説明

表面抵抗測定装置及び表面抵抗測定方法

【課題】電気絶縁体材料(静電気拡散性や導電性の表面処理がなされているものを含む)の表面抵抗値を非接触で測定する。
【解決手段】表面抵抗値測定装置100は、測定対象物1000の帯電領域1001に非接触で電荷を与える帯電装置110と、測定領域1002における電荷量を非接触で測定する電荷検出装置120と、からなる。帯電装置110が帯電領域1001に電荷を与えながら、電荷検出装置120が帯電領域1001から測定領域1002に流入する電荷量を経時的に測定する。このようにして測定された電荷量に基づいて測定対象物1000の表面抵抗値が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁体材料、あるいは、表面に被覆を有する電気絶縁体材料の表面における電荷の移動速度を測定することを可能にする電荷移動速度測定装置、電荷移動速度測定方法及び同方法を実行させるためのプログラム、並びに、そのような表面における表面抵抗を測定することを可能にする表面抵抗測定装置、表面抵抗測定方法及び同方法を実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック、ゴム、ガラス、セラミックなどの電気絶縁体の帯電性を評価する指標の一つとして表面抵抗値がある。表面抵抗値が10Ω以下の材料は導電性、10乃至1011Ωの材料は静電気拡散性、1011Ω以上の材料は絶縁性と分類され、導電性や静電気拡散性を持つ材料は、接地されていれば、帯電されること及び帯電されることによる悪影響を回避することができる。
【0003】
導電性や静電気拡散性を持たない絶縁性の材料は、一旦帯電すると高い電位を持つため、ホコリの吸着、静電気放電の発生などの悪影響をもたらすことがある。従って、その材料が絶縁性であるか、導電性あるいは静電気拡散性を持つか否かの評価は、静電気対策上極めて重要である。
【0004】
帯電の影響を避けたい場合には、通常、対象物の表面上に導電性または静電気拡散性の材料からなるコーティング層を形成し、かつ、このコーティング層を接地する。ただし、このような場合には、コーティング層から地面(アース)への急激な電荷移動を避けるために、コーティング層に比較的大きな抵抗値を持たせる場合が多い。
【0005】
このような大きな値の表面抵抗値を測定する方法としては、例えば、JISK69611に規定されている方法がある。
【0006】
この方法においては、円盤電極とその周囲を囲むリング電極を測定対象物の表面に押し付けた後、リング電極に所定の大きさの直流電圧を印加し、測定対象物の表面を通って円盤電極に流れ込む漏れ電流を測定する。この漏れ電流の大きさから測定対象物の表面の表面抵抗値を計算する。
【0007】
このような接触式の表面抵抗測定法においては、測定用電極(円盤電極及びリング電極)が測定対象物の表面に完全に接触していることが測定の条件となる。
【0008】
例えば、導電性ゴムを測定用電極の表面に張り付けることは、測定用電極の試料表面への密着性を高めるためには一つの有効な手段である。
【0009】
しかしながら、測定対象物が硬質の材料からなり、かつ、その表面が平坦である場合には、測定用電極を測定対象物の表面に完全に接触させることは容易であるのに対して、測定対象物の表面に細かな凹凸があと、測定用電極と測定対象物の表面との間の接触が十分ではなくなるため、表面抵抗値の正確な測定が困難となる。
【0010】
例えば、梨地加工やブラスト加工されたプラスチック、ガラス、セラミックのような材料からなる測定対象物や、スプレーまたは塗装による被覆を持つ測定対象物では、測定用電極の完全な接触が困難になるため、正確な表面抵抗値を算出することは難しい。この場合、蒸着などの方法により密着性の良い測定用電極を測定対象物の表面に形成するなどの方法を取る必要があり、特殊な設備と手間を要するという問題がある。
【0011】
このため、測定対象物の表面の構造によらずに正確に表面抵抗値を測定するためには、測定用電極の測定対象物の表面への接触を不要とする方法が必要である。
【0012】
非接触での表面抵抗値の測定が必要なもう一つの理由は、測定用電極の接触が測定対象物の表面状態を破壊する可能性があるためである。
【0013】
例えば、軟質材料からなるコーティングが表面に施されている測定対象物では、測定用電極を表面に押し付けることにより、コーティングを変形させるか、あるいは、破壊することがある。
【0014】
また、測定対象物の表面が粘着膜や接着膜を有するものである場合、測定対象物の表面に測定用電極を接触させると、測定用電極自体に粘着剤や接着剤が付着し、測定対象物の粘着膜や接着膜の本来の粘着力を損なう。
【0015】
また、測定対象物の表面に、固体ではなく、液体やゲル状のコーティングがなされた場合であっても、測定用電極の接触による表面の破壊が起こる。
【0016】
このように、測定用電極を接触させることが好ましくない測定対象物はこれ以外にも数多く存在するので、非接触で測定対象物表面の表面抵抗値を測定することを可能にする方法が望まれている。
【0017】
以上のような背景から非接触で測定対象物の表面抵抗値を測定する方法がこれまでにいくつか提案されてきた。
【0018】
例えば、特許文献1に記載されている方法においては、2つの電極を非接触で測定対象物の表面に近づけ、2つの電極間に交流電圧を印加することによって試料表面を含む電極系に流れる電流の大きさから測定対象物の表面抵抗値を算出する。
【0019】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法は、測定の原理上、10Ω以下の導電性膜に対してのみ適用できる方法にすぎない。
【0020】
また、特許文献2は、測定対象物の表面に発生する渦電流を測定し、測定された渦電流に基づいて表面抵抗値を測定する方法を提案している。
【0021】
しかしながら、特許文献2に記載されている方法も、特許文献1に記載されている方法と同様に、測定の原理上、静電気拡散性や絶縁性の材料からなる測定対象物の表面には適用することができない。
【0022】
静電気拡散性や絶縁性を持つ測定対象物に対する表面抵抗測定方法は、現状においては、接触式の方法(測定器具を測定対象物の表面に接触させて、表面抵抗値を測定する方法)しか存在しない。このような接触式方法では、その用途によっては、上述のような測定精度の問題と表面破壊の問題が顕在化する。
【0023】
一方、表面抵抗値の測定とは別の評価指標として、測定対象物の表面をコロナ帯電させ、その電位がどのくらいの速さで減衰してゆくかを測定する電荷減衰時間測定法がある。この方法は、非接触式測定であるため、前記のような測定用電極の表面への接触が好ましくない試料に対しても適用することができる。
【0024】
しかしながら、この電荷減衰時間測定法にも以下に示すような問題がある。
【0025】
JIS L 1094−1988に規定された方法においては、試験片はターンテーブル上に固定され、電圧印加部を介して、放電により試験片に電荷が与えられる。ターンテーブルの回転により試験片が近接通過する位置には、試験片の電荷量に応じた表面電位を検出する検出電極が配置されている。この検出電極により検出される表面電位の変化に基づいて電荷量の減衰状態が測定される。
【0026】
この方法は、試験片の帯電と表面電位の測定とは、互いに影響が現れない距離を隔てて別々の場所で行われるので、試験片を帯電させた後に試験片を移動させる必要がある。このため、ターンテーブルなどの移動手段の速度に応じて電荷減衰時間の測定限界が決まり、この移動速度よりも速く減衰してしまう高導電性の材料にはこの方法を適用することができない。
【0027】
また、試験片の表面積の大きさが減衰時間を決めてしまうため、同じ材質の試験片であっても、試験片の形状や寸法が変われば、減衰時間も変わってしまう。
【0028】
さらに、ターンテーブル等の移動手段の上に試験片を置く必要があるため、ターンテーブルの大きさによって測定可能なサイズが限定され、ターンテーブルの大きさよりも大きい試験片の測定は困難あるいは不可能という問題がある。
【0029】
このような背景から、特許文献3は、測定対象物の移動を行う必要がない方法として、コロナ放電によるイオンを気流で測定対象物に照射し、その後、帯電電位を表面電位計で測定する方法を提案している。
【0030】
しかしながら、この方法は、測定対象物の表面と周囲の接地体との距離や測定対象物に対する気流の当たり具合によって帯電量が大きく変わるため、測定対象物が絶縁性であるか、あるいは、導電性であるかの判断にしか適用することができず、帯電電位に基づいて表面抵抗値を計算することができないという問題がある。
【0031】
なお、電荷減衰試験法並びにこれを応用した測定法は、測定対象物を帯電させた後に電荷または電位の変化を測定するものであるが、測定対象物の帯電と電位変化とが同時に行われないため、表面抵抗値を広い範囲で算出することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】特開2000−230949号公報
【特許文献2】特開2000−230950号公報
【特許文献3】特許第3611037号公報(特開特開2004−93503号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明は、以上のような従来の表面抵抗測定方法における問題点に鑑みてなされたものであり、電気絶縁体材料、または、静電気拡散性や導電性の表面処理がなされている電気絶縁体材料の表面抵抗値を広い範囲で非接触式で測定することを可能にする方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上記の目的を達成するため、本発明は、測定対象物の表面における電荷の移動速度を測定する電荷移動速度測定装置であって、前記測定対象物の前記表面の所定の帯電領域に、前記測定対象物と非接触で電荷を与える帯電装置と、前記測定対象物の前記表面の前記帯電領域以外に設ける測定領域における電荷量を前記測定対象物と非接触で経時的に測定する電荷検出装置と、を備え、前記帯電装置が前記帯電領域に電荷を与えながら、前記電荷検出装置が前記帯電領域から前記測定領域に流入する電荷量を経時的に測定することを特徴とする電荷移動速度測定装置を提供する。
【0035】
前記帯電装置は、例えば、電源と、基端と先端とを有し、前記基端において前記電源と接続され、前記先端が、前記測定対象物と接触しない範囲において、前記測定対象物に向けて配置される課電電極と、からなる。前記課電電極は、前記電源から電圧の供給を受け、正イオンまたは負イオンを電界を介して前記測定対象物に向けて駆動して付着させることにより、前記測定対象物の前記表面にそれぞれ正電荷または負電荷を与える。
【0036】
本発明に係る電荷移動速度測定装置は、上下方向に開口している開口部を有し、接地されている接地電極をさらに備えるものとして構成することができる。前記課電電極は、例えば、前記先端が尖っている針状電極からなり、前記針状電極は前記接地電極と接触することなく前記開口部の内部に配置される。
【0037】
前記接地電極はリング形状をなしていることが好ましい。
【0038】
前記針状電極は、前記測定対象物に向かう方向において、その先端が前記接地電極よりも突き出ていることが好ましい。
【0039】
本発明に係る電荷移動速度測定装置は、前記電荷検出装置により検出された、前記帯電領域から前記測定領域に流入する電荷による誘導電荷を前記測定領域の表面電位または前記測定領域の流入電荷量に換算する換算装置をさらに備えることができる。
【0040】
前記測定領域は、1個のみならず、複数個存在していてもよい。この場合には、前記測定領域に対応して複数個の前記電荷検出装置が設けられる。
【0041】
前記測定領域が複数個ある場合には、前記測定領域の各々は前記帯電領域からの距離がそれぞれ異なっていてもよい。
【0042】
本発明に係る電荷移動速度測定装置は、前記測定対象物と一定の間隔に隔置され、かつ、接地されている導体板をさらに備えることができる。前記導体板には複数個の開口部が形成されており、前記帯電装置及び前記電荷検出装置は前記開口部を介して前記測定対象物と対向している。
【0043】
前記測定対象物と前記導体板との間隔をgとし、前記針状電極の先端が前記接地導体板から突き出た長さをgとすると、0mm<g≦10mm、かつ、0.3≦g/g≦0.8の範囲に設定することが好ましい。
【0044】
本発明に係る電荷移動速度測定装置は、前記帯電装置及び前記電荷検出装置の各々の動作を制御する制御装置をさらに備えることができる。
【0045】
さらに、本発明は、上記の電荷移動速度測定装置と、前記電荷移動速度測定装置の電荷検出装置により検出された電荷量の経時変化を表面抵抗値に換算する換算装置と、を備えることを特徴とする表面抵抗測定装置を提供する。
【0046】
さらに、本発明は、測定対象物の表面における電荷の移動速度を測定する電荷移動速度測定方法であって、前記測定対象物の表面の一部の第一領域を前記測定対象物と非接触の下に帯電させる第一の過程と、前記第一領域の外側の第二領域に流入した電荷量の経時変化を前記測定対象物と非接触の下に検出する第二の過程と、を備える電荷移動速度測定方法を提供する。
【0047】
前記第二の過程においては、前記第一領域から前記第二領域に流入する電荷による誘導電荷を検出し、前記誘導電荷を前記第二領域の表面電位または前記第二領域の流入電荷量に換算することが好ましい。
【0048】
前記第二の過程においては、前記第一領域からの距離が異なる複数の第二領域において、前記電荷量の経時変化を検出することが好ましい。
【0049】
本発明は、さらに、測定対象物の表面抵抗を非接触の状態で測定する表面抵抗測定方法であって、上述の電荷移動速度測定方法と、前記電荷移動速度測定方法の第二の過程において検出された電荷量の経時変化を表面抵抗に換算する過程と、を備えることを特徴とする表面抵抗測定方法を提供する。
【0050】
本発明は、さらに、測定対象物の表面における電荷の移動速度を測定する電荷移動速度測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記プログラムが行う処理は、前記測定対象物の表面の一部の第一領域を前記測定対象物と非接触の下に帯電させる第一の処理と、前記第一領域の外側の第二領域に流入した電荷量の経時変化を前記測定対象物と非接触の下に検出する第二の処理と、からなるものであるプログラムを提供する。
【0051】
前記第二の処理においては、前記第一領域から前記第二領域に流入する電荷による誘導電荷を検出し、前記誘導電荷を前記第二領域の表面電位または前記第二領域の流入電荷量に換算することが好ましい。
【0052】
前記第二の処理においては、前記第一領域からの距離が異なる複数の第二領域において、前記電荷量の経時変化を検出することが好ましい。
【0053】
本発明は、さらに、測定対象物の表面抵抗を非接触の状態で測定する表面抵抗測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記プログラムが行う処理は、前記測定対象物の表面の一部の第一領域を前記測定対象物と非接触の下に帯電させる第一の処理と、前記第一領域の外側の第二領域に流入した電荷量の経時変化を前記測定対象物と非接触の下に検出する第二の処理と、前記第二の処理において検出された電荷量の経時変化を表面抵抗に換算する第三の処理と、からなるものであるプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0054】
本発明に係る電荷移動速度測定装置、電荷移動速度測定方法及び同方法を実施するためのプログラムによれば、測定対象物としての試験片に接触することなく、試験片の表面における電荷移動速度を測定することが可能になる。電荷移動速度が測定されれば、その電荷移動速度に基づいて試験片表面の表面抵抗値を算出することができる。
【0055】
また、本発明に係る表面抵抗測定装置、表面抵抗測定方法及び同方法を実施するためのプログラムによれば、測定対象物としての試験片に接触することなく、試験片の表面における表面抵抗値を直接的に測定することが可能になる。
【0056】
本発明によれば、試験片の表面が導電性であっても(この場合には、表面抵抗値はゼロまたは小)、あるいは、絶縁性であっても(この場合には、表面抵抗値は無限大)、表面抵抗値を広範囲にわたって測定することが可能である。
【0057】
測定対象物の表面抵抗値の測定を非接触で行うことが可能になれば、これまで、平坦かつ硬質の測定対象物に限定されていた測定対象を飛躍的に拡大することができる。例えば、表面に微細な凹凸がある試料、やわらかい材質の試料、導電性繊維を含む衣服、植毛された試料、液体試料、ゲル状試料、粘着性をもつ試料、表面が水分や塩分で汚損している試料、塗装された試料など、多種多様な表面状態に対しても、表面抵抗値を正確に測定することが可能になる。
【0058】
さらに、従来の方法とは異なり、試料の表面に測定用電極を押し付ける必要がないので、試料の表面を破壊することを防止することが可能になる。
【0059】
また、試料の表面に測定用電極を押し付ける工程を省くことができるため、表面抵抗値の測定を短時間に実施することが可能になる。すなわち、表面抵抗値の測定を飛躍的に高速化することが可能になる。
【0060】
さらに、本発明に係る装置、方法またはプログラムによれば、試料の表面の小さな領域ごとに表面抵抗値の分布を測定することも可能となるため、表面抵抗値の分布図を用いて、各種コーティング膜の均一性を評価することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は本発明の第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置の概念図である。
【図2】図2は、本発明の第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置を応用した表面抵抗測定装置の一例を示す概念図である。
【図3】図3は表面抵抗測定装置の制御装置のブロック図である。
【図4】図4は本発明の第二の実施形態に係る電荷移動速度測定装置の概念図である。
【図5】図5は本発明の第三の実施形態に係る電荷移動速度測定装置の概念図である。
【図6】図6は本発明の第四の実施形態に係る電荷移動速度測定装置の概念図である。
【図7】図7は本発明の第五の実施形態に係る電荷移動速度測定装置の概念図である。
【図8】図8は本発明の第五の実施形態に係る電荷移動速度測定装置の等価回路の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0062】
100 本発明の第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置
110 帯電装置
120 電荷検出装置
130 制御装置
140 換算装置
150 表示装置
200 本発明の第二の実施形態に係る電荷移動速度測定装置
210 帯電装置
211 直流高圧電源
212 課電電極
220 電荷検出装置
221 検出電極
222 電流計
300 本発明の第三の実施形態に係る電荷移動速度測定装置
310 帯電装置
311 直流高圧電源
312 針状電極
313 接地電極
320 電荷検出装置
400 本発明の第四の実施形態に係る電荷移動速度測定装置
410 帯電装置
420A、420B 電荷検出装置
500 本発明の第五の実施形態に係る電荷移動速度測定装置
510 帯電装置
520A、520B 電荷検出装置
511 直流高圧電源
512 針状電極
1000 測定対象物
1001 帯電領域
1002 測定領域
【発明を実施するための形態】
【0063】
(第一の実施形態)
図1は本発明の第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100の概念図である。
【0064】
本発明の第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100は測定対象物1000の表面における電荷移動速度を非接触の状態で測定する。測定対象物1000は電気的に絶縁されている状態で使用されるものとする(以下に述べる実施形態においても同様とする)。
【0065】
図1に示すように、電荷移動速度測定装置100は、測定対象物1000の表面の局所的領域である帯電領域1001を帯電させる帯電装置110と、測定対象物1000の表面の局所的領域であって、帯電領域1001からは離れた領域である測定領域1002における電荷を検出する電荷検出装置120と、からなる。
【0066】
帯電装置110は、帯電領域1001に対して非接触の状態で局所的に電荷1100を与えることにより、帯電領域1001を帯電させる。また、帯電装置110は帯電領域1001における表面電位を常に一定に保つ機能を有している。
【0067】
帯電領域1001を局所的に帯電させると、静電反発力によりその電荷の一部が帯電領域1001から外部に漏洩する。電荷検出装置120は、帯電領域1001から離れた測定領域1002に漏洩拡散した電荷による誘導電荷量の経時変化を測定対象物1000とは非接触の状態で検出する。
【0068】
電荷検出装置120による測定領域1002における電荷量測定は、帯電装置110による帯電領域1001への電荷1100の供給開始と同時に行われ、その電荷1100の供給は電荷量測定が終了するまで続けられる。すなわち、帯電装置110が帯電領域1001に対して連続的に電荷1100を与えつつ、その間に電荷検出装置120は帯電領域1001から測定領域1002に流入する電荷量を経時的に測定する。
【0069】
帯電領域1001から漏洩して測定領域1002に流入する電荷量の経時変化は、帯電領域1001と測定領域1002との間の表面抵抗の大きさに依存する。予め既知の表面抵抗値を持つ測定対象物を用いて、表面抵抗値と電荷量の経時変化とを対応させて較正を取っておけば、電荷量の経時変化を測定することによって、対象試料の表面抵抗値を算出することができる。
【0070】
本実施形態に係る電荷移動速度測定装置100においては、帯電装置110と電荷検出装置120はいずれも測定対象物1000とは非接触で作用する。その結果として、本実施形態に係る電荷移動速度測定装置100によれば、測定対象物1000とは非接触の状態で測定対象物1000の表面抵抗値を測定することができる。
【0071】
図2は、上述の本発明の第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100を応用した表面抵抗測定装置100Aの一例を示す概念図である。
【0072】
図2に示す表面抵抗測定装置100Aは、本発明の第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100を構成する帯電装置110及び電荷検出装置120に加えて、帯電装置110及び電荷検出装置120の各々の動作を制御する制御装置130と、電荷検出装置120により検出された電荷量の経時変化を表面抵抗値に換算する換算装置140と、換算装置140により換算された表面抵抗値を表示する表示装置150とを備えている。
【0073】
図3は制御装置130のブロック図である。
【0074】
制御装置130は、中央処理装置(CPU)1301と、第一のメモリ1302と、第二のメモリ1303と、各種命令及びデータを中央処理装置1301に入力するための入力インターフェイス1304と、中央処理装置1301により実行された処理の結果を出力する出力インターフェイス1305と、中央処理装置1301と他の構成要素とを接続するバス1306と、から構成されている。
【0075】
第一及び第二のメモリ1302、1303の各々は、リード・オンリー・メモリ(ROM)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)またはICメモリーカードなどの半導体記憶装置、フレキシブルディスクなどの記憶媒体、ハードディスク、あるいは、光学磁気ディスクなどからなる。本実施形態においては、第一のメモリ1302はROMからなり、第二のメモリ1303はRAMからなる。
【0076】
第一のメモリ1302は中央処理装置1301が実行するための各種の制御用プログラムその他の固定的なデータを格納している。第二のメモリ1303は様々なデータ及びパラメータを記憶しているとともに、中央処理装置1301に対する作動領域を提供する、すなわち、中央処理装置1301がプログラムを実行する上で一時的に必要とされるデータを格納している。
【0077】
中央処理装置1301は第一のメモリ1302からプログラムを読み出し、そのプログラムを実行する。すなわち、中央処理装置1301は第一のメモリ1302に格納されているプログラムに従って作動する。
【0078】
図2に示した表面抵抗測定装置100Aは以下のように作動する。
【0079】
先ず、制御装置130による制御の下に帯電装置110及び電荷検出装置120からなる第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100により電荷移動速度が算出される。
【0080】
換算装置140は、制御装置130による制御の下に、算出された電荷移動速度に基づいて、測定対象物1000の表面抵抗値を算出する。
【0081】
換算装置140により算出された表面抵抗値は制御装置130による制御の下に表示装置130(例えば、液晶ディスプレイ装置からなる)に表示される。
【0082】
このように、図2に示した表面抵抗測定装置100Aによれば、測定対象物1000の表面抵抗値が自動的に算出され、算出された表面抵抗値は表示装置130に表示される。すなわち、ユーザーは単に表面抵抗測定装置100Aの作動を開始させることにより、測定対象物1000の表面抵抗値を知ることができる。
【0083】
(第二の実施形態)
図4は本発明の第二の実施形態に係る電荷移動速度測定装置200の概念図である。
【0084】
本発明の第二の実施形態に係る電荷移動速度測定装置200は、第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100と同様に、測定対象物1000の表面における電荷移動速度を非接触の状態で測定する。
【0085】
図4に示すように、電荷移動速度測定装置200は、測定対象物1000の表面の局所的領域である帯電領域1001を帯電させる帯電装置210と、測定対象物1000の表面の局所的領域であって、帯電領域1001からは離れた領域である測定領域1002における電荷を検出する電荷検出装置220と、からなる。
【0086】
帯電装置210は、直流高圧電源211と、課電電極212とからなる。
【0087】
直流高圧電源211は課電電極212に直流電圧を印加する。直流高圧電源211は接地されている。
【0088】
課電電極212は、基端と先端とを有し、基端において直流高圧電源211と接続されている。課電電極212の先端は、測定対象物1000と接触しない範囲において、測定対象物1000に向けて配置されている。
【0089】
直流高圧電源211は、課電電極212に直流高電圧を印加し、課電電極312と測定対象物1000の表面との間に直流電界を形成する。大気中には、紫外線等で電離した正イオンまたは負イオンが存在するため、この直流電界により加速された正イオンまたは負イオンが測定対象物1000に向かって加速され、課電電極212の先端に対向している帯電領域1001にそれぞれ正電荷または負電荷を与える。その電荷の極性は、直流高圧電源211の極性と同じである。
【0090】
帯電領域1001へのイオンの供給は、帯電領域1001が帯電することにより前述の直流電界がゼロになるまで継続されて行われる。このため、帯電領域1001の表面電位は常に一定電位に維持される。すなわち、帯電領域1001内の電荷が外部に漏洩して減少しても、電荷の減少分を補うように電荷が供給される。
【0091】
測定対象物1000の表面に形成される帯電領域1001の大きさや形状は、直流高圧電源211により形成される直流電界に依存して決定される。すなわち、帯電領域1001の大きさや形状は課電電極312の先端形状によって大きく左右される。
【0092】
このため、どのような大きさ及び形状を有する帯電領域1001を形成したいかに応じて課電電極312の先端形状を任意に選択することができる。
【0093】
なお、課電電極212の周囲に存在する正イオンまたは負イオンは、自然の紫外線等によって電離されたものには限定されない。例えば、外部から強制的に照射されるX線や電磁波により生成された正イオンまたは負イオンも含まれる。
【0094】
帯電領域1001に付着した正電荷または負電荷の一部は帯電領域1001の外部の領域に漏洩する。その漏洩の速さは測定対象物1000の表面抵抗値に依存する。
【0095】
帯電領域1001に付着した正電荷または負電荷の一部は、例えば、測定領域1002に流入する。電荷検出装置220は、このようにして測定領域1002に流入した電荷に対応する誘導電荷の経時変化を検出する。
【0096】
図4に示すように、電荷検出装置220は、測定領域1002に対向して配置されている検出電極221と、検出電極221に誘導される電荷の経時変化を検出する電流計222と、からなる。
【0097】
電流計222は、その一端において検出電極221に接続され、他端において接地されている。
【0098】
測定対象物1000の表面抵抗値が小さい場合には、帯電領域1001に与えられた電荷が比較的大きな速度で測定領域1002に流入するため、検出電極221にも比較的大きな速度で誘導電荷が流入する。一方、測定対象物1000の表面抵抗値が大きい場合は、帯電領域1001に与えられた電荷が比較的小さな速度で測定領域1002に流入するため、検出電極321には比較的小さな速度で誘導電荷が流入する。
【0099】
これらの誘導電荷の動きに応じて電流計222で測定される誘導電流は、測定対象物1000の表面抵抗値に依存する。従って、予め較正を取っておくことにより、すなわち、予め既知の表面抵抗値を持つ測定対象物を用いて、表面抵抗値と誘導電流との対応関係を求めておくことにより、電流計222において測定される電流値から測定対象物1000の表面抵抗値を算出することができる。
【0100】
測定対象物1000の表面抵抗値が比較的大きく、帯電領域1001から比較的低速度で測定領域1002に電荷が流入する場合、検出電極221に流入する誘導電荷も比較的小さな速度で増加するため、電流計222で計測される電流値が小さくなり、この結果、測定精度が落ちることがある。このような場合には、検出電極221を周期的に振動または回転させ、検出電極221を測定領域1002から周期的に遠ざけることにより、検出電極221と測定領域1002との間を周期的に遮蔽する。検出電極221を測定領域1002から周期的に遠ざけることに加えて、別の接地電極を検出電極221の全面に配置し、当該接地電極を移動させることにより、検出電極221と測定領域1002との間を一層遮蔽することが可能になる。これにより、測定に十分な大きさを持つ誘導電流を周期的に得ることができる。
【0101】
測定領域1002に流入する電荷に対応する誘導電流を測定することは、測定領域1002の表面電位を測定することと等価である。従って、誘導電流を測定する代わりに、表面電位計を用いて測定領域1002の表面電位を測定してもよい。表面電位計としては、市販の振動型表面電位計その他任意の表面電位計を用いることができる。
【0102】
表面電位計の他にも、測定領域1002に流入する電荷量に相当する物理量を測定できる測定装置であれば、任意の測定装置を使用することが可能である。
【0103】
本実施形態に係る電荷移動速度測定装置200によっても、第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100と同様に、測定対象物1000とは非接触の状態で測定対象物1000の表面抵抗値を測定することができる。
【0104】
(第三の実施形態)
図5は本発明の第三の実施形態に係る電荷移動速度測定装置300の概念図である。
【0105】
本発明の第三の実施形態に係る電荷移動速度測定装置300は、第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100と同様に、測定対象物1000の表面における電荷移動速度を非接触の状態で測定する。
【0106】
本実施形態に係る電荷移動速度測定装置300は、本発明の第二の実施形態に係る電荷移動速度測定装置200と比較して、帯電装置210に代えて、帯電装置310を備えている。
【0107】
帯電装置310は、図5に示すように、高圧直流電源311と、針状電極312と、針状電極312の周囲に配置された接地電極313と、からなる。
【0108】
直流高圧電源311は針状電極312に直流電圧を印加する。直流高圧電源311は接地されている。
【0109】
針状電極312は、基端と円錐状の先端とを有し、基端において直流高圧電源311と接続されている。針状電極312の先端は、測定対象物1000と接触しない範囲において、測定対象物1000に向けて配置されている。
【0110】
接地電極313はリング形状をなしており、針状電極312と接触しない範囲において針状電極312の周囲に配置されている。具体的には、針状電極312とリング形状の接地電極313は同心に配置されている。
【0111】
図5に示すように、接地電極313は接地されている。
【0112】
また、針状電極312はその尖った先端が接地電極313の下端よりも下方に突出するように配置されている。
【0113】
接地電極313をリング形状とすることにより、針状電極312の先端に電界を集中させ、強制的にコロナ放電を起こして正イオンまたは負イオンを生成し、その一部を測定対象物1000に付着させることができる。
【0114】
コロナ放電によって針状電極312の先端から放出される正イオンまたは負イオンの大半は接地電極313に流入するが、針状電極312の先端を接地電極313よりも測定対象物1000に近い位置に、かつ、針状電極312の先端と測定対象物1000との間の距離を十分小さく設定することにより、針状電極312の先端から放出される正イオンまたは負イオンの一部を測定対象物1000に付着させ、電荷を与えることが可能となる。この場合の針状電極312は、第二の実施形態(図4)における課電電極212と同等の効果をもたらす。すなわち、針状電極312の直下における測定対象物1000の帯電領域1001は、常に一定の表面電位を得ることになる。
【0115】
帯電領域1001から外部に漏洩する電荷を検出する方法は、第1の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100における電荷検出方法と同じである。
【0116】
測定対象物1000は、接地されていない状態で使用されるため、接地電極313は以下に示す大きな効果をもたらす。
【0117】
仮に、接地電極313を針状電極312の近傍に配置しないとすると、帯電領域1001に供給される電荷量は、帯電領域1001とその周囲の接地体(接地されているもの、もしくは、接地電位)との間の距離に大きく依存する。
【0118】
例えば、測定対象物1000の背後にある接地体が測定対象物1000に近い位置にある場合と遠く離れている位置にある場合とでは、帯電領域1001の漂遊キャパシタンスが異なる。このため、直流高圧電源311から供給される電圧が同じであっても、帯電領域1001に供給される電荷量は大きく変わる。従って、実際に電荷を測定する場合、帯電領域1001の漂遊キャパシタンスが事前に較正を行ったときの漂遊キャパシタンスと異なっている場合には、電荷の正確な測定を行うことが不可能になる。
【0119】
接地電極313を針状電極312の近傍に配置すれば、帯電領域1001と接地電極313との間に大きなキャパシタンスが形成されるため、測定対象物1000の背後にある接地体との間に形成される漂遊キャパシタンスを無視することが可能になり、常に一定の帯電電荷を与えることができるという効果がある。
【0120】
本実施形態に係る電荷移動速度測定装置300においては、接地電極313はリング形状に形成されているが、接地電極313の形状はリング状には限定されない。例えば、六角形、八角形などの多角形、楕円形状などを用いることができる。すなわち、リング形状と同様の効果をもたらすものであれば、いかなる形状をも選択することが可能である。
【0121】
(第四の実施形態)
図6は本発明の第四の実施形態に係る電荷移動速度測定装置400の概念図である。
【0122】
上述の第一乃至第三の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100、200、300は単一の測定領域1002における電荷量の経時変化を測定するものであったが、電荷量の経時変化の測定対象である測定領域1002の数は1には限定されない。2または3以上の任意の数の測定領域1002を設定することが可能である。
【0123】
本実施形態に係る電荷移動速度測定装置400は、図6に示すように、1個の帯電装置410と、2個の電荷検出装置420A、420Bとを備えている。
【0124】
帯電装置410は、例えば、第二の実施形態における帯電装置210と同一の構造を有しており、2個の電荷検出装置420A、420Bの各々は、例えば、第二の実施形態における電荷検出装置220と同一の構造を有している。
【0125】
帯電装置410は、測定対象物1000に局所的に電荷を与え、帯電領域1001を形成する。
【0126】
2個の電荷検出装置420A、420Bの各々は、帯電領域1001から漏洩して二つの測定領域1002A、1002Bに流入する電荷量の経時変化を測定する。すなわち、電荷検出装置420Aは帯電領域1001と測定領域1002Aとの間の電荷移動度を測定し、このようにして測定された電荷移動度に基づいて帯電領域1001と測定領域1002Aとの間の表面抵抗値が算出される。同様に、電荷検出装置420Bは帯電領域1001と測定領域1002Bとの間の電荷移動度を測定し、このようにして測定された電荷移動度に基づいて帯電領域1001と測定領域1002Bとの間の表面抵抗値が算出される。
【0127】
このように、本実施形態に係る電荷移動速度測定装置400によれば、同時に二つの測定領域1002A、1002Bにおける電荷移動度を測定することができ、帯電領域1001と二つの測定領域1002A、1002Bの各々との間の表面抵抗値を同時に算出することが可能である。
【0128】
なお、本実施形態に係る電荷移動速度測定装置400においては、測定領域1002A、1002Bの数として2を例示したが、測定領域の数は2には限定されない。3以上の任意の数の測定領域を設けることが可能であり、その場合には、測定領域の数に対応した数の電荷検出装置が各測定領域に対向して配置される。
【0129】
また、図6に示すように、帯電領域1001から各測定領域までの距離は相互に異なるものであってもよく、あるいは、帯電領域1001から各測定領域までの距離が相互に等しくてもよい(例えば、帯電領域1001を中心として各測定領域が放射状に分布している場合)。電荷検出装置は、測定対象物1000の表面抵抗値を測定したい位置に自由に配置することが可能である。
【0130】
(第五の実施形態)
図7は本発明の第五の実施形態に係る電荷移動速度測定装置500の概念図である。
【0131】
本発明の第五の実施形態に係る電荷移動速度測定装置500は、第一の実施形態に係る電荷移動速度測定装置100と同様に、測定対象物1000の表面における電荷移動速度を非接触の状態で測定する。
【0132】
図7に示すように、電荷移動速度測定装置500は、測定対象物1000の表面の局所的領域である帯電領域1001を帯電させる帯電装置510と、測定対象物1000の表面の局所的領域であって、帯電領域1001からは離れた領域である測定領域1002A、1002Bにおける電荷を検出する電荷検出装置520A、520Bと、導体板530と、からなる。
【0133】
帯電装置510は、高圧直流電源511と、針状電極512と、からなる。
【0134】
直流高圧電源511は針状電極512に直流電圧を印加する。直流高圧電源511は導体板530を介して接地されている。
【0135】
針状電極512は、基端と円錐状の先端とを有し、基端において直流高圧電源511と接続されている。針状電極512の先端は、測定対象物1000と接触しない範囲において、測定対象物1000に向けて配置されている。
【0136】
電荷検出装置520A、520Bの各々は、例えば、第二の実施形態における電荷検出装置220と同一の構造を有している。
【0137】
導体板530は測定対象物1000の表面と一定の間隔gを維持した状態で支持されている。また、導体板530は接地されている。
【0138】
導体板530は導電性材料からなり、第一乃至第三の開口部531、532、533を有している。
【0139】
本実施形態における導体板530は第三の実施形態における接地電極313に対応するものである。
【0140】
針状電極512の先端は第一の開口部531の中心に位置するように配置されており、第一の開口部531を介して測定対象物1000の帯電領域1001に対向している。
【0141】
針状電極512の先端は、測定対象物1000に向かって、第一の開口部531を介して導体板530の底面から長さgだけ突き出ている。
【0142】
電荷検出装置520Aは第二の開口部532を介して測定対象物1000の測定領域1002Aと対向している。同様に、電荷検出装置520Bは第三の開口部533を介して測定対象物1000の測定領域1002Bと対向している。
【0143】
導体板530は、電荷移動速度測定装置500の構造をシンプルにするだけでなく、以下に示すように、測定した電荷の経時変化量を表面抵抗値に換算することを容易にする効果をもたらす。
【0144】
図8は本実施形態に係る電荷移動速度測定装置500の等価回路の一例を示す概念図である。本実施形態に係る電荷移動速度測定装置500は図8に示す等価回路に置き換えることができる。
【0145】
針状電極512の直下における測定対象物1000の表面電位は、前述のように、一定値(V)に保たれる。これは、測定対象物1000が電圧Vを供給する一定電圧源550に接続されていることと等価であると仮定し、さらに、この一定電圧源550はスイッチ560でオン・オフすることができると仮定する。
【0146】
スイッチ560をオンしたときの時間をt=0とする。電位Vが与えられている位置をx=0とし、x=0の点から電荷検出点までの距離をxとし、距離xの位置に流入する電荷による誘導電荷あるいは表面電位の経時変化を検出するものとする。導体板530と測定対象物1000の表面とは一定距離gを隔てているものとする。
【0147】
測定対象物1000の表面抵抗を考慮して、簡易的な等価回路を考えると、抵抗とキャパシタンスのはしご型分布定数回路となる。このとき、測定対象物1000の単位面積当たりの表面抵抗率をρsで表わし、測定対象物1000と導体板530との間に形成されるキャパシタンスをε0/gで表わす。
【0148】
本実施形態に係る電荷移動速度測定装置500においては、針状電極512により測定対象物1000の一部の領域である帯電領域1001に電圧を供給し、帯電領域1001の周囲の領域である測定領域1002A、1002Bに流入する電荷による誘導電荷または表面電圧の経時変化を電荷検出装置520A及び520Bによって測定する。
【0149】
導体板530と測定対象物1000との間の距離gを十分小さな値とし、距離xを無限長とみなして図6に示す等価回路を解析すると、測定対象物1000の表面電位のx方向における解析解は式(1)で与えられる。
【0150】
【数1】

【0151】
式(1)において、erf(−)はガウスの誤差関数である。
【0152】
式(1)から明らかであるように、測定対象物1000の表面のx=0の位置に帯電電圧Vを与えた時、その点からxだけ離れた位置x=xにおけるt秒後の電位v(x,t)は、表面抵抗ρs、時間t及び距離xの関数となる。
【0153】
測定領域1002A、1002Bにおける電位の変化は、電荷検出装置520A及び520Bに誘導される電荷量の時間変化Q(x,t)にも正比例する。
【0154】
従って、電荷の測定時に時間t=t及び距離x=xを固定すれば、電位v(x,t)あるいは電荷量Q(x,t)は表面抵抗ρsに対して一意に決まる値となり、逆に、電位v(x,t)あるいは電荷量Q(x,t)を測定すれば、式(1)を用いて、x=0からx=xまでの表面抵抗ρsを算出することができる。
【0155】
また、x=xとは別の位置x=xにおいて電位v(x,t)あるいは電荷Q(x,t)を測定すれば、式(1)を用いて、x=0からx=xまでの表面抵抗ρsを算出することができる。
【0156】
なお、電位または電荷測定においては、t=tのみの値だけでなく、これとは別の時刻の測定値を得て、測定精度を向上させることが可能である。
【0157】
また、時刻t=0からt=tまでの経時変化を測定してもよく、あるいは、積分値を測定してもよい。
【0158】
式(1)は、導体板530が帯電領域1001と同程度の幅を持ち、かつ、その幅よりも十分大きな長さを持つ場合の長手方向の理論式である。導体板530の幅が帯電領域1001に比べて十分大きい場合、あるいは、測定領域1002が長手方向に大きい場合には測定誤差が生じ得る。このような場合、既知の表面抵抗値と、その試料を局部帯電したときの帯電領域1001の外部における測定領域の電位v(x,t)または電荷量Q(x,t)との関係を実験値から導き、予め較正をとっておけばよい。
【0159】
導体板530と測定対象物1000の表面との間の距離g及び導体板530の第一の開口部531から針状電極512の先端が突き出た長さgは適当な長さに設定することが望ましい。
【0160】
長さgの長さが短すぎると、針状電極512の先端から放出される正イオンまたは負イオンが殆ど導体板530に流入することになるため、測定対象物1000に帯電領域1001が形成されない。
【0161】
逆に、長さgが長すぎると、針状電極512の先端からコロナ放電が起こる前に、針状電極512の胴部と導体板530との間で放電が起こり、測定対象物1000が帯電されない。
【0162】
また、距離gが大きすぎると、針状電極612から放出される正イオンまたは負イオンが測定対象物1000に届かなくなる。
【0163】
また、距離gが大きすぎると、前述の漂遊キャパシタンスが無視できなくなり、測定誤差が大きくなる問題が起こる。
【0164】
このため、発明者が行った実験結果によれば、長さg及び距離gは次の範囲内において設定することが好ましい。
【0165】
0mm<g≦10mm
0.3≦g/g≦0.8
【0166】
測定対象物1000の表面は電荷測定終了後においても帯電されたままであるため、必要がある場合には、電荷測定後、除電器を用いて、測定対象物1000の除電を行うことが可能である。
【0167】
あるいは、導体板530にもう一つの開口部を設け、正イオン及び負イオンを等量供給するイオナイザーを配置することも有効である。
【0168】
本実施形態に係る電荷移動速度測定装置500における導体板530は平坦な平板からなるが、導体板530を平板で形成することは必ずしも必要ではない。例えば、測定対象物1000の表面が曲面である場合には、その曲面に合わせて、導体板530を曲面にすることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面における電荷の移動速度を測定する電荷移動速度測定装置であって、
前記測定対象物の前記表面の所定の帯電領域に、前記測定対象物と非接触で電荷を与える帯電装置と、
前記測定対象物の前記表面の前記帯電領域以外に設ける測定領域における電荷量を前記測定対象物と非接触で経時的に測定する電荷検出装置と、
を備え、
前記帯電装置が前記帯電領域に電荷を与えながら、前記電荷検出装置が前記帯電領域から前記測定領域に流入する電荷量を経時的に測定することを特徴とする電荷移動速度測定装置。
【請求項2】
前記帯電装置は、
電源と、
基端と先端とを有し、前記基端において前記電源と接続され、前記先端が、前記測定対象物と接触しない範囲において、前記測定対象物に向けて配置される課電電極と、
からなり、
前記課電電極は、前記電源から電圧の供給を受け、正イオンまたは負イオンを電界を介して前記測定対象物に向けて駆動して付着させることにより、前記測定対象物の前記表面にそれぞれ正電荷または負電荷を与えることを特徴とする請求項1に記載の電荷移動速度測定装置。
【請求項3】
上下方向に開口している開口部を有し、接地されている接地電極をさらに備えており、
前記課電電極は前記先端が尖っている針状電極からなり、
前記針状電極は前記接地電極と接触することなく前記開口部の内部に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の電荷移動速度測定装置。
【請求項4】
前記接地電極はリング形状をなしていることを特徴とする請求項3に記載の電荷移動速度測定装置。
【請求項5】
前記針状電極は、前記測定対象物に向かう方向において、その先端が前記接地電極よりも突き出ていることを特徴とする請求項3または4に記載の電荷移動速度測定装置。
【請求項6】
前記電荷検出装置により検出された、前記帯電領域から前記測定領域に流入する電荷による誘導電荷を前記測定領域の表面電位または前記測定領域の流入電荷量に換算する換算装置をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の電荷移動速度測定装置。
【請求項7】
前記測定領域は複数個存在し、
前記測定領域に対応して複数個の前記電荷検出装置を備えることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の電荷移動速度測定装置。
【請求項8】
前記測定領域の各々は前記帯電領域からの距離がそれぞれ異なることを特徴とする請求項7に記載の電荷移動速度測定装置。
【請求項9】
前記測定対象物と一定の間隔に隔置され、かつ、接地されている導体板をさらに備え、
前記導体板には複数個の開口部が形成されており、
前記帯電装置及び前記電荷検出装置は前記開口部を介して前記測定対象物と対向していることを特徴とする請求項1、2及び5乃至8の何れか一項に記載の電荷移動速度測定装置。
【請求項10】
前記測定対象物と前記導体板との間隔をgとし、前記針状電極の先端が前記接地導体板から突き出た長さをgとすると、
0mm<g≦10mm、かつ、0.3≦g/g≦0.8の範囲に設定することを特徴とする請求項5に記載の電荷移動速度測定装置。
【請求項11】
前記帯電装置及び前記電荷検出装置の各々の動作を制御する制御装置をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至10の何れか一項に記載された電荷移動速度測定装置。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか一項に記載された電荷移動速度測定装置と、
前記電荷移動速度測定装置の電荷検出装置により検出された電荷量の経時変化を表面抵抗値に換算する換算装置と、
を備えることを特徴とする表面抵抗測定装置。
【請求項13】
測定対象物の表面における電荷の移動速度を測定する電荷移動速度測定方法であって、
前記測定対象物の表面の一部の第一領域を前記測定対象物と非接触の下に帯電させる第一の過程と、
前記第一領域の外側の第二領域に流入した電荷量の経時変化を前記測定対象物と非接触の下に検出する第二の過程と、
を備える電荷移動速度測定方法。
【請求項14】
前記第二の過程においては、前記第一領域から前記第二領域に流入する電荷による誘導電荷を検出し、前記誘導電荷を前記第二領域の表面電位または前記第二領域の流入電荷量に換算することを特徴とする請求項13に記載の電荷移動速度測定方法。
【請求項15】
前記第二の過程においては、前記第一領域からの距離が異なる複数の第二領域において、前記電荷量の経時変化を検出することを特徴とする請求項12または14に記載の電荷移動速度測定方法。
【請求項16】
測定対象物の表面抵抗を非接触の状態で測定する表面抵抗測定方法であって、
請求項13乃至15の何れか一項に記載された電荷移動速度測定方法と、
前記電荷移動速度測定方法の第二の過程において検出された電荷量の経時変化を表面抵抗に換算する過程と、
を備えることを特徴とする表面抵抗測定方法。
【請求項17】
測定対象物の表面における電荷の移動速度を測定する電荷移動速度測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記プログラムが行う処理は、
前記測定対象物の表面の一部の第一領域を前記測定対象物と非接触の下に帯電させる第一の処理と、
前記第一領域の外側の第二領域に流入した電荷量の経時変化を前記測定対象物と非接触の下に検出する第二の処理と、
からなるものであるプログラム。
【請求項18】
前記第二の処理においては、前記第一領域から前記第二領域に流入する電荷による誘導電荷を検出し、前記誘導電荷を前記第二領域の表面電位または前記第二領域の流入電荷量に換算することを特徴とする請求項16に記載のプログラム。
【請求項19】
前記第二の処理においては、前記第一領域からの距離が異なる複数の第二領域において、前記電荷量の経時変化を検出することを特徴とする請求項16または17に記載のプログラム。
【請求項20】
測定対象物の表面抵抗を非接触の状態で測定する表面抵抗測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記プログラムが行う処理は、
前記測定対象物の表面の一部の第一領域を前記測定対象物と非接触の下に帯電させる第一の処理と、
前記第一領域の外側の第二領域に流入した電荷量の経時変化を前記測定対象物と非接触の下に検出する第二の処理と、
前記第二の処理において検出された電荷量の経時変化を表面抵抗に換算する第三の処理と、
からなるものであるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−190815(P2010−190815A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37409(P2009−37409)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成20年度 電気関係学会東北支部連合大会 主催者名 電気学会東北支部 電子情報通信学会東北支部 照明学会東北支部 日本音響学会東北支部 映像情報メディア学会東北支部 情報処理学会東北支部 電気設備学会東北支部 IEEE SENDAI SECTION 開催日 平成20年8月21日・22日
【出願人】(508329405)
【Fターム(参考)】