説明

表面実装用の温度補償水晶発振器

【課題】起動時の温度補償動作を良好にして周波数変動を防止した表面実装用の温度補償発振器の提供。
【解決手段】発振回路及び温度補償機構2を集積化したICチップと、励振電極から引出電極が一端部両側に延出した水晶片とを、セラミックからなる容器本体内に収容して一体化してなり、前記温度補償機構2は少なくとも周囲温度を検出する温度センサ2aを有し、前記温度センサ2aによる検出温度に基づいて温度補償電圧を発生し、前記温度補償電圧を発振閉ループ内の電圧可変容量素子5に印加してなる表面実装用の温度補償水晶発振器1において、前記ICチップの起動時における発熱によっての前記温度センサ2aの検出温度と前記水晶片の動作温度との差温度に基づく前記温度補償電圧の補償誤差分を予め計測し、前記補償誤差分を補正する起動時補正電圧を前記電圧可変容量素子5に印加した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面実装用の温度補償水晶発振器(以下、温度補償発振器とする)を技術分野とし、特に起動時の周波数変動(ドリフト)を防止した表面実装発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
温度補償発振器は、小型・軽量であって温度変化に対する周波数安定度が高いことから、特に温度環境の変化する携帯型電子機器に周波数源として内蔵される。このようなものの一つに例えばGPS用の温度補償発振器(TCXO)があり、起動時における周波数変動の抑制が求められる。
【0003】
(従来技術の一例)
第5図は一従来例を説明する図で、同図(a)は温度補償発振器のブロック図、同図(b)は水晶振動子(水晶発振器)の周波数温度特性図、同図(c)は表面実装用とした温度補償発振器の断面図である。
【0004】
温度補償発振器は水晶発振器1と温度補償機構2とからなる。水晶発振器1は例えばCMOSからなるインバータ増幅素子とした発振用増幅器3と、水晶振動子4及び分割コンデンサC1、C2からなる共振回路とからなる。ここでの分割コンデンサC1、C2は電圧可変容量素子5とする。
【0005】
水晶振動子4は例えばATカットとして周囲温度に応答して、概ね常温25℃近傍に変曲点を有する3次曲線の周波数温度特性を有する。発振回路の周波数温度特性は水晶振動子のそれに概ね依存する。なお、水晶振動子4を除く水晶発振器1(発振回路)及び温度補償機構は点線枠で示すICチップ8内に集積化される。
【0006】
温度補償機構2は温度センサ2a、温度補償データ記憶回路2b及び補償電圧発生回路2cを有する。温度センサ2aは例えば抵抗素子からなり、周囲温度に応答した抵抗値の変化による温度検出電圧を発生する。温度補償データ記憶回路2bは周波数温度特性を補償する温度補償データを予め記憶する。温度補償データは各水晶振動子(発振器)ごとに測定された周波数温度特性に基づく補償電圧特性(三次関数)の例えば2次数項を除く各次数項の係数及び変曲点温度からなる。
【0007】
補償電圧発生回路2cは前述の係数及び変曲点温度を与えられ、温度センサ2aの温度検出電圧によって温度補償電圧Vcを発生する。そして、電圧可変容量素子5のカソードに逆電圧として印加する。温度補償電圧Vcは水晶振動子4の周波数温度特性とは逆特性とし、周波数温度特性を補償する。
【0008】
この場合、温度補償電圧Vcの印加によって電圧可変容量素子5の容量が変化し、水晶振動子4から見た発振閉ループの直列等価容量(負荷容量)も変化するので、周波数温度特性を補償できる。なお、図中の符号6は緩衝増幅器、R1は帰還抵抗、R2は高周波阻止抵抗、Ca、Cbは直流阻止コンデンサである。
【0009】
このようなものでは、例えば凹状とした容器本体7の内底面にICチップ8をバンプ9を用いた超音波熱圧着によって、水晶振動子4としての水晶片10の一端部両側を内壁段部に導電性接着剤11によって固着する。ICチップ8は水晶振動子4(水晶片10)を除く発振回路1及び温度補償機構2を集積化する。そして、容器本体7の外底面には電源、出力、アース端子等の実装端子を有し、例えば側面には図示しない温度補償データの書込端子が設けられる。容器本体の開口面にはシーム溶接等によって金属カバーが接合して密閉封入する。
【0010】
【特許文献1】特開2007−67967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
(従来技術の問題点)
しかしながら、上記構成の温度補償発振器では、特に起動時における周波数変動特性に問題があった。すなわち、温度補償発振器の起動時には、ICチップ2内に生ずる回路電流に起因した特に発振用増幅器3や緩衝増幅器等の能動素子によって発熱する。したがって、ICチップ2の発熱による温度(発熱温度)が周囲温度よりも高くなる。例えば起動時の周囲温度を常温時の25℃とすると27℃程度まで上昇して飽和する。
【0012】
これに対し、水晶振動子4(水晶片10)は起動時にはICチップの発熱温度よりも低い温度で動作し、除々に上昇して例えば30秒前後にICチップよりも低い温度で飽和する。したがって、ICチップ2に集積化された温度検出素子は水晶振動子4の動作温度よりも高い温度を検出する。これにより、温度補償機構2は本来の補償電圧Vcよりも高い電圧Vc′を発生して電圧可変容量素子5に印加する。
【0013】
このことから、ICチップ2と水晶振動子4との温度が飽和し、通常の補償電圧Vcが印加されて温度補償動作が安定するまでの起動時からの周波数変化特性例えば周波数偏差特性は、例えば第6図に示したようになる。なお、横軸は起動時からの時間Tであり、縦軸は温度補償動作が安定した発振周波数foに対する周波数偏差Δf/foである。但し、Δfはf−foであり、fは起動時からの各時間における発振周波数である。
【0014】
すなわち、ここでの起動時における発振周波数fは、発振の立ち上がるT1時例えば3.5msecから除々に上昇し、温度補償が安定するT2時に安定した発振周波数fo(即ち周波数偏差Δf/f)が0になる。
【0015】
(発明の目的)
本発明は起動時の温度補償動作を良好にして周波数変動を抑制した表面実装用の温度補償発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、特許請求の範囲(請求項1)に示したように、発振回路及び温度補償機構を集積化したICチップと、励振電極から引出電極が一端部両側に延出した水晶片とを、セラミックからなる容器本体内に収容して一体化してなり、前記温度補償機構は少なくとも周囲温度を検出する温度センサを有し、前記温度センサによる検出温度に基づいて温度補償電圧を発生し、前記温度補償電圧を発振閉ループ内の電圧可変容量素子に印加してなる表面実装用の温度補償水晶発振器において、前記ICチップの起動時における発熱によっての前記温度センサの検出温度と前記水晶片の動作温度との差温度に基づく起動時からの周波数変化分を予め計測し、前記周波数変化を補正する起動時補正電圧を前記電圧可変容量素子に印加した構成とする。
【発明の効果】
【0017】
このような構成であれば、起動時補正電圧によって、起動時における補償電圧の補償誤差分による発振周波数の変化を補正できる。したがって、起動時における温度補償動作を良好にして周波数変動を抑制できる。
【0018】
(実施態様項)
本発明の請求項2では、請求項1において、前記起動時補正電圧はクロック周波数に応答して、予め計測された前記周波数変化分を記憶したデータ記憶回路から補正データが送出され、前記補正データによって生成された電圧とする。これにより、起動時の周波数変化分を補正できる。
【0019】
同請求項3では、請求項1において、前記起動時補正電圧は予め計測された前記周波数変化分に基づくCR回路の時定数によって生成された電圧とする。これにより、回路構成を簡易にして起動時の周波数変化分を補正できる。
【0020】
同請求項4では、請求項1において、前記温度補償電圧と前記起動時補正電圧とは合成されて前記電圧可変容量素子のカソードに印加される。これにより、温度補償電圧が補正され、起動時の周波数変化分を補正できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1実施形態)
第1図は本発明の第1実施形態を説明する温度補償発振器の図である。なお、前従来例と同一部分には同番号を付与してその説明は簡略又は省略する。
【0022】
温度補償発振器は前述したように水晶振動子4、発振用増幅器3及び分割コンデンサC1、C2としての電圧可変容量素子5を有する水晶発振器1と、温度センサ2a、温度補償データ記憶回路2b及び補償電圧発生回路2cを有する温度補償機構2とを備える。そして、ここでは、温度補償発振器の起動時における周波数変動を抑制する起動時補正回路13を設けてなる。
【0023】
起動時補正回路13は、クロック発生回路13a、カウンタ13b、起動時補正データ記憶回路13c、起動時補正電圧発生回路13d、及び合成回路13eを有する。クロック発生回路13aは水晶発振器1の発振周波数をクロック源として分周されたタイミングパルスを発生する。カウンタ13bはタイミングパルスを計数し、起動時補正データ記憶回路13cに計数値を送出する。要するに、起動時からの時間経過信号をデジタル値として送出する。
【0024】
起動時補正データ記憶回路13cは起動時における補正データを記憶する。補正データは温度補償動作が安定するまでの周波数偏差Δf/foを補正する電圧値に応答したデジタル値とする。これらは、各温度補償発振器ごとに測定された周波数偏差特性に基づき、外部端子Aからの書き込み信号によって設定される。そして、タイミングパルスの計数値に同期して補正データを起動時補正電圧発生回路13dに送出する。
【0025】
起動時補正電圧発生回路13dは、D/A変換器からなる。そして、起動時補正データ記憶回路13cからの補正データ(デジタル信号)に基づき、アナログ値の起動時補正電圧Vhに変換する。そして、合成回路13eに送出する。なお、起動時補正電圧Vhは、前述した周波数偏差特性(前第6図参照)に応答して起動時のT1を最大として除々に減少し、温度補償動作が安定するT2時には0電圧となる。
【0026】
合成回路13aは例えばオペアンプからなり、温度補償機構2からの温度補償電圧Vcと起動時補正電圧Vhとを合成(加算)する。そして、これらの合成補償電圧Vch(Vc+Vh)を高周波阻止抵抗R2を経て、発振用の分割コンデンサC1、C2を兼用する電圧可変容量素子5に印加する。
【0027】
このような構成であれば、起動時補正回路13からの起動時補正電圧Vhが温度補償電圧Vcに加算され、合成補償電圧VchYとして電圧可変容量素子15に印加される。この場合、起動時補正電圧Vhは起動時T1を最大として除々に減少してT2時に0となるので、電圧可変容量素子5の容量は起動時T1からT2時まで増加する方向となる。
【0028】
したがって、第2図の曲線ロに示したように、周波数偏差は起動時T1を+方向に最大としてT2時まで減少して0になる。なお、曲線イは前述した起動時における起動時T1を−方向に最大として0に接近する従来例の周波数偏差特性(前第6図)である。このことから、ICチップ2の発熱によっての温度センサ2aの検出温度と水晶振動子4の動作温度との乖離に基づく、温度補償動作が安定するまでの周波数変動を起動時補正電圧Vhによって相殺して抑制できる。
【0029】
なお、個々の温度補償発振器ごとに起動時の周波数偏差特性を測定して補正データを起動補正データ記憶回路13cに書き込んだが、全体の平均的な補正データに基づき、起動時電圧発生回路13dを設定してもよい。この場合、クロック発生回路13a、カウンタ13b、書込端子Aを含む起動時補正データ記憶回路13cを不要にする。
【0030】
(第2実施形態)
第3図は本発明の第2実施形態を説明する温度補償発振器の図である。なお、第1実施形態と同一部分の説明は省略又は簡略する。
【0031】
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、水晶発振器1、温度補償機構2及び起動時補正回路13を有する。起動時補正回路13は、第1実施形態でのクロック発生回路13a及びカウンタ13bを排除し、起動時補正データ記憶回路13cと起動時補正電圧発生回路13dと合成回路13eとからなる。
【0032】
起動時補正データ記憶回路13cは、第1実施形態と同様に起動時における補正データを記憶する。ここでは、補正データとして、CR回路からなる時定数回路の振幅セレクトコードと時定数セレクトコードとを記憶する。振幅セレクトコードは周波数偏差特性(前第3図及び第6図)の最大偏差となる起動時T1の初期値に基づいて設定される。また、時定数セレクトコードは安定時T2までの曲線に応じて設定される。
【0033】
起動時補正電圧発生回路13dはCRからなる時定数回路とし、例えば電圧印加側としたコンデンサCを固定とし、これに接続してアース接地とした抵抗Rを可変抵抗13dxとする。そして、CRの接続点から補正電圧Vhを得る。ここでは、電源Vccからの直流電圧を分圧回路13dyで分圧し、バッファアンプ14dzを経てコンデンサCに印加される。
【0034】
この場合、起動時補正電圧発生回路13dの分圧は、起動時補正データ記憶回路13cにおける補正データ中の振幅セレクトコードによって選択される。そして、可変型の抵抗Rは時定数セレクトコードによって選択される。これらの、補正データ(振幅及び時定数セレクトコード)は、各温度補償発振器ごとに測定した起動時の周波数偏差特性に基づいて決定され、外部端子Aから書き込まれる。ここでは、起動時における周波数偏差特性(前第3図)に基づいて指数関数的に減少する補正電圧を発生する。
【0035】
このような構成であっても、温度補償回路2からの補償電圧Vcと起動時補正回路13からの起動時補正電圧Vhとが合成回路13eによって合成され、電圧可変容量素子5に印加される。したがって、合成補償電圧Vch中の起動時補正電圧Vhによって、起動時T1から温度補償動作の安定時T2時までの発振周波数の上昇を抑制し、周波数変動を防止できる。
【0036】
なお、第2実施形態においても、全体の平均的な補正データに基づき、起動時電圧発生回路13d即ちCR回路の時定数を設定してもよい。また、CR回路の時定数が大きいのでICチップ8が大型化する。したがって、例えばCR回路の抵抗のみをICチップ内に形成し、コンデンサはチップ状のディスクリート素子(個別素子)としてもよい。これらの場合、起動補正データ記憶回路13c及びこれ用の書込端子Aは不要となる。
【0037】
また、温度補償発振器1の構造は例えば容器本体7をH状として一方の凹部に水晶片10を他方の凹部にICチップ8を収容した場合でも、表面実装型とした水晶振動子の底面にICチップ8を収容した実装基板を接合した場合でも同様に適用できる。
【0038】
また、温度補償電圧Vcと起動時補正電圧Vhは合成して電圧可変容量素子5のカソードに印加したが、温度補償電圧Vcをカソードに、起動時補正電圧Vhをアノードに印加してもよい。この場合、起動時補正電圧Vhはアノードに対して−電圧から0になる逆電圧とする。そして、時定数回路は等価的にRを大きくするためにスイッチドキャパシタフィルタを用いたものでも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態を説明する温度補償発振器の回路図である。
【図2】本発明の第1実施形態の作用を説明する起動時の周波数偏差特性である。
【図3】本発明の第2実施形態を説明する温度補償発振器の回路図である。
【図4】本発明の第2実施形態形態の起動時補正電圧発生回路の図である。
【図5】従来例を説明する図で、同図(a)は温度補償発振器の回路図、同図(b)は周波数温度特性図、同図(c)は温度補償発振器の断面図である。
【図6】従来例を説明する起動時における周波数偏差特性図である。
【符号の説明】
【0040】
1 水晶発振器(発振回路)、2 温度補償機構、3 発振用増幅器、4 水晶振動子、5 電圧可変容量素子、6 緩衝用増幅器、7 容器本体、8 ICチップ、9 バンプ、10 水晶片、11 導電性接着剤、12 外部端子、13 起動時補正回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振回路及び温度補償機構を集積化したICチップと、励振電極から引出電極が一端部両側に延出した水晶片とを、セラミックからなる容器本体内に収容して一体化してなり、前記温度補償機構は少なくとも周囲温度を検出する温度センサを有し、前記温度センサによる検出温度に基づいて温度補償電圧を発生し、前記温度補償電圧を発振閉ループ内の電圧可変容量素子に印加してなる表面実装用の温度補償水晶発振器において、前記ICチップの起動時における発熱によっての前記温度センサの検出温度と前記水晶片の動作温度との差温度に基づく起動時からの周波数変化分を予め計測し、前記周波数変化を補正する起動時補正電圧を前記電圧可変容量素子に印加したことを特徴とする温度補償水晶発振器。
【請求項2】
請求項1において、前記起動時補正電圧はクロック周波数に応答して、予め計測された前記周波数変化分を記憶したデータ記憶回路から補正データが送出され、前記補正データによって生成された電圧である温度補償水晶発振器。
【請求項3】
請求項1において、前記起動時補正電圧は予め計測された前記周波数変化分に基づくCR回路の時定数によって生成された電圧である温度補償水晶発振器。
【請求項4】
請求項1において、前記温度補償電圧と前記起動時補正電圧とは合成されて前記電圧可変容量素子のカソードに印加された温度補償発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−271355(P2008−271355A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113756(P2007−113756)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】