説明

表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板及び高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】Si含有高強度鋼板を母材として、不めっきの発生がなくめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【解決手段】mass%で、C:0.05〜0.30%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜3.0%、S:0.001〜0.01%、P:0.001〜0.1%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼板を、H:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で鋼板を600〜850℃の範囲内の温度になるように加熱する第1加熱工程、次にO:0.01〜20vol%、HO:1〜50vol%を含有する雰囲気中で鋼板を400〜850℃の範囲内の温度になるように加熱する第2加熱工程、次にH:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で鋼板を750〜900℃の範囲内の温度になるように加熱する第3加熱工程を行った後、溶融亜鉛めっきを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si含有高強度鋼板を母材とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板及び高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関し、特に不めっきのない美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野においては、素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも安価に製造できかつ防錆性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。
【0003】
一般的に、溶融亜鉛めっき鋼板は以下の方法にて製造される。まず、スラブを熱延、冷延あるいは熱処理した薄鋼板を用いて、母材鋼板表面を前処理工程にて脱脂及び/または酸洗して洗浄するか、あるいは前処理工程を省略して予熱炉内で母材鋼板表面の油分を燃焼除去した後、非酸化性雰囲気中あるいは還元性雰囲気中で600〜900℃程度の温度に加熱することで再結晶焼鈍を行う。その後、非酸化性雰囲気中あるいは還元性雰囲気中で鋼板をめっきに適した温度まで冷却して、大気に触れることなく微量Al(0.1〜0.2mass%程度)を添加した溶融亜鉛浴中に浸漬する。
【0004】
また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき後、引き続き、鋼板を合金化炉内で熱処理することで製造される。
【0005】
ところで、近年、素材鋼板の高性能化とともに軽量化が推進され、素材鋼板の高強度化が求められており、防錆性を兼ね備えた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の使用量が増加している。
【0006】
鋼板の高強度化にはSi、Mn、P、Al等の固溶強化元素の添加が行われる。中でもSiやAlは鋼の延性を損なわずに高強度化できる利点があり、Si含有鋼板は高強度鋼板として有望である。しかし、Siを多量に含有する高強度鋼板を母材とする溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、以下の問題がある。
【0007】
前述のように溶融亜鉛めっき鋼板は還元雰囲気中で600〜900℃程度の温度で加熱焼鈍を行った後に、溶融亜鉛めっき処理を行う。しかし、鋼中のSiは易酸化性元素であり、一般的に用いられる還元雰囲気中でも選択酸化されて、表面に濃化し酸化物を形成する。この酸化物はめっき処理時の溶融亜鉛との濡れ性を低下させて不めっきを生じさせるので、鋼中Si濃度の増加と共に濡れ性が急激に低下し不めっきが多発する。また、不めっきに至らなかった場合でも、めっき密着性に劣るという問題がある。
【0008】
更に、鋼中のSiが選択酸化されて表面に濃化すると、溶融亜鉛めっき後の合金化過程において著しい合金化遅延が生じる。その結果、生産性を著しく阻害する。生産性を確保するために過剰に高温で合金化処理しようとすると、耐パウダリング性の劣化を招くという問題もあり、高い生産性と良好な耐パウダリング性を両立させることは困難である。
【0009】
このような問題に対して、予め酸化性雰囲気中で鋼板を加熱して表面に酸化鉄を形成したのち、還元焼鈍を行うことにより、溶融亜鉛との濡れ性を改善することが提案されている。(例えば特許文献1)
また、溶融めっきに先立って硫黄または硫黄化合物をS量として0.1〜1000mg/m付着させた後、予熱工程を弱酸化性雰囲気で行い、その後水素を含む非酸化性雰囲気中で焼鈍する方法が開示されている。(例えば特許文献2)
また、鋼板を焼鈍後に酸洗を行うことで表面の酸化物を除去し、その後、再び焼鈍し溶融亜鉛めっきを行う方法が提案されている。(例えば特許文献3)
特許文献1に記載の技術は予め酸化性雰囲気中で加熱して鋼板表面に酸化鉄を形成することによって、還元焼鈍時におけるSiの表面濃化を抑制しようとするものである。しかしながら、一般に知られているように、鋼中のSi濃度の増加に伴い鋼板表面における酸化速度が大きく低下するため、鋼中Si濃度の高い鋼板については、特許文献1に開示の酸化手段だけでは十分な酸化が進行せず、Siの表面濃化を抑制するために必要な量の酸化鉄を得ることは難しい。
【0010】
その結果、溶融めっき時における不めっきの発生を十分には抑制できず、また合金化する場合には、合金化過程におきて懸念される合金化の著しい遅延という問題を十分に解決することができない。合金化速度が遅いと、合金化炉の炉長が限られているCGLで所定の生産性を考慮して製造する場合、どうしても合金化温度を高くせざるを得ないが、この場合には耐パウダリング性の劣化を余儀なくされる。
【0011】
また、特許文献2に記載の技術は、鋼板表面に形成させた硫化物層により溶融亜鉛との濡れ性を改善しようとするものである。しかしながら、鋼中Si濃度の高い鋼板に適用した場合、硫化物層による効果のみではSiの表面濃化を十分に抑制できないので、上述したところと同様に、めっき層の性能の問題は解決できない。また、予熱工程を弱酸化性雰囲気で行ったとしても、鋼中Si濃度が高い鋼板に適用した場合には、やはり上述したところと同様に、耐パウダリング性の問題は解決できない。
【0012】
更に、特許文献2に開示された技術では、熱処理に先立って、硫黄または硫黄化合物を鋼板表面に付着させるものであるため、続く熱処理工程において硫黄成分が加熱炉内で二酸化硫黄や硫化水素等の腐食性ガスとして多量に放出され、加熱炉体及び炉内設備の腐食損傷が激しくなり頻繁な補修や劣化更新が必要となる他、炉内ガスを大気中に放出する場合には大気汚染を防止する観点から脱硫装置を設ける必要も出てくることから、特許文献2に記載された技術を実現するには更なる改良の必要があった。
【0013】
特許文献3に記載の技術は焼鈍を2回行い、1回目の焼鈍後に表面に生成したSiの表面濃化物を酸洗除去することによって、2回目の焼鈍時に、表面濃化物の生成を抑制しようとするものである。しかしながら、Si濃度が高い場合には酸洗では表面濃化物が除去しきれないため、上述したところと同様にめっき層の性能の問題は解決できない。更に、Siの表面濃化物を除去するための酸洗設備が新たに必要なことからコストがかかるという問題もある。
【特許文献1】特許第2587724号公報
【特許文献2】特開平11−50223号公報
【特許文献3】特許第3956550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、Si含有高強度鋼板を母材として、不めっきのない美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供し、また不めっきのない美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述したとおり、鋼中Si濃度の高い鋼板の場合、Siの表面濃化の除去または酸化による表面濃化の抑制技術どちらにしても、不めっきを完全に抑制することは困難であった。従来技術のうち、鋼中Si濃度の高い鋼板に対しては、酸化による表面濃化の抑制が効果的であると考えられるが、従来技術による酸化手段のみでは酸化が進まず、不めっき改善のために必要な量の酸化鉄を得ることが困難であった。従って、鋼中Si濃度が高い鋼板の場合、何らかの方法で酸化を促進することが必要となる。
【0016】
そこで、発明者らはSi濃度の高い鋼板に形成される酸化物を調査し、鋼板表面とFe酸化物との界面にSiOが形成した場合には鋼板の酸化が抑制される事を見出した。更に鋼板表面とFe酸化物との界面に形成される酸化物に着目して調査を進めたところ、SiO以外の酸化物が形成され、SiOが形成されない場合、あるいはSiOによる鋼板表面の被覆率が小さい場合には、鋼板の酸化が抑制されないという知見を得た。
【0017】
具体的には酸化処理前に、還元雰囲気において加熱処理を行いSiOの生成を抑制すると、その後の酸化処理で鋼板の酸化を促進することができるとの知見を得た。
【0018】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
【0019】
(1)化学成分として、mass%で、C:0.05〜0.30%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜3.0%、S:0.001〜0.01%、P:0.001〜0.1%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼板に溶融亜鉛めっきを施すに際し、H:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で鋼板を600〜850℃の範囲内の温度になるように加熱する第1加熱工程、次にO:0.01〜20vol%、HO:1〜50vol%を含有する雰囲気中で鋼板を400〜850℃の範囲内の温度になるように加熱する第2加熱工程、次にH:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で鋼板を750〜900℃の範囲内の温度になるように加熱する第3加熱工程を行った後、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0020】
(2)上記(1)記載の鋼板は、化学成分として、さらに、mass%で、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%およびB:0.0005〜0.0050%から選ばれた1または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0021】
(3)前記第2加熱工程は、前段は、O:0.1〜20vol%、HO:1〜50vol%を含有する雰囲気中で鋼板を400〜750℃の範囲内の温度になるように加熱し、後段は、O:0.01vol%〜0.1vol%未満、HO:1〜20vol%以下を含有する雰囲気中で鋼板を600〜850℃の範囲内の温度になるように加熱することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0022】
(4)前記第2加熱工程は、前段は、直火炉または無酸化炉により、空気比が1以上1.35以下の条件で行い、後段は直火炉または無酸化炉により、空気比が1未満の条件で行うことを特徴とする上記(3)に記載の表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0023】
(5)前記第1加熱工程後の鋼板表面のSiO被覆率が30%以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0024】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法で高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造した後、更に合金化処理を行うことを特徴とする表面外観とめっき密着性に優れる高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、Si含有高強度鋼板を母材とした場合にあっても、不めっきのない美麗な表面外観を有しめっき密着性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板と不めっきのない美麗な表面外観を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0027】
まず、鋼板の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限りmass%を意味するものとする。
【0028】
C:0.05〜0.30%
Cはオーステナイト相を安定化させる元素であり、鋼板の強度を上昇させるために必要な元素である。C量が0.05%未満では、強度の確保が困難であり、C量が0.30%を超えると、溶接性が低下する。従って、C量は0.05〜0.30%の範囲内とする。
【0029】
Si:0.1〜3.0%
Siは、フェライト相中の固溶Cをオーステナイト相中に濃化させ、鋼の焼戻し軟化抵抗を高めることにより鋼板の成形性を向上させる作用を有している。その効果を得るためには0.1%以上の含有量が必要である。一方、Siは鋼板の酸化を抑制する効果があり、含有量が3.0%を超えると後述する本発明の製造工程を適用しても、酸化皮膜の生成抑制が困難であるため、めっき密着性が十分に改善されない。従って、Si量は0.1〜3.0%の範囲内とする。
【0030】
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、焼入れ性を高め鋼板の強度を高めるために有用な元素である。その効果は、0.5%未満では得られない。一方、含有量が3.0%を超えるとMnの偏析が生じ、加工性が低下する。従って、Mn量は0.5〜3.0%の範囲内とする。
【0031】
Al:0.01〜3.0%
AlはSiと補完的に添加される元素であり、0.01%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Al量が3.0%を超えると溶接性や強度延性バランスの確保に悪影響を及ぼす。従って、Al量は0.01〜3.0%の範囲内とする。
【0032】
S:0.001〜0.01%
Sは鋼に不可避的に含有される元素であり、冷間圧延後に板状の介在物MnSを生成することにより、成形性を低下させる。S量が0.01%まではMnSは生成しないが、過度の低減は製鋼工程における脱硫コストの増加を伴う。従って、S量は0.001〜0.01%の範囲内とする。
【0033】
P:0.001〜0.1%
Pは鋼に不可避的に含有される元素であり、強度向上に寄与する元素である。その反面、溶接性を低下させる元素でもあり、P量が0.1%を超えるとその影響が顕著に現れる。また一方で、過度のP低減は製鋼工程における製造コストの増加を伴う。従って、P量は0.001〜0.1%の範囲内とする。
【0034】
本発明では、上記の成分組成を必須成分とし、残部は鉄および不可避的不純物であるが、必要に応じて、下記成分の1種または2種以上を適宜含有することが出来る。
【0035】
Cr:0.1〜1.0%
Crは鋼の焼入れ性向上に有効な元素であり、この効果を得るためには、0.1%を超える添加を必要とする。また、Crはフェライト相を固溶強化し、マルテンサイト相とフェライト相の硬度さを低減して、成形性の向上に有効に寄与する。しかしながら、Cr量が1.0%を超えるとこの効果は飽和し、むしろ表面品質を著しく劣化させる。従って、Cr量は0.1〜1.0%の範囲内とする。
【0036】
Mo:0.1〜1.0%
Moは、鋼の焼入れ性向上に有効な元素であると共に、焼戻し二次硬化を発現させる元素でもある。この効果を得るためには0.1%以上の添加を必要とする。しかしながら、Mo量が1.0%超えると、この効果は飽和し、コストアップの要因となる。従って、Mo量は0.1〜1.0%の範囲内とする。
【0037】
Ti:0.01〜0.1%
Tiは鋼中でCまたはNと微細炭化物や微細窒化物を形成することにより、焼鈍後の組織の細粒化および析出強化の付与に有効に作用する。この効果を得るためには0.01%以上の添加が必要である。しかしながらTi量が0.1%を超えるとこの効果が飽和する。従って、Ti量は0.01〜0.1%の範囲内とする。
【0038】
Nb:0.01〜0.1%
Nbは、固溶強化または析出強化により強度の向上に寄与する元素である。この効果を得るためには0.01%以上の添加を必要とする。しかしながら、0.1%を超えて含有されると、フェライトの延性を低下させ、加工性が低下する。従って、Nb量は0.01〜0.1%の範囲内とする。
【0039】
B:0.0005〜0.0050%
Bは焼入れ性を高め、焼鈍冷却中のフェライトの生成を抑制し、所望のマルテンサイト量を得るのに必要である。この効果を得るためには、B量は0.0005%以上添加する必要があるが、0.0050%を超えるとこの効果は飽和する。従って、B量は0.0005〜0.0050%の範囲内とする。
【0040】
次に、高強度溶融亜鉛めっき鋼板及び高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。なお、雰囲気に関する「%」表示は特に断らない限りvol%を意味するものとする。
【0041】
上記の組成を有する鋼板に以下の3工程の加熱処理を行った後にめっき処理を行う。この加熱処理は本発明において重要な要件であり、特に第1加熱工程は最も重要な要件である。第1加熱工程を以下の条件にて、第2加熱工程の前に行うことで、第2加熱工程時における鋼板とFe酸化物界面でのSiO生成を抑制し、Siを多量に含有する鋼板の酸化促進が可能となる。
第1加熱工程: H:1〜50%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で、鋼板を600〜850℃の温度になるように加熱
第2加熱工程: O:0.01〜20%、HO:1〜50%を含有する雰囲気中で、鋼板を400〜850℃の温度になるように加熱
第3加熱工程: H:1〜50%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で、鋼板を750〜900の温度になるように加熱
【0042】
第1加熱工程:
第1加熱工程は、鋼板表面での過度のSiOの生成の抑制とSi−Mn酸化物の形成のために行う。雰囲気はHが1%以上50%以下、露点は0℃未満とする。Hが1%未満ではSiが酸化物を生成せず、Alが表面酸化物を形成する。酸化物を形成しなかったSiは、続く第2加熱工程でSiOを形成するため、Feの酸化が抑制され、その結果、不めっきが発生する。一方、Hが50%以上では第1加熱工程で表面に過度のSiOが生成するため、続く第2加熱工程でFeの酸化が抑制され、不めっきが発生する。また、加湿コストから露点は0℃以下が好ましい。
【0043】
第1加熱工程は、鋼板温度を、常温から、600〜850℃の温度になるように加熱する。第1加熱工程で加熱した鋼板の温度が600℃未満ではSiが酸化物を形成せず、850℃を超えるとSiOが多量に形成されるので、第1加熱工程では鋼板温度が600℃以上850℃以下の範囲内の温度になるように鋼板を加熱する。
【0044】
第1加熱工程では、鋼板表面にSiO、Si−Mn酸化物が形成される。第1加熱工程後の鋼板表面にはSiO及び/またはSi−Mn酸化物が生成している。鋼板表面がSiOで覆われていると、次の第2加熱工程においてFeの酸化が妨げられ、第3加熱工程においてSi、Mnが表面濃化し、鋼板の濡れ性を低下させるため不めっきが発生する。第2加熱工程で不めっきを抑制するための十分なFe酸化量を確保するためには、第1加熱工程後の鋼板表面のSiOの被覆率は30%以下が望ましい。なお、SiOの被覆率はAESによるマッピングを行い、SiとOが濃化している部分をSiO被覆部として、画像処理により求めることができる。
【0045】
第2加熱工程:
第2加熱工程は、鋼板を積極的に酸化させて、鋼板表面にFe酸化物を生成させるために行う。よって、Oは酸化を行うのに十分な量が必要であり0.01%以上とする。また、経済的な理由から大気レベルの20%以下が好ましい。HOは酸化を促進するために1%以上とする。また、加湿コストを考えて50%以下が好ましい。第2加熱工程で加熱された鋼板の温度が400℃未満では酸化しにくく、850℃を超えると酸化しすぎて第3加熱工程で炉内ロールでのピックアップにより押し疵が発生するようになるので鋼板温度が400℃以上850℃以下の範囲内の温度になるように鋼板を加熱する。
【0046】
第2加熱工程は、第1加熱工程に引き続いて行ってもよいし、第1加熱工程と第2加熱工程の間に冷却工程があってもよい。冷却工程の雰囲気はN雰囲気が好ましい。第1加熱工程と第2加熱工程は異なる鋼板製造設備で行ってもよい。
【0047】
また、前述の押し疵をより効果的に抑制するためには前記第2加熱工程を2段階に分け、前段をO:0.1〜20vol%、HO:1〜50vol%を含有する雰囲気中で鋼板温度が400〜750℃の範囲内の温度になるように加熱し、後段をO:0.01vol%〜0.1vol%未満、HO:1〜20vol%以下を含有する雰囲気中で鋼板温度が、600〜850℃の範囲内の温度になるように鋼板を加熱する(但し、後段の鋼板温度は前段の鋼板温度よりも高温とする。)ことが望ましい。
【0048】
前段における加熱は鋼板を酸化させるために行うものであり、Oは酸化を行うのに十分な量が必要であり0.1%以上とする。また、経済的な理由から大気レベルの20%以下が好ましい。HOは酸化を促進するために1%以上とする。また、加湿コストを考えて50%以下が好ましい。前段で加熱後の温度が400℃未満では酸化しにくく、750℃を超えると酸化しすぎて第3加熱工程内のロールにピックアップが発生するので、前段では、鋼板温度が400℃以上750℃以下となるように加熱する。
【0049】
後段での加熱は一旦酸化された鋼板表面を還元処理し、押し疵を抑制するために行う。そのため後段の加熱では鋼板表面を還元処理することが可能で、かつ、ピックアップが起こらない条件、すなわち低O濃度雰囲気で低温還元加熱の条件で加熱を行い、前段で一旦酸化された鋼板表面を、次の第3加熱工程内で炉内ロールと反応しピックアップが起こらない程度まで還元処理する。Oが0.1%以上では還元できないのでOは0.1%未満とする(但し0.01vol%以上)。HOは多量に含まれると鋼板が酸化されるので20%以下とする(但し1vol%以上)。鋼板温度が、600℃未満では還元しにくく、850℃を超えると加熱コストがかかるため、後段では鋼板温度が600℃以上850℃以下の範囲内の温度となるように加熱する。
【0050】
前段加熱を直火炉(DFF)または無酸化炉(NOF)により行う場合、燃焼ガスはコークス炉で発生するCガスを用い、空気比が1以上1.35以下の条件で行うことが好ましい。これは空気比が1未満では鋼板は酸化せず、1.35を超えると過酸化によりピックアップが発生するためである。また、後段加熱を直火炉(DFF)もしくは無酸化炉(NOF)により行う場合、燃焼ガスはコークス炉で発生するCガスを用い、空気比が0.6以上1未満の条件で行うことが好ましい。これは空気比が1を超えると鋼板表面の酸化鉄を還元することができず,空気比が0.6未満であると燃焼効率が悪くなるためである。
【0051】
第3加熱工程:
第3加熱工程は、第2加熱工程に引き続いて行われ、還元処理を行う。そのため、第3加熱工程の雰囲気はHが1%以上50%以下、露点は0℃以下とする。Hが1%未満、露点が0℃超になると第2加熱工程で生成した酸化鉄が還元されにくいため、第2加熱工程においてめっき密着性を確保するのに十分な酸化鉄や内部酸化物、窒化物が生成しても、かえってめっき性が劣化するようになる。また、Hが50%を超えるとコストアップにつながる。露点が−60℃未満では工業的に実施が困難であるため、露点は−60℃以上が好ましい。
【0052】
第3加熱工程では、鋼板温度が750〜900℃の範囲内の温度になるように加熱する。750℃未満では、冷間圧延中に導入された歪みが未回復の未結晶フェライトが残存し、加工性が劣化する。また、900℃を超えると加熱コストがかかる。
【0053】
上記3工程を行った後、冷却し、溶融亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを施す。溶融亜鉛めっき鋼板の製造には浴温440〜550℃、浴中Al濃度が0.14〜0.24%の亜鉛めっき浴を用い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造には浴温440〜550℃、浴中Al濃度が0.10〜0.20%の亜鉛めっき浴を用いる。
【0054】
浴温が440℃未満では浴内における温度ばらつきが大きい場所はZnの凝固が起こる可能性があるため不適であり、550℃を超えると浴の蒸発が激しく操業コストや気化したZnが炉内へ付着するため操業上問題がある。更にめっき時に合金化が進行するため、過合金になりやすい。
【0055】
溶融亜鉛めっき鋼板を製造する時に浴中Al濃度が0.14%未満になるとFe−Zn合金化が進みめっき密着性が悪化し、0.24%超になるとAl酸化物による欠陥が発生する。合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する時に浴中Al濃度が0.10%未満になるとζ相が多量に生成しパウダリング性が悪化し、0.20%超になるとFe−Zn合金化が進まない。
【0056】
合金化処理は460℃より高く、570℃未満で行うのが最適である。460℃以下では合金化進行が遅く、570℃以上では過合金により地鉄界面に生成する硬くて脆いZn−Fe合金層が生成しすぎてめっき密着性が劣化するだけでなく、残留オーステナイト相が分解するため、強度延性バランスも劣化する。めっき付着量は特に定めないが、耐食性およびめっき付着量制御上10g/m以上(片面当り付着量)が好ましい。また、付着量が多いと密着性が低下するので、120g/m以下(片面当り付着量)が望ましい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0058】
表1に示す鋼組成のスラブを加熱炉にて1260℃で60分加熱し、引き続き2.8mmまで熱間圧延を施し、540℃で巻き取った。次いで、酸洗で黒皮スケールを除去して、1.6mmまで冷間圧延した。次に、加熱炉として、RTF(ラジアントチューブ炉、以下同じ)−DFF(直火炉)−RTF−冷却帯を備えるDFF型CGL、または、RTF−NOF(無酸化炉)−RTF−冷却帯を備えるNOF型CGLを用いて、表2〜表5に示す熱処理条件にて、第1加熱工程〜第3加熱工程を行った。DFF、NOFは、各々第1ゾーン〜第4ゾーンの4ゾーンに分割され、第2加熱工程は、DFFまたはNOFの第1〜第3ゾーンで前段加熱を行い、第4ゾーンで後段加熱を行った。燃料ガスにはコークス炉で発生するCガスを用いた。一部の例は、第1加熱工程を行った後冷却し、第2加熱工程以降を行った。冷却工程は同一設備内で行っても、別設備で行っても良い。加熱温度は、当該工程出口の鋼板温度である。引き続き、460℃のAl含有Zn浴にて溶融亜鉛めっき処理を施し、溶融亜鉛めっき鋼板を得た。なお、浴中Al濃度は0.14〜0.20%Al、付着量はガスワイピングにより片面当り40g/mに調節した。また、溶融亜鉛めっきを施した後に、500〜580℃で合金化処理を行うことで合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。また、第2加熱工程〜第3加熱工程を行わず、めっき浴を空通しすることで、第1加熱工程後の鋼板を得た。この鋼板表面についてAESによるマッピングを行い、SiOの表面被覆率を求めた。
【0059】
【表1】

【0060】
以上より得られた溶融亜鉛めっき鋼板(GI)及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)に対して、下記に示す方法にてめっき外観を調査した。得られた結果を条件と併せて表2〜表5に示す。
【0061】
〈表面外観〉
不めっきや押し疵などの外観不良の有無を目視にて判断し、外観不良がない場合には良好(○)、外観不良がわずかにあるがおおむね良好である場合にはおおむね良好(△)、外観不良がある場合には(×)と判定した。
【0062】
〈めっき密着性〉
合金化溶融亜鉛鍍金鋼板のめっき密着性は、耐パウダリング性を評価した。具体的には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板にセロテープ(登録商標)を貼り、テープ面を90度曲げ、曲げ戻しをした時の単位長さ当りの剥離量を、蛍光X線によるZnカウント数として測定し、下記基準に照らしてランク1、2のものを特に良好(○)、良好(△)、3以上のものを不良(×)として評価した。
蛍光X線カウント数 ランク
0〜500未満 :1 (良)
500〜1000未満 :2
1000〜2000未満:3
2000〜3000未満:4
3000以上 :5 (劣)
合金化していない溶融亜鉛めっき鋼板については、ボールインパクト試験を行い、加工部をセロテープ(登録商標)剥離し、めっき層剥離の有無を目視判定することでめっき密着性を評価した。
○:めっき層の剥離なし
×:めっき層が剥離
【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
表2〜表5からわかるように、本発明例の溶融亜鉛めっき鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、Siを含有するにも関わらず、不めっきや押し疵がなく美麗な表面外観を有し、めっき密着性も良好である。これに対して、比較例の溶融亜鉛めっき鋼板と合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、表面外観とめっき密着性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明法で製造された高強度溶融亜鉛めっき鋼板と高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、美麗な表面外観を有し、めっき密着性に優れるので、自動車、家電、建材の分野を中心に幅広い用途での使用が見込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分として、mass%で、C:0.05〜0.30%、Si:0.1〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜3.0%、S:0.001〜0.01%、P:0.001〜0.1%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼板に溶融亜鉛めっきを施すに際し、H:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で鋼板を600〜850℃の範囲内の温度になるように加熱する第1加熱工程、次にO:0.01〜20vol%、HO:1〜50vol%を含有する雰囲気中で鋼板を400〜850℃の範囲内の温度になるように加熱する第2加熱工程、次にH:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で鋼板を750〜900℃の範囲内の温度になるように加熱する第3加熱工程を行った後、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の鋼板は、化学成分として、さらに、mass%で、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Ti:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%およびB:0.0005〜0.0050%から選ばれた1または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記第2加熱工程は、前段は、O:0.1〜20vol%、HO:1〜50vol%を含有する雰囲気中で鋼板を400〜750℃の範囲内の温度になるように加熱し、後段は、O:0.01vol%〜0.1vol%未満、HO:1〜20vol%以下を含有する雰囲気中で鋼板を600〜850℃の範囲内の温度になるように加熱する(但し、後段の温度は前段の温度より高温である。)ことを特徴とする請求項1または2に記載の表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記第2加熱工程は、前段は、直火炉または無酸化炉により、空気比が1以上1.35以下の条件で行い、後段は直火炉または無酸化炉により、空気比が1未満の条件で行うことを特徴とする請求項3に記載の表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記第1加熱工程後の鋼板表面のSiO被覆率が30%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の表面外観とめっき密着性に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの項に記載の方法で高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造した後、更に合金化処理を行うことを特徴とする表面外観とめっき密着性に優れる高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2010−59510(P2010−59510A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227785(P2008−227785)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】