールであり、R1およびR2は、上で定義されているとおりである。
【0045】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、結合ペアの特異的結合要素「B」とコンジュゲートさせることができる。特異的結合要素は、例えば、変数X’で表されるチオール基を通じて、SERS活性レポーター分子、例えば、式A−Yの化合物とコンジュゲートさせることができるか、またはナノ粒子それ自体に結合または他の何らかの方法で会合させることができる。本明細書で使用されているように、特異的結合要素は、特異的結合ペアの要素である。「特異的結合ペア」とは、2つの異なる分子のことであり、これらの分子の一方が化学的または物理的手段を通じて第2の分子に特異的に結合する。この意味で、分析対象は、特異的結合ペアの特異的結合の相互要素である。さらに、特異的結合ペアは、元の特異的結合パートナーの類似体、例えば、分析対象に類似の構造を有する分析対象類似体である要素を含むことができる。「類似」は、例えば、分析対象類似体が、当技術分野でよく知られているアライメントプログラムおよび標準パラメータを使用して分析対象のアミノ酸配列と比較して少なくとも約60%または65%の配列同一性、約70%または75%の配列同一性、約80%または85%の配列同一性、約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有することを意味する。分析対象の類似体は、さらに、分析対象と同じ機能を有することもできる。
【0046】
いくつかの実施形態では、結合要素は、結合タンパク質である。本明細書で使用されているように、「結合タンパク質」という用語は、SERS活性ナノ粒子とコンジュゲートされたときに、標的分析対象もしくはリガンドが存在するか、または存在しない場合、または標的分析対象またはリガンドが時間とともに変化する濃度で存在する場合から区別可能な検出可能ラマンシグナルを発生することができる形で特定の分析対象またはリガンドと相互作用するタンパク質を指す。「検出可能なシグナルを発生する」という用語は、結合要素分析対象、例えば、結合タンパク質リガンド結合の検出を可能にする方法でレポーター基、例えば、本明細書で開示されている色素の特性の変化を認識することができることを指す。さらに、検出可能なシグナルを発生することは、可逆または不可逆とすることができる。シグナル発生事象は、1回限りの、または再利用可能な用途を含む、連続的手段、プログラムされる手段、および一時的な手段を含む。可逆なシグナル発生事象は、分析対象の存在または濃度との相関が確定される限り、瞬間的なものとすることができるか、または時間に依存するものとすることができる。
【0047】
このような実施形態は、バイオセンサーとして使用できる。本明細書で使用されているように、「バイオセンサー」および「バイオセンサー化合物」という用語は、一般的に、リガンドまたは標的分析対象に対する特異反応の検出可能な変化を受ける化合物を指す。より詳細には、本明細書で開示されているバイオセンサーは、結合タンパク質などの生体高分子の分子認識特性を、リガンド結合でSERSシグナルを発生するSERS活性ナノ粒子と組み合わせたものである。
【0048】
式A−Yの本明細書で開示されている色素は、例えば、ナノ粒子に吸着されるか、またはナノ粒子に付着される、例えば、共有結合されるようにナノ粒子と会合することができる。一般に、「会合する」という用語は、2つの分子、または1つの分子とナノ粒子などの1つの粒子とが互いに近接する位置に保持されている状態を指す。実施例で詳細に示されているように、本明細書で開示されている色素を、数時間、例えば、4時間から6時間かけて適切な比率でナノ粒子溶液と混合すると、色素がナノ粒子表面に吸着される。1つの特定の理論に縛られることを望むことなく、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている色素は、変数「Y」で表されるピリジニウム陽イオン上の四級窒素を通じてナノ粒子と会合すると考えられる。
【0049】
本明細書で開示されている色素は、色素がナノ粒子に共有結合するように官能化できる。このような実施形態では、血液および血清などの複合媒質中の色素の安定性を改善することができる。本明細書で使用されているような「直接的付着」という用語は、いくつかの実施形態では、SERS活性レポーター分子をナノ粒子表面に共有結合させることを指す。間接的付着は、介在する化合物、分子、または同様のものを使用して実現できる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性レポーター分子は、当技術分野において知られている方法によって、ナノ粒子、例えば、金ナノ粒子に直接付着できる、チオール含有部分、例えば、上述のような変数X’などのリンカー、または以下でさらに詳しく説明されるように、ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを含むように修飾することができる。当業者に知られている非共有結合による付着方法を含む、SERS活性レポーター分子を会合する他の方法も、使用できる。
【0050】
SERS活性分子(単数または複数)に会合している、例えば、吸着または付着しているラマン増強ナノ粒子は、本明細書ではSERS活性ナノ粒子と称される。より詳細には、本明細書で称されているようなSERS活性ナノ粒子は、表面増強ラマン光散乱(SERS)または表面増強共鳴ラマン光散乱(SERRS)を誘起する、引き起こす、さもなければ支持する表面を有するナノ粒子を含む。粗面、織目のある表面、および滑らかな表面を含む他の表面を含む、多くの表面が、SERSシグナルを発生することができる。
【0051】
「ラマン散乱」は、一般的に、分子上に入射する光子の非弾性散乱を指す。非弾性散乱された光子は、入射光の周波数(v0)と異なる周波数(vi)を有する。入射光と非弾性散乱光とのエネルギーの差(ΔE)は、(ΔE)=h|v0−vi|と表すことができるが、ただし、hは、プランクの定数であり、分子によって吸収されるエネルギーに対応する。入射光は、周波数v0を有するものとすることができるが、典型的には、可視スペクトル領域において単色光である。差の絶対値|v0−vi|は、赤外振動数、例えば、振動周波数である。v0以外の周波数の光を発生するプロセスが、「ラマン散乱」と称される。「ラマン散乱」放射(radiation)の周波数v1は、v0以上または以下とすることができるが、周波数v1<v0の光(ストークス光)の量は、周波数v1>v0の光(反ストークス光)の量よりも大きい。
【0052】
本明細書で使用されているように、「放射(radiation)」という用語は、検査対象の試料、例えば、1つまたは複数の本明細書で開示されているSERS活性レポーター分子が会合するSERS活性ナノ粒子を含む試料中で表面増強ラマン散乱を誘起できる電磁放射の形態のエネルギーを指す。より具体的には、この「放射」という用語は、ナノ粒子の表面に、ナノ粒子表面に近いところにあるレポーター分子中に光散乱、例えば、ラマン散乱を誘起する、発する、支持する、さもなければ引き起こさせる電磁放射の形態のエネルギーを指す。
【0053】
「表面増強ラマン散乱」または「SERS」は、ラマン活性分子が金属表面上に吸着されるか、または近接している、例えば約50Åの範囲内の近さにある場合にラマン散乱シグナル、つまり強度が増強されたときに起こる現象を指す。このような状況の下で、ラマン活性分子から発生するラマンシグナルの強度を増強することができる。「表面増強共鳴ラマン散乱」または「SERRS」は、SERS活性ナノ粒子表面に近接しているレポーター分子が励起波長で共鳴するときに起こるSERSシグナルの増加を指す。
【0054】
本明細書で使用されているように、「ナノ粒子」、「ナノ構造」、「ナノ結晶」、「ナノタグ」、および「ナノコンポーネント」という用語は、入れ替えて使用することができ、また1nmから1000nmの間の整数値(約1、2、5、10、20、50、60、70、80、90、100、200、500、および1000nmを含む)を含む、約1nmから約1000nmの範囲内の少なくとも1つの寸法を有する粒子を指す。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、金属ナノ粒子である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、球形粒子、またはコア径が約2nmから約200nm(約2、5、10、20、50、60、70、80、90、100、および200nmを含む)である実質的に球形の粒子である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、約2nmから約100nm(約2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、および100nmを含む)のコア径を有し、いくつかの実施形態では、約20nmから100nm(約20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、および100nmを含む)のコア径を有する。当業者であれば、本明細書で開示されている発明対象を検討した後、本明細書で開示されているアッセイとともに使用するのに適しているナノ粒子が、ラマン効果を誘起するコア、例えば、金属コアを含むことができ、さらにナノ粒子構造のサイズ、例えば、全直径にも寄与することができる1つまたは複数の層のSERS活性物質、カプセル材料、および/または外殻構造を含んでもよいことを理解するであろう。
【0055】
本明細書で開示されている色素とともに使用するのに適しているSERS活性ナノ粒子は、典型的には、少なくとも1つの金属、つまり、一般に金属と呼ばれる、元素周期表から選ばれた少なくとも1つの元素を含む。好適な金属は、Cu、Ag、およびAuなどの第11族の金属、またはアルカリ金属などのSERSに対応できる当業者に知られている他の金属を含む。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、実質的に、単一の金属元素を含む。例えば、金ナノ粒子の生成については、非特許文献8において説明されている。他の実施形態では、ナノ粒子は、合金、例えば、二元合金などの少なくとも2つの元素の組合せを含む。いくつかの実施態様では、ナノ粒子は、磁性を有する。
【0056】
他の実施形態では、金属は、Au2S/Auコアシェル粒子などに追加の構成要素を含む。Au2S/Auコアシェル粒子は、広くチューニング可能な近赤外線光学共鳴を持つことが報告されている。(例えば、非特許文献9参照。)さらに、文献に記載されているようなAgコア/Auシェル粒子(例えば、非特許文献10参照)、またはAuコア/Agシェル粒子、またはSERS活性金属を伴う任意のコアシェルの組合せが使用できる。AuまたはAg官能化シリカ/アルミナコロイド、AuまたはAg官能化TiO2コロイド、Auナノ粒子キャップAuナノ粒子(例えば、非特許文献11参照)、Auナノ粒子キャップTiO2コロイド、および銀キャップSiO2コロイドまたは金キャップSiO2コロイドなどの、金属シェルとともにSiコアを有する粒子(つまり、「ナノシェル」)を含む、コアシェル粒子で使用するのに好適な他の組合せが、本明細書で開示されている発明対象とともに使用するのにも適している。(例えば、非特許文献12参照。また参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Oldenburgらの特許文献1および特許文献2参照。)バイオセンシング用途でこのようなナノシェルを使用することについて説明されている。(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれているWestらの特許文献3参照。)
【0057】
本明細書で開示されているSERS活性レポーター分子とともに使用するのに適している他のクラスのナノ粒子としては、内側面を有するナノ粒子がある。このようなナノ粒子は、中空粒子および中空ナノ結晶または多孔質もしくは半多孔質ナノ粒子を含む。(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれているOstafinらの特許文献4参照。)したがって、本明細書で開示されている発明対象は、さらに、SERSに対し活性のあるコアシェル粒子またはSERSに対し活性のある中空ナノ粒子を含むナノ粒子を提供する。いくつかの実施形態では、このようなナノ粒子は、改善されたSERSシグナルを示す場合がある。
【0058】
粒子形状およびアスペクト比は、ナノ粒子の物理的、光学的、および電子的特性に影響を及ぼすことがあると認識されるが、特定の形状、アスペクト比、または内部表面積の有無は、ナノ粒子としての粒子の性質に影響を与えない。したがって、本明細書で開示されている色素とともに使用するのに適しているナノ粒子は、さまざまな形状、サイズ、および組成を持つことができる。さらに、ナノ粒子は、中身が詰まっているもの、またはいくつかの実施形態では、すぐ上で説明されているように、中空のものとすることができる。好適なナノ粒子の非限定な例としては、コロイド金属の中空の、または中身が詰まっているナノバー、磁性、常磁性、導電性、または絶縁体のナノ粒子、合成粒子、ヒドロゲル(コロイドまたはバー)、および同様のものが挙げられる。当業者であれば、ナノ粒子は、限定はしないが、回転楕円体、棒、円板、錐体、立方体、円柱、ナノヘリクス、ナノスプリング、ナノリング、棒形ナノ粒子、矢形ナノ粒子、涙滴形ナノ粒子、台形ナノ粒子、角柱形ナノ粒子、ならびに複数の他の幾何学的および幾何学的形状を含む、さまざまな形状のものが存在できることを理解するであろう。
【0059】
さらに、本明細書で開示されている色素とともに使用するのに適しているナノ粒子は、等方性または異方性とすることができる。本明細書で参照されているように、異方性ナノ粒子は、長さと幅を有する。いくつかの実施形態では、異方性ナノ粒子の長さは、ナノ粒子が生成されたときの開口に平行な方向の寸法である。いくつかの実施形態では、異方性ナノ粒子は、約350nm以下の直径(幅)を有する。他の実施形態では、異方性ナノ粒子は、約250nm以下の直径(幅)を有し、またいくつかの実施形態では、約100nm以下の直径(幅)を有する。いくつかの実施形態では、異方性ナノ粒子の幅は、約15nmから約300nmまでである。さらに、いくつかの実施形態では、異方性ナノ粒子は、約10nmから350nmまでの間の長さを有する。
【0060】
SERSの文献の多く(実験の文献と理論の文献の両方)は、異方性粒子(棒、三角形、角柱)は、球形と比べてラマンシグナルの増強が高い場合があることを示唆している。例えば、いわゆる「アンテナ効果」から、ラマン増強が曲率の大きい領域では大きくなることが予測される。銀(Ag)角柱および「分枝した」金(Au)粒子を含む、異方性粒子の多くの報告が最近説明されている。
【0061】
異方性AuおよびAgナノロッドは、Nanobarcodes(登録商標)粒子(カリフォルニア州マウンテンビュー所在のOxonica Inc.社)の作製と同様の方法で、予成形アルミナ鋳型への電着により作製できる。(例えば、非特許文献13および非特許文献14参照。)これらの粒子は、予成形アルミナ鋳型への物質、典型的にはAuおよびAgの交互に重ねた層の蒸着により作製され、約250nmの直径および約6ミクロンの長さを持つことができる。
【0062】
本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、さらに、複合ナノ構造、例えば、サテライト構造およびコアシェル構造で使用するのに適しているものが開示されている(例えば、参照により本明細書に組み込まれている2008年3月20日に出願されたWeidemaierらの特許文献5参照)。
【0063】
B.官能化SERS活性ナノ粒子
さらに、本明細書で開示されているSERS活性色素を含むSERS活性ナノ粒子は、標的分析対象に結合することができる、結合ペアの特異的結合要素などの分子で官能化してもよい。標的分析対象を結合した後、SERS活性レポーター分子のSERSスペクトルは、標的分析対象の存在または量を判定できる形で変化する。官能化されたSERS活性ナノ粒子は、非官能化ナノ粒子に勝るいくつかの利点を有する。第1に、官能基が、標的分析対象との特異的相互作用を生じさせることによりナノ粒子にある程度の特異性を付与する。第2に、標的分析対象は、それ自体ラマン活性である必要はなく、その存在は、ナノ粒子に付着したラマン活性色素のSERSスペクトルの変化を観察することにより判定できる。このような測定は、本明細書では「間接的検出」と称され、生体試料中の標的分析対象またはリガンドの有無が、対象とする標的分析対象またはリガンドから直接的に発せられないSERSシグナルを検出することにより判定される。
【0064】
本発明で開示されているSERS活性ナノ粒子は、少なくとも2つの異なる方法で標的分析対象に結合するように官能化してもよい。いくつかの実施形態では、SERS活性レポーター分子、つまり、SERS活性色素は、結合ペアの特異的結合要素とコンジュゲートされるが、他の実施形態では、結合ペアの特異的結合要素は、ナノ粒子に直接付着してもよい。ナノ粒子コアがカプセル封入シェルによって少なくとも部分的に囲まれている実施形態では、この結合要素は、カプセル封入シェルの外面に付着することができる。
【0065】
1.結合ペアの特異的結合要素とコンジュゲートされたSERS活性レポーター分子と会合している官能化されたSERS活性ナノ粒子
いくつかの実施形態では、SERS活性ナノ粒子と会合しているSERS活性近赤外色素は、標的分析対象に結合するように官能化してもよい。このような官能化されたSERS活性ナノ粒子を結合アッセイと組み合わせて使用し、生体試料中のグルコース、乳酸塩、および脂肪酸などの代謝産物を含む、生理学的に重要な分子を検出することができる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性色素は、特異的リガンドまたは分析対象に対する親和性を有する、結合タンパク質または受容体などの特異的結合ペアの要素を含む、他の分子と色素を結合またはコンジュゲートするために使用できる反応基を含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、色素核は、天然または遺伝子組換または変異タンパク質中のシステインアミノ酸残基のチオール部分にコンジュゲートされうるチオール反応基を含んでもよい。本明細書で使用されているような「チオール反応基」という用語は、チオール部分と反応して炭素−硫黄結合を形成することができる置換基を指す。本明細書で開示されている色素中に導入できる好適なチオール反応基の例には、ハロアセチル基およびハロアセトアミド基を含む。いくつかの実施形態では、ハロアセチル基は、ヨードアセチル基を含み、ハロアセトアミド基は、ヨードアセトアミドまたはブロモアセトアミド基を含むことができる。当業者であれば、本明細書で開示されている発明対象を検討した後、マレイミド基などの当技術分野で知られている他のチオール反応基が本明細書で開示されている発明対象とともに使用するのに適していることを理解するであろう。
【0067】
本明細書で使用されているような「コンジュゲート」という用語は、適宜連結基を通じて結合し単一の分子構造を形成する2つ以上のサブユニットを含む分子を指す。結合は、サブユニット同士の間の直接的化学結合によって、または連結基を介してのいずれかで、形成できる。コンジュゲート中のこのような結合は、典型的には不可逆である。本明細書で使用されているように、「親和性」という用語は、特定の結合部位における結合ペアの一方の結合要素と他方の結合要素との間の引力の強さを指す。「特異性」という用語、およびその派生形は、結合要素が結合ペアの他方の要素に結合する可能性を指す。結合ペア、例えばリガンドもしくは分析対象の一方の結合要素、例えば、結合タンパク質と他方の結合要素との間のこのような結合は、可逆であってもよい。
【0068】
「特異的結合要素」という用語は、少なくとも1つの分離した、相補的結合分子が存在する分子を指す。特異的結合要素は、特異的分子に結合する、付着する、さもなければ会合する分子である。結合、付着、または会合は、化学的または物理的なものとすることができる。特異的結合要素の結合相手となる特異的分子は、限定はしないが、抗原、ハプテン、タンパク質、炭水化物類、ヌクレオチド配列、核酸、アミノ酸、ペプチド、酵素、および同様の物を含む、さまざまな分子のうちの任意のものとすることができる。さらに、特定の種類の特異的結合要素は、特定の種類の分子を結合する。このような場合、特異的結合要素は、「特異的結合ペア」と称する。したがって、抗体は、抗原に特異的に結合する。他の特異的結合ペアとしては、アビジンとビオチン、炭水化物類とレクチン、相補ヌクレオチド配列、相補ペプチド配列、酵素と酵素補因子、および同様の物がある。
【0069】
結合ペアの代表的な特異的結合要素が、以下でさらに詳しく開示される。
【0070】
2.結合ペアの特異的結合要素が直接付着しているSERS活性ナノ粒子
いくつかの実施形態では、特異的結合ペアの結合要素、例えば、モノクローナル抗体などの抗体は、ナノ粒子の表面またはナノ粒子をカプセルに封入するシェルの外面に直接付着してもよい。例示的な一実施形態では、結合ペアの特異的結合要素、例えば、モノクローナル抗体は、リンカー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)で処理され、PEGリンカーを通じてナノ粒子に直接付着できる。PEGリンカーなどのリンカーを使用すると、特異的結合要素の固有の特性および構造を保持することができ、またそのようなリンカーを使用すると、ナノ粒子への他の化学種の非特異的結合に立体障害を発生させることによって官能化ナノ粒子の特異性が高まる。PEGリンカーを通じて特異的結合要素が付着しているSERS活性ナノ粒子について、ここでさらに詳しく説明する(以下のセクションI.D.を参照)。
【0071】
結合要素によっては、PEG以外のリンカーを使用できることは、当業者であれば本明細書で開示されている発明対象を検討した後に理解するであろう。例えば、抗体およびペプチドのリンカーとしてアルカンチオールを使用できる。限定はしないが、N−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセテート(SATA)およびN−スクシンイミジル−S−アセチルチオプロピオネート(SATP)を含む、短鎖アルカンチオールは、スルフヒドリル脱保護の後にリンカーとして使用できる。他の特性も、リンカー鎖の長さなどのリンカーの選択を決定できる。例えば、PEGは、試薬の表面を保護する働きもし、また柔軟性を有するという点で望ましいものであり、対象とする分析対象に結合する試薬の能力を増強させることができる。
【0072】
1つまたは複数のSERS活性レポーター分子を有し、かつ特異的結合要素がそれに付着しているナノ粒子を、適切な媒質、例えば、緩衝液中に配置して、SERS活性試薬を形成することができる。
【0073】
3.代表的な結合要素
いくつかの実施形態では、SERS活性レポーター分子を介して本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子とコンジュゲートされているか、またはナノ粒子それ自体の外面に直接付着されている結合要素は、ポリペプチドまたはタンパク質を含む。本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子とともに使用するのに適している代表的な結合タンパク質としては、限定はしないが、ペリプラズム結合タンパク質(PBP)を含む。PBPの例としては、限定はしないが、グルコースガラクトース結合タンパク質(GGBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、リボース結合タンパク質(RBP)、アラビノース結合タンパク質(ABP)、ジペプチド結合タンパク質(DPBP)、グルタメート結合タンパク質(GluBP)、鉄結合タンパク質(FeBP)、ヒスチジン結合タンパク質(HBP)、ホスフェート結合タンパク質(PhosBP)、グルタミン結合タンパク質(QBP)、オリゴペプチド結合タンパク質(OppA)、またはこれらの誘導体、さらにはペリプラズム結合タンパク質様I(PBP−like I)およびペリプラズム結合タンパク質様II(PBP−like II)と称されるタンパク質族に属す他のタンパク質が挙げられる。本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子とともに使用するのに適している他の結合タンパク質については、文献に説明がある(それぞれ参照により本明細書に組み込まれているPitnerらの特許文献6および7ならびに2007年4月20日に出願された特許文献8参照)。
【0074】
結合要素を含むことができるタンパク質の他の例としては、限定はしないが、腸脂肪酸結合タンパク質(FAPB)を含む。FABPは、少なくとも肝臓、腸、腎臓、肺、心臓、骨格筋、脂肪組織、異常皮膚、脂肪、内皮細胞、乳腺、脳、胃、舌、胎盤、睾丸、および網膜内に発現するタンパク質の一族である。このFABP群は、一般的に言えば、非共有結合性相互作用を通じて脂肪酸および他の疎水性リガンドを結合する小細胞内タンパク質(約14kDa)の一族である。(例えば、参照により本明細書に組み込まれている非特許文献15参照。)FABP族のタンパク質の要素は、限定はしないが、遺伝子FABP1、FABP2、FABP3、FABP4、FABP5、FABP6、FABP7、FABP(9)、およびMP2によってコードされたタンパク質を含む。FABPに属するタンパク質には、I−FABP、L−FABP、H−FABP、A−FABP、KLBP、mal−1、E−FABP、PA−FABP、C−FABP、S−FABP、LE−LBP、DA11、LP2、メラニン形成酵素阻害薬、および同様の物質を含む。
【0075】
他の結合要素としては、前立腺特異抗原(PSA)、クレアチンキナーゼMB(CKMB)アイソザイム、心臓トロポニンI(cTnI)タンパク質、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、インフルエンザA(Flu A)抗原、インフルエンザB(Flu B)抗原、および呼吸器合胞体ウイルス(RSV)抗原などの、標的分析対象の抗体を含む標的分析対象に対する親和性を有する特異的結合要素が挙げられる。このような標的分析対象に対する抗体は、当技術分野で知られている。
【0076】
本明細書で使用されているように、タンパク質またはポリペプチドの「誘導体」は、野生型タンパク質と実質的な配列同一性を共有するタンパク質またはポリペプチドである。本明細書で開示されている発明対象の誘導体タンパク質またはポリペプチドは、当業者によく知られている技術によって作られるか、または調製されうる。このような技術の例として、限定はしないが、突然変異生成および直接合成が挙げられる。誘導体タンパク質は、さらに、翻訳後プロセシングなどの自然過程によって、または当技術分野でよく知られている化学修飾技術によって修飾してもよい。このような修飾は、基礎的な教科書およびさらに詳細なモノグラフにおいて、さらには膨大な研究文献において十分に記載されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノまたはカルボキシル末端を含む、ポリペプチド鎖中の任意の位置で起こってもよい。同じ種類の修飾は、与えられたポリペプチドまたはタンパク質中の複数の部位に同じ程度で、または程度をさまざまに変えて存在することができることは理解されるであろう。また、所与のポリペプチドまたはタンパク質は、複数の修飾を含んでもよい。誘導体タンパク質の例として、限定はしないが、変異および融合タンパク質が挙げられる。
【0077】
「変異タンパク質」は、本明細書において、当技術分野で知られているとおりに使用される。一般に、変異タンパク質は、タンパク質またはポリペプチドの野生型一次構造の付加、欠失、または置換によって生成できる。突然変異は、例えば、システイン基、非天然アミノ酸、および実質的に非反応性のアミノ酸を反応性のアミノ酸で置き換えたものの付加または置換を含む。変異タンパク質は、特異的な方法で複数の分析対象を結合するように突然変異させることができる。実際、変異タンパク質は、野生型分析対象および他の標的リガンドに向かう特異性を持つことができる。同様に、変異タンパク質は、野生型結合タンパク質が結合しない1つまたは複数の分析対象のみと結合する能力を持つことができる。変異タンパク質を生成する方法は、当技術分野でよく知られている。例えば、参照により本明細書に組み込まれている非特許文献16には、タンパク質の新しい分析対象結合特性をもたらすペリプラズム結合タンパク質内の結合部位を再設計するための方法が文開示されている。これらの変異結合タンパク質は、分析対象結合後に直接生成シグナルを発生することができる、立体構造変化を受ける能力を保持する。Loogerらは、5と17の間にアミノ酸変化を導入することによって、それぞれがTNT(トリニトロトルエン)、L−乳酸塩、またはセロトニンに対する新しい選択性を持つ複数の変異タンパク質を構成した。
【0078】
突然変異は、複数ある目的のうちの1つまたは複数の目的に利用することができる。例えば、天然タンパク質を突然変異させることで、タンパク質の熱安定性を含む長期間安定性を変えること、タンパク質を特定のカプセル封入マトリックスまたはポリマーにコンジュゲートさせること、検出可能なレポーター基に対し結合部位を与えること、特定の分析対象に関する結合定数を調節すること、またはこれらの組合せを行うことができる。
【0079】
分析対象および変異タンパク質は、結合パートナーとして働くことができる。本明細書で使用されているような「会合」または「結合」という用語は、検出手段によってタンパク質への結合を検出することを可能にする十分に強い相対的結合定数(Kd)を有する結合パートナーを指す。Kdは、タンパク質の一方の半分、または他方の半分が結合される遊離分析対象の濃度として計算できる。対象とする分析対象がグルコースである場合、結合パートナーに対するKd値は、約0.0001mMから約50mMまでの範囲内にある。
【0080】
本明細書で開示されているSERS活性レポーター分子は、当技術分野で知られている従来の手段によって変異タンパク質、例えば、GGBPに付着できる。例えば、レポーター分子は、タンパク質上のアミンまたはカルボキシル残基を介してタンパク質にコンジュゲートできる。例示的な実施形態には、変異または天然タンパク質のシステイン残基上のチオール基を介した共有結合が含まれる。例えば、変異GGBPでは、システインは、位置10、位置11、位置14、位置15、位置19、位置26、位置43、位置74、位置92、位置93、位置107、位置110、位置112、位置113、位置137、位置149、位置152、位置154、位置182、位置183、位置186、位置211、位置213、位置216、位置238、位置240、位置242、位置255、位置257、位置287、位置292、位置294、および位置296に配置できる。
【0081】
C.カプセル封入SERS活性ナノ粒子
SERS活性金属ナノ粒子は、水溶液中で凝集する傾向を有し、いったん凝集すると、再度分散することが困難である。さらに、いくつかのラマン活性分子の化学組成は、タンパク質などの他の分子を金属ナノ粒子に付着させるために使用される化学作用と相容れない。これらの特性は、ラマン活性分子、付着化学作用、および金属ナノ粒子に付着される他の分子の選択を制限することがある。
【0082】
したがって、いくつかの実施形態では、式A−Yの本明細書で開示されているSERS活性色素は、ナノ粒子に被着される、例えば、吸着されるか、または共有結合されるときに、例えばポリマー、ガラス、またはセラミック材料を含む異なる材料のシェル内にコーティングされるか、またはカプセル封入されるようにしてもよい。このような実施形態は、本明細書では「複合SERS活性ナノ粒子」と称する。複合SERS活性ナノ粒子を作製するための方法は、文献で説明されている(例えば、参照により本明細書に組み込まれているNatanの特許文献9参照)。
【0083】
本明細書で開示されている複合SERS活性ナノ粒子は、金属ナノ粒子、金属ナノ粒子の表面に近接する1つまたは複数の本明細書で開示されている色素のサブ単分子層、単分子層、または多分子層を含むことができる。「近接する」という用語は、ナノ粒子の外面から約50nm以下の範囲内を意味することが意図されている。ナノ粒子コアの外面に付着している1つまたは複数の本明細書で開示されている色素のサブ単分子層、単分子層、または多分子層を有するナノ粒子は、さらに、カプセル封入シェルを含むことができる。このような実施形態では、本明細書で開示されている色素は、金属ナノ粒子の外面とカプセル封入シェルの内面との間の界面に配置される。
【0084】
複合ナノ粒子を含むナノ粒子コアは、直径が約20nmから約200nmである金属球、例えば、金、銀、または銅の球体とすることができる。いくつかの実施形態では、ナノ粒子コアは、金属の偏球または長球を含む。ナノ粒子コアの直径は、一部には入射光の波長に基づき選択できる。例えば、赤色入射光、つまり、約600nmの波長を有する入射光を使用するSERSでは、最適なSERS応答は、約60nmの直径を有する金ナノ粒子コアを使って得られる。
【0085】
いくつかの実施形態では、カプセル封入シェルは、ポリマー、ガラス、金属、TiO2およびSnO2などの金属酸化物、金属硫化物、またはセラミック材料などの誘電体材料を含む。いくつかの実施態様では、カプセル材料は、ガラス、例えば、SiOxである。本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子をガラスに封入するために、ガラスプライマー、つまり、ガラスの一様なコーティングの成長をもたらすことができるか、または粒子へのガラスコートの接着度を改善できるか、またはその両方が可能な材料で金属ナノ粒子コアを処理することができる。次いで、ガラスを、当技術分野で知られている標準的技術によって金属ナノ粒子上で成長させることができる。
【0086】
カプセル封入プロセスは、1つまたは複数の本明細書で開示されている色素をコアナノ粒子に付着または吸着した後に、または付着または吸着しているときに実行できる。この方法で、色素は、金属ナノ粒子コアの表面上のコーティングとして周囲溶媒から封鎖される。このような構成で安定したSERS活性を有する金属ナノ粒子コアが形成される。色素は、金属ナノ粒子コアの表面上にサブ単分子層、完全な単分子層、または多分子層の集合を形成することができる。色素層は、単一の色素を含むか、または異なる色素の混合物とすることができる。
【0087】
したがって、いくつかの実施形態では、式A−YのSERS活性レポーター分子は、ナノ粒子コアの外面上に1つの層を形成し、その層は、少なくとも部分的に、ナノ粒子コアの外面を覆い、また内面と外面とで定められる。カプセル材料は、ナノ粒子コアの外面と式A−YのSERS活性レポーター分子の層の外面の少なくとも一方に配置され、SERS活性レポーター分子の層で少なくとも部分的に覆われているナノ粒子コアを少なくとも部分的に囲む。
【0088】
好ましくは、カプセル材料は、複合SERS活性ナノ粒子のSERS活性を測定にかかるほどには変化させない。しかし、本明細書で開示されている発明対象の利点は、SERS活性に干渉しないか、または観察されるSERSスペクトルに著しい複雑さを加えないという条件の下で、カプセル材料にある程度の測定可能な効果がある場合であっても達成される。
【0089】
さらに、いくつかの実施形態では、カプセル材料は、生体分子をはじめとする、複数の分子を外面に付着するように修飾され、例えば、当技術分野で知られている標準的技術によって誘導体化できる。この特性により、色素のラマン活性を妨げることなく、本明細書で開示されている複合SERS活性ナノ粒子を、タンパク質および核酸などの、生体分子を始めとする分子に、または固形担体にコンジュゲートさせることができる。ガラスおよびカプセル封入シェルに適している他の材料は、分子付着しやすい官能基を含む。例えば、好適なベース内にガラスを浸漬することで、アルキルトリクロロシランまたはアルキルトリアルコキシシランを共有結合させ、アルキルトリクロロシランまたはアルキルトリアルコキシシラン基のアルキル基の末端に利用可能な付加官能基を持たせることができる。したがって、ガラス表面は、細胞をはじめとする、多くの形態の生体分子および生体分子上部構造、さらには酸化物、金属、ポリマー、および同様の物で修飾できる。同様に、ガラスの表面は、適切に組織化されている単分子層で修飾できる。したがって、ガラスコーティングは、多くの種類の化学官能化(本明細書では「誘導体化」と称する)を支える。他の形態のカプセル材も、同様に官能化してもよい。したがって、本明細書で開示されているナノ粒子は、化学反応性の高い官能基を有する当技術分野で知られている化学種に付着させることができる。
【0090】
カプセル材料の厚さは、SERS活性ナノ粒子の必要な物理的特性に応じて変化できる。ナノ粒子コア、カプセル材料、および色素の特定の組合せに応じて、カプセル材料の厚いコーティング、例えば、1ミクロン以上のオーダーの厚さのコーティングは、潜在的にラマンシグナルを減衰しうる。さらに、薄いコーティングであれば、カプセル材料表面上の分子によって分析対象のラマンスペクトル中に干渉が生じるおそれがある。それと同時に、沈降係数などの物理的特性は、カプセル材料の厚さの影響を受けやすい。一般に、カプセル材料が厚ければ厚いほど、周囲溶媒からの金属ナノ粒子コア上のSERS活性色素の封鎖がより効果的なものとなる。
【0091】
カプセル材料がガラスである実施形態では、ガラスの厚さは、典型的には、約1nmから約50nmまでの範囲内であってもよい。例示的な限定されない実施形態では、カプセル封入SERS活性ナノ粒子は、いくつかの場合において約10nmから約50nmまでの範囲、いくつかの場合において約15nmから約40nmまでの範囲、いくつかの場合において約35nmの厚さを有するガラスの球体中に封入されている直径が約50nmから約100nmまでの範囲内の金ナノ粒子を含む。本明細書で開示されているカプセル封入SERS活性ナノ粒子の寸法の最適化は、当業者であれば実施できる。例えば、コアシェルナノ粒子(例えば、Au/AuSナノ粒子)はSERSを担持し、純粋な金属ナノ粒子と比べて異なる光学的特性を有することが当技術分野で知られている。同様に、長球からのSERSは、同じ長軸を有する球体に関して増強できることは当技術分野で知られている。さらに、単一粒子増強は、波長に依存することも知られている。そのため、粒子サイズは、所定励起波長に対し最大のSERSシグナルを発生するように「チューニング」することができる。したがって、粒子の組成、またはそのサイズもしくは形状は、SERSシグナルの強度を最適化するように本明細書で開示されている発明対象に従って変更してもよい。
【0092】
本明細書で開示されている複合SERS活性ナノ粒子は、扱いやすく、また貯蔵しやすい。さらに、これらは、凝集に対する耐性があり、溶媒および空気中における色素の分解に対抗して安定し、化学的に不活性であり、例えば、磁気プルダウン技術によって遠心分離、濃縮され、SERS活性を失うことなく再度分散できる。金属ナノ粒子とは異なり、本明細書で開示されている複合SERS活性ナノ粒子は、蒸発により乾燥させ、次いで、溶媒中に完全に再分散させることができる。
【0093】
D.ポリエチレングリコール(PEG)リンカー
いくつかの実施形態では、ポリエチレングリコール(PEG)リンカーは、特異的結合要素をSERS活性ナノ粒子、磁気捕捉粒子(磁気捕捉アッセイにおいて)、または固相担体(不均一アッセイにおいて)に付着させるために使用してもよい。PEGリンカーを使用することで、本明細書で開示されているアッセイにおける非特異的結合を低減することができる。非特異的吸着の排除は、アッセイを実行するうえで重要な課題となりうる。例えば、磁気捕捉アッセイでは、非特異的結合は、溶液からのタンパク質または生体分子が磁気捕捉粒子またはSERS活性ナノ粒子の表面に付着し、これによって標的分析対象に対する結合要素を与えるプロセス、または磁気捕捉粒子およびSERS活性ナノ粒子の表面が非特異的相互作用を介して互いに付着するプロセスを含むことができる。
【0094】
より一般的には、非特異的結合は、特異的表面構造から相対的に独立している分子間の結合を指す。非特異的結合は、2つの分子のうち他方の分子の認識が実質的に小さいのと比べたときの他方の分子に対する一方の分子の特異的認識を伴う、特異的結合から区別することができる。結果として液体ベースアッセイにおける非特異的結合をもたらす1つまたは複数の分子の性質は、試料の性質、アッセイ環境、ナノ粒子表面、および同様の特性に依存する。
【0095】
非特異的結合は、少なくとも2つの異なるメカニズムに帰因し、それぞれのメカニズムはアッセイに干渉しうる。第1に、生体物質のSERS活性ナノ粒子または磁気捕捉ナノ粒子への非特異的吸着は、結合分子と分析対象の会合に対し立体障害を引き起こし、そのため定量アッセイにおいて分析対象濃度の偽陰性結果または過小評価をもたらしうる。「吸着」は、固体の表面上への溶質、生体化合物、または他の固体材料の蓄積あるいはある種の物質の分子の1つの層の固体表面への付着を意味する。
【0096】
第2に、磁気捕捉粒子と、SERS活性ナノ粒子、特に、官能化されているものとの間の非特異的会合は、分析対象が存在しない場合にアッセイのベースラインレベルを高め、それによりアッセイの感度レベルを低減させ、ダイナミックレンジを制限することになろう。このベースラインの引き上げの結果、試料中に検出できる分析対象の最低レベルを下げることになろう。ナノ粒子、特に溶液中のナノ粒子の間のこの非特異的会合は、さらに、粒子の非特異的凝集を引き起こしうる。
【0097】
非特異的結合を遮断するための当技術分野で知られている戦略は、一般に、3つのアプローチのうちの1つを伴う。一アプローチでは、表面を、タンパク質、例えば、アルブミン、オボアルブミン、魚のゼラチン、およびカゼイン、粉ミルク、および/または遮断緩衝液で処理してもよい。このアプローチの欠点として、非特異的吸着の完全な遮断の欠如(例えば、参照により本明細書に組み込まれている非特許文献17参照)、それぞれの新しいアッセイについて遮断条件を最適化する必要があること、および遮断薬のロット毎に効果がばらつくことが挙げられる。このような遮断ステップでは、さらに、追加ステップを加えるため、複雑さが増し、アッセイ時間が長くなる。
【0098】
第2のアプローチは、洗浄剤または他の化学薬剤をアッセイ緩衝液に加えることを伴う。このアプローチには、さらに、それぞれの新しいアッセイに対する条件および試薬を最適化する必要があるという難点があり、またアッセイが検出対象とする特異的生体分子相互作用に干渉しうる。
【0099】
他のアプローチは、固相担体、ナノ粒子、または磁性粒子の表面をポリエチレングリコールなどのポリマーでコーティングすることを伴う。特定の一理論に束縛されることを望むことなく、PEGコーティング表面によって引き起こされる非特異的吸着の減少は、親水性を有し、多回転自由度を有するPEG分子の結果であると考えられる。水性環境中のPEG鎖は水分子によって囲まれている。これらの条件の結果、PEG分子に対し高レベルのエントロピーが生じる。生体分子、例えば、タンパク質のPEGコーティング表面への吸着により、PEG鎖が圧縮され、これにより、水分子が移動し、PEG鎖に順序が与えられる。この順序付けの結果、エントロピーに熱力学的に不利な低下が生じて、PEGコーティング表面上の生体分子の吸着に抵抗が発生しうる。PEGなどのポリマーによる二元表面のコーティングは、非特異的結合を低減するのに有効であるけれども、すでに利用されているアプローチはどれも、溶液中の三次元粒子の非特異的凝集を低減するのに有効ではない。(例えば、参照により本明細書に組み込まれている非特許文献18を参照。)
【0100】
本明細書で開示されている発明対象は、ナノ粒子への生体物質の非特異的吸着またはナノ粒子間の会合またはその両方が、本明細書で開示されているPEGリンカーを使用することによって低減されうることを実証している(実施例3を参照)。本明細書で開示されている方法は、非特異結合を遮断するのに一般的なものである。そのため、個々のアッセイに対する遮断条件を最適化する必要があるという問題が、大部分解消されている。ポリエチレングリコール(PEG)ベースの分子は非イオン性であるため、非特異的タンパク質吸着に抵抗するPEGの能力に対するpHおよび塩濃度の有害な影響は、最低限に抑えられると考えられる。
【0101】
いくつかの実施形態では、PEGリンカーは、2つ以上のエチレングリコールサブユニットによって分離される、直鎖状分子のいずれかの末端上に官能基を有する二官能性PEG分子を含む。いくつかの実施形態では、PEG分子は、限定はしないが、2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、少なくとも16個、少なくとも17個、少なくとも18個、少なくとも19個、少なくとも20個、少なくとも21個、少なくとも22個、少なくとも23個、少なくとも24個、少なくとも25個、少なくとも26個、少なくとも27個、少なくとも28個、少なくとも29個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも50個、少なくとも60個、少なくとも70個、少なくとも80個、少なくとも90個、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも300個、少なくとも400個、少なくとも500個、少なくとも600個、少なくとも700個、少なくとも800個、少なくとも900個、または少なくとも1000個のエチレングリコールサブユニットを含む、2から約1000までのエチレングリコールサブユニットを含む。いくつかの実施形態では、PEG分子は、約10から約100個のエチレングリコールサブユニット、特定の実施形態では、少なくとも12個のエチレングリコールサブユニットを含む。
【0102】
PEGリンカーは、限定はしないが、約200、約500、約1,000Da、約2,000Da、約3,000Da、約4,000Da、約5,000Da、約6,000Da、約7,000Da、約8,000Da、約9,000Da、約10,000Da、約20,000Da、約50,000Da、約75,000Da、および約100,000Daを含む、約200Daから約100,000Daの分子量を持つことができる。しかし、特定の用途に応じて、これよりも高いまたは低い分子量のPEGリンカーを本明細書で開示されている発明対象とともに使用できることは理解されるであろう。いくつかの実施形態では、PEGリンカーは、約5,000Da以上の分子量を有する。PEG分子の所与の表面密度について、より長いPEG鎖、例えば、約5,000Da以上の分子量を持つPEGリンカーは、結合アッセイにおける非特異的吸着の低減に対し短い鎖に比べて有効でありうる。また、より長いPEG鎖だと、結合要素、例えば、抗体またはDNAプローブを粒子表面からさらに離れた場所に配置できる。このような実施形態では、粒子表面上への抗体の「折り返し」を最小にすることができ、したがって、利用可能な分析対象(例えば、抗原)結合部位の数を減らすことができる。
【0103】
二官能性PEGリンカーは、分子のそれぞれの末端上に官能基を備え、これらの官能基は、特異的結合要素をPEG分子の一方の末端に、SERS活性ナノ粒子(または磁気捕捉粒子)を他方の末端に付着させるために使用できる。最初に特異的結合要素を二官能性PEGリンカーに付着させ、その後、特異的結合要素−PEGコンジュゲートをナノ粒子に付着させてもよい。あるいは、特異的結合要素をPEG化されたナノ粒子に付着するのに先立って、二官能性PEGリンカーをナノ粒子に付着させてもよい。
【0104】
PEGリンカーは、さらに、SERS活性色素をナノ粒子表面に付着するために、または特異的結合要素を、磁気捕捉液体ベースSERSアッセイで使用される磁性粒子などの磁気捕捉粒子に付着させるために使用してもよいことに留意すべきである。
【0105】
PEGリンカーのそれぞれの末端上の官能基は、ナノ粒子表面の化学作用および特異的結合要素(またはSERS活性色素)の付着に対する所望の官能性に基づいて選択できる。PEGリンカー上の有用な官能基の非限定的な例には、カルボン酸または炭酸塩誘導体の活性エステル、特に離脱基がN−ヒドロキシスクシンイミド、p−ニトロフェノール、イミダゾール、または1−ヒドロキシ−2−ニトロベンゼン−4−スルホネートであるエステルを含む。マレイミドまたはハロアセチル基を含む、チオール反応基は、SERS活性ナノ粒子の表面に存在すると思われるものなど、タンパク質上の遊離スルフヒドリル基の修飾またはチオール基との反応に有用である。
【0106】
加えて、PEG分子上のアミノヒドラジンまたはヒドラジド基は、炭水化物基の過ヨウ素酸塩酸化によって発生するアルデヒドとの反応に有用である。この付着化学作用は、特に、粒子上への抗体の部位特異的付着に有用である。例えば、一方の末端にヒドラジンまたはヒドラジド基を備える二官能性PEGリンカーは、IgG分子のFc部分にもっぱら存在する、抗体上のオリゴ糖部分を通じてSERS活性ナノ粒子の表面に抗体を付着させるために使用できる。このようにして、官能化されたナノ粒子は、抗原結合領域の試験液への呈示を最大化し、それにより、アッセイの感度を潜在的に高められるように設計できる。実際、ヒドラジド誘導体化固相担体に対するオリゴ糖部分を介したIgG分子の部位特異的固定化は、抗体分子全体を通して存在する、IgGリジン残基などを介した、他の種類の付着の化学作用を通して固定化されたIgG分子に比べて約3倍、抗原親和性を増強することが実証されている。(例えば、非特許文献19および20を参照。)
【0107】
二官能性PEGリンカー分子は、ホモ二官能性または異種二官能性を有するものとすることができる。本明細書で使用されているように、「ホモ二官能性」という用語は、末端官能基が同じであるPEGリンカー分子を指す。「異種二官能性」という用語は、末端官能基が互いに異なるPEGリンカー分子を指す。そのため、いくつかの実施形態では、PEGリンカー分子は、PEG分子の第1の末端に第1の官能基を、PEG分子の第2の末端に第2の官能基を備える異種二官能性PEG分子を含む。これらの実施形態のうちいくつかでは、異種二官能性PEG分子の第1の末端にある第1の官能基は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)−エステルを含む。いくつかの実施形態では、異種二官能性PEG分子の第2の末端にある第2の官能基は、マレイミド基を備える。そのため、特定の実施形態では、異種二官能性PEG分子は、第1の末端にNHS−エステルを、第2の末端にマレイミド基を備える。
【0108】
特異的結合要素がポリヌクレオチド(例えば、オリゴヌクレオチド)を含むこれらの実施形態では、アミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを含むPEG分子と反応し、ポリヌクレオチドとPEGリンカーとの間にアミノエステル(ペプチド)結合を形成することができる、ポリヌクレオチドの5’末端または3’末端にあるアミン基を介してPEG分子にポリヌクレオチドを付着させることができる。
【0109】
いくつかの実施形態では、SERS活性ナノ粒子の表面上のチオール基は、PEGリンカー上のチオール反応性マレイミド基と反応して、炭素−硫黄結合を形成する。これらの実施形態のうちのいくつかでは、PEGリンカーは、一方の末端にアミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、他方の末端にマレイミド基を備える異種二官能性PEGリンカーを含む。
【0110】
いくつかの実施形態では、二官能性PEGリンカーは、特異的結合要素をSERS活性ナノ粒子または磁性粒子に付着するために使用してもよく、またナノ粒子もしくは磁性粒子の表面上の残りの官能基は、これらの基を試験試料内の分子または他の粒子と非特異的相互作用を起こさないようこれらの基を保護するために追加PEG分子(例えば、単官能性PEG分子)によって固定してもよい。当業者であれば、本明細書で開示されている発明対象を検討した後に、限定はしないが、線状ポリマー、星形ポリマー、またはPEGを伴うコポリマーを含む、PEGアーキテクチャをこの目的のために使用することができることを理解するであろう。
【0111】
さらに、単官能性PEG分子は、当技術分野で知られている他の種類の固定化化学作用で付着されている特異的結合要素を含むナノ粒子または磁性粒子をコーティングするために使用してもよい。例えば、ストレプトアビジン−ビオチン結合化学作用を使用すると、特異的結合要素を粒子表面に付着させることができるが、PEG分子、例えば、マレイミド活性化PEG分子を使用すると、チオール化SERS粒子表面上の非特異的吸着を遮断することができる。
【0112】
II.本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子の用途
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性レポーター分子を含むSERS活性ナノ粒子は、生体試料中の対象とする分析対象またはリガンドの存在を検出するか、もしくは量を測定するための診断アッセイで使用してもよい。本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子が適用可能な代表的診断アッセイおよび方法は、参照により本明細書に組み込まれている2008年3月20日に出願されたWeidemaierらの特許文献5に開示されている。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、本明細書で開示されているSERS活性レポーター分子を含むSERS活性ナノ粒子を含む分析方法、組成物、およびキットを提供する。
【0113】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性レポーター分子を含むSERS活性ナノ粒子は、核酸、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)、DNAフラグメント、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、および同様の物質のうちの1つまたは複数を検出するために使用してもよい。一般的に、この方法は、核酸、DNAフラグメント、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドのうちの1つまたは複数を、オリゴヌクレオチドが付着している本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子と接触させることと、そのSERSスペクトルの存在または変化を検出することとを含む。
【0114】
さらに、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているレポーター分子を含むSERS活性ナノ粒子は、細胞撮像において使用してもよい。このような実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子、例えば、特異的結合ペアの結合要素で標識化されているSERS活性ナノ粒子を細胞または組織中に組み込むことができ、またSERSを使用して中にあるナノ粒子の分布を特徴付けることができる。このような実施形態は、正常と異常、例えば、癌性の細胞を区別するために使用できる。
【0115】
A.診断アッセイ
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の本明細書で開示されているSERS活性レポーター分子が付着しているナノ粒子は、診断アッセイで使用できる。例えば、Rohrらは、複数の構成要素および洗浄ステップを含むSERS検出によるイムノアッセイを実証している。(例えば、非特許文献21参照。)また、Niらは、インキュベートおよび洗浄ステップを含む不均一検出アッセイにおける金スライドへのレポーター付着を実証している。(例えば、非特許文献22参照。)RohrらならびにNiらによって開示されているSERSアッセイ、さらには当技術分野で知られている他のアッセイは、長時間のインキュベートおよび洗浄ステップを必要とする。
【0116】
SERSを使用するアッセイの他の例は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれているTarchaらの特許文献10で開示されている。Tarchaらは、標識または抗体がSERS表面に付着されている多重試薬システムの使用を開示している。第2の試薬は、標識または抗体のいずれかの相補的なペアを含む。
【0117】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、いわゆる「液体ベースアッセイ」で使用してもよい。SERS活性ナノ粒子を使用する液体ベースアッセイアプローチがすでに開示されている。(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている非特許文献23参照。)Hirschらは、粒子相互作用によって生じる光吸収の変化を測定することによる対象とする分析対象の存在下での粒子凝集の光学的検出を開示している。Hirschらによって開示されているアッセイにおけるナノ粒子の凝集により、粒子の凝集の結果生じるプラズモン共鳴減少を検出する。しかし、Hirschらは、ラマンシグナルを検出に利用することについては開示していない。
【0118】
本明細書で開示されているアッセイの一実施形態では、SERS活性ナノ粒子は、いわゆる「無洗浄」または「均一」アッセイで使用してもよい。このようなアッセイでは、試料は、容器、例えば、試料収集容器、アッセイ容器、または本発明で開示されているアッセイとともに使用するのに適している他の試料容器内に集められ、容器、例えば、アッセイ容器から試料を取り出すことなくアッセイが実行される。都合のよいことに、試料は、アッセイを実行するために必要なすべての試薬をすでに収容しておくことができる容器内に集めることができる。しかし、いくつかの実施形態では、試料収集の後、1つまたは複数の試薬を容器に追加してもよい。
【0119】
液体ベースアッセイでは、試料は、典型的には、例えば周囲条件の下でインキュベートするが、さらに、試料の特定温度または振盪などの制御された状態にすることもできる。インキュベート期間の後に、容器を読み取り装置内に入れて、容器内に事前装填された、または順次容器内に追加された1つまたは複数のSERS活性粒子からのシグナルを取得することができる。ラマンシグナルは、特定の波長の入射光、例えば、レーザー光線による呼びかけ(interrogation)後に、生成され、検出される。
【0120】
他の実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、不均一アッセイで使用してもよい。本明細書で使用されているように、「不均一アッセイ」という用語は、一般的に、アッセイの1つまたは複数の構成要素がアッセイに対し順次追加されるかまたは取り除かれるアッセイを指す。より詳細には、不均一アッセイは、固相の表面にアッセイ中の分析対象を結合することにより液体試料から固相へ分析対象が移動することに部分的に依拠してもよい。アッセイのある段階では、そのシーケンスはアッセイプロトコルに応じて変わり、固相および液相は分離され、分析対象の検出および/または定量化をもたらす測定が、2つの分離相のうちの一方に対し実行される。したがって、不均一アッセイは、例えば、対象とする分析対象を結合し、それにより検査対象の試料中の他の成分から分析対象を分離するか、または取り除く抗原または抗体によりコーティングされた固相担体を含んでもよい。これらの他の成分は、1つまたは複数の洗浄ステップによって試料から選択的に取り除くことができ、分析対象は、それが検出される固相担体に結合したままであるか、または追加の洗浄ステップによって取り除かれ、その後検出することができる。
【0121】
一般に、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、対象とする標的分子に対して抗体とコンジュゲートしたときにイムノアッセイで使用できる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている色素は、ナノ粒子に、例えば、共有結合で付着させ、色素から発生するSERSシグナルの強度が、検出される分析対象、例えば、タンパク質、核酸、および代謝産物の量に応じて変化する診断アッセイで使用できる。さらに、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている色素で標識化されたナノ粒子に、結合ペアの特異的結合要素、例えば、抗体などの他の化学種を標識化することもでき、これにより試験対象の試料中の1つまたは複数の分析対象の検出を促進することができる。本明細書で開示されている色素が会合または付着しているナノ粒子は、検出可能な標識が必要なアッセイ、例えば、生物学的アッセイまたは化学的アッセイで使用できる。
【0122】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、生体試料中の1つまたは複数の分析対象の存在または量を検出するための方法を提供し、この方法は、
(a)1つまたは複数の分析対象を含むことが疑われる生体試料を用意するステップと、
(b)1つまたは複数の分析対象に対し親和性を有する少なくとも1つの特異的結合要素および式
A−Y
の少なくとも1つのSERS活性レポーター分子が会合している1つまたは複数のSERS活性ナノ粒子を含む試薬
[式中、
Aは、
【0123】
【化9】

【0124】
からなる群から選択され、
式中、X1は、CR4またはNであり、
Yは、
【0125】
【化10】

【0126】
からなる群から選択され、
式中、
r、s、およびtは、それぞれ独立に1から8までの整数であり、
2およびX3はそれぞれ次の前提条件の下で、C、S、およびNからなる群から独立に選択され、当該前提条件は(i)X2がCまたはSのときにR5はZであるか、またはX3がCまたはSのときに、R6はZであり、Zは以下で定義され、(ii)X2とX3の両方が同時にNである場合、R5およびR6のうちの少なくとも一方は存在せず、(iii)X2がNであるとき、R5は存在すればZ’であるか、またはX3がNであるとき、R6は存在すればZ’であり、Z’は、
−(CH2n−X4;−NR8−(CH2p−X5;−(CH2q6C(=O)−R9
【0127】
【化11】

【0128】
からなる群から選択され、
式中、
n、p、q、u、およびvは、それぞれ独立に、1から8までの範囲の整数であり、
4およびX5は、ヒドロキシル、アミノ、およびチオールからなる群からそれぞれ独立に選択され、
6は、OまたはNR11であり、
ただし、式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R8、R10、R11、およびZは、H、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、アルコキシシクロアルキル、アミノアルキル、アシルオキシル、アルキルアミノアルキル、およびアルコキシカルボニルからなる群からそれぞれ独立に選択され、
7は、Z’であり、
9は、−(CH2m−X7または−(CH2m−Bであり、式中、
mは、1から8までの整数であり、
7は、ハロゲンであり、
Bは、検出すべきリガンドまたは分析対象に対し結合親和性を有する結合要素である]に生体試料を接触させるステップと、
(c)ある波長の入射光を生体試料に照射してSERS活性レポーター分子にSERSシグナルを発生させるステップと、
(d)SERSシグナルを測定して、生体試料中の1つまたは複数の分析対象の存在または量を検出するステップとを含む。
【0129】
いくつかの実施態様では、この方法は、さらに、連続して、
(a)1つまたは複数の分析対象を含むことが疑われる試料を結合要素に接触させるステップと、(b)試料に電磁放射線を照射するステップと、(c)SERSシグナルを検出するステップとを含む。したがって、検出は、連続的に、または所定の時刻に間欠的に実行できる。したがって、対象とする分析対象(単数または複数)の一時的または連続的な感知を実行することができる。
【0130】
1.対象とする表面固定化標的分析対象(単数または複数)
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、生物学的アッセイにおいて光タグとして使用してもよい。いくつかのアッセイでは、検出しなければならない標的分子、例えば、抗原は、固体表面によって捕捉される。標的分子に特異的な、リガンド、例えば、抗体などの、結合パートナーは、SERS活性ナノ粒子に付着できる。標的分子が付着している固体表面と接触すると、特異的結合パートナーが付着しているSERS活性ナノ粒子は、標的分子に結合することができる。固相担体におけるSERSシグナルの観察結果から、標的分子の存在が示される。一般に、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、アッセイで特異的標的分子の存在を検出するために使用できる分子にコンジュゲートできる。
【0131】
より詳細には、対象とする標的分析対象(単数または複数)は、例えば、アッセイ容器、例えば、試料収集容器の官能化された内面などの固相担体の局在化領域上に固定化してもよい。あるいは、サンドイッチアッセイでは、固相担体上に固定化されている特異的結合要素に分析対象を結合するという間接的方法によって対象とする標的分析対象(単数または複数)を固相担体上に固定化してもよい。次いで、対象とする固定化された標的分析対象(単数または複数)は、対象とする標的分析対象(単数または複数)に対する親和性を有する少なくとも1つの特異的結合要素、例えば、抗体とコンジュゲートされているSERS活性ナノ粒子を含む検出試薬と接触させることができる。サンドイッチアッセイでは、固定化された特異的結合要素は、SERS活性ナノ粒子に付着している特異的結合要素とは別の、対象とする分析対象上の表面、部位、または配列と相互作用し、その結果、分析対象は固相担体とナノ粒子との間にサンドイッチ状に挟まれ、これにより、検出可能SERSシグナルが発生する。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、特異的結合要素は、リンカー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)を通じて固相担体に、またはSERS活性ナノ粒子に固定化してもよい。
【0132】
SERS活性ナノ粒子は、対象とする固定化された標的分析対象(単数または複数)と相互作用するか、または会合する、例えば、可逆的にもしくは不可逆的に結合できる。適当なインキュベート時間が過ぎた後、SERS活性ナノ粒子と固定化された標的分析対象(単数または複数)との間のこの相互作用は、適切な波長の入射光を固相担体の局在化領域に照射し、SERS活性レポーター分子によって放射されるSERSシグナルを測定することにより検出することができる。さらに、それぞれの種類のSERS活性レポーター分子は、固有のSERSスペクトルを示すので、検出試薬中に異なるSERS活性レポーター分子を含むSERS活性ナノ粒子を入れることにより、単一のSERSスペクトルを使用して対象とする複数の標的分析対象を検出することができる。したがって、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、多重化アッセイフォーマットで使用できる。
【0133】
2.表面固定化官能化SERS活性ナノ粒子
いくつかの実施形態では、対象とする標的分析対象(単数または複数)に対し親和性を有する特異的結合要素とコンジュゲートされている本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、固体表面の局在化領域、例えば、試料収集容器の官能化された内面上に固定化することができる。固定化されたSERS活性ナノ粒子は、対象とする1つまたは複数の標的分析対象を含むことが疑われる、生体試料、例えば、血液試料に接触させることができる。固定化されたSERS活性ナノ粒子は、試料中に存在する対象とする固定化された標的分析対象(単数または複数)と相互作用するか、または会合する、例えば、可逆的にもしくは不可逆的に結合できる。適当なインキュベート時間が過ぎた後、固定化されたSERS活性ナノ粒子と標的分析対象(単数または複数)との間のこの相互作用は、適切な波長の入射光を固相担体の局在化領域に照射し、SERS活性レポーター分子によって放射されるSERSシグナルを測定することにより検出することができる。さらに、それぞれの種類のSERS活性レポーター分子は、固有のSERSスペクトルを呈示するので、固体表面の1つまたは複数の局在化領域上に異なるSERS活性レポーター分子を含むSERS活性ナノ粒子を固定化することにより、単一のSERSスペクトルを使用して対象とする複数の標的分析対象を検出することができる。固体表面の1つまたは複数の局在化領域に、適切な波長の入射光を照射することができ、またSERS活性レポーター分子(単数または複数)によって放射されるSERSシグナルを測定して、多重化された診断アッセイを行うことができる。
【0134】
3.液体ベースSERSアッセイ
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、液体ベースアッセイで使用できる。このようなアッセイでは、当技術分野で知られている方法に従ってナノ粒子を調製することができる。ナノ粒子は、上で開示されているように、固体ナノ粒子、中空ナノ粒子、または固体もしくは中空ナノ粒子コアと封入シェルを含むカプセル封入ナノ粒子とすることができる。本明細書で開示されているSERS活性レポーター分子は、ナノ粒子の外面またはナノ粒子コア上に吸着するか、または付着する、例えば、化学的リンカー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)リンカーを通じて共有結合できる。特異的結合ペアの結合要素は、ナノ粒子の外面に付着するか、ナノ粒子の外面上に吸着または付着しているレポーター分子とコンジュゲートするか、あるいは封入シェルの外面に付着することができる。本明細書で開示されているアッセイのいくつかの実施形態では、結合要素は抗体である。次いで、特異的結合ペアの結合要素が付着しているSERS活性ナノ粒子は、対象とする1つまたは複数の標的分析対象またはリガンドを含むことが疑われる生体試料に接触させることができる。特異的結合要素は、対象とする1つまたは複数の標的分析対象またはリガンドと会合する、例えば、結合することができる。
【0135】
いくつかの液体ベースアッセイでは、文献に開示されているように、SERSシグナルを増幅するためにサンドイッチアッセイを使用してもよい(例えば、参照により本明細書に組み込まれている2005年1月6日に出願されたWangらの特許文献11参照)。このようなアッセイでは、特定の分析対象は、分析対象上の、または分析対象内の複数の表面、部位、または配列を通じて複数の結合要素に同時に結合することができ、複数の結合要素はSERS活性ナノ粒子に付着する。複数の結合要素を通じて分析対象に同時に結合されるSERS活性ナノ粒子に、同一のSERS活性色素または重なり合うSERSスペクトルを呈示するSERS活性色素が付着している場合、SERSシグナルは増幅できる。分析対象分子の周りのSERS活性ナノ粒子のこのサンドイッチ構造またはクラスタリングは、クラスタ化された金属粒子の有効表面サイズの増大、密集した間隔で並ぶ金属粒子の間の中点における電磁場の増強、およびクラスタ化構造によって形成される鋭いエッジ、キンク、または他のフラクタル構造から生じる追加の局所場増強メカニズムを介して増幅されたSERS効果を発生すると考えられている。
【0136】
さらに、本明細書で開示されている色素は、線幅の狭い比較的単純なラマンスペクトルを呈示する。この特性のため、同じ試料体積中で複数の異なるラマン活性種を検出することができる。したがって、この特徴があるおかげで、それぞれ異なる色素を含む複数のSERS活性ナノ粒子を、それぞれの色素のラマンスペクトルが異なる種類のナノ粒子の混合物中で区別されるように作製することができる。この特徴があるため、小さな試料体積中で複数の異なる標的種を多重検出することができる。したがって、本明細書で開示されている色素が会合または付着しているナノ粒子も、多重化化学アッセイにおいて使用するのに適しており、SERS活性ナノ粒子の同一性によって、アッセイの標的の同一性がコードされる。
【0137】
したがって、いくつかの実施形態では、複数の種類の結合要素が、ナノ粒子に付着できる。例えば、ナノ粒子に付着する結合要素の種類は、異なる標的分析対象に対し異なる親和性を有する複数の試薬を与えるように変えてもよい。この方法で、このアッセイは、対象とする複数の分析対象を検出することができるか、または複数の分析対象に対し異なる選択性または感受性を呈示することができる。SERS活性ナノ粒子は、1つまたは複数の分析対象の存在、あるいは1つまたは複数の分析対象の濃度が変化しうる試料に対し適応させることができる。
【0138】
式A−Yの本明細書で開示されている色素は、SERS活性ナノ粒子と会合または付着したときに、多重化アッセイにスペクトル多様性および分解能を提供する。それぞれのSERS活性ナノ粒子は、標的特異性試薬に結合されたときに、その特定の標的分子の同一性をコードすることができる。さらに、特定のラマンシグナルの強度は、その特定の標的分子の量を明らかにすることができる。例えば、サンドイッチアッセイについて上で説明されているように、固相担体上に捕捉された異なる標的の同一性は、式A−Yの異なる色素が会合または付着しているSERS活性ナノ粒子を標的毎に使用することによって判定できる。したがって、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、試薬の位置に左右される局在化を必要とすることなく標的分子に関する定性的および/または定量的情報を提供するために多重化アッセイで使用できる。
【0139】
液体ベースSERSアッセイ試薬は、アッセイの要件に応じて、複数の種類の標識、例えば、複数の種類のSERS活性レポーター分子を含むことができる。例えば、ラマンシグナルを異なる波長で示すSERS活性レポーター分子は、対象とする特異的分析対象に対し固有のラマン「フィンガープリント」を生成するために使用でき、それによって、アッセイの特異性が高まる。異なるレポーター分子は、異なる特異的結合要素に付着され、これにより、1つより多い対象とする分析対象、例えば、複数の対象とする分析対象を検出することができるシグナル検出試薬を構成できる。さらに、複数のレポーター分子は、特に比較的弱いシグナルを示すか、または示すことが予想される試料中でシグナル検出からバックグラウンドノイズを区別するために使用できる内部基準シグナルを生成するために使用できる。それに加えて、検査対象の試料溶液から放射される非特異的放射線、つまり、対象とする分析対象の直接的または間接的測定に帰因しえない試料溶液から放射される放射線を回避するか、または克服するために複数のSERSレポーター分子が使用できる。
【0140】
さらに、文献で開示されている液体ベースアッセイでSERSシグナルを増幅するための方法(例えば、参照により本明細書に組み込まれている2008年3月20日に出願されたWeidemaierらの特許文献5参照)も、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子との使用に適用可能である。
【0141】
4.磁気捕捉液体ベースSERSアッセイ
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている液体ベースSERSアッセイ試薬は、磁気捕捉アッセイで使用できる。このような実施形態では、粒子、標識、および特異的結合要素を含む、アッセイの構成要素が、対象とする1つまたは複数の分析対象を含むことが疑われる試験対象の試料に導入される。試薬を複合溶液と相互作用させた後、粒子の磁気特性を用いてナノ粒子を局在化させることができる。いくつかの実施形態では、SERS活性ナノ粒子の局在化を容易にするために磁気捕捉試薬が使用できる。このような実施形態では、磁性粒子は、対象とする1つまたは複数の分析対象に対し親和性を有する結合要素で標識化できる。SERS活性ナノ粒子−分析対象複合体を局在化させてSERSシグナルを検出するために、磁性粒子の磁気特性を利用することができる。磁気捕捉液体ベースSERSアッセイを実行するための代表的な方法は参照により本明細書に組み込まれている2008年3月20日に出願されたWeidemaierらの特許文献5に開示されている。このような方法は、磁気ペレットのサイズ、形状、または位置決めの変動を補正するための参照および制御方法、ならびに改善されたラマン基準スペクトルを生成する方法および磁気プルダウン液体ベースアッセイにおけるスペクトル分析を含むことができる(例えば、特許文献5参照)。
【0142】
いくつかの実施形態では、SERS活性ナノ粒子−分析対象複合体は、試料容器、例えば、試料収集チューブ内の所定の領域に局在化される。次いで、その局在化領域に放射線を当て、シグナルを検出することができる。単一検出試薬の局在化により、レポーター分子−表面間の相互作用が高まり、また試料容器の特定領域に対しSERS効果を集中させることによりシグナルが高められる。
【0143】
粒子の磁気捕捉は、限定はしないが、試料収集容器の局在化領域に強力な磁石を置くか、または磁場を誘起することを含む、当技術分野で知られている方法を使用して達成できる。
【0144】
より詳細には、いくつかの実施形態では、対象とする標的分析対象(単数または複数)に対し親和性を有する特異的結合要素とコンジュゲートされた本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、試料収集容器内に、対象とする1つまたは複数の標的分析対象を含んでいることが疑われる生体試料を中に入れる前に、または入れるのと同時に、または入れた後に配置することができる。磁性粒子もまた、対象とする標的分析対象(単数または複数)に対し親和性を有する特異的結合要素とコンジュゲートされ、試料収集容器内に配置してもよい。試料中に存在する対象とする標的分析対象(単数または複数)は、SERS活性ナノ粒子および磁性粒子に結合し、これにより、複合体が形成され、その際に、標的分析対象(単数または複数)は、SERS活性ナノ粒子と磁性粒子との間にサンドイッチ状に挟まれる。サンドイッチ複合体は、磁場の印加によって試料収集容器の局在化領域内に濃縮されうる。適当なインキュベート時間が過ぎた後、サンドイッチ複合体は、適切な波長の入射光を試料収集容器の局在化領域に照射し、SERS活性レポーター分子によって放射されるSERSシグナルを測定することにより検出することができる。
【0145】
本明細書で説明されているように、PEGリンカーは、特異的結合要素をSERS活性ナノ粒子表面に付着させて、分子のナノ粒子への非特異的結合を低減することができる。磁気捕捉アッセイが実行されるいくつかの実施形態では、リンカーを通じて特異的結合要素が磁性粒子の表面に付着してもよい。これらの実施形態のいくつかにおいて、リンカー分子はPEGリンカーを含む。PEGリンカーは、本明細書で説明されているように、長さ、分子量、および特異的結合要素を磁性粒子に結合するために有用な官能基において修正してもよい。
【0146】
いくつかの実施形態では、PEG分子またはPEG特異的結合要素コンジュゲートは、PEG分子上のチオール反応性マレイミド基と磁性粒子表面上のチオール基との反応を通じて炭素−硫黄結合を形成し、磁性粒子に付着する。磁性粒子の表面は、内部二硫化物を含むアミン末端分子でカルボキシル化磁性粒子を処理することによりチオール基で官能化できる。この二硫化物をジチオスレイトールまたは他の好適な薬剤で開裂して、反応性チオール基を露出させることができる。これらの実施形態のうちのいくつかでは、PEGリンカーは、一方の末端にアミン反応性N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、他方の末端にマレイミド基を持つ異種二官能性PEGリンカーを含む。
【0147】
5.対象とする代表的な標的分析対象
本明細書で開示されている方法は、生体試料中の1つまたは複数の標的分析対象の存在または量を評価し、または測定するために使用できる。本明細書で使用されているような「分析対象」という用語は、一般的に、検査試料中に存在するか、存在することが疑われうる、検出される物質を指す。より詳細には、「分析対象」は、結合タンパク質または受容体などの天然の特異的結合パートナーが存在する、または特異的結合パートナーを作製できる、任意の物質とすることができる。したがって、「分析対象」は、アッセイにおいて1つまたは複数の特異的結合パートナーを結合することができる物質である。いくつかの実施形態では、分析対象は、少なくとも1つの結合部位を有する、検出または測定される代謝産物などの化合物とすることができる。
【0148】
標的分析対象は、検査対象の試料中で存在または量が決定されるべき、任意の分子または化合物とすることができる。本明細書で開示されている方法によって測定することができる分析対象のクラスの例には、これらに限定されないが、前立腺特異抗原(PSA)、プロテオグリカン、リポタンパク質、リポ多糖類、薬物、薬物代謝産物、有機小分子、無機分子、および天然または合成ポリマーなどの、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物類、脂肪酸、脂質、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、糖タンパク質を含む。標的分析対象の例には、これらに限定されないが、グルコース、遊離脂肪酸、乳酸、C反応性タンパク質、およびサイトカイン、エイコサノイド、またはロイコトリエンなどの抗炎症性メディエータを含む。いくつかの実施形態では、標的分析対象は、脂肪酸、C反応性タンパク質、およびロイコトリエンからなる群から選択される。他の実施形態では、標的分析対象は、グルコース、乳酸、および脂肪酸からなる群から選択される。
【0149】
より具体的には、いくつかの実施形態では、分析対象として、上述のようなグルコース、前立腺特異抗原(PSA)、クレアチンキナーゼMB(CKMB)アイソザイム、心臓トロポニンI(cTnI)タンパク質、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、インフルエンザA(Flu A)抗原、インフルエンザB(Flu B)抗原、および呼吸器合胞体ウイルス(RSV)抗原が挙げられる。
【0150】
前立腺特異抗原(PSA)は、前立腺の細胞によって産生されるタンパク質であり、典型的には健常男性の血清中に少量存在する。PSAは、前立腺癌または他の前立腺障害を患っている男性において増大することがある。正常なPSA血中濃度は、典型的には、0.0から4.0ng/mLの間にあると考えられるが、4から10ng/mL(ナノグラム/ミリリットル)の間のPSA血中濃度は、疑わしい濃度であると考えられる。
【0151】
クレアチンキナーゼ(CK)は、クレアチンリン酸キナーゼまたはクレアチンホスホキナーゼ(CPK)とも称され、心臓、脳、および骨格筋内にもっぱら見られる酵素である。クレアチンキナーゼは、構造がわずかに異なる次のような3つのアイソザイムを含み、CK−BB(CPK−1ともいう)は、脳と肺内で濃縮され、CK−MB(CPK−2ともいう)は、大半が心臓内に見られ、CK−MM(CPK−3ともいう)は、大半が骨格筋中に見られる。特定のCPKアイソザイムに対する診断テストは、典型的には、全CPKレベルが高い場合に実施され、損傷組織の源を識別しやすくするのに役立つ。例えば、脳損傷、例えば、脳卒中、または肺の損傷、例えば、肺塞栓は、CK−BBの上昇レベルに関連するものとすることができる。さらに、CK−MMは、通常、健常対象のほとんどすべてのCPK酵素活性に関与している。この特定のアイソザイムが、高くなった場合、通常は、骨格筋の損傷またはストレスがあることを示す。
【0152】
胸痛のある対象のCK−MBレベルを、心臓発作があったかどうかを診断するために、および/または心臓発作時の心筋障害の指標として、測定することができる。典型的には、CK−MB値は、心臓発作の後の最初の2から3時間以内にCK−MB値の著しい上昇を示す。心筋に対しさらなる障害がない場合、レベルは12〜24時間でピークとなり、組織死が生じてから12〜48時間後に正常に戻る。CK−MBレベルは、通常は、狭心症、肺塞栓(肺に血栓ができる)、またはうっ血性心不全によって胸痛が引き起こされる場合でも上昇しない。CK−MBレベルの上昇は、心筋炎(例えば、ウイルスによる心筋の炎症)、電気的損傷、心臓の外傷、心臓除細動、および心臓切開手術の対象において観察できる。このようなアッセイで測定された血清CK−MB値は、典型的には、約0.0から約10ng/mLまでの範囲である。約5ng/mLより大きいCK−MB値だと、典型的には、心筋梗塞の診断が確認される。
【0153】
心臓トロポニンI(cTnI)タンパク質も、主要な心イベントの独立予測因子である。(例えば、非特許文献24参照。)心筋梗塞が疑われる対象において測定された血清のcTnI値は、約0.4ng/mLから約1.5ng/mLまでの範囲である。同文献。しかし、0.1ng/mLの検出下限を持つcTnIアッセイは、心筋障害を検出するのにより感度が高い可能性がある。同文献。
【0154】
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、甲状腺の内分泌機能を調節する脳下垂体前葉内の甲状腺刺激ホルモン産生細胞によって合成され、分泌される。TSHレベルは、甲状腺ホルモンの過剰(甲状腺機能亢進症)または不足(甲状腺機能低下症)があることが疑われる対象の血液で検査される。成人の正常なTSHレベルは、約0.4ミリ国際単位/リットル(mIU/L)から約4.5mIU/Lまでの範囲である。TSHの現在のアッセイには、血清または血漿中のTSHを測定するためのサンドイッチELISAが含まれ、試料中のTSHは、抗TSHモノクローナル抗体によって結合され、次いで、分光光度法または比色分析法によって検出される。
【0155】
また、本明細書で開示されているアッセイは、インフルエンザウイルスを検出するためにも使用できる。インフルエンザウイルスA、インフルエンザウイルスB、およびインフルエンザウイルスCの3種類のインフルエンザウイルスが存在する。インフルエンザA(Flu A)およびインフルエンザC(Flu C)は、複数の種に感染するが、インフルエンザB(Flu B)はほぼヒトだけに感染する。A型ウイルスは、インフルエンザのこれら3つの型のうち最も悪性のヒト病原体であり、典型的には、最も重い疾患を引き起こす。インフルエンザAウイルスは、これらのウイルスに対する抗体応答に基づく異なる血清型に細分され、H1N1(つまり、「スペイン風邪」)、H2N2(つまり、「ホンコン風邪」)、H5N1(つまり、インフルエンザ株または「鳥インフルエンザ」)、H7N7、H1N2、H9N2、H7N2、H7N3、およびH10N7を含む。インフルエンザBは、ほぼヒトだけの病原体であり、インフルエンザAに比べてまれであり、1つの血清型しか含まない。インフルエンザCウイルスは、ヒトとブタに感染し、重大な疾病を引き起こして地域的流行をもたらすが、他の型に比べてまれである。
【0156】
インフルエンザに利用できる診断テストとしては、高速イムノアッセイ、免疫蛍光アッセイ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、血清学、およびウイルス培養が挙げられる。免疫蛍光アッセイは、蛍光顕微鏡による観察のため蛍光標識された抗体を使用して顕微鏡スライド上に固定化された標本の染色を必要とする。培養法では、細胞培養における初期ウイルス分離を使用し、その後、赤血球吸着阻害アッセイ、免疫蛍光アッセイ、または中和アッセイを行って、インフルエンザウイルスの存在を確認する。インフルエンザ感染を診断する抗原検出アッセイは、DIRECTIGEN(商標)EZ Flu AまたはDIRECTIGEN(商標)EZ Flu A+B検査キット(メリーランド州スパークス所在のBD Diagnostic Systems社から入手可能)を含む。このような高速クロマトグラフィイムノアッセイは、症状のある患者の鼻咽頭洗浄物/吸引物、鼻咽頭スワブ、および咽頭スワブからのインフルエンザAまたはインフルエンザAおよびBウイルス抗原の直接的検出に使用できる。さらに、このような診断テストは、インフルエンザAとインフルエンザBとを区別するためにも使用できる。
【0157】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、1歳未満の乳幼児の細気管支炎および肺炎の最も一般的な原因である。RSVは、マイナスセンスのエンベロープRNAウイルスである。RSV感染の診断は、ウイルスの単離、ウイルス抗原の検出、ウイルスRNAの検出、血清抗体の増大の実証、またはこれらのアプローチの組合せによって行うことができる。呼吸器系ウイルスを検出する従来の方法は、細胞培養と直接蛍光抗体法(DFA)を含んでいた。酵素イムノアッセイ(EIA)および高速手動システムが、インフルエンザA/BおよびRSVなどの特定ウイルスに対し利用できる。現在、大半の臨床検査室では、RSV感染を診断するために、ウイルス性呼吸器感染症が疑われる対象からの鼻咽頭洗浄物、鼻咽頭吸引物、鼻咽頭スワブ、および鼻咽頭スワブ/洗浄物中のRSV抗原を直接的に、また定性的に検出するための高速クロマトグラフィイムノアッセイである、DIRECTIGEN(商標)EZ RSV検査(メリーランド州スパークス所在のBD Diagnostic Systems社から入手可能)などの抗原検出アッセイを使用している。
【0158】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、生体試料、例えば、血清中の標的分析対象の存在または量を検出する方法を提供するもであり、標的分析対象は、グルコース、前立腺特異抗原(PSA)、クレアチンキナーゼMB(CKMB)アイソザイム、心臓トロポニンI(cTnI)タンパク質、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、インフルエンザA(Flu A)抗原、インフルエンザB(Flu B)抗原、および呼吸器合胞体ウイルス(RSV)抗原を含み、この方法は生体試料を分析対象に対して親和性を有する少なくとも1つの特異的結合要素、例えば、対象とする分析対象に対する特異的結合タンパク質またはモノクローナルもしくはポリクローナル抗体、および式A−Yの少なくとも1つのSERS活性レポーター分子が会合している1つまたは複数のSERS活性ナノ粒子を含む試薬に接触させるステップと、ある波長の入射光を生体試料に照射してSERS活性レポーター分子にSERSシグナルを発生させるステップと、SERSシグナルを測定して、生体試料中の分析対象の存在または量を検出するステップとを含む。
【0159】
本明細書で使用されているように、「炭水化物」という用語は、これらに限定されないが、単糖類、二糖類、オリゴ糖、および多糖類を含む。「炭水化物」は、さらに、これらに限定しないが、糖類の従来の定義に収まらない炭素、水素、および酸素を含む分子、つまり、少なくとも3つの炭素原子を含む、直鎖ポリヒドロキシルアルコールのアルデヒドまたはケトン誘導体を含む。したがって、例えば、本明細書で使用されているような炭水化物は、3つより少ない炭素原子含むことができる。
【0160】
本明細書で使用されているような「脂肪酸」という用語は、遊離脂肪酸(FFA)および他の分子とエステル結合している脂肪酸を含む、すべての脂肪酸を含む。特定脂肪酸の例には、これらに限定されないが、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、およびアラキドン酸塩を含む。「遊離脂肪酸」という用語は、FFAがトリグリセリドまたはリン脂質などの他の分子の一部ではないという点で当技術分野で知られているように本明細書で使用されている。遊離脂肪酸は、さらに、アルブミンに結合または吸着されている非エステル結合脂肪酸を含む。本明細書で使用されているように、「非結合型遊離脂肪酸」(非結合型FFA)という用語は、アルブミンまたは他の血清タンパク質への結合または吸着がなされていない1つまたは複数の遊離脂肪酸を表すために使用される。
【0161】
本明細書で使用されているように、「脂質」という用語は、当技術分野で使用されているように使用される、つまり、大半の有機溶媒中に容易に溶けるが、水性溶媒にはごくわずかに溶けるように、主にまたは専ら非極性化学基から構成される生物由来の物質である。脂質の例には、これらに限定されないが、脂肪酸、トリアシルグリセロール、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、コレステロール、ステロイド、およびこれらの誘導体を含む。例えば、「脂質」は、これらに限定されないが、スフィンゴミエリン、セレブロシド、およびガングリオシドなど、スフィンゴ脂質の誘導体およびセラミドの誘導体である、セラミドを含む。「脂質」は、これらに限定されないが、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、および同様の物質などのグリセロリン脂質(またはリン脂質)の共通クラスも含む。
【0162】
本明細書で使用されているように、「薬物」は、知られている薬物または薬物候補であって、特定の細胞型に対する活性または効果はまだ知られていないものとすることができる。「薬物代謝産物」は、他の1つまたは複数の化合物に化学的に変化する薬物の副産物または崩壊産物のいずれかである。本明細書で使用されているように、「有機小分子」は、限定はしないが、本明細書で特に取りあげられている他の分類に正確に収まらない有機分子または化合物を含む。より詳細には、本明細書で使用されているような「有機小分子」という用語は、比較的低分子量で、タンパク質、ポリペプチド、または核酸ではない、天然または人工の(例えば、化学合成を用いた)有機化合物を指す。典型的には、小分子は、約1500g/モル未満の分子量を有する。また、小分子は、典型的には、複数の炭素炭素結合を有する。
【0163】
さらに、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、核酸、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)、DNAフラグメント、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、および同様の物質のうちの1つまたは複数を検出する方法を提供する。一般的に、この方法は、核酸、DNAフラグメント、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドのうちの1つまたは複数を、オリゴヌクレオチドが付着している本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子と接触させるステップと、そのSERSスペクトルの存在または変化を検出するステップとを含む。例示的な実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子に付着しているオリゴヌクレオチドは、標的核酸、DNAフラグメント、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドの配列の一部に相補的な、1つまたは複数の配列を有する。検出可能なSERSスペクトル、および/またはSERSスペクトルの変化は、SERS活性ナノ粒子に付着しているオリゴヌクレオチドと標的核酸、DNAフラグメント、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションの結果として観察することができる。
【0164】
本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子、オリゴヌクレオチド、またはその両方は、オリゴヌクレオチドがナノ粒子に付着するように官能化してもよい。このような方法は、当技術分野で知られている。例えば、3’末端または5’末端のところでアルカンチオールで官能化されたオリゴヌクレオチドは、金および他の金属ナノ粒子を含む、ナノ粒子に容易に付着する。(例えば、非特許文献25および非特許文献26(オリゴヌクレオチドをナノ粒子に付着するためにも使用できる3’チオールDNAを平坦な金表面に付着する方法を説明している)参照。)
【0165】
オリゴヌクレオチドを固体表面に付着するのに適した他の官能基は、ホスホロチオエート基(例えば、オリゴヌクレオチド−ホスホロチオエートを金表面に結合することについて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれているBeebeらの特許文献12を参照)、置換アルキルシロキサン(例えば、オリゴヌクレオチドをシリカおよびガラス表面に結合することについては非特許文献27および28を、アミノアルキルシロキサンの結合およびメルカプトアルキルシロキサンの類似の結合については非特許文献29を参照)を含む。5’チオヌクレオシドまたは3’チオヌクレオシドを末端とするオリゴヌクレオチドも、オリゴヌクレオチドを固体表面に付着させるのに使用できる。
【0166】
オリゴヌクレオチドをナノ粒子に付着する他の方法が、当技術分野で知られている。このような方法は、さまざまな代表的文献において説明されている。(例えば、非特許文献30(金上の二硫化物)、非特許文献31(アルミニウム上のカルボン酸)、非特許文献32(銅上のカルボン酸)、非特許文献33(シリカ上のカルボン酸)、非特許文献34(白金上のカルボン酸)、非特許文献35(白金上の芳香環化合物)、非特許文献36(白金上のスルホラン、スルホキシド、および他の官能化溶媒)、非特許文献37(白金上のイソニトリル)、非特許文献38(シリカ上のシラン)、非特許文献39(シリカ上のシラン)、非特許文献40(シリカ上のシラン)、非特許文献41(二酸化チタンおよびシリカ上の芳香族カルボン酸、アルデヒド、アルコール、およびメトキシ基)、非特許文献42(金属上の剛性のあるホスフェート)参照。)
【0167】
さらに、環状ジスルフィド、例えば、少なくとも2つの硫黄原子を含む五または六員環を持つ環状ジスルフィドで官能化されたオリゴヌクレオチドも、本明細書で開示されている発明対象とともに使用するのに適している。好適な環状ジスルフィドは、市販されているものであるか、または知られている手順で合成することができる。還元型の環状ジスルフィドも使用できる。いくつかの実施形態では、環状ジスルフィドには、さらに、リンカー、例えば、ステロイド残基などの炭化水素部分を付着させることができる。
【0168】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド(例えば、オリゴヌクレオチド)は、リンカー分子を通じてSERS活性ナノ粒子の外面に付着する。特定の実施形態では、リンカー分子はPEGリンカーを含む。PEGリンカーは、本明細書の別のところで説明されているものを含む、好適な方法を通じてポリヌクレオチドおよびナノ粒子に付着できる。
【0169】
それぞれのナノ粒子には、複数のオリゴヌクレオチドを付着できる。その結果、それぞれのナノ粒子−オリゴヌクレオチドコンジュゲート体は、相補配列を有する複数のオリゴヌクレオチドまたは核酸に結合できる。所定の配列のオリゴヌクレオチドを作製する方法がよく知られている。(例えば、非特許文献43および44参照。)オリゴリボヌクレオチドおよびオリゴデオキシリボヌクレオチドに対し、固相合成法を使用してもよい(DNAを合成する知られている方法は、RNAを合成するのにも使用できる)。オリゴリボヌクレオチドおよびオリゴデオキシリボヌクレオチドは、さらに、酵素を用いて作製することもできる。
【0170】
したがって、本明細書で開示されている発明対象は、核酸を検出する方法を提供する。本明細書で開示されている方法を使用すれば、任意の種類の核酸を検出できる。したがって、本明細書で開示されている方法は、核酸の検出が、例えば、疾患の診断および核酸のシーケンシングにおいて必要な複数の応用事例において使用できる。本明細書で開示されている方法によって検出できる核酸の例には、これらに限定されないが、遺伝子(例えば、特定の疾患に関与する遺伝子)、ウイルスのRNAおよびDNA、細菌のDNA、菌類のDNA、cDNA、mRNA、RNAおよびDNAフラグメント、オリゴヌクレオチド、合成オリゴヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチド、一本鎖および二本鎖核酸、天然および合成核酸、ならびに同様の物質を含む。
【0171】
核酸を検出する方法の代表的使用例には、これらに限定されないが、科学捜査、DNAシーケンシング、親子鑑定、細胞株認証、遺伝子治療のモニタリング、およびその他多くの目的における、ウイルス性疾患(例えば、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、およびエプスタインバーウイルス)、細菌性疾患(例えば、結核、ライム病、ヘリコバクターピロリ(H.pylori)、大腸菌(Escherichia coli)感染、レジオネラ感染、マイコプラズマ感染、サルモネラ菌食中毒)、性感染症(例えば、淋病)、遺伝性疾患(例えば、嚢胞性線維症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、フェニルケトン尿症、鎌状赤血球貧血)、および癌(例えば、癌発生に関わる遺伝子)の診断および/またはモニタリングを含む。
【0172】
検出される核酸は、知られている方法によって単離できるか、または細胞、組織試料、生体液(例えば、唾液、尿、血液、血清、および同様の物質)、PCR成分を含む溶液、過剰のオリゴヌクレオチドまたは高分子量DNAを含む溶液、および当技術分野で知られているような他の試料中で直接検出することができる。(例えば、非特許文献43および45参照。)ハイブリダイゼーションプローブで検出するための核酸を作製する方法も、当技術分野でよく知られている。(例えば、非特許文献43および45参照。)核酸が少量存在する場合、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅を含む、当技術分野で知られている方法によって適用することができる。(例えば、非特許文献43および45参照。)
【0173】
核酸を検出するための本明細書で開示されている方法の1つは、核酸をオリゴヌクレオチドが付着している本明細書で開示されているナノ粒子のうちの1つまたは複数に接触させることを含む。検出する核酸は、少なくとも2つの部分を持つことができる。これらの間の部分の長さおよび距離(単数または複数)は、もしあれば、ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドが核酸にハイブリダイズするときに、検出可能なSERSシグナルを観察できるように選択される。これらの長さおよび距離は、経験的に、また使用される粒子の種類およびそのサイズおよびアッセイで使用される溶液中に存在する電解質の種類(当技術分野で知られているように、いくつかの電解質は核酸の立体配座に影響を及ぼす)に応じて決定できる。
【0174】
また、核酸が、他の核酸の存在下で検出される場合、ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドが結合する核酸の部分は、十分な固有の配列を含み、核酸の決定が特異的になるように選択されなければならない。そうするためのガイドラインは、当技術分野でよく知られている。ナノ粒子−オリゴヌクレオチドコンジュゲート体と核酸との接触は、ナノ粒子上のオリゴヌクレオチドと核酸の標的配列(単数または複数)とのハイブリダイゼーションにとって有効な条件の下で行われる。これらのハイブリダイゼーション条件は、当技術分野でよく知られており、使用される特定のシステムに合わせて容易に最適化できる。(例えば、非特許文献43参照。)いくつかの実施形態では、厳格なハイブリダイゼーション条件が用いられる。
【0175】
オリゴヌクレオチドが付着しているSERS活性ナノ粒子を使用することにより核酸を検出するための代表的方法は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれているParkらの特許文献13で開示されている。
【0176】
6.検査対象の試料によって放射されるSERSシグナルを検出するための代表的計装
いくつかの実施形態では、レーザーは、対象とする1つまたは複数の標的分析対象を検出するために使用される入射光の励起源として使用される。当業者であれば、本明細書で開示されている発明対象を検討した後、本明細書で説明されているSERS活性レポーター分子とともに使用するのに適している、強度および励起波長を含む、レーザーの種類を確認することができる。試料から散乱されるか、または放射される放射線は、当技術分野で知られている検出システムを使用して検出できる。
【0177】
いくつかの実施形態では、複数の種類の放射線源、または複数の励起波長を使用できる。例えば、対象とする2つの分析対象を検出すべき実施形態では、シグナル検出試薬は、2つの別個の種類のSERS活性レポーター分子および/または2つの別個の種類の特異的結合要素を含むことができる。したがって、異なる波長の入射光は、対象とするそれぞれの分析対象について別個のラマンシグナルを発生するために使用できる。当業者であれば、本明細書で開示されている発明対象を検討した後に理解するように使用される特定の波長(単数または複数)の選択は、対象とする分析対象、使用される特異的結合要素、および使用される特定のSERS活性レポーター分子に依存することがわかるだろう。
【0178】
本発明で開示されているアッセイは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれているBradyらの特許文献14で開示されているラマン分光計システムのような、Multimode Multiple Spectrometer Raman Spectrometer(米国ノースカロライナ州モリスビル所在のCentice社)を始めとする、当技術分野で知られている好適なラマン分光計システムで行うことができる。本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子とともに使用するのに適している追加的な計装が文献に開示されている(例えば、参照により本明細書に組み込まれている2008年3月20日に出願されたWeidemaierらの特許文献5参照)。
【0179】
光学的検出器などの感知デバイス、放射線源、ならびにコンピュータシステム、マイクロプロセッサ、コンピュータソフトウェア、およびアルゴリズムは、本明細書で開示されている方法を実施する際に組み合わせて使用できる。したがって、いくつかの実施形態では、ソフトウェア、または他のコンピュータ可読命令を使用して、本明細書で開示されている光学的アッセイに関係する出力データを解釈し、分析し、コンパイルし、または他の何らかの方法で解析することができる。ソフトウェアまたは他のコンピュータシステムは、1人または複数のユーザーに対して、デジタル形式または他の形式で出力データを表示し、格納し、または伝送するために使用できる。
【0180】
7.試料収集容器
いくつかの実施形態では、試料容器は、キュベット、血液採取チューブなどのチューブ、または検査およびSERS測定の対象となる試料に適合する他の試料収集容器からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、試料収集容器、例えば、チューブは、周囲環境の大気圧より小さい内部圧力を持つことができる。このような試料収集容器は、それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Cohenの特許文献15、Carrollらの特許文献16、およびAugelloらの特許文献17において開示されている。本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子とともに使用するのに適している、特に、磁気捕捉アッセイで使用するのに適している、追加アッセイ容器が文献に開示されている(例えば、参照により本明細書に組み込まれている2008年3月20日に出願されたWeidemaierらの特許文献5参照)。さらに、いくつかの実施形態では、試料収集容器は、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子を含むシグナル検出試薬を含む。このような実施形態では、利用者、例えば、患者もしくは医療技術者が検出する生体試料、例えば、血液を採取する前に、この試料収集容器の中にシグナル検出試薬を配置しておく。例えば、シグナル検出試薬は、試料収集容器の内面、例えば、内壁に固定化されるか、または単純に、試料容器内に他の何らかの方法で配置できる。
【0181】
試料収集容器、例えば、血液採取チューブを、シグナル検出試薬を中に入れたまま利用者に出荷してもよい。あるいは、利用者は、好適な検出試薬を選択して、その検出試薬を収集デバイス内に導入した後、試料を収集してもよい。さらに、本明細書で開示されている発明対象は、血液採取チューブなどの試料収集容器、SERS活性レポーター分子が付着しているナノ粒子を含む1つまたは複数のシグナル検出試薬などの1つまたは複数の試薬、磁気捕捉粒子、およびその個別の成分のうちの1つまたは複数を備えるキットを含むことができる。このようなキットには、これらに限定されないが、ナノ粒子に付着しているか、またはそれとは別にパッケージされている複数のレポーター分子または複数の特異的結合要素を含む、アッセイの任意の構成要素を入れることができる。
【0182】
本明細書で使用されているように、「試料」という用語は、赤血球、白血球、血小板、血清、および血漿などの全血または全血成分を含む生理液、腹水、尿、唾液、汗、乳、滑液、腹膜液、羊水、経脳脊髄液、リンパ液、肺塞栓症、脳脊髄液、心嚢液、頚腟部試料、組織抽出液、細胞抽出物、ならびに対象とする分析対象を含むことが疑われている人体の他の構成要素などの、生物源由来の試料を含む、任意の液体または流体試料を指す。生理液に加えて、環境または食品生産アッセイを行うための水、食品、および同様のものなどの他の液体試料は、本明細書で開示されている発明対象とともに使用するのに適している。分析対象を含むことが疑われている固形物も、検査試料として使用できる。いくつかの例において、液状媒質を形成するか、または分析対象を放出するように固形検査試料を修正すると都合がよい場合がある。
【0183】
いくつかの実施形態では、試料は、使用するのに先立って、血液から血漿を用意する、粘性流体を希釈する、または同様の操作などの前処理を行ってもよい。このような処理方法は、濾過、蒸留、濃縮、妨害化合物の不活性化、および試薬の追加を伴う場合がある。
【0184】
試料は、対象から採取された任意の試料とすることができる。「対象」という用語は、試料を採取できる生命体、組織、または細胞を指す。対象は、状態または疾患の診断および/または治療などの医療目的のための被検者、および医療、獣医学目的、または発生学的目的のための動物対象を含むことができる。対象は、さらに、組織培養、細胞培養、臓器複製、幹細胞産生などの試料物質を含むことができる。好適な動物対象としては、哺乳類と鳥類がある。本明細書で使用されているような「鳥類」という用語は、これらに限定されないが、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、およびキジを含む。本明細書で使用されているような「哺乳類」という用語は、これらに限定されないが、霊長類、例えば、ヒト、サル、類人猿、および同様の霊長類;ウシ亜科の動物、例えば、畜牛、雄牛など;ヒツジ属、例えば、ヒツジなど;ヤギ属、例えば、ヤギなど;ブタ、例えば、子ブタ、親ブタなど;ウマ属、例えば、ウマ、ロバ、シマウマなど;野生のネコおよび飼いネコを含むネコ科の動物;イヌを含むイヌ科の動物;ウサギ、野ウサギなどを含むウサギ目の動物;ハツカネズミ、ネズミなどを含む齧歯類を含む。好ましくは、対象は、哺乳類または哺乳類細胞である。より好ましくは、対象は、ヒトまたはヒト細胞である。ヒト対象は、これらに限定されないが、胎児、新生児、幼児、未成年者、および成人の対象を含む。さらに、「対象」は、状態または疾患のある、またはあることが疑われる患者を含むことができる。そこで、「対象」および「患者」という用語は、本明細書では互いに取り替えて使用される。対象は、さらに、生存能力、分化、マーカー作製、発現、および同様の事柄について検査する際の実験室培地またはバイオプロセス培地中の細胞または細胞群を指すことができる。
【0185】
本明細書で開示されている方法は、疾患状態または病状を予後については診断するため、またはモニタリングするために使用することができる。本明細書で使用されているように、「診断」という用語は、疾患、障害、または他の病状の有無、重症度、または治療過程の評価を行う予測プロセスを指す。本明細書の目的に関して、診断は、さらに、治療の結果の転帰を判定するための予測プロセスを含む。同様に、「診断する」という語は、試料が状態または疾患の1つまたは複数の特性を示すかどうかの判定を指す。「診断する」という語は、例えば、標的抗原または試薬結合標的の有無を確定すること、または種類、悪性度、病期、または類似の状態を含む、状態または疾患の1つまたは複数の特性を確定するか、または他の何らかの方法で判定することを含む。本明細書で使用されているように、「診断する」という語は、一方の形態の疾患を他方の形態の疾患から区別することを含むことができる。「診断する」という語は、状態または疾患の初期診断または検出、予後診断、およびモニタリングを包含する。
【0186】
「予後診断」という用語およびその派生形は、疾患または状態の経過を判定または予測することを指す。疾患または状態の経過は、例えば、平均寿命または生活の質に基づいて決定できる。「予後診断」は、1つまたは複数の治療がある場合、またはない場合の疾患または状態の時間的経過の決定を含む。治療(単数または複数)が考えられる場合、予後診断は、疾患または状態の治療の有効性を判定することを含む。
【0187】
本明細書で使用されているように、「リスク」という用語は、特定の成果の可能性の評価を行う予測プロセスを指す。
【0188】
「疾患または状態の経過をモニタリングする」などのような「モニタリングする」という語は、疾患または状態を有する、または有すると疑われる対象から採取される試料の継続的診断を指す。
【0189】
「マーカー」という用語は、試料中に検出された場合に、疾患または状態の特徴を示すか、またはその存在を示す、抗原を含むタンパク質などの分子を指す。
【0190】
本明細書で開示されている発明対象は、さらに、これらに限定されないが、心臓疾患、冠動脈疾患、糖尿病、代謝性疾患、リウマチ関節炎などの炎症性疾患、および癌などの慢性疾患を含む、対象内の疾患状態をモニタリングするための方法も提供する。代謝性疾患には、これらに限定されないが、高脂血症、低脂血症、甲状腺機能亢進症、および甲状腺機能低下症を含む。
【0191】
さらに、本明細書で開示されている方法は、慢性疾患の特異的マーカーをモニタリングするために使用できる。分子アーチファクト、代謝産物、ならびに疾患状態の有害および/または有益な分子の濃度をモニタリングすることにより、対象の進行、退行、または安定性を評価し、次に、それに応じて、治療を調節または改訂することができる。例えば、本明細書で開示されているバイオセンサーを使用してインビボでモニタリングすることができる心臓疾患用のマーカーは、これらに限定されないが、全脂肪酸、乳酸塩、グルコース、遊離脂肪酸、ならびにこれらに限定されないが、カルジオグリコシドおよび交感神経興奮薬などのさまざまな強心剤を含む。糖尿病のマーカーには、これらに限定されないが、グルコース、乳酸塩、および脂肪酸を含む。同様に、冠動脈疾患のマーカーとしては、これらに限定されないが、C反応性ペプチドおよび遊離脂肪酸が挙げられる。一般的に、さまざまな代謝性疾患のマーカーは、限定はしないが、特異的脂肪酸を含む。
【0192】
本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子も、薬物治療をモニタリングするデバイスで使用するのに適している。実際、SERS活性ナノ粒子は、薬物、薬物候補、または薬物代謝産物を特異的に結合するように設計できる。この方法で、薬物の血漿濃度のモニタリングを行い、SERS法によって実行される濃度測定結果に基づき投薬量を調節または維持することができる。したがって、薬物または薬物代謝産物を特異的に、また可逆的に結合して薬物の血漿濃度を決定することができるSERS活性ナノ粒子の使用を含む、処方計画を特定対象に合わせて個別化することができる。次いで、SERS法によって得られる濃度を使用して、対象中の薬物の生物学的利用能を決定することができる。対象に投与される薬物の用量は、対象に対する薬物の生物学的利用能を加減して治療効果を最大にし、毒性を避けるように変更することができる。
【0193】
本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、さらに、さまざまな代謝産物を同時にモニタリングするために使用でき、その測定結果を使用して、対象の代謝または身体状態のプロファイリングを行うことができる。例えば、長時間にわたって激しい運動を行ったときに、グルコースは、嫌気性プロセスで乳酸に分解される。本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、運動選手の乳酸塩閾値を測定してトレーニングの有効性を最大にし、回復時間を短縮するために使用できる。同様に、SERS活性ナノ粒子は、兵士の乳酸塩閾値を測定して疲労と消耗を防ぎ、回復時間を短縮するために使用することができる。この目的のために、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、運動時または肉体的ストレスがかかっているときに、グルコースレベル、乳酸レベル、および他の代謝産物をモニタリングするために使用できる。
【0194】
本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、さらに、緊急救命室または術後回復室または病院などの救急治療設備内の患者の病状または疾患状態をモニタリングするために使用できる。例えば、対象のグルコースレベルをモニタリングするための方法を提供する実施形態では、グルコースレベルがモニタリングされ、正常値に保たれているときに術後患者の死亡率を30%程度減少させることができることを研究が示している。こうして、本明細書で開示されているSERSベースの診断アッセイは、グルコースまたは他の代謝産物のモニタリングが対象の回復または健康全般に不可欠である状況で使用することができる。
【0195】
検査対象の試料中に存在する1つまたは複数の分析対象の量は、濃度として表すことができる。本明細書で使用されているように、「濃度」という用語は、当技術分野における通常の意味を有する。濃度は、標的分析対象の有無を示す、定性的な値、例えば、マイナス型またはプラス型の結果、例えば、「YES」または「NO」応答として、あるいは定量的な値として表すことができる。さらに、与えられた分析対象の濃度は、相対量または絶対量として、例えば、「定量値」として報告できる。本明細書で開示されているアッセイは、いくつかの実施形態では、約5fg/mLから約500ng/mLまでの濃度範囲、いくつかの実施形態では、約10fg/mLから約100ng/mLまでの濃度範囲、いくつかの実施形態では、約50fg/mLから約50ng/mLまでの濃度範囲の対象とする分析対象を検出することができる。
【0196】
分析対象の量(濃度)が0に等しければ、探索されている特定の分析対象が存在しないこと、または特定の分析対象の濃度がアッセイの検出限界を下回っていることを示す。測定される量は、追加の測定または操作を行うことなくSERSシグナルとしてもよい。あるいは、測定される量は、特定の分析対象の測定値と、これらに限定されないが、標準または他の分析対象を含む、他の化合物の測定値との差、割合、または比として表してもよい。差が負であれば、測定された分析対象(単数または複数)の量が減少していることを示す。量は、さらに、異なる時点において測定された、それ自身に対する分析対象(単数または複数)の差または比として表すこともできる。分析対象の量は、発生するシグナルから直接決定することができるか、または発生したシグナルを、発生したシグナルの値と試料中の分析対象(単数または複数)の量との相関関係を求めるように設計されているアルゴリズムで使用することができる。
【0197】
本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、1つまたは複数の分析対象の濃度を連続測定することができるデバイスとともに使用するうえで順応性がある。本明細書で使用されているように、「連続的」という語は、分析対象の測定と併せて、デバイスがデバイス寿命期間の任意の時点において検出可能なシグナルを発生するか、または発生することができることを意味するために使用される。検出可能なシグナルは、シグナルが検出されないとしても、デバイスが常にシグナルを発生しているという点で一定であるものとすることができる。あるいは、デバイスを一時的に使用し、所望の時点において検出可能なシグナルを発生し、検出してもよい。
【0198】
B.細胞画像化
本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子のサイズが小さいため、ナノ粒子を細胞内に組み込むことができる。例えば、SERSを使用する化学療法薬とDNAとの錯体形成が実証されている。(例えば、非特許文献46および47参照。)SERSは、さらに、特定の癌に対する化学療法耐性の機序を調べるために使用されてきた。(例えば、非特許文献48参照。)さらに、SERSは細胞内の特定の化学物質の分布を特徴付け、細胞質と細胞核とを区別するために使用されている。(例えば、非特許文献49参照。)
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている色素で標識化されたナノ粒子は、細胞画像化に使用され、これで、例えば、生体試料中の正常細胞に対し、異常な細胞、例えば、癌性細胞などの異常を示す細胞を区別することができる。このような実施形態では、色素から生じるラマンシグナルの強度は、検出された細胞の密度に比例する。さらに、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている色素で標識化されたナノ粒子に、さらに、結合ペアの特異的結合要素、例えば、抗体などの他の化学種を標識化して、対象とする細胞への結合を促進することができる。細胞画像化にSERS活性ナノ粒子を使用することについては、参照によりそれぞれその全体が本明細書に組み込まれている特許文献18および19で説明されている。
【0199】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、試料細胞中の1つまたは複数の標的構造の存在を検出するための方法を提供し、この方法は、(a)1つまたは複数の試料細胞を、1つまたは複数の結合要素を試料細胞中の1つまたは複数の標的構造に結合するのに適している条件の下で、1つまたは複数の結合要素で標識化された1つまたは複数のSERS活性ナノ粒子に接触させるステップであって、該SERS活性ナノ粒子は区別可能なラマンシグナルを発生することができる式A−Yの色素が会合しているステップと:
A−Y
[式中、
Aは、
【0200】
【化12】

【0201】
からなる群から選択され、
ただし、式中、X1は、CR4またはNであり、
Yは、
【0202】
【化13】

【0203】
からなる群から選択され、
式中、
r、s、およびtは、それぞれ独立に1から8までの整数であり、
2およびX3はそれぞれ次の前提条件の下で、C、S、およびNからなる群から独立に選択され、当該前提条件は(i)X2がCまたはSのときにR5はZであるか、またはX3がCまたはSのときに、R6はZであり、Zは以下で定義され、(ii)X2とX3の両方が同時にNである場合、R5およびR6のうちの少なくとも一方は存在せず、(iii)X2がNであるとき、R5は存在すればZ’であるか、またはX3がNであるとき、R6は存在すればZ’であり、Z’は、
−(CH2n−X4;−NR8−(CH2p−X5;−(CH2q6C(=O)−R9
【0204】
【化14】

【0205】
からなる群から選択され、
式中、
n、p、q、u、およびvは、それぞれ独立に、1から8までの範囲の整数であり、
4およびX5は、ヒドロキシル、アミノ、およびチオールからなる群からそれぞれ独立に選択され、
6は、OまたはNR11であり、
式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R8、R10、R11、およびZはそれぞれ、H、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、アルコキシシクロアルキル、アミノアルキル、アシルオキシル、アルキルアミノアルキル、およびアルコキシカルボニルからなる群から独立に選択され、
7は、Z’であり、
9は、−(CH2m−X7または−(CH2m−Bであり、ただし、式中、
mは、1から8までの整数であり、
7は、ハロゲンであり、
Bは、検出すべきリガンドまたは分析対象に対し結合親和性を有する結合要素である]、
(b)試料細胞から1つまたは複数の区別可能なSERSシグナルを検出して、試料細胞中の1つまたは複数の標的構造の存在を示すステップとを含む。
【0206】
いくつかの実施形態では、この方法は、さらに、1つまたは複数のSERS活性ナノ粒子を1つまたは複数の対照細胞に接触させることを含む。いくつかの実施形態では、この方法は、さらに、試料細胞から検出された1つまたは複数の区別可能なSERSシグナルを分析して、試料細胞中の1つまたは複数の標的構造のプロファイルを作製するステップを含む。いくつかの実施形態では、この方法は、さらに、対照細胞から検出された1つまたは複数の区別可能なSERSシグナルを分析して、対照細胞中の1つまたは複数の標的構造のプロファイルを作製するステップを含む。いくつかの実施形態では、この方法は、さらに、試料細胞中の1つまたは複数の標的構造のプロファイルを対照細胞中の1つまたは複数の標的構造のプロファイルと比較するステップを含む。いくつかの実施形態では、対照細胞のプロファイルと比較したときの試料細胞のプロファイルの相違は、試料細胞の異常を示している。
【0207】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、細胞内の微細構造を染色するために使用できる。このような実施形態では、SERS活性ナノ粒子は、知られている標的微細構造または受容体に特異的に結合する少なくとも1つのリガンドで標識化できる。いくつかの実施形態では、SERS活性ナノ粒子プローブのセットを使用することができ、このセットのそれぞれの要素は、知られている標的または受容体に特異的に結合するリガンドと標的との結合後に区別可能なSERSシグナルを発生することができる1つまたは複数のSERS活性色素の組合せを含む。
【0208】
適当な条件の下で、標識化されたSERS活性ナノ粒子は、細胞内の受容体および他の微細構造に特異的に結合することができる。そこで、「染色した」細胞は、例えば、走査型ラマン顕微鏡を使用して細胞内の特定受容体および微細構造の存在および配置を決定することにより画像化できる。さらに、特定のリガンドと会合している個別のラマン活性色素からのSERSシグナルを使用して、細胞内の特定受容体および微細構造を区別し、細胞内の受容体および微細構造のプロファイルを作製することができる。本明細書で開示されている方法に従ってアッセイされる標的細胞のプロファイルを同じ種類の正常細胞から同様に得られたプロファイルと比較して、標的細胞内の異常の存在を判定することができる。標的細胞は、生きているか、または死んでいるかのいずれであってもよい。
【0209】
本明細書で使用されているように、「微細構造」という用語は、これらに限定されないが、フィブロネクチンおよびラミニンなどの細胞外マトリックス分子;アクチンフィラメントおよび微小管などの細胞内構造;ヒストンなどの細胞核構造;ならびに同様の構造を含む。このような微細構造に結合するのに適しているリガンドは、本明細書で開示されているリガンドから選択することができ、これらに限定されないが、抗フィブロネクチン抗体および抗アクチン抗体などの抗体、ならびに抗ヒストンタンパク質などの他の天然リガンドを含む。
【0210】
ラマンスペクトル情報を含む細胞の画像は、当技術分野で知られているさまざまな方法によって得ることができる。例えば、顕微鏡を電荷結合素子(CCD)カメラに接続して、試料の完全画像を得ることができる。典型的には、このような実施形態では、単色光分光器または液晶同調フィルタなどの波数(または波長)フィルタリングデバイスを試料とCCDカメラとの間に挿入することができる。フィルタリングデバイスでは、どの時点においても狭い帯域の散乱光のみがCCDカメラに到達できる。複数画像が、CCDカメラによって集められ、そこで、それぞれの画像が散乱光の特定のスペクトル範囲をカバーすることができる。ソフトウェアで、画像内のそれぞれの点からのスペクトルを構築してもよい。あるいは、画像の単一点からの光を単色光分光器に通して分散させ、アレイ検出器上でその点の完全スペクトルを取得してもよい。試料は、画像内のそれぞれの点が分離して得られるように走査できる。次いで、ソフトウェアでラマン画像が構築される。他のアプローチでは、放射線で試料を励起する線走査計測器を構築することができる。この線は、直交する軸にそって同時にスペクトル分散しながらCCDカメラの1つの軸にそって空間的に画像化される。カメラのそれぞれの読み出しで、線の中のそれぞれの空間ピクセルの完全スペクトルを取得する。画像を完成するために、試料の端から端まで線を走査する。画像化に適しているRaman計測器の例は、非特許文献50で説明されている。
【0211】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、受動的摂取機構によって細胞または組織内に組み込んでもよい。ナノ粒子を細胞内に組み込むための他の機構は、小ペプチドを使用するもので、これは、細胞表面上のエンドサイトーシス受容体に結合し、エンドサイトーシスを通じてナノ粒子を細胞内に引き込むことができる。(例えば、非特許文献51参照。)さらに、SERS活性ナノ粒子は、PEP−1などの両親媒性ペプチドの使用、LIPOFECTAMINE(商標)(米国カリフォルニア州カールズバッド所在のInvitrogen Corp.社)などのカチオン性脂質ベース試薬の使用、ならびにトランスフェリン、マンノース、ガラクトース、およびArg−Gly−Asp(RGD)などのミセルおよびトランスフェクション試薬およびデンドリマーベースの試薬SUPERFECT(商標)(米国カリフォルニア州バレンシア所在のQiagen,Inc.社)などの他の試薬の使用を含む、マイクロインジェクション、トランスフェクション、エレクトロポレーション、およびエンドサイトーシス媒介アプローチを介して細胞内に導入することができる。細胞内間接的方法を使用することで、粒子が所望の標的に結合されることを示すことができる。プローブの特異性を実証するのに適している一方法は、免疫蛍光法であり、これは、SERS活性ナノ粒子の配置を検証するために使用できる。生細胞中の細胞構造(ミトコンドリア、ゴルジ体、および小胞体など)を標識するのに役立つ多数の蛍光プローブが市販されている。同一構造を標的とする抗体のコンジュゲート体を作ることにより、標的を能動的に標識するナノ粒子の部分を決定することができる。同様に、非特異的に結合しているナノ粒子の割合も決定できる。SERS活性ナノ粒子の配置を検証する他のアプローチは、GFPおよびその類似体などの蛍光タンパク質融合を使用するものである。
【0212】
いくつかの実施形態では、医学的診断において使用するために、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子を含む造影剤が提供される。本明細書で開示されている造影剤は、一般的に患者を画像化する際に、および/または特に、患者の病変組織を診断する際に役立つ。上述のように、ナノ粒子コアのサイズ、形状、および組成、色素の同一性、ならびに封止材の組成および厚さを選択することにより、必要に応じて、SERS活性ナノ粒子の最適な励起および放出頻度を、約630nmから約1000nmの間で生じるように、つまり、組織による吸収および散乱のある最小領域に来るようにチューニングすることができる。
【0213】
画像化プロセスは、1つまたは複数の本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子を含む造影剤を細胞、組織試料、または患者などの対象に投与し、次いで、これらに限定されないが、スポット走査型共焦点顕微鏡、線走査型システム、および光学コヒーレンス断層画像化システムを含む、スペクトル画像化を実行できる当技術分野で知られている任意のシステムを使用して細胞、組織試料、または対象を走査することにより実行できる。細胞、組織試料、または対象中の本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子の存在も、単一波長域上で検出する任意の画像化システムだけでなく、励起光源およびフィルタ処理画像検出機能を備える蛍光画像化システムによって観察できる。本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子とともに使用するのに適している他の画像化システムは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている非特許文献52で説明されている。動的光散乱分光法および断層撮影法、飛行時間型画像化、準弾性光散乱分光法、光子相関分光法、ドップラー分光法、ならびに拡散波分光法などの時間領域法を含む、他の画像化方法は、本明細書で開示されている発明対象とともに使用するのに適している。これらの技術はすべて、光子間の区別を可能にし、また時間シグネチャに基づいている。SERS活性ナノ粒子は、蛍光物質および同様の物質と異なる時間シグネチャを持つことができるので、これらの方法で組織および他の標識に対し区別できる。有用な計測器パラメータとしては、さらに、調光源および時間依存検出器を含む。変調は、パルス的または連続的とすることができる。
【0214】
細胞、組織試料、または対象の走査により、細胞、組織試料、または対象の内部領域のスペクトルまたは画像が提供され、この走査を使用することで、状態または疾患状態の存在を検出または診断することができる。細胞、組織試料、または対象の領域とは、全細胞、組織試料、もしくは対象、または細胞、組織試料、もしくは対象の特定の領域または一部のことである。対象が患者である場合、本明細書で開示されている造影剤は、血管系、心臓、肝臓、および脾臓を含む、患者の内蔵を画像化するために、また胃腸領域または他の体腔を画像化する際に、あるいは組織特徴付け、血液プール画像化など、当業者に容易に理解されるような他の方法で、使用することができる。
【0215】
本明細書で開示されている発明対象は、さらに、いくつかの実施形態において、異常病変をインビボで診断する方法を提供し、この方法は、異常病変に含まれる分子を標的とする複数のSERS活性ナノ粒子を異常病変に接触している体液中に導入するステップであって、該SERS活性ナノ粒子が異常病変に含まれる分子と会合することのできるステップと、会合しているSERS活性ナノ粒子をインビボで画像化するステップとを含む。本明細書で開示されている方法は、一般的に、胃腸管、心臓、肺、肝臓、頸部、乳房、および同様の臓器を含む、SERS活性ナノ粒子プローブによって接近可能な臓器に適用可能である。
【0216】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、大腸内視鏡検査の場合のように内視鏡で、または針で対象中に導入することができるか、または使い捨て型先端またはスリーブとともに、またはエンドサイトーシス、トランスフェクション、マイクロインジェクション、および同様の方法を介して使用してもよい。他の実施形態では、SERS活性ナノ粒子プローブは、画像化プローブ自体を直接導入することにより導入してもよい。いくつかの実施形態では、個別の光ファイバー、または光ファイバーの束を生きている生命体の中に導入して画像化することができる。このような方法は、神経、脳、微細血管、細胞の画像化だけでなく、生体内分布の特徴付けについても実証されている。ゲルコートされた光ファイバーは、センサーの文献においてよく知られている。本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、ゲルに非共有結合することができ、ナノ粒子は組織内に導入した後、組織内に拡散することができる。接触先の液相内に拡散できるようにファイバーの外面上にSERS活性ナノ粒子を固定化するための他のさまざまな方法も、本明細書で開示されている発明対象とともに使用するのに適している。
【0217】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、SERS活性ナノ粒子で動物を標識するための方法を提供し、この方法は、SERS活性ナノ粒子を動物体内に導入するステップを含む。本明細書で開示されているSERS活性ナノ粒子は、これらに限定されないが、皮下移植法または静脈内注射を含む、好適な方法によって動物体内に導入することができる。SERS活性ナノ粒子は、適切な計装を使用して検出してもよい。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている発明対象は、家畜およびペットを含む、動物用の識別システムを構成し、SERS活性ナノ粒子を動物の皮下に埋め込んで(または隠して)、識別を可能にする。
【0218】
III.化学物質の定義
以下の用語は、当業者であればよく理解できると考えられるが、本明細書で開示されている発明対象の説明を容易にするために以下の定義が掲載されている。断りのない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本明細書で説明されている発明対象が関係している技術分野の当業者に通常理解される意味と同じ意味を有する。
【0219】
明細書および請求項全体を通して、与えられた化学式または名称は、すべての光学および立体異性体、さらにはそのような異性体と混合物が存在するラセミ混合物をも包含するものとする。
【0220】
「独立に選択される」という用語が使用される場合、参照されている置換基(例えば、R1、R2、および同様のものなどのR基、または基X1およびX2)は同一であるか、または異なるものとすることができる。例えば、R1およびR2は両方とも、置換アルキルとすることができるか、またはR1は水素であり、R2は置換アルキルであるものとすることができ、同様の言い方を続けられる。
【0221】
「R」または「X」の名称が付いている基は、一般に、本明細書で特に断りのない限り、その名称を持つ基に対応するものとして当技術分野において認識されている構造を有する。例示することを目的として、上記のいくつかの代表的な「R」および「X」基を以下に定義する。これらの定義は、本開示を読んだ後当業者に明らかになるであろう定義を補足し、例示することを意図されているが、除外することは意図されていない。
【0222】
本明細書で使用されているような「アルキル」という用語は、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、オクテニル、ブタジエニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、およびアレニル基を含む、C1-20を含めて直線状(つまり、「直鎖」)、分岐鎖、または環状、飽和、または少なくとも部分的には、またいくつかの場合において、完全不飽和(つまり、アルケニルおよびアルキニル)の炭化水素鎖を指す。「分岐」は、メチル、エチル、またはプロピルなどの低級アルキル基が直線状アルキル鎖に付着しているアルキル基を指す。「低級アルキル」は、1から約8個の炭素原子(つまり、C1-8アルキル)、例えば、1、2、3、4、5、6、7、または8個の炭素原子を有するアルキル基を指す。「高級アルキル」は、約10から約20個の炭素原子、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個の炭素原子を有するアルキル基を指す。いくつかの実施形態では、「アルキル」は、特に、C1-8直鎖アルキルを指す。他の実施形態では、「アルキル」は、特に、C1-8分岐鎖アルキルを指す。
【0223】
アルキル基は、同じでも異なっていてもよい1つまたは複数のアルキル基置換基で任意選択的に置換することができる(「置換アルキル」)。「アルキル基置換基」という用語は、これらに限定されないが、アルキル、置換アルキル、ハロ、アリールアミノ、アシル、ヒドロキシル、アリールオキシ、アルコキシル、アルキルチオ、アリールチオ、アラルキルオキシル、アラルキルチオ、カルボキシル、アルコキシカルボニル、オキソ、およびシクロアルキルを含む。アルキル鎖にそって、1つまたは複数の酸素、硫黄、または置換もしくは非置換窒素原子を場合により挿入することができ、該窒素置換基は、水素、低級アルキル基(本明細書では「アルキルアミノアルキル」とも称する)、またはアリールである。
【0224】
したがって、本明細書で使用されているような「置換アルキル」という用語は、アルキル基の1つまたは複数の原子もしくは官能基が、例えば、アルキル、置換アルキル、ハロゲン、アリール、置換アリール、アルコキシル、ヒドロキシル、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、スルフェート、およびメルカプトを含む、他の原子もしくは官能基で置き換えられた、本明細書で定義されているようなアルキル基を含む。
【0225】
「環状」および「シクロアルキル」は、約3から約10個の炭素原子、例えば、3、4、5、6、7、8、9、または10個の炭素原子の非芳香族の単環系または多環系を指す。シクロアルキル基は、場合により部分的に不飽和とすることができる。シクロアルキル基は、さらに、本明細書で定義されているようなアルキル基置換基、オキソ、および/またはアルキレンで任意選択的に置換してもよい。環状のアルキル鎖にそって、1つまたは複数の酸素、硫黄、または置換もしくは非置換窒素原子を場合により挿入することができ、該窒素置換基は、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、または置換アリールであり、このようにして複素環基が提供される。代表的な単環式シクロアルキル環には、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロヘプチルが挙げられる。多環式シクロアルキル環としては、アダマンチル、オクタヒドロナフチル、デカリン、カンファー、カンファン、およびノルアダマンチルを含む。
【0226】
本明細書で使用されているような「シクロアルキルアルキル」という用語は、上でも定義されているように、アルキル基を通じて親分子部分に付着している、上で定義されているようなシクロアルキル基を指す。シクロアルキルアルキル基の例には、シクロプロピルメチルおよびシクロペンチルエチルを含む。
【0227】
「シクロへテロアルキル」または「ヘテロシクロアルキル」という用語は、同じであるか、または異なるものとすることができるN、O、およびSからなる群から選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含み、1つまたは複数の二重結合を任意選択的に含むことができる3から7員の置換または非置換シクロアルキル環系などの非芳香族環系を指す。シクロヘテロアルキル環は、他のシクロヘテロアルキル環および/または非芳香族炭化水素環に場合によっては融合されるか、または他の何らかの形で付着されうる。代表的なシクロへテロアルキル環系には、これらに限定されないが、ピロリジニル、ピロリニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピペリジル、ピペラジニル、インドリニル、キヌクリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、チアジアジナニル、テトラヒドロフラニル、および同様の物質を含む。
【0228】
本明細書で使用されているような「アルケニル」という用語は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む指定数の炭素原子の直鎖または分岐鎖炭化水素を指す。「アルケニル」の例には、ビニル、アリル、2−メチル−3−ヘプテン、および同様の物質を含む。
【0229】
本明細書で使用されているような「シクロアルケニル」という用語は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む環状炭化水素を指す。シクロアルケニル基の例には、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロペンタジエン、シクロヘキセニル、1,3−シクロヘキサジエン、シクロヘプテニル、シクロヘプタトリエニル、およびシクロオクテニルを含む。
【0230】
本明細書で使用されているような「アルキニル」という用語は、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を含む指定数の炭素原子の直鎖または分岐鎖炭化水素を指す。「アルキニル」の例には、プロパルギル、プロピン、および3−ヘキシンを含む。
【0231】
「アルキレン」は、1から約20個の炭素原子、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖二価脂肪族炭化水素基を指す。アルキレン基は、直鎖、分岐鎖、または環状とすることができる。アルキレン基は、さらに、任意選択的に非飽和であり、および/または1つまたは複数の「アルキル基置換基」で置換されたものとしてもよい。アルキレン鎖にそって、1つまたは複数の酸素、硫黄、または置換もしくは非置換窒素原子(本明細書では「アルキルアミノアルキル」とも称する)を場合により挿入することができ、該窒素置換基は、前記のようにアルキルである。アルキレン基の例には、メチレン(−CH2−);エチレン(−CH2−CH2−);プロピレン(−(CH23−);シクロヘキシレン(−C610−);−CH=CH−CH=CH−;−CH=CH−CH2−;−(CH2q−N(R)−(CH2r−(式中qおよびrをそれぞれ、0から約20までの整数値を独立にとり、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20とし、Rは水素または低級アルキルとする);メチレンジオキシル(−O−CH2−O−);およびエチレンジオキシル(−O−(CH22−O−)を含む。アルキレン基は、約2から約3個の炭素原子を有し、さらに、6〜20個の炭素を有することができる。
【0232】
「アリール」という用語は、本明細書では、単一の芳香族環であるか、または融合した、共有結合した、または限定はしないが、メチレンまたはエチレン部分などの共通の基に結合した複数の芳香族環とすることができる芳香族置換基を指す。共通の連結基は、ベンゾフェノンの場合のようにカルボニル、またはジフェニルエーテルの場合のように酸素、またはジフェニルアミンの場合のような窒素とすることもできる。「アリール」という用語は、特に、複素環芳香族化合物を包含する。芳香環(複数可)は、とりわけ、フェニル、ナフチル、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルアミン、およびベンゾフェノンを含むことができる。特定の実施形態において、「アリール」という用語は、約5から約10個の炭素原子、例えば、5、6、7、8、9、または10個の炭素原子を含み、5員または6員の炭化水素および複素環式芳香環を含む環状芳香族を意味する。
【0233】
アリール基は、同じであるか、異なるものとすることができる、1つまたは複数のアリール基置換基で任意選択的に置換することができ(「置換アリール」)、「アリール基置換基」は、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、アリールオキシル、アラルキルオキシル、カルボキシル、アシル、ハロ、ニトロ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アラルコキシカルボニル、アシルオキシル、アシルアミノ、アロイルアミノ、カルバモイル、アルキルカルバモイル、ジアルキルカルバモイル、アリールチオ、アルキルチオ、アルキレン、および式中R'およびR"をそれぞれ独立に水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、およびアラルキルとする−NR'R"を含む。
【0234】
したがって、本明細書で使用されているような「置換アリール」という用語は、アリール基の1つまたは複数の原子もしくは官能基が、例えば、アルキル、置換アルキル、ハロゲン、アリール、置換アリール、アルコキシル、ヒドロキシル、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、スルフェート、およびメルカプトを含む、他の原子もしくは官能基で置き換えられた、本明細書で定義されているようなアリール基を含む。
【0235】
アリール基の具体例には、これらに限定されないが、シクロペンタジエニル、フェニル、フラン、チオフェン、ピロール、ピラン、ピリジン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピラゾール、ピラジン、トリアジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン、インドール、カルバゾール、および同様の物質を含む。
【0236】
「ヘテロアリール」という用語は、これらに限定されないが、同じであるか、または異なるものとすることができるN、O、およびSからなる群から選択される、1つまたは複数のヘテロ原子を含む、5員また6員環系などの芳香族環系を指す。ヘテロアリール環は、1つまたは複数のヘテロアリール環、芳香族もしくは非芳香族炭化水素環、またはヘテロシクロアルキル環に場合によっては融合されるか、または他の何らかの形で付着してもよい。代表的なヘテロアリール環系は、これらに限定されないが、ピリジル、ピリミジル、ピロリル、ピラゾリル、アゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、フラニル、チエニル、キノリニル、イソキノリニル、インドリニル、インドリル、ベンゾチエニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾフラニル、ベンズイミダゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンゾピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、および同様の物質を含む。
【0237】
環構造が芳香族または非芳香族でありうる一般に式
【0238】
【化15】

【0239】
の構造は、本明細書で使用されているように、置換R基を含む本明細書で定義されているような飽和環構造、部分的飽和環構造、および不飽和環構造を含む、環構造、例えば、限定はしないが、3−炭素、4−炭素、5−炭素、6−炭素、および同様の数の炭素の脂肪族および/または芳香族環式化合物を指し、R基は存在することもあれば、存在しないこともあり、存在する場合には1つまたは複数のR基をそれぞれ環構造の1つまたは複数の利用可能な炭素原子上で置換できる。R基の有無およびR基の個数は、整数nの値によって決定される。それぞれのR基は、複数であれば、他のR基上ではなく、環構造の利用可能な炭素上で置換される。例えば、nが0から2の範囲の値である上記の構造は、これらに限定されないが、
【0240】
【化16】

【0241】
および同様の基を含む化合物基を含む。
【0242】
環状の環構造内の結合を表す破線は、結合が環の中に存在するか存在し得ないかを示す。つまり、環状の環構造内の結合を表す破線は、環構造が飽和環構造、部分的飽和環構造、および不飽和環構造からなる群から選択されることを示している。
【0243】
芳香環または複素環式芳香環の指定された原子が「存在していない」ものとして定義されている場合、その指定された原子は、直接結合で置き換えられる。
【0244】
本明細書で使用されているように、「アシル」という用語は、カルボキシル基の−OHが他の置換基で置き換えられている有機酸基を指す(つまり、RCO−で表され、Rは本明細書で定義されているアルキルまたはアリール基である)。したがって、「アシル」という用語は、特に、アセチルフランおよびフェナシル基などのアリールアシル基を包含する。アシル基の具体例には、アセチルおよびベンゾイルを含む。
【0245】
「アルコキシル」は、アルキルが前述のとおりのものであるアルキル−O−基を指す。本明細書で使用されているような「アルコキシル」という用語は、C1-20を含めて、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシル、およびペントキシルを含む直鎖、分岐鎖、または環状の、飽和または不飽和のオキソ炭化水素鎖を指す。
【0246】
本明細書で使用されているような「アルコキシアルキル」という用語は、アルキル−O−アルキルエーテル、例えば、メトキシエチルまたはエトキシメチル基を指す。
【0247】
「アリールオキシル」は、置換アリールを含む、アリール基が前述のとおりのものであるアリール−O−基を指す。本明細書で使用されているような「アリールオキシル」という用語は、フェニルオキシルまたはヘキシルオキシル、およびアルキル、置換アルキル、ハロ、またはアルコキシル置換フェニルオキシルまたはヘキシルオキシルを指すものとすることができる。
【0248】
本明細書で使用されているような「アルキル−チオ−アルキル」という用語は、アルキル−S−アルキルチオエーテル、例えば、メチルチオメチルまたはメチルチオエチル基を指す。
【0249】
「アラルキル」は、アリールおよびアルキルが前述のとおりのものであり、置換アリールおよび置換アルキルを含む、アリール−アルキル−基を指す。アラルキル基の例には、ベンジル、フェニルエチル、およびナフチルメチルを含む。
【0250】
「アラルキルオキシル」は、アラルキル基が前述のとおりのものであるアラルキル−O−基を指す。アラルキルオキシル基の例は、ベンジルオキシルである。
【0251】
「アルコキシカルボニル」は、アルキル−O−CO−基を指す。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル、およびt−ブチルオキシカルボニルを含む。「アリールオキシカルボニル」は、アリール−O−CO−基を指す。アリールオキシカルボニル基の例としては、フェノキシカルボニルおよびナフトキシカルボニルが挙げられる。「アラルコキシカルボニル」は、アラルキル−O−CO−基を指す。アラルコキシカルボニル基の例は、ベンジルオキシカルボニルである。
【0252】
「カルバモイル」は、H2N−CO−基を指す。「アルキルカルバモイル」は、前記のようにRおよびR'のうちの一方が水素であり、RおよびR’のうちの他方がアルキルおよび/または置換アルキルであるR'RN−CO−基を指す。「ジアルキルカルバモイル」は、前記のようにRおよびR'のうちのいずれもがそれぞれ独立にアルキルおよび/または置換アルキルであるR'RN−CO−基を指す。
【0253】
「アシルオキシル」は、アシルが前述のとおりのものであるアシル−O−基を指す。
【0254】
「アミノ」という用語は、−NH2基を指し、さらに、有機ラジカルで1つまたは複数の水素ラジカルを置き換えることによりアンモニアから誘導される当技術分野で知られているような窒素含有基を指す。例えば、「アシルアミノ」および「アルキルアミノ」という用語は、それぞれアシルおよびアルキル置換基による特異的N−置換有機ラジカルを指す。
【0255】
「アルキルアミノ」という用語は、前記のようにRがアルキル基および/または置換アルキル基である−NHR基を指す。アルキルアミノ基の例には、メチルアミノ、エチルアミノ、および同様の物質を含む。
【0256】
「ジアルキルアミノ」は、前記のようにRおよびR'のうちのいずれもがそれぞれ独立にアルキル基および/または置換アルキル基である−NRR'基を指す。ジアルキルアミノ基の例には、エチルメチルアミノ、ジメチルアミノ、およびジエチルアミノを含む。
【0257】
「アシルアミノ」は、アシルが前述のとおりのものであるアシル−NH−基を指す。「アロイルアミノ」は、アロイルが前述のとおりのものであるアロイル−NH−基を指す。
【0258】
「カルボニル」という用語は、−(C=O)−基を指す。
【0259】
「カルボキシル」という用語は、−COOH基を指す。
【0260】
本明細書で使用されているような「ハロ」、「ハロゲン化物」、または「ハロゲン」という用語は、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、およびヨード基を指す。
【0261】
「ヒドロキシル」という用語は、−OH基を指す。
【0262】
「ヒドロキシアルキル」という用語は、−OH基で置換されたアルキル基を指す。
【0263】
「メルカプト」という用語は、−SH基を指す。
【0264】
「オキソ」という用語は、炭素原子が酸素原子で置き換えられた本明細書ですでに説明されている化合物を指す。
【0265】
「ニトロ」という用語は、−NO2基を指す。
【0266】
「チオ」という用語は、炭素または酸素原子が硫黄原子で置き換えられた本明細書ですでに説明されている化合物を指す。例えば、「チオール」基は、基−SHを指す。
【0267】
「スルフェート」という用語は、−SO4基を指す。
【実施例】
【0268】
以下の実施例は、本明細書で開示されている発明対象の代表的な実施形態を実施する際の当業者向けの手引きとなるように含まれている。本発明の開示および当業者の一般的水準を鑑みると、当業者であれば、以下の実施例が、例示にすぎず、本明細書で開示されている発明対象の範囲から逸脱することなく多くの変更、修正、および改変を加えることができることを理解できる。以下の実施例が用意されているのは、例示するためであって、制限するためではない。
【0269】
(実施例1)
近赤外色素が付着しているナノ粒子の調製
直径60nmの球状金ナノ粒子をTed Pella,Inc.(米国カリフォルニア州レディング所在)社から購入した。透過電子顕微鏡法と光散乱法を用いて、メーカーによって報告されているナノ粒子のサイズを確認した。ラマン活性種、例えば、非蛍光分子および本明細書で開示されているNIR色素を金ナノ粒子に付着させるために、最終混合物中のラマンレポーターの濃度が10μMになるように化学物質を金ナノ粒子と混合した。バルク溶液から金ナノ粒子を5倍に濃縮し、520nmで5に等しい最終光学密度を得た。振盪器上で一晩かけて反応を進行させた。
【0270】
(実施例2)
近赤外色素のSERSスペクトル
本明細書で開示されているSERS活性色素のSERS強度をテストするために使用される計測器は、660nmレーザー励起を使用するCentice(米国ノースカロライナ州モリスビル所在)スペクトロメーターであった。一般に使用されている非蛍光ラマン活性分子、例えば、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エチレン(BPE)および本明細書で開示されているNIR色素、例えば、クマリンピコリニウム色素(CoPic)に対する実験結果が図1に示されている。BPEは、2つの大きなピークを呈示し、1つ目のピークは約1200cm-1で、2つ目のピークは1600から1650cm-1の間である。同様に、CoPicは、約1150および1550cm-1で2つの大きなピークを呈示する。BPEスペクトル中の最も顕著なピークの最大強度は、約47,000であるが、CoPicに対する最大強度は、約160,000である。この実施例では、CoPicに対するピーク最大値は、BPEからの強度に比べて約3倍である。
【0271】
多くの市販の非蛍光ラマン分子および色素について得られたSERSデータが、図2および表1にまとめられている。それぞれの場合において、バックグラウンドよりも高い最も顕著なラマンピークの強度が報告されている。MGITCを除くすべての市販色素は、BPEのみならず有効でない。類似の実験条件の下で決定された本明細書で開示されているNIR色素によって示されるラマンピークの強度は、図3に示されている。色素の構造は、図4に示されている。いくつかの色素は、ラマンピークを示さなかったが、他の色素は、強いピークを呈示した。図3も、いくつかの市販ラマンレポーター分子および本明細書で開示されているNIR色素について得られたラマン強度の比較である。いくつかの実施形態では、本明細書で開示されている色素は、660nmレーザー励起において当技術分野で知られているレポーター分子に比べて2倍から5倍ほど強い。
【0272】
【表1】

【0273】
【表2】

【0274】
(実施例3)
磁気捕捉液体ベースSERSアッセイにおける非特異的結合の低減
ポリエチレングリコール(PEG)リンカー分子を通じてDNAオリゴヌクレオチドをSERS活性ナノ粒子(SERS活性レポーター分子、例えば、さまざまなビピリジル色素でコーティングされ、チオール官能化ガラスコーティングによってカプセル封入された金粒子)の表面に付着させた。本明細書で開示されている発明対象の実施形態の代表的な一例が、図5に示されており、これは、5nmの異種二官能性PEGリンカー分子を介してSERS活性ナノ粒子および磁気捕捉粒子の表面にDNAを固定化するのを示している。
【0275】
アミン末端オリゴヌクレオチドを、12個のエチレングリコールサブユニットによってチオール反応性マレイミド基から分離されたNHSエステルを含む異種二官能性ポリエチレングリコール分子のN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル部分と反応させた。PEGリンカー上のマレイミド基をSERS活性ナノ粒子の表面に存在するチオール基と反応させることによりSERS活性ナノ粒子上のPEG化されたDNAの固定化を行った。
【0276】
カルボキシル化された磁性粒子を内部ジスルフィドを含むアミン末端分子で処理することによって、従来の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)結合を通じて異種二官能性PEG分子にコンジュゲートされたDNAオリゴヌクレオチドを磁性粒子に結合した。次いで、ジスルフィドをジチオスレイトールで開裂して、オリゴヌクレオチド−PEGコンジュゲートのマレイミド部分と反応するチオール基を露出させた。
【0277】
オリゴヌクレオチドコーティングされたSERS活性ナノ粒子とオリゴヌクレオチドコーティングされた磁性粒子との間の非特異的結合を測定するために、オリゴヌクレオチドコーティングされた磁性粒子の1mg/mL溶液10μLを細いチューブ内でオリゴヌクレオチドコーティングされたSERS粒子の10pM溶液100μLおよび緩衝液100μLと混合した。このチューブを30から120分の間逆さにし、その後、磁石で磁性粒子を濃縮しペレットを形成した。その後、このペレットにレーザーを当てて調べ、ペレット中の磁性粒子と会合しているSERS活性レポーター分子の個数に比例するSERSシグナルのレベルを測定した。
【0278】
図6Aは、ブランクの試料チューブの一方のスペクトルと、混ぜ合わされたSERS活性ナノ粒子および磁性粒子の他方のスペクトルを示しており、その際に、DNAオリゴヌクレオチドはビオチン−ストレプトアビジン戦略を用いてSERS活性ナノ粒子および磁性粒子に直接付着されている(PEGリンカーなし)。溶液中に標的DNA(分析対象)が欠如しているため、観察されたSERSシグナルは、SERS活性ナノ粒子と磁性粒子との非特異的会合によるものである。図6Bおよび6Cは、オリゴヌクレオチドコーティングされたSERS活性ナノ粒子およびオリゴヌクレオチドコーティングされた磁性粒子を用いて実行された類似のアッセイからの結果を示しており、オリゴヌクレオチドは、PEGリンカーを介して付着され、上述のように調製される。図6Aおよび6Bは、同じスケールでプロットされている。図6Cは、図6Bと同じデータを示すが、シグナル範囲は狭まっている。図6Cは、チューブ単独からのシグナルとアッセイシグナルとの間の類似性を示しており、二組の粒子の間の非特異的結合がほぼ排除されていることがわかる。
【0279】
前記の発明対象は、理解しやすくすることを目的として図解と例とによりある程度詳しく説明されているが、当業者であれば、付属の請求項の範囲内でいくつかの変更および修正を実施できることを理解するであろう。
【0280】
すべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、それぞれの個別の刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献が参照により組み込まれることが特に、また個別に指示されている場合と同じ範囲にわたって参照により本明細書に組み込まれる。多数の特許出願、特許、および他の参考文献が本明細書において参照されているが、そのような参照を行っていても、これらの文書が当技術分野における共通の一般的知識の一部をなすことを認めることにならないことは理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

A−Y
のSERS活性レポーター分子を含むナノ粒子であって、
式中、
Aは、
【化1】

からなる群から選択され、
式中、X1は、CR4またはNであり、
Yは、
【化2】

からなる群から選択され、
式中、
r、s、およびtは、それぞれ独立に1から8までの整数であり、
2およびX3はそれぞれ次の前提条件の下で、C、S、およびNからなる群から独立に選択され、前記前提条件は(i)X2がCまたはSのときにR5はZであるか、またはX3がCまたはSのときに、R6はZであり、Zは以下で定義され、(ii)X2とX3の両方が同時にNである場合、R5およびR6のうちの少なくとも一方は存在せず、(iii)X2がNであるとき、R5は存在すればZ’であるか、またはX3がNであるとき、R6は存在すればZ’であり、Z’は、
−(CH2n−X4;−NR8−(CH2p−X5;−(CH2)qX6C(=O)−R9
【化3】

からなる群から選択され、
式中、
n、p、q、u、およびvは、それぞれ独立に、1から8までの範囲の整数であり、
4およびX5は、ヒドロキシル、アミノ、およびチオールからなる群からそれぞれ独立に選択され、
6は、OまたはNR11であり、
式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R8、R10、R11、およびZはそれぞれ、H、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、アルコキシシクロアルキル、アミノアルキル、アシルオキシル、アルキルアミノアルキル、およびアルコキシカルボニルからなる群から独立に選択され、
7は、Z’であり、
9は、−(CH2m−X7または−(CH2m−Bであり、式中、
mは、1から8までの整数であり、
7は、ハロゲンであり、
Bは、検出すべきリガンドまたは分析対象に対し結合親和性を有する結合要素であることを特徴とするナノ粒子。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ粒子であって、式A−Yの前記SERS活性レポーター分子は、
【化4】

からなる群から選択され、
式中、
X’は、ヒドロキシル、アミノ、およびチオールからなる群から独立に選択され、R1およびR2はそれぞれ、H、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、アルコキシシクロアルキル、アミノアルキル、アシルオキシル、アルキルアミノアルキル、およびアルコキシカルボニルからなる群から独立に選択されることを特徴とするナノ粒子。
【請求項3】
式A−Yの前記SERS活性レポーター分子は、前記ナノ粒子の外面上に吸着されることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項4】
式A−Yの前記SERS活性レポーター分子は、前記ナノ粒子の外面に共有結合されることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項5】
Au、Ag、Cu、Na、Al、およびCrからなる群から選択される金属を含むことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項6】
Au、Ag、Cu、Na、Al、およびCrからなる群から選択される少なくとも2つの金属の合金を含むことを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項7】
約200nm未満の直径を有することを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項8】
約40nmから約100nmまでの直径を有することを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項9】
式A−Yの前記SERS活性レポーター分子は、前記ナノ粒子の外面上に1つの層を形成し、前記層はナノ粒子の前記外面を少なくとも部分的に覆い、かつ内面と外面とにより定められることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項10】
前記ナノ粒子の前記外面上に形成された式A−Yの前記SERS活性レポーター分子の前記層は、サブ単分子層、単分子層、および多分子層からなる群から選択されることを特徴とする請求項9に記載のナノ粒子。
【請求項11】
さらにカプセル材料を含み、前記カプセル材料は、前記ナノ粒子の前記外面および式A−Yの前記SERS活性レポーター分子の前記層の前記外面のうちの少なくとも一方に配置されることを特徴とする請求項10に記載のナノ粒子。
【請求項12】
前記カプセル材料は、ガラス、ポリマー、金属、金属酸化物、および金属硫化物からなる群から選択される1つまたは複数の材料を含むことを特徴とする請求項11に記載のナノ粒子。
【請求項13】
前記ガラスは、SiOxを含むことを特徴とする12に記載のナノ粒子。
【請求項14】
前記カプセル材料は約1nmから約40nmまでの厚さを有することを特徴とする請求項12に記載のナノ粒子。
【請求項15】
分子、細胞、ビーズ、または固相担体を標識する方法であって、
(a)分子、細胞、ビーズ、または固相担体のうちの少なくとも1つを提供するステップと、
(b)粒子を分子、細胞、ビーズ、または固相担体のうちの前記少なくとも1つに付着させるステップとを含み、前記粒子は式A−Yの色素が会合している表面増強ラマン分光法(SERS)活性ナノ粒子を含み、
式中、
Aは、
【化5】

からなる群から選択され、
式中、X1は、CR4またはNであり、
Yは、
【化6】

からなる群から選択され、
式中、
r、s、およびtは、それぞれ独立に1から8までの整数であり、
2およびX3はそれぞれ次の前提条件の下で、C、S、およびNからなる群から独立に選択され、前記前提条件は(i)X2がCまたはSのときにR5はZであるか、またはX3がCまたはSのときに、R6はZであり、Zは以下で定義され、(ii)X2とX3の両方が同時にNである場合、R5およびR6のうちの少なくとも一方は存在せず、(iii)X2がNであるとき、R5は存在すればZ’であるか、またはX3がNであるとき、R6は存在すればZ’であり、Z’は、
−(CH2n−X4;−NR8−(CH2p−X5;−(CH2)qX6C(=O)−R9
【化7】

からなる群から選択され、
式中、
n、p、q、u、およびvは、それぞれ独立に、1から8までの範囲の整数であり、
4およびX5は、ヒドロキシル、アミノ、およびチオールからなる群からそれぞれ独立に選択され、
6は、OまたはNR11であり、
式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R8、R10、R11、およびZはそれぞれ、H、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、アルコキシシクロアルキル、アミノアルキル、アシルオキシル、アルキルアミノアルキル、およびアルコキシカルボニルからなる群から独立に選択され、
7は、Z’であり、
9は、−(CH2m−X7または−(CH2m−Bであり、式中、
mは、1から8までの整数であり、
7は、ハロゲンであり、
Bは、検出すべきリガンドまたは分析対象に対し結合親和性を有する結合要素であることを特徴とする方法。
【請求項16】
式A−Yの色素が会合している前記表面増強ラマン分光法(SERS)活性ナノ粒子は、前記分子、細胞、ビーズ、または固相担体に共有結合することを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
式A−Yの色素が会合している前記表面増強ラマン分光法(SERS)活性ナノ粒子は、リンカーを通じて前記分子、細胞、ビーズ、または固相担体に共有結合することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記リンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)およびチオール含有部分からなる群から選択されることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリエチレングリコールは、少なくとも12個のエチレングリコールサブユニットを含むことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ポリエチレングリコールは、異種二官能性ポリエチレングリコール(PEG)分子を含み、前記異種二官能性PEG分子は、異種二官能性PEG分子の第1の末端に第1の官能基を、異種二官能性PEG分子の第2の末端に第2の官能基を備えることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の官能基は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルを含み、前記第2の官能基は、マレイミドを含むことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記異種二官能性PEG分子は、前記SERS活性ナノ粒子上のチオール基および前記異種二官能性PEG分子のマレイミド基を通じて前記SERS活性ナノ粒子に共有結合することを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記特異的結合要素は、ポリヌクレオチドを含み、前記ポリヌクレオチドは、前記ポリヌクレオチドの5’または3’末端のアミン基および異種二官能性PEG分子のNHSエステルを介して異種二官能性PEG分子に共有結合することを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
生体試料中の1つまたは複数の分析対象の存在または量を検出するための方法であって、
(a)1つまたは複数の分析対象を含むことが疑われる生体試料を提供するステップと、
(b)前記生体試料を前記1つまたは複数の分析対象に対し親和性を有する少なくとも1つの特異的結合要素が会合している1つまたは複数のSERS活性ナノ粒子および式
A−Y
の少なくとも1つのSERS活性レポーター分子を含む試薬
[式中、
Aは、
【化8】

からなる群から選択され、
式中、X1は、CR4またはNであり、
Yは、
【化9】

からなる群から選択され、
式中、
r、s、およびtは、それぞれ独立に1から8までの整数であり、
2およびX3はそれぞれ次の前提条件の下で、C、S、およびNからなる群から独立に選択され、前記前提条件は(i)X2がCまたはSのときにR5はZであるか、またはX3がCまたはSのときに、R6はZであり、Zは以下で定義され、(ii)X2とX3の両方が同時にNである場合、R5およびR6のうちの少なくとも一方は存在せず、(iii)X2がNであるとき、R5は存在すればZ’であるか、またはX3がNであるとき、R6は存在すればZ’であり、Z’は、
−(CH2n−X4;−NR8−(CH2p−X5;−(CH2)qX6C(=O)−R9
【化10】

からなる群から選択され、
式中、
n、p、q、u、およびvは、それぞれ独立に、1から8までの範囲の整数であり、
4およびX5は、ヒドロキシル、アミノ、およびチオールからなる群からそれぞれ独立に選択され、
6は、OまたはNR11であり、
式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R8、R10、R11、およびZはそれぞれ、H、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、アルコキシシクロアルキル、アミノアルキル、アシルオキシル、アルキルアミノアルキル、およびアルコキシカルボニルからなる群から独立に選択され、
7は、Z’であり、
9は、−(CH2m−X7または−(CH2m−Bであり、式中、
mは、1から8までの整数であり、
7は、ハロゲンであり、
Bは、検出すべきリガンドまたは分析対象に対し結合親和性を有する結合要素である]に接触させるステップと、
(c)ある波長の入射光を前記生体試料に照射して前記SERS活性レポーター分子にSERSシグナルを発生させるステップと、
(d)前記SERSシグナルを測定して、前記生体試料中の1つまたは複数の分析対象の存在または量を検出するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
前記生体試料は、全血試料、血清、血漿、腹水、尿、唾液、汗、ミルク、滑液、腹膜液、羊水、経脳脊髄液、リンパ液、肺塞栓症、脳脊髄液、心嚢液、頚腟部試料、組織抽出物、細胞抽出物、およびこれらの組合せからなる群から選択されることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記1つまたは複数の分析対象は、核酸、DNAフラグメント、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、およびオリゴヌクレオチドからなる群から選択されることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記分析対象は、細胞内の標的構造を含むことを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記試薬は、式A−Yの複数のSERS活性レポーター分子が会合しているナノ粒子を含み、前記1つまたは複数のSERS活性レポーター分子はそれぞれ、測定可能な別個のSERSシグナルを呈示することを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記1つまたは複数の分析対象に対する親和性を有する前記特異的結合要素は、前記ナノ粒子の外面に直接付着することを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記特異的結合要素は、リンカーを通じて前記ナノ粒子に共有結合することを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記リンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)を含むことを特徴とする請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ポリエチレングリコールは、少なくとも12個のエチレングリコールサブユニットを含むことを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ポリエチレングリコールは、異種二官能性ポリエチレングリコール(PEG)分子を含み、前記異種二官能性PEG分子は、異種二官能性PEG分子の第1の末端に第1の官能基を、異種二官能性PEG分子の第2の末端に第2の官能基を備えることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記第1の官能基は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルを含み、前記第2の官能基は、マレイミドを含むことを特徴とする請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記異種二官能性PEG分子は、前記SERS活性ナノ粒子上のチオール基および前記異種二官能性PEG分子のマレイミド基を通じて前記SERS活性ナノ粒子に共有結合することを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記特異的結合要素は、ポリヌクレオチドを含み、前記ポリヌクレオチドは前記ポリヌクレオチドの5’または3’末端のアミン基および異種二官能性PEG分子のNHSエステルを介して異種二官能性PEG分子に共有結合することを特徴とする請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記1つまたは複数の分析対象に対する親和性を有する前記特異的結合要素は、式A−Yの前記SERS活性レポーター分子とコンジュゲートすることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項38】
式A−Yの前記SERS活性レポーター分子は、前記ナノ粒子の外面上に1つの層を形成し、前記層は前記ナノ粒子の前記外面を少なくとも部分的に覆い、かつ内面と外面とにより定められることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項39】
前記ナノ粒子は、さらに、カプセル材料を含み、前記カプセル材料は、前記ナノ粒子コアの前記外面および式A−Yの前記SERS活性レポーター分子の前記層の前記外面のうちの少なくとも一方に配置されることを特徴とする請求項38に記載の方法。
【請求項40】
さらに、複数の磁気捕捉粒子を前記生体試料と接触させるステップを含み、それぞれの磁気捕捉粒子には、前記1つまたは複数の分析対象に対し親和性を有する少なくとも1つの結合要素が付着しており、前記磁気捕捉粒子は、式A−YのSERS活性レポーター分子が会合している前記SERS活性ナノ粒子と複合体を形成することを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項41】
さらに、前記生体試料を磁場に曝すことで、前記磁気捕捉粒子とSERS活性ナノ粒子との複合体を試料収集デバイスの局在領域に移動させるステップを含むことを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
さらに、入射光を前記試料収集デバイスの前記局在領域に照射して前記磁気捕捉粒子およびSERS活性ナノ粒子と会合する前記1つまたは複数の分析対象の存在または量を検出するステップを含むことを特徴とする請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記1つまたは複数の分析対象は、固相担体上に固定化されることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項44】
前記1つまたは複数の分析対象に対し親和性を有する少なくとも1つの特異的結合要素が会合している前記1つまたは複数のSERS活性ナノ粒子および式A−Yの少なくとも1つのSERS活性レポーター分子は、固相担体上に固定化されることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項45】
キットであって、

A−Y
の少なくとも1つのSERS活性レポーター分子
[式中、
Aは、
【化11】

からなる群から選択され、
式中、X1は、CR4またはNであり、
Yは、
【化12】

からなる群から選択され、
式中、
r、s、およびtは、それぞれ独立に1から8までの整数であり、
2およびX3はそれぞれ次の前提条件の下で、C、S、およびNからなる群から独立に選択され、前記前提条件は(i)X2がCまたはSのときにR5はZであるか、またはX3がCまたはSのときに、R6はZであり、Zは以下で定義され、(ii)X2とX3の両方が同時にNである場合、R5およびR6のうちの少なくとも一方は存在せず、(iii)X2がNであるとき、R5は存在すればZ’であるか、またはX3がNであるとき、R6は存在すればZ’であり、Z’は、
−(CH2n−X4;−NR8−(CH2p−X5;−(CH2q6C(=O)−R9
【化13】

からなる群から選択され、
式中、
n、p、q、u、およびvは、それぞれ独立に、1から8までの範囲の整数であり、
4およびX5は、ヒドロキシル、アミノ、およびチオールからなる群からそれぞれ独立に選択され、
6は、OまたはNR11であり、
式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R8、R10、R11、およびZはそれぞれ、H、アルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、置換シクロヘテロアルキル、アリール、置換アリール、アラルキル、ヒドロキシル、アルコキシル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシシクロアルキル、アルコキシシクロアルキル、アミノアルキル、アシルオキシル、アルキルアミノアルキル、およびアルコキシカルボニルからなる群から独立に選択され、
7は、Z’であり、
9は、−(CH2m−X7または−(CH2m−Bであり、式中、
mは、1から8までの整数であり、
7は、ハロゲンであり、
Bは、検出すべきリガンドまたは分析対象に対し結合親和性を有する結合要素である]が会合している1つまたは複数の表面増強ラマン分光法(SERS)活性ナノ粒子を含む試薬を備えることを特徴とするキット。
【請求項46】
さらに、試料収集デバイス、磁気捕捉粒子、緩衝液、およびこれらの組合せのうちの1つまたは複数を備えることを特徴とする請求項45に記載のキット。
【請求項47】
前記試薬は、前記試料収集デバイス内に配置されることを特徴とする請求項46に記載のキット。
【請求項48】
前記1つまたは複数の表面増強ラマン分光法(SERS)活性ナノ粒子は、複数のSERS活性ナノ粒子を含み、それぞれの粒子には区別可能なSERS応答を有するSERS活性レポーター分子が会合しており、前記SERS活性レポーター分子の少なくとも1つは、式A−YのSERS活性レポーター分子を含むことを特徴とする請求項45に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公表番号】特表2010−529460(P2010−529460A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511347(P2010−511347)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/066023
【国際公開番号】WO2008/154332
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】